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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114238
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】吸音部材及び吸音壁
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/172 20060101AFI20240816BHJP
   G10K 11/16 20060101ALI20240816BHJP
   E04B 1/82 20060101ALI20240816BHJP
   E04B 2/74 20060101ALI20240816BHJP
   E01F 8/00 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
G10K11/172
G10K11/16 110
E04B1/82 M
E04B1/82 W
E04B2/74 551
E01F8/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023019880
(22)【出願日】2023-02-13
(71)【出願人】
【識別番号】517182918
【氏名又は名称】ピクシーダストテクノロジーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002815
【氏名又は名称】IPTech弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】三浦 和希
(72)【発明者】
【氏名】辻 未津高
【テーマコード(参考)】
2D001
2E001
5D061
【Fターム(参考)】
2D001CA01
2D001CA02
2D001CB02
2D001CB05
2D001PB01
2E001DF04
2E001FA07
2E001GA42
2E001HA11
2E001HD11
5D061AA06
5D061AA12
5D061CC04
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ガラスなどの光透過性を有する壁面に適した吸音部材を実現し、吸音により音を低減する。
【解決手段】本開示の一態様の吸音部材は、光透過性を有する外殻を具備する外殻は、当該外殻によって包まれる空洞部の内部と外部とを連通させる複数の穿孔を有し、外殻は、外殻の内部を向く内面IS1と外殻の外部を向く外面OS1とを備える板状部材320を有し、板状部材の内面IS1は、凹凸のある形状であり、板状部材の外面OS1は、平面状である。
【選択図】図14
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性を有する外殻を具備し、
前記外殻は、当該外殻によって包まれる空洞部の内部と外部とを連通させる複数の穿孔を有し、
前記外殻は、前記外殻の内部を向く内面と前記外殻の外部を向く外面とを備える第1板状部材を有し、
前記第1板状部材の内面は、凹凸のある形状であり、
前記第1板状部材の外面は、平面状である、
吸音部材。
【請求項2】
前記第1板状部材を前記第1板状部材の外面に平行な特定方向から見た投影図において、前記第1板状部材の内面側の輪郭線は、凹凸の繰り返しを含む、
請求項1に記載の吸音部材。
【請求項3】
前記第1板状部材を前記第1板状部材の外面に平行な特定方向から見た投影図において、前記第1板状部材の内面側の輪郭線は、円弧状の凸部の周期的な繰り返しを含む、
請求項2に記載の吸音部材。
【請求項4】
前記第1板状部材の外面の輪郭は矩形状であり、
前記特定方向は、前記第1板状部材の外面の輪郭を構成する線分のいずれに対しても非平行である、
請求項2に記載の吸音部材。
【請求項5】
前記特定方向は、前記第1板状部材の外面の輪郭を構成する第1頂角を二等分する方向である、
請求項4に記載の吸音部材。
【請求項6】
前記外殻は、前記外殻の内部を隔てて前記第1板状部材と対向する第2板状部材を有し、
前記複数の穿孔は、前記第1板状部材または第2板状部材のいずれかである穿孔板において前記特定方向に沿って配置される、
請求項2に記載の吸音部材。
【請求項7】
前記外殻の内部が隔壁により複数の前記空洞部に分割され、
前記隔壁は、前記特定方向に沿って設けられる、
請求項6に記載の吸音部材。
【請求項8】
前記複数の空洞部は互いに共振特性が異なる共振器として機能する、
請求項7に記載の吸音部材。
【請求項9】
前記共振器のうち最も共振周波数の低い第1共振器として機能する第1空洞部は、他の空洞部に比べて前記外殻の中央に近い場所に配置され、
前記穿孔板は、それぞれが複数の穿孔を有する複数の穿孔領域と、それぞれが穿孔を有さない複数の非穿孔領域とを含み、
前記複数の穿孔領域のうち前記第1空洞部に接する第1穿孔領域は、前記複数の非穿孔領域のうち前記第1空洞部に接する第1非穿孔領域と比べて、前記第1空洞部に接する第1隔壁により近い場所に配置される、
請求項8に記載の吸音部材。
【請求項10】
前記外殻は、光透過性を有する樹脂からなり前記第1板状部材または前記第2板状部材のうち前記複数の穿孔が配置されないベース板と前記隔壁とが一体化されベースパネルと、前記樹脂からなり前記穿孔板を備えるフェースパネルとを嵌合し、当該嵌合箇所を前記樹脂により固着することで構成される、
請求項7に記載の吸音部材。
【請求項11】
前記外殻は、前記外殻の内部を隔てて前記第1板状部材と対向する第2板状部材を有し、
前記第1板状部材または前記第2板状部材のうち前記複数の穿孔が配置されないベース板の外面に設けられ、前記吸音部材を壁面に取付可能にする取付手段をさらに具備する、請求項1に記載の吸音部材。
【請求項12】
前記取付手段は、光透過性を有する、
請求項11に記載の吸音部材。
【請求項13】
光透過性を有する壁面と、
前記壁面に取り付けられた請求項1から請求項12の何れか1項に記載の吸音部材と、
を有する吸音壁。
【請求項14】
前記壁面には前記吸音部材が複数取り付けられ、
複数の前記吸音部材それぞれの前記穿孔が形成された表面は、所定方向から見て露出している、
請求項13に記載の吸音壁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、吸音により音を低減させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道、高速道路、工事現場、室内空間などにおいて発生する騒音を抑制することは、重要な社会課題の1つである。特許文献1には、壁面に吸音パネルを固定することで音を吸収することが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-077480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
建築物の内装や外装、又は設備などに吸音部材を取り付けた場合、取り付け対象の建築物や設備の外観が変化する。特に、ガラスなどの光透過性を有する壁面に吸音部材を取り付けることで光透過性が失われると、その壁面の機能性及び意匠性が損なわれてしまう。他方、柔らかな光を取り込んだり、プライバシーを保護したりするために、ガラスなどの光透過性を有する壁面の透明度を適切に調整することが望まれることもある。
【0005】
本開示は、ガラスなどの光透過性を有する壁面に適した吸音部材を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様の吸音部材は、光透過性を有する外殻を具備し、外殻は、当該外殻によって包まれる空洞部の内部と外部とを連通させる複数の穿孔を有し、外殻は、外殻の内部を向く内面と外殻の外部を向く外面とを備える板状部材を有し、板状部材の内面は、凹凸のある形状であり、板状部材の外面は、平面状である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】吸音ユニットの構造を示す図である。
図2】吸音ユニットの構造を示す図である。
図3】チャンバー部材の構造を示す図である。
図4】チャンバー部材の構造を示す図である。
図5】吸音ユニットの機能を説明する図である。
図6】吸音ユニットの使用例を示す図である。
図7】吸音ユニットの使用例を示す図である。
図8】設計装置の構成例を示す図である。
図9】設計装置による吸音ユニットの設計処理を示す図である。
図10】第2実施形態に係る吸音ユニットの構造を示す斜視図である。
図11】第2実施形態に係る吸音ユニットの構造を示す正面図である。
図12】第2実施形態に係る吸音ユニットの構造を示す側面図である。
図13】第2実施形態に係る穿孔板およびチャンバー部材の構造を示す斜視図である。
図14図10の吸音ユニットをO1方向から見た投影図の一部である。
図15】複数の吸音ユニットを異なる向きで互いに隣接して配置する例を示す図である。
図16】吸音ユニットの構造の変形例を示す図である。
図17】吸音ユニットの構造の変形例を示す図である。
図18】チャンバー部材の構造の変形例を示す図である。
図19】チャンバー部材の構造の変形例を示す図である。
