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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114246
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】状態推定装置、及び状態推定方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 99/00 20110101AFI20240816BHJP
   G01H 17/00 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
G01M99/00 Z
G01H17/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023019892
(22)【出願日】2023-02-13
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100149401
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 浩史
(72)【発明者】
【氏名】矢田 洋平
(72)【発明者】
【氏名】山田 拓久
(72)【発明者】
【氏名】山下 仁崇
(72)【発明者】
【氏名】東 智明
(72)【発明者】
【氏名】大澤 淳司
(72)【発明者】
【氏名】黒田 訓行
(72)【発明者】
【氏名】早瀬 匠
(72)【発明者】
【氏名】安江 俊彦
【テーマコード(参考)】
2G024
2G064
【Fターム(参考)】
2G024AD01
2G024BA11
2G024CA13
2G024FA04
2G024FA06
2G024FA11
2G064AA11
2G064AB01
2G064AB02
2G064AB13
2G064BA02
2G064BD02
2G064CC41
2G064CC42
2G064DD02
(57)【要約】
【課題】 検査対象機器の発生音に基づいて当該機器の状態を適切に推定できる状態推定装置、及び状態推定方法を提供する。
【解決手段】 本発明の状態推定装置は、基準時点における検査対象機器の発生音を録音して得られる第1録音データを、取得する第1取得部と、基準時点より後の検査時点における検査対象機器の発生音を録音して得られる第2録音データを、取得する第2取得部と、第1録音データ及び第2録音データを解析する解析部と、第1録音データ及び第2録音データの解析結果に基づいて、検査時点における検査対象機器の状態を推定する推定部と、を備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準時点における検査対象機器の発生音を録音して得られる第1録音データを、取得する第1取得部と、
前記基準時点より後の検査時点における前記検査対象機器の発生音を録音して得られる第2録音データを、取得する第2取得部と、
前記第1録音データ及び前記第2録音データを解析する解析部と、
前記第1録音データ及び前記第2録音データの解析結果に基づいて、前記検査時点における前記検査対象機器の状態を推定する推定部と、
を備える状態推定装置。
【請求項2】
前記解析部は、前記第1録音データ及び前記第2録音データを解析することにより、前記発生音の特徴について、前記基準時点から前記検査時点までの間における変化度合いを特定し、
前記推定部は、前記変化度合いに基づいて、前記検査時点における前記検査対象機器の状態を推定する、請求項1に記載の状態推定装置。
【請求項3】
前記推定部は、前記検査時点における前記検査対象機器の状態として、前記検査時点において前記検査対象機器が異常状態である可能性を推定する、請求項2に記載の状態推定装置。
【請求項4】
前記推定部は、前記変化度合いが入力されることで前記可能性を出力する推定モデルを用いて、前記可能性を推定し、
前記推定モデルは、機械学習によって構築される、請求項3に記載の状態推定装置。
【請求項5】
前記検査対象機器に対する次回の検査について推奨実施時期をユーザに対して通知する通知部を備え、
前記通知部は、前記可能性に応じた前記推奨実施時期を通知する、請求項3に記載の状態推定装置。
【請求項6】
前記検査対象機器の発生音の録音を支援する支援情報を、ユーザに対して提示する提示部を備え、
前記支援情報は、前記検査対象機器の画像に基づいて生成され、前記検査対象機器に関連付けて記憶装置に記憶されている、請求項1に記載の状態推定装置。
【請求項7】
前記提示部は、前記ユーザが前記検査対象機器の発生音の録音に使用する録音機能付き機器に備わる表示画面に、前記支援情報を表示させる、請求項6に記載の状態推定装置。
【請求項8】
前記支援情報は、前記録音機能付き機器と前記検査対象機器との間隔、及び、前記検査対象機器に対する前記録音機能付き機器の向きのうち、少なくとも一方を調整するための情報を含む、請求項7に記載の状態推定装置。
【請求項9】
前記録音機能付き機器にカメラが搭載されている場合において、前記支援情報は、前記カメラにより撮影されるライブビュー画像が前記表示画面に表示されている間に、前記ライブビュー画像に重畳させて表示される枠状のオブジェクトであり、
前記表示画面における前記枠状のオブジェクトの形状及びサイズは、前記検査対象機器に応じて決められており、前記表示画面に表示されている間には変化せずに維持される、請求項8に記載の状態推定装置。
【請求項10】
前記第2取得部は、今回の検査時点を含む複数の前記検査時点の各々において、前記第2録音データを取得し、
前記解析部は、前記第1録音データ、及び、複数の前記検査時点の各々の前記第2録音データを解析することにより、前記発生音の特徴について、前記基準時点から前記今回の検査時点までの経時変化を特定し、
前記推定部は、前記経時変化に基づいて、前記今回の検査時点における前記検査対象機器の状態を推定する、請求項1に記載の状態推定装置。
【請求項11】
プロセッサが、
基準時点における検査対象機器の発生音を録音して得られる第1録音データを、取得する処理と、
前記基準時点より後の検査時点における前記検査対象機器の発生音を録音して得られる第2録音データを、取得する処理と、
前記第1録音データ及び前記第2録音データを解析する処理と、
前記第1録音データ及び前記第2録音データの解析結果に基づいて、前記検査時点における前記検査対象機器の状態を推定する処理と、
を実行する状態推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査対象機器の状態を推定する状態推定装置、及び状態推定方法に係り、特に、検査対象機器の発生音に基づいて当該機器の状態を推定する状態推定装置、及び状態推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
機器の発生音を録音し、その録音データを解析して当該機器の状態、例えば異常状態であるか否かを判定することは、機器状態の検査や診断等で既に行われている。例えば、特許文献1には、電動機の所定箇所の音を収音し、収音した音に基づいて電動機の状態を判定し、その判定結果に基づいて電動機の異常を診断する診断プログラムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-144038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、機器の検査は、一般的に定期的に実施されるが、検査の実施間隔が長くなってしまうと、機器の状態の変化に気付きにくい。また、例えば、前回の検査から長期間が経過した時点で検査を行った場合、その時点では、その機器の劣化や変状が相当進行している虞がある。そのため、機器の検査は、極力頻繁に実施するのが望ましい。
【0005】
また、機器の発生音に基づく従来の検査では、機器の発生音を適切に録音するための技能(スキル)、及び発生音から機器の状態を推定するための専門知識等を必要としていたため、専門業者に機器検査を依頼することが多かった。ただし、専門業者に機器検査を頻繁に依頼することは、人手の確保やコスト等の観点から、一般的に難しい。
【0006】
そこで、本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、検査対象機器の発生音に基づいて当該機器の状態を適切に推定できる状態推定装置、及び状態推定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題は、本発明の状態推定装置によれば、基準時点における検査対象機器の発生音を録音して得られる第1録音データを、取得する第1取得部と、基準時点より後の検査時点における検査対象機器の発生音を録音して得られる第2録音データを、取得する第2取得部と、第1録音データ及び第2録音データを解析する解析部と、第1録音データ及び第2録音データの解析結果に基づいて、検査時点における検査対象機器の状態を推定する推定部と、を備えることにより解決される。
