(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114066
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】エアロゲル
(51)【国際特許分類】
C01B 33/16 20060101AFI20240816BHJP
【FI】
C01B33/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023019451
(22)【出願日】2023-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】517005020
【氏名又は名称】ティエムファクトリ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(72)【発明者】
【氏名】金森 主祥
(72)【発明者】
【氏名】上岡 良太
(72)【発明者】
【氏名】中西 和樹
(72)【発明者】
【氏名】山地 正洋
【テーマコード(参考)】
4G072
【Fターム(参考)】
4G072AA25
4G072AA28
4G072BB04
4G072BB05
4G072CC08
4G072CC13
4G072GG01
4G072HH30
4G072JJ11
4G072JJ13
4G072JJ42
4G072JJ47
4G072KK03
4G072LL11
4G072MM01
4G072PP06
4G072PP15
4G072RR05
4G072RR12
4G072RR19
4G072TT04
4G072TT30
4G072UU30
(57)【要約】
【課題】厚さ寸法にかかわらず、撓みが生じた際の破壊耐性に優れ、かつ高い透光性(特に高い可視光透過性)を有するエアロゲルを提供する。
【解決手段】エアロゲル1は、網目状に連続した繊維状の骨格3と、骨格3によって画定される複数の細孔2とで形成される、Siを含有するものであり、骨格3は、複数の細孔2のそれぞれの輪郭を形成する略多角形状の輪郭部31を有し、輪郭部31は、略多角形状の辺に相当する部分である複数の枝部32と、略多角形状の頂点に相当する部分である複数の節部33を有し、細孔2を構成する節部33のうち、隣接する節部33同士の平均配設ピッチが、節部33に相当する部分に描いた内接円の平均直径R
2に対して1.50倍以上であり、波長が550nmである可視光を照射したときの透過率(τ
550)が、10mm厚換算で60%以上である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
網目状に連続した繊維状の骨格と、前記骨格によって画定される複数の細孔とで形成される、Siを含有するエアロゲルであって、
前記骨格は、前記複数の細孔のそれぞれの輪郭を形成する略多角形状の輪郭部を有し、
前記輪郭部は、前記略多角形状の辺に相当する部分である複数の枝部と、前記略多角形状の頂点に相当する部分である複数の節部を有し、
前記細孔を構成する節部のうち、隣接する節部同士の平均配設ピッチが、前記節部に相当する部分に描いた内接円の平均直径に対して1.50倍以上であり、
波長が550nmである可視光を照射したときの透過率(τ550)が、10mm厚換算で60%以上である、エアロゲル。
【請求項2】
Siを含有し、
波長が550nmである可視光を照射したときの透過率(τ550)が、10mm厚換算で60%以上であり、
平均厚みが5mm以上であり、かつ、
前記平均厚みに対する支点間距離の比を6以上7以下としたときの3点曲げ試験により測定されるたわみ量から算出される最大曲げ歪み(εmax, L)が10%以上である、エアロゲル。
【請求項3】
25℃における熱伝導率が20mW/mK以下である、請求項1または2に記載のエアロゲル。
【請求項4】
前記エアロゲルの嵩密度(ρb)が0.3g/cm3以下である、請求項1または2に記載のエアロゲル。
【請求項5】
請求項1または2に記載のエアロゲルを、粒子状に断片化して形成してなる、エアロゲル粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアロゲルに関し、詳しくは、Si含有のエアロゲルに関する。
【背景技術】
【0002】
エアロゲルは、メソスケールの均一な多孔質構造を有するとともに、高気孔率(典型的には90%以上)で嵩密度が小さく(0.004~0.500g/cm3)、熱伝導率がきわめて低い(20mW/mK以下)性質を有する材料であり、典型的にはゾル-ゲル法によって作製される。その中でも、シリカエアロゲルは、低い熱伝導率によって得られる高断熱性に加えて、高い可視光透過性を兼ね備えており、住宅窓(高断熱の複層窓では、典型的には可視光透過率が60%程度である)やディスプレイなどに適用可能な透明断熱材としての応用が期待されている。
【0003】
他方で、シリカエアロゲルは、その高い気孔率と、ナノメートルオーダーのドメイン(典型的には100nm以下)で構成された微細構造による希薄な構造のために、非常に脆い材料であるため、ある程度大きさ(ボリューム)のある形状(モノリス形状)として用いる場合、撓みが生じた際に破壊しやすく、そのハンドリング性に問題があることが知られていた。さらに、シリカエアロゲルは、撓みが生じた際に破壊しやすいために、曲げ加工を行なうことも非常に困難な材料であり、特に大きいサイズのものでは、自重による撓み変形にも耐えられずに破壊される問題もあった。
【0004】
この問題に対し、例えば非特許文献1には、シリカエアロゲルの骨格表面を有機成分で修飾し補強することで、エアロゲルの曲げ変形性が向上することが報告されている。また、特許文献1および非特許文献2では、ポリシロキサン鎖および有機重合鎖を含む骨格を有する低密度ゲル体は、骨格に有機重合鎖が導入されたことにより、薄型に成形したエアロゲルがよく曲がるようになることが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】N. Leventis, C. S.-Leventis, G. Zhang, A.-M. M. Rawashdeh, Nano Lett. 2002, 2, 957-960.
【非特許文献2】G. Zu, K. Kanamori, T. Shimizu, Y. Zhu, A. Maeno, H. Kaji, K. Nakanishi, J. Shen, Chem. Mater. 2018, 30, 2759-2770.