図20】穿孔板の構造の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態の例について、図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施形態を説明するための図面において、同一の構成要素についてはその繰り返しの説明は省略する。
【0009】
(1)第1実施形態
(1-1)吸音ユニットの構成
(1-1-1)吸音ユニットの基本構成
第1実施形態の吸音ユニット10の基本構成について説明する。吸音ユニット10は、吸音ユニット10に向かって進む音波のエネルギーを他のエネルギーに変換したり打ち消したりすることで反射音及び透過音の音圧を低減する吸音効果を有する、特定の吸音構造を備える吸音部材である。図1(a)及び図1(b)はそれぞれ、第1実施形態に係る吸音ユニットの構造を示す斜視図及び正面図である。図2(a)及び図2(b)はそれぞれ、第1実施形態に係る吸音ユニットの構造を示す側面図及び底面図である。
【0010】
以下の説明において、「D方向」は、吸音ユニット10の奥行方向(厚み方向)である。吸音ユニット10は、主にD方向に進む音波を吸音する。「H方向」は、D方向と略垂直な方向であり、吸音ユニット10の高さ方向である。「W方向」は、「D方向」および「H方向」に直交する方向であり、吸音ユニット10の幅方向である。吸音ユニット10は、穿孔を介して音波が進入可能な空洞部(以下「導波管」という。)を複数有し、各導波管は共振器として機能する。
【0011】
図1に示すように、吸音ユニット10は、穿孔が形成された板状部材である穿孔板20と、穿孔板20と組み合わされることで空洞を形成するチャンバー部材40とを有する。穿孔板20の表面には、それぞれ複数の穿孔が形成された穿孔領域21~27と、穿孔が形成されていない非穿孔領域31~36が存在する。吸音ユニット10は-D方向から見て多角形(具体的には六角形)の形状である。
【0012】
図3(a)及び図3(b)はそれぞれ、第1実施形態に係るチャンバー部材の構造を示す斜視図及び正面図である。図4(a)及び図4(b)はそれぞれ、第1実施形態に係るチャンバー部材の構造を示す側面図及び底面図である。チャンバー部材40には、隔壁45~47により互いに仕切られた空間41~44が存在する。チャンバー部材40を-D方向側から覆うように穿孔板20が設けられることで、空間41~44はそれぞれ、チャンバー部材40と穿孔板20とにより壁が構成された導波管となる。具体的には、空間41は、穿孔領域21と、穿孔領域21に隣接する非穿孔領域31と、穿孔領域21に隣接せず且つ非穿孔領域31に隣接する穿孔領域22とにより覆われる。空間42は、非穿孔領域32と、穿孔領域23と、非穿孔領域33と、穿孔領域24とにより覆われる。空間43は、穿孔領域25と、穿孔領域25に隣接する非穿孔領域34とにより覆われる。空間44は、非穿孔領域35と、穿孔領域26と、非穿孔領域36と、穿孔領域27とにより覆われる。
【0013】
以下では、空間41を有する導波管を導波管11と呼び、空間42を有する導波管を導波管12と呼び、空間43を有する導波管を導波管13と呼び、空間44を有する導波管を導波管14と呼ぶ。導波管11と導波管12とは隔壁45を介して隣接しており、導波管12と導波管13とは隔壁46を介して隣接しており、導波管13と導波管14とは隔壁47を介して隣接している。すなわち、隔壁45~47は、吸音ユニット10の内部を複数の導波管に分割する。
【0014】
隔壁45~47は互いに略同一方向に延在している。そのため、導波管11~14はそれぞれ-D方向から見た輪郭が略台形であり、互いに略平行に延在する。導波管11と導波管12とは互いに形状及び大きさが異なり、導波管13と導波管14とは互いに形状及び大きさが異なる。導波管12と導波管13とは、空洞の形状及び大きさが互いに略同一であるが、それぞれの壁に形成された穿孔の配置が異なる。導波管11と導波管14とは、空洞の形状及び大きさが互いに略同一であるが、それぞれの壁に形成された穿孔の配置が異なる。
【0015】
なお、吸音ユニット10は、全体が一体となって構成されていてもよいし、複数の部材を組み合わせることで構成されていてもよい。例えば、穿孔板20とチャンバー部材40とを組み合わせることで吸音ユニット10が構成されてもよいし、穿孔板20とチャンバー部材40とが一体となって構成されていてもよい。また例えば、各導波管を構成する部材を組み合わせることで吸音ユニット10が構成されてもよい。すなわち、吸音ユニット10は、複数の導波管を有し、各導波管の壁を構成する部材に穿孔領域と非穿孔領域とが存在していればよい。各導波管の内部と外部とは、穿孔領域に存在する複数の穿孔を介して連通しており、通気が可能である。
【0016】
具体的には、導波管11の内部と外部とは、穿孔領域21及び穿孔領域22に形成された複数の穿孔を介して連通しており、通気可能である。一方、非穿孔領域31に覆われた部分においては、導波管11の内部と外部とが通気可能でない。同様に、導波管12の内部と外部とは、穿孔領域23及び穿孔領域24に形成された複数の穿孔を介して連通している。導波管13の内部と外部とは、穿孔領域25に形成された複数の穿孔を介して連通している。導波管14の内部と外部とは、穿孔領域26及び穿孔領域27に形成された複数の穿孔を介して連通している。
【0017】
導波管11~14それぞれの壁を構成する穿孔板20における穿孔が形成された表面は、-D方向から見て露出している。吸音ユニット10に対して-D方向から到来して穿孔板20に入射する音波は、穿孔領域に形成された複数の穿孔を介して各導波管の内部に進入し、非穿孔領域に覆われた部分をD方向とは非平行に進行し、チャンバー部材40の側面で反射する。穿孔板20の各穿孔領域は、音響インピーダンスの整合部材として機能し、導波管11~14は、互いに共振特性が異なる共振器として機能する。そのため、吸音ユニット10によれば、単一の導波管を有する吸音材と比較して、広い周波数帯域において吸音効果を得ることができる。本実施形態における吸音ユニット10の吸音特性は、例えば、周波数ごとの吸音率、又は音響インピーダンスにより表される。なお、各導波管が吸音する音波の周波数帯域が互いに重ならないように吸音ユニット10が設計されていてもよいし、各導波管が吸音する音波の周波数帯域の一部が重なるように吸音ユニット10が設計されていてもよい。
【0018】
導波管11の体積は導波管12の体積より小さく、導波管13の体積は導波管14の体積より大きい。このように複数の導波管の大きさを異ならせることで、それらの導波管の共振特性を異ならせることができる。なお、穿孔板20の表面における穿孔領域21と穿孔領域22との距離(図1(b)における長さL1)は、穿孔板20の表面の法線方向における導波管11の長さ(図2(b)における厚さL2)より長い。このような構成により、導波管11において、D方向とは非平行な方向に音波が進行する経路の長さを長くすることで低周波数帯域の吸音率を向上させつつ、吸音ユニット10のD方向の奥行(つまり厚さ)を小さくすることができる。また、穿孔板20の表面における穿孔領域25の重心と非穿孔領域34の重心とを結ぶ方向における非穿孔領域34の長さ(図1(b)における長さL3)は、穿孔板20の表面の法線方向における導波管13の長さ(図2(b)における厚さL4)より長い。このような構成により、導波管13において、D方向とは非平行な方向に音波が進行する経路の長さを長くすることで低周波数帯域の吸音率を向上させつつ、吸音ユニット10の厚さを小さくすることができる。
【0019】
導波管11は、導波管13と比較して、高い周波数帯域の吸音率が優れている。一方、導波管13は、導波管11と比較して、低い周波数帯域の吸音率が優れている。ここで、穿孔板20のうち導波管13の壁を構成する部分においては、穿孔の配置が1か所(すなわち穿孔領域25)にまとめられている。このような構成により、穿孔の配置を複数箇所に分散させた場合と比較して、導波管13による低い周波数帯域の吸音率を向上させることができる。一方、穿孔板20のうち導波管11の壁を構成する部分においては、穿孔の配置が複数箇所(すなわち穿孔領域21及び穿孔領域22)に分散している。このような構成により、穿孔の配置を1か所にまとめた場合と比較して、導波管11による高い周波数帯域の吸音率を向上させることができる。後述するように、それぞれの穿孔の大きさなどのパラメータを変えることでも導波管の吸音特性を変化させることは可能であるが、穿孔の大きさ等に製造上の制限がある場合であっても、穿孔の配置を適切に設計することで所望の吸音特性を実現することができる。
【0020】
吸音ユニット10は、その形状及び構造により吸音性能を発揮するため、様々な素材を用いて構成することができる。吸音ユニット10は、例えば、樹脂、金属、シリコン、ゴム、ポリマー、紙、段ボール、木材、又は不織布などの素材により構成される。ただし、吸音ユニット10はこれらの素材以外の素材により構成されていてもよい。また、それぞれ素材が異なる複数の部材を組み合わせることで吸音ユニット10が構成されてもよい。例えば、吸音ユニット10のうち穿孔板20とチャンバー部材40とが異なる素材により構成されていてもよい。
【0021】
(1-1-2)穿孔板の構成
