(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114380
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】電界紡糸装置
(51)【国際特許分類】
D01D 5/04 20060101AFI20240816BHJP
D04H 1/728 20120101ALI20240816BHJP
【FI】
D01D5/04
D04H1/728
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020114
(22)【出願日】2023-02-13
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長田 竜朔
(72)【発明者】
【氏名】茂木 知之
(72)【発明者】
【氏名】阿部 裕太
(72)【発明者】
【氏名】八友 大知
【テーマコード(参考)】
4L045
4L047
【Fターム(参考)】
4L045AA01
4L045AA08
4L045AA09
4L045BA03
4L045BA34
4L045CA32
4L045CB10
4L045CB16
4L045CB18
4L045DA08
4L045DA33
4L045DA45
4L047AB08
4L047CC03
4L047CC12
4L047EA22
(57)【要約】
【課題】極細繊維の量産化を可能にする技術を提供すること。
【解決手段】紡糸ヘッド4は、第1分割体42と第2分割体43とを有し、両分割体42,43を重ね合わせた重合面に、原料液の移動に使用される液体流路が形成されている。紡糸ヘッド4は、第1方向Xに間欠配置され、第2方向Yに突出する複数の突出部41を有する。突出部41の先端に、前記液体流路における原料液の移動方向の下流側端である吐出口48が位置している。突出部41の先端は、紡糸ヘッド4において第3方向Zの長さが最も短い。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の吐出口が第1方向に間欠配置され、各該吐出口から該第1方向に直交する第2方向の一方側に向けて原料液を吐出する紡糸ヘッドと、
前記紡糸ヘッドとの間に電界を生じさせるための電極と、を備えた電界紡糸装置であって、
前記紡糸ヘッドは、第1分割体と第2分割体とを有し、両分割体は、前記第1方向及び前記第2方向の双方に直交する第3方向に分割可能であり、両分割体を重ね合わせた重合面に前記原料液の移動に使用される液体流路が形成されており、
前記紡糸ヘッドは、前記第1方向に間欠配置され、前記第2方向に突出する複数の突出部を有し、該突出部の先端に、前記液体流路における前記原料液の移動方向の下流側端である前記吐出口が位置しており、
前記突出部の先端は、前記紡糸ヘッドにおいて前記第3方向の長さが最も短い、電界紡糸装置。
【請求項2】
前記突出部の前記第1方向の長さが、該突出部の基端から先端に向かうに従って漸次短くなる、請求項1に記載の電界紡糸装置。
【請求項3】
前記紡糸ヘッドの前記第1方向に直交し且つ第3方向に沿う方向での断面視において、該紡糸ヘッドにおける前記突出部の近傍の輪郭線と前記第2方向とのなす角度が、該突出部の輪郭線と該第2方向とのなす角度のうちの最小値以上である、請求項1又は2に記載の電界紡糸装置。
【請求項4】
前記液体流路は、前記複数の吐出口と1対1で対応する複数の吐出流路と、該複数の吐出流路を前記第1方向に跨ぐように配置され、前記第3方向において各該吐出流路の一部と重なるバッファー流路とを含み、
前記両分割体の一方における前記重合面を形成する面に、前記複数の吐出流路に対応する複数の凹部が形成され、該両分割体の他方における該重合面を形成する面に、前記バッファー流路に対応する凹部が形成されている、請求項1~3の何れか1項に記載の電界紡糸装置。
【請求項5】
