(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114286
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】人工皮革、及びそれを含む車両内装用表皮材
(51)【国際特許分類】
D06N 3/00 20060101AFI20240816BHJP
D06N 3/14 20060101ALI20240816BHJP
D06M 15/564 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
D06N3/00
D06N3/14
D06M15/564
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023019954
(22)【出願日】2023-02-13
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】柳田 直樹
【テーマコード(参考)】
4F055
4L033
【Fターム(参考)】
4F055AA01
4F055AA21
4F055BA11
4F055CA15
4F055EA02
4F055EA22
4F055EA26
4F055EA28
4F055EA31
4F055EA36
4F055FA15
4F055FA18
4F055GA03
4F055HA04
4F055HA22
4L033AA02
4L033AB04
4L033AC11
4L033CA50
(57)【要約】
【課題】セルロース系繊維を含む人工皮革において、表面の耐摩耗性となめらかな触感とを実現する人工皮革、及びそれを含む車両内装用表皮材の提供。
【解決手段】繊維布からなる基材と、該基材の両面又は片面に積層された少なくとも1つの表面繊維層とを含む人工皮革であって、以下の特徴(1)~(3):(1)該表面繊維層は、該人工皮革の最外層に位置する;(2)該基材及び該表面繊維層が、共にセルロース系繊維を含有する;及び(3)該表面繊維層に含有されるセルロース系繊維の平均繊維長が、1.2mm以上15mm以下であり、かつ、平均繊維径が、20μm以下である;を有する、人工皮革、並びに該人工皮革を含む、車両内装用表皮材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維布からなる基材と、該基材の両面又は片面に積層された少なくとも1つの表面繊維層とを含む人工皮革であって、以下の特徴(1)~(3):
(1)該表面繊維層は、該人工皮革の最外層に位置する;
(2)該基材及び該表面繊維層が、共にセルロース系繊維を含有する;及び
(3)該表面繊維層に含有されるセルロース系繊維の平均繊維長が、1.2mm以上15mm以下であり、かつ、平均繊維径が、20μm以下である;
を有する、人工皮革。
【請求項2】
前記人工皮革におけるセルロース系繊維の含有率が、該人工皮革の総質量に対し50質量%以上である、請求項1に記載の人工皮革。
【請求項3】
前記基材におけるセルロース系繊維の含有率が、該基材の総質量に対し50質量%以上である、請求項1又は2に記載の人工皮革。
【請求項4】
前記セルロース系繊維が植物繊維である、請求項1又は2に記載の人工皮革。
【請求項5】
前記人工皮革が、バインダー樹脂を含有する、請求項1又は2に記載の人工皮革。
【請求項6】
前記バインダー樹脂の含有率が、前記人工皮革の総質量に対し0質量%超20質量%以上である、請求項5に記載の人工皮革。
【請求項7】
前記バインダー樹脂が、ポリウレタン樹脂である、請求項5に記載の人工皮革。
【請求項8】
前記ポリウレタン樹脂が、水分散系ポリウレタン樹脂である、請求項7に記載の人工皮革。
【請求項9】
前記少なくとも1つの表面繊維層の目付が、80g/m2以上200g/m2以下である、請求項1又は2に記載の人工皮革。
【請求項10】
前記少なくとも1つの表面繊維層が、合成繊維を含有する、請求項1又は2に記載の人工皮革。
【請求項11】
前記合成繊維の含有率が、前記表面繊維層に含有される繊維の総質量に対し25質量%以上50質量%以下である、請求項10に記載の人工皮革。
