(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114134
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】建物床構造
(51)【国際特許分類】
E04B 5/43 20060101AFI20240816BHJP
E04B 5/02 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
E04B5/43 H
E04B5/02 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023019678
(22)【出願日】2023-02-13
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105843
【弁理士】
【氏名又は名称】神保 泰三
(72)【発明者】
【氏名】北倉 友佳
(57)【要約】
【課題】床板の振動性状を変えるといった既存の構成要素に対する変更を要しないで、建物床の振動を低減できる建物床構造を提供する。
【解決手段】
図1(B)に示すように、複数の第1の床梁1とこれら第1の床梁1に直交する複数の第2の床梁2とにより構成される略正方形の各床構面内に、長辺側を互いに対向させて隣り合う2枚の床板3が配置されており、各床構面内の2枚の床板3は、第1の床梁1または第2の床梁2上に当該床板3の短辺側を位置させ、当該床板3の厚み方向に形成された貫通孔3aに通された固定具4により、当該短辺側が第1の床梁1または第2の床梁2に固定されており、隣り合う上記床構面間で、一方の上記隣り合う2枚の床板3における短辺側に対して、他方の上記隣り合う2枚の床板3における長辺側が対向する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の第1の床梁とこれら第1の床梁に直交する複数の第2の床梁とにより構成される略正方形の各床構面内に、長辺側を互いに対向させて隣り合う複数枚の床板が配置されており、
各床構面内の複数枚の床板は、上記第1の床梁または上記第2の床梁上に当該床板の短辺側を位置させ、当該床板の厚み方向に形成された貫通孔に通された固定具により、当該短辺側が上記第1の床梁または上記第2の床梁に固定されており、
隣り合う上記床構面間で、一方の上記隣り合う複数枚の床板における短辺側に対して、他方の上記隣り合う複数枚の床板における長辺側が対向することを特徴とする建物床構造。
【請求項2】
請求項1に記載の建物床構造において、上記床板の短辺側と当該短辺側の下方に位置する上記第1の床梁または上記第2の床梁との間に、防振ゴム板が配置されていることを特徴とする建物床構造。
【請求項3】
請求項2に記載の建物床構造において、上記床板の長辺側と当該長辺側の下方に位置する上記第1の床梁または上記第2の床梁との間には、上記防振ゴム板が配置されていない隙間部が形成されていることを特徴とする建物床構造。
【請求項4】
請求項1に記載の建物床構造において、上記隣り合う上記床構面間で隣り合う上記床板間には、それぞれ略同一幅の隙間が形成されていることを特徴とする建物床構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、長方形状の床板を床梁上に複数枚配置して成る建物床構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の鋼製梁と床板を用いた建物床構造を、
図1(A)に示す。この建物床構造は、複数の第1の床梁1とこれら第1の床梁1に直交する複数の第2の床梁2とにより構成される略正方形の各床構面内に、長辺側を互いに対向させて隣り合う2枚の床板3が配置されている。そして、各床構面内の2枚の床板3は、上記第2の床梁2上に床板3の短辺側を位置させて固定される。このような床板配置形態では、隣り合う床板3の短辺対向箇所では隙間(例えば、2mm程度)が生じるが、長辺対向箇所では隙間は生じない。このような建物床構造では、隣り合う床板3の長辺接触箇所が連続するため、特定方向に振動が伝搬し易い。
【0003】
また、特許文献1には、床全体を一体化させないで床のインピーダンスを低くした構造において、床梁に固定される構造材を床パネルの他に別途用意し、また、床パネルを、間隔を空けて配置することなく、床全体の振動を低減させる技術が開示されている。具体的には、1つの床面を構成する複数の床パネルの質量、剛性若しくは振動減衰性能のうち少なくともいずれか1つを異ならせることで、それらの振動性状を異ならせて床全体の振動を低減させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に開示された床構造では、振動性状が互いに異なる床パネルを、作業者が現場で一々確認する必要があり、施工が容易でない。
