(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114214
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】点火コイル
(51)【国際特許分類】
H01F 38/12 20060101AFI20240816BHJP
【FI】
H01F38/12 A
H01F38/12 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023019841
(22)【出願日】2023-02-13
(71)【出願人】
【識別番号】000217491
【氏名又は名称】ダイヤゼブラ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉原 大貴
(72)【発明者】
【氏名】河口 栄二
(57)【要約】
【課題】充填体でのクラックの発生が防止された、点火コイルの提供。
【解決手段】この点火コイル2は、一次コイル20と、前記一次コイル20の外側に形成された二次コイル24と、環状の鉄芯ユニット32とを備える。前記鉄芯ユニット32は、前記一次コイル20を貫通する中央鉄芯26と、前記中央鉄芯26と接触する接触面52を有し前記中央鉄芯26の一方の端から延び前記二次コイル24の外側をまわる外周鉄芯28と、エラストマーからなるカバー30とを備える。前記接触面52が、前記鉄芯ユニット32の軸方向において前記中央鉄芯26よりも外側に突出した、露出部62を有している。前記カバー30は、前記露出部62を覆う突出部68を有している。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次コイルと、前記一次コイルの外側に形成された二次コイルと、環状の鉄芯ユニットとを備え、
前記鉄芯ユニットが、
前記一次コイルを貫通する中央鉄芯と、
前記中央鉄芯と接触する接触面を有し、前記中央鉄芯の一方の端から延び、前記二次コイルの外側をまわる外周鉄芯と、
エラストマーからなるカバーとを備え、
前記接触面が、前記鉄芯ユニットの軸方向において前記中央鉄芯よりも外側に突出した露出部を有しており、
前記カバーが、前記露出部を覆う突出部を有する、点火コイル。
【請求項2】
前記突出部の厚みが0.5mm以上である、請求項1に記載の点火コイル。
【請求項3】
前記鉄芯ユニットの軸方向の外側から見たとき、前記突出部の外側の輪郭が矩形状である、請求項1又は2に記載の点火コイル。
【請求項4】
前記接触面が、前記鉄芯ユニットの軸方向に延びる突条又は陥部を備えており、
前記中央鉄芯の前記接触面と接触する部分が、前記突条又は前記陥部と対応した形状の陥部又は突条を備えている、請求項1又は2に記載の点火コイル。
【請求項5】
前記接触面が、前記鉄芯ユニットの軸方向において前記中央鉄芯よりも一方の外側に突出した第一露出部と、もう一方の外側に突出した第二露出部とを有しており、
前記カバーが、前記第一露出部を覆う第一突出部と、前記第二露出部を覆う第二突出部とを有しており、
前記第一突出部及び前記第二突出部のうちの一方のみが、前記外周鉄芯の軸方向の外側の面をさらに覆っている、請求項1又は2に記載の点火コイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、内燃機関の点火コイルを開示する。
【背景技術】
【0002】
典型的な内燃機関の点火コイルは、ケースの内部に、一次コイル、一次コイルの外側に位置する二次コイル、一次コイルの中央を貫通する中央鉄芯、及び中央鉄芯の一方の端から二次コイルの外側をまわり中央鉄芯のもう一方の端に向けて延びる外周鉄芯が収容された構造を有している。ケース内の隙間は、熱硬化性樹脂からなる充填体により埋められている。
【0003】
点火コイルは、使用時には高温となり停止時には常温に戻る。この温度差による鉄芯の膨張及び収縮により、充填体にクラックが生じることがある。この充填体のクラックを防止した点火コイルの検討が、特開2013-239633公報で報告されている。この点火コイルでは、充填体と鉄芯との接触部分を減らすため、外周鉄芯の一部が、エラストマーよりなるカバーで覆われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
充填体でのクラックの発生を、さらに抑えた点火コイルが求められている。
【0006】
