(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114070
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】電池システム、二次電池、及び電動飛行体
(51)【国際特許分類】
H01M 10/44 20060101AFI20240816BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20240816BHJP
B64D 27/24 20240101ALI20240816BHJP
【FI】
H01M10/44 P
H02J7/00 302A
B64D27/24
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023019462
(22)【出願日】2023-02-10
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-02-21
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下西 裕太
(72)【発明者】
【氏名】吉田 周平
【テーマコード(参考)】
5G503
5H030
【Fターム(参考)】
5G503BA01
5G503BB02
5G503CA08
5G503CA11
5G503DA07
5G503FA06
5G503GD06
5H030AA01
5H030AS08
5H030BB21
(57)【要約】
【課題】電動移動体の始動時における出力を向上させることができる電池システム、二次電池、及び電動飛行体を提供すること。
【解決手段】電池システムは、電動移動体に搭載される。電池システムは、二次電池2と電池制御部とを有する。電池制御部は、電動移動体の始動時において、高レート放電を行うよう、二次電池2を制御する。二次電池2の正極4は、第一活物質41と、第二活物質42と、を有する。第二活物質42は、始動時において高レート放電を行う二次電池2のSOC領域である高レート放電領域において、第一活物質41よりも抵抗が高くなる高抵抗領域を有する。二次電池2は、始動時に、高レート放電を行う際、第一活物質41の利用率よりも第二活物質42の利用率の方が高い状態になった後、第二活物質42の利用率よりも第一活物質41の利用率の方が高くなるよう構成されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動移動体(10)に搭載される電池システム(1)であって、
二次電池(2)と、
該二次電池の放電を制御する電池制御部(3)と、を有し、
上記電池制御部は、上記電動移動体の始動時において、上記電動移動体の通常運転時の上記二次電池における放電レートよりも高い放電レートの放電である高レート放電を行うよう、上記二次電池を制御し、
上記二次電池の正極(4)は、第一活物質(41)と、上記始動時において上記高レート放電を行う上記二次電池のSOC領域である高レート放電領域において、上記第一活物質よりも抵抗が高くなる高抵抗領域を有する第二活物質(42)と、を有し、
上記二次電池は、上記始動時に、上記高レート放電を行う際、上記第一活物質の利用率よりも上記第二活物質の利用率の方が高い状態になった後、上記第二活物質の利用率よりも上記第一活物質の利用率の方が高くなるよう構成されている、電池システム。
【請求項2】
上記第一活物質は、上記二次電池のSOCが高くなるほど抵抗が小さくなる、請求項1に記載の電池システム。
【請求項3】
上記正極の活物質全体に対する上記第一活物質の割合は50~95重量%であり、上記正極の活物質全体に対する上記第二活物質の割合は5~50重量%である、請求項1又は2に記載の電池システム。
【請求項4】
上記第一活物質は、層状岩塩型構造を有するリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物であり、上記第二活物質は、オリビン型構造を有するリン酸マンガン鉄リチウムである、請求項1又は2に記載の電池システム。
【請求項5】
電動飛行体(100)に搭載されると共に、正極(4)及び負極(5)を有する二次電池(2)であって、
上記正極は、第一活物質(41)と、上記二次電池のSOCの値が所定の値のとき、上記第一活物質よりも抵抗が高くなる第二活物質(42)と、を有し、
上記第一活物質は、層状岩塩型構造を有するリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物であり、上記第二活物質は、オリビン型構造を有するリン酸マンガン鉄リチウムである、二次電池。
【請求項6】
上記二次電池のSOCの値が所定の値よりも低い低SOC領域において、上記第二活物質は、上記第一活物質よりも抵抗が小さく、上記二次電池は、上記低SOC領域において、上記第一活物質の利用率よりも上記第二活物質の利用率の方が高い領域である第二高利用領域を有するよう構成されている、請求項5に記載の二次電池。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の電池システムを備える、電動飛行体(100)。
【請求項8】
請求項5又は6に記載の二次電池を備える、電動飛行体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池システム、二次電池、及び電動飛行体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、複数の二次電池を備えた電動飛行体が開示されている。この電動飛行体は、二次電池に異常が生じると、緊急退避動作を行うよう構成されている。また、この電動飛行体は、一つの二次電池に異常が生じた際、他の二次電池に補完させることにより、飛行に必要な出力を確保し、安全性が損なわれるようなトラブルに発展することを防止しようとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、一般に、電動飛行体は、始動時に離陸する際、比較的高い出力が必要となる。そのため、電動飛行体が離陸する際に、二次電池の放電レートが高くなることにより、二次電池においてイオンの濃度分布の偏りが生じやすい。それゆえ、このイオンの濃度分布の偏りを起因とする二次電池の内部抵抗の一時的な上昇である一時劣化を引き起こすおそれがある。そのため、特許文献1に記載の電動飛行体は、複数の二次電池を備えていたとしても、複数の二次電池すべてにおいて、一時劣化を引き起こすおそれがあり、電動飛行体における始動時の出力確保の観点から、さらなる改善の余地があるといえる。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、電動移動体の始動時における出力を向上させることができる電池システム、二次電池、及び電動飛行体を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第一の態様は、電動移動体(10)に搭載される電池システム(1)であって、
二次電池(2)と、
該二次電池の放電を制御する電池制御部(3)と、を有し、
上記電池制御部は、上記電動移動体の始動時において、上記電動移動体の通常運転時の上記二次電池における放電レートよりも高い放電レートの放電である高レート放電を行うよう、上記二次電池を制御し、
