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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114078
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】スポット溶接強度推定装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 31/00 20060101AFI20240816BHJP
   B23K 11/25 20060101ALI20240816BHJP
   B23K 11/11 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
B23K31/00 Z
B23K11/25 510
B23K11/25 511
B23K11/25 513
B23K11/11
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023019472
(22)【出願日】2023-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】521435695
【氏名又は名称】株式会社 Henry Monitor
(71)【出願人】
【識別番号】509290809
【氏名又は名称】ART-HIKARI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082876
【弁理士】
【氏名又は名称】平山 一幸
(74)【代理人】
【氏名又は名称】柿本 恭成
(74)【代理人】
【識別番号】100178906
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 充和
(72)【発明者】
【氏名】中野 禅
(72)【発明者】
【氏名】寺島 直道
(72)【発明者】
【氏名】小木曽 久人
(72)【発明者】
【氏名】吉川 誠也
【テーマコード(参考)】
4E165
【Fターム(参考)】
4E165AB02
4E165AC01
4E165BB02
4E165BB12
4E165CA22
4E165CA25
(57)【要約】
【課題】 スポット溶接作業とほぼ同時進行で、各スポット溶接部の溶接強度を推定し、溶接状態の可否を判定するようにした、スポット溶接強度推定装置を提供する。
【解決手段】 溶接すべき材料のスポット溶接すべき領域の両面から電極棒54,55を加圧して挟持し、電圧を印加して当該材料の溶接を行なうスポット溶接機50に関し、スポット溶接毎に溶接電流,溶接電圧,電極棒の動作荷重及び溶接時の電極棒の変位量をそれぞれ検出する計測機構を含む計測部20と、計測部で計測された溶接電圧,溶接電流,動作荷重及び変位量から成る計測データ26を記憶する記憶部27と、計測データに基づいてスポット溶接部の溶接強度31を推定する推定部30と、を備え、計測部20が、スポット溶接時の各計測データをスポット溶接に要する時間より短い計測時間間隔で計測して記憶部に登録し、推定部が、各計測データに基づいて当該スポット溶接部の溶接強度31を推定するように、スポット溶接強度推定装置10を構成する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接すべき材料のスポット溶接すべき領域の両面から電極棒を加圧して挟持し、電流を流すことにより当該材料の溶接を行なうスポット溶接機に関し、
スポット溶接毎に溶接電流,溶接電圧,電極棒の動作荷重及び溶接時の電極棒の変位量をそれぞれ検出する計測機構を含む計測部と、
前記計測部で計測された溶接電流,溶接電圧,動作荷重及び変位量から成る計測データを記憶する記憶部と、
前記計測データに基づいてスポット溶接部の溶接強度を推定する推定部と、
を備えており、
前記計測部が、スポット溶接時の各計測データをスポット溶接に要する時間より短い計測時間間隔で計測して記憶部に登録し、
前記推定部が、各計測データに基づいて、当該スポット溶接部の溶接強度を推定することを特徴とする、スポット溶接強度推定装置。
【請求項2】
スポット溶接機が、溶接すべき材料に対して順次に複数箇所のスポット溶接を行なう場合に、前記推定部が、次のスポット溶接の開始前に、当該スポット溶接部の溶接強度を推定することを特徴とする、請求項1に記載のスポット溶接強度推定装置。
【請求項3】
前記計測部の前記計測時間間隔が、0.1秒より短い計測時間間隔で計測データの計測を行なうことを特徴とする、請求項1に記載のスポット溶接強度推定装置。
【請求項4】
前記計測部の各データが、同期されて計測されることを特徴とする、請求項1に記載のスポット溶接強度推定装置。
【請求項5】
前記推定部が、前もって評価サンプルの評価試験により取得した評価データと目的関数としての溶接強度との相関に関する相関データを用いて、前記計測データに基づいて当該スポット溶接部の溶接強度を推定することを特徴とする、請求項1に記載のスポット溶接強度推定装置。
【請求項6】
前記推定部が、スポット溶接部の溶接強度推定のために取得した前記計測データ及び前記推定溶接強度を前記相関データに組み入れて、相関データを更新し追加学習させることを特徴とする、請求項5に記載のスポット溶接強度推定装置。
【請求項7】
さらに、前記計測データ及び前記推定溶接強度に基づいて、当該スポット溶接部の溶接状態の可否判定を行なう判定部を備えていることを特徴とする、請求項1に記載のスポット溶接強度推定装置。
【請求項8】
前記判定部が、当該スポット溶接部の溶接状態が否であるとき、溶接状態否である旨の通知及び前記推定溶接強度を、前記スポット溶接機に送出することを特徴とする、請求項7に記載のスポット溶接強度推定装置。
【請求項9】
前記計測データが、溶接電流,溶接電圧,動作荷重及び変位量のうち、少なくとも一つであることを特徴とする、請求項1に記載のスポット溶接強度推定装置。
【請求項10】
前記計測部が当該スポット溶接部に関して複数の計測データを取得した場合に、前記推定部が、計測データ毎にそれぞれ溶接強度を推定するか又は各計測データのうち複数の組み合わせに対して溶接強度を推定することを特徴とする、請求項1に記載のスポット溶接強度推定装置。
【請求項11】
前記判定部が、複数の推定溶接強度に対して、それぞれ当該スポット溶接部の溶接状態の可否を判定した判定結果に基づいて多数決,平均値,最大値,最小値,統計解析処理,数値解析処理等の数学的処理により、当該スポット溶接部に関する総合的な溶接状態の可否を判定することを特徴とする、請求項10に記載のスポット溶接強度推定装置。
【請求項12】
前記判定部が、当該スポット溶接部の推定溶接強度に関して、一つのしきい値で溶接状態の可否を判定することを特徴とする、請求項1に記載のスポット溶接強度推定装置。
【請求項13】
前記判定部が、当該スポット溶接部の推定溶接強度に関して、複数のしきい値で溶接状態の可否又は条件付き可を判定することを特徴とする、請求項1に記載のスポット溶接強度推定装置。
【請求項14】
前記判定部が、当該スポット溶接部の溶接状態を条件付き可と判定した場合に、直前のスポット溶接部の溶接状態の可否を参照して、当該スポット溶接部の溶接状態の可否を判定することを特徴とする、請求項13に記載のスポット溶接強度推定装置。
【請求項15】
前記判定部が、当該スポット溶接部の溶接状態を条件付き可と判定した場合に、以降のスポット溶接部の溶接条件を再設定する旨の通知及び前記推定溶接強度を前記スポット溶接機に送出することを特徴とする、請求項13に記載のスポット溶接強度推定装置。
【請求項16】
