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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114349
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】加工装置および電子部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 49/10 20060101AFI20240816BHJP
   H01L 21/301 20060101ALI20240816BHJP
   B24B 27/06 20060101ALI20240816BHJP
   B24B 49/12 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
B24B49/10
H01L21/78 F
B24B27/06 M
B24B49/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020054
(22)【出願日】2023-02-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】野中 篤裕
(72)【発明者】
【氏名】洞井 高志
(72)【発明者】
【氏名】北村 智子
【テーマコード(参考)】
3C034
3C158
5F063
【Fターム(参考)】
3C034AA07
3C034BB22
3C034BB32
3C034BB73
3C034BB92
3C034BB93
3C034CA22
3C034CA24
3C034DD10
3C034DD18
3C158AA03
3C158BA01
3C158BA09
3C158BB06
3C158BC02
3C158CB02
3C158CB03
3C158DA17
5F063AA48
5F063DD18
5F063DE12
5F063DE17
5F063DE23
5F063DE33
5F063DE38
(57)【要約】
【課題】欠陥につながるチッピング等に特徴的な振動を検出し、かつ、その振動発生時に回転ブレードが接触していたウエハ上の位置を精度よく特定できる加工装置等を提供する。
【解決手段】回転ブレードの駆動によって生じる振動を検出する第1センサと、前記第1センサとは異なり、前記回転ブレードの駆動によって生じる振動を検出する第2センサと、前記第2センサの検出結果から、前記回転ブレードの前記ワークに対する接触が始まる接触開始点に関する開始点情報を抽出する開始・途絶点情報抽出部と、前記開始点情報等と、前記第1センサの検出結果から、前記回転ブレードが前記ワークを加工している間に生じる所定の特徴的振動に関する特徴的振動情報を抽出するとともに、前記特徴的振動が生じた前記ワーク上の位置を特定する特徴的振動情報抽出部と、を有する加工装置。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転ブレードと、
前記回転ブレードを駆動するブレード駆動軸と、
加工対象であるワークを載置するテーブルと、
前記回転ブレードと前記ワークとの相対位置を変化させる位置駆動機構と、
前記回転ブレードの駆動によって生じる振動を検出する第1センサと、
前記第1センサとは、検出方式、設置位置および測定周波数のうち少なくとも1つが異なり、前記回転ブレードの駆動によって生じる振動を検出する第2センサと、
前記第2センサの検出結果から、前記回転ブレードの前記ワークに対する接触が始まる接触開始点に関する開始点情報および前記回転ブレードの前記ワークに対する接触が途絶える接触途絶点に関する途絶点情報の少なくとも一方を抽出する開始・途絶点情報抽出部と、
前記開始点情報および前記途絶点情報の少なくとも一方と、前記第1センサの検出結果から、前記回転ブレードが前記ワークを加工している間に生じる所定の特徴的振動に関する特徴的振動情報を抽出するとともに、前記特徴的振動が生じた前記ワーク上の位置を特定する特徴的振動情報抽出部と、を有する加工装置。
【請求項2】
前記第2センサは、AEセンサであることを特徴とする請求項1に記載の加工装置。
【請求項3】
前記第2センサは、前記テーブルに設けられていることを特徴とする請求項1に記載の加工装置。
【請求項4】
前記第1センサは、加速度センサであることを特徴とする請求項1に記載の加工装置。
【請求項5】
前記第1センサは、前記ブレード駆動軸または前記ブレード駆動軸を支持するブレード支持部に設けられている請求項1に記載の加工装置。
【請求項6】
前記回転ブレードによる前記ワークの加工痕を撮像し、加工痕画像データを取得する撮像手段と、
前記開始点情報および前記途絶点情報の少なくとも一方と、前記第1センサの検出結果と、前記加工痕画像データと、を用いて、加工後の前記ワークの前記加工痕における所定の形状的特徴が生じた際における前記第1センサの検出結果を特定し、前記形状的特徴が生じた際における前記第1センサの検出結果を前記特徴的振動の一つとして、前記特徴的振動情報を学習する機械学習部と、を有する請求項1に記載の加工装置。
【請求項7】
前記ワークを準備する工程と、
請求項1~6のいずれかに記載の加工装置により、前記ワークを加工する工程と、
前記特徴的振動情報抽出部が、前記特徴的振動を抽出するとともに、前記特徴的振動が生じた前記ワーク上の位置を特定する工程と、
加工後の前記ワークのうち、前記特徴的振動が生じた位置を含む部分を取り除く工程と、を有する電子部品の製造方法。
【請求項8】
前記ワークであって機械学習に用いる予備ワークを準備する工程と、
請求項6に記載の加工装置により、前記予備ワークを加工する工程と、
前記機械学習部が、加工後の前記予備ワークの加工痕における所定の形状的特徴が生じた際における前記第1センサの検出結果を特定し、前記形状的特徴が生じた際における前記第1センサの検出結果を前記特徴的振動の一つとして、前記特徴的振動情報を学習する工程と、
前記予備ワークとは別の前記ワークを準備する工程と、
前記加工装置により、前記ワークを加工する工程と、
前記特徴的振動情報抽出部が、前記特徴的振動を抽出するとともに、前記特徴的振動が生じた前記ワーク上の位置を特定する工程と、
加工後の前記ワークのうち、前記特徴的振動が生じた位置を含む部分を取り除く工程と、を有する電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工装置および加工装置を用いる電子部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば電子部品の原材料であるウエハや基板などについて、これを回転ブレードにより個片に切り出すなどの加工を行う技術が知られている。従来の加工装置による切断において、切削痕などの加工痕(カーフ)にチッピング(欠けを含む)が発生する場合がある。その原因としては、切削条件の不適合や砥石の摩耗、原材料の品質ばらつき等が考えられる。
【0003】
加工装置において、加工中に発生したチッピングを検出する方法としては、切断後のウエハ等を撮影し、画像データを解析する方法が考えられるが、加工中は切削水などがウエハ等にかけられているため、リアルタイムでの検出が難しく、生産効率の低下に繋がるなどの課題がある(特許文献1等参照)。