前記液体流路は、前記複数の吐出口と1対1で対応する複数の吐出流路を含み、
前記紡糸ヘッドは、前記第1分割体と前記第2分割体との間に介在配置される平板状の第3分割体を有し、
前記第1分割体及び前記第2分割体の少なくとも一方は、前記第3分割体との対向面に、前記複数の吐出流路に対応する複数の凹部を有し、
前記第3分割体は、該第3分割体を厚み方向に貫通して前記第2方向に延びる複数の貫通溝を有し、
前記複数の凹部と前記複数の貫通溝とが、前記複数の吐出流路を形成する、請求項1~3の何れか1項に記載の電界紡糸装置。
【請求項6】
前記液体流路は、前記複数の吐出口と1対1で対応する複数の吐出流路を含み、
前記紡糸ヘッドは、前記第1分割体と前記第2分割体との間に介在配置される平板状の第3分割体を有し、
前記第1分割体及び前記第2分割体は、それぞれ、前記第3分割体との対向面に、前記吐出流路に対応する凹部を有しておらず、
前記第3分割体は、該第3分割体を厚み方向に貫通して前記第2方向に延びる複数の貫通溝を有し、該複数の貫通溝が、前記複数の吐出流路を形成する、請求項1~3の何れか1項に記載の電界紡糸装置。
【請求項7】
前記液体流路は、前記複数の吐出流路と、該複数の吐出流路を前記第1方向に跨ぐように配置され、前記第3方向において各該吐出流路の一部と重なるバッファー流路とを含み、
前記第1分割体及び前記第2分割体の一方における前記重合面を形成する面に、前記バッファー流路に対応する凹部が形成されている、請求項5又は6に記載の電界紡糸装置。
【請求項8】
前記紡糸ヘッドにおける前記原料液の移動方向の上流側から下流側に向けて気体流を噴射する気体噴射部を備え、
前記気体流は、前記吐出口から吐出された前記原料液を延伸するための第1気体流と、該第1気体流よりも前記液体流路から遠い位置を流れる加熱された第2気体流とを含み、
前記気体噴射部は、前記第1気体流を噴射する第1気体噴射部と、前記第2気体流を噴射する第2気体噴射部とを有し、
前記第1気体噴射部は、前記第1気体流の噴射方向が前記原料液の吐出方向と一致するように、該第1気体流を噴射する、請求項1~7の何れか1項に記載の電界紡糸装置。
【請求項9】
前記第1気体噴射部は、前記第1気体流の移動に使用される気体流路を有し、該気体流路における前記気体流の移動方向の下流側端部に、該気体流路の流路断面積が最小のオリフィス部が位置し、
前記複数の吐出口それぞれに対し、前記オリフィス部が1個又は2個以上配置されている、請求項8に記載の電界紡糸装置。
【請求項10】
請求項1~9の何れか1項に記載の電界紡糸装置を用いて繊維を製造する工程と、該繊維を集積して不織布を製造する工程とを有する、不織布の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界紡糸装置に関する。
【背景技術】
【0002】
紡糸は、樹脂などの紡糸素材を加熱溶融又は溶媒に溶解して流動化させた粘調体からなる原料液を、紡糸ヘッドなどの所定の貯留部に連続的に供給し、該貯留部に接続された吐出口から吐出して繊維(糸)を製造する技術である。原料液の形態により、溶融紡糸、溶液紡糸がある。また、原料液を吐出口から吐出後に繊維の形に固定する形態により、湿式紡糸、乾式紡糸、メルトブローン、電界紡糸(静電紡糸)などの公知の紡糸法がある。
【0003】
メルトブローン法、電界紡糸法などは、繊維径がナノサイズの極細繊維であるナノファイバの製造に利用されている。なかでも電界紡糸法は、ナノファイバを簡便且つ高い生産性で製造できる技術として近年注目されている。一般的に、電界紡糸法は、原料液を吐出するノズルと、該ノズルから所定距離を隔てた位置に対向配置された電極とを用い、両者の間に高電圧を印加した状態で、該原料液をノズル先端の吐出口から紡糸空間に吐出させることで実施される。こうして紡糸空間に吐出された原料液中の樹脂は帯電しており、そのクーロン力(電荷反発力)で延伸・細径化されながら冷却固化されてナノファイバとなる。また、特にナノファイバのような極細繊維を製造する場合、典型的には、原料液の移動方向の上流側から下流側の紡糸空間に向けて気体流(延伸エアー)を噴射し、該気体流による機械遠心力と前記クーロン力とによって、原料液中の樹脂を延伸・細径化する。
