(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011423
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
C08L 33/04 20060101AFI20240118BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20240118BHJP
A61K 31/785 20060101ALI20240118BHJP
C08K 5/46 20060101ALI20240118BHJP
C08K 5/357 20060101ALI20240118BHJP
C08G 81/02 20060101ALI20240118BHJP
C08F 220/34 20060101ALI20240118BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20240118BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20240118BHJP
A01N 43/84 20060101ALI20240118BHJP
A01N 37/06 20060101ALI20240118BHJP
A01N 61/00 20060101ALI20240118BHJP
A61K 31/5415 20060101ALI20240118BHJP
A61K 31/536 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
C08L33/04
A61P31/04
A61K31/785
C08K5/46
C08K5/357
C08G81/02
C08F220/34
A01P1/00
A01P3/00
A01N43/84 102
A01N37/06
A01N61/00 D
A61K31/5415
A61K31/536
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022113382
(22)【出願日】2022-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591222245
【氏名又は名称】国立感染症研究所長
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 秀則
(72)【発明者】
【氏名】井川 茂
(72)【発明者】
【氏名】下川 努
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 仁人
(72)【発明者】
【氏名】平林 亜希
【テーマコード(参考)】
4C086
4H011
4J002
4J031
4J100
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC89
4C086FA03
4C086MA02
4C086MA06
4C086NA14
4C086ZB35
4C086ZC75
4H011AA02
4H011BB06
4H011BB10
4H011BB19
4H011DH02
4J002BG071
4J002EU236
4J002EV316
4J031AA20
4J031AA57
4J031AB01
4J031AC07
4J031AC09
4J031AD01
4J031AE03
4J031AE11
4J031AF03
4J100AL03Q
4J100AL03S
4J100AL04R
4J100AL08P
4J100AL10T
4J100BA31P
4J100BC43H
4J100BC54H
4J100CA03
4J100CA27
4J100CA31
4J100DA01
4J100FA03
4J100FA19
4J100HA61
4J100HC39
4J100JA53
(57)【要約】 (修正有)
【課題】感染症の原因となる細菌に対して優れた抗菌・殺菌性を有する手段を提供すること。
【解決手段】下記式(1)で表される繰り返し単位を有するポリマー鎖を有する重合体、及びフェノチアジン系化合物を含有する組成物。
〔式(1)において、R
1は、水素原子又はメチル基を示し、Zは、有機アンモニウム塩を形成している基又は-NR
5R
6(但し、R
5及びR
6は、相互に独立に、水素原子、又は置換若しくは非置換の炭化水素基を示し、R
5及びR
6が互いに結合して環状構造を形成してもよい。)を示し、Xは、単結合又は2価の連結基を示す。〕
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される繰り返し単位を有するポリマー鎖を有する重合体、並びに下記式(2)で表される化合物及びその塩から選ばれる少なくとも1種を含有する組成物。
【化1】
〔式(1)において、R
1は、水素原子又はメチル基を示し、Zは、有機アンモニウム塩を形成している基又は-NR
5R
6(但し、R
5及びR
6は、相互に独立に、水素原子、又は置換若しくは非置換の炭化水素基を示し、R
5及びR
6が互いに結合して環状構造を形成してもよい。)を示し、Xは、単結合又は2価の連結基を示す。〕
【化2】
〔式(2)において、R
27~R
34は、相互に独立に、水素原子、ハロ基、シアノ基、アルコキシ基、アルキルスルファニル基、アルキルスルフィニル基又は置換若しくは非置換のアルキル基を示し、R
35は、-NR
36R
37(但し、R
36及びR
37は、相互に独立に、水素原子、又は置換若しくは非置換の炭化水素基を示す。)で置換されたアルキル基又は含窒素飽和複素環基で置換されたアルキル基を示し、R
38は、硫黄原子又は酸素原子を示す。〕
【請求項2】
抗菌、殺菌又は抗菌及び殺菌に用いられる、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
感染症の治療に用いられる、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記感染症が、大腸菌、黄色ブドウ球菌、腸球菌、肺炎桿菌、緑膿菌又はアシネトバクター・バウマニに起因するものである、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記感染症が、カルバペネム耐性菌、メチシリン耐性菌、バンコマイシン耐性菌又は多剤耐性菌に起因するものである、請求項3に記載の組成物。
【請求項6】
前記ポリマー鎖が、Mw(但し、Mwはゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定したポリスチレン換算重量平均分子量を意味し、前記ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおける移動相はテトラヒドロフランである。)が3,000以下のポリマー鎖である、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
下記式(1)で表される繰り返し単位を有するポリマー鎖を有する重合体と、下記式(2)で表される化合物及びその塩から選ばれる少なくとも1種とを組み合わせて使用する、抗菌方法、殺菌方法又は抗菌及び殺菌方法。
【化3】
〔式(1)において、R
1は、水素原子又はメチル基を示し、Zは、有機アンモニウム塩を形成している基又は-NR
5R
6(但し、R
5及びR
6は、相互に独立に、水素原子、又は置換若しくは非置換の炭化水素基を示し、R
5及びR
6が互いに結合して環状構造を形成してもよい。)を示し、Xは、単結合又は2価の連結基を示す。〕
【化4】
〔式(2)において、R
27~R
34は、相互に独立に、水素原子、ハロ基、シアノ基、アルコキシ基、アルキルスルファニル基、アルキルスルフィニル基又は置換若しくは非置換のアルキル基を示し、R
35は、-NR
36R
37(但し、R
36及びR
37は、相互に独立に、水素原子、又は置換若しくは非置換の炭化水素基を示す。)で置換されたアルキル基又は含窒素飽和複素環基で置換されたアルキル基を示し、R
38は、硫黄原子又は酸素原子を示す。〕
【請求項8】
下記式(1)で表される繰り返し単位を有するポリマー鎖を有する重合体と、下記式(2)で表される化合物及びその塩から選ばれる少なくとも1種とを組み合わせて使用する、感染症を治療する方法。
【化5】
〔式(1)において、R
1は、水素原子又はメチル基を示し、Zは、有機アンモニウム塩を形成している基又は-NR
5R
6(但し、R
5及びR
6は、相互に独立に、水素原子、又は置換若しくは非置換の炭化水素基を示し、R
5及びR
6が互いに結合して環状構造を形成してもよい。)を示し、Xは、単結合又は2価の連結基を示す。〕
【化6】
〔式(2)において、R
27~R
34は、相互に独立に、水素原子、ハロ基、シアノ基、アルコキシ基、アルキルスルファニル基、アルキルスルフィニル基又は置換若しくは非置換のアルキル基を示し、R
35は、-NR
36R
37(但し、R
36及びR
37は、相互に独立に、水素原子、又は置換若しくは非置換の炭化水素基を示す。)で置換されたアルキル基又は含窒素飽和複素環基で置換されたアルキル基を示し、R
38は、硫黄原子又は酸素原子を示す。〕
【請求項9】
前記感染症が、大腸菌、黄色ブドウ球菌、腸球菌、肺炎桿菌、緑膿菌又はアシネトバクター・バウマニに起因するものである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記感染症が、カルバペネム耐性菌、メチシリン耐性菌、バンコマイシン耐性菌又は多剤耐性菌に起因するものである、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記ポリマー鎖が、Mw(但し、Mwはゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定したポリスチレン換算重量平均分子量を意味し、前記ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおける移動相はテトラヒドロフランである。)が3,000以下のポリマー鎖である、請求項7~10のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物及び方法に関する。より詳細には、組成物、抗菌方法、殺菌方法、抗菌及び殺菌方法、並びに感染症治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抗微生物薬、特に抗生物質の発見及び開発は、20世紀の最も偉大な医学的業績の一つと認識されている。しかしながら、1970年代以降開発された新薬は、大部分が既知分子の誘導体であり、元の抗生物質と同じ薬剤耐性の問題を抱えていることが多い。更に、薬剤耐性が出現する頻度は加速していると考えられており、世界保健機構(WHO)は、抗微生物薬耐性を、「今日の地球規模の保健、食糧安全保障及び発展に対する脅威の一つ」と述べている。
【0003】
このような状況下、特許文献1では、細菌耐性の問題を解決するために、抗精神病薬等の使用が提案されているが、感染症の原因となるような細菌に対する殺菌能力は十分なものとはいえなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、感染症の原因となる細菌に対して優れた抗菌・殺菌性を有する手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明者らは鋭意検討した結果、特定のポリマー鎖を有する重合体と特定のフェノチアジン誘導体とを組み合わせた組成物が、感染症の原因となる細菌に対して優れた抗菌・殺菌性を有することを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の<1>~<15>を提供するものである。
【0008】
<1> 下記式(1)で表される繰り返し単位(以下、「繰り返し単位(1)」とも称する。)を有するポリマー鎖(以下、「特定ポリマー鎖」とも称する。)を有する重合体(以下、「特定重合体」とも称する。)、並びに下記式(2)で表される化合物及びその塩から選ばれる少なくとも1種(以下、「化合物(2)等」とも称する。)を含有する組成物(以下、「特定組成物」とも称する。)。
