(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114237
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】芳香族チオール化合物の精製方法
(51)【国際特許分類】
C07C 319/28 20060101AFI20240816BHJP
C07C 321/26 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
C07C319/28
C07C321/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023019879
(22)【出願日】2023-02-13
(71)【出願人】
【識別番号】000107561
【氏名又は名称】スガイ化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】峯山 健治
(72)【発明者】
【氏名】風神 豊
(72)【発明者】
【氏名】巽 大河
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AD15
4H006AD17
4H006AD30
4H006BB31
4H006BC51
4H006TA04
(57)【要約】
【課題】通常のチオール化合物に比べて、酸化(またはジスルフィド化)により多量体を形成し易い芳香族チオール化合物を、容易にまたは効率よく精製する方法(または高純度な芳香族チオール化合物を容易にまたは効率よく製造する方法)を提供する。
【解決手段】芳香族環に少なくとも1つのメルカプト基が置換した芳香族チオール化合物と、塩基成分と、水性溶媒とを混合する塩基混合工程と、
この塩基混合工程で得られた混合物から、不溶物を除去する分離工程と、
この分離工程で得られた溶液に、酸成分を混合する酸混合工程とを含む方法により、前記芳香族チオール化合物を精製する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族環に少なくとも1つのメルカプト基が置換した芳香族チオール化合物の精製方法であって、
前記芳香族チオール化合物と、塩基成分と、水性溶媒とを混合する塩基混合工程と、
この塩基混合工程で得られた混合物から、不溶物を除去する分離工程と、
この分離工程で得られた溶液に、酸成分を混合する酸混合工程とを含む、精製方法。
【請求項2】
前記水性溶媒が、水およびアルコールから選択された少なくとも一種を含む請求項1記載の精製方法。
【請求項3】
前記水性溶媒の割合が、前記芳香族チオール化合物100質量部に対して、100~3000質量部である請求項1または2記載の精製方法。
【請求項4】
前記塩基混合工程において、還元剤および/または重合禁止剤の存在下で混合する請求項1または2記載の精製方法。
【請求項5】
前記還元剤および/または重合禁止剤が、少なくとも水素化ホウ素アルカリ金属類を含む請求項4記載の精製方法。
【請求項6】
前記還元剤および重合禁止剤の総量の割合が、前記芳香族チオール化合物のメルカプト基1モルに対して、0.001~0.1モルである請求項4記載の精製方法。
【請求項7】
前記塩基成分が、少なくともアルカリ金属水酸化物を含む請求項1または2記載の精製方法。
【請求項8】
前記塩基成分の割合が、前記芳香族チオール化合物のメルカプト基1モルに対して、1~2モルである請求項1または2記載の精製方法。
【請求項9】
前記塩基混合工程で得られた混合物を、50℃以上の温度に加熱する請求項1または2記載の精製方法。
【請求項10】
前記塩基混合工程において、不活性ガス雰囲気下で混合する請求項1または2記載の精製方法。
【請求項11】
収率が、85モル%以上である請求項1または2記載の精製方法。
【請求項12】
前記芳香族チオール化合物の含量が、精製前の粗生成物において85質量%以上であり、精製後の精製物において95質量%以上である請求項1または2記載の精製方法。
【請求項13】
前記芳香族チオール化合物が、C6-14芳香族炭化水素環に少なくとも1つのメルカプト基が置換したチオール化合物である請求項1または2記載の精製方法。
【請求項14】
前記芳香族チオール化合物が、ナフタレン環の1,6-位、2,6-位および2,7-位からなる群より選択されるいずれかの置換位置にメルカプト基を有するナフタレンチオール化合物である請求項1または2記載の精製方法。
【請求項15】
前記芳香族チオール化合物の多量体の含有量を低減する請求項1または2記載の精製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メルカプト基(チオール基)で置換された芳香族チオール化合物[特に、ナフタレン環(またはナフタレン骨格)の1~8-位から選択された少なくとも1つの置換位置がメルカプト基(チオール基)で置換されたナフタレンチオール化合物など]の精製方法(または高純度なナフタレンチオール化合物などの芳香族チオール化合物の製造方法)に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族チオール化合物、特に、ナフタレンチオール化合物またはその誘導体は、光学材料、電気電子材料、薬剤などの様々な分野において、機能性材料またはその原料もしくは反応中間体などとして利用されている。
【0003】
特表2008-527413号公報(特許文献1)には、透光性基材と、基材に結合された所定のハードコート層とを含むディスプレイについて開示されている。この文献の実施例12には、2,7-ジヒドロキシナフタレンと塩化ジメチルチオカルバモイルとを反応させ、生成したジメチル-チオカルバミン酸O-(7-ジメチルチオカルバモイルオキシ-ナフタレン-2-イル)エステルを乾燥加熱して冷却し、固形分を酢酸エチルから再結晶してジメチル-チオカルバミン酸S-(7-ジメチルカルバモイルスルファニル-ナフタレン-2-イル)エステルを得た後、得られた化合物をエタノールとカリウム溶液との水中の混合物に添加して還流で加熱し、冷却後に水で希釈して塩酸で酸性化し、固形分をろ過、乾燥して、2,7-ナフタレンジチオールを得たことが記載されている。
【0004】
また、特開2005-179289号公報(特許文献2)には、光酸発生剤として期待できるスルホニウム塩や他の硫黄含有化合物の原料として有用性の高いナフタレン骨格に直接-SH基(メルカプト基またはチオール基)が導入された新規なチオール化合物として、6-アルコキシ-2-ナフタレンチオールについて開示されている。この文献の実施例3では、6-n-ブチルオキシナフタレン-2-スルホニルクロライドのトルエン溶液に還元剤としての亜鉛パウダーおよび塩酸を加えて還元した後、未反応亜鉛の除去、有機層の純水による洗浄、トルエンの除去を経て乾固状態とし、n-ヘプタンに50℃で完全に溶解してから10℃まで冷却して晶析し、ろ過した湿体を減圧乾燥して6-n-ブチルオキシ-2-ナフタレンチオールを調製したことが記載されている。
【0005】
なお、編者:社団法人日本化学会、発行所:丸善株式会社、「第4版 実験化学講座24 有機合成VI-ヘテロ元素・典型金属元素化合物-」、平成6年10月30日第2刷発行(非特許文献1)、大饗 茂、「メルカプタン類の反応」、有機合成化学協会誌、1968年、第26巻、第4号、第327~341頁(非特許文献2)には、チオール化合物の酸化によるジスルフィド体の形成性(または酸化され易さ)について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2008-527413号公報(請求項1および6、[0031][0038]、実施例12)
【特許文献2】特開2005-179289号公報(請求項1および4、実施例3)
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】編者:社団法人日本化学会、発行所:丸善株式会社、「第4版 実験化学講座24 有機合成VI-ヘテロ元素・典型金属元素化合物-」、平成6年10月30日第2刷発行(第330頁 b.ジスルフィド(i))
【非特許文献2】大饗 茂、「メルカプタン類の反応」、有機合成化学協会誌、1968年、第26巻、第4号、第327~341頁(第336頁 V.ジスルフィドへの酸化)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の実施例12において、2,7-ナフタレンジチオールは、多段階の反応工程を経て、最終目的物である2,7-ビス(2-アクリロイルオキシエチルチオ)ナフタレンを調製するための反応中間体として調製されている。そのためか、ろ過、乾燥して得られた2,7-ナフタレンジチオールは、特に精製されることなく、次工程でエチレンカーボネートとの反応に供されたことが記載されている。
【0009】
また、特許文献2の実施例3では、還元反応で生成した6-n-ブチルオキシ-2-ナフタレンチオールを、n-ヘプタン中での晶析により精製したことが記載されている。
【0010】
しかし、チオール化合物は空気中などで容易に酸化してメルカプト基がジスルフィド化し、二量体などの多量体(ジスルフィド体)を形成し易い。また、多量体(特に、二量体など)では、元のチオール化合物と同程度の結晶性(または有機溶媒に対する溶解性)を示すことがあるためか、晶析(または結晶化)により精製しても、チオール化合物とその多量体などの不純物とを分離し難く、十分に高純度化できない場合がある。さらに、不純物量を低減しようとするほど、収率は低下し易く、通常、高純度と高収率とはトレードオフの関係にあるため、より一層高純度なチオール化合物を高い収率で容易にまたは効率よく製造するのは極めて困難であった。
【0011】
なお、非特許文献1には、チオール化合物の酸化のされ易さ(ジスルフィド体の形成し易さ)について、ベンゼンチオール>第一級チオール>第二級チオール>第三級チオールの順であること、酸化は空気中の酸素によっても進行し、アルカリ条件下では加速されることなどが記載されている(第330頁 b.ジスルフィド(i))。
【0012】
また、非特許文献2にも、チオール化合物(メルカプタン)の酸化における様々な要因について記載されている(第336~339頁 V.ジスルフィドへの酸化)。例えば、第336~337頁 V.1.空気酸化の項には、チオール化合物は、触媒の有無にかかわらず酸素によって低温で酸化されてジスルフィドを形成すること、すなわち、チオール化合物の解離によりチオラート(チオラートイオンまたはチオラートアニオン)がまず生成し、このチオラートが酸素と電子移動を起こしてチイルラジカルが生成し、このチイルラジカルの二量化によりジスルフィドが生成することが開示されている。また、この反応経路のために、アルカリの存在化では反応が早く進行することや、アルキルアミンがアルカリと同じ触媒作用をすること、反応の律速段階であるチオラートイオンと酸素との電子移動の反応性が、一般的に、ArSH>HO2CCH2SH>RCH2SH>R2CHSH>R3CSHとなることなども記載されている。
【0013】
さらに、非特許文献2には、空気酸化以外にもチオール化合物は、オクタン酸第2鉄などの鉄塩によって酸化されてジスルフィドを形成し、この反応でもアリールメルカプタンの方が脂肪族メルカプタンよりも一桁早く反応すること(第338頁 V.2.金属酸化物などによる酸化);テトラメチレンスルホキシドやフェニルメチルスルホキシドなどのスルホキシドとの反応でもジスルフィドを形成し、前者との反応では、ベンゼンチオール>2-メチルベンゼンチオール>α-トルエンチオール>1-ドデカンチオールの順に反応性(酸化され易さ)が低下し、アミンによって触媒作用をうけること、後者との反応でも、ArSH>RCH2SH>RR’R’’CSHの順に酸化され易さが低下することなどが記載されている(第338~339頁 V.3.スルホキシドおよびN-オキシドによる酸化)。
【0014】
このように、ベンゼン環などの芳香族環にメルカプト基が直接結合したチオール化合物(芳香族チオール化合物またはチオフェノール系化合物)では、第一級~第三級チオール化合物などと比べて酸化され易い(またはメルカプト基の活性が高い)ため、生成する二量体などの多量体の混入を抑制するのは特に困難であった。
【0015】
従って、本発明の目的は、通常のチオール化合物に比べて、酸化(またはジスルフィド化)により多量体を形成し易いナフタレンチオール化合物などの芳香族チオール化合物を容易にまたは効率よく精製する方法(または高純度なナフタレンチオール化合物などの芳香族チオール化合物を容易にまたは効率よく製造する方法)を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、芳香族チオール化合物(ナフタレン環などの芳香族環にメルカプト基が直接結合したチオール化合物)を特定の工程により精製すると、より酸化を促進する塩基性(またはアルカリ性)条件下の工程を経るにもかかわらず、意外にも多量体含量を増加させることなく、逆に不純物量を低減できることを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は、下記態様などを包含していてもよい。
【0017】
態様[1]:芳香族環に少なくとも1つのメルカプト基が置換した芳香族チオール化合物の精製方法であって、
前記芳香族チオール化合物と、塩基成分と、水性溶媒とを混合する塩基混合工程と、
この塩基混合工程で得られた混合物から、不溶物を除去する分離工程と、
この分離工程で得られた溶液に、酸成分を混合する酸混合工程とを含む、精製方法。
【0018】
態様[2]:前記水性溶媒が、水およびアルコールから選択された少なくとも一種を含む態様[1]記載の精製方法。
【0019】
態様[3]:前記水性溶媒の割合が、前記芳香族チオール化合物100質量部に対して、100~3000質量部である態様[1]または[2]記載の精製方法。
【0020】
態様[4]:前記塩基混合工程において、還元剤および/または重合禁止剤の存在下で混合する(さらに、還元剤および/または重合禁止剤を混合する)態様[1]~[3]のいずれかに記載の精製方法。
【0021】
態様[5]:前記還元剤および/または重合禁止剤が、少なくとも水素化ホウ素アルカリ金属類を含む態様[4]記載の精製方法。
【0022】
態様[6]:前記還元剤および重合禁止剤の総量の割合が、前記芳香族チオール化合物のメルカプト基1モルに対して、0.001~0.1モルである態様[4]または[5]記載の精製方法。
【0023】
態様[7]:前記塩基成分が、少なくともアルカリ金属水酸化物を含む態様[1]~[6]のいずれかに記載の精製方法。
【0024】
態様[8]:前記塩基成分の割合が、前記芳香族チオール化合物のメルカプト基1モルに対して、1~2モルである態様[1]~[7]のいずれかに記載の精製方法。
【0025】
態様[9]:前記塩基混合工程で得られた混合物を、50℃以上の温度に加熱する態様[1]~[8]のいずれかに記載の精製方法。
【0026】
態様[10]:前記塩基混合工程において、不活性ガス雰囲気下で混合する態様[1]~[9]のいずれかに記載の精製方法。
【0027】
態様[11]:収率が、85モル%以上である態様[1]~[10]のいずれかに記載の精製方法。
【0028】
態様[12]:前記芳香族チオール化合物の含量が、精製前の粗生成物において85質量%以上であり、精製後の精製物において95質量%以上である態様[1]~[11]のいずれかに記載の精製方法。
【0029】
態様[13]:前記芳香族チオール化合物が、C6-14芳香族炭化水素環に少なくとも1つのメルカプト基が置換したチオール化合物である態様[1]~[12]のいずれかに記載の精製方法。
【0030】
