IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ダイキン工業株式会社の特許一覧

特開2024-114357細胞培養基板、バイオチップ又はチューブを形成するためのフッ素樹脂
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114357
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】細胞培養基板、バイオチップ又はチューブを形成するためのフッ素樹脂
(51)【国際特許分類】
   C08F 24/00 20060101AFI20240816BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20240816BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20240816BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
C08F24/00
C12M1/00 A
C12M1/00 C
C12Q1/02
C12N1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】24
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020075
(22)【出願日】2023-02-13
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 悠希
(72)【発明者】
【氏名】矢野 遼一
(72)【発明者】
【氏名】田中 義人
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
4B065
4J100
【Fターム(参考)】
4B029AA08
4B029GB06
4B029GB09
4B063QA20
4B063QQ05
4B063QS39
4B065BC01
4B065BD50
4B065CA46
4J100AE09Q
4J100AQ01P
4J100BB07P
4J100BB18Q
4J100CA01
4J100CA04
4J100DA25
4J100DA48
4J100DA62
4J100DA63
4J100JA05
4J100JA53
4J100JA58
(57)【要約】
【課題】本開示は、水との屈折率差が小さく、加熱による寸法変化が小さい、細胞培養基板、バイオチップ及びチューブの用途に適したフッ素樹脂等の提供を目的とする。
【解決手段】以下の条件を満たす、屈折率が1.32~1.34である溶媒中の試料を観察又は分析するための細胞培養基板、屈折率が1.32~1.34である溶媒中の分析対象を分析するためのバイオチップ又は屈折率が1.32~1.34である流体を流通させるためのチューブを形成するためのフッ素樹脂。
1.屈折率が1.31~1.35である、
2.ガラス転移温度が120℃以上である、
3.120℃、1.0kgf/cm条件下で1時間静置した後の加熱寸法変化率が1%以下である、
4.近赤外~可視光領域の透過率が90%以上である、及び
5.鉛筆硬度がH以上である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の条件を満たす、屈折率が1.32~1.34である溶媒中の試料を観察又は分析するための細胞培養基板、屈折率が1.32~1.34である溶媒中の分析対象を分析するためのバイオチップ又は屈折率が1.32~1.34である流体を流通させるためのチューブを形成するためのフッ素樹脂。
1.屈折率が1.31~1.35である、
2.ガラス転移温度が120℃以上である、
3.120℃、1.0kgf/cm条件下で1時間静置した後の加熱寸法変化率が1%以下である、
4.近赤外~可視光領域の透過率が90%以上である、及び
5.鉛筆硬度がH以上である。
【請求項2】
前記フッ素樹脂が式(1):
【化1】
[式中、R~Rはそれぞれ独立して、フッ素原子、C1-C5パーフルオロアルキル基、又はC1-C5パーフルオロアルコキシ基を示す。]
で表される構成単位を主成分として含む請求項1に記載のフッ素樹脂。
【請求項3】
前記フッ素樹脂が式(1-1):
【化2】
で表される構成単位を主成分として含むフッ素樹脂、及び
式(1-2):
【化3】
で表される構成単位を主成分として含むフッ素樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項2に記載のフッ素樹脂。
【請求項4】
前記溶媒又は流体が水である、請求項1~3のいずれかに記載のフッ素樹脂。
【請求項5】
以下の条件を満たすフッ素樹脂を含有し、屈折率が1.32~1.34である溶媒中の試料を観察又は分析するための細胞培養基板。
1.屈折率が1.31~1.35である、
2.ガラス転移温度が120℃以上である、
3.120℃、1.0kgf/cm条件下で1時間静置した後の加熱寸法変化率が1%以下である、
4.近赤外~可視光領域の透過率が90%以上である、及び
5.鉛筆硬度がH以上である。
【請求項6】
前記フッ素樹脂が式(1):
【化4】
[式中、R~Rはそれぞれ独立して、フッ素原子、C1-C5パーフルオロアルキル基、又はC1-C5パーフルオロアルコキシ基を示す。]
で表される構成単位を主成分として含む請求項5に記載の細胞培養基板。
【請求項7】
前記フッ素樹脂が式(1-1):
【化5】
で表される構成単位を主成分として含むフッ素樹脂、及び
式(1-2):
【化6】
で表される構成単位を主成分として含むフッ素樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項6に記載の細胞培養基板。
【請求項8】
前記溶媒が水である、請求項5~7のいずれかに記載の細胞培養基板。
【請求項9】
請求項5~7のいずれかに記載の細胞培養基板上で細胞を培養する細胞培養方法。
【請求項10】
請求項5~7のいずれかに記載の細胞培養基板を100℃以上130℃未満かつ1気圧以上3気圧未満の水蒸気と接触させる滅菌方法。
【請求項11】
請求項5~7のいずれかに記載の細胞培養基板上で培養された細胞を観察又は分析する方法。
【請求項12】
以下の条件を満たすフッ素樹脂を含有し、屈折率が1.32~1.34である溶媒中の分析対象を分析するためのバイオチップ。
1.屈折率が1.31~1.35である、
2.ガラス転移温度が120℃以上である、
3.120℃、1.0kgf/cm条件下で1時間静置した後の加熱寸法変化率が1%以下である、
4.近赤外~可視光領域の透過率が90%以上である、及び
5.鉛筆硬度がH以上である。
【請求項13】
前記フッ素樹脂が式(1):
【化7】
[式中、R~Rはそれぞれ独立して、フッ素原子、C1-C5パーフルオロアルキル基、又はC1-C5パーフルオロアルコキシ基を示す。]
で表される構成単位を主成分として含む請求項12に記載のバイオチップ。
【請求項14】
前記フッ素樹脂が式(1-1):
【化8】
で表される構成単位を主成分として含むフッ素樹脂、及び
式(1-2):
【化9】
で表される構成単位を主成分として含むフッ素樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項13に記載のバイオチップ。
【請求項15】
前記溶媒が水である、請求項12~14のいずれかに記載のバイオチップ。
【請求項16】
請求項12~14のいずれかに記載のバイオチップを有するバイオセンシングデバイス。
【請求項17】
請求項12~14のいずれかに記載のバイオチップを使用する生体分子の分析方法。
【請求項18】
請求項12~14のいずれかに記載のバイオチップを100℃以上130℃未満かつ1気圧以上3気圧未満の水蒸気と接触させる滅菌方法。
【請求項19】
以下の条件を満たすフッ素樹脂を含有し、屈折率が1.32~1.34である液体を流通させるためのチューブ。
1.屈折率が1.31~1.35である、
2.ガラス転移温度が120℃以上である、
3.120℃、1.0kgf/cm条件下で1時間静置した後の加熱寸法変化率が1%以下である、
4.近赤外~可視光領域の透過率が90%以上である、及び
5.鉛筆硬度がH以上である。
【請求項20】
前記フッ素樹脂が式(1):
【化10】
[式中、R~Rはそれぞれ独立して、フッ素原子、C1-C5パーフルオロアルキル基、又はC1-C5パーフルオロアルコキシ基を示す。]
で表される構成単位を主成分として含む請求項19に記載のチューブ。
【請求項21】
前記フッ素樹脂が式(1-1):
【化11】
で表される構成単位を主成分として含むフッ素樹脂、及び
式(1-2):
【化12】
で表される構成単位を主成分として含むフッ素樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項20に記載のチューブ。
【請求項22】
前記流体が水である、請求項19~21のいずれかに記載のチューブ。
【請求項23】
請求項19~21のいずれかに記載のチューブを100℃以上130℃未満かつ1気圧以上3気圧未満の水蒸気と接触させる滅菌方法。
【請求項24】
請求項19~21のいずれかに記載のチューブを有する容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、細胞培養基板、バイオチップ又はチューブを形成するためのフッ素樹脂等に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素樹脂は、その透明性を活かして、顕微鏡観察を要する細胞培養基板、バイオチップ等への応用(特許文献1、2)、容器に収容された流体を容器に備えられたスプレーやディスペンサーへ流体を供給するためのチューブとしての応用(特許文献3)などが検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-177331号公報
【特許文献2】特開2010-68755号公報
【特許文献3】国際公開第2011/054364号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、水との屈折率差が小さく、加熱による寸法変化が小さい、細胞培養基板、バイオチップ及びチューブの用途に適したフッ素樹脂等の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、代表的には次の態様を包含する。
項1.
