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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114090
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/02 20060101AFI20240816BHJP
   F16H 59/18 20060101ALI20240816BHJP
   F16H 61/04 20060101ALI20240816BHJP
   F16H 59/74 20060101ALI20240816BHJP
   F16H 59/24 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
F16H61/02
F16H59/18
F16H61/04
F16H59/74
F16H59/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023019507
(22)【出願日】2023-02-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】豊川 修司
(72)【発明者】
【氏名】今永 雄二
(72)【発明者】
【氏名】今西 一貴
【テーマコード(参考)】
3J552
【Fターム(参考)】
3J552MA02
3J552MA12
3J552NA01
3J552NB01
3J552PA02
3J552PA20
3J552PA51
3J552RA07
3J552RA09
3J552SA07
3J552UA08
3J552VA07W
3J552VA32W
3J552VA78W
3J552VC03W
3J552VD01W
(57)【要約】
【課題】パワーオンダウンシフトにおいて、変速レスポンスの向上と変速ショックの抑制とを図ることができる車両の制御装置を提供する。
【解決手段】パワーオンダウンシフトの開始前の状態がパワーオフダウンシフトの実行中か又は何れの変速制御も非実行中かに基づいて、パワーオンダウンシフトの制御作動における係合装置の指示油圧及び要求動力源トルクが設定される。これにより、各々のパワーオンダウンシフトの状況に適したトルク制御や油圧制御が可能となる。よって、パワーオンダウンシフトにおいて、変速レスポンスの向上と変速ショックの抑制とを図ることができる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源と、前記動力源と駆動輪との間の動力伝達経路に設けられた、複数の油圧式の係合装置のうちの何れかの係合によって複数の変速段のうちの何れかの変速段が形成される自動変速機と、を備えた車両の、制御装置であって、
前記自動変速機のパワーオンダウンシフトを行う際には、前記パワーオンダウンシフトの開始前の状態がパワーオフダウンシフトの実行中であるか又は何れの変速制御も非実行中であるかに基づいて、前記パワーオンダウンシフトの制御作動における、前記係合装置に供給される油圧の指示値である指示油圧及び前記動力源のトルクの要求値である要求動力源トルクを設定することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記パワーオンダウンシフトの開始前の状態が前記パワーオフダウンシフトの実行中である場合には、前記係合装置のうちの解放状態へ切り替えられる解放側係合装置の前記指示油圧を決める解放側定数として、前記パワーオンダウンシフトの開始前の状態が何れの変速制御も非実行中である場合と比べてイナーシャ相中における前記解放側係合装置の前記指示油圧が低く設定される値を選択することを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記パワーオンダウンシフトの開始前の状態が前記パワーオフダウンシフトの実行中である場合には、前記係合装置のうちの係合状態へ切り替えられる係合側係合装置の前記指示油圧を決める係合側定数として、前記パワーオンダウンシフトの開始前の状態が何れの変速制御も非実行中である場合と比べて前記イナーシャ相中における前記係合側係合装置の前記指示油圧が低く設定される値を選択することを特徴とする請求項2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記パワーオンダウンシフトの開始前の状態が前記パワーオフダウンシフトの実行中である場合には、前記パワーオンダウンシフトの開始後に前記要求動力源トルクを運転者のアクセル操作量に応じた値に対して一時的に低下させるトルクダウン制御を実行する一方で、前記パワーオンダウンシフトの開始前の状態が何れの変速制御も非実行中である場合には、前記トルクダウン制御を非実行とすることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有段式の自動変速機を備えた車両の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