前記判定部が、当該スポット溶接部の推定溶接強度を、それ以前のスポット溶接部の推定溶接強度と比較して、その変化に基づいて前記計測部,前記スポット溶接機及び溶接すべき材料の異常を検出し、前記スポット溶接機に対して溶接作業中止の旨を送出することを特徴とする、請求項1から15の何れかに記載のスポット溶接強度推定装置。
【請求項17】
前記スポット溶接機と一体に構成されていることを特徴とする、請求項1に記載のスポット溶接強度推定装置。
【請求項18】
前記スポット溶接機と別体に構成されていることを特徴とする、請求項1に記載のスポット溶接強度推定装置。
【請求項19】
前記計測部のみが前記スポット溶接機に取り付けられ、前記計測部が、ネットワークを介して前記記憶部,推定部及び判定部に接続されていることを特徴とする、請求項1に記載のスポット溶接強度推定装置。
【請求項20】
複数台のスポット溶接機に対して、それぞれ一つの計測部が取り付けられ、各計測部が、それぞれネットワークを介して共通の一つの記憶部,推定部及び判定部に接続されていることを特徴とする、請求項1に記載のスポット溶接強度推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二枚以上の複数の板材を重ね合わせて両面から一対の電極棒を加圧して挟持し、電極棒間に電圧を印加することにより溶接を行なうスポット溶接において、特にスポット溶接部の溶接強度を推定し、溶接状態の可否を判定するスポット溶接強度推定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車製造等の金属製品製造の分野において、金属板を接合するための方法として、スポット溶接が広く採用されている。より具体的には、自動車の製造においては、一台あたり3000~4000箇所のスポット溶接が行なわれている。
従来、スポット溶接機50は、例えば図18及び図19に示すように、互いに接合すべき二枚の金属等から成る板材51,52を、接合すべき領域(以下、接合領域と称する)53を重ねた状態で配置し、この接合領域53に対して上下から一対の電極棒54,55を加圧して当接させた状態で、双方の電極棒54,55間に電源56から電圧を印加するように構成されている。
ここで、電極棒54,55は、荷重手段58により互いに上下に近接して所定の動作荷重で板材51,52を加圧する。荷重手段58及び電源56は、制御部59により制御されて、スポット溶接が行なわれる。即ち、制御部59は、スポット溶接の溶接条件を設定して、設定された溶接条件に基づいて荷重手段58及び電源56を動作させる。
この構成により、一方の電極棒54から接合領域53を介して他方の電極棒55に向かって電流Iを流すことで、当該接合領域53の双方の板材51,52が加熱溶融し、その後冷却されてスポット溶接部が形成される。このようにして、スポット溶接部によって、双方の板材51,52が接合領域53にて互いに接合される。
【0003】
ところで、スポット溶接部は、溶接すべき材料間の構造の強度を担保するために利用されることが多く、溶接強度を含む溶接品質の向上が重要な課題である。このため、スポット溶接部の溶接強度を知ることは、強度の担保のためにも重要であるが、従来容易ではなかった。
【0004】
例えば、特許文献1には、磁界を生成する発信コイルと、スポット溶接の電極および前記発信コイルによって生成された磁界を検査対象とするナゲットに集中させる磁路として使用される棒状部材と、前記ナゲットを透過した磁界に応じた誘導起電圧を生成する複数の受信コイルとを備え、発信コイルは棒状部材に巻回され、前記複数の受信コイルは発信コイルの外周部に巻回されることを特徴とする、電磁誘導型センサーが開示されている。
【0005】
このような構成の電磁誘導型センサーにおいては、スポット溶接機に評価用の装置を取り付けて、スポット溶接の強度評価を行なうようになっており、スポット溶接後に、スポット溶接の強度評価を行なうものである。従って、自動車製造のように、多数のスポット溶接部がある場合には、個々のスポット溶接部の溶接の良、不良を調査することは実際には困難であることに加え、スポット溶接作業が例えば1秒未満の非常に短い計測時間間隔で順次に行なわれることから、スポット溶接作業とほぼ同時進行で溶接強度を評価する必要がある。
【0006】
また、本出願人による特許文献2には、スポット溶接部に隣接した励起コイルに、複数の周波数の励起信号を印加して、当該スポット溶接部に交番磁界を発生させる第一の段階と、当該スポット溶接部の状態に応じて乱れる磁束により検出コイルに発生する検出信号を計測する第二の段階と、検出信号に基づいて当該スポット溶接部の状態を評価する第三の段階と、を含み、第三の段階にて、前もって設定されたスポット溶接部の評価対象の目的関数の定量値と第一の段階の励起信号及び第二の段階の検出信号との相関に関する相関データを用いて、第二の段階の検出信号に基づいて、スポット溶接部の評価対象の目的関数を推定する、スポット溶接部のAI評価方法であって、第二の段階の検出信号から第一の段階の励起信号に対する複素振幅比を測定データとして求め、測定データのうち、目的関数の定量値と、対応する比較用データとしての検出信号の複素振幅比とから、複数種類の分類を定義して、分類毎に相関データとしての評価式を定義し、さらに、各測定データに関して、当該測定データに対応する分類を選択して、選択した分類に対応する評価式により、測定データから評価対象の目的関数を推定するように構成した、スポット溶接部のAI評価方法が開示されている。
【0007】
このような構成のスポット溶接部のAI評価方法は、スポット溶接後に、非破壊検査によって、スポット溶接部の溶接の良,不良を評価するものである。しかしながら、同様にして、自動車製造のように多数のスポット溶接部がある場合に、各スポット溶接部にて溶接時間の後に評価時間を確保する必要があることから、個々のスポット溶接部の溶接強度の評価を行なうことは実質的に困難である。
【0008】
さらに、特許文献3には、スポット溶接部に対して超音波を使用して、その寸法評価を行なうようにした超音波検査装置が開示されている。
この超音波検査装置によれば、超音波を利用して、スポット溶接部の超音波による振動の周波数又は波長と溶接部の断面寸法との相関関係から、スポット溶接部の断面寸法を求めるようになっており、溶接強度を直接に評価するものではない。従って、溶接後に検査する方法であるので、個々のスポット溶接部の溶接強度の評価を行うことは実質的に困難である。
【0009】
溶接時間の間に溶接状態をモニターする方法として、特許文献4には溶接電流と電圧を測定して発熱を電気的に測定し、スポット溶接部の溶融領域の直径であるナゲット径を算出する方法や、特許文献5には溶接開始後の加圧力変化状態を検出し、ナゲットの生成状態を推定する方法などが多数提案されている。
【0010】
これまでの提案の多くはナゲット径の状態を推定するもの、もしくは、ある閾値に対する応答から合否判定するものであり、直接強度を推定する手法は無かった。
【0011】
ナゲット径と強度の関係については、特許文献6にナゲット径から破断限度荷重を推定する方法の提案があるが、単純に解を求めることができず、条件によって関係式が変化するなど利用上の課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第3317366号公報
【特許文献2】特願2021-164350号
【特許文献3】特許第6030013号公報
【特許文献4】特開平1-271078号公報
【特許文献5】特開2002-239743号公報
【特許文献6】特許第4133956号
【特許文献7】特許第6283965号
【0013】
これに対して、スポット溶接部の溶接強度を評価するために、試験片を作成して、試験片を用いて破壊試験を行なう方法がある。