【0004】
特許文献1には、電界紡糸法を利用したナノファイバ製造装置として、紡糸空間中に原料液を流出させる三角柱状の流出体と、該流出体と所定距離をおいて対向配置される対向電極とを備えたものが記載されている。前記流出体は、第1分割体と第2分割体とを重ね合わせることで形成され、両分割体の重合面には、原料液の流路を形成する複数のノズルが、原料液の流れる方向と直交する方向に間欠配置されている。前記複数のノズルの先端の吐出口は、前記流出体の一端に沿って間欠配置されているところ、この吐出口が間欠配置された流出体の一端は、平面視において直線状であり、凹凸を有していない。
【0005】
特許文献2には、繊維径のばらつきが小さい均質なナノファイバを製造可能な静電紡糸用スピナレットとして、該スピナレットを構成する構造体の一面に、複数の突起が該構造体の長軸方向に沿って並ぶように形成され、該複数の突起それぞれの頂部に、原料液を吐出する吐出口が形成されているものが記載されている。前記スピナレットは、トップレート、ノズル等の複数の部品を重ね合わせることで形成されるところ、該スピナレットにおける原料液の流路は、これら複数の部品の重合面には配置されておらず、該重合面に対して直交する方向に延びている。
【0006】
特許文献3には、メルトブローン法により紡糸を行う紡糸装置として、原料液の流路を有するヘッドと、該ヘッドの下面に固定されたノズル基板とを備え、該ノズル基板が、基板本体と、該基板本体の一方の面に設けられた複数の紡糸ノズルとを有するものが記載されている。前記紡糸ノズルは、前記基板本体に着脱可能に取り付けられており(特許文献3の[0066])、該基板本体及び前記ヘッドとは別体である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014-80708号公報
【特許文献2】特開2016-37694号公報
【特許文献3】特開2015-28228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年のナノファイバの需要の高まりを背景に、電界紡糸法によるナノファイバの生産性の向上が要望されている。斯かる要望に応え得る電界紡糸装置の改良技術として、紡糸空間に原料液を吐出する吐出口を備えた電界紡糸装置において、吐出口1個当たりの原料液の吐出量を従来よりも増やす方法が考えられる。しかし、この方法は電界紡糸装置の肥大化を招きやすい。また、吐出口1個当たりの原料液の吐出量を増やした場合、繊維の細径化には延伸エアーの高速化が必要となるところ、これによって紡糸空間中で繊維が切れやすくなる等の不都合を招くおそれがある。
【0009】
前記方法とは別の電界紡糸装置の改良技術として、吐出口の単位面積当たりの配置数(配置密度)を従来よりも増加させる方法が考えられる。しかし、吐出口を形成するノズル等の部材は典型的には導体であるため、電界紡糸装置において吐出口の配置密度を増加させると、吐出口の配置位置(典型的には、電界紡糸装置における原料液の吐出方向の先端部)における導体の配置密度が増加し、その結果、電界紡糸の実施中における吐出口及びその近傍の電場密度が低下するおそれがある。斯かる電場密度の低下は、吐出口から吐出される原料液中の樹脂の帯電量の低下を招き、繊維の延伸・細径化が困難になるおそれがある。電界紡糸装置の肥大化を抑制しつつ、ナノファイバのような極細繊維を安定的に量産し得る技術は未だ提供されていない。
【0010】
