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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114351
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】車両制御装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20240816BHJP
   B60W 30/12 20200101ALI20240816BHJP
   B60W 40/06 20120101ALI20240816BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20240816BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20240816BHJP
【FI】
B62D6/00 ZYW
B60W30/12
B60W40/06
B62D101:00
B62D113:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020062
(22)【出願日】2023-02-13
(71)【出願人】
【識別番号】000005463
【氏名又は名称】日野自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100130052
【弁理士】
【氏名又は名称】大阪 弘一
(72)【発明者】
【氏名】佃 駿甫
【テーマコード(参考)】
3D232
3D241
【Fターム(参考)】
3D232CC20
3D232DA04
3D232DA24
3D232DA33
3D232DA77
3D232DA78
3D232DA84
3D232DA87
3D232DA90
3D232DC38
3D232DD02
3D232DD17
3D232EA01
3D232EB04
3D232EB16
3D232EC34
3D232GG01
3D241BA12
3D241CE01
3D241CE04
3D241CE05
3D241CE09
3D241DB01Z
3D241DB02Z
3D241DB05Z
3D241DB12Z
3D241DB32Z
3D241DB40Z
3D241DC43Z
(57)【要約】
【課題】車線維持性能の低下を抑制可能な車両制御装置を提供する。
【解決手段】車両制御装置1は、自車両OCの車線維持支援を行うためのものであって、自車両OCの車速Vを取得する車速取得部11と、自車両OCの走行車線TWの曲率Kを取得する曲率取得部12と、走行車線TWの基準線CLと自車両OCの前方注視点FPとの誤差eを取得する誤差取得部13と、車速Vと曲率Kとに基づいて自車両OCの車体スリップ角βを算出する算出部14と、車体スリップ角βに応じて誤差eを補償し、補償後誤差e’を取得する誤差補償部15と、補償後誤差e’に応じて自車両OCの目標ヨーレイトを決定する目標ヨーレイト決定部16と、を備える。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車線維持支援を行うための車両制御装置であって、
前記車両の車速を取得する車速取得部と、
前記車両の走行車線の曲率を取得する曲率取得部と、
前記走行車線の基準線と前記車両の前方注視点との誤差を取得する誤差取得部と、
前記車速と前記曲率とに基づいて前記車両の車体スリップ角を算出する算出部と、
前記車体スリップ角に応じて前記誤差を補償し、補償後誤差を取得する補償部と、
前記補償後誤差に応じて前記車両の目標ヨーレイトを決定する決定部と、
を備える車両制御装置。
【請求項2】
前記算出部は、前記車速が基準車速よりも小さい場合に、前記補償後誤差が前記誤差よりも小さくなるように前記車体スリップ角を算出すると共に、前記車速が前記基準車速よりも大きい場合に、前記補償後誤差が前記誤差よりも大きくなるように前記車体スリップ角を算出する、
請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項3】
前記曲率と前記車速とを含む前記車体スリップ角を表す数式を保持する保持部を備え、
前記算出部は、前記曲率及び前記車速の入力を受け、当該数式に基づいて前記車体スリップ角を算出する、