本発明者の意図するところは、充填体でのクラックの発生が防止された、点火コイルの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施形態に係る点火コイルは、一次コイルと、前記一次コイルの外側に形成された二次コイルと、環状の鉄芯ユニットとを備える。前記鉄芯ユニットは、前記一次コイルを貫通する中央鉄芯と、前記中央鉄芯と接触する接触面を有し前記中央鉄芯の一方の端から延び前記二次コイルの外側をまわる外周鉄芯と、エラストマーからなるカバーとを備える。前記接触面が、前記鉄芯ユニットの軸方向において前記中央鉄芯よりも外側に突出した、露出部を有している。前記カバーは、前記露出部を覆う突出部を有する。
【発明の効果】
【0008】
外周鉄芯の、中央鉄芯と接触する面(接触面)の周辺には、通常一次コイルのボビンが存在しており、このボビンによりクラックの抑制が図られている。しかし発明者らが充填体でのクラックの原因を解析した結果、接触面の、中央鉄芯よりも突出して外部に露出した部分(露出部)においては、ボビンでは十分にクラックを抑えられていないことが判明した。発明者らは、この部分が、充填体でのクラックの原因となっていることを見いだした。本点火コイルでは、エラストマーからなるカバーが、この露出部を覆う突出部を有する。この突出部は、露出部でのクラックの抑制に、効果的に寄与する。この点火コイルでは、充填体でのクラックの発生が防止されている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る点火コイルが示された断面図である。
【
図2】
図2は、
図1の点火コイルの一次ボビンが示された斜視図である。
【
図3】
図3は、
図1の点火コイルの鉄芯ユニットが示された斜視図である。
【
図5】
図5は、
図4の鉄芯ユニットの中央鉄芯及び外周鉄芯が示された、側面図である。
【
図6】
図6は、
図5の中央鉄芯及び外周鉄芯の一部が拡大された、
図3と異なる位置から見た斜視図である。
【
図7】
図7は、
図3の鉄芯ユニットの右側一部が拡大された、側面図である。
【
図8】
図8は、
図3の鉄芯ユニットの左側一部が拡大された、側面図である。
【
図9】
図9は、
図2の一次ボビン及び
図3の鉄芯ユニットが示された、背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態が詳細に説明される。
【0011】
図1は、一実施形態に係る点火コイル2が示された断面図である。
図1において、矢印Xはこの点火コイル2の前方を表す。この逆が後方である。矢印Zはこの点火コイル2の上方を表す。この逆が下方である。後述する
図3-6においても、矢印X及びZは、
図1と同じ方向を表す。この点火コイル2は、内燃機関用である。
図1に示されるように、この点火コイル2は、ボディ4、コネクタ部6、出力部8及びフランジ部10を備える。
【0012】
ボディ4は、点火コイル2の中央に位置する。ボディ4は、箱状を呈する。ボディ4は、ケース12、充填体14、イグナイタ16、一次ボビン18、一次コイル20、二次ボビン22、二次コイル24、中央鉄芯26、外周鉄芯28、カバー30及びキャップ31を備える。
【0013】
ケース12は、中身が空洞の箱状を呈する。ケース12は、充填体14、イグナイタ16、一次ボビン18、一次コイル20、二次ボビン22、二次コイル24、中央鉄芯26、外周鉄芯28及びカバー30を収容している。ケース12は、樹脂組成物からなる。ケース12の好ましい材質として、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)及びPET(ポリエチレンテレフタレート)が例示される。
【0014】
充填体14は、一次コイル20、二次コイル24等のボディ4の構成部材がケース12に収容されたとき、ケース12の内部に生じた隙間を埋める。この実施形態では、充填体14は熱硬化性樹脂からなる。高電圧が発生する二次コイル24を他の部材から絶縁するために、充填体14の材料として、絶縁性能に優れた熱硬化性樹脂が選択される。また、二次コイル24は発熱することから、熱伝導性に優れた熱硬化性樹脂が選択される。さらに、ケース12内の隙間の隅々まで樹脂で埋めるために、充填体14の材質として、粘度が低い熱硬化性樹脂が選択される。好ましい充填体14として、エポキシ樹脂が例示される。充填体14として、常温で硬化する樹脂が使用されてもよい。
