(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114125
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】管用ねじ継手
(51)【国際特許分類】
F16L 15/04 20060101AFI20240816BHJP
【FI】
F16L15/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023019624
(22)【出願日】2023-02-13
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】595099867
【氏名又は名称】バローレック・オイル・アンド・ガス・フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100104444
【弁理士】
【氏名又は名称】上羽 秀敏
(74)【代理人】
【識別番号】100107593
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 太郎
(72)【発明者】
【氏名】奥 洋介
(72)【発明者】
【氏名】丸田 賢
【テーマコード(参考)】
3H013
【Fターム(参考)】
3H013JA01
3H013JA03
(57)【要約】
【課題】2段ねじの中間にトルクショルダとして機能する中間ショルダを設けた管用ねじ継手において、繰り返し複合荷重が負荷される状況における耐圧縮性能の向上を図る。
【解決手段】ピン中間ショルダ面23及びボックス中間ショルダ面33を、径方向内端よりも径方向外端がピン2の管端側に傾倒するテーパー面により構成するとともに、ボックス端部ショルダ面34を、径方向内端が径方向外端よりもボックス3の開口端側に傾倒するテーパー面により構成する。また、ピン中間ショルダ面23及びボックス中間ショルダ面33が接触開始する時点ではピン端部ショルダ面24とボックス端部ショルダ面34とは接触せず、締結完了時点で、若しくは、締結状態で軸方向圧縮荷重が負荷された場合に、ピン端部ショルダ面24がボックス端部ショルダ面34に接触するよう構成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状のピンと、該ピンを受け入れる開口端部を有する管状のボックスとから構成され、前記ピンが前記ボックスにねじ込まれて前記ピンと前記ボックスとが締結される管用ねじ継手であって、
前記ピンは、第1雄ねじと、前記第1雄ねじよりもピンの管端側に設けられ且つ前記第1雄ねじよりも小径の第2雄ねじと、前記第1雄ねじと前記第2雄ねじとの間に設けられたピン中間ショルダ面と、前記ピンの管端部に設けられたピン端部ショルダ面と、前記第2雄ねじと前記ピン端部ショルダ面との間に設けられたピンシール面とを備え、
前記ボックスは、締結完了時点で前記第1雄ねじが嵌合する第1雌ねじと、締結完了時点で前記第2雄ねじが嵌合する第2雌ねじと、締結完了時点で前記ピン中間ショルダ面に接触するボックス中間ショルダ面と、前記ピン端部ショルダ面に対応して設けられたボックス端部ショルダ面と、前記第2雌ねじと前記ボックス端部ショルダ面との間に設けられて締結完了時点で前記ピンシール面に全周にわたって接触するボックスシール面とを備え、
前記ピン中間ショルダ面及び前記ボックス中間ショルダ面は、径方向内端よりも径方向外端が前記ピンの管端側に傾倒するテーパー面により構成され、
前記ボックス端部ショルダ面は、径方向内端が径方向外端よりも前記ボックスの開口端側に傾倒するテーパー面により構成されており、
前記ピン中間ショルダ面及び前記ボックス中間ショルダ面が接触開始する時点では前記ピン端部ショルダ面と前記ボックス端部ショルダ面とは接触せず、
締結完了時点で、若しくは、締結状態で軸方向圧縮荷重が負荷された場合に、前記ピン端部ショルダ面が前記ボックス端部ショルダ面に接触する、
管用ねじ継手。
【請求項2】
請求項1に記載の管用ねじ継手において、前記ピン中間ショルダ面及び前記ボックス中間ショルダ面の中間ショルダ角θ1が15°より大きい、管用ねじ継手。ここで、中間ショルダ角θ1は、前記ピン中間ショルダ面及び前記ボックス中間ショルダ面を構成するテーパー面のテーパー母線と、管軸に直交する平面とのなす角度である。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の管用ねじ継手において、前記ボックス端部ショルダ面の端部ショルダ角θ2が15°より大きい、管用ねじ継手。ここで、端部ショルダ角θ2は、前記ボックス端部ショルダ面を構成するテーパー面のテーパー母線と、管軸に直交する平面とのなす角度である。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の管用ねじ継手において、前記ピンは油井管の一端部に形成されており、前記ボックスは、前記油井管を他の油井管に連結するためのカップリングの一端部に形成されている、管用ねじ継手。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の管用ねじ継手において、前記ピンは第1の油井管の縮径加工された一端部に形成されており、前記ボックスは第1の油井管と同じ外径及び内径を有する第2の油井管の拡径加工された一端部に形成されており、
第1の油井管の前記ピンの管端部は、第2の油井管の前記ボックスの前記ボックス端部ショルダの径方向内端よりも径方向内方に位置する内周面を有し、
前記ピン端部ショルダ面と前記ボックス端部ショルダ面との接触領域の径方向幅が1mm未満である、管用ねじ継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鋼管等の連結に用いられる管用ねじ継手に関する。
【背景技術】
【0002】
油井、天然ガス井等(以下、総称して「油井」ともいう。)においては、地下資源を採掘するため、複数段の井戸壁を構築するケーシングや、該ケーシング内に配置されてオイルやガスを生産するチュービングが用いられる。これらケーシングやチュービングは、多数の鋼管が順次連結されて成り、その連結に管用ねじ継手が用いられる。油井に用いられる鋼管は油井管とも称される。