態様[14]:前記芳香族チオール化合物が、ナフタレン環の1,6-位、2,6-位および2,7-位からなる群より選択されるいずれかの置換位置にメルカプト基を有するナフタレンチオール化合物である態様[1]~[13]のいずれかに記載の精製方法。
【0031】
態様[15]:前記芳香族チオール化合物の多量体の含有量を低減する態様[1]~[14]のいずれかに記載の精製方法。
【発明の効果】
【0032】
本発明では、特定の工程により精製するため、通常のチオール化合物に比べて、酸化(またはジスルフィド化)により多量体を形成し易い芳香族チオール化合物(例えば、ナフタレンチオール化合物など)であっても、容易にまたは効率よく精製できる[すなわち、高純度な芳香族チオール化合物(例えば、ナフタレンチオール化合物など)を容易にまたは効率よく(または高い収率で)製造できる]。しかも、より酸化を促進する塩基性(またはアルカリ性)条件下の工程を経るにもかかわらず、意外にも多量体含量を大きく増加させることなく、逆に不純物量を有効に低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の芳香族チオール化合物(例えば、ナフタレンチオール化合物など)の精製方法[不純物の低減方法または高純度な芳香族チオール化合物(例えば、ナフタレンチオール化合物など)の製造方法]では、塩基混合工程、分離工程および酸混合工程を少なくとも含む。
【0034】
[塩基混合工程]
塩基混合工程(またはベース化工程)では、芳香族チオール化合物(例えば、ナフタレンチオール化合物など)と、塩基成分(またはアルカリ成分)と、水性溶媒とを混合する。この工程では、芳香族チオール化合物に対応するチオラート体(メルカプト基[-SH]が[-S-]となったチオラートイオンまたはチオラートアニオン)を形成し、得られたチオラート体を水性溶媒側に溶解または抽出させる。
【0035】
前記芳香族チオール化合物(精製前の不純物などを含む粗原料、粗生成物またはクルード)としては、特に制限されず、後述する芳香族チオール化合物(例えば、ナフタレンチオール化合物など)などが挙げられる。
【0036】
塩基成分(またはアルカリ成分)としては、例えば、無機塩基[例えば、金属水酸化物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物など)、金属アルコキシド(例えば、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムt-ブトキシドなどのアルカリ金属C1-6アルコキシド)、アンモニアなど]、有機塩基[例えば、アミン類(例えば、トリエチルアミンなどのトリアルキルアミン、トリエタノールアミンなどのトリス(ヒドロキシアルキル)アミン、ピリジン、モルホリン、N-メチルモルホリンなどの複素環式アミンなど)など]などが挙げられる。これらの塩基成分(またはアルカリ成分)は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。これらの塩基成分(またはアルカリ成分)のうち、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物が好ましい。
【0037】
塩基成分(またはアルカリ成分)[特に、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物]の割合は、ナフタレンチオール化合物などの芳香族チオール化合物(精製前の不純物などを含む粗原料、粗生成物またはクルード)のメルカプト基1モルに対して、例えば1~3モル程度であってもよく、好ましくは1.05~2モル、さらに好ましくは1.1~1.5モル程度であってもよい。
【0038】
水性溶媒としては、例えば、水、アルコール(またはポリオール化合物)などが挙げられる。アルコールまたはポリオール化合物としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、ブタノールなどのC1-6アルコール、(ポリ)アルキレングリコール[例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコールなどの(ポリ)C2-6アルキレングリコールなど]、(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテル[例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル(またはセロソルブ)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(またはカルビトール)などの(ポリ)C2-6アルキレングリコールモノC1-6アルキルエーテルなど]、グリセリンなどが挙げられる。これらの水性溶媒は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。これらの水性溶媒のうち、水が好ましい。
【0039】
水性溶媒(特に、水)の割合は、水性溶媒と前記塩基成分との合計量に対して、例えば70~99質量%(例えば80~97質量%)、好ましくは85~95質量%(例えば87~93質量%)程度であってもよい。また、水性溶媒(特に、水)の割合は、前記ナフタレンチオール化合物などの芳香族チオール化合物(精製前の不純物などを含む粗原料、粗生成物またはクルード)100質量部に対して、例えば10~10000質量部(例えば50~5000質量部)程度であってもよく、好ましくは100~3000質量部(例えば150~2000質量部)、さらに好ましくは200~1000質量部(例えば250~800質量部)、特に300~600質量部程度であってもよい。水性溶媒の割合が少なすぎると、チオラート体を十分に溶解または抽出し難く、収率が低下するおそれがあり、水性溶媒の割合が多すぎると、不純物も溶解し易くなり、純度を十分に向上できないおそれがある。
【0040】
非特許文献1~2にも記載されているように、芳香族環(ベンゼン環)骨格にメルカプト基が直接結合した芳香族チオール化合物では、通常の第一級~第三級チオール化合物に比べてメルカプト基の活性が高いためか、大気中(空気中)であっても酸化され易く、特に、塩基性(またはアルカリ性)条件下では酸化反応が加速される傾向にある。そのため、塩基混合工程では、芳香族チオール化合物のジスルフィド化(多量体の形成)を有効に抑制するために、さらに、還元剤および/または重合禁止剤を混合してもよい。
【0041】
還元剤としては、例えば、金属水素化物(例えば、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化トリエチルホウ素リチウム、水素化トリ(s-ブチル)ホウ素リチウム、水素化トリ(s-ブチル)ホウ素ナトリウム、水素化トリ(s-ブチル)ホウ素カリウム、水素化トリアセトキシホウ素ナトリウム、水素化シアノホウ素ナトリウムなどの水素化ホウ素アルカリ金属類、水素化アルミニウムリチウム、水素化ビス(2-メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム、水素化ジイソブチルアルミニウムなどの水素化アルミニウム類、水素化ホウ素ニッケル、水素化ホウ素亜鉛、水素化トリブチルスズなど)、ボラン錯体(例えば、ボラン・ジメチルスルフィド錯体、ボラン・テトラヒドロフラン錯体など)、シラン類(トリエチルシランなど)、ホスフィン類(トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩など)、亜硫酸塩(亜硫酸ナトリウムなど)などが挙げられる。
【0042】
重合禁止剤(ラジカル重合禁止剤)としては、例えば、キノン類[例えば、ヒドロキノン(p-ベンゾキノンなど)、t-ブチルヒドロキノン、メトキノン(またはp-メトキシフェノール)、トルキノン(またはメチル-p-ベンゾキノン)、2,5-ジフェニル-p-ベンゾキノンなど]、カテコール類(t-ブチルカテコールなど)、アミン類(ジフェニルアミン、ジフェニルピクリルヒドラジルなど)、ニトロ化合物(ニトロベンゼンなど)などが挙げられる。
【0043】
これらの還元剤および/または重合禁止剤は単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。これらの還元剤および/または重合禁止剤のうち、金属水素化物(水素化ホウ素ナトリウムなどの水素化ホウ素アルカリ金属類など)、キノン類(ヒドロキノン、メトキノンなど)などが好ましく、還元剤としての金属水素化物(水素化ホウ素ナトリウムなどの水素化ホウ素アルカリ金属類など)がさらに好ましい。
【0044】
前記還元剤および重合禁止剤の総量の割合(特に、還元剤としての水素化ホウ素ナトリウムなどの水素化ホウ素アルカリ金属類の割合)は、前記ナフタレンチオール化合物などの芳香族チオール化合物(精製前の不純物などを含む粗原料、粗生成物またはクルード)のメルカプト基1モルに対して、例えば0.001~0.1モル(例えば0.005~0.08モル)程度であってもよく、好ましくは0.01~0.05モル(例えば0.02~0.04モル)程度であってもよい。
【0045】
塩基混合工程では、必要に応じて、得られた混合物を加熱処理してもよい。加熱により、チオラート体の水性溶媒中への溶解または抽出を有効に促進でき、収率を向上し易くなる。加熱温度は、例えば40℃以上(例えば45~100℃)程度であってもよく、好ましくは50℃以上(例えば55~80℃)、さらに好ましくは60~70℃程度であってもよい。加熱温度が高すぎると、芳香族チオール化合物の酸化によるジスルフィド化(多量体の形成)が加速され、純度を向上し難くなるおそれがある。
【0046】
塩基混合工程は、大気雰囲気下(空気中)または不活性ガス雰囲気下で行ってもよく、芳香族チオール化合物の酸化によるジスルフィド化(多量体の形成)を有効に抑制する観点から、例えば、窒素ガスや、アルゴンガスなどの希ガスなどの不活性ガス雰囲気下(非酸化性ガス雰囲気下または酸素ガス不在下)で行うのが好ましい。
【0047】
[分離工程]
分離工程では、前記塩基混合工程で得られた混合物から、水性溶媒に溶解しなかった不溶物または不純物[例えば、芳香族チオール化合物の調製段階などで混入した試薬(例えば、触媒など)、有機溶媒、無機塩などの塩、金属成分や、調製段階または保管中などに生成した芳香族チオール化合物の多量体(例えば、二量体、三量体以上の多量体など)など]を分離または除去して、水性溶媒の溶液部分を回収する。
【0048】
分離または除去の方法は、特に制限されず、例えば、ろ過、遠心分離、デカンテーションなどの慣用の分離方法などが挙げられ、ろ過が好ましい。
【0049】
分離工程(ろ過などの分離操作)における温度は、例えば室温(例えば20~30℃)程度であってもよく、加熱しながら行ってもよく、室温(例えば20~30℃)程度が好ましい。加熱する場合の加熱温度は、前記塩基混合工程の加熱温度として例示した範囲と好ましい態様を含めて同様の範囲であってもよい。温度が高すぎると、芳香族チオール化合物の酸化によるジスルフィド化(多量体の形成)が加速され、純度を向上し難くなるおそれがある。
【0050】
分離または除去した不溶物(または残渣)は洗浄しなくてもよいが、水性溶媒で洗浄してもよく、洗浄後の洗浄液も回収してもよい。洗浄に用いる水性溶媒としては、前記塩基混合工程において例示した水性溶媒と同様の溶媒などが挙げられ、単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。洗浄に用いる水性溶媒としては、水が好ましい。洗浄に用いる水性溶媒の量は、ナフタレンチオール化合物などの芳香族チオール化合物(精製前の不純物などを含む粗原料、粗生成物またはクルード)100質量部に対して、例えば10~3000質量部(例えば30~2000質量部)、好ましくは50~1600質量部程度であってもよい。
【0051】
分離工程は、大気雰囲気下(空気中)または不活性ガス雰囲気下で行ってもよく、芳香族チオール化合物の酸化によるジスルフィド化(多量体の形成)を有効に抑制する観点から、例えば、窒素ガスや、アルゴンガスなどの希ガスなどの不活性ガス雰囲気下(非酸化性ガス雰囲気下または酸素ガス不在下)で行うのが好ましい。
【0052】
なお、分離操作で得られた溶液(水性溶媒の溶液部分)に、活性炭を添加して撹拌し、ろ過する操作を組み合わせてもよい。このような操作(活性炭による吸着処理)は、分離操作で得られた溶液(水性溶媒の溶液部分)に濁りが見られる場合などに有効である。
【0053】
[酸混合工程]
酸混合工程(または酸析工程)では、分離工程で分離した溶液(水性溶媒の溶液部分)に、酸成分を混合する。酸成分を混合することにより、芳香族チオール化合物のチオラート体の[-S-]をメルカプト基[-SH]の状態(チオール体)に戻し、水性溶媒中から析出させる。
【0054】
酸成分としては、特に制限されず、例えば、無機酸(例えば、塩化水素または塩酸、硫酸、硝酸、リン酸など)、有機酸[例えば、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸などのカルボン酸類;メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸などの(ハロ)アルカンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸などのスルホン酸類など]などが挙げられ、固体酸などであってもよい。
【0055】
固体酸としては、例えば、金属化合物(酸化物、複合酸化物、硫化物、硫酸塩、ポリ酸など)、非金属硫酸塩、粘土鉱物、ゼオライト、カオリンなどの無機固体酸;陽イオン交換樹脂[例えば、スルホン酸基を有するイオン交換樹脂などの強酸性陽イオン交換樹脂、カルボン酸基を有するイオン交換樹脂などの弱酸性陽イオン交換樹脂(例えば、(メタ)アクリル酸-ジビニルベンゼンコポリマーなど)など]などの有機固体酸などが挙げられる。
【0056】
これらの酸成分は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。これらの酸成分のうち、塩酸などの無機酸などが好ましい。なお、塩酸の濃度は、例えば10~37質量%、好ましくは20~37質量%、さらに好ましくは30~37質量%程度であってもよい。
【0057】
酸成分は、例えば、前記溶液が酸性(例えば、pHが1~2程度)になるまで混合してもよく、具体的な酸成分(特に、塩酸などの無機酸)の割合(または酸成分が供与可能なプロトンの割合)は、ナフタレンチオール化合物などの芳香族チオール化合物(精製前の不純物などを含む粗原料、粗生成物またはクルード)のメルカプト基1モルに対して、例えば1~3モル程度であってもよく、好ましくは1.1~2モル、さらに好ましくは1.2~1.7モル(例えば1.3~1.5モル)程度であってもよい。
【0058】
なお、酸成分の添加は、時間をかけて(例えば0.5~2時間程度)ゆっくり添加してもよく、複数回に分割して添加してもよい。また、酸成分の添加後、例えば0.5~2時間程度撹拌してもよい。
【0059】
酸混合工程における温度は、例えば0~70℃程度であってもよく、好ましくは10~50℃(例えば20~40℃)、特に、室温(例えば20~30℃)程度であってもよい。温度が高すぎると、芳香族チオール化合物の酸化によるジスルフィド化(多量体の形成)が加速され、純度を向上し難くなるおそれがある。
【0060】
酸混合工程は、大気雰囲気下(空気中)または不活性ガス雰囲気下で行ってもよく、芳香族チオール化合物の酸化によるジスルフィド化(多量体の形成)を有効に抑制する観点から、例えば、窒素ガスや、アルゴンガスなどの希ガスなどの不活性ガス雰囲気下(非酸化性ガス雰囲気下または酸素ガス不在下)で行うのが好ましい。
【0061】
