(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114307
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】固体電解質及び固体電解質電池
(51)【国際特許分類】
H01B 1/06 20060101AFI20240816BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20240816BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240816BHJP
C01G 25/00 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
H01B1/06 A
H01M10/0562
H01M10/052
C01G25/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023019986
(22)【出願日】2023-02-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】野島 昭信
(72)【発明者】
【氏名】栗原 雅人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 長
【テーマコード(参考)】
4G048
5G301
5H029
【Fターム(参考)】
4G048AA06
4G048AA07
4G048AB01
4G048AB05
4G048AC06
4G048AD03
4G048AE05
4G048AE06
5G301CA02
5G301CA08
5G301CA16
5G301CA28
5G301CD01
5H029AJ02
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM12
5H029HJ02
5H029HJ13
(57)【要約】
【課題】イオン伝導性に優れる固体電解質及び固体電解質電池を提供することを目的とする。
【解決手段】本実施形態にかかる固体電解質は、主元素としてリチウムとジルコニウムと硫黄と酸素と塩素とを含み、Cu-Kαを線源としたX線回折パターンにおいて、回折角2θ=34.3°±0.5°及び回折角2θ=50.0°±0.5°にピークが確認される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主元素としてリチウムとジルコニウムと硫黄と酸素と塩素とを含み、
Cu-Kαを線源としたX線回折パターンにおいて、回折角2θ=34.3°±0.5°及び回折角2θ=50.0°±0.5°にピークが確認される、固体電解質。
【請求項2】
前記回折角2θ=34.3°±0.5°の範囲に確認される最大ピークの強度Iaと、前記回折角2θ=50.0°±0.5°の範囲に確認される最大ピークの強度Ibとが、1.020<Ia/Ib≦1.034の関係を満たす、請求項1に記載の固体電解質。
【請求項3】
LiaZr(SOx)bCl4…(1)で表記され、
前記式(1)は、0.2≦a≦0.5、0.1<b≦6.0、0<x≦4.0を満たす、請求項1に記載の固体電解質。
【請求項4】
正極と、負極と、前記正極と前記負極とに挟まれる固体電解質層と、を備え、
前記固体電解質層は、請求項1に記載の固体電解質を含む、固体電解質電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質及び固体電解質電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロニクス技術の発達はめざましく、携帯電子機器の小型軽量化、薄型化、多機能化が図られている。それに伴い、電子機器の電源となる電池に対し、小型軽量化、薄型化、信頼性の向上が強く望まれており、電解質として固体電解質を用いる固体電解質電池が注目されている。固体電解質として、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質、錯体水素化物系固体電解質、ハライド系固体電解質等が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、Li3-2XMXIn1-YM´YL6-ZL´Zで表されるハライド系固体電解質を含む固体電解質電池が開示されている。式中、MおよびM´は金属元素であり、LおよびL´はハロゲン元素である。また、X、YおよびZは独立に0≦X<1.5、0≦Y<1、0≦Z≦6を満たす。
【0004】