動力源と、前記動力源と駆動輪との間の動力伝達経路に設けられた、複数の油圧式の係合装置のうちの何れかの係合によって複数の変速段のうちの何れかの変速段が形成される自動変速機と、を備えた車両の制御装置が良く知られている。例えば、特許文献1に記載された自動変速機の制御装置がそれである。この特許文献1には、自動変速機のパワーオンダウンシフトを行う際に、係合側係合装置に供給する油圧を、ダウンシフト後のトルク伝達が確保されるトルク保持圧まで急勾配で上昇させ、その後、緩勾配で上昇させるように変速制御することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-156033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術では、上述した変速制御を行うことによって、係合側係合装置に供給する急速充填用油圧のばらつきに起因するショックを抑制している。ところで、特許文献1には、上述した変速制御を、単一のパワーオンダウンシフトに限らず、パワーオフダウンシフトの実行中に開始されるパワーオンダウンシフトなどにも適用できることが開示されている。しかしながら、単一のパワーオンダウンシフトが行われた場合でも、パワーオフダウンシフトの実行中にパワーオンダウンシフトが行われた場合でも、概ね同様な変速制御が行われると、各ダウンシフトで、変速レスポンスが犠牲となったり、又は、係合側係合装置の係合時のショック抑制が犠牲となるおそれがある。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、パワーオンダウンシフトにおいて、変速レスポンスの向上と変速ショックの抑制とを図ることができる車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明の要旨とするところは、(a)動力源と、前記動力源と駆動輪との間の動力伝達経路に設けられた、複数の油圧式の係合装置のうちの何れかの係合によって複数の変速段のうちの何れかの変速段が形成される自動変速機と、を備えた車両の、制御装置であって、(b)前記自動変速機のパワーオンダウンシフトを行う際には、前記パワーオンダウンシフトの開始前の状態がパワーオフダウンシフトの実行中であるか又は何れの変速制御も非実行中であるかに基づいて、前記パワーオンダウンシフトの制御作動における、前記係合装置に供給される油圧の指示値である指示油圧及び前記動力源のトルクの要求値である要求動力源トルクを設定することにある。
【発明の効果】
【0007】
前記第1の発明によれば、パワーオンダウンシフトの開始前の状態がパワーオフダウンシフトの実行中か又は何れの変速制御も非実行中かに基づいて、パワーオンダウンシフトの制御作動における係合装置の指示油圧及び要求動力源トルクが設定される。これにより、各々のパワーオンダウンシフトの状況に適したトルク制御や油圧制御が可能となる。例えば、単独のパワーオンダウンシフトにおいて、解放側係合装置の指示油圧を上げ気味にする設定ができるようになり、自動変速機の入力回転速度の吹き上がりを抑制することができる。加えて、要求動力源トルクを一時的に低下させるトルクダウン制御を非実行とする設定ができるようになり、従来犠牲にしていた変速レスポンスを向上させることができる。又、パワーオフダウンシフトからのパワーオンダウンシフトにおいて、解放側係合装置の指示油圧を下げ気味にする設定ができるようになり、従来犠牲にしていた変速レスポンスを向上させることができる。これに伴って、係合側係合装置の指示油圧も下げ気味にする設定ができるようになり、係合圧過多による引き上げショックを改善することができる。加えて、トルクダウン制御を実行とする設定ができるようになり、自動変速機の入力回転速度の吹き上がりを抑制することができる。よって、パワーオンダウンシフトにおいて、変速レスポンスの向上と変速ショックの抑制とを図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明が適用される車両の概略構成を説明する図であると共に、車両における各種制御の為の制御機能及び制御系統の要部を説明する図である。
図2】自動変速機のコーストダウンシフトが実行された場合のタイムチャートの一例を示す図である。
図3】電子制御装置の制御作動の要部を説明するフローチャートであり、パワーオンダウンシフトにおいて変速レスポンスの向上と変速ショックの抑制とを図る為の制御作動を説明するフローチャートである。
図4図3のフローチャートに示す制御作動を実行した場合のタイムチャートの一例を示す図であって、自動変速機の変速制御が通常オンダウンの場合である。
図5図3のフローチャートに示す制御作動を実行した場合のタイムチャートの一例を示す図であって、自動変速機の変速制御がコーストダウン中オンダウンの場合である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施例を図面を参照して詳細に説明する。
【実施例0010】
図1は、本発明が適用される車両10の概略構成を説明する図であると共に、車両10における各種制御の為の制御機能及び制御系統の要部を説明する図である。図1において、車両10は、エンジン12と、駆動輪14と、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路に設けられた動力伝達装置16と、を備えている。