しかしながら、実際の金属製品では、多数のスポット溶接により金属板材の接合を行なうことが多く、実際の金属製品を破壊して溶接強度を評価することは困難である。このため、スポット溶接作業をしながら、溶接作業時間とほぼ匹敵するような評価時間で、各スポット溶接部の溶接強度の評価を行なうことが望ましい。
さらに、評価した溶接強度から、溶接状態の可否を判定することによって、溶接状態が否と判定された場合に、スポット溶接機にフィードバックすることにより、それ以降のスポット溶接の溶接条件を再設定して、溶接強度を保持する、もしくは溶接作業を中断することができれば、製品歩留りの低減を抑制することが可能となるが、現在実現されていない。さらには、スポット溶接に不具合が発生した場合には、作業済みの各スポット溶接部の溶接条件及び溶接強度から、スポット溶接に関する所謂トレーサビリティを実現することができれば一層好ましいが、これまで何れも実現されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は以上の点に鑑み、スポット溶接作業とほぼ同時進行で、各スポット溶接部の溶接強度を推定し、溶接状態の可否を判定するようにした、スポット溶接強度推定装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的は、本発明によれば、溶接すべき材料のスポット溶接すべき領域の両面から電極棒を加圧して挟持し、電流を流すことにより当該材料の溶接を行なうスポット溶接機に関し、スポット溶接毎に溶接電流,溶接電圧,電極棒の動作荷重及び溶接時の電極棒の変位量をそれぞれ検出する計測機構を含む計測部と、計測部で計測された溶接電流,溶接電圧,動作荷重及び変位量から成る計測データを記憶する記憶部と、計測データに基づいてスポット溶接部の溶接強度を推定する推定部と、を備えており、計測部が、スポット溶接時の各計測データをスポット溶接に要する時間より短い計測時間間隔で計測して記憶部に登録し、推定部が、各計測データに基づいて、当該スポット溶接部の溶接強度を推定することを特徴とする、スポット溶接強度推定装置により達成される。
【0016】
上記構成において、スポット溶接機が溶接すべき材料に対して順次に複数箇所のスポット溶接を行なう場合に、好ましくは、推定部が、次のスポット溶接の開始前に当該スポット溶接部の溶接強度を推定する。
計測部の計測時間間隔は、好ましくは、0.1秒より短い計測時間間隔で、各計測データの計測を行なう。好ましくは、計測部の各データは、同期されて計測される。
好ましくは、推定部は、前もって評価サンプルの評価試験により取得した評価データと目的関数としての溶接強度との相関に関する相関データを用いて、計測データに基づいて当該スポット溶接部の溶接強度を推定する。推定部は、好ましくは、スポット溶接部の溶接強度推定のために取得した計測データ及び推定溶接強度を相関データに組み入れて、追加学習させる。
好ましくは、さらに、計測データ及び推定溶接強度に基づいて、当該スポット溶接部の溶接状態の可否判定を行なう判定部を備えている。この判定部は、好ましくは、当該スポット溶接部の溶接状態が否であるとき、溶接状態否である旨の通知及び推定溶接強度を、前記スポット溶接機に送出する。
計測データは、好ましくは、溶接電流,溶接電圧,動作荷重及び変位量のうち、少なくとも一つである。
計測部は、好ましくは、当該スポット溶接部に関して複数の計測データを取得した場合に、推定部が計測データ毎にそれぞれ溶接強度を推定するか又は各計測データのうち複数の組み合わせに対して溶接強度を推定する。
判定部は、好ましくは、複数の推定溶接強度に対して、それぞれ当該スポット溶接部の溶接状態の可否を判定し、その判定結果に基づいて多数決,平均値,最大値,最小値,統計解析処理,数値解析処理等の数学的処理により、当該スポット溶接部に関する総合的な溶接状態の可否を判定する。判定部は、好ましくは、当該スポット溶接部の推定溶接強度に関して、一つのしきい値で溶接状態の可否を判定する。判定部は、好ましくは、当該スポット溶接部の推定溶接強度に関して、複数のしきい値で溶接状態の可否又は条件付き可を判定する。
判定部は、好ましくは、当該スポット溶接部の溶接状態を条件付き可と判定した場合に、直前のスポット溶接部の溶接状態の可否を参照して、当該スポット溶接部の溶接状態の可否を判定する。
判定部は、好ましくは、当該スポット溶接部の溶接状態を条件付き可と判定した場合に、以降のスポット溶接部の溶接条件を再設定する旨の通知及び前記推定溶接強度をスポット溶接機に送出する。
判定部は、好ましくは、当該スポット溶接部の計測データ及び推定溶接強度を、それ以前のスポット溶接部の推定溶接強度及び計測データと比較して、その変化に基づいて、計測部,スポット溶接機及び溶接すべき材料の異常を検出し、スポット溶接機に対して溶接中止の旨を送出する。
スポット溶接強度推定装置は、好ましくは、スポット溶接機と一体に構成される。
スポット溶接強度推定装置は、スポット溶接機と別体に構成されてもよい。
計測部のみがスポット溶接機に取り付けられ、計測部がネットワークを介して記憶部,推定部及び判定部に接続されてもよい。或いは、複数台のスポット溶接機に対して、それぞれ一つの計測部が取り付けられ、各計測部が、それぞれネットワークを介して共通の一つの記憶部,推定部及び判定部に接続されていてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、スポット溶接作業とほぼ同時進行で、各スポット溶接部の溶接強度を推定し、溶接状態の可否を判定するようにした、極めて優れたスポット溶接強度推定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明によるスポット溶接強度推定装置の第一の実施形態の構成を示すブロック図である。
図2図1のスポット溶接強度推定装置の要部を示す部分斜視図である。
図3】追加学習用の教師データ1の取得を示す図である。
図4】追加学習用の教師データ2の取得を示す図である。
図5図1のスポット溶接強度推定装置の構成の概要を示す図である。
図6図1のスポット溶接強度推定装置によるスポット溶接時の各計測データの一例を示すグラフである。
図7図1のスポット溶接強度推定装置による一つのスポット溶接部に対するスポット溶接の前後を含む各計測データの変化を示すグラフである。
図8】(A)学習時及び(B)検証時におけるスポット溶接の動作荷重による溶接強度の推定結果を示す図である。
図9】(A)学習時及び(B)検証時におけるスポット溶接の溶接電圧による溶接強度の推定結果を示す図である。
図10】(A)学習時及び(B)検証時におけるスポット溶接の溶接電流による溶接強度の推定結果を示す図である。
図11】(A)学習時及び(B)検証時におけるスポット溶接の電極棒の変位量による溶接強度の推定結果を示す図である。
図12】(A)学習時及び(B)検証時におけるスポット溶接の不適正な計測データを除いた場合の動作荷重による溶接強度の推定結果を示す図である。
図13】(A)学習時及び(B)検証時におけるスポット溶接の溶接電流と溶接の変位量の組み合わせによる溶接強度の推定結果を示す図である。
図14】(A)学習時及び(B)検証時におけるスポット溶接の溶接電圧の平均と溶接の変位量の組み合わせによる溶接強度の推定結果を示す図である。
図15】連続スポット溶接作業時の(A)溶接状態否発生時,(B)溶接状態否発生後の第一のスポット溶接対応及び(C)溶接状態否発生後の第二のスポット溶接作業対応をそれぞれ示す概略図である。
図16】本発明によるスポット溶接強度推定装置の第二の実施形態の概要を示す図である。
図17】本発明によるスポット溶接強度推定装置の第三の実施形態の概要を示す図である。
