(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114151
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】燃料電池用冷却液組成物
(51)【国際特許分類】
C09K 5/10 20060101AFI20240816BHJP
H01M 8/04 20160101ALI20240816BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20240816BHJP
B60L 50/70 20190101ALN20240816BHJP
【FI】
C09K5/10 F
H01M8/04 Z ZAB
C09K3/00 102
B60L50/70
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023019711
(22)【出願日】2023-02-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591125289
【氏名又は名称】日本ケミカル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】草野 雄也
(72)【発明者】
【氏名】高木 伸和
(72)【発明者】
【氏名】柄澤 涼
(72)【発明者】
【氏名】吉井 揚一郎
【テーマコード(参考)】
5H125
5H127
【Fターム(参考)】
5H125AA01
5H125AC07
5H125FF26
5H127AB04
5H127AC06
5H127CC07
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明は、アルミニウムの耐腐食性を高めることができる燃料電池用冷却液組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、下記成分:A)20質量%~80質量%のアルキレングリコール又はその誘導体;B)20質量%~80質量%の水;及びC)0.005質量%~0.2質量%の、式(I)
(式中、Rはそれぞれ独立に炭素数1~4個のアルキル基を示す。)
で表わされるテトラアルコキシシランの加水分解縮合物であって、重量平均分子量(Mw)が1000~10000である、加水分解縮合物を含む(但し、前記成分A)及び前記成分B)の合計質量を100質量%とする)、燃料電池用冷却液組成物に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分:
A)20質量%~80質量%のアルキレングリコール又はその誘導体;
B)20質量%~80質量%の水;及び
C)0.005質量%~0.2質量%の、式(I)
【化1】
(式中、Rは、それぞれ独立に、炭素数1~4個のアルキル基を示し、同一でも異なっていてもよい。)
で表わされるテトラアルコキシシランの加水分解縮合物であって、重量平均分子量(Mw)が1000~10000である、加水分解縮合物
を含む(但し、前記成分A)及び前記成分B)の合計質量を100質量%とする)、燃料電池用冷却液組成物。
【請求項2】
式(I)のRがメチル又はエチルである、請求項1に記載の燃料電池用冷却液組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の燃料電池用冷却液組成物を得るための濃縮冷却液組成物であって、水を用いて希釈して用いられる、濃縮冷却液組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料電池用冷却液組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池自動車は、一般に、燃料電池を約80℃に加温保持することで水素と酸素による反応が行われて、電気を最も効率よく生成する。このため、加温し過ぎないように、冷却液を循環させて燃料電池を冷却している。燃料電池の冷却システムでは、一般に、冷却液は、燃料電池に形成された流路を流れるとラジエータへ送られて冷却される。ラジエータとしては、アルミニウム製ラジエータが広く用いられているが、ラジエータのアルミニウム表面が曝されていると、アルミニウムの腐食に伴う水素発生が起こる懸念がある。このため、アルミニウム製ラジエータを用いる場合、80℃以上(理想的には95℃以上)に加熱した純水を冷却液回路に流すことで、最も耐腐食性に優れたアルミニウム酸化被膜であるベーマイト(γ-Al2O3・H2O)を回路の内面壁に均一に形成し、アルミニウムの耐腐食性を高めることができる。しかし、このベーマイトの形成は膨大な時間とコストを要する。
