(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114203
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】希土類焼結磁石の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 41/02 20060101AFI20240816BHJP
【FI】
H01F41/02 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023019809
(22)【出願日】2023-02-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 信雄
(72)【発明者】
【氏名】下田 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】小貫 洋一
【テーマコード(参考)】
5E062
【Fターム(参考)】
5E062CD04
(57)【要約】
【課題】焼結時の焼結磁石の変形を抑制できる希土類焼結磁石の製造方法を提供する。
【解決手段】この方法は、希土類合金粉を含む複数の板状の成形体20、及び、金属表面35Sを有するカバー部材30を、台5上に配置する工程、及び、成形体及びカバー部材が配置された状態で成形体を焼結する工程、を備える。金属表面の金属は、Ti、W、Nb、Zr、及び、これらの内の任意の2以上の元素の合金からなる群から選択され、成形体は、各成形体の主面20M以外の面が下を向くように、かつ、各成形体の主面20Mが隣接する成形体の主面20Mと対向するように台上に配置されて前記成形体の列を形成する。成形体の列20Lとカバー部材30は、金属表面35Sが、成形体の列の両端の成形体における外側を向く主面20Mに対向するように配置され、両端の成形体における外側を向く主面と、前記金属表面との距離Dを0.2~4.0mmとする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類合金粉を含む複数の板状の成形体、及び、金属表面を有するカバー部材を、台上に配置する工程、及び、
前記成形体及び前記カバー部材が配置された状態で前記成形体を焼結する工程、を備え、
前記金属表面の金属は、Ti、W、Nb、Zr、または、これらの内の任意の2以上の元素の合金から選択され、
前記成形体は、各前記成形体の主面以外のいずれかの面が下を向くように、かつ、各前記成形体の主面が隣接する成形体の主面と対向するように前記台上に配置されて前記成形体の列を形成し、
前記成形体の列と前記カバー部材は、前記金属表面が、前記成形体の列の両端の成形体における外側を向く主面に対向するように配置され、
前記両端の成形体における外側を向く主面と、前記金属表面との距離を0.1~4.0mmとする、希土類焼結磁石の製造方法。
【請求項2】
前記カバー部材は、前記金属以外で形成されたコア部材と、前記コア部材の表面に設けられた前記金属の箔と、を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記カバー部材の前記金属表面が、高さが0.1~1.0mmの凸部を有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記金属がTiである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記カバー部材の前記金属表面の面積は、対向する前記成形体の主面の面積よりも大きく、前記両端の成形体の少なくとも一方の主面の全部が、前記カバー部材の前記金属表面と対向している、請求項1又は2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類焼結磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、複数の希土類合金粉の成形体をそれぞれの最も面積の大きい面(主面)以外の面を下にして立てた状態で隣同士が近接するように整列配置し、希土類合金粉の成形体を焼結して、板状の希土類焼結磁石を製造することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、整列配置された成形体の列のうちの両端において焼結された希土類焼結磁石に、反りなどの変形が生じる場合があった。したがって、焼結時のこのような希土類焼結磁石の変形を抑制し、歩留りを向上することが求められている。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、焼結前後での変形を抑制できる、希土類焼結磁石の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1] 希土類合金粉を含む複数の板状の成形体、及び、金属表面を有するカバー部材を、台上に配置する工程、及び、
