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特開2024-114156アンモニア回収方法およびアンモニア回収装置
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  • 特開-アンモニア回収方法およびアンモニア回収装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114156
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】アンモニア回収方法およびアンモニア回収装置
(51)【国際特許分類】
   C01C 1/02 20060101AFI20240816BHJP
   C02F 1/04 20230101ALI20240816BHJP
【FI】
C01C1/02 E
C02F1/04 C
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023019718
(22)【出願日】2023-02-13
(71)【出願人】
【識別番号】390036663
【氏名又は名称】木村化工機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100183265
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 剣一
(72)【発明者】
【氏名】山川 洋亮
(72)【発明者】
【氏名】藤原 和也
【テーマコード(参考)】
4D034
【Fターム(参考)】
4D034AA27
4D034CA12
(57)【要約】
【課題】アンモニアを遊離させるための薬剤(アルカリ)として消石灰を用いつつ、設備構成やプロセスが複雑になることを回避し、かつ、蒸留工程におけるスケールの発生を抑制することが可能なアンモニア回収方法および回収装置を提供する。
【解決手段】加熱された被処理液に消石灰を添加して、pHを8以上12以下の範囲に調整し、固形分を除去した後、固形分が除去された被処理液を蒸留塔で蒸留し、蒸留塔の塔頂ベーパに含まれるアンモニアを回収するとともに、蒸留塔の塔底液のアンモニア濃度が250ppm以下になるように、pH調整機構における消石灰の添加量を制御し、かつ、蒸留工程における操作温度が、固液分離工程における操作温度より5℃以上30℃以下の範囲で低くなるようにする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニアを含む被処理液を加熱する加熱工程と、
加熱された被処理液に消石灰を添加して、pHを8以上12以下の範囲に調整するpH調整工程と、
pH調整後の被処理液に含まれる固形分を除去する固液分離工程と、
前記固形分が除去された被処理液を蒸留塔で蒸留することにより、アンモニアを高い濃度で含有する塔頂ベーパと、アンモニアを低い濃度で含有する塔底液とに分離する蒸留工程と、
前記塔頂ベーパに含まれるアンモニアを回収するための回収工程とを備え、
前記蒸留塔の塔底液のアンモニア濃度が250ppm以下になるように、前記pH調整工程における消石灰の添加量を制御し、かつ、
前記蒸留工程における操作温度を、前記固液分離工程における操作温度より5℃以上30℃以下の範囲で低い温度とすること
を特徴とするアンモニア回収方法。
【請求項2】
前記加熱工程において、被処理液を70℃以上100℃以下に加熱することを特徴とする請求項1記載のアンモニア回収方法。
【請求項3】
アンモニアを含む被処理液を加熱する加熱機構と、
加熱された被処理液に消石灰を添加して、pHを8以上12以下の範囲に調整するpH調整機構と、
前記pH調整機構におけるpH調整が行われた被処理液に含まれる固形分を除去する固液分離機構と、
前記固形分が除去された被処理液を蒸留塔で蒸留して、アンモニアを高い濃度で含有する塔頂ベーパと、アンモニアを低い濃度で含有する塔底液とに分離する蒸留機構と、
前記塔頂ベーパに含まれるアンモニアを回収するための回収機構とを備え、
前記蒸留塔の塔底液のアンモニア濃度が250ppm以下になるように、前記pH調整機構における消石灰の添加量が制御され、かつ、
前記蒸留塔における操作温度が、前記固液分離機構における操作温度より5℃以上30℃以下の範囲で低い温度となるように構成されていること