【0003】
管用ねじ継手の形式は、インテグラル型とカップリング型とに大別される。インテグラル型の管用ねじ継手は、例えば下記の特許文献1や、特許文献2の
図5-
図7に開示されており、カップリング型の管用ねじ継手は、例えば特許文献2の
図4や、特許文献3等に開示されている。
【0004】
インテグラル型では、油井管同士が直接連結される。具体的には、油井管の一端には雌ねじ部が、他端には雄ねじ部が設けられ、一の油井管の雌ねじ部に他の油井管の雄ねじ部がねじ込まれることにより、油井管同士が連結される。
【0005】
カップリング型では、管状のカップリングを介して油井管同士が連結される。具体的には、カップリングの両端に雌ねじ部が設けられ、油井管の両端には雄ねじ部が設けられる。そして、カップリングの一方の雌ねじ部に一の油井管の一方の雄ねじ部がねじ込まれるとともに、カップリングの他方の雌ねじ部に他の油井管の一方の雄ねじ部がねじ込まれることにより、カップリングを介して油井管同士が連結される。すなわち、カップリング型では、直接連結される一対の管材の一方が油井管であり、他方がカップリングである。
【0006】
一般に、雄ねじ部が形成された油井管の端部は、油井管又はカップリングに形成された雌ねじ部に挿入される要素を含むことから、ピンと称される。雌ねじ部が形成された油井管又はカップリングの端部は、油井管の端部に形成された雄ねじ部を受け入れる要素を含むことから、ボックスと称される。
【0007】
近年、さらなる高温高圧深井戸の開発が進んでいる。深井戸では、地層圧の深さ分布の複雑さによりケーシングの段数も増やす必要があることなどから、継手の最大外径、すなわちボックスの外径が油井管の管本体の外径とほぼ同程度のねじ継手が用いられることがある。ボックス外径が油井管の管本体の外径にほぼ等しいねじ継手はフラッシュ型ねじ継手とも称される。また、ボックス外径が油井管の管本体の外径の概ね108%未満であるねじ継手はセミフラッシュ型ねじ継手とも称される。これらフラッシュ型及びセミフラッシュ型のねじ継手には、高い強度及びシール性能が要求されるだけでなく、限られた管肉厚内にねじ構造及びシール構造を配置するために、各部位には厳しい寸法制約が課されている。
【0008】
寸法制約が大きいフラッシュ型及びセミフラッシュ型のねじ継手は、特許文献1に開示されているように、継手部の軸方向中間に中間ショルダ面を設け、その前後にそれぞれ内ねじ部及び外ねじ部を配置した2段ねじにより雄ねじ及び雌ねじを構成した継手デザインが採用されることが多い。2段ねじ構造の継手デザインによれば、より大きな危険断面の面積を確保できる。
【0009】
危険断面(CCS)とは、締結状態において引張荷重負荷時に最大応力が生じる継手部分の縦断面(管軸に直交する切断面におけるもの)である。過大な引張荷重が負荷された場合には、危険断面の近傍で破損する可能性が高い。
【0010】
油井管用ねじ継手では、引張荷重のピンからボックスへの伝搬は、ねじ嵌合範囲全体にわたって軸方向に分散される。したがって、引張荷重のすべてが作用するピンの断面部分はねじ嵌合範囲よりもピンの管本体側となり、引張荷重のすべてが作用するボックスの断面部分はねじ嵌合範囲よりもボックスの管本体側となる。引張荷重のすべてが作用する断面のうち最も断面積が小さいものが危険断面となる。すなわち、締結状態における雄ねじと雌ねじとの噛み合い端のうち、雄ねじ部の先端側の噛み合い端に対応する雌ねじ部のねじ谷底位置を包含するボックスの縦断面(管軸に直交する切断面におけるもの)がボックス危険断面(BCCS)となる。また、締結状態における雄ねじ部と雌ねじ部との噛み合い端のうち、雄ねじ部の管本体側の噛み合い端に対応する雄ねじ部のねじ谷底位置を包含するピンの縦断面(管軸に直交する切断面におけるもの)がピン危険断面(PCCS)となる。ボックス危険断面及びピン危険断面のうち面積が小さい方がそのねじ継手の危険断面(CCS)となる。油井管の管本体の断面積に対する危険断面の面積の比を継手効率と呼び、油井管本体の引張強度に対する継手部分の引張強度の指標として広く用いられている。
【0011】
2段ねじ構造のねじ継手においても、上記ボックス危険断面及びピン危険断面が存在する。さらに、2段ねじ構造のねじ継手においては、上述したように、継手部の軸方向中間部にも引張荷重に耐える継手断面積が小さくなる部位が存在する。すなわち、2段ねじ構造のねじ継手では、軸方向中間にねじ嵌合の無いセクションが存在する。このねじ嵌合の無いセクションでは、ピン及びボックスに分担された引張荷重が増減することなく軸方向に伝搬する。したがって、ねじ嵌合の無いセクションにおいて最も断面積が小さくなるピンの断面がピン中間危険断面(PICCS)となり、ねじ嵌合の無いセクションにおいて最も断面積が小さくなるボックスの断面がボックス中間危険断面(BICCS)となる。継手中間部における破断の発生を防止するためには、ピン中間危険断面の面積とボックス中間危険断面の面積との和を、ねじ継手の危険断面(CCS)の面積よりも大きくすることが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第2017/097700号
【特許文献2】特開昭57-186690号公報
【特許文献3】国際公開第2014/045973号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1に開示されている2段ねじ構造のセミフラッシュタイプのインテグラル型ねじ継手の場合、ピン及びボックスが端部に設けられる油井管の素管の肉厚範囲内に2段ねじ構造を形成する必要があり、油井管よりも大きな外径を有するカップリングを用いるカップリング型ねじ継手と比して継手部分の強度が低下し、高い圧縮荷重に耐えうる強度を確保することが難しい。
【0014】
一般論としては、圧縮性能を向上させるには、圧縮荷重を負担する部位のピン及びボックス間の接触面積を増加させることが有効である。すなわち、中間ショルダ面同士の径方向の接触幅(すなわち、接触する部分の径方向幅)を大きく確保したり、雄ねじ及び雌ねじの挿入面同士が圧縮荷重負荷時に接触するように挿入面間隙間を狭小化することにより圧縮性能を向上し得ると考えられる。