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、この問題に対する従来のアプローチでは、シリカエアロゲルの曲げ変形性が向上する代わりに、シリカエアロゲルの可視光透過性が大きく損なわれていた。加えて、特許文献1および非特許文献2のアプローチでは、エアロゲルの厚さ寸法を大きくして成形したときに、同様に大きく曲げられるものであるかについて検討されていなかった。そのため、特許文献1および非特許文献2のアプローチによって得られるエアロゲルは、例えば、厚さ寸法を5mm以上と大きくしたときに、曲げ加工によって大きく曲げられるか否かが、特許文献1および非特許文献2の記載からは不明であった。
【0008】
これに関し、本発明者らは、特許文献1および非特許文献2のエアロゲルに基づいて、厚さ寸法を8~10mmにしたエアロゲルを作製したが、得られるエアロゲルは、撓みが生じた際に容易に破壊されるものであり、曲げ変形性を有しないものであった。
【0009】
加えて、この問題に対する従来のアプローチでは、シリカエアロゲルに撓みが生じた際の破壊耐性が高められる代わりに、シリカエアロゲルの骨格の密度が増加し、それにより断熱性が損なわれるものも多かった。
【0010】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、厚さ寸法にかかわらず、撓みが生じた際の破壊耐性に優れ、かつ高い透光性(特に高い可視光透過性)を有するエアロゲルを提供することを目的とする。
【0011】
また、本発明は、他の目的として、撓みが生じた際の破壊耐性が高く、かつ断熱性の高いエアロゲルを提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明の要旨構成は、以下のとおりである。
【0013】
(1)網目状に連続した繊維状の骨格と、前記骨格によって画定される複数の細孔とで形成される、Siを含有するエアロゲルであって、前記骨格は、前記複数の細孔のそれぞれの輪郭を形成する略多角形状の輪郭部を有し、前記輪郭部は、前記略多角形状の辺に相当する部分である複数の枝部と、前記略多角形状の頂点に相当する部分である複数の節部を有し、前記細孔を構成する節部のうち、隣接する節部同士の平均配設ピッチが、前記節部に相当する部分に描いた内接円の平均直径に対して1.50倍以上であり、かつ、波長が550nmである可視光を照射したときの透過率(τ550)が、10mm厚換算で60%以上である、エアロゲル。
【0014】
(2)Siを含有し、波長が550nmである可視光を照射したときの透過率(τ550)が、10mm厚換算で60%以上であり、平均厚みが5mm以上であり、かつ、前記平均厚みに対する支点間距離の比を6以上7以下としたときの3点曲げ試験により測定されるたわみ量から算出される最大曲げ歪み(εmax, L)が10%以上である、エアロゲル。
【0015】
(3)25℃における熱伝導率が20mW/mK以下である、上記(1)または(2)に記載のエアロゲル。
【0016】
(4)前記エアロゲルの嵩密度(ρb)が0.3g/cm3以下である、上記(1)から(3)までのいずれか1項に記載のエアロゲル。
【0017】
(5)上記(1)から(4)までのいずれか1項に記載のエアロゲルを、粒子状に断片化して形成してなる、エアロゲル粒子。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、厚さ寸法にかかわらず、撓みが生じた際の破壊耐性に優れ、かつ高い透光性(特に高い可視光透過性)を有するエアロゲルを提供することができる。
【0019】
また、本発明によれば、撓みが生じた際の破壊耐性が高く、かつ断熱性の高いエアロゲルを提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本発明のエアロゲルの微細構造の一例を示す模式図である。
【
図2】
図2は、塩基触媒として尿素を用いた場合と、塩基触媒として5種類の異なる濃度の水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAOH)を用いた場合のエアロゲルの外観写真であって、
図2(a)は塩基触媒として尿素を用いた場合、
図2(b)はTMAOH濃度が0.010Mの場合、
図2(c)はTMAOH濃度が0.10Mの場合、
図2(d)はTMAOH濃度が0.50Mの場合、
図2(e)はTMAOH濃度が1.0Mの場合、そして、
図2(f)はTMAOH濃度が2.0Mの場合を示す。
【
図3】
図3は、塩基触媒として尿素を用いた場合と、塩基触媒として3種類の異なる濃度の水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAOH)を用いた場合のエアロゲルのFE-SEM画像であって、
図3(a)は塩基触媒として尿素を用いた場合、
図3(b)はTMAOH濃度が0.010Mの場合、
図3(c)はTMAOH濃度が0.50Mの場合、そして、
図3(d)はTMAOH濃度が2.0Mの場合を示す。
【
図4】
図4は、ナイロン糸のような高い柔軟性を示す、紐状のエアロゲルの写真である。
【
図5】
図5は、作製したエアロゲルについて、3点曲げ試験を行っている状態の一例を示す写真である。
【
図6】
図6は、本発明例および比較例のエアロゲルのFE-SEM像であり、
図6(a)は本発明例1のエアロゲルのFE-SEM像であり、
図6(b)は本発明例2のエアロゲルのFE-SEM像であり、
図6(c)は本発明例3のエアロゲルのFE-SEM像であり、
図6(d)は本発明例4のエアロゲルのFE-SEM像であり、
図6(e)は比較例1のエアロゲルのFE-SEM画像である。
【
図7】
図7は、本発明例および比較例のエアロゲルのSTEM像であり、
図7(a)は本発明例1のエアロゲルのSTEM像であり、
図7(b)は本発明例2のエアロゲルのSTEM像であり、
図7(c)は本発明例3のエアロゲルのSTEM像であり、
図7(d)は本発明例4のエアロゲルのSTEM像であり、
図7(e)は比較例1のエアロゲルのSTEM像である。
【
図8】