【0015】
イグナイタ16は、ケース12の中に収容されている。イグナイタ16は、コネクタ部6と隣接している。イグナイタ16は、コネクタ部6からの信号に基づいて、一次コイル20に流れる電流の導通と遮断とを制御するスイッチである。
【0016】
図2は、
図1の点火コイル2の一次ボビン18が示された、斜視図である。一次ボビン18は、中部18aと前部18bと後部18cとを備える。中部18aは、前後方向に延びる筒状を呈する。中部18aは、前後方向に貫通する孔19を備える。後述するとおり、この孔19に中央鉄芯26が挿入される。後部18cは、中部18aの後端から後方に延びている。後部18cはさらに、受け部21と一対の翼部23とを備える。一次ボビン18は、樹脂組成物よりなる。一次ボビン18の好ましい材質として、PBT、PPS及びPETが例示される。一次コイル20は、一次ボビン18の中部18aの外周に一次ワイヤを巻回すことで形成されている。一次ワイヤの典型的な材質は銅(Cu)である。
【0017】
二次ボビン22は、前後方向に延びる筒状を呈する。二次ボビン22は、一次コイル20の外側に位置している。より詳細には、二次ボビン22は、一次コイル20を覆うように配置され、一次ボビン18に連結される。二次ボビン22は、樹脂組成物よりなる。二次ボビン22の好ましい材質として、変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)、PBT、PPS及びPETが例示される。二次コイル24は、二次ボビン22の外周に二次ワイヤを巻回すことで形成されている。二次コイル24は、一次コイル20の外側に形成されている。二次ワイヤの巻き数は、一次ワイヤの巻き数より大幅に大きい。これにより、一次コイル20の電流を変化させることで、二次コイル24に高電圧が発生する。二次ワイヤの典型的な材質は銅である。
【0018】
図3は、
図1の点火コイル2の構成要素のうち、中央鉄芯26、外周鉄芯28及びカバー30のみが示された斜視図である。この明細書では、中央鉄芯26、外周鉄芯28及びカバー30は、併せて「鉄芯ユニット32」と称される。
図4は、鉄芯ユニット32を中央鉄芯26、外周鉄芯28及びカバー30に分解した斜視図である。
図3及び4において、矢印Yはこの点火コイル2の右方向を表す。この逆が左方向である。
図3に示されるように、鉄芯ユニット32は環状を呈する。鉄芯ユニット32の中央には、左右方向に貫通する孔が設けられている。左右方向は、鉄芯ユニット32の軸方向に対応する。鉄芯ユニット32の軸方向外側の面は、鉄芯ユニット32の「側面」に対応する。
【0019】
図4で示されるように、この実施形態では、中央鉄芯26は、直線状の棒部34と、棒部34の前端に位置する基部36とを備える。
図1に示されるように、棒部34は一次ボビン18の中央を貫通している。棒部34は、一次コイル20の中央を貫通している。この実施形態では、棒部34は四角柱状である。棒部34の上面の後端には、陥部38が設けられている。陥部38は、左右方向に延びている。後述するとおり、この陥部38の表面は、外周鉄芯28と接触する、接触面40を構成する。基部36は板状である。基部36は、棒部34よりも上下方向に突出している。基部36の前面(外側面)は、上方に向かうにつれ後方の向かように傾斜している。中央鉄芯26は磁性体よりなる。好ましい磁性体として、フェライト、ダスト及び珪素鋼が例示される。
【0020】
図5は、中央鉄芯26及び外周鉄芯28が示された側面図である。外周鉄芯28は、中央鉄芯26の上面の後端から延びている。
図3で示されるように、外周鉄芯28は、二次コイル24の外側をまわって中央鉄芯26の前端に向けて延びている。
図4で示されるように、この実施形態では、外周鉄芯28は、中央鉄芯26の後端から上方に延びる第一柱部42と、二次コイル24の上方において中央鉄芯26と平行に延びる梁部44と、梁部44の前端から下方に延びる第二柱部46とを備える。この実施形態では、第一柱部42及び梁部44は、それぞれ四角柱状を呈する。第二柱部46は、下方に向けて先細りの形状を呈する。
図5で示されるように、第二柱部46の内側面(後面)は、基部36の前面と対向している。第二柱部46と基部36との間には、マグネット48が設けられている。外周鉄芯28は磁性体よりなる。好ましい磁性体として、フェライト、ダスト及び珪素鋼が例示される。
【0021】