酸混合工程で水性溶媒中から析出した精製後の芳香族チオール化合物は、慣用の方法で水性溶媒層と分離してもよく、例えば、ろ過、遠心分離、デカンテーションなどの分離方法で分離してもよく、精製後の芳香族チオール化合物が室温で液状である場合などでは、分液により分離してもよい。
【0062】
水性溶媒層と分離した精製後の芳香族チオール化合物は洗浄することなく回収してもよいが、水性溶媒で洗浄してもよい。洗浄に用いる水性溶媒としては、前記塩基混合工程において例示した水性溶媒と同様の溶媒などが挙げられ、単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。洗浄に用いる水性溶媒としては、水が好ましい。洗浄は、洗浄後の液のpHが中性になるまで行うことで酸成分を除去してもよく、洗浄に用いる水性溶媒(特に、水)の具体的な量は、ナフタレンチオール化合物などの芳香族チオール化合物(精製前の不純物などを含む粗原料、粗生成物またはクルード)1モルに対して、例えば1000~10000g(例えば2000~8000g)、好ましくは3000~6000g程度であってもよい。
【0063】
水性溶媒層と分離した精製後の芳香族チオール化合物は、乾燥(加熱および/または減圧乾燥など)に供してもよい。
【0064】
このように、塩基混合工程、分離工程、酸混合工程を経て精製することで、高純度な芳香族チオール化合物を高い収率で容易にまたは効率よく製造できる。
【0065】
なお、本発明の方法では、さらに、上記塩基混合工程、分離工程、酸混合工程とは異なる他の工程を含んでいてもよい。他の精製工程としては、例えば、慣用の精製操作、具体的には、洗浄、分液(液液抽出)または抽出、濃縮、中和、晶析(または結晶化)または析出、固液分離(ろ過、遠心分離など)、カラムクロマトグラフィー、吸着処理(活性炭などの多孔性材料による処理など)、乾燥または乾固、蒸留(減圧蒸留など)または昇華などが挙げられる。他の工程は、単独でまたは2種以上組み合わせてもよい。これらの精製操作では、十分に不純物を低減できなかったり、できたとしても収率が低下したり、芳香族チオール化合物またはその位置異性体の種類などに応じて、精製操作自体を適用できなかったりする場合があるが、本発明の精製方法では、これらの精製操作と組み合わせなくても、十分に高純度化した芳香族チオール化合物を高い収率で製造できる。
【0066】
[芳香族チオール化合物]
(芳香族チオール化合物の構造および特性など)
本発明の精製方法で精製する芳香族チオール化合物は、芳香族環に少なくとも1つのメルカプト基(またはチオール基)[-SH]が置換(または直接結合)した化合物であれば特に制限されず、前記芳香族環は、他の置換基を有していてもよい。代表的な芳香族環としては、例えば、芳香族炭化水素環(アレーン環)、芳香族複素環[例えば、ピロール環、ピリジン環、フラン環、チオフェン環などの少なくとも1つのヘテロ元素(周期表第15族および/または16族元素など)を含む芳香族環など]が挙げられる。
【0067】
代表的な芳香族チオール化合物はとしては、例えば、下記式(1)で表される化合物であってもよい。
【0068】
【0069】
(式中、Arは芳香族炭化水素環(アレーン環)を示し、
nは1以上の整数を示し、
R1は置換基を示し、pは0以上の整数を示す)。
【0070】
前記式(1)において、芳香族炭化水素環(アレーン環)Arとしては、ベンゼン環などの単環式芳香族炭化水素環であってもよく、縮合多環式、環集合などの多環式芳香族炭化水素環であってもよい。
【0071】
縮合多環式芳香族炭化水素環としては、例えば、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環などのC10-14縮合多環式芳香族炭化水素環などが挙げられる。環集合芳香族炭化水素環としては、例えば、ビフェニル環、ビナフチル環、フェニルナフタレン環などのビアリール環、テルフェニル環などのテルアリール環などが挙げられる。
【0072】
好ましい環Arとしては、C6-14芳香族炭化水素環、さらに好ましくはC6-12芳香族炭化水素環(例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環など)、特に、ベンゼン環またはナフタレン環(特に、ナフタレン環)が好ましい。
【0073】
前記式(1)において、メルカプト基(またはチオール基)[-SH]の置換数nは、例えば1~8の整数(例えば1~6の整数)、好ましくは1~5の整数(例えば1~4の整数)、さらに好ましくは1~3の整数(例えば2)であってもよい。メルカプト基の置換位置は、特に制限されない。
【0074】
R1で表される置換基としては、メルカプト基以外の基であればよく、例えば、置換または未置換の炭化水素基(置換基を有していてもよい炭化水素基)、窒素原子含有基、酸素原子含有基、硫黄原子含有基、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子など)などが挙げられる。
【0075】
前記炭化水素基としては、(直鎖状または分岐鎖状)脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、これらの基を2以上組み合わせた基などが挙げられる。
【0076】
脂肪族炭化水素基は、直鎖状または分岐鎖状であってもよい。また、脂肪族炭化水素基は、アルキル基(飽和脂肪族炭化水素基)であってもよく、アルケニル基などの不飽和脂肪族炭化水素基であってもよい。
【0077】
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基(n-プロピル基、イソプロピル基)、ブチル基(n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基)、ペンチル基(n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基など)、ヘキシル基(n-ヘキシル基など)、ヘプチル基(n-ヘプチル基など)、オクチル基(n-オクチル基、2-エチルヘキシル基など)、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、イコシル基などのC1-30アルキル基(例えばC1-24アルキル基など)、好ましくはC1-18アルキル基(例えばC1-12アルキル基など)、さらに好ましくはC1-8アルキル基(例えばC1-6アルキル基など)、特にC1-4アルキル基(例えばメチル基などのC1-3アルキル基など)などが挙げられる。
【0078】
不飽和脂肪族炭化水素基としては、例えば、前記例示のアルキル基に対応して、少なくとも1つの不飽和結合(炭素-炭素不飽和結合、例えば、エチレン性不飽和結合(C=C二重結合)、アセチレン性不飽和結合(C≡C三重結合)など)を有する基などが挙げられ、例えば、アルケニル基であってもよい。アルケニル基としては、例えば、ビニル基、プロペニル基(アリル基、イソプロペニル基など)、ブテニル基(2-メチルアリル基、クロチル基など)などのC2-10アルケニル基などが挙げられる。
【0079】
脂環式炭化水素基は、飽和または不飽和であってもよい。また、単環式(シクロアルキル基、シクロアルケニル基、シクロアルカジエニル基、シクロポリエニル基など)であってもよく、多環式(環集合、架橋環式、スピロ環式など)であってもよい。
【0080】
飽和で単環式の脂環式炭化水素基(シクロアルキル基)としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロデシル基などのC3-20シクロアルキル基、好ましくはC4-12シクロアルキル基、さらに好ましくはC5-10シクロアルキル基などが挙げられる。
【0081】
不飽和で単環式の脂環式炭化水素基[シクロアルケニル基、シクロアルカジエニル基(またはシクロポリエニル基)など]としては、例えば、前記例示のシクロアルキル基に対応して、少なくとも1つのエチレン性不飽和結合(二重結合)を有する基などが挙げられ、具体的にはシクロペンテニル基、シクロヘキセニル基などのC3-20シクロアルケニル基、シクロペンタジエニル基などのC4-20シクロアルカジエニル基などが挙げられる。
【0082】
多環式の脂環式炭化水素基としては、2以上の脂肪族環同士が直接結合した環集合であってもよく、2以上の脂肪族環が、1または複数の原子を共有するスピロ環式または架橋環式などであってもよい。前記脂肪族環としては、例えば、前記単環式の基に対応する脂肪族環などが挙げられる。代表的な多環式の脂環式炭化水素基としては、例えば、ビシクロヘキシル基などのC6-20環集合脂環式炭化水素基、ノルボルニル基、アダマンチル基などのC4-20架橋環式脂環式炭化水素基などが挙げられる。
【0083】
芳香族炭化水素基としては、アリール基などが挙げられ、単環式アリール基(フェニル基など)または多環式アリール基であってもよい。多環式アリール基としては、2以上の環(ベンゼン環など)が2以上の原子を共有して縮合した縮合環式(例えば、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基などのC10-24縮合環式アリール基など)であってもよく、2以上の環(ベンゼン環など)が直接結合した環集合式(例えば、ビフェニル基、フェニルナフチル基、ナフチルフェニル基、ビナフチル基、テルフェニル基などのC12-28環集合式アリール基など)であってもよい。
【0084】
前記基を2以上組み合わせた炭化水素基としては、シクロアルキル-アルキル基(例えば、シクロヘキシルメチル基などのC3-20シクロアルキルC1-6アルキル基など);アルキルアリール基(例えば、メチルフェニル基(トリル基)、ジメチルフェニル基(キシリル基)などのモノ乃至ペンタC1-6アルキルC6-20アリール基など);アラルキル基(例えば、ベンジル基、フェネチル基などのC6-20アリールC1-6アルキル基など);アリールアルケニル基(例えば、フェニルビニル基(スチリル基)、シンナミル基、エチルシンナミル基などのC6-20アリールC2-6アルケニル基)などが挙げられる。
【0085】
これらの炭化水素基は置換基を有していてもよい(置換されていてもよい)。この炭化水素基が有していてもよい置換基としては、例えば、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子など)などが挙げられる。前記炭化水素基は、これらの置換基を単独でまたは二種以上組み合わせて有していてもよい。炭化水素基に対する好ましい置換基としては、ヒドロキシル基、カルボキシル基、ハロゲン原子などが挙げられ、さらに好ましくは塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子であってもよい。これらの置換基(炭化水素基が有していてもよい置換基)が前記炭化水素基に置換する数は、1または2以上(例えば1~3、好ましくは1~2、さらに好ましくは1)であってもよく、0であってもよい(置換基を有していなくてもよい)。
【0086】
前記窒素原子含有基としては、アミノ基、置換アミノ基(モノまたはジアルキルアミノ基、モノまたはジアシルアミノ基など)、ニトロ基、シアノ基、これらの基が前記炭化水素基に置換した基(例えば、アミノアルキル基、置換アミノアルキル基、ニトロアルキル基、シアノアルキル基など)などが挙げられる。
【0087】
前記酸素原子含有基としては、例えば、ヒドロキシル基、ヒドロキシ(ポリ)アルコキシ基(例えば、2-ヒドロキシエトキシ基など)、基[-ORh1](式中、Rh1は炭化水素基、例えば、前記R1として例示した置換または未置換の炭化水素基などを示す。)[例えば、メトキシ基などのアルコキシ基、シクロヘキシルオキシ基などのシクロアルキルオキシ基、フェノキシ基などのアリールオキシ基、ベンジルオキシ基などのアラルキルオキシ基、ビニルオキシ基、アリルオキシ基、好ましくはアルコキシ基など]、ホルミル基、アシル基(例えば、アセチル基などのアルキルカルボニル基、ベンゾイル基などのアリールカルボニル基など)、アシルオキシ基(例えば、アセチルオキシ基などのアルキルカルボニルオキシ基など)、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、カルボキシル基、基[-C(=O)-ORh2](式中、Rh2は炭化水素基、例えば、前記R1として例示した置換または未置換の炭化水素基などを示す。)[例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、tert-ブトキシカルボニル基などのアルコキシカルボニル基など]、アミド基(またはアミノカルボニル基)、置換アミノカルボニル基(例えば、アルキルアミノカルボニル基など)、エポキシ環含有基(エポキシ基、グリシジル基、グリシジルオキシ基、β-メチルグリシジル基、β-メチルグリシジルオキシ基、エポキシ化シクロヘキセニル基など)、オキセタン環含有基(オキセタニル基など)、フリル基、これらの基が前記炭化水素基に置換した基(例えば、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基などのヒドロキシアルキル基、ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアルキル基、メトキシメチル基などのアルコキシアルキル基、(メタ)アクリロイルオキシアルキル基など)などが挙げられる。
【0088】
前記硫黄原子含有基としては、例えば、メルカプト(ポリ)アルコキシ基(例えば、2-メルカプトエトキシ基など)、基[-SRh3](式中、Rh3は炭化水素基、例えば、前記R1として例示した置換または未置換の炭化水素基などを示す。)[例えば、メチルチオ基などのアルキルチオ基、シクロヘキシルチオ基などのシクロアルキルチオ基、フェニルチオ基などのアリールチオ基、ベンジルチオ基などのアラルキルチオ基など]、アルキル(チオカルボニル)基[例えば、メチル(チオカルボニル)基など]、アルコキシ(チオカルボニル)基[例えば、メトキシ(チオカルボニル)基など]、チオ(メタ)アクリロイル基、チオ(メタ)アクリロイルオキシ基[例えば、チオ(メタ)アクリロイルオキシ基など]、チオアミド基(またはチアミド基)、置換チオアミド基[例えば、アルキル(チオアミド)基など]、チイラン環含有基[チイラニル基(または1,2-エピチオエチル基)、チイラニルメチル基(または2,3-エピチオプロピル基)など]、チエニル基、これらの基が前記炭化水素基に置換した基(例えば、メルカプトアルキル基(例えば、メルカプトメチル基、メルカプトエチル基など)、メルカプト(ポリ)アルコキシアルキル基(例えば、メルカプトエトキシエチル基など)、メチルチオメチル基などのアルキルチオアルキル基など)などが挙げられる。
【0089】
R1で表される置換基としては、単独でまたは2種以上組み合わせて有していてもよい。これらのうち、好ましい置換基R1としては、置換または未置換の炭化水素基、酸素原子含有基[例えば、ヒドロキシル基、ヒドロキシ(ポリ)アルコキシ基、基[-ORh1](例えば、アルコキシ基など)、アシル基、アシルオキシ基、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、カルボキシル基、基[-C(=O)-ORh2](例えば、アルコキシカルボニル基など)、アミド基(またはアミノカルボニル基)、置換アミノカルボニル基、エポキシ環含有基(エポキシ基、グリシジル基、グリシジルオキシ基など)、オキセタン環含有基(オキセタニル基など)]、硫黄原子含有基[メルカプト(ポリ)アルコキシ基、基[-SRh3](例えば、アルキルチオ基など)など]、ハロゲン原子などが挙げられ、さらに好ましくは置換または未置換の炭化水素基、ハロゲン原子(塩素原子など)であり、なかでも、置換または未置換の炭化水素基(例えば、脂肪族または脂環式炭化水素基など)、特に、アルキル基などの飽和脂肪族炭化水素基(例えば、メチル基などのC1-6アルキル基など)などであってもよい。