【0004】
一方、加工中に発生したチッピングなどをリアルタイムで検出する方法として、加工中の振動を検出および解析する方法が提案されている。チッピングなどの発生時において特徴的な振動を抽出することにより、切削水などの影響を排除して、チッピングなどをリアルタイムで検出することが可能である(特許文献2等参照)。
【0005】
しかしながら、加工中の振動を検出してチッピングを検出する従来の技術では、たとえ振動データからチッピング発生時に特徴的な振動を検出できたとしても、その振動発生時に正に回転ブレードが接触していたウエハ上の位置を特定する位置特定精度が不十分であるという課題を有する。その理由としては、ブレードの摩耗状態の変化、ウエハが設置されるテーブルとウエハとの位置関係が加工対象のウエハによって異なること、などが考えられる。そのため、ウエハが固定されるテーブルとブレード駆動軸との相対位置情報のみでは、位置特定精度が不十分であることが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015-205388号公報
【特許文献2】特開2019-206074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、欠陥につながるチッピング等に特徴的な振動を検出し、かつ、その振動発生時に回転ブレードが接触していたウエハ上の位置を精度よく特定できる加工装置等を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の加工装置は、
回転ブレードと、
前記回転ブレードを駆動するブレード駆動軸と、
加工対象であるワークを載置するテーブルと、
前記回転ブレードと前記ワークとの相対位置を変化させる位置駆動機構と、
前記回転ブレードの駆動によって生じる振動を検出する第1センサと、
前記第1センサとは、検出方式、設置位置および測定周波数のうち少なくとも1つが異なり、前記回転ブレードの駆動によって生じる振動を検出する第2センサと、
前記第2センサの検出結果から、前記回転ブレードの前記ワークに対する接触が始まる接触開始点に関する開始点情報および前記回転ブレードの前記ワークに対する接触が途絶える接触途絶点に関する途絶点情報の少なくとも一方を抽出する開始・途絶点情報抽出部と、
前記開始点情報および前記途絶点情報の少なくとも一方と、前記第1センサの検出結果から、前記回転ブレードが前記ワークを加工している間に生じる所定の特徴的振動に関する特徴的振動情報を抽出するとともに、前記特徴的振動が生じた前記ワーク上の位置を特定する特徴的振動情報抽出部と、を有する。
【0009】
本発明の加工装置は、回転ブレードの駆動によって生じる振動を検出する第1センサと第2センサとを有し、第2センサは、第1センサとは、検出方式、設置位置および測定周波数のうち少なくとも1つが異なる。本発明の発明者らは、振動を検出するセンサが1つである従来の加工装置において、チッピング発生時等に特徴的な振動を検出できるようにセンサの検出方式、設置位置および測定周波数等を最適化すると、そのセンサでは開始点情報や途絶点情報を精度よく抽出することが難しいという課題を見出した。また、本発明の発明者らは、振動を検出するセンサでありながら、第1センサとは検出方式、設置位置および測定周波数のうち少なくとも1つが異なる第2センサにより、開始点情報および途絶点情報を精度良く抽出できることを見出した。本発明に係る加工装置は、両センサの検出結果を用いて、第1センサの検出結果から抽出した特徴的振動が生じたワーク上の位置を、精度よく特定することができる。
【0010】
また、たとえば、前記第2センサは、AEセンサであってもよい。
【0011】
第2センサの検出方式は特に限定されないが、たとえばAEセンサを第2センサとして用いることにより、開始点情報や途絶点情報を精度良く検出できる。
【0012】
また、たとえば、前記第2センサは、前記テーブルに設けられていてもよい。
【0013】
第2センサをテーブルに設けることにより、回転ブレードとワークの接触・非接触の違いによる振動を、発生源の近くで効果的に検出することができる。
【0014】
また、たとえば、前記第1センサは、加速度センサであってもよい。
【0015】
第1センサの検出方式は特に限定されないが、たとえば加速度センサを第1センサとして用いることにより、チッピング等の発生に伴う所定の特徴的振動を、精度よく検出することができる。
【0016】
また、たとえば、前記第1センサは、前記ブレード駆動軸または前記ブレード駆動軸を支持するブレード支持部に設けられてもよい。
【0017】
第1センサをブレード駆動軸またはブレード支持部に設けることにより、チッピング等の発生に伴い発生し、ブレードに対して強く伝わる所定の特徴的振動を、精度よく検出することができる。
【0018】
また、本発明に係る加工装置は、前記回転ブレードによる前記ワークの加工痕を撮像し、加工痕画像データを取得する撮像手段と、
前記開始点情報および前記途絶点情報の少なくとも一方と、前記第1センサの検出結果と、前記加工痕画像データと、を用いて、加工後の前記ワークの前記加工痕における所定の形状的特徴が生じた際における前記第1センサの検出結果を特定し、前記形状的特徴が生じた際における前記第1センサの検出結果を前記特徴的振動の一つとして、前記特徴的振動情報を学習する機械学習部と、を有してもよい。
【0019】
このような加工装置は、第2センサによって精度よく開始点情報および途絶点情報を検出できるため、加工痕データと第1センサの検出結果との位置合わせについても高精度に行うことができる。そのため、加工痕においてチッピング等の所定の形状的特徴と、その形状的特徴が生じた際における第1センサの検出結果との関係を、効果的に学習することができる。
【0020】
また、本発明の第1の観点に係る電子部品の製造方法は、前記ワークを準備する工程と、
いずれかに記載の加工装置により、前記ワークを加工する工程と、
前記特徴的振動情報抽出部が、前記特徴的振動を抽出するとともに、前記特徴的振動が生じた前記ワーク上の位置を特定する工程と、
加工後の前記ワークのうち、前記特徴的振動が生じた位置を含む部分を取り除く工程と、を有する。
【0021】
このような電子部品の製造方法によれば、チッピング等が発生した加工後のワークを効率的に除去し、良品率の向上および生産の効率化を達成できる。
【0022】
また、本発明の第2の観点に係る電子部品の製造方法では、前記ワークであって機械学習に用いる予備ワークを準備する工程と、
撮像手段を有する加工装置により、前記予備ワークを加工する工程と、
前記機械学習部が、加工後の前記予備ワークの加工痕における所定の形状的特徴が生じた際における前記第1センサの検出結果を特定し、前記形状的特徴が生じた際における前記第1センサの検出結果を前記特徴的振動の一つとして、前記特徴的振動情報を学習する工程と、
前記予備ワークとは別の前記ワークを準備する工程と、
前記加工装置により、前記ワークを加工する工程と、
前記特徴的振動情報抽出部が、前記特徴的振動を抽出するとともに、前記特徴的振動が生じた前記ワーク上の位置を特定する工程と、
