(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114046
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】半導体製造装置及び半導体製造方法
(51)【国際特許分類】
G01R 33/032 20060101AFI20240816BHJP
【FI】
G01R33/032
【審査請求】未請求
【請求項の数】32
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023019417
(22)【出願日】2023-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】390019839
【氏名又は名称】三星電子株式会社
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】129,Samsung-ro,Yeongtong-gu,Suwon-si,Gyeonggi-do,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】小澤 謙
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健治
(72)【発明者】
【氏名】上山 真司
【テーマコード(参考)】
2G017
【Fターム(参考)】
2G017AC09
2G017AD13
2G017BA02
2G017BA05
2G017BA06
2G017CB01
2G017CB10
2G017CB20
2G017CC04
(57)【要約】
【課題】非破壊で磁気特性を高精度に測定することができる半導体製造装置及び半導体製造方法を提供する。
【解決手段】実施形態に係る半導体製造装置1は、ステージ50上の試料60に印加する磁場として、ステージ50の上面に直交する面直方向の成分を含む面直磁場、及び、ステージ50の上面に平行な面内方向の成分を含む面内磁場に電気的に切り替える複数の電磁石30a及び30bを用いた磁気光学Kerr効果測定において、試料60におけるPMA膜の消磁応答を極Kerr効果信号から検出する検出部20と、検出した消磁応答を外挿フィッティングすることによって、PMA膜の異方性磁界Hkを導出する導出部40と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステージ上の試料に印加する磁場として、前記ステージの上面に直交する面直方向の成分を含む第1磁場、及び、前記ステージの上面に平行な面内方向の成分を含む第2磁場に電気的に切り替える複数の電磁石を用いた磁気光学Kerr効果測定において、前記試料における垂直磁気異方性膜の消磁応答を極Kerr効果信号から検出する検出部と、
検出した前記消磁応答を外挿フィッティングすることによって、前記垂直磁気異方性膜の異方性磁界を導出する導出部と、
を備えた半導体製造装置。
【請求項2】
前記複数の電磁石に流れる電流を制御する制御部を備え、
前記制御部は、
前記垂直磁気異方性膜の保磁力よりも大きい前記第1磁場を前記試料に印加して前記垂直磁気異方性膜の垂直磁化を飽和させ、
前記第1磁場の大きさを0にし、
前記第2磁場に切り替え、前記第2磁場の大きさを0から上げていき、複数回の前記第2磁場の大きさの上げ下げを含む正負掃引を行い、
前記検出部は、前記正負掃引によって測定された極Kerr効果信号から消磁応答を検出する、
請求項1に記載の半導体製造装置。
【請求項3】
前記導出部は、前記消磁応答を外挿フィッティングすることによって、磁化量が0になる前記第2磁場から前記異方性磁界を導出する、
請求項1に記載の半導体製造装置。
【請求項4】
前記複数の電磁石に流れる電流を制御する制御部を備え、
前記複数の電磁石は、
表面及び裏面を有するウェハを含む前記試料の表面側に配置され、
表面側から前記試料に対して、前記第1磁場及び前記第2磁場を印加し、
各電磁石は、ヨーク及びコイルを含み、
前記制御部は、コイル毎に流す電流の方向及び大きさを制御することによって、前記試料に対して、前記垂直磁気異方性膜の垂直磁化を飽和させるための前記第1磁場、及び、前記消磁応答のための前記第2磁場を印加する、
請求項1に記載の半導体製造装置。
【請求項5】
前記試料の近傍に配置された磁場センサを含み、前記第2磁場における前記面内方向以外の成分を測定する磁場方向測定デバイスをさらに備えた、
請求項4に記載の半導体製造装置。
【請求項6】
前記磁場方向測定デバイスが測定した前記第2磁場に基づいて、前記制御部は、照明光で照明される測定位置における前記第2磁場の前記面直方向の成分が最小になるように、コイル毎に流れる電流を制御する、
請求項5に記載の半導体製造装置。
【請求項7】
前記磁場方向測定デバイスが測定した前記第2磁場に基づいて、前記ステージは、照明光で照明される測定位置における前記面内方向の成分が試料面と平行になるように、前記試料の傾斜を制御する、
請求項5に記載の半導体製造装置。
【請求項8】
前記磁気光学Kerr効果測定に用いる照明光のスポット位置を移動させるビームステアリング機構をさらに備え、
前記磁場方向測定デバイスが測定した前記第2磁場に基づいて、前記ビームステアリングは、照明光で照明される測定位置における前記第2磁場の前記面直方向の成分が最小の位置に、前記照明光のスポット位置を移動させる、
請求項5に記載の半導体製造装置。
【請求項9】
前記磁気光学Kerr効果測定に用いる照明光のスポット位置を移動させるビームステアリング機構をさらに備え、
前記磁場方向測定デバイスが測定した前記第2磁場に基づいて、
前記制御部は、第1制御として、照明光で照明される測定位置における前記第2磁場の前記面直方向の成分が最小になるように、コイル毎に流れる電流を制御し、
前記ステージは、第2制御として、照明光で照明される測定位置における前記面内方向の成分が試料面と平行になるように、前記試料の傾斜を制御し、
前記ビームステアリング機構は、第3制御として、照明光で照明される測定位置における前記第2磁場の前記面直方向の成分が最小の位置に、前記照明光のスポット位置を移動させる場合に、前記第1制御、前記第2制御、及び、前記第3制御の中から少なくとも2つの制御を組み合わせて実施する、
請求項5に記載の半導体製造装置。
【請求項10】
前記制御部は、連続的な前記磁気光学Kerr効果測定中に、所定の間隔で、前記第2磁場の前記面直方向の成分が最小になるように、コイル毎に流れる電流を制御する、
請求項6に記載の半導体製造装置。
【請求項11】
前記ステージは、連続的な前記磁気光学Kerr効果測定中に、所定の間隔で、前記第2磁場の前記面内方向の成分が試料面と平行になるように、前記試料の傾斜を制御する、
請求項7に記載の半導体製造装置。
【請求項12】
前記ビームステアリングは、連続的な前記磁気光学Kerr効果測定中に、所定の間隔で、前記第2磁場の前記面直方向の成分が最小の位置に、前記照明光の前記スポット位置を移動させる、
請求項8に記載の半導体製造装置。
【請求項13】
前記磁気光学Kerr効果測定に用いる照明光のスポット位置を移動させるビームステアリング機構をさらに備え、
前記磁場方向測定デバイスが測定した前記第2磁場に基づいて、
前記制御部は、第4制御として、連続的な前記磁気光学Kerr効果測定中に、所定の間隔で、照明光で照明される測定位置における前記第2磁場の前記面直方向の成分が最小になるように、コイル毎に流れる電流を制御し、
前記ステージは、第5制御として、連続的な前記磁気光学Kerr効果測定中に、所定の間隔で、照明光で照明される測定位置における前記面内方向の成分が試料面と平行になるように、前記試料の傾斜を制御し、
前記ビームステアリング機構は、第6制御として、連続的な前記磁気光学Kerr効果測定中に、所定の間隔で、照明光で照明される測定位置における前記第2磁場の前記面直方向の成分が最小の位置に、前記照明光のスポット位置を移動させる場合に、前記第4制御、前記第5制御、及び、前記第6制御の中から少なくとも2つの制御を組み合わせて実施する、
請求項5に記載の半導体製造装置。
【請求項14】
複数の着目領域を含む前記試料の画像を取得する画像取得部と、
前記磁気光学Kerr効果による着目領域毎の輝度値の変化を解析する画像解析部と、
を備え、
前記制御部は、
前記画像取得部が前記着目領域毎の前記輝度値のヒステリシスループを取得するように、前記試料に前記第1磁場を印加し、
前記第2磁場に切り替え、前記第2磁場の大きさを0から上げていき、前記第2磁場の大きさの上げ下げを含む正負掃引を行い、
前記画像解析部は、
前記輝度値の消磁応答から前記着目領域毎の前記輝度値の変化幅を取得し、
前記正負掃引において磁化反転が起きた複数の前記着目領域の位置から、前記第2磁場の前記面直方向の成分が最小の前記着目領域である基準着目領域を導出し、
前記基準着目領域の前記輝度値を外挿フィッティングし、前記変化幅の1/2になる前記第2磁場から前記異方性磁界を取得する、
請求項4に記載の半導体製造装置。
【請求項15】
前記磁気光学Kerr効果測定に用いる照明光の光路を移動させるビームステアリングをさらに備え、
前記ビームステアリングは、前記第2磁場の前記面直方向の成分が最小の位置に、前記照明光のスポット位置を移動させる、
請求項14に記載の半導体製造装置。
【請求項16】
前記ステージは、温度付加機能を含み、
前記導出部は、前記試料の温度と、前記異方性磁界と、の関係から熱安定性指標を導出する、
請求項1に記載の半導体製造装置。
【請求項17】
ステージ上の試料に印加する磁場として、前記ステージの上面に直交する面直方向の成分を含む第1磁場、及び、前記ステージの上面に平行な面内方向の成分を含む第2磁場に電気的に切り替える複数の電磁石を用いた磁気光学Kerr効果測定において、前記試料における垂直磁気異方性膜の消磁応答を極Kerr効果信号から検出するステップと、
検出した前記消磁応答を外挿フィッティングすることによって、前記垂直磁気異方性膜の異方性磁界を導出するステップと、
を備えた半導体製造方法。
【請求項18】
前記試料における垂直磁気異方性膜の消磁応答を検出するステップにおいて、