本発明の課題は、極細繊維の量産化を可能にする技術を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、複数の吐出口が第1方向に間欠配置され、各該吐出口から該第1方向に直交する第2方向の一方側に向けて原料液を吐出する紡糸ヘッドと、前記紡糸ヘッドとの間に電界を生じさせるための電極と、を備えた電界紡糸装置である。
本発明の電界紡糸装置の一実施形態では、前記紡糸ヘッドは、第1分割体と第2分割体とを有し、両分割体は、前記第1方向及び前記第2方向の双方に直交する第3方向に分割可能であり、両分割体を重ね合わせた重合面に前記原料液の移動に使用される液体流路が形成されていることが好ましい。
本発明の電界紡糸装置の一実施形態では、前記紡糸ヘッドは、前記第1方向に間欠配置され、前記第2方向に突出する複数の突出部を有し、該突出部の先端に、前記液体流路における前記原料液の移動方向の下流側端である前記吐出口が位置していることが好ましい。
本発明の電界紡糸装置の一実施形態では、前記突出部の先端は、前記紡糸ヘッドにおいて前記第3方向の長さが最も短いことが好ましい。
【0012】
また本発明は、前記の本発明の電界紡糸装置を用いて繊維を製造する工程と、該繊維を用いて不織布を製造する工程とを有する、不織布の製造方法である。
本発明の他の特徴、効果及び実施形態は、以下に説明される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、極細繊維の量産化を可能にする技術(電界紡糸装置、不織布の製造方法)が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の電界紡糸装置の一実施形態の原料液移動方向に沿う断面を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す電界紡糸装置が備える紡糸ヘッドの模式的な斜視図であり、該紡糸ヘッドの一部(突出部の先端)の模式的な拡大平面図を含む。
【
図3】
図3は、
図2に示す紡糸ヘッドを第3方向から観察した場合の模式的な平面図である。
【
図4】
図4は、
図2に示す紡糸ヘッドを第1方向から観察した場合の模式的な平面図である。
【
図5】
図5(a)は、
図1に示す紡糸ヘッドの模式的な分解斜視図、
図5(b)は、
図5(a)に示す第1分割体を上下反転させた状態の模式的な斜視図である。
【
図6】
図6は、ノズル型紡糸ヘッドの一例の模式的な分解斜視図である。
【
図7】
図7(a)及び
図7(b)は、それぞれ、従来の紡糸ヘッドを構成する複数の分割体のうちの1つの模式的な斜視図である。
【
図8】
図8(a)~
図8(c)は、それぞれ、本発明に係る紡糸ヘッドの他の実施形態の要部を示す図であり、
図8(a)は、紡糸ヘッドの突出部を第1方向から観察した場合の模式的な平面図、
図8(b)及び
図8(c)は、それぞれ、紡糸ヘッドを第1方向から観察した場合の模式的な平面図である。
【
図9】
図9は、本発明の電界紡糸装置で採用可能な液体流路の説明図であり、
図9(a)は、紡糸ヘッドの第1方向に直交し且つ第3方向に沿う断面を模式的に示す断面図、
図9(b)は、該紡糸ヘッドの第2方向に直交し且つ第3方向に沿う断面を模式的に示す断面図、
図9(c)は、該紡糸ヘッドを構成する第1分割体の重ね合わせ面側の模式的な平面図、
図9(d)は、該紡糸ヘッドを構成する第2分割体の重ね合わせ面側の模式的な平面図である。
【
図10】
図10は、従来の紡糸ヘッドの一例を示す図であり、
図10(a)は、紡糸ヘッドの第1方向に直交し且つ第3方向に沿う断面を模式的に示す断面図、
図10(b)は、該紡糸ヘッドの第2方向に直交し且つ第3方向に沿う断面を模式的に示す断面図、
図10(c)は、該紡糸ヘッドの第3方向に直交し且つ第1方向に沿う断面を模式的に示す断面図である。
【
図11】
図11は、本発明の電界紡糸装置の要部(オリフィス部及びその近傍)の一実施形態を第2方向から観察した場合の模式的な平面図である。
【
図12】
図12(a)は、本発明の電界紡糸装置の要部(オリフィス部及びその近傍)の他の実施形態の