【請求項12】
前記基材が、織物である、請求項1又は2に記載の人工皮革。
【請求項13】
前記織物のカバーファクターCFが、15以上40以下である、請求項12に記載の人工皮革。
【請求項14】
前記人工皮革の表面が、立毛している、請求項1又は2に記載の人工皮革。
【請求項15】
前記人工皮革が、染色されている、請求項1又は2に記載の人工皮革。
【請求項16】
前記人工皮革が、顔料により着色されている、請求項1又は2に記載の人工皮革。
【請求項17】
請求項1又は2に記載の人工皮革を含む、車両内装用表皮材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は人工皮革、及びそれを含む車両内装用表皮材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、合成繊維から構成される人工皮革は、家具、衣類、自動車内装、靴、鞄などの用途に幅広く使用されているが、近年、セルロース系繊維を用いた人工皮革へのニーズが高まっている。
【0003】
以下の特許文献1には、葉繊維と硬化性ポリマー繊維とを一定割合で混合し、硬化性ポリマー繊維を熱的に融合させることで、植物原料を使用しながら、一定の引張強度を有した人工皮革が得られることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された発明は、表面の摩耗を抑えるための繊維同士の交絡状態については何ら考慮されておらず、表面の樹脂層無しでは耐摩耗性が不十分であった。また、特許文献1に記載された発明は、表面の樹脂層を有する場合、耐摩耗性は向上するものの、合成樹脂が表面を覆ってしまうことでなめらかな肌触りが低下する可能性がある。
【0006】
以上の従来技術の水準に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、セルロース系繊維を含む人工皮革において、上記従来技術の問題点を解決し、表面の耐摩耗性となめらかな触感とを実現する人工皮革、及びそれを含む車両内装用表皮材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討し実験を重ねた結果、セルロース系繊維を含む人工皮革において、以下の構成を有する人工皮革が、上記課題を解決できることを予想外に見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0008】
すなわち、本発明は以下の通りのものである。
[1]繊維布からなる基材と、該基材の両面又は片面に積層された少なくとも1つの表面繊維層とを含む人工皮革であって、以下の特徴(1)~(3):
(1)該表面繊維層は、該人工皮革の最外層に位置する;
(2)該基材及び該表面繊維層が、共にセルロース系繊維を含有する;及び
(3)該表面繊維層に含有されるセルロース系繊維の平均繊維長が、1.2mm以上15mm以下であり、かつ、平均繊維径が、20μm以下である;
を有する、人工皮革。
[2]前記人工皮革におけるセルロース系繊維の含有率が、該人工皮革の総質量に対し50質量%以上である、前記[1]に記載の人工皮革。
[3]前記基材におけるセルロース系繊維の含有率が、該基材の総質量に対し50質量%以上である、前記[1]又は[2]に記載の人工皮革。
[4]前記セルロース系繊維が植物繊維である、前記[1]~[3]のいずれかに記載の人工皮革。
[5]前記人工皮革が、バインダー樹脂を含有する、前記[1]~[4]のいずれかに記載の人工皮革。
[6]前記バインダー樹脂の含有率が、前記人工皮革の総質量に対し0質量%超20質量%以上である、前記[5]に記載の人工皮革。
[7]前記バインダー樹脂が、ポリウレタン樹脂である、前記[5]又は[6]に記載の人工皮革。
[8]前記ポリウレタン樹脂が、水分散系ポリウレタン樹脂である、前記[7]に記載の人工皮革。
[9]前記少なくとも1つの表面繊維層の目付が、80g/m2以上200g/m2以下である、前記[1]~[8]のいずれかに記載の人工皮革。