前記垂直磁気異方性膜の保持力よりも大きい前記第1磁場を前記試料に印加して前記垂直磁気異方性膜の垂直磁化を飽和させ、
前記第1磁場の大きさを0にし、
前記第2磁場に切り替え、前記第2磁場の大きさを0から上げていき、複数回の前記第2磁場の大きさの上げ下げを含む正負掃引を行い、
前記正負掃引によって測定された極Kerr効果信号から消磁応答を検出する、
請求項17に記載の半導体製造方法。
【請求項19】
前記垂直磁気異方性膜の異方性磁界を導出するステップにおいて、
前記消磁応答を外挿フィッティングすることによって、磁化量が0になる前記第2磁場から前記異方性磁界を導出する、
請求項17に記載の半導体製造方法。
【請求項20】
前記複数の電磁石は、
表面及び裏面を有するウェハを含む前記試料の表面側に配置され、
表面側から前記試料に対して、前記第1磁場及び前記第2磁場を印加し、
各電磁石は、ヨーク及び複数のコイルを含み、
前記試料における垂直磁気異方性膜の消磁応答を検出するステップにおいて、
コイル毎に流す電流の方向及び大きさを制御することによって、前記試料に対して、前記垂直磁気異方性膜の垂直磁化を飽和させるための前記第1磁場、及び、前記消磁応答のための前記第2磁場を印加する、
請求項17に記載の半導体製造方法。
【請求項21】
前記試料における垂直磁気異方性膜の消磁応答を検出するステップにおいて、
前記試料の近傍に配置された磁場センサを含む磁場方向測定デバイスによって、前記第2磁場における前記面内方向以外の成分を測定する、
請求項20に記載の半導体製造方法。
【請求項22】
前記試料における垂直磁気異方性膜の消磁応答を検出するステップにおいて、
前記磁場方向測定デバイスが測定した前記第2磁場に基づいて、照明光で照明される測定位置における前記第2磁場の前記面直方向の成分が最小になるように、コイル毎に流れる電流を制御する、
請求項21に記載の半導体製造方法。
【請求項23】
前記試料における垂直磁気異方性膜の消磁応答を検出するステップにおいて、
前記磁場方向測定デバイスが測定した前記第2磁場に基づいて、前記ステージは、照明光で照明される測定位置における前記面内方向の成分が試料面と平行になるように、前記試料の傾斜を制御する、
請求項21に記載の半導体製造方法。
【請求項24】
前記試料における垂直磁気異方性膜の消磁応答を検出するステップにおいて、
前記磁場方向測定デバイスが測定した前記第2磁場に基づいて、照明光で照明される測定位置における前記第2磁場の前記面直方向の成分が最小の位置に、前記磁気光学Kerr効果測定に用いる前記照明光のスポット位置を移動させる、
請求項21に記載の半導体製造方法。
【請求項25】
前記試料における垂直磁気異方性膜の消磁応答を検出するステップにおいて、
前記磁場方向測定デバイスが測定した前記第2磁場に基づいて、
第1制御として、照明光で照明される測定位置における前記第2磁場の前記面直方向の成分が最小になるように、コイル毎に流れる電流を制御し、
第2制御として、前記ステージは、照明光で照明される測定位置における前記面内方向の成分が試料面と平行になるように、前記試料の傾斜を制御し、
第3制御として、照明光で照明される測定位置における前記第2磁場の前記面直方向の成分が最小の位置に、前記磁気光学Kerr効果測定に用いる前記照明光のスポット位置を移動させる場合に、前記第1制御、前記第2制御、及び、前記第3制御の中から少なくとも2つの制御を組み合わせて実施する、
請求項21に記載の半導体製造方法。
【請求項26】
前記試料における垂直磁気異方性膜の消磁応答を検出するステップにおいて、
連続的な前記磁気光学Kerr効果測定中に、所定の間隔で、前記第2磁場の前記面直方向の成分が最小になるように、コイル毎に流れる電流を制御する、
請求項22に記載の半導体製造方法。
【請求項27】
前記試料における垂直磁気異方性膜の消磁応答を検出するステップにおいて、
前記ステージは、連続的な前記磁気光学Kerr効果測定中に、所定の間隔で、前記面内方向の成分が試料面と平行になるように、前記試料の傾斜を制御する、
請求項23に記載の半導体製造方法。
【請求項28】
前記試料における垂直磁気異方性膜の消磁応答を検出するステップにおいて、
連続的な前記磁気光学Kerr効果測定中に、所定の間隔で、前記第2磁場の前記面直方向の成分が最小の位置に、前記照明光のスポット位置を移動させる、
請求項24に記載の半導体製造方法。
【請求項29】
前記試料における垂直磁気異方性膜の消磁応答を検出するステップにおいて、
前記磁場方向測定デバイスが測定した前記第2磁場に基づいて、
第4制御として、連続的な前記磁気光学Kerr効果測定中に、所定の間隔で、照明光で照明される測定位置における前記第2磁場の前記面直方向の成分が最小になるように、コイル毎に流れる電流を制御し、
第5制御として、前記ステージは、連続的な前記磁気光学Kerr効果測定中に、所定の間隔で、照明光で照明される測定位置における前記第2磁場の前記面内方向の成分が試料面と平行になるように、前記試料の傾斜を制御し、
第6制御として、連続的な前記磁気光学Kerr効果測定中に、所定の間隔で、照明光で照明される測定位置における前記第2磁場の前記面直方向の成分が最小の位置に、前記照明光のスポット位置を移動させる場合に、前記第4制御、前記第5制御、及び、前記第6制御の中から少なくとも2つの制御を組み合わせて実施する、
請求項21に記載の半導体製造方法。
【請求項30】
複数の着目領域を含む前記試料の画像を取得するステップと、
前記磁気光学Kerr効果による着目領域毎の輝度値の変化を解析するステップと、
をさらに備え、
前記複数の着目領域を含む前記試料の画像を取得するステップにおいて、
前記着目領域毎の前記輝度値のヒステリシスループを取得するように、前記試料に前記第1磁場を印加し、
前記第2磁場に切り替え、前記第2磁場の大きさを0から上げていき、前記第2磁場の大きさの上げ下げを含む正負掃引を行い、
前記磁気光学Kerr効果による着目領域毎の輝度値の変化を解析するステップにおいて、
前記輝度値のヒステリシスループから前記着目領域毎の前記輝度値の変化幅を取得し、
前記正負掃引において磁化反転が起きた複数の前記着目領域の位置から、前記第2磁場の前記面直方向の成分が最小の前記着目領域である基準着目領域を導出し、
前記基準着目領域の前記輝度値を外挿フィッティングし、前記変化幅の1/2になる前記第2磁場から前記異方性磁界を取得する、
請求項20に記載の半導体製造方法。
【請求項31】
前記試料における垂直磁気異方性膜の消磁応答を検出するステップにおいて、
前記基準着目領域に、前記磁気光学Kerr効果測定に用いる照明光の光路を移動させる、
請求項30に記載の半導体製造方法。
【請求項32】
前記ステージは、温度付加機能を含み、
前記試料の温度と、前記異方性磁界と、の関係から熱安定性指標を導出するステップをさらに備えた、
請求項17に記載の半導体製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体製造装置及び半導体製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スピン移行トルク型磁気抵抗メモリ(Spin Transfer Torque Magnetoresistive Randam Access Memory、以下、スピン移行トルク型磁気抵抗メモリを、STT-MRAMと呼び、磁気抵抗メモリを、MRAMと呼ぶ。)向けの垂直磁気異方性膜(Perpendicular Magnetic Anisotropy膜、以下、PMA膜と呼ぶ。)における異方性磁界Hkの評価方法としては、振動試料型磁力計(Vibrating Sample Magnetometer、以下、VSMと呼ぶ。)が代表的なものである。しかしながら、VSMにおいて測定に用いる試料のサイズは、数10mm□程度が限界である。よって、φ200mm及びφ300mmといった半導体ウェハ(Semiconductor wafer)の状態で異方性磁界Hkを評価することは困難である。したがって、VSMによる異方性磁界Hkの評価は、試料を小片化する所謂、破壊検査である。
【0003】
一方で、試料に磁場を与えたときに発生する磁気光学カー効果(Magneto-Optical Kerr Effect、以下、MOKEまたはKerr効果と呼ぶ。)と呼ばれる物理現象を検出する装置は、古典的な磁気光学測定装置である。このような装置を説明の便宜上、MOKE装置と呼ぶ。MOKE装置の基本構成は、例えば、非特許文献2に開示されている。MOKE装置は、電磁石の構造を工夫することで非破壊検査を行うことができる。
【0004】
半導体ウェハを試料とする場合には、MOKE装置は、非特許文献1及び非特許文献2に記載されたような対向電磁石ではなく、半導体ウェハの表面側に配置した電磁石を有するようにする。この場合には、MOKE装置は、ヨークと呼ばれる磁芯及び磁芯に巻かれたコイルを含む電磁石を2つ、または、4つ含んでいる。このようなMOKE装置は、既に商品化されている。以下では、半導体ウェハの表面側に配置された複数の電磁石を漏れ磁場電磁石と呼び、漏れ磁場電磁石によって形成された磁場を、漏れ磁場と呼ぶ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6593739号明細書
【特許文献2】米国特許第7166997号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】G. Ju, et.al, “Measurement of perpendicular media anisotropy field with accurate demagnetization correction”, JAP V93 No.10, pp.7846 (2003)
【非特許文献2】P. Wolniansky, et.al,” Magneto-optica measurements of hysteresis loop and anisotropy energy constants on amorphous Tbx Fe1-x alloys”, JAP V60, No1, pp346 (1986)
