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  • 特開-腸内細菌叢改善剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114358
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】腸内細菌叢改善剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/644 20150101AFI20240816BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20240816BHJP
   A61P 1/12 20060101ALI20240816BHJP
   A23L 21/20 20160101ALI20240816BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20240816BHJP
【FI】
A61K35/644
A61P1/00
A61P1/12
A23L21/20
A23L33/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020076
(22)【出願日】2023-02-13
(71)【出願人】
【識別番号】598162665
【氏名又は名称】株式会社山田養蜂場本社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小西 花織
(72)【発明者】
【氏名】奥村 暢章
(72)【発明者】
【氏名】西本 悠一郎
【テーマコード(参考)】
4B018
4B041
4C087
【Fターム(参考)】
4B018MD76
4B018ME14
4B018MF01
4B041LC10
4B041LK40
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB22
4C087CA03
4C087MA52
4C087NA14
4C087ZA66
4C087ZA73
(57)【要約】
【課題】腸内細菌叢改善剤を提供する。
【解決手段】ローヤルゼリーを含む腸内細菌叢改善剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ローヤルゼリーを含む腸内細菌叢改善剤。
【請求項2】
腸内細菌叢中のビフィドバクテリウム属菌、ブラウティア属菌、フシカテニバクター属菌、ビロフィラ属菌、エガセラ属菌、及びフソバクテリウム属菌からなる群から選択される少なくとも1種の腸内における数を調整するために用いられる、請求項1に記載の剤。
【請求項3】
腸内細菌叢中のビフィドバクテリウム属菌、ブラウティア属菌、及びフシカテニバクター属菌からなる群から選択される少なくとも1種の割合を増加させるために用いられる、並びに/又は
腸内細菌叢中のビロフィラ属菌、エガセラ属菌、及びフソバクテリウム属菌からなる群から選択される少なくとも1種の割合を減少させるために用いられる、
請求項1に記載の剤。
【請求項4】
腸内細菌叢中のビフィドバクテリウム属菌、ブラウティア属菌、及びフシカテニバクター属菌の割合を増加させ、並びにビロフィラ属菌、エガセラ属菌、及びフソバクテリウム属菌の割合を減少させるために用いられる、
請求項1に記載の剤。
【請求項5】
飲食品、医薬品又は医薬部外品である、請求項1~4のいずれか一項に記載の剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腸内細菌叢改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
腸内細菌叢の構成等により判断される腸内環境は、様々な健康状態に影響することが知られており、腸内環境を良好に維持することは重要である。そのため、腸内環境を改善するための素材が求められ、検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、黒大豆種皮抽出物を含有する組成物を経口摂取することで、腸内細菌叢を改善し、腸内細菌中の短鎖脂肪酸産生菌の存在割合を増加し、腸内細菌中のエクオール産生菌の存在割合を増加し、腸内細菌中の病原性細菌の存在割合を低減することができることが開示されている。