以下の条件を満たす、屈折率が1.32~1.34である溶媒中の試料を観察又は分析するための細胞培養基板、屈折率が1.32~1.34である溶媒中の分析対象を分析するためのバイオチップ又は屈折率が1.32~1.34である流体を流通させるためのチューブを形成するためのフッ素樹脂。
1.屈折率が1.31~1.35である、
2.ガラス転移温度が120℃以上である、
3.120℃、1.0kgf/cm条件下で1時間静置した後の加熱寸法変化率が1%以下である、
4.近赤外~可視光領域の透過率が90%以上である、及び
5.鉛筆硬度がH以上である。
項2.
前記フッ素樹脂が式(1):
【化1】
[式中、R~Rはそれぞれ独立して、フッ素原子、C1-C5パーフルオロアルキル基、又はC1-C5パーフルオロアルコキシ基を示す。]
で表される構成単位を主成分として含む項1に記載のフッ素樹脂。
項3.
前記フッ素樹脂が式(1-1):
【化2】
で表される構成単位を主成分として含むフッ素樹脂、及び
式(1-2):
【化3】
で表される構成単位を主成分として含むフッ素樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である、項1又は2に記載のフッ素樹脂。
項4.
前記溶媒又は流体が水である、項1~3のいずれかに記載のフッ素樹脂。
項5.
以下の条件を満たすフッ素樹脂を含有し、屈折率が1.32~1.34である溶媒中の試料を観察又は分析するための細胞培養基板。
1.屈折率が1.31~1.35である、
2.ガラス転移温度が120℃以上である、
3.120℃、1.0kgf/cm条件下で1時間静置した後の加熱寸法変化率が1%以下である、
4.近赤外~可視光領域の透過率が90%以上である、及び
5.鉛筆硬度がH以上である。
項6.
前記フッ素樹脂が式(1):
【化4】
[式中、R~Rはそれぞれ独立して、フッ素原子、C1-C5パーフルオロアルキル基、又はC1-C5パーフルオロアルコキシ基を示す。]
で表される構成単位を主成分として含む項5に記載の細胞培養基板。
項7.
前記フッ素樹脂が式(1-1):
【化5】
で表される構成単位を主成分として含むフッ素樹脂、及び
式(1-2):
【化6】
で表される構成単位を主成分として含むフッ素樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である、項5又は6に記載の細胞培養基板。
項8.
前記溶媒が水である、項5~7のいずれかに記載の細胞培養基板。
項9.
項5~8のいずれかに記載の細胞培養基板上で細胞を培養する細胞培養方法。
項10.
項5~8のいずれかに記載の細胞培養基板を100℃以上130℃未満かつ1気圧以上3気圧未満の水蒸気と接触させる滅菌方法。
項11.
項5~8のいずれかに記載の細胞培養基板上で培養された細胞を観察又は分析する方法。
項12.
以下の条件を満たすフッ素樹脂を含有し、屈折率が1.32~1.34である溶媒中の分析対象を分析するためのバイオチップ。
1.屈折率が1.31~1.35である、
2.ガラス転移温度が120℃以上である、
3.120℃、1.0kgf/cm条件下で1時間静置した後の加熱寸法変化率が1%以下である、
4.近赤外~可視光領域の透過率が90%以上である、及び
5.鉛筆硬度がH以上である。
項13.
前記フッ素樹脂が式(1):
【化7】
[式中、R~Rはそれぞれ独立して、フッ素原子、C1-C5パーフルオロアルキル基、又はC1-C5パーフルオロアルコキシ基を示す。]
で表される構成単位を主成分として含む項12に記載のバイオチップ。
項14.
前記フッ素樹脂が式(1-1):
【化8】
で表される構成単位を主成分として含むフッ素樹脂、及び
式(1-2):
【化9】
で表される構成単位を主成分として含むフッ素樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である、項12又は13に記載のバイオチップ。
項15.
前記溶媒が水である、項12~14のいずれかに記載のバイオチップ。
項16.
項12~15のいずれかに記載のバイオチップを有するバイオセンシングデバイス。
項17.
項12~15のいずれかに記載のバイオチップを使用する生体分子の分析方法。
項18.
項12~15のいずれかに記載のバイオチップを100℃以上130℃未満かつ1気圧以上3気圧未満の水蒸気と接触させる滅菌方法。
項19.
以下の条件を満たすフッ素樹脂を含有し、屈折率が1.32~1.34である液体を流通させるためのチューブ。
1.屈折率が1.31~1.35である、
2.ガラス転移温度が120℃以上である、
3.120℃、1.0kgf/cm条件下で1時間静置した後の加熱寸法変化率が1%以下である、
4.近赤外~可視光領域の透過率が90%以上である、及び
5.鉛筆硬度がH以上である。
項20.
前記フッ素樹脂が式(1):
【化10】
[式中、R~Rはそれぞれ独立して、フッ素原子、C1-C5パーフルオロアルキル基、又はC1-C5パーフルオロアルコキシ基を示す。]
で表される構成単位を主成分として含む項19に記載のチューブ。
項21.
前記フッ素樹脂が式(1-1):
【化11】
で表される構成単位を主成分として含むフッ素樹脂、及び
式(1-2):
【化12】
で表される構成単位を主成分として含むフッ素樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である、項19又は20に記載のチューブ。
項22.
前記流体が水である、項19~21のいずれかに記載のチューブ。
項23.
項19~21のいずれかに記載のチューブを100℃以上130℃未満かつ1気圧以上3気圧未満の水蒸気と接触させる滅菌方法。
項24.