上記のように構成された本発明の状態推定装置によれば、基準時点及び検査時点の各時点における検査対象機器の発生音の録音データに基づいて、検査時点における当該機器の状態を適切に推定することができる。
【0008】
また、上記の状態推定装置において、解析部は、第1録音データ及び第2録音データを解析することにより、発生音の特徴について、基準時点から検査時点までの間における変化度合いを特定してもよい。この場合、推定部は、変化度合いに基づいて、検査時点における検査対象機器の状態を推定すると、好適である。
上記の構成によれば、基準時点及び検査時点の各時点における検査対象機器の発生音の録音データから、発生音の特徴の変化度合いを特定し、その変化度合いに基づいて、検査対象機器の状態を適切に推定することが可能となる。
【0009】
また、上記の状態推定装置において、推定部は、検査時点における検査対象機器の状態として、検査時点において検査対象機器が異常状態である可能性を推定してもよい。
上記の構成によれば、検査対象機器の状態として、当該機器が異常状態である可能性を把握することができる。
【0010】
また、上記の状態推定装置において、推定部は、変化度合いが入力されることで可能性を出力する推定モデルを用いて、上記の可能性を推定してもよい。この場合、推定モデルは、機械学習によって構築されるとよい。
上記の構成であれば、機械学習によって構築された推定モデルを用いて、検査対象機器が異常状態である可能性を精度よく推定することができる。
【0011】
また、上記の状態推定装置において、検査対象機器に対する次回の検査について推奨実施時期をユーザに対して通知する通知部を備えてもよい。この場合、通知部は、上記の可能性に応じた推奨実施時期を通知するとよい。
上記の構成であれば、検査対象機器に対する次回の点検について、ユーザは、適切な実施時期を知ることができる。
【0012】
また、上記の状態推定装置において、検査対象機器の発生音の録音を支援する支援情報を、ユーザに対して提示する提示部を備えてもよい。この場合、支援情報は、検査対象機器の画像に基づいて生成され、検査対象機器に関連付けて記憶装置に記憶されているとよい。
上記の構成によれば、検査対象機器の発生音の録音を、専門的な知識がなくとも適切に行うことができる。
【0013】
また、上記の状態推定装置において、提示部は、ユーザが検査対象機器の発生音の録音に使用する録音機能付き機器に備わる表示画面に、支援情報を表示させるとよい。
上記の構成によれば、ユーザが発生音の録音時に支援情報を容易に確認することができる。
【0014】
また、上記の状態推定装置において、支援情報は、録音機能付き機器と検査対象機器との間隔、及び、検査対象機器に対する録音機能付き機器の向きのうち、少なくとも一方を調整するための情報を含んでいると好適である。
上記の構成によれば、ユーザは、発生音の録音に際して、録音機能付き機器の位置や向きを、当該発生音の録音に適した位置や向きに容易に調整することができる。
【0015】
また、上記の状態推定装置において、第2取得部は、今回の検査時点を含む複数の検査時点の各々において、第2録音データを取得してもよい。また、解析部は、第1録音データ、及び、複数の検査時点の各々の第2録音データを解析することにより、発生音の特徴について、基準時点から今回の検査時点までの経時変化を特定してもよい。この場合、推定部は、上記の経時変化に基づいて、今回の検査時点における検査対象機器の状態を推定すると好適である。
上記の構成によれば、発生音の特徴について特定される、基準時点から今回の検査時点までの経時変化(変化傾向)に基づいて、検査対象機器の状態を適切に推定することが可能となる。
【0016】
また、上記の状態推定装置において、録音機能付き機器にカメラが搭載されている場合において、支援情報は、カメラにより撮影されるライブビュー画像が表示画面に表示されている間に、ライブビュー画像に重畳させて表示される枠状のオブジェクトであってもよい。この場合、表示画面における枠状のオブジェクトの形状及びサイズは、検査対象機器に応じて決められており、表示画面に表示されている間には変化せずに維持されるとよい。
上記の構成によれば、支援情報である枠状のオブジェクトがライブビュー画像に重畳させて表示されることにより、ユーザは、そのオブジェクトを目印として、録音機能付き機器の位置や向きをより容易に調整することができる。
【0017】
また、前述した課題は、本発明の状態推定方法により解決される。本発明の状態推定方法では、プロセッサが、基準時点における検査対象機器の発生音を録音して得られる第1録音データを、取得する処理と、基準時点より後の検査時点における検査対象機器の発生音を録音して得られる第2録音データを、取得する処理と、第1録音データ及び第2録音データを解析する処理と、第1録音データ及び第2録音データの解析結果に基づいて、検査時点における検査対象機器の状態を推定する処理と、を実行する。
本発明の状態推定方法によれば、検査対象機器の発生音を定期的に録音し、その録音データを用いて、各検査時点における当該機器の状態を適切に推定することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
検査対象機器の発生音を定期的に録音し、その録音データを用いて、各検査時点における当該機器の状態を適切に推定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】機器検査の基本フローを示す図である。
図2】本発明の一つの実施形態に係る状態推定装置を含む機器検査用システムの構成を示す図である。
図3】本発明の一つの実施形態に係る状態推定装置の機能についての説明図である。
図4】録音ガイダンスの一例を示す図である(その1)。
図5】録音ガイダンスの一例を示す図である(その2)。
図6】録音ガイダンスを利用する手順を示す図である。
図7】検査対象機器の状態の推定結果が出力された画面の一例を示す図であり、状態が正常である場合の図である。
図8】検査対象機器の状態の推定結果が出力された画面の一例を示す図であり、状態が劣化傾向にある場合の図である。
図9】検査対象機器の状態の推定結果が出力された画面の一例を示す図であり、状態が異常である可能性が高い場合の図である。
図10】機器検査フローの手順を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一つの実施形態(以下、本実施形態)について、添付の図面を参照しながら説明する。本実施形態は、検査対象機器の発生音に基づいて当該機器の状態を推定する技術に関するものであり、より詳しくは、当該機器の異常の有無を診断する検査(機器検査)の技術に関する。
【0021】
なお、本明細書において、「装置」という概念には、特定の機能を一台で発揮する単一の装置が含まれるとともに、分散してそれぞれが独立して存在しつつも協働(連携)して特定の機能を発揮する複数の装置の組み合わせも含まれることとする。
【0022】
また、本実施形態の内容を実現するための基礎的なデータ処理技術(通信/伝送技術、データ取得技術、データ記録技術、データ加工/解析技術、画像処理技術、及び可視化技術等)は、公知の技術であるため、それに関する説明については省略することとする。
【0023】
<<本実施形態に係る機器検査の概要>>
先ず、本実施形態に係る機器検査(以下、単に機器検査という)について、図1を参照しながら説明する。図1は、機器検査についての説明図である。
機器検査は、図1に示すように住宅H内で利用される機器を対象として実施される。検査対象機器は、住宅に設置された機器のうち、音を発生させながら作動するものであり、例えば、トイレ、キッチン、換気扇、食洗器、浴室乾燥機、給湯器、電気温水器、自家発電機、及び、その他の一般的な電気機器(具体的には、冷蔵庫及びエアコン等)等が挙げられる。
【0024】
機器検査では、本発明の状態推定装置及び状態推定方法を利用することで、検査対象機器の発生音から当該機器の状態を推定し、詳しくは、当該機器の状態が異常状態である可能性(確率)を推定する。機器検査の大まかな流れについて説明すると、ユーザが、住宅内の機器から検査対象機器を指定し、その機器の発生音を録音する。機器の発生音は、機器が作動したときに機器から発生する音であり、例えば、機器がトイレである場合には排水音が発生音に該当する。
【0025】