図18】一般的なスポット溶接を示す概略説明図である。
図19】一般的なスポット溶接を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明によるスポット溶接強度推定装置の第一の実施形態をスポット溶接機に組み込んだ構成を示している。図1に示すように、スポット溶接強度推定装置10は、計測部20と、記憶部27と、推定部30と、判定部40と、から構成されている。
【0020】
ここで、スポット溶接機50は、図18に示したスポット溶接機と同じ構成であり、溶接すべき板材51,52の接合領域53、つまり溶接すべき材料のスポット溶接すべき領域の両面を、図示の場合、上下から電極棒54,55にて加圧し、電源56から電極棒54,55間に電流を流して、接合領域53で板材51,52を溶融させ、互いに接合させてスポット溶接部57を形成する。電極棒54,55は、荷重手段58により上下方向に所定の動作荷重で板材51,52を挟持する。
電源56及び荷重手段58は、制御部59により制御され、電極棒54,55間に流れる電流又は電圧そして通電時間が適宜に調整され、電極棒54,55の動作荷重が適宜に調整される。
【0021】
従って、スポット溶接機50の制御部59は、スポット溶接の溶接条件を設定し、設定された溶接条件に基づいて、電源56及び荷重手段58を駆動制御することにより、スポット溶接の作業開始によって荷重手段58が電極棒54,55にて板材51,52を挟持し、所定の動作荷重まで加圧した後、電源56により電極棒54,55間に所定時間だけ電流を流して通電加熱する。これにより、スポット溶接領域53で板材51,52が電気抵抗による発熱によって溶融すると共に、荷重手段58による動作荷重によって圧縮される。所定時間の経過後に、スポット溶接機50の制御部59は、電源56による通電を終了した後、所定の待機時間経過後に荷重手段58による加圧を解除し、スポット溶接の動作が終了する。
【0022】
計測部20は、スポット溶接機50の電源56に設けられた電流計測機構21及び電圧計測機構22と、荷重手段58に設けられた荷重計測機構23と、電極棒54又は55に設けられた加圧方向の変位を検出する変位計測機構24と、データ収集部25と、から構成されている。以下、それぞれの計測機構を、電流計、電圧計、荷重計、変位計と呼ぶ。電流計21は、電源56から電極棒54,55間に流れる電流を検出し、電圧計22は、電極棒54,55間の電圧を検出する。荷重計23は、電極棒54,55そして板材51,55に印加される動作荷重を検出する。
【0023】
変位計24は、電極棒54および55の動作における位置関係を計測するものであり、スポット溶接の工程中に、電極棒54,55に加えた荷重によって板材51,52に生じた変形および、板材51,52に流した電流により、その電気抵抗で発生する熱で板材51,52が過熱溶融するが、その際の熱膨張や弾性率の変化に基づいて、電極棒54,55が動作荷重により互いに接近するときの電極棒54,55間の距離即ち変位の変化を検出するものである。変位計24は、具体的には、図2に示すように、スポット溶接機50の電極棒54,55を支持する部分に取り付けられている。電流計21、電圧計22、荷重計23、変位計24については、それぞれ計測用の機構装置を取り付けて行うことの他、スポット溶接機50の基本構成としての電源や電極棒54,55の押圧等の動作機構に備えられた装置が保有する上記の電流計21、電圧計22、荷重計23、変位計24の何れかの機能による出力を利用することもできる。
【0024】
データ収集部25は、これらの電流計21,電圧計22,荷重計23及び変位計24からの検出信号を、予め設定された計測時間間隔、例えばスポット溶接時間に対して十分に短い計測時間間隔、好ましくは0.1秒(100ms)以下、例えば0.02秒、0.04秒、0.05秒、0.07秒等の時間間隔で、それぞれ電流,電圧,荷重及び変位量の計測データ26として収集して、記憶部27に登録する。電流,電圧,荷重及び変位量の計測は、時間軸で同期させて測定してもよい。この場合、電流,電圧,荷重及び変位量の少なくとも1つ以上を同期して測定してもよい。例えば、電流と電圧、電流と荷重という二つの計測のデータを同期して測定してもよい。
なお、データ収集部25は、各計測データ26の変化が比較的大きい通電時間の間のみ、例えば0.01秒(10ms)の計測時間間隔で、通電時間の前後では、0.1秒の計測時間間隔で検出信号の収集を行なうようにしてもよい。
【0025】
また、データを収集する時間は、通電時間の間に網羅的に計測データ26を検出することが精度向上の観点から望ましいが、通電時間の一部のみで計測データ26を検出することも可能である。
【0026】
推定部30は、計測部20で計測されて記憶部27に登録された計測データ26を読み出して、各計測データ26に関して、強度推定演算として事前学習により取得した推定関数を用いて、目的関数としての当該スポット溶接部57の溶接強度31の推定を行ない、計測データ26に関連付けて記憶部27に登録する。
【0027】
ここで、さらに、記憶部27は、溶接強度の推定のために、スポット溶接に関し、目的関数である溶接強度と説明関数である計測データ26との相関に関する相関データを記憶する。
相関データは、前もって評価サンプルの評価試験により取得した評価データと目的関数としての溶接強度との相関に関するものであり、例えば事前に溶接状態が変わると見込めるように溶接パラメータを変化させた試験サンプルを作成して、この試験サンプルに対して引っ張り試験等を実施して、溶接強度等の必要な特性を計測することにより取得され得る。得たい特性とスポット溶接中の状態変化について、その関係を異なるパターンで比較した結果について、溶接強度を目的関数とし、計測データ26を説明関数又は応答関数として、AIや多項分析等の手法により事前学習し、推定関数を得ておく。ここで、AI等の学習に用いるデータは学習データ又は教師データと呼ばれている。その際、推定関数を得るための推定手法としては、ニューラルネットワーク等のAI分析手法やPLS(Partial Least Squares)解析等の多変量分析手法等が有効に利用可能であるが、これらに限定されるものではない。
なお、推定部30は、スポット溶接機10によるスポット溶接作業が完了した完成品に対して、その溶接強度評価又は品質検査の結果を導入して追加学習することにより、推定関数を修正することができる。これにより溶接強度の推定の精度が向上する。
【0028】
推定部30は、計測データ26に基づいて、記憶部27に記憶されている相関データを用いて、上述した推定関数により目的関数としての溶接強度31を推定する。その際、推定部30は、溶接電流,溶接電圧,動作荷重及び変位量の計測データ26のうち、一種の計測データに基づいて溶接強度を推定することが可能である。これは、これらのパラメータ即ち制御パラメータと応答パラメータである溶接電流,溶接電圧,動作荷重及び変位量がスポット溶接の際にそれぞれ時間的変化を有しており、それぞれ個別的に溶接強度を推定することが可能だからである。この構成によれば、スポット溶接時の材料の溶融による溶接電流,溶接電圧,動作荷重及び電極棒54,55の変位量がいずれも変化することになるので、これらのうち、少なくとも一つの計測データ26の変化を検出することによって、当該スポット溶接部57の溶接強度を推測することができる。
【0029】
また、推定部30は、溶接電流,溶接電圧,動作荷重及び変位量の計測データ26のうち、二種から四種の計測データを組み合わせて、溶接強度を推定することも可能であり、複数の組み合わせによって、より高精度で溶接強度を推定することができる。この構成によれば、複数の計測データ26毎にそれぞれ溶接強度を推定し、又は複数の計測データ26の組み合わせに対して溶接強度を推定することにより、より確実に溶接強度を推定することができる。