項19~21のいずれかに記載のチューブを有する容器。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、屈折率が1.31~1.35であり、加熱による寸法変化が小さい、細胞培養基板、バイオチップ及びチューブを形成するためのフッ素樹脂等を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本開示の前記概要は、本開示の各々の開示された実施形態または全ての実装を記述することを意図するものではない。
本開示の後記説明は、実例の実施形態をより具体的に例示する。
本開示のいくつかの箇所では、例示を通してガイダンスが提供され、及びこの例示は、様々な組み合わせにおいて使用できる。
それぞれの場合において、例示の群は、非排他的な、及び代表的な群として機能できる。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられる。
【0008】
用語
本明細書中の記号及び略号は、特に限定のない限り、本明細書の文脈に沿い、本開示が属する技術分野において通常用いられる意味に理解できる。
本明細書中、語句「含有する」は、語句「から本質的になる」、及び語句「からなる」を包含することを意図して用いられる。
本明細書中に記載されている工程、処理、又は操作は、特に断りのない限り、室温で実施され得る。本明細書中、室温は、10℃~40℃の温度を意味することができる。
本明細書中、表記「Cn-Cm」(ここで、n、及びmは、それぞれ、数である。)は、当業者が通常理解する通り、炭素数がn以上、且つm以下であることを表す。
本明細書中、語句「バイオチップ」は、語句「マイクロ流路チップ」を包含することを意図して用いられる。
【0009】
本明細書中、「屈折率」は次のようにして決定される。
フッ素樹脂の屈折率
サンプルをアタゴ社製 アッベ屈折率計(NAR-1T SOLID)を用いて23℃における屈折率を測定する。波長は装置付属のLEDを用いるためD線近似波長である。具体的には、本開示の具体例にて記載された方法で決定される値である。
【0010】
本明細書中、「ガラス転移温度」は次のようにして決定される。
ガラス転移温度(Tg)
DSC(示差走査熱量計:日立ハイテクサイエンス社、DSC7000)を用いて、30℃以上且つ200℃以下の温度範囲を10℃/分の条件で昇温(ファーストラン)-降温-昇温(セカンドラン)させ、セカンドランにおける吸熱曲線の中間点をガラス転移温度(℃)とする。具体的には、本開示の具体例にて記載された方法で決定される値である。なお、この方法でガラス転移温度を特定することが困難である場合は、ガラス転移温度に代えて融点を使用することができる。
【0011】
本明細書中、「加熱寸法変化率」は次のようにして決定される。
加熱寸法変化率
円形サンプル(直径5.5cm)の厚み(H1;0.93~1.0mm)に対する、120℃、1.0kgf/cmの条件下で1時間静置された、加熱処理後サンプルの厚み(H2)の変形率(%)であり、計算式((H2-H1)/H1)×100で算出される値の絶対値から算出される。具体的には、本開示の具体例にて記載された方法で決定される値である。
【0012】
本明細書中、フッ素樹脂の「透過率」は次のようにして決定される。
フッ素樹脂の透過率
日立分光光度計U-4100を用いてサンプルの所定の波長における透過率を測定する。近赤外~可視光透過率の場合は400nm~900nmの波長を測定する。サンプルは平均膜厚1mmの膜とする。検出器としては積分球検知器を用いる。具体的には、本開示の具体例にて記載された方法で決定される値である。
【0013】
本明細書中、フッ素樹脂の「鉛筆硬度」は次のようにして決定される。
フッ素樹脂の鉛筆硬度
鉛筆硬度はJIS K5600-5-4:1999に準拠し、鉛筆硬度測定器5800(BYK Gardner製)により、使用鉛筆としてUni(三菱鉛筆社製)を用いて測定する。サンプルは平均厚み1mmの平板とする。具体的には、本開示の具体例にて記載された方法で決定される値である。
【0014】
本明細書中、溶媒及び流体の「屈折率」は次のようにして決定される。
溶媒及び流体の屈折率
サンプルをアタゴ社製 アッベ屈折率計(NAR-1T SOLID)を用いて23℃における屈折率を測定する。波長は装置付属のLEDを用いるためD線近似波長である。具体的には、本開示の具体例にて記載された方法で決定される値である。
【0015】
本明細書中、特に断りのない限り、「アルキル基」の例は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、及びデシル等の、直鎖状又は分枝状の、C1-C10アルキル基を包含できる。アルキル基はC1-C5アルキル基、C1-C4アルキル基、C1-C3アルキル基であってよい。
【0016】
本明細書中、特に断りのない限り、「フルオロアルキル基」は、少なくとも1個の水素原子がフッ素原子で置換されたアルキル基である。「フルオロアルキル基」は、直鎖状、又は分枝状のフルオロアルキル基であることができる。
「フルオロアルキル基」の炭素数は、例えば、1~12、1~6、1~5、1~4、1~3、6、5、4、3、2、又は1であることができる。
「フルオロアルキル基」が有するフッ素原子の数は、1個以上(例:1~3個、1~5個、1~9個、1~11個、1個から置換可能な最大個数)であることができる。
「フルオロアルキル基」は、パーフルオロアルキル基を包含する。
「パーフルオロアルキル基」は、アルキル基中の全ての水素原子がフッ素原子で置換された基である。
パーフルオロアルキル基の例は、トリフルオロメチル基(CF-)、ペンタフルオロエチル基(C-)、ヘプタフルオロプロピル基(CFCFCF-)、及びヘプタフルオロイソプロピル基((CFCF-)を包含する。
「フルオロアルキル基」として、具体的には、例えば、モノフルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基(CF-)、2,2,2-トリフルオロエチル基(CFCH-)、パーフルオロエチル基(C-)、テトラフルオロプロピル基(例:HCFCFCH-)、ヘキサフルオロプロピル基(例:(CFCH-)、パーフルオロブチル基(例:CFCFCFCF-)、オクタフルオロペンチル基(例:HCFCFCFCFCH-)、パーフルオロペンチル基(例:CFCFCFCFCF-)及びパーフルオロヘキシル基(例:CFCFCFCFCFCF-)等が挙げられる。
【0017】
本明細書中、特に断りのない限り、「アルコキシ基」は、RO-[当該式中、Rはアルキル基(例:C1-C10アルキル基)である。]で表される基であることができる。
「アルコキシ基」の例は、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、sec-ブトキシ、tert-ブトキシ、ペンチルオキシ、イソペンチルオキシ、ネオペンチルオキシ、ヘキシルオキシ、ヘプチルオキシ、オクチルオキシ、ノニルオキシ、及びデシルオキシ等の、直鎖状又は分枝状の、C1-C10アルコキシ基を包含する。アルコキシ基はC1-C5アルコキシ基、C1-C4アルコキシ基、C1-C3アルコキシ基であってよい。
【0018】
本明細書中、特に断りのない限り、「フルオロアルコキシ基」は、少なくとも1個の水素原子がフッ素原子で置換されたアルコキシ基である。「フルオロアルコキシ基」は、直鎖状又は分枝状のフルオロアルコキシ基であることができる。
「フルオロアルコキシ基」の炭素数は、例えば、1~12、1~6、1~5、1~4、1~3、6、5、4、3、2、又は1であることができる。
「フルオロアルコキシ基」が有するフッ素原子の数は、1個以上(例:1~3個、1~5個、1~9個、1~11個、1個から置換可能な最大個数)であることができる。
「フルオロアルコキシ基」は、パーフルオロアルコキシ基を包含する。
「パーフルオロアルコキシ基」は、アルコキシ基中の全ての水素原子がフッ素原子で置換された基である。
パーフルオロアルコキシ基の例は、トリフルオロメトキシ基(CFO-)、ペンタフルオロエトキシ基(CO-)、ヘプタフルオロプロピルオキシ基(CFCFCFO-)、及びヘプタフルオロイソプロピルオキシ基((CFCFO-)を包含する。
「フルオロアルコキシ基」として、具体的には、例えば、モノフルオロメトキシ基、ジフルオロメトキシ基、トリフルオロメトキシ基、2,2,2-トリフルオロエトキシ基(CFCH-)、パーフルオロエトキシ基(CO-)、テトラフルオロプロピルオキシ基(例:HCFCFCHO-)、ヘキサフルオロプロピルオキシ基(例:(CFCHO-)、パーフルオロブチルオキシ基(例:CFCFCFCFO-)、オクタフルオロペンチルオキシ基(例:HCFCFCFCFCHO-)、パーフルオロペンチルオキシ基(例:CFCFCFCFCFO-)及びパーフルオロヘキシルオキシ基(例:CFCFCFCFCFCFO-)等が挙げられる。