【0011】
エンジン12は、車両10の動力源である。エンジン12は、ガソリンエンジン等の公知の内燃機関である。エンジン12は、後述する電子制御装置80によって、車両10に備えられたスロットルアクチュエータ等を含むエンジン制御装置50が制御されることによりエンジン12のトルクであるエンジントルクTeが制御される。
【0012】
動力伝達装置16は、車体に取り付けられる非回転部材であるケース18内において、トルクコンバータ20、自動変速機22等を備えている。トルクコンバータ20は、エンジン12に連結されている。自動変速機22は、トルクコンバータ20に連結されており、トルクコンバータ20と駆動輪14との間の動力伝達経路に介在させられている。又、動力伝達装置16は、変速機出力軸24に連結されたプロペラシャフト26、プロペラシャフト26に連結されたディファレンシャルギヤ28、ディファレンシャルギヤ28に連結された1対のドライブシャフト30等を備えている。変速機出力軸24は、自動変速機22の出力回転部材である。又、動力伝達装置16は、エンジン12とトルクコンバータ20とを連結するエンジン連結軸32等を備えている。
【0013】
トルクコンバータ20は、エンジン連結軸32と連結されたポンプ翼車20a、及び変速機入力軸34と連結されたタービン翼車20bを備えている。変速機入力軸34は、自動変速機22の入力回転部材である。トルクコンバータ20は、エンジン12からの動力を流体を介してエンジン連結軸32から変速機入力軸34へ伝達する流体式伝動装置である。トルクコンバータ20は、ポンプ翼車20aとタービン翼車20bとを連結するLUクラッチ36を備えている。LUクラッチ36は、公知のロックアップクラッチである。
【0014】
自動変速機22は、例えば不図示の1組又は複数組の遊星歯車装置と、係合装置CBと、を備えている、公知の遊星歯車式の自動変速機である。係合装置CBは、複数の油圧式の係合装置例えば公知の摩擦係合装置を含んでいる。係合装置CBは、各々、CB油圧PRcbによりそれぞれのトルク容量であるCBトルクTcbが変化させられることで、係合状態、スリップ状態、解放状態などの作動状態つまり制御状態が切り替えられる。CB油圧PRcbは、車両10に備えられた油圧制御回路52から係合装置CBに供給される調圧された油圧である。
【0015】
自動変速機22は、係合装置CBのうちの何れかの係合装置の係合によって、変速比(ギヤ比ともいう)γat(=AT入力回転速度Ni/AT出力回転速度No)が異なる複数の変速段(ギヤ段ともいう)のうちの何れかの変速段が形成される有段変速機である。自動変速機22は、後述する電子制御装置80によって、ドライバー(=運転者)のアクセル操作や車速V等に応じて形成される変速段が切り替えられる。AT入力回転速度Niは、変速機入力軸34の回転速度であり、自動変速機22の入力回転速度である。AT入力回転速度Niは、トルクコンバータ20の出力回転速度であるタービン回転速度Ntと同値である。AT出力回転速度Noは、変速機出力軸24の回転速度であり、自動変速機22の出力回転速度である。
【0016】
自動変速機22は、係合装置CBのうちの変速に関与する係合装置の制御状態が切り替えられることで変速段が切り替えられる。変速段の切替えは、例えば自動変速機22の第n速ギヤ段と第(n+1)速ギヤ段との切替えである。自動変速機22の第n速ギヤ段は、例えば係合装置CBのうちの第1係合装置CB1及び第2係合装置CB2が少なくとも係合状態とされることで形成される。自動変速機22の第(n+1)速ギヤ段は、例えば係合装置CBのうちの第1係合装置CB1及び第3係合装置CB3が少なくとも係合状態とされることで形成される。電子制御装置80は、第(n+1)速ギヤ段から第n速ギヤ段へのダウンシフトでは、解放側係合装置となる第3係合装置CB3を解放状態へ切り替えると共に係合側係合装置となる第2係合装置CB2を係合状態へ切り替える。解放側係合装置は、変速に関与する係合装置のうちの自動変速機22の変速前には係合状態とされていた係合装置であって、自動変速機22の変速過渡において係合状態から解放状態に向けて制御される係合装置である。つまり、解放側係合装置は、自動変速機22の変速制御において、係合装置CBのうちの解放状態へ切り替えられる係合装置である。係合側係合装置は、変速に関与する係合装置のうちの自動変速機22の変速前には解放状態とされていた係合装置であって、自動変速機22の変速過渡において解放状態から係合状態に向けて制御される係合装置である。つまり、係合側係合装置は、自動変速機22の変速制御において、係合装置CBのうちの係合状態へ切り替えられる係合装置である。
【0017】
車両10は、機械式のオイルポンプ54を備えている。オイルポンプ54は、ポンプ翼車20aに連結されており、エンジン12により回転駆動させられて動力伝達装置16にて用いられる作動油OILを吐出する。オイルポンプ54が吐出した作動油OILは、油圧制御回路52へ供給される。油圧制御回路52は、オイルポンプ54が吐出した作動油OILを元にして各々調圧したCB油圧PRcbなどを供給する。