【非特許文献3】J-Won Lee, et.al,” Full vectorial spin-reorientation transition and magnetization reversal study in ultrathin ferromagnetic films using magneto-optical Kerr effects”, Phy. Rev. B65, 144437 (2002)
【非特許文献4】目黒栄、他、「局所磁化方向検出可能なカー効果顕微鏡の開発と空間磁場検出への応用」、顕微鏡、V52, No.3, pp119 (2017)
【非特許文献5】Jodi M. Iwata-Harms et.al, ”High-temperature thermal stability driven by magnetization dilution in CoFeB free layers for spin-transfer-torque magnetic random access memory”, Scientific Reports (2018) 8,14409
【非特許文献6】”3D MAGNETIC FIELD CAMERA”,[online]、[2023年2月1日検索]、インターネット<https://www.magcam.com/magnetic-field-measurement-systems/MiniCube-3D>
【非特許文献7】3軸テスラメータ、[online]、[2023年2月8日検索]、インターネット<https://ims-jp.com/products/teslameter/3mh3/>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
MRAMで使用されるPMA膜に垂直磁場以外の面内磁場、あるいは傾斜磁場を印加した場合には、Kerr効果の信号は、極Kerr効果、縦Kerr効果及び横Kerr効果を混在して含むことが知られている。これらを分離するために、特許文献1、特許文献2及び非特許文献3には、照明角度または偏光方向を変えた複数回の測定から極Kerr効果/縦Kerr効果を分離して、異方性磁界Hkを抽出する方法が開示されている。しかしながら、複数回測定であることに加えて、異方性磁界Hkを測定するためには、強い面内磁場を印加して試料の面内磁化を飽和させる必要がある。MRAMに使用される磁性材料の場合には、電磁石は、少なくとも5kOe以上の面内磁場を出力する大型のものを必要とする。さらに、面内磁場の方向は、正確に水平(面内)にする必要がある。
【0008】
したがって、極Kerr効果/縦Kerr効果の分離を対向磁場ではなく、片側保持の漏れ磁場で実現するためには、左右のヨーク間隔を広く取り、ヨーク径を大きくし、コイルの巻数を増やす必要がある。よって、電磁石は、大型化する。前述の5kOe以上の面内磁場を出力できる電磁石を、対物レンズと試料との間の数10mm程度のワーキングディスタンス(Working Distance)の間に収めることは、現実的に困難である。
【0009】
本開示は、上記問題に鑑みてなされたものであり、非破壊で磁気特性を高精度に測定することができる半導体製造装置及び半導体製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示に係る半導体製造装置は、ステージ上の試料に印加する磁場として、前記ステージの上面に直交する面直方向の成分を含む第1磁場、及び、前記ステージの上面に平行な面内方向の成分を含む第2磁場に電気的に切り替える複数の電磁石を用いた磁気光学Kerr効果測定において、前記試料における垂直磁気異方性膜の消磁応答を検出する検出部と、検出した前記消磁応答を外挿フィッティングすることによって、前記垂直磁気異方性膜の異方性磁界を導出する導出部と、を備える。
【0011】
上記半導体製造装置では、前記複数の電磁石に流れる電流を制御する制御部を備え、前記制御部は、前記垂直磁気異方性膜の保磁力よりも十分大きい前記第1磁場を前記試料に印加して前記垂直磁気異方性膜の垂直磁化を飽和させ、前記第1磁場の大きさを0にし、前記第2磁場に切り替え、前記第2磁場の大きさを0から上げていき、複数回の前記第2磁場の大きさの上げ下げを含む正負掃引を行い、前記検出部は、前記正負掃引によって測定された極Kerr効果信号から消磁応答を検出してもよい。
【0012】
上記半導体製造装置では、前記導出部は、前記消磁応答を外挿フィッティングすることによって、磁化量が0になる前記第2磁場から前記異方性磁界を導出してもよい。
【0013】
上記半導体製造装置では、前記複数の電磁石に流れる電流を制御する制御部を備え、前記複数の電磁石は、表面及び裏面を有するウェハを含む前記試料の表面側に配置され、表面側から前記試料に対して、前記第1磁場及び前記第2磁場を印加し、各電磁石は、ヨーク及びコイルを含み、前記制御部は、コイル毎に流す電流の方向及び大きさを制御することによって、前記試料に対して、前記垂直磁気異方性膜の垂直磁化を飽和させるための前記第1磁場、及び、前記消磁応答測定のための前記第2磁場を印加してもよい。
【0014】
上記半導体製造装置では、前記試料の膜表面と同じ高さに配置された磁場センサを含み、前記第2磁場における前記面内方向以外の成分を測定する磁場方向測定デバイスをさらに備えてもよい。
【0015】
上記半導体製造装置では、前記磁場方向測定デバイスが測定した前記第2磁場に基づいて、前記制御部は、前記第2磁場の前記面直方向の成分が最小になるように、コイル毎に流れる電流を制御してもよい(第1制御)。
【0016】
上記半導体製造装置では、前記磁場方向測定デバイスが測定した前記第2磁場に基づいて、前記ステージは、前記面内方向の成分が試料膜面と平行になるように、前記試料の傾斜を制御してもよい(第2制御)。
【0017】
上記半導体製造装置では、前記磁気光学Kerr効果測定に用いる照明光の光路を移動させるビームステアリングをさらに備え、前記磁場方向測定デバイスが測定した前記第2磁場に基づいて、前記ビームステアリングによるビーム角度制御によって、前記第2磁場の前記面直方向の成分が最小の位置に、前記照明光の前記試料上のスポット位置を移動させてもよい(第3制御)。
【0018】
また、上記第1制御、第2制御、及び、第3制御の中から少なくとも2つの制御を組み合わせて実施する補正制御でもよい。例えば、上記コイル毎に流れる電流の制御と上記試料面の傾斜の制御を組み合わせることで過度なコイル電流制御、過度な傾斜角度制御を回避することが可能となる。ここで、「過度な」とは、副作用が大きく、弊害が出てくることを意味する。例えば、過度なコイル電流制御の場合、左右のヨークから出力される磁場の大きさが著しく異なり、連続運転時の発熱量に差が生じ、安定性への副作用が問題となる。
【0019】
上記半導体製造装置では、前記制御部は、連続的な前記磁気光学Kerr効果測定中に、所定の間隔で、前記第2磁場の前記面直方向の成分が最小になるように、コイル毎に流れる電流を制御してもよい(第4制御)。ここで、「連続的な」とは、ウェハ内の多点を測定、且つ、ウェハは多数枚を連続して測定することを意味する。
【0020】
上記半導体製造装置では、前記ステージは、連続的な前記磁気光学Kerr効果測定中に、所定の間隔で、前記第2磁場の前記面内方向の成分が試料面と平行になるように、前記試料の傾斜を制御してもよい(第5制御)。
【0021】
上記半導体製造装置では、前記ビームシフタは、連続的な前記磁気光学Kerr効果測定中に、所定の間隔で、前記第2磁場の前記面直方向の成分が最小の位置に、前記照明光の前記試料上のスポット位置を移動させてもよい(第6制御)。
【0022】
また、上記第4制御、第5制御、及び、第6制御の中から少なくとも2つの制御を組み合わせて実施する補正制御でもよい。
【0023】
上記半導体製造装置では、複数の着目領域を含む前記試料の画像を取得する画像取得部と、前記磁気光学Kerr効果による着目領域毎の輝度値の変化を解析する画像解析部と、を備え、前記制御部は、前記画像取得部が前記着目領域毎の前記輝度値のヒステリシスループを取得するように、前記試料に前記第1磁場を正負掃引し、着目領域毎に垂直磁化信号の変化幅を取得する。この掃引は垂直方向に飽和磁化させた状態で終わる。その後に前記第2磁場に切り替え、前記第2磁場の大きさを0から上げていき、前記第2磁場の大きさの上げ下げを含む正負掃引を行い、前記画像解析部は、着目領域毎の前記輝度値の消磁応答から、前記正負掃引において磁化反転が起きた複数の前記着目領域の位置から、前記第2磁場の前記面直方向の成分が最小の前記着目領域である基準着目領域を導出し、前記基準着目領域の前記輝度値を外挿フィッティングし、前記第2磁場の正負掃引における輝度変化量が前記垂直磁化信号の変化幅の1/2になる前記第2磁場から前記異方性磁界を取得してもよい。
【0024】
上記半導体製造装置では、前記磁気光学Kerr効果測定に用いる照明光の光路を移動させるビームステアリングをさらに備え、前記ビームステアリングは、前記第2磁場の前記面直方向の成分が最小の位置に相当する前記基準着目領域の中心に、前記照明光のスポット位置を移動させてもよい。
【0025】
上記半導体製造装置では、前記ステージは、温度付加機能を含み、前記導出部は、前記試料の温度と、前記異方性磁界と、の関係から熱安定性指標を導出してもよい。
【0026】
本開示に係る半導体製造方法は、ステージ上の試料に印加する磁場として、前記ステージの上面に直交する面直方向の成分を含む第1磁場、及び、前記ステージの上面に平行な面内方向の成分を含む第2磁場に電気的に切り替える複数の電磁石を用いた磁気光学Kerr効果測定において、前記試料における垂直磁気異方性膜の消磁応答を検出するステップと、検出した前記消磁応答を外挿フィッティングすることによって、前記垂直磁気異方性膜の異方性磁界を導出するステップと、を備える。
【0027】