を特徴とするアンモニア回収装置。
【請求項4】
前記加熱機構により、被処理液を70℃以上100℃以下に加熱するように構成されていることを特徴とする請求項3記載のアンモニア回収装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニアの回収方法および回収装置に関し、詳しくは、アンモニアを含有する被処理液からアンモニアを回収するためのアンモニア回収方法およびアンモニア回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アンモニアは、種々の用途に広く用いられている物質であり、多様なプロセスから排出される物質でもある。
近年、窒素の総量削減基本方針が策定され、アンモニアを含む排水も規制の対象となっている。
【0003】
そのような状況下、アンモニアを含有する被処理液からアンモニアを分離して回収するために、種々の方法が提案されており、代表的な方法として、被処理液を蒸留することによってアンモニアを回収する方法が知られている。
【0004】
しかしながら、アンモニアは、水溶液中で遊離した状態で存在する場合に限らず、アンモニウムイオンの形で存在している場合がある。そのような場合には、例えば水酸化ナトリウムなどのアルカリを添加して、アンモニアを遊離させた後、蒸留を行うことが必要になる。
【0005】
このように、アンモニアを含む液体にアルカリを添加してアンモニアを遊離させて蒸留する方法として、例えば、特許文献1には、
塩化アンモニウムのみ、あるいは塩化アンモニウムと、該塩化アンモニウムとの反応に必要な化学当量未満のカルシウム分を含む固体または液体またはスラリーを予備調合槽に供給し、
得られる反応生成物を含む液から粗粒固形分を除去した液を塩化アンモニウムおよび/またはカルシウム分を含む溶液またはスラリーとともに仕上調合槽に供給し、
得られる反応生成物を含む液から粗粒固形分を除去した液を蒸留し、該粗粒固形分を予備調合槽に戻すようにした塩化アンモニウムの蒸留方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平3-66248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、この方法の場合、予備調合と仕上調合の2つの段階のそれぞれでカルシウム分を添加する工程が必要であり、また、カルシウム分を添加した後に、粗粒固形分を除去する工程がそれぞれ必要であることから、工程が複雑になるという問題点がある。
【0008】
また、アルカリ成分として、カルシウムを含む物質を用いており、蒸留装置において、スケールが発生しやすいという問題点がある。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するものであり、アンモニアを遊離させるための薬剤(アルカリ)として消石灰を用いつつ、設備構成やプロセスが複雑になることを回避し、かつ、蒸留工程におけるスケールの発生を抑制することが可能なアンモニア回収方法および回収装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明のアンモニア回収方法は、
アンモニアを含む被処理液を加熱する加熱工程と、
加熱された被処理液に消石灰を添加して、pHを8以上12以下の範囲に調整するpH調整工程と、
pH調整後の被処理液に含まれる固形分を除去する固液分離工程と、
前記固形分が除去された被処理液を蒸留塔で蒸留することにより、アンモニアを被処理液よりも高い濃度で含有する塔頂ベーパと、アンモニアを被処理液よりも低い濃度で含有する塔底液とに分離する蒸留工程と、
前記塔頂ベーパに含まれるアンモニアを回収するための回収工程とを備え、
前記蒸留塔の塔底液のアンモニア濃度が250ppm以下になるように、前記pH調整工程における消石灰の添加量を制御し、かつ、
前記蒸留工程における操作温度を、前記固液分離工程における操作温度より5℃以上30℃以下の範囲で低い温度とすること
を特徴としている。
【0011】
本発明のアンモニア回収方法においては、前記加熱工程において、被処理液を70℃以上100℃以下に加熱することが好ましい。
【0012】
また、本発明のアンモニア回収装置は、