図8は、本発明例1~4および比較例1のエアロゲルについて、厚さ5.0mmの試料に可視光域の光(波長:380nm~780nm)を照射したときの透過率スペクトルである。
【
図9】
図9は、本発明例1~4および比較例1のエアロゲルの3点曲げ試験によって得られた応力-歪み曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の具体的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。
【0022】
本発明のエアロゲル1は、
図1に示すように、網目状に連続した繊維状の骨格3と、前記骨格によって画定される複数の細孔2とで形成される、Siを含有するエアロゲルであって、骨格3は、複数の細孔2のそれぞれの輪郭を形成する略多角形状の輪郭部31を有し、輪郭部31は、略多角形状の辺に相当する部分である複数の枝部32と、略多角形状の頂点に相当する部分である複数の節部33を有し、細孔2を構成する節部33のうち、隣接する節部33同士の平均配設ピッチが、節部33に相当する部分に描いた内接円R
2の平均直径に対して1.50倍以上であり、かつ、波長が550nmである可視光を照射したときの透過率(τ
550)が、10mm厚換算で60%以上である。
【0023】
また、本発明のエアロゲル1は、Siを含有し、波長が550nmである可視光を照射したときの透過率(τ550)が、10mm厚換算で60%以上であり、平均厚みが5mm以上であり、かつ、平均厚みに対する支点間距離の比を6以上7以下としたときの3点曲げ試験により測定されるたわみ量から算出される最大曲げ歪み(εmax, L)が10%以上である。
【0024】
本発明者らは、Siを含有するエアロゲル1の微細構造10の柔軟性に着目し、エアロゲル1を構成する繊維状の骨格3について、隣接する節部33同士の平均配設ピッチを、節部33の内接円に相対して大きくすることで、枝部32の曲げ変形性が高められることを見出した。より具体的に、隣接する節部33同士の平均配設ピッチを、節部33の内接円に相対して大きくすることにより、骨格3が繊維状に近い微細構造をとることで、外部からの力を受けた際に、骨格3の曲げ変形性がより高まるため、エアロゲル1の最大曲げ歪み(εmax, L)を大きくすることができ、その結果、厚さ寸法にかかわらず、エアロゲル1に撓みが生じても破壊され難くすることができる。さらに、本発明者らは、エアロゲル1において、撓みが生じた際の優れた破壊耐性と、可視光を照射したときの高い透過率(τ550)とを両立できることも見出した。特に、エアロゲル1に可視光を照射したときの透過率(τ550)を高め、それにより微細構造10のドメインサイズ(すなわち、細孔2の孔径R1と枝部32の太さtとの合計(R1+t))を小さくしても、隣接する節部33同士の平均配設ピッチを節部33の内接円に相対して大きくすることで、外部からの力を受けた際の骨格3の曲げ変形性を変わらず高めることができる。そのため、厚さ寸法にかかわらず、すなわち、例えば平均厚みが5mm以上となるような大きい厚さ寸法を有する場合であっても、撓みが生じた際の破壊耐性に優れ、かつ高い透光性(特に高い可視光透過性)を有するエアロゲル1を提供することができる。
【0025】
[エアロゲルの構成について]
図1に示すように、エアロゲル1は、網目状に連続した繊維状の骨格3と、骨格3によって画定される複数の細孔2とで形成される、Si含有の微細構造10を有する。
【0026】
(エアロゲルの微細構造)
エアロゲル1の微細構造10は、ケイ素原子を分子内に含んだ微細構造であり、その一例として、ポリシルセスキオキサン系などの微細構造を挙げることができる。このうち、ポリシルセスキオキサン系の微細構造は、ケイ素アルコキシドの加水分解および重縮合反応によって形成することができる。特に、ポリメチルシルセスキオキサン(PMSQ、MeSiO1.5)エアロゲルは、透明なエアロゲルを形成することが可能であり、メチルトリアルコキシシラン(MeSi(OR)3)の加水分解および重縮合反応と、相分離抑制剤としての界面活性剤の組み合わせによって形成することができる。PMSQエアロゲルを形成する際の加水分解および重縮合反応としては、例えば、以下の式(I)に示される酸触媒による加水分解反応と、式(II)に示される塩基性触媒による重縮合反応を挙げることができる。
MeSi(OR)3+3H2O → MeSi(OH)3+3ROH :式(I)
MeSi(OH)3 → MeSiO1.5+1.5H2O :式(II)
【0027】
(エアロゲルの骨格)
本発明のエアロゲル1は、微細構造10として、網目状に連続した繊維状の骨格3を有する。これにより、エアロゲル1の骨格3が外部からの力を受けた際に変形しやすくなるため、エアロゲルに撓みが生じた際の破壊耐性を高めることができる。
【0028】
ここで、エアロゲル1の骨格3は、複数の細孔2の輪郭のそれぞれの輪郭を形成する略多角形状の輪郭部31を有するとともに、この輪郭部31は、略多角形状の辺に相当する部分である複数の枝部32と、略多角形状の頂点に相当する部分である複数の節部33を有するように構成されることが好ましい。これにより、エアロゲル1は高い断熱性と高い可視光透過性を発現するのに十分な微細構造を有することができ、また、エアロゲル1に撓みが生じたときに、枝部32と節部33を有する骨格3によって、撓みによる力がエアロゲル1のより広い範囲に分散して吸収されるため、エアロゲル1の破壊耐性を高めることができる。
【0029】
特に、エアロゲル1の骨格3は、隣接する節部33同士の配設ピッチPの平均(平均配設ピッチ)が、節部33に相当する部分に描いた内接円(節部33の内接円)の直径R2の平均(平均直径)に対して1.50倍以上であることが好ましい。エアロゲル1の微細構造10は、枝部32が相対的に長くなるとともに、節部33が相対的に小さくなることで、骨格3が繊維状に近い微細構造をとり易くなり、それにより枝部32の曲げ変形性が高められるため、エアロゲル1の柔軟性を高めることができ、その結果、エアロゲル1の撓みが生じた際の破壊耐性をより一層高めることができる。
【0030】
ここで、節部33に相当する部分に描いた内接円の直径R