【0030】
さらに、推定部30は、計測データ26のうち、複数の計測データを一つのデータにまとめて、これを計測データとして、一つの推定関数により溶接強度を推定することも可能である。これにより、推定部30が前もって用意した評価データと溶接強度との相関に関する相関データにより溶接強度を推定するので、たがね試験等のようなスポット溶接部57の引きはがし試験等で製品を破壊することなく、所謂非破壊検査で、スポット溶接部57の溶接強度を推定することができる。
【0031】
推定部30が、スポット溶接部57の溶接強度推定のために取得した計測データ26及び推定溶接強度31を相関データに組み入れて、追加学習させてもよい。この構成によれば、スポット溶接の作業を実行しながら、スポット溶接部57の溶接強度推定のための計測データ26及び推定溶接強度31を、相関データに組み入れることにより、所謂追加学習により溶接強度の推定精度を高めることができる。
【0032】
追加学習のためには、実際の強度を破壊試験により評価し、その結果を教師データとして学習させる必要がある。しかしながら、実際の製品の破壊試験は容易には実施できず、代替となる試験片での実験結果を用いることが多い。この場合も試験数を増やすことは容易ではなく、学習用の試験データを増やす手法が求められる。そこで、分析項目、つまり説明変数が異なる他の非破壊評価技術を用いて強度評価推定を実施することも有効な手法となる。
【0033】
(追加学習用の教師データ1)
例えば、分析項目が異なる他の非破壊評価技術として、図3に示すコイルを用いた非接触式センサー15を用いることができる(特許文献7参照)。非接触式センサー15は、例えば10kHzから200kHzの周波数範囲で励起コイルに信号が印加され、励起コイルの周囲に配置される検出コイルが、スポット溶接品のスポット溶接部57を走査して、複素振幅と位相を有している所定の周波数範囲の信号が検出される。この場合、説明変数は、複素振幅と位相を有している所定の周波数範囲の信号となる。非接触式センサーからの信号により、スポット溶接部の溶接強度の推定値が算出される(特許文献2参照)。特許文献2による非破壊推定結果(所定の周波数範囲の複素振幅と位相)は、非破壊評価手法により溶接部内部の状態に関係した応答を求めた結果であり、溶接中の溶接電流、溶接電圧、変位量、動作荷重などとは異なる情報に基づく評価手法であり、この推定結果を学習に利用することが可能である。
【0034】
(追加学習用の教師データ2)
また、逆に図4に示すように、スポット溶接機50によりスポット溶接し、推定したスポット溶接部の溶接強度の推定値を追加学習用の教師データとして、非接触式センサー15による推定に用いることも可能である。上記した追加学習用の教師データによれば、教師学習の内容や分析手法が異なる推定方法を組み合わせることで、より学習を行いやすい手法による推定結果を用いて教師データとすることができ、スポット溶接部の溶接強度の推定を容易にする。
【0035】
これらのスポット溶接部の溶接強度の推定値精度の確保のためには、試験片や実際の製品の破壊試験による実際の値を学習に投入することは必須である。つまり、学習では破壊試験を不要には出来ない。しかしながら、非破壊推定結果等の複数の推定手法による結果から、例えば大きく異なる場合など傾向的な違いが見られるか等を基準にして、非破壊推定結果等により破壊試験に供するサンプルを選定することが可能である。
【0036】
スポット溶接機50が、溶接すべき材料に対して、順次に複数箇所のスポット溶接を行なう場合、推定部30が、次のスポット溶接の開始前に、当該スポット溶接部57の溶接強度を推定してもよい。この構成によれば、一つのスポット溶接部57の溶接強度の推定が、次のスポット溶接の開始前に、即ちスポット溶接の計測時間間隔より短い時間で完了するので、次のスポット溶接の際に、直前のスポット溶接部57の溶接強度を参照することができる。
【0037】
判定部40は、計測部20で計測された計測データ26と推定部30で推定された溶接強度31に基づいて、当該スポット溶接部57の溶接状態の可否の判定を一つのしきい値で行なうことができる。判定部40は、推定溶接強度31がしきい値以上の場合には、溶接強度が十分であるとして、溶接状態を可と判定し、推定溶接強度31がしきい値未満の場合には、溶接強度が不十分であるとして、溶接状態を否と判定する。そして、判定部40は、当該スポット溶接部の溶接状態を否と判定した場合、その旨の通知41及び推定溶接強度31を、スポット溶接機50の制御部59に送出する。
【0038】
この構成によれば、判定部40は、当該スポット溶接部57に関して、溶接状態が可又は否であると判定することができる。つまり、スポット溶接機50が、スポット溶接強度推定装置10から送出される溶接状態が否である旨の通知及び推定溶接強度31を受け取ることにより、スポット溶接部57の溶接状態が否であることを把握し、そのときの推定溶接強度31を認識することができる。これにより、次のスポット溶接部57のスポット溶接を実行する前に、当該スポット溶接部の溶接状態の可否が分かるので、次のスポット溶接部57のスポット溶接に関して、溶接作業を中止し、あるいは溶接条件を再設定する等の対応が可能となる。
【0039】
これに対して、判定部40は、複数のしきい値で溶接状態の可否を判定することも可能である。
この場合、判定部40は、推定溶接強度31がより高い第一のしきい値以上の場合に、溶接強度が十分であるとして、溶接状態を可と判定し、推定溶接強度31がより低い第二のしきい値未満の場合には、溶接強度が不十分であるとして、溶接状態を否と判定すると共に、推定溶接強度が第一のしきい値未満で第二のしきい値以上である場合には、推定溶接強度31の値に応じた対策を条件とする条件付き可と判定する。この構成によれば、判定部40は、当該スポット溶接部57の推定溶接強度31に応じて、推定溶接強度が最大のしきい値以上の場合には、溶接状態を可と判定し、推定溶接強度31が最小のしきい値未満の場合には、溶接状態を否と判定し、推定溶接強度31が最大のしきい値と最小のしきい値の間の値である場合には、溶接条件の再設定により適正な溶接強度を得られるものとして、条件付き可と判定する。
【0040】
判定部40は、計測部20が一つのスポット溶接部57に関して複数の計測データ26を取得した場合には、計測データ26毎に推定される複数の推定溶接強度31に対して、それぞれ溶接状態の可否を判定し、その判定結果に基づいて、多数決,平均値,最大値,最小値、統計解析処理,数値解析処理等の数学的処理により、当該スポット溶接部57に関する総合的な溶接状態の可否を判定する。この構成によれば、当該スポット溶接部57の推定部30による複数の推定溶接強度31を取得したとき、判定部40は、当該スポット溶接部57に関する総合的な溶接状態の可否を判定する際に、溶接すべき材料や製品を考慮して、最適な数学的処理を行なうことにより、適切な溶接状態の可否を判定することができる。
【0041】
さらに、判定部40は、当該スポット溶接部57の溶接状態を条件付き可と判定した場合、直前のスポット溶接部57の溶接状態の可否を参照して、当該スポット溶接部57の溶接状態の可否を判定する。これにより、直前のスポット溶接部57の溶接状態が十分なものであれば、全体としての溶接強度が確保できればよいので、溶接状態が可と判定することができる。この構成によれば、判定部40は、当該スポット溶接部57の溶接状態を条件付き可とした場合に、直前のスポット溶接部57の溶接状態が可であれば、当該スポット溶接部57の溶接部の溶接状態を可としても、溶接すべき材料そして製品全体として十分な溶接状態が確保できる。