請求項1又は2に記載の車両制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両制御装置が記載されている。この車両制御装置は、CCDカメラにより撮影された路面の画像に基づいて車両が走行している車線の右側及び左側のレーンマークを認識するレーンマーク認識部を備えている。また、この車両制御装置は、左右のレーンマークにより規定される車線の幅方向の中心を走行するように転舵角を制御する制御装置を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6390095号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車線維持支援機能を実現するに際して、走行車線の中心と車両の前方注視点との乖離距離を算出し、当該乖離距離に応じて目標ヨーレイトを決定する場合がある。また、このように目標ヨーレイトを決定する場合に、車両の向きと実際に進行している方向との角度である車体スリップ角が生じているにも関わらず、当該角度を0と見做す場合がある。この場合、車線維持性能が低下するおそれがある。
【0005】
そこで、本開示は、車線維持性能の低下を抑制可能な車両制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る車両制御装置は、車両の車線維持支援を行うための車両制御装置であって、車両の車速を取得する車速取得部と、車両の走行車線の曲率を取得する曲率取得部と、走行車線の基準線と車両の前方注視点との誤差を取得する誤差取得部と、車速と曲率とに基づいて車両の車体スリップ角を算出する算出部と、車体スリップ角に応じて誤差を補償し、補償後誤差を取得する補償部と、補償後誤差に応じて車両の目標ヨーレイトを決定する決定部と、を備える。
【0007】
この車両制御装置では、誤差取得部が、車両の走行車線の基準線(例えば中心線)と車両の前方注視点との誤差を取得する。したがって、この誤差を解消するように目標ヨーレイトを決定し、当該目標ヨーレイトに応じて車両制御を行えば、基本的な車線維持機能が実現され得る。しかし、上述したように、車体スリップ角を考慮しない場合、車線維持性能が低下するおそれがある。これに対して、本発明者の知見によれば、車両に生じる車体スリップ角は、車両の車速と走行車線の曲率とに基づいて算出され得る。そこで、この車両制御装置では、補償部が、誤差取得部が取得した誤差を、算出部が車速と曲率とに基づいて算出した車体スリップ角に基づいて補償することで、車体スリップ角が補償された補償後誤差を取得する。そして、決定部が、当該補償後誤差に応じて目標ヨーレイトを決定する。このように、目標ヨーレイトの決定に際して車体スリップ角を考慮することにより、車線維持性能の低下が抑制される。
【0008】
ここで、車両の走行車線の基準線(例えば中心線)と車両の前方注視点との誤差は、車速がある基準値よりも小さいときには、車線維持に本来必要な横偏差よりも大きな値が取得される結果、余分な操舵が発生してカーブインしてしまうおそれがある。一方、車速がある基準値よりも大きいときには、車線維持に本来必要な横偏差よりも小さな値が取得される結果、操舵が足りずにカーブアウトしてしまうおそれがある。
【0009】
これに対して、本開示に係る車両制御装置では、算出部は、車速が基準車速よりも小さい場合に、補償後誤差が誤差よりも小さくなるように車体スリップ角を算出すると共に、車速が基準車速よりも大きい場合に、補償後誤差が誤差よりも大きくなるように車体スリップ角を算出してもよい。この場合、そのように算出された車体スリップ角による補償後の誤差に基づいて目標ヨーレイトを決定することにより、過不足なく操舵を行うことが可能となる。
【0010】
本開示に係る車両制御装置は、曲率と車速とを含む車体スリップ角を表す数式を保持する保持部を備え、算出部は、曲率及び車速の入力を受け、当該数式に基づいて車体スリップ角を算出してもよい。このように、車体スリップ角を算出するための数式を予め保持し、当該数式を用いて車体スリップ角を算出するようにすれば、容易且つ確実に車線維持性能の低下を抑制可能となる。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、車線維持性能の低下を抑制可能な車両制御装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本実施形態に係る車両制御装置を含む車両システムの機能的構成を示すブロック図である。
図2図2は、自車両の走行車線を示す模式的な平面図である。
図3図3は、車体スリップ角を説明するための模式的な平面図である。
図4図4は、車体スリップ角と誤差との関係を示す模式的な平面図である。
図5図5は、車体スリップ角に応じて誤差を補償する様子を示す模式的な平面図である。
