(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114276
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】内燃機関のオイルパン
(51)【国際特許分類】
F01M 11/00 20060101AFI20240816BHJP
【FI】
F01M11/00 N
F01M11/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023019941
(22)【出願日】2023-02-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】若松 美菜
【テーマコード(参考)】
3G015
【Fターム(参考)】
3G015BB11
3G015BH00
3G015CA07
3G015DA02
3G015DA05
3G015EA04
(57)【要約】
【課題】よりシンプルでより軽量な構造にて、オイルパンに発生する膜振動を効果的に低減することができる、内燃機関のオイルパンを提供する。
【解決手段】内燃機関のオイルパン30であって、凹設されたオイル貯留部34と、オイル貯留部34内に一端が設置されるパイプ36と、オイルパン30に発生する膜振動(膜振動領域M1、M2)の腹となる腹部に設けられてオイルパン30内でパイプ36を保持するパイプ保持部37と、を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のオイルパンであって、
凹設されたオイル貯留部と、
前記オイル貯留部内に一端が設置されるパイプと、
前記オイルパンに発生する膜振動の腹となる腹部に設けられて前記オイルパン内で前記パイプを保持するパイプ保持部と、
を有する、
内燃機関のオイルパン。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関のオイルパンであって、
前記パイプ保持部は、前記膜振動の腹の中心または腹の中心近傍となる前記腹部の中心領域に設けられる、
内燃機関のオイルパン。
【請求項3】
請求項1または2に記載の内燃機関のオイルパンであって、
前記腹部には、前記パイプ保持部が設けられている位置を通るようにリブが設けられている、
内燃機関のオイルパン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のオイルパンに関する。
【背景技術】
【0002】
車両等に搭載される一般的な内燃機関は、シリンダヘッドとシリンダブロック(クランクケースを含む)を有しており、シリンダブロックの下(内燃機関の最下部)にはオイルパンが設けられている。オイルパンは、凹設されたオイル貯留部を最深部とする薄肉の深皿状に形成されてオイル貯留部にはオイルが溜められている。オイル貯蔵部に溜められたオイルは、ろ過機であるストレーナとパイプを介してオイルポンプにて汲み上げられ、内燃機関の種々の個所の潤滑や冷却に使用され、またオイルパンに戻される。
【0003】
近年では、燃費向上等を目的とする内燃機関の軽量化が進められており、オイルパンの肉厚がさらに薄肉化される傾向にある。剛性の観点からすれば問題ない肉厚であっても、オイルパンの底面は比較的大きな面積を有しているので、運転状態の内燃機関の振動などにより、オイルパンの底面に膜振動が発生する場合がある。オイルパンの底面に膜振動が発生した場合、不快な騒音が発生する場合があり、当該膜振動の低減が望まれている。
【0004】
例えば特許文献1には、オイルパンの側面の1つである前壁に大きなブロック部を一体成形し、当該ブロック部にオイル吸込み口を形成して大きなストレーナを不要にして、オイル吸込み機構をコンパクト化した内燃機関が開示されている。当該オイルパンは、前記ブロック部等によって剛性が向上されているので、振動や騒音の抑制効果がある。
【0005】
また特許文献2には、シリンダブロックの下面にオイルポンプを固定し、シリンダブロックの下に、オイルポンプを覆うようにオイルパンを設け、オイルパン底面から下ボス部を立設させ、オイルポンプと下ボス部を接触させた内燃機関が開示されている。この構成により、オイルパンに立設された下ボス部をオイルポンプで押さえつけてオイルパンの底面の振動抑制効果を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2022-123463号公報