【0015】
しかし、中間ショルダ面同士の接触幅を大きくすると、ピン及びボックスのねじセクションの管肉厚や、シールセクションの管肉厚が犠牲となり、密封性能が低下してしまうとともに、ピン中間危険断面及びボックス危険断面の面積の和が減少することにも繋がり、ねじ継手の引張り強度の低下を招く。
【0016】
したがって、ピン先端(20)とボックスの端部肩部(30)とを締結状態で離間させ、圧縮荷重時に接触させることを考慮していない特許文献1記載の従来のねじ継手の場合、中間ショルダ(26,28)同士の接触による圧縮性能を大きく向上させることは困難である。
【0017】
本開示の目的は、2段ねじ構造の管用ねじ継手において、耐圧縮性能の更なる向上を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本開示に係る管用ねじ継手は、管状のピンと、該ピンを受け入れる開口端部を有する管状のボックスとから構成され、前記ピンが前記ボックスにねじ込まれて前記ピンと前記ボックスとが締結される。
【0019】
前記ピンは、第1雄ねじと、前記第1雄ねじよりもピンの管端側に設けられ且つ前記第1雄ねじよりも小径の第2雄ねじと、前記第1雄ねじと前記第2雄ねじとの間に設けられたピン中間ショルダ面と、前記ピンの管端部に設けられたピン端部ショルダ面と、前記第2雄ねじと前記ピン端部ショルダ面との間に設けられたピンシール面とを備え、
【0020】
前記ボックスは、締結完了時点で前記第1雄ねじが嵌合する第1雌ねじと、締結完了時点で前記第2雄ねじが嵌合する第2雌ねじと、締結完了時点で前記ピン中間ショルダ面に接触するボックス中間ショルダ面と、前記ピン端部ショルダ面に対応して設けられたボックス端部ショルダ面と、前記雌ねじと前記ボックス端部ショルダ面との間に設けられて締結完了時点で前記ピンシール面に全周にわたって接触するボックスシール面とを備える。
【0021】
前記ピン中間ショルダ面及び前記ボックス中間ショルダ面は、径方向内端よりも径方向外端が前記ピンの管端側に傾倒するテーパー面により構成されている。好ましくは、ピン中間ショルダ面及びボックス中間ショルダ面はトルクショルダとして機能する。
【0022】
前記ボックス端部ショルダ面は、径方向内端が径方向外端よりも前記ボックスの開口端側に傾倒するテーパー面により構成されている。なお、前記ピン端部ショルダ面は、ボックス端部ショルダ面に対応するテーパー面であることが好ましい。好ましくは、ピン端部ショルダ面のテーパー母線と、ボックス端部ショルダ面のテーパー母線とは並行であるが、これらテーパー母線のテーパー角度が異なっていてもよい。
【0023】
好ましくは、前記ピン及び前記ボックスのトルクショルダ面同士が接触開始する時点では前記ピン端部ショルダ面と前記ボックス端部ショルダ面とは接触しない。好ましくは、
締結完了時点で、若しくは、締結状態で軸方向圧縮荷重が負荷された場合に、前記ピン端部ショルダ面が前記ボックス端部ショルダ面に接触する。好ましくは、ピン端部ショルダ面及びボックス端部ショルダ面は、トルクショルダとしては実質的に機能させず、軸方向圧縮荷重の一部を負担する「疑似ショルダ」として機能させることができる。
【発明の効果】
【0024】
本開示によれば、2段ねじ構造のねじ継手において、トルクショルダとして機能する中間ショルダ面をテーパー面により構成することで、繰り返し複合荷重が負荷された後に中間ショルダ面近傍に生じるダメージを低減でき、中間ショルダ面の変形によるシール性能等への影響を小さくすることができる。また、締結完了時点ではピン端部ショルダ面とボックス端部ショルダ面とが接触していないか、若しくは、接触していたとしてもピン中間ショルダ面とボックス中間ショルダ面との間の接触圧よりもピン端部ショルダ面とボックス端部ショルダ面との間の接触圧の方が小さい。したがって、ピン及びボックスの締結完了時点で、ピン端部ショルダ面を有するピン先端部近傍に大きな圧縮応力が生じることがなく、ピン端部ショルダ面に負担させることのできる軸方向圧縮荷重に余裕を持たせることができる。さらに、締結状態で、ある程度大きな軸方向圧縮荷重が管用ねじ継手に負荷された場合には、ピン端部ショルダ面がボックス端部ショルダ面に接触して、軸方向圧縮荷重の一部を負担するので、トルクショルダとして機能するピン及びボックスの中間ショルダ面をテーパー面によって構成していても、これら中間ショルダ面に過大な圧縮応力が作用することを回避でき、耐圧縮性能を向上できる。
【0025】
また、ボックス端部ショルダ面を、径方向内端が径方向外端よりも前記ボックスの開口端側に傾倒するテーパー面により構成したので、締結過程や軸方向圧縮荷重負荷時に、ピン先端部に設けたピン端部ショルダ面をボックス端部ショルダ面に接触し易くなり、ピン先端部近傍が径方向内方に縮径するように変形することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は、実施形態に係る油井管用ねじ継手の締結完了時点の縦断面図である。
【
図2】
図2は、ねじ継手の中間ショルダ近傍の拡大縦断面図である。
【
図3】
図3は、ねじ継手のピン先端部近傍の拡大縦断面図である。
【
図4】
図4は、締結完了時点の雄ねじ及び雌ねじの噛み合い状態を示す拡大縦断面図である。
【
図5】
図5は、締結完了時点でピン及びボックスに生じる変形を誇張して示す縦断面図である。
【
図6】
図6は、軸方向圧縮荷重負荷時にピン及びボックスに生じる変形を誇張して示す縦断面図である。
【
図7】
図7は、別の実施形態に係る油井管用ねじ継手の締結完了時点の縦断面図である。
【
図8】
図8は、供試体#1~#3及び#10に繰り返し複合荷重を負荷したときの各荷重ステップにおける中間ショルダ面の回転角度を示すグラフである。
【
図9】
図9は、供試体#4~#6及び#10に繰り返し複合荷重を負荷したときの各荷重ステップにおける中間ショルダ面の回転角度を示すグラフである。
【
