(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114053
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】蓄熱蓄冷体及び保温具
(51)【国際特許分類】
A61F 7/00 20060101AFI20240816BHJP
A41D 31/00 20190101ALI20240816BHJP
A41D 31/06 20190101ALI20240816BHJP
A61F 7/10 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
A61F7/00 331Z
A41D31/00 502N
A41D31/06 100
A61F7/10 330S
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023019430
(22)【出願日】2023-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】304006333
【氏名又は名称】丸中株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591032703
【氏名又は名称】群馬県
(72)【発明者】
【氏名】篠田 一
(72)【発明者】
【氏名】久保川 博夫
(72)【発明者】
【氏名】山本 真揮
(72)【発明者】
【氏名】平林 菜穂子
【テーマコード(参考)】
4C099
【Fターム(参考)】
4C099AA02
4C099CA07
4C099EA06
4C099EA11
4C099GA02
4C099HA01
4C099HA02
4C099HA08
4C099JA03
4C099LA01
4C099LA07
4C099LA11
4C099LA14
4C099LA21
4C099NA03
4C099NA05
(57)【要約】
【課題】寸法を保持しやすく凝固時でも変形しやすい蓄熱蓄冷体1、及び蓄熱蓄冷体1を利用した人体や水栓等の保温具2を提供する。
【解決手段】本発明の蓄熱蓄冷体1は、パラフィン11を含浸させた連続気泡構造の軟質フォームプラスチック材12が合成樹脂フィルム13で密封されている。人体表面を快適温度域に保持する保温具2は、前記蓄熱蓄冷体1が人体の一部を覆い包む被覆物に装着されており、パラフィン11が摂氏17度乃至32度で相変化する。未凍結温度域で保持する保温具2は、前記蓄熱蓄冷体1が水栓などを覆い包む被覆物に装着され、外気に接触する側の面には断熱材23が配置されており、パラフィン11が摂氏0度乃至6度で相変化する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラフィンを含浸させた連続気泡構造の軟質フォームプラスチック材が、合成樹脂フィルムで密封されていることを特徴とする蓄熱蓄冷体。
【請求項2】
前記パラフィンが、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカン、ノナデカン及びイコサンから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1に記載の蓄熱蓄冷体。
【請求項3】
前記連続気泡構造の軟質フォームプラスチック材が、90パーセント乃至99パーセントの空隙率を有し、3ミリメートル乃至20ミリメートルの厚さを有する、板状のポリウレタンフォームであることを特徴とする、請求項1に記載の蓄熱蓄冷体。
【請求項4】
前記合成樹脂フィルムが、最内層にポリエチレンフィルムを配置し、最内層よりも外側の少なくとも1層にはポリアミド系樹脂フィルム若しくはポリエステル系樹脂フィルムを積層させた多層フィルムであることを特徴とする、請求項1に記載の蓄熱蓄冷体。
【請求項5】
請求項1~4の何れか1項に記載の前記蓄熱蓄冷体が、人体の一部を覆い包む被覆物に装着されており、前記蓄熱蓄冷体に含まれる前記パラフィンが摂氏17度乃至32度で相変化することを特徴とする保温具。
【請求項6】
前記被覆物の人体側の面に吸水速乾性布帛が配置され、反対面には断熱材が配置されている特徴とする、請求項5に記載の保温具。
【請求項7】
前記被覆物が、三次元立体編物を用いて構成されており、前記三次元立体編物の一部を切除した箇所に、前記蓄熱蓄冷体がはめ込まれていることを特徴とする、請求項5に記載の保温具。
【請求項8】
請求項1~4の何れか1項に記載の前記蓄熱蓄冷体が、水栓若しくは水道管を覆い包む被覆物に装着され、外気に接触する側の前記被覆物の面には断熱材が配置されており、前記蓄熱蓄冷体に含まれる前記パラフィンが摂氏0度乃至6度で相変化することを特徴とする保温具。