【0090】
置換基R1の置換数pは、0以上の整数であればよく、例えば0~6の整数(例えば0~5の整数)、好ましくは0~4の整数(例えば1~3の整数)、さらに好ましくは0~2の整数(例えば0または1、特に0)であってもよい。pが2以上である場合、2以上のR1の種類は、互いに同一または異なっていてもよい。pが1以上である場合、R1の置換位置は特に制限されず、メルカプト基の結合位置以外の位置であればよい。
【0091】
前記式(1)で表される代表的な化合物としては、例えば、ベンゼンチオール化合物(例えば、ベンゼンチオール(またはチオフェノール)、ベンゼンジチオールなどのベンゼンモノないしトリチオールなど)、ナフタレンチオール化合物[例えば、下記式(1A)で表される化合物など]などが挙げられる。
【0092】
【0093】
(式中、nは1~8の整数を示し、
R1は置換基を示し、pは0~(8-n)の整数を示す)。
【0094】
前記式(1A)において、メルカプト基の置換数nとしては、例えば、前記式(1)と同様の数値範囲などが挙げられ、好ましい態様も含めて同様であってもよい。
【0095】
前記式(1A)において、メルカプト基の置換位置は、特に制限されず、例えば、1-位、2-位、1,4-位、1,5-位、1,6-位、1,8-位、2,6-位、2,7-位、1,3,6-位などが挙げられ、好ましくは1-位、2-位、1,5-位、1,6-位、2,6-位、2,7-位、1,3,6-位などが挙げられ、多量体(特に、二量体)の増加を抑えるのみならず、有効に低減し易い観点から、1,6-位、2,6-位または2,7-位にメルカプト基が直接結合したナフタレンチオール化合物がさらに好ましい。
【0096】
前記式(1A)において、置換基R1およびその置換数pとしては、例えば、それぞれ前記式(1)と同様の置換基および数値範囲などが挙げられ、好ましい態様も含めてそれぞれ同様であってもよい。pが2以上である場合、2以上のR1の種類は、互いに同一または異なっていてもよい。pが1以上である場合、R1の置換位置は特に制限されず、メルカプト基の結合位置以外の位置であればよい。
【0097】
前記式(1A)で表される代表的なナフタレンチオール化合物としては、例えば、1-ナフタレンチオール、2-ナフタレンチオール、1,4-ナフタレンジチオール、1,5-ナフタレンジチオール、1,6-ナフタレンジチオール、1,8-ナフタレンジチオール、2,6-ナフタレンジチオール、2,7-ナフタレンジチオール、1,3,6-ナフタレントリチオール、およびこれらのナフタレンチオール化合物に対応して、置換基R1として、アルキル基などの炭化水素基(例えば、メチル基などのC1-6アルキル基など)、アルコキシ基などの基[-ORh1](例えば、メトキシ基などのC1-6アルコキシ基など)を有していてもよいナフタレンチオール化合物などが挙げられ;好ましくは1-ナフタレンチオール、2-ナフタレンジチオール、1,5-ナフタレンジチオール、1,6-ナフタレンジチオール、2,6-ナフタレンジチオール、2,7-ナフタレンジチオール、1,3,6-ナフタレントリチオール、およびこれらのナフタレンチオール化合物に対応して、置換基R1として、アルキル基などの炭化水素基(例えば、メチル基などのC1-4アルキル基など)、アルコキシ基などの基[-ORh1](例えば、メトキシ基などのC1-4アルコキシ基など)を有していてもよいナフタレンチオール化合物などが挙げられ;多量体(特に、二量体)の増加を抑えるのみならず、有効に低減し易い観点から、1,6-ナフタレンジチオール、2,6-ナフタレンジチオール、2,7-ナフタレンジチオール、およびこれらのナフタレンチオール化合物に対応して、置換基R1として、アルキル基などの炭化水素基(例えば、メチル基などのC1-3アルキル基など)、アルコキシ基などの基[-ORh1](例えば、メトキシ基などのC1-3アルコキシ基など)を有していてもよいナフタレンチオール化合物などがさらに好ましい。
【0098】
芳香族チオール化合物(例えば、ナフタレンチオール化合物など)の分子量は、例えば2000以下(例えば160~1000)程度であってもよく、好ましくは500以下(例えば160~300)、さらに好ましくは230以下程度であってもよい。分子量が大きすぎると、精製困難となるおそれがある。
【0099】
芳香族チオール化合物(例えば、ナフタレンチオール化合物など)の温度25℃、波長589nmにおける屈折率は、例えば1.6以上(例えば1.63~1.8)、好ましくは1.65~1.79、さらに好ましくは1.7~1.78(例えば1.71~1.73)程度であってもよい。芳香族チオール化合物(例えば、ナフタレンチオール化合物など)は高い屈折率を示すため、有機化合物(樹脂など)などの屈折率を向上するための屈折率向上剤(樹脂添加剤)などとして有効に利用できる。
【0100】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、屈折率は、後述する実施例の方法に準じて測定できる。
【0101】
芳香族チオール化合物(例えば、ナフタレンチオール化合物など)の融点は、例えば230℃以下(例えば0~200℃)程度の範囲であってもよく、室温で液状であってもよい。融点は、芳香族チオール化合物の種類や、メルカプト基の置換位置などに応じて大きく異なる場合があるようである。
【0102】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、融点は、後述する実施例の方法に準じて測定できる。
【0103】
芳香族チオール化合物(例えば、ナフタレンチオール化合物など)の5%重量減少温度は、例えば150~270℃(例えば160~240℃)、好ましくは170~220℃程度であってもよい。5%重量減少温度が低すぎると、高い加熱処理などによって純度が低下し易くなるおそれがあり、蒸留などの精製操作が困難な場合がある。5%重量減少温度は、芳香族チオール化合物の種類や、メルカプト基の置換位置などに応じて大きく異なる場合があるようである。
【0104】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、5%重量減少温度は、後述する実施例の方法に準じて測定できる。
【0105】
(芳香族チオール化合物の調製方法)
本発明の精製方法による精製前の原料芳香族チオール化合物(例えば、原料ナフタレンチオール化合物などの塩基混合工程に供するための粗原料、粗生成物またはクルード)の調製方法は、特に制限されず、芳香族チオール化合物を合成する公知の方法、例えば、芳香族スルホン酸化合物(例えば、ナフタレンスルホン酸化合物)またはその塩を原料とする方法などが利用でき、具体的には、(i)対応する芳香族スルホン酸化合物(例えば、ナフタレンスルホン酸化合物)またはその塩(好ましくは塩)と、ハロゲン化剤とを反応させてハロスルホニル化合物[例えば、(ハロスルホニル)ナフタレン化合物]を調製し、(ii)生成したハロスルホニル化合物を、還元剤の存在下で還元させることで調製してもよい。
【0106】
前記(i)において、芳香族スルホン酸化合物としては、例えば、目的の芳香族チオール化合物のメルカプト基の置換位置に対応して、メルカプト基の代わりにスルホン酸基(またはスルホ基)が結合した芳香族スルホン酸化合物、例えば、ベンゼンモノないしトリスルホン酸化合物、ナフタレンモノないしトリスルホン酸化合物などが挙げられる。
【0107】
芳香族スルホン酸化合物の塩としては、例えば、アルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩など)、アンモニウム塩などが挙げられ、好ましくはナトリウム塩などのアルカリ金属塩などが挙げられる。
【0108】
ハロゲン化剤としては、例えば、ホスゲン、五塩化リン、三塩化リン、オキシ塩化リン、塩化スルフリル、塩化オキサリル、塩化チオニルなどのハロゲン化チオニルなどが挙げられる。ハロゲン化剤は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。好ましいハロゲン化剤は、塩化チオニルなどの塩素化剤である。
【0109】
ハロゲン化剤の割合は、芳香族スルホン酸化合物(例えば、ナフタレンスルホン酸化合物など)(またはその塩)のスルホン酸基(またはその塩)1モルに対して、例えば1~10モル(例えば1~5モル)、好ましくは1.05~2モル(例えば1.1~1.5モル)程度であってもよい。
【0110】
反応は触媒の存在下または非存在下で行ってもよく、触媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリドンなどのアミド類(好ましくはDMFなどのN,N-置換アミド化合物);ピリジン、4-(N,N-ジメチルアミノ)ピリジンなどのピリジン類;トリエチルアミンなどの第3級アミンなどが挙げられる。触媒は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。好ましい触媒は、DMFなどのアミド類(N,N-置換アミド化合物)、さらに好ましくはDMF、DMAc、特に、DMFである。触媒の割合は、芳香族スルホン酸化合物(例えば、ナフタレンスルホン酸化合物など)またはその塩1モルに対して、例えば0.01~1モル、好ましくは0.1~0.7モル、さらに好ましくは0.2~0.5モル(例えば0.3~0.5モル)程度であってもよい。なお、DMFなどのアミド類と塩化チオニルなどの塩素化剤とは、ビルスマイヤー錯体を形成し、スルホニルクロリド化してもよい。
【0111】
反応は溶媒の存在下または非存在下で行ってもよく、溶媒としては、反応に不活性な溶媒、例えば、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、トルエン、キシレンなどの炭化水素類、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類(炭化水素類の塩素化物などのハロゲン化物)、酢酸メチル、酢酸エチルなどのエステル類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類、アセトニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル類、ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類などが挙げられる。溶媒は単独でまたは2種以上組み合わせて混合溶媒として使用できる。好ましい溶媒は、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどの塩化炭化水素類などが挙げられ、さらに好ましくはトルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類などである。溶媒の割合は特に制限されず、ナフタレンスルホン酸化合物またはその塩100質量部に対して、例えば10~5000質量部(例えば100~3000質量部)、好ましくは300~2500質量部、さらに好ましくは400~2100質量部程度であってもよい。
【0112】
反応温度は、例えば50~150℃、好ましくは80~120℃、さらに好ましくは90~110℃程度であってもよい。反応時間は、例えば0.5~24時間、好ましくは1~12時間、さらに好ましくは2~8時間程度であってもよい。
【0113】
反応は、空気または不活性ガス(例えば、窒素ガス;アルゴン、ヘリウムなどの希ガスなど)、好ましくは不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。また、反応は、常圧下、加圧下または減圧下で行ってもよい。
【0114】
反応終了後、反応生成物(反応混合物)は、洗浄、抽出、濃縮、ろ過、晶析、遠心分離、カラムクロマトグラフィー、活性炭処理、乾燥などの慣用の分離精製手段や、これらを組み合わせた方法により、分離精製してもよく、分離精製することなく(例えば、溶液状態のまま)前記(ii)の還元反応に供してもよい。好ましい方法では、ハロゲン化剤を失活させるため、反応混合物に水を添加して撹拌し、有機相と水相とに分液する操作を少なくとも1回または複数回繰り返してもよい。なお、分液した有機相は、必要であれば、乾燥、乾固、蒸留、晶析などの操作で分離精製し、後続の還元反応に供してもよい。好ましい態様では、分液した有機相を後続の(ii)還元反応に供してもよい。また、ハロスルホニル化合物[例えば、(ハロスルホニル)ナフタレン化合物など]の溶解性が低い場合などでは、析出したハロスルホニル化合物をろ過で回収して、後続の(ii)還元反応に供してもよい。
【0115】
前記(ii)還元反応において、ハロスルホニル化合物としては、例えば、(ハロスルホニル)ベンゼン化合物、(ハロスルホニル)ナフタレン化合物[例えば、モノないしトリ(クロロスルホニル)ナフタレンなどのモノないしトリ(クロロスルホニル)ナフタレン化合物など]などが挙げられる。
【0116】
前記(ii)還元反応において、還元剤の種類は、特に限定されず、亜鉛(亜鉛末など)と酸との組み合わせ、鉄(鉄粉など)と酸との組み合わせ、スズと酸との組み合わせ、塩化スズと酸との組み合わせ、前記例示の還元剤(例えば、水素化アルミニウムリチウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素ナトリウムなど)が例示できる。還元剤は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。好ましい還元剤は、亜鉛(亜鉛末など)と酸との組み合わせである。還元剤の割合は、ハロスルホニル化合物[例えば、(ハロスルホニル)ナフタレン化合物など]1モルに対して、例えば5~20モル、好ましくは8~17モル、さらに好ましくは10~15モル程度であってもよい。
【0117】
酸としては、例えば、塩酸、硫酸などの無機酸などが挙げられ、塩酸が好ましい。酸は単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。酸の割合は、ハロスルホニル化合物[例えば、(ハロスルホニル)ナフタレン化合物など]1モルに対して、例えば10~100モル、好ましくは15~60モル、さらに好ましくは20~50モル(例えば25~45モル)程度であってもよい。なお、前記酸は、水溶液として使用してもよい。
【0118】
反応は溶媒の存在下で行ってもよく、溶媒としては、前記(i)ハロスルホニル化反応と同様の溶媒などが挙げられ、単独でまたは2種以上組み合わせて混合溶媒として使用することもできる。なお、前記酸を使用するとき、水溶液の形態で含まれる水も溶媒として利用してもよい。特に、(ii)還元反応は、反応終了後、反応溶媒(疎水性の芳香族炭化水素類など)に対して分液可能な水の存在下で行うのが好ましい。溶媒の割合は特に制限されず、ハロスルホニル化合物[例えば、(ハロスルホニル)ナフタレン化合物など]100質量部に対して、例えば100~10000質量部、好ましくは500~5000質量部程度であってもよい。
【0119】
反応温度は、例えば30~120℃、好ましくは40~100℃、さらに好ましくは50~80℃(例えば60~70℃)程度であってもよい。反応時間は、例えば0.5~24時間、好ましくは1~12時間、さらに好ましくは2~5時間程度であってもよい。
【0120】
反応は、空気中で行ってもよく、好ましくは不活性ガス(例えば、窒素ガス;アルゴン、ヘリウムなどの希ガスなど)雰囲気下で行ってもよい。また、反応は、常圧下、加圧下または減圧下で行ってもよい。
【0121】
