(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114130
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】洗掘防止構造および杭の施工方法
(51)【国際特許分類】
E02D 27/52 20060101AFI20240816BHJP
E02D 27/42 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
E02D27/52 A
E02D27/42 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023019650
(22)【出願日】2023-02-13
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】本田 隆英
【テーマコード(参考)】
2D046
【Fターム(参考)】
2D046DA31
2D046DA62
(57)【要約】
【課題】比較的簡易に構築することができ、海底に形成された基礎構造の周囲に発生する洗掘を抑制することを可能とした洗掘防止構造および杭の施工方法を提案する。
【解決手段】海底GLに立設された杭13の周囲に形成された洗掘防止構造2であって、杭13の外周囲を取り囲むように海底GLに敷設された盤状材3と、盤状材3の外周囲を取り囲むように海底GLに敷設された複数の袋詰め砕石41,41,…からなる根固め層4とを有している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
海底に立設された杭の周囲に形成された洗掘防止構造であって、
前記杭の外周囲を取り囲むように海底に敷設された盤状材と、
前記盤状材の外周囲を取り囲むように海底に敷設された複数の袋詰め砕石からなる根固め層と、を有していることを特徴とする、洗掘防止構造。
【請求項2】
前記根固め層は、前記盤状材の高さよりも大きな高さを有した前記袋詰め砕石が海底に一段積みされてなることを特徴とする、請求項1に記載の洗掘防止構造。
【請求項3】
前記盤状材および前記根固め層と海底との間に粒状材により形成されたフィルター層が形成されていることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の洗掘防止構造。
【請求項4】
前記盤状材は、前記杭の外面から前記杭の半径以上の範囲の海底を覆っており、
前記根固め層は、前記盤状材の外縁から前記杭の直径以上の範囲の海底を覆っていることを特徴とする、請求項1に記載の洗掘防止構造。
【請求項5】
中央に貫通孔が形成された盤状材を海底に敷設する工程と、
前記盤状材の周囲を複数の袋詰め材により取り囲むことで根固め層を形成する工程と、
前記盤状材の貫通孔を貫通させた状態で海底に杭を建て込む工程と、を備えることを特徴とする、杭の施工方法。
【請求項6】
海底に杭を建て込む工程と、
前記杭の周囲の海底に盤状材を敷設する工程と、
前記盤状材の周囲を複数の袋詰め材により取り囲むことで根固め層を形成する工程と、を備える杭の施工方法であって、
前記盤状材は、複数の盤状部材を組み合わせることにより形成することを特徴とする杭の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海底に設けられた杭の洗掘防止構造およびこの洗掘防止構造を備えた杭の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
洋上風力発電施設の基礎として、海底に設けられた1本の杭により風車塔を支持するモノパイル式基礎がある。海底に設けられたモノパイル式基礎の杭は、波や水流によって周囲の地盤が洗掘されることが懸念される。
そのため、モノパイル式基礎では、杭の周囲の海底に砕石の袋詰め(袋詰め砕石)を敷設することで洗掘を抑制する場合がある(例えば、特許文献1参照)。従来の洗掘防止構造では、杭の周囲の所定範囲に対して、袋詰め砕石を敷き詰めるとともに、袋詰め砕石同士の隙間を塞ぐために袋詰め砕石を複数層積み重ねるのが一般的である。そのため、多数の袋詰め砕石が必要になり、その敷設作業に多大な時間と手間を要していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、比較的簡易に構築することができ、海底に形成された基礎構造の周囲に発生する洗掘を抑制することを可能とした洗掘防止構造および杭の施工方法を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための本発明の洗掘防止構造は、海底に立設された杭の周囲に形成するものであって、前記杭の外周囲を取り囲むように海底に敷設された盤状材と、前記盤状材の外周囲を取り囲むように海底に敷設された複数の袋詰め砕石からなる根固め層とを有している。