【0042】
また、判定部40は、当該スポット溶接部57の溶接状態を否と判定した場合、その旨の通知41及び推定溶接強度31を、スポット溶接機50の制御部59に送出する。スポット溶接機50の制御部59は、判定部40からの通知41又は42を受け取った場合、溶接状態が否である旨を認識し、それ以降のスポット溶接について、そのときの推定溶接強度31に応じて溶接作業を中止し、あるいは溶接条件を再設定する等の対応策を取ることができる。
【0043】
これに対して、判定部40は、当該スポット溶接部57の溶接状態を条件付き可と判定した場合、以降のスポット溶接の溶接条件を再設定する旨の通知42及び推定溶接強度31をスポット溶接機50の制御部59に送出する。この構成によれば、スポット溶接機が、本装置から送出される溶接条件を再設定する旨の通知42を受け取ることにより、スポット溶接部57の溶接状態を条件付き可とし、以降のスポット溶接部57の溶接条件を再設定すれば、適正な溶接強度を得られることを把握し、溶接条件を再設定することにより、スポット溶接の作業をそのまま継続することができる。
【0044】
さらに、判定部40は、当該スポット溶接部57の計測データ26及び推定溶接強度31を、それ以前のスポット溶接部57の計測データ26及び推定溶接強度31からの変化に基づいて、計測部20,スポット溶接機50及び溶接すべき材料51,52の異常を検出した場合には、スポット溶接機50に対して溶接中止の旨の通知43を送出する。この構成によれば、判定部40が、計測データ26及び推定溶接強度31の変化に基づいて、通常のスポット溶接とは異なる計測データ及び推定溶接強度31の変化が現れた場合に、その変化に応じて、計測部20自体の不具合、スポット溶接機50の不具合、あるいは溶接すべき材料の不具合等の異常を検出することができる。これらの異常の検出と共に、検出した異常の原因に対応して、スポット溶接機50に対して溶接作業中止の旨を送出することにより、スポット溶接機50は、これらの修復不可能な異常に関して、即時に溶接作業を中止することができる。
【0045】
これにより判定部40は、推定溶接強度31の変化に基づいて、通常のスポット溶接とは異なる計測データ26及び推定溶接強度31の変化が現れた場合、その変化に応じて、計測部20自体の不具合、スポット溶接機50の不具合、あるいは溶接すべき材料51,52の不具合等の異常を検出することができると共に、異常の検出に対応して、スポット溶接機50に対して溶接作業中止の旨の通知43を送出する。
【0046】
本発明のスポット溶接強度推定装置10は、溶接すべき材料のスポット溶接部57の両面から電極棒54,55を加圧して挟持し、電流を流すことにより当該材料の溶接を行なうスポット溶接機50に関し、溶接電流を計測する電流計21,溶接電圧を計測する電圧計22,電極棒54,55の動作荷重を計測する荷重計23及び溶接時の電極棒54,55の変位量を検出する変位計24を含む計測部20と、計測部20で計測された溶接電流,溶接電圧,動作荷重及び変位量から成る計測データ26を記憶する記憶部27と、計測データ26に基づいてスポット溶接部57の溶接強度を推定する推定部30と、を備えており、計測部20が、スポット溶接時の各計測データ26をスポット溶接に要する時間より短い計測時間間隔で計測して記憶部27に登録し、推定部30が、各計測データ26に基づいて当該スポット溶接部57の溶接強度を推定することを特徴とする。
【0047】
本発明のスポット溶接強度推定装置10によれば、スポット溶接の際に、電極棒54,55間に電圧を印加して、溶接すべき材料のスポット溶接部57に電流を流すことで、当該スポット溶接部57が電気抵抗による発熱で溶解して材料の弾性率が変化し、電極棒54,55の荷重により圧縮変形することに着目して、溶接電流,溶接電圧そして動作荷重及び変位量から成る計測データ26の変化が計測部20により検出される。これにより、推定部30が、これらの計測データ26に関して、前もって取得してある評価データと溶接強度との相関に関する相関データを用いて、当該スポット溶接部57の溶接強度を推定する。
【0048】
その際、計測部20がスポット溶接に要する時間より短い計測時間間隔で各計測データ26を計測することにより、スポット溶接の作業中に複数回の計測を行なうことができるので、一つのスポット溶接部57について複数回の溶接強度を推定することになる。
従って、スポット溶接後に、直ちに当該スポット溶接部57の溶接強度を高精度で推定することができるので、ほぼリアルタイムで当該スポット溶接部57の溶接強度を把握することが可能となり、さらに溶接すべき材料から構成する製品のスポット溶接に関する歩留りを向上させることができる。
【0049】
ここで、上述したスポット溶接強度推定装置10は、図5に示すように、スポット溶接機50に対して一体に構成されており、計測部20,記憶部27,推定部30及び判定部40は、スポット溶接機50の筐体50A内に配置されている。この構成によれば、スポット溶接強度推定装置10がスポット溶接機50と一体に構成され、例えばスポット溶接機50内に設置されることにより、全体として小型に構成されることができる。
【0050】
図6は、スポット溶接機50によるスポット溶接の際の溶接条件としての電流,電圧,荷重及び変位量の一例を示している。
この場合、時刻0.00秒から時刻0.25秒までの間、電源56による電圧の印加が行なわれており、この通電時間の間、荷重及び電圧はほぼ一定であり、変位は、通電開始後から徐々に減少していることが分かる。
【0051】
次に、具体的な実施例について説明する。
(実施例)
実施例では、スポット溶接する際の溶接電流,溶接電圧,動作荷重及び電極棒54,55の変位量の計測を実施し、計測結果からスポット溶接部57の溶接強度を推定する。
この場合、溶接電流については、電極棒54,55に流れる電流をロゴスキーコイルを用いた電流計21により計測した。溶接電圧については、電極棒54,55と接地極の間の電圧を電圧計22により計測した。
動作荷重については、スポット溶接機50の機構として利用しているサーボモータから得られる出力を利用したが、荷重計23を別途設置して動作荷重を計測するようにしてもよい。電極棒54,55の変位量については、電極棒54,55先端の変位をレーザー変位計24を用いて測定する機構をスポット溶接機50に取り付けて計測した。
なお、溶接電流及び溶接電圧については、電源56に、電流,電圧をモニターする手段が設けられている場合には、当該手段を利用することもできる。
【0052】
データ収集部25としては、4チャンネルのオシロスコープを用いた。それぞれ電流計21,電圧計22,荷重計23及び変位計24で計測された検出信号の時間変化を4チャンネルのオシロスコープにより計測した。
その際、スポット溶接機50の動作原理から、電極棒54,55が移動して板材51,52に荷重が印加され、電源56により所定時間の間、溶接電流,溶接電圧が発生して、スポット溶接が行なわれ、その後電極棒54,55が初期位置に戻る。
従って、電極棒54,55の変位量の変化をトリガーとして、ある位置まで移動した時点から、計測データ26の収集が開始される。
【0053】
収集された電流,電圧,荷重及び変位量の計測データ26は、例えば図6に示され、0.005秒の計測時間間隔で計測が行なわれる。荷重及び変位量は左軸、電流及び電圧は右軸に対応している。この場合、オシロスコープの電圧によるモニター出力をそのまま表示している。
図7のグラフを参照すると、変位量の時間推移により、約0.6秒の間で溶接加工が行なわれ、その際、電流,電圧,荷重及び変位量が時間と共に推移していることが分かる。ここで、変位量の推移から、0.6秒の間に溶接加工が行なわれて、電流,電圧,荷重及び変位量が時間と共に推移していることが分かる。さらに、0.14秒から0.34秒までの0.2秒間に溶接電流が流れ、電圧が発生していることが分かる。
