(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114178
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】水処理方法および水処理装置
(51)【国際特許分類】
C02F 1/28 20230101AFI20240816BHJP
C02F 1/76 20230101ALI20240816BHJP
【FI】
C02F1/28 D
C02F1/76 Z
C02F1/28 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023019759
(22)【出願日】2023-02-13
(71)【出願人】
【識別番号】596136316
【氏名又は名称】三菱ケミカルアクア・ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】閻 寧寧
(72)【発明者】
【氏名】田嶋 啓佑
【テーマコード(参考)】
4D050
4D624
【Fターム(参考)】
4D050AA02
4D050AB11
4D050AB13
4D050BB02
4D050BB03
4D050BB05
4D050BB06
4D050BD03
4D050BD06
4D050BD08
4D050CA06
4D050CA08
4D050CA09
4D050CA15
4D050CA16
4D624AA01
4D624AB04
4D624BA02
4D624BB01
4D624BB02
4D624BB03
4D624CA01
4D624DA03
4D624DA04
4D624DB03
4D624DB05
4D624DB19
4D624DB21
4D624DB23
4D624DB24
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、酸化剤による消毒後に残留する消毒副生成物の濃度が水質基準値を超えないようにリアルタイムで監視でき、ランニングコストも低減できる水処理方法および水処理装置を提供することである。
【解決手段】有機物を含む被処理水W1から飲料水を製造するための水処理において、被処理水W1の有機物を有機物除去手段で除去することで得られる有機物除去水W2のTOC値(X)と、該有機物除去水W2による消毒副生成物生成能(Y)との相関を示す予測式に基づいて水処理条件を制御する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物を含む被処理水W1から飲料水を製造するための水処理方法であって、
前記被処理水W1の有機物を有機物除去手段で除去することで有機物除去水W2を得る、有機物除去工程と、
前記有機物除去水W2と酸化剤とを混合する、酸化剤混合工程と、
前記有機物除去水W2のTOC値(X)と、前記有機物除去水W2による消毒副生成物生成能(Y)との相関を示す予測式に基づいて水処理条件を制御する制御工程と、
を備える、水処理方法。
【請求項2】
前記予測式は、有機物を含有する1以上のサンプル水からその有機物を前記有機物除去手段で除去することでTOCが互いに異なる複数の処理済サンプル水を得た後、前記複数の処理済サンプル水と前記酸化剤とをそれぞれ混合したときの消毒副生成物生成能に基づいて取得される、請求項1に記載の水処理方法。
【請求項3】
前記予測式を取得するための下記のステップ(A1)、ステップ(A2)およびステップ(A3)をさらに備える、請求項2に記載の水処理方法。
ステップ(A1):前記1以上のサンプル水からそれぞれ得られたN個の前記処理済サンプル水のTOC測定値:X1,X2,・・・,XNを取得すること。
ステップ(A2):N個の前記処理済サンプル水と前記酸化剤とをそれぞれ混合したときの消毒副生成物生成能:Y1,Y2,・・・,YNを取得すること。
ステップ(A3):前記TOC測定値:X1,X2,・・・,XNと前記消毒副生成物生成能:Y1,Y2,・・・,YNのN個のプロット:(X1,Y1),(X2,Y2),・・・,(XN,YN)に基づく回帰直線:Y=aX+bを前記予測式として取得すること。
前記Nは、2以上の整数であり、a,bは任意の実数である。
【請求項4】
前記ステップ(A3)において、最小二乗法を用いて前記回帰直線を決定する、請求項3に記載の水処理方法。
【請求項5】
前記制御工程が、下記のステップ(B1)、ステップ(B2)およびステップ(B3)を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の水処理方法。
ステップ(B1):前記有機物除去水W2のTOCの実測値Pを前記予測式に代入することで、監視対象の消毒副生成物生成能Qを算出すること。
ステップ(B2):前記消毒副生成物生成能Qと前記監視対象の消毒副生成物の管理閾値とを比較すること。
ステップ(B3):前記ステップ(B2)の比較結果に基づいて、前記監視対象の消毒副生成物の生成量が水質基準値を超える可能性を評価すること。
【請求項6】
前記制御工程が、下記のステップ(C1)をさらに有する、請求項5に記載の水処理方法。
ステップ(C1):前記消毒副生成物生成能Qが前記管理閾値以上である場合、前記有機物除去手段を交換すること、前記有機物除去手段を洗浄すること、および前記有機物除去手段を再生することからなる群から選ばれる少なくとも1つを通知すること。
【請求項7】
前記制御工程が、下記のステップ(C2)をさらに有する、請求項5に記載の水処理方法。
ステップ(C2):前記消毒副生成物生成能Qが前記管理閾値未満である場合、前記有機物除去手段の使用可能期間を算出すること。
【請求項8】
前記有機物除去手段が、活性炭である、請求項1~4のいずれか一項に記載の水処理方法。
【請求項9】
前記酸化剤が、ハロゲン含有化合物である、請求項1~4のいずれか一項に記載の水処理方法。
【請求項10】
消毒副生成物が、トリクロロ酢酸である、請求項1~4のいずれか一項に記載の水処理方法。
【請求項11】
有機物を含む被処理水W1から飲料水を製造するための水処理装置であって、
前記被処理水W1の有機物を有機物除去手段で除去することで有機物除去水W2を得る、有機物除去装置と、
前記有機物除去水W2のTOC値(X)の測定センサと、
前記有機物除去水W2と酸化剤とを混合するための酸化剤注入装置と、
前記有機物除去水W2のTOC値(X)と、前記有機物除去水W2による消毒副生成物生成能(Y)との相関を示す予測式に基づいて水処理条件を制御する制御装置と、
を備える、水処理装置。
【請求項12】
前記予測式は、有機物を含有する1以上のサンプル水からその有機物を前記有機物除去手段で除去することでTOCが互いに異なる複数の処理済サンプル水を得た後、前記複数の処理済サンプル水と前記酸化剤とをそれぞれ混合したときの消毒副生成物生成能に基づいて取得される、請求項11に記載の水処理装置。
【請求項13】
前記予測式を取得するための下記の要素(α1)、要素(α2)および要素(α3)をさらに備える、請求項12に記載の水処理装置。
要素(α1):前記1以上のサンプル水から得られた、N個の前記処理済サンプル水のTOC測定値:X1,X2,・・・,XNを取得するTOC取得手段。
要素(α2):N個の前記処理済サンプル水と前記酸化剤とをそれぞれ混合したときの消毒副生成物生成能:Y1,Y2,・・・,YNを取得する消毒副生成物能取得手段。
要素(α3):前記TOC測定値:X1,X2,・・・,XNと前記消毒副生成物生成能:Y1,Y2,・・・,YNのN個のプロット:(X1,Y1),(X2,Y2),・・・,(XN,YN)に基づく回帰直線:Y=aX+bを前記予測式として取得する予測式取得手段。
前記Nは、2以上の整数であり、a,bは任意の実数である。
【請求項14】
前記要素(α3)が、最小二乗法を用いて前記回帰直線を決定する、請求項13に記載の水処理装置。
【請求項15】
前記制御装置が、下記の要素(β1)、要素(β2)および要素(β3)を有する、請求項11~14のいずれか一項に記載の水処理装置。
要素(β1):前記有機物除去水W2のTOCの実測値Pを前記測定センサから受信し、前記実測値Pを前記予測式に代入することで、監視対象の消毒副生成物生成能Qを算出する第1の算出手段。
