(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114129
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】窒化ケイ素粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 21/068 20060101AFI20240816BHJP
【FI】
C01B21/068 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023019638
(22)【出願日】2023-02-13
(71)【出願人】
【識別番号】591149089
【氏名又は名称】株式会社MARUWA
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 理
(72)【発明者】
【氏名】竹内 俊輝
(72)【発明者】
【氏名】高橋 光隆
(57)【要約】
【課題】工程を簡略化し、および/または短時間で高α分率の窒化ケイ素粉末の合成を可能とする、窒化ケイ素粉末の製造方法を提供する。
【解決手段】窒化ケイ素粉末を製造する方法は、98~99.3重量%の金属シリコン粉末と、反応触媒としての0.7~2.0重量%の酸化マグネシウム粉末とを混合して混合粉末を作製する混合工程と、混合粉末を炉内で窒素雰囲気中で加熱する加熱工程と、を含む。加熱工程は、常圧以上の窒素雰囲気中で、炉内温度を第1の温度Tsまで昇温させる第1の昇温ステップと、炉内温度が第1の温度Tsに到達したときに、炉内の窒素圧が負圧になるまで炉内を減圧する減圧ステップと、負圧の窒素雰囲気中で、炉内温度を第1の温度Tsから第2の温度Teまで昇温させる第2の昇温ステップと、を含む。第1の温度Tsは1200℃以下であり、第2の温度Teは1250℃以上である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化ケイ素粉末を製造する方法であって、
98~99.3重量%の金属シリコン粉末と、反応触媒としての0.7~2.0重量%の酸化マグネシウム粉末とを混合して混合粉末を作製する混合工程と、
前記混合粉末を炉内で窒素雰囲気中で加熱する加熱工程と、を含み、
前記加熱工程は、
常圧以上の窒素雰囲気中で、炉内温度を第1の温度Tsまで昇温させる第1の昇温ステップと、
前記炉内温度が前記第1の温度Tsに到達したときに、前記炉内の窒素圧が負圧になるまで前記炉内を減圧する減圧ステップと、
負圧の窒素雰囲気中で、前記炉内温度を前記第1の温度Tsから第2の温度Teまで昇温させる第2の昇温ステップと、を含み、
前記第1の温度Tsは1200℃以下であり、前記第2の温度Teは1250℃以上であることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記第2の昇温ステップは、50℃/h以下の昇温速度で前記炉内温度を前記第1の温度Tsから前記第2の温度Teまで昇温させることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2の昇温ステップにおいて、前記金属シリコン粉末と窒素ガスとの平均反応速度が5%/h以上であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記加熱工程は、前記第2の昇温ステップに続いて、常圧以上の窒素雰囲気中で所定時間1350℃以上で前記混合粉末を熱処理する後熱処理ステップをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記加熱工程は、前記第2の昇温ステップに続いて、前記第1の温度Tsに到達した第1の時間ts(h)と前記第2の温度Teに到達した第2の時間te(h)との間における、前記金属シリコン粉末の重量(kg)当たりの炉内圧力P(kPa)の時間積分値Sが、-7kPa・h/kg以下であるように制御され、前記炉内圧力P(kPa)は、常圧に対する差圧値として表されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の温度Tsは1100~1200℃であり、前記第2の温度Teは1250℃~1450℃であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記第2の温度Teと前記第1の温度Tsとの温度差が90~250℃であることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