【特許文献2】特開2019-027380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の内燃機関では、大きなかたまりのブロック部をオイルパンの前壁と一体成形しているので、オイルパンの重量が大きく増加してしまう点で好ましくない。またブロック部は、オイルパンの前壁の近傍の底面と一体化されているが、オイルパンの底面には、まだ広い面積が残されており、ブロック部が設けられていない個所のオイルパンの底面で膜振動が発生する可能性がある。
【0008】
また特許文献2に記載の内燃機関では、オイルポンプと下ボス部とを接触させるために構造がやや複雑になり、オイルポンプの形状や、オイルパンの形状と下ボス部を立設する位置などに制限が発生して自由な形状に設計できない点で好ましくない。また、立設した下ボス部とは異なる個所のオイルパンの底面で膜振動が発生する可能性がある。
【0009】
本発明は、このような点に鑑みて創案されたものであり、よりシンプルでより軽量な構造にて、オイルパンに発生する膜振動を効果的に低減することができる、内燃機関のオイルパンを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、第1の発明は、内燃機関のオイルパンであって、凹設されたオイル貯留部と、前記オイル貯留部内に一端が設置されるパイプと、前記オイルパンに発生する膜振動の腹となる腹部に設けられて前記オイルパン内で前記パイプを保持するパイプ保持部と、を有する、内燃機関のオイルパンである。
【0011】
次に、第2の発明は、上記第1の発明に係る内燃機関のオイルパンであって、前記パイプ保持部は、前記膜振動の腹の中心または腹の中心近傍となる前記腹部の中心領域に設けられる、内燃機関のオイルパンである。
【0012】
次に、第3の発明は、上記第1の発明または第2の発明に係る内燃機関のオイルパンであって、前記腹部には、前記パイプ保持部が設けられている位置を通るようにリブが設けられている、内燃機関のオイルパンである。
【発明の効果】
【0013】
第1の発明によれば、オイルパンに発生する膜振動の腹部に、パイプを保持するパイプ保持部を設けることで、膜振動の腹部の質量を増量(パイプ保持部の質量+パイプの質量+オイルの質量を増量)する。これにより、よりシンプルな構成にて、オイルパンに発生する膜振動を的確かつ効果的に低減することができる。また従来のオイルパンと比較して、パイプ保持部の位置をより適切な位置に変更しているが、新たな部材を追加しているわけではないので、オイルパンの質量は、ほぼ増えない。なおオイルパンに発生する膜振動の位置や大きさは、コンピュータを用いた固有値計算等のシミュレーションや、実際のオイルパンを用いた実験等によって、求めることができる。
【0014】
第2の発明によれば、オイルパンに発生する膜振動の振幅をより効果的に低減することができる。またオイルパンの質量は、ほぼ増えない。
【0015】
第3の発明によれば、オイルパンに発生する膜振動を、さらに効果的に低減することができる。またオイルパンに設けるリブは、最低限の必要個所のみであり、オイルパンの質量が増えたとしてもリブの分だけで済む。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】内燃機関の概略構成と、内燃機関におけるオイルパンの位置を説明する図である。
【
図6】オイル保持部の外観の例を示す斜視図である。
【
図7】オイルパンを上から見た図であり、オイル保持部を通るようにリブを設けた例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の内燃機関1のオイルパン30について、図面を用いて説明する。なお、図中にX軸、Y軸、Z軸が記載されている場合、X軸とY軸とZ軸は互いに直交しており、Z軸方向は鉛直上方へ向かう方向を示し、X軸方向とY軸方向は水平方向を示している。
【0018】
<内燃機関1の概略構成(
図1)と、オイルパン30の構造(
図1~
図6)>
内燃機関1は、
図1に示すように、シリンダヘッド10とシリンダブロック20(クランクケースを含む)を備えており、シリンダブロック20の下にはオイルパン30が取り付けられている。なお図示省略するが、シリンダブロック20内には、オイルパン30に貯留されているオイルを汲み上げるオイルポンプが設けられている。
【0019】
オイルパン30は、シリンダヘッド10やシリンダブロック20よりも低い位置に配置され、内燃機関1の最下部に配置されている。
図3に示すように、オイルパン30は、オイルを溜めるように凹設されたオイル貯留部34と、オイル貯留部34内に一端が設置されるパイプ36と、オイルパン30内でパイプ36を保持するパイプ保持部37等を有している。オイル貯留部34は、オイルパン30における最も低い位置とされており、オイルが溜められている。