【0004】
また、特許文献2では、水溶性食物繊維、特に難消化性デキストリンが、ヒト腸内のフシカテニバクター属菌を増加させることが報告されている。
【0005】
一方、今日、養蜂産品は、健康食品、医薬品、化粧料などに広く利用されており、血管拡張、血圧降下、抗菌作用などの種々の薬理作用及び栄養生理的作用が報告されている。
【0006】
例えば、養蜂産品の1種であるプロポリスは、大変古くから人々の生活に用いられており、ヨーロッパではアピセラピー(養蜂産品による治療法)として、ローヤルゼリー、蜂蜜、花粉荷など、他の養蜂産品とともに、現在も人々の健康のために利用されている。プロポリスは、フラボノイド、テルペノイド、有機酸、アミノ酸、多糖類、ミネラルなどの多種多様な天然成分からなっている。
【0007】
特許文献3では、プロポリスを有効成分として含有する、ルミノコッカス科、カテニバクテリウム属、サブドリグラヌルム属、Family XIII AD3011 group属、及びアナエロツルンカス属からなる群より選択される少なくとも一種の科又は属に属する細菌の腸内における数を調整するための剤が開示されている。
【0008】
同じく養蜂産品の一種であるローヤルゼリーは蜜蜂の唾液腺で合成され、頭部にあるマンデブラー腺から分泌されるミルク状の物質で、女王蜂幼虫用の巣房に入れられた幼虫蜂に対して働き蜂が女王蜂を作るために与えるものである。現在、ローヤルゼリーは健康食品、医薬品、化粧品など世界中で広く利用されており、有効性として、血流増加作用、血圧降下作用、成長促進作用、性ホルモン様作用、抗菌作用、抗腫瘍作用、創傷治癒促進作用、自律神経失調症治癒作用、抗ストレス作用、カルシウム吸収促進作用、血糖値低下作用、抗酸化作用等が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2021-155375号公報
【特許文献2】特開2020-083830号公報
【特許文献3】特開2021-195334号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、腸内細菌叢改善剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、腸内細菌構成のタイプ別に10種の便検体を用意し、ローヤルゼリーの添加あり/なしで培養し、菌叢を解析すると、ローヤルゼリー添加により有益菌3種(ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)菌、ブラウティア属(Blautia)菌、フシカテニバクター属(Fusicatenibacter)菌)が増え、有害菌3種(ビロフィラ属(Bilophila)菌、エガセラ属(Eggerthella)菌、フソバクテリウム属(Fusobacterium)菌)が減少していたことから、ローヤルゼリーは腸内環境を改善する可能性が見出された。
【0012】
本発明は、これら知見に基づき、更に検討を重ねて完成されたものであり、次の腸内細菌叢改善剤を提供するものである。
【0013】
項1.ローヤルゼリーを含む腸内細菌叢改善剤。
項2.腸内細菌叢中のビフィドバクテリウム属菌、ブラウティア属菌、フシカテニバクター属菌、ビロフィラ属菌、エガセラ属菌、及びフソバクテリウム属菌からなる群から選択される少なくとも1種の腸内における数を調整するために用いられる、項1に記載の剤。
項3.腸内細菌叢中のビフィドバクテリウム属菌、ブラウティア属菌、及びフシカテニバクター属菌からなる群から選択される少なくとも1種の割合を増加させるために用いられる、並びに/又は
腸内細菌叢中のビロフィラ属菌、エガセラ属菌、及びフソバクテリウム属菌からなる群から選択される少なくとも1種の割合を減少させるために用いられる、
項1に記載の剤。
項4.腸内細菌叢中のビフィドバクテリウム属菌、ブラウティア属菌、及びフシカテニバクター属菌の割合を増加させ、並びにビロフィラ属菌、エガセラ属菌、及びフソバクテリウム属菌の割合を減少させるために用いられる、
項1に記載の剤。
項5.飲食品、医薬品又は医薬部外品である、項1~4のいずれか一項に記載の剤。