加工後の前記ワークのうち、前記特徴的振動が生じた位置を含む部分を取り除く工程と、を有する。
【0023】
このような電子部品の製造方法によれば、形状的特徴の位置精度と機械学習によりチッピング等が発生したワーク上の位置検出精度を効果的に向上させ、本加工中にチッピング等が発生した加工後のワークを効率的に除去し、良品率の向上および生産の効率化を達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る加工装置としての切削装置の正面図である。
図2図2は、図1に示す加工装置の側面図である。
図3図3は、加工装置の情報処理部分を示すブロック図である。
図4図4は、図1および図2に示す加工装置における第1および第2センサの配置等を説明した模式図である。
図5図5は、図1等に示す加工装置における第2センサの検出結果とウエハの切断位置との対応関係を示す概念図である。
図6図6は、図4に示す第1センサの検出結果と第2センサの検出結果とを比較した概略図である。
図7図7は、加工装置によるウエハの切断経路を示す概念図である。
図8図8は、第2実施形態に係る加工装置の情報処理部分を示すブロック図である。
図9図9は、機械学習部でのデータ処理を表す概念図である。
図10図10は、機械学習部における特徴的振動解析部で実施されるウインドウ処理の一例を示す概念図である。
図11図11は、図10に示すようなウインドウ処理されたデータから、波形の形状的特徴を抽出する計算処理を示す概念図である。
図12図12は、機械学習部における特徴的振動解析部で実施されるウインドウ処理および振動変化データの生成処理の他の一例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0026】
第1実施形態
図1および図2は、本発明の一実施形態に係る加工装置2の正面図および側面図であり、図3は、加工装置2における情報処理部分を示すブロック図である。なお、図3等を用いて後ほど説明するように、第1実施形態に係る加工装置2では、加工装置2が有する撮像手段としてのカメラ30およびカメラ30によって取得される加工痕画像データを用いないため、加工装置2では、カメラ30は必ずしも必要ではない。ただし、加工装置2では、ワーク90の加工痕を撮像するカメラ30(図8等を用いて第2実施形態に係る加工装置102において説明する。)や、ワーク90のテーブル12上の位置検出等のためのカメラなどを有していてもよい。
【0027】
加工装置2は、加工具としての回転ブレード4を有する。後述するように、回転ブレード4は、位置移動機構によりワーク90に対して相対移動し、ワーク90に接触してワーク90を切削する加工具であり、砥石という場合もある。ただし、回転ブレード4としては、ワーク90を切削するもののみには限定されず、ワーク90を研削または研磨するものも、加工装置2における回転ブレード4に含まれる。
【0028】
加工装置2は、ブレード駆動軸6を有する。回転ブレード4の中心は、回転ブレード4を駆動するブレード駆動軸6に固定されており、回転ブレード4は、ブレード駆動軸6によりY軸回りに回転可能になっている。ブレード駆動軸6は、ブレード支持部8により保持してある。ブレード支持部8は、Z軸移動機構としてのZ軸レール20によりZ軸方向に移動可能に保持されている。
【0029】
加工装置2は、回転ブレード4とワーク90との相対位置を変化させる位置駆動機構を有しており、位置駆動機構は、Z軸駆動機構としてのZ軸レール20と、Y軸駆動機構としてのY軸レール22と、X軸駆動機構としてのX軸レール16とで主に構成される。
【0030】
図1に示すように、Z軸レール20は、Y軸移動機構としてのY軸レール22によりY軸方向に移動可能に保持してある。Y軸レール22は、固定ベース18において上方に延びる支柱に固定してある。なお、図1および図2に示す加工装置2とは異なり、他の実施形態に係る加工装置では、Z軸レール20に代えて、ブレード支持部8が、回転ブレード4をY軸方向に移動させるY軸移動機構として機能する場合がある。このような他の実施形態では、ブレード支持部8が、ブレード駆動軸6をY軸に沿って移動可能に支持する。
【0031】
固定ベース18の上には、X軸移動機構として機能するX軸レール16が、X軸方向に沿って配置して固定してある。X軸レール16には、加工対象であるワーク90を載置するテーブル12が、X軸方向に移動自在に配置してある。テーブル12の上には、ワーク90と、ワーク90とテーブル12の間に配置されて切断前および切断後においてワーク90をテーブル12に固定するテープ11が、着脱自在に設けられる。なお、図2に示すように、テーブル12は、上側部分が下側部分に対してZ軸回り(θ方向)に移動可能であってもよく、このようなテーブル12によれば、ワーク90のθ方向の回転姿勢を調整できる。
【0032】
テーブル12の上表面には、ワーク90およびテープ11を着脱自在に保持するために、複数の真空吸着孔などが形成してあり、テーブル12は、その上にワーク90およびテープ11を吸着保持可能になっている。なお、真空吸着以外の手段を用いて、テーブル12の上に、ワーク90およびテープ11を着脱自在に保持してもよい。本実施形態では、X軸とY軸とZ軸とは、相互に垂直であり、Y軸が回転ブレード4の回転軸(ブレード駆動軸6の回転軸)と略一致し、Z軸が上下方向に略一致する。
【0033】
本実施形態では、X軸レール16が、テーブル12をX軸方向に移動可能に保持してあり、テーブル12、テープ11およびワーク90が、加工具としての回転ブレード4に対して、X軸方向に相対移動する。また、Y軸レール22が、Z軸レール20をY軸方向に移動可能に保持することで、Z軸レール20を介してY軸レール22が保持するブレード駆動軸6および回転ブレード4は、テーブル12上のワーク90に対して、Y軸方向に相対移動可能になっている。また、Z軸レール20が、ブレード支持部8を、Z軸方向に移動可能に保持することで、ブレード駆動軸6および回転ブレード4は、テーブル12上のワーク90に対して、Z軸方向に相対移動可能になっている。
【0034】
加工装置2によってワーク90を加工する場合、回転ブレード4が、ブレード駆動軸6によりY軸の回りに回転する。さらに、Z軸レール20が、ブレード支持部8をZ軸下方に移動させることで、回転する回転ブレード4の下端が、切断対象であるテープ11およびワーク90と同じ高さとなる。さらに、X軸レール16が、テープ11およびワーク90が載置されるテーブル12をX軸方向に移動させることで、テープ11およびワーク90は、回転する回転ブレード4に接触し、X軸方向に沿って切削されて切断される。
【0035】
なお、回転ブレード4は、ワーク90については完全に切断するが、テープ11については、テープ11の上側部分のみを切断し、下側部分を切断しないように、切断時のZ軸方向の位置(高さ)を調整される。したがって、回転ブレード4は、テープ11の下のテーブル12に対しては、直接接触しない。
【0036】