【0003】
このため、燃料電池用の冷却システムに用いられる冷却液においては、短時間及び低コストでアルミニウム表面に被膜を形成する防錆剤が広く用いられている。このような防錆剤の一つとして、オルトケイ酸エステルが知られている。
【0004】
例えば、特許文献1及び2には、防錆剤としてオルトケイ酸エステルを含む冷却液組成物が開示されている。特許文献1及び2におけるオルトケイ酸エステルは、ケイ素(Si)原子に4つの酸素(O)原子が直接結合し、これらの酸素原子に別の原子又は基が結合したものである。
【0005】
また、特許文献3には、特許文献1及び2と同様に、防錆剤としてオルトケイ酸エステルを含む冷却液組成物が開示されている。特許文献3におけるオルトケイ酸エステルは、ケイ素(Si)原子と直接結合する酸素を含まない基と、Si原子と直接結合する酸素を含む基を有するものである。
【0006】
ここで、一般に、燃料電池自動車には、冷却水から不純物イオンを取り除いてスタック内の低導電性を保つために、イオン交換樹脂を有するイオン交換器が搭載されている。しかし、特許文献1~3に開示されるようなオルトケイ酸エステルは分子量が小さいため、イオン交換樹脂に捕捉されやすい。このため、オルトケイ酸エステルを含む冷却液組成物は、アルミニウムの耐腐食性を十分に高めることができない場合がある。実際に、特許文献1の実施例においては、アルミニウムを冷却液組成物に浸漬させた後の導電率の上昇は抑制されているものの、アルミニウムの耐腐食性は比較例と同等であったことが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3732181号公報
【特許文献2】特開2020-107442号公報
【特許文献3】特開2020-126726号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記の通り、従来の燃料電池用冷却液組成物においては、防錆剤として用いられるオルトケイ酸エステルの分子量が小さいため、イオン交換樹脂に捕捉されやすく、アルミニウムの耐腐食性を十分に高めることができないことがあった。それ故、本発明は、アルミニウムの耐腐食性を高めることができる燃料電池用冷却液組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、テトラアルコキシシランの加水分解縮合物を冷却液組成物に添加し、さらに、該加水分解縮合物の重量平均分子量及び含有量を特定の範囲に制御することにより、アルミニウムの耐腐食性を高めることができることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)下記成分:
A)20質量%~80質量%のアルキレングリコール又はその誘導体;
B)20質量%~80質量%の水;及び
C)0.005質量%~0.2質量%の、式(I)
【化1】
(式中、Rは、それぞれ独立に、炭素数1~4個のアルキル基を示し、同一でも異なっていてもよい。)
で表わされるテトラアルコキシシランの加水分解縮合物であって、重量平均分子量(Mw)が1000~10000である、加水分解縮合物
を含む(但し、前記成分A)及び前記成分B)の合計質量を100質量%とする)、燃料電池用冷却液組成物。
(2)式(I)のRがメチル又はエチルである、前記(1)に記載の燃料電池用冷却液組成物。
(3)前記(1)又は(2)に記載の燃料電池用冷却液組成物を得るための濃縮冷却液組成物であって、水を用いて希釈して用いられる、濃縮冷却液組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、アルミニウムの耐腐食性を高めることができる燃料電池用冷却液組成物を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例における水素発生性試験に用いた装置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0014】
本発明の燃料電池用冷却液組成物(以下、冷却液組成物とも記載する)は、下記成分:A)アルキレングリコール又はその誘導体;B)水;及びC)式(I)で表わされるテトラアルコキシシランの加水分解縮合物を特定の含有量で含む。本発明においては、式(I)で表わされるテトラアルコキシシランの加水分解縮合物を冷却液組成物に添加し、さらに、該加水分解縮合物の重量平均分子量及び含有量を特定の範囲に制御することにより、アルミニウムの耐腐食性を高めることができる。
【0015】
A)アルキレングリコール又はその誘導体