上記半導体製造方法では、前記試料における垂直磁気異方性膜の消磁応答を検出するステップにおいて、前記垂直磁気異方性膜の保持力よりも十分大きい前記第1磁場を前記試料に印加して前記垂直磁気異方性膜の垂直磁化を飽和させ、前記第1磁場の大きさを0にし、前記第2磁場に切り替え、前記第2磁場の大きさを0から上げていき、複数回の前記第2磁場の大きさの上げ下げを含む正負掃引を行い、前記正負掃引によって測定された極Kerr効果信号から消磁応答を検出してもよい。
【0028】
上記半導体製造方法では、前記垂直磁気異方性膜の異方性磁界を導出するステップにおいて、前記消磁応答を外挿フィッティングすることによって、磁化量が0になる前記第2磁場から前記異方性磁界を導出してもよい。
【0029】
上記半導体製造方法では、前記複数の電磁石は、表面及び裏面を有するウェハを含む前記試料の表面側に配置され、表面側から前記試料に対して、前記第1磁場及び前記第2磁場を印加し、各電磁石は、ヨーク及び複数のコイルを含み、前記試料における垂直磁気異方性膜の消磁応答を検出するステップにおいて、コイル毎に流す電流の方向及び大きさを制御することによって、前記試料に対して、前記垂直磁気異方性膜の垂直磁化を飽和させるための前記第1磁場、及び、前記消磁応答のための前記第2磁場を印加してもよい。
【0030】
上記半導体製造方法では、前記試料における垂直磁気異方性膜の消磁応答を検出するステップにおいて、前記試料の膜表面と同じ高さに配置された磁場センサを含む磁場方向測定デバイスによって、前記第2磁場における前記面内方向以外の成分を測定してもよい。
【0031】
上記半導体製造方法では、前記試料における垂直磁気異方性膜の消磁応答を検出するステップにおいて、前記磁場方向測定デバイスが測定した前記第2磁場に基づいて、前記第2磁場の前記面直方向の成分が最小になるように、コイル毎に流れる電流を制御してもよい。
【0032】
上記半導体製造方法では、前記試料における垂直磁気異方性膜の消磁応答を検出するステップにおいて、前記磁場方向測定デバイスが測定した前記第2磁場に基づいて、前記ステージは、前記面内方向の成分が試料膜面と平行になるように、前記試料の傾斜を制御してもよい。
【0033】
上記半導体製造方法では、前記試料における垂直磁気異方性膜の消磁応答を検出するステップにおいて、前記磁場方向測定デバイスが測定した前記第2磁場に基づいて、前記第2磁場の前記面直方向の成分が最小の位置に、前記磁気光学Kerr効果測定に用いる照明光の試料上のスポット位置を移動させてもよい。また、上記の複数の制御を組み合わせた補正制御でもよい。
【0034】
上記半導体製造方法では、前記試料における垂直磁気異方性膜の消磁応答を検出するステップにおいて、連続的な前記磁気光学Kerr効果測定中に、所定の間隔で、前記第2磁場の前記面直方向の成分が最小になるように、コイル毎に流れる電流を制御してもよい。
【0035】
上記半導体製造方法では、前記試料における垂直磁気異方性膜の消磁応答を検出するステップにおいて、前記ステージは、連続的な前記磁気光学Kerr効果測定中に、所定の間隔で、前記面内方向の成分が試料膜面と平行になるように、前記試料の傾斜を制御してもよい。
【0036】
上記半導体製造方法では、前記試料における垂直磁気異方性膜の消磁応答を検出するステップにおいて、連続的な前記磁気光学Kerr効果測定中に、所定の間隔で、前記第2磁場の前記面直方向の成分が最小の位置に、前記照明光の試料上のスポット位置を移動させてもよい。
【0037】
上記半導体製造方法では、複数の着目領域を含む前記試料の画像を取得するステップと、前記磁気光学Kerr効果による着目領域毎の輝度値の変化を解析するステップと、をさらに備え、前記複数の着目領域を含む前記試料の画像を取得するステップにおいて、前記着目領域毎の前記輝度値のヒステリシスループを取得するように、前記試料に前記第1磁場を正負掃引し、着目領域毎に垂直磁化信号の変化幅を取得する。この掃引は垂直方向に飽和磁化させた状態で終わる。その後に前記第2磁場に切り替え、前記第2磁場の大きさを0から上げていき、前記第2磁場の大きさの上げ下げを含む正負掃引を行い、前記磁気光学Kerr効果による着目領域毎の輝度値の変化を解析するステップにおいて、着目領域毎の前記輝度値の消磁応答から、前記正負掃引において磁化反転が起きた複数の前記着目領域の位置から、前記第2磁場の前記面直方向の成分が最小の前記着目領域である基準着目領域を導出し、前記基準着目領域の前記輝度値を外挿フィッティングし、前記第2磁場の正負掃引における輝度変化量が前記垂直磁化信号の変化幅の1/2になる前記第2磁場から前記異方性磁界を取得してもよい。
【0038】
上記半導体製造方法では、前記試料における垂直磁気異方性膜の消磁応答を検出するステップにおいて、前記基準着目領域に、前記磁気光学Kerr効果測定に用いる照明光の光路を移動させてもよい。
【0039】
上記半導体製造方法では、前記ステージは、温度付加機能を含み、前記試料の温度と、前記異方性磁界と、の関係から熱安定性指標を導出するステップをさらに備えてもよい。
【発明の効果】
【0040】
本開示により、非破壊で磁気特性を高精度に測定することができる半導体製造装置及び半導体製造方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】実施形態1に係る半導体製造装置の構成を例示した模式図である。
【
図2】実施形態1に係る半導体製造装置における磁場生成部を例示した斜視図である。
【
図3】実施形態1に係る半導体製造装置における磁場生成部が生成した磁場を例示した模式図である。
【
図4】実施形態1に係る半導体製造装置における磁場生成部が生成した磁場を例示した模式図である。
【
図5】実施形態1に係る半導体製造装置において、試料の垂直磁化特性のヒステリシスループを例示したグラフであり、横軸は、面直方向の外部磁場を示し、縦軸は、試料の垂直磁化を示す。
【
図6】実施形態1に係る半導体製造方法を例示したフローチャート図である。
【
図7】実施形態1に係る半導体製造方法において、消磁応答の検出を例示したフローチャート図である。
【
図8】実施形態1に係る半導体製造装置において、試料に印加する磁場を例示したグラフであり、横軸は、時間を示し、縦軸は、磁場の強度を示す。
【
図9】実施形態1に係る半導体製造装置において、試料の垂直磁化を例示したグラフであり、横軸は、時間を示し、縦軸は、規格化した垂直磁化の信号の強度を示す。
【
図10】実施形態1に係る半導体製造装置において、試料の垂直磁化を例示したグラフであり、横軸は、面内磁場を示し、縦軸は、規格化した垂直磁化の信号の強度を示す。
【
図11】実施形態1の別の例に係る半導体製造装置において、試料に印加する磁場を例示したグラフであり、横軸は、時間を示し、縦軸は、磁場の強度を示す。
【
図12】実施形態1の別の例に係る半導体製造装置において、試料の垂直磁化を例示したグラフであり、横軸は時間を示し、縦軸は規格化した垂直磁化の信号の強度を示す。
【
図13】実施形態2に係る半導体製造装置の構成を例示した模式図である。
【
図14】実施形態2に係る半導体製造装置において、磁場方向測定デバイスにより定量化した片持ちの電磁石による漏れ磁場を例示した図である。
【
図15】実施形態2に係る半導体製造装置において、磁場方向測定デバイスにより定量化した片持ちの電磁石による漏れ磁場を例示した図である。
【
図16】実施形態2に係る半導体製造装置において、観察顕微鏡の構成を例示した模式図である。
【
図17】実施形態2に係る半導体製造装置において、磁場方向測定デバイスで測定されたBx及びBzから磁場方向を定義する前及び定義した後に、Y軸の所定の座標で切断した場合の面内磁場の角度の1次元分布を例示したグラフであり、横軸は、X軸座標を示し、縦軸は、面内磁場の角度を示す。
【
図18】実施形態2に係る半導体製造装置において、試料の垂直磁化の信号を例示したグラフであり、横軸は、面内磁場を示し、縦軸は、規格化した垂直磁化の信号の強度を示す。
【
図19】実施形態2に係る異方性磁場Hkの検証を例示したグラフであり、横軸は、VSMにより取得した異方性磁場Hkを示し、縦軸は、本実施形態の手法により取得した異方性磁場Hkを示す。
【
図20】実施形態3に係る半導体製造装置の構成を例示した模式図である。
【
図21】実施形態3に係る半導体製造装置において、着目領域を例示した図である。
【
図22】実施形態3に係る半導体製造装置において、測定した試料の平均輝度値を例示したグラフであり、横軸は、印加した面直磁場を示し、縦軸は、平均輝度値を示す。
【
図23】実施形態3に係る半導体製造装置において、測定した試料の平均輝度値を例示したグラフであり、横軸は、印加した面内磁場を示し、縦軸は、平均輝度値を示す。
【
図24】実施形態3に係る半導体製造装置において、試料の垂直磁化を例示したグラフであり、横軸は、面内磁場を示し、縦軸は、垂直磁化の信号の強度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0042】
説明の明確化のため、以下の記載及び図面は、適宜、省略及び簡略化がなされている。また、各図面において、同一の要素には同一の符号が付されており、必要に応じて重複説明は省略されている。
【0043】
(実施形態の概要)
実施形態に係る半導体製造装置及び半導体製造方法の概要について説明する。本実施形態の半導体製造装置は、PMA膜等の磁性体膜を含む半導体ウェハの製造装置を含んでもよいし、磁性体膜を含む半導体ウェハの検査装置を含んでもよい。また、本実施形態の半導体製造装置は、MRAMを含む半導体メモリ素子の製造装置を含んでもよいし、MRAMを含む半導体メモリ素子の検査装置を含んでもよい。本実施形態の半導体製造装置は、磁気特性を高精度及び高感度で測定した半導体ウェハ及び半導体メモリ素子を提供する。
【0044】
PMA膜等の磁性体膜の材料を測定及び評価する方法としては、前述したようにMOKE装置を利用した光学測定が知られている。本実施形態では、VSM等において、破壊検査によって測定及び評価していた異方性磁界Hkを半導体ウェハの状態で測定及び評価する。
【0045】
また、本実施形態は、外挿方式で異方性磁界Hkを測定する。よって、本実施形態の半導体製造装置には、比較的小さい磁場を出力する電磁石を適用することができ、装置構成を容易にする。さらに、本実施形態の半導体製造装置は、試料への磁場方向を逐次、測定及び補正する制御を行うので、連続的な異方性磁界Hkの測定及び評価の安定性を向上させることができる。