【請求項9】
前記被覆物が、三次元立体編物を用いて構成されており、前記三次元立体編物の一部を切除した箇所に、前記蓄熱蓄冷体がはめ込まれていることを特徴とする、請求項8に記載の保温具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚さ等の寸法を保持しやすく凝固時でも外力によって変形しやすい蓄熱蓄冷体、及び前記蓄熱蓄冷体を利用した人体や水栓等の保温具に関する。
【背景技術】
【0002】
潜熱蓄熱材は液体から固体に相変化する際に、硬い固体となって変形しにくくなる場合が多い。このような凝固時の変形しにくい性質は、柔軟な風合いが要求される用途では好ましくない。そのため、凝固時でも変形性を維持するための創意工夫が行われてきた。
【0003】
特許文献1には、パラフィン類に熱可塑性エラストマーを配合した蓄熱材が開示されている。パラフィン類100重量部に対し熱可塑性エラストマー5重量部乃至30重量部を配合し、前記熱可塑性エラストマーが前記パラフィン類の融点以下でもゴム弾性を示すことにより、シート状若しくは板状への成形が容易となる。また、フィルム、布、繊維等の上に付着、塗布あるいは含浸させることにより、シート状若しくは板状とすることもできる。このようにして得られるシート状若しくは板状の蓄熱材は、深夜電力を利用した蓄熱式床暖房の用途に好適である。
【0004】
特許文献2には、パラフィン系潜熱蓄熱材を粉粒体状に調整し、袋状容器に封入した温熱器具が開示されている。この温熱器具は、身体に接触させることにより、患部表面に熱を与えて血流量を増加させ、痛みを和らげる目的で使用される。潜熱蓄熱材を粉粒体状とすることにより、流動性が維持されて身体の患部への優れたフィット性が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許2528714号公報
【特許文献2】特許4621264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のパラフィン類に熱可塑性エラストマーを配合した蓄熱材は、シート状に成形しても割れない程度の柔軟性となるが、保温具として身体の動きに合わせて変形できるほどの柔軟性はなかった。粉粒体状に調整して袋状容器に封入した特許文献2のパラフィン系潜熱蓄熱材は、流動性が維持されることで身体の患部局所へのフィット性は良好となる。しかし、衣服のような保温具では、身体の間に空気層を設けて快適な温度空間を作ることを目的とする。このため、支持がない状態でも厚さ等の寸法を保持することができ、長時間の着用でもストレスを感じない軽量性が必要となる。特許文献2のパラフィン系潜熱蓄熱材では、流動性があって寸法が一定とならず、蓄熱材を多孔質酸化ケイ素等に含浸させて粉粒体状にするため重量が大きくなるという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の蓄熱蓄冷体は、パラフィンを含浸させた連続気泡構造の軟質フォームプラスチック材が、合成樹脂フィルムで密封されている。
【0008】
本発明の蓄熱蓄冷体は、前記パラフィンがトリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカン、ノナデカン及びイコサンから選ばれる少なくとも1種である。
【0009】
本発明の蓄熱蓄冷体は、前記連続気泡構造の軟質フォームプラスチック材が90パーセント乃至99パーセントの空隙率を有し、3ミリメートル乃至20ミリメートルの厚さを有する、板状のポリウレタンフォームである。
【0010】
本発明の蓄熱蓄冷体は、前記合成樹脂フィルムが、最内層にポリエチレンフィルムを配置し、最内層よりも外側の少なくとも1層にはポリアミド系樹脂フィルム若しくはポリエステル系樹脂フィルムを積層させた多層フィルムである。
【0011】
本発明の保温具は、前記蓄熱蓄冷体が人体の一部を覆い包む被覆物に装着されており、前記蓄熱蓄冷体に含まれる前記パラフィンが摂氏17度乃至32度で相変化する。
【0012】
本発明の保温具は、前記被覆物の人体側の面に吸水速乾性布帛が配置され、反対面には断熱材が配置されている。
【0013】
本発明の保温具は、前記蓄熱蓄冷体が水栓若しくは水道管を覆い包む被覆物に装着され、外気に接触する側の前記被覆物の面には断熱材が配置されており、前記蓄熱蓄冷体に含まれる前記パラフィンが摂氏0度乃至6度で相変化する。
【0014】
本発明の保温具は、前記被覆物が三次元立体編物を用いて構成されており、前記三次元立体編物の一部を切除した箇所に、前記蓄熱蓄冷体がはめ込まれている。
【発明の効果】
【0015】