図6図6は、一実施形態に係る車両制御方法の一工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本実施形態に係る車両制御装置について説明する。なお、各図の説明において、同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する場合がある。
【0014】
図1は、本実施形態に係る車両制御装置を含む車両システムの機能的構成を示すブロック図である。図1に示されるように、車両システム100は、車両制御装置1、外部センサ2、内部センサ3、及び、操舵アクチュエータ4を備えている。車両システム100を搭載する車両は、一例としてトラックやバス等の大型車両であるが、小型車であってもよい。以下、車両システム100(車両制御装置1)を搭載する車両を自車両OCという(図2以降参照)。
【0015】
外部センサ2は、自車両OCの周辺情報を取得する。周辺情報には、自車両OCの周囲に存在する物体の位置、形状及び色彩等に関する情報が含まれる。自車両OCの周囲に存在する物体としては、他車両、障害物、歩行者、信号機、道路標識及び路面ペイント等が挙げられる。外部センサ2は、少なくともカメラを含む。その他、外部センサ2は、ミリ波レーダ又はライダー(LIDAR:Laser Imaging Detection and Ranging)等のレーダセンサを含んでもよい。
【0016】
カメラは、例えば自車両OCのフロントガラスに設けられ、自車両OCの前方を撮像する。カメラは、単眼カメラであってもよく、ステレオカメラであってもよい。ステレオカメラは、両眼視差を再現するように配置された二つの撮像部を有する。ステレオカメラの撮像情報には、奥行き方向の情報も含まれる。
【0017】
内部センサ3は、自車両OCに関する車両情報を収集する。車両情報には、少なくとも自車両OCの速度及びヨーレイトが含まれる。すなわち、内部センサ3は、少なくとも、車速センサ及びヨーレイトセンサを含む。その他、内部センサ3は、加速度センサ等を含んでもよい。
【0018】
車速センサは、自車両OCの車速を検出する。車速センサとしては、例えば、自車両OCの車輪又は車輪と一体に回転するドライブシャフトに設けられ、車輪の回転速度を検出する車輪速センサが用いられ得る。ヨーレイトセンサは、自車両OCの重心の鉛直軸周りのヨーレイト(回転角速度)を検出する。ヨーレイトセンサとしては、例えばジャイロセンサが用いられる。
【0019】
操舵アクチュエータ4は、車両制御装置1からの制御信号に応じて電動パワーステアリングシステムの駆動を制御する。電動パワーステアリングシステムの駆動が制御されることにより、自車両OCの操舵角が制御される。
【0020】
車両制御装置1は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、CAN(Controller Area Network)通信回路などを有する電子制御ユニットである。車両制御装置1は、例えばCAN通信回路を用いて通信するネットワークに接続され、自車両OCの各構成要素と通信可能に接続される。車両制御装置1は、例えば、CPUが出力する信号に基づいて、CAN通信回路を動作させてデータを入出力し、データをRAMに記憶し、ROMに記憶されているプログラムをRAMにロードし、RAMにロードされたプログラムを実行することで、後述する各種機能を実現する。車両制御装置1は、複数の電子制御ユニットから構成されてもよい。
【0021】
車両制御装置1は、外部センサ2、内部センサ3及び操舵アクチュエータ4と通信可能に接続されている。車両制御装置1は、外部センサ2及び内部センサ3から各種情報を受信し、自車両OCが目標経路に沿って走行するように操舵制御を実行して自車両OCの横位置を制御する。すなわち、車両制御装置1は、自車両OCの車線維持支援を行うことができる。なお、横位置とは、自車両OCが走行する走行車線の横方向の位置である。横方向は、自車両OCの幅方向に平行な方向である。
【0022】
車両制御装置1は、自車両OCの車線維持支援のため、車速取得部11、曲率取得部12、誤差取得部13、算出部14、誤差補償部15(補償部)、目標ヨーレイト決定部16(決定部)、目標操舵角決定部17、制御部18、及び、保持部19を備えている。さらに、車両制御装置1は、自車両OCの走行車線を検出するための車線検出部(不図示)を備えてもよい。
【0023】
この場合、車線検出部は、図1及び図2に示されるように、外部センサ2によって取得された自車両OCの周辺情報に基づいて自車両OCの前方の走行車線TWを検出する。車線検出部は、例えばカメラによって撮像された自車両OCの前方の画像から自車両OCの走行車線TWの左右一対の区画線(例えば白線)RRを抽出し、当該一対の区画線RRの間の領域を走行車線TWとして認識する。また、車線検出部は、走行車線TWの曲率等の形状を取得することができる。なお、車線検出部は、GPS受信器等によって測定された自車両OCの現在位置と地図情報とに基づいて走行車線TW(及び走行車線TWの曲率等)を認識してもよい。また、車線検出部は、走行車線TWに対して基準線CLを設定することができる。基準線CLは、例えば、一対の区画線RRの中心を通る中心線である。