【0019】
フッ素樹脂
本開示の一実施態様は、所定の特性を有し、細胞培養基板、バイオチップ又はチューブを形成するためのフッ素樹脂である。
【0020】
細胞培養基板、バイオチップ及びチューブには、滅菌処理に供されることが多い。このため、滅菌処理(例えば2気圧、約120℃、20分程度)による寸法変化率は小さいことが望まれる。特に、細胞培養基板及びバイオチップは微細な構造を備えている、あるいは、これらに微細な構造が施されるため、滅菌処理による寸法変化は非常に小さいことが求められる。本開示のフッ素樹脂、好ましくは前記式(1)で表される構成単位を主成分として含むフッ素樹脂、を細胞培養基板及びバイオチップに使用することによって、その寸法変化が小さくなり、その結果、高感度及び高精度での観察及び分析に有利となる。
【0021】
細胞培養基板及びバイオチップは、例えば、顕微鏡観察、光学分析用レーザー光等を使用した光学分析等に供される。水等の溶媒と基板及びチップを構成する材質との間に屈折率差が大きいと、光学的な影が生じたり、レーザー光の反射によるロスが大きくなったりする。しかし、本開示のフッ素樹脂、好ましくは前記式(1)で表される構成単位を主成分として含むフッ素樹脂、を細胞培養基板及びバイオチップに使用することによって、その点が抑制され、その結果、高感度及び高精度での観察及び分析に有利となる。
また、このフッ素樹脂は、水等の流体との間の屈折率差が非常に小さいため、そのような流体を流通されるためのチューブとして使用された際、光学的に視認されにくい。そのため、このチューブが使用された商品の外観を損なわない点や、チューブの裏側に配置された物体、文字、画像等を視認しやすい点で有利である。
【0022】
フッ素樹脂の有する特性は、下記の5種の特性の1種又は2種以上であってよく、好ましくは3種以上、より好ましくは4種以上、さらに好ましくは5種である。
1.屈折率が1.31~1.35である。
2.ガラス転移温度が120℃以上である。
3.120℃、1.0kgf/cm条件下で1時間静置した後の加熱寸法変化率が1%以下である。
4.近赤外~可視光領域の透過率が90%以上である。
5.鉛筆硬度がH以上である。
【0023】
フッ素樹脂の屈折率は、1.31~1.35であってよく、1.32~1.34が好ましい。屈折率が前記範囲内であると、フッ素樹脂の屈折率と溶媒及び流体の屈折率との差が小さくなり、光学的な屈折が小さくなり、顕微鏡観察、光学分析等において有利である。
【0024】
フッ素樹脂のガラス転移温度(Tg)は120℃以上、120~400℃等であってよく、125~400℃が好ましく、125~300℃がより好ましい。ガラス転移温度が前記範囲内であると、フッ素樹脂の加熱寸法変化率を小さくできる点で有利である。
【0025】
フッ素樹脂の加熱寸法変化率は、1%以下、0.8%以下、0.5%以下、0.0001~1%等であってよく、0.0001~0.8%が好ましく、0.0001~0.5%がより好ましい。加熱寸法変化率が前記範囲内であると、滅菌処理等の加熱において寸法変化が小さくなる。
【0026】
フッ素樹脂の近赤外~可視光領域の透過率は、90%以上、95%以上、90~99%等であってよく、90~99%が好ましく、95~99%がより好ましい。可視光透過率が前記範囲内であると、同フッ素樹脂による光の吸収や反射によるロスが小さくなり、細胞培養基板、バイオチップ等として同フッ素樹脂を使用した場合に光学的な分析の感度が向上するという点、チューブとして同フッ素樹脂を使用した場合に、水等の屈折率が1.32~1.34である流体にチューブが浸漬された状態でチューブが見え難い点で有利である。
【0027】
フッ素樹脂の鉛筆硬度は、H以上であってよく、2H以上がより好ましい。鉛筆硬度が前記範囲内であると、同フッ素樹脂の表面が傷つきにくく、光学的な検出の用途においてノイズが低減する点で有利である。
【0028】
フッ素樹脂の質量平均分子量は、例えば0.5万~150万、好ましくは1万~100万、より好ましくは3万~80万である。分子量がこれらの範囲内にあると、耐久性の点で有利である。
【0029】
前記フッ素樹脂は、フッ素元素を含有し、前記特性を有するものであれば、いかなる樹脂であってもよく、例えば、式(1)で表される構成単位を主成分として含むフッ素樹脂、パーフルオロ(3-ブテニルビニルエーテル)由来の構成単位を主成分として含むフッ素樹脂、パーフルオロ(2,2-ジメチル-1,3-ジオキソール)由来の構成単位を主成分として含むフッ素樹脂、パーフルオロ(4-メトキシ-1,3-ジオキソール)由来の構成単位を主成分として含むフッ素樹脂等が挙げられる。また、フッ素樹脂は、前記特性を有する限り、種類、分子量等も制限されない。
【0030】
フッ素樹脂は、式(1):
【化13】
[式中、R~Rはそれぞれ独立して、フッ素原子、C1-C5パーフルオロアルキル基、又はC1-C5パーフルオロアルコキシ基を示す。]
で表される構成単位(本明細書中、「単位(1)」と称することがある。)を主成分として含むことが、前記特性を備える点で、好ましい。
【0031】
本明細書中、「構成単位を主成分として含む」とは、フッ素樹脂中の全ての構成単位における特定の構成単位の割合が50モル%以上であることを意味する。
フッ素樹脂を構成する構成単位は、単位(1)の1種単独又は2種以上を含んでよい。
フッ素樹脂の全ての構成単位における単位(1)の割合は、例えば70モル%以上とでき、80モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましく、100モル%が特に好ましい。
【0032】
~Rのそれぞれにおいて、C1-C5パーフルオロアルキル基は、例えば直鎖状又は分岐状のC1-C5パーフルオロアルキル基、直鎖状又は分岐状のC1-C4パーフルオロアルキル基、直鎖状又は分岐状のC1-C3パーフルオロアルキル基、C1-C2パーフルオロアルキル基とできる。
【0033】
~Rのそれぞれにおいて、C1-C5パーフルオロアルコキシ基は、例えば直鎖状又は分岐状のC1-C5パーフルオロアルコキシ基、直鎖状又は分岐状のC1-C4パーフルオロアルコキシ基、直鎖状又は分岐状のC1-C3パーフルオロアルコキシ基、C1-C2パーフルオロアルコキシ基とできる。
【0034】
~Rはそれぞれ独立して、フッ素原子、直鎖状又は分岐状のC1-C5パーフルオロアルキル基、あるいは直鎖状又は分岐状のC1-C5パーフルオロアルコキシ基であってよい。
~Rはそれぞれ独立して、フッ素原子、直鎖状又は分岐状のC1-C4パーフルオロアルキル基、あるいは直鎖状又は分岐状のC1-C4パーフルオロアルコキシ基であってよい。
~Rはそれぞれ独立して、フッ素原子、直鎖状又は分岐状のC1-C3パーフルオロアルキル基、あるいは直鎖状又は分岐状のC1-C3パーフルオロアルコキシ基であってよい。
~Rはそれぞれ独立して、フッ素原子、C1-C2パーフルオロアルキル基、又はC1-C2パーフルオロアルコキシ基であってよい。
~Rはそれぞれ独立して、フッ素原子、トリフルオロメチル、ペンタフルロエチル、又はトリフルオロメトキシであってよい。
【0035】
~Rは、少なくとも1つの基がフッ素原子であり、残りの基は、当該残りの基が複数あるときは独立して、C1-C2パーフルオロアルキル基又はC1-C2パーフルオロアルコキシ基であってよい。
~Rは、少なくとも2つの基がフッ素原子であり、残りの基は、当該残りの基が複数あるときは独立して、C1-C2パーフルオロアルキル基又はC1-C2パーフルオロアルコキシ基であってよい。
~Rは、少なくとも3つの基がフッ素原子であり、残りの基は、C1-C2パーフルオロアルキル基又はC1-C2パーフルオロアルコキシ基であってよい。
~Rは、少なくとも3つの基がフッ素原子であり、残りの基は、C1-C2パーフルオロアルキル基であってよい。
~Rは、全てフッ素原子であってよい。
【0036】
単位(1)は、式(1-1):
【化14】
で表される構成単位(本明細書中、「単位(1-1)」と称することがある。)、及び
式(1-2):
【化15】
で表される構成単位(本明細書中、「単位(1-2)」と称することがある。)を包含する。
フッ素樹脂は、単位(1-1)及び(1-2)を各々単独で含んでも、2種を含んでもよい。
フッ素樹脂は、単位(1-1)を主成分として含むフッ素樹脂、及び単位(1-2)を主成分として含むフッ素樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であってよい。
【0037】
フッ素樹脂は、単位(1)に加え、フルオロオレフィン単位を含んでもよい。