図11相当図、
図12(b)は、該要部及びその近傍の第1方向に直交し且つ第3方向に沿う断面を模式的に示す断面図である。
【
図13】
図13は、本発明に係る紡糸ヘッドの更に他の実施形態の模式的な分解斜視図であり、該紡糸ヘッドの一部(第3分割体の突出部)の模式的な拡大平面図を含む。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。なお、以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には、同一又は類似の符号を付している。図面は基本的に模式的なものであり、各寸法の比率などは現実のものとは異なる場合がある。
【0016】
本発明は電界紡糸装置、すなわち電界紡糸法を利用した紡糸装置に関する。本発明において「電界紡糸」とは、高電圧が印加されている状態で繊維の原料となる樹脂を含む原料液を電界中へ吐出することによって、吐出された液が細長く引き伸ばされ、細径の繊維を形成することができる方法である。
【0017】
本発明では、原料液として、樹脂を含む溶液(以下、「樹脂含有溶液」とも言う。)を用いてもよく、樹脂溶融液を用いてもよく、適宜選択し得る。樹脂含有溶液は、繊維の原料となる各種の樹脂を溶媒に溶解又は分散させて調製される。樹脂溶融液は、繊維の原料となる各種の樹脂(熱可塑性樹脂)をその融点以上に加熱して調製される。
本発明の電界紡糸装置の一実施形態である後述の電界紡糸装置1は、紡糸ヘッドの吐出口から吐出された原料液を機械的に延伸する延伸エアー(第1気体流A1)を用いて電界紡糸を行うものであるところ、該延伸エアーを用いる場合は、原料液として樹脂溶融液を用いることが好ましい。
【0018】
原料液に含有される樹脂としては、紡糸に使用可能なものを特に制限なく用いることができる。樹脂溶融液に使用される熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン-プロピレンコポリマー等のポリオレフィン系熱可塑性樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸等のポリエステル系熱可塑性樹脂、ナイロン等のポリアミド系熱可塑性樹脂等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
図1には、本発明の電界紡糸装置の一実施形態である電界紡糸装置1が示されている。
図2~5には、電界紡糸装置1が備える紡糸ヘッド4が示されている。電界紡糸装置1は、混練装置2と紡糸デバイス3とを含む。
【0020】
電界紡糸装置1は、原料液として樹脂溶融液を用いるもので、これに対応して混練装置2を備える。混練装置2は、繊維の原料となる樹脂を溶融して樹脂溶融液を調製し、該樹脂溶融液を紡糸デバイス3へ吐出するものである。混練装置2は、その内部に、ヒーターを備えたシリンダ及びスクリュー(図示せず)を有しており、混練装置2内に供給された原料樹脂を溶融混練して、紡糸デバイス3へ押し出して供給できる構造となっている。
【0021】
紡糸デバイス3は、混練装置2から供給された原料液(本実施形態では樹脂溶融液)を紡糸空間Sに吐出して紡糸を行う装置であり、紡糸空間Sに原料液を吐出する吐出口48を有する紡糸ヘッド4を含む。紡糸ヘッド4は、典型的には、導電性の金属材料で構成された構造体である。金属材料としては、例えば、鉄、アルミニウム、ステンレス剛、真鍮が挙げられる。紡糸ヘッド4は、複数の金属材料の組み合わせから構成されていてもよく、合金から構成されていてもよい。
【0022】
本実施形態では、紡糸デバイス3は、紡糸ヘッド4の他に、ヘッドカバー5、電極6、電源(図示せず)、原料液供給ノズル7、第1気体噴射部8、第2気体噴射部9を含む。紡糸デバイス3を構成するこれらの部材は、紡糸デバイス3が備えるベース体30に設置されている。
【0023】