【0024】
車速取得部11は、内部センサ3を介して、自車両OCの車速を取得する。曲率取得部12は、例えば上記の車線検出部を介して走行車線TWの曲率を取得する。誤差取得部13は、走行車線TWの基準線CLと自車両OCの前方注視点FPとの誤差eを取得する。前方注視点FPは、自車両OCの将来位置である。より具体的には、前方注視点FPは、自車両OCの重心点から自車両OCの進行方向に前方注視距離lだけ離れた位置である。誤差eは、横偏差であって、前方注視点LPと基準線CLとの横方向の距離である。
【0025】
ここで、図3に示されるように、自車両OCの走行時には、自車両OCの向きDcと自車両OCの実際の進行方向Dpとの角度を意味する車体スリップ角βが発生している。ここでは、車体スリップ角βについて、自車両OCの向きDcに対して自車両OCの実際の進行方向Dpが反時計回りに位置しているときに正と定義する。自車両OCのカーブ路における車線維持支援を行う際に、この車体スリップ角βを考慮しないと(車体スリップ角βを0とすると)、車線維持性能が低下するおそれがある。
【0026】
より具体的には、図4の(a)に示されるように自車両OCが比較的に低速で走行している場合、前方注視点LPと基準線CLとの誤差eを解消すべく操舵制御を行うと、図4の(b)に示されるように、自車両OCの向きDcと実際の進行方向Dpとの間の車体スリップ角βの分だけ余計に舵を切ることとなり、カーブインしてしまうおそれがある。したがって、この場合には、車体スリップ角βの分だけ誤差eを補償して得られる補償後誤差e’に基づいて操舵制御を行うことが望ましい。
【0027】
一方、図4の(c)に示されるように自車両OCが比較的に高速で走行している場合、前方注視点LPと基準線CLとの誤差eを解消すべく操舵制御を行うと、図4の(d)に示されるように、自車両OCの向きDcと実際の進行方向Dpとの間の車体スリップ角βの分だけ舵が足らないため、カーブアウトしてしまうおそれがある。したがって、この場合にも、車体スリップ角βの分だけ誤差eを補償して得られる補償後誤差e’に基づいて操舵制御を行うことが望ましい。
【0028】
そこで、車両制御装置1では、算出部14が、車速取得部11が取得した自車両OCの車速と、曲率取得部12が取得した走行車線TWの曲率とに基づいて車体スリップ角βを算出すると共に、誤差補償部15が、当該算出部14により算出された車体スリップ角βに応じて誤差eを補償して補償後誤差e’を取得する。車両制御装置1では、保持部19が、曲率と車速とを含む車体スリップ角βを表す数式を保持しており、算出部14は、曲率及び車速の入力を受け、当該数式に基づいて車体スリップ角βを算出する。
【0029】
引き続いて、車体スリップ角βの算出について説明する。まず、一般的に、ヨーレイトγ[rad/s]及び車体スリップ角β[rad]は、等価二輪モデルにより下記式(1)及び(2)のように表現される。なお、下記式(1),(2)では、操舵角δ[rad]、車速V[m/s]、車両重量m[kg]、ホイールベースl[m]、前輪~重心距離l[m]、後輪~重心距離l[m]、前輪コーナリングパワー(1輪)C[N/rad]、及び、後輪コーナリングパワー(1輪)C[N/rad]が使用されている。
【数1】

【数2】
【0030】
上記の等価二輪モデルでは、タイヤが2つという前提で前輪コーナリングパワーCf及び後輪コーナリングパワーCrが使用されているが、自車両OCが例えばトラックである場合、軸数が多くなったりタイヤが複数の場合もあったりするため、トータルの前輪コーナリングパワー(全輪)Cfa=2×前輪コーナリングパワーC、及び、トータルの後輪コーナリングパワー(全輪)Cra=2×後輪コーナリングパワーCとして、上記式(1),(2)を下記式(3),(4)のように式変形する。
【数3】

【数4】
【0031】
さらに、上記式(3),(4)を整理して下記式(5),(6)を得る。
【数5】

【数6】
【0032】
ここで、操舵角δをヨーレイトγで表すと下記式(7)となる。
【数7】
【0033】
この上記式(7)を、車体スリップ角βを表す上記式(6)に代入することにより、下記式(8)が得られる、下記式(8)を整理すると、車体スリップ角βを表す下記式(9)が得られる。
【数8】

【数9】
【0034】
ここで、ヨーレイトγと曲率K(1/m)とは、下記式(10)の関係がある。