穿孔板20の構成について説明する。穿孔板20の穿孔領域21~27には、それぞれ複数の穿孔が形成されている。なお、穿孔板20は一体として構成されていてもよいし、複数の部材を組み合わせることで構成されていてもよい。例えば、穿孔板20のうち各導波管を覆う部分が別個の部材で構成されていてもよいし、穿孔板20の各穿孔領域及び各非穿孔領域が別個の部材で構成されていてもよいし、穿孔板20が6個の三角形形状の板状部材で構成されていてもよい。穿孔板20の全体を一体として構成することで、穿孔板20の製造工程を簡易にすることができ、製造コストを低減できる。一方、複数の部材を組み合わせて穿孔板20を構成することで、各部材のサイズを小さくできるため、部材の製造可能なサイズに制限がある場合でも大きい穿孔板20を作成することができる。
【0022】
各導波管の共振特性は、当該導波管の形状と、当該導波管に組み合わされる穿孔板の形状パラメータ(以下「孔パラメータ」という)に依存する。孔パラメータには、例えば、以下が含まれる。
・穿孔領域の面積(孔が形成される表面の面積)
・穿孔板の厚さ(表面に直交する方向の寸法)
・孔の大きさ(例えば孔が円形である場合の直径)
・穿孔板の表面に占める孔の面積の割合(以下「孔の占有率」という)
・孔の形状
・孔の数
・孔どうしの間隔
【0023】
穿孔板の孔パラメータを変更することで、吸音ユニット10の音響インピーダンスを調整することができる。また、穿孔板は、熱粘性抵抗によってQ値を低くし、広い周波数帯域における吸音を可能とする効果もある。具体的なパラメータ例として、例えば、吸音ユニット10のH方向及びW方向の長さがそれぞれ10cm~50cmであり、吸音ユニット10のD方向の厚さが2cm~10cmであるものとする。また、穿孔板20の厚さが0.5mm~3mmである場合に、穿孔板に存在する孔の径を0.3mm~3mmに設定する。そして、穿孔板における孔の数などその他のパラメータを適切に設定することで、人の会話に含まれる音の主成分である400Hz~1500Hzの音を効率的に吸音する(音圧を低減する)ことができる。この場合、吸音ユニット10による400Hz以上1500Hz以下の音の平均吸音率は、吸音ユニット10による他の周波数帯(400Hzより低い周波数帯及び1500Hzより高い周波数帯)の音の平均吸音率よりも高くなる。また、導波管の形状及び孔パラメータの少なくとも何れかを調整することで、吸音ユニット10の吸音特性を変化させることができる。例えば、1000Hz以上4000Hz以下の音の平均吸音率が、その他の周波数帯の音の平均吸音率よりも高くなるように、吸音ユニット10を設計することもできる。また例えば、200Hz以上2500Hz以下の音を効率的に吸音するように吸音ユニット10を設計することもできる。
【0024】
吸音ユニット10が有する複数の穿孔領域の孔パラメータは互いに異なっていてもよい。例えば、穿孔領域21及び穿孔領域22の孔パラメータは導波管11に要求される吸音特性に応じて最適化されてもよい。穿孔領域23及び穿孔領域24の孔パラメータは導波管12に要求される吸音特性に応じて最適化されてもよい。穿孔領域25の孔パラメータは導波管13に要求される吸音特性に応じて最適化されてもよい。穿孔領域26及び穿孔領域27の孔パラメータは導波管14に要求される吸音特性に応じて最適化されてもよい。すなわち、導波管11~14のうち1つの導波管の内部と外部とを連通させる穿孔と、他の導波管の内部と外部とを連通させる穿孔とは、少なくとも何れかの孔パラメータ又は孔の配置が異なっていてもよい。これにより、吸音ユニット10は、広い周波数帯域において高い吸音率を達成できる。ただしこれに限らず、吸音ユニット10が有する複数の穿孔領域の孔パラメータは共通であってもよい。これにより、穿孔板20の孔の仕様を統一できるため、穿孔板20の製造コストを低減することができる。
【0025】
なお、吸音ユニット10の例では穿孔板20の表面が平面状であるが、穿孔板20の形状はこれに限定されない。例えば、穿孔板20の表面が曲面であってもよいし、凹凸を有していてもよい。
【0026】
(1-2)吸音ユニットの使用方法
吸音ユニットの使用方法について説明する。図5は、第1実施形態に係る吸音ユニットの機能を説明する図である。図5に示すように、吸音ユニット10は、吸音すべき音を発する騒音源NSに対してD方向に離れた位置に設置される。吸音ユニット10に含まれる各導波管は、騒音源NSからD方向に進行する音波のうち、当該導波管の形状(例えば長さ又は体積)と穿孔板の孔パラメータとに応じた周波数の成分を吸収する。これにより、騒音源NSから吸音ユニット10よりもD方向側の位置に到達する音波の音圧は、吸音ユニット10が設置されていない場合と比較して、大きく低減される。
【0027】
図6は、第1実施形態に係る吸音ユニットの使用例を示す図である。図6に示すように、複数の吸音ユニット10を組み合わせて設置することで、騒音源NSから発される音の音圧をより低減することができる。複数の吸音ユニット10は、騒音源NSから人間HMaがいる方向へ進行する音波を遮る吸音壁1を構成するように、組み合わせて設置される。具体的には、複数の吸音ユニット10それぞれの穿孔板20の表面(穿孔が形成された面)が同一方向から見て露出するように、複数の吸音ユニット10が支持板50に取り付けられることで、吸音壁1が構成される。吸音壁1は遮音効果を有するため、吸音壁1を設置することにより、騒音源NSから発された音波の音圧は吸音壁1を通過する際に大きく低減され、騒音源NSから見て吸音壁1より奥に居る人間HMaが感じる騒音を小さくすることができる。
【0028】
また、吸音壁1は吸音効果を有するため、吸音壁1を設置することにより、従来の部材で構成された壁(例えばコンクリート壁)を同じ位置に設置した場合と比較して、壁で反射した音の大きさが小さくなる。そのため、騒音源NSから発された音波の音圧は、吸音壁1で反射される際に大きく低減され、騒音源NSに対して吸音壁1とは反対側にいる人間HMbが感じる騒音を小さくすることができる。また、吸音壁1を設置した場合、従来の部材で構成された壁を同じ位置に設置した場合と比較して、回折により壁の奥に回り込む音の大きさも小さくなる。この効果により、壁の奥にいる人間HMaが感じる騒音をより小さくすることができる。
【0029】
吸音壁1の用途は限定されないが、例えば以下のような用途で吸音壁1を用いることができる。吸音壁1は、道路又は鉄道線路の周辺に配置されることで、自動車又は電車により生じる騒音を抑制することができる。吸音壁1は、工事現場に配置されることで、工事騒音を抑制することができる。吸音壁1は、建物の壁として使用されることで、建物内の騒音を抑制することができる。吸音壁1は、人の作業場所(例えば作業デスク)の周辺に配置されることで、作業者により知覚される騒音を抑制し、且つ、作業者が発する騒音の周囲への音漏れを抑制することができる。作業場所の周辺における吸音壁1の置き方としては、作業場所の四方を囲むように吸音壁1が置かれてもよいし、出入り口の方向を除いた3方向を囲むように吸音壁が置かれてもよいし、1面のみの吸音壁1が置かれてもよい。また、四方を吸音壁1により囲まれた作業場所の天井部分を塞ぐことで、作業ブースを構成してもよい。
【0030】
本実施形態において、穿孔板20とチャンバー部材40はそれぞれ、光透過性を有する素材により構成される。光透過性を有する素材としては、例えば、ガラスやアクリル等の樹脂素材を用いることができるが、これらに限定されない。なお、吸音ユニット10は、少なくとも外殻が光透過性を有していればよい。すなわち、チャンバー部材40のうち隔壁45~47以外の部分と、穿孔板20とが、透明又は半透明の素材により構成される。このような構成を有する吸音ユニット10は、ガラスやアクリルなどの光透過性を有する壁面に適した吸音部材である。
【0031】
例えば、図6の支持板50として、ガラス製の衝立又はローパーティションを用いる場合を考える。支持板50に吸音ユニット10が取り付けられていない場合、支持板50は光透過性を有するため、人間HMaは支持板50を透過して人間HMbにより視認される。一方、仮に光透過性を有しない吸音材を支持板50に取り付けた場合、人間HMbは人間HMaを視認できなくなる。すなわち、吸音材の取り付けにより支持板50の機能性及び意匠性が損なわれる。これに対して、光透過性を有する吸音ユニット10を支持板50に取り付けた場合、人間HMbは人間HMaを視認することができ、支持板50の機能性及び意匠性が維持される。
【0032】
なお、半透明の吸音ユニット10を壁面に取り付けることで、取付対象の壁面の透明度を変化させることもできる。例えば、ガラス製の支持板50に吸音ユニットが取り付けられていない場合、互いに支持板50の反対側にいる人間HMaと人間HMbは互いの行動を視認可能である。一方、半透明の吸音ユニット10を支持板50に取り付けた場合、吸音ユニット10と支持板50からなる吸音壁1の透明度は、支持板50よりも低くなる。その結果、人間HMaと人間HMbは、お互いの存在は視認可能でありつつ、詳細な行動の内容までは視認できなくなる。このような構成によれば、互いに支持板50の反対側にいる人間の間でのプライバシー保護が可能となる。なお、半透明の吸音ユニット10は、穿孔板20に半透明の素材を用いることや、穿孔板20の表面粗さを粗くすることにより、実現できる。
【0033】