ヘッドカバー5は、紡糸ヘッド4における原料液の供給側(混練装置2側)以外の部分を覆うように配置されている。ヘッドカバー5における紡糸ヘッド4の吐出口48に対応する部位は、ヘッドカバー5を厚み方向に貫通する貫通孔となっており、吐出口48からの原料液の吐出を阻害しないようになされている。
【0024】
電極6は、紡糸ヘッド4との間に電界を生じさせるためのもので、導電性材料から構成されている。本実施形態では、電極6は
図1に示すように、紡糸ヘッド4の吐出口48側の端部を、二方向から囲むように吐出口48の周囲に配置されている。より具体的には、本実施形態では、紡糸デバイス3は、一対の板状の電極6,6を備え、両電極6,6は、紡糸ヘッド4を挟んで後述する第3方向Zの一方側と他方側とに配置され、それぞれ、紡糸ヘッド4を後述する第2方向Yに跨いでいる。
本発明の電界紡糸装置で採用可能な電極は、電極6のような、紡糸ヘッドの吐出口を二方向以上から囲むように該吐出口の周囲に配置された電極に制限されない。例えば、紡糸ヘッドの吐出口から原料液の吐出方向に所定距離離間した位置に配置されるとともに、該吐出方向に対して略直交するように配置された電極を用いることもできる。斯かる電極は、紡糸空間で形成された繊維を捕集する役割を果たし得るため、捕集電極とも呼ばれる。
【0025】
前記電源は、原料液に与える電荷を一定とする観点から直流電源が好ましいが、整流器を介することで交流電源でも使用することができる。
典型的には、電界紡糸装置1では、紡糸ヘッド4及び電極6のうちの何れか一方に電源の正極端子又は負極端子が接続され、他方及び該電源における紡糸ヘッド4又は電極6と接続されていない端子は接地されており、紡糸ヘッド4と電極6との間で電場が形成される。これにより、紡糸ヘッド4の吐出口48から吐出される原料液を正又は負の電荷に帯電させることができる。紡糸ヘッド4は、原料液に電荷を供給するための電極としても機能するように、原料液と接触する部分の少なくとも一部分が金属等の導体から形成されており、その導体部分が電極と接続される。例えば、電源が紡糸ヘッド4に電気的に接続されて、該電源から正の電圧が供給されていれば、原料液には正電荷が付与される。他方、該電源から負の電圧が供給されていれば、原料液には負電荷が付与される。これに代えて、例えば、電源が電極6に電気的に接続されて、該電源から正の電圧が供給されていれば、原料液には負電荷が付与される。他方、該電源から負の電圧が供給されていれば、原料液には正電荷が付与される。
【0026】
原料液供給ノズル7は、混練装置2と紡糸ヘッド4とを結ぶ中空管状部材であり、混練装置2から紡糸ヘッド4の内部への原料液の供給路として機能する。
図1中符号Mで示す矢印は、原料液の移動方向を示す。
【0027】
第1気体噴射部8は、原料液の移動方向Mの上流側から下流側に向けて第1気体流A1を噴射する装置であり、第1気体流A1の移動に使用される第1気体流路81と、第1気体流路81に第1気体流A1を供給する第1供給源(図示せず)とを含む。第1気体流A1は主として、紡糸ヘッド4の吐出口48から吐出された原料液に噴射による外力を付与してこれを機械的に延伸するために使用されるもので、いわゆる延伸エアーである。第1気体流路81は、原料液供給ノズル7及び紡糸ヘッド4に隣接して配置されており、混練装置2から吐出口48に向かって移動する原料液の近傍を第1気体流A1が移動可能になされている。第1気体流A1としては、例えば空気流を用いることができる。
【0028】