【0009】
【0010】
〔式(1)において、R1は、水素原子又はメチル基を示し、Zは、有機アンモニウム塩を形成している基又は-NR5R6(但し、R5及びR6は、相互に独立に、水素原子、又は置換若しくは非置換の炭化水素基を示し、R5及びR6が互いに結合して環状構造を形成してもよい。)を示し、Xは、単結合又は2価の連結基を示す。〕
【0011】
【0012】
〔式(2)において、R27~R34は、相互に独立に、水素原子、ハロ基、シアノ基、アルコキシ基、アルキルスルファニル基、アルキルスルフィニル基又は置換若しくは非置換のアルキル基を示し、R35は、-NR36R37(但し、R36及びR37は、相互に独立に、水素原子、又は置換若しくは非置換の炭化水素基を示す。)で置換されたアルキル基又は含窒素飽和複素環基で置換されたアルキル基を示し、R38は、硫黄原子又は酸素原子を示す。〕
【0013】
<2> 抗菌、殺菌又は抗菌及び殺菌に用いられる、<1>に記載の組成物。
<3> 感染症の治療に用いられる、<1>に記載の組成物。
<4> 前記感染症が、大腸菌、黄色ブドウ球菌、腸球菌、肺炎桿菌、緑膿菌又はアシネトバクター・バウマニに起因するものである、<3>に記載の組成物。
<5> 前記感染症が、カルバペネム耐性菌、メチシリン耐性菌、バンコマイシン耐性菌又は多剤耐性菌に起因するものである、<3>に記載の組成物。
<6> 前記ポリマー鎖が、Mw(但し、Mwはゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定したポリスチレン換算重量平均分子量を意味し、前記ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおける移動相はテトラヒドロフランである。)が3,000以下のポリマー鎖である、<1>~<5>のいずれかに記載の組成物。
【0014】
<7> 特定重合体と、化合物(2)等とを組み合わせて使用する、抗菌方法、殺菌方法又は抗菌及び殺菌方法(以下、これらを「抗菌及び/又は殺菌方法」とも総称する。)。
【0015】
<8> 特定重合体と、化合物(2)等とを組み合わせて使用する、感染症を治療する方法(以下、「感染症治療方法」とも称する。)。
【0016】
<9> 前記感染症が、大腸菌、黄色ブドウ球菌、腸球菌、肺炎桿菌、緑膿菌又はアシネトバクター・バウマニに起因するものである、<8>に記載の方法。
<10> 前記感染症が、カルバペネム耐性菌、メチシリン耐性菌、バンコマイシン耐性菌又は多剤耐性菌に起因するものである、<8>に記載の方法。
<11> 前記ポリマー鎖が、Mw(但し、Mwはゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定したポリスチレン換算重量平均分子量を意味し、前記ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおける移動相はテトラヒドロフランである。)が3,000以下のポリマー鎖である、<7>~<10>のいずれかに記載の方法。
【0017】
<12> 抗菌剤、殺菌剤又は抗菌及び殺菌剤の製造のための、特定重合体と化合物(2)等との組み合わせの使用。
<13> 感染症治療剤の製造のための、特定重合体と化合物(2)等との組み合わせの使用。
<14> 抗菌、殺菌又は抗菌及び殺菌のための、特定重合体と化合物(2)等との組み合わせの使用。
<15> 感染症治療のための、特定重合体と化合物(2)等との組み合わせの使用。
【発明の効果】
【0018】
本発明の特定組成物は、感染症の原因となる細菌に対して優れた抗菌・殺菌性を有する。また、本発明の特定組成物は、薬剤耐性菌に対しても優れた抗菌・殺菌性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
〔組成物〕
特定組成物は、特定重合体、並びに化合物(2)等を含有する。
(重合体)
まず、本発明の特定重合体について説明する。
本発明の特定重合体は、下記式(1)で表される繰り返し単位を有するポリマー鎖を有する。
【0020】
【0021】
〔式(1)において、R1は、水素原子又はメチル基を示し、Zは、有機アンモニウム塩を形成している基又は-NR5R6(但し、R5及びR6は、相互に独立に、水素原子、又は置換若しくは非置換の炭化水素基を示し、R5及びR6が互いに結合して環状構造を形成してもよい。)を示し、Xは、単結合又は2価の連結基を示す。〕
【0022】
(繰り返し単位(1))
繰り返し単位(1)は、上記式(1)で表されるものである。
上記式(1)において、Zは、有機アンモニウム塩を形成している基又は-NR5R6を示す。
上記有機アンモニウム塩を形成している基としては、例えば-N+R2R3R4Yy-、-(C=O)O-N+HR2R3R4、-(C=O)O-A+、-OP(=O)(-O-)OC2H4N+R2R3R4(但し、R2~R4は、相互に独立に、水素原子、又は置換若しくは非置換の炭化水素基を示し、R2~R4のうち2つ以上が互いに結合して環状構造を形成してもよい。Yy-はy価の対アニオンを示し、A+は4級アンモニウムカチオンを示す。)等が挙げられるが、-N+R2R3R4Yy-が好ましい。
【0023】
R2~R4は、相互に独立に、水素原子、又は置換若しくは非置換の炭化水素基を示し、R2~R4のうち2つ以上が互いに結合して環状構造を形成してもよい。また、R5及びR6は、相互に独立に、水素原子、又は置換若しくは非置換の炭化水素基を示し、R5及びR6が互いに結合して環状構造を形成してもよい。
ここで、本発明において「炭化水素基」とは、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基及び芳香族炭化水素基を包含する概念であり、直鎖状、分岐状及び環状のいずれの形態であってもよく、また飽和炭化水素基でも不飽和炭化水素基でもよく、不飽和結合を末端及び非末端のいずれに有していてもよい。
【0024】
上記脂肪族炭化水素基としては、炭素数1~20(好ましくは1~12)のアルキル基が好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等が挙げられる。また、上記脂環式炭化水素としては、炭素数3~20(好ましくは3~12)の脂環式炭化水素基が好ましく、炭素数3~20(好ましくは3~12)のシクロアルキル基がより好ましい。具体的には、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。更に、上記芳香族炭化水素基としては、炭素数6~20(好ましくは6~10)の芳香族炭化水素基が好ましく、炭素数6~20(好ましくは6~10)のアリール基、炭素数7~20(好ましくは炭素数7~16)のアラルキル基がより好ましい。ここで、本発明において「アリール基」とは、単環~3環式芳香族炭化水素基をいい、例えば、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、アントラニル基等が挙げられる。アラルキル基の具体例としては、ベンジル基、フェネチル基、α-メチルベンジル基、2-フェニルプロパン-2-イル基等が挙げられる。
これらの中でも、R2~R6における炭化水素基としては、抗菌性、殺菌性を高めるために、炭素数1~12(更に好ましくは1~6、特に好ましくは1~4)のアルキル基、炭素数7~16(更に好ましくは7~12、特に好ましくは7~9)のアラルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ベンジル基が特に好ましい。
なお、R2~R6における置換基としては、例えば、炭素数1~6のアルキル基、ハロゲン原子、水酸基、ベンゾイル基、置換又は非置換のアミノ基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシル基、炭素数1~6のアルコキシ基を挙げることができる。
【0025】
R2~R4のうち2つ以上(好ましくはR2~R4のうちR2及びR3)が互いに結合して環状構造を形成している場合におけるZとしては、下記式(1-1)、(1-2)又は(1-3)で表される複素環基が挙げられる。
【0026】
【0027】
式(1-1)~(1-3)において、R4は水素原子、又は置換若しくは非置換の炭化水素基を示し、Yy-はy価の対アニオンを示し、「*」は結合手であることを示す。
【0028】
また、R5及びR6が互いに結合して環状構造を形成している場合におけるZとしては、下記式(1-4)、(1-5)又は(1-6)で表される複素環基が挙げられる。
【0029】
【0030】
式(1-4)~(1-6)において、「*」は結合手であることを示す。
【0031】
Yy-は、1価の対アニオンでも多価の対アニオンでもよい。また、単原子のアニオンでも多原子のアニオンでもよい。
多価の対アニオンとしては、多価アニオン性化合物由来のものが挙げられる。多価アニオン性化合物とは、水に溶解させたときに電離して2価以上の負電荷を帯びる有機又は無機化合物のことをいう。多価アニオン性化合物としては、例えば、ガム類やポリアクリル酸誘導体等の高分子化合物、クエン酸及びその塩やEDTA等のキレート剤として知られる化合物が挙げられる。
1価の対アニオンとしては、Cl-、Br-、I-等のハロゲンイオン;ClO4
-、BF4
-、CH3(C=O)O-、PF6
-等の酸の対アニオンが挙げられる。
Yy-としては、1~6価の対アニオン(yが1~6の整数のもの)が好ましく、1~3価の対アニオン(yが1~3の整数のもの)がより好ましく、1価の対アニオンが更に好ましく、ハロゲンイオンが特に好ましい。
【0032】
上記式(1)において、Xで示される2価の連結基としては、例えば、メチレン基、アルキレン基、アリーレン基、-(C=O)OR11-(*)、-(C=O)NHR12-(*)、又は-ArR13-(*)(但し、Arは、アリーレン基を示し、「*」は、上記Zに結合する結合手であることを示す。)等が挙げられる。本発明における「アリーレン基」としては、フェニレン基、ナフチレン基、フェナントレニレン基等が挙げられる。また、R11~R13は、相互に独立に、メチレン基、アルキレン基、又はアルキレンオキシアルキレン基である。
【0033】
X及びR11~R13で示されるアルキレン基としては、炭素数2~10(好ましくは2~6、より好ましくは炭素数2~4)のアルキレン基が好ましい。アルキレン基は、直鎖状でも分岐鎖状でもよく、具体的には、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基等が挙げられる。
また、アルキレンオキシアルキレン基に含まれるアルキレン基としては、上記アルキレン基と同様のものが好ましい。アルキレンオキシアルキレン基としては、C2-4アルキレンオキシC2-4アルキレン基が好ましく、具体的にはエチレンオキシエチレン基等が挙げられる。
【0034】
Xとしては、特定重合体を製造し易くするために、-(C=O)OR11-(*)、-(C=O)NHR12-(*)、又は-ArR13-(*)が好ましく、-(C=O)OR11-(*)が特に好ましい。また、R11~R13としては、炭素数2~6(より好ましくは炭素数2~4)のアルキレン基が特に好ましい。
【0035】
(繰り返し単位(20))
特定ポリマー鎖としては、所望の効果を高めるために、繰り返し単位(1)に加えて、下記式(20)で表される繰り返し単位を有するものが好ましい。
【0036】
【0037】
〔式(20)において、
R7は、水素原子又はメチル基を示し、
Aは、芳香族炭化水素基、-(C=O)OR8、-(C=O)NHR9、又は-OR10(但し、R8~R10は、炭化水素基又は鎖状若しくは環状のエーテル構造を有する基を示す。)を示す。〕
【0038】
上記式(20)のAにおいて、芳香族炭化水素基としては、炭素数6~20(好ましくは6~10)のアリール基が好ましく、フェニル基が特に好ましい。