窒化ケイ素粉末のα分率が90%以上であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記混合工程は、0~0.4重量%のフッ化カルシウム粉末を添加することをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
窒化ケイ素粉末を製造する方法であって、
97.6~99.5重量%の金属シリコン粉末と、反応触媒としての0.4~2.0重量%の酸化マグネシウム粉末と、0.1~0.4重量%のフッ化カルシウム粉末と、を混合して混合粉末を作製する混合工程と、
前記混合粉末を炉内で窒素雰囲気中で加熱する加熱工程と、を含み、
前記加熱工程は、
常圧以上の窒素雰囲気中で、炉内温度を第1の温度Tsまで昇温させる第1の昇温ステップと、
前記炉内温度が前記第1の温度Tsに到達したときに、前記炉内の窒素圧が負圧になるまで前記炉内を減圧する減圧ステップと、
負圧の窒素雰囲気中で、前記炉内温度を前記第1の温度Tsから第2の温度Teまで昇温させる第2の昇温ステップと、を含み、
前記第1の温度Tsは1200℃以下であり、前記第2の温度Teは1250℃以上であることを特徴とする方法。
【請求項11】
加熱工程の開始から終了までの工程時間が30時間を越えないことを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化ケイ素焼結体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器や半導体デバイスの高密度化、高出力化に伴い、パワーモジュールの発熱密度が増加している。パワーモジュールの温度上昇は、素子の動作不良を引き起こしたり、絶縁回路基板の割れを引き起こしたりする要因となる。そのため、絶縁回路基板には、比較的に熱伝導率が高い材料であるアルミナや窒化アルミニウムなどのセラミック基板が用いられてきた。しかしながら、アルミナや窒化アルミニウムには、機械的強度が低いという欠点が存在する。それ故、熱応力が強くかかる厚銅をセラミック基板へ直接接合することが出来ず、パワーモジュールの構造に制約を与えてきた。具体的には、銅やアルミニウムなどの放熱板を絶縁回路基板に対して、はんだ接合する必要が生じることから、パワーモジュールが大型化することが問題として挙げられる。そこで、絶縁回路基板として注目されているのが窒化ケイ素(Si3N4)材料である。窒化ケイ素焼結体は、アルミナや窒化アルミニウム焼結体と比較して強度や破壊靭性が高いことから、絶縁回路基板へ直接厚銅を接合することが可能となり、モジュールの小型化に貢献する。
【0003】
一般的に、窒化ケイ素焼結体は、窒化ケイ素粉末を出発原料として、少量の焼結助剤を添加し、それらを高温で焼成することによって作製される。窒化ケイ素粉末は、直接窒化法、シリカ還元法、イミド熱分解法によって製造される。特に、直接窒化法は、シリコン粉末を窒素中で熱処理することで窒化ケイ素粉末を作製する方法であり、カーボン等の不純物の混入がない利点を有することから、高性能の窒化ケイ素焼結体を作製するのに多く用いられている製法である。そして、窒化ケイ素粉末の状態が、窒化ケイ素焼結体の熱伝導性や物理的強度や耐食性などの特性に影響を与えることもまた知られている。
【0004】
窒化ケイ素には、異なる結晶相を有するα型窒化ケイ素(α-Si3N4)およびβ型窒化ケイ素(β-Si3N4)の2種類が存在する。α型窒化ケイ素は、高温(1500~1700℃の焼結温度付近)で不可逆的にβ型窒化ケイ素に相変態する性質を有する。一方で、β型窒化ケイ素は、窒化ケイ素焼結体を作製するにあたって、α型窒化ケイ素よりも焼結性の点で劣っている。すなわち、窒化ケイ素焼結体の原料粉末としての窒化ケイ素粉末において、焼結体の特性を損なわずに焼結するためにα型窒化ケイ素の比率(α分率、α化率)が高いことが望ましいとされる。それ故、α型窒化ケイ素の比率が高くかつ高純度の窒化ケイ素粉末を効率的に製造することが従来からの課題であった。
【0005】
特許文献1は、直接窒化法を用いた高α分率(高α化率)の窒化ケイ素を製造する方法を開示する。特許文献1の製造方法は、金属シリコンを含む窒化原料を窒素及び/又はアンモニアからなる反応ガスを含む雰囲気下に加熱して窒化ケイ素を製造する際に、密封可能な反応炉に、その炉内ガス容積1m3に対して10kg以上の金属シリコン分を含む窒化原料を充填し、それを以下の条件(1)反応速度4%/h以下、(2)窒化率10~90%における反応速度0.5%/h以上、(3)窒化率50%未満における反応速度の増加分0.6%/h2以下に制御して窒化原料を窒化するものである。より具体的には、市販の高純度金属シリコン粉末100重量部に窒化ケイ素粉末(電気化学工業社製商品名「SN-9FW」)を骨材として20重量部を配合し、ボールミルで混合して窒化原料とした。