(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114044
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】粉末材料
(51)【国際特許分類】
B22F 1/17 20220101AFI20240816BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240816BHJP
B22F 3/10 20060101ALI20240816BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20240816BHJP
B22F 10/14 20210101ALN20240816BHJP
B22F 10/38 20210101ALN20240816BHJP
C22C 29/08 20060101ALN20240816BHJP
【FI】
B22F1/17
B22F1/00 Q
B22F3/10 101
B33Y70/00
B22F10/14
B22F10/38
C22C29/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023019413
(22)【出願日】2023-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100208568
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 孔一
(72)【発明者】
【氏名】小野 晃
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AD06
4K018BA11
4K018BB04
4K018BC08
4K018BC22
4K018DA03
4K018DA18
4K018DA32
4K018FA08
4K018KA63
(57)【要約】
【課題】三次元積層造形体において、巣の発生を抑制した粉末造形法、特に、バインダジェット法に用いる粉末(粒子状粉末)を提供する。
【解決手段】WCを主成分として含む硬質相と結合相を含む粒子本体と、該粒子本体を被覆する被覆層を有し、
前記被覆層は、前記結合相の液相出現温度を10℃を超えて低下させ、
前記被覆層の平均厚さをd1、前記粒子本体の一次平均粒径をdとするとき、0.0000≦d1/d≦0.00080である
ことを特徴とする粉末造形法に用いる粉末粒子。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
WCを主成分として含む硬質相と結合相を含む粒子本体と、該粒子本体を被覆する被覆層を有し、
前記被覆層は、前記結合相の液相出現温度を10℃を超えて低下させ、
前記被覆層の平均厚さをd1、前記粒子本体の一次平均粒径をdとするとき、0.00005≦d1/d≦0.00080である
ことを特徴とする粉末造形法に用いる粉末粒子。
【請求項2】
前記被覆層には、Cr、Si、Mn、Znから選択される一種以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の粉末造形法に用いる粉末粒子。
【請求項3】
前記液相出現温度の低下量が30~130℃であることを特徴とする請求項1または2に記載の粉末造形法に用いる粉末粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末積層造形法の一種であるバインダジェット法に用いる粉末材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
粉末積層造形法は粉末を用いて三次元物体を製造する方法であって、製造する三次元物体の断面に対応する形状の薄い層(粉末床)の粉末を焼結または接合することを繰り返して、目標とする三次元物体を製造するものである。
【0003】
この粉末積層造形法では、粉末床へレーザ等の熱源となるビームを照射し粉末を焼結させる方法と、粉末床へバインダ(結合材)を噴射してこのバインダを固めるバインダジェット法等がある。
そして、粉末積層造形法に使用される粉末材料の性能向上のために種々の提案がなされている。
【0004】