【0020】
パイプ36の一端は、ストレーナ35(ろ過機)に接続されて当該ストレーナ35とともにオイル貯留部34に溜められたオイルA内に沈められている(浸けられている)。パイプ36の他端は、図示省略したオイルポンプに接続されている。オイル貯留部34に溜められているオイルAは、ストレーナ35及びパイプ36を介してオイルポンプに汲み上げられ、内燃機関の種々の個所の潤滑や冷却に使用されて、またオイルパン30へと戻される。なおパイプ36の材質は、例えば金属である。
【0021】
オイルパン30は、シリンダブロック20に固定されるフランジ部31と、前後左右の側面32a、32b、32c、32dと、底面33とを有し、底面33の一部にオイル貯留部34が形成されている。
【0022】
パイプ保持部37は、
図5及び
図6に示すように、ベース部37aと、ブラケット37bと、締結部37c等を有している。ベース部37aは、
図5に示すように、オイルパン30の底面33に固定されるブロック形状の部材である。ブラケット37bは、
図5及び
図6に示すように、パイプ36の外周面を覆ってパイプ36を保持してベース部37aに固定される板状の弾性体の部材である。締結部37cは、
図5及び
図6に示すように、ブラケット37bをベース部37aに固定する部材であり、例えばボルトである。なおベース部37a、ブラケット37b、締結部37cの材質は、例えば金属である。
【0023】
オイルパン30は、例えば金属で形成されて、近年では軽量化のために薄肉化が進められている。剛性の観点から見れば充分な剛性を有する薄肉であっても、オイルパン30の底面33は比較的面積が大きいので、内燃機関1の振動等によってオイルパン30の種々の個所に膜振動が発生する可能性がある。本実施の形態では、以下の手順(1)~手順(4)にて、オイルパン30に固定するパイプ保持部37の位置を適切な位置とすることで、よりシンプルで、より軽量な構造にて、オイルパン30に発生する膜振動を効果的に低減する。
【0024】
<手順(1):オイルパン30に発生する膜振動の位置と振幅を求める>
まず手順(1)では、オイルパン30の底面33におけるパイプ保持部37の位置を決める前に、オイルパン30(パイプ保持部37を取り付けていない状態のオイルパン30)に発生する膜振動の位置及び振幅を、以下のようにして求める。膜振動の発生する位置と振幅を求める例として、下記に(方法1)と(方法2)を挙げたが、別の方法を用いてもよい。
【0025】
(方法1)コンピュータを用いた固有値計算などのシミュレーションにて、オイルパン30の材質や形状を入力して、算出されたオイルパンの各個所の「変位」の大きさを確認する。変位の発生した個所が膜振動の発生する個所であり、変位の大きさが膜振動の振幅である。
【0026】
(方法2)実際にオイルパン30を作成して、振動試験等の実験にて膜振動の発生個所と膜振動の振幅を実際に計測する。
【0027】
<手順(2):対処するべき振幅の大きな膜振動の腹の中心位置を求める>
例えば、上記の(方法1)を用いて膜振動の発生個所と振幅を求める。求められた膜振動の個所は、1個所とは限らず複数個所の場合もある。振幅が小さな膜振動については特に対処する必要は無いので、振幅が所定振幅よりも大きな膜振動を抽出する。そして、所定振幅よりも大きな振幅の膜振動の発生領域と、当該膜振動の腹となる腹部の中心位置を求める。膜振動の腹部の中心位置は、その膜振動の領域内において最も大きな振幅となる位置(最も大きな変位となる位置)である。
【0028】
図2~
図4の例では、所定振幅よりも大きな振幅を有する膜振動が、膜振動領域M1、膜振動領域M2の2個所である例を示している。そして
図2~
図4の例は、膜振動領域M1内において最も大きな振幅となる腹部の中心位置はM1cであり、膜振動領域M2内において最も大きな振幅となる腹部の中心位置はM2cである例を示している。
【0029】
<手順(3):パイプ保持部37の取付位置を決める>
対処するべき膜振動領域の腹部の中心位置がわかれば、当該腹部の中心位置をパイプ保持部37の取付位置とすればよい。しかし
図3に示すように、オイルパン30の底面33は、種々の湾曲部等を有している場合があり、求めた膜振動領域の腹部の中心位置が、パイプ保持部37を固定しにくい場所である場合がある。パイプ保持部37の取付位置としては、膜振動領域の腹部の中心位置であることが、膜振動の低減に対して最も効果的であるが、腹部の中心近傍となる中心領域であってもよい。このような場合では、腹部の中心近傍の中心領域内において、できるだけ腹部の中心に近い位置で、かつ、パイプ保持部37を取り付けやすい位置、とすればよい。