図5に示されるように、第一柱部42の底面50は、中央鉄芯26の陥部38に接触している。第一柱部42の底面50は、接触面52を構成している。
図4及び5に示されるように、この実施形態では、第一柱部42の接触面52は、左右方向に延びる突条54を有している。
図5で示されるように、突条54は、中央鉄芯26の陥部38に嵌め込まれている。側面視において、第一柱部42の接触面52と中央鉄芯26の接触面40とは、隙間無く接触している。
【0022】
カバー30は、外周鉄芯28を覆っている。
図4で示されるように、カバー30は、第一部56、第二部58及び中央部60を備える。
図3で示されるように、第一部56は、第一柱部42の右側の側面及び後面を覆っている。
図3では見えないが、第一部56は、第一柱部42の左側の側面も覆っている。第二部58は、第二柱部46の右側の側面、左側の側面及び前面を覆っている。中央部60は、梁部44の右側の側面、左側の側面及び上面を覆っている。
図3では見えないが、中央部60は、梁部44の底面も覆っている。カバー30は、充填体14と剥離し易い性質のエラストマーよりなる。詳細には、カバー30は熱可塑性エラストマーからなる。好ましい熱可塑性エラストマーとして、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン/アルケン系熱可塑性エラストマー、ポリ塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー及びポリアミド系熱可塑性エラストマーが例示される。
【0023】
図4において、両矢印W1は、鉄芯ユニット32の軸方向(左右方向)に計測した、外周鉄芯28の幅を表す。両矢印W2は、鉄芯ユニット32の軸方向に計測した、中央鉄芯26の幅を表す。
図6は、
図5の符号VIで示された部分が拡大されて示された、斜視図である。これは、右下側から、第一柱部42の接触面52の、右側の端の近辺を見た斜視図である。
【0024】
この実施形態では、外周鉄芯28の幅W1は、中央鉄芯26の幅W2より大きい。このため、
図6で示されるように、外周鉄芯28の接触面52は、中央鉄芯26よりも鉄芯ユニット32の軸方向外側に突出している。
図6では、接触面52は右方向に突出している。この突出により、接触面52の右端の部分は露出している。接触面52は、その右側の端に、第一露出部62を有している。図示されないが、外周鉄芯28の接触面52は、中央鉄芯26よりも左方向にも突出している。この突出により、接触面52の左端の部分は露出している。接触面52は、その左側の端に第二露出部を有している。
【0025】
図7は、
図6で示された部分にカバー30が被せられた状態が示された、側面図である。これは、
図3の符号VIIで示された部分の側面図である。
図4及び6に示されるように、カバー30の第一部56は、主部64と、主部64の右側の下端から下方に延びる第一突出部68を備える。
【0026】
図7で示されるように、第一突出部68は、接触面52の第一露出部62を覆っている。この実施形態では、第一突出部68は、第一柱部42の前面の一部及び後面の一部も覆っている。この実施形態では、軸方向に計測した、第一突出部68の厚みは、主部64の厚みより小さい。このため、主部64は第一柱部42の右側面を覆っているが、第一突出部68は第一柱部42の右側面を覆っていない。
図7で示されるように、軸方向の外側(この場合は右側)から見たとき、第一突出部68の外側(露出部62と接していない部分)の輪郭は、矩形状である。すなわち、第一突出部68の輪郭は、前後方向に延びる底辺78と、底辺の両端のそれぞれから上方向に延びる、一対の側辺80とを備えている。
【0027】
図8に、
図7とは反対側(左側)から見たときの、第二露出部の近辺が示された、側面図である。
図4及び7に示されるように、カバー30の第一部56は、主部64の左側の下端から下方に延びる第二突出部70をさらに備える。
【0028】
第二突出部70は、接触面52の第二露出部を覆っている。この実施形態では、第二突出部70は、第一柱部42の前面の一部及び後面も覆っている。この実施形態では、第二突出部70は、第一柱部42の左側面も覆っている。第二突出部70は、円形の穴71を有している。この穴71の位置では、第一柱部42の左側面が露出している。
図8で示されるように、軸方向の外側(この場合は左側)から見たとき、第二突出部70の外側の輪郭は、矩形状である。すなわち、第二突出部70の輪郭は、前後方向に延びる底辺82と、底辺の両端のそれぞれから上方向に延びる、一対の側辺84とを備えている。