上記二次電池の正極(4)は、第一活物質(41)と、上記始動時において上記高レート放電を行う上記二次電池のSOC領域である高レート放電領域において、上記第一活物質よりも抵抗が高くなる高抵抗領域を有する第二活物質(42)と、を有し、
上記二次電池は、上記始動時に、上記高レート放電を行う際、上記第一活物質の利用率よりも上記第二活物質の利用率の方が高い状態になった後、上記第二活物質の利用率よりも上記第一活物質の利用率の方が高くなるよう構成されている、電池システムにある。
【0007】
本発明の第二の態様は、電動飛行体(100)に搭載されると共に、正極(4)及び負極(5)を有する二次電池(2)であって、
上記正極は、第一活物質(41)と、上記二次電池のSOCの値が所定の値のとき、上記第一活物質よりも抵抗が高くなる第二活物質(42)と、を有し、
上記第一活物質は、層状岩塩型構造を有するリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物であり、上記第二活物質は、オリビン型構造を有するリン酸マンガン鉄リチウムである、二次電池にある。
【0008】
本発明の第三の態様は、上記第一の態様の電池システムを備える、電動飛行体(100)にある。
【0009】
本発明の第四の態様は、上記第二の態様の二次電池を備える、電動飛行体にある。
【発明の効果】
【0010】
上記第一の態様の電池システムにおいて、二次電池は、始動時に、高レート放電を行う際、第一活物質の利用率よりも第二活物質の利用率の方が高い状態になった後、第二活物質の利用率よりも第一活物質の利用率の方が高くなるよう構成されている。それゆえ、始動時において、二次電池の温度を上昇させることにより、二次電池の内部抵抗を低減させた状態にて、二次電池の高レート放電を行うことができる。つまり、二次電池の一時劣化を抑制することにより、二次電池の高出力を確保することができる。その結果、電動移動体の始動時における出力を向上させることができる。
【0011】
上記第二の態様の二次電池は、第一活物質と、二次電池のSOCの値が所定の値のとき、第一活物質よりも抵抗が高くなる第二活物質と、を有する。また、第一活物質は、層状岩塩型構造を有するリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物であり、第二活物質は、オリビン型構造を有するリン酸マンガン鉄リチウムである。それゆえ、始動時において、二次電池の一時劣化を抑制することにより、二次電池の高出力を確保することができる。その結果、電動移動体の始動時における出力を向上させることができる。
【0012】
上記第三の態様の電動飛行体は、上記第一の態様の電池システムを備える。それゆえ、始動時において、二次電池の一時劣化を抑制することにより、二次電池の高出力を確保することができる。その結果、電動飛行体の始動時における出力を向上させることができる。
【0013】
上記第四の態様の電動飛行体は、上記第二の態様の二次電池を備える。それゆえ、始動時において、二次電池の一時劣化を抑制することにより、二次電池の高出力を確保することができる。その結果、電動飛行体の始動時における出力を向上させることができる。
【0014】
以上のごとく、上記態様によれば、電動移動体の始動時における出力を向上させることができる電池システム、二次電池、及び電動飛行体を提供することができる。
なお、特許請求の範囲及び課題を解決する手段に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施形態1における、電池システムを備えた電動飛行体の外観図。
【
図3】実施形態1における、二次電池のSOCと電圧との関係を示すグラフ。
【
図4】比較形態1における、二次電池のSOCと電圧との関係を示すグラフ。
【
図5】比較形態2における、二次電池のSOCと電圧との関係を示すグラフ。
【
図6】実施形態1における、二次電池の充電から通常運転時の放電までの流れを示すフローチャート。
【
図7】実施形態1における、離陸時、通常運転時、着陸時の出力の大きさを示すグラフ。
【
図8】実施形態1及び比較形態1における、放電レートと、二次電池の温度と、二次電池の内部抵抗との関係を示すグラフ。
【
図9】実施例1における、二次電池の断面の走査型電子顕微鏡写真。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(実施形態1)
電池システム、二次電池、及び電動飛行体に係る実施形態について、
図1~
図8を参照して説明する。
本形態の電池システム1は、
図1に示すごとく、電動移動体10に搭載される。電池システム1は、二次電池2と、二次電池2の放電を制御する電池制御部3と、を有する。電池制御部3は、電動移動体10の始動時において、高レート放電を行うよう、二次電池2を制御する。高レート放電は、電動移動体10の通常運転時の二次電池2における放電レートよりも高い放電レートの放電である。
【0017】
図2に示すごとく、二次電池2の正極4は、第一活物質41と、第二活物質42と、を有する。第二活物質42は、始動時において高レート放電を行う二次電池2のSOC(State Of Charge)領域である高レート放電領域において、第一活物質41よりも抵抗が高くなる高抵抗領域を有する。
【0018】
二次電池2は、始動時に、高レート放電を行う際、第一活物質41の利用率よりも第二活物質42の利用率の方が高い状態になった後、第二活物質42の利用率よりも第一活物質41の利用率の方が高くなるよう構成されている。本形態において、高レート放電領域は、例えば、始動時において、高レート放電を開始したときの二次電池2のSOCの値である開始SOC値から、開始SOC値よりも20%ポイント低いSOCの値までの領域とすることができる。つまり、例えば、開始SOC値が90%である場合、SOCの値が70~90%の範囲のSOC領域を高レート放電領域とすることができる。そして、高レート放電は、例えば、SOCの値が70~90%の範囲のSOC領域において、継続して行うものとすることができる。
【0019】
本形態の電池システム1は、例えば、電動移動体10に搭載されることにより、電動移動体10が移動する際の放電の制御を行う手段として用いることができる。電動移動体10としては、例えば、電動垂直離着陸機(eVTOL:electronic Vertical Take-Off and Landing aircraft)、電動短距離離着陸機(eSTOL:electronic Short distance Take-Off and Landing aircraft)、ドローン等の電動飛行体100を採用することができる。本形態において、電動移動体10は、電動飛行体100の電動垂直離着陸機である。
【0020】
図1に示すごとく、電動飛行体100は、電池システム1を備える。つまり、電動飛行体100は、二次電池2を備える。二次電池2は、電動飛行体100に搭載されたモーター(図示略)等を駆動するための電力を蓄える。本形態において、二次電池2は、リチウムイオン電池である。
【0021】
電動飛行体100に搭載される二次電池2は、
図2に示すごとく、正極4及び負極5を有する。正極4及び負極5は、それぞれ集電体43、52を有する。これらの集電体43、52に負荷又は発電装置を電気的に接続することにより、二次電池2の放電又は充電を行うことができる。集電体43、52としては、例えば、金属箔や金属板等の導電体を採用することができる。
【0022】