図1に示すように、加工装置2は、第1センサ40と第2センサ70を含む少なくとも2つの異なる振動検出センサを有する。第1センサ40と第2センサ70は、いずれも回転ブレード4の駆動によって生じる振動を検出する。回転ブレード4の駆動によって生じる振動には、回転ブレード4の駆動によるテープ11およびワーク90の加工・切断によって生じる振動や、回転ブレード4がワーク90やテープ11に接触する前後の振動などが含まれる。ここで、この接触する前後の振動としては、回転ブレード4がワーク90やテープ11に接触した瞬間に発生する直後の衝撃による振動、回転ブレード4がワーク90やテープ11から離間した直後に発生する衝撃による振動も含まれる。
【0037】
第1センサ40は、ブレード駆動軸6またはブレード駆動軸6を支持するブレード支持部8に設けられている。第1センサ40は、加工時においてチッピングなどのイレギュラーな加工が生じた場合において、そのイレギュラーな加工時に生じる特徴的振動を適切に検出する観点から、加工装置2における回転ブレード4およびブレード駆動軸6の近くに配置することが好ましい。ただし、第1センサ40の設置位置は、図1および図2に示す位置のみには限定されず、ブレード駆動軸6やブレード支持部8とは異なる位置に設けられてもよい。
【0038】
第1センサ40の検出方式としては特に限定されないが、たとえば第1センサ40が加速度センサであることは、イレギュラーな加工時に生じる特徴的振動を適切に検出する観点から好ましい。また、第1センサ40の最大測定周波数としては特に限定されないが、特徴的振動を適切に検出する観点から、たとえば1~300kHzとすることが好ましく、たとえば10~100kHzとすることがさらに好ましい。
【0039】
第2センサ70は、第1センサ40と同じく回転ブレード4の駆動によって生じる振動を検出するが、第2センサ70は、検出方式、設置位置および測定周波数のうち少なくとも1つが、第1センサ40とは異なる。加工装置2が有する第2センサ70は、テーブル12に設けられている。第2センサ70は、後に詳述するように、その結果から回転ブレード4のワーク90に対する接触が始まる接触開始点S1(図5参照)に関する接触開始点情報等を好適に抽出する観点から、加工装置2におけるワーク90の近くに配置することが好ましい。ただし、第2センサ70の設置位置は、図1および図2に示す位置のみには限定されず、テーブル12とは異なる位置に設けられてもよい。
【0040】
第2センサ70の検出方式としては特に限定されないが、たとえば第2センサ70が圧電素子等を用いたAEセンサであることは、第2センサ70が、後述する接触開始点S1や接触途絶点S2を適切に検出する観点から好ましい。また、第2センサ70の測定周波数としては特に限定されないが、特徴的振動を適切に検出する観点から、たとえば60~300kHzとすることが好ましく、たとえば80~150kHzとすることがさらに好ましい。
【0041】
加工装置2の情報処理部分を示す図3から理解できるように、加工装置2は、第1センサ40の検出結果等から、イレギュラーな加工時に生じる特徴的振動を検出する特徴的振動情報抽出部48を有する。また、加工装置10は、第2センサ70の検出結果等から、回転ブレード4のワーク90に対する接触が始まる接触開始点S1に関する開始点情報および回転ブレード4のワーク90に対する接触が途絶える接触途絶点S2(図5参照)に関する途絶点情報の少なくとも一方を抽出する開始・途絶点情報抽出部78を有する。
【0042】
また、図3に示す特徴的振動情報抽出部48は、第1センサ40の検出結果と、開始・途絶点情報抽出部78によって抽出された開始点情報および途絶点情報の少なくとも一方とから、回転ブレード4がワーク90を加工している間に生じる所定の特徴的振動に関する特徴的振動情報を抽出するとともに、特徴的振動が生じたワーク90上の位置を特定する。ここで、特徴的振動情報として抽出される所定の特徴的振動には、たとえばワーク90にチッピングが生じた際に生じる特徴的振動や、ワーク90に割れが生じた際に生じる特徴的振動など、イレギュラーな加工時に生じる特徴的振動が含まれる。
【0043】
加工装置2は、図3に示す第1センサ40、第2センサ70、特徴的振動情報抽出部48、開始・途絶点情報抽出部78等が連携することにより、仮にワーク90の加工中にチッピング等の加工不良が発生した場合、その加工不良が生じたワーク90上の位置を、精度良く特定することができる。図4は、加工装置2における第1センサ40および第2センサ70の設置位置周辺と、第1センサ40および第2センサ70の検出結果の出力先などを模式的に表す概念図である。
【0044】
図4に示すように、加工装置2では、ワーク90およびテープ11を載置したテーブル12が、ブレード支持部8が停止した状態で回転駆動される回転ブレード4に対して、回転ブレード4のX軸正方向側からX軸負方向に移動する。これにより、ワーク90およびテープ11は、切断前における回転ブレード4のX軸正方向側の位置から、回転ブレード4の下の位置を通過して、切断後における回転ブレード4のX軸負方向側の位置まで移動する。
【0045】
また、図7は、ワーク90の加工装置2による切断位置(切断線)を模式的に表したものである。図7に示すように、ワーク90は、多くの場合、1回だけでなく複数回(図7ではn回)切断される。このような切断は、加工装置2において、たとえば、図6に示すテーブル12のX軸方向に関する往復移動と、回転ブレード4のZ軸方向に関する往復移動およびY軸方向への移動を組み合わせることで実施される。なお、図7に示すように、ワーク90が円形であるような場合は、各カットに応じてワーク90のX軸方向の位置や、カット長さなどが異なる。
【0046】
ここで、加工装置2によるワーク90の切断において、回転ブレード4がワーク90を加工している間に生じる特徴的振動が生じたワーク90上の位置を、第1センサ40の検出結果のみから特定することには、困難性が伴う。その理由としては、ウエハが設置されるテーブルとウエハとの位置関係が加工対象のウエハによって異なることや加工中の微小な位置ずれなどが挙げられる。また、図7に示すようにワーク90が円形等である場合には、1カットごとに切断長が変化するため、摩耗や振動による僅かな位置ずれが、他の誤差と重なることにより、大きな誤差に繋がりやすいことが挙げられる。
【0047】
さらに、発明者らは、第1センサ40による検出結果から、特徴的振動情報だけでなく、開始点情報や途絶点情報等を併せて抽出することも試みた。しかしながら、第1センサ40の検出結果は、図6(A)に示すように、ワーク90の加工中に生じる加工不良に伴う特徴的振動情報の抽出のために最適化されているため、これらとはモードが異なる開始点情報や途絶点情報の抽出には必ずしも適しておらず、第1センサ40の検出結果から開始点情報や途絶点情報を抽出することは難しいとの分析結果を得た。また、第1センサ40の検出結果には、周波数処理や統計処理およびそれらの解析結果を複合的に用いる機械学習などの高度かつ多角的な情報解析のための元データとして適していることが求められる。しかしながら、開始点情報や途絶点情報を得る元データとしては、より簡易な解析方法で精度よく情報が得られることが求められるため、1つのセンサによる検出結果から、要求される性質の異なる両方のデータを得ることは難しいことが判明した。
【0048】