なお、これらの計測データ26は、スポット溶接機50や溶接条件の設定に依存している。
【0054】
ここで、電流,電圧,荷重及び変位量の変化は、通電により板材51,52が溶融して電気抵抗や弾性率の変化および熱膨張などによる材料が変形することによるものであり、電流及び電圧に関しては大きな変動はないが小さな変化が生じている。これは、電気抵抗の変化が小さいことによる。
これに対して、荷重及び変位量に関しては、大きな変化が生じている。これは、溶接条件で通電後に荷重を変化させていることもあるが、板材51,52の溶融により材料の熱膨張による変形や、温度による弾性率の変化により、板材51,52の接触状態が変化する等の物理的な変化による影響を受けていることによる。即ち、溶接加工による板材51,52の状態変化が、これら四つの電流,電圧,荷重及び変位量の計測データ26の変化として現れているものである。
従って、スポット溶接における溶接電流,溶接電圧,動作荷重及び電極棒54,55の変位量の四つの計測データ26を用いて溶接強度の推定のための学習を行なうために、例えばJISやISOで定義されているスポット溶接の強度試験や、実際の製品での強度評価試験等の評価対象の試験、ここでは、溶接強度として、引っ張り強度試験を行なう。
【0055】
まず、評価用に設定した溶接条件に基づいてスポット溶接を行なって、引っ張り強度評価試験片を作成する。その際、当該試験片のスポット溶接時の溶接電流,溶接電圧,動作荷重及び電極棒54,55の変位量の計測データを取得しておく。
ここで、試験片に複数のスポット溶接を行ない、各スポット溶接部57でそれぞれ溶接の結果、即ち溶接強度が異なるように、溶接条件の各種パラメータを変化させながら、それぞれスポット溶接を行なう。また、溶接エラーとなりやすい条件があれば、このような溶接エラーを再現するようにしたスポット溶接も行なうこともできる。
このようにして、溶接パラメータから、溶接電流,動作荷重及び溶接時間を変化させて試験片を作成した。
【0056】
このように作成された試験片に対して、溶接強度の評価を行なうため、引っ張り試験による強度評価を実施した。強度評価では、最大強度,破断強度等の目的とする評価値を得るが、ここでは最大強度について評価を行なった。
全試験片の評価結果が得られたところで、その評価結果とスポット溶接時に取得した溶接電流,溶接電圧,動作荷重及び電極棒54,55の変位量の計測データ26との多項式解析等の手法による関係性の評価を行なった。ここでは、AI解析の一つの手法である、ニューラルネットワークを用いて評価を行なった。
【0057】
まず、強度評価試験で得られた最大強度を目的変数とし、溶接電流,溶接電圧,動作荷重及び電極棒54,55の変位量の計測データ26を説明変数として、分析を実施する。
ここでは、135個の試験片を作成して、そのうちの三分の二である90個を学習用データとして、残りの三分の一である45個を検証用データとして用いた。その際、データの選択はランダムに行なった。
その結果を、以下の図8図12に示す。ここで、図8は荷重による溶接強度の推定結果を、図9は溶接電圧による溶接強度の推定結果を、図10は溶接電流による溶接強度の推定結果を、そして図11は、電極棒54,55の変位量による溶接強度の推定結果を、それぞれ示している。
【0058】
これらによれば、溶接電流と変位量からの推定ではRの値で0.8以上と高い結果を示している。溶接電圧による溶接強度の推定結果を除いた他の溶接強度の推定結果は、高い相関が得られていることが分かる。一番相関係数の低い動作荷重による溶接強度の推定結果(図8)においては、検証における相関係数が、Rの値で、0.58と低いが、データ数を増やした学習で改善可能と考えられる。
【0059】
なお、溶接電圧に関しては、溶接電流が流れない状態では、溶接電圧0となるのが基本であるが、計測ノイズ等がわずかに含まれるため、溶接電流及び溶接電圧については、通電時間のみの計測データ26を選択することにより、より適切な結果が得られる。
また、動作荷重が小さい場合には、電極棒54,板材51,板材52そして電極棒55の相互の接触面積が小さくなり、接触抵抗が大きくなることから、溶接電圧も高くなる。従って、評価データから、動作荷重が不適切で通電時間外の計測データ26を取り除いた条件で評価した場合には、図12に示すように、溶接電圧による溶接強度の推定結果は、図9の場合と比較して、検証での相関係数Rは0.38と向上した。学習数の積み増しによる改善により推定が可能となると考えられる。
このようにして、不適正なデータを除いて、意味のあるデータを選択し、適切に学習させることにより、より高精度で溶接強度の推定を行なうことができる。
【0060】
以上の説明では、四つの計測データ26、即ち溶接電流,溶接電圧,動作荷重及び電極棒54,55の変位量をそれぞれ単独で評価したものであるが、複数種の計測データ26を組み合わせて評価を行なうことも可能である。例えば、溶接電流と電極棒54,55の変位量との二種の計測データ26を組み合わせて評価した結果を、図13に示す。この場合、検証での相関係数Rは0.92と非常に高い相関関係を示している。
【0061】
また単独では相関が低い溶接電圧のデータについても、同じデータ、つまり溶接電圧の平均に変位量のデータを加えて分析することにより、図14に示すように、推定の相関係数Rは0.56となった。変位量単独より低いが、溶接電圧単独の場合よりも向上している。
【0062】
以上の実施例で使用した計測データ26は、測定間隔が0.02秒から0.005秒の間である。この程度の計測時間間隔の計測データ26によれば、溶接強度の推定の有効性は高い。これに対して、推定溶接強度31を溶接状態の可否の判定のみに利用する場合に、推定精度がより低くても問題がないときには、0.1秒程度の計測時間間隔で計測データ26を取得することによって、溶接状態の可否を判定することは可能である。
【0063】
このようにして、計測データ26に基づいて直接に推定された溶接強度は、判定部40によって、設定された一つのしきい値に従って溶接状態の可否が判定される。即ち、推定溶接強度31がしきい値以上の場合には、溶接状態を可と判定し、推定溶接強度31がしきい値未満の場合には溶接状態を否と判定することができる。
【0064】
これに対して、複数のしきい値を設定することにより、溶接状態を複数段階で判定することも可能である。例えば二つのしきい値を設定した場合、推定溶接強度31がより大きい第一のしきい値以上の場合には、溶接状態を可と判定し、推定溶接強度31がより小さい第二のしきい値未満の場合には、溶接状態を否と判定し、推定溶接強度31が第一のしきい値未満で且つ第二のしきい値以上の場合には、条件付き可と判定する。
ここで、溶接状態が可又は否の場合は、ひとつのしきい値の場合と同様であるが、溶接状態が条件付き可の場合には、直前のスポット溶接部57の推定溶接強度31を勘案して、そのままでも溶接すべき材料の全体としての溶接強度を確保することができれば、溶接状態を可と判定することもできる。
判定部40は、このような判定結果が条件付き可又は否の場合には、スポット溶接機50に通知する。これにより、スポット溶接機50の制御部59は、それ以降のスポット溶接部57における溶接条件を、所定の溶接強度が確保できるように再設定し、あるいはスポット溶接作業を中止することができる。
【0065】
四種の計測データ26に関して、それぞれ推定溶接強度31が推定され、複数の推定溶接強度31が得られた場合には、例えば多数決,平均値,最大値,最小値,統計解析処理,数値解析処理等の数学的処理により、当該スポット溶接部57に関する総合的な溶接状態の可否が判定される。