例えば、特許文献1には、一次粒子が間隙をもって三次元的に結合されてなる二次粒子の形態を有している粒子から粉末材料が構成されており、前記二次粒子が前記一次粒子を球形に造粒し焼結した造粒焼結粒子であるものが記載され、前記粉末材料は流動性に優れるとされている。
【0005】
また、例えば、特許文献2には、その表面における金属結合剤の濃度が内部よりも少なくとも25%高い粉末材料が記載されており、該粉末材料を用いると高い密度の焼結体を得るとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-214658号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2019/0185972号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記事情や前記提案を鑑みてなされたものであって、三次元積層造形体において、巣の発生を抑制した粉末造形法、特に、バインダジェット法に用いる粉末(粒子状粉末)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態に係る粉末造形法に用いる粒子状粉末は、
WCを主成分として含む硬質相と結合相を含む粒子本体と、該粒子本体を被覆する被覆層を有し、
前記被覆層は、前記結合相の液相出現温度を10℃を超えて低下させ、
前記被覆層の平均厚さをd1、前記粒子本体の一次平均粒径をdとするとき、0.00005≦d1/d≦0.00080である。
【0009】
本発明の実施形態の係る粉末材料は次の(1)、(2)の事項を1以上満足してもよい。
(1)前記被覆層には、Cr、Si、Mn、Znから選択される一種以上を含むこと。
(2)前記液相出現温度の低下量が30~130℃であること。
【発明の効果】
【0010】
前記によれば、従来の焼結温度よりも低温で焼結をしても緻密な焼結体を得ることができ、高温の焼結により生じやすい焼結体の変形も抑制され、設計どおりの形状の積層造形物を作ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る粉末造形法に用いる粒子状粉末の直径を含む断面模式図の一例である。
【
図2】
図1の断面模式図を基にした被覆層の厚さに関する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
バインダジェット法の積層造形では、プレス成型などの成形圧の高い方法と比べ成形体にふさわしい合金が作りにくいため、WCやCoなどの一次粒子を二次粒子化し、さらに熱処理を加えた緻密な粒子状粉末を作成することがある。
しかし、二次粒子を熱処理すると、液相出現時に粒子周辺での毛細管現象が働きにくくなるため、焼結性が低下し、緻密な造形物を得ることが困難であった。
【0013】
そこで、高温で加圧焼結を行い緻密化している。しかし、高温で焼結するため積層造形物の設計どおりの積層構造物の作成が難しいという問題点があった。
また、本発明者は、特許文献1-2に記載された粒子状粉末も巣密度を低減させることはできるものの、高温での加圧焼結をなくすことはできないことを認識した。
【0014】
このような状況下、本発明者は、バインダジェット法の積層造形であっても緻密な成形体を作製するための粒子状粉末について鋭意検討した。その結果、粒子状粉末の結合相の液相出現の低温化を促す元素を含む物質を該粒子状粉末に被覆すれば、表面部で該粒子状粉末の内部の液相出現温度よりも低温で液相が出現し、収縮が開始されるため、焼結性が向上するのではないかと考え、本発明に至った。
【0015】
以下では、本発明の実施形態の粉末材料について詳細に説明する。
なお、本明細書および特許請求の範囲において、数値範囲を「L~M」(L、Mは共に数値)で表現するときは、「L以上、M以下」と同義であって、その範囲は上限値(M)および下限値(L)を含んでおり、上限値(M)のみに単位が記載されているときは、上限値(M)と下限値(L)の単位は同じである。
【0016】
本発明の実施形態に係る粉末造形法に用いる粒子状粉末の構造について説明する。
図1に示すように、粒子本体(1)は、硬質相(3)と結合相(4)を有し、その一部に空隙(5)を有している。この粒子本体(1)を被覆層(2)が被覆しているが、この被覆層は、前述の目的が達成できる限り均一でなくてもよく、その一部では粒子本体(1)が露出していてもよい。