フルオロオレフィン単位は1種で使用しても、2種以上併用してもよい。
フルオロオレフィン単位の割合は、全構成体単位の50モル%以下とでき、30モル%以下が好ましく、20モル%以下がより好ましく、10モル%以下がさらに好ましく、0%が特に好ましい。
【0038】
フルオロオレフィン単位は、フッ素原子及び炭素-炭素間二重結合を含む単量体が重合後に形成する構成単位である。
フルオロオレフィン単位を構成する原子は、フッ素原子、フッ素原子以外のハロゲン原子、炭素原子、水素原子、及び酸素原子のみであってよい。
フルオロオレフィン単位を構成する原子は、フッ素原子、フッ素原子以外のハロゲン原子、炭素原子、及び水素原子のみであってよい。
フルオロオレフィン単位を構成する原子は、フッ素原子、炭素原子、及び水素原子のみであってよい。
フルオロオレフィン単位を構成する原子は、フッ素原子及び炭素原子のみであってよい。
【0039】
フルオロオレフィン単位は、含フッ素パーハロオレフィン単位、フッ化ビニリデン単位(-CH-CF-)、トリフルオロエチレン単位(-CFH-CF-)、ペンタフルオロプロピレン単位(-CFH-CF(CF)-、-CF-CF(CHF)-)、1,1,1,2-テトラフルオロ-2-プロピレン単位(-CH-CF(CF)-)等からなる群から選択される少なくとも1種の単位を包含する。
【0040】
含フッ素パーハロオレフィン単位は、フッ素原子及び炭素-炭素間二重結合を含む単量体が、重合後に形成する構成単位である。含フッ素パーハロオレフィン単位は、フッ素原子に加えて、フッ素原子以外のハロゲン原子を含んでもよいし、含まなくてもよい。
含フッ素パーハロオレフィン単位は、クロロトリフルオロエチレン単位(-CFCl-CF-)、テトラフルオロエチレン単位(-CF-CF-)、ヘキサフルオロプロピレン単位(-CF-CF(CF)-)、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)単位(-CF-CF(OCF)-)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)単位(-CF-CF(OC)-)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)単位(-CF-CF(OCF)-)、パーフルオロ(ブチルビニルエーテル)単位(-CF-CF(O(CF)-)、及びパーフルオロ(2,2-ジメチル-1,3-ジオキソール)単位(-CF-CAF-(式中、Aは、式中に示された隣接炭素原子と共に形成されたパーフルオロジオキソラン環であってジオキソラン環の2位の炭素原子に2個のトリフルオロメチルが結合した構造を示す。))からなる群から選択される少なくとも1種を包含する。
【0041】
フルオロオレフィン単位は、クロロトリフルオロエチレン単位、テトラフルオロエチレン単位、ヘキサフルオロプロピレン単位、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)単位、及びパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)単位からなる群から選択される少なくとも1種を包含する。
【0042】
フッ素樹脂は、単位(1)及びフルオロオレフィン単位に加え、さらにその他の構成単位を1種以上含んでもよいが、含まないことが好ましい。
このようなその他の構成単位は、CH=CHRf(RfはC1-C10フルオロアルキル基を表す)単位、アルキルビニルエーテル単位(例:シクロヘキシルビニルエーテル単位、エチルビニルエーテル単位、ブチルビニルエーテル単位、メチルビニルエーテル単位)、アルケニルビニルエーテル単位(例:ポリオキシエチレンアリルエーテル単位、エチルアリルエーテル単位)、反応性α,β-不飽和基を有する有機ケイ素化合物単位(例:ビニルトリメトキシシラン単位、ビニルトリエトキシシラン単位、ビニルトリス(メトキシエトキシ)シラン単位)、アクリル酸エステル単位(例:アクリル酸メチル単位、アクリル酸エチル単位)、メタアクリル酸エステル単位(例:メタアクリル酸メチル単位、メタクリル酸エチル単位)、ビニルエステル単位(例:酢酸ビニル単位、安息香酸ビニル単位、「ベオバ」(シェル社製のビニルエステル)単位)などを包含する。
【0043】
その他の構成単位の割合は、全構成単位の、例えば0モル%以上且つ20モル%以下、0モル%以上且つ10モル%以下等とできる。
【0044】
フッ素樹脂は、例えばフッ素樹脂を構成する構成単位に対応する単量体を適宜の重合法により重合することで製造できる。例えば単位(1)に対応する単量体の1種単独又は2種以上を重合することにより製造することができる。
【0045】
また、フッ素樹脂は、単位(1)に対応する単量体の1種単独又は2種以上を、必要に応じてフルオロオレフィン及びその他の単量体からなる群から選択される少なくとも1種の単量体と重合することにより製造できる。
【0046】
当業者は、フッ素樹脂を構成する構成単位に対応する単量体を理解できる。例えば、単位(1)に対応する単量体は、式(M1):
【化16】
[式中、R~Rは、前記と同意義である。]
で表される化合物(本明細書中、「単量体(M1)」と称することがある。)である。
【0047】
例えば、単位(1-1)に対応する単量体は、式(M1-1):
【化17】
で表される化合物(本明細書中、「単量体(M1-1)」と称することがある。)、式(M1-2):
【化18】
で表される化合物(本明細書中、「単量体(M1-2)」と称することがある。)等である。
【0048】
前記フルオロオレフィンとしては、前記フルオロオレフィン単位に対応する単量体を使用できる。例えば、テトラフルオロエチレン単位、ヘキサフルオロプロピレン単位、フッ化ビニリデン単位に対応する単量体は、各々、テトラフルオロエチレン(CF=CF)、ヘキサフルオロプロピレン(CFCF=CF)、フッ化ビニリデン(CH=CF)である。したがって、フルオロオレフィンに関する詳細については、対応するフルオロオレフィン単位に関する前記記載から当業者が理解できる。
フルオロオレフィンは、例えば、含フッ素パーハロオレフィン、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、ペンタフルオロプロピレン、及び1,1,1,2-テトラフルオロ-2-プロピレンからなる群から選択される少なくとも1種であってよい。フルオロオレフィンは、好ましくは、クロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、及びパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)からなる群から選択される少なくとも1種であってよい。
前記含フッ素パーハロオレフィンは、クロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)、パーフルオロ(ブチルビニルエーテル)、及びパーフルオロ(2,2-ジメチル-1,3-ジオキソール)からなる群から選択される少なくとも1種であってよい。
【0049】
前記その他の単量体としては、前記その他の構成単位に対応する単量体を使用できる。したがって、その他の単量体に関する詳細については、対応するその他の構成単位に関する前記記載から当業者が理解できる。
【0050】
重合方法としては、フッ素樹脂を構成する構成単位に対応する単量体を適宜の量で、必要に応じて溶媒(例:非プロトン性溶媒など)に溶解又は分散させ、必要に応じて重合開始剤を添加し、重合(例:ラジカル重合、バルク重合、溶液重合、懸濁重合、分散重合、乳化重合等)する方法が挙げられる。
好ましい重合方法は、フッ素樹脂を高濃度に溶解した液を製造できることにより歩留まりが高く、厚膜形成及び精製に有利な溶液重合である。このため、フッ素樹脂としては溶液重合により製造されたフッ素樹脂が好ましい。非プロトン性溶媒の存在下で単量体を重合させる溶液重合により製造されたフッ素樹脂がより好ましい。
【0051】
フッ素樹脂の溶液重合において、使用される溶媒は非プロトン性溶媒が好ましい。フッ素樹脂の製造時の非プロトン性溶媒の使用量は単量体質量及び溶媒質量の和に対し、例えば90質量%以下、80質量%以下、80質量%未満、75質量%以下、70質量%以下、35質量%~95質量%、35質量%~90質量%、35質量%~80質量%、35質量%~70質量%、35質量%~70質量%、60質量%~80質量%などとできる。好ましくは35質量%~90質量%とでき、より好ましくは40質量%~90質量%、特に好ましくは50質量%~90質量%である。
【0052】