【0046】
(実施形態1)
実施形態1に係る半導体製造装置を説明する。本実施形態の半導体製造装置を、<構成>、<試料>及び<動作>に分けて説明する。
【0047】
<構成>
図1は、実施形態1に係る半導体製造装置の構成を例示した模式図である。
図1に示すように、半導体製造装置1は、例えば、MOKE装置でもよい。半導体製造装置1は、光学系10、検出部20、磁場生成部30、及び、導出部40を備えている。半導体製造装置1は、ステージ50上の試料60の磁化特性を測定及び評価する。
【0048】
ここで、半導体製造装置1の説明の便宜のために、XYZ直交座標軸系を導入する。ステージ50の上面に直交する方向をZ軸方向とし、上方を+Z軸方向、下方を-Z軸方向とする。Z軸方向に直交する面をXY面とする。Z軸方向を面直方向または垂直方向と呼ぶ場合がある。XY面に平行な方向を面内方向または水平方向と呼ぶ場合がある。
【0049】
光学系10は、一例として、光源11、偏光子12、ハーフミラーHM、対物レンズ13、及び、偏光ビームスプリッタ14を含んでいる。光学系10は、これら以外に、レンズ、ミラー、波長板、ビームステアリング(Beam Steering)15等の光学素子を含んでもよい。検出部20は、一例として、検出器21及び22、信号解析部23を含んでいる。
【0050】
光源11は、例えば、レーザ光源である。その場合には、照明光は、レーザ光である。光学系10は、光源11から出射した照明光を、ミラーMLを介して偏光子12に透過させる。これにより、照明光は、直線偏光を含む直線偏光光に変換される。直線偏光を含む照明光は、ハーフミラーHM及び対物レンズ13を介して試料60を照明する。
【0051】
対物レンズ13の光軸は、Z軸方向に延びている。よって、光学系10は、偏光した照明光で試料60を垂直に照明する。つまり、照明光の主軸が対物レンズ13の光軸に沿うように試料60を照明する。試料60で反射した反射光は、対物レンズ13及びハーフミラーHMを介して偏光ビームスプリッタ14に入射する。偏光ビームスプリッタ14は、s偏光を含む反射光と、p偏光を含む反射光に分離する。そして、偏光ビームスプリッタ14によって分離されたs偏光を含む反射光及びp偏光を含む反射光は、それぞれ、検出器21及び22で検出される。
【0052】
検出部20は、偏光ビームスプリッタ14によって分離されたs偏光の偏光成分及びp偏光の偏光成分を、それぞれ、2つの検出器21及び22で同時検出し、信号解析部23によって解析する。信号解析部23は、差動検出系を構成してもよい。検出部20は、ロックインアンプ(Lock-in-amp)によって構成制御することで、SN比を向上させてもよい。
【0053】
光学系10は、磁場生成部30で生成した磁場を試料60に印可したときの反射光を検出部20に導く。反射光は、磁場中の試料60で発生したKerr効果によって偏光状態が僅かに変調を受けている。検出部20は、磁気光学Kerr効果測定において、第1磁場または容易軸(Z軸)方向の磁場を試料60に正負掃引することでPMA膜の容易軸の面直磁化応答を検出する。第2磁場または困難軸(X軸)方向の磁場を試料60に正負掃引することでPMA膜の消磁応答を検出する。このように、本実施形態の光学系10は、試料60に対して照明光を垂直に入射することによって極Kerr効果を検出するPolar Mokeと呼ばれる構成となっている。
【0054】
図2は、実施形態1に係る半導体製造装置1における磁場生成部30を例示した斜視図である。
図2に示すように、磁場生成部30は、一例として、2つの電磁石30a及び30b、並びに、制御部36を含んでいる。なお、磁場生成部30は、以下で示す面直方向の成分を含む面直磁場及び面内方向の成分を含む面内磁場を形成することができれば、2つの電磁石30a及び30bに限らず、4つの電磁石等、2つ以外の個数の電磁石を含んでもよい。制御部36は、複数の電磁石30a及び30bに流れる電流を制御する。
【0055】
複数の電磁石30a及び30bは、表面及び裏面を有するウェハを含む試料60の表面側に配置されている。電磁石30a及び30bは、試料60表面側から、試料60に対して、面直磁場及び面内磁場を印加する。電磁石30a及び電磁石30bは、X軸方向に並んで配置されている。電磁石30a及び30bは、それぞれ、コイル31a及び31bを含む。コイル31a及び31bを総称して、コイル31と呼ぶ。制御部36は、コイル31毎に流す電流の方向及び大きさを制御することによって、試料60に対して、PMA膜の垂直磁化を飽和させるための面直磁場、及び、消磁応答測定のための面内磁場を印可する。
【0056】
電磁石30a及び30bは、また、それぞれ、ヨーク32a及び32bを含む。ヨーク32a及び32bを総称して、ヨーク32と呼ぶ。ヨーク32は、例えば、L字状の形状を有している。ヨーク32は、面直方向に延びた面直部分33、並びに、面直方向に傾斜した傾斜部分34を有するL字状である。ヨーク32aは、面直部分33a及び傾斜部分34aを含み、ヨーク32bは、面直部分33b及び傾斜部分34bを含む。面直部分33a及び33bを総称して、面直部分33と呼び、傾斜部分34a及び34bを総称して、傾斜部分34と呼ぶ。傾斜部分34a及び34bは、面内方向に平行に延びてもよい。コイル31は、面直部分33に所定の方向に巻かれている。
【0057】
具体的には、電磁石30aは、面直方向に延びた面直部分33a及び面直方向に傾斜した傾斜部分34aを有するL字状のヨーク32aと、面直部分33aに所定の方向に巻かれたコイル31aと、を含む。電磁石20bは、面直方向に延びた面直部分33b及び面直方向に傾斜した傾斜部分34bを有するL字状のヨーク32bと、面直部分33bに所定の方向に巻かれたコイル31bと、を含む。
【0058】
面直部分33a及び33bは、それぞれ、電磁石30a及び30bの中心軸を通る。各ヨーク32a及び32bの上端、すなわち、面直部分33a及び33bの上端は、接続板35に接続されている。面直部分33a及び33bの下端は、それぞれ、傾斜部分34a及び34bの一端に接続されている。
【0059】
ヨーク32aの傾斜部分34a及びヨーク32bの傾斜部分34bは、X軸方向に延びている。傾斜部分34aの一端は、電磁石30aの中心を通る面直部分33aの下端に接続されている。よって、傾斜部分34aは、面直部分33aの下端から+X軸方向に延びている。傾斜部分34bの一端は、電磁石30bの中心を通る面直部分33bの下端に接続されている。よって、傾斜部分34bは、面直部分33bの下端から-X軸方向に延びている。傾斜部分34aの端部と、傾斜部分34bの端部とは、X軸方向において、対向する。
【0060】
図3及び
図4は、実施形態1に係る半導体製造装置1における磁場生成部30が生成した磁場を例示した模式図(磁場シミュレーション結果)である。
図3に示すように、磁場生成部30の各電磁石30a及び30bに対して、電流の向きを同相とした電流を流すと、ヨーク32の端部の近傍に面直方向の成分を含む面直磁場を形成することができる。一方、
図4に示すように、磁場生成部30の各電磁石30a及び30bに対して、電流の向きを逆相とした電流を流すと、ヨーク32の端部の近傍に面内方向の成分を含む面内磁場を形成することができる。
【0061】
導出部40は、検出部20が検出した結果に基づいて、試料60の異方性磁界Hkを導出する。例えば、導出部40は、試料60の消磁応答を外挿フィッティングすることによって、PMA膜の異方性磁界Hkを導出する。
【0062】
<試料>
試料60は、一例として、PMA膜をシリコン(Silicon)ウェハ(Wafer)上に成膜したものである。PMA膜は、MRAMを含むデバイスの機能であるフリー(Free)層と呼ばれるものを模したものである。PMA膜は、例えば、軟磁性であるCoFeB等を含む膜が典型である。試料60は、具体的には、CoFeBの上下層に、MgO層が積層されている。そして、試料60は、表層に金属Cap層が積層されている。MgO層は、大きなトンネル磁気抵抗効果(Tunnel Magneto Rsistance Effect、以下、TMR効果と呼ぶ。)を得るための層である。
【0063】
図5は、実施形態1に係る半導体製造装置1において、試料60の垂直磁化特性のヒステリシスループ(Hysteresis Loop)を例示したグラフであり、磁場掃引パターンは例えば0→(+)→(―)→0→(+)である。横軸は、面直方向の外部磁場を示し、縦軸は、試料60の垂直磁化を示す。
図5において、保持力をHcで示す。面直方向の磁化量のレンジ(変化幅)を2として規格化して示されている。面直方向の磁化量のレンジを本開示ではDOPM(Degree of Polar Magnetization)と呼ぶ。
図5に示すように、試料60に対して面直方向の外部磁場を印可した場合には、試料60の垂直磁化は、ヒステリシスループを示す。
【0064】
<動作>
次に、本実施形態の半導体製造装置1の動作を説明する。
図6は、実施形態1に係る半導体製造方法を例示したフローチャート図である。
図7は、実施形態1に係る半導体製造方法において、消磁応答の検出を例示したフローチャート図である。
図8は、実施形態1に係る半導体製造装置1において、試料60に印加する磁場を例示したグラフであり、横軸は、時間を示し、縦軸は、磁場の強度を示す。
図8には、印加する磁場の方向を矢印で示している。
図9は、実施形態1に係る半導体製造装置において、試料の垂直磁化を例示したグラフであり、横軸は、時間を示し、縦軸は、規格化した垂直磁化の信号の強度を示す。
図9には、試料60の垂直磁化の方向及び大きさを矢印で示している。
【0065】
図6に示すように、本実施形態の半導体製造方法は、消磁応答を検出するステップ(S10)及び消磁応答を外挿フィッティングするステップ(S20)を備えている。消磁応答を検出するステップは、
図7に示すように、面直磁場を印加し、垂直磁化を飽和するステップ(S11)、面直磁場の大きさを0にするステップ(S12)、面内磁場に切り替えるステップ(S13)、面内磁場の正負掃引するステップ(S14)及び極Kerr効果信号から消磁応答を検出するステップ(S15)を含んでいる。以下、