【0018】
車両10は、更に、エンジン12や自動変速機22の制御などに関連する車両10の制御装置を含むコントローラとしての電子制御装置80を備えている。電子制御装置80は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されている。CPUは、例えばRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。電子制御装置80は、必要に応じてエンジン制御用、変速機制御用等の各コンピュータを含んで構成される。
【0019】
電子制御装置80には、車両10に備えられた各種センサ等(例えばエンジン回転速度センサ60、入力回転速度センサ62、出力回転速度センサ64、アクセル開度センサ66、スロットル弁開度センサ68、ブレーキスイッチ70、油温センサ72など)による検出値に基づく各種信号等(例えばエンジン回転速度Ne、AT入力回転速度Ni(=タービン回転速度Nt)、AT出力回転速度No、アクセル開度θacc、スロットル弁開度θth、ブレーキオン信号Bon、作動油温THoilなど)が、それぞれ供給される。
【0020】
エンジン回転速度Neは、エンジン12の回転速度である。AT出力回転速度Noは、車速Vに対応する回転速度である。アクセル開度θaccは、運転者の加速操作の大きさを表す運転者のアクセル操作量である。スロットル弁開度θthは、電子スロットル弁の開度である。ブレーキオン信号Bonは、ホイールブレーキを作動させる為のブレーキペダルが運転者によって操作されている状態を示す信号である。作動油温THoilは、油圧制御回路52内の作動油OILの温度である。
【0021】
電子制御装置80からは、車両10に備えられた各装置(例えばエンジン制御装置50、油圧制御回路52など)に各種指令信号(例えばエンジン制御指令信号Se、CB油圧制御指令信号Scbなど)が、それぞれ出力される。エンジン制御指令信号Seは、エンジン12を制御する為の指令信号である。CB油圧制御指令信号Scbは、係合装置CBを制御する為の指令信号である。
【0022】
CB油圧制御指令信号Scbについて説明する。電子制御装置80は、係合装置CBの各々に対応するCB油圧PRcbの各指示値として、油圧制御回路52からCB油圧PRcbを供給させる為の係合装置CBの指示油圧を算出する。指示油圧とは、係合装置に供給される作動油OILに対して電子制御装置80から指示される目標油圧であって、この指示油圧に応じて係合装置に供給される実際の油圧である実油圧が変化する。本実施例では、係合装置CBの指示油圧をCB指示油圧CMcbと称する。特に、解放側係合装置の指示油圧を解放側指示油圧CMdrnと称する。係合側係合装置の指示油圧を係合側指示油圧CMaplと称する。
【0023】
電子制御装置80は、CB指示油圧CMcbを、油圧制御回路52に備えられたソレノイドSLcbを駆動する為のCB指示電流値に変換する。ソレノイドSLcbは、係合装置CBの各々に対応するCB油圧PRcbを出力する係合装置CB用の各ソレノイドバルブである。CB指示電流値は、電子制御装置80に備えられた、ソレノイドSLcbを駆動する駆動回路に対する指示電流である。CB油圧制御指令信号Scbは、CB指示電流値に基づいて、駆動回路がソレノイドSLcbを駆動する為の駆動電流又は駆動電圧である。つまり、CB指示油圧CMcbは、CB油圧制御指令信号Scbに変換されて油圧制御回路52へ出力される。本実施例では、便宜上、CB指示油圧CMcbとCB油圧制御指令信号Scbとを同意に取り扱う。
【0024】
電子制御装置80は、車両10における各種制御を実現する為に、エンジン制御手段すなわちエンジン制御部82、及び変速機制御手段すなわち変速機制御部84を備えている。
【0025】
エンジン制御部82は、動力源としてのエンジン12の作動を制御する動力源制御手段すなわち動力源制御部である。エンジン制御部82は、例えば駆動要求量マップにアクセル開度θacc及び車速Vを適用することで、運転者による車両10に対する駆動要求量を算出する。前記駆動要求量マップは、予め実験的に或いは設計的に求められて記憶された関係すなわち予め定められた関係である。前記駆動要求量は、例えば駆動輪14における要求駆動トルクTrdem[Nm]である。前記駆動要求量としては、駆動輪14における要求駆動力Frdem[N]等を用いることもできる。
【0026】
エンジン制御部82は、伝達損失、補機負荷、自動変速機22の変速比γat等を考慮して、要求駆動トルクTrdemを実現する為の要求エンジントルクTereqを算出する。エンジン制御部82は、要求エンジントルクTereqが得られるように、エンジン12を制御するエンジン制御指令信号Seをエンジン制御装置50へ出力する。要求エンジントルクTereqは、動力源のトルクの要求値つまりエンジントルクTeの要求値であって、要求動力源トルクである。
【0027】