本発明の蓄熱蓄冷体は、パラフィンを含浸させた連続気泡構造の軟質フォームプラスチック材が合成樹脂フィルムで密封されていることにより、厚さ等の寸法を保持しやすいとともに軽量となる。摂氏17度乃至32度で相変化するパラフィンを利用した前記蓄熱蓄冷体は、人体の一部を覆い包む被覆物に固定することにより、人体表面を快適温度域に保持する保温具として利用できる。摂氏0度乃至6度で相変化するパラフィンを利用した前記蓄熱蓄冷体は、水栓若しくは水道管を覆い包む被覆物に固定することにより、水栓若しくは水道管を未凍結温度域に保持する保温具として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】請求項1の蓄熱蓄冷体に関する一実施形態の断面模式図である。
【
図2】実施例2の蓄熱蓄冷体をはめ込んだ構造部材の平面図である。
【
図3】実施例2の保温具の一部分の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の蓄熱蓄冷体1及び保温具2に関する実施の形態を説明する。
【0018】
本発明の蓄熱蓄冷体1は、パラフィン11を含浸させた連続気泡構造の軟質フォームプラスチック材12が、合成樹脂フィルム13で密封されている。蓄熱蓄冷体1の大きさは、使用目的に応じて特に制限なく設計することができる。
【0019】
パラフィン11は、炭素数が13乃至20の飽和炭化水素であるトリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカン、ノナデカン及びイコサンから選んで利用することができる。前記飽和炭化水素のうちの単一の飽和炭化水素を利用してもよく、2種類以上の飽和炭化水素を混合して利用することもできる。人体表面を快適温度域に保持する保温具2では、パラフィン11は摂氏17度乃至32度で相変化して蓄熱蓄冷することが望ましく、ヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカン及びノナデカンから選ばれる1種を単独で利用するか、若しくは前記の1種を主成分としてペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカン、ノナデカン及びイコサンから選ばれる他の飽和炭化水素を混合して利用することが好ましい。水栓若しくは水道管を未凍結温度域に保持する保温具2では、パラフィン11は水の凝固温度より高い摂氏0度乃至6度で相変化する飽和炭化水素であることが望ましく、テトラデカンを単独で利用するか、若しくはテトラデカンにトリデカンを混合して利用することが好ましい。
【0020】
連続気泡構造の軟質フォームプラスチック材12としては、気泡がつながっていて液体や空気が通り抜けることができる構造であって、液体のパラフィン11を内部に吸収できる軟質フォームプラスチックが好ましく利用できる。軟質フォームプラスチック材12の材質としては、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、ゴムなどが挙げられるが、パラフィン11によって溶解等の変質を受けることがなく、外力による変形性と外力が除去された際の回復性を保持できる材質であれば、前記材質に限定されることなく利用できる。
【0021】
軟質フォームプラスチック材12としては、板状のポリウレタンフォームが安価に入手できるため、特に好ましく利用できる。板状のポリウレタンフォームは、保温具2としての利用で凝固時の変形性を保持するためには、1枚の厚さを3ミリメートル乃至20ミリメートルとすることが好ましい。ポリウレタンフォームの空隙率は、高いほど単位体積当たりで軽量となり多量のパラフィン11を吸収できるが、高すぎると耐久性が低下する。このため空隙率は、90パーセント乃至99パーセントで実施できるが、93.4パーセント乃至98.3パーセントであることがより好ましい。
【0022】
合成樹脂フィルム13としては、最内層にポリエチレンフィルムを配置し、最内層よりも外側の少なくとも1層にはポリアミド系樹脂フィルム若しくはポリエステル系樹脂フィルムを積層させた可撓性の多層フィルムが好ましく利用できる。ポリエチレンフィルムが最内層に配置されることにより、摂氏150乃至170度程度の熱によるヒートシールで、接着剤を使うことなく合成樹脂フィルム13同士を接着させることができる。これにより、パラフィン11を含浸させた軟質フォームプラスチック材12を容易に密封できる。また、外側の少なくとも1層にポリアミド系樹脂フィルム若しくはポリエステル系樹脂フィルムを積層させることにより、パラフィン11に対する合成樹脂フィルム13のバリアー性が高められ、パラフィン11がバリアー性の低いポリエチレンフィルム層を通過して外に染み出るのを防ぐことができる。合成樹脂フィルム13は、厚さが50ミクロン乃至200ミクロンであれば利用可能であり、75ミクロン乃至125ミクロンであればより好ましく利用できる。