要素(β2):前記消毒副生成物生成能Qと、前記監視対象の消毒副生成物の管理閾値とを比較する比較手段。
要素(β3):前記要素(β2)による比較結果に基づいて、前記監視対象の消毒副生成物の生成量が水質基準値を超える可能性を評価する評価手段。
【請求項16】
前記制御装置が、下記の要素(γ1)をさらに有する、請求項15に記載の水処理装置。
要素(γ1):前記消毒副生成物生成能Qが前記管理閾値以上である場合、前記有機物除去手段を交換すること、前記有機物除去手段を洗浄すること、および前記有機物除去手段を再生することからなる群から選ばれる少なくとも1つを通知する通知手段。
【請求項17】
前記制御装置が、下記の要素(γ2)をさらに有する、請求項15に記載の水処理装置。
要素(γ2):前記消毒副生成物生成能Qが前記管理閾値未満である場合、前記有機物除去手段の使用可能期間を算出する第2の算出手段。
【請求項18】
前記有機物除去手段が、活性炭である、請求項11~14のいずれか一項に記載の水処理装置。
【請求項19】
前記酸化剤が、ハロゲン含有化合物である、請求項11~14のいずれか一項に記載の水処理装置。
【請求項20】
消毒副生成物が、トリクロロ酢酸である、請求項11~14のいずれか一項に記載の水処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理方法および水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地下水、表流水等を飲料水化するための水処理の過程において、有機物を除去することで有機物除去水を得ることがある。例えば、活性炭への通水時には、有機物の積算吸着量が増えれば増えるほど、有機物はリークする。活性炭の場合、その活性炭処理水のTOCが上昇し始めたタイミングで、活性炭を交換することが一般的である。このように、有機物除去水のTOCはやがて少しずつ増加し始めるため、メンテナンス作業が重要である。
【0003】
例えば特許文献1では、活性炭の交換時期を把握するための活性炭充填塔の運転管理システムが提案されている。この運転管理システムにおいては、シミュレーションによって求めた活性炭の破過曲線にしたがって、活性炭による不純物の吸着可能量が求められる。また、活性炭充填塔における入口側の原水水質、出口側の処理水水質および通水量からなる運転実績データにしたがって、活性炭による不純物の積算吸着量が算出される。この積算吸着量と吸着可能量の比率が指定の値を上回ると、活性炭交換の通知等が出る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
飲料水用の水処理においては、消毒のために酸化剤が有機物を除去した後の有機物除去水に添加される。ところが有機物除去水に許容量を超える有機物が存在すると、消毒後に酸化剤によって生成する消毒副生成物(Disinfection By-Products:DBP)の濃度が飲料水の水質基準を超えてしまう。そこで、消毒副生成物生成能(DBP Formation Potential:DBP-FP)を事前に評価することで、消毒副生成物の濃度が水質基準を満たすよう水処理が従来行われている。
【0006】
DBP-FPの測定方法は、日本水道協会によって定められている。しかし、その測定方法では測定サンプルの調製から最終的な評価結果を得るまでに1~2週間ほど要する。このように、残留する消毒副生成物の濃度を水処理中にリアルタイムでは監視できないという問題がある。
加えて、不純物の積算吸着量と吸着可能量を指標として利用する特許文献1の手法では、消毒副生成物の濃度が水質基準を超える恐れがないにもかかわらず、使用可能な活性炭等の有機物除去手段を交換してしまうこともあり得る。そのため、ランニングコストを充分に低減できていたとは言い難い。
【0007】
本発明の目的は、酸化剤による消毒後に残留する消毒副生成物の濃度が水質基準値を超えないようにリアルタイムで監視でき、ランニングコストも低減できる水処理方法および水処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、TOCと消毒副生成物生成能との相関を示す予測式をシミュレーションによって取得することで、有機物除去水のTOC値(X)とその消毒副生成物生成能(Y)の関係を定量化することに想到した。このようにTOC値(X)および消毒副生成物生成能(Y)の相関を定量化することで、ある時点でのTOCにおける有機物除去水からの消毒副生成物量を予測できる。よって、有機物除去水のTOC値(X)の経時的変化を監視することで、酸化剤による消毒後に残留する消毒副生成物の濃度をリアルタイムで監視できるようになる。
【0009】
本発明は、下記の態様を有する。
[1]有機物を含む被処理水W1から飲料水を製造するための水処理方法であって、
前記被処理水W1の有機物を有機物除去手段で除去することで有機物除去水W2を得る、有機物除去工程と、
前記有機物除去水W2と酸化剤とを混合する、酸化剤混合工程と、
前記有機物除去水W2のTOC値(X)と、前記有機物除去水W2による消毒副生成物生成能(Y)との相関を示す予測式に基づいて水処理条件を制御する制御工程と、
を備える、水処理方法。
[2]前記予測式は、有機物を含有する1以上のサンプル水からその有機物を前記有機物除去手段で除去することでTOCが互いに異なる複数の処理済サンプル水を得た後、前記複数の処理済サンプル水と前記酸化剤とをそれぞれ混合したときの消毒副生成物生成能に基づいて取得される、[1]に記載の水処理方法。
[3]前記予測式を取得するための下記のステップ(A1)、ステップ(A2)およびステップ(A3)をさらに備える、[2]に記載の水処理方法。
ステップ(A1):前記1以上のサンプル水からそれぞれ得られたN個の前記処理済サンプル水のTOC測定値:X1,X2,・・・,XNを取得すること。
ステップ(A2):N個の前記処理済サンプル水と前記酸化剤とをそれぞれ混合したときの消毒副生成物生成能:Y1,Y2,・・・,YNを取得すること。
ステップ(A3):前記TOC測定値:X1,X2,・・・,XNと前記消毒副生成物生成能:Y1,Y2,・・・,YNのN個のプロット:(X1,Y1),(X2,Y2),・・・,(XN,YN)に基づく回帰直線:Y=aX+bを前記予測式として取得すること。
前記Nは、2以上の整数であり、a,bは任意の実数である。
[4]前記ステップ(A3)において、最小二乗法を用いて前記回帰直線を決定する、[3]に記載の水処理方法。
[5]前記制御工程が、下記のステップ(B1)、ステップ(B2)およびステップ(B3)を有する、[1]~[4]のいずれかに記載の水処理方法。
ステップ(B1):前記有機物除去水W2のTOCの実測値Pを前記予測式に代入することで、監視対象の消毒副生成物生成能Qを算出すること。
ステップ(B2):前記消毒副生成物生成能Qと前記監視対象の消毒副生成物の管理閾値とを比較すること。
ステップ(B3):前記ステップ(B2)の比較結果に基づいて、前記監視対象の消毒副生成物の生成量が水質基準値を超える可能性を評価すること。
[6]前記制御工程が、下記のステップ(C1)をさらに有する、[5]に記載の水処理方法。
ステップ(C1):前記消毒副生成物生成能Qが前記管理閾値以上である場合、前記有機物除去手段を交換すること、前記有機物除去手段を洗浄すること、および前記有機物除去手段を再生することからなる群から選ばれる少なくとも1つを通知すること。
[7]前記制御工程が、下記のステップ(C2)をさらに有する、[5]または[6]に記載の水処理方法。
ステップ(C2):前記消毒副生成物生成能Qが前記管理閾値未満である場合、前記有機物除去手段の使用可能期間を算出すること。
[8]前記有機物除去手段が、活性炭である、[1]~[7]のいずれかに記載の水処理方法。
[9]前記酸化剤が、ハロゲン含有化合物である、[1]~[8]のいずれかに記載の水処理方法。
[10]消毒副生成物が、トリクロロ酢酸である、[1]~[9]のいずれかに記載の水処理方法。
【0010】
[11]有機物を含む被処理水W1から飲料水を製造するための水処理装置であって、
前記被処理水W1の有機物を有機物除去手段で除去することで有機物除去水W2を得る、有機物除去装置と、