変速機制御部84は、例えば予め定められた関係である変速マップを用いて自動変速機22の変速判断を行い、必要に応じてつまりその変速判断の結果に応じて自動変速機22の変速制御を実行する為のCB油圧制御指令信号Scbを油圧制御回路52へ出力する。変速機制御部84は、自動変速機22の変速制御では、例えば係合装置CBのうちの解放側係合装置の解放状態への切替えと、係合装置CBのうちの係合側係合装置の係合状態への切替えと、によって自動変速機22の変速を行う。前記変速マップは、例えば車速V及びアクセル開度θaccを変数とする二次元座標上に、自動変速機22の変速が判断される為の変速線を有する所定の関係である。
【0028】
図2は、自動変速機22の変速制御を説明するタイムチャートの一例を示す図である。図2では、自動変速機22の変速制御をコーストダウンシフトを例示して説明する。コーストダウンシフトは、アクセルオフの減速時つまり惰性走行時に行われるダウンシフトすなわちパワーオフダウンシフトである。
【0029】
図2において、t1a時点は、コーストダウンシフトが開始された時点を示している。コーストダウンシフトが開始されると、解放側係合装置のトルク容量を漸減させる為の解放側指示油圧CMdrnが出力されると共に係合側係合装置をパック詰め完了状態とする為の係合側指示油圧CMaplが出力される。係合装置CBのパック詰め完了状態は、係合装置CBの摩擦プレート等におけるパッククリアランスが詰められた状態であり、その状態からCB油圧PRcbを増大させれば係合装置CBがトルク容量を持ち始める状態である。係合側係合装置をパック詰め完了状態とする為の係合側指示油圧CMaplとしては、係合側係合装置に供給される油圧の初期応答性を向上させる為に、一時的に高い急速充填圧が出力される(t1a時点-t2a時点参照)。パック詰めを完了する為の所定時間経過後、解放側係合装置のトルク容量を速やかに減少させる為の解放側指示油圧CMdrnが出力されると共に係合側係合装置にトルク容量を持たせる為の係合側指示油圧CMaplが出力される(t2a時点-t3a時点参照)。これにより、自動変速機22の変速制御におけるトルク相が開始される。このトルク相は、ダウンシフトの場合、係合側係合装置がトルク容量を持ち出して、自動変速機22の出力トルクに変化が生じる、変速の進行段階である。係合側係合装置にトルク容量を持たせる為の係合側指示油圧CMaplとしては、例えば急速充填圧よりも低い定圧待機圧が出力される。ダウンシフトの過渡中にAT入力回転速度Niがダウンシフト後同期回転速度(=No×ダウンシフト後のγat)に向けて上昇させられると、ダウンシフトの進行段階はトルク相からイナーシャ相に遷移させられる(t3a時点以降参照)。イナーシャ相では、例えば変速時間と変速ショックとを考慮して予め定められた上昇勾配でAT入力回転速度Niを変化させる為のCB油圧制御指令信号Scbが出力される(t3a時点-t4a時点参照)。例えば、イナーシャ相のCB油圧制御指令信号Scbとして、係合側指示油圧CMaplはトルク相に引き続いて定圧待機圧が出力されると共に、解放側指示油圧CMdrnはトルク相にて減少させられた後の値が維持された定圧待機圧が出力される。AT入力回転速度Niがダウンシフト後同期回転速度に到達させられると、イナーシャ相が終了させられる(t4a時点参照)。イナーシャ相の終了後、ゼロに向けて漸減させられる解放側指示油圧CMdrnが出力されると共に係合側係合装置を完全係合する為に漸増させられる係合側指示油圧CMaplが出力される(t4a時点-t5a時点参照)。これにより、コーストダウンシフトが終了させられ(t5a時点参照)、ゼロに維持された解放側指示油圧CMdrnが出力されると共に係合側係合装置を完全係合状態に維持する為の係合側指示油圧CMaplが出力される(t5a時点以降参照)。尚、アクセルオフとされているときには、例えば要求エンジントルクTereqは出力されない。
【0030】
ここで、コーストダウンシフトにおけるCB指示油圧CMcbは、例えばコーストダウンシフト用の定数であるコーストダウン用定数Fcdを有するマップに基づいて算出される。コーストダウン用定数Fcdは、コーストダウンシフトの進行段階毎に予め定められた、CB指示油圧CMcbを決める定数である。コーストダウン用定数Fcdは、解放側指示油圧CMdrnを決める解放側定数Fcddrnと係合側指示油圧CMaplを決める係合側定数Fcdaplとを含んでいる。同様に、パワーオンダウンシフトにおけるCB指示油圧CMcbを、パワーオンダウンシフト用の定数であるオンダウン用定数Fodを有するマップに基づいて算出することが考えられる。パワーオンダウンシフトは、アクセルオンの加速時に行われるダウンシフトである。オンダウン用定数Fodは、パワーオンダウンシフトの進行段階毎に予め定められた、CB指示油圧CMcbを決める定数である。オンダウン用定数Fodは、解放側指示油圧CMdrnを決める解放側定数Foddrnと係合側指示油圧CMaplを決める係合側定数Fodaplとを含んでいる。
【0031】
ところで、パワーオンダウンシフトは、何れの変速制御も非実行中である状態で開始されるパワーオンダウンシフトの他に、例えばコーストダウンシフトの実行中にアクセルオンが為されることによって開始されるパワーオンダウンシフトもある。本実施例では、何れの変速制御も非実行中である状態で開始されるパワーオンダウンシフトを通常オンダウンと称する。又、コーストダウンシフトの実行中に開始されるパワーオンダウンシフトをコーストダウン中オンダウンと称する。