【発明の効果】
【0014】
ローヤルゼリーは、腸内細菌叢改善剤の有効成分として有用である。本発明の腸内細菌叢改善剤により、腸内細菌叢の有益菌の割合を増加させて、有害菌の割合を減少させることが可能であり、特に腸内細菌叢中の有益菌であるビフィドバクテリウム属菌、ブラウティア属菌、及びフシカテニバクター属菌の割合を増加させて、有害菌であるビロフィラ属菌、エガセラ属菌、及びフソバクテリウム属菌の割合を減少させることができる。
【0015】
また、ローヤルゼリーは、従来から食品素材として用いられてきたものであるから、安全性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】ローヤルゼリーの添加時と無添加時の腸内細菌(ビフィドバクテリウム属、ブラウティア属、フシカテニバクター属、ビロフィラ属、エガセラ属、フソバクテリウム属)の変動解析の結果を示すグラフである。縦軸は相対存在比、左:ローヤルゼリー無添加、右:ローヤルゼリー添加
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0018】
本発明の腸内細菌叢改善剤は、ローヤルゼリーを有効成分として含むことを特徴とする(以下、「本発明の剤」と称することもある)。
【0019】
本発明の剤の一実施形態は、特定の属に属する腸内細菌の腸内における数を調整するための剤に関する。具体的には、本発明の剤の一実施形態は、腸内細菌叢中のビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)菌、ブラウティア属(Blautia)菌、フシカテニバクター属(Fusicatenibacter)菌、ビロフィラ属(Bilophila)菌、エガセラ属(Eggerthella)菌、及びフソバクテリウム属(Fusobacterium)菌からなる群から選択される少なくとも1種の腸内における数を調整するために用いられる剤に関する。上記の菌の腸内における数を調整することは、これらの菌の腸内における数を増加させること、又は減少させることが含まれる。また、上記の菌の腸内における数を調整することには、腸内細菌叢においてこれらの菌の存在比率が増加又は減少することも含まれる。
【0020】
本明細書において、ビフィドバクテリウム属菌などの「~属菌」との記載は、ビフィドバクテリウム属に属する細菌のように「~属に属する細菌」を意味するものとする。
【0021】
より具体的には、本発明の剤の一実施形態は、腸内細菌叢中のビフィドバクテリウム属菌、ブラウティア属菌、及びフシカテニバクター属菌からなる群から選択される少なくとも1種の割合を増加させるために用いられる、並びに/又は腸内細菌叢中のビロフィラ属菌、エガセラ属菌、及びフソバクテリウム属菌からなる群から選択される少なくとも1種の割合を減少させるために用いられる剤に関する。
【0022】
更に具体的には、本発明の剤の一実施形態は、腸内細菌叢中のビフィドバクテリウム属菌、ブラウティア属菌、及びフシカテニバクター属菌の割合を増加させ、並びにビロフィラ属菌、エガセラ属菌、及びフソバクテリウム属菌の割合を減少させるために用いられる剤に関する。
【0023】
ビフィドバクテリウム属菌、ブラウティア属菌、フシカテニバクター属菌、ビロフィラ属菌、エガセラ属菌、及びフソバクテリウム属菌の種は、特に限定されない。これらの細菌としては、例えば、腸内常在菌として存在する種が挙げられる。
【0024】
このうち、ビフィドバクテリウム属菌、ブラウティア属菌、及びフシカテニバクター属菌はヒトに有益な細菌であり、ビロフィラ属菌、エガセラ属菌、及びフソバクテリウム属菌はヒトに有害な細菌と考えられている。ビフィドバクテリウム属菌は酢酸産生を介した腸管出血性大腸炎O157:H7感染予防及び便通改善(Fukuda et al.,2011,Nature,469(7331):543-547.;Ogata et al.,1997, Biosci Microflora,16(2):53-58.)、ブラウティア属菌は複数の病気における患者の腸内での減少及び内臓脂肪面積と負の相関(Larsen et al.,2010,PLoS One,5(2):e9085.;Kakiyama et al.,2013,J Hepatol,58(5):949-955.;Ozato et al.,2019,NPJ Biofilms Microbiomes,5(1):28.)