これをガス容積1997リットルの密閉可能な反応炉に充填し、真空排気後窒素ガスで置換してから体積比で窒素30%、アルゴン50%、水素20%の混合ガスを供給し昇温を開始した。昇温速度は、温度1150℃からは5℃/hとした。反応速度の測定は、反応炉の入口と出口において積算ガス流量計により反応ガス量を5分間毎に測定し、その差を消費ガス量として算出された金属シリコンの消費重量から求めた。反応開始温度は、いずれも1130~1140℃であり、反応開始後は、窒素ガスとアルゴンガスの流量を調節しながら反応速度を制御した。最大反応速度が4%/h以下、窒化率10~90%における最小反応速度は0.5%/h以上、窒化率50%未満における反応速度の増加分0.6%/h2以下に制御された。窒化終了後、窒素ガスを流しながら室温まで放冷し合成したインゴットを取り出した。得られたインゴットを0.2mm以下に粗・中砕した後、窒化ケイ素製ボールを用いた振動ミルで、窒素雰囲気下、1時間粉砕して高α分率の窒化ケイ素粉末を製造した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の製造方法は、炉内の反応ガス分圧を減少させて窒化反応速度を抑制することによって、高α分率の窒化ケイ素粉末を製造可能とするものである。特許文献1の方法によれば、アルゴンガスや水素ガスを用いて窒素ガスの分圧を制御することが行われており、窒素ガスの分圧の制御が煩雑な工程となることが避けられない。また、窒化ケイ素粉末の発熱量を抑えるために、窒素原料の反応速度が4%/h以下に制限されている。そのため、従来の製造方法には、最短でも25時間の合成時間(特許文献1の実施例では39時間以上)がかかり、バッチ当たりのサイクル時間が長くなるという欠点がある。そこで、発明者らは、工程を簡略化し、および/または合成時間を短縮し、窒化ケイ素焼結体をより効率的に製造する方法を提供することを課題とした。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために、その目的は、工程を簡略化し、および/または短時間で高α分率の窒化ケイ素粉末の合成を可能とする、窒化ケイ素粉末の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一形態の窒化ケイ素粉末の製造方法は、窒化ケイ素粉末を製造する方法であって、
98~99.3重量%の金属シリコン粉末と、反応触媒としての0.7~2.0重量%の酸化マグネシウム粉末とを混合して混合粉末を作製する混合工程と、
前記混合粉末を炉内で窒素雰囲気中で加熱する加熱工程と、を含み、
前記加熱工程は、
常圧以上の窒素雰囲気中で、炉内温度を第1の温度Tsまで昇温させる第1の昇温ステップと、
前記炉内温度が前記第1の温度Tsに到達したときに、前記炉内の窒素圧が負圧になるまで前記炉内を減圧する減圧ステップと、
負圧の窒素雰囲気中で、前記炉内温度を前記第1の温度Tsから第2の温度Teまで昇温させる第2の昇温ステップと、を含み、
前記第1の温度Tsは1200℃以下であり、前記第2の温度Teは1250℃以上であることを特徴とする。
【0010】
本発明のさらなる形態の窒化ケイ素粉末の製造方法は、上記形態の方法においてさらに、前記第2の昇温ステップは、50℃/h以下の昇温速度で前記炉内温度を前記第1の温度Tsから前記第2の温度Teまで昇温させることを特徴とする。
【0011】
本発明のさらなる形態の窒化ケイ素粉末の製造方法は、上記形態の方法においてさらに、前記第2の昇温ステップにおいて、前記金属シリコン粉末と窒素ガスとの平均反応速度が5%/h以上であることを特徴とする。
【0012】
本発明のさらなる形態の窒化ケイ素粉末の製造方法は、上記形態の方法においてさらに、前記加熱工程は、前記第2の昇温ステップに続いて、常圧以上の窒素雰囲気中で所定時間1350℃以上で前記混合粉末を熱処理する後熱処理ステップをさらに含むことを特徴とする。
【0013】
本発明のさらなる形態の窒化ケイ素粉末の製造方法は、上記形態の方法においてさらに、前記加熱工程は、前記第2の昇温ステップに続いて、前記第1の温度Tsに到達した第1の時間ts(h)と前記第2の温度Teに到達した第2の時間te(h)との間における、前記金属シリコン粉末の重量(kg)当たりの炉内圧力P(kPa)の時間積分値Sが、-7kPa・h/kg以下であるように制御され、前記炉内圧力P(kPa)は、常圧に対する差圧値として表されることを特徴とする。
【0014】
本発明のさらなる形態の窒化ケイ素粉末の製造方法は、上記形態の方法においてさらに、前記第1の温度Tsは1100~1200℃であり、前記第2の温度Teは1250℃~1450℃であることを特徴とする。
【0015】
本発明のさらなる形態の窒化ケイ素粉末の製造方法は、上記形態の方法においてさらに、前記第2の温度Teと前記第1の温度Tsとの温度差が90~250℃であることを特徴とする。