また、上記式(20)のAにおいて、R8~R10は炭化水素基又は鎖状若しくは環状のエーテル構造を有する基を示す。該炭化水素基としては、上記R2と同様のものの他、飽和縮合多環炭化水素基、飽和橋かけ環炭化水素基、飽和スピロ炭化水素基、飽和環状テルペン炭化水素基等の脂環式炭化水素基が挙げられる。R8~R10の炭化水素基としては、炭素数1~20(好ましくは1~15)のアルキル基、炭素数6~20(好ましくは6~14)のアリール基、炭素数7~20(好ましくは炭素数7~16)のアラルキル基、炭素数3~20(好ましくは4~15)の脂環式炭化水素基が好ましく、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、2-エチルヘキシル基、イソデシル基、ドデシル基、フェニル基、ベンジル基、フェニルエチル基、シクロヘキシル基、シクロヘキセニル基、t-ブチルシクロヘキシル基、デカヒドロ-2-ナフチル基、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン-8-イル基、アダマンチル基、ジシクロペンテニル基、ペンタシクロペンタデカニル基、トリシクロペンテニル基、イソボルニル基が特に好ましい。
【0039】
一方、R8~R10における鎖状のエーテル構造を有する基としては、下記式(3)で表される基が好ましい。
【0040】
【0041】
〔式(3)において、
R14は、相互に独立に、炭素数2~4のアルキレン基を示し、
R15は、水素原子、炭素数1~6のアルキル基又は置換若しくは非置換のアリール基を示し、
nは2~150の整数を示し、
「*」は結合手であることを示す。〕
【0042】
R14としては、2種以上のアルキレン基により構成されていてもよく、エチレン基及び/又はプロピレン基が好ましい。
R15における炭素数1~6のアルキル基としては、炭素数1~4のアルキル基が好ましく、炭素数1又は2のアルキル基がより好ましい。アルキル基は直鎖状でも分岐鎖状でもよく、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基が挙げられる。
R15におけるアリール基としてはフェニル基が好ましい。アリール基には、α-クミル基等が置換していてもよい。
R15としては、水素原子、炭素数1~6のアルキル基が好ましい。
nは、2~20の整数が好ましく、2~10の整数がより好ましく、2~5の整数が特に好ましい。
【0043】
また、R8~R10における環状のエーテル構造を有する基としては、下記式(4)で表される基が好ましい。
【0044】
【0045】
〔式(4)において、
R16は、メチレン基、炭素数2~12のアルキレン基を示し、
CEは置換基としてアルキル基を有してもよい環状エーテル基を示し、
「*」は結合手であることを示す。〕
【0046】
上記式(4)において、R16としては、メチレン基、炭素数2~6のアルキレン基が好ましい。アルキレン基は、直鎖状でも分岐鎖状でもよい。R16としては、具体的には、メチレン基、エチレン基、エタン-1,1-ジイル基、トリメチレン基、プロパン-1,1-ジイル基、プロパン-1,2-ジイル基、プロパン-2,2-ジイル基、テトラメチレン基、ブタン-1,2-ジイル基、ブタン-1,3-ジイル基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基などを挙げることができる。
【0047】
上記式(4)において、CEとしては、環を構成する原子数が3~7個の環状エーテル基であることが好ましく、その具体例としては、下記式(i)~(viii)で表される環状エーテル基などを挙げることができる。
【0048】
【0049】
〔式(i)~(viii)において、「*」はR16と結合する結合手であることを示す。〕
【0050】
本発明において、上記R8~R10としては、菌の生育を抑制する効果を高めるために、炭化水素基が好ましい。
【0051】
特定ポリマー鎖は、繰り返し単位(1)、(20)以外の繰り返し単位(以下、他の繰り返し単位とも称する。)を有していてもよい。このような繰り返し単位の例としては、アニオン性基を有するビニル系単量体に由来する繰り返し単位が挙げられる。アニオン性基としては、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、アニオン性を示す水酸基などが挙げられ、中でもカルボキシル基、スルホン酸基が好ましく、カルボキシル基がより好ましい。
アニオン性基を有するビニル系単量体の好適な具体例としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、スチレンスルホン酸、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、アリルスルホン酸、ビニルスルホン酸、(メタ)アクリルスルホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート、こはく酸モノ〔2-(メタ)アクリロイロキシエチル〕、ω-カルボキシポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、p-ビニル安息香酸、p-ヒドロキシスチレン、p-ヒドロキシ-α-メチルスチレンなどの酸性基を有するビニル系単量体、これらの塩が挙げられる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸が好ましい。その他、他の繰り返し単位を構成する単量体としては、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミドの如きN-位置換マレイミド;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシフェニル(メタ)アクリレートの如き水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリルアミド、N-メチロールアクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド系単量体等が挙げられる。特定ポリマー鎖は、他の繰り返し単位に該当するものを1種又は2種以上有していてよい。
なお、本発明において「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート又はメタクリレート」を意味するものとする。
【0052】
特定ポリマー鎖において、繰り返し単位(1)の共重合割合は、全繰り返し単位中、好ましくは10~99質量%、より好ましくは15~95質量%、特に好ましくは20~90質量%である。繰り返し単位(20)の共重合割合は、全繰り返し単位中、好ましくは1~80質量%、より好ましくは5~75質量%、特に好ましくは10~70質量%である。各繰り返し単位をこのような割合で共重合することにより、所望の効果をより高めることができる。また、繰り返し単位(1)の共重合割合と繰り返し単位(20)の共重合割合との質量比率〔(1)/(20)〕としては、15/85~99/1が好ましく、20/80~95/5がより好ましく、30/70~90/10が特に好ましい。
なお、共重合割合や共重合比は熱分解ガスクロマトグラフィー測定等により測定することができる。例えば後述する合成例1においては、各クロマトグラムのピークのフラグメントから、DAMA、nBMA、MMA、EHMA由来のピークを同定して定量し、共重合比を算出することができる。測定条件の一例を下記に示す。なお、共重合比はNMRによっても測定できる。
<重合体の組成比確認>
装置:熱分解ガスクロマトグラム質量分析装置(熱分解部:日本分析工業製パイロホイルサンプラJPS-350、ガスクロマトグラフ部:Agilent Technologies 7890A GC System、質量分析計部:Agilent Technologies 5975 inert XL Mass Selective detector)
カラム:BPX-5
温度:熱分解温度590℃×5秒、カラム注入口280℃、カラム温度(開始温度を50℃として1分間に10℃ずつ350℃まで昇温)
流量:He 1.0mL/min.
イオン化法:電子イオン化法(EI法)
検出部:MS四重極、Aux-2
【0053】
特定ポリマー鎖は、繰り返し単位(1)に該当するものを1種又は2種以上有していてよく、また、繰り返し単位(20)に該当するものを1種又は2種以上有していてよいが、特定ポリマー鎖は、繰り返し単位(1)として、Zが有機アンモニウム塩を形成する基である繰り返し単位(1)のみが含有されているか、Zが有機アンモニウム塩を形成する基である繰り返し単位(1)と、Zが-NR5R6である繰り返し単位(1)の両方が含有されていることが好ましい。
また、繰り返し単位(1)は、所望の効果を高めるために、Zが有機アンモニウム塩を形成する基である繰り返し単位を、好ましくは30モル%以上、より好ましくは40モル%以上、更に好ましくは50モル%以上、特に好ましくは60モル%以上含有していることが好ましい(なお、この含有量の上限値は特に限定されるものではなく、例えば100モル%である。)。Zが有機アンモニウム塩を形成する基である繰り返し単位と、Zが-NR5R6である繰り返し単位の両方を含む場合、Zが有機アンモニウム塩を形成する基である繰り返し単位と、Zが-NR5R6である繰り返し単位との共重合比(モル比)は、20/80~99/1が好ましく、30/70~98/2がより好ましく、40/60~95/5が特に好ましい。
【0054】
特定ポリマー鎖が繰り返し単位(1)及び繰り返し単位(20)を有する場合、特定ポリマー鎖はブロック共重合体、ランダム共重合体のいずれであってもよく特に限定されるものではないが、所望の効果を高めるために、ランダム共重合体であることが好ましい。
なお、上記ブロック共重合体としては、繰り返し単位(20)を有さず、繰り返し単位(1)を有するAブロックと、繰り返し単位(1)を有さず、繰り返し単位(20)を有するBブロックとを含む、ブロック共重合体が挙げられる。該ブロック共重合体としては、A-B型ブロック共重合体が挙げられる。Aブロック中において、繰り返し単位(1)は、1つのAブロック中に2種以上含有されていてもよく、その場合、各々の繰り返し単位は、該Aブロック中においてランダム共重合、ブロック共重合のいずれの態様で含有されていてもよい。また同様に、Bブロック中において、繰り返し単位(20)は、1つのBブロック中に2種以上含有されていてもよく、その場合、各々の繰り返し単位は、該Bブロック中においてランダム共重合、ブロック共重合のいずれの態様で含有されていてもよい。
【0055】
特定ポリマー鎖の分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC、移動相:テトラヒドロフラン)により測定したポリスチレン換算の重量平均分子量Mwが、好ましくは3,000以下、より好ましくは300~3,000、更に好ましくは500~2,500である。また、特定ポリマー鎖のMwと、GPC(移動相:テトラヒドロフラン)で測定したポリスチレン換算の数平均分子量Mnとの比(Mw/Mn)は、好ましくは1.0~1.8、より好ましくは1.0~1.7、特に好ましくは1.1~1.5である。特定ポリマー鎖をこのような態様にすることにより、所望の効果を高めることができる。
【0056】
特定ポリマー鎖の含有量としては、特定重合体全量に対し、40~99質量%が好ましく、45~97質量%がより好ましく、50~95質量%が特に好ましい。
なお、特定ポリマー鎖の含有量は熱分解ガスクロマトグラフィー等により測定することができる。例えば後述する合成例1においては、各クロマトグラムのピークのフラグメントから、特定重合体と、特定ポリマー鎖に対応するピークを同定して定量し、特定ポリマー鎖の含有量を算出することができる。測定条件の一例を下記に示す。なお、特定ポリマー鎖の含有量は、NMRによっても測定できる。
<重合体の組成比確認>
装置:熱分解ガスクロマトグラム質量分析装置(熱分解部:日本分析工業製パイロホイルサンプラJPS-350、ガスクロマトグラフ部:Agilent Technologies 7890A GC System、質量分析計部:Agilent Technologies 5975 inert XL Mass Selective detector)
カラム:BPX-5
温度:熱分解温度590℃×5秒、カラム注入口280℃、カラム温度(開始温度を50℃として1分間に10℃ずつ350℃まで昇温)
流量:He 1.0mL/min.