また例えば、特許文献2には、Li6-3ZYZX6で表されるハライド系固体電解質が開示されている。式中、Zは0<Z<2を満たし、XはClまたはBrである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-244734号公報
【特許文献2】国際公開第2018/025582号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ハライド系固体電解質は、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質、錯体水素化物系固体電解質等よりイオン伝導度が高いと言われている。しかしながら、高い放電エネルギーを実現するために、イオン伝導度の向上が求められている。
【0007】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、イオン伝導性に優れる固体電解質及び固体電解質電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0009】
(1)第1の態様にかかる固体電解質は、主元素としてリチウムとジルコニウムと硫黄と酸素と塩素とを含み。この固体電解質は、Cu-Kαを線源としたX線回折パターンにおいて、回折角2θ=34.3°±0.5°及び回折角2θ=50.0°±0.5°にピークが確認される。
【0010】
(2)上記態様にかかる固体電解質は、前記回折角2θ=34.3°±0.5°の範囲に確認される最大ピークの強度Iaと、前記回折角2θ=50.0°±0.5°の範囲に確認される最大ピークの強度Ibとが、1.020<Ia/Ib≦1.034の関係を満たしてもよい。
【0011】
(3)上記態様にかかる固体電解質は、LiaZr(SOx)bCl4…(1)で表記されてもよい。前記式(1)は、0.2≦a≦0.5、0.1<b≦6.0、0<x≦4.0を満たす。
【0012】
(4)第2の態様にかかる固体電解質電池は、正極と、負極と、前記正極と前記負極とに挟まれる固体電解質層と、を備える。前記固体電解質層は、上記態様に係る固体電解質を含む。
【発明の効果】
【0013】
上記態様にかかる固体電解質は、イオン伝導性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態に係る固体電解質のX線回折結果である。
【
図2】本実施形態にかかる固体電解質電池の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0016】
「固体電解質」
固体電解質は、外部から電場をかけることでイオンを移動させることができる物質である。固体電解質のイオン伝導度が高いと、固体電解質電池におけるイオンの授受がスムーズになり、内部抵抗が小さくなる。
【0017】
本実施形態に係る固体電解質は、主元素としてリチウムとジルコニウムと硫黄と酸素と塩素とを含む。ここで、主元素とは、組成分析において確認される主要な元素であり、不純物として混在している元素を除いたものである。主元素は、組成分析で明確に検出される元素である。組成分析は、例えば、X線光電子分光測定(XPS)等で行われる。主元素は、例えば、固体電解質の結晶構造を担う元素である。
【0018】
固体電解質は、主元素としてリチウムとジルコニウムと硫黄と酸素と塩素とを含む化合物のみからなってもよいし、この化合物以外の物質を含んでもよい。この化合物以外の物質は、例えば、原料粉末起因の材料であり、例えば、Li2SO4、ZrCl4である。
【0019】
固体電解質は、粉末(粒子)の状態であってもよいし、粉末を焼結した焼結体の状態でもよい。また固体電解質は、粉末を圧縮して成形した成形体、粉末とバインダーとの混合物を成形した成形体、粉末とバインダーと溶媒とを含む塗料を塗布した後、加熱して溶媒を除去することにより形成した塗膜でもよい。
【0020】
本実施形態に係る固体電解質は、例えば、LiaZr(SOx)bCl4…(1)で表記されるハライド系固体電解質である。式(1)は、0.3≦a<0.5、0.1<b≦6.0、0<x≦4.0を満たす。
【0021】
式(1)において、Liはリチウムイオンである。aは、0.2≦a≦0.5を満たし、好ましくは0.3≦a≦0.5を満たし、より好ましくは0.4≦a≦0.5をみたす。またaは、0.3≦a<0.5でもよい。式(1)で表される化合物において、aが上記範囲であれば、化合物中に含まれるLiの含有量が適正となり、固体電解質層のイオン伝導度の高くなる。
【0022】
式(1)において、Zrはジルコニウムイオンである。Zrは、固体電解質の骨格を形成する元素である。
【0023】