【0016】
本発明のさらなる形態の窒化ケイ素粉末の製造方法は、上記形態の方法においてさらに、窒化ケイ素粉末のα分率が90%以上であることを特徴とする
【0017】
本発明のさらなる形態の窒化ケイ素粉末の製造方法は、上記形態の方法においてさらに、前記混合工程は、0~0.4重量%のフッ化カルシウム粉末を添加することをさらに含む。
【0018】
本発明のさらなる形態の窒化ケイ素粉末の製造方法は、窒化ケイ素粉末を製造する方法であって、
97.6~99.5重量%の金属シリコン粉末と、反応触媒としての0.4~2.0重量%の酸化マグネシウム粉末と、0.1~0.4重量%のフッ化カルシウム粉末と、を混合して混合粉末を作製する混合工程と、
前記混合粉末を炉内で窒素雰囲気中で加熱する加熱工程と、を含み、
前記加熱工程は、
常圧以上の窒素雰囲気中で、炉内温度を第1の温度Tsまで昇温させる第1の昇温ステップと、
前記炉内温度が前記第1の温度Tsに到達したときに、前記炉内の窒素圧が負圧になるまで前記炉内を減圧する減圧ステップと、
負圧の窒素雰囲気中で、前記炉内温度を前記第1の温度Tsから第2の温度Teまで昇温させる第2の昇温ステップと、を含み、
前記第1の温度Tsは1200℃以下であり、前記第2の温度Teは1250℃以上であることを特徴とする。
【0019】
本発明のさらなる形態の窒化ケイ素粉末の製造方法は、上記形態の方法においてさらに、加熱工程の開始から終了までの工程時間が30時間を越えないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の窒化ケイ素粉末の製造方法は、金属シリコン粉末に対して、反応触媒としての0.7~2.0重量%の酸化マグネシウム粉末(または0.4~2.0重量%の酸化マグネシウム粉末および0.1~0.4重量%のフッ化カルシウム粉末)を混合して混合粉末を作製し、その混合粉末の直接窒化時において炉内圧力と炉内温度とを制御することによって、工程を簡略化し、かつ、短時間で高α分率の窒化ケイ素粉末を合成することを可能とする。特には、本発明の製造方法では、炉内を窒素雰囲気とし、炉内圧力を調整することによって、炉内の反応ガス量および反応速度を制御可能とし、その工程を簡略化することを達成した。また、炉内温度を第1の温度Ts(≦1200℃)に昇温させるまでの段階では、炉内の窒素圧を常圧(大気圧)以上に制御し(第1の昇温ステップ)、炉内温度を第1の温度Tsから第2の温度Te(≧1250℃)まで昇温させるまでの段階では、炉内の窒素圧を負圧(常圧以下)に制御する(減圧ステップおよび第2の昇温ステップ)ことで、反応速度を必要以上に制限することなく、合成時間を短縮することを達成した。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態の窒化ケイ素粉末の製造方法に従った加熱工程における、時間(h)に対する炉内温度T(℃)、および常圧(大気圧)からの差圧値(相対値)を示す炉内圧力P(kPa)の関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の一実施形態の方法で製造される窒化ケイ素粉末は、主として、窒化ケイ素焼結体を製造するための原料粉末として使用される。窒化ケイ素粉末は、α型窒化ケイ素(α-Si3N4)粒子およびβ型窒化ケイ素(β-Si3N4)粒子のうち、α型窒化ケイ素粒子を90%以上含有している。α分率(%)は、α型窒化ケイ素粒子の含有比率(質量分率)を示し、α/(α+β)×100で表される。そして、本明細書の「高α分率」は、α分率が90%以上のものとして定義される。また、窒化ケイ素粉末は、金属シリコン粉末に添加された酸化マグネシウムの窒化生成物として、Mg化合物(SiO2-MgO系ガラス)を含有している。つまり、窒化ケイ素粉末は、不純物として、所定量のMgを含有している。しかしながら、Mgの酸化物は窒化ケイ素焼結体の製造の際に焼結助剤として用いられることから、窒化ケイ素粉末中のMg化合物は、焼結体の特性に悪影響を及ぼすことがない。
【0023】
続いて、本実施形態の窒化ケイ素粉末を製造する方法について説明する。本実施形態の製造方法は、主に、98~99.3重量%のシリコン粉末と、0.7~2.0重量%の酸化マグネシウム(MgO)粉末とを混合して混合粉末を作製する混合工程と、混合粉末を炉内で窒素雰囲気中で加熱することで、直接窒化法によって混合粉末を窒化する加熱工程と、を含む。酸化マグネシウムは、SiO2-MgO系ガラスを形成し、融点を下げる効果がある。なお、酸化マグネシウム粉末に加えて、フッ化カルシウム(CaF2)などの添加物が混合粉末に添加されてもよい。具体的には、0~0.4重量%のフッ化カルシウム粉末が添加され得る。また、フッ化カルシウム粉末が添加される場合、酸化マグネシウム(MgO)粉末の量が0.7重量%以下でもよいことが分かった。すなわち、製造方法は、97.6~99.5重量%の金属シリコン粉末と、反応触媒としての0.4~2.0重量%の酸化マグネシウム粉末と、0.1~0.4重量%のフッ化カルシウム粉末と、を混合して混合粉末を作製する混合工程を含んでもよい。しかしながら、本発明の工程は、基本的に、酸化マグネシウム(MgO)粉末以外の追加の添加物を必要とするものではなく、より効率的に高α分率(90%以上)の窒化ケイ素粉末を得ることを可能とするものである。以下、各工程についてより詳細に説明する。
