(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114245
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】バレル研磨装置
(51)【国際特許分類】
B24B 31/02 20060101AFI20240816BHJP
B24B 31/12 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
B24B31/02 B
B24B31/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023019889
(22)【出願日】2023-02-13
(71)【出願人】
【識別番号】396019631
【氏名又は名称】株式会社チップトン
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大脇 五郎
(72)【発明者】
【氏名】伊東 稔
【テーマコード(参考)】
3C158
【Fターム(参考)】
3C158AA02
3C158AA09
3C158AA16
3C158AB04
3C158AB08
3C158AC01
3C158AC05
3C158CB06
(57)【要約】
【課題】研磨槽の内外を連通させるスリットが閉塞されることを防止する。
【解決手段】バレル研磨装置Aは、筒形をなすドラム41と、ドラム41の底面の開口を塞ぐように配置されたディスク60とを有する研磨槽40と、ディスク60をドラム41と同軸状に回転駆動する駆動機構15と、ドラム41の上方において研磨槽40内の研磨粉を吸引する集塵装置14と、ドラム41とディスク60との間のスリット70を介して、研磨槽40の外部から研磨槽40の内部へエアを圧送する圧送装置74と、を備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒形をなすドラムと、前記ドラムの底面の開口を塞ぐように配置されたディスクとを有する研磨槽と、
前記ディスクを前記ドラムと同軸状に回転駆動する駆動機構と、
前記ドラムの上方において前記研磨槽内の研磨粉を吸引する集塵装置と、
前記ドラムと前記ディスクとの間のスリットを介して、前記研磨槽の外部から前記研磨槽の内部へエアを圧送する圧送装置と、を備えているバレル研磨装置。
【請求項2】
前記スリットの幅寸法は、前記研磨槽の外部側から前記研磨槽の内部側に向かって狭まるように設定されている請求項1に記載のバレル研磨装置。
【請求項3】
前記圧送装置は、前記研磨槽の外部に設けた給気空間と、前記給気空間にエアを圧送するエア圧送源とを備えており、
前記給気空間が、前記ディスクに回転力を伝達する筒状の回転軸の給気孔と、前記回転軸を包囲する環状空間とを含み、
前記給気孔が前記エア圧送源に接続され、
前記環状空間と前記スリットとが全周に亘って連通している請求項1又は請求項2に記載のバレル研磨装置。
【請求項4】
前記スリットは、前記研磨槽を前記ディスクの回転中心軸と平行な方向に貫通するように形成されており、
前記ドラムは、前記スリットに対して前記回転中心軸の軸線方向に離隔した位置に配置された筒状部材と、前記スリットを構成するリング状部材と、を組み付けて構成されており、
前記ディスクに対する前記リング部材の径方向の位置を、調整装置によって調整することが可能である請求項1又は請求項2に記載のバレル研磨装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バレル研磨装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、固定槽の底部に回転槽を配置したバレル槽を備えたバレル研磨装置が開示されている。回転槽の外周縁と固定槽の内壁面との間には、全周に沿って微小な間隙が保有されており、この間隙を介して回転槽の内外が連通している。バレル槽の底部には、研磨中に生じた研磨粉を吸引排出する集塵機が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されたバレル研磨装置では、固定槽と回転槽との間の狭小の間隙から研磨粉を下側に吸引除去するようになっている。そのため、バレル槽内の研磨粉やワークが間隙に吸い寄せられ、研磨粉が間隙内に吸い込まれて間隙を詰まらせたり、板状のワークが間隙の開口部を塞いだりする等の不具合があった。