式(1)において、SOxは硫酸塩である。xは、0<x≦4.0を満たす。xは、好ましくはx=4.0である。SOxは、例えば、SO3、SO4、SO5、SO3/2、SO2、SO5/2、SO7/2である。固体電解質が硫酸塩を含むと、固体電解質の還元側の電位窓が広くなり、還元されにくくなる。
【0024】
bは0.1<b≦6を満たす。硫酸塩を含むと固体電解質の還元側の電位窓が広くなるため、0.11≦bであることが好ましい。また硫酸塩の含有量が多すぎることに起因する固体電解質のイオン伝導度の低下が生じないように、b≦1.0であることが好ましく、b≦0.5であることがより好ましく、b≦0.25であることがさらに好ましい。
【0025】
式(1)において、Clは塩化物イオンである。Clイオンは、価数当たりのイオン半径が大きく、当該元素を固体電解質が含むことで、リチウムイオンが流れやすくなる。
【0026】
固体電解質は、例えば、Li0.5Zr(SO4)0.25Cl4、Li0.44Zr(SO4)0.22Cl4、Li0.4Zr(SO4)0.2Cl4、Li0.36Zr(SO4)0.18Cl4、Li0.33Zr(SO4)0.17Cl4、Li0.29Zr(SO4)0.14Cl4、Li0.22Zr(SO4)0.11Cl4、である。
【0027】
図1は、本実施形態に係る固体電解質をX線回折(XRD)した結果である。
図1における縦軸は強度であり、横軸は2θである。X線回折は、Cu-Kα線源を用いて行った。
図1に示すX線回折パターンは、測定中に大気との接触を防ぐために用いたポリイミドテープのバックグラウンドデータを含んだものである。
図1では、実施例1~7として本実施形態に係る固体電解質のXRD結果を示し、比較例1、2として所定の要件を満たさない比較例に係る固体電解質のXRD結果を示す。
【0028】
図1に示すように、本実施形態に係る固体電解質は、Cu-Kαを線源としたX線回折パターンにおいて、回折角2θ=34.3°±0.5°及び回折角2θ=50.0°±0.5°にピークが確認される。本実施形態に係る固体電解質は、結晶性を有する。これに対し、比較例1、2に係る固体電解質は、当該位置にピークが確認されない。X線回折パターンにおいて所定の位置にピークを有する固体電解質は、イオン伝導度が高い。
【0029】
ここで、回折角2θ=34.3°±0.5°の範囲に確認されるピークのうち最大の強度を有するピークを第1ピークと称し、回折角2θ=50.0°±0.5°の範囲に確認されるピークのうち最大の強度を有するピークを第2ピークと称する。第1ピークの強度Iaと第2ピークの強度Ibとは、1.020<Ia/Ib≦1.034の関係を満たすことが好ましく、1.025≦Ia/Ib≦1.034の関係を満たすことがより好ましく、1.027<Ia/Ib≦1.034の関係を満たすことがさらに好ましく、1.029≦Ia/Ib≦1.030を満たすことが特に好ましい。この関係を満たすと、固体電電解質のイオン伝導度が高まる。
【0030】
(固体電解質の製造方法)
本実施形態の固体電解質が粉末状態である場合、例えば、原料となるLiSO4とZrCl4とを所定のモル比で混合し、反応させる。この際に、LiSO4に対してZrCl4が過剰になるように混合する。具体的には、ZrCl4のモル比をLiSO4のモル比の4倍以上とする。ZrCl4のモル比をLiSO4のモル比より高くすることで、作製される固体電解質中のLiの混合比(aの範囲)を所定の範囲とすることができる。
【0031】
本実施形態の固体電解質は、所定のモル比で混合した混合物を、メカノケミカル法を用いて処理し、その後に加熱処理を行うことにより製造することができる。メカノケミカル反応を調整することで、イオン伝導性の高い所定の固体電解質を得ることができる。メカノケミカル反応が十分ではないと比較例に示すXRDで示すように非晶質となり、十分なイオン伝導性が発現しない。メカノケミカル反応は、例えば遊星ボールミルを使用して合成する場合回転数と時間、メディア、温度で制御することができる。
【0032】
また固体電解質を焼結体として得る場合は、混合した原料粉末を所定の形状に成形し、真空中または不活性ガス雰囲気中で焼結する。ZrCl4は、温度を上げると蒸発しやすい。このため、焼結する際の雰囲気中にハロゲンガスを共存させて、ハロゲンを補うことが好ましい。またZrCl4の蒸発を防ぐために、密閉性の高い型を用いたホットプレス法を用いて、焼結しても良い。この場合、型の密閉性が高いため、焼結によるZrCl4の蒸発を抑制できる。このようにして焼結することにより、所定の組成を有する化合物からなる焼結体の状態の固体電解質が得られる。
【0033】