【0024】
混合工程では、金属シリコン粉末、酸化マグネシウム粉末、および(必要に応じて)任意の添加物粉末を所定の量に秤量し、粉末を均一に混合し、混合粉末を作製する。なお、金属シリコン粉末は、高純度であり、且つ、酸素含有量が少ないシリコン粉末であることが好ましい。また、混合工程は、好ましくは、混合粉末100重量部に対して、0~40重量部の窒化ケイ素粉末を添加することをさらに含んでもよい。この窒化ケイ素粉末は、シリコン粉末の窒化時に発生する熱を拡散させる希釈剤としての効果があると同時に、合成後の窒化ケイ素粉末同士の融着を防ぐ役割を持つ。本発明では、希釈剤としての窒化ケイ素を含まなくとも高α率の窒化ケイ素粉末が合成可能であるが、窒化ケイ素粉末を含んでいると上記のような追加の効果を得られる。なお、任意に追加添加される窒化ケイ素粉末は、本発明の製造方法で得られるような、焼結体特性に悪影響を及ぼす不純物を含まない高α率の窒化ケイ素粉末であることが好ましい。
【0025】
次に、混合粉末を焼成用のさやへ充填する。このときの充填密度は0.4~1.0g/cm3であることが好ましい。粉末を充填したさやを、カーボンヒーターの焼成炉へ投入する。
【0026】
加熱前に真空ポンプで炉の真空引き(好適には、20Pa以下)を行い、その後、常圧以上の炉内圧力(好適には、大気圧~0.2MPa程度)まで窒素ガスを充填する。なお、合成中の炉内の窒素圧は窒素ガスの流量を変化させることで任意に調整可能である。
【0027】
そして、混合粉末を窒化反応させて高α分率の窒化ケイ素粉末を得るべく、炉内の混合粉末を窒素雰囲気中で加熱する加熱工程を実施する。加熱工程は、主として、常圧以上の窒素雰囲気中で、炉内温度を第1の温度Ts(≦1200℃)まで昇温させる第1の昇温ステップと、炉内温度が第1の温度Tsに到達したときに、炉内の窒素圧が負圧になるまで炉内を減圧する減圧ステップと、負圧の窒素雰囲気中で、炉内温度を第1の温度Tsから第2の温度Te(≧1250℃)まで昇温させる第2の昇温ステップと、第2の昇温ステップに続いて、常圧以上の窒素雰囲気中で所定時間1350℃以上で混合粉末を熱処理して合成粉末を作製する後熱処理ステップと、後熱処理ステップ完了後、合成粉末を常温まで冷却する冷却ステップと、を含む。
【0028】
図1は、一実施形態の製造方法の加熱工程における、時間(h)に対する炉内温度T(℃)、および常圧(大気圧)からの差圧値(相対値)を示す炉内圧力P(kPa)の関係を例示するグラフである。
【0029】
第1の昇温ステップでは、常圧以上の炉内圧力Pで炉内温度Tを1200℃以下の第1の温度Tsまで昇温させる。第1の温度Tsは、1100~1200℃であることが好ましい。第1の温度Tsは合成に用いる金属シリコン粉末の窒化が始まる温度であり、金属シリコン粉末の粒度や反応触媒の添加量によって異なるため、炉に供給される窒素ガスと排出される窒素ガス量の差をモニターしたり、炉内圧力が急激に減少し始める温度をモニターしたりすることで決定できる。また、炉内温度が第1の温度Tsに到達した時間を第1の時間tsとする。
図1に示す一例では、約4時間をかけて常温から第1の温度Tsまで加熱する。
【0030】
第1の昇温ステップは、炉を第1の温度Tsに到達するまで任意の昇温速度で昇温させるが、好ましくは2段階の昇温ステップに分けられる。第1段階では、
図1に示すように、約1000℃~1150℃に到達するまで、比較的高い昇温速度(例えば、500℃/h)で炉内を昇温させる。その後、第2段階では、急激な熱反応の発生を抑えるべく、昇温速度を低下させるように調整する。つまり、第1の温度Tsに到達するまでの第2段階の昇温速度は、第1段階の昇温速度と比べて緩やかになる。好適には、第2段階での昇温速度は、約60~180℃/hであり、より好適には、120℃/h以下である。
【0031】
減圧ステップでは、炉内温度が第1の温度Tsに到達したと同時に、真空ポンプを作動するとともに窒素ガスの流量を制御することによって、炉内の窒素圧が(常圧に対して)負圧になるまでの炉内を減圧する。ここで、