【数10】
【0035】
上記式(10)をヨーレイトγについて解いて上記式(9)に代入すると、車体スリップ角βは下記式(11)により表される。
【数11】
【0036】
ここで、自車両OCのリア軸にn個のタイヤが装着されていると想定すると、後輪コーナリングパワーCraはリア軸に生じるコーナリングパワーの和であるため、1個のタイヤでのコーナリングパワーをコーナリングパワーCrt[N/rad]とすると、下記式(12)により表される。
【数12】
【0037】
また、リアの1個のタイヤに負荷される荷重を荷重Nrt[N]とすると、荷重Nrtは、リアに負荷されている荷重mと重力加速度g[m/s]とを用いて、下記式(13)となる。
【数13】
【0038】
さらに、1個のタイヤでのコーナリングパワーCrtをコーナリングパワー係数C[1/deg]で表現すると、下記式(14)となる。
【数14】
【0039】
以上により、後輪コーナリングパワーCraは、下記式(15)となり、下記式(15)を整理することで、下記式(16)により表される。
【数15】

【数16】
【0040】
そして、上記式(16)で表される後輪コーナリングパワーCraを上記式(11)
に代入すると、下記式(17)が得られる。
【数17】
【0041】
ここで、前輪~重心距離lをリア軸の荷重mr、車両重量m、及びホイールベースlで表現すると、下記式(18)となる。
【数18】
【0042】
車体スリップ角βは、上記式(18)で表される前輪~重心距離lを上記式(17)に代入することで下記式(19)のように表される。そして、車体スリップ角βは、下記式(19)を整理して得られる下記式(20)をさらに整理することで、下記式(21)により表される。
【数19】

【数20】

【数21】
【0043】
以上により、車体スリップ角βは、予め取得可能な値である後輪~重心距離l、コーナリングパワー係数C、及び重力加速度gと、変数である車速V及び曲率Kとを含む(車速V及び曲率Kによって変動する)数式(上記式(21))により表現されることが理解される。後輪~重心距離l、コーナリングパワー係数C、及び重力加速度gは、一例として、予め取得されて保持部19に保持されている。
【0044】
したがって、算出部14は、適宜のタイミングにおいて、曲率K及び車速Vの入力を受け、各値を上記式(21)に代入することで、車体スリップ角βを算出することができる。そして、誤差補償部15は、図5に示されるように、算出部14が算出した車体スリップ各βに応じて、誤差eを補償し、前方注視点FPにおける補償後誤差e’を取得する。より具体的には、誤差補償部15は、下記式(22)を用いて補償後誤差e’を算出することができる。ただし、車体スリップ角βが十分に小さい場合、下記式(22)を近似して得られる下記式(23)により補償後誤差e’を算出することができる。
【数22】

【数23】
【0045】
なお、上記式(21)からも理解されるように、車速Vが0から一定値(車速Vの項が後輪~重心距離lに一致する値)に至るまでの低速の範囲では、車体スリップ角βは正の値であり、車速Vが当該一定値よりも大きい高速の範囲では、車体スリップ角βが負の値となる。
【0046】
図4の(a),(b)の例では、車速Vが低速であって車体スリップ角βが正であり、カーブの方向と一致する反時計回りに生じているため、この車体スリップ角βを補償することにより、補償後誤差e’が誤差eよりも小さくなる。一方で、図4の(c),(d)の例では、車速Vが高速であって車体スリップ角βが負であり、カーブの方向と反対の時計回りに生じているため、この車体スリップ角βを補償することにより、補償後誤差e’が誤差eよりも大きくなる。
【0047】
つまり、ここでは、算出部14は、車速Vが基準車速(上記の一定値)よりも小さい場合に、補償後誤差e’が誤差eよりも小さくなるように車体スリップ角βを算出すると共に、車速Vが基準車速よりも大きい場合に、補償後誤差e’が誤差eよりも大きくなるように車体スリップ角βを算出することとなる。
【0048】
目標ヨーレイト決定部16は、以上のように得られた補償後誤差e’に応じて(補償後誤差e’が解消されるように)自車両OCの目標ヨーレイトを決定する。目標操舵角決定部17は、自車両OCのヨーレイトを、目標ヨーレイト決定部16が決定した目標ヨーレイトにするための目標操舵角を、動力学モデルを用いて算出することができる。例えば、目標操舵角決定部17は、自車両OCの動力学的な挙動を表す公知の運動方程式を解くことにより、目標ヨーレイトに対応する目標操舵角を算出することができる。
【0049】