【0005】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、研磨槽の内外を連通させるスリットが閉塞されることを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
筒形をなすドラムと、前記ドラムの底面の開口を塞ぐように配置されたディスクとを有する研磨槽と、
前記ディスクを前記ドラムと同軸状に回転駆動する駆動機構と、
前記ドラムの上方において前記研磨槽内の研磨粉を吸引する集塵装置と、
前記ドラムと前記ディスクとの間のスリットを介して、前記研磨槽の外部から前記研磨槽の内部へエアを圧送する圧送装置と、を備えている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、研磨槽の内外を連通させるスリットが詰まることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図3】アンダープレートと筒状部材の固定構造をあらわす部分拡大断面図
【
図4】アンダープレートとリング状部材の固定構造をあらわす部分拡大断面図
【発明を実施するための形態】
【0009】
最初に本開示の実施形態を列記して説明する。下記の複数の実施形態を、矛盾を生じない範囲で任意に組み合わせたものも、発明を実施するための形態に含まれる。
【0010】
本発明は、
(1)筒形をなすドラムと、前記ドラムの底面の開口を塞ぐように配置されたディスクとを有する研磨槽と、前記ディスクを前記ドラムと同軸状に回転駆動する駆動機構と、前記ドラムの上方において前記研磨槽内の研磨粉を吸引する集塵装置と、前記ドラムと前記ディスクとの間のスリットを介して、前記研磨槽の外部から前記研磨槽の内部へエアを圧送する圧送装置と、を備えている。この構成によれば、研磨槽内の研磨粉は、ドラムの上方において集塵装置によって回収される。圧送装置は、ドラムとディスクとの間のスリットを通して研磨槽内にエアを圧送するので、研磨槽内の研磨粉やワーク等がスリット内に引き寄せられる虞がない。したがって、研磨槽内の研磨粉やワーク等によってスリットが詰まることを抑制できる。
【0011】
(2)(1)において、前記スリットの幅寸法は、前記研磨槽の外部側から前記研磨槽の内部側に向かって狭まるように設定されていることが好ましい。この構成によれば、スリット内では圧送されたエアの流速が高くなるので、スリットの詰まりを効果的に防止することができる。
【0012】
(3)(1)又は(2)において、前記圧送装置は、前記研磨槽の外部に設けた給気空間と、前記給気空間にエアを圧送するエア圧送源とを備えており、前記給気空間が、前記ディスクに回転力を伝達する筒状の回転軸の給気孔と、前記回転軸を包囲する環状空間とを含み、前記給気孔が前記エア圧送源に接続され、前記環状空間と前記スリットとが全周に亘って連通していることが好ましい。この構成によれば、スリットの全周に亘ってエアを均一に研磨槽内へ吐出することができる。
【0013】
(4)(1)~(3)において、前記スリットは、前記研磨槽を前記ディスクの回転中心軸と平行な方向に貫通するように形成されており、前記ドラムは、前記スリットに対して前記回転中心軸の軸線方向に離隔した位置に配置された筒状部材と、前記スリットを構成するリング状部材と、を組み付けて構成されており、前記ディスクに対する前記リング部材の径方向の位置を、調整装置によって調整することが可能であることが好ましい。この構成によれば、スリットの幅を全周に亘って均一に設定することができる。スリットの幅を調整する際には、ドラム全体を移動させるのではなく、リング状部材のみを移動させれば済むので、作業性が良い。
【0014】
<実施例1>
以下、本発明を具体化した実施例1を
図1~
図5を参照して説明する。尚、以下の説明において、上下の方向については、
図1,3~5にあらわれる向きを、そのまま上方、下方と定義する。上下方向と軸線方向を同義で用いる。上下方向(軸線方向)と直交する方向を径方向と定義する。
【0015】