【0032】
コーストダウン中オンダウンは、例えばコーストダウンシフトによって変速が進行した後に、AT入力回転速度Niがダウンシフト後同期回転速度に近づいてから開始される場合がある。この場合、ダウンシフト後同期回転速度とAT入力回転速度Niとの差回転速度が小さい為、AT入力回転速度Niが予め定められた上昇勾配よりも吹き上がったり、ダウンシフト後同期回転速度に対して吹き上がってしまうおそれがある。一方で、通常オンダウンでは、例えばアクセルオンに応じて駆動トルクTrが発生することが望まれる為、変速レスポンスを向上させたい。その為、通常オンダウンとコーストダウン中オンダウンとで、オンダウン用定数Fodを共通定数とする場合、両者のバランスを取る形で共通定数を適合することが考えられる。そうすると、通常オンダウンとコーストダウン中オンダウンとの各々で、変速レスポンスが犠牲となったり、又は、係合側係合装置の係合時のショック抑制が犠牲となるおそれがある。
【0033】
そこで、変速機制御部84は、自動変速機22のパワーオンダウンシフトを行う際には、パワーオンダウンシフトの開始前の状態がコーストダウンシフトの実行中であるか又は何れの変速制御も非実行中であるかに基づいて、パワーオンダウンシフトの制御作動における、CB指示油圧CMcb及び要求エンジントルクTereqを設定する。パワーオンダウンシフトの開始前の状態がコーストダウンシフトの実行中である場合は、パワーオンダウンシフトがコーストダウン中オンダウンの場合である。パワーオンダウンシフトの開始前の状態が何れの変速制御も非実行中である場合は、パワーオンダウンシフトが通常オンダウンの場合である。
【0034】
コーストダウン中オンダウンの場合には、AT入力回転速度Niの吹き上がりを抑制する為に、トルクダウン制御CTtdの実行が有効である。トルクダウン制御CTtdは、要求エンジントルクTereqを運転者のアクセル操作量に応じた値に対して一時的に低下させる制御である。運転者のアクセル操作量に応じた値は、例えば要求駆動トルクTrdemを実現する為の要求エンジントルクTereqである。一方で、通常オンダウンの場合には、変速レスポンスを向上させる為に、トルクダウン制御CTtdの非実行が有効である。
【0035】
変速機制御部84は、パワーオンダウンシフトがコーストダウン中オンダウンの場合には、パワーオンダウンシフトの開始後にトルクダウン制御CTtdを実行する指令をエンジン制御部82に出力する。一方で、変速機制御部84は、パワーオンダウンシフトが通常オンダウンの場合には、トルクダウン制御CTtdを非実行とする。
【0036】
コーストダウン中オンダウンの場合には、例えばトルクダウン制御CTtdが実行されると、変速レスポンスの低下が懸念される。その為、コーストダウン中オンダウンの場合には、変速レスポンスを向上させる為に、例えばオンダウン用定数Fodに共通定数を用いる場合に比べて解放側指示油圧CMdrnを下げ気味に設定することが有効である。これに伴って、係合側係合装置に供給される油圧の過多による引き上げショックを抑制する為に、例えばオンダウン用定数Fodに共通定数を用いる場合に比べて係合側指示油圧CMaplも下げ気味に設定することが有効である。
【0037】
一方で、通常オンダウンの場合には、例えばトルクダウン制御CTtdが非実行とされると、AT入力回転速度Niの吹き上がりが懸念される。その為、通常オンダウンの場合には、AT入力回転速度Niの吹き上がりを抑制する為に、例えばオンダウン用定数Fodに共通定数を用いる場合に比べて解放側指示油圧CMdrnを上げ気味に設定することが有効である。通常オンダウンの場合には、トルクダウン制御CTtdの非実行によって変速レスポンスが向上させられ、解放側指示油圧CMdrnの上昇によってAT入力回転速度Niの吹き上がりが抑制される。その為、通常オンダウンの場合には、例えばオンダウン用定数Fodに共通定数を用いる場合と同等の値に係合側指示油圧CMaplを設定することが有効である。
【0038】
本実施例では、オンダウン用定数Fodに共通定数を用いるのではなく、コーストダウン中オンダウン用と通常オンダウン用とで個別に予め定められた定数を用いる。本実施例では、コーストダウン中オンダウン用の定数をコーストダウン中オンダウン用定数Fodcdと称し、通常オンダウン用の定数を通常オンダウン用定数Fodnmと称する。
【0039】
変速機制御部84は、パワーオンダウンシフトがコーストダウン中オンダウンの場合には、解放側定数Foddrnとして、パワーオンダウンシフトが通常オンダウンの場合と比べてイナーシャ相中における解放側指示油圧CMdrnが低く設定される値を選択する。変速機制御部84は、パワーオンダウンシフトがコーストダウン中オンダウンの場合には、係合側定数Fodaplとして、パワーオンダウンシフトが通常オンダウンの場合と比べてイナーシャ相中における係合側指示油圧CMaplが低く設定される値を選択する。このように、変速機制御部84は、パワーオンダウンシフトがコーストダウン中オンダウンの場合には、オンダウン用定数Fodとしてコーストダウン中オンダウン用定数Fodcdを選択する。一方で、変速機制御部84は、パワーオンダウンシフトが通常オンダウンの場合には、オンダウン用定数Fodとして通常オンダウン用定数Fodnmを選択する。