そして、制御部18は、自車両OCの操舵角が目標操舵角決定部17によって決定された目標操舵角になるように操舵アクチュエータ4を制御する。これにより、自車両OCの重心点が基準線CLに追従するように自車両OCの横位置が制御される(すなわち、車線維持支援が行われる)。
【0050】
引き続いて、車両制御装置1が実施する車両制御方法の一例について説明する。図6は、一実施形態に係る車両制御方法の一工程を示すフローチャートである。図6に示されるように、この方法では、まず、車速取得部11が、内部センサ3を介して、自車両OCの車速Vを取得する(工程S11)。これと共に、曲率取得部12が、例えば車線検出部を介して走行車線TWの曲率Kを取得する(工程S12)。さらに、誤差取得部13が、走行車線TWの基準線CLと自車両OCの前方注視点FPとの誤差eを取得する(工程S13)。工程S11~S13の順序は任意である。
【0051】
続いて、算出部14が、工程S11で取得された車速V及び曲率Kに基づいて、自車両OCの車体スリップ角βを算出する(工程S14)。ここでは、一例として、保持部19に保持された上記式(21)に対して、車速V及び曲率K(さらには、保持部19に保持された他の値)を代入することより、車体スリップ角βを算出することができる。
【0052】
続いて、誤差補償部15が、工程S14で算出された車体スリップ角βに応じて誤差eを補償し、補償後誤差e’を取得する(工程S15)。続いて、目標ヨーレイト決定部16が、工程S15で取得された補償後誤差e’に応じて自車両OCの目標ヨーレイトを決定する(工程S16)。続いて、目標操舵角決定部17が、自車両OCのヨーレイトを、工程S16で決定された目標ヨーレイトにするための目標操舵角を、動力学モデルを用いて算出(決定)する(工程S17)。そして、制御部18が、自車両OCの操舵角が工程S17で決定された目標操舵角になるように操舵アクチュエータ4を制御する。これにより、自車両OCの重心点が基準線CLに追従するように自車両OCの横位置が制御される(すなわち、車線維持支援が行われる)。
【0053】
以上説明したように、本実施形態に係る車両制御装置1では、誤差取得部13が、自車両OCの走行車線TWの基準線CL(例えば中心線)と自車両OCの前方注視点FPとの誤差eを取得する。したがって、この誤差eを解消するように目標ヨーレイトを決定し、当該目標ヨーレイトに応じた操舵角により車両制御を行えば、基本的な車線維持機能が実現され得る。さらに、本実施形態に係る車両制御装置1では、誤差補償部15が、誤差取得部13が取得した誤差eを、算出部14が車速Vと曲率Kとに基づいて算出した車体スリップ角βに基づいて補償することで、車体スリップ角βが補償された補償後誤差e’を取得する。そして、目標ヨーレイト決定部16が、当該補償後誤差e’に応じて目標ヨーレイトを決定する。このように、目標ヨーレイトの決定に際して車体スリップ角βを考慮することにより、車線維持性能の低下が抑制される。
【0054】
また、本実施形態に係る車両制御装置1では、算出部14が、車速Vが基準車速(上記の一定値)よりも小さい場合に、補償後誤差e’が誤差eよりも小さくなるように車体スリップ角βを算出すると共に、車速Vが基準車速(上記の一定値)よりも大きい場合に、補償後誤差e’が誤差eよりも大きくなるように車体スリップ角βを算出する。このため、そのように算出された車体スリップ角βで補償された補償後誤差e’に基づいて目標ヨーレイトを決定することにより、過不足なく操舵を行うことが可能となる。
【0055】
さらに、本実施形態に係る車両制御装置1は、曲率Kと車速Vとを含む車体スリップ角βを表す数式(例えば上記式(21))を保持する保持部19を備えている。そして、算出部14は、車速取得部11及び曲率取得部12のそれぞれから、車速V及び曲率Kのそれぞれの入力を受け、当該数式に基づいて車体スリップ角βを算出する。このように、車体スリップ角βを算出するための数式を予め保持し、当該数式を用いて車体スリップ角βを算出するようにすれば、容易且つ確実に車線維持性能の低下を抑制可能となる。
【0056】
以上の実施形態は、本発明の一態様について説明したものである。したがって、本発明は、上記実施形態に限定されず、任意に変形され得る。
【0057】
例えば、上記実施形態では、走行車線TWの基準線CLとして走行車線TWの中心線を例示したが、基準線CLは、走行車線TWの中心線に対して左右のいずれかにシフトして任意に設定されてもよい。
【符号の説明】
【0058】
1…車両制御装置、11…車速取得部、12…曲率取得部、13…誤差取得部、14…算出部、15…誤差補償部(補償部)、16…目標ヨーレイト決定部(決定部)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6