図1に示すように、炉内圧力Pは、常圧(大気圧)からの差圧値(相対値)によって表示され、負圧の場合、マイナス値を示す。真空引き開始直後(第1の温度Tsに到達直後)において、炉内が最も減圧される。この最大減圧量は、約-50~-100kPa、より好ましくは、-60~-90kPaとなるように制御される。その後、減圧量が最大減圧量に達したら真空ポンプを停止させ、再度窒素導入を行う。第1の温度Ts以上の温度で減圧された炉内に導入した窒素は適宜シリコン粉末の窒化反応に消費されるため、炉内圧力を急激に増加させないように窒素ガスの流量を調節することで、負圧は維持される。
【0032】
第2の昇温ステップでは、負圧の窒素雰囲気中で、炉内温度を第1の温度Tsから1250℃以上である第2の温度Teまで昇温させる。第2の温度Teは1250℃~1450℃であることが好ましい。また、第2の温度Teと第1の温度Tsとの温度差が90~250℃であることが好ましい。さらに、50℃/h以下の昇温速度で炉内温度を第1の温度Tsから第2の温度Teまで昇温させることが好ましい。そして、炉内温度が第2の温度Teに到達した時間を第2の時間teとする。すなわち、第1の温度Tsおよび第2の温度Teがそれぞれ減圧開始温度および減圧終了温度を意味し、且つ、第1の時間tsおよび第2の時間teがそれぞれ減圧開始時間および減圧終了時間を意味する。そして、この間の温度域および時間域において、炉内の窒素圧(つまり、炉内圧力P)が負圧になるように、窒素ガスの流量が制御される。第1の温度Tsから第2の温度Teの温度間で投入した金属シリコン粉末の90%以上で窒化が完了していることが望ましい。
【0033】
さらに、第2の昇温ステップにおいて、工程に必要な負圧の度合いを表す指標として、
図1に示す時間t(h)対炉内圧力P(kPa)のプロットに基づいて、金属シリコン粉末の1kg当たりの炉内圧力Pの時間積分値Sが-7kPa・h/kg以下であるように工程が制御されることが好ましい。なお、プロットは、測定データを補間するために、
図1に示すように近似曲線として表されてもよい。時間積分値Sは、以下の等式によって表される。なお、wは、金属シリコン粉末の重量(kg)を示している。
【数1】
【0034】
窒素ガスの流量を調整することにより、時間tと炉内圧力Pとの関係に基づく時間積分値Sを-7kPa・h/kg以下にするように、炉内圧力Pを制御することが可能である。すなわち、本発明の製造方法は、従来の複数種のガス流量を調整して反応ガスの分圧を制御する加熱工程と比べて、その加熱工程をより簡略化したものである。また、時間積分値Sの制御を採用することで、高α分率の窒化ケイ素粉末の製造において、より高い再現性を実現することができる。
【0035】
この第2の昇温ステップにおいて、金属シリコン粉末と窒素ガスとの平均反応速度が5%/h以上に維持されることが好ましい。この反応速度は、従来の手段によって評価することが可能である。すなわち、反応速度は、炉内に充填された金属シリコンが窒化反応によって単位時間当たりに消費される割合である。一般的に、平均反応速度の概算値は、所定の期間内に消費される窒素ガス量を測定し、反応式:3Si+2N2→Si3N4に基づいて、金属シリコンの重量を計算することによって算出される。消費される窒素ガス量は、炉に供給される窒素ガスと排出される窒素ガス量の差を求めることによって測定され得、あるいは、炉内のガス組成や炉圧の変化を測定することによっても測定され得る。
【0036】
後熱処理ステップでは、窒素圧が常圧以上になるように窒素ガスの流量を調整し、最高温度Tmaxまで昇温を行うことで、常圧以上の窒素雰囲気中で所定時間1350℃以上で混合粉末を熱処理する。この最高温度Tmaxは、好適には、1350℃~1500℃である。そして、最高温度Tmaxに到達するまでの間、好適には約1~6時間の反応時間で残りの未反応の混合粉末を窒化反応させる。窒素ガスの消費がなくなると、窒化ケイ素粉末の合成反応が完了する。最高温度Tmaxに到達したときに合成反応の有無を確認し、合成反応の完了が確認できたら、そのときの時間を終了時間tfとする。
図1に示すように、窒化ケイ素粉末の合成は、従来と比べてより短時間な、約15~25時間のサイクル時間で終了する。加熱工程の開始時間(t=0)から終了時間tfまでの工程時間は、30時間を越えないことが好ましい。
【0037】
その後、カーボンヒーターを停止し、冷却ステップにおいて、合成粉末を常温まで冷却する。最終的に、高α分率(90%以上)の窒化ケイ素粉末を得ることができる。
【0038】