前記成形体及び前記カバー部材が配置された状態で前記成形体を焼結する工程、を備え、
前記金属表面の金属は、Ti、W、Nb、Zr、または、これらの内の任意の2以上の元素の合金から選択され、
前記成形体は、各前記成形体の主面以外のいずれかの面が下を向くように、かつ、各前記成形体の主面が隣接する成形体の主面と対向するように前記台上に配置されて前記成形体の列を形成し、
前記成形体の列と前記カバー部材は、前記金属表面が、前記成形体の列の両端の成形体における外側を向く主面に対向するように配置され、
前記両端の成形体における外側を向く主面と、前記金属表面との距離を0.1~4.0mmとする、希土類焼結磁石の製造方法。
【0007】
[2]前記カバー部材は、前記金属以外で形成されたコア部材と、前記コア部材の表面に設けられた前記金属の箔と、を有する、[1]に記載の方法。
【0008】
[3]前記カバー部材の前記金属表面が、高さが0.1~1.0mmの凸部を有する、[1]又は[2]に記載の方法。
【0009】
[4] 前記金属がTiである、[1]から[3]のいずれか一項に記載の方法。
【0010】
[5] 前記カバー部材の前記金属表面の面積は、対向する前記成形体の主面の面積よりも大きく、前記両端の成形体の少なくとも一方の主面の全部が、前記カバー部材の前記金属表面と対向している、[1]~[4]のいずれか一項に記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、焼結時の焼結磁石の変形を抑制できる、希土類焼結磁石の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、製造方法の一例にかかる配置工程後の台上の様子を示す側面から見た断面図である。
【
図2】
図2は、製造方法の一例にかかる配置工程後の台上の様子を示す、
図1の上面図である。
【
図3】
図3は、製造方法の一例にかかる配置工程後の台上の他の様子を示す上面図である。
【
図4】
図4の(a)及び(b)は、それぞれ、成形体の主面と、金属表面との距離Dを説明する図である。
【
図5】
図5は、金属表面に凸部がある場合について説明する模式断面図である。
【
図6】
図6は、焼結磁石の総変形量の定義を示す図である。
【
図7】
図7は、実施例比較例における距離Dと焼結体の総変形量との関係を示す図である。
【
図8】
図8は、実施例比較例における距離Dと焼結体の総変形量のばらつきとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態に係る希土類焼結磁石の製造方法を説明する。ただし、説明される実施形態は、本発明の実施形態の一部であり、本発明が以下の実施形態に限定されるわけではない。別段の定義がない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本願の説明で使用される用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的としており、本発明を限定することを意図するものではない。また、図面は簡略化または誇張されている場合がある。
【0014】
(希土類焼結磁石の製造方法)
本発明の一側面に係る希土類焼結磁石の製造方法は、希土類合金粉を含む複数の板状の成形体及び金属表面を有するカバー部材を載置台上に配置する配置工程、及び、成形体及びカバー部材が配置された状態で成形体を焼結する焼結工程、を備える。
【0015】
(成形体及びカバー部材の配置工程)
(A工程)
成形体は、希土類合金粉を含む。希土類合金は、希土類元素Rを含む合金である。希土類元素Rは、La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb及びLuからなる群より選ばれる少なくとも一種であればよい。
希土類合金の例は、Sm-Co系合金、R-T-B系合金、Sm-Fe-N系合金である。Sm-Co系合金の例は、SmCo5やSm2Co17である。
R-T-B系合金は、希土類元素R、遷移金属元素T、及びホウ素Bを含有する。希土類合金は、希土類元素RとしてNd及び/又はPrを含有することが好適である。また、R-T-B系合金は、遷移金属元素TとしてCo及び/又はFeを含有することが好適である。R-T-B系合金は、Nd2Fe14Bで表される主相を含むNd-Fe-B系合金が好ましい。