[10]前記少なくとも1つの表面繊維層が、合成繊維を含有する、前記[1]~[9]のいずれかに記載の人工皮革。
[11]前記合成繊維の含有率が、前記表面繊維層に含有される繊維の総質量に対し25質量%以上50質量%以下である、前記[10]に記載の人工皮革。
[12]前記基材が、織物である、前記[1]~[11]のいずれかに記載の人工皮革。
[13]前記織物のカバーファクターCFが、15以上40以下である、前記[12]に記載の人工皮革。
[14]前記人工皮革の表面が、立毛している、前記[1]~[13]のいずれかに記載の人工皮革。
[15]前記人工皮革が、染色されている、前記[1]~[13]のいずれかに記載の人工皮革。
[16]前記人工皮革が、顔料により着色されている、前記[1]~[13]のいずれかに記載の人工皮革。
[17]前記[1]~[16]のいずれかに記載の人工皮革を含む、車両内装用表皮材。
【発明の効果】
【0009】
本発明の人工皮革、及びそれを含む車両内装用表皮材は、セルロース系繊維を含みつつ、表面の耐摩耗性となめらかな触感とを両立したものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
本発明の一の実施形態は、繊維布からなる基材と、該基材の両面又は片面に積層された少なくとも1つの表面繊維層とを含む人工皮革であって、以下の特徴(1)~(3):
(1)該表面繊維層は、該人工皮革の最外層に位置する;
(2)該基材及び該表面繊維層が、共にセルロース系繊維を含有する;及び
(3)該表面繊維層に含有されるセルロース系繊維の平均繊維長が、1.2mm以上15mm以下であり、かつ、平均繊維径が、20μm以下である;
を有する、人工皮革である。
【0011】
[人工皮革]
本実施形態の人工皮革は、繊維布からなる基材と該基材に積層された表面繊維層とを含み、表面繊維層は人工皮革の最外層に位置する。基材の片面のみに表面繊維層が積層されていても(すなわちもう片面の最外層は表面繊維層でなくても)、基材の両面に表面繊維層が積層されていてもよい。片面のみに積層されている場合は、表面繊維層がおもて面側の最外層に位置していることが好ましい。基材の両面に表面繊維層が積層されている場合は、2つの表面繊維層が最外層に位置していることとなる。本実施形態の人工皮革は、例えば、基材の片面又は両面に短繊維を抄造法により積層した後、交絡処理によって、短繊維同士、及び短繊維と基材とを交絡させることにより、製造される。本明細書中、「人工皮革」とは、人工的に製造された、皮革様シート素材を意味する。
【0012】
基材及び表面繊維層は、共にセルロース系繊維を含有する。セルロース系繊維としては、植物繊維、再生繊維、アセテート等が挙げられる。植物繊維としては、例えば、綿、リネン、ラミ―、ヘンプ、パルプ、バンブー、パイナップル、バナナ、ココナッツ、カポック、ケナフ、月桃等の天然セルロース繊維が挙げられる。再生繊維としては、例えば、レーヨン、キュプラが挙げられる。セルロース系繊維間の水素結合により繊維同士を密着させることができるため、これにより人工皮革表面の緻密性が高まり、なめらかな触感や高い交絡強度を得ることができる。セルロース系繊維同士の交絡を強くする観点および製造時の環境負荷の観点から、植物繊維を用いることが好ましい。
【0013】
本実施形態の人工皮革におけるセルロース系繊維の含有率は、好ましくは該人工皮革の総質量に対し50質量%以上である。セルロース系繊維の含有率が高いほど製造時や廃棄時における環境負荷を小さくすることが可能であり、更にセルロース系繊維の有する高い熱伝導率により、触感が良好となる。
【0014】
[表面繊維層]
本実施形態の人工皮革における表面繊維層は、人工皮革の最外層に位置する。最外層に存在するとは、表面繊維層の外側(基材と逆側)に樹脂層を含まないことを意味する。樹脂層とは、例えば、合成樹脂からなる樹脂フィルムを貼り付ける方法(ラミネート法)、樹脂溶液を塗布した後に凝固浴に導き凝固させる方法(湿式法)等により表面繊維層の外側に形成される樹脂の層である。但し、含浸等の方法にて表面繊維層内に例えばバインダー樹脂などの樹脂を含んだ状態のものは樹脂層とはみなさず、表面繊維層とする。