前記有機物除去水W2のTOC値(X)の測定センサと、
前記有機物除去水W2と酸化剤とを混合するための酸化剤注入装置と、
前記有機物除去水W2のTOC値(X)と、前記有機物除去水W2による消毒副生成物生成能(Y)との相関を示す予測式に基づいて水処理条件を制御する制御装置と、
を備える、水処理装置。
[12]前記予測式は、有機物を含有する1以上のサンプル水からその有機物を前記有機物除去手段で除去することでTOCが互いに異なる複数の処理済サンプル水を得た後、前記複数の処理済サンプル水と前記酸化剤とをそれぞれ混合したときの消毒副生成物生成能に基づいて取得される、[11]に記載の水処理装置。
[13]前記予測式を取得するための下記の要素(α1)、要素(α2)および要素(α3)をさらに備える、[12]に記載の水処理装置。
要素(α1):前記1以上のサンプル水から得られた、N個の前記処理済サンプル水のTOC測定値:X1,X2,・・・,XNを取得するTOC取得手段。
要素(α2):N個の前記処理済サンプル水と前記酸化剤とをそれぞれ混合したときの消毒副生成物生成能:Y1,Y2,・・・,YNを取得する消毒副生成物能取得手段。
要素(α3):前記TOC測定値:X1,X2,・・・,XNと前記消毒副生成物生成能:Y1,Y2,・・・,YNのN個のプロット:(X1,Y1),(X2,Y2),・・・,(XN,YN)に基づく回帰直線:Y=aX+bを前記予測式として取得する予測式取得手段。
前記Nは、2以上の整数であり、a,bは任意の実数である。
[14]前記要素(α3)が、最小二乗法を用いて前記回帰直線を決定する、[13]に記載の水処理装置。
[15]前記制御装置が、下記の要素(β1)、要素(β2)および要素(β3)を有する、[11]~[14]のいずれかに記載の水処理装置。
要素(β1):前記有機物除去水W2のTOCの実測値Pを前記測定センサから受信し、前記実測値Pを前記予測式に代入することで、監視対象の消毒副生成物生成能Qを算出する第1の算出手段。
要素(β2):前記消毒副生成物生成能Qと、前記監視対象の消毒副生成物の管理閾値とを比較する比較手段。
要素(β3):前記要素(β2)による比較結果に基づいて、前記監視対象の消毒副生成物の生成量が水質基準値を超える可能性を評価する評価手段。
[16]前記制御装置が、下記の要素(γ1)をさらに有する、[15]に記載の水処理装置。
要素(γ1):前記消毒副生成物生成能Qが前記管理閾値以上である場合、前記有機物除去手段を交換すること、前記有機物除去手段を洗浄すること、および前記有機物除去手段を再生することからなる群から選ばれる少なくとも1つを通知する通知手段。
[17]前記制御装置が、下記の要素(γ2)をさらに有する、[15]または[16]に記載の水処理装置。
要素(γ2):前記消毒副生成物生成能Qが前記管理閾値未満である場合、前記有機物除去手段の使用可能期間を算出する第2の算出手段。
[18]前記有機物除去手段が、活性炭である、[11]~[17]のいずれかに記載の水処理装置。
[19]前記酸化剤が、ハロゲン含有化合物である、[11]~[18]のいずれかに記載の水処理装置。
[20]消毒副生成物が、トリクロロ酢酸である、[11]~[19]のいずれかに記載の水処理装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、酸化剤による消毒後に残留する消毒副生成物の濃度が水質基準値を超えないようにリアルタイムで監視でき、ランニングコストも低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】活性炭を用いた水処理装置の一例を示す模式図である。
【
図3】実施例において取得した、TOC(X)とトリクロロ酢酸の消毒副生成物生成能(Y)との相関を示す予測式を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
用語の意味は、以下の通りである。
「被処理水W1」とは、水処理における任意の処理が施される対象となる水である。
「有機物除去水W2」とは、有機物除去手段によって被処理水W1中の少なくとも一部の有機物の除去処理が施された後の水である。
「TOC」とは、全有機炭素を意味し、水中に存在する有機物の総量の指標である。全有機炭素は、溶存性有機体炭素(DOC)、粒子性有機炭素(POC)を包含する。
「消毒副生成物」とは、有機物を含む水を消毒のために酸化したときに副次的に生成する物質である。
「消毒副生成物生成能」とは、特定の条件下で水中の有機物を酸化剤で酸化したときに生成し得る消毒副生成物量の指標であり、その水による消毒副生成物の潜在的生成能力を意味する。
数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値および上限値として含むことを意味する。
【0014】
<被処理水W1>
被処理水W1は有機物を少なくとも含むものであれば、特に限定されない。例えば、地下水、井戸水、湖沼水、河川水、工場用水、下水、排水のような原水が挙げられる。被処理水W1は、これら原水になんらかの処理が施された水であってもよい。ただし、被処理水W1はこれらの例示に限定されない。
【0015】
被処理水W1は、有機物以外に、アンモニア性窒素、炭酸水素イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、塩化物イオン等の陰イオン;鉄イオン、マンガンイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン等の陽イオン;細菌等の不純物をさらに含むことがある。ただし、被処理水W1の成分はこれらに限定されない。
被処理水W1の有機物の主成分として、例えば、フミン酸、フルボ酸が挙げられる。ただし、被処理水W1は、これら例示した成分以外の有機物を含むことがある。
【0016】
被処理水W1のTOCは特に限定されないが、例えば、0.1~50mg/L、0.3~30mg/L、0.5~15mg/L、1.0~10mg/L等の範囲内であり得る。被処理水W1のTOCが前記数値範囲内の下限値以上であると、消毒副生成物量が相対的により多くなる傾向がある。そのため、消毒後に残留する消毒副生成物の濃度がその水質基準値を超えないように監視できる水処理方法および水処理装置を適用するメリットがさらに大きくなる。
【0017】
以下、いくつかの実施形態について適宜図面を参照しながら説明する。図面における寸法比は、説明の便宜上のものであり、実際のものとは異なる場合がある。
【0018】
<水処理方法>
本発明の水処理方法は、有機物を含む被処理水W1から飲料水を製造するための水処理方法である。以下、水処理方法の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0019】
(水処理フロー)
図1に示す水処理フローのように、好適な実施形態に係る水処理方法は、(i)被処理水W1の有機物を有機物除去手段で除去することで有機物除去水W2を得る、有機物除去工程と、(ii)該有機物除去水W2と酸化剤とを混合する、酸化剤混合工程とを少なくとも備える。
【0020】
有機物除去工程としては、例えば、下記のものが挙げられる。
・被処理水W1の有機物を活性炭で除去することで、活性炭処理水W21を得る活性炭処理工程。
・被処理水W1の有機物を分離膜で除去することで、膜ろ過処理水W22を得る膜ろ過処理工程。分離膜としては、有機物を除去できれば特に限定されないが、例えば、逆浸透膜、ナノろ過膜、限外ろ過膜が挙げられる。
・凝集剤を用いて被処理水W1の有機物を凝集沈殿で除去することで、凝集処理水W23を得る凝集処理工程。凝集剤としては、有機物を除去できれば特に限定されないが、例えば、ポリ塩化アルミニウム、硫酸バンドのような無機凝集剤、高分子凝集剤が挙げられる。また、凝集剤で凝集沈殿させたものを砂ろ過や分離膜で除去してもよい。
・被処理水W1の有機物をイオン交換樹脂で除去することで、イオン交換処理水W24を得るイオン交換処理工程。イオン交換樹脂としては、有機物を除去できれば特に限定されないが、例えば、陰イオン交換樹脂が挙げられる。
【0021】