また、吸音ユニット10を、光透過性を有しない壁面に用いることもできる。例えば、図5の支持板50として、不透明であり且つ表面に特徴的な模様を有する衝立を用いる場合を考える。この場合において、仮に光透過性を有しない吸音材を支持板50に取り付けると、特徴的な模様が視認できなくなり意匠性が損なわれてしまうが、光透過性を有する吸音ユニット10を支持板50に取り付けると、特徴的な模様が視認可能となり意匠性が維持される。
【0034】
なお、図1(a)及び図1(b)においては、図面を簡潔にするために穿孔板20を不透明に描いている。ただし、実際には穿孔板20は透明又は半透明であるため、これらの図と同じ角度(斜め方向及び-D方向)から見た場合には、隔壁45~47が穿孔板20を透過して視認される。また、隔壁45~47を、光透過性を有する素材で構成してもよい。これにより、吸音ユニット10を介した視認性をさらに向上させることができる。
【0035】
図7は、第1実施形態に係る吸音ユニットの他の使用例を示す図である。図7に示すように、複数の吸音ユニット10が空間SPの壁面60に取り付けられることで、空間SPにおける音圧を低減することができる。具体的には、吸音ユニット10を壁面60に取り付け可能にする取付構造を吸音ユニット10に付加することで、吸音パネルを構成する。そして、複数の吸音ユニット10それぞれの穿孔板20の表面(穿孔が形成された面)が壁面60の法線方向から見て露出するように、複数の吸音パネルが壁面60に並べて取り付けられる。吸音パネルが取付構造を有することにより、吸音ユニット10を容易に壁面60に取り付けたり取り外したりすることが可能となる。取付構造としては、例えば、両面テープ、ネジ固定具、マグネット、面ファスナー、又は吸盤などを用いることができる。
【0036】
空間SPに吸音ユニット10が設置されていない場合、空間SPにおける人間HMcと人間HMdとの会話の音は空間SP内で反響し、同じ空間SPにいる人間HMeと人間HMfとの会話を妨害してしまうことがある。一方、壁面60に吸音ユニット10を取り付けることで、壁面60に入射する音が吸音され、空間SPにおける音の反響を抑制することができる。また、空間SP内から空間SPの外へ漏れ出す音も抑制することができる。さらに、吸音ユニット10が所望の吸音特性を有するように導波管の形状及び穿孔板20の孔パラメータを設計することで、空間SPにおける特定の周波数帯域の音を他の周波数帯域の音よりも大きく低減させることができる。これにより、空間SPにおける音の響きを調整することができる。
【0037】
上述したように、吸音ユニット10は、少なくとも外殻が光透過性をする。そのため、例えば壁面60がガラスなどの光透過性を有する素材により構成されている場合に、空間SPの機能性及び意匠性が損なわれることを特に抑制できる。また、吸音ユニット10を壁面60に取り付けるための取付構造を、光透過性を有する素材で構成してもよい。また、取付構造が光透過性を有するか否かに関わらず、取付構造を、吸音ユニット10の取付面の全面に設けるのではなく、取付面の一部にだけ設けてもよい。これらの構成により、空間SPの機能性及び意匠性が損なわれることをさらに抑制できる。
【0038】
(1-3)吸音ユニットの設計方法
(1-3-1)設計装置の構成
吸音ユニット10を設計するための処理を実行する設計装置の構成について説明する。図8は、設計装置の構成例を示す図である。図8に示すように、設計装置210は、記憶装置211と、プロセッサ212と、入出力インタフェース213と、通信インタフェース214とを備える。
【0039】
記憶装置211は、プログラム及びデータを記憶するように構成される。記憶装置211は、例えば、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、及び、ストレージ(例えば、フラッシュメモリ又はハードディスク)の組合せである。プログラムは、例えば、OS(Operating System)のプログラムと、情報処理を実行するアプリケーション(例えば、ウェブブラウザ)のプログラムを含む。データは、例えば、情報処理において参照されるデータ及びデータベースと、情報処理を実行することによって得られるデータ(つまり、情報処理の実行結果)を含む。記憶装置211により記憶されるプログラム及びデータは、ネットワークを介して提供されてもよいし、コンピュータにより読み取り可能な記録媒体に記録して提供されてもよい。
【0040】
プロセッサ212は、記憶装置211に記憶されたプログラムを実行してデータを処理することによって、設計装置210の機能を実現する。なお、設計装置210の機能の少なくとも一部が、専用のハードウェア(例えばASIC(application specific integrated circuit)又はFPGA(field-programmable gate array))により実現されてもよい。
【0041】
入出力インタフェース213は、設計装置210に接続される入力デバイスに対するユーザ操作に応じた入力を受け付ける機能と、設計装置210に接続される出力デバイスに情報を出力する機能を有する。入力デバイスは、例えば、キーボード、ポインティングデバイス、タッチパネル、又は、それらの組合せである。出力デバイスは、例えば、画像を表示するディスプレイ又は音声を出力するスピーカである。通信インタフェース214は、設計装置210と外部装置(例えばサーバ)との間の通信を制御する。
【0042】
(1-3-2)設計処理
吸音ユニット10を設計するための処理について説明する。図9は、設計装置による吸音ユニットの設計処理を示す図である。
【0043】
図6に示す処理は、設計装置210のプロセッサ212が記憶装置211に記憶されたプログラムを実行することで実現される。ただし、図6に示す処理の少なくとも一部が専用のハードウェアにより実現されてもよい。図6に示す処理は、吸音ユニット10の設計を開始するためのユーザによる指示が設計装置210に入力されたことに応じて開始される。ただし、図6に示す処理の開始条件はこれに限定されない。
【0044】
S100において、設計装置210は、吸音ユニット10の設計パラメータとして設定可能な固定値を取得する。例えば、プロセッサ212は、ユーザの入力を受け付けることで、もしくは固定値が格納されたファイルを読み込むことで、固定値を取得する。吸音ユニット10の設計パラメータは、例えば以下の少なくとも1つを含む。
・吸音ユニット10のサイズ(H方向、D方向、及びW方向の寸法)
・導波管の数
・導波管の長さ又は体積(H方向又はW方向の寸法)
・導波管の奥行(D方向の寸法)
・導波管の形状
・吸音ユニット10に含まれる側壁の形状
・穿孔板の孔パラメータ
【0045】
一例として、以降の説明では、S100において吸音ユニット10のサイズ、導波管の数、及び側壁の形状が固定値として取得されるものとする。そして、穿孔板の孔パラメータ、導波管のサイズ、及び導波管の形状が変数として扱われるものとする。
【0046】
S101において、設計装置210は、変数として扱われる設計パラメータの定義域(変数のとり得る範囲)を取得する。例えば、プロセッサ212は、ユーザの入力を受け付けることで、もしくは変数の定義域が格納されたファイルを読み込むことで、変数の定義域を取得する。
【0047】
S102において、設計装置210は、吸音ユニット10の解析モデルを構築する。具体的には、プロセッサ212は、S100で取得した固定値と、S101で取得した定義域から選択された変数の値とを、吸音ユニット10の解析モデルの設計パラメータとして用いる。
【0048】
S103において、設計装置210は、解析モデルの吸音特性を評価する。具体的には、プロセッサ212は、S102において構築した解析モデルを用いた音響シミュレーションにより吸音特性を解析することで、解析モデルの吸音特性の評価値を取得する。例えば、設計装置210は、複数の周波数帯それぞれにおける平均吸音率または平均反射率を取得する。なお、吸音特性の評価方法はこれに限定されない。例えば、設計装置210は、複数の周波数帯それぞれにおける平均透過率を取得してもよい。
【0049】
S104において、設計装置210は、探索状態の判定を実行する。具体的には、プロセッサ212は、各変数について、S101において取得した定義域が探索済みであるか(つまり、定義域から選択可能な全ての数値を用いた解析モデルの構築および吸音特性の評価が終了したか)否かを判定する。
【0050】
S104において探索終了と判定されなかった場合、S102に戻り、設計装置210は、S101で取得した定義域から新たな変数の値を選択し、解析モデルの構築と吸音特性の評価を再度実行する。一方、S104において探索終了と判定された場合、S105へ進む。
【0051】
S105において設計装置210は、変数の最適値を抽出する。具体的には、プロセッサ212は、繰り返し実行されたS103における吸音特性の評価において最も高い評価値を示した解析モデルに対応する設計パラメータの数値を、最適値として抽出する。例えば、400Hz~1000Hzが吸音対象の周波数帯として指定されている場合、400Hz~1000Hzの平均吸音率が最も高い解析モデルの設計パラメータの数値が最適値として抽出される。こうして抽出された最適値を用いて吸音ユニット10を設計することで、400Hz~1000Hzにおける吸音特性が優れた吸音ユニット10を製造することができる。吸音対象の周波数帯は、ユーザ入力に応じて指定されてもよい。