本実施例1のバレル研磨装置Aは、ベースプレート10と、ハウジング11と、駆動機構15と、アンダープレート22と、研磨槽40と、集塵装置14と、圧送装置74と、調整装置77とを備えて構成されている。ベースプレート10は、図示しない基台によって水平に配置されている。ハウジング11は、下面が開口した箱形をなし、ベースプレート10に対して研磨槽40を上から覆うように取り付けられている。
【0016】
ハウジング11の天板部には、投入口12と集塵口13が開口している。研磨槽40内には、マスM(ワーク、研磨石)が、投入口12から投入されるようになっている。集塵口13は、研磨槽40の上方に開口している。集塵口13には、集塵装置14のダクトが接続されている。集塵装置14は、ハウジング11内及び研磨槽40内に浮遊する研磨粉を、ダクトを通して吸引して回収する装置である。
【0017】
駆動機構15は、第1モータ16と、回転軸17と、第2モータ19と、平歯車20とを備えている。第1モータ16は、ベースプレート10よりも下方に配置され、図示しない基台に固定されている。回転軸17は、軸線を上下方向に向け、上下両端が開放された円筒形の部品である。回転軸17は、ベースプレート10の中心孔に回転軸17の上端部を貫通させた状態で、ベースプレート10に対して回転自由に支持されている。回転軸17は、第1モータ16によって正逆両方向に回転駆動される。回転軸17の内部は、回転軸17を上下に貫通する給気孔18として機能する。給気孔18の下端部には、エア圧送源21が接続されている。
【0018】
第2モータ19はベースプレート10の下面に取り付けられている。第2モータ19の上向きの駆動軸には、軸線を上下方向に向けた平歯車20が取り付けられている。バレル研磨装置Aを上から見た平面視において、平歯車20は、回転軸17に対して偏心した位置に配置されている。平歯車20はベースプレート10よりも上方に配置されている。
【0019】
アンダープレート22は、平面視形状が円形をなし、上面が凹んだ皿形をなしている。アンダープレート22は、円形のプレート本体部23と、プレート本体部23の外周縁から同心状に立ち上がる円筒形の周壁部24とを有する単一部品である。アンダープレート22は、ステンレス等の金属材料からなる単一部品である。アンダープレート22は、軸線を上下方向に向け、回転軸17と同心状に回転し得る状態でベースプレート10の上面に支持されている。アンダープレート22の外周縁部の下面には、内歯歯車25がアンダープレート22と同心状に設けられている。内歯歯車25は、第2モータ19の平歯車20に噛み合わされている。アンダープレート22は、第2モータ19によって正逆両方向に、且つ周速度の調整を可能に回転駆動される。
【0020】
周壁部24の上端縁には、アンダープレート22と同心状に径方向外方へ張り出したフランジ状の支持部26が形成されている。
図3,4に示すように、支持部26は、円環形をなす水平な載置部27と、載置部27の外周縁から同心状に上方へ立ち上がった円形の壁状部28とを有する。載置部27の周方向に間隔を空けた複数位置には、載置部27を上下方向に貫通する第1取付孔29が形成されている(
図3参照)。載置部27のうち周方向において隣り合う第1取付孔29の間には、載置部27を上下方向に貫通する第2取付孔30が形成されている(
図4参照)。壁状部28の周方向に間隔を空けた複数位置には、壁状部28を径方向(水平方向)に貫通する調整用雌ネジ孔31が形成されている。調整用雌ネジ孔31には、外周面側から調整ボルト32がねじ込まれている。
【0021】
研磨槽40は、筒形をなすドラム41と、ドラム41の底面の開口を塞ぐように配置されたディスク60とによって構成されている。研磨槽40の内部は、バレル研磨を行うための研磨空間33として機能する。ドラム41は、全体として軸線を上下方向に向けた円筒形の筒状部材42と、同じく軸線を上下方向に向けた円環形のリング状部材50とを備えて構成されている。筒状部材42は、ドラム本体43の内周面に、筒状ウレタンライニング44とをインサート成形によって一体化させたものである。ドラム本体43は、ステンレス等の金属からなる円筒形の単一部品である。ドラム本体43の下端部には、周方向に間隔を空けて配置された複数の固定用第1雌ネジ孔45が形成されている(