そして、ユーザが本発明の状態推定装置(換言すると、本発明の状態推定方法)を利用することで、検査対象機器の発生音の録音データに基づいて、当該機器の状態が推定される。ここで、「ユーザ」とは、本発明の状態推定装置/状態推定方法を利用して機器検査を実施する者であり、具体的には、検査対象機器が設置された住宅の居住者、あるいは住宅のオーナー等である。
【0026】
本実施形態において、住宅内の各機器を対象とする機器検査は、定期的に実施され、各回の実施時期は、前回の検査結果に応じて決定される。具体的に説明すると、今回の検査で検査対象機器の状態が正常である(異常状態である可能性が低い)と診断された場合、同機器に対する次回の機器検査は、通常の時期、例えば、今回の検査時点から所定の期間が経過した時点で実施される。反対に、今回の検査で検査対象機器の状態が異常である可能性が高いと診断された場合、同機器に対する次回の機器検査は、通常よりも早い時期に実施され、つまり、今回の検査時点から次回の検査までの期間が通常よりも短くなる。
【0027】
以上のように、本実施形態では、ユーザにより検査対象機器の発生音が録音され、その録音データに基づいて当該機器の状態が推定され、詳しくは、当該機器の状態が正常、異常又は劣化傾向のいずれであるかを診断する。つまり、本実施形態の機器検査は、ユーザによる点検(セルフモニタリング)であり、専門業者に依頼することなく、ユーザが自ら実施することができる。これにより、ユーザは、検査対象機器について定期的な機器検査、すなわち定点観察を実施することができる。
【0028】
なお、住宅内における検査対象機器の数は、1台でもよく、あるいは2台以上でもよい。また、住宅内における検査対象機器の種類の数は、1種類でもよく、あるいは複数種類でもよい。以下では、説明を分かり易くする理由から、住宅H内の検査対象機器が1台で、種類が1種類である場合を想定して説明することとする。
【0029】
本実施形態において、検査対象機器の発生音の録音データに基づいて当該機器の状態を推定する手法について説明すると、基準時点における検査対象機器の発生音が予め録音されており、その録音データ(以下、第1録音データ)が取得されている。基準時点とは、検査対象機器が設置された住宅の竣工時点でもよく、あるいは、検査対象機器の工場出荷時点、あるいは、検査対象機器が過去に修理されたことがある場合には、その修理の完了時点でもよい。
なお、基準時点における検査対象機器の発生音の録音は、住宅の居住者やオーナーによって行われてもよく、あるいはそれ以外の者(例えば、住宅の提供会社等)によって行われてもよい。
【0030】
また、基準時点より後の時期においては、上述した通り、機器検査が定期的に実施され、各回の機器検査の実施時点(すなわち、検査時点)において検査対象機器の発生音が録音され、その録音データ(以下、第2録音データ)が取得される。第2録音データは、機器検査毎に取得され、すなわち各検査時点において取得される。
なお、一回の機器検査における発生音の録音回数、換言すると、録音データの取得数については、特に限定されず、例えば、一回の機器検査で検査対象機器を複数回作動させ、それぞれの発生音を録音して複数の録音データ(第2録音データ)を取得してもよい。一回の機器検査における録音データの取得回数(すなわち、録音回数)は、検査対象機器の種類等に応じて最適な回数に設定されるのが好ましい。
【0031】
取得された第1録音データ及び第2録音データは、所定の解析手法(例えば、周波数分析及び時刻歴分析等)によって解析され、その解析結果として、検査対象機器の発生音の特徴について、基準時点から検査時点までの間における変化度合いが特定される。発生音の特徴とは、発生音を特徴づける音の指標値又は音響的特性(性質)であり、例えば、ピーク周波数の音圧、音量(音圧)の時間変化、又は周波数スペクトル等である。また、特徴の変化度合いとは、例えば、特徴を示す値について、基準時点と検査時点との差分(厳密には、差分の絶対値)である。
【0032】
そして、特定された特徴の変化度合い(すなわち、第1録音データ及び第2録音データの解析結果)に基づいて、検査時点における検査対象機器の状態が推定され、詳しくは、検査時点において検査対象機器の状態が異常状態である可能性(確率)が推定される。本実施形態では、変化度合いが入力されることで上記の可能性を出力する推定モデルを用い、検査時点において検査対象機器が異常状態である可能性を推定する。
【0033】
推定モデルは、所謂AI(Artificial Intelligence)であり、機械学習によって構築される。機械学習に用いられる学習データは、検査対象機器について過去に取得した録音データと、その録音時点での検査対象機器の状態を示すラベルデータとを組み合わせたデータセットでもよい。あるいは、検査対象機器と同種の機器(以下、同種機器)について取得した録音データと、その録音時点における同種機器の状態を示すラベルデータとを組み合わせたデータセットを、上記の学習データとして利用してもよい。同種機器は、検査対象機器と同じ住宅内に設置されている機器でもよく、検査対象機器が設置された住宅とは異なる建物に設置されている機器でもよい。録音時点での検査対象機器の状態は、例えば、録音された発生音を聞いた検査員が検査対象機器の状態を診断することで特定してもよい。あるいは、検査対象機器の発生音を録音したユーザが、ユーザ端末12に備わる対話機能を利用して検査員と対話し、その対話内容から検査員が検査対象機器の状態を特定してもよい。
【0034】
以上の要領で推定された検査対象機器の状態、つまり、当該機器が異常状態である可能性は、例えば、ユーザが利用するユーザ端末のディスプレイに文字情報又は画像情報として表示され、あるいは、ユーザ端末のスピーカから音声として出力される。ユーザは、出力された検査対象機器の状態を確認し、必要に応じて、機器の状態に応じた措置を講じる。例えば、検査対象機器の状態が異常である可能性が高い場合、ユーザは、専門業者等に連絡して検査対象機器の精密検査又は修理等を依頼する。
なお、検査対象機器の状態の推定結果をユーザ端末にて出力する場合、チャット機能のような対話機能を利用して、検査対象機器の製造メーカの担当者、住宅の提供会社の担当者、あるいは専門の検査員と対話することができてもよい。また、検査対象機器の状態の推定結果と合わせて、関連情報(例えば、検査対象機器が劣化傾向である場合には、最適な対策に関するアドバイス情報)を出力してもよい。
【0035】
<<機器検査用システムの構成について>>
次に、ユーザが上述の機器検査を実施する際に利用される機器検査用システムSについて、図2を参照しながら説明する。
機器検査用システムSは、図2に示すように、状態推定装置10と、データベースサーバ11と、ユーザが利用するユーザ端末12とによって構成される。なお、図2では、ユーザ端末12の台数が1台となっているが、実際には、ユーザの人数に応じた台数のユーザ端末12が存在する。
【0036】
状態推定装置10は、コンピュータからなり、例えば、パーソナルコンピュータ(PC)、ワークステーション又はサーバコンピュータ等によって構成される。状態推定装置10は、1台のコンピュータによって構成されてもよく、あるいは並列分散された複数台のコンピュータによって構成されてもよい。また、状態推定装置10を構成するコンピュータがサーバコンピュータである場合、ASP(Application Service Provider)、SaaS(Software as a Service)、PaaS(Platform as a Service)又はIaaS(Infrastructure as a Service)用のサーバコンピュータであってもよい。この場合、クライアント端末にて必要な情報を入力すると、上記のサーバコンピュータが入力情報に基づいて各種の処理(演算)を実施し、その演算結果がクライアント端末側で出力される。つまり、状態推定装置10であるサーバコンピュータの機能をクライアント端末側で利用することができる。
【0037】
状態推定装置10を構成するコンピュータは、図2に示すように、プロセッサ21、メモリ22、ストレージ23、通信用インタフェース24、入力装置25及び出力装置26を有する。
【0038】
プロセッサ21は、例えばCPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro-Processing Unit)、MCU(Micro Controller Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、TPU(Tensor Processing Unit)又はASIC(Application Specific Integrated Circuit)等によって構成される。
メモリ22は、例えばROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等の半導体メモリによって構成される。