【0015】
本実施形態の人工皮革における表面繊維層は、セルロース系繊維を含有する。前記表面繊維層にセルロース系繊維を含有することで、セルロース系繊維間の水素結合により繊維同士を密着させることができる。これにより人工皮革表面の緻密性が高まり、なめらかな触感を得ることができる。
【0016】
本実施形態の人工皮革における表面繊維層におけるセルロース系繊維の平均繊維長は、1.2mm以上であり、好ましくは1.6mm以上、さらに好ましくは2.2mm以上である。また、該平均繊維長は15mm以下であり、好ましくは10mm以下、さらに好ましくは6mm以下である。平均繊維長が1.2mm以上15mm以下であると、表面繊維層と基材との十分な交絡が得られ、摩耗によるピリングが抑えられることから、表面の耐摩耗性も得られる。また表面の滑らかな触感にも優れる。
【0017】
本実施形態の人工皮革における表面繊維層におけるセルロース系繊維の平均繊維径は、20μm以下であり、好ましくは15μm以下である。また、3μm以上が好ましく、7μm以上がさらに好ましい。平均繊維径が20μm以下であれば、人工皮革表面の緻密感が十分高く、セルロース系繊維ならではのなめらかな触感を高く発現させることができ、また優れた耐摩耗性も得られる。
【0018】
本実施形態の人工皮革における表面繊維層の目付は、80g/m2以上200g/m2以下であることが好ましい。表面繊維層が基材の両面に積層されている場合、おもて面と裏面のどちらか一方の表面繊維層の目付が上記範囲であればよいが、おもて面が上記範囲となることが好ましい。尚、おもて面とは人工皮革が使用される際に、使用者側となる面をさす。表面繊維層と基材との十分な交絡を得るためには、前記表面繊維層の目付は80g/m2以上であることが好ましい。これは、前記表面繊維層が水素結合により密着しやすいセルロース系繊維を含有することで、目付が増加するほど表面繊維層のセルロース系繊維と基材との交絡箇所が増加するためである。また、水素結合により密着しやすいセルロース系繊維間の交絡過多による人工皮革の柔軟性低下を抑えるためには、前記表面繊維層の目付が200g/m2以下であることが好ましい。
【0019】
表面繊維層は、引張強度等の機械特性や難燃性の向上の目的で、合成繊維を含むことができる。繊維層が合成繊維を含む場合、該合成繊維の含有率が、表面繊維層に含まれる繊維の総質量に対し25質量%以上50質量%以下であることが好ましい。合成繊維の含有量が25質量%以上であれば、合成繊維を複合することにより得られる効果が十分に発揮され、50質量%以下であれば、セルロース系繊維の割合が十分に高くなることから、製造時や廃棄時における環境負荷を抑えることができ、また、人工皮革表面の高い緻密性とセルロース系繊維の有する高い熱伝導率により、触感が良好となる。また、表面繊維層は、セルロース系繊維とは染色性の異なる合成繊維を含有することで、染色性の違いによるメランジ調の優れた意匠性を実現することが可能である。表面繊維層が含む得る合成繊維としては、例えば、ポリエステル、ナイロン6、ナイロン66、アクリル、ポリウレタン、ポリ乳酸等の繊維が挙げられる。
【0020】
[基材]
本実施形態の人工皮革に含まれる基材はセルロース系繊維を含有し、その含有率は、該基材の総質量に対し50質量%以上であることが好ましい。前記含有率が50質量%以上であれば、製造時や廃棄時における環境負荷が小さくなり、また、水素結合により表面繊維層及び基材のセルロース系繊維同士が結合することで、交絡強度を向上させることができる。
【0021】
基材は、例えば引張強度等の機械特性や難燃性の向上の目的で、好ましくは該基材の総質量に対し50質量%以下の範囲で、セルロース系繊維以外の繊維を含有することができる。基材がセルロース系繊維以外の繊維を含有する場合、例えば、ポリエステル、ナイロン6、ナイロン66、アクリル、ポリウレタン、ポリ乳酸等の合成繊維や、ガラス繊維、炭素繊維等の無機繊維等を使用することができる。特に、機械特性の観点からは、合成繊維を使用することが好ましい。
【0022】