【0029】
図7及び8の実施形態では、第一突出部68が第一柱部42の右側面を覆っておらず、第二突出部70が第一柱部42の左側面を覆っていた。第一突出部68が第一柱部42の右側面を覆い、第二突出部70が第一柱部42の左側面を覆っていなくてもよい。
【0030】
図1で示されるように、キャップ31は、カバー30の上から外周鉄芯28に被せられている。キャップ31は、充填体14から露出している。キャップ31は、外周鉄芯28及びカバー30を外部から保護している。キャップ31は、耐久性及び耐候性に優れた樹脂からなる。キャップ31の好ましい材質として、PBT、PPS及びPETが例示される。
【0031】
前述のとおり、この点火コイル2は、ボディ4の他に、コネクタ部6、フランジ部10及び出力部8を備える。コネクタ部6は、ボディ4の前方に位置する。コネクタ部6は、筒状を呈する。コネクタ部6はその前方が開口されている。コネクタ部6は、内側にコネクタ端子72を備えている。図示されないが、複数のコネクタ端子72が、左右方向に並列されている。点火コイル2が車両に装着されたとき、コネクタ端子72は車の制御装置(ECU)に接続される。コネクタ端子72は、イグナイタ16の端子とも接続される。
【0032】
フランジ部10は、ボディ4の後方に位置する。フランジ部10には、上下に貫通する孔74が設けられている。図示されないが、ボルトをこの孔74と内燃機関に設けられた孔に通すことにより、点火コイル2は内燃機関に固定される。フランジ部10により、点火コイル2は内燃機関に堅固に固定される。
【0033】
出力部8は、ボディ4の下側に位置する。出力部8は、その内部に高電圧端子76を備える。この高電圧端子76は、二次コイル24の端子と接続されている。図示されないが、点火コイル2が車両に装着されたとき、出力部8はプラグホールに挿入される。高電圧端子76は点火プラグと電気的に接続される。
【0034】
この点火コイル2の製造方法は、以下の工程を含む。
(1)一次コイル20を形成する工程
(2)中央鉄芯26を組み込む工程
(3)二次コイル24を形成する工程
(4)外周鉄芯28の周りにカバー30を形成する工程
(5)外周鉄芯28を組み込む工程
(6)全体を組み立てる工程
【0035】
上記(1)の工程では、
図2で示された一次ボビン18の中部18aに一次ワイヤが巻かれることで、一次コイル20が形成される。上記(2)の工程では、一次ボビン18の孔19に、中央鉄芯26が挿入される。上記(3)の工程では、一次コイル20の外側に二次ボビン22が被せられ、さらに二次ボビン22に二次ワイヤが巻かれる。
【0036】
上記(4)の工程では、インサート成型により、外周鉄芯28の周りにカバー30が形成される。図示されないが、この工程では、外周鉄芯28は金型のキャビティ(空間)の中に入れられる。外周鉄芯28と金型との間に、カバー30に対応する形状の隙間が設けられるように、外周鉄芯28がキャビティ内の所定の位置に固定される。この固定は、外周鉄芯28の一部が左右から押さえつけられることで行われる。この実施形態では、第二柱部46の右側の側面及び左側の側面においてカバー30から露出した部分(
図3参照)が、左右から挟むように押さえつけられる。さらに、第一柱部42の、第一突出部68に覆われずに露出した側面(
図7参照)及び第二突出部70に設けられた穴71から露出した側面(
図8参照)が、左右から挟むように押さえつけられる。外周鉄芯28が固定されると、外周鉄芯28と金型との隙間に、熱溶解させた液体のエラストマーが注入される。注入後、エラストマーが冷却により硬化することで、外周鉄芯28の周りにカバー30が形成される。
【0037】
上記(4)の工程は、上記(1)、(2)及び(3)の工程の前に実施されてもよく、後に実施されてもよい。上記(4)の工程は、上記(1)、(2)及び(3)の工程と、並列で実施されてもよい。
【0038】
上記(5)の工程では、(4)の工程で形成されたカバー30付きの外周鉄芯28が、上記(3)の工程で形成された構成物に組み合われる。
図9は、外周鉄芯28が組み合わされた時の、鉄芯ユニット32と一次ボビン18とが示された、背面図である。
図9で示されるように、一次ボビン18の後部18cの受け部21が、中央鉄芯26の後端部分を覆っている。外周鉄芯28は、外周鉄芯28の接触面52が中央鉄芯26の接触面40と接触するように組み合わされる。さらに、