アンモニアを含む被処理液を加熱する加熱機構と、
加熱された被処理液に消石灰を添加して、pHを8以上12以下の範囲に調整するpH調整機構と、
前記pH調整機構におけるpH調整が行われた被処理液に含まれる固形分を除去する固液分離機構と、
前記固形分が除去された被処理液を蒸留塔で蒸留して、アンモニアを被処理液よりも高い濃度で含有する塔頂ベーパと、アンモニアを被処理液よりも低い濃度で含有する塔底液とに分離する蒸留機構と、
前記塔頂ベーパに含まれるアンモニアを回収するための回収機構とを備え、
前記蒸留塔の塔底液のアンモニア濃度が250ppm以下になるように、前記pH調整機構における消石灰の添加量が制御され、かつ、
前記蒸留塔における操作温度が、前記固液分離機構における操作温度より5℃以上30℃以下の範囲で低い温度となるように構成されていること
を特徴としている。
【0013】
本発明のアンモニア回収装置においては、前記加熱機構により、被処理液を70℃以上100℃以下に加熱するように構成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のアンモニア回収方法および回収装置においては、加熱された被処理液に消石灰を添加して、pHを8以上12以下の範囲に調整し、固形分を除去した後、固形分が除去された被処理液を蒸留し、アンモニアを被処理液よりも高い濃度で含有する塔頂ベーパと、アンモニアを被処理液よりも低い濃度で含有する塔底液とに分離し、蒸留塔の塔頂ベーパに含まれるアンモニアを回収するとともに、蒸留塔の塔底液のアンモニア濃度が250ppm以下になるように、pH調整機構における消石灰の添加量を制御し、かつ、蒸留塔(蒸留工程)における操作温度が、固液分離機構(固液分離工程)における操作温度より5℃以上30℃以下の範囲で低くなるようにしているので、プロセスや設備構成が複雑になることを回避し、かつ、蒸留工程におけるスケールの発生を抑制することが可能になる。
以下、本明細書においてアンモニア濃度は、アンモニア分をNH3に換算した濃度をいう。
【0015】
すなわち,蒸留塔の塔底液のアンモニア濃度が250ppm以下になるように、pH調整機構における消石灰の添加量を制御するようにしているので、消石灰の添加量が過剰になることを抑制して、pH調整後の被処理液について固液分離を行うだけで足りるようにすることが可能になり、上述の特許文献1の場合のように、予備調合と仕上調合の2つの段階のそれぞれでカルシウム分を添加し、かつ、該2つの段階のそれぞれで粗粒固形分を除去することが不要になるため、プロセスや設備構成を簡略化することができる。
【0016】
また、消石灰を用いる場合に生成する例えば炭酸カルシウム、硫酸カルシウムなどのカルシウム化合物が、温度が高くなると水への溶解度が小さくなり、温度が低くなると水への溶解度が大きくなる傾向があることを考慮して、本発明では、蒸留塔(蒸留工程)における操作温度を、固液分離機構(固液分離工程)における操作温度より5℃以上30℃以下の範囲で低くなるようにしているので、カルシウム化合物の析出による蒸留装置へのスケールの発生を抑制することが可能になり、信頼性の高いアンモニア回収方法および回収装置を提供することができる。
【0017】
本発明のアンモニア回収方法および回収装置において、加熱機構(加熱工程)で被処理液の温度を70℃以上100℃以下になるように加熱することが好ましいが、これは、消石灰を添加することによりアンモニアを遊離させる反応を促進させることが可能になるとともに、蒸留機構(蒸留工程)における操作温度を、固液分離機構(固液分離工程)における操作温度より5℃以上30℃以下の範囲で低くするという本発明の要件を満たすことが容易になることによる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態にかかるアンモニア回収装置の構成を示すフローシートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の実施形態を示して、本発明の特徴とするところをさらに詳しく説明する。
【0020】
なお、本実施形態では、アンモニアを1.0wt%(10000ppm)の割合で含む、水を主体とする被処理液(アンモニア水溶液)から、アンモニアを回収するとともに、アンモニアを低濃度で含む処理済の排液を外部に排出するようにしたアンモニア回収装置について説明する。