本発明の冷却液組成物において、アルキレングリコール又はその誘導体は基剤として用いられている。
【0016】
アルキレングリコールとしては、特に限定されずに、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール及びヘキシレングリコール等を挙げることができる。
【0017】
アルキレングリコールの誘導体としては、特に限定されずに、例えば、アルキレングリコールのエーテル化合物が挙げられる。アルキレングリコールのエーテル化合物としては、例えば、アルキレングリコールモノアルキルエーテルが挙げられる。アルキレングリコールモノアルキルエーテルとしては、特に限定されずに、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル及びテトラエチレングリコールモノブチルエーテル等を挙げることができる。
【0018】
アルキレングリコール又はその誘導体は2種以上の混合物として用いてもよい。
【0019】
本発明の冷却液組成物において、アルキレングリコール又はその誘導体の含有量は、不凍性を考慮し、成分A)及び成分B)の合計質量100質量%に対して、20質量%~80質量%であり、好ましくは30質量%~70質量%であり、より好ましくは40質量%~60質量%である。
【0020】
B)水
水としては、例えば、イオン交換水及び蒸留水を用いることができる。
【0021】
本発明の冷却液組成物において、水の含有量は、成分A)及び成分B)の合計質量100質量%に対して、20質量%~80質量%であり、好ましくは30質量%~70質量%であり、より好ましくは40質量%~60質量%である。
【0022】
本発明の冷却液組成物において、成分A)及び成分B)の合計質量は、冷却液組成物に対して、通常90質量%以上であり、好ましくは95質量%以上である。
【0023】
C)式(I)で表わされるテトラアルコキシシランの加水分解縮合物
本発明の冷却液組成物は、式(I)
【化2】
(式中、Rは、それぞれ独立に、炭素数1~4個のアルキル基を示し、同一でも異なっていてもよい。)
で表わされるテトラアルコキシシランの加水分解縮合物(以下、加水分解縮合物とも記載する)を含む。本発明の冷却液組成物において、加水分解縮合物は、基剤に溶解し、アルミニウム表面に被膜を形成する防錆剤の働きをすることができる。冷却液組成物が、式(I)で表わされるテトラアルコキシシランの加水分解縮合物を所定量含むことにより、アルミニウムの耐腐食性を高めることができ、その効果が持続する。加水分解縮合物は2種以上の混合物として用いてもよい。
【0024】
式(I)で表わされるテトラアルコキシシランの加水分解縮合物の重量平均分子量(Mw)は、1000~10000であり、好ましくは2000~8000であり、より好ましくは3000~7000である。加水分解縮合物の重量平均分子量が1000以上であると、防錆剤として働く加水分解縮合物がイオン交換樹脂に捕捉されにくいため、アルミニウムの耐腐食性を高めることができ、アルミニウムからの水素発生を抑制することができる。また、加水分解縮合物の重量平均分子量が10000以下であると、加水分解縮合物の基剤への溶解性が高いため、アルミニウムの耐腐食効果が持続する。
【0025】
式(I)で表わされるテトラアルコキシシランの加水分解縮合物の数平均分子量(Mn)は、アルミニウムの耐腐食性の向上及び基剤への高い溶解性の観点から、好ましくは600~3500であり、より好ましくは800~3200である。
【0026】
式(I)で表わされるテトラアルコキシシランの加水分解縮合物の多分散度(Mw/Mn)は、アルミニウムの耐腐食性の向上及び基剤への高い溶解性の観点から、好ましくは1.3~4.0であり、より好ましくは1.3~3.2である。
【0027】
式(I)において、Rは、それぞれ独立に、炭素数1~4個のアルキル基を示し、同一でも異なっていてもよい。Rは、好ましくは、メチル又はエチルである。Rは、好ましくは同一である。式(I)において、全てのRがメチル又はエチルであることが好ましい。
【0028】
式(I)で表わされるテトラアルコキシシランの加水分解縮合物は、式(I)で表わされるテトラアルコキシシランの加水分解縮合(すなわち、加水分解及び縮合)によって得られる。加水分解縮合は、当業者に公知の通常の方法によって行うことができる。具体的には、式(I)で表わされるテトラアルコキシシランを、場合によって触媒及び溶媒と混合し、この混合物に水を添加(好ましくは滴下添加)することによって得られる。
【0029】