典型的な活性炭処理工程においては、活性炭塔を有機物除去手段として使用する。被処理水W1の有機物を活性炭に吸着させることで、活性炭処理水W21が得られる。活性炭の詳細については後述の<水処理装置>の項で説明する。
【0022】
典型的な膜ろ過処理工程においては、分離膜を有機物除去手段として使用する。被処理水W1を分離膜に通水することで、そのろ過水として膜ろ過処理水W22が得られる。分離膜の詳細については後述の<水処理装置>の項で説明する。
【0023】
典型的な凝集処理工程においては、凝集剤を有機物除去手段として使用する。被処理水W1に凝集剤を添加した後の凝集物を分離することで、そのろ過水として凝集処理水W23が得られる。凝集剤の詳細については後述の<水処理装置>の項で説明する。
【0024】
典型的なイオン交換処理工程においては、イオン交換樹脂を有機物除去手段として使用する。被処理水W1の有機物をイオン交換樹脂に吸着させることで、イオン交換処理水W24が得られる。イオン交換樹脂の詳細については後述の<水処理装置>の項で説明する。
【0025】
有機物除去工程は1種を単独で行ってもよく、2種以上の有機物除去工程を組み合わせて行ってもよい。複数の有機物除去工程を行う場合、その組み合わせおよび順序は特に限定されない。
【0026】
被処理水W1は、1種または2種以上の有機物除去工程において有機物除去手段によって処理された後に有機物除去水W2となる。有機物除去水W2は酸化剤混合工程において酸化剤によって消毒された後、飲料水化のための後段処理が必要に応じて実施されることで飲料水として利用可能となる。
【0027】
酸化剤混合工程において、消毒のための酸化剤は特に限定されない。飲料水の消毒に適用可能な酸化剤を特に制限なく使用できる。飲料水のための消毒とは、水中の微生物を死滅または不活化させることを言う。好適な酸化剤としては、例えば、オゾン、ハロゲン含有化合物が挙げられる。ハロゲン含有化合物としては、例えば、塩素、次亜塩素酸、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウムのような塩素系化合物、ブロモクロロジメチルヒダントイン(BCDMH)、次亜臭素酸のような臭素系化合物が挙げられる。
【0028】
後段処理が酸化剤によって消毒された後の有機物除去水W2の水質を考慮して必要に応じて実施されることがある。後段処理としては、既に実施した処理と異なる処理でもよく、既に実施した処理を繰り返し実施してもよい。
後段処理は1種でもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
(制御工程)
好適な実施形態に係る水処理方法は、有機物除去工程および酸化剤混合工程に加えて、水処理条件を制御するための制御工程を備える。典型的な制御工程では、有機物除去工程における水処理条件を制御するが、必ずしもこれに限定されない。制御工程は、
図1に示した有機物除去工程および酸化剤混合工程を含む水処理フローと並行して実施してもよく、該水処理フローを一時的に中断してから実施してもよい。
【0030】
制御工程では、有機物除去水W2のTOC値(X)と、有機物除去水W2による消毒副生成物生成能(Y)との相関を示す予測式に基づいて水処理条件を制御する。
TOC値(X)は、有機物除去水W2の全有機炭素であり、経時的に変化する変数である。被処理水W1を有機物除去手段で処理している間、有機物の積算処理量の増加に伴い有機物がリークしやすくなる。そのため、有機物除去水W2のTOCは少しずつ増加し始める。
消毒副生成物生成能(Y)は、有機物がリークした有機物除去水W2を酸化剤と混合したときに生成し得る消毒副生成物の生成量を推測するための指標である。
【0031】
一般的な消毒副生成物生成能は、日本水道協会の書籍「上水試験方法(2011年版)」のIV.有機物編の126頁に記載の方法に準拠して測定される。具体的には、pH7.0、温度20℃、反応時間24時間の条件下で24時間反応後の遊離残留塩素濃度が1~2mg/Lとなるように、有機物含有水に過剰量の次亜塩素酸ナトリウムを添加したときに生成する消毒副生成物量である。
【0032】
対して本実施形態における消毒副生成物生成能(Y)は、pH7.0、温度20℃、反応時間24時間の条件下で24時間反応後の遊離残留塩素濃度が1~2mg/Lとなるように、有機物除去水W2に過剰量の酸化剤を添加したときに生成する消毒副生成物量である。ここで、消毒副生成物生成能(Y)の測定のために使用される過剰量の酸化剤は、水処理フローの酸化剤混合工程で使用する酸化剤と同じ酸化剤であることが望ましい。典型的には次亜塩素酸ナトリウムが使用される。
【0033】
快適水質項目の目標値において、残留塩素の水質基準値は1.0mg/L以下と定められている。飲料水化のための一般的な水処理においては、残留塩素の水質基準値が1.0mg/L以下となるように、より少量の酸化剤が使用されるのが通例である。対して、好適な実施形態においては遊離残留塩素濃度が1~2mg/Lとなるように、有機物除去水W2に過剰量の酸化剤を添加することで、消毒副生成物生成能(Y)を求める。そのため、消毒副生成物生成能(Y)は、実際の水処理における消毒副生成物量より大きな値となるはずである。
よって、消毒副生成物生成能(Y)は、消毒後に残留する消毒副生成物の濃度がその水質基準値を超えないように監視する上で有用であり、かつ信頼できる指標であると考えられる。
【0034】
有機物を含む被処理水W1を有機物除去手段に通水する間、有機物の積算処理量が増えれば増えるほど、有機物除去水W2のTOC値(X)は徐々に増加する。有機物除去水W2の有機物量が多くなるほど、消毒のために有機物除去水W2と酸化剤とを混合した後に生成する消毒副生成物量は多くなる。
よって、消毒副生成物生成能(Y)は、TOC値(X)と正の相関関係を有する。
【0035】
典型的な制御工程では、このTOC値(X)と消毒副生成物生成能(Y)の正の相関関係を記述した予測式を利用する。消毒副生成物生成能(Y)は、有機物除去水W2による消毒副生成物の潜在的生成能力を示す指標であるから、その値が水質基準を超えない間は、実際に飲料水に残留する消毒副生成物の濃度も水質基準を超えないと考えられる。
【0036】
消毒副生成物としては、例えば、クロロホルム、ジブロモクロロメタン、ブロモジクロロメタン、ブロモホルム、総トリハロメタン、クロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸、ホルムアルデヒド、臭素酸、塩素酸、シアン化物イオンおよび塩化シアンが挙げられる。ただし、消毒副生成物はこれらの例示に限定されない。
【0037】
なかでも、トリクロロ酢酸の水質基準値は0.03mg/Lであり、非常に低濃度であるため、その生成量は水質基準値を超過しやすい。トリクロロ酢酸を監視対象とすることは、簡便性および信頼性が向上する点で有用である。
【0038】
(予測式の取得)
好適な実施形態に係る水処理方法において、制御工程で利用する予測式は、有機物を含有する1以上のサンプル水を用いて予め取得したものである。1以上のサンプル水は、その採水地が被処理水W1と同じであることが望ましいが、必ずしも同じ採水地に限定されず、被処理水W1と異なる採水地であっても構わない。
【0039】
以下、予測式の取得の好適なプロセスの一例について説明する。
まず、水処理フローの有機物除去工程で使用する有機物除去手段と同じ有機物除去手段に1以上のサンプル水を通水してサンプル水の有機物を除去することで、TOCが互いに異なる複数の処理済サンプル水を得る。
【0040】
例えば、活性炭処理工程の場合、水処理フローで使用する活性炭と同じ活性炭に1以上のサンプル水の不純物を吸着させることで、TOCが互いに異なる複数の活性炭処理済サンプル水を得ることができる。
ここで、「同じ活性炭」とは、その主成分、すなわち、30質量%以上の原料成分が同じであることを意味する。50質量%以上の原料成分が同じであることが好ましく、70質量%以上の原料成分が同じであることがより好ましく、90質量%以上の原料成分が同じであることがさらに好ましい。
【0041】