希土類合金は、必要に応じて、Mn,Nb,Zr,Ti,W,Mo,V,Ga,Zn,Si,Cu,Al及びBi等の他の元素を更に含んでもよい。希土類合金粉とは、成形体内に含まれるものであって、成形体に対する焼結工程を行う前のものである。
【0016】
希土類合金粉の粒径(レーザ回折法による体積基準のD50)は例えば、1.0~10μmであってよい。
【0017】
希土類合金粉は以下のようにして製造することができる。まず、出発原料として最終的な希土類焼結磁石に含まれる各元素を含有する希土類合金を準備する。合金準備工程では、希土類焼結磁石の組成に対応する原料金属を、真空又はArガスなどの不活性ガスの不活性ガス雰囲気中で溶解した後、これを用いて鋳造を行うことによって希土類合金を得ることができる。また、主に主相を形成する第1合金と主に粒界相を形成する第2合金とを準備し、それらの合金を粉砕し混合する、いわゆる2合金法を用いてもよい。
【0018】
原料金属としては、例えば、希土類金属及び希土類合金、純鉄、フェロボロン、並びに、これらの合金及び化合物等を使用することができる。合金を鋳造する鋳造方法は、例えばインゴット鋳造法、ストリップキャスト法、ブックモールド法又は遠心鋳造法などである。
【0019】
次に、得られた希土類合金を粉砕する。粉砕工程では、希土類合金は粒径が数μm程度になるまで粉砕される。粉砕は、水素を吸蔵させて行ってもよいし、ジェットミルなどを用いて、多段階で行ってもよい。
【0020】
次に、希土類合金粉を目的の形状に成形して複数の板状の成形体を得る。成形工程では、希土類合金粉を金型内に充填して加圧することによって、任意の形状に成形することができる。このとき、磁場を印加しながら希土類合金粉を成形し、磁場印加によって希土類合金粉に所定の配向を生じさせ、結晶軸を配向させた状態で成形することが好適である。磁場中成形した成形体は、結晶軸が特定方向に配向するので、より高い磁気異方性を有することができる。
【0021】
成形体は、希土類合金粉以外に、オレイン酸アミド、ラウリン酸アミド、ステアリン酸亜鉛などの潤滑剤、あるいは、他の成分を含んでいてもよい。
【0022】
成形体の形状は板状である限りに特に限定はないが、例えば、最も面積が大きい面(主面)の各辺の大きさが30~100mm、厚みが3.0~30mmであってよい。
【0023】
A工程では、
図1に示すように、希土類合金粉を含む複数の板状の成形体20を、各成形体20の最も面積が大きい面(主面20M)以外のいずれかの面(例えば側面20S)が下を向くように、かつ、各成形体20の主面20Mが隣接する成形体20の主面20Mと対向するように台5の上面に載置して、成形体20の列20Lを形成する。本実施形態では、希土類合金粉を含む成形体20は、成形体の主面20M以外のいずれかの面を底面として、台5の上に載置される。成形体20の主面20Mを底面として台5の上に載置し、その上に複数の成形体をさらに積層した場合、最下部の成形体が台(焼結容器)5と反応して融着しやすい。なお、本明細書にいて成形体が「隣接する」とは、成形体が互いに接することを含む。
【0024】
成形体20間、すなわち、主面20M間の距離Eは特に限定されないが、例えば、0~10mmとすることができ、0~4.0mmとしてもよく、0.1~3.0mmとしてもよい。主面20M間の距離Eが小さい場合には、列20L中の成形体20の主面20Mと炉内に発生したCOとの反応を抑制しやすい。主面20M間に、下限が0.1mm以上の距離Eを設けることにより、焼結時等に成形体20から潤滑剤などの分解ガスが抜けやすく成形体の炭化を抑制しやすい。
図1及び
図2において、主面20M間の各距離Eが互いに等しい必要はなく、たとえば、距離Eにバラツキがあってもよい。
【0025】
図2の上面図に示すように、ある成形体20の列20Lと他の成形体20の列20Lとの間の距離F、すなわち、成形体20の側面のうちの水平方向に向いた側面20S1間の距離であり、上面から見て距離Eとは直交する方向の距離Fは、成形体の各列20L中における主面20M間の距離Eよりも大きくてよい。成形体20の側面20S1(側面20Sのうちの水平方向に向いた面)が炉内に発生したCOと反応しても、成形体20の変形は小さく、距離Fが大きいことによって、焼結時等に成形体20から潤滑剤などの分解ガスが抜けやすく成形体の炭化を抑制しやすい。距離Fは具体的には、2mm以上であってもよく、5mm以上であってもよい。距離Fの上限に制限はないが、生産効率の観点から20mm以下であってもよく、10mm以下であってもよい。
【0026】