反応終了後、反応生成物は、洗浄、分液(液液抽出)または抽出、濃縮、中和、晶析(または結晶化)または析出、固液分離(ろ過、遠心分離など)、カラムクロマトグラフィー、吸着処理(活性炭などの多孔性材料による処理など)、乾燥または乾固、蒸留(減圧蒸留など)または昇華などの慣用の分離精製手段(または処理)や、これらを組み合わせた方法により、分離精製したものを本発明の精製方法に供してもよく、分離精製することなく、反応混合物などの形態で本発明の精製方法に供してもよい。
【0122】
(芳香族チオール化合物の純度など)
本発明の精製方法による精製前の原料芳香族チオール化合物(例えば、原料ナフタレンチオール化合物などの塩基混合工程に供するための粗原料、粗生成物またはクルード)の含量(純度または絶対純度)は、例えば50質量%以上(例えば70質量%以上、100質量%未満)程度であってもよく、好ましくは80質量%以上(例えば85質量%以上)、さらに好ましくは90質量%以上(例えば95~99.5質量%)程度であってもよい。また、精製後の精製物における含量(純度または絶対純度)は、例えば80質量%以上(90~100質量%)程度であってもよく、好ましくは95質量%以上(例えば97質量%以上)、さらに好ましくは98質量%以上(例えば98.5~100質量%)程度であってもよい。一般的に、精製前の段階で比較的純度の高い粗原料(粗生成物またはクルード)から、さらに高純度化するのは困難な傾向にあり、このような傾向は精製前の段階で高純度なほど顕著になることが予想されるにもかかわらず、本発明の精製方法では、精製前の粗原料(粗生成物またはクルード)の含量(純度または絶対純度)が高くても、精製後の精製物における含量を容易にまたは効率よく高純度化できる。
【0123】
本発明の精製方法による精製前の原料芳香族チオール化合物(例えば、原料ナフタレンチオール化合物などの塩基混合工程に供するための粗原料、粗生成物またはクルード)の高速液体クロマトグラフィ(HPLC;High Performance Liquid Chromatography)による面積百分率での純度(HPLC純度)は、例えば50%以上(例えば70~100%)程度であってもよく、好ましくは80%以上(例えば85%以上)、さらに好ましくは90%以上(例えば95~99.5%)、特に、98%以上(例えば99~99.5%)程度であってもよい。また、精製後の精製物におけるHPLC純度は、例えば80%以上(例えば90~100%)程度であってもよく、好ましくは95%以上(例えば98%以上)、さらに好ましくは98.5%以上(例えば99%以上)程度であってもよい。一般的に、精製前の段階で比較的純度の高い粗原料(粗生成物またはクルード)から、さらに高純度化するのは困難な傾向にあり、このような傾向は精製前の段階で高純度なほど顕著になることが予想されるにもかかわらず、本発明の精製方法では、精製前のHPLC純度が高くても、容易にまたは効率よく高純度化できる。
【0124】
本発明の精製方法による精製前の原料芳香族チオール化合物(例えば、原料ナフタレンチオール化合物などの塩基混合工程に供するための粗原料、粗生成物またはクルード)の多量体の含有率(HPLCによる面積百分率)は、例えば10%以下(例えば0~5%)程度であってもよく、好ましくは3%以下(例えば2%以下)、さらに好ましくは1.5%以下(例えば0.1~1%)、特に、0.5%以下(例えば0.1~0.3%)程度であってもよい。また、精製後の精製物における前記多量体の含有率は、例えば5%以下(例えば0~3%)程度であってもよく、好ましくは2%以下(例えば1%以下)、さらに好ましくは0.5%以下(例えば0.1~0.4%)、特に、0.3%以下(例えば0~0.2%)程度であってもよく、検出限界未満であってもよい。前記多量体は芳香族チオール化合物の二量体であってもよい。すなわち、二量体の含有量(含有率)が、上記の割合であってもよい。本発明の精製方法では、通常の第一級~三級チオール化合物よりも酸化され易い芳香族チオール化合物を用い、酸化が促進される塩基性(またはアルカリ性)条件下の塩基混合工程を経るにもかかわらず、意外にもジスルフィド体含有率を増加させることなく、むしろ低減できることもある。そのため、本発明は、芳香族チオール化合物の多量体の含有量(含有率)を低減する方法も包含する。
【0125】
なお、二量体は、単量体である芳香族チオール化合物と比較し、有機溶媒に対する溶解性が低い場合が多く、三量体以上の多量体では、二量体よりもさらに溶解性が低くなるようである。そのため、通常、HPLCにより三量体以上の前記多量体を定量することは困難である。
【0126】
本発明の精製方法による精製前の原料芳香族チオール化合物(例えば、原料ナフタレンチオール化合物などの塩基混合工程に供するための粗原料、粗生成物またはクルード)は、アセトニトリルに10~30℃、0.13質量%の濃度で溶解した際に、濁りが生じてもよく、濁りが生じなくてもよいが、精製後の精製物においては、アセトニトリルに10~30℃、0.13質量%の濃度で溶解した際に、濁りが生じなくてもよい。
【0127】
本発明の精製方法において、精製前の原料芳香族チオール化合物(例えば、原料ナフタレンチオール化合物などの塩基混合工程に供するための粗原料、粗生成物またはクルード)に対する精製後の精製物である芳香族チオール化合物(ナフタレンチオール化合物など)の収率は、例えば80モル%以上(例えば85モル%以上)、好ましくは90~100モル%(例えば95~99.5モル%)、特に、97~100モル%(例えば98~99モル%)程度であってもよい。
【0128】
[芳香族チオール化合物の誘導体]
本発明の精製方法で得られた芳香族チオール化合物(例えば、ナフタレンチオール化合物など)は、高純度であり、さらに屈折率が高く、反応活性の高いメルカプト基を有することから、芳香族チオール化合物自体を反応試薬、添加剤(樹脂添加剤など)、ポリマー原料(モノマー)、光学材料、またはこれらの中間体などとして利用してもよく、本発明の精製方法で得られた芳香族チオール化合物から誘導された芳香族チオール誘導体(例えば、ナフタレンチオール誘導体など)を同様の用途に利用してもよい。本発明の精製方法を利用することにより、このような芳香族チオール誘導体も高純度に調製し易く有用である。また、このような芳香族チオール誘導体も高い屈折率を示すため、光学材料などとして有効に利用できる。
【0129】
芳香族チオール誘導体としては、芳香族チオール化合物から誘導される化合物であれば特に制限されないが、例えば、下記式(2)で表される化合物、具体的には、下記式(2A)で表されるナフタレンチオール誘導体などが挙げられる。
【0130】
【0131】
(式中、Arは芳香族炭化水素環(アレーン環)を示し、
R2は置換基を示し、nは1以上の整数を示し、
R1は置換基を示し、pは0以上の整数を示す)。
【0132】
【0133】
(式中、R2は置換基を示し、nは1~8の整数を示し、
R1は置換基を示し、pは0~(8-n)の整数を示す)。
【0134】
前記式(2)および(2A)において、Ar、n、R1およびpは、前記式(1)と好ましい態様を含めて同様のものが例示できる。
【0135】
R2で表される置換基としては、例えば、下記式(3)で表される基から選択された少なくとも一種である基(一価の基)などが挙げられる。
【0136】
【0137】
[式中、A1はアルキレン基を示し、X1は酸素原子または硫黄原子を示し、mは0または1以上の整数を示し、
Y1は下記式(3a)~(3f)から選択されたいずれかの一価の基を示す。
【0138】
【0139】
(式中、R3はハロゲン原子を有していてもよい飽和炭化水素基を示し、
A2は直接結合(単結合)またはアルキレン基を示し、
R4、R5およびR6はそれぞれ独立して水素原子、または置換もしくは未置換の炭化水素基を示し、
R7は水素原子またはメチル基を示し、
X2は酸素原子または硫黄原子を示し、
R8は水素原子またはメチル基を示し、
A3はアルキレン基を示し、
R9はヒドロキシル基、基[-OR10](式中、R10は置換または未置換の炭化水素基を示す。)またはハロゲン原子を示す)]。
【0140】
前記式(3)において、A1で表されるアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロパン-1,3-ジイル基、プロピレン基などのC1-10アルキレン基などが挙げられる。好ましいアルキレン基A1はC1-6アルキレン基(例えば、エチレン基、プロピレン基などのC2-4アルキレン基)、特に、エチレン基などであってもよい。
【0141】
X1は酸素原子または硫黄原子のいずれであってもよく、酸素原子が好ましい。
【0142】
基[-A1-X1-]の繰り返し数mは、0または1以上の整数であればよく、例えば0~20(例えば1~5)程度の整数、好ましくは0~2程度の整数(例えば0または1)であってもよい。Y1が式(3a)である場合、mは1であってもよく、Y1が式(3b)~(3f)である場合、mは0または1(特に、0)であってもよい。mが2以上である場合、2以上の基[-A1-X1-]の種類(A1およびX1の種類)は、それぞれ異なっていてもよく、同一であるのが好ましい。
【0143】
R3で表されるハロゲン原子を有していてもよい飽和炭化水素基において、飽和炭化水素基としては、アルキル基などが挙げられ、アルキル基としては、例えば、R1において例示したアルキル基と同様のものが例示でき、好ましくはメチル基、エチル基などのC1-6アルキル基などが挙げられる。飽和炭化水素基が有していてもよいハロゲン原子としては、例えば、塩素原子、臭素原子(好ましくは塩素原子)などが挙げられ、単独でまたは2種以上組み合わせて有していてもよい。ハロゲン原子の数は、例えば0~2、好ましくは0または1(特に、0)であってもよい。
【0144】
A2は直接結合(単結合)またはアルキレン基を示し、アルキレン基としては、前記A1として例示したアルキレン基と同様のものを例示できる。好ましいA2は直接結合、またはメチレン基などのC1-3アルキレン基であってもよい。
【0145】
R4、R5およびR6は水素原子、または置換もしくは未置換の炭化水素基を示し、置換もしくは未置換の炭化水素基としては、R1において例示した基と同様のものが例示できる。好ましいR4、R5およびR6は水素原子であってもよい。
【0146】
R7は水素原子またはメチル基のいずれであってもよく、安定性の点から、メチル基が好ましい。
【0147】
X2は酸素原子または硫黄原子のいずれであってもよく、酸素原子が好ましい。
【0148】
R8は水素原子またはメチル基のいずれであってもよく、水素原子が好ましい。
【0149】
A3はアルキレン基を示し、前記A1として例示したアルキレン基と同様のものを例示できる。好ましいA3はメチレン基などのC1-3アルキレン基であってもよい。
【0150】
R9はヒドロキシル基、基[-OR10](式中、R10は置換または未置換の炭化水素基を示す。)またはハロゲン原子を示し、R10としては、R1において例示した基と同様のものが例示でき、好ましいR10は、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基などのC1-6アルキル基など)などであってもよい。好ましいR9は、ヒドロキシル基、アルコキシ基などの基[-OR10](特に、ヒドロキシル基)であってもよい。
【0151】
前記式(3)において、Y1が式(3a)である基[以下、基(3a)ともいう]としては、例えば、水素原子、ヒドロキシアルキル基(例えば、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基などのヒドロキシC2-6アルキル基など)、ヒドロキシ-(ポリ)アルコキシ-アルキル基(例えば、ヒドロキシエトキシエチル基など)、メルカプトアルキル基(例えば、メルカプトエチル基など)、メルカプト-(ポリ)アルキルチオ-アルキル基(例えば、メルカプトエチルチオエチル基など)などが挙げられる。
【0152】
好ましい基(3a)としては、水素原子、ヒドロキシアルキル基が挙げられ、さらに好ましくはヒドロキシアルキル基(例えば、ヒドロキシエチル基などヒドロキシC2-4アルキル基など)などであってもよい。
【0153】
前記式(3)において、Y1が式(3b)である基[以下、基(3b)ともいう]としては、例えば、アルキル基(メチル基、エチル基、ブチル基などのC1-12アルキル基など)、アルコキシアルキル基(例えば、メトキシエチル基など)、ポリアルコキシ-アルキル基(例えば、メトキシエトキシエチル基など)、アルキルチオアルキル基(例えば、メチルチオエチル基など)、ポリアルキルチオ-アルキル基[例えば、メチルチオエチルチオエチル基など]、これらの基に1または複数のハロゲン原子(塩素原子など)が置換した基[クロロアルキル基(クロロエチル基など)、ブロモアルキル基(ブロモエチル基など)などのハロアルキル基、クロロエトキシエチル基などのハロアルコキシアルキル基など]などが挙げられる。
【0154】
好ましい基(3b)としては、アルキル基(C1-6アルキル基など)、ハロアルキル基(クロロエチル基などのハロC1-6アルキル基など)、さらに好ましくはアルキル基(メチル基などのC1-4アルキル基など)であってもよい。
【0155】
前記式(3)において、Y1が式(3c)である基[以下、基(3c)ともいう]としては、例えば、アルケニル基[例えば、ビニル基、プロペニル基(アリル基、イソプロペニル基など)などのC2-10アルケニル基など]、アルケニルオキシアルキル基(例えば、ビニルオキシエチル基、アリルオキシエチル基など)、アルケニル-(ポリ)アルコキシ-アルキル基(例えば、ビニルオキシエトキシエチル基、アリルオキシエトキシエチル基など)、アルケニルチオアルキル基(例えば、ビニルチオエチル基、アリルチオエチル基など)、アルケニル-(ポリ)アルキルチオ-アルキル基(例えば、ビニルチオエチルチオエチル基、アリルチオエチルチオエチル基など)などが挙げられる。
【0156】
好ましい基(3c)としては、アルケニル基(例えば、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基などのC2-6アルケニル基など)、さらに好ましくはビニル基、アリル基などのC2-4アルケニル基などであってもよい。
【0157】
前記式(3)において、Y1が式(3d)である基[以下、基(3d)ともいう]としては、例えば、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシアルキル基[例えば、(メタ)アクリロイルオキシエチル基、(メタ)アクリロイルオキシプロピル基などの(メタ)アクリロイルオキシC2-6アルキル基など]、(メタ)アクリロイルオキシ-(ポリ)アルコキシ-アルキル基[例えば、(メタ)アクリロイルオキシエトキシエチル基など]、(メタ)アクリロイルチオアルキル基[例えば、(メタ)アクリロイルチオエチル基など]、(メタ)アクリロイルチオ-(ポリ)アルキルチオ-アルキル基[例えば、(メタ)アクリロイルチオエチルチオエチル基など]などが挙げられる。
【0158】
好ましい基(3d)としては、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシアルキル基[例えば、(メタ)アクリロイルオキシエチル基などの(メタ)アクリロイルオキシC2-4アルキル基など]、さらに好ましくは(メタ)アクリロイル基(特にメタクリロイル基)であってもよい。
【0159】
前記式(3)において、Y1が式(3e)である基[以下、基(3e)ともいう]としては、例えば、グリシジル基、グリシジルオキシアルキル基(例えば、グリシジルオキシエチル基、グリシジルオキシプロピル基などのグリシジルオキシC2-6アルキル基など)、グリシジルオキシ-(ポリ)アルコキシ-アルキル基(例えば、グリシジルオキシエトキシエチル基など)、グリシジルチオアルキル基(例えば、グリシジルチオエチル基など)、グリシジルチオ-(ポリ)アルキルチオ-アルキル基(例えば、グリシジルチオエチルチオエチル基など)、これらの基に対応して、グリシジル基をβ-メチルグリシジル基、2,3-エピチオプロピル基または2-メチル-2,3-エピチオプロピル基に置き換えた基などが挙げられる。