図8及び
図9を参照して詳細に説明する。
【0066】
図8及び
図9の時間t=0~t=Sは、準備(Preparation)のための動作である。
図8及び
図9の時間t=s~時間t=Fは、磁場の掃引(Sweep)を行って測定するための動作である。
【0067】
図8の準備において、まず、試料60を予め消磁した状態にする。次に、磁場生成部30は、試料60に対して、面直方向の成分を含む面直磁場を印可する。このとき、制御部36は、電磁石30a及び30bにおける電流の向きを同相となるように制御する。具体的には、制御部36は、面直磁場を徐々に上げていく。そして、
図9に示すように、制御部36は、PMA膜の保磁力(Coercivity)Hcよりも十分に大きい面直磁場を試料60に対して印加してPMA膜の垂直磁化を飽和させる(ステップS11)。試料60の垂直磁化を十分に飽和させるためには、保磁力Hcの例えば10倍程度以上の磁場を印可することが好ましい。このとき、消磁状態から飽和状態までの極Kerr信号のレンジ(変化幅)を記録して、以降の極Kerr効果信号の強度を規格化する。その後、制御部36は、例えば、電磁石30a及び30bに流す電流を0にして、面直磁場の大きさを0にする(ステップs12)。尚、PMA膜であれば磁場をゼロにしても飽和した垂直磁化の状態は保持される。
【0068】
次に、
図8の掃引に示すように、制御部36は、電磁石30a及び30bにおける電流の向きを逆相に変える。これにより、制御部36は、試料60に対して印加する磁場を、面内方向の成分を含む面内磁場に切り替える(ステップS13)。そして、制御部36は、印加する面内磁場の大きさを0から徐々に上げていく。このとき、
図9に示すように、試料60の垂直磁化が減っていく過程を極Kerr効果信号の強度として記録する。
【0069】
ここで、印可する面内磁場が大きすぎた場合、または、面内磁場の方向に誤差がある場合には、非特許文献1に開示されているように、ブレイクポイント(Break Point)と呼ばれる磁化反転(例えば、上向きの磁化から下向きの磁化への反転)が起きてしまう。磁化反転は、面内磁場の大きさが臨界点を超えると起きる現象である。磁化反転が起きると、本実施形態の前提である物理モデル(比較的小さな外部磁場における磁化の一斉回転モデル)、すなわち、リバーシブル(Reversible)な掃引(Sweep)が破綻してしまう。そうすると、外挿Fittingのモデル式から逸脱するために異方性磁磁界Hkを正しく測定することができない。そこで、制御部36は、磁化反転が起きない範囲でリバーシビリティの確認と平均化のために複数回、面内磁場の大きさの上げ下げを含む正負掃引を行う(ステップS14)。検出部20は、正負掃引によって測定された極Kerr効果信号から消磁応答を検出する(ステップS15、ステップS10)。
【0070】
次に、試料60の垂直磁化が減っていく過程を外挿する。
図10は、実施形態1に係る半導体製造装置1において、試料60の垂直磁化を例示したグラフであり、横軸は、面内磁場を示し、縦軸は、規格化した垂直磁化の信号の強度を示す。
図10に示すように、印加する面内磁場を0から徐々に上げた場合に、導出部40は、試料60の垂直磁化が減っていく過程を外挿する。例えば、導出部40は、外挿した線と、横軸と、の交点から、異方性磁場Hkを求める。すなわち、導出部40は、消磁応答を外挿フィッティングすることによって、磁化量が0になる面内磁場の値から異方性磁界Hkを導出する(ステップS20)。
【0071】
このように、本実施形態の半導体製造装置1は、ステージ50上の試料60に印加する磁場として、ステージ50の上面に直交する面直方向の成分を含む第1磁場、及び、ステージ50の上面に平行な面内方向の成分を含む第2磁場に電気的に切り替える複数の電磁石30a及び30bを用いた磁気光学Kerr効果の測定を行う。半導体製造装置1は、当該磁気光学Kerr効果測定において、試料60におけるPMA膜の消磁応答を検出する検出部20と、検出した消磁応答を外挿フィッティングすることによって、垂直磁気異方性膜の異方性磁界を導出する導出部と、を備える。
【0072】
図11は、実施形態1の別の例に係る半導体製造装置1において、試料60に印加する磁場を例示したグラフであり、横軸は、時間を示し、縦軸は、磁場の強度を示す。
図12は、実施形態1の別の例に係る半導体製造装置1において試料60の垂直磁化を例示したグラフであり、横軸は、時間を示し、縦軸は、規格化した垂直磁化の信号の強度を示す。
【0073】
前述の
図8及び
図9における消磁状態にする処置には時間がかかるので、
図11及び
図12図に示すように、準備として、+H磁場で終わるような+H→0→-H→0→+Hになる通常の容易軸のヒステリシスループ測定磁場を印加してもよい。この場合には、異方性磁界Hkの前処理である垂直磁化の飽和処理を兼ねて、通常の極Kerr効果の測定による容易軸のヒステリシスループを準備ステップで取得することができる。このため、PMA膜の飽和磁化量の大きさ、保持力Hcと言った基本性能を評価することも可能である。異方性磁界Hkとある程度の相関がある保磁力Hcも同時に取得することができることになる。尚、
図9及び
図12の縦軸は、規格化した垂直磁化量であり、
図5のヒステリシスループの最大から最小までの1/2が1になるように規格化している。
【0074】
次に、本実施形態の効果を説明する。これまで、一般的に、PMA膜の異方性磁界Hkは、VSMによる破壊検査で取得されていた。これに対して、本実施形態は、PMA膜の異方性磁界Hkを非破壊検査として、MOKE装置を用いた磁気光学方式で測定する。その際に、非特許文献3等で報告されているような面内及び面直の磁化特性分離方式等の強力な磁場を必要としない。本実施形態は、比較的小さな磁場で異方性磁界Hkを測定することができる方式である消磁方式を用いる。これにより、ウェハの状態での異方性磁場Hkを測定及び評価することができる。
【0075】
PMA膜を用いたMRAMにおいて、異方性磁界Hkは、MRAMの信頼性及び耐久性は、勿論、駆動速度にも大きく関与する重要特性因子である。現状は、VSMとよばれる機械振動式の装置を用いて異方性磁界Hkを測定することができる。しかしながら、VSMの装置に適用可能な試料60サイズは、典型的には10数mm□であり、前述したように、基本的には、破壊検査である。
【0076】
一方、特許文献1及び2並びに非特許文献3に示すように、非破壊検査である磁気光学方式において、異方性磁界Hkを検出するいくつかの報告がされている。特に、非特許文献3では、磁気光学方式において、原理上、面直及び面内の磁化特性が混在した状態で測定されている。そして、照明光の入射角度及び照明光の偏光方向といった条件を変えた複数回の測定によって、面直磁化と面内磁化との信号を分離することが報告されている。しかしながら、複数回の測定であることに加えて、異方性磁界Hkを測定するためには、強い面内磁場を印加して試料60の面内磁化を飽和させる必要がある。MRAMに使用される磁性材料の場合には、少なくとも5kOe以上の面内磁場を出力する大型の電磁石を必要とする。
【0077】
さらに、試料60の測定点での面内磁場の方向は、正確に水平(面内)にする必要がある。このような大きな面内磁場及び面内磁場の正確な方向の条件に加え、ウェハの状態で測定可能な電磁石を、前述の片側保持の漏れ磁場で実現するためには、左右のヨーク32間隔を広く取り、ヨーク径を大きくし、コイルの巻数を増やす必要がある。そうすると、電磁石30a及び30bは大型化する。よって、対物レンズ13と、試料60と間のワーキングディスタンスの制限もあるので現実的には装置構成が困難である。
【0078】
非特許文献1及び2に示すように、小さな印加磁場で異方性磁界Hkを測定する手法として、消磁法が報告されている。特に、非特許文献1では、対向する電磁石の間に試料を配置し、最初に垂直磁場印可で垂直磁化を飽和させる。その後、試料を90°回転させて小さな面内磁場をゼロから徐々に増加させて、垂直磁化量の低下、すなわち、消磁応答を測定する。そして、消磁応答の外挿によって取得する完全に消磁される面内磁場の強度から異方性磁界Hkを導出している。しかしながら、ウェハの状態で行う半導体製造装置では、対向する電磁石の配置及び試料60であるウェハを回転させるのは現実的ではない。
【0079】
本実施形態の半導体製造装置1は、磁気光学方式を適用することによって、非破壊での異方性磁界Hkの測定を実現する。そして、半導体製造装置1は、対向電磁石ではなく、試料60の表面片側に電磁石30a及び30bを配置する。また、試料60を回転するのではなく、駆動機構のない電気的制御によって、磁場の向きを回転させる。すなわち、半導体製造装置1は、電磁石30a及び30aを試料60の表面側に配置させ、電磁石30a及び30bの電流の向きを制御することによって、ウェハ状態での異方性磁界Hkの測定を実現する。また、半導体製造装置1は、消磁応答の外挿を用いることにより、電磁石30a及び30bを小型化させることができる。このようにして、本実施形態の半導体製造装置1は、非破壊で磁気特性を高精度に測定することができる。
【0080】
(実施形態2)
次に、実施形態2の半導体製造装置を説明する。
図13は、実施形態2に係る半導体製造装置の構成を例示した模式図である。
図13に示すように、本実施形態の半導体製造装置2は、磁場方向測定デバイス70をさらに備えている。磁場方向測定デバイス70は、例えば、磁場センサ71及び磁場コントローラ72を含んでいる。磁場センサ71は、試料60の近傍に配置されている。例えば、磁場センサ71の上面のZ軸方向における位置は、試料60の上面のZ軸方向における位置と一致している。磁場方向測定デバイス70は、面直磁場及び面内磁場の磁場方向を測定する。特に、磁場方向測定デバイス70は、面内磁場における面内方向以外の成分を測定する。なお、半導体製造装置2の
図13に示された構成以外の構成は、
図1と同様でもよい。
【0081】