【0039】
ストレージ23は、例えば、フラッシュメモリ、HDD(Hard Disc Drive)、SSD(Solid State Drive)、FD(Flexible Disc)、MOディスク(Magneto-Optical disc)、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)、SDカード(Secure Digital card)、又はUSBメモリ(Universal Serial Bus memory)等によって構成される。なお、ストレージ23は、状態推定装置10を構成するコンピュータ本体内に内蔵されてもよく、外付け形式でコンピュータ本体に取り付けてもよい。
【0040】
通信用インタフェース24は、例えばネットワークインターフェースカード、又は通信インタフェースボード等によって構成されるとよい。状態推定装置10を構成するコンピュータは、通信用インタフェース24を介して、インターネット又はモバイル通信回線等に接続された他の機器とデータ通信することが可能である。
【0041】
入力装置25は、例えばキーボード、マウス又はタッチパネル等によって構成される。
出力装置26は、例えばディスプレイ及びスピーカ等によって構成される。
【0042】
また、状態推定装置10を構成するコンピュータには、ソフトウェアとして、オペレーティングシステム(OS)用のプログラム、及び、機器検査用のプログラムがインストールされている。これらのプログラムがプロセッサ21によって読み出されて実行されることで、状態推定装置10を構成するコンピュータが、状態推定装置10としての機能を発揮し、具体的には、機器検査に係る一連のデータ処理を実行する。
【0043】
データベースサーバ11は、記憶装置に相当し、例えば状態推定装置10を利用したサービスの運営会社、具体的には住宅の提供会社等によって用意されたクラウド型のサーバであり、機器検査に必要な各種データを蓄積する。状態推定装置10は、ネットワークNを通じてデータベースサーバ11と通信可能に接続されており、データベースサーバ11に蓄積されたデータを自由に読み出すことができる。
【0044】
データベースサーバ11に蓄積されるデータには、ユーザに関するデータ、及び、これまでに行われてきた機器検査に関するデータ等が含まれる。機器検査に関するデータは、機器検査を実施するユーザと関連付けられて機器毎に記憶される。機器検査に関するデータは、機器検査の実施日、検査対象となった機器の種別及び仕様(具体的には型式、製造年月日及びサイズ等)、並びに、住宅における機器の設置場所を含む。
【0045】
また、データベースサーバ11には、基準時点において検査対象機器の発生音を録音して得られた第1録音データが機器毎に記憶されている。さらに、データベースサーバ11には、各回の機器検査(すなわち、各検査時点)において検査対象機器の発生音を録音して得られた第2録音データが機器毎に記憶されている。さらにまた、データベースサーバ11には、第1録音データ及び第2録音データに基づいて推定された各検査時点における検査対象機器の状態のデータ(以下、推定状態データ)が、機器毎に記憶されている。
【0046】
データベースサーバ11において、第1録音データ、第2録音データ及び推定状態データは、これらのデータが取得された機器検査、及び、その検査において検査対象機器とされた機器と関連付けて記憶されている。また、検査対象機器の第2録音データ及び推定状態データは、機器検査が実施される度に、データベースサーバ11に新たに記憶される。これにより、データベースサーバ11における第2録音データ及び推定状態データの蓄積量が徐々に増えていく。
【0047】
データベースサーバ11に記憶されている各種のデータは、データベースサーバ11にアクセスすることで読み出し可能である。そのため、ユーザ端末12がデータベースサーバ11から第1録音データ又は第2録音データを読み出すことができ、また、その録音データが示す発生音をユーザ端末12にて再生することができる。これにより、ユーザは、例えば、基準時点における検査対象機器の発生音、あるいは直近の機器検査における検査対象機器の発生音を、ユーザ端末12を通じて聞くことができる。
【0048】
なお、データベースサーバ11には、上述のデータ以外のデータが記憶されてもよく、例えば、過去の機器の不具合事例、及び、ユーザによる機器の修理等の申し出に関する事例等が蓄積されてもよい。また、本実施形態において、データベースサーバ11には、後述の録音ガイダンスが検査対象機器と関連付けて機器毎に記憶されている。録音ガイダンスを検査対象機器と関連付けて記憶するとは、例えば、機器毎に生成された録音ガイダンスを、それぞれの検査対象機器に割り当てられた記憶領域に記憶することである。
【0049】
ユーザ端末12は、ユーザによって利用される情報処理端末であり、スマートフォン、携帯電話、タブレット端末、ラップトップ型のパソコン、又はウェアラブル端末等によって構成される。ユーザ端末12は、ディスプレイからなる表示器、マイクからなる録音機器、及びカメラからなる撮影機器を備える。また、ユーザ端末12は、ネットワークNを通じて状態推定装置10と通信可能であり、表示器が構成する表示画面には、例えば、状態推定装置10から送信される情報を表示することができる。
【0050】
ユーザ端末12には、機器検査用のアプリケーションプログラム(以下、検査用アプリ)がインストールされている。ユーザ端末12において検査用アプリを起動することにより、ユーザは、住宅において検査対象機器を指定して機器検査を実施することができる。つまり、ユーザ端末12は、機器検査においてユーザが検査対象機器の発生音の録音に使用する録音機能付き機器に該当する。ユーザは、検査用アプリを起動した状態でユーザ端末12を操作して、検査対象機器の発生音を録音し、その録音データ(第2録音データ)を状態推定装置10に送信することができる。また、ユーザは、検査対象機器の発生音の録音に際して、検査用アプリを通じて録音ガイダンスを確認することができる。録音ガイダンスについては、後に詳述する。
【0051】
なお、検査対象機器の発生音の録音は、例えば、ユーザがユーザ端末12において録音ボタンをクリックする等の操作を行った際に、その操作を契機として実施されてもよい。あるいは、検査用アプリの機能によって検査対象機器の発生音を検知し、発生音を検知した場合には、検知された発生音の録音をユーザ端末12が自動的に行ってもよい。この場合、ユーザ端末12は、公知の技術を利用し、発生音の検知時点に遡って発生音を録音するとよい。
【0052】
また、一回の機器検査において、検査対象機器の発生音の録音は、一回のみ行われてもよく、あるいは、複数回行われてもよい。一回の機器検査において複数回の録音を行った場合、第2録音データには、複数回分の発生音の録音データが含まれてもよい。
【0053】
また、第2録音データは、ユーザ端末12からネットワークNを通じてデータベースサーバ11に直接送信されてもよいし、ユーザ端末12からホームサーバ(不図示)に送られてホームサーバに一時的に記憶された後、ホームサーバからデータベースサーバ11に送信されてもよい。ホームサーバは、ユーザの住宅Hに設置されており、住宅H内に構築された宅内ネットワークを通じて、ユーザ端末12を含む住宅内の通信機器と通信し、当該機器との間でデータの送受信を行う装置(ホームゲートウェイ)である。
【0054】
第2録音データの送信後、状態推定装置10によって検査対象機器の状態が推定され、その推定結果がユーザ端末12の表示画面に表示される。これにより、ユーザは、今回の検査時点、すなわち、現時点における検査対象機器の状態を確認することができる。
【0055】
<<本実施形態に係る状態推定装置の機能について>>
次に、本実施形態に係る状態推定装置10の構成について機能面から改めて説明する。状態推定装置10は、図3に示すように、設定部31、第1取得部32、第2取得部33、提示部34、解析部35、推定部36、出力部37、及び通知部38を有する。これらの機能部は、状態推定装置10を構成するコンピュータが備えるハードウェア機器と、そのコンピュータに搭載されたプログラム(すなわち、ソフトウェア)との協働によって実現される。
以下、それぞれの機能部について説明する。
【0056】
(設定部)
設定部31は、機器検査に際してユーザが行う指定操作を受け付ける。指定操作は、例えば、ユーザが、ユーザ端末12にて検査用アプリを起動した場合に表示される機器リストの中から検査対象機器を指定する操作である。指定操作が行われると、その操作内容を示すデータがユーザ端末12によって生成され、状態推定装置10に向けて送信される。設定部31は、上記のデータを受信することで指定操作を受け付け、指定操作にて指定された機器を検査対象として設定する。指定操作では、住宅Hにおける検査対象機器の設置場所と、その場所に配置された機器と、を選択して検査対象機器を指定してもよい。