上述したとおり、本実施形態の窒化ケイ素粉末の製造方法は、金属シリコン粉末を出発原料とし、窒素雰囲気中で加熱して窒化を行う直接窒化法によるものである。一般的に、直接窒化法による窒化ケイ素の合成反応は大きな発熱を伴い、発熱反応によって生じる温度変動は数百度に達するとも言われている。α型窒化ケイ素粒子は、低温における結晶形であり、加熱するとβ型窒化ケイ素粒子へと転移し易い。つまり、直接窒化法におけるシリコンの窒化反応が発熱反応であるため、この反応熱により粉末が局所的に高温となってしまい、生成された合成粉末において、局所的にβ型窒化ケイ素粒子が優勢となる箇所が生じる。
【0039】
本実施形態の製造方法は、上記直接窒化法における課題を解決すべく、触媒として酸化マグネシウム(MgO)を添加し、融点を下げるとともに、シリコンの窒化の発熱反応による局所的な発熱を抑えるべく、窒化反応による発熱が大きくなる第1の温度Tsから第2の温度Teの間の温度域で、炉内を負圧の窒素雰囲気に制御することで、強制的に窒化反応の速度を抑制することで、合成中の粉末が局所的に高温となることを防いでいる。これにより、本発明は、反応速度を極端に低下させることなく、β型窒化ケイ素粒子の生成を抑えつつ、高α分率(90%以上)の窒化ケイ素粉末を得ることを可能としている。
【実施例0040】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて、さらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例によって限定解釈されるものではない。
【0041】
実施例1~9、および比較例1~4に係る窒化ケイ素粉末は以下の条件および手順によって作製された。
【0042】
まず、金属シリコン粉末および酸化マグネシウム粉末(実施例7ではCaF2粉末を追加で添加)、および窒化ケイ素粉末を所定の量に秤量し、ポリ袋内で予備混合を行った。予備混合を行った粉末は撹拌羽根を使用したミキサーで本混合を行った。シリコン粉末を50kgとした。混合粉末は、マイクロスコープを使用して、混合が均一に行われていることが確認された。作製した混合粉末を焼成用のさやへ充填した。このときの充填密度は0.6または1.0g/cm3とした。そして、混合粉末を充填したさやをカーボンヒーターの焼成炉へ投入した。投入後、炉を20Pa以下まで真空引きし、その後、常圧(0.1MPa)まで窒素ガスを充填した。炉を任意の昇温速度で1100℃まで昇温させた。1100℃以上の温度域では、昇温速度を120℃/h以下に設定した。次いで、第1の温度Tsを減圧開始温度として、真空引きとともに炉内の窒素圧が負圧になるように窒素ガスの流量の調整を行った。次に、昇温速度を50℃/h以下に設定して、第1の温度Tsから減圧終了温度である第2の温度Teまで炉内温度を昇温させた。第1の温度Ts~第2の温度Teの温度域では、負圧の時間積分値Sに基づいて、炉内圧力P(窒素圧)が負圧になるように窒素ガス流量の調整を行った。この温度域において、全ての実施例および比較例において、金属シリコン粉末と窒素ガスとの反応速度が5%/h以上であることが確認された。第2の温度以上の温度域では、再び窒素圧が常圧以上になるように窒素ガス流量を調整し、最高温度1450℃まで約4時間かけて昇温を行った。その後、常温まで冷却することにより、窒化ケイ素粉末を得た。
【0043】
作製した実施例1~9および比較例1~4の各試料について、粉末X線回折測定を行い、X線回折パターンを解析することにより、試料の同定とともに、合成粉末中のα型窒化ケイ素の質量分率を示すα分率を導出した。また、各試料の窒化率も測定した。各種測定および解析は、以下の条件の下で行われた。
【0044】
・粉末X線回折測定およびその分析
株式会社リガク製の粉末X線回折装置UltimaIVを用いて、Cu-Kα線を用いた粉末X線回折法により、各試料のX線回折強度測定を行った。合成粉末をクラッシャーで粗粉砕した後、さらに、振動ミルで粉砕することで測定試料とした。粉砕した合成粉末を粉末X線回折によって回折パターンを測定した。また、シリコン相、α型窒化ケイ素相およびβ型窒化ケイ素相の各回折パターンの積分強度を使用し、既知である、下記3式で表されるJovanovicとKimuraの方法によって結晶相の質量分率を測定した。
【数2】
なお、I
Z(hkl)はz相(z=Si、α-Si
3N
4、β-SI
3N
4)のhkl面の回折パターンの積分強度を表す。また、Wzはz相(z=Si、α-Si
3N
4、α-Si
3N
4)の質量分率を表す。
【0045】
・窒化率
上記JovanovicとKimuraの方法によって得られたWα、Wβ、WSiを用い、(Wα+Wβ)/(Wα+Wβ+WSi)×100を窒化率(%)とした。
【0046】