二次電池2は、セパレータ6を有する。セパレータ6は、正極4と負極5との間に配置され、正極4と負極5とを分離している。セパレータ6は、リチウムイオン透過性を備える。本形態において、セパレータ6は、シート状であると共に、多孔質構造を有する。セパレータとしては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン等からなるものを採用することができる。
【0023】
二次電池2は、電解質20を有する。本形態において、電解質20は、正極4、負極5、セパレータ6に、それぞれ含浸されている。電解質20は、例えば、非水溶媒とリチウム塩とを含むものとすることができる。非水溶媒は、例えば、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、エチレンカーボネート等とすることができ、また、これらの混合物とすることもできる。また、リチウム塩は、例えば、LiPF6、LiBF4、LiClO4等とすることができ、また、これらの混合物とすることもできる。また、電解質20は、添加剤として、例えば、ビニレンカーボネート等を含有することもできる。
【0024】
また、二次電池2の電解質20としては、固体電解質を採用することもできる。固体電解質は、例えば、ポリエチレンオキサイド等のポリマー系固体電解質、硫化物系固体電解質、酸化物系固体電解質とすることができる。また、硫化物系固体電解質としては、例えば、Li6PS5Cl等のアルジロダイト型構造を有する固体電解質、またはLi10GeP2S12等のLGPS型構造を有する固体電解質を採用することができる。酸化物系固体電解質としては、例えば、Li1.25La0.58Nb2O6F等のパイロクロア型構造を有する固体電解質、Li7La3Zr2O12等のガーネット型構造を有する固体電解質、Li1.4Al0.4Ti1.6(PO4)3等のNASICON型構造を有する固体電解質、La0.57Li0.29TiO3等のペロブスカイト型構造を有する固体電解質を採用することができる。また、電解質20は、例えば、上記に例示した固体電解質のうち、2つ以上を混合した混合物とすることもできる。また、上記に例示した固体電解質は、例えば、正極4及び負極5内に含有させることもできる。
【0025】
正極4及び負極5は、それぞれ集電体43、52の表面に設けられると共に、活物質を含有する活物質層40、50を有する。活物質層40、50は、活物質に加え、例えば、導電材、バインダ等を含有することができる。
【0026】
負極5の活物質層50に含有される活物質51としては、例えば、黒鉛、シリコン、リチウム金属、LTO(チタン酸リチウム)系の活物質を採用することができる。
【0027】
正極4の活物質層40は、第一活物質41と第二活物質42とを有する。本形態において、第一活物質41は、層状岩塩型構造を有するリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物である。第二活物質42は、オリビン型構造を有するリン酸マンガン鉄リチウムである。第一活物質41であるリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物は、第二活物質42であるリン酸マンガン鉄リチウムよりもエネルギー密度が大きい。なお、正極4の活物質層40には、例えば、第一活物質41及び第二活物質42以外の活物質も含有させることができる。
【0028】
本形態において、第一活物質41は、二次電池2のSOCが高くなるほど抵抗が小さくなる。また、第一活物質41であるリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物は、下記式(1)にて表すことができる。また、本形態において、第一活物質41のリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物は、下記式(2)にて表すことができる。下記式(1)において、x+y+z=1、0.6≦x<1、0.02≦y≦0.2、0.02≦z≦0.2である。
LiNixCoyMnzO2 ・・・(1)
LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2 ・・・(2)
【0029】
第二活物質42は、二次電池2のSOCの値が所定の値のとき、第一活物質41よりも抵抗が高くなる。つまり、第二活物質42は、上述のごとく、高レート放電領域において、第一活物質41よりも抵抗が高くなる高抵抗領域を有する。第二活物質42であるリン酸マンガン鉄リチウムは、下記式(3)にて表すことができる。また、本形態において、第二活物質42のリン酸マンガン鉄リチウムは、下記式(4)にて表すことができる。また、下記式(3)において、x>0.5である。
LiMnxFe1-xPO4 ・・・(3)
LiMn0.6Fe0.4PO4 ・・・(4)
【0030】
正極4の活物質全体に対する第一活物質41の割合は50~95重量%であり、正極4の活物質全体に対する第二活物質42の割合は5~50重量%である。また、開始SOC値を比較的高い90%程度とした場合、正極4の活物質全体に対する第二活物質42の割合は5~20重量%が好ましく、正極4の活物質全体に対する第一活物質41の割合は80~95重量%が好ましい。また、正極4の活物質全体に対する第一活物質41の割合は、90重量%以上がより好ましく、正極4の活物質全体に対する第二活物質42の割合は、10重量%以下がより好ましい。また、正極4の活物質全体に対する第二活物質42の割合は、9重量%以下が、より一層好ましい。また、開始SOC値を比較的低い60%程度とした場合、正極4の活物質全体に対する第二活物質42の割合は40~50重量%が好ましく、正極4の活物質全体に対する第一活物質41の割合は50~60重量%が好ましい。
【0031】
本形態において、第一活物質41の平均粒子径は、第二活物質42の平均粒子径よりも大きい。言い換えると、第二活物質42の平均粒子径は、第一活物質41の平均粒子径よりも小さい。ただし、第一活物質41の平均粒子径が第二活物質42の平均粒子径よりも大きい場合、及び第一活物質41の平均粒子径が第二活物質42の平均粒子径よりも小さい場合のいずれの場合であっても、電動移動体10の始動時における出力を向上させることができる。第一活物質41の平均粒子径は、例えば、5~15μmとすることができ、第二活物質42の平均粒子径は、例えば、0.1~20.0μmとすることができる。
【0032】
次に、本形態の二次電池2の特性について説明する。
本形態の二次電池2は、
図3に示すごとく、SOCの値の変化に伴って、電圧が変化する。具体的には、二次電池2のSOCの値が小さくなるほど、正極4と負極5との間の電位差である二次電池2の電圧が小さくなる。また、後述するように、第一活物質41の利用率及び第二活物質42の利用率は、二次電池2の電圧によって変わる。本形態において、第一活物質41の利用率とは、放電の際に、正極4の活物質に吸蔵されたリチウムイオン全体に対する、第一活物質41に吸蔵されたリチウムイオンの割合を意味する。また、第二活物質42の利用率とは、放電の際に、正極4の活物質に吸蔵されたリチウムイオン全体に対する、第二活物質42に吸蔵されたリチウムイオンの割合を意味する。
【0033】
本形態において、3.4V付近の充放電時の反応には、第二活物質42であるリン酸マンガン鉄リチウムのFe(すなわち、鉄)が主に関わっている。また、4.0V付近の充放電時の反応には、第二活物質42であるリン酸マンガン鉄リチウムのMn(すなわち、マンガン)が主に関わっている。そのため、