例えば、溶接強度が弱いと問題がある場合には、推定溶接強度31の最小値を基準として、溶接状態の可否を判定するほか、適宜数学的な処理や算術的な処理を行なった上で、溶接強度の可否を判定することができる。
【0066】
また、判定部40は、溶接状態を否と判定した場合に、推定溶接強度31及び計測データ26を参照することによって、溶接すべき材料の製品として必要な溶接強度に対して、どの程度の強度が不足しているかを判定することも可能である。その結果から、例えば同一か所に再度溶接を実施することで所定の溶接強度を得られるようにする、例えば図15に示すように、溶接すべき板材51,52において、一列に並んだ12個のスポット溶接部57を順次にスポット溶接する際、図15(A)に示すように、5個目のスポット溶接部57にて、推定溶接強度31が不足した場合に、当該スポット溶接部57の溶接強度不足を補うために、図15(B)に示すように、それ以降のスポット溶接部57を増やして、スポット溶接作業を継続する。もしくは図15(C)に示すように、次のスポット溶接部57にて溶接強度をより高めるように、スポット溶接機50に、スポット溶接の溶接条件又は溶接作業プログラムを再設定することが可能である。溶接状態に応じてこれらの対策を選んで実施することにより、板材51,52の全体としての溶接強度を確保することが可能である。
これらの対策は、複数のスポット溶接部57に対する溶接作業を順次に行なう場合に、一つのスポット溶接部57の溶接作業と並行して計測データ26を取得して溶接強度を推定することにより、スポット溶接作業に対して溶接強度推定31の時間を実質的に付加することなく、ほぼリアルタイムに溶接強度を推定することで実現することができる。
【0067】
さらに、判定部40は、当該スポット溶接部57の計測データ26及び推定溶接強度31を、それ以前のスポット溶接部57の計測データ26及び推定溶接強度31からの変化に基づいて、計測部20,スポット溶接機50及び溶接すべき材料51,52の異常を検出する。
即ち、判定部40は、推定溶接強度31の変化に基づいて通常のスポット溶接とは異なる計測データ26及び推定溶接強度31の変化が現れた場合に、その変化に応じて、計測部20自体の不具合,スポット溶接機50の不具合、あるいは溶接すべき材料51,52の不具合等の異常を検出することができる。そして、判定部40は、このような異常を検出したとき、スポット溶接機50に対して溶接作業中止の旨の通知43を送出する。
これに対して、スポット溶接機50は、このような計測部20,スポット溶接機50及び溶接すべき材料に対する修復不可能な異常が発生したとき、即時に溶接作業を中止することができる。
【0068】
図16は、本発明によるスポット溶接強度推定装置の第二の実施形態の構成を示している。
図16において、スポット溶接強度推定装置10は、計測部20のみが、スポット溶接機50の筐体50A内に配置され、他の記憶部27,推定部30及び判定部40は、外部に設けられたクラウド等のサーバ60内に設けられている。筐体50A内に配置された計測部20は、ネットワーク70を介して記憶部27,推定部30及び判定部40と接続されている。この構成によれば、スポット溶接強度推定装置10がスポット溶接機50と別体に構成されることにより、既存のスポット溶接機に対して本装置を接続することができる。即ち、市販のスポット溶接機に対して本装置を取り付けて、製品として販売することも可能であり、あるいは既設のスポット溶接機に対して本装置を取り付ける、つまり本装置を後付けで設置することも可能である。
ここで、ネットワーク70は、各スポット溶接機50内の計測部20及びスポット溶接強度推定装置10の記憶部27,推定部30及び判定部40が設けられるサーバ60が接続可能な任意のネットワークであって、専用回線ネットワーク、公衆回線ネットワークあるいはWi-Fi等の無線ネットワークであっても、また所謂構内LANのような有線ネットワークであってもよい。
【0069】
このような構成のスポット溶接強度推定装置10によれば、スポット溶接機50の筐体50A内には、スポット溶接強度推定装置10の計測部20のみが配置されるので、スポット溶接強度推定装置10がスポット溶接機50に後付けされる場合でも、また既存のスポット溶接機50内に組み込む場合でも、スペース的に容易に取り付けることが可能である。さらに、計測データ26の管理が、外部のサーバ60内で行なわれることから、データ管理が容易になる。この構成によれば、スポット溶接機50に対して計測部20のみを取り付けて、この計測部20をネットワーク70を介して外部に設置された記憶部27,推定部30及び判定部40に接続することが可能である。これにより、スポット溶接機50自体は、あまり大型化したり重くなるようなことはない。
【0070】
図17は、本発明によるスポット溶接強度推定装置の第三の実施形態の構成を示している。
図17においては、全体として図16に示したスポット溶接強度推定装置の応用例であって、複数台、図示の場合、N台のスポット溶接機50-1,50-2,・・・,50-Nに対して、それぞれ筐体50A内にスポット溶接強度推定装置10の計測部20を配置すると共に、各スポット溶接機50内に配置された計測部20が、それぞれネットワーク70を介して、サーバ60内に設けられた唯一の共通のスポット溶接強度推定装置10の記憶部27,推定部30及び判定部40と接続されている。
このような構成のスポット溶接強度推定装置10によれば、各スポット溶接機50-1,50-2,・・・,50-Nによるスポット溶接の溶接強度が、ネットワーク70を介して接続された共通の一台のスポット溶接強度推定装置10により推定される。従って、全体が簡単で且つ低コストで構成され得ると共に、一つの製品に対して複数のスポット溶接機50が協働してスポット溶接を行なう場合に、各スポット溶接機50によるスポット溶接の溶接強度を一括して推定し、溶接状態の可否を判定することができる。
【0071】
この構成によれば、複数台のスポット溶接機50-1,50-2,・・・,50-Nを使用する場合に、各スポット溶接機50に対してそれぞれ計測部20を取り付けると共に、各スポット溶接機50に取り付けられた計測部20が、それぞれネットワーク70を介して、共通の一つの記憶部27,推定部30及び判定部40に接続されることにより、唯一つの推定部30及び判定部40により、各スポット溶接機50に取り付けられた計測部20を一括して制御し、これらからの計測データ26を処理することができる。
【0072】
本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において様々な形態で実施することができる。
例えば、上述した実施形態においては、推定関数の定義に関して、ニューラル分析を利用して、定義を行なっているが、これに限らず、他の分析手法、例えば線形解析、SVM(Support Vector Machine)、PLS回帰分析及び教師付きAI分析手法等の他の分析手法を利用して、定義を行なってもよいことは明らかである。
【符号の説明】
【0073】
10 スポット溶接強度推定装置
15 非接触式センサー
20 計測部
21 電流計
22 電圧計
23 荷重計
24 変位計
25 データ収集部
26 計測データ
27 記憶部
30 推定部
31 推定溶接強度
40 判定部
41,42,43 通知
50,50-1,・・・,50-N スポット溶接機
50A 筐体
51,52 板材
53 接合領域
54,55 電極棒
56 電源
57 スポット溶接部
58 荷重手段
59 制御部
60 サーバ
70 ネットワーク
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