また、第一の杭の施工方法は、中央に貫通孔が形成された盤状材を海底に敷設する工程と、前記盤状材の周囲を複数の袋詰め材により取り囲む工程と、前記盤状材の貫通孔を貫通させた状態で海底に杭を建て込む工程とを備えている。
さらに、第二の杭の施工方法は、海底に杭を建て込む工程と、前記杭の周囲の海底に盤状材を敷設する工程と、前記盤状材の周囲を複数の袋詰め材により取り囲む工程とを備えている。前記盤状材は、複数の盤状部材を組み合わせることにより形成する。
かかる洗掘防止構造によれば、杭に近接した領域から袋詰め砕石を敷設する場合に比べて袋詰め砕石の数を削減できるので、袋詰め砕石の敷設作業に要する手間および時間を低減できる。また、盤状材により杭の周囲の洗掘を防止し、盤状材の周囲に袋詰め砕石からなる根固め工を形成することで、盤状材の下側が洗掘されることを防止できる。そのため、杭基礎の洗掘を効果的に抑制できる。
【0006】
前記根固め層は、前記盤状材の高さよりも大きな高さを有した前記袋詰め砕石が海底に一段積みされてなるものが望ましい。このようにすれば、盤状材が根固め層よりも高い場合に比べて洗掘抑制効果が向上する。
また、前記盤状材および前記根固め層と海底との間に粒状材により形成されたフィルター層が形成されていれば、海底の地盤の砂分の流出を抑制でき、ひいては、洗掘抑制効果がより向上する。
なお、前記盤状材を前記杭の外面から前記杭の半径以上の範囲の海底を覆うように形成し、前記根固め層を前記盤状材の外縁から前記杭の直径以上の範囲の海底を覆うように形成するのがより望ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明の洗掘防止構造によれば、海底に立設させた杭の周囲に発生する洗掘を抑制することが可能となる。また、本発明の杭の施工方法によれば、当該洗掘防止構造を備えた杭を構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係る洋上風力発電施設を示す図であって、(a)は正面図、(b)は平面図である。
【
図2】第一の杭の施工方法を示すフローチャートである。
【
図3】第一の杭の施工方法の各工程を示す断面図であって、(a)はフィルター層形成工程、(b)は盤状材敷設工程、(c)は根固め層形成工程、(d)は杭建て込み工程である。
【
図4】第二の杭の施工方法を示すフローチャートである。
【
図5】第二の杭の施工方法の各工程を示す断面図であって、(a)は杭建て込み工程、(b)はフィルター層形成工程、(c)は盤状材敷設工程、(d)は根固め層形成工程である。
【
図6】第二の杭の施工方法における盤状材の施工状況を示す平面図である。
【
図9】実施例の断面毎の計測結果を示す図であって、(a)はL1断面、(b)はL4断面である。
【
図10】実施例の計測結果と計測箇所を示す斜視図である。
【
図11】参考実施例の計測結果を示す図であって、(a)は潮流のみが作用した場合、(b)は波が作用した場合である。
【
図12】参考実施例の計測結果の計測箇所を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施形態では、洋上風力発電施設1の基礎構造について説明する。
図1に本実施形態の洋上風力発電施設1を示す。
図1(a)に示すように、本実施形態の洋上風力発電施設1は、杭13に風車11の支柱12が支持されたいわゆるモノパイル基礎からなる。
杭13は、地盤Gに下部が所定長埋め込まれた状態で、海底GLに立設されている。杭13は、打込杭であってもよいし、埋込杭であってもよい。杭13の上部は、上端に行くに従って縮径している。杭13の上端は、支柱12の下端と同等の直径を有している。
【0010】
杭13の周囲の海底GLには、洗掘防止構造2が形成されている。
洗掘防止構造2は、盤状材3と、根固め層4と、フィルター層5とを備えている。
盤状材3は、円盤状の鋼板からなり、杭13の外周囲を取り囲むように海底に敷設されている。
図1(b)に示すように、盤状材3の中央には、杭13の外径と同等の内径の貫通孔31が形成されている。貫通孔31には、杭13が挿通されている。すなわち、盤状材3は、貫通孔31に杭13を挿通させた状態で敷設されている。盤状材3は、杭13の外面から杭13の半径以上の範囲の海底GLを覆っている。すなわち、盤状材3の外径は、杭13の外径の2倍以上である。
【0011】
根固め層4は、