加水分解縮合物の調製において、好ましくは溶媒を用いる。溶媒としては、有機溶媒が好ましく、アルコールがより好ましい。アルコールとしては、特に限定されずに、例えば、炭素数1~4個のアルコールを用いることができ、式(I)で表わされるテトラアルコキシシランのアルコキシ基(OR)に対応するアルコールを用いることが好ましい。
【0030】
加水分解縮合物の調製において、触媒としては、金属キレート化合物、有機酸、無機酸、有機塩基及び無機塩基を挙げることができるが、無機酸が好ましい。無機酸としては、特に限定されずに、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、フッ酸及びリン酸等が挙げられるが、硫酸が好ましい。
【0031】
加水分解縮合物の調製において、添加する水の量は、式(I)で表わされるテトラアルコキシシラン1モルに対して、好ましくは0.78モル~0.84モルであり、より好ましくは0.80モル~0.82モルである。添加する水の量をこの範囲内とすることにより、加水分解縮合物の重量平均分子量を所望の範囲に調整することができる。
【0032】
本発明の冷却液組成物において、式(I)で表わされるテトラアルコキシシランの加水分解縮合物の含有量は、成分A)及び成分B)の合計質量を100質量%として、0.005質量%~0.2質量%であり、好ましくは0.007質量%~0.18質量%であり、より好ましくは0.01質量%~0.15質量%である。加水分解縮合物の含有量が0.005質量%以上であると、アルミニウムの耐腐食性を十分に高めることができ、アルミニウムからの水素発生を抑制することができる。また、加水分解縮合物の含有量が0.2質量%以下であると、加水分解縮合物の基剤への溶解性が高いため、アルミニウムの耐腐食効果が持続する。
【0033】
本発明の冷却液組成物は、必要に応じて、前記の成分A)~C)以外に、本発明の効果を損なわない範囲で、1種以上のその他の添加剤を含んでいてもよい。その他の添加剤としては、特に限定されずに、例えば、金属防食剤(カルボン酸、硝酸塩、亜硝酸塩、チアゾール、モリブデン酸塩、ホウ酸塩等)、染料、苦味剤及び消泡剤が挙げられる。その他の添加剤の合計含有量は、冷却液組成物に対して、通常10質量%以下であり、好ましくは5質量%以下である。
【0034】
本発明の冷却液組成物は導電性が十分に低く、導電率が25℃において好ましくは2μS/cm以下であり、より好ましくは1μS/cm以下である。冷却液組成物の導電率は、横河電機社製パーソナルSCメータSC72、検出器SC72SN-11(純水用)を用いて測定することができる。
【0035】
本発明において、冷却液組成物の製造方法は、本発明の効果が得られれば、特に限定されずに、通常の冷却液組成物の製造方法を用いることができる。例えば、前記の成分A)~C)、必要によりその他の添加剤を混合し、均一に撹拌することで製造することができる。
【0036】
本発明は、前記の冷却液組成物を得るための濃縮冷却液組成物も含む。本発明の濃縮冷却液組成物は、前記の冷却液組成物の成分A)及びC)を含み、必要により水(成分B))及びその他の添加剤を含有する。本発明の濃縮冷却液組成物は、水を用いて、例えば1.1質量倍~5質量倍に希釈して、成分A)~C)を含む本発明の冷却液組成物を得るために用いることができる。よって、本発明の濃縮冷却液組成物は、水(成分B))を含まないものであってもよく、また、水(成分B))を含むものであってもよい。なお、本発明の濃縮冷却液組成物が水を含む場合、その含有量は、冷却液組成物中の水の含有量より少ない。
【0037】
本発明の冷却液組成物は、低導電性であり、アルミニウムの耐腐食性を十分に高めることができるため、好ましくは燃料電池用の冷却液組成物として、より具体的には燃料電池のスタックを冷却する冷却液組成物として用いられる。式(I)で表わされるテトラアルコキシシランの加水分解縮合物はイオン交換樹脂に捕捉されにくいため、本発明の冷却液組成物は、燃料電池自動車用の冷却液組成物として、特にイオン交換器を搭載する燃料電池自動車用の冷却液組成物として好適に用いられる。
【実施例0038】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0039】
<テトラアルコキシシランの加水分解縮合物の調製>
以下の通りにして、テトラアルコキシシランの加水分解縮合物1~5(以下、シラノール1~5とも記載する)を調製した。
【0040】
シラノール1