実施例1~9および参考例1~4の各試料についての加熱工程条件および各種測定結果を表1に示した。実施例1~6、8は、98~99.3重量%の金属シリコン粉末に対して、反応触媒としての0.7~2.0重量%(より限定的には、0.8~1.6重量%)の酸化マグネシウム粉末のみを混合して混合粉末を用いたものである。なお、実施例2、9は、99~99.5重量%の金属シリコン粉末に対して、反応触媒としての0.4~0.8重量%の酸化マグネシウム粉末と、0.1~0.2重量%のフッ化カルシウム粉末とを混合して混合粉末を用いたものである。
【0047】
【0048】
全ての試料のX線回折パターンにおいて、α型窒化ケイ素粒子の(200)面、(201)面、(102)面、(210)面、(-2-11)面、(202)面および(301)面に対応する2θにおいて、回折ピークが視覚的に確認された。β型窒化ケイ素粒子の(200)面、(101)面、(120)面および(201)面に対応する2θについて、α分率が98%以上の試料(実施例1、3、5)のX線回折パターンでは、回折ピークが非常に弱く、視覚的な確認が困難であった。α分率が90~95%の試料(実施例2、4、6~8)のX線回折パターンでは、β型窒化ケイ素粒子の弱い回折ピークが視覚的に確認された。他方、α分率が90%未満の試料(比較例1~4)のX線回折パターンでは、β型窒化ケイ素粒子の回折ピークが視覚的にはっきりと確認された。
【0049】
表1によれば、実施例1~9の試料は、90%以上のα分率を示している。少なくとも実施例1~9の配合比および製造条件の下では、95%以上の高α分率を有する窒化ケイ素粉末を得られることが分かった。これに対し、比較例1~4は、全て90%未満のα分率を示しており、より多くのβ型窒化ケイ素が生成されていることが分かった。
【0050】
比較例1は、実施例2と対比すると、混合粉末の配合比は共通するが、Teが1230℃であり、かつ、炉内圧力Pの時間積分値Sが-4.0となっている。すなわち、比較例1は、Teを1250℃以上とした温度制御の条件、および/または、炉内圧力Pの時間積分値Sを-7.0以下とした炉圧制御の条件を満たさない場合、高α分率の窒化ケイ素粉末の合成ができないことを示している。
【0051】
比較例2は、実施例2と対比すると、混合粉末の配合比および炉内圧力の時間積分値Sは共通するが、Tsが1230℃となっている。すなわち、比較例2は、Tsを1200℃以下とした温度制御の条件を満たさない場合、高α分率の窒化ケイ素粉末の合成ができないことを示している。
【0052】
比較例3は、実施例1~3と対比すると、加熱工程条件は共通するが、酸化マグネシウム粉末が添付されていない。すなわち、比較例3は、酸化マグネシウム粉末を添加しない場合、高α分率の窒化ケイ素粉末の合成ができないことを示している。
【0053】
比較例4は、実施例1~3と対比すると、加熱工程条件は共通するが、酸化マグネシウム粉末の配合比が0.4重量%であり、0.7重量%未満である。また、比較例4は、実施例9と対比して、フッ化カルシウムの添加もない。すなわち、比較例4は、酸化マグネシウム粉末を単独で添加したときに、酸化マグネシウム粉末の添加量が0.7重量%未満である場合、高α分率の窒化ケイ素粉末の合成ができないことを示している。
【0054】
本発明における平均反応速度は、tsからteの間に導入した窒素ガスがすべて窒化反応に寄与したとして計算される。すなわち、tsからteの間では、炉から排出される窒素がゼロとなるため、単位時間あたりに導入した窒素量×時間(te-ts)はすべて窒化に消費されたと見積もることができ、金属シリコンと窒素の反応は3Si+2N2→Si3N4に従って進むため、消費された窒素ガス量の1.5倍の金属シリコンがtsからteの間に反応したと見積もることができる。たとえば、毎分50Lの窒素ガスをtsからteまで480分の間導入したとすると、減圧区間中に窒化反応に寄与した窒素量は標準状態で換算して24000L(1071モル)となり、その間に反応した金属シリコンの量は45.1kg(1607モル)となるので、1時間あたりに反応した金属シリコンの量は5.6kgとなる。混合原料中の金属シリコンの量が50kgであれば、tsからteの間の平均反応速度は11.2%/hとなる。また、工程時間は、温度プログラムによる加熱工程開始時間から最高温度Tmaxに到達し、加熱工程が終了するまでの時間tfで表される。実施例1~9におけるtsからteの間の平均反応速度および工程時間を表2に示す。
【0055】
【0056】
表2によれば、実施例1~9において、窒素ガスの導入量を調整することで、平均反応速度を5%/h以上に制御することで、工程時間が21h以内となっている。すなわち、実施例1~9によれば、従来よりも大幅に短縮された30h未満の工程時間で、高α分率の窒化ケイ素粉末の合成が達成されている。
【0057】
本発明は上述した実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲に属する限りにおいて種々の態様で実施しうるものである。