図3の上面図に示すように、成形体20の列20L内において成形体20の主面間の距離Eに有意に差を付けることもできる。例えば、複数の成形体20を有するグループ20L1内における成形体2の主面間の距離E2と、互いに隣接するグループ20L1の最外の成形体の主面間の距離E1とを、互いに異ならせることができる。このような場合、E1>E2とすることができる。距離E1の範囲は0~10mmであってもよく、0.1~3.5mmであってもよい。距離E2の範囲は0~1mmであってもよく、0~0.2mmであってもよい。グループ20L1の成形体の個数に限定はないが、例えば、4枚、5枚などであることができる。
【0027】
図1の形態では、容器10、及び、ステンレス鋼の板15が、台5を構成している。具体的には、容器10は、底板10B及び側板10Sを有し、底板10Bの上に、ステンレス鋼の板15が配置されている。
【0028】
なお、台5について特段の限定はなく、例えば、ステンレス鋼の板15を有さず、成形体20が、容器10の底板10Bの上に直接載置されていてもよい。
【0029】
容器10はカーボン製であってもよく、ステンレス鋼製、Mo鋼製、純鉄製であってもよい。
【0030】
板15は、ステンレス鋼以外に、Mo鋼の板であってもよい。
【0031】
(B工程)
金属表面35Sを有するカバー部材30を、金属表面35Sが、成形体20の列20Lの両端の成形体の少なくとも一方の主面20Mに対向するように台5の上に配置する。
図1に示すように、金属表面35Sを有する一対のカバー部材30、30を、金属表面35Sが成形体20の列20Lの両端の成形体の両方の外側を向く主面20Mにそれぞれ対向するように配置してもよい。外側とは、他の成形体20の主面と対向しない側である。
【0032】
本実施形態では、カバー部材30は、コア部材32と、コア部材32の表面に設けられた金属箔35とを有し、金属箔35の表面の一部が金属表面35Sを形成している。ここで、金属表面35Sとは、成形体の主面20Mと対向する面を含む面である。金属箔35の厚さに制限はないが、例えば10μm~500μmであってよい。カバー部材30の大きさに制限はないが、例えば35mm×20mm×5mm~100mm×70mm×25mmであってよい。コア部材32の形状も特に限定されず、直方体形状、あるいは、足つきの直方体形状でもよい。
【0033】
金属表面35Sの金属は、Ti、W、Nb、Zr、または、これらの内の任意の2以上の元素の合金から選択される。この金属は、Tiであることが好適である。これらの金属は、成形体20の希土類合金(特に希土類元素)よりもCOとの反応性が高い。特にTiはCOとの反応性が高く、材料コストが低い。当該金属表面35Sは、これらの金属元素以外に、例えば、5質量%以下の不可避不純物を含有していてもよい。
【0034】
コア部材32の材質に限定はなく、たとえば、ステンレス鋼、Mo鋼、カーボンであってよい。
【0035】
上記実施形態では、カバー部材30は、コア部材32を有しているが、コア部材32を有さず、カバー部材30は、上記の金属表面35Sの金属から選択される金属のブロックの部材であってもよい。なお、金属箔を有するカバー部材と、ブロックのカバー部材とでは、コスト等の観点から金属箔を有するカバー部材が好ましい。カバー部材30の金属表面35Sは焼結工程を経るとCOなどと反応して炭化物となるから、これを再利用するためにはブロックのカバー部材の場合には研削等の表面処理により金属表面を再度露出させることが必要であり、製造コストが増加する。一方で金属箔を有するカバー部材は、コア部材32から金属箔を除去して新しい金属箔をかぶせることにより容易に再利用が可能であり、材料コストと製造コストが低い。
【0036】
カバー部材30を配置する工程において、両端の成形体20の主面20Mと、カバー部材30の金属表面35Sとの距離Dを0.1~4.0mmに設定する。距離Dは、3.5mm以下でもよく、3.0mm以下でもよく、2.5mm以下でもよい。距離Dは、0.2mm以上でも、0.6mm以上でもよい。
【0037】
ここで、
図4の(a)に示すように、両端の成形体20の主面20Mと、カバー部材30の金属表面35Sとの距離Dとは、成形体20の主面20Mとカバー部材30の金属表面35Sとの最長距離である。
【0038】
図4の(b)に示すように、成形体20の主面20Mとカバー部材30の金属表面35Sとが斜めに配置されている場合にも、距離Dは成形体20の主面20Mとカバー部材30の金属表面35Sとの最長距離である。
【0039】
なお、本願の他の実施形態においては、