図5に示すごとく、正極の活物質としてリン酸マンガン鉄リチウムのみを有する比較形態2の二次電池の場合、3.4V付近と4.0V付近のところでフラットな電圧カーブとなり、主に、3.4V付近と4.0V付近の電位域において充放電を行う。つまり、本形態において、第二活物質42は、主に、3.4V付近及び4.0V付近の電位域において、充放電における反応を行う。そのため、本形態においては、
図3に示すごとく、二次電池2の電圧が3.4V付近及び4.0V付近のときに、第一活物質41の利用率よりも第二活物質42の利用率の方が高い領域である第二高利用領域を有する。また、二次電池2のSOCの値が10%付近、及び80~90%付近のときに、第二高利用領域となっている。そして、これらの第二高利用領域においては、主に第二活物質42が充放電時の反応に関わっている。つまり、二次電池2は、二次電池2のSOCの値が所定の値よりも低い低SOC領域において、第二高利用領域を有するよう構成されている。低SOC領域は、例えば、SOCの値が30%以下の領域とすることができる。なお、SOCが0%とは、二次電池2が完全に放電した状態を意味し、SOCが100%とは、二次電池2が満充電状態を意味する。
【0034】
また、本形態においては、
図3に示すように、2つの第二高利用領域以外は、第二活物質42の利用率よりも第一活物質41の利用率が高くなる第一高利用領域となっている。第一高利用領域では、主に第一活物質41が充放電時の反応に利用される。なお、
図4に示すごとく、正極の活物質として、第一活物質と同じリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物のみを用いた比較形態1の二次電池の場合、SOCの値が小さくなるほど、電圧が低くなる電圧カーブとなる。
【0035】
また、第一活物質41と第二活物質42とは、互いに抵抗が異なる。また、二次電池2の内部抵抗及び活物質の抵抗は、二次電池2の充電状態、すなわちSOCの値によって変化する。本形態においては、低SOC領域において、第二活物質42は、第一活物質41よりも抵抗が小さい。また、第一活物質41は、低SOC領域において、他のSOC領域よりも抵抗が大きい。そのため、
図4に示すごとく、比較形態1も、低SOC領域において、他のSOC領域よりも内部抵抗が大きい。
【0036】
また、本形態において、第二活物質42は、SOCの値が70~90%の範囲の高レート放電領域において、第一活物質41よりも抵抗が大きい高抵抗領域を有する。ここで、第一活物質41及び第二活物質42の抵抗の大きさは、例えば、二次電池2のSOCの各値における直流抵抗を測定するDCIR(Direct Current Internal Resistance)測定、または二次電池2のSOCの各値における交流抵抗を測定する交流インピーダンス測定によって測定することができる。そして、これらの測定方法によって測定した二次電池2の内部抵抗が、第一活物質41及び第二活物質42のうち、どちらに由来するかは、正極の活物質として、第一活物質及び第二活物質のうち、いずれか一方と同じ活物質のみを用いた二次電池に基づいて判断することができる。具体的には、正極の活物質として第一活物質と同じ活物質のみを用いた二次電池、及び正極の活物質として第二活物質と同じ活物質のみを用いた二次電池のSOC-OCV(Open Circuit Voltage)カーブ、またはSOC-CCV(Closed Circuit Voltage)カーブと、それぞれのSOCにおける内部抵抗を参照して、第一活物質41及び第二活物質42の抵抗の大きさを求めることができる。例えば、4.0V付近のところでフラットな電圧カーブを有する
図5の比較形態2のグラフと、4.0V付近のところでフラットな電圧カーブを有さない
図4の比較形態1のグラフとを参照することにより、本形態の二次電池2における第二活物質42の抵抗の大きさを求めることができる。つまり、
図3のグラフに示すように、SOCの値が80%付近であって、電圧が4.0V付近の第二高利用領域における二次電池2の内部抵抗は、
図4の比較形態1のグラフと
図5の比較形態2のグラフを参照することにより、主に第二活物質42の抵抗を由来とする抵抗であることを判断することができる。
【0037】
次に、本形態の電動飛行体100について説明する。
本形態の電動飛行体100は、
図1に示すごとく、本体部102と、固定翼と、回転翼101と、を有する。本体部102には、例えば、輸送する荷物を収容する収容空間等を設けることができる。また、本形態においては、揚力を生じさせるための固定翼として、主翼103と尾翼104とを有する。電動飛行体100は、例えば、有人機又は無人機とすることができる。
【0038】
また、電動飛行体100は、複数の回転翼101と、複数の回転翼101のそれぞれを回転させる複数のモーター(図示略)とを備える。モーターは、二次電池2からの電力によって駆動する。本形態において、回転翼101は、本体部102及び主翼103に、それぞれ設けられている。モーターによって回転翼101を回転させることにより、揚力や推力を生じさせ、電動飛行体100を飛行させることができる。
【0039】
電動飛行体100は、鉛直方向に沿った方向への移動及び水平方向への移動が可能となるよう構成されている。また、電動飛行体100は、鉛直方向に沿った方向の成分及び水平方向の成分を含む方向への移動、つまり、水平方向に対し傾斜した方向への移動も行うことができるよう構成されている。
【0040】
また、本形態の電動飛行体100には、複数の二次電池2が搭載されている。複数の二次電池2は、例えば、互いに直列接続や並列接続を行うことができる。本形態において、電動飛行体100には、複数の二次電池2を互いに直列接続かつ並列接続することによってモジュール化した電池モジュールが搭載されている。
【0041】
本形態の電動飛行体100は、電動飛行体100の飛行を制御する飛行体制御部105を有する。飛行体制御部105は、例えば、プロセッサ、メモリ、無線通信を行う通信回路等を備えることができる。プロセッサは、例えば、メモリに予め記憶されている制御プログラムを実行することにより、電動飛行体100の離着陸及び通常運転等の動作を制御することができる。また、電動飛行体100の離着陸及び通常運転は、例えば、予め設定された飛行経路の情報に基づいて実行することができ、また、電動飛行体100の外部からの指令に基づいて実行することもできる。
【0042】
電動飛行体100に搭載された電池システム1において、電池制御部3は、プロセッサとメモリとを備えている。電池制御部3のプロセッサは、例えば、メモリに予め記憶されている制御プログラムを実行することにより、二次電池2の放電の制御をすることができる。本形態において、電池システム1は、飛行体制御部105の一部でもある。
【0043】
次に、電動飛行体100の充電から通常運転を実施するまでの流れを、
図6のフローチャートを参照しながら説明する。
まず、ステップS1において、電動飛行体100の巡航距離を充分に確保するため、電動飛行体100に搭載された二次電池2の充電を行う。本形態においては、外部に設けられた充電設備(図示略)を用いて、二次電池2の充電を行う。また、本形態においては、二次電池2のSOCが90%になるまで、充電を行う。その後、電動飛行体100の飛行を開始するまで、ステップS2において、二次電池2の充放電を休止する。なお、二次電池2の充電後、休止を行うことなく、すぐに、電動飛行体100の飛行を開始することもできる。