【0160】
好ましい基(3e)としては、グリシジル基、β-メチルグリシジル基、2,3-エピチオプロピル基、さらに好ましくはグリシジル基、β-メチルグリシジル基(特に、グリシジル基)などであってもよい。
【0161】
前記式(3)において、Y1が式(3f)である基[以下、基(3f)ともいう]としては、例えば、カルボキシアルキル基(例えば、カルボキシメチル基などのカルボキシC1-6アルキル基など);アルコキシカルボニルアルキル基(例えば、メトキシカルボニルメチル基、エトキシカルボニルメチル基などのC1-6アルコキシ-カルボニル-C1-6アルキル基など);ハロカルボニルアルキル基(例えば、クロロカルボニルメチル基など);カルボキシ-(ポリ)アルコキシ-アルキル基(例えば、カルボキシメトキシエチル基、カルボキシメトキシエトキシエチル基など);アルコキシカルボニル-(ポリ)アルコキシ-アルキル基(例えば、メトキシカルボニルメトキシエチル基など);ハロカルボニル-(ポリ)アルコキシ-アルキル基(例えば、クロロカルボニルメトキシエチル基など);カルボキシ-(ポリ)アルキルチオ-アルキル基[例えば、カルボキシメチルチオエチル基など];アルコキシカルボニル-(ポリ)アルキルチオ-アルキル基(例えば、メトキシカルボニルメチルチオエチル基など);ハロカルボニル-(ポリ)アルキルチオ-アルキル基(例えば、クロロカルボニルメチルチオエチル基など)などが挙げられる。
【0162】
好ましい基(3f)としては、カルボキシC1-3アルキル基などのカルボキシアルキル基、アルコキシカルボニルアルキル基(例えば、メトキシカルボニルメチル基などのC1-3アルコキシ-カルボニル-C1-3アルキル基など)、ハロカルボニルアルキル基(例えば、クロロカルボニルメチル基などのハロカルボニルC1-3アルキル基など)が挙げられ、さらに好ましくはカルボキシアルキル基(例えば、カルボキシメチル基などのカルボキシC1-2アルキル基など)であってもよい。
【0163】
R2が基(3a)である代表的な化合物としては、mが1~4(例えば1または2、特に1)であり、nが1~4(特に、1~3)、Arがベンゼン環またはナフタレン環である化合物であり、例えば、モノないしトリ(ヒドロキシC2-4アルキルチオ)ナフタレン、モノないしトリ(ヒドロキシC2-4アルコキシC2-4アルキルチオ)ナフタレン、モノないしトリ(メルカプトC2-4アルキルチオ)ナフタレン、モノないしトリ(メルカプトC2-4アルキルチオC2-4アルキルチオ)ナフタレンなどのナフタレンチオール誘導体、これらのナフタレンチオール誘導体に対応して、ナフタレン環をベンゼン環に置き換えたベンゼンチオール誘導体などが例示できる。好ましい化合物としては、R2としての基(3a)がヒドロキシアルキル基である化合物、例えば、モノないしトリ(ヒドロキシアルキルチオ)ナフタレン[例えば、モノないしトリ(ヒドロキシエチルチオ)ナフタレンなどのモノないしトリ(ヒドロキシC2-3アルキルチオ)ナフタレンなど]などのナフタレンチオール誘導体であってもよい。
【0164】
このような化合物は、芳香族チオール化合物(例えば、ナフタレンチオール化合物など)と、アルキレンオキシド、アルキレンカーボネート、ハロアルカノール、アルキレンスルフィド、アルキレントリチオカーボネート、ハロアルカンチオールから選択された反応成分とを、DMF、DMAcなどの溶媒中、アルカリ金属水酸化物(水酸化ナトリウムなど)の塩基の存在下で反応させることにより調製できる。ジスルフィド体の生成を抑制するため、慣用の還元剤および/または重合禁止剤の存在下で反応させてもよい。
【0165】
R2が基(3b)である代表的な化合物としては、R3が直鎖状または分岐鎖状C1-4アルキル基、mが0~4(例えば0~2、特に0または1)、nが1~4(特に、1~3)、Arがベンゼン環またはナフタレン環である化合物であり、例えば、モノないしトリ(C1-4アルキルチオ)ナフタレン、モノないしトリ(C1-4アルコキシC2-4アルキルチオ)ナフタレン、モノないしトリ(C1-4アルキルチオC2-4アルキルチオ)ナフタレンなどのナフタレンチオール誘導体、これらのナフタレンチオール誘導体に対応して、ナフタレン環をベンゼン環に置き換えたベンゼンチオール誘導体などが例示できる。好ましい化合物としては、R2としての基(3b)がアルキルチオ基、アルキルチオアルキル基である化合物、例えば、モノないしトリ(メチルチオ)ナフタレンなどのモノないしトリ(C1-2アルキルチオ)ナフタレンなどのナフタレンチオール誘導体などであってもよい。
【0166】
このような化合物は、塩化メチレン、DMF、DMAcなどの溶媒中、アルカリ金属水酸化物(水酸化ナトリウムなど)の塩基の存在下、芳香族チオール化合物(例えば、ナフタレンチオール化合物など)と、ヨウ化アルキル(ヨウ化メチル、ヨウ化エチルなど)などのハロゲン化アルキルとの反応により調製でき、ジスルフィド体の生成を抑制するため、慣用の還元剤および/または重合禁止剤の存在下で反応させてもよい。
【0167】
R2が基(3c)である代表的な化合物としては、A2が直接結合(単結合)またはメチレン基などのC1-3アルキレン基、R4、R5およびR6が水素原子またはメチル基、mが0~4(例えば0~2、特に0または1)、nが1~4(特に、1~3)、Arがベンゼン環またはナフタレン環である化合物であり、好ましくは基(3c)が、ビニル基またはアリル基の化合物である。このような化合物としては、例えば、モノないしトリ(C2-4アルケニルチオ)ナフタレン、モノないしトリ(C2-3アルケニルオキシC2-3アルキルチオ)ナフタレン、モノないしトリ(C2-3アルケニルチオC2-3アルキルチオ)ナフタレンなどのナフタレンチオール誘導体、これらのナフタレンチオール誘導体に対応して、ナフタレン環をベンゼン環に置き換えたベンゼンチオール誘導体などが挙げられ、好ましい化合物としては、モノないしトリ(ビニルチオ)ナフタレン、モノないしトリ(アリルチオ)ナフタレン、モノないしトリ(イソプロペニルチオ)ナフタレンなどのモノないしトリ(C2-3アルケニルチオ)ナフタレンなどのナフタレンチオール誘導体などが挙げられる。
【0168】
これらの化合物は、塩化メチレン、DMF、DMAcなどの溶媒中、アルカリ金属塩(炭酸ナトリウムなど)などの塩基、および重合禁止剤(メトキノンなどのキノン類など)の存在下、芳香族チオール化合物(例えば、ナフタレンチオール化合物など)と、塩化アルケニル(塩化アリル、塩化イソプロペニルなどの塩化C2-6アルケニルなど)などのハロゲン化アルケニルとを反応させることにより調製できる。溶媒は水を含んでいてもよい。
【0169】
R2が基(3d)である代表的な化合物としては、mが0~4(例えば0~2、特に0または1)、nが1~4(特に、1~3)、Arがベンゼン環またはナフタレン環である化合物であり、好ましくは基(3d)が、(メタ)アクリロイル基の化合物である。このような化合物としては、モノないしトリ[(メタ)アクリロイルオキシC2-3アルキルチオ]ナフタレン[例えば、モノないしトリ[(メタ)アクリロイルチオ]ナフタレン、モノないしトリ[(メタ)アクリロイルオキシエチルチオ]ナフタレンなど]などのナフタレンチオール誘導体、これらのナフタレンチオール誘導体に対応して、ナフタレン環をベンゼン環に置き換えたベンゼンチオール誘導体などが挙げられ、好ましい化合物としては、モノないしトリ(メタクリロイルチオ)ナフタレンなどのナフタレンチオール誘導体などが挙げられる。
【0170】
これらの化合物は、塩化メチレン、DMF、DMAcなどの溶媒中、重合禁止剤(メトキノンなどのキノン類など)の存在下、芳香族チオール化合物(例えば、ナフタレンチオール化合物など)と、(メタ)アクリル酸クロリド、(メタ)アクリル酸ブロミドなどの(メタ)アクリル酸ハライド(好ましくはメタクリル酸ハライド)とを反応させることにより調製できる。
【0171】
R2が基(3e)である代表的な化合物としては、mが0~4(例えば0~2、特に0または1)、R7が水素原子またはメチル基(特に水素原子)、X2が酸素原子または硫黄原子(特に酸素原子)、nが1~4(特に、1~3)、Arがベンゼン環またはナフタレン環である化合物であり、好ましくは基(3e)が、グリシジル基、グリシジルオキシC2-3アルキル基の化合物である。このような化合物としては、モノないしトリ(グリシジルオキシC2-3アルキルチオ)ナフタレン[例えば、モノないしトリ(グリシジルチオ)ナフタレン、モノないしトリ(グリシジルオキシエチルチオ)ナフタレンなど]などのナフタレンチオール誘導体、これらのナフタレンチオール誘導体に対応して、ナフタレン環をベンゼン環に置き換えたベンゼンチオール誘導体などが例示できる。好ましい化合物としては、モノないしトリ(グリシジルチオ)ナフタレンなどのナフタレンチオール誘導体などであってもよい。基(3e)を有する化合物は、単量体であってもよく、二~十量体などの多量体を含んでいてもよい。
【0172】
このような化合物は、ベンジルトリブチルアンモニウムクロリドなどの相間移動触媒の存在下、芳香族チオール化合物(例えば、ナフタレンチオール化合物など)と、エピクロロヒドリンなどのエピハロヒドリン類、エピチオクロロヒドリンなどのエピチオハロヒドリン類とを反応させることにより調製できる。
【0173】
R2が基(3f)である代表的な化合物としては、mが0~4(例えば0~2、特に0または1)、A3がメチレン基などのC1-3アルキレン基、R9がヒドロキシル基、またはアルコキシ基などの基[-OR10](例えば、メトキシ基などのC1-4アルコキシ基など)、nが1~4(特に、1~3)、Arがベンゼン環またはナフタレン環である化合物であり、好ましくは基(3f)が、カルボキシメチル基などのカルボキシC1-3アルキル基、メトキシカルボニルメチル基などのC1-4アルコキシ-カルボニル-C1-3アルキル基の化合物である。このような化合物としては、モノないしトリ(カルボキシC1-3アルキルチオ)ナフタレン、モノないしトリ(カルボキシC1-3アルコキシC2-3アルキルチオ)ナフタレン、モノないしトリ(C1-4アルコキシ-カルボニル-C1-3アルキルチオ)ナフタレン、モノないしトリ(C1-4アルコキシ-カルボニル-C1-3アルコキシC2-3アルキルチオ)ナフタレンなどのナフタレンチオール誘導体、これらのナフタレンチオール誘導体に対応して、ナフタレン環をベンゼン環に置き換えたベンゼンチオール誘導体などが例示できる。好ましい化合物としては、モノないしトリ(カルボキシメチルチオ)ナフタレンなどモノないしトリ(カルボキシC1-2アルキルチオ)ナフタレンなどのナフタレンチオール誘導体などであってもよい。
【0174】
このような化合物は、芳香族チオール化合物(例えば、ナフタレンチオール化合物など)と、ハロアルカン酸アルキル(例えば、クロロ酢酸エチルなどのクロロC1-3アルカン酸C1-4アルキルなど)とを、水などの溶媒中、アルカリ金属水酸化物(水酸化ナトリウムなど)などの塩基の存在下、反応させることにより調製できる。ジスルフィド体の生成を抑制するため、慣用の還元剤および/または重合禁止剤の存在下で反応させてもよい。
【0175】
これらの芳香族チオール誘導体のうち、ヒドロキシアルキル基、カルボキシアルキル基などの反応性基を有する誘導体は、ポリマー(高分子)のモノマー(単量体)などとして有効に利用でき、(メタ)アクリロイル基、グリシジル基などの重合性を有する誘導体は硬化性樹脂またはその組成物を形成するのに有用であり、アルキル基などを有する誘導体は、樹脂などに添加する樹脂添加剤(屈折率向上剤など)などとして有用である。
【実施例0176】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。以下に、評価方法を示す。
【0177】
[評価方法]
(1H-NMR)
日本電子(株)製「JNM-ECZ400(400MHz)」、日本電子(株)製「JNM-ECA600(600MHz)」を使用し、重溶媒としてクロロホルム-d(CDCl3)、標準物質としてテトラメチルシラン(TMS)を用いて測定した。
【0178】
(融点)
融点測定装置(ビュッヒ社製「535」)を用いて、JIS K 4101(1993)[5.1 目視による方法]に準じて融点を測定した。
【0179】
(5%重量減少温度)
示差熱重量同時測定装置(セイコーインスツルメンツ(株)製「TG/DTA6200」)を用いて、窒素ガス雰囲気下(50mL/min)、昇温速度10℃/minで25~450℃まで昇温し、重量が5%減少する温度を測定した。
【0180】
(屈折率)
試料を1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)に溶解して濃度の異なる複数の溶液を調製し、アッベ屈折計((株)アタゴ製「NAR-1T」)を用いて、温度25℃、波長589nmにおける各溶液の屈折率を測定した。得られた各濃度における屈折率の結果から、濃度を100質量%に外挿した値を屈折率とした。
【0181】
(アセトニトリル溶状)
100mLの容器に試料100mgおよびアセトニトリル100mLを入れ、温度10~30℃で、超音波洗浄機(周波数40kHz)を用いて1~15分間撹拌して混合液(濃度約0.13質量%相当)を調製し、得られた混合液における濁りの有無を目視で確認した。
【0182】
(HPLC純度、ジスルフィド体含有率)
下記条件で測定したHPLCの面積百分率を、芳香族チオール化合物のHPLC純度およびジスルフィド体含有率(二量体含有率)とした。なお、ジスルフィド体含有率が検出限界値未満であるとき、「N.D.」と表記した。
【0183】
HPLC装置:(株)島津製作所製「LC-20A」
カラム:YMC-Triart C18(5μm、4.6mmφ×150mm)
移動相:5容量%リン酸水溶液/アセトニトリル(アセトニトリル65容量%→90容量%)
流量:1.0mL/min、カラム温度:40℃、検出波長:UV 210nm。
【0184】
(含量)
試料の含量(絶対純度)は、対象試料に対応する標準品[不純物を含まない(含量100%の)芳香族チオール化合物]を、上記(HPLC純度、ジスルフィド体含有率)に記載の測定条件と同様にして測定して得られた結果と、対象試料のHPLC純度の測定で得られた結果とを用いて、以下の計算式により算出した。
【0185】
含量[質量%]=(標準品のHPLCサンプル重量÷標準品のHPLC面積値)÷(対象試料のHPLCサンプル重量÷対象試料中の芳香族チオール化合物に由来するHPLC面積値)×100。
【0186】
[実施例1]
(1,6-ナフタレンジチオールの合成)
【0187】
【0188】
窒素雰囲気下、1000mLフラスコに1,6-ナフタレンジスルホン酸二ナトリウム100g(300.9mmol)と、トルエン451gと、N,N-ジメチルホルムアミド8.8g(0.4mol比)と、塩化チオニル89.6g(2.5mol比)とを仕込み、100℃まで昇温し、温度97~102℃で8時間反応させた。反応後、30℃まで冷却し、水451gを20~30℃で加えて10分以上撹拌し、下層の水相を分液して除去した。有機相に、上記と同様に水451gを加えて10分以上撹拌して分液し、有機相として、622.5gの1,6-ナフタレンジスルホニルクロリド(16NDSC)トルエン溶液を得た(収率:97mol%、HPLC純度:98%)。
【0189】