フッ素樹脂の重合に使用される非プロトン性溶媒としては、例えば、パーフルオロ芳香族化合物、パーフルオロトリアルキルアミン、パーフルオロアルカン、ハイドロフルオロカーボン、パーフルオロ環状エーテル、ハイドロフルオロエーテル、及び少なくとも一つの塩素原子を含むオレフィン化合物からなる群から選択される少なくとも1種を挙げることができる。
【0053】
パーフルオロ芳香族化合物は、例えば、1個以上のパーフルオロアルキル基を有してもよいパーフルオロ芳香族化合物である。パーフルオロ芳香族化合物が有する芳香環はベンゼン環、ナフタレン環、及びアントラセン環からなる群から選択される少なくとも1種の環であってよい。パーフルオロ芳香族化合物は芳香環を1個以上(例:1個、2個、3個)有してもよい。
置換基としてのパーフルオロアルキル基は、例えば直鎖状又は分岐状の、C1-C6、C1-C5、又はC1-C4パーフルオロアルキル基であり、直鎖状又は分岐状のC1-C3パーフルオロアルキル基が好ましい。
置換基の数は、例えば1~4個、好ましくは1~3個、より好ましくは1~2個である。置換基が複数あるときは同一又は異なっていてよい。
パーフルオロ芳香族化合物の例は、パーフルオロベンゼン、パーフルオロトルエン、パーフルオロキシレン、パーフルオロナフタレンを包含する。
パーフルオロ芳香族化合物の好ましい例は、パーフルオロベンゼン、パーフルオロトルエンを包含する。
【0054】
パーフルオロトリアルキルアミンは、例えば、3つの直鎖状又は分岐状のパーフルオロアルキル基で置換されたアミンである。当該パーフルオロアルキル基の炭素数は例えば1~10であり、好ましくは1~5、より好ましくは1~4である。当該パーフルオロアルキル基は同一又は異なっていてもよく、同一であることが好ましい。
パーフルオロトリアルキルアミンの例は、パーフルオロトリメチルアミン、パーフルオロトリエチルアミン、パーフルオロトリプロピルアミン、パーフルオロトリイソプロピルアミン、パーフルオロトリブチルアミン、パーフルオロトリsec-ブチルアミン、パーフルオロトリtert-ブチルアミン、パーフルオロトリペンチルアミン、パーフルオロトリイソペンチルアミン、パーフルオロトリネオペンチルアミンを包含する。
パーフルオロトリアルキルアミンの好ましい例は、パーフルオロトリプロピルアミン、パーフルオロトリブチルアミンを包含する。
【0055】
パーフルオロアルカンは、例えば、直鎖状、分岐状、又は環状のC3-C12(好ましくはC3-C10、より好ましくはC3-C6)パーフルオロアルカンである。
パーフルオロアルカンの例は、パーフルオロペンタン、パーフルオロ-2-メチルペンタン、パーフルオロヘキサン、パーフルオロ-2-メチルヘキサン、パーフルオロへプタン、パーフルオロオクタン、パーフルオロノナン、パーフルオロデカン、パーフルオロシクロヘキサン、パーフルオロ(メチルシクロヘキサン)、パーフルオロ(ジメチルシクロヘキサン)(例:パーフルオロ(1,3-ジメチルシクロヘキサン))、パーフルオロデカリンを包含する。
パーフルオロアルカンの好ましい例は、パーフルオロペンタン、パーフルオロヘキサン、パーフルオロへプタン、パーフルオロオクタンを包含する。
【0056】
ハイドロフルオロカーボンは、例えば、C3-C8ハイドロフルオロカーボンである。
ハイドロフルオロカーボンの例は、CFCHCFH、CFCHCFCH、CFCHFCHFC、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタン、CFCFCFCFCHCH、CFCFCFCFCFCHF、及びCFCFCFCFCFCFCHCHを包含する。
ハイドロフルオロカーボンの好ましい例は、CFCHCFH、CFCHCFCHを包含する。
【0057】
パーフルオロ環状エーテルは、例えば、1個以上のパーフルオロアルキル基を有してもよいパーフルオロ環状エーテルである。パーフルオロ環状エーテルが有する環は3~6員環であってよい。パーフルオロ環状エーテルが有する環は環構成原子として1個以上の酸素原子を有してよい。当該環は、好ましくは1又は2個、より好ましくは1個の酸素原子を有する。
置換基としてのパーフルオロアルキル基は、例えば直鎖状又は分岐状の、C1-C6、C1-C5、又はC1-C4パーフルオロアルキル基である。好ましいパーフルオロアルキル基は直鎖状又は分岐状のC1-C3パーフルオロアルキル基である。
置換基の数は、例えば1~4個、好ましくは1~3個、より好ましくは1~2個である。置換基が複数あるときは同一又は異なっていてよい。
パーフルオロ環状エーテルの例は、パーフルオロテトラヒドロフラン、パーフルオロ-5-メチルテトラヒドロフラン、パーフルオロ-5-エチルテトラヒドロフラン、パーフルオロ-5-プロピルテトラヒドロフラン、パーフルオロ-5-ブチルテトラヒドロフラン、パーフルオロテトラヒドロピランを包含する。
パーフルオロ環状エーテルの好ましい例は、パーフルオロ-5-エチルテトラヒドロフラン、パーフルオロ-5-ブチルテトラヒドロフランを包含する。
【0058】
ハイドロフルオロエーテルは、例えば、フッ素含有エーテルである。
ハイドロフルオロエーテルの地球温暖化係数(GWP)は400以下が好ましく、300以下がより好ましい。
ハイドロフルオロエーテルの例は、CFCFCFCFOCH3、(CFCFCFOCH、CFCFCF(CF)OCH3、CFCF(CF)CFOCH3、CFCFCFCFOC、(CFCFCFOC、CFCFCF(CF)OC5、CFCF(CF)CFOC5、CFCHOCFCHF、CCF(OCH)C、(CFCHOCH、(CFCFOCH、CHFCFOCHCF、CHFCFCHOCFCHF、CFCHFCFOCH、CFCHFCFOCF、(CFCFCF(OCH)CFCF、(CFCFCF(OCHCH)CFCFCF、トリフルオロメチル1,2,2,2-テトラフルオロエチルエーテル(HFE-227me)、ジフルオロメチル1,1,2,2,2-ペンタフルオロエチルエーテル(HFE-227mc)、トリフルオロメチル1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテル(HFE-227pc)、ジフルオロメチル2,2,2-トリフルオロエチルエーテル(HFE-245mf)、及び2,2-ジフルオロエチルトリフルオロメチルエーテル(HFE-245pf)、1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロプロピルメチルエーテル(CFCHFCFOCH)、1,1,2,2-テトラフルオロエチル2,2,2-トリフルオロエチルエーテル(CHFCFOCHCF)、及び1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-メトキシプロパン((CFCHOCH)を含む。
ハイドロフルオロエーテルの好ましい例は、CFCFCFCFOCH3、(CFCFCFOCH、CFCFCFCFOC、(CFCFCFOC、CFCHOCFCHF、CCF(OCH)C、(CFCFCF(OCH)CFCF、及び(CFCFCF(OCHCH)CFCFCFを包含する。
ハイドロフルオロエーテルは、下記式(B1):
21-O-R22 (B1)
[式中、R21は、直鎖状又は分岐鎖状のパーフルオロブチルであり、R22は、メチル又はエチルである。]
で表される化合物、(CFCFCF(OCH)CFCF、及び(CFCFCF(OCHCH)CFCFCFからなる群から選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0059】
少なくとも一つの塩素原子を含むオレフィン化合物は、その構造中に少なくとも1つの塩素原子を含むC2-C4(好ましくはC2-C3)オレフィン化合物である。少なくとも一つの塩素原子を含むオレフィン化合物は、炭素原子-炭素原子間二重結合(C=C)を1又は2個(好ましくは1個)有する、炭素数2~4の炭化水素において、炭素原子に結合した水素原子の少なくとも一つが塩素原子に置換された化合物である。炭素数2~4の炭化水素における炭素原子-炭素原子間二重結合を構成する2個の炭素原子に結合した水素原子の少なくとも1つが塩素原子に置換された化合物が好ましい。
塩素原子の数は、1~置換可能な最大の数である。塩素原子の数は、例えば、1個、2個、3個、4個、5個等とできる。
少なくとも一つの塩素原子を含むオレフィン化合物は、少なくとも1つ(例えば、1個、2個、3個、4個、5個等)のフッ素原子を含んでもよい。
少なくとも一つの塩素原子を含むオレフィン化合物の例は、CH=CHCl、CHCl=CHCl、CCl=CHCl、CCl=CCl、CFCH=CHCl、CHFCF=CHCl、CFHCF=CHCl、CFCCl=CFCl、CFHCl=CFCl、CFHCl=CFClを包含する。