図1(a)および(b)に示すように、複数の袋詰め砕石41からなり、盤状材3の外周囲を取り囲むように海底に敷設されている。根固め層4を構成する袋詰め砕石41は、盤状材3の高さよりも大きな高さを有している。すなわち、洗掘防止構造2の中央には、凹部が形成されている。根固め層4は、袋詰め砕石41を海底GLに一段積みすることにより形成されている。根固め層4は、盤状材3の外縁から杭13の直径以上の範囲の海底GLを覆っている。袋詰め砕石41は、合成繊維や鋼材等からなる網状の袋材に充填された玉石や割り栗石等を充填したものである。
【0012】
フィルター層5は、盤状材3および根固め層4と海底GLとの間に形成されている。フィルター層5は、海底GLに粒状材を所定の厚みで敷設することにより形成されている。フィルター層5を構成する粒状材の粒径は限定されるものではないが、本実施形態では、「港湾の施設の技術上の基準・同解説」(平成30年改訂版)に従うものとし、地盤G(海底地盤)の粒径の20倍以下とする。例えば、海底地盤の粒径が0.2mmの場合には、フィルター層5は粒径4mmの砂礫により形成する。
【0013】
次に、洗掘防止構造2を備える杭の施工方法の例を説明する。
図2に第一の杭の施工方法を示す。本実施形態の洗掘防止構造2を構築する第一の杭の施工方法は、
図2に示すように、フィルター層形成工程S11と、盤状材敷設工程S12と、根固め層形成工程S13と、杭建て込み工程S14とからなる。
図3に第一の杭の施工方法の各工程を示す。
フィルター層形成工程S11は、
図3(a)に示すように、杭13の施工予定箇所の周囲に粒状体を敷設してフィルター層5を形成する工程である。地盤Gを掘削して海底GLに凹部を形成し、この凹部に粒状体を投入することによりフィルター層5を形成してもよい。
盤状材敷設工程S12は、
図3(b)に示すように、盤状材3を海底GLに敷設する工程である。盤状材3は、中央の貫通孔31が杭13の施工箇所に一致するように、フィルター層5の上面に敷設する。
【0014】
根固め層形成工程S13は、
図3(c)に示すように、盤状材3の周囲を複数の袋詰め砕石41により取り囲むことで根固め層4を形成する工程である。袋詰め砕石41は、フィルター層5の上に敷設する。
杭建て込み工程S14は、
図3(d)に示すように、海底GLに杭13を立設する工程である。杭13は、盤状材3の貫通孔31を貫通させた状態で海底に立設する。杭13は、予め形成された掘削孔に挿入するとともに周囲に充填材を充填することにより立設してもよいし(埋込杭)、海底GLに下端を当接させた杭13に対して上下方向の振動若しくは打撃を加えることで所定の深さまで打込んで立設してもよい(打込杭)。
【0015】
図4に第二の杭の施工方法を示す。本実施形態の洗掘防止構造2を構築する第二の杭の施工方法は、
図4に示すように、杭建て込み工程S21と、フィルター層形成工程S22と、盤状材敷設工程S23と、根固め層形成工程S24とからなる。
図5に第二の杭の施工方法の各工程を示す。
杭建て込み工程S21は、
図5(a)に示すように、海底GLに杭13を建て込む工程である。杭13は、予め形成された掘削孔に挿入するとともに周囲に充填材を充填することにより立設してもよいし(埋込杭)、海底GLに下端を当接させた杭13に対して上下方向の振動若しくは打撃を加えることで所定の深さまで打込んで立設してもよい(打込杭)。
【0016】
フィルター層形成工程S22は、
図5(b)に示すように、杭13の周囲の海底GLに粒状体を敷設してフィルター層5を形成する工程である。地盤Gを掘削して海底GLに凹部を形成し、この凹部に粒状体を投入することによりフィルター層5を形成してもよい。
盤状材敷設工程S23は、
図5(c)に示すように、杭13の周囲に盤状材3を敷設する工程である。
図6に盤状材3の敷設状況を示す。
図6に示すように、盤状材3は、フィルター層5上において、複数の盤状部材32,32,…を組み合わせることにより円盤状に形成する。
図6に示す盤状部材32は、盤状材3を周方向に4分割したものである。図示は省略するが、各盤状部材32を半径方向に分割してもよい。
根固め層形成工程S24は、
図5(d)に示すように、盤状材3の周囲を複数の袋詰め砕石41により取り囲むことで根固め層4を形成する工程である。袋詰め砕石41は、フィルター層5上に敷設する。
【0017】
本実施形態の洗掘防止構造2によれば、杭13に近接した領域から袋詰め砕石41を敷設する場合に比べて袋詰め砕石41の数を削減できるので、袋詰め砕石41の敷設作業に要する手間および時間を低減できる。また、円盤型の盤状材3は1回~数回の敷設作業で完了するため、洗掘対策の施工期間は従来技術の袋詰め砕石41のみと比較して短縮することができる.