窒素雰囲気下、5000mLフラスコにトルエン1800gと36質量%塩酸1439.8g(48.8mol比)とを仕込み、60℃まで昇温した。昇温後、前記16NDSCトルエン溶液622.5g(291.0mmol)と亜鉛末258.8g(13.6mol比)とを温度60~70℃で3時間30分かけて分割しながら添加し、前記温度で1時間反応させた。反応後、30℃まで冷却し、0~30℃で静置後、下層の水相を分液して除去した。その後、有機相をろ過し、残渣を33gのトルエンで洗浄した。得られたろ液を45℃以下で減圧により脱溶媒および乾燥して50.5gの1,6-ナフタレンジチオール(1,6-体または16NDSH)を固体で得た(収率:90mol%、アセトニトリル溶状:濁り無し、含量:99.2質量%、HPLC純度:99.8%、ジスルフィド体含有率:0.2%)。
【0190】
(1,6-体の精製)
窒素雰囲気下、100mLフラスコに16NDSH(1,6-体)10.0g(52.0mmol)と、10質量%水酸化ナトリウム水溶液58.2g(2.8mol比)と、水素化ホウ素ナトリウム0.10g(0.05mol比)とを仕込み、60℃まで昇温した。昇温後、60~70℃で1時間以上撹拌し、30℃まで冷却した。窒素雰囲気下、20~30℃でろ過した後、残渣を5.0gの水で洗浄した。得られたろ液に、窒素雰囲気下、20~30℃で36質量%塩酸15.8g(3.00mol比)を1時間以上かけて滴下し、30分間撹拌後、ろ過した。得られた湿結晶をイオン交換水248g(4769g/mol)で洗浄し、乾燥することによって、9.8gの16NDSH(1,6-体)を固体で得た(収率:96mol%、アセトニトリル溶状:濁り無し、含量:100.0質量%、HPLC純度:100.0%、ジスルフィド体含有率:0.1%以下)。
【0191】
融点:35~36℃
5%重量減少温度:171℃
屈折率:1.722
1H-NMR(CDCl3):δ(ppm)3.57(s,1H)、3.61(s,1H)、7.31(dd,J 8.4 7.4,1H)、7.40(dd,J 9.0 1.8,1H)、7.48(d,J 7.2,1H)、7.55(d,J 8.4,1H)、7.72(d,J 1.8,1H)、8.03(d,J 9.0,1H)。
【0192】
下記表に実施例1で得られた16NDSHの精製前後における評価結果を示す。
【0193】
【0194】
表1の結果から明らかなように、ジスルフィド体を増加させることなく(むしろ低減しつつ)、1,6-体を簡便な方法で高い水準に精製でき、しかも収率も高かった。
【0195】
[比較例1-1]1,6-体のメタノールからの結晶化
1Lフラスコに、実施例1の(1,6-ナフタレンジチオールの合成)と同様にして合成した16NDSH(アセトニトリル溶状:濁り無し、含量:97.6質量%、HPLC純度:98.9%、ジスルフィド体含有率:1.1%)25.0g、メタノール250.0gを仕込み、25℃で撹拌し溶解した。溶液を5℃以下に冷却し、水44.1gを滴下し、結晶を析出させ、ろ過により黄色固体18.1gを得た(収率:71mol%、アセトニトリル溶状:濁り無し、含量:95.9質量%、HPLC純度:99.3%、ジスルフィド体含有率:0.7%)。
【0196】
[比較例1-2]1,6-体のヘプタンからの結晶化
1Lフラスコに、実施例1の(1,6-ナフタレンジチオールの合成)と同様にして合成した16NDSH(アセトニトリル溶状:濁り無し、含量:97.6質量%、HPLC純度:98.9%、ジスルフィド体含有率:1.1%)20.0g、ヘプタン229.5gを仕込み、98℃に昇温し撹拌した。撹拌後、5℃以下までゆっくりと冷却し、結晶を析出させ、ろ過により黄色固体7.9gを得た(収率:40mol%、アセトニトリル溶状:濁り無し、含量:97.3質量%、HPLC純度:98.9%、ジスルフィド体含有率:1.1%)。
【0197】
得られた黄色固体7.9gとヘプタン90.9gを仕込み、98℃に昇温し撹拌した。撹拌後、5℃までゆっくりと冷却し、結晶を析出させ、ろ過により黄色固体5.9gを得た(収率:30mol%、アセトニトリル溶状:濁り無し、含量:98.5質量%、HPLC純度:98.9%、ジスルフィド体含有率:1.1%)。
【0198】
このように、ヘプタンからの結晶化操作を2回行ったが、十分に高純度な1,6-体は得られず、収率も大きく低下した。
【0199】
[比較例1-3]1,6-体のシリカゲルクロマトグラフィー精製
実施例1の(1,6-ナフタレンジチオールの合成)と同様にして合成した16NDSH(アセトニトリル溶状:濁り無し、含量:97.6質量%、HPLC純度:98.9%、ジスルフィド体含有率:1.1%)20.0gをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘプタン(体積比)=1/32)で分離精製し、14.2gの16NDSHを淡黄色の固体として得た(収率:72mol%、アセトニトリル溶状:濁り無し、含量:97.2質量%、HPLC純度:99.6%、ジスルフィド体含有率:0.3%)。
【0200】
得られた固体を再度、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘプタン(体積比)=1/32)で分離精製し、10.0gの16NDSHを淡黄色の固体として得た(収率:50mol%、アセトニトリル溶状:濁り無し、含量:98.5質量%、HPLC純度:99.5%、ジスルフィド体含有率:0.3%)。
【0201】
このように、クロマトグラフィーを利用して2回精製しても、純度の向上およびジスルフィド体の含量の低減が十分ではなく、収率も大きく低下した。
【0202】
[比較例1-4]吸着処理
窒素雰囲気下、1Lフラスコに、メタノール250g(16NDSHに対して10倍量)と、実施例1の(1,6-ナフタレンジチオールの合成)と同様にして合成した16NDSH(アセトニトリル溶状:濁り無し、含量:97.6質量%、HPLC純度:100.0%、ジスルフィド体含有率:「N.D.」)25gとを仕込み、30℃まで昇温した。10分以上撹拌し、完溶を確認した。得られた溶液に、活性炭(大阪ガスケミカル(株)製「白鷺A」)2.5g(16NDSHに対して10質量%を投入し、30分撹拌した後、ろ過し、残渣をメタノール洗浄し、16NDSH溶液A(アセトニトリル溶状:濁り無し、HPLC純度:99.0%、ジスルフィド体含有率:1.0%)280.2gを得た。得られた16NDSH溶液Aに酸性白土(水澤化学工業(株)製「ミズカライフF-1G」)2.5g(16NDSHに対して10質量%)を投入し、30分以上撹拌した後、ろ過し、残渣をメタノール洗浄し、16NDSH溶液B(アセトニトリル溶状:濁り無し、HPLC純度:98.5%、ジスルフィド体含有率:1.5%)282.2gを得た。得られた16NDSH溶液Bに、再度、前記酸性白土2.5g(16NDSHに対して10質量%)を投入し、30分以上撹拌した後、ろ過し、残渣をメタノール洗浄し、16NDSH溶液C(アセトニトリル溶状:濁り無し、HPLC純度:98.4%、ジスルフィド体含有率:1.6%)282.2gを得た。
【0203】
このように、活性炭および酸性白土で脱色しても、純度を十分に向上できず、ジスルフィド体の含量が大きく増加した。
【0204】
[参考例1-1]1,6-体の蒸留
実施例1の(1,6-ナフタレンジチオールの合成)と同様にして合成した16NDSH(アセトニトリル溶状:濁り無し、含量:97.0質量%、HPLC純度:98.3%、ジスルフィド体含有率:1.4%)148gを蒸留装置(単蒸留装置)に仕込み、内温162~167℃および圧力0.6hPaで蒸留し、塔頂温度(トップ温度)141~146℃で留出する無色の留分144gを得た(収率:97mol%、アセトニトリル溶状:濁り無し、含量:99.8質量%、HPLC純度:100.0%、ジスルフィド体含有率:「N.D.」)。
【0205】
[参考例1-2~1-6]
下記条件で蒸留したこと以外、参考例1-1の蒸留操作と同様にして蒸留し、16NDSHを得た。得られた16NDSHは、いずれも、アセトニトリル溶状:濁り無し、含量:99.8質量%、HPLC純度:100.0%、ジスルフィド体含有率:「N.D.」であった。
【0206】
参考例1-2:内温167℃、圧力1hPaおよび塔頂温度(トップ温度)146℃
参考例1-3:内温200℃、圧力10hPaおよび塔頂温度(トップ温度)181℃
参考例1-4:内温208℃、圧力15hPaおよび塔頂温度(トップ温度)187℃
参考例1-5:内温218℃、圧力20hPaおよび塔頂温度(トップ温度)194℃
参考例1-6:内温234℃、圧力30hPaおよび塔頂温度(トップ温度)211℃
[実施例2]
(1,5-ナフタレンジチオールの合成)
【0207】
【0208】
窒素雰囲気下、5Lフラスコに1,5-ナフタレンジスルホン酸二ナトリウム100g(300.9mmol)と、トルエン2003gと、N,N-ジメチルホルムアミド8.8g(0.4mol比)と、塩化チオニル85.9g(2.4mol比)とを仕込み、100℃まで昇温した。昇温後の温度は97~102℃であり、恒温槽で前記温度に保温して5時間反応させた。反応後、30℃まで冷却し、水451gを20~30℃で加えて10分以上撹拌し、下層の水相を分液して除いた。得られた有機相に同様に水150gを加えて10分以上撹拌し、分液して有機相を得た。この有機相をろ過し、残渣を30gのトルエンで洗浄することによって、2141.6gの1,5-ナフタレンジスルホニルクロリド(15NDSC)トルエン溶液を得た(収率:96mol%、HPLC純度:96%)。
【0209】
窒素雰囲気下、10Lフラスコにトルエン580gと36質量%塩酸1422.1g(48.4mol比)とを仕込み、60℃まで昇温した。昇温後、前記15NDSCトルエン溶液2141.6g(289.8mmol)と亜鉛末257.7g(13.6mol比)とを1時間30分かけて分割しながら添加した。添加時の温度は60~70℃であり、恒温槽で前記温度に保温して1時間反応させた。反応後、30℃まで冷却し、0~30℃で静置後、下層の水相を分液して除いた。その後、有機相をろ過し、残渣を188gのトルエンで洗浄した。得られたろ液を40℃以下で減圧により脱溶媒および乾燥して58.5gの1,5-ナフタレンジチオール(1,5-体または15NDSH)を固体で得た(収率:99mol%、アセトニトリル溶状:濁り有り、含量:98.4質量%、HPLC純度:100.0%、ジスルフィド体含有率:0.1%以下)。
【0210】
(1,5-体の精製)
窒素雰囲気下、100mLフラスコに15NDSH(1,5-体)10.0g(52.0mmol)と、10質量%水酸化ナトリウム水溶液45.8g(2.2mol比)と、水素化ホウ素ナトリウム0.10g(0.05mol比)とを仕込み、60℃まで昇温した。昇温後、60~70℃で1時間以上撹拌し、30℃まで冷却した。窒素雰囲気下、20~30℃でろ過後、残渣を5.0gの水で洗浄した。得られたろ液に、窒素雰囲気下、20~30℃で36質量%塩酸13.5g(2.56mol比)を1時間以上かけて滴下し、30分間撹拌後、ろ過した。得られた湿結晶をイオン交換水248gで洗浄し、乾燥することによって、9.8gの15NDSH(1,5-体)を固体で得た(収率:98mol%、アセトニトリル溶状:濁り無し、含量:100.0質量%、HPLC純度:100.0%、ジスルフィド体含量:0.1%以下)。
【0211】
融点:120~121℃
5%重量減少温度:176℃
屈折率:1.711
1H-NMR(CDCl3):δ(ppm)3.62(s,2H)、7.40(dd,J 8.4 7.2,2H)、7.59(d,J 7.2,2H)、8.04(d,J 8.4,2H)。
【0212】
下記表に実施例2で得られた15NDSHの精製前後における評価結果を示す。
【0213】
【0214】
表2の結果から明らかなように、ジスルフィド体を増加させることなく、1,5-体を簡便な方法で高い水準に精製でき、しかも収率も高かった。
【0215】
[参考例2]1,5-体の蒸留
蒸留装置(単蒸留装置)に15NDSH(1,5-体)10gを仕込んで蒸留し、沸点150℃/0.6hPaの留分を留出させたが、コンデンサー内部で結晶化し(1,5-体の融点120℃)、留出ラインが閉塞したため、中断した。
【0216】
[実施例3]
(2,6-ナフタレンジチオールの合成)
【0217】
【0218】
窒素雰囲気下、1Lフラスコに2,6-ナフタレンジスルホン酸二ナトリウム100g(300.9mmol)と、トルエン451gと、N,N-ジメチルホルムアミド8.8g(0.4mol比)と、塩化チオニル100.3g(2.8mol比)とを仕込み、100℃まで昇温した。昇温後の温度は97~102℃であり、恒温槽で前記温度に保温して8時間反応させた。反応後、30℃まで冷却し、水226gを20~30℃で加えて2時間以上撹拌後、ろ過した。得られた湿結晶をトルエン60gで洗浄し、乾燥することによって92.6gの2,6-ナフタレンジスルホニルクロリド(26NDSC)を固体で得た(収率:93mol%、HPLC純度:98%)。
【0219】
窒素雰囲気下、10Lフラスコにトルエン4478gと亜鉛末249.0g(13.6mol比)とを仕込み、60℃まで昇温した。昇温後、26NDSC 92.6g(279.9mmol)と、36質量%塩酸692.4g(24.4mol比)とを1時間かけて分割しながら添加した。添加時の温度は60~70℃であり、恒温槽で前記温度に保温して2時間反応させた。反応後、ろ過し、残渣を予め60℃に保温したトルエン55gで洗浄した。得られたろ液を55~60℃で分液し、下層の水相を除去した。その後、得られた有機相に水221gと、36質量%塩酸21.0g(0.74mol比)とを仕込み、50℃まで昇温した。昇温後の温度は50~60℃であり、恒温槽で前記温度に保温して30分撹拌し、下層の水相を分液した。得られた有機相を60℃以下で減圧により398gまで脱溶媒し、5℃まで冷却した。冷却後の温度は0~5℃であり、恒温槽で前記温度に保温して1時間撹拌した後、ろ過した。得られた湿結晶を水55gで洗浄し、乾燥することによって40.2gの2,6-ナフタレンジチオール(2,6-体または26NDSH)を固体で得た(収率:75mol%、アセトニトリル溶状:濁り有り、含量:96.7質量%、HPLC純度:98.9%、ジスルフィド体含有率:0.5%)。
【0220】
(2,6-体の精製)
窒素雰囲気下、100mLフラスコに26NDSH(2,6-体)10.0g(52.0mmol)と、10質量%水酸化ナトリウム水溶液45.8g(2.2mol比)と、水素化ホウ素ナトリウム0.10g(0.05mol比)とを仕込み、60℃まで昇温した。昇温後、60~70℃で1時間以上撹拌し、30℃まで冷却した。窒素雰囲気下、20~30℃でろ過後、残渣を5.0gの水で洗浄した。得られたろ液に、窒素雰囲気下、20~30℃で36質量%塩酸13.5g(2.56mol比)を1時間以上かけて滴下し、30分間撹拌後、ろ過した。得られた湿結晶をイオン交換水248gで洗浄し、乾燥することによって、9.8gの26NDSH(2,6-体)を固体で得た(収率:98mol%、アセトニトリル溶状:濁り無し、含量:99.8質量%、HPLC純度:99.8%、ジスルフィド体含有率:0.2%)。
【0221】
融点:196~197℃
5%重量減少温度:187℃
屈折率:1.718
1H-NMR(CDCl3):δ(ppm)3.58(s,2H)、7.32(dd,J 8.0 1.6,2H)、7.57(d,J 8.0,2H)、7.68(d,J 1.6,2H)。
【0222】
下記表に実施例3で得られた26NDSHの精製前後における評価結果を示す。
【0223】
【0224】
表3の結果から明らかなように、ジスルフィド体を増加させることなく(むしろ低減しつつ)、2,6-体を簡便な方法で高い水準に精製でき、しかも収率も高かった。
【0225】
[参考例3]2,6-体の蒸留