【0040】
図3は、電子制御装置80の制御作動の要部を説明するフローチャートであって、パワーオンダウンシフトにおいて変速レスポンスの向上と変速ショックの抑制とを図る為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば繰り返し実行される。図4及び図5は、各々、図3のフローチャートに示す制御作動を実行した場合のタイムチャートの一例を示す図である。
【0041】
図3において、フローチャートの各ステップは変速機制御部84の機能に対応している。ステップ(以下、ステップを省略する)S10において、パワーオンダウンシフトを開始するか否かが判定される。このS10の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられる。このS10の判断が肯定される場合はS20において、コーストダウンシフトの実行中であるか否かが判定される。つまり、パワーオンダウンシフトがコーストダウン中オンダウンであるか否かが判定される。このS20の判断が肯定される場合はS30において、オンダウン用定数Fodとしてコーストダウン中オンダウン用定数Fodcdが選択される。一方で、上記S20の判断が否定される場合はS40において、オンダウン用定数Fodとして通常オンダウン用定数Fodnmが選択される。
【0042】
図4は、自動変速機22の変速制御が通常オンダウンの場合である。図4において、t1b時点は、通常オンダウンが開始された時点を示している。通常オンダウンが開始されると、解放側係合装置のトルク容量を漸減させる為の解放側指示油圧CMdrnが出力されると共に係合側係合装置をパック詰め完了状態とする為の係合側指示油圧CMaplが出力される(t1b時点-t2b時点参照)。破線に示す比較例のように通常オンダウンの開始後にトルクダウン制御CTtdが実行されると、変速レスポンスが犠牲となるおそれがある。本実施例では、実線に示すように、通常オンダウンにおいてはトルクダウン制御CTtdが非実行とされるので、変速レスポンスが向上させられる。パック詰めを完了する為の所定時間経過後、解放側係合装置のトルク容量を速やかに減少させる為の解放側指示油圧CMdrnが出力される。これと共に、係合側係合装置にトルク容量を持たせる為の係合側指示油圧CMaplとして急速充填圧よりも低い定圧待機圧が出力される(t2b時点-t3b時点参照)。これにより、自動変速機22の変速制御におけるトルク相が開始される。ダウンシフトの過渡中にAT入力回転速度Niがダウンシフト後同期回転速度に向けて上昇させられると、ダウンシフトの進行段階はトルク相からイナーシャ相に遷移させられる(t3b時点以降参照)。イナーシャ相では、AT入力回転速度Niの吹き上がりを抑制する為に、共通定数を用いた場合の解放側指示油圧CMdrn(破線参照)に比べて、解放側指示油圧CMdrn(実線参照)が上げ気味に設定される(t3b時点-t4b時点参照)。AT入力回転速度Niがダウンシフト後同期回転速度に到達させられると、イナーシャ相が終了させられる(t4b時点参照)。イナーシャ相の終了後、ゼロに向けて漸減させられる解放側指示油圧CMdrnが出力されると共に係合側係合装置を完全係合する為に漸増させられる係合側指示油圧CMaplが出力される(t4b時点-t5b時点参照)。これにより、通常オンダウンが終了させられ(t5b時点参照)、ゼロに維持された解放側指示油圧CMdrnが出力されると共に係合側係合装置を完全係合状態に維持する為の係合側指示油圧CMaplが出力される(t5b時点以降参照)。
【0043】
図5は、自動変速機22の変速制御がコーストダウン中オンダウンの場合である。図5において、t3c時点におけるイナーシャ相の開始までは、図2のt3a時点におけるイナーシャ相の開始までと同様なので、その説明を割愛する。本実施例では、イナーシャ相の過渡中にアクセルオンに伴ってコーストダウン中オンダウンが開始される(t4c時点参照)。コーストダウン中オンダウンが開始されると、アクセルオンに伴って解放側指示油圧CMdrnが上昇させられるが、破線に示す比較例のように共通定数が用いられると、変速の進行が停滞して変速レスポンスが低下するおそれがある。本実施例では、実線に示すように、変速レスポンスを向上させる為に、共通定数を用いた場合の解放側指示油圧CMdrn(破線参照)に比べて、解放側指示油圧CMdrn(実線参照)が下げ気味に設定される(t4c時点-t5c時点参照)。解放側指示油圧CMdrnが下げられたので、係合側指示油圧CMaplの設定に破線に示す比較例のように共通定数が用いられると、タイアップ率が変わり、係合側係合装置に供給される油圧の過多による引き上げショックが発生する恐れがある。本実施例では、実線に示すように、引き上げショックを抑制する為に、共通定数を用いる場合の係合側指示油圧CMapl(破線参照)に比べて、係合側指示油圧CMapl(実線参照)が下げ気味に設定される。