なお、指定操作は、上記の操作に限定されず、例えば、ユーザ端末12のカメラによって検査対象機器の画像を撮影し、その撮影画像を状態推定装置10に向けて送信する操作であってもよい。この場合、設定部31は、送信されてきた撮影画像を解析することで、当該画像に写った機器を特定し、その機器を検査対象機器として設定するとよい。
【0057】
(第1取得部)
第1取得部32は、第1録音データを取得する。第1録音データは、過去の時点である基準時点において検査対象機器の発生音を予め録音して得られる。例えば、住宅の提供会社が住宅の竣工時点で録音して得た第1録音データが、住宅の提供会社が利用する端末(不図示)によってデータベースサーバ11に記憶される。このとき、第1録音データは、録音された発生音の音源である検査対象機器、及び録音日時(すなわち、基準時点)と関連付けられて記憶される。第1取得部32は、データベース11に記憶された第1録音データのうち、設定部31により設定された検査対象機器の第1録音データを読み出して、その第1録音データを取得する。
なお、第1録音データの取得方法及び同データの取得元については、特に限定されない。
【0058】
(第2取得部)
第2取得部33は、第2録音データを取得する。第2録音データは、機器検査の実施時点、すなわち検査時点において検査対象機器の発生音を録音して得られ、具体的には、機器検査においてユーザがユーザ端末12を操作して検査対象機器の発生音を録音して得られる。第2取得部33は、ユーザ端末12から送られてくる第2録音データを、ネットワークNを通じて取得する。また、本実施形態では、一つの検査対象機器について定期的に機器検査が実施され、第2取得部33は、各回の機器検査が実施されて検査対象機器の発生音が録音される度に第2録音データを取得する。つまり、第2取得部33は、複数の検査時点のそれぞれにおいて、第2録音データを取得する。
第2取得部33により取得された第2録音データは、録音された発生音の音源である検査対象機器、及び録音日時(すなわち、検査時点)と関連付けられてデータベースサーバ11に記憶される。
【0059】
(提示部)
提示部34は、機器検査においてユーザが検査対象機器の発生音を録音する際に、録音ガイダンスをユーザに対して提示する。具体的には、提示部34は、設定部31により設定された検査対象機器と対応する録音ガイダンスを、データベースサーバ11から読み出し、その録音ガイダンスをユーザに対して提示する。ユーザに録音ガイダンスを提示する方法は、ユーザ端末12の表示画面に録音ガイダンスを表示させる方法でもよいし、あるいは、録音ガイダンスの内容を表す音声をユーザ端末12のスピーカから発する方法でもよい。
【0060】
録音ガイダンスは、検査対象機器の発生音の録音を支援する支援情報であり、具体的には、ユーザが正しく発生音を録音するための条件に関する情報である。本実施形態において、録音ガイダンスは、検査対象機器毎に用意されている。より詳しく説明すると、複数の録音ガイダンスがデータベースサーバ11に記憶されており、それぞれの録音ガイダンスは、ユーザ毎に登録された検査対象機器と関連付けられて記憶されている。
なお、録音ガイダンスは、データベースサーバ11ではなく、状態推定装置10のストレージ23において検査対象機器と関連付けられて機器毎に記憶されてもよい。
【0061】
本実施形態に係る録音ガイダンスは、録音時におけるユーザ端末12と検査対象機器との間隔、及び、検査対象機器に対するユーザ端末12の向き(例えば、検査対象機器の所定部位に対向する面)を調整するための情報を含む。図4及び5を参照しながらより説明すると、録音ガイダンスは、ユーザ端末12の表示画面に表示されるオブジェクト(図形オブジェクト)であり、検査対象機器の所定部位を縁取った枠状のオブジェクトであり、以下、フレームFと呼ぶこととする。図4及び5に示すように、例えば検査対象機器がトイレである場合、フレームFは、便座を囲む枠線からなるオブジェクトに相当する。
【0062】
フレームFは、ユーザがユーザ端末12のカメラを起動してライブビュー画像(撮影画角を決める際に表示される画像であり、所謂スルー画像)を撮影し、そのライブビュー画像がユーザ端末12の表示画面に表示されている間に、ライブビュー画像に重畳させて表示される。表示画面におけるフレームFの形状及びサイズは、フレームFと関連付けられる検査対象機器の所定部位に応じて決められる。
【0063】
フレームFの形状及びサイズは、図4及び5から分かるように、フレームFが表示画面に表示されている間には変化せずに維持される。これにより、ユーザは、発生音の録音開始前に、フレームFとライブビュー画像が表示された画面を見ながら、検査対象機器の所定部位の外縁がフレームFと一致するようにユーザ端末12の位置及び姿勢を調整する。これにより、ユーザ端末12と検査対象機器との間隔、及び、検査対象機器に対するユーザ端末12の向きが、検査対象機器の発生音を録音するのに適した条件に調整される。
なお、検査対象機器の所定部位の外縁がフレームFと一致した時点で、フレームFの表示態様(例えば、表示色又は点滅の有無等)が切り替わってもよい。この場合、ユーザは、検査対象機器の所定部位の外縁がフレームFと一致したのを容易に把握することができる。
【0064】
また、録音ガイダンスは、図5に示すように、発生音の録音に関する指示(案内)の情報をさらに含んでいる。例えば、検査対象機器がトイレである場合、検査対象機器の所定部位の外縁とフレームFが一致した際に、「小の流水で連続3回録音して下さい。」という指示を含む録音ガイダンスが表示される。その後、録音の準備が整った時点でユーザがユーザ端末12を操作する(例えば、画面中の録音ボタンをタッチする)と、各回の発生音(流水音)の録音がユーザ端末12の検査用アプリによって行われる。
【0065】
録音ガイダンスは、前述したように、検査対象機器毎に生成され、各機器の録音ガイダンスは、例えば、その機器を検査対象として行われる初回の機器検査にて生成される。その手順について図6を参照しながら説明すると、初回の機器検査において、ユーザは、検査対象機器の一般名称(例えば、トイレ)を指定するとともに、ユーザ端末12のカメラによって検査対象機器の画像を撮影し、その撮影画像を状態推定装置10に向けて送信する。状態推定装置10の提示部34は、指定された検査対象機器の一般名称から、その名称と対応する機器の録音ガイダンスを、データベースサーバ11から読み出してユーザに提示する。
【0066】
ユーザは、提示された録音ガイダンスを利用してユーザ端末12の位置を調整する。このとき、録音ガイダンスとして表示されるフレームFと検査対象機器の所定部位の外縁とは、大まかに一致すればよい。例えば、フレームFが検査対象機器の所定部位の外縁と完全に一致しない場合には、フレームFの中心と、検査対象機器の所定部位の中央位置とを一致させばよい。その後、ユーザは、検査対象機器の発生音を録音し、その録音データ(第2録音データ)がユーザ端末12から状態推定装置10に向けて送信される。
【0067】
また、初回の機器検査において、ユーザは、その検査における検査対象機器の名称及び住宅Hでの設置場所等を登録する。状態推定装置10は、登録された検査対象機器について、初回の機器検査の中で受信した撮影画像を認識し、その機器の種別、形状、サイズ及び仕様等を特定する。また、特定された情報に基づいて、状態推定装置10は、初回の機器検査にて提示された録音ガイダンスを更新し、具体的には、フレームFの形状及びサイズを登録された検査対象機器に合わせて最適化する。更新された録音ガイダンスは、登録された検査対象機器用の録音ガイダンスとしてデータベースサーバ11に記憶される。
【0068】
以上のように、ある機器の発生音を録音する場合に利用される録音ガイダンスは、その機器を対象とする初回の機器検査において、当該機器(検査対象機器)の撮影画像に基づいて更新(最適化)される。そして、登録された検査対象機器に対して行われる2回目以降の機器検査では、図6に示すように、当該機器を含む機器リストがユーザ端末12の表示画面に表示される。ユーザは、機器リストにおいて、検査対象機器の名称及び住宅での設置場所を指定する。これにより、ユーザは、検査対象機器をより簡便に指定することができる。一方で、提示部34は、指定された検査対象機器の名称及び設置場所に基づいて、データベースサーバ11に記憶されている録音ガイダンスのうち、指定された検査対象機器と対応する録音ガイダンスを読み出し、ユーザに提示する。