また固体電解質の製造工程において、必要に応じて熱処理を行ってもよい。熱処理を行うことにより、固体電解質の結晶子サイズを調整できる。熱処理としては、例えば、アルゴンガス雰囲気中で、130℃~650℃で0.5~60時間行うことが好ましく、175℃~600℃で1~30時間行うことがより好ましい。アルゴンガス雰囲気中で、150~550℃で5~24時間行うことにより、上記結晶子サイズが5nm~500nmである固体電解質が得られる。
【0034】
本実施形態に係る固体電解質は、上述のように、X線回折で特定のピークが確認され、イオン伝導度が高い。固体電解質がX線回折で特定のピークを有するとイオン伝導度が高まる理由は明確ではないが、当該ピークが確認されるということは所定の結晶面が形成されており、リチウムイオンが伝導する経路が確保されたためではないかと考えられる。
【0035】
「固体電解質電池」
図2は、本実施形態にかかる固体電解質電池100の断面模式図である。
図2に示す固体電解質電池100は、発電素子40と外装体50とを備える。外装体50は、発電素子40の周囲を被覆する。発電素子40は、発電素子40に接続された一対の端子60、62によって外部と接続される。
図2では、積層型の電池を示したが、巻回型の電池でもよい。固体電解質電池100は、例えば、ラミネート電池、角型電池、円筒型電池、コイン型電池、ボタン型電池等に用いられる。
【0036】
<発電素子>
発電素子40は、固体電解質層10と正極20と負極30とを備える。発電素子40は、正極20と負極30の間で固体電解質層10を介したイオンの授受及び外部回路を介した電子の授受により充電または放電する。
【0037】
(固体電解質層)
固体電解質層10は、正極20と負極30とに挟まれる。固体電解質層10は、外部から印加された電圧によってイオンを移動させることができる固体電解質を含む。例えば、固体電解質は、リチウムイオンを伝導し、電子の移動を阻害する。
【0038】
固体電解質層10は、例えば、上述の固体電解質を含む。固体電解質層10は、上述の固体電解質の他に、バインダーを含んでもよい。バインダーは、後述のものを適用できる。
【0039】
(正極)
図2に示すように、正極20は、板状(箔状)の正極集電体22と正極合剤層24とを有する。正極合剤層24は、正極集電体22の少なくとも一面に接する。
【0040】
正極集電体22は、充電時の酸化に耐え腐食しにくい電子伝導性の材料であれば良い。正極集電体22は、例えば、アルミニウム、ステンレス、ニッケル、チタンなどの金属、伝導性樹脂等である。正極集電体22は、粉体、箔、パンチング、エクスパンドの各形態であっても良い。
【0041】
正極合剤層24は、正極活物質を含み、必要に応じて、固体電解質、バインダーおよび導電助剤を含む。
【0042】
正極活物質は、リチウムイオンの吸蔵・放出、挿入・脱離(インターカレーション・デインターカレーション)を可逆的に進行させることが可能であれば特に限定されず、公知の固体電解質電池に用いられている正極活物質を使用できる。正極活物質としては、例えば、リチウム含有金属酸化物、リチウム含有金属リン酸化物などが挙げられる。
【0043】
リチウム含有金属酸化物は、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、リチウムマンガンスピネル(LiMn2O4)、及び、一般式:LiNixCoyMnzO2(x+y+z=1)で表される複合金属酸化物、リチウムバナジウム化合物(LiVOPO4、Li3V2(PO4)3)、オリビン型LiMPO4(ただし、Mは、Co、Ni、Mn、Feから選択される少なくとも1種を示す)、チタン酸リチウム(Li4Ti5O12)等である。
【0044】
また正極活物質は、リチウムを含有していないものでもよい。このような正極活物質としては、リチウム非含有金属酸化物(MnO2、V2O5など)、リチウム非含有金属硫化物(MoS2など)、リチウム非含有フッ化物(FeF3、VF3など)などが挙げられる。リチウムを含有していない正極活物質を用いる場合、あらかじめ負極にリチウムイオンをドープしておく、またはリチウムイオンを含有する負極を用いる。
【0045】
正極20に含まれる固体電解質は、例えば、上述の固体電解質である。正極20に含まれる固体電解質は、上述の固体電解質以外のハライド系固体電解質でもよい。
【0046】
正極合剤層24における固体電解質の含有率は、特に限定されないが、正極活物質、固体電解質、導電助剤及びバインダーの質量の総和を基準にして、1質量%~50質量%であることが好ましく、5質量%~30質量%であることがより好ましい。
【0047】
バインダーは、正極合剤層24内において正極活物質と固体電解質と導電助剤とを相互に結合するとともに、正極合剤層24と正極集電体22とを、強固に接着する。正極合剤層24は、バインダーを含むことが好ましい。バインダーは、耐酸化性を有し、接着性が良いことが好ましい。
【0048】