前述の実施形態1では、測定点における面内磁場の方向と、試料60の上面の法線ベクトルと、が垂直であることが前提である。しかしながら、実際は、その前提を満たすことが困難な場合がある。その理由は、片側保持の漏れ磁場に固有の問題である。つまり、
図13の磁場ベクトルで模式的に示すように、2つのヨーク32a及び32bの端部間の間隔が比較的小さく、ヨーク32a及び32bと試料60との間に所定の間隔がある場合には、試料60上の磁場ベクトルが撓んでいる。厳密には、前述の前提が1点でしか成り立たない場合がある。
【0082】
試料60の上面は、SEMI規格を満たす平面度を満たしており、ステージ50は、精密な水準出しをしているので、前述の前提が1点でしか成り立たない原因は、空間における電磁石30a及び30bの機械的な固定、姿勢誤差、ヨーク32a及び32bから射出される磁場ベクトル自体の非対称誤差、レーザ光等の照明光の磁場空間における設定位置の誤差が挙げられる。このため、本実施形態では、これらの誤差を補正制御する機構を有していることを特徴とする。
【0083】
磁場カメラと呼ばれる磁場センサ71は、3次元の磁場ベクトルを測定、定量化、可視化することができる。磁場カメラとしては、例えば、非特許文献6に開示されたものが挙げられる。非特許文献6に開示の磁場カメラは、アレイ状に形成された微小ホールセンサを有している。当該磁場カメラの測定範囲は、10数mm角であり、XY空間分解能は、0.1mm程度である。当該磁場カメラは、カメラのように、一括で多数点の3次元磁場(磁束密度)を測定することができる。
【0084】
ここで、磁場センサ71は高価な磁場カメラでなくても、非特許文献7にあるようなシングルスポット3軸ガウスメータを試料面と同じ高さでステージ50に搭載して、ステージ50をSTEP移動、測定することで3次元の磁場ベクトルを測定してもよい。
【0085】
図14及び
図15は、実施形態2に係る半導体製造装置2において、磁場方向測定デバイス70により定量化した片持ちの電磁石30a及び30bによる漏れ磁場を例示した図である。
図14は、面内磁場を印可した場合のZ軸方向の磁場(磁束密度)Bz(x、y)を示し、
図15は、面内磁場を印可した場合のX軸方向の磁場Bx(x、y)を示す。ここで、磁場方向測定デバイス70が測定する測定点の中心位置、試料60の上面位置、及び、照明光の照射位置は、ステージ50のXY座標系で管理されているものとする。また、
図14及び
図15のX座標及びY座標は、所定の値で変換されている。
【0086】
図14に示すように、面内磁場を印可した場合のZ軸方向の磁場Bzは、例えば、+X軸方向側で+H(上向き)であり、-X軸方向側で-H(下向き)である。
図15に示すように、面内磁場を印可した場合のX軸方向の磁場Bxは、例えば、中央部分において、+H(上向き)であり、周辺部分で減少する。
【0087】
このような磁場方向測定デバイス70を用いれば、照明光の照射位置及びその近傍のBx、By及びBzを測定することができる。この測定結果に基づいて、本実施形態の前提になるBzがゼロになる磁場方向測定デバイス70上のX座標を内挿フィッティング(Fittingすることにより、漏れ磁場をサブピクセルレベルの空間分解能で測定することができる。
【0088】
一方、磁場方向測定デバイス70上における照明光の照射位置は、観察顕微鏡で確認してもよい。
図16は、実施形態2に係る半導体製造装置において、観察顕微鏡の構成を例示した模式図である。
図16に示すように、半導体製造装置2aは、半導体製造装置2の構成に加えて、さらに、観察顕微鏡80を含んでもよい。観察顕微鏡80は、光源81、偏光子82、検光子83、画像取得部84、画像解析部85、対物レンズ13、及び、ハーフミラーHMを含んでいる。画像取得部84は、試料60の画像を取得する。画像解析部85は、画像における輝度値の変化を解析する。
【0089】
本実施形態では、観察顕微鏡80で取得した照明光の照射方向及び照射位置と、磁場方向測定デバイス70で測定した面内磁場の方向及び位置と、を以下で示す3つの方法のいずれか、または3つのうちの複数の組み合わせで補正するように制御する。
【0090】
第1の制御の方法(Cont.1)は、左右のコイル31a及び31bへの電流を独立に変えることによって、面内磁場における面直方向の磁場Bz=0になる位置をシフトさせる。すなわち、磁場方向測定デバイス70が測定した面内磁場に基づいて、制御部36は、試料測定点に相当するレーザスポット位置における面内磁場の面直方向の成分が最小(例えば、0)になるように、コイル31a及び31b毎に流れる電流を制御する。
【0091】
また、制御部36は、連続的な磁気光学Kerr効果測定中に、所定の間隔、例えば、定期的に、面内磁場の面直方向の成分が最小になるように、コイル31a及び31b毎に流れる電流をフィードバック制御してもよい。これにより、磁気光学Kerr効果の測定を安定化させることができる。
【0092】
第2の制御の方法(Cont.2)は、磁場方向測定デバイス70が測定した面内磁場に基づいて、試料60に印加される面内方向の成分が試料膜面と平行になるように、ステージ50に試料60の傾斜を制御させる。具体的には、磁場方向測定デバイス70によって測定された面内磁場の方向に合わせて、試料60を吸着(Chuck)及び保持しているウェハホルダ(Wafer Holder)を傾斜(Tilt)させるように制御する。
【0093】
ここで、ステージ50は、試料60を吸着及び保持するウェハホルダを含む。また、ステージ50は、X軸Y軸Z軸方向に移動可能であり、X軸Y軸Z軸の少なくともいずれかの周りに回転可能でもよい。この制御の方法は、半導体露光装置等で使用されている水準ステージ(Leveling Stage)等で実現可能である。
【0094】
また、ステージ50は、連続的な磁気光学Kerr効果測定中に、所定の間隔で、定期的に、面内方向の成分が試料面と平行になるように、試料60の傾斜をフィードバック制御してもよい。例えば、照明光で照明される測定位置における面内方向の成分が最大になるように試料60の傾斜をフィードバック制御してもよい。これにより、磁気光学Kerr効果の測定を安定化させることができる。
【0095】
第3の制御の方法(Cont.3)は、磁場方向測定デバイス70が測定した面内磁場に基づいて、面内磁場の面直方向の成分が最小の位置に、照明光の光路を移動させる。具体的には、光学系10は、磁気光学Kerr効果測定に用いる照明光の角度を変化させるビームステアリング15を有している。透過型のビームステアリング15のデバイスは例えばLIDAR等で使われているタイプのものであり、照明光の角度をΔΘ変化させることで試料上のスポット位置をfΔΘシフトすることができる。ここでfは対物レンズの焦点距離である。ビームステアリング15は、面内磁場の面直方向の成分が最小(例えば、0)の位置に、試料上の照明スポット光を移動させる。なお、この制御の方法は、面内磁場の面直方向の成分が最小の位置に、試料上の照明スポット光を移動させることができれば、光学系10の光路にある透過型のビームステアリング15等のようなプリズムペアを相対微小回転制御する方法に限らず、照明系折り曲げミラーMLの角度変調等を用いて、照明光のスポット位置を移動させてもよい。
【0096】
また、ビームステアリング15等の移動手段は、連続的な磁気光学Kerr効果測定中に、所定の間隔で、定期的に、面内磁場の面直方向の成分が最小の位置に、照明光の前記スポット位置を移動させてもよい。これにより、磁気光学Kerr効果の測定を安定化させることができる。
【0097】
図17は、実施形態2に係る半導体製造装置において、磁場方向測定デバイス70で測定されたBx及びBzから磁場方向を定義する前(before)及び定義した後(after)に、Y軸の所定の座標で切断した場合の面内磁場の角度の1次元分布を例示したグラフであり、横軸は、X軸座標を示し、縦軸は、面内磁場の角度を示す。
図17のBeforeに示すように、レーザスポット(照明光の照射位置)がX=5.9mmの位置のとき、磁場方向を定義する前では、5.5mmの位置が理想的な面内磁場になっている。X=5.9mmのレーザスポットの位置、即ち、測定位置では、磁場方位が4°程度もある。これでは、非特許文献1で前提としている面内磁場を満たさない。よって、前述のCont.1で開示したように、電磁石30a及び30bの電流バランスを制御する。これにより、
図17のAfterに示すように、レーザスポットを理想的な面内磁場になるように磁場分布を制御する。
【0098】
図18は、実施形態2に係る半導体製造装置2において、試料60の垂直磁化の信号を例示したグラフであり、横軸は、面内磁場を示し、縦軸は、規格化した垂直磁化の信号の強度を示す。
図18には、異方性磁界Hkが異なる2種類のPMA膜(試料A及び試料B)を測定した結果を示している。測定にあっては、実施形態1の半導体製造装置1の動作と同様に、ブレイクポイント以内の面内磁場を3回掃引させる。
図18に示すように、3回の掃引とも、面内磁場が0の場合に、元の垂直磁化の信号の強度に戻るデータのみを使用している。また、測定点における面内磁場の方向の誤差は、磁場Bzがゼロになる測定位置と、照明光の照射位置と、を実施形態2のCont.1(電磁石の電流制御)で正確に合わせている。
【0099】
非特許文献1では、比較的小さな外部磁場に対して有効なsin
2Θの1次近似での物理モデル近似を適用しているが、本実施形態の検証用に用意したMRAM向けPMA膜でも、この1次近似を適用することができる。実際に、
図18に示すように、sin
2Θの1次近似で十分な精度でフィッティング(Fitting)することができる。外挿により完全に消磁される磁場、すなわち、試料A及び試料Bについて、実効的な異方性磁場Hkとして、それぞれ、4.7kOe及び2.7kOeと導出することができる。
【0100】
図19は、実施形態2に係る異方性磁界Hkの検証を例示したグラフであり、横軸は、VSMにより取得した異方性磁界Hkを示し、縦軸は、本実施形態の手法により取得した異方性磁界Hkを示す。