以下、詳述する。
【0017】
1.粒子本体
粒子状粉末の粒子本体部分の組成および組織について説明する。
【0018】
(1)硬質相
硬質相はWCを主成分としており、WCを質量%で50%以上を含む。硬質相には、WとCが1:1で結合しているWCの他にWxCyで表現される化学量論的組成以外の組成を有するものを含んでもよい。
【0019】
硬質相が粒子本体部分に占める割合(質量%)は、結合相が占める割合と後述する遊離炭素の相を含む不可避不純物が占める割合の残部である。
また、硬質相の平均粒径は、特段の制約はないが、0.3~5.0μmが好ましい。
硬質相は、その一部が粒子状粉末の表面に露出していてもよい。
【0020】
ここで、硬質相の平均粒径は、以下のようにして測定する。まず、粒子状粉末を樹脂埋めし、研磨して、粒子状粉末の断面を得る。走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、粒子状粉末の断面を4000倍で観察する。この観察像から任意に30個の硬質相を選択し、それらの平均粒径を算出する。ここで、平均硬質層粒径とは硬質相の断面積を等しい面積を有する円に換算し、その円の直径の平均値である。
【0021】
(2)結合相
結合相はFe、Co、Niの少なくとも1種が主成分として含まれ、後述するCrを選択的に含有し、残部は硬質相から拡散するW、Cの他に不可避不純物である。結合相の粒子本体部分に占める含有量は、8質量%以上、35質量%以下が好ましい。この範囲の含有量であれば、バインダジェット法により、粒子状粉末材料を適切に結合させることができる。
【0022】
(3)その他の相
硬質相と結合相の他に、粒子本体部分の原料粉に含まれる炭素成分が遊離した炭素の相が含まれていてもよい。
さらに、WとCの化合物の成長を抑制するために、Crが含まれていてもよく、Crのほとんどは結合相に固溶しているものと推察される。なお、Crは粒子本体部分に0.1~1.0質量%含まれていることが好ましい。
また、空隙を有していてもよい。空隙は、粒子本体の直径を含む断面において50面積%以下が好ましい。
【0023】
(4)一次平均粒径
粒子本体部分の一次平均粒径(d)は、20~100μmが好ましい。
その理由は、20μmを下回ると極端に粉末流動性が低下し、一方、100μmを超えると得られた成型体の強度が低下するためである。一次平均粒径(d)の定義は後述する。
【0024】
2.被覆層
粒子本体部分を被覆する被覆層について説明する。
【0025】
被覆層は、粒子本体部分を被覆していれば、均一の厚さを有していなくてもよく、一部で粒子表面が露出していてもよい。そして、被覆層は粒子状粉末の本体部分の結合相の液相出現温度を10℃を超えて低下させる。被覆層が前記結合相の液相出現温度を10℃を超えて低下できれば、被覆層に含まれる物質に特段の制約はない。この物質としてCr、Si、Mn、Znが例示できる。すなわち、被覆層は、このCr、Si、Mn、Znの1種以上と不可避不純物を含むものが例示できる。このことを特許請求の範囲および本明細書では「被覆層には、Cr、Si、Mn、Znから選択される一種以上を含む」と表現している。
なお、「10℃超えて低下させる」とする定義は後述する。
【0026】
ここで、前記液相出現温度の低下量が30~130℃であることがより好ましい。この温度範囲の液相出現温度の低下量であると、より確実に前述の目標が達成できる。
【0027】
被覆層の平均厚さをd1、粒子本体部分の一次平均粒径をdとするとき、0.00005≦d1/d≦0.00080であることがより好ましい。被覆層の平均厚さがこの範囲にあるとき、前述の解決しようとする課題がより確実に解決される。すなわち、被覆層が結合相の液相線出現温度を10℃を超えて低下させても、この平均厚さd1を満足しなければ、前記課題は解決できない。
【0028】
3.粒子状粉末の平均粒径(d)と被覆層の平均厚さの測定
粒子状粉末の平均粒径(d)と被覆層の平均厚さ(d1)は以下のようにして算出する。
【0029】
(1)被覆層を含む粒子状粉末を、レーザ回折・散乱法を用い、粒度分布の積算値が50%である粒度の直径(d+2×d1)を測定する。
【0030】
(2)次に、被覆層の厚さ(d1)を求めるために、まず粒子中心近傍を通る断面を得る方法を以下に示す。