また、洗掘防止構造2は、杭13の周辺で発生する局所的な流れを地盤G(海底GL)に直接作用させないことで、洗掘の発生を抑制する。盤状材3により杭13の周囲の洗掘を防止し、また、盤状材3の周囲に袋詰め砕石41からなる根固め層4を形成することで、盤状材3の下側が洗掘されることを防止できる。そのため、杭13の洗掘を効果的に抑制できる。
【0018】
次に、本実施形態の洗掘防止構造2の洗掘防止効果を確認するために実施した実験結果を示す。
図7に実験モデルを示す。本実験では、水深20m、杭径が8mの場合を想定し、1/50縮尺として実験モデルを作成した。実験モデルでは、杭径16cm、根入れ深さ25cmとし、盤状材3の幅を8cm(0.5D)、根固め層4の幅を16cm(1.0D)とした。根固め層4を構成する袋詰め砕石41は、8t型を想定した。杭13の周囲の地盤Gは、0.2mmの砂を想定して、平均粒径が0.064mmの砂を使用した。
本実施形態では、規則波として、高さH=20cm(実物では10m)、周期T=1.8秒(13秒)を作用させた場合と、潮流として流れU=21cm/s(実物では1.5m/s)を作用させた場合について、海底GLの地形変化(洗掘状況)を計測した。
図8に測定箇所(断面L1,L4)を示す。
【0019】
まず、本実施形態の洗掘防止構造2を想定した実験モデルについて、波作用後の変化地形を測定した(実施例)。断面L1,L4についての実験結果を
図9に示す。また、
図10に実験後の状況を示す。また、比較例として、根固め層4(袋詰め砕石41)のみで保護した場合(比較例1)、洗掘防止構造2を省略した構造(比較例2)、洗掘防止構造2の根固め層4を省略した構造(比較例3)についてもそれぞれ測定した。
図9(a)および(b)に示すように、実施例によれば、袋詰め砕石41のみを敷設する従来の洗掘防止構造と同等の効果が得られることが確認できた。洗掘防止構造2がない比較例2では、杭13の周囲が大きく洗掘されることが確認できた。また、根固め層4がない比較例3では、波の流れに対する杭13の前後において、洗掘が生じることが確認できた。
したがって、本実施形態の洗掘防止構造2によって、洗掘の発生を抑制できることが確認できた。
【0020】
次に、盤状材3のみで杭を保護した場合の潮流の影響と波の影響を測定した結果を示す(参考例)。
図11(a)に潮流の影響、
図11(b)に波の影響をそれぞれ示す。また、
図12に実験後の状況を示す。また、比較例4として、盤状材3がない場合についても測定した。
図11(a)および
図12に示すように、潮流が作用した場合、参考例および比較例4ともに、杭13の背後が洗掘される結果となった。なお、参考例では、盤状材3があることによって背後の洗掘が助長される結果となった。したがって、洗掘を抑制するためには、盤状材3のみではなく、根固め層4も必要であることが確認できた。
なお、波が作用した場合における杭13の洗掘は、
図11(b)に示すように、参考例の方が比較例4よりも小さかった。
【0021】
以上、本発明に係る実施形態について説明したが、本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。
例えば、前記実施形態では、洋上風力発電施設1の杭13の洗掘防止構造2について説明したが、杭13により支持する構造物は限定されるものではない。また、前記形態では、モノパイル式の基礎構造の場合について説明したが、杭基礎構造の形式は限定されるものではなく、例えば、ジャケット式等、他の形式の杭基礎構造に洗掘防止構造2を採用してもよい。
前記実施形態では、盤状材3が鋼板により構成されている場合について説明したが、盤状材3を構成する材料は限定されるものではなく、例えば、プレキャストコンクリート部材により形成されていてもよい。また、盤状材3の分割数は4分割に限定されるものではなく、例えば、2分割や8分割であってもよい。
根固め層4を構成する袋詰め砕石41の大きさや数量は限定されるものではなく、適宜決定すればよい。また、袋詰め砕石41を構成する袋の材質や大きさも適宜決定すればよい。さらに、袋詰め砕石41の袋に詰める材料(砕石)は限定されるものではなく、例えば、天然砕石であってもよいし、再生砕石であってもよい。
また、フィルター層5は必要に応じて形成すればよく、省略してもよい。
【符号の説明】
【0022】
1 洋上風力発電施設
11 風車
12 支柱
13 杭
2 洗掘防止構造
3 盤状材
31 貫通孔
4 根固め層
41 袋詰め砕石
5 フィルター層
G 地盤
GL 海底