【0044】
次に、ステップS3において、電動飛行体100を始動させ、二次電池2の高レート放電を開始する。本形態の電動飛行体100は、始動時に、回転翼101を駆動させることによって離陸し、所定の高度の地点に到達する。したがって、電動飛行体100は、
図7に示すごとく、始動時に離陸する際、通常運転時と比較し、高い出力を必要とする。そのため、電池制御部3の制御によって二次電池2の高レート放電を行い、高い出力にてモーターを駆動させ、回転翼101を回転させる。本形態においては、例えば、4~12C(Capacity)の放電レートにて高レート放電を行う。また、本形態において、高レート放電は、二次電池2のSOCが80%以上の状態において開始する。また、本形態において、通常運転とは、電動飛行体100が離陸して所定の高度の地点(すなわち、後述する通常運転開始地点)まで到達した直後から、目的地の上空に到達するまでの電動飛行体100の巡航を意味する。つまり、通常運転は、離陸及び着陸を含まない電動飛行体100の移動である。また、電動飛行体100の離陸及び着陸は、主に、鉛直方向に沿った方向の移動である。
【0045】
次に、高レート放電を行うことにより、
図6のステップS4において、二次電池2を発熱させる。このステップS4の発熱ステップにおいては、例えば、45℃以上に二次電池2の温度を上昇させることができる。具体的には、ステップS4の発熱ステップでは、高抵抗領域、かつ第二高利用領域において、高レート放電を行うことにより、二次電池2を発熱させる。このステップS4の発熱ステップでは、主に、第二活物質42が利用される。また、本形態において、発熱ステップは、二次電池2のSOCの値が70%以上のSOC領域において実施する。
【0046】
また、ステップS4の発熱ステップを実施することにより、
図8に示すごとく、二次電池2の温度上昇に伴って、二次電池2の内部抵抗が低下する。そして、
図6に示すごとく、発熱ステップの後のステップS5において、二次電池2の内部抵抗が低い状態にて高レート放電を行う。これにより、二次電池2の高出力による放電が可能となる。そして、ステップS5の高出力ステップにおいて、二次電池2の高レート放電によるモーターの駆動を行い、電動飛行体100を所定の高度の地点にまで上昇させる。また、ステップS5の高出力ステップでは、第一活物質41の利用率が第二活物質42の利用率よりも高い第一高利用領域において、二次電池2の出力を行う。そして、高出力ステップでは、主に第一活物質41が利用される。さらに、高出力ステップは、第一活物質41の抵抗が、第二活物質42の抵抗よりも低い領域にて行われる。
【0047】
ステップS3~S5において、高レート放電を開始してから、電動飛行体100が通常運転開始地点に到達するまでの間、二次電池2には連続した高出力が要求される。つまり、ステップS3~S5の間、二次電池2は、連続して高レート放電を行う。本形態において、高レート放電を行う時間は、通常運転時の放電を行う時間よりも短い。つまり、始動時の離陸において、二次電池2が連続して高レート放電を行う時間は、通常運転を行う時間よりも短い。本形態において、通常運転開始地点は、通常運転を開始する高度の地点を示す。また、始動時は、電動移動体10である電動飛行体100が移動を開始してから、通常運転を開始するまでの期間を示す。
【0048】
ステップS5において、電動飛行体100が、通常運転開始地点に到達した後、ステップS6において、電池制御部3は、電動飛行体100を通常運転により目的の地点の上空まで巡航させるため、二次電池2の放電を制御する。電動飛行体100における通常運転の巡航は、主に水平方向に沿った方向への移動であるため、
図7に示すごとく、始動時の離陸に必要となる電力の大きさと比較し、必要となる電力の大きさが大幅に小さい。また、通常運転時においては、
図8に示すごとく、二次電池2の内部抵抗も、発熱ステップと比較し低くなりやすい。そのため、二次電池2の温度は、徐々に低下する。通常運転時の二次電池2の放電である通常放電において、放電レートは、例えば、0.3~1.0Cとすることができる。
【0049】
また、
図6のフローチャートにおいて、ステップS6の後のステップは省略してあるが、ステップS6において、電動飛行体100を目的地の上空まで通常運転させた後、電動飛行体100を所定の高度から着陸地点まで降下させ、着陸させる。着陸には、通常運転時と比較し、高い出力が必要となる。そのため、電動飛行体100を着陸させる際、電池制御部3は、二次電池2が高レート放電を行うよう制御する。
【0050】
次に、本形態の作用効果を説明する。
上記電池システム1において、二次電池2は、始動時に、高レート放電を行う際、第一活物質41の利用率よりも第二活物質42の利用率の方が高い状態になった後、第二活物質42の利用率よりも第一活物質41の利用率の方が高くなるよう構成されている。それゆえ、始動時において、二次電池2の温度を上昇させることにより、二次電池2の内部抵抗を低減させた状態にて、二次電池2の高レート放電を行うことができる。つまり、二次電池2の一時劣化を抑制することにより、二次電池2の高出力を確保することができる。その結果、電動移動体の始動時における出力を向上させることができる。
【0051】
一般に、電動飛行体は、始動時に離陸を行うため、高出力が必要となる。そのため、電動飛行体の離陸時に、二次電池の高レート放電を行う。ここで、仮に、高出力ステップの前に発熱ステップを行わない電動飛行体を想定する。この場合、離陸する際、高レート放電の実施を起因とする、二次電池におけるリチウムイオンの濃度分布の偏りが生じるおそれがある。リチウムイオンの濃度分布の偏りが生じると、二次電池のSOCが充分に高い状態であっても放電が制限され、二次電池の一時劣化が生じるおそれがある。そこで、本形態の電池システム1においては、高出力ステップの前に発熱ステップを行うよう制御する。つまり、敢えて、始動時において、高レート放電領域に、高抵抗領域かつ第二高利用領域となる領域を設け、二次電池2の温度を上昇させる。これにより、二次電池2においてリチウムイオンが移動しやすくなり、リチウムイオンの濃度分布の偏りが生じにくくなる。その結果、二次電池2の一時劣化を抑制することができ、二次電池2の内部抵抗が充分に低い状態にて、高出力ステップを実施することができる。また、発熱ステップ後の高出力ステップにおいては、第二活物質42の利用率よりも第一活物質41の利用率の方が高い。また、高出力ステップを行うSOC領域において、第一活物質41の抵抗は第二活物質42の抵抗よりも低くなりやすい。そのため、二次電池2の高出力を確実に確保することができる。その結果、高レート放電を行う期間全体として、出力性能の向上を図ることができる。
【0052】
次に、本形態と比較形態1とを比較しながら説明する。本形態において、二次電池2は、正極4の活物質層40に、第一活物質41と第二活物質42との双方を含有する。そのため、
図8に示すごとく、正極の活物質としてリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物のみを含有する比較形態1と比較し、第二活物質42を有する本形態は、発熱ステップを行うSOC領域において、二次電池2の内部抵抗を高くすることができる。それゆえ、二次電池2の温度を確実に上昇させることができ、発熱ステップ後の高出力ステップを行うSOC領域において、二次電池2の内部抵抗を確実に低くすることができる。つまり、本形態においては、高出力が必要なタイミングにて、二次電池2の温度を上昇させ、さらに、抵抗が低い第一活物質41の利用率を高めることができる。その結果、二次電池2の内部抵抗を大幅に低くした状態にて、高出力を確保することができる。