図10】
図10は、供試体#7~#9及び#10に繰り返し複合荷重を負荷したときの各荷重ステップにおける中間ショルダ面の回転角度を示すグラフである。
【
図11】
図11は、供試体#1,#4,#7及び#10に繰り返し複合荷重を負荷したときの各荷重ステップにおける中間ショルダ面の回転角度を示すグラフである。
【
図12】
図12は、供試体#2,#5,#8及び#10に繰り返し複合荷重を負荷したときの各荷重ステップにおける中間ショルダ面の回転角度を示すグラフである。
【
図13】
図13は、供試体#3,#6,#9及び#10に繰り返し複合荷重を負荷したときの各荷重ステップにおける中間ショルダ面の回転角度を示すグラフである。
【
図14】
図14は、繰り返し複合荷重負荷時の最小内シール接触力と端部ショルダ面のショルダ角との関係を示すグラフである。
【
図15】
図15は、各供試体の降伏トルクと端部ショルダ面のショルダ角との関係を示すグラフである。
【
図16】
図16は、繰り返し複合荷重負荷時の最小内シール接触力と中間ショルダ面のショルダ角との関係を示すグラフである。
【
図17】
図17は、各供試体の降伏トルクと中間ショルダ面のショルダ角との関係を示すグラフである。
【
図18】解析で使用した複合荷重条件の経路を示す図である。
【
図19】
図19は、
図1に示すインテグラル型ねじ継手のトルク性能と、
図7に示すカップリング型ねじ継手のトルク性能の比較グラフである。
【
図20】
図20は、
図1に示すインテグラル型ねじ継手のシール性能と、
図7に示すカップリング型ねじ継手のシール性能の比較グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本開示に係る管用ねじ継手は、管状のピンと、該ピンを受け入れる開口端部を有する管状のボックスとから構成され、ピンがボックスにねじ込まれてピンとボックスとが締結される。ピンは、第1雄ねじと、第1雄ねじよりもピンの管端側に設けられ且つ第1雄ねじよりも小径の第2雄ねじと、第1雄ねじと第2雄ねじとの間に設けられたピン中間ショルダ面と、ピンの管端部に設けられたピン端部ショルダ面と、第2雄ねじとピン端部ショルダ面との間に設けられたピンシール面とを備える。ボックスは、締結完了時点で第1雄ねじが嵌合する第1雌ねじと、締結完了時点で第2雄ねじが嵌合する第2雌ねじと、締結完了時点でピン中間ショルダ面に接触するボックス中間ショルダ面と、ピン端部ショルダ面に対応して設けられたボックス端部ショルダ面と、第2雌ねじとボックス端部ショルダ面との間に設けられて締結完了時点でピンシール面に全周にわたって接触するボックスシール面とを備える。ピン中間ショルダ面及びボックス中間ショルダ面は、径方向内端よりも径方向外端がピンの管端側に傾倒するテーパー面により構成されている。ボックス端部ショルダ面は、径方向内端が径方向外端よりもボックスの開口端側に傾倒するテーパー面により構成されている。ピン中間ショルダ面及びボックス中間ショルダ面が接触開始する時点ではピン端部ショルダ面とボックス端部ショルダ面とは接触しないように、これら中間ショルダ面及び端部ショルダ面が構成されている。締結完了時点で、若しくは、締結状態で軸方向圧縮荷重が負荷された場合に、ピン端部ショルダ面が前記ボックス端部ショルダ面に接触するよう、これら中間ショルダ面及び端部ショルダ面が構成されている。すなわち、ピン中間ショルダ面のうちボックス中間ショルダ面の径方向内端が接触するポイントとピン端部ショルダ面の径方向外端との間の軸方向距離が、ボックス端部ショルダ面のうちピン端部ショルダ面の径方向外端が接触するポイントとボックス中間ショルダ面の径方向内端との間の軸方向距離よりも小さい。
【0028】
好ましくは、ピン中間ショルダ面及びボックス中間ショルダ面の中間ショルダ角θ
1が15°より大きい(
図2参照)。中間ショルダ角θ
1は、ピン中間ショルダ面及びボックス中間ショルダ面を構成するテーパー面のテーパー母線LB1と、管軸に直交する平面PL1とのなす角度である。中間ショルダ角θ
1は、締結前の中間ショルダ面のものであってよい。かかる構成によれば、繰り返し複合荷重負荷時のピン中間ショルダ面及びボックス中間ショルダ面のショルダ回転角を大きく抑えることができ、耐圧縮性能を向上できる。好ましくは、ピン中間ショルダ面及びボックス中間ショルダ面の中間ショルダ角は等しい。
【0029】
好ましくは、ボックス端部ショルダ面の端部ショルダ角θ
2が15°より大きい(
図3参照)。端部ショルダ角θ
2は、ボックス端部ショルダ面を構成するテーパー面のテーパー母線LB2と、管軸に直交する平面PL2とのなす角度である。端部ショルダ角θ
2は、締結前のボックス端部ショルダ面のものであってよい。かかる構成によれば、ピンの管端部の径方向内方への変形抑制効果が大きくなるため、ピンの管端部近傍に設けられたピンシール面とボックスシール面との接触による密封性能を向上できる。また、締結完了時点におけるピン及びボックスの端部ショルダ面間の隙間を適切に設定することにより、降伏トルクを向上することができる。
【0030】
本発明の一態様において、前記ピンは油井管の一端部に形成されており、前記ボックスは、前記油井管を他の油井管に連結するためのカップリングの一端部に形成されている。カップリングは、2つの油井管を連結するための管状部材であり、カップリングの両端にそれぞれボックスが設けられていてよい。
【0031】
本発明の別の態様において、ピンは第1の油井管の縮径加工された一端部に形成されており、ボックスは第1の油井管と同じ外径及び内径を有する第2の油井管の拡径加工された一端部に形成されており、第1の油井管のピンの管端部は、第2の油井管のボックスのボックス端部ショルダの径方向内端よりも径方向内方に位置する内周面を有し、ピン端部ショルダ面とボックス端部ショルダ面との接触領域の径方向幅が1mm未満である。かかる構成によれば、ピン及びボックスの端部ショルダ面同士の接触幅が小さくとも、軸方向圧縮荷重負荷時に確実に軸方向圧縮荷重の一部を端部ショルダ面同士の接触によって負担させることができる。
【0032】