粉末を樹脂埋めし、研磨して、SEMを用いて1000倍で各粉末断面を観察する。これら粒子断面の内、近似円C(粒子を内部に包含し直径が最小である正円)が、あらかじめレーザ回折・散乱法にて得られた体積累積粒度分布D50相当の径±10%の範囲内に入る径を有する粒子断面を、粒子状粉末の「略中心断面」と定義する。
【0031】
その後、略中心断面をもつ粒子断面に対して、
図2に示すように、近似円Cの中心Ocを中心点とし、Ocを通る直線と被覆層表面との交点をP、Ocを通る直線と被覆層および粒子本体との界面の交点をQとしたとき、PQの長さが得られる倍率で写真を撮影する。このPQを1つの被覆層厚さ(d1)とする。同様にして1つの粉末に対し45°回転ずつ計8点取った時の平均値がその粒子における被覆層の平均厚さとする。
同様の作業を5つ以上の粒子に対して実施し、得られた平均値が粒子状粉末の平均厚さ(d1)とする。
【0032】
4.粒子状粉末の液相出現温度低下量の測定
粒子状粉末の液相出現温度低下量は以下のようにして算出し、この液相出現温度低下量が10℃を超えるとき、被覆層は結合相の液相線出現温度を10℃低下させると扱う。
【0033】
(1)粒子本体部分の平均組成を測定する。すなわち、粒子状粉末を樹脂埋めし、樹脂表面を研磨して被覆層を除去し粉末本体部分を露出させる。この粉末本体部分を例えば倍率5000倍として観察視野内に被覆層を含まない状態にして、加速電圧20kVの条件でのEDS分析を行い、粒子本体部分の平均組成を測定する。平均組成を測定するに当たり、硬質相成分であるWはCと、化学量論的組成で結合していると仮定する。
(2)粒子状粉末本体部分における液相出現温度を求める。これは、市販の熱力学計算ソフトウェアのThermo-calcを用いて、粒子本体組成の状態図を作成し、粒子本体部分組成の液相出現温度Ms1を粒子本体部分の液相出現温度とする。
【0034】
(3)次に、被覆層の組成を求める。例えば、粒子状粉末を集束イオンビーム(FIB)装置にセットし、マイクロサンプリングにより粒子状粉末から粒子表層部の断面を切り出し、断面サンプルを透過電子顕微鏡(TEM)内にセットする。その後、得られた粒子断面の表層部近傍に観察される被覆層について、エネルギー分散型X線分析(EDS)により組成を求めることができる。また、オージェ電子分光法により、粒子状粉末の極表面から発生するオージェ電子の運動エネルギーやその相対度を測定することにより、粒子状粉末の表面の組成分析を行うことができる。オージェ電子分光法とArイオンによる試料表面のスパッタリングを繰り返すことで、深さ方向の組成を分析することもできる。その場合、表面からスパッタリングと分析を繰り返し行い、本体部分組成が検出されるまでに各箇所で得られた組成を平均することで被覆層の平均組成を求めることができる。
【0035】
(4)次に粒子状粉末の表面における液相出現温度を求める。これは、示差走査熱量測定(DSC)装置を用いて、Ar雰囲気で試料入りのパン、空パンをそれぞれ、20℃/minの速度で昇温したときに得られた熱分析曲線に対して、低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、融解ピークの低温側の曲線において、勾配が最大になる点を通る接線との交点を液相出現温度Ms2とする。
【0036】
(5)粒子状粉末の液相出現温度低下量の決定
Ms1-Ms2を算出して液相出現温度の低下量とする。なお、液相出現温度Ms2は、±10℃程度の誤差があるため、|Ms1-Ms2|≦10℃は、液相出現温度の低下はないものとして扱い、Ms1-Ms2>10℃となった場合に、被覆層は結合相の液相出現温度を10℃を超えて低下させると扱う。
【0037】
3.製造方法
前記実施形態に係る粒子状粉末は、例えば、以下の(1)~(3)のようにして製造することができる。
(1)WC、Co、パラフィン(ろう材)、必要に応じて炭素(カーボンブラックまたはグラファイト等)およびCr3C2の各粉末を用意する。
(2)各粉末をアトライターで混合し噴霧乾燥して造粒粉末を得る。そして、粉末を焼結し、解砕し、篩分けを行って、原料粉末を得る。
なお、焼結、解砕、篩い分けは必須でなく、噴霧乾燥を行った後の粉末を原料粉末としてもよい。