イオン化法:電子イオン化法(EI法)
検出部:MS四重極、Aux-2
【0057】
(特定部分構造)
本発明の特定重合体としては、抗菌性、殺菌性を高めるために、特定ポリマー鎖に加えて、-NH-で表される基(以下、「特定官能基」とも称する。)を含む化合物に由来する部分構造(但し、前記ポリマー鎖を除く。また、以下、この部分構造を「特定部分構造」とも称する。)を有するものが好ましい。
特定部分構造としては、特定官能基を含む化合物から特定官能基に由来する水素原子の一部又は全部を除いた残余であることが好ましい。
特定官能基を含む化合物としては、抗菌性、殺菌性を高めるために、第1級アミノ基、第2級アミノ基、カルバモイル基(-C(=O)-NH2)及びアミド結合(-C(=O)-NH-)から選ばれる少なくとも1種を特定官能基含有基として含む化合物が好ましく、第1級アミノ基、第2級アミノ基及びカルバモイル基から選ばれる少なくとも1種を含む化合物がより好ましく、第1級アミノ基及び第2級アミノ基から選ばれる少なくとも1種を含む化合物が特に好ましい。また、特定官能基を含む化合物は、特定官能基を1個含む化合物であっても複数含む化合物であってもよいが、特定官能基を複数含む化合物であることが好ましい。
特定部分構造は、低分子(非重合体型の)化合物由来のものでも高分子(重合体型の)化合物由来のものでもよいが、広範な種類の菌に対して優れた抗菌・殺菌性を得るために、高分子(重合体型)のアミン化合物由来のものが好ましく、アミン化合物のうち多分岐型重合体に由来するものが特に好ましい。アミン化合物が多分岐型重合体である場合には、特定重合体は、特定部分構造をコア部とし特定ポリマー鎖をアーム部とする多分岐型星型重合体となる。なお、重合体型のアミン化合物の重量平均分子量は、好ましくは100以上、より好ましくは150以上であり、また、好ましくは3000以下、より好ましくは2500以下、更に好ましくは2000以下、特に好ましくは1500以下である。
また、特定官能基を含む化合物が第1級アミノ基及び第2級アミノ基から選ばれる少なくとも1種を含む化合物である場合、特定部分構造は、特定官能基を含む化合物由来のアミノ基の一部又は全部が有機アンモニウム塩化していてもよい。
【0058】
また、上記特定官能基を含む化合物としては、例えば、ポリアジリジン系重合体;そのアルキルイソシアネート変性物、アルキレンオキサイド変性物等のポリアジリジン系重合体変性物;芳香族ジアミン系化合物等のジアミン系化合物;ビグアニド系化合物(低分子(非重合体)でも高分子(重合体)でもよい);アミノ酸;アミノ酸誘導体;ペプチド;アミノ糖;ポリアミノ糖:その他抗菌薬等を挙げることができる。特定重合体は、これらに由来する特定部分構造のうち1種を有していても2種以上を有していてもよい。
これらの中でも、特定官能基を含む化合物としては、ポリアジリジン系重合体、ジアミン系化合物、ビグアニド系低分子化合物、アミノ酸、アミノ酸誘導体が好ましく、広範な種類の菌に対して優れた抗菌・殺菌性を得るために、ポリアジリジン系重合体、ジアミン系化合物がより好ましく、ポリアジリジン系重合体、芳香族ジアミン系化合物が更に好ましく、ポリアジリジン系重合体が特に好ましい。なお、ポリアジリジン系重合体の重量平均分子量は、上記と同様に、好ましくは100以上、より好ましくは150以上であり、また、好ましくは3000以下、より好ましくは2500以下、更に好ましくは2000以下、特に好ましくは1500以下である。また上記したように、特定官能基を含む化合物がポリアジリジン系重合体である場合には、特定重合体は、特定部分構造をコア部とし特定ポリマー鎖をアーム部とする多分岐型星型重合体となる。
【0059】
ポリアジリジン系重合体としては、下記式(11)で表される繰り返し単位を有するものが挙げられる。
【0060】
【0061】
〔式(11)において、
R17は、水素原子又は他の繰り返し単位(11)と結合する結合手を示し、
R18~R21は、相互に独立に、水素原子又は置換若しくは非置換の炭化水素基を示す。
但し、R18及びR19がともに炭化水素基である場合は、R18及びR19が一緒になって環を形成していてもよく、R18及びR20がともに炭化水素基である場合は、R18及びR20が一緒になって環を形成していてもよく、R20及びR21がともに炭化水素基である場合は、R20及びR21が一緒になって環を形成していてもよい。〕
【0062】
R17が他の繰り返し単位(11)と結合する結合手である場合、式(11)は、具体的には下記式(11-2)で表される。ポリアジリジン系重合体としては、R17が水素原子の繰り返し単位と式(11-2)で表される3価の繰り返し単位の両方を有するものが好ましい。
【0063】
【0064】
〔式(11-2)において、R18~R21は、式(11)中のR18~R21と同義である。〕
【0065】
R18~R21で示される炭化水素基は上記R2~R6と同様に、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基及び芳香族炭化水素基を包含する概念であり、直鎖状、分岐状及び環状のいずれの形態であってもよく、また飽和炭化水素基でも不飽和炭化水素基でもよく、不飽和結合を末端及び非末端のいずれに有していてもよい。R18~R21で示される炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基が好ましく、炭素数1~20(好ましくは1~12、より好ましくは1~4)のアルキル基が好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等が挙げられる。
また、R18及びR19、R18及びR20、R20及びR21がそれぞれ形成していてもよい環としては、シクロヘキサン環、メチルシクロヘキサン環、シクロヘプタン環、シクロオクタン環等の炭素数3~10のシクロアルカン環が挙げられる。
R18~R21における置換基としては、例えば、炭素数1~6のアルキル基、ハロゲン原子を挙げることができる。
【0066】
ポリアジリジン系重合体の具体例としては、例えば、ポリエチレンイミン、ポリプロピレンイミン、ポリ(2,2-ジメチルアジリジン)、ポリ(2,3-ジメチルアジリジン)、ポリ(2,2,3,3-テトラメチルアジリジン)、ポリ(2-エチルアジリジン)、ポリ(2-ヘキシルアジリジン)、ポリ(7-アザビシクロ[4.1.0]ヘプタン)、ポリ(1-アザスピロ[2.5]オクタン)、ポリ(1-メチル-7-アザビシクロ[4.1.0]ヘプタン)、ポリ(3-メチル-7-アザビシクロ[4.1.0]ヘプタン)等を挙げることができる。中でも、ポリエチレンイミン、ポリプロピレンイミンが好ましく、ポリエチレンイミンが特に好ましい。
【0067】
ジアミン系化合物としては、下記(12)又は(13)で表されるものが挙げられる。
【0068】
【0069】
〔式(12)において、
R22は、単結合、エーテル結合、アミド結合、エステル結合、チオ基又は2価の有機基を示し、
R23及びR24は、相互に独立に、置換又は非置換の炭化水素基を示し、
p及びqは、相互に独立に、0~4の整数を示す。
但し、R22が2価の有機基であり、且つp及びqのうち少なくともいずれかが0~3の整数のとき、R22は隣接するフェニレン基と縮合環を形成していてもよい。〕
【0070】
【0071】
〔式(13)において、R25は、置換若しくは非置換の2価の芳香族炭化水素基、又は置換若しくは非置換の2価の含窒素複素環基を示す。〕
【0072】
式(12)において、R22は、単結合、エーテル結合、アミド結合、エステル結合、チオ基又は2価の有機基を示す。これらの中では、単結合、エーテル結合、チオ基、2価の有機基が好ましく、2価の有機基がより好ましい。
2価の有機基としては、置換又は非置換の2価の炭化水素基、当該置換又は非置換の2価の炭化水素基の炭素原子の一部がエーテル結合、アミド結合、エステル結合及びチオ基から選ばれる1種以上に置き換わった基がより好ましく、置換又は非置換の2価の炭化水素基、当該置換又は非置換の2価の炭化水素基の炭素原子の一部がエーテル結合及びエステル結合から選ばれる1種以上に置き換わった基が更に好ましく、置換又は非置換の2価の炭化水素基の炭素原子の一部がエステル結合に置き換わった基が特に好ましい。また、2価の有機基の炭素数としては、1~50が好ましく、2~40がより好ましく、3~30が更に好ましく、5~20が特に好ましい。なお、置換又は非置換の2価の炭化水素基の炭素原子の一部がエーテル結合、アミド結合、エステル結合及びチオ基から選ばれる1種以上に置き換わった基において、エーテル結合、アミド結合、エステル結合、チオ基は1つでもよく、2つ以上でもよい。
R22における「2価の炭化水素基」としては、2価の脂肪族炭化水素基、2価の脂環式炭化水素基、2価の芳香族炭化水素基のいずれでもよい。また、これらが連結した2価の基であってもよい。
上記2価の脂肪族炭化水素基の炭素数としては、1~50が好ましく、2~40がより好ましく、3~30が更に好ましく、5~20が特に好ましい。なお、2価の脂肪族炭化水素基は、直鎖状でも分岐鎖状でもよい。また、2価の脂肪族炭化水素基は分子内に不飽和結合を有していてもよいが、好ましくはアルカンジイル基である。アルカンジイル基の具体例としては、メタン-1,1-ジイル基、エタン-1,1-ジイル基、エタン-1,2-ジイル基、プロパン-1,1-ジイル基、プロパン-1,2-ジイル基、プロパン-1,3-ジイル基、プロパン-2,2-ジイル基、ブタン-1,1-ジイル基、ブタン-1,2-ジイル基、ブタン-1,3-ジイル基、ブタン-1,4-ジイル基、ペンタン-1,1-ジイル基、ペンタン-1,2-ジイル基、ペンタン-1,3-ジイル基、ペンタン-1,4-ジイル基、ペンタン-1,5-ジイル基、ヘキサン-1,1-ジイル基、ヘキサン-1,2-ジイル基、ヘキサン-1,3-ジイル基、ヘキサン-1,4-ジイル基、ヘキサン-1,5-ジイル基、ヘキサン-1,6-ジイル基、ヘプタン-1,7-ジイル基、オクタン-1,8-ジイル基、ノナン-1,9-ジイル基、デカン-1,10-ジイル基等が挙げられる。
上記2価の脂環式炭化水素基の炭素数は、好ましくは3~20であり、より好ましくは3~16であり、更に好ましくは3~12であり、特に好ましくは3~8である。具体的には、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロへキシレン基等のシクロアルキレン基が挙げられる。
上記2価の芳香族炭化水素基の炭素数は、好ましくは6~18であり、より好ましくは6~12である。具体的には、フェニレン基、ナフチレン基、フェナントレン基、アンスリレン基の他、フルオレニレン基(フルオレン環由来の2価の基)等が挙げられる。
なお、2価の脂環式炭化水素基の結合部位及び2価の芳香族炭化水素基の結合部位は、環上のいずれの炭素上でもよい。
R22における置換基としては、例えば、炭素数1~6のアルキル基、ハロゲン原子を挙げることができる。
【0073】
式(12)において、R23及びR24は、相互に独立に、置換又は非置換の炭化水素基を示す。R23及びR24で示される炭化水素基は上記R2~R6と同様に、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基及び芳香族炭化水素基を包含する概念であり、直鎖状、分岐状及び環状のいずれの形態であってもよく、また飽和炭化水素基でも不飽和炭化水素基でもよく、不飽和結合を末端及び非末端のいずれに有していてもよい。R23及びR24で示される炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基が好ましく、炭素数1~20(好ましくは1~12、より好ましくは1~4)のアルキル基が好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等が挙げられる。R23及びR24における置換基としては、例えば、ハロゲン原子を挙げることができる。