【0052】
S105の後に、図6の処理フローは終了する。なお、図6の処理フローにおいて、S100とS101の処理は逆の順序で行われてもよいし、並行して行われてもよい。また、設計装置210は、S105における変数の最適値の抽出に代えて、もしくはS105の処理に加えて、解析モデルの評価結果を示す情報の出力を行ってもよい。例えば、設計装置210は、S102で構築した複数の解析モデルそれぞれの吸音特性を示す情報を出力してもよいし、S105で抽出された最適値に対応する解析モデルの吸音特性を示す情報を出力してもよい。設計装置210により出力される情報は、吸音特性を示す数値であってもよいし、表示装置へ出力される画像であってもよい。
【0053】
なお、上記の説明では、所定の周波数帯域における吸音性能が最も高くなるように吸音ユニット10が設計される場合について説明した。ただしこれに限らず、所定の周波数帯域において指定された吸音性能が実現されるように吸音ユニット10が設計されてもよい。例えば、空間における人の声の反響を抑制したいが、多少の反響は残しておくことで声が自然に聞こえるようにしたい場合が考えられる。この場合、S105において設計装置210は、指定された400Hz~1000Hzの周波数帯域における平均吸音率が指定された値(例えば0.5)に最も近い解析モデルの設計パラメータの数値を最適値として抽出する。また例えば、空間における低音の反響は抑制したいが、高音の反響は残しておきたい場合が考えられる。この場合、S105において設計装置210は、100Hz~500Hzの平均吸音率が800Hz~2000Hzの平均吸音率よりも高く、且つ、それらの平均吸音率の差が最も大きい解析モデルの設計パラメータの数値を最適値として抽出してもよい。
【0054】
(2)第2実施形態
(2-1)吸音ユニットの構成
(2-1-1)吸音ユニットの基本構成
第2実施形態の吸音ユニットの基本構成について説明する。なお、第2実施形態は、第1実施形態と適宜組み合わせることができる。
【0055】
第2実施形態の吸音ユニット310は、吸音ユニット310に向かって進む音波のエネルギーを他のエネルギーに変換したり打ち消したりすることで反射音及び透過音の音圧を低減する吸音効果を有する、特定の吸音構造を備える吸音部材である。図10及び図11はそれぞれ、第2実施形態に係る吸音ユニットの構造を示す斜視図及び正面図である。図12は、第2実施形態に係る吸音ユニットの構造を示す側面図である。
【0056】
以下の説明において、「D方向」は、吸音ユニット310の奥行方向(厚み方向)である。吸音ユニット310は、主にD方向に進む音波を吸音する。「H方向」は、D方向と略垂直な方向であり、吸音ユニット310の高さ方向である。「W方向」は、「D方向」および「H方向」に直交する方向であり、吸音ユニット310の幅方向である。吸音ユニット310は、それぞれが複数の穿孔を介して音波が進入可能な空洞部(以下「導波管」という。)を複数有し、各導波管は共振器として機能する。これら複数の導波管は、光透過性を有する外殻によって包まれている。
【0057】
図10に示すように、吸音ユニット310は、穿孔が形成された板状部材である穿孔板320と、穿孔板320と組み合わされることで空洞を形成するチャンバー部材340とを有する。なお、図10において、穿孔板320に斜線が描かれているが、かかる斜線は便宜的に付されているものであって、穿孔板320がかかる模様を施される必要はない。穿孔板320の表面には、それぞれ複数の穿孔が形成された穿孔領域321,322,323a,323b,324,325と、穿孔が形成されていない非穿孔領域331a,331b,332,333,334,335a,335bとが存在する。吸音ユニット310は-D方向から見て多角形(具体的には矩形)の形状である。
【0058】
図11の例では、吸音ユニット310は、H方向の寸法(一例として10cm)とW方向の寸法(一例として30cm)とが1:3である。このように、H方向の寸法とW方向の寸法との比を整数比にすることで、複数の吸音ユニット310を異なる向きで互いに隣接して配置する場合であっても、これら吸音ユニット310の一群の輪郭線を矩形に揃えやすい。図15は、複数の吸音ユニットを異なる向きで互いに隣接して配置する例を示す図である。このように、H方向を鉛直方向に揃えた吸音ユニット310と、W方向を鉛直方向に揃えた吸音ユニット310とを壁面に互いに隣接して取り付ける場合に、これら一群の吸音ユニット310の輪郭線を矩形に揃え、まとまりのある印象を観者に与えることができる。
【0059】
図13は、第2実施形態に係る穿孔板およびチャンバー部材の構造を示す斜視図である。図14は、図10の吸音ユニットをO1方向から見た投影図の一部である。なお、O1方向は、後述する穿孔板320またはベース板340aの一面(以下、「基準面」という)に平行であって、かつ、W方向およびH方向に対して非平行な方向である。具体的には、O1方向は、-H方向を+W方向側に45度回転させた方向である。換言すれば、O1方向は、基準面の輪郭を構成する頂角(-W方向かつ+H方向側の隅)を二等分する方向である。ただし、O1方向はこの例に限られず任意の方向を採用可能である。
【0060】
図10に示すように、穿孔板320は、外殻の内部空間を隔ててベース板340aと対向する。また、穿孔板320の各穿孔領域321,322,323a,323b,324,325は、上記O1方向に延在する。換言すれば、各穿孔領域において、複数の穿孔はO1方向に沿って配置される。
【0061】
チャンバー部材340は、ベース板340aと、隔壁341~344とを備える。図10に示すように、隔壁341~344は、上記O1方向に沿って設けられる。
【0062】
図14に示すように、穿孔板320は、外殻の外部(つまり、-D方向)を向く外面OS1と、外殻の内部(つまり、+D方向)を向く内面IS11とを備える板状部材である。同様に、ベース板340aは、外殻の外部(つまり、+D方向)を向く外面OS2と、外殻の内部(つまり、-D方向)を向く内面IS2とを備える板状部材である。
【0063】
ベース板340aの外面OS2および内面IS2は平面状である。外面OS2には、第1実施形態において説明した取付構造(例えば、光透過性を有する両面テープ)が設けられてよい。外面OS2は平面状であるので、平面状の壁面に対して隙間なく吸音ユニット310を取り付けることができる。また、図14の例では、穿孔板320の外面OS1も平面状である。
【0064】
他方、穿孔板320の内面IS1は凹凸のある形状である。具体的には、穿孔板320の+H方向の端部または-H方向の端部(或いは、+W方向の端部または-W方向の端部)を上記O1方向から見た投影図において、内面IS1の輪郭線は、凹凸の繰り返し、より具体的には円弧状の凸部の周期的な繰り返しを含む。また、W方向(或いは、H方向)に平行な任意の断面図において、内面IS1の輪郭線は円弧状の凸部の周期的な繰り返しを含むが、各凸部の位置は断面位置に応じて周期的に変動する。凹凸の形態は、円弧状の例に限られず任意の形状を採用可能である。なお、一例として、吸音ユニット310のD方向の寸法(つまり、図12における厚さL12)が2cmであるのに対して、凸部のD方向の寸法は1mm以下であり肉眼では認識しづらいが、内面IS1に触れることで認識可能である。穿孔板320の内面IS1をこのような形状に設計することで、D方向側から見た穿孔板320の屈折率が非一様となるので、-D方向側から吸音ユニット310を見ると、吸音ユニット310の向こう側の景色は縞状のぼかしがかかった状態で視認されることになる。この縞模様では、一定幅の線条がW方向に連続して現れ、それぞれの線条はO1方向に沿って伸びる。
【0065】
前述のように、穿孔板320の各穿孔領域において、複数の穿孔は上記O1方向に沿って配置され、隔壁341~344はO1方向に沿って設けられる。これにより、各穿孔領域における一群の穿孔および隔壁341~344がいずれも、上記縞模様を構成する線条の伸びる方向に沿って整列するので、吸音ユニット310の外観上の統一感を高めることができる。加えて、各導波管の長さが一意に定まるので導波管の設計がし易くなるという利点もある。
【0066】
チャンバー部材340を-D方向側から覆うように穿孔板320が設けられることで、吸音ユニット310の内部空間は、穿孔板320およびチャンバー部材340によって構成される外殻と、隔壁341~344とにより5つの空間に仕切られる。5つの空間はそれぞれ、チャンバー部材340と穿孔板320とにより壁が構成された導波管となる。
【0067】
具体的には、第1空間は、非穿孔領域331aと、非穿孔領域331aに隣接する穿孔領域321と、穿孔領域321に隣接する非穿孔領域331bと、隔壁341と、外殻の-W方向および-H方向の端部とにより覆われる。
【0068】
第2空間は、非穿孔領域332と、非穿孔領域332に隣接する穿孔領域322と、隔壁341と、隔壁342と、外殻の+H方向および-H方向の端部とにより覆われる。なお、非穿孔領域331bと非穿孔領域332とは連続した非穿孔領域として構成可能であるが、当該領域のうち隔壁341よりも-W方向側の部分を非穿孔領域331bとし、隔壁341よりも+W方向側の部分を非穿孔領域332とする。
【0069】