2は、節部33に相当する部分を中心として、骨格3からはみ出さずに描くことができる内接円の最大の直径である。また、輪郭部31の形状である略多角形状は、
図1に記載されるような略四角形状のものに限定されず、例えば略五角形状や略六角形状のものであってもよい。また、枝部32は、略多角形状の辺に相当するものであるが、直線状のものに限られず、一部または全部が屈曲していてもよい。
【0031】
このようなエアロゲル1の網目状に連続した繊維状の骨格3の柔軟性は、エアロゲル1を作製する際の条件を変えることで調整することができる。その具体例として、ゲル化後にエージングを行ったゲルに対して水熱処理を行なう際の条件を調整することで、隣接する節部33の平均配設ピッチが節部33の内接円の平均直径に相対して長く、かつ網目状に連続した繊維状の骨格3を形成できるため、エアロゲルに撓みが生じた際の破壊耐性を高めることができる。ここで、水熱処理を行なう際の温度は、特に限定されるものではないが、重縮合反応を適度に進行させて、エアロゲルの曲げ変形性をより高める観点では、60℃以上70℃以下の範囲であることが好ましい。
【0032】
このほか、エアロゲル1を作製する際に用いられる界面活性剤の種類や、界面活性剤とケイ素アルコキシドの濃度の比率、もしくは、界面活性剤とケイ素アルコキシドの添加量を変えることでも、エアロゲル1の骨格3を調整しうる。
【0033】
ここで、エアロゲル1を作製する際に用いられる界面活性剤として、分子量が大きいものを用いた場合には、より繊維状に近い骨格3を有する微細構造10を得やすくすることができる。他方で、微細構造10に繊維状の骨格3を持たせる観点では、エアロゲル1を作製する際に、ゾルの組成を水系溶媒が多くなるように調整することも有用である。
【0034】
本発明のエアロゲル1は、厚さ寸法にかかわらず、撓みが生じた際に高い破壊耐性を有する。ここで、エアロゲル1は、平均厚みに対する支点間距離の比を6以上7以下としたときの3点曲げ試験により測定されるたわみ量から算出される最大曲げ歪み(εmax, L)が、10%以上であることが好ましく、15%以上であることがより好ましい。これにより、エアロゲル1に撓みが生じたときに許容される曲げ歪みの量が大きくなるため、エアロゲル1に撓みが生じても破壊され難くすることができる。なお、この3点曲げ試験によって得られる最大曲げ歪み(εmax, L)は、平均厚みに対する支点間距離の比が6以上7以下の範囲にあるときの数値であることが好ましいが、より厳しい条件である、平均厚みに対する支点間距離の比が6であるときの数値であることがより好ましい。平均厚みに対する支点間距離の比が6であるときの、3点曲げ試験によって得られる最大曲げ歪み(εmax, L)を、10%以上または15%以上にすることで、平均厚みに対する支点間距離の比が6以上7以下の範囲にあるときの、3点曲げ試験によって得られる最大曲げ歪み(εmax, L)を、必然的に、それぞれ10%以上または15%以上にすることができる。
【0035】
また、エアロゲル1の厚さは、特に限定されるものではないが、平均厚みが5mm以上であってもよく、特に7mm以上であってもよい。本発明のエアロゲル1は、このように厚さ寸法が大きい場合であっても、撓みが生じたときの破壊耐性を高めることができる。なお、エアロゲル1の平均厚みの上限は、特に限定されるものではないが、例えば100mmであってもよい。
【0036】
(エアロゲルの細孔)
本発明のエアロゲル1は、微細構造10として、骨格3によって画定される複数の微細な細孔2を有する。これにより、エアロゲル1を透過する可視光が散乱され難くなるため、エアロゲルの可視光についての光透過率を高めることができる。
【0037】
エアロゲル1の微細構造10は、エアロゲル1を作製する際の条件を変えることで調整することができる。その具体例として、エアロゲル1を作製する際に、ゾルに塩基触媒を加える際の溶液の温度を、0℃以上10℃以下、好ましくは0℃以上5℃以下の範囲にするとともに、塩基触媒を加えた後のゾルを適切な回転数で1分以上60分以下の範囲の時間にわたって攪拌することで、光の散乱が起こり難いより均一な微細構造10が、広範囲にわたって均一に形成されるため、高い透光性(特に高い可視光透過性)を有するエアロゲル1を形成することができる。
【0038】
このほか、エアロゲル1を作製する際に、ケイ素アルコキシドのゾルをゲル化する際に用いられる、塩基触媒の種類や濃度を変えることでも、より微細な細孔2を形成することができる。
図2は、塩基触媒として尿素を用いてゲル化させたときと、塩基触媒として有機塩基触媒である水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAOH)を用いて、その濃度を変えたときのエアロゲルの外観写真であり、
図2(a)は塩基触媒として尿素を用いた場合、
図2(b)はTMAOH濃度が0.010Mの場合、
図2(c)はTMAOH濃度が0.10Mの場合、
図2(d)はTMAOH濃度が0.50Mの場合、
図2(e)はTMAOH濃度が1.0Mの場合、
図2(f)はTMAOH濃度が2.0Mの場合を示す。ここで、
図2に示されるエアロゲルは、塩基触媒の添加の有無および塩基触媒の添加量を除いては、後述する実施例1と同じ方法で得られたものである。
【0039】
ここで、
図2によれば、塩基触媒として、有機塩基触媒である水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAOH)を用いるとともに、その濃度が0.50M以上である場合に、より微細な細孔2を形成することができ、その結果、波長が550nmである可視光を照射したときの透過率(τ
550、
図2ではT
550と表記)を高めることができる。他方で、塩基触媒として尿素を用いてゲル化させた場合は、波長が550nmである可視光を照射したときの透過率(τ
550)が34%であり、また、TMAOHの濃度が0.010Mと低い場合も、波長が550nmである可視光を照射したときの透過率(τ
550)が低くなる。
【0040】