【0030】
<手順(4):取付位置にパイプ保持部37を固定してパイプ36を保持する>
パイプ保持部37の取付位置を決めた後は、当該取付位置にパイプ保持部37を取り付ける。取付方法としては、オイルパン30とベース部37aの材質が金属または樹脂の場合、かつ、オイルパン30とベース部37aが別体で構成されている場合では、溶接や溶着等の接合にて固定する。なおダイカスト成形でオイルパン30を製造する場合、パイプ保持部37の取付位置を決めた後、オイルパン30とベース部37aが一体成形品となるように設計してもよい。
【0031】
そして、
図2及び
図3に示すように、パイプ36の一端にストレーナ35(ろ過機)を取り付け、当該ストレーナ35とパイプ36の一端をオイル貯留部34に設置してオイルA内に沈め、パイプ保持部37を通るようにパイプ36を変形させてパイプ保持部37に取り付ける。そしてパイプ36の他端を、図示省略したオイルポンプに接続する。
【0032】
なおオイルパン30へのパイプ保持部37の取付位置を決めた後、当該取付位置にパイプ保持部37を取り付け、さらにパイプ36を取り付けた状態にて再度、上記の固有値計算などのシミュレーションを行って、膜振動が低減される効果を確認することもできる。
【0033】
<オイルパンのその他の構造(
図7)>
また
図7に、その他の構造のオイルパン30aの例を示す。
図7の例に示すオイルパン30aは、
図2に示すオイルパン30に対して、オイルパンの底面33と側面32a、32b、32c、32dに、リブ41x、42x、41y、42yが追加されている点が異なる。なおリブ41x、42x、41y、42yを、オイルパンの底面33のみに設けるようにしてもよい。
【0034】
図7に示すように、X軸方向に沿って設けられたリブ41x、Y軸方向に沿って設けられたリブ41yは、膜振動領域M1の腹部の中心位置M1cの近傍の中心領域に設けたパイプ保持部37を通るように設けられている。同様に、X軸方向に沿って設けられたリブ42x、Y軸方向に沿って設けられたリブ42yは、膜振動領域M2の腹部の中心位置M2cの近傍の中心領域に設けたパイプ保持部37を通るように設けられている。
【0035】
なお
図7に示す例では、膜振動領域M1に対してリブ41x、41yを設けた例を示しているが、リブ41x、41yの一方のみを設けるようにしてもよい。同様に、
図7に示す例では、膜振動領域M2に対してリブ42x、42yを設けた例を示しているが、リブ42x、42yの一方のみを設けるようにしてもよい。
【0036】
<効果>
以上に説明したオイルパン30では、オイルパン30に発生する膜振動における膜振動領域M1、M2の腹部の位置に、パイプ保持部37とパイプ36とパイプ36内を流れるオイルとの合計の質量が載って膜振動を押さえ込むので、膜振動を効果的に低減できる。また、もともと設置されていたパイプ保持部37の位置を変更しているので、新たな部品等を追加しているわけではなく、オイルパン30の質量もほとんど増加しない。
【0037】
また、膜振動の発生位置や大きさは、量産された同一型式のオイルパンであれば、ほぼ同じ位置、ほぼ同じ大きさの膜振動が発生するので、オイルパンの全数の膜振動の発生位置や大きさを確認する必要はない。
【0038】
また、リブ41x、42x、41y、42yを追加した
図7に示すオイルパン30aでは、膜振動の腹部の中心領域に、パイプ保持部37等の質量を載せているとともに、リブでの補強を加えているので、さらに効果的に膜振動を低減できる。また、オイルパン30aの質量の増加分はリブの分だけであるので、少量の質量の増加で済む。
【0039】
本発明の、内燃機関のオイルパン30、30aは、本実施の形態で説明した構成、構造、形状、外観等に限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更、追加、削除が可能である。
【0040】
オイルパン30、30a、パイプ36、パイプ保持部37、のそれぞれの材質については特に限定せず、金属や樹脂などを利用可能である。
【符号の説明】
【0041】
1 内燃機関
10 シリンダヘッド
20 シリンダブロック
30、30a オイルパン
31 フランジ部
32a、32b、32c、32d 側面
33 底面
34 オイル貯留部
35 ストレーナ
36 パイプ
37 パイプ保持部
37a ベース部
37b ブラケット
37c 締結部
41x、41y リブ
42x、42y リブ
A オイル
M1、M2 膜振動領域
M1c、M2c 腹部の中心位置