図3参照)。固定用第1雌ネジ孔45は、軸線を上下方向に向け、ドラム本体43の下端面に開口している。
【0022】
筒状ウレタンライニング44のうち上端側領域の内周面は、複数の長方形平面46を周方向に連ねて構成されている。
図2に示すように、筒状ウレタンライニング44の上端側領域における内周面の平面視形状は、正多角形(正12角形)である。筒状ウレタンライニング44の下端側領域の内周面は、流動促進面47として機能する。流動促進面47は、頂点を上向きにした複数の三角形平面48と、頂点を下向きにした複数の三角形平面48とを、鈍角をなすように、且つ周方向に交互に連ねて構成されている。流動促進面47は、筒状ウレタンライニング44の径方向の厚さ寸法を調整することによって形成されている。筒状ウレタンライニング44の下端の内周縁は、円形をなしている。
【0023】
リング状部材50は、リング本体51の内周面に、リング状ウレタンライニング52をインサート成形によって一体化させたものである。リング本体51は、ステンレス等の金属からなる円環形の単一部品である。リング本体51には、周方向に間隔を空けて配置された複数の調整用貫通孔53が形成されている(図参照)。調整用貫通孔53は、軸線を上下方向に向け、リング本体51を貫通している。調整用貫通孔53の内径は、後述する第1ボルト56の雄ネジ部の外径よりも大きい。リング本体51には、軸線を上下方向に向け、リング本体51を貫通する複数の固定用第2雌ネジ孔54が形成されている(
図4参照)。複数の固定用第2雌ネジ孔54は、周方向に隣り合う調整用貫通孔53の間に配置されている。
【0024】
リング状ウレタンライニング52の内周面の平面視形状は、円形である。
図5に示すように、リング状ウレタンライニング52の上端部領域の内径は、その上端部領域の下端から上端に至る全領域に亘って一定である。リング状ウレタンライニング52の内周面のうち内径が一定である上端部領域は、スリット70内に臨む内向き対向面55として機能する。リング状ウレタンライニング52の内周面のうち上端部よりも下方の広範囲領域は、内径が上端から下端に向かって次第に大きくなるようなテーパ状(円錐台状)をなす誘導面34として機能する。
【0025】
ドラム41は、アンダープレート22の支持部26に一体回転し得るように固定されている。ドラム41を固定する際には、載置部27の上面にリング状部材50を載置し、第1取付孔29に調整用貫通孔53を同心状に位置合わせするとともに、第2取付孔30に固定用第2雌ネジ孔54を同心状に位置合わせする。次に、リング状部材50の上面に筒状部材42を載置し、調整用貫通孔53に固定用第1雌ネジ孔45を同心状に位置合わせする。
【0026】
その後、載置部27の下方から、第1ボルト56を、第1取付孔29と調整用貫通孔53に貫通させ、固定用第2雌ネジ孔54にねじ込む。同じく載置部27の下方から、第2ボルト57を、第2取付孔30に貫通させて固定用第2雌ネジ孔54にねじ込む。第1ボルト56と第2ボルト57によって、アンダープレート22とリング状部材50と筒状部材42が固定される。第1ボルト56と第2ボルト57を締め付けることによって、筒状部材42とリング状部材50が一体化されるとともに、アンダープレート22に固定される。
【0027】
ディスク60は、全体として上面が浅く凹んだ皿状の部材である。ディスク60は、ステンレス等の金属からなるディスク本体61と、皿状ウレタンライニング67とをインサート成形によって一体化させたものである。ディスク本体61は、円形の水平板部62と、水平板部62と同心の円錐台状をなすテーパ状板部63とを有する単一部品である。水平板部62(ディスク本体61)の中心孔は、回転軸17の上端部に対して一体回転し得るように固着されている。テーパ状板部63は、水平板部62の外周縁から径方向外方(外周縁側)に向かって次第に高くなるように斜め上方へ延出した形状をなす。水平板部62の上面には、平面視円形をなすドーム状のカバー65が、ディスク本体61と同心状に取り付けられている。皿状ウレタンライニング67は、ディスク本体61の上面のうちカバー65よりも外周側の領域全体に形成されている。
【0028】