(3)得られた原料粉末に対し、物理的気相成長(PVD)装置や化学的気相成長(CVD)を用いて、結合相の液相線温度を低下させる物質、例えば、Cr、Si、Mn、Znやそれらの元素を含む物質を被覆することができる。
たとえば、PVDのマグネトロンスパッタ方式を利用する場合、粉末を振動テーブル付きのトレーにのせ、成膜装置内に設置する。これにより、粉末を振動させながら被覆層を被覆できるので、粒子全体を覆うような成膜が可能となる。真空中で成膜すると被覆層の組成とターゲット組成とを対応させることができるため、液相出現温度を低下させる物質を含んだターゲットを製作することで粉末表面における液相出現温度を変化させることができる。
【実施例0038】
次に、実施例について説明する。なお、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0039】
1.実施例の粒子状粉末
以下の手順により、実施例の粒子状粉末を得た。
【0040】
(1)原料粉末
WC、Co、パラフィンを用意した。そして、Coを10質量%、残部がWCで合計が100質量%となるよう配合を行い、パラフィンを、この100質量%の外数として1質量%配合した。
【0041】
(2)混合
この原料粉末を、超硬ボールと共にエチルアルコールを溶媒としてアトライターで6時間混合し、それぞれ、噴霧造形を行い、粒径がそれぞれ45μm以下の粒径のものを篩い分けして、噴霧造形粉末を作製した。
【0042】
(4)焼結と解砕
噴霧造形粉末を、1250℃で1時間焼結し、解砕・篩い分けし、それぞれ、被覆前の原料粉末を得た。
【0043】
(5)被覆
得られた被覆前原料粉末を振動テーブル付きのトレーに入れ、マグネトロンスパッタ装置内に挿入し、被覆処理を行った。ここで、ターゲットとしては、実施例1ではSi、実施例2ではMn、実施例3と比較例1ではCr、実施例4ではZn、実施例5ではSiとMnが50原子%ずつ含まれた合金、比較例3ではTiを使用した。
【0044】
2.比較例の粒子状粉末
比較のために、前記(1)~(5)の工程を行い比較例の粉末(以下、比較例1~2という)を得た。比較例1は、結合相の液相出現温度の低下量が10℃を超える被覆層であるもののd1/d>0.00080と厚さが厚いもの、比較例2は、被覆層を含まないもの、比較例3は結合相の液相出現温度の低下量が10℃を超えていない被覆層を有していた。
【0045】
表1において、粒径d、被覆層の厚さd1、液相出現温度の低下量の測定は、前述のとおり行った。
【0046】
3.バインダジェット法を用いた造形
実施例1~5および比較例1~3の各粒子状粉末にバインダジェット法を適用して、16mm×16mm×6mmの直方体の造形を行った。造形後、窒素雰囲気中で200℃、4時間の硬化処理を行った。その後、ブラシと加圧空気を用いて余分な粉末を除去した。そして、室温から600℃まで水素中で昇温し脱バインダ処理を行った後、真空中で1480℃まで昇温し、60分保持した後冷却し、焼結体を得た。
【0047】
次に、焼結体の巣の発生量を評価した。まず焼結体のそれぞれを任意の面で切断し、切断面を1μmのダイヤモンド砥石で研削し、鏡面に研磨した。その後、得られた鏡面を光学顕微鏡で50倍の写真を撮影し、1.7mm×2.0mmの視野の大きさを持つ撮影画像を得て、得られた撮影画像を画像解析ソフトのimage-j(バージョン:1.530)を用いて2値化して、巣の面積率を算出した。すなわち、画像内の巣の部分を画像処理にて抜き出すに当たり、巣部分と合金部分とを明確に判断するため、画像は0を白、255を黒の256階調のモノクロで表示し、下限は0、上限はピクセル単位に分割した画像中で最も頻度の高い色調の半分の値とした。結果を表1に示す。
【0048】
【0049】
表1において、前述のとおり、比較例1は、被覆層が結合相の液相線温度を10℃を超えて低下させるものであったがd1の厚さが所定の範囲になく、|Ms1-Ms2|≦10℃となる比較例2および3は、被覆層が結合相の液相線温度を10℃を超えて低下させるものではなかった。
【0050】
表1から明らかなように、実施例1~5の粉末材料を使用した造形体の巣の面積率は最大で5.7%であり、一方、比較例の粉末材料を使用した造形体の巣の面積率は最低でも6.3%であった。このことから明らかなように、本発明の粒子状粉末を使用すれば巣の発生が抑制されることがわかる。