正極合剤層24に用いられるバインダーとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)またはそのコポリマー、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアミド(PA)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリアクリル酸(PA)及びその共重合体、ポリアクリル酸(PA)及びその共重合体の金属イオン架橋体、無水マレイン酸をグラフト化したポリプロピレン(PP)、無水マレイン酸をグラフト化したポリエチレン(PE)、または、これらの混合物などが挙げられる。これらの中でも、バインダーとしては、特にPVDFを用いることが好ましい。
【0049】
正極合剤層24におけるバインダーの含有率は、特に限定されないが、正極活物質、固体電解質、導電助剤及びバインダーの質量の総和を基準にして、0.3質量%~10質量%であることが好ましく、0.3質量%~5質量%であることがより好ましい。バインダー量が少な過ぎると、十分な接着強度の正極20を形成できなくなる傾向がある。逆にバインダー量が多過ぎると、一般的なバインダーは電気化学的に不活性なので放電容量に寄与せず、十分な体積または質量エネルギー密度を得ることが困難となる傾向がある。
【0050】
導電助剤は、正極合剤層24の電子伝導性を良好にする。導電助剤は、公知のものを用いることができる。導電助剤は、例えば、カーボンブラック、黒鉛、カーボンナノチューブ、グラフェンなどの炭素材料、アルミニウム、銅、ニッケル、ステンレス、鉄、アモルファス金属などの金属、ITOなどの伝導性酸化物、またはこれらの混合物である。導電助剤は、粉体、繊維の各形態であっても良い。
【0051】
正極合剤層24における導電助剤の含有率は、特に限定されない。導電助剤を添加する場合には通常、正極活物質、固体電解質、導電助剤及びバインダーの質量の総和を基準にして、導電助剤の質量比は、0.5質量%~20質量%であることが好ましく、1質量%~5質量%とすることがより好ましい。
【0052】
(負極)
図2に示すように、負極30は、負極集電体32と負極合剤層34とを有する。負極合剤層34は、負極集電体32に接する。
【0053】
負極集電体32は、電子伝導性を有すれば良い。負極集電体32は、例えば、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス、鉄などの金属、または、伝導性樹脂等である。負極集電体32は、粉体、箔、パンチング、エクスパンドの各形態であっても良い。
【0054】
負極合剤層34は、負極活物質を含み、必要に応じて、固体電解質、バインダーおよび導電助剤を含む。
【0055】
負極活物質は、リチウムイオンの吸蔵及び放出、リチウムイオンの挿入及び脱離を可逆的に進行させることができればよく、特に限定されない。負極活物質には、公知の固体電解質電池に用いられている負極活物質を使用できる。
【0056】
負極活物質は、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ、メソカーボンファイバー(MCF)、コークス類、ガラス状炭素、有機化合物焼成体などの炭素材料、Si、SiOx、Sn、アルミニウムなどのリチウムと化合できる金属、これらの合金、これら金属と炭素材料との複合材料、チタン酸リチウム(Li4Ti5O12)、SnO2などの酸化物、金属リチウム等である。負極活物質は、天然黒鉛が好ましい。
【0057】
負極30に含まれる固体電解質は、例えば、上述の固体電解質である。負極30に含まれる固体電解質は、上述の固体電解質以外のハライド系固体電解質でもよい。
【0058】
負極30に含まれるバインダー及び導電助剤は、正極20に含まれるバインダー及び導電助剤と同様である。
【0059】
<外装体>
外装体50は、その内部に発電素子40を収納する。外装体50は、外部から内部への水分などの侵入を防ぐ。外装体50は、例えば
図2に示すように、金属箔52と、金属箔52の各面に積層された樹脂層54と、を有する。外装体50は、金属箔52を樹脂層54で両側からコーティングした金属ラミネートフィルムである。
【0060】
金属箔52は、例えばアルミ箔、ステンレス箔である。樹脂層54は、例えば、ポリプロピレン等の樹脂膜を利用できる。樹脂層54を構成する材料は、内側と外側とで異なっていてもよい。例えば、外側の材料としては融点の高い高分子、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド(PA)等を用い、内側の材料としてはポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等を用いることができる。