また、エアロゲル1の細孔2は、エアロゲル1を作製する際に用いられる界面活性剤の分子量を小さくすることでも、より微細にすることができる。このように、細孔2を微細にすることで、可視光を照射したときの透過率がより高いエアロゲルを得ることができる。
【0041】
なお、TMAOHの濃度を変化させた場合であっても、エアロゲル1が繊維状の骨格3を形成すること自体は変わらないと考えられる。
図3は、塩基触媒として尿素を用いてゲル化させたときと、塩基触媒として有機塩基触媒である水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAOH)を用いて、その濃度を変えたときのエアロゲルのFE-SEM画像であり、
図3(a)は塩基触媒として尿素を用いた場合、
図3(b)はTMAOH濃度が0.010Mの場合、
図3(c)はTMAOH濃度が0.50Mの場合、
図3(d)はTMAOH濃度が2.0Mの場合を示す。
図3によれば、塩基触媒として水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAOH)を用いた場合であっても、また、塩基触媒として尿素を用いた場合であっても、得られる微細構造10が繊維状の骨格3を有する点では大差がない。
【0042】
エアロゲル1の微細構造10が有する複数の細孔2の平均孔径は、特に限定されないが、例えば5nm以上100nm以下の範囲にすることができる。ここで、複数の細孔2の平均孔径は、
図1に記載される細孔2の孔径R
1の平均である。また、細孔2の孔径R
1は、細孔2の直径の平均である。例えば
図1のように、仮想円Cの外側にある細孔2の開口部分の面積と、仮想円Cの内側にある細孔2によって開口していない部分の面積が等しくなるような仮想円Cを描いた場合、仮想円Cの直径を細孔2の孔径R
1とすることができる。
【0043】
また、エアロゲル1の微細構造10を構成する枝部32の太さtの平均も、特に限定されないが、例えば1nm以上20nm以下の範囲にすることができる。
【0044】
本発明のエアロゲル1は、高い透光性(特に高い可視光透過性)を有する。ここで、エアロゲル1は、波長が550nmである可視光を照射したときの透過率(τ550)が、10mm厚換算で、60%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。本発明のエアロゲル1では、可視光を照射したときの透過率(τ550)が高いことにより、微細構造10の均一性が高まることで骨格3への局所的な応力の集中を起こり難くすることができ、かつ、エアロゲル1の微細構造10のドメインサイズ(すなわち、細孔2の孔径R1と枝部32の太さtとの合計(R1+t))を小さくすることができる。このとき、上述のように骨格3が繊維状に近い微細構造をとることで、微細構造10のドメインサイズが小さくても、外部からの力を受けた際の骨格3の曲げ変形性が高まるため、エアロゲル1に撓みが生じた際の破壊耐性を高めることができる。
【0045】
(エアロゲルの好ましい特性)
本発明のエアロゲル1は、密度(ρb)が0.3g/cm3以下であることが好ましい。これにより、エアロゲル1の骨格3の密度が小さくなることで、エアロゲル1の中により多くの空隙が形成されるため、エアロゲル1の熱伝導性を小さくして断熱性を高めることができる。ここで、本発明のエアロゲル1は、25℃における熱伝導率は、断熱材料に好適に用いる観点から、20mW/mK以下であることが好ましく、15mW/mK以下であることがより好ましい。本発明のエアロゲル1は、このように密度が小さいことで断熱性が高くても、撓みが生じた際の破壊耐性を高めることができるため、フレキシブルな断熱材料として、窓などに好適に用いることができる。
【0046】
(エアロゲルの形状)
エアロゲル1の全体の形状は、ケイ素アルコキシドを重縮合させてゲル化する際の反応容器の形状に基づいて形成され、板状のほか、
図4に記載されるような紐状など、様々な形状に形成することができる。特に、紐状に形成した場合は、エアロゲル1にナイロン糸のように非常に高い柔軟性を持たせることも可能である。他方で、エアロゲル1は、粒子状に断片化して形成されたエアロゲル粒子の形態であってもよい。
【0047】
[製造方法について]
次に、本発明のエアロゲルの製造方法の一例について説明する。
【0048】
本発明のエアロゲルの製造方法は、特に限定されないが、その一例として、有機ケイ素アルコキシドを加水分解する加水分解工程[工程1]と、得られる加水分解物に界面活性剤と水を加えて均一な溶液を得る溶液調製工程[工程2]と、この溶液に塩基触媒を加えて加水分解物を重合させ、湿潤ゲルを形成するゲル化工程[工程3]と、得られたゲルを洗浄する洗浄工程[工程4]と、洗浄後のゲルを超臨界乾燥させる超臨界乾燥工程[工程5]を有する方法を用いることができる。
【0049】
ここで、加水分解工程[工程1]は、メチルトリメトキシシラン(MTMS)などのケイ素アルコキシドに、酢酸などの酸の水溶液を混合する工程である。これにより、ケイ素アルコキシドが有するアルコキシ基が加水分解されることで、シラノール基を有する加水分解物が生成される。
【0050】
また、溶液調製工程[工程2]は、加水分解工程[工程1]で加水分解物に界面活性剤と水を加えて均一な溶液を得る工程である。
【0051】
なお、加水分解工程[工程1]と溶液調製工程[工程2]は、同時に行なってもよく、例えば、加水分解工程[工程1]において、溶液調製工程[工程2]で添加する界面活性剤を同時に加えてもよい。
【0052】
ゲル化工程[工程3]は、溶液調製工程[工程2]で得られる溶液に塩基触媒を加える工程である。溶液に塩基触媒を加えることで、ケイ素アルコキシドの加水分解物を重合させて、湿潤ゲルを形成することができる。ここで、塩基触媒としては、アンモニウム塩などを好適に用いることができ、例えば水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAOH)などを用いることができる。また、塩基触媒を加えた後のゾルの水素イオン濃度(pH)は、9.0以上14.0以下の範囲が好ましく、12.5以上13.5以下の範囲がより好ましい。このように、ゾルのpHを高めると、不安定なシロキサン結合の分解および再形成(いわゆるオストワルト熟成に近い効果)が起こりやすくなるが、後述するように、塩基触媒を加える際の溶液の温度を低くすることで、得られるゲルの均一性を高めることができる。その結果、エアロゲルの透光性を高めることができる。