ディスク本体61の上面とカバー65の内面とによって囲まれた空間は、通気空間35として機能する。通気空間35内においては、回転軸17の上端面と水平板部62の上面中心部に固定板36が固着されている。固定板36には、給気孔18と通気空間35とを連通させる連通孔37が形成されている。アンダープレート22の内面と、ディスク本体61の下面との間には、エアの流動が可能な環状空間71が形成されている。環状空間71は、回転軸17を包囲するように配置され、回転軸17と同心の円形をなす空間である。水平板部62には、通気空間35と環状空間71とを連通させる複数の通気孔64が形成されている。
【0029】
図5に示すように、ディスク本体61のテーパ状板部63の最外周縁部63Eは、上向きに尖った形状をなしている。皿状ウレタンライニング67の外周縁部には、最外周縁部63Eの外周面に密着する下向きの折返部68が形成されている。折返部68の外周面は、スリット70内に臨む外向き対向面69として機能する。
【0030】
ドラム41の下端部内周面とディスク60の外周縁部との間には、平面視形状がディスク60と同心の円形リング状をなすスリット70が形成されている。スリット70は、研磨槽40を、回転軸17の回転中心軸38と平行な上下方向に貫通させる空間である。
図5に示すように、スリット70は、狭小空間72と誘導空間73とから構成されている。狭小空間72の上端は、全周に亘って研磨槽40の研磨空間33内へ上向きに開口している。誘導空間73は狭小空間72の下方に位置している。誘導空間73の上端と狭小空間72の下端とは、互いに連通している。誘導空間73の下端は、全周に亘って環状空間71内へ下向きに開口している。スリット70は、環状空間71と研磨空間33とを連通させる。
【0031】
狭小空間72は、リング状ウレタンライニング52の内向き対向面55と、皿状ウレタンライニング67の外向き対向面69の上端部とによって構成されている。回転軸17の回転中心軸38を含むようにバレル研磨装置Aを切断した断面において、内向き対向面55と外向き対向面69は、互いに平行をなしている。狭小空間72の径方向の幅寸法(内向き対向面55と外向き対向面69との間隔)は、狭小空間72の上端から下端まで一定の寸法であり、研磨粉が通過し難いと想定される0.2mm~0.4mm程度に設定されている。
【0032】
誘導空間73は、リング状ウレタンライニング52の誘導面34と、外向き対向面69の下端側領域及びディスク本体61の外周面とによって構成されている。誘導面34の上端部と内向き対向面55の下端部は、段差が生じないように鈍角をなして連なっている。誘導空間73の径方向の幅寸法は、誘導空間73の上端において最小であり、誘導空間73の下端において最大である。誘導空間73の径方向の幅寸法は、全体として、誘導空間73の下端から上端に向かって小さくなっている。スリット70の径方向の幅寸法も、全体としては、下端から上端に向かって小さくなっている。
【0033】
研磨槽40の内部には、圧送装置74によって加圧されたエアが供給されるようになっている。圧送装置74は、エア圧送源21と、スリット70と、給気空間75とを備えて構成されている。エア圧送源21は、既述のようにディスク60を回転駆動するための回転軸17の給気孔18に接続されている。給気空間75は、給気孔18と、既述の環状空間71と、連通空間76とを備えて構成されている。連通空間76は、カバー65で包囲された通気空間35と、固定板36の連通孔37と、ディスク本体61の通気孔64とによって構成されている。
【0034】
エア圧送源21から圧送されたエアは、給気孔18と、連通孔37と、通気空間35と、通気孔64と、環状空間71と、スリット70とを順に通過することによって、研磨槽40の研磨空間33内に供給される。環状空間71は、給気孔18を同心状に包囲する空間であるから、給気孔18に圧送されたエアは、連通空間76を経た後、環状空間71内を全周に亘って均一に拡がり、スリット70に至る。したがって、スリット70からは、全周に亘って均一な圧力及び均一な流量で、エアが研磨空間33内に圧送される。
【0035】