【0023】
人体表面を快適温度域に保持することを目的とする本発明の保温具2は、蓄熱蓄冷体1が人体の一部を覆い包む被覆物に装着されている。保温具2に利用する蓄熱蓄冷体1には、ヒトが快適と感じる温度域で相変化するパラフィン11を密封することにより、寒暖の厳しい環境下でも快適な体感温度を維持できる保温具2となる。そのため、保温具2に利用するパラフィン11には、ヒトが快適性を体感できるように摂氏17度乃至32度で相変化するパラフィン11を利用することが望ましい。
【0024】
前記保温具2に利用する被覆物の形状及び大きさは、対象となる人体の部位に合わせて制限なく設計できる。例えば、首回りを覆い包む被覆物では、首に巻くのに適する細長い形状とすることができ、上半身を覆い包む被覆物ではベストの形状にすることができる。被覆物の素材には特に制限はないが、蓄熱蓄冷体1がはめ込まれる形で装着される構造部材21には蓄熱蓄冷体1を保持できる厚みと形態保持性があって、空隙率が高い軽量な素材が好ましく利用できる。具体的には三次元立体編物が例として挙げられ、柱・筋違構造を編組織に応用した形態保持性と弾力性を合わせ持つ、厚さ5ミリメートル程度の旭化成株式会社製「フュージョン」などが好ましく利用できる。
【0025】
前記保温具2に利用する被覆物の人体側の面には、汗の吸い取りが可能な吸水性と素早く乾く速乾性をあわせ持つ、風合いに優れた吸水速乾性布帛22が配置されていることが望ましい。吸水速乾性布帛22としては、乾きやすいポリエステル等の疎水性合成繊維で構成されており、さらに吸水性を付与するために、繊維断面の異型化、糸の組み合わせの工夫、あるいは生地の表側と裏側を異なる組織構造とするといった方法により、毛細管現象が発現するように設計された吸水速乾素材が挙げられる。毛細管現象を利用した吸水速乾素材としては、東レ株式会社製の「フィールドセンサー」等が例示できるが、吸水性と速乾性をあわせ持つ素材であれば、これらの素材に限定されることなく好ましく利用できる。
【0026】
前記保温具2に利用する被覆物の人体とは反対の面には、蓄熱蓄冷体1の保温効果を長く持続させるために断熱材23が配置されていることが望ましい。断熱材23の材料としては、熱の移動を抑制できる材料であれば特に制限なく利用できる。具体的には、発泡合成ゴムであるポリクロロプレンシートをポリエステルやナイロンの生地で挟んだネオプレーン生地、塩化ビニル等の樹脂コーティングを施した生地、起毛したウールのフランネル生地、中ワタとしてポリエステルワタ等が充填された部材などが挙げられる。
【0027】
未凍結温度域で保持することを目的とする本発明の保温具2は、蓄熱蓄冷体1が水栓若しくは水道管を覆い包む構造の被覆物に装着され、外気に接触する側の前記被覆物の面には断熱材23が配置されていることが望ましい。
【0028】
前記保温具2の形状、厚みおよび大きさは特に限定されるものではなく、凍結を防止する対象物の形状および大きさに合わせて適宜設定することができる。前記被覆物の素材にも特に制限はないが、蓄熱蓄冷体1がはめ込まれる形で装着される構造部材21には蓄熱蓄冷体1を保持できる厚みと形態保持性があって、空隙率が高い軽量な素材が好ましく利用できる。具体的には三次元立体編物が例として挙げられ、柱・筋違構造を編組織に応用した形態保持性と弾力性を合わせ持つ、厚さ5ミリメートル乃至10ミリメートル程度の旭化成株式会社製「フュージョン」等が利用できる。
【0029】
前記保温具2の蓄熱蓄冷体1に含まれるパラフィン11は、水の凝固温度より高い摂氏0度乃至摂氏6度の温度域で相変化するものであれば、特に限定されることなく利用できる。前記パラフィン11は、気温が低下する過程で対象物内部の水が凝固する前に相変化し、放出する潜熱が対象物を加熱することにより対象物内部の水の凝固を防止できる。
【0030】
断熱材23の材料としては、熱の移動を抑制できる材料であれば特に制限なく利用できる。具体的には、発泡合成ゴムであるポリクロロプレンシートをポリエステルやナイロンの生地で挟んだネオプレーン生地、塩化ビニル等の樹脂コーティングを施した生地、起毛したウールのフランネル生地、中ワタとしてポリエステルワタ等を充填して縫製された部材、ポリエチレンフォーム、ポリプロピレンフォーム、ウレタンフォーム、ポリスチレンフォーム、エチレンプロピレンゴムスポンジ等が挙げられる。
【実施例0031】
以下、本発明を実施例及び比較例を挙げて説明するが、本発明はこれら実施例および比較例によって限定されるものではない。