、フシカテニバクター属菌は腸内の炎症抑制効果(Takeshita et al.,2016,Inflamm Bowel Dis,22(12):2802-2810.)、ビロフィラ属菌はデオキシコール酸との相関及び耐糖能異常(Yachida et al.,2019,Nat Med,25(6):968-976.;Natividad et al.,2018,Nat Commun,9(1):2802.)、エガセラ属菌は強心剤の不活化、2型糖尿病との関連及びTh17活性化による炎症誘導(Haiser et al.,2013,Science,341(6143):295-298.;Koh et al.,2018,Cell,175(4):947-961.e17.;Alexander et al.,2022,Cell Host Microbe,30(1):17-30.e9.)、フソバクテリウム属菌は大腸がん患者の腸内での増加及び大腸癌の増悪化(Castellarin et al.,2012,Genome Res,22(2):299-306.;Kostic et al.,2013,Cell Host Microbe,14(2):207-215.)にそれぞれ相関していると考えられている。
【0025】
上記の観点から、本実施形態に係る腸内細菌叢改善剤は、腸内環境を良好にし、種々の疾病を予防又は改善することができる。すなわち、本発明の一実施形態は、上記の腸内細菌の腸内における細菌数を調整して、腸内環境を好適に調整するための剤を提供するということができる。この腸内細菌叢改善剤は、例えば、上述した細菌の数を腸内において増加及び減少させることにより、上記の疾患又は症状の予防、改善又は治療等の用途に用いることができる。すなわち、本発明の一実施形態は、これらの用途に用いるための剤を提供するということもできる。
【0026】
ローヤルゼリーは、蜜蜂のうち日齢3~12日の働き蜂が下咽頭腺及び大腮腺から分泌する分泌物を混合して作る乳白色のゼリー状物質である。ローヤルゼリー中の主な生理活性成分としては、例えば、ローヤルゼリーに特有な10-ハイドロキシ-2-デセン酸(以下、「デセン酸」と記載する)等の有機酸類をはじめ、タンパク質、脂質、糖類、ビタミンB類、葉酸、ニコチン酸、パントテン酸等のビタミン類、各種ミネラル類等が挙げられる。本発明におけるローヤルゼリーには、生ローヤルゼリー、生ローヤルゼリーを濃縮又は希釈したローヤルゼリー濃縮物又は希釈物、乾燥ローヤルゼリー、乾燥ローヤルゼリー粉末、酵素処理ローヤルゼリー、ローヤルゼリー抽出物、ローヤルゼリー発酵物などが含まれる。また、ローヤルゼリーの産地は、ヨーロッパ諸国、オセアニア諸国、アメリカ、ブラジル、日本、中国、その他アジア諸国等いずれであってもよい。
【0027】
ローヤルゼリー濃縮物は、例えば、生ローヤルゼリーから水分を除去することにより得ることができる。ローヤルゼリー希釈物は、例えば、生ローヤルゼリーに水分を添加することにより得ることができる。
【0028】
乾燥ローヤルゼリー粉末は、生ローヤルゼリーを乾燥させて粉末化したものである。乾燥方法としては、通風乾燥や天日乾燥などの自然乾燥、電気などで加熱して乾燥させる強制乾燥、凍結乾燥など、一般食品加工で採用される公知のいずれの方法を使用することができる。好ましくは、凍結乾燥である。なお、乾燥時間は特に制限されず、通風や天日乾燥などの自然乾燥の場合は、約3日程度、電気などで加熱して強制乾燥させる場合は、50℃程度で1~3日程度を挙げることができる。通常、水分含量が10質量%以下、好ましくは5質量%以下になるように乾燥させることが好ましい。なお、通風や天日乾燥などの自然乾燥の場合のように水分含量を10質量%以下にすることが難しい場合は、その後、凍結乾燥機にかけて更に水分を下げる処理を行ってもよい。また、凍結乾燥又は噴霧乾燥後に粉砕機(例えば、ピンミル、ハンマーミル、ボールミル、ジェットミル)により粉砕してローヤルゼリー粉末を得てもよい。
【0029】