なお、2回目以降の機器検査において検査対象機器を設定する際に、ユーザが検査対象機器の名称及び設置場所を指定する代わりに、ユーザ端末12のカメラによって検査対象機器を撮影し、その撮影画像を認識することで検査対象機器を設定してもよい。
【0069】
(解析部)
解析部35は、第1録音データ及び第2録音データを解析する。また、解析部35は、第1録音データ及び第2録音データを解析することで、検査対象機器の発生音の特徴について、基準時点から検査時点までの間における変化度合い、すなわち基準時点からの変化量を特定する。それぞれの録音データを解析する方法については、発生音の特徴を特定可能な方法であればよく、公知の解析方法を利用することができる。
【0070】
また、本実施形態では、各機器検査にて第2録音データが新たに取得される度に、解析部35が、新たな第2録音データと第1録音データとを解析し、その検査時点での発生音の特徴と、基準時点から検査時点までの間における特徴の変化度合い(変化量)を特定する。
【0071】
(推定部)
推定部36は、第1録音データ及び第2録音データの解析結果に基づいて、検査時点における検査対象機器の状態を推定する。本実施形態において、推定部36は、解析部35により特定された特徴の変化度合いに基づいて、検査時点における検査対象機器の状態として、当該検査時点において検査対象機器が異常状態である可能性(確率)を推定する。このとき、推定部36は、前述した推定モデルを用いて、上記の可能性を推定する。
なお、推定モデルを構築する機械学習の手法及びアルゴリズムについては、特に限定されないが、例えば、ニューラルネットワーク、畳み込みニューラルネットワーク、リカレントニューラルネットワーク、アテンション、トランスフォーマー、敵対的生成ネットワーク、ディープラーニングニューラルネットワーク、ボルツマンマシン、マトリクス・ファクトーリゼーション、ファクトーリゼーション・マシーン、エムウエイ・ファクトーリゼーション・マシーン、フィールド認識型ファクトーリゼーション・マシーン、フィールド認識型ニューラル・ファクトーリゼーション・マシーン、サポートベクタマシン、ベイジアンネットワーク、決定木、及びランダムフォレスト等が利用可能である。
【0072】
また、機器検査の実施回数が増えることで、録音データ(第2録音データ)、及び検査時点での検査対象機器の状態を示すデータをより多く取得することができる。このことを踏まえて、定期的に、又は不定期に機械学習を繰り返して推定モデルを更新(再構築)し、当該推定モデルを用いた状態推定の精度を向上させるとよい。
【0073】
なお、本実施形態において、推定部36は、検査時点において検査対象機器が異常状態である可能性(確率)を推定するが、これに限定されず、検査対象機器の状態が正常、異常又は劣化傾向のいずれであるかを判定してもよい。
【0074】
(出力部)
出力部37は、推定部36によって推定された検査対象機器の状態、詳しくは、検査対象機器が異常状態である可能性(確率)を、ユーザに対して出力する。推定結果の出力方法については、特に限定されないが、本実施形態において、出力部39は、ユーザ端末12を制御し、図7~9に示すように、検査対象機器が異常状態である可能性をユーザ端末12の表示画面に表示させる。この際、出力部37は、ユーザ端末12に備わるチャット機能等を利用して対話形式で出力してもよい。
【0075】
また、出力部39は、検査対象機器の状態が異常又は劣化傾向である場合、検査対象機器の状態を出力するとともに、各状態に適した改善策(対策)に関する情報等をさらに出力してもよい。改善策に関する情報は、それぞれの検査対象機器について、状態毎に用意されて状態推定装置10又はデータベースサーバ11に記憶しておくとよい。そして、出力部39が、記憶された改善策に関する情報のうち、推定部36によって推定された検査対象機器の状態に応じて選定された情報を出力するとよい。
【0076】
また、図7~9に示す検査対象機器の状態の表示画面には、発生音の再生ボタン(図中、「竣工時点」及び「今回」と表記されたボタン)が設けられている。ユーザが再生ボタンを押すと、基準時点又は検査時点(今回の機器検査の実施時点)における検査対象機器の発生音がユーザ端末12にて再生され、ユーザは、再生された発生音を聞くことができる。より詳しく説明すると、ユーザが上記の再生ボタンを押すと、その操作内容を示すデータがユーザ端末12から状態推定装置10に向けて送信される。出力部39は、受信したデータに基づいて、検査対象機器の第1録音データ又は第2録音データをデータベースサーバ11から読み出し、読み出した録音データが示す発生音の再生用データを生成して、ユーザ端末12に向けて送信する。
【0077】
また、出力部39は、推定された検査対象機器の状態を、ユーザ以外の者、例えば住宅の提供会社等に通知してもよい。これにより、検査対象機器の状態が異常状態に遷移していた場合、住宅の提供会社又は専門業者等は、その状態の変化を把握し、機器の異常に対して迅速に対応(フォロー)することができる。
【0078】
(通知部)
通知部38は、検査対象機器に対する次回の検査について推奨実施時期をユーザに対して通知する。本実施形態において、通知部38は、推定部36によって推定された検査対象機器の状態が異常である可能性に応じた推奨実施時期を通知する。具体的には、例えば、検査対象機器の状態が異常である可能性と、推奨実施時期(具体的には、次回の機器検査までの期間)との対応関係がテーブルデータとして規定されている。通知部38は、当該テーブルデータを参照して、推定された可能性に応じた推奨実施時期を設定し、設定された推奨実施時期をユーザに通知する。
【0079】
なお、ユーザへの推奨実施時期の通知方法については、特に限定されないが、例えば、図7及び8に示すように、検査対象機器の状態の表示画面にて、推奨実施時期を表示することでユーザに通知してもよい。
【0080】
<<本実施形態に係る機器検査フローについて>>
次に、上述した状態推定装置10を用いたデータ処理フローである機器検査フローについて説明する。本実施形態に係る機器検査フローは、本発明の状態推定方法を採用しており、図10に示す流れに沿って進行する。つまり、図10に図示のフロー中の各ステップは、本発明の状態推定方法を構成する各要素に該当する。
なお、図10に示す機器検査フローは、あくまでも一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において不要なステップを削除したり、新たなステップを追加したり、ステップの実施順序を入れ替えてもよい。
【0081】
機器検査フローの各ステップでは、状態推定装置10を構成するコンピュータのプロセッサ21が、各ステップと対応する処理を実行する。また、機器検査フローの前段階において、基準時点における検査対象機器の発生音の録音データである第1録音データがデータベースサーバ11に記憶されている。基準時点は、例えば、検査対象機器が設置された住宅の完成時点(竣工時点)である。
【0082】
機器検査フローに際し、ユーザは、ユーザ端末12を操作して検査用アプリを起動し、検査対象機器を指定する。この際、ユーザは、ユーザ端末12の画面に表示された機器リストの中からいずれかの機器を選んで、検査対象機器を指定する。指定結果のデータが状態推定装置10に向けて送信されると、プロセッサ21が、当該データを受信し、これをトリガーとして機器検査フローを開始する。機器検査フローでは、先ず、プロセッサ21が上記のデータを解析して、検査対象機器を設定する(S001)。
【0083】
次に、プロセッサ21は、データベースサーバ11にアクセスし、ステップS001で設定された検査対象機器と対応する第1録音データを読み出し、その第1録音データを取得する(S002)。なお、このステップS002は、後述する第2録音データを取得するステップS004と同じタイミングで実施されてもよいし、ステップS004の後に実施されてもよい。
【0084】
その後、ユーザは、ユーザ端末12のカメラにより検査対象機器のライブビュー画像を撮影する。ライブビュー画像は、撮影中、ユーザ端末12の表示画面に表示される。この間、プロセッサ21は、ユーザ端末12を制御し、ステップS001で設定された検査対象機器に応じた録音ガイダンスを、ユーザ端末12の表示画面に表示してユーザに対して提示する(S003)。
【0085】
録音ガイダンスは、前述したように、ユーザ端末12と検査対象機器との間隔、及び、検査対象機器に対するユーザ端末12の向きを調整するための図形オブジェクトであるフレームFを含む(図4及び5参照)。フレームFは、ユーザ端末12の表示画面に表示されているライブビュー画像に重畳させて表示される。ユーザは、フレームFとライブビュー画像が表示された画面を見ながら、検査対象機器の所定部位の外縁がフレームFと一致するようにユーザ端末12の位置及び姿勢を調整する。