【0053】
また、一般に、二次電池を電池モジュールとして用いる場合、複数の二次電池に対する拘束部材を用いた拘束の仕方によっては、電解質が電極外に押し出されることにより、電極における電解質量が減少する場合がある。このような場合、高レート放電の実施を起因とする二次電池の一時劣化が生じやすくなるおそれがある。また、活物質の体積変化を起因とする、いわゆる電極膨れが生じた場合にも、高レート放電の実施を起因とする二次電池の一時劣化が生じやすくなるおそれがある。これに対し、本形態においては、発熱ステップ後に高出力ステップを行うよう構成されている。そのため、仮に、二次電池2の拘束等によって電解質が電極外に押し出された状態であったとしても、二次電池2の一時劣化を抑制しやすい。その結果、二次電池2の高出力を確実に確保することができる。
【0054】
第一活物質41は、二次電池2のSOCが高くなるほど抵抗が小さくなる。それゆえ、高出力ステップを行うSOC領域において、第一活物質41は、抵抗が一層小さくなりやすい。それゆえ、第一活物質41の利用率が高い高出力ステップにおいて、二次電池2の高出力を一層確保することができる。
【0055】
正極4の活物質全体に対する第一活物質41の割合は50~95重量%であり、正極4の活物質全体に対する第二活物質42の割合は5~50重量%である。それゆえ、正極4における第一活物質41と第二活物質42との含有割合を上記範囲にて調整することにより、第二高利用領域となるSOCの範囲を調整することができる。そのため、発熱ステップを実施したい任意のSOC領域が第二高利用領域となるように、調整することができる。その結果、任意の開始SOC値に合わせて、発熱ステップを適切な期間実施することができる。
【0056】
開始SOC値が比較的高い場合、正極4の活物質全体に対する第一活物質41の割合は80~95重量%が好ましく、正極4の活物質全体に対する第二活物質42の割合は5~20重量%が好ましい。この場合、発熱ステップと高出力ステップとを効率的に実施することができる。つまり、開始SOC値が比較的高い場合、第二活物質42の割合が上記割合よりも高いと、発熱ステップが長くなり過ぎ、発熱ステップ及び高出力ステップを効率的に実施できないおそれがある。また、正極4の活物質全体に対する第二活物質42の割合が上記割合よりも低いと、発熱ステップを充分に実施することができないおそれがある。それゆえ、開始SOC値が比較的高い場合、正極4の活物質全体に対する第二活物質42の割合を5~20重量%とすることが好ましい。これにより、発熱ステップと高出力ステップとを効率的に実施することができる。また、第一活物質41の割合が上記割合よりも高いと、開始SOC値が比較的高い場合においては、第二活物質42の割合が低くなり過ぎるおそれがあり、発熱ステップを充分に実施することができないおそれがある。また、第一活物質41の割合が上記割合よりも低いと、開始SOC値が比較的高い場合においては、第二活物質42の割合が高くなり過ぎるおそれがある。それゆえ、開始SOC値が比較的高い場合、正極4の活物質全体に対する第一活物質41の割合を80~95重量%とすることが好ましい。この場合、発熱ステップと高出力ステップとを効率的に実施することができる。その結果、始動時における出力を一層向上させることができる。
【0057】
また、開始SOC値を比較的低くした場合、正極4の活物質全体に対する第二活物質42の割合は40~50重量%が好ましく、正極4の活物質全体に対する第一活物質41の割合は50~60重量%が好ましい。この場合、開始SOC値が比較的低い場合において、発熱ステップと高出力ステップとを効率的に実施することができる。
【0058】
開始SOC値が比較的高い場合、正極4の活物質全体に対する第二活物質42の割合は10重量%以下が好ましい。この場合、発熱ステップと高出力ステップとを確実に、効率的に実施することができる。また、開始SOC値が比較的高い場合、正極4の活物質全体に対する第二活物質42の割合は9重量%以下が好ましい。この場合、発熱ステップと高出力ステップとを一層確実に、効率的に実施することができる。
【0059】
第一活物質41は、層状岩塩型構造を有するリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物である。第二活物質42は、オリビン型構造を有するリン酸マンガン鉄リチウムである。それゆえ、発熱ステップと高出力ステップとを確実に効率的に実施することができる。その結果、二次電池2の一時劣化を確実に抑制し、高出力を確実に確保することができる。また、始動時の高レート放電領域と低SOC領域との双方において、第二高利用領域を設けやすい。また、始動時の高レート放電領域において、高抵抗領域を設けやすく、低SOC領域において、第二活物質42は、第一活物質41よりも抵抗が小さい領域を有しやすい。そのため、始動時の高レート放電領域において、発熱ステップを確実に実施しやすいと共に、低SOC領域において、高出力を確実に確保しやすい。その結果、離陸時及び着陸時の双方において、二次電池2の高出力を確実に確保することができる。
【0060】
また、第二活物質42であるリン酸マンガン鉄リチウムは、第一活物質41であるリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物と比較し、粒子割れや表面の劣化が生じにくい。それゆえ、二次電池2の耐久性を向上させることができる。その結果、二次電池2の長寿命化を図ることができる。
【0061】
本形態において、第一活物質41の平均粒子径は、第二活物質42の平均粒子径よりも大きい。それゆえ、第一活物質41の劣化を確実に抑制することができる。つまり、第一活物質41は、第二活物質42と比較し、その表面において電解質20と反応しやすい。そして、このときの反応によって、第一活物質41の表面に被膜が形成され、第一活物質41が劣化するおそれがある。そこで、本形態においては、第一活物質41の平均粒子径を第二活物質42の平均粒子径よりも大きくしている。これにより、正極4に含まれる第一活物質41全体の表面積を小さくすることができる。つまり、第一活物質41全体として、電解質20と接する表面の面積を小さくすることができる。それゆえ、第一活物質41と電解質20との反応を抑制することができ、第一活物質41の劣化を確実に抑制することができる。その結果、二次電池2の長寿命化を図ることができる。
【0062】
第二活物質42の平均粒子径は、第一活物質41の平均粒子径よりも小さい。それゆえ、第二活物質42の粒子割れを一層抑制することができ、二次電池2の長寿命化を確実に図ることができると共に、二次電池2の一時劣化を確実に抑制することができる。また、第二活物質42の平均粒子径が小さいほど、第二活物質42の抵抗を低減させやすく、また、正極4において第二活物質42を均一に分布させやすいため、二次電池2の安全性を向上させやすい。ただし、第二活物質42の粒径が100nm未満のナノサイズにまで小さくなると、第二活物質42の粒子同士の凝集が生じやすく、第一活物質41と第二活物質42との均一な混合が困難となりやすい。そのため、第二活物質42の粒径は100nm以上とすることが好ましい。これにより、製造性を向上させることができる。
【0063】