基材は、繊維布であれば特に限定されるものではなく、例えば、織物、編物、及び不織布等であることができる。また、基材を構成する繊維は、単一種、及び複数種のいずれであってもよい。例えば、基材として、複数種類の短繊維から紡績された異素材複合紡績糸を用いた織編物や、素材の異なる紡績糸やフィラメント糸を複数種類用いた織編物でもよい。基材は、高い剥離強度を実現する観点から、織物であることが好ましい。
【0023】
基材が織物である場合、該織物の、下記式:
【数1】
{式中、Cwは経糸総繊度(綿番手)、Dwは経糸密度(本/2.54cm)、Cfは緯糸総繊度(綿番手)、そしてDfは緯糸密度(本/2.54cm)である。}により定義されるカバーファクターCFは、好ましくは15以上40以下である。
上記カバーファクターの定義式は、織物に使用する繊維を綿等の紡績糸に限定することを意味するものではなく、長繊維を使用した場合は、その繊度に相当する綿番手に換算したうえで算出することができる。カバーファクターが15以上であれば、人工皮革表面に凹凸が形成されないため、触感が良好となり、また、表面繊維層との交絡が強くなるため、表面繊維層との剥離強度が向上する。他方、カバーファクターが40以下であれば、人工皮革の柔軟性が高まるため、風合いが良好となり、かつ、自動車内装や家具等の複雑な形状への追随性も良好となる。
【0024】
[バインダー樹脂]
本実施形態の人工皮革は、繊維間の交絡強度をより高める観点から、バインダー樹脂を含有することができる。他方、人工皮革がバインダー樹脂を含まない場合、自動車内装や家具等の形状への非常に高い追従性を実現できるという利点がある。したがって、各用途に求められる特性に応じて、バインダー樹脂の含/不含を適宜選択することが可能である。
【0025】
人工皮革がバインダー樹脂を含む場合、バインダー樹脂の含有率は、人工皮革の総質量に対し好ましくは0質量%超20質量%以下、より好ましくは0質量%超15質量%以下である。バインダー樹脂の含有率が20質量%以下であれば、耐摩耗性や引張強度などの機械特性を向上させつつ、人工皮革の柔軟性が十分に高いために、風合いが良好となり、また自動車内装や家具等の複雑な形状への追従性が良好なものとなりやすい。また、表面繊維層を構成する繊維間の結合強度を強くする観点からは、バインダー樹脂の含有率は好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは8質量%以上である。
【0026】
バインダー樹脂の種類は特に限定されるものではないが、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、酢酸ビニル樹脂等を使用することができる。バインダー樹脂は、柔軟性と耐久性との両立の観点からは、ウレタン樹脂であることが好ましく、特に環境負荷低減の観点からは水分散系ウレタン樹脂が好ましい。
【0027】
[人工皮革のその他の好ましい態様]
【0028】
本実施形態の人工皮革は、着色されていることが好ましい。着色方法としては、風合い向上の観点からは液流染色機による染色処理が好ましい。また、耐光堅牢度の観点からは顔料を混合したパディング液でディップニップすることが好ましい。
【0029】
本実施形態の人工皮革は、表面が立毛していることが好ましく、起毛条件等により適宜その立毛感を調整できる。また、表面繊維層及び基材に使用する短繊維および紡績糸の種類、単繊維長、太さ、撚り数、表面繊維層及び基材の目付、厚み、密度、バインダー樹脂の種類、付与量、交絡工程における加工条件等により、立毛感や表面の肌触りを調整することも可能である。
【0030】
[車両内装用表皮材]
本発明の別の実施形態は、上述の人工皮革を含む車両内装用表皮材である。本実施形態の車両内装用表皮材は、シート、ドアトリム、インストルメントパネル、及び天井等に貼り付ける表皮材として好適に利用可能である。
【0031】
本実施形態の車両内装用表皮材は、クッション性を付与するため、裏面にウレタンフォームがラミネートされていてもよい。また、デザイン性や機能性の面で、エンボス加工や刺繍加工が施されていてもよい。
【実施例0032】