研磨中は、ディスク60の回転力を受けたマスMが、遠心力によってディスク60の外周縁部とドラム41の下端部、即ちスリット70が開口する領域で流動する。そのため、研磨によって生じた研磨粉が、スリット70内に侵入してスリット70を目詰まりさせたり、スリット70から環状空間71内へ落下したりすることが懸念される。しかし、スリット70から研磨槽40内へエアが吹き出しているので、研磨中に生じた研磨粉がスリット70に吸い寄せられる虞はない。また、ワークが空気抵抗の大きい板状のものであっても、ワークがスリット70に引き寄せられることはない。
【0036】
スリット70の隙間(径方向の幅寸法)は、調整装置77によって、全周に亘って均一になるように調整されている。調整装置77は、アンダープレート22の支持部26と、調整用雌ネジ孔31と、調整ボルト32と、第1ボルト56と、第2ボルト57と、調整用貫通孔53とを備えて構成されている。スリット70の隙間を調整する際には、アンダープレート22に対してリング状部材50がディスク60と同心状に配置されるように、リング状部材50の水平方向の位置を調整する。調整の際には、第1ボルト56と第2ボルト57を緩めた状態で、複数の調整ボルト32をリング状部材50(リング本体51)の外周面に押し当てることによって、リング状部材50を載置部27の上面で滑らせるようにして水平方向に移動させる。リング状部材50をディスク60と同心状となるように位置決めした後、第1ボルト56と第2ボルト57を締め付けることによって、リング状部材50をアンダープレート22に固定する。
【0037】
次に、本実施例1の作用を説明する。研磨を行う際には、研磨槽40にマスM(ワーク、研磨石)を投入し、駆動機構15によって、ディスク60とドラム41を、同軸状に且つ互いに逆方向へ回転させる。ディスク60とドラム41の回転によって、マスMが研磨槽40内周で流動し、研磨石によってワークの表面が研磨される。研磨中は、ワークや研磨石から発生した研磨粉が研磨槽40の上方へ舞い上がるが、この舞い上がったマスMの研磨粉は、ハウジング11の外部へ拡散することなく、集塵口13から集塵装置14によって吸引される。
【0038】
研磨中は、マスMが、ディスク60からの回転力を受け、遠心力によってディスク60の外周縁からドラム41の内周面に沿って上昇し、雪崩のように流動する。このとき、マスMは、ドラム41の流動促進面47によって周方向へ横流れすることを抑制されるので、上下方向の流動を生じ易い。この上下方向の流動によって、ワークの表面全体に亘って研磨石が均一に接触し、良好な研磨が促進される。また、ドラム41とディスク60が逆方向に回転しているので、マスMのドラム41への貼り付きも抑制される。
【0039】
研磨槽40の内面を構成するドラム41の内周面には、耐摩耗性に優れた筒状ウレタンライニング44が形成されている。同じく研磨槽40の内面を構成するディスク60の上面にも、耐摩耗性に優れた皿状ウレタンライニング67が形成されている。これにより、ステンレスよりも硬いワークや研磨石が、研磨槽40の内面に高速で接触してもディスク60やドラム41は摩耗し難い。
【0040】
ドラム41の内周面とディスク60の外周縁との間にスリット70を設けることによって、ドラム41とディスク60が、摺動抵抗を生じさせることなく、非接触の状態で円滑に回転できるようにした。圧送装置74によって環状空間71に圧送されたエアが、スリット70の上端から研磨槽40内へ上向きに吐出される。したがって、研磨槽40内においてスリット70の幅よりも小径の研磨粉が発生したとしても、その小径の研磨粉がスリット70を通って環状空間71内に落下する虞はない。
【0041】
研磨粉の一部がスリット70に噛み込んでも、スリット70を構成する内向き対向面55と外向き対向面69は、ウレタン樹脂製なので、噛み込んだ研磨粉によって摩耗する虞はない。万一、研磨粉がスリット70に噛み込んで、内向き対向面55が摩耗した場合には、内向き対向面55を有するリング状部材50を交換すればよい。リング状部材50を交換する際には、第1ボルト56と第2ボルト57を外し、筒状部材42とリング状部材50をアンダープレート22の支持部26から取り外す。そして、新規のリング状部材50をアンダープレート22に載置し、その上に筒状部材42を位置して、第1ボルト56と第2ボルト57によって筒状部材42とリング状部材50を固定すればよい。