低SOC領域において、第二活物質42は、第一活物質41よりも抵抗が小さい。また、二次電池2は、低SOC領域において、第二高利用領域を有するよう構成されている。それゆえ、低SOC領域の第二高利用領域において電動飛行体100を着陸させる際、二次電池2の高出力を一層確保することができる。その結果、電動移動体10の始動時における出力を一層向上させることができる。
【0064】
電動飛行体100は、電池システム1を備える。それゆえ、電動飛行体100の始動時において、二次電池2の一時劣化を抑制することにより、高出力を確保することができる。
【0065】
電動飛行体100は、二次電池を備える。それゆえ、電動飛行体100の始動時において、二次電池2の一時劣化を抑制することにより、高出力を確保することができる。
【0066】
以上のごとく、本形態によれば、電動移動体10の始動時における出力を向上させることができる電池システム1、二次電池2、及び電動飛行体100を提供することができる。
【0067】
(実験例1)
本例では、基本構造を実施形態1と同様としつつ、正極の活物質の組成が互いに異なる複数の二次電池を用いて、放電試験とサイクル試験とを行った。正極の活物質としては、LiNi
0.8Co
0.1Mn
0.1O
2(以下、単に「NCM」という。)とLiMn
0.6Fe
0.4PO
4(以下、単に「LMFP」という。)を用い、負極の活物質としては、黒鉛を用いた。また、電解質は、溶媒に、ビニレンカーボネートと、1MのLiPF
6と、を加えたものを用いた。ビニレンカーボネートは、電解質全体の1%となるよう加えた。また、電解質の溶媒としては、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートを、体積比1:1:1にて混合したものを用いた。また、
図9は、後述する表1における実施例1の二次電池の断面を、走査型電子顕微鏡にて観察した写真である。
【0068】
放電試験の試験条件は、雰囲気温度を25℃、放電を開始するときの二次電池のSOCを90%、放電レートを10C、下限電圧を2.8Vとした。そして、放電試験では、放電開始から、放電電圧が下限に到達して二次電池の放電が停止するまでの時間である、通電時間を調べた。また、サイクル試験の試験条件は、雰囲気温度を25℃、充放電時の電圧を2.8~4.2V、放電レートを1Cとした。そして、サイクル試験では、充放電を300回繰り返した後の二次電池における、容量維持率を調べた。ここで、容量維持率とは、試験開始前の放電容量に対する試験後の放電容量の割合である。
【0069】
本例の放電試験においては、通電時間が230秒以上となる場合を、二次電池を電動飛行体に用いた場合に、電動飛行体の始動時における出力を向上できる基準としている。また、放電試験においては、通電時間が240秒以上となる場合を、電動飛行体の始動時における出力を一層向上できる基準としている。そこで、上記試験結果から、この基準を満たすNCMとLMFPとの比率を求めた。また、下記表1には、通電時間が230秒以上となった場合を「○」、通電時間が240秒以上となった場合を「◎」、通電時間が230秒未満となった場合を「×」にて示した。
【0070】
また、本例のサイクル試験においては、容量維持率が80%以上となる場合を、二次電池の劣化を充分に抑制できる基準としている。そこで、上記試験結果から、この基準を満たすNCMとLMFPとの比率を求めた。また、下記表1には、容量維持率が80%以上となった場合を「○」、容量維持率が80%未満となった場合を「×」にて示した。
【0071】
放電試験とサイクル試験の結果を、下記表1に示す。下記表1の活物質比率の項目は、正極の活物質全体に対するNCM又はLMFPの重量比を示す。また、下記表1の最高温度は、放電試験を行ったときに、二次電池の温度が最も高くなったときの温度を示す。
【0072】
【0073】
上記表1に示すごとく、放電試験において、比較例1及び比較例2が、上記基準を満たしていないのに対し、実施例1~3は、通電時間が230秒以上となり、上記基準を満たしていることがわかる。ここで、実施例1~3は、比較例1と比較し、最高温度が高くなっている。この結果から、実施例1~3は、正極の活物質としてLMFPを有するため、高レート放電を行った際、発熱ステップを確実に実施することができたと考えられる。それゆえ、二次電池の内部抵抗を低くすることができ、NCMを利用して、高レート放電を効率的に実施できたと考えられる。その結果、通電時間を比較的長くすることができたと考えられる。また、実施例1~3は、比較例2と比較し、通電時間が長くなっている。このことから、実施例1~3は、LMFPを、正極の活物質全体に対して20%以下の割合で含有することにより、放電開始時のSOCの値が比較的高い場合において、発熱ステップを行う期間が長くなり過ぎることを抑え、二次電池の内部抵抗が充分に低い状態にて長い間、放電ができたと考えられる。また、実施例1~3は、正極において、エネルギー密度が高いNCMを含有する。そのため、実施例1~3は、NCMを含有することによっても、通電時間を比較的長くすることができたと考えられる。また、実施例2においては、通電時間が240秒以上となっており、通電時間が、実施例1、3より長くなっている。ここで、実施例2は、LMFPを、正極の活物質全体に対して5%を超える割合で含有すると共に、10%以下の割合で含有する。そのため、発熱ステップを、より効率的となる期間、実施することができたと考えられる。つまり、発熱ステップによって二次電池の温度を充分に高くしつつ、発熱ステップの期間を短くして、放電することができたと考えられる。その結果、比較的長い間、二次電池2の高出力を維持でき、通電時間を長くすることができたと考えられる。一方、比較例1は、エネルギー密度が高いNCMを正極の活物質としているものの、LMPFを含有していない。そのため、二次電池を充分に発熱させることができず、二次電池の内部抵抗を充分に低下させることができなかったと考えられる。そのため、比較例1は、上記基準を満たすことができなかったと考えられる。また、比較例2は、正極の活物質としてLMPFのみを含有する。そのため、比較例2においては、発熱ステップを実施した期間が長くなり過ぎ、かつ、NCMも含有しないため、通電時間が短くなったと考えられる。その結果、上記基準を満たすことができなかったと考えられる。
【0074】
また、上記表1に示すように、サイクル試験は、実施例1~3、比較例2において、容量維持率が80%以上となり、上記基準を満たす結果となった。ここで、LMPFは、NCMと比較し、充放電の実施による粒子割れや表面劣化が生じにくい。そのため、正極の活物質としてLMPFを含有する実施例1~3、比較例2は、高い容量維持率になったと考えられる。一方、正極の活物質としてLMPFを含有しない比較例1では、容量維持率は80%未満となり、上記基準を満たさない結果となった。
【0075】
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。
【0076】
<その他>
本発明の特徴を以下の通り示す。
[項1]
電動移動体(10)に搭載される電池システム(1)であって、
二次電池(2)と、
該二次電池の放電を制御する電池制御部(3)と、を有し、
上記電池制御部は、上記電動移動体の始動時において、上記電動移動体の通常運転時の上記二次電池における放電レートよりも高い放電レートの放電である高レート放電を行うよう、上記二次電池を制御し、