そのため、加工装置2は、2つの異なる振動検出センサである第1センサ40と第2センサ70とを有し、第1センサ40の検出結果と第2センサ70の検出結果の使い方を区別することにより、上述した問題を解決することができた。以下、主に図3図6を用いて、加工装置2による特徴的振動情報の抽出およびそのワーク90上の位置特定の一例について、詳細に述べる。
【0049】
図1および図2に示す加工装置2によるワーク90の加工は、ワーク90を準備した後、テーブル12に対してテープ11およびワーク90をセットして行われる。図3に示すように、加工装置2における第1センサ40および第2センサ70による検出結果は、それぞれ特徴的振動情報抽出部48と開始・途絶点情報抽出部78とに伝えられる。また、図4に示すように、特徴的振動情報抽出部48および開始・途絶点情報抽出部78は、加工装置2における固定ベース18等に設けられてもよいが、固定ベース18等に対してネットワーク等を介して接続するコンピュータシステム等によって実現されてもよい。
【0050】
なお、図3に示す特徴的振動情報抽出部48および開始・途絶点情報抽出部78を含む加工装置2の情報処理部分は、マイクロプロセッサ、記憶装置、表示装置および入力装置などを有するコンピュータシステムにより実現される。また、加工装置2の情報処理部分を実現するコンピュータシステムは、オンプレミス型、クラウド型のいずれであってもよく、オンプレミス型とクラウド型のハイブリッドであってもよい。
【0051】
図4に示すように、特徴的振動情報抽出部48および開始・途絶点情報抽出部78には、ワーク90を加工する際における第1センサ40および第2センサ70による検出結果が、リアルタイムに伝えられる。本実施形態に係る加工装置2としては、第1センサ40および第2センサ70による検出結果を、特徴的振動情報抽出部48および開始・途絶点情報抽出部78にリアルタイムに伝えるものを例に挙げて説明を行う。ただし、加工装置2としてはこれのみには限定されず、たとえば、一度記憶装置に第1センサ40および第2センサ70の検出結果を記憶させ、記憶装置に蓄積した検出結果が、特徴的振動情報抽出部48および開始・途絶点情報抽出部78に入力されるものであってもよい。
【0052】
図3の右側に示す第2センサ70は、図7に示すワーク90の最初の切断(1cut)が始まる前の任意の時点で、回転ブレード4の駆動によって生じる振動の検出を開始する。また、第2センサ70は、ワーク90の最後の切断(ncut)が終了した後の任意の時点で、回転ブレード4の駆動によって生じる振動の検出を終了する。第2センサ70は、最初の切断の開始前から最後の切断の終了後まで連続的に振動を検出してもよく、たとえば回転ブレード4がZ軸方向に上昇しておりワーク90に接触する可能性が無い状態では、一時的に振動の検出を停止してもよい。ただし、第2センサ70は、各cutにおいて、少なくとも回転ブレード4がワーク90に接触する直前から、そのcutを終えて回転ブレード4とワーク90との接触が途切れる直後までは、連続的に振動を検出することが好ましい。
【0053】
図3に示すように、加工中において第2センサ70で取得された検出結果は、開始・途絶点情報抽出部78へ送られ、開始・途絶点情報抽出部78が、第2センサ70の検出結果である第2振動信号情報72を取得する。さらに、開始・途絶点情報抽出部78は、第2振動信号情報72から、回転ブレード4のワーク90に対する接触が始まる接触開始点S1に関する開始点情報74および回転ブレード4のワーク90に対する接触が途絶える接触途絶点S2に関する途絶点情報76を抽出する(図5参照)。
【0054】
図5は、加工装置2において、ワーク90をその中心を通る切断線に沿って切断した場合において、第2センサ70で取得された第2振動信号情報72の一例を、第2振動信号情報72が取得された切断位置に対応させて表示した概念図である。図5からは、第2センサ70による第2振動信号情報72は、回転ブレード4がテープ11に対して接触を開始する時点(テープ接触開始点S3)や、回転ブレード4がテープ11から離れる時点(テープ接触途絶点S4)で、変化していることを認識できる。
【0055】
さらに、第2センサ70による第2振動信号情報72は、回転ブレード4のワーク90に対する接触が始まる接触開始点S1において、他の部分とは異なる明瞭なピークが現れており、開始・途絶点情報抽出部78は、このピークの位置(発生時)を開始点情報74として抽出する。また、図5からは、第2センサ70による第2振動信号情報72は、回転ブレード4のワーク90に対する接触が途絶える接触途絶点S2においても、接触開始点S1ほど明確ではないが、変化していることを認識できる。開始・途絶点情報抽出部78は、接触途絶点S2における特徴的に表れる波形の位置を、途絶点情報76として抽出できる。ただし、図5に示す例では、接触開始点S1において特に急峻な特徴的な波形が現れるため、開始・途絶点情報抽出部78は、開始点情報74と途絶点情報76のうち、開始点情報74のみを抽出してもよい。
【0056】
図3に示すように、開始・途絶点情報抽出部78は、抽出した開始点情報74等を、特徴的振動情報抽出部48に送る。一方、加工中において第1センサ40で取得された検出結果は、特徴的振動情報抽出部48へ送られ、特徴的振動情報抽出部48が、第1センサ40の検出結果である第1振動信号情報42を取得する。なお、第1センサ40による第1振動信号情報42の取得も、図5に示す第2センサ70による第2振動信号情報72の取得と同様に、ワーク90の最初の切断(1cut)が始まる前の任意の時点から、ワーク90の最後の切断(ncut)が終了した後の任意の時点まで、回転ブレード4の駆動によって生じる振動を検出する。
【0057】
図6は、第1センサ40で取得された第1振動信号情報42の一例(図6(A)と、これに対応する第2振動信号情報72(図6(B))とを、時間軸を揃えて表示した概念図である。なお、図6(B)に示す第2振動信号情報72は、図5に示すものと同様である。図6(A)に示す第1振動信号情報42には、図6(B)に示す第2振動信号情報72とは異なり、回転ブレード4がワーク90に対して接触し始める接触開始点S1や、回転ブレード4がワーク90に対する接触をやめる接触途絶点S2において、データを目視して認識できるような明確な変化が見られない。
【0058】
そこで、図3に示す特徴的振動情報抽出部48は、開始・途絶点情報抽出部78で抽出された開始点情報74および途絶点情報76の少なくとも一方を用いて、第1振動信号情報42における接触開始点S1および接触途絶点S2の少なくとも一方を特定する(図3における「位置特定」)。たとえば、特徴的振動情報抽出部48は、第1振動信号情報42と、開始点情報74と、第1センサ40と第2センサ70との同期情報を用いて、第2振動信号情報72において接触開始点S1が抽出された時点と同時である第1振動信号情報42上の位置を、第1振動信号情報42における接触開始点S1であると位置特定することができる。
【0059】