【0006】
この発明は、上記の事情に鑑み、床板の振動性状を変えるといった既存の構成要素に対する変更を要しないで、建物床の振動を低減できる建物床構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の建物床構造は、上記の課題を解決するために、複数の第1の床梁とこれら第1の床梁に直交する複数の第2の床梁とにより構成される略正方形の各床構面内に、長辺側を互いに対向させて隣り合う複数枚の床板が配置されており、
各床構面内の複数枚の床板は、上記第1の床梁または上記第2の床梁上に当該床板の短辺側を位置させ、当該床板の厚み方向に形成された貫通孔に通された固定具により、当該短辺側が上記第1の床梁または上記第2の床梁に固定されており、
隣り合う上記床構面間で、一方の上記隣り合う複数枚の床板における短辺側に対して、他方の上記隣り合う複数枚の床板における長辺側が対向することを特徴とする。
【0008】
上記の構成であれば、複数の床構面の全てで床板が同じ方向に並んでいるのではなく、隣り合う上記床構面間で、一方の上記隣り合う複数枚の床板における短辺側に対して、他方の上記隣り合う複数枚の床板における長辺側が対向するので、上記第1の床梁および上記第2の床梁への振動の伝搬が分散され易い。このため、床面の局所部分においては、これまでの床板配置形態に比べて振動伝搬の抑制ができないことがあるものの、床面全体の平均では振動の伝搬を低減することができる。また、上記床板の配置における工夫であり、床板自体の振動性状を変えるといった既存の構成要素に対する変更も要しない。
【0009】
上記床板の短辺側と当該短辺下に位置する上記第1の床梁または上記第2の床梁との間に、防振ゴム板が配置されていてもよい。また、上記床板の長辺側と当該長辺側の下方に位置する上記第1の床梁または上記第2の床梁との間には、上記防振ゴム板が配置されていない隙間部が形成されていてもよい。
【0010】
上記隣り合う上記床構面間で隣り合う上記床板間には、それぞれ略同一幅の隙間が形成されていてもよい。このように、上記床構面間の周囲に略同一幅の隙間が形成されると、従来の床板配置形式に比べて、振動の伝搬が略均等に分散され、床面全体の平均では振動の伝搬を低減することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明であれば、床板の振動性状を変えるといった等の既存の構成要素に対する変更を要しないで、建物床の振動を低減できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】同図(A)は、比較される従来の建物床構造を示した説明図であり、同図(B)は、実施形態の建物床構造を示した説明図である。
【
図2】床板の梁への固定例を示した概略の鉛直面図である。
【
図3】床板の長辺側と梁との関係を示した概略の鉛直面図である。
【
図4】床面の中央側を第1の床梁の延設方向に人が歩行した想定での振動測定点を示した説明図である。
【
図5】
図1(A)の従来の建物床構造に対応する振動測定点の箇所および当該箇所を示すとともに振動値を示した表図である。
【
図6】
図1(B)の建物床構造に対応する振動測定点の箇所および当該箇所を示すとともに振動値を示した表図である。
【
図7】床面の端側を第1の床梁の延設方向に人が歩行した想定での振動測定点を示した説明図である。
【
図8】
図1(A)の従来の建物床構造に対応する振動測定点の箇所および当該箇所を示すとともに振動値を示した表図である。
【
図9】
図1(B)の建物床構造に対応する振動測定点の箇所および当該箇所を示すとともに振動値を示した表図である。
【
図10】床面の中央側を第2の床梁の延設方向に人が歩行した想定での振動測定点を示した説明図である。
【
図11】
図1(A)の従来の建物床構造に対応する振動測定点の箇所および当該箇所を示すとともに振動値を示した表図である。
【
図12】
図1(B)の建物床構造に対応する振動測定点の箇所および当該箇所を示すとともに振動値を示した表図である。
【
図13】床面の端側を第2の床梁の延設方向に人が歩行した想定での振動測定点を示した説明図である。
【
図14】
図1(A)の従来の建物床構造に対応する振動測定点の箇所および当該箇所を示すとともに振動値を示した表図である。
【
図15】
図1(B)の建物床構造に対応する振動測定点の箇所および当該箇所を示すとともに振動値を示した表図である。
【
図16】
図1(A)の従来の建物床構造における梁の変形量を示したグラフであり、同図(A)は大梁の変形量を、同図(B)は小梁の変形量をそれぞれ示している。