上記二次電池の正極(4)は、第一活物質(41)と、上記始動時において上記高レート放電を行う上記二次電池のSOC領域である高レート放電領域において、上記第一活物質よりも抵抗が高くなる高抵抗領域を有する第二活物質(42)と、を有し、
上記二次電池は、上記始動時に、上記高レート放電を行う際、上記第一活物質の利用率よりも上記第二活物質の利用率の方が高い状態になった後、上記第二活物質の利用率よりも上記第一活物質の利用率の方が高くなるよう構成されている、電池システム。
[項2]
上記第一活物質は、上記二次電池のSOCが高くなるほど抵抗が小さくなる、項1に記載の電池システム。
[項3]
上記正極の活物質全体に対する上記第一活物質の割合は50~95重量%であり、上記正極の活物質全体に対する上記第二活物質の割合は5~50重量%である、項1又は2に記載の電池システム。
[項4]
上記第一活物質は、層状岩塩型構造を有するリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物であり、上記第二活物質は、オリビン型構造を有するリン酸マンガン鉄リチウムである、項1~3のいずれか一項に記載の電池システム。
[項5]
電動飛行体(100)に搭載されると共に、正極(4)及び負極(5)を有する二次電池(2)であって、
上記正極は、第一活物質(41)と、上記二次電池のSOCの値が所定の値のとき、上記第一活物質よりも抵抗が高くなる第二活物質(42)と、を有し、
上記第一活物質は、層状岩塩型構造を有するリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物であり、上記第二活物質は、オリビン型構造を有するリン酸マンガン鉄リチウムである、二次電池。
[項6]
上記二次電池のSOCの値が所定の値よりも低い低SOC領域において、上記第二活物質は、上記第一活物質よりも抵抗が小さく、上記二次電池は、上記低SOC領域において、上記第一活物質の利用率よりも上記第二活物質の利用率の方が高い領域である第二高利用領域を有するよう構成されている、項5に記載の二次電池。
[項7]
項1~4のいずれか一項に記載の電池システムを備える、電動飛行体(100)。
[項8]
項5又は6に記載の二次電池を備える、電動飛行体。
【符号の説明】
【0077】
1…電池システム、2…二次電池、3…電池制御部、4…正極、10…電動移動体、41…第一活物質、42…第二活物質
【手続補正書】
【提出日】2023-12-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動移動体(10)に搭載される電池システム(1)であって、
二次電池(2)と、
該二次電池の放電を制御する電池制御部(3)と、を有し、
上記電池制御部は、上記電動移動体の始動時において、上記電動移動体の通常運転時の上記二次電池における放電レートよりも高い放電レートの放電である高レート放電を行うよう、上記二次電池を制御し、
上記二次電池の正極(4)は、第一活物質(41)と、上記始動時において上記高レート放電を行う上記二次電池のSOC領域である高レート放電領域において、上記第一活物質よりも抵抗が高くなる高抵抗領域を有する第二活物質(42)と、を有し、
上記第一活物質の平均粒子径は、上記第二活物質の平均粒子径よりも大きく、
上記二次電池は、上記始動時に、上記高レート放電を行う際、上記第一活物質の利用率よりも上記第二活物質の利用率の方が高い状態になった後、上記第二活物質の利用率よりも上記第一活物質の利用率の方が高くなるよう構成されている、電池システム。
【請求項2】
上記第一活物質は、上記二次電池のSOCが高くなるほど抵抗が小さくなる、請求項1に記載の電池システム。
【請求項3】
上記正極の活物質全体に対する上記第一活物質の割合は50~95重量%であり、上記正極の活物質全体に対する上記第二活物質の割合は5~50重量%である、請求項1又は2に記載の電池システム。
【請求項4】
上記第一活物質は、層状岩塩型構造を有するリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物であり、上記第二活物質は、オリビン型構造を有するリン酸マンガン鉄リチウムである、請求項1又は2に記載の電池システム。
【請求項5】
電動飛行体(100)に搭載されると共に、正極(4)及び負極(5)を有する二次電池(2)であって、
上記正極は、第一活物質(41)と、上記二次電池のSOCの値が所定の値のとき、上記第一活物質よりも抵抗が高くなる第二活物質(42)と、を有し、
上記第一活物質は、層状岩塩型構造を有するリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物であり、上記第二活物質は、オリビン型構造を有するリン酸マンガン鉄リチウムであり、
上記第一活物質の平均粒子径は、上記第二活物質の平均粒子径よりも大きい、二次電池。
【請求項6】
上記二次電池のSOCの値が所定の値よりも低い低SOC領域において、上記第二活物質は、上記第一活物質よりも抵抗が小さく、上記二次電池は、上記低SOC領域において、上記第一活物質の利用率よりも上記第二活物質の利用率の方が高い領域である第二高利用領域を有するよう構成されている、請求項5に記載の二次電池。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の電池システムを備える、電動飛行体(100)。
【請求項8】
請求項5又は6に記載の二次電池を備える、電動飛行体。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0006
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0006】
本発明の第一の態様は、電動移動体(10)に搭載される電池システム(1)であって、
二次電池(2)と、
該二次電池の放電を制御する電池制御部(3)と、を有し、
上記電池制御部は、上記電動移動体の始動時において、上記電動移動体の通常運転時の上記二次電池における放電レートよりも高い放電レートの放電である高レート放電を行うよう、上記二次電池を制御し、
上記二次電池の正極(4)は、第一活物質(41)と、上記始動時において上記高レート放電を行う上記二次電池のSOC領域である高レート放電領域において、上記第一活物質よりも抵抗が高くなる高抵抗領域を有する第二活物質(42)と、を有し、
上記第一活物質の平均粒子径は、上記第二活物質の平均粒子径よりも大きく、
上記二次電池は、上記始動時に、上記高レート放電を行う際、上記第一活物質の利用率よりも上記第二活物質の利用率の方が高い状態になった後、上記第二活物質の利用率よりも上記第一活物質の利用率の方が高くなるよう構成されている、電池システムにある。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
本発明の第二の態様は、電動飛行体(100)に搭載されると共に、正極(4)及び負極(5)を有する二次電池(2)であって、
上記正極は、第一活物質(41)と、上記二次電池のSOCの値が所定の値のとき、上記第一活物質よりも抵抗が高くなる第二活物質(42)と、を有し、
上記第一活物質は、層状岩塩型構造を有するリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物であり、上記第二活物質は、オリビン型構造を有するリン酸マンガン鉄リチウムであり、
上記第一活物質の平均粒子径は、上記第二活物質の平均粒子径よりも大きい、二次電池にある。