【0053】
ここで、得られるゲルの均一性を高めて、エアロゲルの可視光透過性を高める観点では、塩基触媒を加える際の溶液の温度を、0℃以上10℃以下、好ましくは0℃以上5℃以下の範囲にすることが好ましい。このとき、塩基触媒を加える際の溶液の温度を低くするため、溶液を氷浴につけてもよい。この点について、ゾルに塩基触媒を加える際の温度が10℃以上であった場合は、重縮合の進行が必要以上に早くなることで、得られるゲルの均一性が低下するため、見た目にムラが生じ、エアロゲル1の透光性が低下する要因となる。
【0054】
また、エアロゲルの可視光透過性を高める観点では、塩基触媒を加えた後の溶液を、適切な回転数で、1分以上60分以下の範囲の時間にわたって攪拌することが好ましい。このとき、ゾルの粘性は高い状態になるため、可視光透過性の高いエアロゲル1を得るためには、短時間で均一になるようにゾルを攪拌することが好ましい。
【0055】
得られたゲルは、エアロゲルの機械的強度を高める観点では、常温またはそれより高い温度でかつ溶媒の沸点以下の温度で、例えば24時間以上にわたり熟成させることが好ましい。さらに、熟成後のゲルは、水熱処理を行なう際の条件を調整することで、網目状に連続した繊維状の骨格3を形成できるとともに、この骨格3における節部33の内接円の平均直径に対する、隣接する節部33同士の平均配設ピッチの割合が大きくなるため、エアロゲルに撓みが生じた際の破壊耐性を高めることができる。この点について、熟成後のゲルについて行う水熱処理の温度は、特に限定されるものではないが、重縮合反応を適度に進行させて、骨格の曲げ変形性や柔軟性をより高める観点では、60℃以上70℃以下の範囲であることが好ましい。
【0056】
洗浄工程[工程4]は、得られたゲルを洗浄する工程である。ゲルを洗浄する洗浄液としては、水、アルコールまたはそれらの混合物を用いることができる。このうち、アルコールとしては、常温(たとえば20℃)で液体の状態になるものを用いることができ、例えばメタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノールなどを用いることができる。
【0057】
超臨界乾燥工程[工程5]は、洗浄後のゲルを超臨界流体で乾燥させる工程である。超臨界流体は、臨界点よりも高温かつ高圧の流体であり、その一例として、臨界点である31℃の温度および7.4MPaの圧力よりも高温かつ高圧の二酸化炭素を挙げることができる。
【0058】
得られたゲルに対して、洗浄工程[工程4]および超臨界乾燥工程[工程5]を行なうことで、エアロゲル1の不純物になりうる界面活性剤や塩基触媒などの原料やその分解物は、実質的に取り除かれる。このとき、界面活性剤や塩基触媒などの原料やその分解物は、得られるエアロゲル1に不可避成分として混入することがある。
【0059】
なお、エアロゲル1は、均質なものに限られず、複合体(コンポジット)の形態に含まれるものであってもよい。ここで、複合体の一例としては、基材と、基材に積層される補強材とを少なくとも備えるものを挙げることができる。これらの基材および補強材のうち一方または両方を、上述のエアロゲル1によって構成することができる。また、複合体(コンポジット)としては、エアロゲル1に繊維などの他の物質が分散したものも挙げることができる。
【0060】
エアロゲル1を備える複合体(コンポジット)の製造方法としては、ゲル化工程[工程3]を行う前の溶液に繊維状物質を加えて分散または沈殿(もしくは浮上)させた後、塩基触媒を加えて加水分解物を重合させて湿潤ゲルを形成するゲル化工程[工程3]を行う方法を挙げることができる。また、複合体(コンポジット)の他の製造方法としては、繊維状物質を先に成形し、ゲル化工程[工程3]を行う前の溶液を繊維状物質に含浸させた後で、ゲル化工程[工程3]を行う方法も挙げることができる。
【0061】
特に、エアロゲル1を備える複合体(コンポジット)を作製する際、ゲル化工程[工程3]を行う前の溶液と繊維状物質との親和性を高めて、光線透過率の高い複合体を得る観点では、細い繊維状物質を使うことが好ましく、より具体的には、1nm以上の繊維径を有する繊維状物質を使うことが好ましい。また、同様に光線透過率の高い複合体を得る観点から、ゲル化工程[工程3]を行う前の溶液と繊維状物質とが均質に混ざり合った状態で、ゲル化工程[工程3]を行うことが好ましい。
【0062】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の概念および特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【実施例0063】
次に、本発明の効果をさらに明確にするために、本発明例および比較例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0064】
(本発明例1~4)
本発明例1~4の出発組成を、表1に示す。表1に記載される量の、メチルトリメトキシシラン(以下、「MTMS」という場合がある。信越化学工業株式会社製)および酢酸(以下、「HOAc」という場合がある。純度≧99.7%、岸田化学工業株式会社製)の5mM水溶液を反応容器内で混合し、室温で15分間連続的に攪拌することで、MTMSを加水分解させて均一なゾルを得た。その後、得られた均一なゾルに、表1に記載される種類および添加量の界面活性剤と、表1に記載される添加量の蒸留水(以下、単に「H2O」という場合がある。)を加え、約1時間にわたり攪拌を続け、室温でゾルが均一になるようにした。
【0065】