蒸留装置(単蒸留装置)に26NDSH(2,6-体)24gを仕込み、蒸留したところ、145℃/0.7hPaで昇華が始まり(2,6-体の融点196~197℃)、留出ラインが閉塞したため、蒸留操作を中断した。
【0226】
[実施例4]
(2,7-ナフタレンジチオールの合成)
【0227】
【0228】
窒素雰囲気下、1Lフラスコに2,7-ナフタレンジスルホン酸二ナトリウム100g(300.9mmol)と、トルエン632gと、N,N-ジメチルホルムアミド8.8g(0.4mol比)と、塩化チオニル89.5g(2.5mol比)とを仕込み、100℃まで昇温した。昇温後の温度は97~102℃であり、恒温槽で前記温度に保温して3時間反応させた。反応後、30℃まで冷却し、水451gを20~30℃で加えて10分以上撹拌し、下層の水相を分液して除いた。得られた有機相に同様に水451gを加えて10分以上撹拌し分液して、有機相として738.6gの2,7-ナフタレンジスルホニルクロリド(27NDSC)トルエン溶液を得た(収率:99mol%、HPLC純度:99%)。
【0229】
窒素雰囲気下、10Lフラスコにトルエン6507gと36質量%塩酸1264.3g(41.9mol比)とを仕込み、60℃まで昇温した。昇温後、27NDSCトルエン溶液738.6g(297.6mmol)と亜鉛末264.7g(13.6mol比)とを3時間30分かけて分割しながら添加した。添加時の温度は60~70℃であり、恒温槽で前記温度に保温して1時間反応させた。反応後、30℃まで冷却し、0~30℃で静置後、下層の水相を分液して除いた。その後、有機相をろ過し、残渣を75gのトルエンで洗浄した。得られたろ液を55℃以下で減圧により203gになるまで脱溶媒し、その後、ろ過した。得られた湿結晶をトルエン59gで洗浄し、乾燥することによって43.1gの2,7-ナフタレンジチオール(2,7-体または27NDSH)を固体で得た(収率:75mol%、アセトニトリル溶状:濁り有り、含量:89.1質量%、HPLC純度:99.2%、ジスルフィド体含有率:0.4%)。
【0230】
(2,7-体の精製)
窒素雰囲気下、1Lフラスコに27NDSH(2,7-体)111.6g(517.1mmol)と、10質量%水酸化ナトリウム水溶液581.9g(2.8mol比)と、水素化ホウ素ナトリウム1.0g(0.05mol比)とを仕込み、60℃まで昇温した。昇温後、60~70℃で1時間以上撹拌し、30℃まで冷却した。窒素雰囲気下、20~30℃でろ過後、残渣を157gの水で洗浄した。得られたろ液に、窒素雰囲気下、30~40℃で36質量%塩酸73.3g(1.40mol比)を滴下し、30分間撹拌後、さらに36質量%塩酸77.5g(1.48mol比)を滴下し、30分間撹拌した後、ろ過した。得られた湿結晶をイオン交換水1991gで洗浄し、乾燥することによって、88.4gの27NDSH(2,7-体)を固体で得た(収率:88mol%、アセトニトリル溶状:濁り無し、含量:98.9質量%、HPLC純度:99.5%、ジスルフィド体含有率:0.3%)。
【0231】
融点:186~188℃
5%重量減少温度:184℃
屈折率:1.721
1H-NMR(CDCl3):δ(ppm)3.60(s,2H)、7.27(dd,J 8.4 1.2,2H)、7.58(d,J 1.2,2H)、7.64(d,J 8.4,2H)。
【0232】
下記表に実施例4で得られた27NDSHの精製前後における評価結果を示す。
【0233】
【0234】
表4の結果から明らかなように、ジスルフィド体を増加させることなく(むしろ低減しつつ)、2,7-体を簡便な方法で高い水準に精製でき、しかも収率も高かった。
【0235】
[参考例4]2,7-体の蒸留
[蒸留操作]
蒸留装置に27NDSH(2,7-体)20gを仕込み、蒸留したところ、145℃/0.7hPaで昇華が始まり(2,7-体の融点186~188℃)、留出ラインが閉塞したため、蒸留操作を中断した。
【0236】
[実施例5]
(1-ナフタレンチオールの合成)
【0237】
【0238】
窒素雰囲気下、300mLフラスコに1-ナフタレンスルホン酸ナトリウム30.7g(133.4mmol)と、トルエン180gと、N,N-ジメチルホルムアミド3.3g(0.3mol比)と、塩化チオニル33.9g(2.13mol比)とを仕込み、100℃まで昇温した。昇温後の温度は97~102℃であり、恒温槽で前記温度に保温して3時間反応させた。反応後、30℃まで冷却し、水75gを20~30℃で加えて10分以上撹拌し、下層の水相を分液して除去した。有機相に、上記と同様に水75gを加えて10分以上撹拌して分液し、有機相として、202.2gの1-ナフタレンスルホニルクロリド(1NSC)トルエン溶液を得た(収率:95mol%、HPLC純度:80%)。
【0239】
窒素雰囲気下、500mLフラスコに36質量%塩酸153.9g(12.0mol比)を仕込み、40℃まで昇温した。昇温後、前記1NSCトルエン溶液202.2g(126.6mmol)と亜鉛末33.1g(4.0mol比)とを温度40~50℃で3時間かけて分割しながら添加し、65℃まで昇温した。温度65~75℃で1時間反応させた。反応後、30℃まで冷却し、0~30℃で静置後、下層の水相を分液して除去した。その後、有機相をろ過し、残渣を15gのトルエンで洗浄した。得られたろ液を60℃以下で減圧により脱溶媒および乾燥して19.0gの1-ナフタレンチオール(1-体または1NSH)を液体で得た(収率:94mol%、アセトニトリル溶状:濁り無し、含量:98.0質量%、HPLC純度:98.5%、ジスルフィド体含有率:0.1%以下)。
【0240】
(1-体の精製)
窒素雰囲気下、100mLフラスコに1NSH(1-体)10.0g(62.4mmol)と、10質量%水酸化ナトリウム水溶液37.4g(1.5mol比)と、水素化ホウ素ナトリウム0.13g(0.05mol比)とを仕込み、20~30℃で1時間以上撹拌し、窒素雰囲気下、20~30℃でろ過後、残渣を157gの水で洗浄した。得られたろ液に、窒素雰囲気下、20~30℃で36質量%塩酸10.6g(1.68mol比)を1時間以上かけて滴下し、30分間撹拌後、上層の水相を分液して除去し、得られた有機相を乾燥することによって、9.7gの1NSH(1-体)を液体で得た(収率:97mol%、アセトニトリル溶状:濁り無し、含量:98.9質量%、HPLC純度:98.9%、ジスルフィド体含有率:0.1%以下)。
【0241】
融点:15℃
屈折率:1.679
【0242】
下記表に実施例5で得られた1NSHの精製前後における評価結果を示す。
【0243】
【0244】
表5の結果から明らかなように、ジスルフィド体を増加させることなく、1-体を簡便な方法で高い水準に精製でき、しかも収率も高かった。
【0245】
[実施例6]
(2-ナフタレンチオールの合成)
【0246】
【0247】
窒素雰囲気下、5000mLフラスコに2-ナフタレンスルホン酸ナトリウム418.7g(1818.8mmol)と、トルエン1580gと、N,N-ジメチルホルムアミド39.9g(0.3mol比)と、塩化チオニル246.7g(1.14mol比)とを仕込み、100℃まで昇温した。昇温後の温度は97~102℃であり、恒温槽で前記温度に保温して5時間反応させた。反応後、30℃まで冷却し、水545gを20~30℃で加えて10分以上撹拌し、下層の水相を分液して除去した。有機相に、上記と同様に水545gを加えて10分以上撹拌して分液し、有機相として、1946gの2-ナフタレンスルホニルクロリド(2NSC)トルエン溶液を得た(収率:98mol%、HPLC純度:99%)。
【0248】
窒素雰囲気下、2000mLフラスコに36質量%塩酸550.1g(12.0mol比)を仕込み、55℃まで昇温した。昇温後、前記2NSCトルエン溶液493g(452.1mmol)と亜鉛末112.3g(3.8mol比)とを温度55~70℃で2時間かけて分割しながら添加し、65℃まで昇温した。温度60~70℃で1時間反応させた。反応後、30℃まで冷却し、0~30℃で静置後、下層の水相を分液して除去した。その後、有機相をろ過し、残渣を45gのトルエンで洗浄した。得られたろ液を60℃以下で減圧により89gになるまで脱溶媒し、メタノール115gを60~65℃で1時間滴下し、20℃まで冷却した。その後、ろ過した。得られた湿結晶をメタノール70gで洗浄し、乾燥することによって59.7gの2-ナフタレンチオール(2-体または2NSH)を固体で得た(収率:82mol%、アセトニトリル溶状:濁り有り、含量:96.0質量%、HPLC純度:99.4%、ジスルフィド体含有率:0.3%)。
【0249】
(2-体の精製)
窒素雰囲気下、100mLフラスコに2NSH(2-体)10.0g(62.4mmol)と、10質量%水酸化ナトリウム水溶液37.4g(1.5mol比)と、水素化ホウ素ナトリウム0.13g(0.05mol比)とを仕込み、60℃まで昇温した。昇温後、60~70℃で1時間以上撹拌し、30℃まで冷却した。窒素雰囲気下、20~30℃でろ過後、残渣を157gの水で洗浄した。得られたろ液に、窒素雰囲気下、20~30℃で36質量%塩酸10.8g(1.70mol比)を1時間以上かけて滴下し、30分間撹拌後、ろ過した。得られた湿結晶をイオン交換水248gで洗浄し、乾燥することによって、9.7gの2NSH(2-体)を固体で得た(収率:97mol%、アセトニトリル溶状:濁り無し、含量:99.4質量%、HPLC純度:99.4%、ジスルフィド体含有率:0.3%)。
【0250】
融点:81~82℃
5%重量減少温度:134℃
屈折率:1.685
【0251】
下記表に実施例6で得られた2NSHの精製前後における評価結果を示す。
【0252】
【0253】
表6の結果から明らかなように、ジスルフィド体を増加させることなく、2-体を簡便な方法で高い水準に精製でき、しかも収率も高かった。
【0254】
[実施例7]
(1,3,6-ナフタレントリチオールの合成)
【0255】
【0256】
窒素雰囲気下、1Lフラスコに1,3,6-ナフタレントリスルホン酸三ナトリウム100g(230.3mmol)と、トルエン921gと、N,N-ジメチルホルムアミド6.7g(0.4mol比)と、塩化チオニル90.4g(3.3mol比)とを仕込み、100℃まで昇温した。昇温後の温度は97~102℃であり、恒温槽で前記温度に保温して2時間反応させた。反応後、30℃まで冷却し、水239gを20~30℃で加えて10分以上撹拌し、下層の水相を分液して除いた。得られた有機相に同様に水239gを加えて10分以上撹拌し、分液して水相を除き、有機相として991.8gの1,3,6-ナフタレントリスルホニルクロリド(136NTSC)トルエン溶液を得た(収率:93mol%、HPLCによる純度:95%)。
【0257】
窒素雰囲気下、3000mLフラスコにトルエン400gと36質量%塩酸651.5g(30.0mol比)とを仕込み、60℃まで昇温した。昇温後、前記136NTSCトルエン溶液991.8g(214.2mmol)と亜鉛末168.1g(12.0mol比)とを3時間30分かけて分割しながら添加した。添加時の温度は60~70℃であり、恒温槽で前記温度に保温して1時間反応させた。反応後、30℃まで冷却し、0~30℃で静置後、下層の水相を分液して除いた。その後、有機相のろ過を行い、残渣を43gのトルエンで洗浄した。得られたろ液を40℃以下で減圧により脱溶媒および乾燥して29.5gの1,3,6-ナフタレントリチオール(1,3,6-体または136NTSH)を固体で得た(アセトニトリル溶状:濁り無し、含量:99.0質量%、HPLC純度:100.0%、ジスルフィド体含有率:0.1%以下)。
【0258】
(1,3,6-体の精製)
窒素雰囲気下、100mLフラスコに136NTSH(1,3,6-体)10.0g(44.6mmol)と、10質量%水酸化ナトリウム水溶液53.5g(3.0mol比)と、水素化ホウ素ナトリウム0.16g(0.1mol比)とを仕込み、60℃まで昇温した。昇温後、60~70℃で1時間以上撹拌し、30℃まで冷却した。窒素雰囲気下、20~30℃でろ過後、残渣を5.0gの水で洗浄した。得られたろ液に、窒素雰囲気下、20~30℃で36質量%塩酸18.1g(4.0mol比)を1時間以上かけて滴下し、30分間撹拌後、ろ過した。得られた湿結晶をイオン交換水250gで洗浄し、乾燥することによって、9.8gの136NTSH(1,3,6-体)を固体で得た(収率:98mol%、アセトニトリル溶状:濁り無し、含量:100.0質量%、HPLC純度:100.0%、ジスルフィド体含有率:0.1%以下)。
【0259】
融点:84~86℃
5%重量減少温度:215℃
屈折率:1.764
1H-NMR(CDCl3):δ(ppm)3.54(s,1H)、3.55(s,1H)、3.57(s,1H)、7.34(dd,J 2.0 1.6,1H)、7.36(d,J 1,6,1H)、7.43(s,1H)、7.55(d,J 2.0,1H)、7.93(d,J 8.8,1H)。
【0260】
下記表に実施例7で得られた136NTSHの精製前後における評価結果を示す。
【0261】
【0262】
表7の結果から明らかなように、ジスルフィド体を増加させることなく、1,3,6-体を簡便な方法で高い水準に精製でき、しかも収率も高かった。
本発明の精製方法で得られる芳香族チオール化合物(例えば、ナフタレンチオール化合物など)は、高純度であり、ベンゼン環骨格、ナフタレン環骨格などの芳香環骨格を有するため、高屈折率、高耐熱性を備え、様々な用途に利用できる。そのため、芳香族チオール化合物またはその誘導体は、例えば、試薬、機能性化合物などの原料または反応中間体、光学用材料[例えば、反射防止膜(例えば、インデックスマッチングフィルムなど)などのディスプレイ材料、光学用接着剤または粘着剤など]、添加剤[または樹脂添加剤、例えば、屈折率向上剤、蛍光消光剤、架橋剤または架橋助剤、エポキシ樹脂の硬化剤または硬化促進剤、連鎖移動剤など]、電気電子材料(レジスト下層膜などのレジスト材料、有機半導体材料など)、コーティング材料または塗料(ハードコート層などを形成するためのコーティング組成物など)、接着剤または粘着剤などに利用できる。
前記原料または反応中間体としては、例えば、樹脂原料またはモノマー成分(例えば、高屈折率なモノマー成分など)などとして利用することもできる。前記樹脂原料またはモノマー成分から調製できる樹脂としては、熱可塑性樹脂[例えば、ポリエステル系樹脂(ポリエステル樹脂、ポリエステルカーボネート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリチオエステル樹脂など)、ポリエーテル系樹脂、ポリスルフィド系樹脂(エンチオール反応による重付加体など)、ポリウレタン系樹脂(ポリウレタン樹脂、ポリチオウレタン樹脂など)など]であってもよく、熱(または光)硬化性樹脂[例えば、(メタ)アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ジアリル系樹脂、ポリエステル系樹脂(ポリエステル樹脂、ポリエステルカーボネート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリチオエステル樹脂など)、ポリエーテル系樹脂、ポリスルフィド系樹脂(エンチオール反応による重付加体(エンチオール樹脂)など)、ポリウレタン系樹脂(ポリウレタン樹脂、ポリチオウレタン樹脂など)など]であってもよい。
前記接着剤または粘着剤(例えば、光学用接着剤または粘着剤など)の用途においては、芳香族チオール化合物またはその誘導体(またはその組成物もしくは硬化物)が接着剤または粘着剤として機能してもよく;他の慣用の接着剤または粘着剤に対し、添加剤として芳香族チオール化合物またはその誘導体(またはその硬化物)が添加された組成物が接着剤または粘着剤として機能してもよい。