本明細書において、「締結完了時点」とは、ピンをボックスに締結した後、軸方向荷重及び内外圧のいずれもねじ継手に負荷していない時点を意味する。一方、「締結状態」とは、軸方向荷重及び内外圧が負荷されているか否かにかかわらずピン及びボックスが締結されている状態を意味する。ねじ継手が破壊されない範囲内、またはピン及びボックスのシール面の接触面圧が喪失しない範囲内、より好ましくは弾性域内で軸方向荷重及び内外圧を負荷した後であっても、ピン及びボックスが締結されていれば「締結状態」である。
【0033】
図1に例示するように、本実施の形態に係る管用ねじ継手1は、管状のピン2と、管状のボックス3とから構成される。ピン2とボックス3とは、ピン2がボックス3にねじ込まれることにより締結される。ピン2は、第1の管P1の管端部に設けられ、ボックス3は、第2の管P2の管端部に設けられる。第1の管P1は、油井管等の長尺パイプであってよい。第2の管は、油井管等の長尺パイプであってもよいし、長尺パイプ同士を接続するためのカップリングであってもよい。
図1に示される本実施の形態に係る管用ねじ継手1は、インテグラル型の管用ねじ継手である。油井管やカップリングは、典型的には鋼製であるが、ステンレス鋼やニッケル基合金等の金属製であってよい。
【0034】
ピン2は、第1の油井管P1の縮径加工された一端部に形成されていてよい。ボックス3は、第2の油井管P2の拡径加工された一端部に形成されていてよい。好ましくは、各油井管P1,P2の一端部にピン2を形成し、他端部にボックス3を形成することができる。より詳細には、第1の油井管P1は、長尺管からなる素管の一端部を縮径加工した後、縮径加工された一端部の外周をピン2の構成要素を形成するように切削加工することにより製造される。また、第2の油井管P2は、長尺管からなる素管の一端部を拡径加工した後、拡径加工された一端部の内周をボックス3の構成要素を形成するように切削加工することにより製造される。これにより、セミフラッシュタイプのインテグラル型ねじ継手において、ピン2及びボックス3の肉厚を確保できる。
【0035】
本明細書において、油井管P1,P2のピン2及びボックス3以外の部分であって縮径加工も拡径加工もされていない部分を「管本体」という。ピン2の管端側とは、ピン2の管本体からピン2の管端に向く方向を意味する。ボックス3の開口端側とは、ボックス3の管本体からボックス3の開口端に向く方向を意味する。
【0036】
ピン2は、第1雄ねじ21と、第1雄ねじ21よりもピン2の管端側に設けられ且つ第1雄ねじ21よりも小径の第2雄ねじ22と、第1雄ねじ21と第2雄ねじ22との間に設けられたピン中間ショルダ面23と、ピン2の管端部に設けられたピン端部ショルダ面24と、第2雄ねじ22とピン端部ショルダ面24との間に設けられたピンシール面25とを備える。第1雄ねじ21と第2雄ねじ22とは軸方向に離間しており、これらの間にピン中間ショルダ面23が設けられていてよい。好ましくは、第1及び第2の雄ねじ21,22は、それぞれテーパーねじからなる。好ましくは、第1及び第2の雄ねじ21,22は、同じねじテーパー角θ
TH及び同じねじピッチP
THを有する(
図4参照)。好ましくは、第2雄ねじ22を構成するテーパーねじのテーパー母線は、第1雄ねじ21を構成するテーパーねじのテーパー母線よりも径方向内方に位置する。ピン中間ショルダ面23は、第1雄ねじ21と第2雄ねじ22との間でピンの外周に形成された段部の側面により構成できる。ピン中間ショルダ面23は、ピン2の管端側に向けられている。第1及び第2雄ねじ21,22はそれぞれ、台形ねじ、APIラウンドねじ、APIバットレスねじ、若しくは、楔型ねじなどであってよい。
【0037】
ボックス3は、締結完了時点で第1雄ねじ21が嵌合する第1雌ねじ31と、締結完了時点で第2雄ねじ22が嵌合する第2雌ねじ32と、締結完了時点でピン中間ショルダ面23に接触するボックス中間ショルダ面33と、ピン端部ショルダ面24に対応して設けられたボックス端部ショルダ面34と、第2雌ねじ32とボックス端部ショルダ面34との間に設けられて締結完了時点でピンシール面25に全周にわたって接触するボックスシール面35とを備える。これらピンシール面25及びボックスシール面35は、主として内圧に対する密封性能を発揮するための内圧用シールとして機能させることができる。好ましくは、ボックス3は、第1雌ねじ31よりもボックス3の開口端側に設けられた外圧用ボックスシール面36をさらに備えることができ、ピン2は、締結完了時点で外圧用ボックスシール面36に全周にわたって接触する外圧用ピンシール面26をさらに備えることができる。
【0038】
各シール面25,35,26,36の縦断面形状は適宜のものであってよく、図示実施例では各シール面は縦断面において直線状に傾斜するテーパー面により構成されている。これに代えて、互いに接触するシール面の一方を凸曲面により構成することもできるし、双方のシール面を凸曲面により構成することもできる。いずれにしても、ピン2がボックス3の奥側に押し込まれる程、シール干渉量が大きくなるように、各シール面が構成されている。
図3に示す実線はシール干渉量によってピン2が縮径変形した状態を示しており、仮想線はピン2の変形前の状態を示している。シール干渉量は適宜設計できるが、インテグラル型の2段ねじ構造のねじ継手1の場合、内圧用シール面25近傍のピン2の肉厚が比較的小さくなるため、シール干渉量を比較的大きく、例えば1mm程度、設けることにより、締結状態におけるピン2の弾性復元力を比較的大きくして、内圧用シール面25,35同士の接触圧を確保することができる。
【0039】
第1雌ねじ31と第2雌ねじ32とは軸方向に離間しており、これらの間にボックス中間ショルダ面33が設けられていてよい。好ましくは、第1及び第2の雌ねじ31,32は、第1及び第2の雄ねじ21,22にそれぞれ適合するテーパーねじからなる。ボックス中間ショルダ面33は、第1雌ねじ31と第2雌ねじ32との間でボックス3の内周に形成された段部の側面により構成できる。ボックス中間ショルダ面33は、ボックス3の開口端側に向けられており、ピン中間ショルダ面23に対向する。ボックス中間ショルダ面33は、少なくとも締結完了時点でピン中間ショルダ面23に接触し、これら中間ショルダ面23,33は、トルク性能を発揮するためのトルクショルダとして機能することが好ましい。第1及び第2の雌ねじ31,32は、第1及び第2の雄ねじ21,22にそれぞれ適合する台形ねじ、APIラウンドねじ、APIバットレスねじ、若しくは、楔型ねじなどであってよい。