また、特徴的振動情報抽出部48は、第1振動信号情報42における接触開始点S1を特定することにより、図6に示すテーブルの送り速度と、第1センサ40の測定周波数から、第1振動信号情報42における任意の測定点と、その測定点が取得された時点において、回転ブレード4がまさに加工しているワーク90上の位置を、精度良く特定することができる。図3に示すように、特徴的振動情報抽出部48は、第1振動信号情報42における測定点とワーク90上の位置との対応関係を特定したのち、第1振動信号情報42から、回転ブレード4がワーク90を加工している間に生じる所定の特徴的振動45に関する特徴的振動情報(図6では第1振動信号情報42における特徴的振動45の位置のみを示す。)を抽出する。抽出される所定の特徴的振動45とは、たとえばチッピングのような、ワーク90の加工中に発生する可能性のある加工不良時に特徴的な振動などが挙げられる。
【0060】
特徴的振動情報抽出部48による特徴的振動情報の抽出は、たとえば、加工装置2が比較データ記憶部56に記憶する、チッピング時に生じる波形の形状的特徴と、第1振動信号情報42に含まれる波形の形状的特徴とを比較することによって行うことができる。ここで、波形の形状的特徴には、図6(a)に示すような第1センサ40によって取得された波形だけでなく、第1振動信号情報42に対して周波数処理や統計処理などの各種処理を行った後にあらわれる波形の形状的特徴が含まれる。この際、特徴的振動情報抽出部48は、比較の基準となる波形の形状的特徴を比較データ記憶部56から読み出したり、抽出の対象となる第1振動信号情報42に対して解析処理を行ったり、比較の基準となる波形と第1振動信号情報42から抽出される波形の近似度を算出したりする。なお、波形の形状的特徴については、特に限定されないが、後述する第2実施形態において機械学習部150が抽出するものと同様とすることができる。
【0061】
図3に示す特徴的振動情報抽出部48は、所定の特徴的振動45に関する特徴的振動情報を、対象となる第1振動信号情報42の中に発見した場合は、さらに、その特徴的振動45が生じたワーク90上の位置を特定する。特徴的振動情報抽出部48によって抽出された特徴的振動情報および特徴的振動45が生じたワーク90上の位置などの情報は、不揮発メモリなどの結果記憶部57などに記憶される。なお、加工装置2によるワーク90の加工を行い、加工後のワーク90を用いて電子部品を製造する場合は、必要に応じて、加工後のワーク90の個片のうち、特徴的振動45が生じたワーク90上の位置に該当するものを、次の製造プロセスに用いる前に取り除くことができる。
【0062】
このような加工装置2によれば、第1センサ40と第2センサ70とで構成される互いに異なる複数の振動センサにより、チッピング等の加工不良が生じたワーク90上の位置を、振動情報から適切に精度よく検出することができる。また、加工装置2は、チッピング等の加工不良の発生を、ワーク90の顕微鏡画像等によって視覚的に確認しなくても、音響振動を含む振動情報から精度よく検出できるため、生産効率を高く保ちつつ、最終製品における不良品率を下げることができる。なお、図3に示すように、加工装置2の特徴的振動情報抽出部48は、第1センサ40の第1振動信号情報42から特徴的振動情報を抽出する前に開始点の位置を特定したが、これとは異なり、第1振動信号情報42から特徴的振動情報を抽出した後に、抽出した特徴的振動情報のワーク90上の位置を、第2振動信号情報72から抽出した開始点情報から特定してもよい。
【0063】
第2実施形態
図8は、第2実施形態に係る加工装置102の情報処理部分を示すブロック図である。加工装置102における情報処理部分以外の構成は、第1実施形態に係る加工装置2と同様である。すなわち、加工装置102は、図1および図2に示す加工装置2と同様の回転ブレード4やテーブル12等を有する機械加工部分を有する一方、図8に示すような予備加工部2aと、本加工部2bとを有する情報処理部分を有する。
【0064】
加工装置102における予備加工部2aは、第1センサ40による検出結果とワーク90上に生じるチッピング等の加工不良との対応関係を学習する機械学習部150を有する。また、機械学習部150は、撮像手段としてのカメラ30で取得されたワーク90の画像データを解析する画像解析部160と、第1センサ40による検出結果を解析する特徴的振動解析部152と、を有する。なお、加工装置102における本加工部2bは、図3に示す加工装置2の情報処理部分と同様である。
【0065】
加工装置102は、機械学習に用いる予備ワークを加工し、予備ワークの加工により取得した情報を予備加工部2aで処理し、チッピング等の加工不良を第1センサ40による検出結果から抽出するための比較データを取得し、比較データ記憶部56に記憶する。さらに、加工装置102は、本加工用のワーク90を準備し、予備加工で取得・更新された比較データを用いて、第1実施形態で述べたようにワーク90の加工および加工不良の検出を行うことができる。
【0066】
なお、加工装置102において、予備ワークの加工に用いる回転ブレード4やテーブル12の機械加工部分は、本加工のワーク90に用いる回転ブレード4やテーブル12の機械加工部分と同一(同じ装置)であってもよく、異なっていてもよい。また、機械学習に用いる予備ワークとしては、本加工のワーク90と同様(同一の材質、形状)のものを用いてもよく、本加工のワーク90とは異なる学習用に準備されたワークを用いてもよい。
【0067】
なお、加工装置102については、第1実施形態に係る加工装置2との相違点を中心に説明を行い、図8に示す本加工部2bなど、加工装置2との共通点は、説明を省略する。
【0068】
加工装置102のカメラ30は、たとえば図1に示すように、ブレード支持部8に取り付けられ、回転ブレード4がワーク90を加工した結果ワーク90に形成される加工痕を、加工後または可能であればリアルタイムに撮像可能になっている。カメラ30で撮像された加工痕の一次データである加工痕画像データは、図8に示すように、機械学習部150における画像解析部160に送られる。
【0069】
一方、加工装置102では、第1センサ40の検出結果である第1振動信号情報42は、図8に示す機械学習部150の特徴的振動解析部152に入力される。機械学習部150における第1振動信号情報42の処理は、先述した特徴的振動情報抽出部48での処理とは異なる。機械学習部150での処理は、後ほど詳述する。
【0070】
一方、第2センサ70の検出結果である第2振動信号情報72は、加工装置2と同様の開始・途絶点情報抽出部78に入力され、開始・途絶点情報抽出部78では、加工装置2で行われるのと同様の処理が、第2振動信号情報72に対して行われる。すなわち、開始・途絶点情報抽出部78は、第2振動信号情報72から、開始点情報74および途絶点情報76のうち少なくとも一方を抽出し、機械学習部150に出力する。
【0071】
図9は、機械学習部150でのデータ処理を表す概念図であり、特に、図9(A)および図9(B)は、機械学習部150の画像解析部160で行われる加工痕画像エータの画像解析処理を示す概念図である。図9(A)は、カメラ30から画像解析部160に送られる加工痕画像データ32の一例を表す概念図である。図9(A)に示すように、加工痕画像データ32には、ワーク90の切削方向(加工方向)に沿う加工痕の像が含まれる。
【0072】