【
図17】
図1(B)の建物床構造における梁の変形量を示したグラフであり、同図(A)は大梁の変形量を、同図(B)は小梁の変形量をそれぞれ示している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
図1(B)に示すように、この実施形態にかかる建物床構造100は、複数の第1の床梁1(大梁)とこれら第1の床梁1に直交する複数の第2の床梁2(小梁)とにより構成される略正方形(例えば、1820mm×1820mm)の各床構面内に、長辺側を互いに対向させて隣り合う2枚の床板3が配置された構造である。第1の床梁1および第2の床梁2は、H形鋼からなる。また、床板3は、例えば、ALC板(Autoclaved Lightweight aerated Concrete)からなる。なお、第1の床梁1、第2の床梁2および各床構面は、
図1(A)に示した従来の建物床構造と同じである。
【0014】
各床構面内の2枚の床板3は、上記第1の床梁1または上記第2の床梁2上に当該床板3の短辺側を位置させている。また、
図2に示すよう、当該床板3の厚み方向に形成された貫通孔3aに通された固定具4により、当該短辺側が上記第1の床梁1または上記第2の床梁2に固定されている。床板3上には、床下地材31が敷かれている。床下地材31は、例えば、パーチクルボード等からなる。なお、
図1に示した建物床構造では、床板3の各短辺側の中央に貫通孔3aが形成された形態が例示されているが、これに限らず、床板3の各隅角側に貫通孔3aが合計で4か所形成される形態としてもよい。
【0015】
また、床板3の短辺側と当該短辺側の下方に位置する第1の床梁1または第2の床梁2との間には、防振ゴム板5が配置されている。その一方、
図3に示すように、第1の床梁1または第2の床梁2の左右片側において、床板3の長辺側と当該長辺側の下方に位置する第1の床梁1または第2の床梁2との間には、防振ゴム板5が配置されていない隙間部が形成されている。
【0016】
そして、隣り合う上記床構面間において、一方の隣り合う2枚の床板3における短辺側に対して、他方の隣り合う2枚の床板3における長辺側が対向している。換言すれば、2枚の床板3の組は、隣り合う上記床構面間において、90度回転されている。また、上記隣り合う上記床構面間で隣り合う床板3間には、それぞれ略同一幅の隙間(略1mm)が形成されている。
【0017】
以下に、建物床構造100(4×910mm×6×910mmの24Pサイズとする)を構成する第1の床梁1、第2の床梁2、床板3等の要素情報を3Dシミュレーションソフトウェア(例えば、Midas社のiGen)に入力して、床上を体重60Kgの人が歩行して加振したときの床の振動検証を行った結果および従来の建物床構造の同結果を示していく。
【0018】
図4は、床面の中央側を第1の床梁1の延設方向に人が歩行した想定で、当該歩行方向の両側における上記床構面の中央箇所および上記床構面間の箇所を、振動測定点(1~5,11~15)としたことを示している。
【0019】
図5は、
図1(A)の従来の建物床構造に対応する上記振動測定点(1~5,11~15)の箇所および当該箇所の振動値の表図を示しており、
図6は、
図1(B)の建物床構造100に対応する上記振動測定点(1~5,11~15)の箇所および当該箇所の振動値の表図を示している。
図5の振動値の表図と
図6の振動値の表図との対比で分かるように、全ての振動測定点において、建物床構造100の方が、振動の伝搬が低減されたという結果が得られた。そして、従来の建物床構造の振動値の平均値23.3Galに対して、建物床構造100の振動値の平均値は、14.6Galとなり、比率は0.63倍であった。
【0020】
図7は、床面の一方の端側を第1の床梁1の延設方向に人が歩行した想定で、当該歩行方向の片側となる床面の中央側および他方の端側における上記床構面の中央箇所および上記床構面間の箇所を、振動測定点(6~15)としたことを示している。
【0021】
図8は、
図1(A)の従来の建物床構造に対応する上記振動測定点(6~15)の箇所および当該箇所の振動値の表図を示しており、
図9は、
図1(B)の建物床構造100に対応する上記振動測定点(6~15)の箇所および当該箇所の振動値の表図を示している。
図8の振動値の表図と
図9の振動値の表図との対比で分かるように、床面の局所部分においては、従来の建物床構造に比べて振動伝搬の抑制ができないことがあるものの、半数以上の振動測定点において建物床構造100の方が、振動の伝搬が低減されたという結果が得られた。そして、従来の建物床構造の振動値の平均値21.0Galに対して、建物床構造100の振動値の平均値は、16.0Galとなり、比率は0.76倍であった。