少なくとも一つの塩素原子を含むオレフィン化合物の好ましい例はCHCl=CHCl、CHFCF=CHCl、CFCH=CHCl、CFCCl=CFClを包含する。
【0060】
非プロトン性溶媒としては、使用時の環境負荷が小さい点、ポリマーを高濃度に溶解できる点から、ハイドロフルオロエーテルが好ましい。
【0061】
フッ素樹脂の製造に使用される重合開始剤の好ましい例は、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジイソブチリルパーオキサイド、ジ(ω-ハイドロ-ドデカフルオロヘプタノイル)パーオキサイド、ジ(ω-ハイドロ-ヘキサデカフルオロノナノイル)パーオキサイド、ω-ハイドロ-ドデカフルオロヘプタノイル-ω-ハイドロヘキサデカフルオロノナノイル-パーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、パーオキシピバル酸tert-ブチル、パーオキシピバル酸tert-ヘキシル、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムを包含する。
重合開始剤のより好ましい例は、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジイソブチリルパーオキサイド、ジ(ω-ハイドロ-ドデカフルオロヘプタノイル)パーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、パーオキシピバル酸tert-ブチル、パーオキシピバル酸tert-ヘキシル、過硫酸アンモニウムを包含する。
【0062】
重合反応に用いる重合開始剤の量は、例えば、反応に供される全ての単量体の1gに対して、0.0001g~0.05gとでき、好ましくは0.0001g~0.01g、より好ましくは0.0005g~0.008gであってよい。
【0063】
重合反応の温度は、例えば、-10℃~160℃とでき、好ましくは0℃~160℃、より好ましくは0℃~100℃であってよい。
【0064】
重合反応の反応時間は、好ましくは、0.5時間~72時間、より好ましくは、1時間~48時間、さらに好ましくは3時間~30時間であってよい。
【0065】
重合反応は、不活性ガス(例:窒素ガス)の存在下又は不存在下で実施され得、好適には存在下で実施され得る。
【0066】
重合反応は、減圧下、大気圧下、又は加圧条件下にて実施され得る。
【0067】
重合反応は、重合開始剤を含む非プロトン性溶媒に単量体を添加後、重合条件に供することで実施され得る。また、単量体を含む非プロトン性溶媒に重合開始剤を添加後、重合条件に供することで実施され得る。
【0068】
重合反応で生成したフッ素樹脂は、所望により、抽出、溶解、濃縮、フィルターろ過、析出、再沈、脱水、吸着、クロマトグラフィー等の慣用の方法、又はこれらの組み合わせにより精製してもよい。あるいは、重合反応により生成したフッ素樹脂が溶解した液、当該液を希釈した液、これらの液に必要に応じて他の成分を添加した液等を、乾燥または加熱(例:30℃以上且つ150℃以下)して、フッ素樹脂を含有する細胞培養基板、バイオチップ及びチューブを形成してもよい。
【0069】
細胞培養基板、バイオチップ及びチューブのフッ素樹脂含有量は、細胞培養基板、バイオチップ及びチューブの全質量に対して、例えば50質量~100質量%、好ましくは60質量%~100質量%、より好ましくは80質量%~100質量%、特に好ましくは90質量%~100質量%とできる。
【0070】
細胞培養基板、バイオチップ及びチューブは、前記フッ素樹脂に加え、他の成分を含んでもよいし、含まなくてもよい。他の成分は、細胞培養基板、バイオチップ及びチューブに適した公知の成分、例えば、着色剤、光拡散剤、導電性付与フィラー等の各種フィラー、可塑剤、粘度調節剤、可撓性付与剤、耐光性安定化剤、反応抑制剤、接着促進剤、凍結防止剤などであってよい。
【0071】
細胞培養基板、バイオチップ及びチューブは、他の成分を本開示の効果が得られる限りにおいて適宜の量で含有できる。他の成分の含有量は、細胞培養基板、バイオチップ及びチューブの全質量に対して、例えば0質量%~50質量%、好ましくは0質量%~40質量%、より好ましくは0質量%~20質量%、特に好ましくは0質量%~10質量%とできる。
【0072】
細胞培養基板
細胞培養基板は、前記フッ素樹脂を含有する。細胞培養基板は、溶媒中の試料を観察又は分析するためのものであることが好ましい。
溶媒は、好ましくは1.32~1.34、より好ましくは1.325~1.335の屈折率を有することが、細胞培養基板を構成するフッ素樹脂の屈折率との差が小さくなるため、好ましい。溶媒は水が好ましい。溶媒は、培養液であってよく、公知のものを使用できる。
【0073】
試料は、細胞培養の分野の公知の試料であってよい。例えば、試料は、生体細胞および培養液の任意の組成であってよい。生体細胞は、分離された細胞、細胞群、または細胞コロニーであってよい。生体細胞は、接着状態または浮遊状態であってよい。生体試料は、1種類の細胞(同一の細胞)を含むものであってもよく、例えば幹細胞および分化した細胞など、異なる種類の細胞を含むものであってもよい。
【0074】
細胞培養基板は、フッ素樹脂を所望の大きさ及び形状に形成、加工等することによって製造できる。細胞培養基板の大きさ及び形状は、細胞培養基板が供される観察装置又は分析装置等に整合するよう、適宜に設定されてよい。細胞培養基板の表面には、必要に応じて、培養細胞、コラーゲン等の生物材料の接着性向上のために親水性領域を形成してもよい。親水性領域は、公知の方法で形成でき、例えば紫外線レーザー処理によって形成できる。したがって、細胞培養基板はパターニングを備えていてもよい。
【0075】
細胞培養方法、及び細胞を観察又は分析する方法
細胞培養方法は、前記細胞培養基板を使用して細胞を培養するものであれば、特に制限されない。細胞培養方法は、細胞培養基板が使用された公知の細胞培養方法において、当該細胞培養基板を本開示の細胞培養基板に置換した方法であって良い。
細胞を観察又は分析する方法は、前記細胞培養基板上で培養された細胞を観察又は分析するものであれば、特に制限されない。細胞を観察又は分析する方法は、細胞培養基板が使用された公知の細胞を観察又は分析する方法において、当該細胞培養基板を本開示の細胞培養基板に置換した方法であって良い。観察及び分析は、前記溶媒中で実施されることが好ましい。観察及び分析は、顕微鏡、実体顕微鏡、蛍光差顕微鏡、位相差顕微鏡、光学分析用レーザー光等によるものが好ましい。
【0076】
バイオチップ
バイオチップは、前記フッ素樹脂を含有する。バイオチップは、溶媒中の分析対象を分析するためのものであることが好ましい。バイオチップは、DNA等の分析対象を基板上に多数固定した素子であってよい。バイオチップには、DNAチップ、プロテインチップ、マイクロ流路チップ、バイオセンサー等が包含される。
溶媒は、好ましくは1.32~1.34、より好ましくは1.325~1.335の屈折率を有することが、バイオチップを構成するフッ素樹脂の屈折率との差が小さくなるため、好ましい。溶媒は水が好ましい。溶媒は、培養液や、核酸、タンパク質、糖類等の分析対象を保存するための液であってよく、公知のものを使用できる。
【0077】
分析対象は、バイオチップの分野の公知の分析対象であってよい。分析対象は、例えば、細胞、核酸(例えば、DNA、RNA、アプタマー等)、タンパク質(例えば、抗原、抗体、蛍光タンパク質等)、糖類、糖タンパク質、生体模倣有機分子等であってよい。
【0078】
フッ素樹脂には、必要に応じ、公知のバイオチップと同様に、マイクロ流路、分析対象の固定化領域等のパターニングが設けられていてもよい。パターニングは樹脂製バイオチップの分野の公知の方法で形成できる。
【0079】
バイオセンシングデバイス
バイオセンシングデバイスは、前記バイオチップを有し、分析対象の存在又は濃度を感知し測定できるデバイスであれば、特に制限されない。例えば、公知のバイオセンシングデバイスにおけるバイオチップを本開示のバイオチップに置き換えて得られるバイオセンシングデバイスであってよい。
【0080】
生体分子の分析方法
生体分子の分析方法は、前記バイオチップを使用して生体分子を分析する方法であれば、特に制限されない。生体分子の分析方法は、バイオチップが使用された公知の生体分子の分析方法において、当該バイオチップを本開示のバイオチップに置換した方法であって良い。例えば、前記バイオチップ又はバイオセンシングデバイスを使用し、分析対象の生体分子の存在又は濃度を測定及び分析する方法であって良い。
【0081】
チューブ
チューブは、前記フッ素樹脂を含有する。チューブは、流体を流通させるためのものであり、例えばスプレー、ディスペンサーなどへ流体を供給するためのものであることが好ましい。