【0040】
好ましくは、各ねじ21,22,31,32のねじ山頂面及びねじ谷底面の縦断面形状は、管軸に平行に延びる直線状である。
【0041】
好ましくは、ピン2及びボックス3の締結完了時点で、第1雄ねじ21及び第1雌ねじ31の荷重面21L,31L同士が接触し、第2雄ねじ22及び第2雌ねじ32の荷重面22L,32L同士が接触し、第1雄ねじ21及び第1雌ねじ31の挿入面21S,31S間に隙間が形成され、且つ、第2雄ねじ22及び第2雌ねじ32の挿入面22S,32S間に隙間が形成される。
【0042】
好ましくは、第1雄ねじ21及び第1雌ねじ31の挿入面21S,31S間に形成される隙間の大きさは、これらねじ21,31の嵌合範囲の軸方向全長にわたって均一であるが、一部の小領域においてより大きな隙間が形成されていてもよい。好ましくは、第2雄ねじ22及び第2雌ねじ32の挿入面22S,32S間に形成される隙間の大きさは、これらねじ22,32の嵌合範囲の軸方向全長にわたって均一であるが、一部の小領域においてより大きな隙間が形成されていてもよい。好ましくは、挿入面21S,31S間に形成される隙間の大きさと、挿入面22S,32S間に形成される隙間の大きさとが等しい。
【0043】
好ましくは、締結完了時点で第1雄ねじ21及び第1雌ねじ31の挿入面21S,31S間に形成される隙間は、ピン2及びボックス3の降伏圧縮荷重よりも小さい所定の軸方向圧縮荷重が負荷されたときにピン2及びボックス3の変形により挿入面21S,31S同士が軸方向圧縮荷重の一部を負担するように接触開始する程度の大きさとされている。挿入面21S,31S同士の接触開始時の接触状態は様々であってよく、第1の雄ねじ21及び第1の雌ねじ31の管軸方向の所定の部位から接触開始して、軸方向圧縮荷重が大きくなるにつれて徐々に挿入面21S,31S同士の接触領域が広がっていってもよいし、また、挿入面21S,31S全体が同時に接触開始してもよい。締結完了時点で挿入面21S,31S間に形成される隙間の管軸方向に沿う方向における大きさは、例えば0.15mm以下であってよい。締結時の焼き付き防止の観点から、上記隙間の大きさは、0.06mm以上であることが好ましい。
【0044】
好ましくは、締結完了時点で第2雄ねじ22及び第2雌ねじ32の挿入面22S,32S間に形成される隙間は、ピン2及びボックス3の降伏圧縮荷重よりも小さい所定の軸方向圧縮荷重が負荷されたときにピン2及びボックス3の変形により挿入面22S,32S同士が軸方向圧縮荷重の一部を負担するように接触開始する程度の大きさとされている。挿入面22S,32S同士の接触開始時の接触状態は様々であってよく、第2の雄ねじ22及び第2の雌ねじ32の管軸方向の所定の部位から接触開始して軸方向圧縮荷重が大きくなるにつれて徐々に挿入面22S,32S同士の接触領域が広がっていってもよいし、また、挿入面22S,32S全体が同時に接触開始してもよい。また、挿入面22S,32S同士が接触開始する軸方向圧縮荷重は、挿入面21S,31S同士が接触開始する軸方向圧縮荷重と異なっていても良い。締結完了時点で挿入面22S,32S間に形成される隙間の管軸方向に沿う方向における大きさは、例えば0.15mm以下であってよい。締結時の焼き付き防止の観点から、上記隙間の大きさは、0.06mm以上であることが好ましい。
【0045】
ピン2及びボックス3の中間ショルダ面23,33は、径方向内端よりも径方向外端がピン2の管端側、すなわち先端側に傾倒するテーパー面により構成されている。
【0046】
本願発明者らは、2段ねじ構造のねじ継手の中間ショルダ面は、径方向外端側がボックスの開口端側に回転するように変形する傾向があること、並びに、負荷される軸方向圧縮荷重が大きいほどショルダ回転角Δθが大きくなる特性を有することを、種々の試験により確認している。本明細書において、ショルダ回転角Δθとは、
図2に示すように、締結完了時点の縦断面におけるピン中間ショルダ面の外端Paとボックス中間ショルダ面の内端Baとを通る直線Laと、軸方向圧縮荷重負荷時の前記縦断面におけるピン中間ショルダ面の外端Pbとボックス中間ショルダ面の内端Bbとを通る直線Lbとのなす角度である。なお、締結完了時点においても中間ショルダ面は締結前に比して僅かに回転している可能性があるため、上記テーパー母線LB1と直線Laが一致するとは限らない。
【0047】
中間ショルダ面23,33のショルダ回転角Δθが大きくなると、中間ショルダ面23,33の近傍に塑性ひずみが蓄積し易くなるため好ましくない。さらに、大きなショルダ回転角Δθは、ピン中間ショルダ面23の径方向外端近傍、並びに、ボックス中間ショルダ面33の径方向内端近傍が潰れるような変形を誘発し、その後の実質的なショルダ接触面積が低下するおそれもある。
【0048】
軸方向圧縮荷重負荷時の中間ショルダ面23,33のショルダ回転角Δθを抑制するために、中間ショルダ角θ1を、好ましくは5°より大きく、より好ましくは15°より大きくすることができる。また、中間ショルダ角θ1が大きくなりすぎるとショルダ端部が先尖り状となるため、中間ショルダ角θ1は45°以下が好ましく、より好ましくは25°以下とすることができる。後述するように、本願発明者らは、25°以下の範囲で中間ショルダ角θ1を大きくするほど、軸方向圧縮荷重負荷時の中間ショルダ面23,33のショルダ回転角Δθを抑制し得ることを見出した。このように、中間ショルダ面23,33を傾けることにより、比較的大きな軸方向圧縮荷重負荷後に中間ショルダ面23,33に蓄積されるダメージを低減でき、繰り返し複合荷重が負荷される状況においても安定した耐圧縮性能を発揮することが期待できる。
【0049】