【0022】
図10は、床面の中央側を第2の床梁2の延設方向に人が歩行した想定で、当該歩行方向の両側における上記床構面の中央箇所および上記床構面間の箇所を、振動測定点(1,2,4~7,9~12,14,15)としたことを示している。
【0023】
図11は、
図1(A)の従来の建物床構造に対応する上記振動測定点(1,2,4~7,9~12,14,15)の箇所および当該箇所の振動値の表図を示しており、
図12は、
図1(B)の建物床構造100に対応する上記振動測定点(1,2,4~7,9~12,14,15)の箇所および当該箇所の振動値の表図を示している。
図11の振動値の表図と
図12の振動値の表図との対比で分かるように、床面の局所部分においては、従来の建物床構造に比べて振動伝搬の抑制ができないことがあるものの、半数以上の振動測定点において建物床構造100の方が、振動の伝搬が低減されたという結果が得られた。そして、従来の建物床構造の振動値の平均値30.3Galに対して、建物床構造100の振動値の平均値は、27.1Galとなり、比率は0.89倍であった。
【0024】
図13は、床面の一方の端側を第2の床梁2の延設方向に人が歩行した想定で、当該歩行方向の片側となる床面の中央側および他方の端側における上記床構面の中央箇所および上記床構面間の箇所を、振動測定点(1~4,6~9,11~14)としたことを示している。
【0025】
図14は、
図1(A)の従来の建物床構造に対応する上記振動測定点(1~4,6~9,11~14)の箇所および当該箇所の振動値の表図を示しており、
図15は、
図1(B)の建物床構造100に対応する上記振動測定点(1~4,6~9,11~14)の箇所および当該箇所の振動値の表図を示している。
図14の振動値の表図と
図15の振動値の表図との対比で分かるように、比較的多くの箇所で、従来の建物床構造に比べて振動伝搬の抑制ができておらず、また、従来の建物床構造の振動値の平均値19.8Galに対して、建物床構造100の振動値の平均値は、20.0Galとなり、比率は1.01倍であった。ただし、僅かな増加であり、この想定の検証では、従来の建物床構造に対する特段の振動低減効果は得られなかったものの、他の想定の検証を含めて判断すれば、建物床構造100の方が、振動の伝搬が低減されたといえる。
【0026】
また、上記隣り合う上記床構面間で隣り合う床板3間には、それぞれ略同一幅の隙間(略1mm)が形成されるので、従来の床板配置形態に比べて、振動の伝搬が略均等に分散され、床面全体の平均では振動の伝搬を低減できると考えられる。
【0027】
次に、建物床構造100(4×910mm×6×910mmの24Pサイズとする)を構成する第1の床梁1、第2の床梁2、床板3等の要素情報を3Dシミュレーションソフトウェア(例えば、Midas社のiGen)に入力して、第1の床梁1(大梁)と第2の床梁2(小梁)の変形量の検証を行った結果および従来の建物床構造の同結果を、以下に示す。
【0028】
図16は従来の建物床構造の梁の位置に対する変形の程度を示しており、同図(A)のグラフは、大梁の変形量を、同図(B)のグラフは小梁の変形量を、それぞれ示している。
図17は建物床構造100の梁の位置に対する変形の程度を示しており、同図(A)のグラフは、大梁の変形量を、同図(B)のグラフは小梁の変形量を、それぞれ示している。X0~X4およびY0~Y6は、
図1等のX0~X4およびY0~Y6で示されている位置に相当する。また、基準点は
図1に示されている。
【0029】
上記建物床構造100と従来の建物床構造の床組み構造の剛性自体は、同一の梁や床板を用いるので、同等といえるが、これらのグラフの対比から分かるように、建物床構造100の梁変形量は、従来の建物床構造の梁変形量に比べて小さいという結果が得られた。すなわち、建物床構造100では、建物躯体の変形量が小さくり、床組全体の剛性が向上されるので、梁等の鋼材の使用量を減らしても、従来の建物床構造と同等の床剛性を得ることが可能であるといえる。
【0030】
なお、上記の実施形態にかかる建物床構造100では、略正方形の各床構面内に2枚の床板3を配置したが、略正方形の各床構面内に3枚の床板3が配置される建物床構造としてもよい。
【0031】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示した実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0032】
1 :第1の床梁
2 :第2の床梁
3 :床板
3a :貫通孔
4 :固定具
5 :防振ゴム板
31 :床下地材
100 :建物床構造