【0021】
本発明の一実施形態にかかるアンモニア回収装置100は、図1にその構成を示すように、
a)アンモニアを含む被処理液を貯留する供給タンク1から供給される被処理液を所定の温度に加熱して、供給タンク1に戻すように構成された加熱機構(加熱器)2と、
b)加熱機構2で加熱された被処理液に消石灰を添加して、pHを8以上12以下の範囲に調整するためのpH調整機構3と、
c)pH調整機構3でのpH調整が行われた被処理液に含まれる固形分を除去する固液分離機構4と、
d)固液分離機構4において固形分が除去された被処理液を蒸留塔5aで蒸留して、アンモニアを被処理液よりも高い濃度で含有する塔頂ベーパと、アンモニアを被処理液よりも低い濃度で含有する塔底液とに分離する蒸留機構5と、
e)蒸留塔5aの塔頂ベーパに含まれるアンモニアを回収するための回収機構6とを備えている。
【0022】
また、本発明の一実施形態にかかるアンモニア回収装置100は、蒸留塔5aの塔底液のアンモニア濃度が250ppm以下になるように、pH調整機構3における消石灰の添加量を制御するように構成されている。
【0023】
また、蒸留機構5を構成する蒸留塔5aにおける操作温度が、固液分離機構4における操作温度より5℃以上30℃以下の範囲で低い温度となるように構成されている。
【0024】
次に、本発明の一実施形態にかかるアンモニア回収装置100についてさらに詳しく説明する。
【0025】
このアンモニア回収装置100において、供給タンク1は、アンモニアを含む被処理液を貯留するタンクであり、アンモニア濃度が1.0wt%の被処理液が8300kg/hrの割合で供給される。なお、被処理液に含まれるアンモニアは83kg/hrとなる。
【0026】
また、アンモニア回収装置100を構成する加熱機構(加熱器)2は、加熱源(熱媒)により被処理液を加熱して、後述のpH調整タンク内における被処理液(pH調整後の被処理液)の温度が95℃となるように加熱することができるように構成されている。なお、本実施形態では、加熱機構(加熱器)2で加熱された被処理液が、供給タンク1と加熱機構(加熱器)2との間を循環し、その一部がpH調整機構3を構成するpH調整タンク3bに供給されるように構成されている。
【0027】
なお、加熱機構2において加熱に用いられ、温度が低下した加熱源(熱媒)は、特に図示していないが、再度昇温させて加熱源として加熱機構2に供給されるように構成されている。
【0028】
また、加熱機構2で加熱された被処理液は、供給タンク1と加熱機構2との間を循環し、その一部がpH調整機構3を構成するpH調整タンク3bに供給されるように構成されている。
なお、本発明において、加熱機構2は上述のような構成のものに限られず、種々の構成の加熱機構を用いることが可能である。
【0029】
また、pH調整機構3は、水に消石灰を添加し、撹拌機13aで撹拌することで、消石灰濃度が28wt%の消石灰スラリーを調製する消石灰スラリータンク3aと、供給タンク1から供給される被処理液と、消石灰スラリータンク3aから供給された消石灰スラリーとを混合し、撹拌機13bにより撹拌してpHの調整を行うpH調整タンク3bを備えている。
【0030】
本実施形態では、消石灰スラリータンク3aから、消石灰濃度28wt%の消石灰スラリーをpH調整タンク3bに供給することにより、pH調整タンク3b内の被処理液のpHが8以上12以下(具体的には、pH10.8~11.5)に調整されるように構成されている。
【0031】
このpH調整工程では、被処理液8300kg/hrに対して、消石灰濃度28wt%の消石灰スラリーが646kg/hrの割合で添加される。添加される消石灰スラリー646kg/hrに含まれる消石灰は、181kg/hrとなる。
なお、本実施形態では、上述のようにpH調整後の被処理液の温度が95℃となるように構成されている。
【0032】
また、本実施形態にかかるアンモニア回収装置100においては、固液分離機構4として、例えば、ろ材が有機系、セラミック系、金属系であるろ過器などが用いられる。目開きが100nm~10μmの膜など、種々の構成のものを用いることが可能である。
【0033】
そして、上述のpH調整機構3でpH調整が行われた、温度95℃の被処理液が、この固液分離機構4に送られて、固形分が分離、除去される。