酵素処理ローヤルゼリーは、ローヤルゼリーをタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)で処理したものである。好ましくは、プロテアーゼ処理によってローヤルゼリーに含まれるタンパク質に起因するアレルギー反応が抑制されてなる、低アレルゲン化酵素処理ローヤルゼリーである。したがって、酵素処理ローヤルゼリーに含まれる成分としては、ローヤルゼリー中に含まれるタンパク質のプロテアーゼ分解物の他に、前述するデセン酸等の有機酸類、脂質、糖類、ビタミン類、及び各種ミネラル類が挙げられる。
【0030】
酵素処理ローヤルゼリーの製造に用いられるローヤルゼリーとしては、特に制限されず、例えば、生ローヤルゼリー、生ローヤルゼリーを乾燥させて粉末化したローヤルゼリー粉末、又は生ローヤルゼリーを水若しくは含水エタノール等により抽出したものが挙げられる。
【0031】
酵素処理ローヤルゼリーの製造は、ローヤルゼリー原料を少なくともエンドペプチダーゼ作用を有する酵素、少なくともエキソペプチダーゼ作用を有する酵素、及び/又はエンドペプチダーゼ作用とエキソペプチダーゼ作用とを有する酵素で処理することにより行うことができる。
【0032】
少なくともエンドペプチダーゼ活性を有するタンパク質分解酵素としては、動物由来(例えば、トリプシン、キモトリプシン等)、植物由来(例えば、パパイン等)、微生物由来(例えば、乳酸菌、酵母、カビ、枯草菌、放線菌等)のエンドペプチダーゼなどが挙げられる。
【0033】
少なくともエキソペプチダーゼ活性を有するタンパク質分解酵素としては、カルボキシペプチダーゼ、アミノペプチダーゼ、微生物由来(例えば、乳酸菌、アスペルギルス属菌、リゾープス属菌等)のエキソペプチダーゼ、エンドペプチダーゼ活性も併せて有するパンクレアチン、ペプシン等が挙げられる。
【0034】
このような各種酵素の内、エキソペプチダーゼ活性とエンドペプチダーゼ活性の両方を有する酵素の好ましい例としては、ストレプトマイセス・グリセウス(Streptomyces griseus)産生ペプチダーゼ(商品名:アクチナーゼAS)、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)産生ペプチダーゼ(商品名:プロテアーゼA、フレーバーザイム、プロテアックス)、アスペルギルス・メレウス(Aspergillus melleus)産生ペプチダーゼ(商品名:プロテアーゼP)が、またエキソペプチダーゼ活性を有する酵素の好ましい例としては、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)産生ペプチダーゼ(商品名:ウマミザイムG、Promod 192P、Promod 194P、スミチームFLAP)、アスペルギルス・ソーエ(Aspergillus sojae)産生ペプチダーゼ(商品名:Sternzyme B15024)、アスペルギルス属産生ペプチダーゼ(商品名:コクラーゼP)、リゾプス・オリゼー(Rhizopus oryzae)産生ペプチダーゼ(商品名:ペプチダーゼR)を挙げることができる。更にエンドペプチダーゼ活性を有する酵素の好ましい例としては、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)産生ペプチダーゼ(商品名:オリエンターゼ22BF、ヌクレイシン)、バチルス・リシェニフォルミス(Bacillus licheniformis)産生ペプチダーゼ(商品名:アルカラーゼ)、バチルス・ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)産生ペプチダーゼ(商品名:プロテアーゼS)、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)産生ペプチダーゼ(商品名:ニュートラーゼ)、バチルス属産生ペプチダーゼ(商品名:プロタメックス)を挙げることができる。
【0035】
ローヤルゼリーのアレルギー性を低減するための酵素処理は、例えば、特開2007-295919号公報及び特開2007-295920号公報の記載に従い行うことができる。
【0036】