【0061】
<端子>
端子60、62は、それぞれ負極30と正極20とに接続されている。正極20に接続された端子62は正極端子であり、負極30に接続された端子60は負極端子である。端子60、62は、外部との電気的接続を担う。端子60、62は、アルミニウム、ニッケル、銅等の導電材料から形成されている。接続方法は、溶接でもネジ止めでもよい。端子60、62は短絡を防ぐために、絶縁テープで保護することが好ましい。
【0062】
[固体電解質電池の製造方法]
正極は、正極集電体22上に、正極活物質を含むペーストを塗布し、乾燥させて正極合剤層24を形成することにより製造される。正極活物質を含むペーストに上記の固体電解質を添加してもよい。
【0063】
次いで、負極30を準備する。負極は、負極集電体32上に、負極活物質を含むペーストを塗布し、乾燥させて負極合剤層34を形成することにより製造される。負極活物質を含むペーストに上記の固体電解質を添加してもよい。
【0064】
発電素子40は、例えば、粉末成型法を用いて作製できる。正極20の上に、穴部を有するガイドを設置し、ガイド内に固体電解質を充填する。その後、固体電解質の表面をならし、固体電解質の上に負極30を重ねる。このことにより、正極20と負極30との間に固体電解質が挟まれる。その後、正極20および負極30に圧力を加えることで、固体電解質を加圧成形する。加圧成形されることにより、正極20と固体電解質層10と負極30が、この順に積層された積層体が得られる。
【0065】
次に、積層体を形成している正極20の正極集電体22および負極30の負極集電体32に、それぞれ公知の方法により外部端子を溶接し、正極集電体22または負極集電体32と外部端子とを電気的に接続する。その後、外部端子と接続された積層体を外装体50に収納し、外装体50の開口部をヒートシールすることにより密封する。以上の工程により、本実施形態の固体電解質電池100が得られる。
【0066】
本実施形態に係る固体電解質電池100は、上述の固体電解質を含むため、Liイオンの伝導がスムーズであり、内部抵抗が低い。
【0067】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。
【実施例0068】
「実施例1」
(固体電解質の作製)
露点約-75℃のグローブボックス内において、硫酸リチウム(Li2SO4)と塩化ジルコニウム(ZrCl4)とをそれぞれ、モル比で1:4の割合になるように原料粉末を秤量した。次いで、あらかじめ5mmΦのジルコニアボールを入れている遊星型ボールミル用のジルコニア製密閉容器に、原料粉末を投入した。次に密閉容器に蓋をし、蓋を容器本体にねじ止めし、さらに蓋と容器の間をポリイミドテープでシールした。ポリイミドテープは水分を遮断する効果がある。次に、ジルコニア製密閉容器を遊星型ボールミルにセットした。自転回転数450rpm、公転回転数450rpmとし、自転の回転方向と公転の回転方向とを逆方向として、48時間メカノケミカル反応させ、その後120℃の恒温槽に容器ごと1時間入れ加熱処理することで固体電解質(Li0.5Zr(SO4)0.25Cl4)を生成させた。
【0069】
遊星型ボールミルは、通常雰囲気(大気)中に設置している。遊星型ボールミル用のジルコニア製密閉容器はねじ止めされ、さらにポリイミドテープでシールしてあり、遊星型ボールミルにジルコニア製密閉容器をセットすると、ジルコニア製密閉容器が固く押圧固定される構造であるため、通常雰囲気であっても、ジルコニア製密閉容器内には大気から水分の混入は殆どないと考えられる。
【0070】
[XRD測定]
アルゴンガスを循環している露点約-70℃のグローブボックス内で、作製した固体電解質をXRD測定用ホルダーに充填した。その後充填面を覆うように、防湿のためのポリイミドテープ(70℃で16時間真空乾燥させたもの)を張り付け封止し、XRD測定試料を準備した。次いで大気中に取り出し、X線回折装置(パナリティカル社製 X‘PertPro)を用いてXRD測定を行った。X線源は、Cu-Kα線(測定波長=0.799407Å)を用いた。
【0071】
作製された固体電解質のX線回折パターンは、回折角2θ=34.3°±0.5°及び回折角2θ=50.0°±0.5°にピークを有していた。
【0072】
[イオン伝導度の測定]
次いで、アルゴンガスを循環している露点約-70℃のグローブボックス内で、得られた固体電解質の粉末を加圧成形用ダイスに充填し、約30KNの加重で加圧成形し、イオン伝導度の測定セルを作製した。
【0073】