原料成分は、典型的には、やし殻、木質、石炭であるが、これらに限定されるものではない。加えて、活性炭の形状も同じであることが好ましい。活性炭の形状は、典型的には、粉末、破砕、シート状、フィルター状、繊維であるがこれらに限定されるものではない。さらに、活性炭の粒度も同じであることがより好ましい。粉末または破砕状の活性炭の場合、「粒度が同じである」とは、同じメッシュサイズを有する金網でろ過した場合、活性炭の通過率の差が10%以内であることを意味する。
【0042】
処理済サンプル水の調製のために使用するサンプル水の種類は1種でも複数種でもよい。例えば、1つのサンプル水を用いる場合、処理条件をそれぞれ変更して複数の条件を設定したうえで、有機物除去手段で処理すると、TOCが互いに異なる複数の処理済サンプル水がそれぞれ得られる。例えば、活性炭処理工程の場合、活性炭への通水時間を変更して複数設定できるし、凝集剤処理工程の場合、凝集剤の添加量を変更して複数設定できるように、当業者に知られた手法によって、TOCが互いに異なる複数の処理済サンプル水を得ることができる。
【0043】
その後、該複数の処理済サンプル水と酸化剤とをそれぞれ混合したときの消毒副生成物生成能をそれぞれ測定する。ここで、消毒副生成物生成能の測定のために使用される過剰量の酸化剤は、水処理フローの酸化剤混合工程で使用する酸化剤と同じ酸化剤であることが望ましい。典型的には次亜塩素酸ナトリウムが使用される。
各消毒副生成物量に対応するサンプルのTOCがあるため、これら消毒副生成物量に基づいて、TOC値(X)と消毒副生成物生成能(Y)との相関を示す予測式が取得される。
【0044】
好適な実施形態に係る水処理方法は、TOC値(X)と消毒副生成物生成能(Y)との相関を示す予測式を取得するための下記のステップ(A1)、ステップ(A2)およびステップ(A3)をさらに備える。
ステップ(A1):有機物を含有する1以上のサンプル水からそれぞれ得られた、N個の処理済サンプル水のTOC測定値:X1,X2,・・・,XNを取得すること。
ステップ(A2):N個の処理済サンプル水と酸化剤とをそれぞれ混合したときの消毒副生成物生成能:Y1,Y2,・・・,YNを取得すること。
ステップ(A3):TOC測定値:X1,X2,・・・,XNと消毒副生成物生成能:Y1,Y2,・・・,YNのN個のプロット:(X1,Y1),(X2,Y2),・・・,(XN,YN)に基づく回帰直線:Y=aX+bを予測式として取得すること。
ここで、Nは、2以上の整数であり、a,bは任意の実数である。
【0045】
ステップ(A1)において、N個の処理済サンプル水の調製のために使用するサンプル水の種類は、1種でも複数種でもよい。例えば、1つのサンプル水を用いる場合、通水時間等の処理条件をそれぞれ変更してN個の条件を設定したうえで、有機物除去手段で処理することで、N個の処理済サンプル水がそれぞれ得られる。
複数(M個)のサンプル水を用いる場合、処理条件を適宜変更して設定したうえで、各サンプル水を有機物除去手段で処理することで、N個の処理済サンプル水がそれぞれ得られる。ここで、Mは、2以上の整数であり、かつ、M≦Nを満たす。
【0046】
ステップ(A1)、ステップ(A2)およびステップ(A3)によれば、TOC値(X)と消毒副生成物生成能(Y)との相関を定量的に示す予測式が得られる。ある時点におけるTOC値(X)の実測値を代入することで、そのTOCにおける消毒副生成物生成能が求められる。そのため、飲料水に残留する消毒副生成物量の評価に要する時間を飛躍的に短縮できる。
ステップ(A3)においては、最小二乗法を用いて回帰直線を決定することが好ましいが、必ずしもこれに限定されない。
【0047】
(水処理条件の制御)
以下、水処理条件の制御例についていくつか説明する。
典型的な制御工程は、下記のステップ(B1)、ステップ(B2)およびステップ(B3)を有する。
ステップ(B1):有機物除去水W2のTOCの実測値Pを予測式に代入することで、監視対象の消毒副生成物生成能Qを算出すること。
ステップ(B2):該消毒副生成物生成能Qと、監視対象の消毒副生成物の管理閾値とを比較すること。
ステップ(B3):ステップ(B2)の比較結果に基づいて、監視対象の消毒副生成物の生成量が水質基準値を超える可能性を評価すること。
【0048】
ステップ(B1)の実測値Pは、ある時点での有機物除去水W2のTOCである。この実測値Pを予測式:Y=aX+bのXに代入することで、実測値Pにおける消毒副生成物生成能QをQ=aP+bと算出できる。算出した消毒副生成物生成能Qと、監視対象の消毒副生成物の管理閾値とを比較することで、消毒副生成物生成能Qと管理閾値の大小関係がステップ(B2)で判明する。
【0049】
管理閾値は、監視対象の消毒副生成物の水質基準値よりも小さな値として管理者やユーザーによって任意に設定されるべき値である。例えば、管理閾値は監視対象の消毒副生成物の水質基準値の60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%等の値であり得る。
監視対象の消毒副生成物は1種でもよく、2種以上でもよい。監視対象の消毒副生成物は、管理者やユーザーによって任意に選択される。いくつかの選択肢のなかでもトリクロロ酢酸を監視対象とすることは、簡便性および信頼性が向上する点で合理的である。
【0050】
ステップ(B3)において、ステップ(B2)の比較結果に基づいて、監視対象の消毒副生成物の生成量が水質基準値を超える可能性を評価する。例えば、監視対象の消毒副生成物生成能Qがその水質基準値および管理閾値を大幅に下回るようであれば、その時点で得られる飲料水に残留する消毒副生成物量も水質基準値を下回ると考えられる。この場合、活性炭にはまだ十分に使用期間が残されていると考えられる。
【0051】
ステップ(B3)において、監視対象の消毒副生成物生成能Qがその管理閾値以上である場合、飲料水に残留する消毒副生成物量も水質基準値を超える可能性が高くなりつつある。この場合、制御工程は下記のステップ(C1)をさらに有し得る。
ステップ(C1):消毒副生成物生成能Qが管理閾値以上である場合、有機物除去手段を交換すること、有機物除去手段を洗浄すること、および有機物除去手段を再生することからなる群から選ばれる少なくとも1つを通知すること。
【0052】
ステップ(C1)によれば、すみやかに管理者やユーザーに警告できる。有機物除去手段の交換、洗浄、再生の具体的態様は何ら限定されない。例えば、有機物除去手段がイオン交換樹脂のように再生可能である場合、当業者にとって知られた手法によってイオン交換樹脂を再生すればよい。
【0053】
ステップ(B3)において、監視対象の消毒副生成物生成能Qがその管理閾値未満である場合、飲料水に残留する消毒副生成物量が水質基準値を超える可能性は低い。この場合、制御工程はステップ(C2)、すなわち、有機物除去手段の使用可能期間を算出することをさらに有し得る。残された使用可能期間を予測できれば、有機物除去手段の交換、洗浄、再生の少なくともいずれかを、消毒副生成物量が水質基準値を超える前に確実に実行できる。
【0054】
活性炭処理工程の場合、使用可能期間の算出法として、例えば、活性炭への通水時間(実績使用時間)と、有機物除去水W2のTOC値(X)との相関関係を取得する方法が挙げられる。通水時間とTOC値の相関関係が分かれば、消毒副生成物生成能の閾値(基準値)に基づき、使用可能期間を算出できる。活性炭が使用限界を超えるときを基準値の値から算出できるため、残りの使用可能期間を予測できる。
【0055】
<水処理装置>
以下、上述した水処理方法を用いた水処理を実行できる水処理装置の一例について説明する。以下の記載は好ましい実施形態を説明するための代表的な一例であり、本発明に係る水処理装置は以下に記載の例に限定されない。
【0056】
(水処理装置1)
図2に示す水処理装置1は、第1の酸化剤注入装置10と、砂ろ過塔12と、活性炭充填塔14と、膜ろ過装置16と、第2の酸化剤注入装置18と、処理水槽20と、図示略の測定センサと、図示略の制御装置とを備えている。水処理装置1は、井戸50の有機物を含む被処理水W1から飲料水を製造するための水処理装置である。
【0057】
井戸50の地下水源には、その地下水を汲み上げるための図示略の揚水手段が配置され、該揚水手段が第1の送水管30の第1の端部と連結されている。揚水手段は、地下水を地上に汲み上げることができるものであればよい。例えば、汲み上げポンプを有する揚水装置が挙げられる。