図8に示す画像解析部160は、たとえば、カメラ30で撮像された一次データである加工痕画像データ32(図9(A))から、加工痕画像データ32に対して画像解析を行うことにより、二次データを作り出すことができる。たとえば、画像解析部160は、図9(A)に示す加工痕画像データ32から、図9(B)に示す加工痕の時間変化に関連する加工痕変化データ34を作り出す。加工痕変化データ34は、切削方向に略垂直な切削幅(縦軸)と、切削の時間経過(横軸、切削方向の位置変化から換算)との関係を示すデータであり、図9(B)は、加工痕変化データ34をグラフとして表示したものである。
【0073】
図9(A)と図9(B)との比較から理解できるように、加工痕変化データ34からは、切削幅が変化している位置およびその変化の大きさを、数値データとして抽出可能である。画像解析部160は、たとえば、図9(B)の中央に現れているような、切削幅が所定値を超えて大きく変化している部分を、ワーク90に形成される加工痕における所定の形状的特徴として抽出することができる。加工装置102によるワーク90に対する加工で発生する所定の形状的特徴の代表例としては、加工具としての回転ブレード4によるワーク90の切削部のチッピングなどの加工不良が挙げられる。
【0074】
図8に示すように、機械学習部150における画像解析部160で検出された所定の形状的特徴に関する情報は、特徴的振動解析部152に送られる。
【0075】
図8に示す機械学習部150の特徴的振動解析部152には、第1センサ40の検出結果である第1振動信号情報42(図6(A)参照)が伝えられる。また、特徴的振動解析部152には、開始・途絶点情報抽出部78から、開始点情報74および途絶点情報76(図5参照)の少なくとも一方が伝えられる。すなわち、機械学習部150の特徴的振動解析部152には、開始・途絶点情報抽出部78からの開始点情報74等と、第1センサ40からの第1振動信号情報42と、画像解析部160で検出された加工痕の所定の形状的特徴に関する情報とが入力される。
【0076】
図8に示す特徴的振動解析部152は、開始点情報74および途絶点情報76の少なくとも一方(図6(B)参照)と、第1振動信号情報42と、加工痕の所定の形状的特徴に関する情報(加工痕変化データ34(図9(B)参照)とを用いて、加工後の予備ワークの加工痕における所定の形状的特徴が生じた際における第1振動信号情報42を特定する。
【0077】
図9(C)は、第1センサ40の検出結果に関する一次データである第1振動信号情報42の一例を表す概念図であり、加工痕変化データ34と時間軸(横軸)を揃えて表示してある。機械学習部150の特徴的振動解析部152では、まず、図3に示す特徴的振動情報抽出部48と同様に、開始・途絶点情報抽出部78で抽出された開始点情報74および途絶点情報76の少なくとも一方を用いて、第1振動信号情報42における接触開始点S1および接触途絶点S2の少なくとも一方を特定する(図8における「位置特定」)。たとえば、特徴的振動解析部152は、第1振動信号情報42と、開始点情報74と、第1センサ40と第2センサ70との同期情報を用いて、第2振動信号情報72において接触開始点S1が抽出された時点と同時である第1振動信号情報42上の位置を、第1振動信号情報42における接触開始点S1であると位置特定することができる(図6参照)。
【0078】
第1振動信号情報42における接触開始点S1を特定することにより、機械学習部150は、図9に示すように、カメラ30から取得した加工痕変化データ34と、第1センサ40から取得した第1振動信号情報42との横軸(時間軸)を、正確に揃えることができる。この後、特徴的振動解析部152は、加工後の予備ワークの加工痕における所定の形状的特徴が生じた際における第1振動信号情報42(図9(C)におけるt1~t2)を特定する。
【0079】
さらに、特徴的振動解析部152は、加工痕変化データ34における所定の形状的特徴が生じた際における第1振動信号情報42(図9(C)におけるt1~t2)を、加工痕における所定の形状的特徴が形成される際に生じる特徴的振動の一つとして抽出する。また、機械学習部150は、特徴的振動解析部152が抽出した特徴的振動に関する情報を、特徴的振動情報として比較データ記憶部56に記憶することにより、ワーク90上に生じる加工不良と第1センサ40による検出結果との対応関係を学習することができる。
【0080】
また、特徴的振動解析部152は、第1センサ40で検出された図9(C)に示す第1振動信号情報42から、第1振動信号情報42に対して解析および統計処理などを行うことにより、たとえば、図9(D)に示す振動の時間変化に関連する振動変化データ44等の二次データを作り出すことができる。
【0081】
振動変化データ44は、振動の一次データである第1振動信号情報42に対して、特定の信号処理をすることで得られる。図9(D)は、特徴的振動解析部152で作り出された振動変化データ44を示す概念図であり、信号の大きさを縦軸にとり、時間の経過を横軸にとり、振動変化データ44をプロットしたグラフである。図9(D)に示す振動変化データ44では、図9(C)に示す一次データより明確に、図9(B)に示す加工痕における所定の形状的特徴に対応する特徴的振動を抽出できる場合がある。
【0082】
すなわち、特徴的振動解析部152は、第1振動信号情報42に対して行ったのと同様にして、加工後の予備ワークの加工痕における所定の形状的特徴が生じた際における振動変化データ44(図9(D)におけるt1~t2)を特定する。さらに、特徴的振動解析部152は、加工痕変化データ34における所定の形状的特徴が生じた際における振動変化データ44(図9(D)におけるt1~t2)を、加工痕における所定の形状的特徴が形成される際に生じる特徴的振動の一つを見つけるための目印として抽出する。また、機械学習部150は、特徴的振動解析部152が抽出した振動変化データ44に関する情報を、特徴的振動情報として比較データ記憶部56に記憶する。
【0083】
また、特徴的振動解析部152は、加工痕において所定の形状的特徴が生じた際に取得される振動変化データ44の値を複数収集し、それを統計的に処理することにより、本加工において、振動変化データ44から特徴的振動を抽出するための閾値46を算出することができる。たとえば、加工装置102は、図4(D)に示す振動変化データ44が破線で示す閾値46以上の場合には、回転ブレード4によるワーク90の加工において、チッピングなどの加工不良(製品不良になる程度の加工不良)が発生していると判断できる。機械学習部150は、このような振動変化データ44に関する閾値46についても、特徴的振動情報として、比較データ記憶部56に記憶することができる。
【0084】
このように、加工装置102では、図8に示す予備加工部2aにおける機械学習部150が、カメラ30、第1センサ40および第2センサ70の検出結果を用いて、チッピングなどの加工不良が生じた際における第1センサ40の検出結果を特定し、これを、加工不良時に生じる特徴的振動の一つとして、特徴的振動情報を学習する。機械学習部150の学習結果は、比較データ記憶部56に保存される。
【0085】