【0034】
ろ過流量(ろ液量)は8850kg/hr、分離される固形分(付着液を含む)は96kg/hr((8300kg/hr+646kg/hr)-8850kg/hr=96kg/hr)となる。
また、ろ液に含まれるアンモニアの濃度は0.94wt%(9400ppm)となる。
【0035】
そして、固液分離機構4で固形分が分離、除去された、温度が95℃のろ液8850kg/hrは、蒸留機構5に送られる。
【0036】
本実施形態にかかるアンモニア回収装置100において、蒸留機構5は、充填塔式の蒸留塔5aと、薄膜降下式のリボイラ(ヒータ)5bと、蒸留塔5aの塔頂ベーパを冷却して凝縮させるコンデンサ5cを備えている。
【0037】
なお、蒸留塔5aは充填塔に限らず、公知の種々の型式のものを採用することが可能である。
【0038】
また、リボイラ5bについても、薄膜降下式のものに限らず、公知の種々の型式のものを用いることが可能である。
【0039】
この蒸留機構5では、固液分離機構4において固形分が除去された被処理液が蒸留塔5aで蒸留され、アンモニアを被処理液よりも高い濃度で含有する塔頂ベーパと、アンモニアを被処理液よりも低い濃度で含有する塔底液とに分離される。
【0040】
また、蒸留塔5aは系内の圧力(操作圧力)を制御することにより、操作温度が固液分離機構4におけるろ液の温度よりも低い温度で操作されるように構成されている。
【0041】
具体的には、蒸留塔5aにおいて被処理液が蒸留されることにより、塔頂からは、アンモニア濃度が49.5wt%の塔頂ベーパが取り出され、塔底からはアンモニア濃度が10ppmの塔底液が取り出される。
【0042】
また、本実施形態では、蒸留塔5aの操作圧力を61kPaAに制御することにより、蒸留塔5aの塔底液の温度が90℃となるように構成されている。すなわち、蒸留塔5aの操作温度が、固液分離機構4における操作温度(ろ液の温度(95℃))よりも5℃低い温度(90℃)で操作されるように構成されている。
【0043】
蒸留塔5aの塔頂ベーパは、コンデンサ5cで冷却され、凝縮した凝縮液(水)は、還流液として蒸留塔5aの塔頂に戻されるように構成されている。
【0044】
一方、コンデンサ5cで凝縮しなかった不凝縮ガスは、高濃度のアンモニアを含むガスとして回収され、しかるべき用途に利用することができるように構成されている。
【0045】
ただし、図1には示していない吸収装置を設けて、不凝縮ガスに含まれるアンモニアを水に吸収させて所定の濃度のアンモニア水として回収するように構成することも可能である。
【0046】
したがって、コンデンサ5cにおける不凝縮ガスを高濃度のアンモニアを含むガスとして回収する場合には、コンデンサ5cがアンモニアを回収するための回収機構6としても機能することになる。
【0047】
また、上述のように、コンデンサ5cにおける不凝縮ガス中のアンモニアを吸収装置で水に吸収させて所定の濃度のアンモニア水として回収する場合には、上記の吸収装置がアンモニアを回収するための回収機構6として機能することになる。
【0048】
なお、本実施形態において、コンデンサ5cで凝縮しなかった不凝縮ガス量は166kg/hr、アンモニア濃度が49.5wt%であり、回収されるアンモニア量は82.1kg/hrとなる。すなわち、被処理液に含まれるアンモニア83kg/hrのうちの82.1kg/hrが回収されることになる。
【0049】
また、蒸留塔5aの塔底液は、リボイラ(ヒータ)5bの塔頂に供給され、再度加熱されるとともに、リボイラ(ヒータ)5bの塔頂に供給される塔底液の一部は、アンモニア濃度が10ppmの排水として、8684kg/hrの割合で系外に排出される。排出されるアンモニア量は0.9kg/hrとなる。
【0050】
なお、本実施形態のアンモニア回収装置100においては、pH調整機構3でpHを10.8~11.5に調整する一方で、蒸留塔5aの塔底液のアンモニア濃度が10ppmになるように、pH調整機構3における消石灰の添加量を制御するようにしているが、その場合においても、pH調整タンク3b内の被処理液のpHは、pH10.8~11.5の範囲に収まることが確認されている。
【0051】