【0058】
第1の酸化剤注入装置10は、井戸50と砂ろ過塔12とを連結する第1の送水管30の途中に設けられている。第1の酸化剤注入装置10は、井戸50から汲み上げた地下水(被処理水W1)に酸化剤を注入できるものであれば特に限定されない。
【0059】
第1の送水管30の第2の端部は、砂ろ過塔12と連結されている。砂ろ過塔12は、特に限定されない。公知の水処理装置に用いられる砂ろ過塔が制限なく使用され得る。砂ろ過塔12は1つを単独で使用してもよく、2つ以上を並列または直列に組み合わせて用いてもよい。
被処理水W1が鉄イオン、マンガンイオン等の金属イオンを含む場合、第1の酸化剤注入装置10によって酸化剤を混合することで、金属イオンを酸化して析出させることができる。これら析出物は砂ろ過塔12でろ過され、そのろ過水として砂ろ過処理水W25が得られる。
【0060】
砂ろ過塔12と活性炭充填塔14は、第2の送水管32で連結されている。
活性炭充填塔14は、砂ろ過処理水W25の不純物や有機物を活性炭に吸着させることで活性炭処理水W21を得ることができれば、特に限定されない。公知の水処理装置に用いられる活性炭充填塔が制限なく使用され得る。活性炭充填塔14に用いる活性炭も特に限定されない。公知の活性炭充填塔に用いられる活性炭が制限なく使用され得る。
活性炭充填塔14は1つを単独で使用してもよく、2つ以上を並列または直列に組み合わせて用いてもよい。
【0061】
活性炭としては、やし殻、木質、石炭を主要原料とするものが好ましい。飲料水製造においては、やし殻活性炭が好ましい。また、活性炭の形状は特に限定されないが、例えば、粉末、破砕、シート状、フィルター状、繊維が挙げられる。飲料水製造においては、破砕活性炭が好ましい。粉末または破砕状の場合、活性炭の粒度は特に限定されないが、例えば、2.36~4.75mm粒度(4/8メッシュ)、0.5~2.36mm粒度(8/32メッシュ)、または0.25~0.5mm粒度(32/60メッシュ)であり得る。
活性炭は1つを単独で使用してもよく、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0062】
活性炭充填塔14と膜ろ過装置16は、第3の送水管34で連結され、活性炭処理水W21が膜ろ過装置16に送られる。
膜ろ過装置16は特に限定されない。公知の水処理装置に用いられる膜ろ過装置が制限なく使用され得る。膜ろ過装置に用いる分離膜としては、例えば、限外濾過(UF)膜、精密濾過(MF)膜、ナノ(NF)膜、逆浸透(RO)膜が挙げられる。
膜ろ過装置16は1つを単独で使用してもよく、2つ以上を並列または直列に組み合わせて用いてもよい。また、膜ろ過装置16は1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0063】
第2の酸化剤注入装置18は、膜ろ過装置16と処理水槽20とを連結する第4の送水管36の途中に設けられている。第2の酸化剤注入装置18は、膜ろ過装置16から送られる膜ろ過処理水W22に酸化剤を注入できるものであれば特に限定されない。第2の酸化剤注入装置18は、有機物除去水W2と消毒のための酸化剤とを混合するための酸化剤注入装置の一例であって、本発明はこの形態例に限定されない。
【0064】
第2の酸化剤注入装置18によって注入される酸化剤の好適例として、ハロゲン含有化合物が挙げられる。ハロゲン含有化合物としては、例えば、塩素、次亜塩素酸、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウムのような塩素系化合物、ブロモクロロジメチルヒダントイン(BCDMH)、次亜臭素酸のような臭素系化合物が挙げられる。
【0065】
処理水槽20は、処理水を貯留できる水槽であればよく、特に限定されない。処理水槽20は、第5の送水管38を介して図示略の受水槽と連結されている。
【0066】
図示略の測定センサは、砂ろ過処理水W25、活性炭処理水W21、膜ろ過処理水W22のような有機物除去水W2のTOCを測定できればよく、その設置場所も含めて特に限定されない。図示略の測定センサは、TOC以外の水質値を測定可能であってもよい。図示略の測定センサは、図示略の制御装置と通信可能に接続されている。
【0067】
図示略の制御装置は、有機物除去水W2のTOC値(X)と、有機物除去水W2による消毒副生成物生成能(Y)との相関を示す予測式に基づいて水処理条件を制御する。
制御装置は、図示略の測定センサと通信可能に接続されているため、測定センサから受信したTOC値(X)を監視できる。
【0068】
水処理装置1において、水質の監視に用いる有機物除去水W2は、砂ろ過処理水W25、活性炭処理水W21および膜ろ過処理水W22からなる群から選ばれる少なくとも1種以上である。砂ろ過処理水W25、活性炭処理水W21および膜ろ過処理水W22の各TOC値(X)を監視してもよいが、水処理装置1においては、最後段の膜ろ過処理水W22のTOC値(X)を測定することが簡便性および信頼性が向上する点で合理的である。
【0069】
水処理装置1においても、<水処理方法>の項で説明した内容と同じ理由から、トリクロロ酢酸の生成量を監視する重要度は、他の消毒副生成物の場合より高い。よって、消毒副生成物としてトリクロロ酢酸の濃度がその水質基準値を超えないように監視することは、簡便性および信頼性が向上する点で合理的である。
【0070】
制御装置は、典型的にはメモリおよび中央演算装置(CPU)によって構成されるが、専用のハードウエアまたはソフトウエアによってその機能を実現させるものであってもよい。CPUの場合、制御装置の機能を実現するためのプログラムをサーバーからメモリにロードして実行することによってその機能を実現させるものであってもよい。
【0071】
制御装置は、インターフェイス部(図示略)、記憶部(図示略)、演算部(図示略)、判断部(図示略)、表示部(図示略)、制御部(図示略)等を備える。
インターフェイス部は、記憶部、演算部、判断部および表示部と、制御部との間を接続するものである。制御部は、記憶部に保存された情報を参照することで、演算部による演算処理や判断部による評価処理を実行する。演算部による演算結果や判断部による評価結果は、表示部に示される。
【0072】
記憶部に記憶される運転条件として、例えば、予め取得した予測式:Y=aX+b、積算通水時間、各有機物除去水W2の温度およびpH、各酸化剤注入装置における酸化剤の使用量、監視対象の消毒副生成物、管理閾値、水質基準値が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0073】
図示略の制御装置には、周辺機器として、入力装置、表示装置等が接続されていてもよい。入力装置としては、例えば、ディスプレイタッチパネル、スイッチパネル、キーボード等の入力デバイスが挙げられる。表示装置としては、例えば、液晶表示装置、CRT等の表示デバイスが挙げられる。
【0074】
図示略の制御装置の設置場所は、水処理装置1の水処理条件を電気信号の送受信によって制御できれば特に限定されない。該制御装置は水処理装置1の近隣にオンサイトで設置してもよく、遠隔の地に設置してもよい。
【0075】
(水処理装置1による水処理フロー)
水処理装置1においては、図示略の揚水手段の作用によって地下水が砂ろ過塔12に送られる。第1の送水管30を流れる被処理水W1(地下水)には第1の酸化剤注入装置10によって酸化剤が注入される。その後、一例において、地下水中の二価鉄が三価鉄に酸化され、水酸化鉄(III)の凝集物が生成する。水酸化鉄(III)の凝集物を含む被処理水W1は、第1の送水管30を通じて砂ろ過塔12へと送られる。砂ろ過塔12によるろ過により、被処理水W1中の凝集物の少なくとも一部が除去される。
【0076】
続いて、砂ろ過処理後の砂ろ過処理水W25は第2の送水管32を通じて活性炭充填塔14に送られ、そこで被処理水W1中の微生物等の不純物が活性炭に吸着される。その後、活性炭処理水W21は活性炭充填塔14から第3の送水管34を通じて膜ろ過装置16に送られ、活性炭処理水W21の残りの凝集物や微生物が膜ろ過装置16によるろ過により除去される。