式(12)において、p及びqは、相互に独立に、0~4の整数を示す。p、qとしては、0又は1が好ましく、0がより好ましい。なお、pが2~4の整数の場合、p個のR23は同一であっても異なっていてもよく、また、qが2~4の整数の場合、q個のR24は同一であっても異なっていてもよい。
【0074】
式(13)において、R25は、置換若しくは非置換の2価の芳香族炭化水素基、又は置換若しくは非置換の2価の含窒素複素環基を示す。
上記2価の芳香族炭化水素基の炭素数は、好ましくは6~18であり、より好ましくは6~12である。具体的には、フェニレン基、ナフチレン基、フェナントレン基、アンスリレン基の他、フルオレニレン基(フルオレン環由来の2価の基)等が挙げられる。
上記2価の含窒素複素環基の炭素数は、好ましくは4~18であり、より好ましくは4~10である。具体的には、ピリジニレン基(ピリジン環由来の2価の基)、ピリミジニレン基(ピリミジン環由来の2価の基)、アクリジニレン基(アクリジン環由来の2価の基)、カルバゾール環由来の2価の基等が挙げられる。
なお、2価の芳香族炭化水素基の結合部位及び2価の含窒素複素環基の結合部位は、環上のいずれの炭素上でもよい。
R25における置換基としては、例えば、炭素数1~6のアルキル基、ハロゲン原子、カルボキシル基を挙げることができる。
【0075】
ジアミン系化合物の具体例としては、例えば、アジピン酸ビス(4-アミノフェニルエチル)、4,4'-ジアミノジフェニルメタン、4,4'-ジアミノジフェニルスルフィド、2,2'-ジメチル-4,4'-ジアミノビフェニル、2,2'-ビス(トリフルオロメチル)-4,4'-ジアミノビフェニル、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4'-(p-フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、4,4'-(m-フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4'-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、1-(4-アミノフェニル)-2,3-ジヒドロ-1,3,3-トリメチル-1H-インデン-5-アミン、1-(4-アミノフェニル)-2,3-ジヒドロ-1,3,3-トリメチル-1H-インデン-6-アミン、p-フェニレンジアミン、1,5-ジアミノナフタレン、2,7-ジアミノフルオレン、3,5-ジアミノ安息香酸、2,6-ジアミノピリジン、3,4-ジアミノピリジン、2,4-ジアミノピリミジン、3,6-ジアミノアクリジン、3,6-ジアミノカルバゾール等を挙げることができる。
【0076】
ビグアニド系化合物は、分子中に少なくとも1つのビグアニド骨格を有するものであればよく、1つのビグアニド骨格を含む低分子の化合物であっても、ポリヘキサメチレンビグアニドのような、ビグアニド骨格を含む繰り返し単位を複数有する化合物でもよい。中でも、所望の効果を高めるために、1つのビグアニド骨格を含む低分子の化合物が好ましい。1つのビグアニド骨格を含む低分子の化合物としては、下記式(14)で表されるものが挙げられる。
【0077】
【0078】
〔式(14)において、R26は、有機基を示す。〕
【0079】
式(14)において、R26で示される有機基としては、置換又は非置換の炭化水素基が好ましい。
R26で示される炭化水素基は上記R2~R6と同様に、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基及び芳香族炭化水素基を包含する概念であり、直鎖状、分岐状及び環状のいずれの形態であってもよく、また飽和炭化水素基でも不飽和炭化水素基でもよく、不飽和結合を末端及び非末端のいずれに有していてもよい。
上記脂肪族炭化水素基としては、炭素数1~20(好ましくは1~12、より好ましくは1~6、特に好ましくは1~4)のアルキル基が好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等が挙げられる。また、上記脂環式炭化水素としては、炭素数3~20(好ましくは3~12)の脂環式炭化水素基が好ましく、炭素数3~20(好ましくは3~12)のシクロアルキル基がより好ましい。具体的には、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。更に、上記芳香族炭化水素基としては、炭素数6~20(好ましくは6~10)の芳香族炭化水素基が好ましく、炭素数6~20(好ましくは6~10)のアリール基、炭素数7~20(好ましくは炭素数7~16)のアラルキル基がより好ましい。アリール基とは、単環~3環式芳香族炭化水素基をいい、例えば、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、アントラニル基等が挙げられる。アラルキル基の具体例としては、ベンジル基、フェネチル基、α-メチルベンジル基、2-フェニルプロパン-2-イル基等が挙げられる。
これらの中でも、R26における炭化水素基としては、炭素数1~12(更に好ましくは1~6、特に好ましくは1~4)のアルキル基、炭素数6~10のアリール基が好ましく、炭素数6~10のアリール基が特に好ましい。
なお、R26における置換基としては、例えば、炭素数1~6のアルキル基(メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等)、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルコキシ基を挙げることができる。
【0080】
ビグアニド系化合物の好適な具体例としては、例えば、エチルビグアニド、1-ブチルビグアニド、1-オクタデシルビグアニド、フェニルビグアニド、1-o-トリルビグアニド、1-p-トリルビグアニド、1-(2-フェニルエチル)ビグアニド、1-(2,3-キシリル)ビグアニド、1-(4-メトキシフェニル)ビグアニド等を挙げることができる。
【0081】
また、アミノ酸、アミノ酸誘導体としては、公知のアミノ酸、アミノ酸誘導体が挙げられる。また、ペプチド、抗菌薬としては、公知のオリゴペプチド、ポリペプチド、ペプチド構造や第1級アミノ基、第2級アミノ基を含む抗生物質等が挙げられる。
上記アミノ酸誘導体としては、N-アシルアミノ酸が好ましく、N-アルカノイルアミノ酸がより好ましい。N-アルカノイルアミノ酸におけるアルカノイル基としては、炭素数2~10のアルカノイル基が好ましく、炭素数2~6のアルカノイル基がより好ましい。アルカノイル基としては、具体的には、アセチル基、プロピオニル基等が挙げられる。アミノ酸誘導体としては、N-アセチルアミノ酸が特に好ましい。
アミノ酸、アミノ酸誘導体、ペプチド、抗菌薬としては、具体的には、リジン、グリシン、アラニン、グルタミン、グルタミン酸、N-アセチル-L-グルタミン、N-アセチル-L-グルタミン酸、ポリリジン、グリシルグリシン、グリシルサルコシン、グルタチオン、L-アラニル-L-グルタミン、ダプトマイシン、バンコマイシン、コリスチン、アンピリシン、セフジトレンピボキシル、セファロスポリンC、アズトレオナム、チゲモナム、ストレプマイシン、ゲンタマイシン、アルベカシン、ミノサイクリン、トスフロサキシン、トリメトプリム、スルファメトキサゾール、アシクロビル、バラシクロビル、ラミブジン、ナイスタチン等を挙げることができる。
また、アミノ糖、ポリアミノ糖としては、グルコサミン、ガラクトサミン、マンノサミン、ヘキソサミン、キトサン等を挙げることができる。
【0082】
特定部分構造の含有量としては、特定重合体全量に対し、1~60質量%が好ましく、3~55質量%がより好ましく、5~50質量%が特に好ましい。
また、特定ポリマー鎖と特定部分構造との含有量の質量比率としては、40/60~99/1が好ましく、45/55~97/3がより好ましく、50/50~95/5が特に好ましい。
なお、特定部分構造の含有量は熱分解ガスクロマトグラフィー等により測定することができる。
【0083】
また、特定重合体が特定部分構造を有する場合において、特定ポリマー鎖は、その末端が特定部分構造と結合していることが好ましく、特に、その末端が特定部分構造中の特定官能基由来のN原子と結合していることが好ましい。また、特定ポリマー鎖としては、環状エーテル基が開環してなる2価の基を有するものが好ましく、反応性を高めるために、環状エーテル基が開環してなる2価の基をポリマー鎖の末端に有するものがより好ましい。また、特定重合体は、上記環状エーテル基が開環してなる2価の基が、特定部分構造と結合しているものが好ましく、特に、上記環状エーテル基が開環してなる2価の基が、特定部分構造中の特定官能基由来のN原子と結合しているものが好ましい。
環状エーテル基が開環してなる2価の基としては、環を構成する原子数が3~7個の環状エーテル基が開環してなる2価の基が好ましく、式(i-2)~(viii-2)で表される環状エーテル基が開環してなる2価の基がより好ましく、式(i-2)で表される環状エーテル基が開環してなる2価の基(開環エポキシ基)が特に好ましい。なお、式(i-2)~(iv-2)で表される環状エーテル基が開環してなる2価の基は、具体的には下記式(i-3)~(iv-3)で表される。
【0084】
【0085】
〔各式において、「*」は繰り返し単位(1)(特定ポリマー鎖が繰り返し単位(1)及び繰り返し単位(20)を有する場合は繰り返し単位(1)又は(20))と結合する結合手であることを示し、「**」は、特定部分構造中の特定官能基由来のN原子と結合する結合手であることを示す。〕
【0086】
また、繰り返し単位(1)(特定ポリマー鎖が繰り返し単位(1)及び繰り返し単位(20)を有する場合は繰り返し単位(1)又は(20))と環状エーテル基が開環してなる2価の基は、2価の連結基を介して結合していてもよい。
2価の連結基としては、メチレン基、炭素数2~12のアルキレン基が好ましい。アルキレン基は、直鎖状でも分岐鎖状でもよい。2価の連結基としては、具体的には、メチレン基、エチレン基、エタン-1,1-ジイル基、トリメチレン基、プロパン-1,1-ジイル基、プロパン-1,2-ジイル基、プロパン-2,2-ジイル基、テトラメチレン基、ブタン-1,2-ジイル基、ブタン-1,3-ジイル基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基などを挙げることができる。
【0087】
特定重合体は、1種を単独で使用しても2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0088】
特定重合体は、WO2016/013370、WO2017/104676等に記載の公知の方法により製造できる。
【0089】
(化合物(2)等)
本発明の特定組成物は、下記式(2)で表される化合物及びその塩から選ばれる少なくとも1種を含有する。
【0090】
【0091】
〔式(2)において、R27~R34は、相互に独立に、水素原子、ハロ基、シアノ基、アルコキシ基、アルキルスルファニル基、アルキルスルフィニル基又は置換若しくは非置換のアルキル基を示し、R35は、-NR36R37(但し、R36及びR37は、相互に独立に、水素原子、又は置換若しくは非置換の炭化水素基を示す。)で置換されたアルキル基又は含窒素飽和複素環基で置換されたアルキル基を示し、R38は、硫黄原子又は酸素原子を示す。〕
【0092】
式(2)において、R38は、硫黄原子又は酸素原子を示すが、所望の効果を高めるために、硫黄原子が好ましい。