【0086】
そして、ユーザは、検査対象機器の所定部位の外縁がフレームFと一致した時点で、検査対象機器を作動させ、その発生音を録音する。これにより、ユーザ端末12は、発生音(詳しくは、検査時点の発生音)の録音データである第2録音データを生成し、その第2録音データを状態推定装置10に向けて送信する。プロセッサ21は、ユーザ端末12から送られてくる第2録音データを受信して取得する(S004)。取得された第2録音データは、データベースサーバ11において検査対象機器と関連付けて記憶される。このとき、データベースサーバ11に予め機器毎に設けられたデータフォルダのうち、検査対象機器のフォルダに、ステップS004にて取得された第2録音データが自動的に振り分けられてもよい。
【0087】
次に、プロセッサ21は、ステップS002にて取得された第1録音データと、ステップS004にて取得された第2録音データとを解析する(S005)。本ステップS005では、プロセッサ21が、基準時点及び検査時点のそれぞれにおける検査対象機器の発生音の特徴を特定した上で、当該特徴について、基準時点から検査時点までの変化度合いを特定する。
【0088】
その後、プロセッサ21は、ステップS005での解析結果に基づいて、検査時点における検査対象機器の状態を推定する(S006)。具体的には、ステップS005にて特定された特徴の変化度合いに基づいて、検査時点における検査対象機器の状態として、当該検査時点において検査対象機器が異常状態である可能性(確率)を推定する。このとき、プロセッサ21は、前述した推定モデルを用いて上記の可能性を推定する。推定モデルは、機器検査フローの前段階で実施される機械学習によって予め構築されている。
【0089】
ステップS006の終了後、プロセッサ21は、ユーザ端末12を制御して、ステップS006での推定結果をユーザ端末12にて出力し、具体的には、図7~9に示すように、推定された検査対象機器の状態をユーザ端末12の表示画面に表示させる(S007)。ユーザは、表示画面に表示された推定結果を見て、現時点での検査対象機器の状態が正常、異常、又は劣化傾向のいずれであるかを把握することができる。
【0090】
また、ステップS006で推定された検査対象機器の状態は、検査対象機器及び検査時点と対応付けてデータベースサーバ11に保存される(S008)。また、検査対象機器の状態が異常である可能性が高い(具体的には、閾値以上である)場合、プロセッサ21は、ステップS006での推定結果を住宅の提供会社及び専門業者等に通知してもよい。
【0091】
また、プロセッサ21は、ステップS006において推定された検査対象機器の状態(詳しくは、異常状態である可能性)に応じて、同じ検査対象機器に対する次回の機器検査の推奨実施時期を設定する(S009)。例えば、検査対象機器の状態が劣化傾向である場合には、次回の機器検査の推奨実施時期を通常(検査対象機器の状態が正常である場合)よりも早い時期に設定する。
【0092】
その後、プロセッサ21は、ユーザ端末12を制御して、ステップS009にて設定された次回の機器検査の推奨実施時期を、ユーザ端末12の表示画面に表示してユーザに通知する(S010)。ユーザは、通知された推奨実施時期を参考にして、次回の機器検査の実施時期を検討することができる。
【0093】
以上までの一連のステップが終了した時点で、検査対象機器について、一回分の機器検査フローが終了する。また、本実施形態において、検査対象機器の検査は、定期的に行われることになっており、検査が行われる度に、上述の手順により機器検査フローが繰り返し実施される。
【0094】
<<本実施形態の有効性について>>
本実施形態の状態推定装置10及び状態推定方法を用いることにより、検査対象機器の発生音を定期的に録音し、その録音データを用いて、各時点での検査対象機器の状態を適切に推定することができる。
【0095】
より詳しく説明すると、住宅等の建物にて利用される機器に異常が発生すると、修復に時間及び費用が掛かるため、定期的に機器検査を行って機器の異常の兆候を検知し、異常の発生を未然に防ぐ必要がある。また、機器の状態を診断又は判定する方法としては、従来から機器の発生音を用いる方法が知られており、機器の発生音から当該機器の状態を判定することがある。ただし、機器の発生音の変化から当該機器の状態を判定するためには、一般的に専門的な知識や技能(スキル)を必要とし、あるいはセンサ等の機器を設置して日々のデータを収集する必要がある。
【0096】
しかし、専門の検査員に機器検査を依頼する場合には、頻繁に来訪してもらうことは一般的に難しく、検査の実施頻度(検査周期)に限界がある。また、センサ等の機器を設置する場合には、機器の導入コストが掛かってしまう。また、ある時点で検査対象機器の発生音を録音し、その録音データに基づいて機器の状態を推定する場合、その時点の録音データだけでは正確に機器の状態を推定することが困難であり、例えば、機器が異常状態である場合の録音データ等が必要となる。一方、実際の住宅では、機器に異常が発生した場合には、その機器の修理が優先されるため、異常時の機器の発生音を録音することは現実的に難しい。
【0097】
これに対して、本実施形態では、検査対象機器の発生音を基準時点で予め録音しておき、その後の検査時点では、ユーザがユーザ端末12のマイク等を利用して同機器の発生音を録音する。そして、基準時点及び検査時点のそれぞれにおける録音データを解析し、その解析結果に基づいて検査対象機器の状態を推定する。具体的には、検査対象機器の発生音の特徴について、基準時点から検査時点までの変化度合いを特定し、その変化度合いに基づいて、当該機器が異常である可能性を推定する。これにより、ユーザは、検査時点における検査対象機器の状態、詳しくは異常状態である可能性(確率)をより容易に把握することができる。この結果、ユーザは、検査対象機器の発生音の録音データに基づく検査をユーザ自らによって定期的に実施する、つまり、セルフモニタリングを実施することができる。
【0098】
そして、ユーザが定期的に機器検査を繰り返すことにより、検査対象機器の状態の変化、具体的には、例えば住宅の竣工時点からの劣化又は変状の傾向を特定することができる。これにより、検査対象機器の状態が異常となる兆候を適切に把握することができる。つまり、本実施形態では、各検査時点における検査対象機器の状態の良否を単に判定するのではなく、基準時点からの状態の変化を推定し、その変化傾向、より詳しくは劣化や変状の進行度合い、及び進行速度等を把握することができる。
【0099】
詳しく説明すると、検査対象機器の発生音の録音データから特定される発生音の特徴が基準値(閾値)以上であるか否かを判定することで検査対象機器の状態を推定する場面を想定する。かかるケースでは、機器周辺の環境音等の影響により、検査対象機器が正常状態であるにもかかわらず、録音データから特定される発生音の特徴が通常時の特徴とは異なる可能性があり得る。その場合、発生音の特徴からは検査対象機器の状態を適切に推定できない虞がある。これに対して、本実施形態では、検査対象機器の状態について基準時点からの変化を推定することができるため、上述した不具合を回避することができる。これにより、ユーザは、検査対象機器の劣化又は変状の兆候を把握し、機器に異常が発生する前に適切な対策を講じることができる。この結果、検査対象機器の修繕費用を、当該機器に異常が発生した場合に掛かる費用に比べて抑えることができる。
【0100】
また、本実施形態では、検査対象機器の状態の推定結果、具体的には、検査対象機器が異常状態である可能性に応じて、その機器に対する次回の機器検査について推奨実施時期が設定される。そして、設定された推奨実施時期は、ユーザに対して通知される。これにより、ユーザは、検査対象機器についての次回の機器検査を適切な時期に実施することができる。より具体的に説明すると、例えば、検査対象機器の状態が劣化傾向にある場合、当該機器についての次回の機器検査を、通常の場合よりも早い時期に実施すれば、検査対象機器が異常状態になる前段階で、その兆候に気付くことができ、また、その時点での機器の状態に応じて適切な措置を講じることができる。
【0101】
また、本実施形態では、検査対象機器の発生音の録音時には、支援情報としての録音ガイダンスがユーザに対して提示される。これにより、ユーザは、専門的な知識がなくとも、検査対象機器の発生音を適切に録音することができる。また、検査対象機器の発生音を録音する際、録音に使用する機器(すなわち、ユーザ端末12)と検査対象機器との距離や両機器の位置関係に応じて、録音内容(例えば、音量等)が変わり得る。この点を考慮して、本実施形態では録音ガイダンスを提示し、これにより、ユーザは、録音ガイダンス中の指示等に従ってユーザ端末12の位置等を調整することができ、結果として、統一された条件で検査対象機器の発生音を適切に録音することができる。