ローヤルゼリー抽出物は、ローヤルゼリー(生、乾燥物及び粉砕物を含む)を水又は含水エタノール等により抽出したものである。抽出時間は、原料として用いられるローヤルゼリーの形態、溶媒の種類及び量、抽出の際の温度及び攪拌条件等に応じて適宜設定することができる。抽出後、ろ過、遠心分離等により固形分を除去してもよい。また、抽出された溶液をそのまま用いてもよいし、当該溶液から溶媒を除去して、濃縮液又は粉末として用いてもよい。ローヤルゼリー抽出物としては、ローヤルゼリーエタノール抽出物であることが好ましい。
【0037】
ローヤルゼリー発酵物は、酵母、乳酸菌等の微生物を使用して常法により製造することができる。
【0038】
本発明の剤中には、本発明の効果を妨げない範囲で、上記以外の公知の成分を適宜配合することができる。
【0039】
本発明の剤中のローヤルゼリーの含量は、本発明の効果が得られる範囲であれば特に制限されず、最終形態等に応じて適宜調整することができ、剤中の、固形分全量に対して、例えば、0.1質量%以上、0.2質量%以上、0.5質量%以上、1質量%以上、3質量%以上、5質量%以上、7質量%以上、10質量%以上、20質量%以上、30質量%以上、40質量%以上、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、98質量%以上、99質量%以上、99.5質量%以上であってよく、100質量%以下、99.5質量%以下、99質量%以下、98質量%以下、95質量%以下、90質量%以下、80質量%以下、70質量%以下、60質量%以下、50質量%以下、40質量%以下、30質量%以下、20質量%以下、10質量%以下、7質量%以下、5質量%以下、3質量%以下、1質量%以下、0.5質量%以下、0.2質量%以下、0.1質量%以下であってもよい。
【0040】
また、ローヤルゼリーは、本発明の効果を得るために定期的に適用されることが好ましく、一日一回又は数回に分けて適用されることが特に好ましい。特に限定されるものではないが、生ローヤルゼリーとしての有効成分量換算で、例えば、体重60kgの成人一日当たり、10mg以上、100mg以上、150mg以上、200mg以上、300mg以上、500mg以上、800mg以上、1000mg以上、1200mg以上、1600mg以上、2000mg以上、2400mg以上、2800mg以上、3200mg以上、3600mg以上、4000mg以上、4800mg以上、5400mg以上、6000mg以上、6600mg以上、又は7200mg以上であってよく、15000mg以下、10000mg以下、8000mg以下、7200mg以下、6600mg以下、6000mg以下、5400mg以下、4800mg以下、4000mg以下、36000mg以下、3000mg以下、2800mg以下、2400mg以下、2000mg以下、1000mg以下、800mg以下、又は500mg以下であってよい。用量は、投与される人の健康状態、投与方法及び他の剤との組み合わせ等の因子に応じて、上記範囲内で適宜設定することができる。
【0041】
本発明の剤は、飲食品(特に、保健、健康維持、増進等を目的とする飲食品(例えば、健康食品、機能性食品、栄養組成物(nutritional composition)、栄養補助食品、サプリメント、保健用食品、特定保健用食品、栄養機能食品、又は機能性表示食品))、医薬部外品、医薬品などとして使用することができる。また、本発明の剤は、腸内細菌叢改善作用を付与する添加剤についての意味も包含するものである。
【0042】
上記の飲食品には、上記ローヤルゼリーをそのまま使用することもでき、必要に応じて、ミネラル類、ビタミン類、フラボノイド類、キノン類、ポリフェノール類、アミノ酸、核酸、必須脂肪酸、清涼剤、結合剤、甘味料、崩壊剤、滑沢剤、着色料、香料、安定剤、ゲル化剤、防腐剤、徐放調整剤、界面活性剤、溶解剤、湿潤剤等を配合することもできる。
【0043】
飲食品には、動物(ヒトを含む)が摂取できるあらゆる飲食品が含まれる。飲食品の種類は、特に限定されず、例えば、乳製品;発酵食品(ヨーグルト等);飲料類(コーヒー、ジュース、茶飲料のような清涼飲料、乳飲料、乳酸菌飲料、乳酸菌入り飲料、ヨーグルト飲料、炭酸飲料、日本酒、洋酒、果実酒のような酒等);スプレッド類(カスタードクリーム等);ペースト類(フルーツペースト等);洋菓子類(チョコレート、ドーナツ、パイ、シュークリーム、ガム、グミ、ゼリー、キャンデー、クッキー、ケーキ、プリン等);和菓子類(大福、餅、饅頭、カステラ、あんみつ、羊羹等);氷菓類(アイスクリーム、アイスキャンデー、シャーベット等);食品類(カレー、牛丼、雑炊、味噌汁、スープ、ミートソース、パスタ、漬物、ジャム等);調味料類(ドレッシング、ふりかけ、旨味調味料、スープの素等)などが挙げられる。