以下、本発明を実施例、比較例により具体的に説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。
以下、実施例等において用いた人工皮革の各種物性の測定方法は以下の通りのものであった。
【0033】
(a)平均繊維長、及び平均繊維径
セルロース系繊維の平均繊維長は、セルロース系繊維を0.3~0.4mg/Lになるよう水に分散させ、バルメットオートメーション社製自動繊維測定機(製品名:Valmet FS5)で、ISO fiber lengthモード下にて繊維の一本一本の長さを測定することで、求めることができる。ここでの平均繊維長は、重量平均(Lc(w)ISO(weight-weighted average fiber length,ISO 0.2-7.0mm))として表わされる。
また、該セルロース系繊維の平均繊維径は、平均繊維長と同様に自動繊維測定機を用いて求めることができる。ここでの平均繊維径は、長さ平均(Fiber width(Length-weighted average fiber width))として表わされる。
【0034】
(b)繊維層と基材との剥離強度(N/cm)
人工皮革から短辺2.5cm、長辺10cmの長方形サンプルを、長辺の方向が直交するように2枚(それぞれサンプルA及びBとする)切り取り、これらのサンプルの表層側(起毛人工皮革の場合は起毛面側)の全面に合成ゴム系接着剤スリーボンド1521(スリーボンド社製)を50mg/cm2の塗布量で塗る。塗布後、直ちに2枚のサンプルの接着剤を塗布した面どうしを、互いの長辺及び短辺が一致するように貼り合わせる。貼り合わせたサンプルをマングルで圧縮した後、20℃、50%RHで5時間以上放置する。この貼り合わせたサンプルを鋏で短辺の両端を2.5mmずつ切り取り、2.0cm(幅)×10cm(長さ)のサイズとし、短辺側からサンプルAの基材と表面繊維層部の境に剃刀の刃で切れ目を入れた後、基材と表面繊維層部とを指で約2cm剥がす。次に、エー・アンド・ディー社製テンシロン万能試験機(モデルRTC-1210A)を用い、基材と表面繊維層部とをそれぞれ把持長2cmで掴み具に把持させ、クロスヘッド速度100mm/分、記録紙速度50mm/分で引っ張って基材と表面繊維層部とを剥離させ、その時の応力を測定する。得られた応力-変位チャートの複数個のピークのうち、最大ピークから順に大きいピーク3点のピーク値と、最少ピークから順に小さいピーク3点のピーク値を読み取り、合計6点の平均値を求める。前記貼り合わせたサンプルを用い、サンプルBの基材と表面繊維層部の境も同様に切れ目を入れ、同様の測定を再度実施する。得られた2つの結果の平均値をサンプル幅(2cm)で割った値を剥離強度とした。
【0035】
(c)カバーファクターCF
カバーファクターCFを、以下の式:
【数2】
{式中、Cwは経糸総繊度(綿番手)、Dwは経糸密度(本/2.54cm)、Cfは緯糸総繊度(綿番手)、そしてDfは緯糸密度(本/2.54cm)である。}を用いて算出した。使用されている繊維が長繊維である場合は、その繊度に相当する綿番手に換算したうえで算出した。
【0036】
(d)表面繊維層の目付
人工皮革を直径38mmに8枚サンプリングし、20℃65%環境の室内に10時間以上置き、調湿した。その後、各試験片の重量を測定し、JIS-L-1096(2015年版)8.19「摩耗強さ」(E法:マーチンデール法)に従って、押圧荷重(12kPa)下で人工皮革の表面繊維層面の摩耗を行った。この際、摩擦回数上限を設定せず、摩耗面の半分以上において基材が露出した時点で摩耗試験を終了とし、再度試験片の重量を測定した。摩耗前後の重量差(g)を摩耗面積(m2)で割った値を表面繊維層の目付とし、人工皮革からサンプリングした8枚について、上記測定を行い、その平均値を表面繊維層の目付とした。
【0037】
(e)全体目付
人工皮革を10cm四方に4枚サンプリングし、20℃65%環境の室内に10時間以上置き、調湿した。その後、重量を測定し、サンプル面積(m2)で割った値の平均値を全体目付とした。
【0038】
(f)耐摩耗性
JIS-L-1096(2015年版)8.19「摩耗強さ」(E法:マーチンデール