【0082】
流体は、好ましくは1.32~1.34、より好ましくは1.325~1.335の屈折率を有することが好ましい。溶媒は水、メタノール、アセトニトリルが好ましく、水がより好ましい。溶媒は一種単独でも二種以上組み合わせてもよい。
【0083】
チューブは、フッ素樹脂をチューブ形状に成形することにより製造できる。フッ素樹脂をチューブ形状に成形する方法としては、特に限定されないが、例えば、押出成形機を用いて、フッ素樹脂を、溶融押出成形することにより、製造することができる。具体的には、シリンダー、スクリュー、ダイヘッド、ダイを備える押出成形機を用い、フッ素樹脂をシリンダー内で溶融状態とし、溶融物をスクリューの回転によって、ダイからチューブ状に押し出し、これによりチューブを製造できる。
【0084】
チューブの外径は、特に限定されないが、好ましくは0.5~5.0mmであり、より好ましくは1.0~3.0mmである。チューブの厚みは、特に制限されないが、好ましくは0.05~0.8mmであり、より好ましくは0.1~0.6mmである。
【0085】
スプレー、ディスペンサー等を備えた容器において、容器に収容された流体をスプレー、ディスペンサー等へ流通(多くは吸い上げ)させるためのチューブが使用されている。このようなチューブは、その一部又は全部が流体に浸漬された状態で流体とともに容器に収容される。
【0086】
チューブを有する容器としては、スプレー容器、ボトルディスペンサー、水槽等が挙げられ、ボトルディスペンサー、水槽が好ましい。
【0087】
容器が透明である場合(例えば、液体フレグランスを含むフレグランス製品の容器である場合)、審美性の観点から、チューブが流体に浸漬された状態で可視性が低いこと(つまり、一見して、チューブレスに見えること)が望まれることがある。本開示のチューブは、水等の屈折率が1.32~1.34である流体に浸漬された状態で見え難い。このため、本開示のチューブは、屈折率が1.32~1.34である流体を収容するための透明容器と、このような流体を吸い上げるためのチューブとを備えるフレグランス製品を構成するためのチューブとして好ましく用いることができる。
【0088】
滅菌方法
滅菌方法は、前記細胞培養基板、バイオチップ又はチューブを100℃以上130℃未満かつ1気圧以上3気圧未満の水蒸気と接触させる。滅菌方法では、細胞培養基板、バイオチップ及びチューブの使用に実質的な悪影響を与えない程度にまで菌を死滅させることができる。
水蒸気の温度は、110~125℃が好ましく、115~125℃がより好ましい。
滅菌方法はオートクレーブ等の密閉容器中で実施されることが好ましい。
【0089】
以上、実施形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【実施例0090】
以下、実施例等によって本開示の一実施態様を更に詳細に説明するが、本開示はこれに限定されるものではない。
【0091】
フッ素樹脂の屈折率
サンプルをアタゴ社製 アッベ屈折率計(NAR-1T SOLID)を用いて23℃における屈折率を測定した。波長は装置付属のLEDを用いるためD線近似波長である。
【0092】
ガラス転移温度(Tg)
DSC(示差走査熱量計:日立ハイテクサイエンス社、DSC7000)を用いて、30℃以上且つ200℃以下の温度範囲を10℃/分の条件で昇温(ファーストラン)-降温-昇温(セカンドラン)させ、セカンドランにおける吸熱曲線の中間点をガラス転移温度(℃)とした。
【0093】
加熱寸法変化率
円形サンプル(直径5.5cm)の厚み(H1;0.93~1.0mm)に対する、120℃、1.0kgf/cmの条件下で1時間静置された、加熱処理後サンプルの厚み(H2)の変形率(%)であり、計算式((H2-H1)/H1)×100で算出される値の絶対値から算出した。
【0094】
フッ素樹脂の透過率
日立分光光度計U-4100を用いてサンプルの所定の波長における透過率を測定した。近赤外~可視光透過率の場合は400nm~900nmの波長を測定した。サンプルは平均膜厚1mmの膜とした。検出器としては積分球検知器を用いた。
【0095】
フッ素樹脂の鉛筆硬度
鉛筆硬度はJIS K5600-5-4:1999に準拠し、鉛筆硬度測定器5800(BYK Gardner製)により、使用鉛筆としてUni(三菱鉛筆社製)を用いて測定した。サンプルは平均厚み1mmの平板とした。
【0096】
溶媒及び流体の屈折率
サンプルをアタゴ社製 アッベ屈折率計(NAR-1T SOLID)を用いて23℃における屈折率を測定した。波長は装置付属のLEDを用いるためD線近似波長である。
【0097】
比較例1
サイトップ(パーフルオロ(3-ブテニルビニルエーテル)を重合したホモポリマー;屈折率:1.34、ガラス転移温度:108℃、近赤外~可視光透過率:95%、鉛筆硬度:HB)の直径5.5cm、厚み0.934mmのプレートを用意し、23.8kgfの荷重をかけたまま120℃で1時間静置した。静置後の厚みは0.924mmであり、加熱寸法変化率は1.1%であった。また前記プレートを15cm角の立方体状ガラス製箱型容器の底面中央部分に立てて設置し、そこへ蒸留水を前記プレートが十分に浸漬するように加えた。前記プレートは水中に沈んだままであったため、目線の高さでプレートの正面が見える位置から容器越しに水中に浸漬したプレートの目視確認を行った。容器の正面50cmの距離から目視にて注意深く観察したところ、プレートの存在を確認することができず、30cmの距離まで近づいて目視にて注意深く観察することで、プレートの存在を確認することができた。
【0098】
比較例2
エチレン(44.5mol%)/テトラフルオロエチレン(40.5mol%)/ヘキサフルオロプロピレン(14.5mol%)/2,3,3,4,4,5,5-ヘプタフルオロ-1-ペンテン(0.5mol%)共重合体(屈折率:1.38、融点(ガラス転移温度):260℃)、近赤外~可視光透過率:92%、鉛筆硬度:H)の直径5.5cm、厚み1.001mmのプレートを用意し、23.8kgfの荷重をかけたまま120℃で1時間静置した。静置後の厚みは1.003mmであり、加熱寸法変化率は0.2%であった。また前記プレートを水につけて容器の正面50cmの距離から目視にて注意深く観察したところ、プレートの存在を確認することができた。
【0099】
実施例1
パーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)のホモポリマー(屈折率:1.33、ガラス転移温度:131℃、近赤外~可視光透過率:95%、鉛筆硬度:2H)の直径5.5cm、厚み1.014mmのプレートを用意し、23.8kgfの荷重をかけたまま120℃で1時間静置した。静置後の厚みは1.013mmであり、加熱寸法変化率は0.1%であった。また前記プレートを水につけて容器の正面50cmの距離から目視にて注意深く観察したところ、プレートの存在を確認することができず、10cmの距離まで近づいて目視にて注意深く観察することで、わずかながら、プレートの存在を確認することができた。
【0100】
実施例2
パーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)(85mol%)/パーフルオロプロピルビニルエーテル(15mol%)の共重合体(屈折率:1.32、ガラス転移温度:126℃、近赤外~可視光透過率:95%、鉛筆硬度:2H)の直径5.5cm、厚み1.013mmのプレートを用意し、23.8kgfの荷重をかけたまま120℃で1時間静置した。静置後の厚みは1.010mmであり、加熱寸法変化率は0.3%であった。また前記プレートを水につけて容器の正面50cmの距離から目視にて注意深く観察したところ、プレートの存在を確認することができず、10cmの距離まで近づいて目視にて注意深く観察することで、わずかながら、プレートの存在を確認することができた。
【0101】
実施例3
パーフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)(80mol%)/パーフルオロプロピルビニルエーテル(20mol%)の共重合体(屈折率:1.32、ガラス転移温度:120℃、近赤外~可視光透過率:95%、鉛筆硬度:2H)の直径5.5cm、厚み0.999mmのプレートを用意し、23.8kgfの荷重をかけたまま120℃で1時間静置した。静置後の厚みは0.996mmであり、加熱寸法変化率は0.3%であった。また前記プレートを水につけて容器の正面50cmの距離から目視にて注意深く観察したところ、プレートの存在を確認することができず、10cmの距離まで近づいて目視にて注意深く観察することで、わずかながら、プレートの存在を確認することができた。