【0093】
式(2)において、R27~R34は、相互に独立に、水素原子、ハロ基、シアノ基、アルコキシ基、アルキルスルファニル基、アルキルスルフィニル基又は置換若しくは非置換のアルキル基を示す。
上記ハロ基としては、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基が挙げられる。これらの中では、クロロ基が好ましい。
上記アルキル基としては、炭素数1~8のアルキル基が好ましく、炭素数1~4のアルキル基がより好ましい。アルキル基は直鎖状でも分岐鎖状でもよく、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基が挙げられる。
また、アルキル基に置換し得る置換基としては、水酸基;フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基等のハロ基が挙げられる。また、この置換基の置換位置及び置換個数は任意であるが、その個数は、好ましくは1~5個であり、より好ましくは1~3個である。置換アルキル基としては、例えば、クロロメチル基、ジクロロメチル基、トリクロロメチル基、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、トリクロロエチル基、トリフルオロエチル基、トリクロロプロピル基、トリフルオロプロピル基等が挙げられる。
上記アルコキシ基としては、炭素数1~8のアルコキシ基が好ましく、炭素数1~4のアルコキシ基がより好ましい。また、当該アルコキシ基は、直鎖状でも分岐鎖状でもよい。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。
上記アルキルスルファニル基、アルキルスルフィニル基に含まれるアルキル基としては、上記R27~R34で示されるアルキル基と同様のものが好ましい。アルキルスルファニル基としては、メチルスルファニル基、エチルスルファニル基、プロピルスルファニル基、ブチルスルファニル基が挙げられる。アルキルスルフィニル基としては、メチルスルフィニル基、エチルスルフィニル基、プロピルスルフィニル基、ブチルスルフィニル基が挙げられる。
【0094】
これらの中でも、R27~R34としては、抗菌性、殺菌性を高めるために、水素原子、ハロ基、アルコキシ基、アルキルスルファニル基、アルキルスルフィニル基又は置換若しくは非置換のアルキル基が好ましく、水素原子、ハロ基、アルキルスルファニル基、又は置換若しくは非置換のアルキル基がより好ましく、水素原子、ハロ基、アルキルスルファニル基、又は置換アルキル基が更に好ましく、水素原子、ハロ基、アルキルスルファニル基、又はハロアルキル基が特に好ましい。
【0095】
また、R27~R34の組み合わせとしては、抗菌性、殺菌性を高めるために、R27、R30、R31及びR34が水素原子であり、R28、R29、R32及びR33が相互に独立に、水素原子、ハロ基、シアノ基、アルコキシ基、アルキルスルファニル基、アルキルスルフィニル基又は置換若しくは非置換のアルキル基である組み合わせが好ましく、R27、R29~R32及びR34が水素原子であり、R28及びR33が相互に独立に、水素原子、ハロ基、シアノ基、アルコキシ基、アルキルスルファニル基、アルキルスルフィニル基又は置換若しくは非置換のアルキル基である組み合わせがより好ましく、R27~R32及びR34が水素原子であり、R33が、水素原子、ハロ基、シアノ基、アルコキシ基、アルキルスルファニル基、アルキルスルフィニル基又は置換若しくは非置換のアルキル基である組み合わせが特に好ましい。
【0096】
式(2)において、R35は、-NR36R37(但し、R36及びR37は、相互に独立に、水素原子、又は置換若しくは非置換の炭化水素基を示す。)で置換されたアルキル基又は含窒素飽和複素環基で置換されたアルキル基を示す。これらR35の中では、抗菌性、殺菌性を高めるために、含窒素飽和複素環基で置換されたアルキル基が好ましい。
-NR36R37又は含窒素飽和複素環基で置換されたR35におけるアルキル基としては、炭素数1~16のアルキル基が好ましく、炭素数1~12のアルキル基がより好ましく、炭素数1~6のアルキル基がより好ましく、炭素数1~4のアルキル基が特に好ましい。アルキル基は直鎖状でも分岐鎖状でもよく、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基が挙げられる。
【0097】
R36及びR37としては、置換又は非置換の炭化水素基が好ましい。
R36及びR37における炭化水素基は上記R2~R6と同様に、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基及び芳香族炭化水素基を包含する概念であり、直鎖状、分岐状及び環状のいずれの形態であってもよく、また飽和炭化水素基でも不飽和炭化水素基でもよく、不飽和結合を末端及び非末端のいずれに有していてもよい。
これらの中でも、脂肪族炭化水素基が好ましく、炭素数1~20(好ましくは1~12、より好ましくは1~6、特に好ましくは1~4)のアルキル基がより好ましい。アルキル基は直鎖状でも分岐鎖状でもよく、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基が挙げられる。
R36及びR37における置換基としては、例えば、ハロ基、カルボキシ基、ヒドロキシ基等が挙げられる。
【0098】
-NR36R37で置換されたアルキル基としては、ジC1~12アルキルアミノC1~12アルキル基、モノC1~12アルキルアミノC1~12アルキル基が好ましく、ジC1~12アルキルアミノC1~12アルキル基がより好ましく、ジC1~6アルキルアミノC1~6アルキル基が更に好ましく、ジC1~4アルキルアミノC1~4アルキル基が特に好ましい。
【0099】
含窒素飽和複素環基としては、置換又は非置換のピペリジニル基、置換又は非置換のピペラジニル基、置換又は非置換のキヌクリジニル基、置換又は非置換のピロリジニル基、置換又は非置換のピラゾリジニル基、置換又は非置換のイミダゾリジニル基、置換又は非置換のアゼパニル基、置換又は非置換のオキソピペリジニル基、置換又は非置換のオキソピロリジニル基、置換又は非置換のオキソアゼパニル基、置換又は非置換のモルホリニル基等が挙げられる。これらの中でも、抗菌性、殺菌性を高めるために、置換又は非置換のピペリジニル基、置換又は非置換のピペラジニル基、置換又は非置換のキヌクリジニル基が好ましい。
これら含窒素飽和複素環基における置換基としては、例えば、水酸基;フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基等のハロ基;メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基等の炭素数1~8(好ましくは炭素数1~4)の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基;ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシn-プロピル基、ヒドロキシイソプロピル基等の炭素数1~8(好ましくは炭素数1~4)の直鎖状又は分岐鎖状のヒドロキシアルキル基等が挙げられる。なお、置換基の置換位置及び置換個数は任意であり、置換基を2個以上有する場合、当該置換基は同一でも異なっていてもよい。
【0100】
含窒素飽和複素環基で置換されたアルキル基としては、2-(1-メチル-2-ピペリジニル)エチル基等のC1~8アルキルピペリジニルC1~12アルキル基;3-(4-ヒドロキシ-1-ピペリジニル)プロピル基等のヒドロキシピペリジニルC1~12アルキル基;3-(4-メチル-1-ピペラジニル)プロピル基、3-(4-エチル-1-ピペラジニル)プロピル基等のC1~8アルキルピペラジニルC1~12アルキル基;3-[4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-1-イル]プロピル基等のヒドロキシC1~8アルキルピペラジニルC1~12アルキル基;キヌクリジン-3-イルメチル基等のキヌクリジニルC1~12アルキル基が好ましく、C1~4アルキルピペリジニルC1~4アルキル基、ヒドロキシピペリジニルC1~4アルキル基、C1~4アルキルピペラジニルC1~4アルキル基、ヒドロキシC1~4アルキルピペラジニルC1~4アルキル基、キヌクリジニルC1~4アルキル基が特に好ましい。
【0101】
化合物(2)の塩としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、硝酸塩、炭酸塩、リン酸塩、硫酸塩、ヨウ化水素酸塩又は亜リン酸塩等の無機酸塩;酢酸塩、プロピオン酸塩、イソ酪酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、安息香酸塩、コハク酸塩、スベリン酸塩、フマル酸塩、マンデル酸塩、フタル酸塩、フェンジゾ酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トリルスルホン酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩又はメタンスルホン酸塩等の有機酸塩が挙げられる。
【0102】
化合物(2)及びその塩から選ばれる少なくとも1種としては、具体的には、プロペリシアジン、トリフルオペラジン、チオリダジン、ペルフェナジン、フルフェナジン、クロルプロマジン、プロマジン、プロクロルペラジン、メソリダジン、トリフルプロマジン、メトトリメプラジン、10-フェニルフェノチアジン、チエチルペラジン、メキタジン及びそれらの塩から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
これらの中でも、抗菌性、殺菌性を高めるために、トリフルオペラジン、チオリダジン、ペルフェナジン、フルフェナジン、クロルプロマジン、プロマジン、プロクロルペラジン、メソリダジン、トリフルプロマジン、メトトリメプラジン、10-フェニルフェノチアジン、チエチルペラジン、メキタジン及びそれらの塩から選ばれる少なくとも1種が好ましく、トリフルオペラジン、チオリダジン、ペルフェナジン、フルフェナジン、クロルプロマジン、プロマジン、プロクロルペラジン、メソリダジン、トリフルプロマジン、メトトリメプラジン、チエチルペラジン、メキタジン及びそれらの塩から選ばれる少なくとも1種がより好ましく、トリフルオペラジン、チオリダジン、ペルフェナジン、フルフェナジン、プロクロルペラジン、トリフルプロマジン、チエチルペラジン、メキタジン及びそれらの塩から選ばれる少なくとも1種が更に好ましく、トリフルオペラジン、チオリダジン、フルフェナジン、プロクロルペラジン、チエチルペラジン及びそれらの塩から選ばれる少なくとも1種が特に好ましい。
化合物(2)及びその塩から選ばれる少なくとも1種は、常法に従い合成したものでも市販品でもよい。
【0103】
化合物(2)及びその塩から選ばれる少なくとも1種は、1種を単独で使用しても2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0104】
そして、後記実施例に示すように、特定重合体と化合物(2)及びその塩から選ばれる少なくとも1種との組み合わせは、感染症の原因となる細菌に対して優れた抗菌・殺菌性を有する。さらに、薬剤耐性菌に対しても優れた抗菌・殺菌性を有する。
したがって、特定重合体と化合物(2)及びその塩から選ばれる少なくとも1種との組み合わせは、感染症の原因となる細菌や薬剤耐性菌をはじめとする種々の菌を抗菌及び/又は殺菌することができ、また、感染症を治療することができるところ、抗菌、殺菌又は抗菌及び殺菌に用いること、感染症の治療に用いることに適する。