図5に示すように、金属表面35Sは、成形体20の主面20Mに向かって突き出る凸部35SPを有していてもよい。凸部35SPの高さHは特に制限はないが、成形体20と金属表面35Sが面接触を抑制できればよく、たとえば、0.1~1.0mmとすることができる。このような凸部35SPを有することにより、希土類合金粉を含む成形体20と金属表面35Sとの意図しない面接触が抑制され、成形体20と金属箔35とが反応することによる変形を抑制することができる。凸部35SPは、金属表面に多数形成することができ、凸部同士の間隔は、3.0~70mmとすることができる。凸部35SPを有する場合においても、
図5に示すように、距離Dは成形体20の主面20Mとカバー部材30の金属表面35Sとの最長距離である。
【0040】
図1の実施形態では、カバー部材30はステンレス鋼の板15上に載置されているが、カバー部材30が載置される場所に限定はなく、例えば、カバー部材30が容器10の底面上に直接載置されてもよい。
【0041】
カバー部材30の金属表面35Sの面積は、当該金属表面35Sが対向する成形体20の主面20Mに対向する面積が成形体20の主面20Mの面積よりも大きく、両端の成形体の少なくとも一方の主面20Mの全部が、カバー部材30の金属表面35Sと対向していることが好ましい。これにより、成形体20の主面20Mの全体がCOによるガスアタックから保護され、より変形を抑制することができる。
【0042】
金属表面35Sと主面20Mとの距離Dと、A工程で説明した主面20M間の距離Eとの大小関係に制限はないが、たとえば、距離Eは距離Dよりも小さくてもよい。距離Eが距離Dより小さいことで、両端の成形体以外の成形体の変形を抑制しやすい。
【0043】
なお、本発明の一側面において、希土類合金を含有する成形体、金属箔、金属ブロック、など載置はロボットにより行われてもよく、人の手によって行われてもよい。
【0044】
なお、成形体及びカバー部材を配置する工程において、上記実施形態では、A工程で成形体を配置し、その後に、B工程でカバー部材を配置しているが、A工程とB工程の順番に特に限定はなく、B工程を行ってからA工程を行ってもよく、A工程とB工程とを同時に行ってもよい。いずれにせよ、成形体を焼結する前の段階で、成形体20が、各成形体20の主面20M以外の面が下を向くように、かつ、各成形体20の主面20Mが隣接する成形体20の主面20Mと対向するように台5上に配置されて成形体20の列20Lを形成し、かつ、成形体20の列20Lとカバー部材30が、金属表面35Sが、成形体20の列20Lの両端の成形体における外側を向く(隣接する成形体20と対向しない)主面20Mに対向するように配置されればよい。両端の成形体20における外側を向く主面と、金属表面との距離は0.1~4.0mmとする。
【0045】
(焼結工程)
つづいて、成形体20及びカバー部材30が上記のように配置された状態で成形体20を焼結する。焼結の雰囲気は、真空又は不活性ガス雰囲気中であってよい。焼結温度は、組成、粉砕方法、粒度と粒度分布の違い等、諸条件により調整する必要があるが、成形体20に対して、例えば、真空中又は不活性ガスの存在下、1000℃以上1200℃以下1時間以上10時間以下加熱する処理を行うことができる。これにより、希土類合金粉が焼結し、主相の体積比率が向上した希土類焼結磁石(焼結体)が得られる。成形体を焼成した後は、生産効率を向上させる観点から焼結体を急冷してもよい。
【0046】
得られた希土類焼結磁石を焼結時よりも低い温度で保持することなどによって、時効処理を行ってもよい。時効処理は、例えば、700℃以上900℃以下の温度で1時間から3時間、さらに500℃から700℃の温度で1時間から3時間加熱する2段階加熱や、600℃付近の温度で1時間から3時間加熱する1段階加熱等、時効処理を施す回数に応じて適宜処理条件を調整する。このような時効処理によって、希土類焼結磁石の磁気特性を向上させることができる。
【0047】
得られた磁石は永久磁石として利用できる。
【0048】
(作用効果)
焼結炉において、例えば、耐熱容器、断熱材、ヒータ、炉内の搬送用ロール等の材料として、耐熱性の高いカーボンが利用されることが多い。焼結炉の中は真空または不活性雰囲気とされるが、酸素分子が不可避の不純物として存在する。従って、酸素分子とカーボンとの反応により、炉内にCOが生成される。
【0049】
このCOは、希土類合金を含む成形体の主面と反応して容易に炭化物を形成し、当該主面の炭化物は焼結が困難で収縮しにくくなるため、焼結体に反りが生じる。
【0050】
本実施形態においては、成形体20の列20Lの両端の成形体の主面20Mに対向するように、特定の金属表面35Sを有するカバー部材30が配置され、さらに、両端の成形体の主面20Mと、金属表面35Sとの距離Dが0.2~4.0mmとされる。
【0051】
これにより、当該主面の近傍において、COと金属表面35Sとが選択的に反応し、COと成形体20の主面20Mとが反応することが抑制され、焼結前後での磁石の反りなどの変形が抑制される。