【0102】
また、録音ガイダンスには、検査対象機器の所定部位に応じた枠状のオブジェクトであるフレームFが含まれ、ユーザ端末12の表示画面に検査対象機器のライブビュー画像が表示されている間にフレームFが重畳的に表示される。ユーザは、検査対象機器の所定部位の外縁がフレームFと一致するようにユーザ端末12の位置及び姿勢を調整する。これにより、ユーザ端末12と検査対象機器との間隔、及び、検査対象機器に対するユーザ端末12の向きが、検査対象機器の発生音を録音するのに適した条件となるように調整される。以上のように録音ガイダンスとしてのフレームFが表示されることで、録音時におけるユーザ端末12の位置や向きを容易に調整することができる。
【0103】
また、本実施形態では、過去の機器検査において録音された録音データと、その検査結果(すなわち、検査時点での機器の状態)を示すデータとをデータベースサーバ11に蓄積する。また、データベースサーバ11に蓄積された上記のデータを学習データとして用いて機械学習を実施し、これにより、検査対象機器の状態を推定する数理モデルである推定モデルが構築される。そして、それ以降の機器検査では、当該推定モデルを用いて検査対象機器の状態を推定する。具体的には、検査対象機器の発生音の特徴の、基準時点から検査時点までの変化度合いを、上記の推定モデルに入力することで、検査対象機器の状態が異常である可能性(確率)が出力される。このように本実施形態では、過去の録音データを用いて機械学習を実施し、その学習結果である推定モデルを利用することにより、検査対象機器の状態を精度よく推定することができる。
【0104】
また、各検査時点における検査対象機器の発生音の録音データ(第2録音データ)、及び、各検査時点における検査対象機器の状態を示すデータの収集を継続することにより、データベースサーバ11への蓄積量が増える。これに伴って、機械学習を再実施して上記の推定モデルを更新すれば、検査対象機器の状態の変化を推定する精度がより向上する。これにより、実験室等で専門的な分析を要さずに、検査対象機器の状態をより一層精度よく推定することができる。
【0105】
<<本発明の第2実施形態について>>
上述した実施形態では、基準時点での録音データ(第1録音データ)と、今回の検査時点での録音データ(第2録音データ)とを解析し、検査対象機器の発生音の特徴について、基準時点から検査時点までの変化度合いを特定することとした。そして、上述した実施形態では、特定された発生音の特徴の変化度合いに基づいて、検査対象機器の状態を推定することとした。すなわち、上述した実施形態は、基準時点と今回の検査時点との間の、発生音の特徴の違い(変化度合い)から、検査対象機器の状態を推定する形態である。
ただし、これに限定されるものではなく、他の実施形態も考えられ、以下、その実施形態(第2実施形態)について説明する。なお、以下では、第2実施形態について、上述した実施形態と異なる構成を中心に説明し、上述した実施形態と共通する構成については説明を省略することとする。
【0106】
第2実施形態では、機器検査が定期的に実施され、第2取得部33は、機器検査毎に第2録音データを取得する。換言すると、第2実施形態において新たに機器検査(つまり、今回の機器検査)が実施された場合、第2取得部33は、今回の検査時点を含む複数の検査時点の各々において、第2録音データを取得することになる。また、解析部35は、今回の機器検査において、基準時点における第1録音データ、及び、今回の検査時点を含む複数の検査時点の各々の第2録音データを解析する。これにより、検査対象機器の発生音の特徴についての経時変化が特定される。発生音の特徴についての経時変化は、基準時点から今回の検査時点までの各時点における発生音の特徴、すなわち、その特徴の時間経過に伴う変化を表しており、例えば、基準時点から今回の検査時点までの発生音の特徴の変動傾向を示すグラフ等である。
【0107】
そして、第2実施形態では、推定部36が、解析部35によって特定された経時変化に基づいて、今回の検査時点における検査対象機器の状態を推定する。具体的には、直近の変化度合い(例えば、グラフの傾き)が、過去の変化度合いと同程度である場合、今回の検査時点における検査対象機器の状態は、正常である、あるいは、経年劣化しているものの進行具合が比較的緩やかであると推定される。他方、直近の変化度合いが過去の変化度合いと比べて著しく変化し、例えば急激に増加した場合、今回の検査時点における検査対象機器の状態は、異常又は劣化傾向である可能性が高いと推定される。また、経時変化の全体を通じて、発生音の特徴が徐々に変化しており、且つ基準レベルを超えている場合、今回の検査時点における検査対象機器の状態は、劣化が進行した状態にあると推定される。
【0108】
以上のように、第2実施形態では、基準時点、及び、今回の検査時点を含む複数の検査時点の各々における検査対象機器の発生音の特徴、より詳しくは、当該特徴の経時変化から、検査対象機器の状態を推定する。つまり、発生音の特徴の変動傾向からも、検査対象機器の状態(現状)を適切に診断することができる。
【0109】
<<その他の実施形態について>>
以上までに、本発明の状態推定装置、及び状態推定方法に関する一つの実施形態を説明したが、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするための一例に過ぎず、本発明を限定するものではない。すなわち、本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得る。また、本発明には、その等価物が含まれることは勿論である。
【0110】
上記の実施形態では、各機器検査における検査対象機器の発生音の録音者が、その機器が設置された住宅の利用者、具体的には、住宅の居住者又はオーナー等であることとした。ただし、これに限定されず、例えば、検査対象機器が設置された住宅の提供会社等、又は専門業者等の検査員が当該機器の発生音を録音してもよい。
【0111】
上記の実施形態において、一つの住宅において検査対象機器として設定できる機器は、2台以上存在してもよい。その場合、検査対象機器の発生音を録音する際にユーザに対して提示される録音ガイダンスは、検査対象機器毎に生成されるとよい。また、検査対象機器の状態を推定するための推定モデルについても、検査対象機器別に構築されるとよい。
【0112】
上記の実施形態では、検査対象機器がユーザの指定操作に基づいて設定されることとしたが、これに限定されず、例えば、住宅の提供会社等が所定の選定ルールに従って選定した機器を検査対象機器として設定してもよい。この場合、選定された検査対象機器は、検査用アプリを通じてユーザに通知されるとよい。
【0113】
また、上記の実施形態では、ユーザの指定操作に基づいて検査対象機器が設定された後に、設定された検査対象機器の発生音を録音することとした。ただし、これに限定されず、例えば、発生音の録音データ(第2録音データ)を解析し、その解析結果に基づいて検査対象機器が決められてもよい。具体的には、第2録音データに収録された音がトイレの排水音である場合、トイレが検査対象機器として設定されてもよい。
【0114】
上記の実施形態では、検査対象機器の各時点における発生音の録音データ、すなわち第1録音データ及び第2録音データが蓄積された記憶装置が、状態推定装置10とは別機器であるデータベースサーバ11によって構成されていることとした。ただし、これに限定されず、上記の記憶装置が状態推定装置10に備えられてもよく、具体的には、状態推定装置10のストレージ23に第1録音データ及び第2録音データが蓄積されてもよい。
【0115】
また、上記の実施形態では、状態推定装置10を構成するコンピュータが、ユーザ端末12から送られてくるデータを取得し、そのデータを用いて状態推定装置10としての機能を発揮することとした。ただし、これに限定されず、状態推定装置10の機能の一部がユーザ端末12に備わってもよい。あるいは、ユーザ端末12が本発明の状態推定装置を構成し、状態推定装置としての機能すべてを発揮することができてもよい。
【符号の説明】
【0116】
10 状態推定装置
11 データベースサーバ(記憶装置)
12 ユーザ端末
21 プロセッサ
22 メモリ
23 ストレージ
24 通信用インタフェース
25 入力装置
26 出力装置
31 設定部
32 第1取得部
33 第2取得部
34 提示部
35 解析部
36 推定部
37 出力部
38 通知部
F フレーム(枠状のオブジェクト)
N ネットワーク
S 機器検査用システム
図1
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