【0077】
続いて、第4の送水管36を流れる膜ろ過処理水W22には、第2の酸化剤注入装置18によって酸化剤が注入される。このときの酸化反応によって、膜ろ過処理水W22は消毒され、有機物が膜ろ過処理水W22にリークしている場合には、消毒副生成物が生成する。その後、処理水槽20に一時的に貯留された処理水は、第5の送水管38から図示略の受水槽に送られ、飲料水として利用される。
【0078】
図示略の制御装置は、図示略の測定センサから受信したTOC値(X)を監視のために参照する。該制御装置は、飲料水に残留する消毒副生成物量が水質基準値未満となるように、有機物除去水W2のTOC値(X)を監視することで有機物除去水W2による消毒副生成物生成能(Y)を評価する。
【0079】
以下、水処理装置1における水処理条件の制御について説明する。以下の説明において、TOC値(X)、消毒副生成物生成能(Y)、管理閾値の詳細は、<水処理方法>の項で説明した内容と同じである。
【0080】
(水処理装置1における予測式)
TOC値(X)と消毒副生成物生成能(Y)との相関を示す予測式は、<水処理方法>の項で説明した通り、1以上のサンプル水を用いて予め取得される。典型例において、該予測式として予め取得したものが制御装置の記憶部に入力または保存されるが、この限りではない。他の例に係る水処理装置は、該予測式を取得するための下記の要素(α1)、要素(α2)および要素(α3)をさらに備えてもよい。
【0081】
要素(α1):有機物を含有する1以上のサンプル水からそれぞれ得られた、N個の処理済サンプル水のTOC測定値:X1,X2,・・・,XNを取得するTOC取得手段。
要素(α2):N個の処理済サンプル水と酸化剤とをそれぞれ混合したときの消毒副生成物生成能:Y1,Y2,・・・,YNを取得する消毒副生成物能取得手段。
要素(α3):TOC測定値:X1,X2,・・・,XNと消毒副生成物生成能:Y1,Y2,・・・,YNのN個のプロット:(X1,Y1),(X2,Y2),・・・,(XN,YN)に基づく回帰直線:Y=aX+bを予測式として取得する予測式取得手段。
Nは、2以上の整数であり、a,bは任意の実数である。要素(α3)、すなわち、予測式取得手段は最小二乗法を用いて回帰直線を決定することが好ましいが、必ずしもこれに限定されない。
【0082】
要素(α1)において、N個の処理済サンプル水の調製のために使用するサンプル水の種類は1種でも複数種でもよい。例えば、1つのサンプル水を用いる場合、通水時間等の処理条件をそれぞれ変更してN個の条件を設定したうえで、有機物除去手段で処理することで、N個の処理済サンプル水がそれぞれ得られる。
複数(M個)のサンプル水を用いる場合、処理条件を適宜変更して設定したうえで、各サンプル水を有機物除去手段で処理することで、N個の処理済サンプル水がそれぞれ得られる。ここで、Mは、2以上の整数であり、かつ、M≦Nを満たす。
【0083】
要素(α1)、要素(α2)および要素(α3)は、制御装置の一部の要素であってもよく、専用のハードウエアまたはソフトウエアによってその機能を実現させるものであってもよい。制御装置の場合、要素(α1)、要素(α2)および要素(α3)は、記憶部、演算部および制御部によってその機能が実現され得る。要素(α1)、要素(α2)および要素(α3)の各機能を実現するためのプログラムをサーバーから制御装置のメモリにロードして実行することによってその機能を実現させるものであってもよい。
【0084】
要素(α1)、すなわち、TOC取得手段は、予め構築したデータベースを参照することで処理済サンプル水のTOC測定値:X1,X2,・・・,XNを取得してもよい。同様に、要素(α2)、すなわち、消毒副生成物能取得手段も、予め構築したデータベースを参照することで消毒副生成物生成能:Y1,Y2,・・・,YNを取得してもよい。この場合、要素(α3)、すなわち、予測式取得手段は、データベースから取得したデータにしたがいN個のプロット:(X1,Y1),(X2,Y2),・・・,(XN,YN)を生成できる。よって、該N個のプロットに基づく回帰直線:Y=aX+bを取得できる。
データベースは、例えば、サンプル水を用いた実験結果を記録することで構築してもよいし、実際の水処理装置から取得したデータを収集することで構築してもよい。
【0085】
(水処理装置1における水処理条件の制御)
好適例に係る制御装置は、水処理条件の制御のための下記の要素(β1)、要素(β2)および要素(β3)を有する。
要素(β1):有機物除去水W2のTOCの実測値Pを図示略の測定センサから受信し、該実測値Pを予測式に代入することで、監視対象の消毒副生成物生成能Qを算出する第1の算出手段。
要素(β2):該消毒副生成物生成能Qと、監視対象の消毒副生成物の管理閾値とを比較する比較手段。
要素(β3):要素(β2)による比較結果に基づいて、監視対象の消毒副生成物の生成量が水質基準値を超える可能性を評価する評価手段。
【0086】
要素(β1)、すなわち、第1の算出手段は、記憶部、演算部および制御部によってその機能が実現され得る。制御部は、測定センサから受信した実測値Pを記憶部に保存できる。要素(β1)において演算部は、記憶部に保存された予測式:Y=aX+bと実測値Pを参照することで、監視対象の消毒副生成物生成能QをQ=aP+bと算出できる。
【0087】
要素(β2)、すなわち、比較手段は、記憶部、判断部および制御部によってその機能が実現され得る。要素(β2)において判断部は、要素(β1)において演算部が算出した消毒副生成物生成能Qと、記憶部に保存された監視対象の消毒副生成物の管理閾値とを比較できる。要素(β2)において判断部は、消毒副生成物生成能Qと管理閾値の大小関係を出力する。
【0088】
要素(β3)、すなわち、評価手段は、判断部および制御部によってその機能が実現され得る。要素(β3)において判断部および制御部は、要素(β2)による比較結果に基づいて、監視対象の消毒副生成物の生成量が水質基準値を超える可能性を評価する。評価結果は以下に説明する要素(γ1)、要素(γ2)によって利用される。
【0089】
好適例にかかる制御装置は要素(γ1)、すなわち、監視対象の消毒副生成物生成能Qが管理閾値以上である場合、有機物除去手段を交換すること、有機物除去手段を洗浄すること、および有機物除去手段を再生することからなる群から選ばれる少なくとも1つを通知する通知手段を有する。要素(γ1)は、表示部、判断部および制御部によってその機能が実現され得る。
【0090】
例えば、要素(β2)による比較結果から監視対象の消毒副生成物生成能Qが管理閾値を超えたことが明らかになったとき、判断部は、飲料水に残留する消毒副生成物量も水質基準値を超える可能性が高くなりつつあると評価する。
この場合、制御部は、判断部から評価結果を受信した後、警告メッセージを表示するよう表示部や表示装置に指示できる。該指示を受信した表示部や表示装置は、管理者やユーザーに警告メッセージを通知する。
【0091】
好適例にかかる制御装置は要素(γ2)、すなわち、監視対象の消毒副生成物生成能Qが管理閾値未満である場合、活性炭等の有機物除去手段の使用可能期間を算出する第2の算出手段を有する。要素(γ2)は、記憶部、演算部、表示部、判断部および制御部によってその機能が実現され得る。
【0092】
例えば、要素(β2)による比較結果から監視対象の消毒副生成物生成能Qが管理閾値未満であることが明らかになったとき、要素(γ2)において判断部は、飲料水に残留する消毒副生成物量が水質基準値を超える可能性は低いと評価する。
この場合制御部は、判断部から評価結果を受信した後、使用可能期間を算出するよう演算部に指示できる。該指示を受信した演算部は、予め取得されたTOC値(X)と活性炭等の有機物除去手段への通水時間(実績使用時間)の相関関係を示す相関式を参照する。予め取得された該相関式は記憶部に保存されていてもよい。
【0093】
活性炭の場合、要素(γ2)において演算部は、活性炭への通水時間(実績使用時間)と、有機物除去水W2のTOC値(X)との相関関係を参照する。要素(γ2)は、通水時間とTOC値の相関関係が分かれば、消毒副生成物生成能の閾値(基準値)に基づき、使用可能期間を算出できる。活性炭が使用限界を超えるときを基準値の値から算出できるため、残りの使用可能期間を予測できる。