ここで、表1に記載される界面活性剤のうち、「F127」は、非イオン性界面活性剤のPluronic F127(EO106PO70EO106、最大分子量Mw:12,600、HLB値18~23、Sigma-Aldrich社製)である。また、「F68」は、非イオン性界面活性剤のPluronic F68(EO76PO29EO76、最大分子量Mw:8,400、HLB値>24、Sigma-Aldrich社製)である。また、「P105」は、非イオン性界面活性剤のSynperonic P105(EO37PO56EO37、最大分子量Mw:6,500、HLB値12~18、クロダジャパン株式会社製)である。また、「P94」は、非イオン性界面活性剤のPluronic P94(EO26PO48EO26、最大分子量Mw:5,000、HLB値:13.5、BASF社製)である。
【0066】
次いで、得られたゾルを、反応容器ごと氷浴につけて、30分間にわたり4℃に冷却させた。氷浴中で気泡が発生しない程度に撹拌しながら、表1に記載される添加量の、塩基触媒である水酸化テトラメチルアンモニウム(以下、「TMAOH」という場合がある。25%水溶液、東京化成工業株式会社製)の0.50M水溶液を慎重に添加し、3分間撹拌した。ここで、ゾルのpH(水素イオン濃度)を測定したところ、表1に記載される数値になった。その後、ゾルを密閉容器に移し、室温で1時間にわたり静置してゲル化させた。このとき、ゾルのゲル化は15分以内で起こった。さらに、得られたゲルを、60℃で3日間にわたり静置することで熟成させた後、60℃で24時間にわたり水熱処理を行った。
【0067】
水熱処理後のゲルの洗浄は、浸透圧によるゲルの割れを防ぐため、1回目から5回目の洗浄はH2Oとメタノール(以下、「MeOH」という場合がある。純度≧99.5%、岸田化学工業株式会社製)の混合溶媒(H2O:MeOH=100:0、90:10、70:30、50:50、30:70、10:90、0:100(vol%比)のいずれか)で行ない、6回目から8回目の洗浄は2-プロパノール(以下、「IPA」という場合がある。純度≧99.0%、岸田化学工業株式会社製)で行ない、それぞれ60℃で8時間以上浸漬させた。得られたアルコゲルを、超臨界流体である14MPaの圧力および80℃の温度の二酸化炭素で、10時間にわたり超臨界乾燥させて、エアロゲル(PMSQエアロゲル)を得た。
【0068】
(比較例1)
比較例1の出発組成を、表1に示す。反応容器に、12.0mLの酢酸の5mM水溶液と、3.0gの尿素と、0.40gの界面活性剤を反応容器内で混合し、室温で30分間連続的に攪拌することで、均質な混合物を得た。ここで、界面活性剤としては、カチオン性界面活性剤のn-ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド(CTAC、最大分子量Mw:320、HLB値:15.8、東京化成工業株式会社製)を用いた。
【0069】
次いで、5.0mLのMTMSを反応容器に加え、混合物を室温で30分間攪拌し続けることで、MTMSを加水分解させて均一なゾルを得た。
【0070】
得られたゾルを密閉容器に移し、60℃で4日間にわたり静置することで、ゾルのゲル化および熟成を行なった。熟成後のゲルに含まれる溶液のpHを測定したところ、表1に記載される数値となった。また、熟成後のゲルについて、60℃で24時間にわたり水熱処理を行った。
【0071】
水熱処理後のゲルの洗浄は、浸透圧によるゲルの割れを防ぐため、1回目から3回目の洗浄はMeOHで行ない、4回目から6回目の洗浄は2-プロパノールで行ない、それぞれ60℃で8時間以上浸漬させた。得られたアルコゲルを、超臨界流体である14MPaの圧力および80℃の温度の二酸化炭素で、10時間にわたり超臨界乾燥させて、エアロゲル(PMSQエアロゲル)を得た。
【0072】
[各種測定および評価方法]
上記本発明例および比較例に係るエアロゲルについて、下記に示す特性評価を行なった。各特性の評価条件は下記のとおりである。
【0073】
[1]エアロゲルの嵩密度の算出
得られたエアロゲルの嵩密度(ρb)は、円柱状に形成したエアロゲルの直径、高さおよび重量を測定し、それらの測定値から算出した。結果を表2に示す。
【0074】
[2]エアロゲルの透過率の測定
得られたエアロゲルの透過率は、積分球を備えたV-670紫外可視近赤外分光光度計(日本ジャスコ株式会社製)を用いて得られるスペクトルデータから求めた。ここで、波長550nmである可視光を、厚さ5.0mmの試料に照射したときの全透過率の値を、Lambert-Beerの式を用いて、10mm厚の試料における全透過率(T550)に換算した。結果を表2に示す。
【0075】
[3]エアロゲルの曲げ特性の評価
得られたエアロゲルの曲げ特性は、材料試験機(AUTOGRAPH AG-X plus、株式会社島津製作所製)を用いて、3点曲げ試験により測定した。ここで、3点曲げ試験には、長手方向(円柱の高さ方向)の長さが80mmである円柱状の試料を用い、円柱の底面の径方向が、試料の厚み方向となるように配置した。このとき、試料の平均厚みは、表2に記載されるとおりであった。また、
図5に示すように試料の下に2個の支点を設け、試料の長手方向に沿った支点間距離(スパン長)を、表2に記載される値に設定した。そのため、エアロゲルの平均厚みに対する支点間距離の比は、表2に記載されるとおりであった。試験機のヘッドを、試料の下に設けた2個の支点の間で、それぞれ試料の長さ方向に沿って等間隔になる位置に設け、上側から引張試験機のヘッドで試料に荷重を掛けて試料を変形させ、試料が破断した際の、荷重を掛けた箇所の下方向へのたわみ量の大きさを測定した。引張試験機のヘッドで試料にかける荷重は、クロスヘッド速度が0.5mm/minになるように設定した。
【0076】
ここで測定される、試料が破断した際の、試料に掛かっていた荷重F[N]と、荷重を掛けた箇所の下方向へのたわみ量の大きさΔl[mm]から、以下の式(a)および式(b)を用いて、支点間距離がL[mm]のときの、試料の最大曲げ応力(σmax, L)と最大曲げ歪み(εmax, L)を算出した。なお、以下の式において、Dは円柱状サンプルの直径である。結果を表2に示す。
σmax, L=8L・F/πD3 :式(a)
εmax, L=6D・Δl/L2 :式(b)
【0077】
また、得られたエアロゲルの曲げ加工可能な最小菅径Rは、以下の式(c)を用いて算出した。ここで、得られたエアロゲルの曲げ加工可能な最小菅径Rは、試料が破断する直前の試料のうち、2個の支点間における内郭形状を円弧に近似したときの、円弧の曲率から求められる。結果を表2に示す。