【0042】
本実施例1のバレル研磨装置Aは、研磨槽40と、駆動機構15と、集塵装置14と、圧送装置74とを備えている。研磨槽40は、筒形をなすドラム41と、ドラム41の底面の開口を塞ぐように配置されたディスク60とを有する。駆動機構15は、ディスク60をドラム41と同軸状に回転駆動する。集塵装置14は、ドラム41の上方において研磨槽40内の研磨粉を吸引する。圧送装置74は、ディスク60とドラム41との間のスリット70を介して、研磨槽40の外部から研磨槽40の内部へエアを圧送する。研磨槽40内で発生した研磨粉は、ドラム41の上方において集塵装置14によって回収される。圧送装置74は、ドラム41とディスク60との間のスリット70を通して研磨槽40内にエアを圧送するので、研磨槽40内の研磨粉やワークがスリット70に引き寄せられる虞がない。したがって、研磨槽40内の研磨粉やワーク等によってスリット70が詰まることを抑制できる。
【0043】
スリット70の径方向の幅寸法は、研磨槽40の外部側(スリット70の下端)から研磨槽40の内部側(スリット70の上端)に向かって狭まるように設定されている。この構成によれば、スリット70内では圧送されたエアの流速が高くなり、スリット70から研磨槽40内へのエアの吐出圧が高くなるので、スリット70の詰まりを効果的に防止することができる。
【0044】
圧送装置74は、研磨槽40の外部に設けた給気空間75と、給気空間75にエアを圧送するエア圧送源21とを備えている。給気空間75は、ディスク60に回転力を伝達する筒状の回転軸17の給気孔18と、回転軸17を包囲する環状空間71とを含んでいる。給気孔18はエア圧送源21に接続されている。環状空間71とスリット70とが全周に亘って連通している。この構成によれば、スリット70の全周に亘ってエアを均一に研磨槽40内へ吐出することができる。
【0045】
スリット70は、研磨槽40をディスク60の回転中心軸38と平行な上下方向に貫通するように形成されている。ドラム41は、筒状部材42とリング状部材50とを組み付けて構成されている。筒状部材42は、スリット70に対して回転中心軸38の軸線方向(上方)に離隔した位置に配置されている。リング状部材50は、スリット70を構成する部材である。
【0046】
ディスク60に対するリング状部材50の径方向の位置は、調整装置77によって調整することが可能である。調整装置77を設けたことによって、スリット70の径方向の幅寸法を全周に亘って均一に設定することができる。スリット70の幅を調整する際には、ドラム41全体を移動させるのではなく、リング状部材50のみを移動させれば済むので、作業性が良い。リング状部材50のうちスリット70に臨む面が摩耗したときには、リング状部材50のみを交換すればよく、ドラム41全体を交換せずに済む。
【0047】
<他の実施例>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施例に限定されるものではなく、例えば次のような実施例も本発明の技術的範囲に含まれる。
研磨槽におけるスリットの貫通方向は、ディスクの回転中心軸と交差する径方向(水平方向や、水平方向に対して傾斜した方向)としてもよい。
スリットの幅寸法は、研磨槽の内部側(スリットの上端)から外部側(スリットの下端)に至る全領域に亘って一定の寸法であってもよい。
エア圧送源が、環状空間の外周縁部や、環状空間のうち回転軸に対して径方向に偏心した位置に接続されていてもよい。
ドラムは、筒状部材とリング状部材とに分離できない一体型のものでもよい。
ドラムは、回転せずに固定されていてもよい。
ドラムに流動促進面を設けない構成としてもよい。
ディスクの上面に、複数の平面部を鈍角状に連ねた回転促進面を形成してもよい。
スリットの内面(ドラム本体の内周面とディスク本体の外周面)にウレタンライニングが形成されていなくてもよい。
【符号の説明】
【0048】
A…バレル研磨装置
15…駆動機構
14…集塵装置
17…回転軸
18…給気孔
21…エア圧送源
40…研磨槽
41…ドラム
42…筒状部材
50…リング状部材
55…内向き対向面
60…ディスク
69…外向き対向面
70…スリット
71…環状空間
74…圧送装置
75…給気空間
77…調整装置