ボックス3の端部ショルダ面34は、径方向内端が径方向外端よりもボックス3の開口端側に傾倒するテーパー面により構成されており、締結状態でピン2の端部ショルダ面24に径方向内方から引っかかるように構成されている。ピン端部ショルダ面24は、締結完了時点でボックス端部ショルダ面34に接触してもよいし、締結完了時点ではボックス端部ショルダ面34との間に隙間が形成されてもよい。少なくとも、ねじ継手の降伏圧縮荷重よりも小さな所定の軸方向圧縮荷重が負荷された場合に、ピン2及びボックス3の弾性変形によってピン2及びボックス3の端部ショルダ面24,34同士が接触して、軸方向圧縮荷重の一部を負担する。
【0050】
好ましくは、ピン端部ショルダ面24とボックス端部ショルダ面34との接触領域の径方向幅は1mm未満である。このように端部ショルダ面24,34同士の接触幅を狭小化することにより、他の部位の肉厚を確保し易くなる。なお、ピン2及びボックス3の端部ショルダ面24,34同士の接触領域とは、
図3に示すようにシール干渉量によってピン2及びボックス3に径方向の変形が導入された状態の接触領域であって、締結前、すなわち変形前のピン2及びボックス3の端部ショルダ面34の管軸方向から見た重複範囲よりも小さくなる。
【0051】
より好ましくは、第2雄ねじ22及び第2雌ねじ32の挿入面22S,32S同士がまず接触を開始し、負荷される圧縮荷重がさらに大きくなると端部ショルダ面24,34同士の接触が開始するよう、締結完了時点の挿入面22S,32S間の隙間の大きさと端部ショルダ面24,34間の隙間の大きさとを定めることができる。これによれば、端部ショルダ面24,34同士の接触幅が小さくとも、軸方向圧縮荷重負荷時に端部ショルダ面24,34が負担する圧縮荷重を小さくすることができるため、圧縮荷重による端部ショルダ面24,34近傍の塑性ひずみを低減できる。加えて、ピン2の第2雄ねじ22の挿入面22Sに作用する圧縮荷重の一部は、ピン先端側をラッパ状に拡径させるように作用することが期待され、内圧用シール面25,35同士の接触圧を維持する効果も期待できる。
【0052】
これに代えて、端部ショルダ面24,34同士がまず接触を開始し、負荷される圧縮荷重がさらに大きくなると挿入面22S,32S同士の接触が開始するように構成することもできる。これによれば、端部ショルダ面24,34同士をより確実に接触させることにより、ピン先端部近傍の縮径変形を抑制できる。
【0053】
ボックス端部ショルダ面34の端部ショルダ角θ2は、好ましくは5°より大きく、より好ましくは10°より大きい。端部ショルダ角θ2についても、中間ショルダ角θ1と同様、45°以下とすることが好ましく、より好ましくは25°以下とすることができる。ピン端部ショルダ面24の端部ショルダ角は、ボックス端部ショルダ面34の端部ショルダ角θ2と等しいことが好ましいが、ピン端部ショルダ面24は、ピン2の先端部の縮径変形を抑制するようにボックス端部ショルダ面34に接触し得る形状であればよく、例えば縦断面において湾曲する凸曲面によってピン端部ショルダ面24が形成されていてもよい。
【0054】
本実施形態の管用ねじ継手1では、ピン2をボックス3に締結していくと、ピン2の中間ショルダ面23がボックス3の中間ショルダ面33に接触する。このときの締結トルクはショルダリングトルクとも言われている。さらにピン2をボックス3に対して締め付けていくと、中間ショルダ面23,33同士の摺動接触により、締結トルクが急激に増大していく。而して、中間ショルダ面23,33はトルクショルダとして機能する。締付トルクが降伏トルクを超えると、中間ショルダ面23,33の近傍や雄ねじ21,22及び雌ねじ31,32が破壊され、締付回転量を増やしても締付トルクが上昇しなくなる。したがって、締付トルクが降伏トルクに至る前に締付を完了すべきである。
【0055】
ねじ継手1においては、締結完了時点で、
図4に示すように、雄ねじ21,22及び雌ねじ31,32の荷重面同士が接触する一方、雄ねじ21,22及び雌ねじ31,32の挿入面間に微小隙間が形成される。
【0056】
図5は、締結完了時点のピン2及びボックス3の変形の傾向を分かりやすくするため、締結を模擬した弾塑性有限要素解析結果の各部位の変形量を5倍に拡大している。したがって、
図5は、ピン2及びボックス3の各部位の位置関係や接触状態は不正確であり、ピン2及びボックス3の変形傾向のみの参考図として参照されるべきである。図示されるように、ピン2は、締結によって第2雄ねじ22の荷重面22Lに作用する軸方向の力により、ピン先端側が縮径するように変形する。なお、実際はピン端部ショルダ面24はボックス端部ショルダ面34の内側に位置しており、これらショルダ面24,34は軽く接触しているか、或いは、僅かな隙間を有した状態で対向している。
【0057】
図6は、
図5に示す締結完了状態のねじ継手に、さらに軸方向圧縮荷重を負荷する解析を行った弾塑性有限要素解析結果を示すものである。
図6においても、
図5と同様に変形傾向を分かりやすく示すために各部位の変形量を5倍に拡大しており、その結果、ピン2及びボックス3の各部位の位置関係や接触状態は不正確なものとなっている。圧縮荷重負荷時は、端部ショルダ面24,34同士が接触して軸方向荷重の一部を負担するとともに、挿入面22S,32S同士が第2雄ねじ22及び第2雌ねじ32の嵌合範囲の軸方向全長にわたって接触し、これら接触部位に作用する軸方向荷重によってボックス2が樽状に膨らむように変形する一方、ピン2側は第2雄ねじ22の荷重面22Lに作用する軸方向の力が解放されることによりピン先端側を縮径変形させる応力は緩和されている。また、端部ショルダ面24,34同士の接触によって、内圧用ピンシール面25及び内圧用ボックスシール面35同士が軸方向にずれることが抑制され、これによりシール面25,35同士の適正な接触状態が維持されている。
【0058】
本開示は、インテグラル型だけでなく、
図7に示すようにカップリング型のねじ継手に適用してもよい。
図7に示す実施形態において、第1の管P1は油井管等の鋼管であり、第2の管P2はカップリングである。カップリングP2の外径は軸長の全長にわたって一定若しくはほぼ一定である。カップリングP2の管本体の内径は、ピン2の縮径加工された先端部の内径とほぼ等しい。すなわち、ボックス端部ショルダ面34の径方向内端部の径は、ピン端部ショルダ面24の内端部の径とほぼ同じである。その他の構造は