【0052】
金属表面35Sと成形体20の主面20Mとが接触すると、成形体と金属表面との反応が起こる恐れがある。金属表面35Sと成形体20の主面20Mとが近接しすぎたりする(0mm超0.2mm未満)と、搬送中等に振動などにより磁石またはカバー部材が移動してこれらが面接触してしまう場合がある。また、金属表面35Sと成形体20の主面20Mとが離れすぎると、成形体の主面20MとCOとの反応を抑制しにくくなる。
【実施例0053】
(実施例1)
既存の方法により希土類磁石成形体として24.0質量%Nd-6.6質量%Pr-66.75質量%Fe-1.0質量%Co-0.95質量%B-0.2質量%Al-0.1質量%Cu-0.2質量%Ga-0.2質量%Zrの組成を有するR-T-B系焼結磁石成形体を作製した。このR-T-B系焼結磁石成形体を
図1のように配置し、R-T-B系焼結磁石成形体の列の両端に厚さ100μmのTi箔で覆われたカーボンブロックを配置した。R-T-B系焼結磁石の大きさは65mm×40mm×6mmとし、Ti箔で覆われたカーボンブロックの大きさは70mm×45mm×15mmとした。その後、真空中1000℃、4時間の焼結を行い得たR-T-B系焼結磁石の変形を評価した。
【0054】
R-T-B系合金粉を含む成形体とTi箔との距離D、列の端のR-T-B系焼結磁石の焼結後の反り(総変形量)及びそのばらつきは表1の通りである。また、距離Dと総変形量及びそのばらつきの結果をそれぞれ、
図7,
図8に示す。この結果からR-T-B系焼結磁石成形体とTi箔との距離が0mmである場合には反応による変形が生じ、R-T-B系焼結磁石成形体とTi箔との距離が4.0mmを超えると変形が顕著になることがわかる。また、Ti箔を用いた場合、変形のばらつきが小さく、製造安定性が高かった。
【表1】
【0055】
(実施例2)
Ti箔で覆ったカーボンブロックの代わりにTiブロックを用いた点以外は実施例1と同様とした。Tiブロックの大きさは70mm×45mm×15mmとした。結果を表2に示す。
【0056】
Tiブロックの場合でも、R-T-B系焼結磁石成形体とTiブロックとの距離が0.2~3.5mmが好ましいことがわかる。また、Tiブロックを用いた場合、変形のばらつきが小さく、製造安定性が高い。
【表2】
【0057】
(実施例3)
Ti箔の代わりに厚さ100μmのNb箔を用いた点以外は実施例1と同様である。結果を表3に示す。Nb箔の場合でも、R-T-B系焼結磁石成形体とNb箔との距離が0.2~3.5mmが好ましいことがわかる。また、Nb箔を用いた場合、変形のばらつきが小さく、製造安定性が高い。
【表3】
【0058】
(実施例4)
Ti箔の代わりに厚さ100μmのZr箔を用いた点以外は実施例1と同様とした。結果を表4に示す。Zr箔の場合でも、R-T-B系焼結磁石成形体とZr箔との距離が0.2~3.5mmが好ましいことがわかる。また、Zr箔を用いた場合、変形のばらつきが小さく、製造安定性が高い。
【表4】
【0059】
(実施例5)
Ti箔に
図3のような高さ0.2~0.3mmの凸部を設けた点以外は実施例1と同様である。結果を表5に示す。この場合、R-T-B系焼結磁石とTi箔が面接触することなく点積極するので、R-T-B系焼結磁石成形体とTi箔との反応が抑制される。また、凸部を設けたTi箔を用いた場合、変形のばらつきが小さく、製造安定性が高い。
【表5】
【0060】
(比較例1)
Ti箔の代わりに厚さ100μmのステンレス鋼(SUS)箔を用いた点以外は実施例1と同様である。R-T-B系焼結磁石成形体とカバー部材のステンレス鋼箔表面との距離が0mmでのみ(つまり主面20Mがカバー部材と面接触している場合のみ)変形が抑制されている。ステンレス(SUS)箔を用いる場合、変形を抑制するためには炉内への搬送時にR-T-B系焼結磁石成形体とカバー部材のステンレス鋼箔表面との距離を0mmに維持する必要があるが、0mmに維持することは困難であり、製造安定性が低い。また、総変形量のばらつきも大きく、製造安定性が低いことがわかる。
【表6】
【0061】
(評価方法)
各条件につき5個の試料を作製し、それぞれの総変形量を測定し、各条件で算術平均した。
図6に示すように、総変形量とは、総厚-C中央である。ここで、総厚とは、
図6に示すように、磁石の凸側の主面を下に向けて平面上に載置したときの、当該平面から磁石の最高点までの距離である。C中央とは、当該載置状態における磁石の平面視中央(重心位置)の厚みである。各条件の5個の総変形量から標準偏差(σ)を算出した。各条件の総変形量が0.5mm未満の場合、ばらつきσ=0.055以下の場合を良好とした。