【0032】
(実施例1)
パラフィン11として、n-オクタデカン(三木理研工業株式会社製:リケンサーモPCM-18)を選択し、前記n-オクタデカンを摂氏35度で融解させた。軟質フォームプラスチック材12として、大きさがタテ100ミリメートル、ヨコ70ミリメートル、厚さ5ミリメートルであって、空隙率が97.9パーセントのウレタンスポンジを用意した。合成樹脂フィルム13としては、ポリエチレンフィルムとナイロンフィルムを積層させた厚さ80ミクロンのフィルムを用意した。前記フィルムのポリエチレンフィルムを内側として三辺を加熱溶着し、タテ100ミリメートル、ヨコ100ミリメートルの袋を作製した。前記袋に前記ウレタンスポンジを入れ、融解させたn-オクタデカンをウレタンスポンジに対し200重量パーセント投入し、ウレタンスポンジに含浸させた。この袋の開いている一辺を加熱溶着により密封し、余分なフィルムを切断してタテ100ミリメートル、ヨコ70ミリメートルの蓄熱蓄冷体1を作製した。
【0033】
作製した蓄熱蓄冷体1は、n-オクタデカンが融解した状態であっても、ウレタンスポンジによって厚さ等の寸法と形状が保持されていた。また、n-オクタデカンが凝固した状態でも、ウレタンスポンジによってn-オクタデカンがひとつの塊とならないため、蓄熱蓄冷体1の変形性は保たれていた。
【0034】
(比較例1)
段落[0032]の蓄熱蓄冷体1から、ウレタンスポンジを省いたものを以下の手順で作製した。n-オクタデカン(三木理研工業株式会社製:リケンサーモPCM-18)を摂氏35度で融解させた。ポリエチレンフィルムとナイロンフィルムを積層させた厚さ80ミクロンのフィルムを用意した。前記フィルムのポリエチレンフィルムを内側として三辺を加熱溶着し、タテ100ミリメートル、ヨコ100ミリメートルの袋を作製した。前記袋に、融解させたn-オクタデカンを(0032)と同量投入した。この袋の開いている一辺を加熱溶着により密封し、余分なフィルムを切断してタテ100ミリメートル、ヨコ70ミリメートルとした。
【0035】
作製したn-オクタデカンを密封した袋は、ウレタンスポンジが無いため、n-オクタデカンが融解した状態では厚さ等の寸法と形状が保持されなかった。また、n-オクタデカンが凝固した状態では、n-オクタデカンがひとつの塊となって硬くなり、変形できなかった。
【0036】
(実施例2)
段落[0032]に記載した蓄熱蓄冷体1を利用して作製した、人体表面を快適温度域に保持する保温具2について、以下に記載する。保温具2の被覆物には、構造部材21として厚さ約5ミリメートルの旭化成株式会社製の三次元立体編物「フュージョン」を利用した。
図2のように、背中の型に合わせて構造部材21を裁断し、蓄熱蓄冷体1をはめ込む箇所をタテ100ミリメートル、ヨコ70ミリメートルの長方形で切除し、それらの箇所に5個の蓄熱蓄冷体1を装着した。構造部材21を挟んで被覆物を構成する人体側の吸水速乾性布帛22としては、吸水速乾性のポリエステル生地を利用した。反対面の断熱材23としては、厚さ0.8ミリメートルの塩化ビニルコーティング生地を利用した。
図3のように前記材料を重ね、生地を縁に沿って縫い合わせた後、塩化ビニルコーティング生地に蓄熱蓄冷体1の脱着が可能な切り込みを入れ、背中用の保温具2とした。
【0037】
作製した保温具2の蓄熱蓄冷体1を構造部材21から全て取り出し、冷凍庫に30分入れて内部のn-オクタデカンを凝固させた後、再び構造部材21にはめ込んで装着した。続いて、Tシャツ1枚とワイシャツを着て摂氏23度の室内にいる被験者が、前記保温具2を背中に密着させてヒモで固定し、摂氏35度に保たれた恒温恒湿室に速やかに入室した。その際に、温度測定用の熱電対を被験者の背中と蓄熱蓄冷体1の表面に設置した。被験者の入室後、背中の表面温度は摂氏34度付近でほぼ一定であったのに対し、蓄熱蓄冷体1の表面温度は相変化温度付近まで上昇した後に摂氏29度近辺で推移し、背中表面より約5度低い温度で保持された。冷感は被験者によっても体感され、入室から約2時間半後まで冷たさを実感できて発汗量も少なかった。
【0038】
(比較例2)
Tシャツ1枚とワイシャツを着て摂氏23度の室内にいる被験者が、段落[0036]に記載した保温具2を背中に密着させてヒモで固定し、構造部材21から全ての蓄熱蓄冷体1を取り外した後、摂氏35度に保たれた恒温恒湿室に入室した。その際に、温度測定用の熱電対を被験者の背中に設置した。被験者の背中の表面温度は、入室時の摂氏34度から上昇して20分後には摂氏37度に達し、その後は摂氏37度近辺で推移した。背中の表面温度の上昇に伴って被験者は暑さを体感し、入室から約20分経過した時点では激しい発汗があった。