加圧成型用ダイスは、直径10mmのPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)製円筒、SKD11材の直径9.99mmの上パンチ及び下パンチから構成される。
【0074】
その後、4か所にねじ穴を有する直径50mm、厚み5mmのステンレス製円板及びテフロン(登録商標)製円板を用意し、次のように加圧成型ダイスをセットした。ステンレス円板/テフロン(登録商標)円板/加圧成型後ダイス/テフロン(登録商標)円板/ステンレス円板の順序で積載し、4か所のネジを約3N・mのトルクで締めた。また、上下パンチの側面に設けたネジ穴にネジを差し込み、外部接続端子とした。
【0075】
外部接続端子を、周波数応答アナライザを搭載したポテンシオスタット(プリンストン・アプライド・リサーチ社製VersaSTAT3)に接続し、インピーダンス測定法を用いて、イオン伝導度の測定を行った。測定周波数範囲1MHz~0.1Hz、振幅10mV、温度25℃において測定した。実施例1の固体電解質のイオン伝導度は、0.39mS/cmであった。
【0076】
「実施例2~7」
実施例2~7は、原料粉末の材料及びモル比を変えた点が実施例1と異なる。実施例2~7でも実施例1と同様に、固体電解質の測定を行った。実施例2~7の製造時における硫酸リチウム(Li2SO4)と塩化ジルコニウム(ZrCl4)とのモル比を以下に示す。
実施例2 Li2SO4:ZrCl4=1:4.5
実施例3 Li2SO4:ZrCl4=1:5.0
実施例4 Li2SO4:ZrCl4=1:5.5
実施例5 Li2SO4:ZrCl4=1:6.0
実施例6 Li2SO4:ZrCl4=1:7.0
実施例7 Li2SO4:ZrCl4=1:9.0
【0077】
また実施例2~7で作製した固体電解質についても、実施例1と同様に、XRD測定及びイオン伝導度の測定を行った。実施例2~7の固体電解質は、いずれもX線回折パターンにおいて、回折角2θ=34.3°±0.5°及び回折角2θ=50.0°±0.5°にピークが確認された。
【0078】
実施例2~7で作製された固体電解質の組成及びイオン伝導度を以下に示す。
実施例2 Li0.44Zr(SO4)0.22Cl4 0.27mS/cm
実施例3 Li0.4Zr(SO4)0.2Cl4 0.17mS/cm
実施例4 Li0.36Zr(SO4)0.18Cl4 0.10mS/cm
実施例5 Li0.33Zr(SO4)0.17Cl4 0.02mS/cm
実施例6 Li0.29Zr(SO4)0.14Cl4 0.07mS/cm
実施例7 Li0.22Zr(SO4)0.11Cl4 0.01mS/cm
【0079】
「比較例1」
比較例1は、製造時において自転回転数を250rpm、公転回転数を250rpmとし、その後の加熱処理を行わなかった点が、実施例1と異なる。比較例1の固体電解質の組成は、実施例1と同じであった。
【0080】
また比較例1の固体電解質についても、実施例1と同様に、XRD測定及びイオン伝導度の測定を行った。比較例1の固体電解質は、X線回折パターンにおいて、回折角2θ=34.3°±0.5°及び回折角2θ=50.0°±0.5°にピークが確認されなかった。また比較例1の固体電解質のイオン伝導度は、0.003mS/cmだった。
【0081】
「比較例2」
比較例2は、製造時において自転回転数を250rpm、公転回転数を250rpmとし、その後の加熱処理を行わなかった点が、実施例2と異なる。比較例2の固体電解質の組成は、実施例2と同じであった。
【0082】
また比較例2の固体電解質についても、実施例1と同様に、XRD測定及びイオン伝導度の測定を行った。比較例2の固体電解質は、X線回折パターンにおいて、回折角2θ=34.3°±0.5°及び回折角2θ=50.0°±0.5°にピークが確認されなかった。また比較例2の固体電解質のイオン伝導度は、0.002mS/cmだった。
【0083】
実施例1~7及び比較例1、2の結果を以下の表1にまとめた。表1において、第1ピークは回折角2θ=34.3°±0.5°の範囲内のピークであり、第2ピークは回折角2θ=50.0°±0.5°の範囲内のピークであり、Ia/Ibは回折角2θ=34.3°±0.5°の範囲に確認される最大ピークの強度Iaと回折角2θ=50.0°±0.5°の範囲に確認される最大ピークの強度Ibとの強度比である。
【0084】
【0085】
第1ピーク及び第2ピークが確認された実施例1~7の固体電解質は、第1ピーク及び第2ピークが確認されない比較例1,2の固体電解質よりイオン伝導度が高かった。
10…固体電解質層、20…正極、22…正極集電体、24…正極合剤層、30…負極、32…負極集電体、34…負極合剤層、40…発電素子、50…外装体、52…金属箔、54…樹脂層、60,62…端子、100…固体電解質電池