テトラメトキシシラン100質量部にメタノール12質量部及び触媒として0.01%の硫酸を加え、純水9.1質量部(テトラメトキシシラン1モル当たり0.77モル)を3時間掛けて滴下添加し、1時間攪拌した。反応液から副生したメタノールと添加メタノールを留去し、次いでイオン交換樹脂層にて脱酸した。ここで得られたシラノールに亜硝酸ナトリウムを30ppm加え、添加したときの温度25℃から140℃に徐々に昇温した。この段階で生成するテトラメトキシシランを留去しつつ、更に2時間加熱した。得られたシラノール1の重量平均分子量(Mw)は510で、数平均分子量(Mn)は410、Mw/Mn=1.2であった。
【0041】
シラノール2
テトラメトキシシラン100質量部にメタノール12質量部及び触媒として0.01%の硫酸を加え、純水9.5質量部(テトラメトキシシラン1モル当たり0.80モル)を3時間掛けて滴下添加し、1時間攪拌した。反応液から副生したメタノールと添加メタノールを留去し、次いでイオン交換樹脂層にて脱酸した。ここで得られたシラノールに亜硝酸ナトリウムを70ppm加え、添加したときの温度25℃から140℃に徐々に昇温した。この段階で生成するテトラメトキシシランを留去しつつ、更に2時間加熱した。得られたシラノール2の重量平均分子量(Mw)は1050で、数平均分子量(Mn)は820であり、Mw/Mnは1.3であった。
【0042】
シラノール3
テトラエトキシシラン100質量部にエタノール11.0質量部及び触媒として0.01%の硫酸を加え、純水6.9質量部(テトラエトキシシラン1モル当たり0.80モル)を3.5時間掛けて滴下添加し、30分攪拌した。反応液から副生したエタノールと添加エタノールを留去し、次いでイオン交換樹脂層にて脱酸した。ここで得られたシラノールに亜硝酸ナトリウムを90ppm加え、添加したときの温度25℃から160℃に徐々に昇温した。この段階で生成するテトラエトキシシランを留去しつつ、更に2時間加熱した。得られたシラノール3の重量平均分子量(Mw)は5700で、数平均分子量(Mn)は2600であり、Mw/Mnは2.1であった。
【0043】
シラノール4
テトラエトキシシラン100質量部にエタノール11.0質量部及び触媒として0.01%の硫酸を加え、純水7.1質量部(テトラエトキシシラン1モル当たり0.82モル)を3.5時間掛けて滴下添加し、30分攪拌した。反応液から副生したエタノールと添加エタノールを留去し、次いでイオン交換樹脂層にて脱酸した。ここで得られたシラノールに亜硝酸ナトリウムを150ppm加え、添加したときの温度25℃から160℃に徐々に昇温した。この段階で生成するテトラエトキシシランを留去しつつ、更に2時間加熱した。得られたシラノール4の重量平均分子量(Mw)は9800で、数平均分子量(Mn)は3100であり、Mw/Mnは3.2であった。
【0044】
シラノール5
テトラエトキシシラン100質量部にエタノール11.0質量部及び触媒として0.01%の硫酸を加え、純水7.3質量部(テトラエトキシシラン1モル当たり0.85モル)を3.5時間掛けて滴下添加し、30分攪拌した。反応液から副生したエタノールと添加エタノールを留去し、次いでイオン交換樹脂層にて脱酸した。ここで得られたシラノールに亜硝酸ナトリウムを200ppm加え、添加したときの温度25℃から160℃に徐々に昇温した。この段階で生成するテトラエトキシシランを留去しつつ、更に2時間加熱した。得られたシラノール5の重量平均分子量(Mw)は15500で、数平均分子量(Mn)は3800であり、Mw/Mnは4.1であった。
【0045】
<冷却液組成物の調製>
以下の通りにして、実施例1~7及び比較例1~9の冷却液組成物を調製した。エチレングリコール水は、エチレングリコール50質量%と、イオン交換水50質量%の混合物である。
【0046】
実施例1
エチレングリコール水100質量%にシラノール3 0.005質量%を添加して、実施例1の冷却液組成物を得た。
【0047】
実施例2
エチレングリコール水100質量%にシラノール3 0.02質量%を添加して、実施例2の冷却液組成物を得た。
【0048】
実施例3
エチレングリコール水100質量%にシラノール2 0.05質量%を添加して、実施例3の冷却液組成物を得た。
【0049】
実施例4
エチレングリコール水100質量%にシラノール3 0.05質量%を添加して、実施例4の冷却液組成物を得た。
【0050】
実施例5
エチレングリコール水100質量%にシラノール4 0.05質量%を添加して、実施例5の冷却液組成物を得た。
【0051】
実施例6
エチレングリコール水100質量%にシラノール3 0.1質量%を添加して、実施例6の冷却液組成物を得た。
【0052】
実施例7
エチレングリコール水100質量%にシラノール3 0.2質量%を添加して、実施例7の冷却液組成物を得た。
【0053】
比較例1
比較例1としてエチレングリコール水(100質量%)を用いた。