【0044】
飲食品の製法は特に限定されず、適宜公知の方法に従うことができる。
【0045】
サプリメントとして使用する際の投与単位形態については特に限定されず適宜選択でき、例えば、チュアブル、トローチなどの錠剤、カプセル剤、顆粒剤、液剤、散剤、シロップ、ペースト、ドリンク、グミ等が挙げられる。
【0046】
上記の医薬品には、上記ローヤルゼリーのみを使用することもでき、ビタミン、生薬など日本薬局方に記載の他の医薬成分と混合して使用することもできる。
【0047】
本発明の剤を、医薬品として調製する場合、上記ローヤルゼリーを、医薬品において許容される成分とともに、タブレット(素錠、糖衣錠、発泡錠、フィルムコート錠、チュアブル錠、トローチ剤などを含む)、カプセル剤、丸剤、粉末剤(散剤)、細粒剤、顆粒剤、液剤、懸濁液、乳濁液、シロップ、ペースト、座剤、注射剤(使用時に、蒸留水又はアミノ酸輸液や電解質輸液等の輸液に配合して液剤として調製する場合を含む)などの形態に調製して、医薬用の製剤にすることが可能である。
【0048】
医薬品の投与は、局所的であってもよく、全身的であってもよい。投与方法には特に制限はなく、経口的又は非経口的に投与される。非経口的投与経路としては、静脈内若しくは動脈内への投与、経直腸投与等が挙げられる。
【0049】
本発明の医薬品には、ローヤルゼリー以外にも、必要に応じて、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、懸濁化剤、増粘剤、抗酸化剤、吸収促進剤、pH調整剤、保存剤、防腐剤、安定剤、界面活性剤、甘味剤、矯味剤、香料等の薬学的に許容される成分を適宜配合することができる。
【0050】
なお、本発明の医薬品には、医薬部外品も包含される。
【0051】
以上説明した本発明の剤は、ヒトを含む哺乳動物(好ましくはヒト)に対して適用されるものである。本発明の剤は、疾病に罹患していない健常人に対しても用いてもよい。
【0052】
本発明の剤は、ローヤルゼリーの作用に基づき腸内細菌叢の有益菌の割合を増加させて、有害菌の割合を減少させることが可能であり、特に腸内細菌叢中の有益菌であるビフィドバクテリウム属菌、ブラウティア属菌、及びフシカテニバクター属菌の割合を増加させて、有害菌であるビロフィラ属菌、エガセラ属菌、及びフソバクテリウム属菌の割合を減少させることができる。そのため、ローヤルゼリーは、腸内細菌叢改善剤の有効成分として有用である。
【0053】
また、ローヤルゼリーは従来から食品素材として用いられてきたものであるから、安全性が高い。
【0054】
なお、本明細書において「含む(comprise)」とは、「本質的にからなる(essentially consist of)」という意味と、「のみからなる(consist of)」という意味をも包含する。
【実施例0055】
以下、本発明を実施例に基づいてより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0056】
<方法>
A.ローヤルゼリーの調製
ドラフト内でローヤルゼリーを90mg量り取った。なお、ネガティブコントロールとしてローヤルゼリーを添加しないものを作製した。嫌気チャンバー内で、量り取ったローヤルゼリーをpH4.5のPureWater 1mLで溶かした。あらかじめ嫌気チャンバー内で気相を置換しておいたチューブに、0.22μmのフィルターを通して移した。
【0057】
B.培地の調製
YCFA培地の組成は以下のとおりであった(1L当たり)。