法)に従って、押圧荷重(12kPa)下で人工皮革の表面繊維層面の耐摩耗試験を行った。摩耗回数と基材の露出状態との関係を以下の評価基準で判定し、〇及び◎を合格とした。
×:30000回で基材が露出する。
△:30000回では基材は露出しないが40000回でスクリムが露出する。
○:40000回では基材は露出しないが50000回でスクリムが露出する。
◎:50000回で基材は露出しない。
【0039】
(g)柔軟性
25cm四方にサンプリングした人工皮革を、20℃65%環境の室内に10時間以上置き、調湿した。その後、同室内にてハンドリングした際に、どう感じたかを、以下の評価基準で等級判定を行い、柔軟性を評価した。10人のモニターの平均値を評価結果とした。判定は0.5級きざみで行う。
5級:かなり柔軟である
4級:柔軟性がある
3級:やや柔軟である
2級:やや硬い
1級:かなり硬い
【0040】
(h)滑らか触感
25cm四方にサンプリングした人工皮革を、20℃65%環境の室内に10時間以上置き、調湿した。その後、同室内にて閉眼したうえで人差し指、中指、薬指の3本の指でサンプル表面をなぞった際のなめらかさを主体とした触感を、以下の評価基準で等級判定を行い、触感を評価とした。10人のモニターの平均値を評価結果とした。判定は0.5級きざみで行う。
5級:非常になめらかである
4級:かなりなめらかである
3級:なめらかである
2級:ややなめらかである
1級:なめらかでない
【0041】
[実施例1]
平均繊維長4.0mm,平均繊維径10μmのパイナップル短繊維を、水中に分散させ、表繊維層用のスラリーを作製した。40番手の綿紡績糸からなり、密度が経:66本/2.54cm、緯:57本/2.54cmである織物を基材として、基材の片面(以下「表層」とする。)に目付が160g/m2となるように、また、反対面(以下「裏層」とする。)に目付が60g/m2となるように、前記スラリーを用いて抄造によって短繊維を堆積し、三層積層構造の不織布シートを連続的に製造した。次いで、孔径0.1mmの直進流噴射ノズルを用いて水流を噴射して交絡処理を行い、ピンテンターで乾燥し、目付350g/m2のシートを製造した。このシートの表層を#400のサンドペーパーでバフィングし、次いで、9質量%濃度のポリエーテル系の水系ポリウレタン樹脂と、3質量%の芒硝を添加した水分散液に、ポリウレタン樹脂の付着率が含浸後のシート質量に対して15.7質量%となるようにシートを含浸し、ピンテンター乾燥機で3分間加熱乾燥し、人工皮革原反を製造した。この原反を黒色に染色し、スエード調の人工皮革を製造した。
【0042】
[実施例2]
スラリーとして、平均繊維長4.0mm,平均繊維径10μmのパイナップル短繊と、平均繊維長3.0mm,平均繊維径4μmのポリエステル短繊維とを、70:30の質量比で混合し、水中に分散させたスラリーを用いたこと、及び、基材として、40番手の綿/PET(35/65)紡績糸からなり、密度が経:40本/2.54cm、緯:66本/2.54cmである織物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして人工皮革を製造した。
【0043】
[実施例3]
基材として、40番手の綿/PET(35/65)紡績糸からなり、密度が経:40本/2.54cm、緯:66本/2.54cmである織物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして人工皮革を製造した。
【0044】
[実施例4]
ポリウレタン樹脂の付着率がシート質量に対して22.2質量%となるようにシートを含浸したこと以外は、実施例1と同様にして人工皮革を製造した。
【0045】
[実施例5]
スラリーとして、平均繊維長4.0mm,平均繊維径10μmのパイナップル短繊と、平均繊維長3.0mm,平均繊維径4μmのポリエステル短繊維とを、90:10の質量比で混合し、水中に分散させたスラリーを用いたこと以外は、実施例1と同様にして人工皮革を製造した。
【0046】
[実施例6]