【0094】
要素(γ2)において制御部は、演算部から使用可能期間を受信した後、使用可能期間や活性炭等の有機物除去手段のメンテナンス時期を表示するよう表示部や表示装置に指示できる。該指示を受信した表示部や表示装置は、管理者やユーザーに使用可能期間や活性炭等の有機物除去手段のメンテナンス時期を通知する。
【0095】
<作用機序>
以上説明した水処理においては、有機物除去水W2のTOC値(X)と有機物除去水W2による消毒副生成物生成能(Y)との相関を示す予測式に基づいて、水処理条件を制御する。TOC値(X)と消毒副生成物生成能(Y)の相関を示す予測式を予め取得しておくことで、TOC値(X)の実測値Pさえ取得できれば、監視対象の消毒副生成物生成能Qが即座に判明するようになる。そのため、飲料水に残留する消毒副生成物量の評価に要する時間を飛躍的に短縮できる。
【0096】
ここで、消毒副生成物生成能Qは、ある時点でのTOCの実測値Pにおける消毒副生成物の潜在的生成能力を示す指標であるから、消毒副生成物生成能Qが水質基準値を超えない間は、飲料水に残留する消毒副生成物の濃度も水質基準値を超えないと考えられる。このようにして、酸化剤による消毒後に残留する消毒副生成物の濃度をリアルタイムで監視できる。
本手法によれば、水処理中に有機物除去水W2のTOCが増加し始めても、管理閾値を超えるまでは有機物除去手段のメンテナンスを実行する必要性が低い。そのため、消毒副生成物生成能(Y)が監視対象の消毒副生成物の管理閾値を超えるまで、活性炭等の有機物除去手段を使用できるようになる。結果として、有機物除去手段の使用可能期間は、有機物除去水W2のTOCが増加し始めたときに交換する場合と比較して長くなる。
よって、酸化剤による消毒後に残留する消毒副生成物の濃度が水質基準値を超えないようにリアルタイムで監視しつつ、監視で検知した当該TOC濃度の条件下で生成する消毒副生成物量をシミュレーションできる。そのシミュレーション結果に基づき、水処理条件を制御することで活性炭、分離膜、砂ろ過、イオン交換樹脂等の消耗品の寿命を延ばすことができ、また、ランニングコストも低減できる。
【0097】
<他の実施形態>
以上、いくつかの具体的な実施形態を説明したが、各実施形態は例として提示されたものであり、本発明の範囲を限定するものではない。本明細書に記載された各実施形態は、発明の効果が奏される範囲内で、様々に変形することができ、かつ、実施可能な範囲内で、他の実施形態により説明された特徴と組み合わせることができる。
【0098】
例えば、水処理装置1は、被処理水W1と凝集剤を混合するための凝集剤注入装置をさらに有してもよい。凝集剤注入装置の設置位置は特に限定されない。凝集剤としては、例えば、無機凝集剤、高分子凝集剤が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、併用してもよい。
【0099】
無機凝集剤としては、例えば、塩化第二鉄、ポリ硫酸第二鉄等の鉄系無機凝集剤;硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム(PAC)等のアルミニウム系無機凝集剤;等が挙げられる。
【0100】
高分子凝集剤としては、例えば、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸ソーダ等を主成分とするアニオン系凝集剤;ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、アミジン等を主成分とするカチオン系凝集剤;ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸ソーダ、ポリアクリル酸エステル等を主成分とする両性凝集剤;アクリルアミド等を主成分とするノニオン系凝集剤;等が挙げられる。
ただし、凝集剤は以上の例示に限定されない。
【0101】
例えば、水処理装置1は、被処理水W1とイオン交換樹脂を接触させるためのイオン交換処理装置をさらに有してもよい。イオン交換処理装置の設置位置は特に限定されない。イオン交換樹脂も特に限定されない。一般的な陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂が制限なく利用され得る。
【実施例0102】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の記載に限定されない。
【0103】
<予測式の取得>
活性炭処理済サンプル水の調製のために、15か所の水源からそれぞれ採取した有機物を含有する地下水(原水)を用いて活性炭処理を行った。原水毎に、複数の活性炭処理時間をそれぞれ変更して設定し、TOCが互いに異なる複数の活性炭処理済サンプル水を取得した。本実施例においては、TOCとして、DOCを便宜上測定した。結果、表1のNo.1~No.45に示すように、DOCが互いに異なる活性炭処理済サンプル水を45種類用意した。水質計(SUEZ社製品「Sievers TOC計M9」)を用いることで、各活性炭処理済サンプル水のTOC測定値:X1,X2,・・・,XNを取得した(N=45)。
【0104】
各活性炭処理済サンプル水のpHを7.0に調整した後、反応後の遊離残留塩素濃度が1~2mg/Lとなるように過剰量の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を混合し、温度20℃で24時間反応させた。このとき各活性炭処理済サンプル水に生成したトリクロロ酢酸の生成能:Y1,Y2,・・・,YNを取得した(N=45)。各活性炭処理済サンプル水のトリクロロ酢酸量は、ガスクロマトグラフ質量分析計(株式会社島津製作所社製品「GCMS-QP2020」)を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0105】
続いて、TOC測定値:X1,X2,・・・,XNとトリクロロ酢酸の生成能:Y1,Y2,・・・,YNの45個のプロット:(X1,Y1),(X2,Y2),・・・,(XN,YN)に基づく回帰直線を、最小二乗法を用いて取得した(N=45)。得られた回帰直線は、Y=0.0215X-5.3601であり、そのR2値は0.87であった。
【0106】
【0107】
<実施例>
以下、監視対象の消毒副生成物がトリクロロ酢酸である場合の水処理を例に説明する。
DOCが2.7mg/Lである井戸水を被処理水W1として準備した。カラムに充填した活性炭(ダイネン株式会社製品「やし殻活性炭 PL-1S」)に被処理水W1を連続的に通水することで、活性炭処理水W21を得た。
【0108】
通水開始後9日が経過したとき、活性炭処理水W21のDOCを測定したところ、627μg/Lであり、これを実測値Pday9とした。通水開始後9日目におけるトリクロロ酢酸生成能Qday9は、Qday9=0.0215×627-5.3601≒8.1μg/Lと算出された。トリクロロ酢酸の水質基準値は0.03mg/Lであるため、Qday9は、この値は該水質基準を大幅に下回る。よって、通水開始後9日の活性炭処理水W21を消毒した後に残留するトリクロロ酢酸の濃度は、水質基準値を超えないと予想できる。通常、TOCが活性炭処理水W21にリークし始めたタイミングで活性炭交換を行うことが検討されるが、本手法によれば、現時点の水処理条件をそのまま継続できる。
【0109】
通水開始後36日が経過したとき、活性炭処理水W21のDOCを測定したところ、1690μg/Lであり、これを実測値Pday36とした。通水開始後36日目におけるトリクロロ酢酸生成能Qday36は、Qday36=0.0215×1690-5.3601≒31.0μg/Lと算出された。トリクロロ酢酸の水質基準値は0.03mg/Lであるため、Qday36は、この値は該水質基準を超え始めていたことがわかった。よって、通水開始後36日の活性炭処理水W21を消毒した後に残留するトリクロロ酢酸の濃度は、水質基準値を超えることが予想される。よって、活性炭の交換、洗浄等のメンテナンス指令を出すべきであると判断できる。