第3空間は、穿孔領域323aと、穿孔領域323aに隣接する非穿孔領域333と、非穿孔領域333に隣接する穿孔領域323bと、隔壁342と、隔壁343と、外殻の+H方向および-H方向の端部とにより覆われる。
【0070】
第4空間は、穿孔領域324と、穿孔領域324に隣接する非穿孔領域334と、隔壁343と、隔壁344と、外殻の+H方向および-H方向の端部の一部とにより覆われる。
【0071】
第5空間は、非穿孔領域335aと、非穿孔領域335aに隣接する穿孔領域325と、穿孔領域325に隣接する非穿孔領域335bと、隔壁344と、外殻の+H方向および+W方向の端部とにより覆われる。なお、非穿孔領域334と非穿孔領域335aとは連続した非穿孔領域として構成可能であるが、当該領域のうち隔壁344よりも-W方向側の部分を非穿孔領域334とし、隔壁344よりも+W方向側の部分を非穿孔領域335aとする。
【0072】
以下では、第1空間を有する導波管を導波管311と呼び、第2空間を有する導波管を導波管312と呼び、第3空間を有する導波管を導波管313と呼び、第4空間を有する導波管を導波管314と呼び、第5空間を有する導波管を導波管315と呼ぶ。導波管311と導波管312とは隔壁341を介して隣接しており、導波管312と導波管313とは隔壁342を介して隣接しており、導波管313と導波管314とは隔壁343を介して隣接しており、導波管314と導波管315とは隔壁344を介して隣接している。すなわち、隔壁341~344は、吸音ユニット310(外殻)の内部を複数の導波管に分割する。
【0073】
隔壁341~344は互いに略同一方向に延在している。そのため、導波管311,315はそれぞれ-D方向から見た輪郭が略直角三角形であり、導波管312~314はそれぞれ-D方向から見た輪郭が略平行四辺形であり、これらは互いに略一直線上に延在する。導波管311,315は、導波管312~314とは互いに形状及び大きさが異なる。導波管312,314は、導波管313とは形状は略同一であるが、大きさ(導波管の長さ)、穿孔領域の配置および穿孔領域における穿孔の密度が異なる。
【0074】
また、導波管311は、導波管315とは互いに形状及び大きさ、ならびに穿孔領域の配置および穿孔領域における穿孔の密度が略同一であり、HW平面に直交する所定の回転軸に関して点対称である。また、導波管312は、導波管314とは互いに形状及び大きさ、ならびに穿孔領域の配置および穿孔領域における穿孔の密度が略同一であり、上記所定の回転軸に関して点対称である。さらに、導波管313は、上記所定の回転軸に関して2回回転対称となるように、形状、ならびに穿孔領域の配置および穿孔領域における穿孔の密度が定められる。このように導波管311~315を設計することで、吸音ユニット310は、上記所定の回転軸に関して2回回転対称となる。これにより、吸音ユニット310の取付時に、上下の向きを意識しなくても同一の外観に揃えることができる。ただし、導波管311~315の吸音特性を全て異ならせてより広い周波数帯をカバーするために、上記制約の一部または全部に従うことなく導波管の形状等が定められてよい。
【0075】
本実施形態の吸音ユニット310(外殻)は、例えば図13に示すように、チャンバー部材340に相当するベースパネルと、穿孔板320を備えるフェースパネルとを嵌合し、当該嵌合箇所(つまり境界)を、光透過性を有する樹脂により固着することで構成されてよい。フェースパネルは、穿孔板320(つまり、外殻の-D方向の端部)と、外殻の+H方向、-H方向、+W方向、および-W方向の端部とを一体化した部材である。この樹脂は、好ましくは、ベースパネルおよびフェースパネルと同一の材料である。これにより、両者を接着剤により固着した場合に比べて、両者の境界が目立ちにくくなり、吸音ユニット310の外観上の統一感を高めることができる。
【0076】
ただし、吸音ユニット310の構成は上記例に限られない。吸音ユニット310は、全体が一体となって構成されていてもよいし、複数の部材を組み合わせることで構成されていてもよい。例えば、穿孔板320とチャンバー部材340とを組み合わせることで吸音ユニット310が構成されてもよいし、穿孔板320とチャンバー部材340とが一体となって構成されていてもよい。また例えば、各導波管を構成する部材を組み合わせることで吸音ユニット310が構成されてもよい。すなわち、吸音ユニット310は、複数の導波管を有し、各導波管の壁を構成する部材に穿孔領域と非穿孔領域とが存在していればよい。各導波管の内部と外部とは、穿孔領域に存在する複数の穿孔を介して連通しており、通気が可能である。
【0077】
具体的には、導波管311の内部と外部とは、穿孔領域321に形成された複数の穿孔を介して連通しており、通気可能である。一方、非穿孔領域331aおよび非穿孔領域331bに覆われた部分においては、導波管311の内部と外部とが通気可能でない。同様に、導波管312の内部と外部とは、穿孔領域322に形成された複数の穿孔を介して連通している。導波管313の内部と外部とは、穿孔領域323aおよび穿孔領域323bに形成された複数の穿孔を介して連通している。導波管314の内部と外部とは、穿孔領域324に形成された複数の穿孔を介して連通している。導波管315の内部と外部とは、穿孔領域325に形成された複数の穿孔を介して連通している。
【0078】
導波管311~315それぞれの壁を構成する穿孔板320における穿孔が形成された表面は、-D方向から見て露出している。吸音ユニット310に対して-D方向から到来して穿孔板320に入射する音波は、穿孔領域に形成された複数の穿孔を介して各導波管の内部に進入し、非穿孔領域に覆われた部分をD方向とは非平行に進行し、隔壁341~344のいずれか、またはチャンバー部材340の側面(つまり、+W方向または-W方向の端部)で反射する。穿孔板320の各穿孔領域は、音響インピーダンスの整合部材として機能し、導波管311、315と、導波管312、314と、導波管313とは、互いに共振特性が異なる共振器として機能する。そのため、吸音ユニット310によれば、単一の導波管を有する吸音材と比較して、広い周波数帯域において吸音効果を得ることができる。本実施形態における吸音ユニット310の吸音特性は、例えば、周波数ごとの吸音率、又は音響インピーダンスにより表される。なお、各導波管が吸音する音波の周波数帯域が互いに重ならないように吸音ユニット310が設計されていてもよいし、各導波管が吸音する音波の周波数帯域の一部が重なるように吸音ユニット310が設計されていてもよい。
【0079】
導波管311,315の体積は導波管312~314の体積より小さく、導波管313の体積は導波管312,314の体積より大きい。このように複数の導波管の大きさを異ならせることで、それらの導波管の共振特性を異ならせることができる。なお、穿孔板320の表面における穿孔領域323aと穿孔領域323bとのW方向の距離(図11における長さL11)は、穿孔板320の表面の法線方向における導波管313の長さ(図12における厚さL12)より長い。このような構成により、導波管313において、D方向とは非平行な方向に音波が進行する経路の長さを長くすることで低周波数帯域の吸音率を向上させつつ、吸音ユニット310のD方向の奥行(つまり厚さ)を小さくすることができる。また、穿孔板320の表面における非穿孔領域332のW方向の長さ(図11における長さL13)は、穿孔板320の表面の法線方向における導波管312の長さ(図12における厚さL12)より長い。このような構成により、導波管312において、D方向とは非平行な方向に音波が進行する経路の長さを長くすることで低周波数帯域の吸音率を向上させつつ、吸音ユニット310の厚さを小さくすることができる。
【0080】
導波管311,315は、導波管312,314と比較して、高い周波数帯域の吸音率が優れている。一方、導波管313は、導波管312,314と比較して、低い周波数帯域の吸音率が優れている。ここで、穿孔板320のうち導波管311~312,314~315の壁を構成する部分においては、穿孔の配置が1か所(すなわち穿孔領域321~322,324~325)にまとめられている。このような構成により、穿孔の配置を複数箇所に分散させた場合と比較して、導波管311~312,314~315による低い周波数帯域の吸音率を向上させることができる。一方、穿孔板320のうち導波管313の壁を構成する部分においては、穿孔の配置が複数箇所(すなわち穿孔領域323a及び穿孔領域323b)に分散している。このような構成により、穿孔の配置を1か所にまとめた場合と比較して、導波管313による高い周波数帯域の吸音率を向上させることができる。後述するように、それぞれの穿孔の大きさなどのパラメータを変えることでも導波管の吸音特性を変化させることは可能であるが、穿孔の大きさ等に製造上の制限がある場合であっても、穿孔の配置を適切に設計することで所望の吸音特性を実現することができる。
【0081】
導波管313は、最も共振周波数の低い共振器に対応するため、他の導波管に比べて長い(W方向の寸法が大きい)。導波管313は、他の導波管に比べて外殻の中央に近い場所に配置される。穿孔領域323a,323bは、非穿孔領域333と比べて、隔壁342,343に近い場所に配置される。これらの構成によれば、外殻の中央に近い場所に面積の大きな非穿孔領域333が配置される(換言すれば、穿孔領域がW方向の端部に寄せられる)ので、フラットな非穿孔領域333に観者の目を引き付けて穿孔を目立ちにくくし、穿孔による視覚的な解放感への悪影響を抑えることができる。