スラリーとして、平均繊維長4.0mm,平均繊維径10μmのパイナップル短繊と、平均繊維長3.0mm,平均繊維径4μmのポリエステル短繊維とを、40:60の質量比で混合し、水中に分散させたスラリーを用いたこと以外は、実施例1と同様にして人工皮革を製造した。
【0047】
[実施例7]
基材として、40番手の綿紡績糸からなり、目付117g/m2の経編ハーフトリコットを用いたこと以外は、実施例1と同様にして人工皮革を製造した。
【0048】
[実施例8]
基材として、40番手の綿紡績糸からなり、目付117g/m2のハーフトリコット経編地を用いたこと以外は、実施例1と同様にして人工皮革を製造した。
【0049】
[実施例9]
原反を、染色ではなく、黒色顔料の分散液に含侵することで着色したこと以外は、実施例1と同様にして人工皮革を製造した。
【0050】
[実施例10]
平均繊維長4.0mm,平均繊維径10μmのパイナップル短繊維の代わりに、平均繊維長2.9mm,平均繊維径3.8μmのパイナップル短繊維を用いたこと以外は、実施例1と同様にして人工皮革を製造した。
【0051】
[実施例11]
表層の目付が240g/m2となるようにパイナップル短繊維を堆積し、三層積層構造の不織布シートを連続的に製造したこと以外は、実施例1と同様にして人工皮革を製造した。
【0052】
[実施例12]
表層の目付が80g/m2となるようにパイナップル短繊維を堆積し、三層積層構造の不織布シートを連続的に製造したこと以外は、実施例1と同様にして人工皮革を製造した。
【0053】
[実施例13]
平均繊維長4.0mm,平均繊維径10μmのパイナップル短繊維の代わりに、平均繊維長4.0mm,平均繊維径18μmのパイナップル短繊維を用いたこと以外は、実施例1と同様にして人工皮革を製造した。
【0054】
[実施例14]
平均繊維長4.0mm,平均繊維径10μmのパイナップル短繊維の代わりに、平均繊維長4.0mm,平均繊維径13μmのバナナ短繊維を用いたこと以外は、実施例1と同様にして人工皮革を製造した。
【0055】
[実施例15]
平均繊維長4.0mm,平均繊維径10μmのパイナップル短繊維の代わりに、平均繊維長4.0mm,平均繊維径9μmのキュプラ短繊維を用いたこと以外は、実施例1と同様にして人工皮革を製造した。
【0056】
[比較例1]
平均繊維長4.0mm,平均繊維径10μmのパイナップル短繊維の代わりに、平均繊維長40mm,平均繊維径70μmのパイナップル短繊維を用いたこと以外は、実施例1と同様にして人工皮革を製造した。
【0057】
[比較例2]
平均繊維長4.0mm,平均繊維径10μmのパイナップル短繊維の代わりに、平均繊維長4.0mm,平均繊維径70μmのパイナップル短繊維を用いたこと以外は、実施例1と同様にして人工皮革を製造した。
【0058】
[比較例3]
平均繊維長4.0mm,平均繊維径10μmのパイナップル短繊維の代わりに、平均繊維長4.0mm,平均繊維径23μmの綿短繊維を用いたこと以外は、実施例1と同様にして人工皮革を製造した。
【0059】
[比較例4]
平均繊維長4.0mm,平均繊維径10μmのパイナップル短繊維の代わりに、平均繊維長18mm,平均繊維径28μmのパイナップル短繊維を用いたこと以外は、実施例1と同様にして人工皮革を製造した。
【0060】
[比較例5]
平均繊維長4.0mm,平均繊維径10μmのパイナップル短繊維の代わりに、平均繊維長0.7mm,平均繊維径10μmのパイナップル短繊維を用いたこと以外は、実施例1と同様にして人工皮革を製造した。
【0061】
[比較例6]
実施例1と同様にして染色まで実施後、表層の表面にナイフコーターにて顔料を含むPVC樹脂を25g/m2の塗布量で表面に塗布し、人工皮革を製造した。
【0062】
以上の実施例及び比較例で製造した人工皮革の各種物性及び評価結果を以下の表1乃至3に示す。
【0063】
【0064】
【0065】
本発明は、セルロース系繊維を多く含有し、柔らかさと耐摩耗性とを両立する人工皮革であるため、例えば、家具、衣類、自動車産業、靴、鞄などの用途に幅広く使用することのできるものであり、特に車両内装用表皮材として好適に利用可能である。