図19に示すように、上述した試料A及び試料Bを含む異方性磁界Hkが異なる5種の試料におけるVSMでの測定結果と、本実施形態の測定結果とは、良好な相関である。よって、本手法の有効性が検証される。尚、VSM測定は初期的に消磁状態ではなく垂直方向に磁化飽和させておき、その後、面内磁場を0からスタートさせる正負掃引することで物理的な定義を本発明の測定手法と合わせた。
【0101】
(実施形態3)
次に、実施形態3に係る半導体製造装置を説明する。前述の実施形態2における磁場カメラのような高価な磁場方向測定デバイス70を用いて、試料60上の磁場方向を測定する他に、観察顕微鏡を用いてもよい。
図20は、実施形態3に係る半導体製造装置の構成を例示した模式図である。
図20に示すように、本実施形態の半導体製造装置3は、観察顕微鏡80をさらに備えている。前述のとおり、観察顕微鏡80は、光源81、偏光子82、検光子83、画像取得部84、画像解析部85、対物レンズ13、及び、ハーフミラーHMを含んでいる。
【0102】
観察顕微鏡80は、クロスニコルス(Cross Nicols)配置の偏光子82及び検光子83から構成される偏光顕微鏡でもよいし、磁区観察顕微鏡でもよい。観察顕微鏡80は、試料60上の照明光の照射位置を観測するだけでなく、磁場を印加しながら消光比画像を取得してもよい。そして、観察顕微鏡80は、消光比画像の輝度応答からヒステリシスループまたは磁化応答を測定してもよい。
【0103】
例えば、観察顕微鏡80は、視野内の任意の着目領域(Region of Interest、以下、ROIと呼ぶ。)における極Kerr効果のヒステリシスループを取得する。具体定には、画像取得部84は、複数のROIを含む試料60の画像を取得する。画像解析部85は、磁気光学Kerr効果によるROI毎の輝度値の変化を解析する。観察顕微鏡80は、ROI毎に観察顕微鏡80の光学系の偏光誤差を補正してもよい。この方式は、前述の異方性磁界Hkの測定にも適用してもよい。
【0104】
図21は、実施形態3に係る半導体製造装置3において、視野内のROIを例示した図である。
図21に示すように、試料60上の視野のサイズは、一例として、1mm×0.8mm程度である。解析するROIは、視野内において、例えば、#1~#11の11か所であるとする。また、例えば、照明光の照射位置は、#6にあるとする。
図21の枠外には、面内磁場の方向の凡その角度誤差を模式的に示している。試料60に印加する磁場のシーケンスは、前述の実施形態1の
図8及び
図9に示したものと同じでよい。
【0105】
ます、試料60を垂直磁化させることと、垂直磁化のレンジ(Degree of Polar Magnetization、以下、DOPMと呼ぶ。)の取得と、を兼ねて、通常の垂直磁化を測定する際のヒステリシスループを測定する。具体的には、電磁石の制御部36は、+Z軸方向及び-Z軸方向の保磁力Hcよりも大きい面直磁場を印加掃引する。すなわち、制御部36は、画像取得部84がROI毎の輝度値のヒステリシスループを取得するように、試料60に面直磁場を印加する。これにより、画像取得部84は、ROI毎の輝度値のヒステリシスループを取得する。
【0106】
次に、測定したROI毎に画素値を平均化する。
図22は、実施形態3に係る半導体製造装置3において、測定した試料60の平均輝度値を例示したグラフであり、横軸は、印加した面直磁場を示し、縦軸は、平均輝度値を示す。
図22に示すように、測定したROI毎に平均輝度値に関するヒステリシスループを取得する。
【0107】
次に、
図22から各ROIのDOPMを取得する。具体的には、画像解析部85は、輝度値のヒステリシスループからROI毎の輝度値のDOPM(変化幅)を取得する。
【0108】
次に、
図8及び
図9と同様に、面内磁場をかけながら画像取得する。具体的には、制御部36は、面内磁場に切り替え、面内磁場の大きさを0から上げていく。そして、制御部36は、面内磁場の大きさの上げ下げを含む正負掃引を行う。次に、ROI毎に平均輝度値を取得する。
【0109】
図23は、実施形態3に係る半導体製造装置3において、測定した試料60の平均輝度値を例示したグラフであり、横軸は、印加した面内磁場を示し、縦軸は、平均輝度値を示す。例として、視野右端の#11のROIは、ブレイクポイントBP、即ち、磁化反転の出現を示す。また、左右の両端のROIも、ブレイクポイントを示している。ブレイクポイントは、面内磁場の角度誤差に対して対称であると考えられる。よって、この結果から理想的な面内磁場の試料60上の位置として、#7のROIを取得することができる。このように、画像解析部85は、正負掃引において磁化反転が起きた複数のROIの位置から、面内磁場の面直方向の成分が最小のROIを導出する。面内磁場の面直方向の成分が最小のROIを基準ROIと呼ぶ。
【0110】
図24は、実施形態3に係る半導体製造装置3において、試料60の垂直磁化を例示したグラフであり、横軸は、印加した面内磁場を示し、縦軸は、垂直磁化の信号の強度を示す。
図24は、#7のROIにおける面内磁場が0の部分を拡大している。
図22の測定データから#7のDOPMは、190GL(Gray level)である。よって、190GLの半分の95GL変位で消磁する磁場値を外挿することにより、異方性磁界Hkを導出することができる。つまり、画像解析部85は、基準ROIの輝度値を外挿フィッティングし、DOPM(変化幅)の1/2になる面内磁場から異方性磁界Hkを取得する。このようにして導出された異方性磁界Hkは、6.4kOeとなる。この値は、VSMでの異方性磁場Hkの測定値と整合する。このように、観察顕微鏡80を用いた画像ベースによる評価方法でも、異方性磁界Hkを測定及び評価することができる。
【0111】
ところで、本実施形態は、画像ベースの手法により、視野(Field od View、以下、FOVと呼ぶ。)内で理想的な面内磁場の方位になっているX座標を取得することができる。この結果を用いることによって、MOKE装置のアライメントをすることができる。例えば、実施形態2のCont.3では、照明光の照射位置を画像基準で、#6から#7の位置にシフト制御する。具体的には、例えば、ビームステアリング15は、面内磁場の面直方向の成分が最小の位置に、照明光のスポット位置を移動させる。
【0112】
Cont.1及びCont.2では、照明光の照射位置は固定であるので、電磁石30a及び30bの電流値または試料60の上面の傾斜角度を変えることにより、上述の
図20~
図23の手順で、理想的な面内磁場の方向を、照明光の照射位置に一致するように反復(Iteration)すればよい。これらの観察顕微鏡画像を用いた手法により、照明光の位置と面直磁場がゼロになる位置を正確に一致させることができ、レーザ光を用いた消磁応答測定から異方性磁界(Hk)の導出が可能になる。この場合、実施形態2のような磁場方向測定デバイス70を不要とすることができる。
【0113】
(実施形態4)
次に、実施形態4を説明する。異方性磁界Hkを測定する際に、VSMのような破壊測定ではく、本開示のMOKE装置による非破壊測定とすることができれば、試料60におけるPMA膜についての他の特性を測定及び評価することができる。一例として、MRAMにおいて重要指標であるリテンションまたは熱安定指数Δを測定及び評価することができる。
【0114】
本実施形態では、ステージ50は、温度付加機能を含むようにする。例えば、ステージ50におけるウェハチャック(Wafer Chuck)に、市販のヒータ付きのものを適用する。ヒータの設定温度と、試料60の温度との間の検量線は、予め測定しておく。この検量線に基づいて、試料60の温度Tを制御する。
【0115】
非特許文献5には、複数の温度Tにおける飽和磁場Ms及び異方性磁界Hkを測定し、温度Tに関してフィッティングすることによって、MRAMデバイスとしてのリテンションを決定する温度安定性指標Δを導出する方法が開示されている。要約すると、下記の(1)式から、温度依存性パラメータである異方性磁気エネルギーKu(単位は、erg/cm3)の温度依存性を測定することで、温度安定性指標Δを導出することができる。
【0116】
【0117】
ここで、Hk(T)は本手法で外挿Fittingから得られた設定温度TでのHkである。Ms(T)は数2のように定義される。温度T(通常は室温=T0)で計測されたVSM計測による面直方向の飽和磁化量と本手法の準備STEPで得られる室温DOPM(T0)と設定温度DOPM(T)の比から得られる設定温度Tにおける面直方向の飽和磁化量である。数1のVは目MRAMデバイス段階でのMTJ(Magnetic Tonnel Junction)とよばれる単体メモリ素子のフリー層の体積、Nは0~1の値を持つMTJの形状係数であり、この場合VとNは定数と見なしてよい。数2のT0はVSM計測を行ったときの試料温度である。
【0118】
測定フローは、以下のとおりである。(1)温度Tiを設定する。(2)温度Tiにおいて、
図6、
図7と数2の手順で得た面直方向の飽和磁化量Ms(Ti)と消磁応答測定結果と外挿Fittingで得た異方性磁界Hk(Ti)を測定する。数1から温度安定性指標Δを導出する。試料60におけるPMA膜について、異方性磁界Hk以外の他の特性を測定及び評価することができる。
【0119】
本発明は、上記実施形態1~4に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、実施形態1~4の各構成は、相互に組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0120】
1、2、2a、3 半導体製造装置
10 光学系
11 光源
12 偏光子
13 対物レンズ
14 偏光ビームスプリッタ
15 ビームステアリング
20 検出部
21、22 検出器
23 信号解析部
30 磁場生成部
30a、30b 電磁石
31、31a、31b コイル
32、32a、32b ヨーク
33、33a、33b 面直部分
34、34a、34b 傾斜部分
35 接続板
36 制御部
40 導出部
50 ステージ
60 試料
70 磁場方向測定デバイス
71 磁場センサ
72 磁場コントローラ
80 観察顕微鏡
81 光源
82 偏光子
83 検光子
84 画像取得部
85 画像解析部
HM ハーフミラー
ML ミラー