図1に示す実施形態と同様であるので、同符号を付して詳細説明を省略する。
【0059】
その他、本開示は上記の実施の形態に限定されず、本願の特許請求の範囲に特定した発明の範囲内で、種々の変更が可能である。
【実施例0060】
本実施の形態に係る油井管用ねじ継手1の効果を確認するため、弾塑性有限要素法による数値解析シミュレーションを実施し、耐トルク性能、密封性能、及び、耐圧縮性能を評価した。
【0061】
<試験条件>
解析に供試したセミフラッシュタイプのインテグラル型ねじ継手1の縦断面は
図1に示す通りであり、その主要寸法は下記の通りである。
・油井管サイズ:14" 116.0#(管本体外径:355.60mm、管本体内径:313.94mm)
・油井管材料:API規格の油井管材料Q125(公称耐力YS=862MPa(125ksi))
・継手効率(ボックス危険断面BCCSの面積/管本体の断面積):77.1%
・ピン2の中間ショルダ面23の径方向中央からピン端部ショルダ面24の径方向外端までの軸方向長さL1:103.82mm
・ボックス3の中間ショルダ面33の径方向中央からボックス3の開口端までの軸方向長さL2:112.98mm
・各ねじのねじテーパ:1.591°(1/18)
・各ねじのねじ高さ:1.3mm
・各ねじのねじピッチ:5.08mm
【0062】
中間ショルダ面23,33及び端部ショルダ面24,34のショルダ角θ1,θ2が継手性能に及ぼす影響を評価するため、表1に示す通り、ショルダ角θ1,θ2を変更した複数の供試体#1~#10のモデルを作成した。なお、その他の寸法はすべての供試体において統一した。供試体#10は、特許文献1の実施形態に係るねじ継手と同じショルダ角を有し、本発明に対する比較例として評価した。
【0063】
【0064】
耐トルク性能は、締結トルク線図において締結トルクの傾きが緩やかに変化し始める値を降伏トルクMTVと定義し、その値の大小により評価した。その評価結果を表1、並びに、
図15及び
図17に示す。
【0065】
密封性能と圧縮性能は、
図18に示す2017年版のAPI5C5 CAL IV準拠のSeriesA試験を模擬した複合荷重楕円をトレースする繰り返し複合荷重ステップ(1)~(52)をねじ継手1に順次負荷することにより評価した。なお、図中、「Compression」は圧縮荷重、「Tension」は引張荷重、「IP」は内圧(Internal Pressure)、「EP」は外圧(External Pressure)、「VME 100% for pipe」は油井管の管本体の降伏曲線、「Joint Efficiency」は継手効率、「CYS」(Connection Yield Strength)はねじ継手の強度、「CYS 100%」はねじ継手の降伏曲線、「CYS 95%」はCYS 100%に対して95%の降伏曲線、「High collapse for connection」はねじ継手の外圧による崩壊曲線である。「CYS 100%」は、「VME 100% for pipe」の軸力(圧縮又は引張)に継手効率JEを乗じた曲線である。
【0066】
密封性能は、
図18に示す荷重ステップを順次負荷する過程で、内圧用シール面25,35間のシール接触力が最小となった値を最小シール接触力と定義し、その値の大小により評価した。その評価結果を、表1、並びに、
図14及び
図16に示す。
【0067】
耐圧縮性能は、
図18に示す繰り返し複合荷重を順次負荷していくときの中間ショルダ面23,33のショルダ回転角Δθの大小で評価した。その評価結果を
図8~
図13に示す。
【0068】
<評価結果>
降伏トルクは、
図15に示すように、ピン2及びボックス3の端部ショルダ角θ
2が大きいほど増加する傾向が確認された。これは、端部ショルダ角θ
2が大きくなるにつれて、端部ショルダ面24,34間の距離(面に直交する方向の距離)が小さくなり、締結トルクが降伏トルクに達する前に端部ショルダ面24,34同士の接触が始まって、端部ショルダ面24,34も中間ショルダ面23,33とともにトルクショルダとして機能するためであると考えられる。一方、
図17に示すように、ピン2及びボックス3の中間ショルダ角θ1が大きくなるほど降伏トルクは減少することが確認された。ただし、最も降伏トルクが小さくなった供試体#6においても68,000ft.lbsを超える実用上十分な降伏トルクが得られている。
【0069】
最小シール接触力は、
図14に示すように、端部ショルダ角θ
2が大きくなるにつれて増加するのに対し、
図16に示すように、中間ショルダ角θ
1の大小にはあまり影響しないことが確認された。したがって、密封性能の向上には、端部ショルダ角θ
2を増加させることが有効である。
【0070】
耐圧縮性能は、
図8~
図10から明らかなように、中間ショルダ角θ
1が大きくなるにつれて、繰り返し複合荷重を負荷したときのショルダ回転角Δθが、荷重経路全体にわたって大きく低減されることが確認された。これは、荷重ステップ(11)でねじ継手1の降伏圧縮荷重が始めて負荷されるが、このときに中間ショルダ23,33近傍に蓄積されるダメージがその後の荷重ステップにも大きく影響するためであると考えられる。
【0071】
一方、端部ショルダ角θ2の大小が中間ショルダ面23,33のショルダ回転角Δθに与える影響は、
図11~
図13に示されるように限定的であることが確認された。
【0072】
なお、いずれの供試体#1~#10においても、荷重ステップ(11),(13),(31),(39),(41)の降伏圧縮荷重が負荷されているときは端部ショルダ面24,34同士が接触していることを確認した。
【0073】
以上より、降伏トルクを犠牲にしても中間ショルダ面23,33を傾斜させた上で、軸方向圧縮荷重が負荷されると端部ショルダ面24,34同士が接触するよう構成し、さらに、端部ショルダ面24,34をも傾斜させることによって、必要十分なトルク性能を発揮しつつ、密封性能及び耐圧縮性能を一層向上できることが確認された。