さらに、加工装置102では、図8に示す本加工部2bにより、図3に示す加工装置2と同様に、ワーク90の加工および加工時に発生する不良ワークの抽出が行われる。加工装置102による本加工では、予備加工で使用したワークとは別のワーク90を準備し、そのワーク90を図1および図2に示すような加工装置102の機械加工部分により加工する。本加工部2bの特徴的振動情報抽出部48は、機械学習部150の学習により更新された比較データ記憶部56の情報を用いて、第1センサ40の検出結果から加工不良時に生じる特徴的振動を抽出する。また、本加工部2bの特徴的振動情報抽出部48は、特徴的振動が抽出されたワーク90上の位置を特定し、必要に応じて、加工後のワーク90から、特徴的振動が生じた位置を含む部分を取り除く。
【0086】
このような加工装置102では、図9に示すようにカメラ30によるデータ32、34と、第1センサ40によるデータ42、44との時間軸(または加工方向の位置)を、第1センサ40とは異なる第2センサ70によって接触開始点に関する開始点情報74や接触途絶点に関する途絶点情報76を検出してこれを用いることにより(図5および図6参照)、極めて高精度に揃えることができる。したがって、チッピングなどの加工不良が生じた際における第1センサ40の検出結果を正確に特定することが可能であり、機械学習部150による学習効果を高めることができる。
【0087】
以上のように、本開示に係る加工装置2、102および加工装置2、102を用いる電子部品の製造方法について、複数の実施形態を挙げて説明をおこなったが、本開示の技術的範囲については、これらの実施形態のみには限定されない。たとえば、図3および図8に示す特徴的振動情報抽出部48では、比較データ記憶部56から読み出されるデータに応じて、第1振動信号情報42に対して周波数処理や統計処理などの各種処理を行い、処理後のデータと比較データ記憶部56から読み出されたデータとを比較して、特徴的振動情報を抽出してもよい。
【0088】
また、図9に示す例では、カメラ30から取得した切削痕変化データ34と、第1センサ40から取得した第1振動信号情報42との横軸を時間としているが、各データの横軸は、ワーク90の加工方向(X軸方向)に沿う位置に置き換えることができ、また、各データの横軸を加工方向に沿う位置として、演算処理をおこなってもよい。また、加工装置2、102の特徴的振動解析部152や特徴的振動情報抽出部48では、機械学習部150における機械学習を効果的に行うために、または、機械学習の学習結果を効果的に利用するために、第1振動信号情報42に対してウインドウ処理が行われてもよい。
【0089】
図10は、図8に示す加工装置102の機械学習部150における特徴的振動解析部152で実施されるウインドウ処理の一例を示す概念図である。図10に示すように、特徴的振動解析部152では、第1センサ40から取得した第1振動信号情報42について、細かい時間領域(ウインドウ)に分けるウインドウ処理を行い、ウインドウごとに波形的特徴を抽出することができる。
【0090】
たとえば、図10に示すように、特徴的振動解析部152は、第1振動信号情報42における0.286mmのデータを1ウインドウとして、1%(2.86μm)ずつ加工方向に位置をずらしながら(ウインドウのオーバーラップ率99%)、ウインドウを設定する。さらに、特徴的振動解析部152は、各ウインドウについての波形の形状的特徴を抽出し、これらで振動変化データを構成することができる。
【0091】
図11は、図10に示すようなウインドウ処理されたデータから、波形の形状的特徴を抽出する計算処理を示す概念図である。図11に示すように、特徴的振動解析部152は、各ウインドウについてウインドウの位置、波形の最大値、最小値、平均値、振幅、標準偏差、高速フーリエ変換の出力値などを抽出し、これらで振動変化データ144aを構成することができる。
【0092】
図12は、図8に示す加工装置102の機械学習部150における特徴的振動解析部152で実施されるウインドウ処理および振動変化データ144bの生成処理の他の一例を示す概念図である。図12に示すように、特徴的振動解析部152では、第1センサ40から取得した第1振動信号情報42について、所定のバンド幅でフィルタリングを行うことで信号成分増幅波形とノイズ成分増幅波形を生成し、これらをウインドウ処理したのち比較することで、振動変化データ144bを抽出することができる。
【0093】
特徴的振動解析部152は、たとえば、回転ブレード4の回転周波数の整数倍の周波数について、所定のバンド幅でフィルタリングを行うことで、信号成分増幅波形を得ることができる。また、特徴的振動解析部152は、回転ブレード4の回転周波数の((2n+1)/2)倍(nは整数)の周波数について、所定のバンド幅でフィルタリングを行うことで、ノイズ成分増幅波形を得ることができる。さらに、特徴的振動解析部152は、信号成分増幅波形とノイズ成分増幅波形をウインドウ処理し、各ウインドウについて信号成分増幅波形とノイズ成分増幅波形のエネルギーを算出し、2つの波形エネルギーの比と差分により、振動変化データ144bを構成する。
【0094】
また、図8に示す加工装置102の機械学習部150において、第1センサ40の一次データおよび二次データから、加工不良に対応する特徴的振動を抽出する計算方法や、特徴的振動を抽出する計算方法の機械学習による最適化手法については、特に限定されない。たとえば、機械学習部150は、第1センサ40の検出結果から算出される各ウインドウの特性値(図11図12参照)と、カメラ30の画像データ解析から得られるウインドウに対応する位置でのチッピング(所定の形状的特徴)発生の有無、若しくはそのウインドウとチッピング発生位置との距離との関係を、ランダムフォレストやディープラーニングなどの手法を用いて、学習することができる。
【0095】
また、加工装置102の別の機械学習部としては、第1センサ40の一次データおよび二次データに加えて、第2センサ70の検出結果等から得られる開始・途絶点情報抽出部78のデータを、振動の特徴量として用いることも可能である。これによると、第1センサ40の検出結果と第2センサの検出結果をそれぞれ振動情報として比較することによって、よりチッピングの検出精度を高めることが可能となる。
【符号の説明】
【0096】
2、120… 加工装置
2a…予備加工部
2b…本加工部
4…回転ブレード(加工具)
6…ブレード駆動軸(駆動軸)
8…ブレード支持部
11…テープ
12…テーブル
16…X軸レール(X軸移動機構)
18…固定ベース
20…Z軸レール(Z軸移動機構)
22…Y軸レール(Y軸移動機構)
30…カメラ(撮像手段)
32…加工痕画像データ
34…加工痕変化データ
40…第1センサ
42…第1振動信号情報
44、144a、144b…振動変化データ
45…特徴的振動
46…閾値
48…特徴的振動情報抽出部
150… 機械学習部
152…特徴的振動解析部
56…比較データ記憶部
57…結果記憶部
160…画像解析部
70…第2センサ
72…第2振動信号情報
74…開始点情報
76…途絶点情報
78…開始・途絶点情報抽出部
90…ワーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12