したがって、本実施形態にかかるアンモニア回収装置100において、pH調整機構3は、消石灰の添加量を概略適正な量とするための予備的な機構として機能し、消石灰の最終的な添加量は、蒸留塔5aの塔底液のアンモニア濃度の検出結果によって制御されることになる。
【0052】
上述のように、本実施形態にかかるアンモニア回収装置100は、加熱された被処理液に、pH調整機構3で消石灰を添加し、pHを8以上12以下(より詳しくはpH10.8~11.5)の範囲に調整し、固液分離機構4で固形分を除去した後、固形分が除去された被処理液を蒸留機構5で蒸留するとともに、蒸留塔5aの塔底液のアンモニア濃度が250ppm以下(本実施形態では10ppm)になるように、pH調整機構3における消石灰の添加量を制御し、かつ、蒸留塔5a(蒸留工程)における操作温度が、固液分離機構4(固液分離工程)における操作温度より5℃以上30℃以下の範囲で低く(本実施形態では5℃低く)なるようにしているので、プロセスや設備構成が複雑になることを回避することが可能になるとともに、蒸留工程におけるスケールの発生を抑制することができる。
【0053】
すなわち、本実施形態では、蒸留塔5aの塔底液のアンモニア濃度が10ppm以下になるように、pH調整機構3における消石灰の添加量が制御されることで、消石灰の添加量が過剰になることが抑制され、結果として、上述の特許文献1の場合のように、予備調合と仕上調合の2つの段階のそれぞれでカルシウム分を添加し、かつ、該2つの段階のそれぞれで粗粒固形分を除去することが不要になる。その結果、プロセスや設備構成を簡略化することが可能になる。
【0054】
また、本実施形態にかかるアンモニア回収装置100は、アンモニアを遊離させるのに消石灰を用いる場合に生成する可能性のある炭酸カルシウム、硫酸カルシウムなどのカルシウム化合物が、温度が高くなると水への溶解度が小さくなり、温度が低くなると水への溶解度が大きくなる傾向があることを考慮し、蒸留塔5aにおける操作温度が、固液分離機構4における操作温度より5℃低くなるようにしているので、カルシウム化合物の析出による蒸留塔5aへのスケールの発生を抑制することが可能になり、信頼性の高いアンモニア回収装置100を提供することが可能になる。
【0055】
また、上記実施形態の場合、蒸留塔5aの塔底液中に、消石灰と反応しうるアンモニアが10ppm存在する状態で操業されることになるため、消石灰がアンモニアと反応せずに残留する可能性が低くなり、固液分離機構4への負荷を低減することができる。
【0056】
なお、蒸留塔5aの塔底液中に存在するアンモニア濃度を、排水の条件などとの関係で10ppmよりも高い濃度にすることができる場合には、消石灰がアンモニアと反応せずに残留する可能性がさらに低くなり、蒸留塔5aへのスケールの発生をさらに抑制することが可能になる。
【0057】
上記実施形態では、被処理液が1.0wt%のアンモニアを含有する水溶液である場合について説明したが、本発明は、通常は、アンモニアを0.1~5wt%の割合で含有する被処理液からアンモニアを回収する場合に有意義に適用することができる。
【0058】
また、上記実施形態では、蒸留塔5aの操作温度を、固液分離機構4の操作温度の95℃より5℃低い90℃となるようにしているが、蒸留塔5aの操作温度を、固液分離機構4の操作温度より5℃以上30℃以下の範囲で低い温度としてもよい。
【0059】
また、上記実施形態で説明し、あるいは、図1に示した、加熱機構2、pH調整機構3、固液分離機構4、蒸留機構5、回収機構6の構成や操業条件(各種の量、温度、アンモニア濃度)などについては、あくまでも例示であって、本発明は、それらの値が上記実施形態の値とは異なる値となる場合を排除するものではない。
【0060】
本発明は、さらにその他の点においても上記実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲内において、応用、変形を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0061】
100 アンモニア回収装置
1 供給タンク
2 加熱機構
3 pH調整機構
3a 消石灰スラリータンク
3b pH調整タンク
4 固液分離機構
5 蒸留機構
5a 蒸留塔
5b リボイラ(ヒータ)
5c コンデンサ
6 回収機構
13a 撹拌機
13b 撹拌機
図1