【0082】
吸音ユニット310は、その形状及び構造により吸音性能を発揮するため、光透過性を有する様々な素材を用いて構成することができる。吸音ユニット310は、例えば、樹脂、金属、シリコン、ゴム、ポリマー、紙、段ボール、木材、又は不織布などの素材により構成される。ただし、吸音ユニット310はこれらの素材以外の素材により構成されていてもよい。また、それぞれ素材が異なる複数の部材を組み合わせることで吸音ユニット310が構成されてもよい。例えば、吸音ユニット310のうち穿孔板320とチャンバー部材340とが異なる素材により構成されていてもよい。ただし、両者を同一素材により構成することで、吸音ユニット310の外観上の統一感を高めることができる。
【0083】
(2-1-2)穿孔板の構成
穿孔板320の構成について説明する。穿孔板320の穿孔領域321、322、323a、323b,324,325には、それぞれ複数の穿孔が形成されている。なお、穿孔板320は一体として構成されていてもよいし、複数の部材を組み合わせることで構成されていてもよい。例えば、穿孔板320のうち各導波管を覆う部分が別個の部材で構成されていてもよいし、穿孔板320の各穿孔領域及び各非穿孔領域が別個の部材で構成されていてもよいし、穿孔板320が2個の三角形形状の板状部材と3個の平行四辺形状の板状部材とで構成されていてもよい。穿孔板320の全体を一体として構成することで、穿孔板320の製造工程を簡易にすることができ、製造コストを低減できる。一方、複数の部材を組み合わせて穿孔板320を構成することで、各部材のサイズを小さくできるため、部材の製造可能なサイズに制限がある場合でも大きい穿孔板320を作成することができる。
【0084】
第1実施形態において説明したとおり、各導波管の共振特性は、当該導波管の形状と、当該導波管に組み合わされる穿孔板の孔パラメータとに依存する。
【0085】
吸音ユニット310が有する複数の穿孔領域の孔パラメータは互いに異なっていてもよい。例えば、穿孔領域321の孔パラメータは導波管311に要求される吸音特性に応じて最適化されてもよい。穿孔領域322の孔パラメータは導波管312に要求される吸音特性に応じて最適化されてもよい。穿孔領域323a,323bの孔パラメータは導波管313に要求される吸音特性に応じて最適化されてもよい。穿孔領域324の孔パラメータは導波管314に要求される吸音特性に応じて最適化されてもよい。穿孔領域325の孔パラメータは導波管315に要求される吸音特性に応じて最適化されてもよい。すなわち、導波管311~315のうち1つの導波管の内部と外部とを連通させる穿孔と、他の導波管の内部と外部とを連通させる穿孔とは、少なくとも何れかの孔パラメータ又は孔の配置が異なっていてもよい。これにより、吸音ユニット310は、広い周波数帯域において高い吸音率を達成できる。ただしこれに限らず、吸音ユニット310が有する複数の穿孔領域の孔パラメータは共通であってもよい。これにより、穿孔板320の孔の仕様を統一できるため、穿孔板320の製造コストを低減することができる。
【0086】
なお、吸音ユニット310の例では穿孔板320の表面が平面状であるが、穿孔板320の形状はこれに限定されない。例えば、穿孔板320の表面が曲面であってもよいし、凹凸を有していてもよい。
【0087】
(2-2)吸音ユニットの使用方法
第2実施形態の吸音ユニットは、第1実施形態の吸音ユニットと同様に使用可能である。
【0088】
第2実施形態において、穿孔板320とチャンバー部材340はそれぞれ、光透過性を有する素材により構成される。光透過性を有する素材としては、例えば、ガラスやアクリル等の樹脂素材を用いることができるが、これらに限定されない。このような構成を有する吸音ユニット310は、ガラスやアクリルなどの光透過性を有する壁面に適した吸音部材である。
【0089】
例えば、図6の支持板50として、ガラス製の衝立、ローパーティション、窓、または壁を用いる場合を考える。なお、窓は、建物の窓に限られず、自動車などの乗物の窓であってもよい。支持板50に吸音ユニット310が取り付けられていない場合、支持板50は光透過性を有するため、互いに支持板50の反対側にいる人間HMaと人間HMbは互いの行動を細部まで視認可能である。一方、吸音ユニット310を壁面に取り付けることで、支持板50(壁面)の透明度を変化させることができる。具体的には、吸音ユニット310を支持板50に取り付けた場合、吸音ユニット310を正面(-D方向)から見ると斜め縞状のぼかしがかかるため、当該吸音ユニット310の向こうの様子を鮮明に視認することができなくなる。すなわち、吸音ユニット310と支持板50からなる吸音壁1の透明度は、支持板50よりも低くなる。その結果、人間HMaと人間HMbは、お互いの存在は視認可能でありつつ、詳細な行動の内容までは視認できなくなる。このような構成によれば、互いに支持板50の反対側にいる人間の間でのプライバシー保護が可能となる。加えて、吸音壁1は、各吸音ユニット310によって、当該吸音壁1の向こうの景色と融合した独特な斜め縞模様を観者知覚させ、美感を起こさせることができる。
【0090】
(3)変形例
(3-1)吸音ユニットの変形例1
吸音ユニットの構成の変形例について説明する。上述した第1実施形態または第2実施形態の説明における吸音ユニット10は、以下で説明する変形例の吸音ユニットに置き換えることができる。図16(a)及び図16(b)はそれぞれ、変形例に係る吸音ユニットの構造を示す斜視図及び正面図である。図17(a)及び図17(b)はそれぞれ、変形例に係る吸音ユニットの構造を示す側面図及び底面図である。図18(a)及び図18(b)はそれぞれ、変形例に係るチャンバー部材の構造を示す斜視図及び正面図である。図19(a)及び図19(b)はそれぞれ、変形例に係るチャンバー部材の構造を示す側面図及び底面図である。図1から図4を用いて説明した吸音ユニット10においては、複数の隔壁が互いに略同一方向に延在することで、複数の導波管が略平行に並ぶ。一方、図16から図19を用いて説明する吸音ユニット110においては、吸音ユニット110の内部を複数の導波管に分割する複数の隔壁はそれぞれ、-D方向から見て吸音ユニット110の内側の位置から吸音ユニット110の周縁に向かって延在する。
【0091】
図16に示すように、吸音ユニット110は、穿孔が形成された板状部材である穿孔板120と、穿孔板120と組み合わされることで空洞を形成するチャンバー部材140とを有する。穿孔板120の表面には、それぞれ複数の穿孔が形成された複数の穿孔領域と、穿孔が形成されていない複数の非穿孔領域が存在する。吸音ユニット110は-D方向から見て多角形(具体的には六角形)の形状である。
【0092】
図18に示すように、チャンバー部材140には、隔壁147~152により互いに仕切られた空間141~146が存在する。チャンバー部材140を-D方向側から覆うように穿孔板120が設けられることで、空間141~146はそれぞれ、チャンバー部材140と穿孔板120とにより壁が構成された導波管となる。具体的には、空間141は、穿孔領域121と、穿孔領域21に隣接する非穿孔領域131とにより覆われる。空間142は、穿孔領域122と、非穿孔領域132とにより覆われる。空間143は、穿孔領域123と、非穿孔領域133とにより覆われる。空間144は、穿孔領域124と、非穿孔領域134とにより覆われる。空間145は、穿孔領域125と、非穿孔領域135とにより覆われる。空間146は、穿孔領域126と、非穿孔領域136とにより覆われる。
【0093】
以下では、空間141~146を有する導波管をそれぞれ導波管111~116と呼ぶ。隔壁147~152は吸音ユニット110の内部を複数の導波管に分割し、各導波管は隔壁を介して他の2つの導波管と隣接している。隔壁147~152は-D方向から見て位置153から六角形の各頂点に向けて延在しており、導波管111~116はそれぞれ-D方向から見て三角形の形状である。位置153が-D方向から見て吸音ユニット110の中心からずれているため、導波管111、導波管116、及び導波管115は互いに形状及び大きさが異なり、導波管112、導波管113、及び導波管114は互いに形状及び大きさが異なる。導波管12と導波管13とは、空洞の形状及び大きさが互いに略同一であるが、それぞれの壁に形成された穿孔の配置が異なる。導波管111と導波管112、導波管116と導波管113、導波管114と導波管115は、それぞれ空洞の大きさが互いに略同一であるが、それぞれの壁に形成された穿孔の配置が異なる。
【0094】
導波管111~116それぞれの壁を構成する穿孔板120における穿孔が形成された表面は、-D方向から見て露出している。吸音ユニット110に対して-D方向から到来して穿孔板120に入射する音波は、穿孔領域に形成された複数の穿孔を介して各導波管の内部に進入し、非穿孔領域に覆われた部分をD方向とは非平行に進行し、チャンバー部材140の側面で反射する。穿孔板120の各穿孔領域は、音響インピーダンスの整合部材として機能し、導波管111~116は、互いに共振特性が異なる共振器として機能する。そのため、吸音ユニット110によれば、単一の導波管を有する吸音材と比較して、広い周波数帯域において吸音効果を得ることができる。