【0105】
上記細菌のうち、感染症の原因となる細菌としては、例えば、大腸菌、エンテロバクター属菌、肺炎桿菌、サルモネラ菌、シゲラ属菌、腸球菌、緑膿菌、アシネトバクター・バウマニ、黄色ブドウ球菌、カンピロバクター属菌、ヘリコバクター・ピロリ、レンサ球菌、肺炎球菌等が挙げられる。これらの中でも、大腸菌、黄色ブドウ球菌、腸球菌、肺炎桿菌、緑膿菌又はアシネトバクター・バウマニの抗菌及び/又は殺菌、並びにこれら細菌に起因する感染症治療に適する。
また、上記細菌のうち、薬剤耐性菌としては、例えば、カルバペネム耐性菌、ペニシリン耐性菌、メチシリン耐性菌、バンコマイシン耐性菌、クラリスロマイシン耐性菌、フルオロキノロン耐性菌、セファロスポリン耐性菌、アンプシリン耐性菌、多剤耐性菌、コリスチン耐性菌等が挙げられる。これらの中でも、カルバペネム耐性菌、メチシリン耐性菌、バンコマイシン耐性菌又は多剤耐性菌の抗菌及び/又は殺菌、並びにこれら細菌に起因する感染症治療に適する。
より具体的には、薬剤耐性菌としては、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、多剤耐性アシネトバクター(MDRA)、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)、カルバペネム耐性腸内細菌科細菌、カルバペネム耐性肺炎桿菌(CRE)、多剤耐性緑膿菌(MDRP)、バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(VRSA)、ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)、コリスチン耐性腸内細菌科細菌等が挙げられる。
また、適用対象となる感染症としては、敗血症、肺炎、肺膿瘍、慢性呼吸器病変の二次感染、膀胱炎、腎盂腎炎、前立腺炎、尿道炎、子宮頚管炎、腹膜炎、腹腔内膿瘍、胆嚢炎、胆管炎、バルトリン腺炎、子宮内感染、子宮付属器炎、子宮旁結合織炎、化膿性髄膜炎、角膜炎(角膜潰瘍を含む)、中耳炎、副鼻腔炎等が挙げられる。
【0106】
また、特定重合体と化合物(2)及びその塩から選ばれる少なくとも1種との組み合わせは、抗菌用、殺菌用又は抗菌及び殺菌用組成物、並びに感染症治療用組成物となり得、抗菌、殺菌又は抗菌及び殺菌、並びに感染症治療のために使用することができ、また、抗菌用、殺菌用又は抗菌及び殺菌用組成物、並びに感染症治療用組成物を製造するために使用できる。
ここで、上記「使用」は、ヒト若しくは非ヒト動物への投与又は摂取であり得、また治療的使用であっても非治療的使用であってもよい。なお、「非治療的」とは、医療行為を含まない概念、すなわち人間を手術、治療又は診断する方法を含まない概念、より具体的には、医師又は医師の指示を受けた者が人間に対して手術、治療又は診断を実施する方法を含まない概念である。
【0107】
本発明の特定組成物は、抗菌、殺菌又は抗菌及び殺菌や感染症治療に有効な医薬品、医薬部外品若しくは化粧品として、又は医薬品、医薬部外品若しくは化粧品に配合する素材として使用可能であるが、好ましくは医薬組成物である。
本発明の特定組成物をヒト若しくは非ヒト動物へ投与又は摂取させる場合、その適用手段は、経口、非経口(経皮、皮下、静脈内、動脈内、筋肉内、腹腔内、経粘膜、吸入、経鼻、点眼、点耳、膣内投与等)のいずれでもよいが、経口、注射、経鼻が好ましい。
本発明の特定組成物を経口投与する場合、その剤形としては、錠剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、丸剤、カプセル剤、ドライシロップ剤等の固形製剤;半固形製剤;水剤、懸濁剤、シロップ剤、エリキシル剤等の液状製剤等が挙げられる。また、特定組成物は、化合物(2)及びその塩から選ばれる少なくとも1種を含有する固形製剤を特定重合体でコーティングした形態であってもよい。
本発明の特定組成物を非経口投与する場合の好ましい剤形は、水性又は油性懸濁注射剤、点鼻液である。
本発明の特定組成物が医薬組成物である場合、特定重合体及び化合物(2)等に加えて、抗菌・殺菌作用の増強若しくは補強又は投与量の低減等を目的として、その他の薬剤(例えば、他の抗菌薬、β-ラクタマーゼ阻害剤等)と併用、すなわち組み合わせて用いることができる。これらの含有量は特に限定されない。
また、本発明の特定組成物が医薬品、医薬部外品又は化粧品である場合、製剤原料として、賦形剤、結合剤、充填剤、崩壊剤、滑沢剤、甘味剤、矯味剤、防腐剤、キレート剤、抗酸化剤、清涼化剤、コーティング剤、保存剤、懸濁化剤、安定化剤、流動化剤、粘稠剤、溶解補助剤、増粘剤、緩衝剤、香料、着色剤、吸着剤、湿潤剤、防湿剤、帯電防止剤、可塑剤、消泡剤、水性溶剤、油性溶剤、界面活性剤、乳化剤等の添加剤を含有していてもよい。具体的には、結合剤(例えば、トウモロコシでん粉等)、充填剤(例えば、ラクトース、微結晶性セルロース等)、崩壊剤(例えば、でん粉グリコール酸ナトリウム等)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム等)等が挙げられる。これらの含有量は特に限定されない。
【0108】
また、特定重合体と化合物(2)及びその塩から選ばれる少なくとも1種との組み合わせは、医薬品、医薬部外品及び化粧品以外の抗菌及び/又は殺菌に用いることもできる。例えば、抗菌及び/又は殺菌のためのコーティング材料として使用することができ、また、抗菌性及び/又は殺菌性を付与したプラスチック、フィルム、繊維、ゴム、セラミックス、ガラス等の材料とすることができる。
【0109】
抗菌及び/又は殺菌のためのコーティング材料は、例えば、医療機器、医療器具等医療用品のコーティング材料;トイレ用品、キッチン用品等日用品のコーティング材料;パソコン、エアコン、冷蔵庫等の家電製品のコーティング材料;住宅の内壁や床材、病院、高齢者施設、食品工場等における内装塗料の他、船体やタッチスクリーンパネルのコーティング材料として使用することができる。
また、抗菌性及び/又は殺菌性を付与したプラスチック、フィルム、繊維、ゴム、セラミックス、ガラス等の材料は、例えば、マスク、手術着、手術用覆布、血液バック、創傷被覆材等の医療用品;ベットシーツ、タオル、ゴミ箱、三角コーナー、椅子等の日用品;スマートフォン、タブレット端末、カーナビ等のタッチパネル機器に使用することができる。また、壁紙、タイル、ドアノブ等の建築資材;飲食品、医療器具の包装材(ペットボトル等)として使用することができる。
抗菌及び/又は殺菌のためのコーティング材料とする場合や抗菌性及び/又は殺菌性を付与したプラスチック、フィルム、繊維、ゴム、セラミックス、ガラス等の材料とする場合における特定重合体と化合物(2)及びその塩から選ばれる少なくとも1種以外の成分としては、WO2017/104676等に記載のものが挙げられる。
【0110】
(感染症治療方法)
ここで、本発明の感染症治療方法について更に具体的に説明する。
本発明の感染症治療方法は、特定重合体と化合物(2)及びその塩から選ばれる少なくとも1種とを組み合わせて使用するものであればよく、これら活性成分の投与時期、投与形態は限定されない。すなわち、2つ以上の活性成分は投与対象に対し、同時に投与してもよいし、時間差をおいて別々に投与してもよい。また、2つ以上の活性成分を含む単一の製剤として投与されてもよいし、それぞれの活性成分を含む2種類以上の製剤として投与されてもよい。
また、投与方法(例えば、投与経路、用量、回数など)は、標的とする感染症の種類、状態、及び患者の種、年齢、状態などに応じて適宜決定することができる。投与経路の例としては、注射、カテーテル、噴霧、塗布、貼付、坐剤等による局所投与;輸液、経口、腹腔内、静脈注射等による全身投与などが挙げられる。投与量は、患者の年齢、体重、疾病の種類や程度、投与経路等を考慮した上で設定することが望ましいが、経口投与する場合、通常0.5~300mg/kg/日であり、好ましくは1~50mg/kg/日の範囲内である。非経口投与の場合には、それぞれの成分に関して通常0.5~300mg/kg/日であり、好ましくは1~50mg/kg/日の範囲内である。なお、この投与量を一度に投与しても分割して投与してもよい。
【0111】
(抗菌方法、殺菌方法又は抗菌及び殺菌方法)
ここで、本発明の抗菌及び/又は殺菌方法について更に具体的に説明する。
本発明の抗菌及び/又は殺菌方法は、特定重合体と、化合物(2)等とを組み合わせて使用するものであればよく、ヒトや非ヒト動物以外にも適用できる。ヒトや非ヒト動物以外の対象物としては、例えば、フィルム、樹脂基板、繊維、セラミックス、金属、ガラス、木材等の基材;壁、床、天井等の内装;カテーテル、輸液チューブ、血液バッグ、ドレッシング材等の医療器具;食器等の食卓用又は台所用器具;コンタクトレンズ等が挙げられる。
また、特定重合体と化合物(2)及びその塩から選ばれる少なくとも1種との組み合わせを含む液状組成物を、スプレー等を用いて対象物に散布する工程を含む方法により、対象物に抗菌性及び/又は殺菌性を付与したり、対象物を殺菌したりすることもできる。
【0112】
また、特定重合体と化合物(2)及びその塩から選ばれる少なくとも1種との組み合わせを含む液状組成物中に対象物を浸漬させる工程を含む方法により、対象物を殺菌・消毒することができる。特定重合体と化合物(2)及びその塩から選ばれる少なくとも1種との組み合わせを含む液状組成物を不織布に含浸させて、対象物をふき取る工程を含む方法により、対象物を殺菌・消毒することもできる。
また、特定重合体と化合物(2)及びその塩から選ばれる少なくとも1種との組み合わせを含む洗浄剤を用いて対象物を洗浄する工程を含む方法により、対象物の洗浄に加え抗菌及び/又は殺菌することもできる。この際、洗浄剤の形態は特に限定されず、固体でも液状でもよい。
また、特定重合体と化合物(2)及びその塩から選ばれる少なくとも1種との組み合わせを、インプラント等の立体的な造形物を製造するための組成物に添加することにより、抗菌性や殺菌性が付与された造形物を製造することができる。また、上記のように製造された造形物の表面に特定重合体と化合物(2)及びその塩から選ばれる少なくとも1種との組み合わせが添加されたコーティング材料を用いてコーティングしてもよい。
また、特定重合体と化合物(2)及びその塩から選ばれる少なくとも1種との組み合わせを有機高分子材料と配合する工程を含む方法により、抗菌性及び/又は殺菌性を付与したプラスチック、フィルム、繊維、ゴム等の材料とすることができる。
より具体的には、本発明の抗菌及び/又は殺菌方法は、WO2017/104676に記載の方法と同様にして実施することができる。
【実施例0113】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0114】
以下の「重合体の合成」で使用した原料等の略称は、次のとおりである。
THF :テトラヒドロフラン
PGMEA:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
LDA :リチウムジイソプロピルアミド
MMA :メチルメタクリレート
nBMA :ノルマルブチルメタクリレート
DAMA :ジメチルアミノエチルメタクリレート
EHMA :2-エチルヘキシルメタクリレート
GMA :グリシジルメタクリレート
【0115】
<Mw及びMw/Mnの測定>
以下の各合成例で測定したMw及びMnは、下記仕様のゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算の測定値である。
装置 :GPC-104(昭和電工株式会社製)。
カラム:LF-604を3本とKF-602を結合して用いた。
移動相:THF
温度 :40℃
流量 :0.6mL/min.