トリプチケース(2.5g),ペプトン(2.5g),酵母エキス(5g),KHPO(0.9g),KHPO(0.9g),NaCl(1.8g),NHSO(1.8g),CaCl・2HO(0.24g),MgSO・7HO(0.375g),酢酸カリウム(1g),プロピオン酸ナトリウム(0.5g),n-酪酸ナトリウム(0.3g),吉草酸(0.1g),イソ酪酸塩(0.1g),イソ吉草酸(0.1g),酪酸2-メチル(0.1g),クエン酸NHFe(III)(0.01g),MnCl(0.006g),CoCl(0.002g),NiCl(0.0004g),(NH(Mo24)・4HO(0.0004g),CuSO(0.00015g),AlK(SO(0.0003g),Na(0.0003g),ZnSO(0.002g),NaSeO(0.0003g),ピリドキサールリン酸(0.002g),p-アミノ安息香酸塩(0.0005g),ビオチン(0.0002g),フェニルプロピオン酸塩(0.002g),l-アルギニン(0.002g),パンビタン(0.1g),塩酸システイン(1g),レサズリン(7-ヒドロキシ-3H-フェノキサジン-3-オン-10-オキシド)(0.005g),及びビタミンK(0.001g)
【0058】
C.便ジュースの調製
嫌気チャンバー内で、あらかじめ気相を置換しておいたエッペンドルフチューブに便を12mg量り取った。Bで調整したYCFA培地を500μL入れ、ホモジナイズし、さらにYCFA培地を加えて便ジュースを作製した。便ジュースにおける便濃度は0.1%(w/v)となった。なお、本実施例では、異なる10人の健康な男女より採取した便を使用した。
【0059】
D.培養
Aで調製したローヤルゼリー10μLを96wellプレートの各wellに添加した。次に、Cで調整した便ジュースを290μLずつwellに添加した。ローヤルゼリーの終濃度は0.3%(w/v)となった。そして、嫌気チャンバー内の37℃インキュベーターで16時間培養した。
【0060】
E.変動解析
ローヤルゼリー添加・無添加それぞれの便培養液に対する16S rRNA遺伝子配列を用いたメタゲノム解析を行った。メタゲノム解析はMurakamiら(Murakami et al.,Evid.Based.Complement Alternat.Med.,2015:824395.)の方法に従った。まず便及び便-試験化合物混合液の遠心ペレットから抽出したDNAを鋳型として、16S rRNA遺伝子のV1-V2領域のDNA断片をPCRにて増幅し、続いてPCR産物の配列をIllumina MiSeqを用いたペアエンド法により解析した。得られた塩基配列から、QIIME2(version 2019.10)のワークフローに則って細菌系統組成を算出した。まず、cutadaptを使用しプライマー配列を削除した後、DADA2を用いて3’末端塩基削除、PhiX由来の塩基配列除去、クオリティーフィルタリングを行い、高品質の塩基配列を得た。その後ノイズ除去(シーケンスエラーの修正)、ペアエンド配列のマージ、キメラ配列除去を同DADA2にて行い、ASV(Amplicon Sequence Variant)代表配列を得た。次に、これら代表配列の細菌属をQIIME2のナイーブベイズ分類器により同定した。本解析ではSilvaが提供するSILVA 132 SSU Refを99%の閾値でクラスタリングして得られた代表配列のうち、V1-V2領域を切り出した配列を教師データとして用いた。
【0061】
無添加時とローヤルゼリー添加時の2群間で、腸内細菌ごとにWilcoxonの符号順位検定にて比較検討を行った。有意水準は5%未満とした。
【0062】
<結果>
腸内細菌叢の異なる10名の被験者を選出した。日本人の腸内細菌叢は3パターンに分かれるが、10名の被験者はこの日本人の腸内細菌叢のパターンを網羅している。10名の被験者の便検体について、ローヤルゼリーを添加した場合と添加していない場合で培養し、腸内細菌叢の解析を行った。
【0063】
腸内細菌叢のプロファイル解析の結果、ローヤルゼリーの添加の有無で腸内細菌叢が変化した人もいる一方で、変化していない人もいた。
【0064】
ヒトに有益な菌、悪影響のある菌であることが文献により知られている菌について、ローヤルゼリーの添加時と無添加時で変動解析を実施した。有意差有りと判定された菌についての結果を図1に示す。図1に示すように、ヒトに有益な菌である、ビフィドバクテリウム属、ブラウティア属、及びフシカテニバクター属に属する菌がローヤルゼリーの添加により有意に増加し、ヒトに悪影響のある菌である、ビロフィラ属、エガセラ属、及びフソバクテリウム属に属する菌がローヤルゼリーの添加により有意に減少していた。
図1