図9で示されるように、カバー30付きの第一柱部42の左側の側面が、一次ボビン18の左側の翼部23に接触するように、外周鉄芯28が組み合わされる。これらの接触により、外周鉄芯28が位置決めされる。翼部23は、外周鉄芯28の左右方向(軸方向)の位置決めを容易にしている。
【0039】
他の実施形態では、第一柱部42の右側の側面が、一次ボビン18の後部18cの右側の翼部23に接触するようにして、外周鉄芯28が位置決めされてもよい。この場合、外周鉄芯28が右側の翼部23に接触したとき、第二突出部70が中央鉄芯26と干渉して変形することがないように、第二突出部70の軸方向の幅が決められている。
【0040】
上記(6)の工程では、上記(5)の工程で形成された構成物が、イグナイタ16とともにケース12に入れられ、さらにケース12内の隙間に熱硬化性樹脂が流し込まれる。熱硬化性樹脂を加熱することで、充填体14が形成される。これにより、点火コイル2が得られる。
【0041】
以下では、本実施形態の作用効果が説明される。
【0042】
この点火コイル2では、鉄芯ユニット32の軸方向(左右方向)において、外周鉄芯28の幅W1は、中央鉄芯26の幅W2よりも大きい。周囲に一次ボビン18が存在することで幅が制限されている中央鉄芯26に比べて、外周鉄芯28の幅は、より大きくすることが可能である。この点火コイル2では、外周鉄芯28の幅W1を中央鉄芯26の幅W2より大きくすることで、優れた性能が実現されている。
【0043】
この点火コイル2では、外周鉄芯28の幅W1が中央鉄芯26の幅W2よりも大きいため、外周鉄芯28の接触面52は、中央鉄芯26よりも突出して外部に露出した第一露出部62及び第二露出部を有する。カバー30は、第一露出部62を覆う第一突出部68と、第二露出部を覆う第二突出部70とを備えている。エラストマーからなる第一突出部68は、第一露出部62を起点とした充填体14でのクラックを効果的に抑制する。エラストマーからなる第二突出部70は、第二露出部を起点とした充填体14でのクラックを効果的に抑制する。この点火コイル2では、充填体14でのクラックが抑えられている。
【0044】
点火コイル2が、第一露出部62のみを備えていてもよい。この場合、カバー30は第二突出部70を有さなくてもよい。点火コイル2が、第二露出部のみを備えていてもよい。この場合、カバー30は第一突出部68を有さなくてもよい。
【0045】
露出部62の所定に位置におけるカバー30の厚みは、この位置での露出部62に垂直な方向に計測される。
図7の両矢印Tは、カバー30の、第一露出部62を覆う部分での最小の厚みを表す。この実施形態では、厚みTは、第一柱部42の底面50の、突条54の先端でのカバー30の厚みである。厚みTは、0.5mm以上が好ましい。厚みTを0.5mm以上とすることで、この第一突出部68は、第一露出部62を起点とした充填体14でのクラックを効果的に抑制する。この観点から、厚みTは0.7mm以上がより好ましい。他の構成部材の邪魔になり難いとの観点から、厚みTは2mm以下が好ましい。
【0046】
カバー30の、第二露出部を覆う部分についても、同様の理由から、厚みTは0.5mm以上が好ましく、0.7mm以上がより好ましい。カバー30の、第二露出部を覆う部分についても、厚みTは2mm以下が好ましい。
【0047】
この実施形態では、鉄芯ユニット32を軸方向の一方の外側(右側)から見たとき、第一突出部68の外側の輪郭は、矩形状である。このようにすることで、第一突出部68が容易に形成でき、点火コイル2の組み立ても容易となる。さらに、この実施形態では、鉄芯ユニット32を軸方向のもう一方の外側(左側)から見たとき、第二突出部70の外側の輪郭は、矩形状である。このようにすることで、第二突出部70が容易に形成でき、点火コイル2の組み立ても容易となる。
【0048】
この実施形態では、第一柱部42の接触面52は突条54を備え、中央鉄芯26の接触面40はこの突条54と対応した形状の陥部38を備えている。この突条54は、陥部38に嵌め込まれている。これにより、第一柱部42の接触面52と中央鉄芯26の接触面40との、前後方向の位置ずれが抑えられている。例えば第一柱部42が後方にずれて、第一柱部42の接触面52が後方に露出することが抑えられている。これは、充填体14でのクラックを抑えるとともに、点火コイル2の優れた性能の実現にも寄与する。