又、コーストダウン中オンダウンは、イナーシャ相を継続するように実行される。その為、コーストダウン中オンダウンの開始時点では、ダウンシフト後同期回転速度とAT入力回転速度Niとの差回転速度が小さい。加えて、解放側指示油圧CMdrnが下げ気味に設定されている。本実施例では、コーストダウン中オンダウンの開始後にトルクダウン制御CTtdが実行される(t4c時点以降参照)。AT入力回転速度Niがダウンシフト後同期回転速度に到達させられると、イナーシャ相が終了させられる(t5c時点参照)。イナーシャ相の終了後、ゼロに向けて漸減させられる解放側指示油圧CMdrnが出力されると共に係合側係合装置を完全係合する為に漸増させられる係合側指示油圧CMaplが出力される(t5c時点-t6c時点参照)。これにより、コーストダウン中オンダウンが終了させられ(t6c時点参照)、ゼロに維持された解放側指示油圧CMdrnが出力されると共に係合側係合装置を完全係合状態に維持する為の係合側指示油圧CMaplが出力される(t6c時点以降参照)。
【0044】
上述のように、本実施例によれば、パワーオンダウンシフトがコーストダウン中オンダウンであるか又は通常オンダウンであるかに基づいて、パワーオンダウンシフトの制御作動における、CB指示油圧CMcb及び要求エンジントルクTereqが設定される。これにより、各々のパワーオンダウンシフトの状況に適したトルク制御や油圧制御が可能となる。よって、パワーオンダウンシフトにおいて、変速レスポンスの向上と変速ショックの抑制とを図ることができる。
【0045】
また、本実施例によれば、パワーオンダウンシフトがコーストダウン中オンダウンの場合には、解放側定数Foddrnとして、パワーオンダウンシフトが通常オンダウンの場合と比べてイナーシャ相中における解放側指示油圧CMdrnが低く設定される値が選択される。これにより、パワーオンダウンシフトがコーストダウン中オンダウンの場合には、従来犠牲にしていた変速レスポンスを向上させることができる。又、パワーオンダウンシフトが通常オンダウンの場合には、AT入力回転速度Niの吹き上がりを抑制することができる。
【0046】
また、本実施例によれば、パワーオンダウンシフトがコーストダウン中オンダウンの場合には、係合側定数Fodaplとして、パワーオンダウンシフトが通常オンダウンの場合と比べてイナーシャ相中における係合側指示油圧CMaplが低く設定される値が選択される。これにより、パワーオンダウンシフトがコーストダウン中オンダウンの場合には、係合側係合装置に供給される油圧の過多による引き上げショックを改善することができる。
【0047】
また、本実施例によれば、パワーオンダウンシフトがコーストダウン中オンダウンの場合には、パワーオンダウンシフトの開始後にトルクダウン制御CTtdが実行される。一方で、パワーオンダウンシフトが通常オンダウンの場合には、トルクダウン制御CTtdが非実行とされる。コーストダウン中オンダウンの場合には、AT入力回転速度Niの吹き上がりを抑制することができる。又、通常オンダウンの場合には、従来犠牲にしていた変速レスポンスを向上させることができる。
【0048】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0049】
例えば、前述の実施例では、動力源としてエンジン12を例示したが、この態様に限らない。例えば、動力源は、エンジン12に加えて又は替えて、電動機が用いられても良い。つまり、動力源としてエンジンのみを備えたエンジン車両、エンジンを備えず電動機のみを動力源とする電気自動車、動力源としてエンジン及び電動機を備えた、パラレル方式又はシリーズ方式のハイブリッド車両などであっても、本発明を適用することができる。
【0050】
また、前述の実施例では、自動変速機22として遊星歯車式の自動変速機を例示したが、この態様に限らない。例えば、自動変速機22は、公知のDCT(Dual Clutch Transmission)などであっても良い。DCTの場合には、複数の係合装置は2系統の各入力軸にそれぞれつながる係合装置であり、複数の係合装置の一方が解放側係合装置に相当し、複数の係合装置の他方が係合側係合装置に相当する。
【0051】
また、前述の実施例では、流体式伝動装置としてトルクコンバータ20が用いられたが、この態様に限らない。例えば、流体式伝動装置として、トルクコンバータ20に替えて、トルク増幅作用のないフルードカップリングなどの他の流体式伝動装置が用いられても良い。又は、流体式伝動装置は、必ずしも備えられている必要はなく、例えば発進用のクラッチに置き換えられても良い。
【0052】
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0053】
10:車両 12:エンジン(動力源) 14:駆動輪 22:自動変速機 80:電子制御装置(制御装置) CB:係合装置 CB1:第1係合装置(係合装置) CB2:第2係合装置(係合装置、係合側係合装置) CB3:第3係合装置(係合装置、解放側係合装置)
図1
図2
図3
図4
図5