【0116】
<重合体の合成>
合成例1
300mLフラスコにTHF125mL、塩化リチウム1.31gを加え、-60℃まで冷却した。東京化成社製のLDA溶液(濃度2.0mol/L)17.5mLを加え、5分間撹拌後、GMA(5.0g)を加えて15分間撹拌した。MMA7.5g、nBMA5g、EHMA7.5g、DAMA30gの混合液を滴下し、15分間反応を継続した。その後GCを測定し、モノマーの消失を確認した後、エタノール5gを加えて反応を停止した。その後、減圧濃縮により、40質量%濃度のPGMEA溶液に調整した。このようにして、末端にGMA由来構造を有し、DAMA、MMA、nBMA及びEHMA由来の繰り返し単位を有するランダム共重合体a-1を得た。得られた重合体のMwは1420であり、Mw/Mnは1.2であった。
次いで、得られた40質量%の共重合体溶液100.0gにポリエチレンイミン600を14.4g、トリフェニルホスフィンを0.2g、及びプロピレングリコールモノメチルエーテルを30.0g加え70℃で20時間反応を行い共重合体a-1とポリエチレンイミンとを反応させた。次いで、ベンジルクロライドを13.1g添加し、その後ゆるやかに攪拌して、共重合体溶液の温度を75℃に上昇させ、この温度を8時間保持して、DAMA由来のジメチルアミノ基を部分的に4級アンモニウム化した。反応溶液をHPLCにて測定し、ベンジルクロライド由来のピークが消失していることを確認した。このようにして、ポリエチレンイミン側鎖に、DAMA、MMA、nBMA及びEHMA由来の繰り返し単位を有し、その一部が4級アンモニウム化されたランダム共重合体を得た。得られた共重合体を「重合体(A-1)」とする。
【0117】
合成例2
300mLフラスコにTHF125mL、塩化リチウム1.14gを加え、-60℃まで冷却した。LDA溶液(濃度2.0mol/L)15mLを加え、5分間撹拌後、イソ酪酸メチル3.0gを加えて15分間撹拌した。MMA7.5g、nBMA5g、EHMA7.5g及びDAMA30gの混合液を滴下し、15分間反応を継続した。その後GCを測定し、モノマーの消失を確認した後、エピクロロヒドリン2.8gを加えて反応を停止した。その後、精製工程を経たのち、減圧濃縮により40質量%濃度のPGMEA溶液に調整した。このようにして、末端にエポキシ基を有し、DAMA、MMA、nBMA及びEHMA由来の繰り返し単位を有するランダム共重合体a-2を得た。得られた重合体のMwは1400であり、Mw/Mnは1.2であった。
次いで、得られた40質量%の共重合体溶液100.0gにポリエチレンイミン600を13.9g及びプロピレングリコールモノメチルエーテルを40.0g加え70℃で30時間反応を行い共重合体a-2とポリエチレンイミンとを反応させた。次いで、ベンジルクロライドを14.8g添加し、その後ゆるやかに攪拌して、共重合体溶液の温度を75℃に上昇させ、この温度を8時間保持して、DAMA由来のジメチルアミノ基を部分的に4級アンモニウム化した。反応溶液をHPLCにて測定し、ベンジルクロライド由来のピークが消失していることを確認した。このようにして、ポリエチレンイミン側鎖に、DAMA、MMA、nBMA及びEHMA由来の繰り返し単位を有し、その一部が4級アンモニウム化されたランダム共重合体を得た。得られた共重合体を「重合体(A-2)」とする。
【0118】
合成例3
300mLフラスコにTHF125mL、塩化リチウム1.14gを加え、-60℃まで冷却した。LDA溶液(濃度2.0mol/L)15mLを加え、5分間撹拌後、イソ酪酸メチル3.0gを加えて15分間撹拌した。MMA7.5g、nBMA5g、EHMA7.5g及びDAMA30gの混合液を滴下し、15分間反応を継続した。その後GCを測定し、モノマーの消失を確認した後、エタノール1.4gを加えて反応を停止した。その後、精製工程を経たのち、減圧濃縮により40質量%濃度のPGMEA溶液に調整した。このようにして、DAMA、MMA、nBMA及びEHMA由来の繰り返し単位を有するランダム共重合体を得た。得られた重合体のMwは1400であり、Mw/Mnは1.18であった。
次いで、得られた40質量%の共重合体溶液100.0gにプロピレングリコールモノメチルエーテルを40.0g加えた後、ベンジルクロライドを14.8g添加し、その後ゆるやかに攪拌して、共重合体溶液の温度を75℃に上昇させ、この温度を8時間保持して、DAMA由来のジメチルアミノ基を部分的に4級アンモニウム化した。反応溶液をHPLCにて測定し、ベンジルクロライド由来のピークが消失していることを確認した。このようにして、DAMA、MMA、nBMA及びEHMA由来の繰り返し単位を有し、その一部が4級アンモニウム化されたランダム共重合体を得た。得られた共重合体を「重合体(A-3)」とする。
【0119】
得られた重合体(A-1)~(A-3)溶液10gをそれぞれ、ヘキサン500mlに2時間かけて滴下し、得られた沈殿物を40℃の真空乾燥で24時間乾燥を行った。このようにして得られた粉末を抗菌・殺菌性試験に用いた。
【0120】
<抗菌・殺菌性試験>
実施例1
(液体培地の調製)
培地(Mueller Hinton II)を30.4g測り取り、800mLの滅菌水に溶解させ、121℃、2気圧で15分間、オートクレーブ処理した。
【0121】
(菌液の調製)
上記「液体培地の調製」で得られた液体培地1mLに以下の(1)~(8)の菌をそれぞれ懸濁させOD600を測定し、菌量が1×108cfu/mLとなるように液体培地を加えることで、各菌液を調製した。菌は国立感染症研究所所有のものを用いた。
(1)E. coli (薬剤感受性株、DH5α)
(2)S. aureus (薬剤感受性株、ATCC29213)
(3)E. coli (Carbapenem耐性株(CRE)、MRY13-0331)
(4)Enterococcus faecium (Vancomycin耐性株(VRE)、MRY05-0006)
(5)Klebsiella pneumoniae (Carbapenem耐性株(CRE)、MRY12-0017)
(6)A. baumannii (多剤耐性株(MDRA)、MRY12-0277)
(7)Pseudomonas aeruginosa (M多剤耐性株(MDRP)、MRY09-1249)
(8)MRSA(S.aureusメチシリン耐性株、MRY04-1385)
【0122】
(測定)
チオリダジンをDMSOに溶解し、10mMのチオリダジンDMSO溶液を調製した。このチオリダジン溶液10μLを、上記で調製した液体培地990μLに加え、チオリダジンの濃度を100μMとした。
次に、重合体(A-2)を水に溶解し、102.4mg/mLの重合体水溶液を調製した。この重合体水溶液2μLを、上記で調製したチオリダジンを100μM含有する液体培地198μLに加え、重合体の濃度を1024μg/mLとした。この溶液を96ウェルプレートのウェル中で、上記で調製したチオリダジンを100μM含有する液体培地を用いて2倍希釈していき、1024μg/mL~0.0625μg/mLの希釈系列を作製した。
次いで、上記で調製した菌液5μLを各ウェルに添加し、37℃、16時間インキュベートした。その後、各ウェルの濁度を目視で判別し、菌の生育状態を確認した。濁りがなく抗菌・殺菌されていると目視で判断された希釈系列の濃度を、表1に示す。
【0123】
実施例2~7及び比較例1~5
実施例1において、重合体(A-2)とチオリダジンに代えて、表1に示す重合体と化合物を用いた以外は、実施例1と同様にして抗菌・殺菌性を評価した。表1に評価結果を示す。
【0124】
【0125】
<OD測定による抗菌活性測定>
(液体培地の調製)
培地(Mueller Hinton II)を22g測り取り、1Lの滅菌水に溶解させ、121℃、2気圧で15分間、オートクレーブ処理した。
【0126】
(菌液の調製)
上記「液体培地の調製」で得られた液体培地1mLに、E.coli (薬剤感受性株、DH5α)を懸濁させOD600を測定し、菌量が1×108cfu/mL(OD=0.1)となるように液体培地を加えることで、菌液を調製した。菌は国立感染症研究所所有のものを用いた。
【0127】
(測定)
実施例8~15及び比較例6~9
重合体(A-2)を水に溶解し、10mg/mLの重合体水溶液を調製した。また、表2に示すフェノチアジン誘導体をそれぞれDMSOに溶解し、10mMのフェノチアジン誘導体DMSO溶液を調製した。上記で調製した液体培地6mLに対して、上記重合体(A-2)の水溶液を0.9375μL加え混合した溶液(重合体濃度16μg/mL)を25μLずつ96ウェルプレートに分注した。さらに、液体培地198μLに対して上記フェノチアジン誘導体のDMSO溶液(実施例8~15及び比較例6~8)又はDMSO(比較例9)を2μL加え混合した溶液(フェノチアジン誘導体濃度100μM)をそれぞれ25μLずつ、上記96ウェルプレートの各ウェルに添加した。さらに、液体培地10mLに対して、上記で調製した菌液を100μL加え混合した溶液を50μLずつ、上記96ウェルプレートの各ウェルに添加し、37℃、20時間インキュベートした。各ウェルにおける重合体(A-2)の最終濃度は4μg/mL、フェノチアジン誘導体の最終濃度は25μM(実施例8~15及び比較例6~8)又は0μM(比較例9)である。その後、Nivoマイクロプレートリーダー(Perkin elmer社)を用いて、各ウェルにおける600nmのOD値を測定した。測定結果を表2に示す。
【0128】
比較例10~18
表2に示すフェノチアジン誘導体をそれぞれDMSOに溶解し、10mMのフェノチアジン誘導体DMSO溶液を調製した。上記で調製した液体培地を25μLずつ96ウェルプレートに分注した。また、液体培地198μLに対して上記フェノチアジン誘導体のDMSO溶液(比較例11~18)又はDMSO(比較例10)を2μL加え混合した溶液(フェノチアジン誘導体濃度100μM)をそれぞれ25μLずつ、上記96ウェルプレートの各ウェルに添加した。さらに、液体培地10mLに対して、上記で調製した菌液を100μL加え混合した溶液を50μLずつ、上記96ウェルプレートの各ウェルに添加し、37℃、20時間インキュベートした。その後、実施例8等と同様にして抗菌活性を測定した。測定結果を表2に示す。
【0129】
また、実施例8~15及び比較例6~8においては、(1-各実施例又は比較例のOD値/比較例9のOD値)×100を計算することにより、各実施例及び比較例の大腸菌増殖抑制率を算出した。一方、比較例11~18においては、(1-各比較例のOD値/比較例10のOD値)×100を計算することにより、各比較例の大腸菌増殖抑制率を算出した。この値についても表2に示す。なお、上記計算式により算出される値がマイナスである場合、大腸菌増殖抑制率はゼロとした。
【0130】