R=a/6×L×εmax, L+(3/a)2×1/εmax, L-2D :式(c)
a=L/D :式(d)
【0078】
[4]エアロゲルの細孔および骨格の構造の観察
得られたエアロゲルの細孔および骨格の構造は、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM:Regulus 8220、日立ハイテック株式会社製)および走査型透過電子顕微鏡(STEM:JEM-1400Plus、日本電子株式会社製)を用いて観察した。このとき、観察前にエアロゲルを#2000以上の微細なサンドペーパーで破砕し、サンドペーパー上に付着した目視で確認できるサイズのエアロゲル破片を、ブロアーで吹き飛ばすことで取り除いた後、ブロアーで吹き飛ばすことが困難な、サンドペーパー上に残った目視で確認できない微小サイズのエアロゲルを、これらのエアロゲルが付着しているサンドペーパー上の箇所をカーボンテープに貼り付けることでカーボンテープ上に移し、そのサンドペーパーを試料台に取り付けて、それぞれの観察を行なった。このうち、FE-SEMによる観察は、20万倍の倍率で、640nm×500nm四方を一視野として観察することで行なった。また、STEMによる観察は、10万倍の倍率で、560nm×480nm四方を一視野として観察することで行なった。なお、これらの構造の観察は、スパッタリングした金属の堆積によって構造が変わるのを防ぐため、エアロゲルへの金属のスパッタリングをせずに行なった。
【0079】
図6(a)~(g)に、本発明例および比較例のエアロゲルのFE-SEM像を示す。得られたFE-SEM像から、繊維状の骨格のうち、細孔の略多角形状の輪郭部が明確に表れており、かつ、略多角形状の辺に相当する枝部と、略多角形状の頂点に相当する節部が明確に表れている箇所を、なるべく偏りのないようにランダムに50箇所抽出し、ある節部の中心から隣接する節部の中心までの距離をそれぞれ測定し、得られた測定値の平均を算出することで、隣接する節部同士の平均配設ピッチを算出した。
【0080】
また、得られたFE-SEM像から、細孔の略多角形状の輪郭部が明確に表れており、かつ、略多角形状の頂点に相当する節部が明確に表れている箇所を、なるべく偏りのないように、ランダムに50箇所抽出し、節部のそれぞれについて、節部に相当する部分に描いた内接円の直径を測定し、得られた測定値の平均を算出することで、節部に相当する部分に描いた内接円の平均直径を算出した。
【0081】
そして、これらの算出値を用いて、節部に相当する部分に描いた内接円の平均直径に対する、隣接する節部同士の平均配設ピッチの倍率を求めた。結果を表2に示す。
【0082】
さらに、得られたFE-SEM像から、細孔を、なるべく偏りのないように、ランダムに50箇所抽出し、細孔のそれぞれについて孔径を測定し、得られた測定値の平均を算出することで、細孔の平均孔径を算出した。結果を表2に示す。
【0083】
また、
図7(a)~(g)に、本発明例および比較例のエアロゲルのSTEM像を示す。得られたエアロゲルのSTEM像から、枝部が明確に表れている箇所を、なるべく偏りのないように、ランダムに30箇所抽出し、抽出した枝部のそれぞれについて幅を測定し、得られた測定値の平均を算出することで、エアロゲルの骨格を構成する枝部の太さの平均を求めた。結果を表2に示す。
【0084】
[5]エアロゲルの熱伝導率の評価
得られたエアロゲルの熱伝導率は、熱流量計(HFM 436Lambda、ネッチ社製)を用い、気温25℃の常圧環境下で測定した。結果を表2に示す。
【0085】
【0086】
【0087】
表1および表2の結果から、本発明例1~4のエアロゲルは、いずれも、網目状に連続した繊維状の骨格と、これらの骨格によって画定される複数の細孔とで形成されるものであった。
【0088】
また、表1および表2の結果から、本発明例1~4のエアロゲルは、波長が550nmである可視光を照射したときの透過率(τ
550)は、10mm厚換算で60%以上であった。特に、厚さ5.0mmの試料に波長が550nmである可視光を照射したときの透過率(τ
550)は、
図8に示すとおりであった。
【0089】
また、表1および表2の結果から、本発明例1~4のエアロゲルは、支点間距離を60mmとする3点曲げ試験により測定されるたわみ量から算出される最大曲げ歪み(ε
max, L)が10%以上であった。特に、支点間距離を60mmとする3点曲げ試験により得られた応力-歪み曲線は、
図9に示すとおりであった。
【0090】
他方で、比較例1のエアロゲルは、粒子凝集体のような球状の骨格を有しており、網目状に連続した繊維状の骨格を有するものではなかった。また、比較例1のエアロゲルは、支点間距離を60mmとする3点曲げ試験により測定されるたわみ量から算出される最大曲げ歪み(εmax, 60)が10%未満であった。
【0091】
この結果から、本発明例のエアロゲルは、網目状に連続した繊維状の骨格と、これらの骨格によって画定される複数の細孔とで形成される、Si含有の微細構造を有しており、撓みが生じた際の破壊耐性に優れ、かつ高い透光性(特に高い可視光透過性)を有するエアロゲルであることが確認された。
【0092】
加えて、本発明例のエアロゲルは、きわめて低い熱伝導率を有しており、例えば本発明例4のエアロゲルは、25℃における熱伝導率が14.5mW/mKであった。
【0093】
加えて、本発明例のエアロゲルは、高い曲げ加工性を有しており、本発明例1~4のエアロゲルは、曲げ加工可能な最小菅径Rが132.16mm以下であるため、A呼称125Aにあたる菅(外径:139.8mm)、またはそれ以上の菅径を有する菅であれば、破断することなく曲げ加工によって表面に取り付けることが可能であることがわかった。本発明のエアロゲルを用いることにより、配管を通る水や蒸気の保温または保冷をする際、従来よりも断熱材料の厚みをより薄くすることが可能になる。また、従来よりも断熱材料の透光性が高められることで、断熱材料を取り外さなくても配管を直接観察できるようになるため、配管に劣化などの異常が起きた際に、すぐに配管を確認することもできる。