【0095】
例えば、導波管113は導波管112と比較して低い周波数帯域の吸音率が優れており、導波管114は導波管113よりさらに低い周波数帯域の吸音率が優れている。また、導波管116は導波管111と比較して低い周波数帯域の吸音率が優れており、導波管115は導波管116よりさらに低い周波数帯域の吸音率が優れている。なお、各導波管が吸音する音波の周波数帯域が互いに重ならないように吸音ユニット110が設計されていてもよいし、各導波管が吸音する音波の周波数帯域の一部が重なるように吸音ユニット110が設計されていてもよい。
【0096】
穿孔領域125の重心と非穿孔領域135の重心とを結ぶ方向における非穿孔領域135の長さ(図16(b)における長さL5)は、穿孔板120の表面の法線方向における導波管115の長さ(図17(b)における厚さL6)より長い。このような構成により、導波管115において、D方向とは非平行な方向に音波が進行する経路の長さを長くすることで低周波数帯域の吸音率を向上させつつ、吸音ユニット110のD方向の奥行(つまり厚さ)を小さくすることができる。
【0097】
なお、吸音ユニット110における穿孔の配置は図16に示す例に限定されない。図20は、吸音ユニット110における穿孔板の構造の変形例を示す。図20の穿孔板220には、図16の穿孔板120と比較して、新たに穿孔領域221及び穿孔領域222が設けられている。つまり、穿孔板220のうち導波管115の壁を構成する部分においては、穿孔の配置が複数箇所に分散している。このような構成により、穿孔の配置を1か所にまとめた場合(すなわち穿孔板120を用いる場合)と比較して、導波管111による高い周波数帯域の吸音率を向上させることができる。なお、穿孔板220の表面における穿孔領域125と穿孔領域221との距離(図20における長さL7)は、穿孔板220の表面の法線方向における導波管111の長さ(図17(b)における厚さL6に等しい)より長い。このような構成により、導波管115において、D方向とは非平行な方向に音波が進行する経路の長さを長くすることで低周波数帯域の吸音率を向上させつつ、吸音ユニット110の厚さを小さくすることができる。
【0098】
なお、図16(a)及び図16(b)においては、図面を簡潔にするために穿孔板120を不透明に描いている。ただし、実際には穿孔板120は透明又は半透明であるため、これらの図と同じ角度(斜め方向及び-D方向)から見た場合には、隔壁147~152が穿孔板120を透過して視認される。また、隔壁147~152を、光透過性を有する素材で構成してもよい。これにより、吸音ユニット110を介した視認性をさらに向上させることができる。
【0099】
(3-2)その他の変形例
上述の第2実施形態では、穿孔板320の内面IS1を凹凸のある形状とし、穿孔板320の外面OS1(基準面の一例)、ならびにベース板340aの内面IS2および外面OS2を平面状とする例を示した。しかしながら、任意の面を凹凸のある形状としてもよい。
第1例として、ベース板340aの内面IS2を凹凸のある形状とし、穿孔板320の内面IS1および外面OS1、ならびにベース板340aの外面OS2(基準面の一例)を平面状としてもよい。
第2例として、穿孔板320の内面IS1およびベース板340aの内面IS2を凹凸のある形状とし、穿孔板320の外面OS1(基準面の一例)およびベース板340aの外面OS2(基準面の一例)を平面状としてもよい。
第3例として、穿孔板320の外面OS1を凹凸のある形状とし、穿孔板320の内面IS1(基準面の一例)、ならびにベース板340aの内面IS2および外面OS2を平面状としてもよい。
【0100】
上述の第1実施形態および第2実施形態では、吸音ユニットが、形状及び大きさが異なる複数の導波管の組み合わせと、形状及び大きさが略同一である複数の導波管の組み合わせを有するものとした。ただしこれに限らず、吸音ユニットは、外殻に囲まれた空洞部と、空洞部の内部と外部とを連通させる穿孔とを有していればよい。すなわち、吸音ユニットは、空気が共振する空間を少なくとも1つ有していればよく、吸音ユニットが内部空間を分割する隔壁を有することは必須ではない。また、吸音ユニットが有する空洞部の数及び穿孔の数は、1以上であればよい。ただし、吸音ユニットが、形状及び大きさの少なくとも何れかが互いに異なる複数の空洞部(導波管)を有することで、より広い周波数帯域の音を吸音することができる。また、1つの空洞部に対して複数の穿孔を形成することで、周波数に応じた吸音率の偏りを低減する(つまり、吸音特性のピークをなだらかにする)ことができる。また、上述の第1実施形態では、吸音ユニットが有する複数の導波管における穿孔の配置が互いに異なるものとしたが、これに限らず、穿孔の配置が互いに等しい複数の導波管が吸音ユニットに含まれていてもよい。吸音ユニットが2以上の互いに異なる共振特性を有する導波管を備えることで、広い周波数帯域の音を吸音することができる。一方、吸音ユニットが有する複数の導波管のうちの一部が互いに近しい共振特性を有することで、特定の周波数帯域における吸音率を向上させることができる。
【0101】
上述の第1実施形態では、穿孔板の表面の法線方向における導波管の長さが不均一であるものとした。例えば、吸音ユニット10のD方向における厚さは、-D方向から見た周縁部よりも、-D方向から見た中心部の方が厚い。このような構成によれば、吸音ユニット10の厚さを-D方向から見た周縁部の厚さに揃えた場合よりも、各導波管の体積を大きくすることができ、その結果、低周波数帯域の吸音性能を向上させることができる。ただしこれに限らず、吸音ユニット10のD方向における厚さが均一であってもよい。この場合、穿孔板の表面の法線方向における導波管の長さも均一となる。
【0102】
上述の第1実施形態および第2実施形態に係る吸音ユニットにおいては、穿孔板と、穿孔板と一体的に固着されるベース体(チャンバー部材)とによって、空洞部(導波管)が形成される。なお、吸音ユニットに設けられる穿孔板は、チャンバー部材に対して着脱可能に構成されてもよい。これにより、穿孔板が消耗して吸音ユニットの吸音特性が劣化した場合でも、容易に穿孔板を交換して吸音ユニットの吸音特性を向上させることができる。また、穿孔板を孔パラメータが異なる別の穿孔板に交換することで、吸音ユニットの吸音特性を任意に調整することができる。なお、穿孔板とチャンバー部材とが分離可能である場合、吸音ユニットの内部空間を分割する隔壁は、チャンバー部材に設けられてもよいし、穿孔板に設けられてもよいし、チャンバー部材とも穿孔板とも独立した部材であってもよい。
【0103】
吸音ユニットに設けられる穿孔板及び隔壁の少なくとも何れかは、可動に構成されてもよい。また、導波管の内部に新たな部材が追加されてもよい。これにより、導波管の形状や大きさの調整が容易になり、吸音ユニットの吸音特性を任意に調整することができる。
【0104】
上述の第1実施形態及び各変形例において、吸音ユニットは-D方向から見て六角形形状であり、吸音ユニットの-D方向側の面に穿孔面が設けられており、吸音ユニットの内部が隔壁により複数の空洞部に分割されている。ただし、吸音ユニットの形状は他の多面体や球体であってもよい。また、穿孔面は、吸音ユニットの他の面に設けられていてもよい。また、吸音ユニットの内部に、空洞以外の構造が含まれていてもよい。
【0105】
図6及び図7を用いて説明したように、複数の吸音ユニットを並べて配置することで、広い範囲で吸音することができる。このとき、同一形状の複数の吸音ユニットを並べて配置してもよいし、形状が異なる複数の吸音ユニットを並べて配置してもよい。例えば、上述の第1実施形態、第2実施形態及び各変形例で説明した複数種類の吸音ユニットを並べて配置してもよい。また例えば、導波管の形状は同じで穿孔板の孔パラメータが異なる複数の吸音ユニットを並べて配置してもよい。吸音特性が異なる複数の吸音ユニットを並べて配置することで、同一の吸音ユニットを並べて配置する場合よりも、広い周波数帯域において吸音効果を得ることができる。一方、同一の吸音ユニットを並べて配置した場合、吸音特性が異なる複数の吸音ユニットを並べて配置する場合よりも、特定の周波数帯域において高い吸音効果を得ることができる。
【0106】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明の範囲は上記の実施形態に限定されない。また、上記の実施形態は、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更が可能である。また、上記の実施形態及び変形例を組合せてもよい。
【符号の説明】
【0107】
1 :吸音壁
10 :吸音ユニット
20 :穿孔板
40 :チャンバー部材
50 :支持板
60 :壁面
110 :吸音ユニット
120 :穿孔板
140 :チャンバー部材
210 :設計装置
211 :記憶装置
212 :プロセッサ
213 :入出力インタフェース
214 :通信インタフェース
220 :穿孔板
310 :吸音ユニット
320 :穿孔板
340 :チャンバー部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20