【0049】
第一柱部42の接触面52が陥部を備え、中央鉄芯26の接触面40がこの陥部と対応した形状の突条を備え、この突条が陥部に嵌め込まれていてもよい。第一柱部42の接触面52が、突条又は陥部を備えていなくてもよい。中央鉄芯26の接触面40が、陥部又は突条を備えていなくてもよい。
【0050】
この実施形態では、第一突出部68は外周鉄芯28の右側の側面を覆っていない。これは、インサート成型の際に、外周鉄芯28のこの部分において、外周鉄芯28を挟みつけているためである。このようにすることで、インサート成型において、外周鉄芯28の位置がずれることが防止されている。これにり、カバー30が精度よく形成される。これは、充填体14でのクラックの抑制に寄与する。この実施形態では、穴71から露出した部分を除き、第二突出部70は外周鉄芯28の左側の側面を覆っている。この第二突出部70は、充填体14でのクラックの抑制に寄与する。このように、第一突出部68及び第二突出部70のうち、一方のみが外周鉄芯28の側面を覆うようにすることで、充填体14でのクラックが、効果的に抑制できる。
【0051】
この実施形態では、一次ボビン18は、外周鉄芯28の側面と接触する、翼部23を有している。点火コイル2の製造では、外周鉄芯28の側面を翼部23に接触させることで、外周鉄芯28の位置決めができる。これは、点火コイル2の製造を容易にする。
【0052】
以上説明されたとおり、本実施形態によれば、充填体でのクラックの発生が防止された点火コイルが得られる。このことから、本実施形態の優位性は明らかである。
【0053】
[開示項目]
以下の項目は、好ましい実施形態の開示である。
【0054】
[項目1]
一次コイルと、前記一次コイルの外側に形成された二次コイルと、環状の鉄芯ユニットとを備え、
前記鉄芯ユニットが、
前記一次コイルを貫通する中央鉄芯と、
前記中央鉄芯と接触する接触面を有し、前記中央鉄芯の一方の端から延び、前記二次コイルの外側をまわる外周鉄芯と、
エラストマーからなるカバーとを備え、
前記接触面が、前記鉄芯ユニットの軸方向において前記中央鉄芯よりも外側に突出した露出部を有しており、
前記カバーが、前記露出部を覆う突出部を有する、点火コイル。
【0055】
[項目2]
前記突出部の厚みが0.5mm以上である、項目1に記載の点火コイル。
【0056】
[項目3]
前記鉄芯ユニットの軸方向の外側から見たとき、前記突出部の外側の輪郭が矩形状である、項目1又は2に記載の点火コイル。
【0057】
[項目4]
前記接触面が、前記鉄芯ユニットの軸方向に延びる突条又は陥部を備えており、
前記中央鉄芯の前記接触面と接触する部分が、前記突条又は前記陥部と対応した形状の陥部又は突条を備えている、項目1から3のいずれかに記載の点火コイル。
【0058】
[項目5]
前記接触面が、前記鉄芯ユニットの軸方向において前記中央鉄芯よりも一方の外側に突出した第一露出部と、もう一方の外側に突出した第二露出部とを有しており、
前記カバーが、前記第一露出部を覆う第一突出部と、前記第二露出部を覆う第二突出部とを有しており、
前記第一突出部及び前記第二突出部のうちの一方のみが、前記外周鉄芯の軸方向の外側の面をさらに覆っている、項目1から4のいずれかに記載の点火コイル。
【産業上の利用可能性】
【0059】
以上説明された点火コイルは、種々の内燃機関に使用される。
【符号の説明】
【0060】
2・・・点火コイル
4・・・ボディ
6・・・コネクタ部
8・・・出力部
10・・・フランジ部
12・・・ケース
14・・・充填体
16・・・イグナイタ
18・・・一次ボビン
18a・・・中部
18b・・・前部
18c・・・後部
19・・・一次ボビンの孔
20・・・一次コイル
21・・・受け部
22・・・二次ボビン
23・・・翼部
24・・・二次コイル
26・・・中央鉄芯
28・・・外周鉄芯
30・・・カバー
31・・・キャップ
32・・・鉄芯ユニット
34・・・棒部
36・・・基部
38・・・陥部
40・・・中央鉄芯の接触面
42・・・第一柱部
44・・・梁部
46・・・第二柱部
48・・・マグネット
50・・・第一柱部の底面
52・・・第一柱部の接触面
54・・・突条
56・・・第一部
58・・・第二部
60・・・中央部
62・・・第一露出部
64・・・主部
68・・・第一突出部
70・・・第二突出部
71・・・穴
72・・・コネクタ端子
74・・・孔
76・・・高圧端子