【0054】
比較例2
エチレングリコール水100質量%にシラノール3 0.003質量%を添加して、比較例2の冷却液組成物を得た。
【0055】
比較例3
エチレングリコール水100質量%にシラノール3 0.25質量%を添加して、比較例3の冷却液組成物を得た。
【0056】
比較例4
エチレングリコール水100質量%にシラノール1 0.05質量%を添加して、比較例4の冷却液組成物を得た。
【0057】
比較例5
エチレングリコール水100質量%にシラノール5 0.05質量%を添加して、比較例5の冷却液組成物を得た。
【0058】
比較例6
エチレングリコール水100質量%にテトラメトキシシラン0.1質量%を添加して、比較例6の冷却液組成物を得た。
【0059】
比較例7
エチレングリコール水100質量%にトリメトキシメチルシラン0.1質量%を添加して、比較例7の冷却液組成物を得た。
【0060】
比較例8
エチレングリコール水100質量%にジメトキシジメチルシラン0.1質量%を添加して、比較例8の冷却液組成物を得た。
【0061】
比較例9
エチレングリコール水100質量%にメトキシトリメチルシラン0.1質量%を添加して、比較例9の冷却液組成物を得た。
【0062】
<冷却液組成物の評価>
実施例1~7及び比較例1~9の冷却液組成物について、導電率、ケイ素化合物の溶解性、ケイ素化合物残存率、及びアルミニウムからの水素発生性を以下の手法により評価した。
【0063】
導電率
導電率は、横河電機社製パーソナルSCメータSC72、検出器SC72SN-11(純水用)を用いて、25℃で測定した。
【0064】
ケイ素化合物の溶解性
溶解性は、実施例1~7及び比較例1~9により得られた冷却液組成物の25℃における外観を目視により観察した。
<外観>
以下の基準に従い、目視により判定した:
透明均一:沈殿又は異物等の生成が観察されない状態;
白濁:沈殿又は異物等の生成が認められる状態。
【0065】
ケイ素化合物残存率
イオン交換樹脂として、三菱ケミカル株式会社製の陽イオン交換樹脂DIAION SK1B(h型)と三菱ケミカル株式会社製の陰イオン交換樹脂DIAION SA10A(OH型)をそれぞれ30体積%と70体積%で混合したものを用意した。次いで、200mlビーカーに、各冷却液組成物を供試液として200mlとイオン交換樹脂2.7mlを封入し、25℃で撹拌した。24時間後に試験液をサンプリングし、ICP-MSでケイ素化合物の配合量を分析し、初期配合量に対する比をケイ素化合物残存率(%)として、計算した。
【0066】
水素発生性
図1に示す装置を用いて、気体発生量を目視で確認した。具体的には、
図1に示す装置において、試験管内に各冷却液組成物を充填し、アルミニウムラジエータチューブ切り出し試験片を下部に配置して45℃で120時間静置し、冷却液組成物を充填した目盛付試験管においてアルミニウム試験片からの気体発生量を目視で確認した。なお、発生した気体は、ガスクロマトグラフ分析により水素と同定した。
【0067】
実施例1~7及び比較例1~9の冷却液組成物の組成及び評価結果を表1に示す。
【0068】
【0069】
表1に示すように、テトラアルコキシシランの加水分解縮合物を含む実施例1~7の冷却液組成物は、これを含まない比較例1の冷却液組成物と比較して、アルミニウムからの水素発生を抑制でき、アルミニウムの耐腐食性が高く、優れたアルミニウム保護効果を示した。加水分解縮合物の重量平均分子量が1000~10000の範囲内である実施例3~5の冷却液組成物は、加水分解縮合物の重量平均分子量がこの範囲より小さい比較例4の冷却液組成物と比較して、イオン交換樹脂に捕捉されにくく、アルミニウムからの水素発生を抑制でき、また、加水分解縮合物の重量平均分子量がこの範囲より大きい比較例5の冷却液組成物と比較して、加水分解縮合物の溶解性が良好であり、アルミニウムの保護効果が持続することが示された。加水分解縮合物の含有量が0.005質量%~0.2質量%の範囲内である実施例1、2、4、6及び7の冷却液組成物は、加水分解縮合物の含有量がこの範囲より少ない比較例2の冷却液組成物と比較して、イオン交換樹脂に捕捉されにくく、アルミニウムからの水素発生を抑制でき、また、加水分解縮合物の含有量がこの範囲より多い比較例3の冷却液組成物と比較して、加水分解縮合物の溶解性が良好であり、アルミニウムの保護効果が持続することが示された。また、高分子の加水分解縮合物を含む実施例1~7の冷却液組成物は、低分子のオルトケイ酸エステルを含む比較例6~9の冷却液組成物と比較して、ケイ素化合物がイオン交換樹脂に捕捉されにくく、アルミニウムからの水素発生を抑制できることが示された。