第2気体噴射部9は、原料液の移動方向Mの上流側から下流側に向けて第2気体流A2を噴射する装置であり、第2気体流A2の移動に使用される第2気体流路91と、第2気体流路91に第2気体流A2を供給する第2供給源(図示せず)とを含む。第2気体流A2は主として、紡糸ヘッド4の吐出口48から吐出された原料液からの溶媒の蒸発を促進させるために使用されるもので、いわゆる保温エアーであり加熱されている。斯かる原料液からの溶媒の蒸発促進により、原料液中の帯電樹脂の電荷反発が促進され、繊維の延伸・細径化が促進される。第2気体流A2は、原料液が樹脂溶融液である場合、紡糸空間Sを保温してこれを延長するために使用される。第2気体流路91は、原料液供給ノズル7及び紡糸ヘッド4の位置を基準として、電極6の内側且つ第1気体流路81よりも外側に配置されており、混練装置2から紡糸ヘッド4の吐出口48に向かって移動する原料液に対し、第1気体流A1よりも外側を原料液に沿って移動可能になされている。第2気体流A21としては、例えば空気流を用いることができる。
【0029】
以下、電界紡糸装置1の主たる特徴の1つである紡糸ヘッド4について、
図2~5を参照しながら詳細に説明する。
紡糸ヘッド4は、第1方向Xと、第1方向Xに直交する第2方向Yと、両方向X,Yの双方に直交する第3方向Zとを有する。
紡糸ヘッド4は、第2方向Yに突出する複数の突出部41を有する。より具体的には、紡糸ヘッド4は、
図2~4に示すように、紡糸ヘッド4の主体をなすヘッド本体40と、ヘッド本体40における吐出口48側の端部(原料液供給側とは反対側の端部)から第2方向Yに突出する複数の突出部41とを含む。複数の突出部41は、第1方向Xに間欠配置されている。ヘッド本体40と突出部41とは一体的に形成されている。
【0030】
図2に示すように、第1方向Xに間欠配置された複数の突出部41それぞれの先端には、紡糸空間Sに原料液を吐出する吐出口48が設けられている。すなわち紡糸ヘッド4においては、複数の吐出口48が第1方向Xに間欠配置されている。また、紡糸ヘッド4を第3方向Zから観察した場合(換言すれば、観察者の視線が第3方向Zに沿うように紡糸ヘッド4を観察した場合)、
図3に示すように、紡糸ヘッド4の吐出口48が設けられた端部は凹凸形状をなしている。各突出部41には吐出口が1個設けられており、複数の突出部41と複数の吐出口48とが1対1で対応している。
また、突出部41の先端は、紡糸ヘッド4において第3方向Zの長さが最も短い。すなわち、突出部41の先端の第3方向Zの長さT(
図2及び
図4参照)は、紡糸ヘッド4の他の部位の同方向の長さよりも短い。
【0031】
本実施形態では、紡糸ヘッド4は
図2及び
図3に示すように、第1方向Xに長い形状をなしており、第1方向Xは、複数の突出部41及び複数の吐出口48それぞれの配列方向であるとともに、紡糸ヘッド4の長手方向でもある。紡糸ヘッド4のヘッド本体40は、第1方向Xから観察した場合すなわち側面視において、
図4に示すように、原料液供給側に位置する四角形形状の第1の部分40Aと、第1の部分40Aと一辺を共有する三角形形状又は等脚台形形状の第2の部分40Bとからなる、略ホームベース形状(五角形又は六角形)をなしている。突出部41は、第2の部分40Bから第2方向Yの外方に延出し、その基端(ヘッド本体40との境界)から先端に向かうに従って第3方向Zの長さが漸次短くなる形状をなしている。
【0032】
紡糸ヘッド4は、第1分割体42と第2分割体43とを有する。
図5に示すように、両分割体42,43は第3方向Zに分割可能である。第1分割体42は第1重ね合わせ面42aを有し、第2分割体43は第2重ね合わせ面43aを有し、両面42a,43aを重ね合わせると紡糸ヘッド4となる。両分割体42,43どうしは、ボルト及びナット等の締結具その他の公知の一体化手段によって接離自在に構成されている。紡糸ヘッド4が有する突出部41は、第1分割体42が有する突出部41Aと、第2分割体43が有する突出部41Bとからなる。
【0033】
紡糸ヘッド4における両分割体42,43を重ね合わせた重合面、すなわち、第1分割体42の第1重ね合わせ面42aと第2分割体43の第2重ね合わせ面43aとの重なり部には、原料液の移動に使用される液体流路が形成されている。前記液体流路は、重ね合わせ面42a,43aの何れか一方のみに形成された凹部、又は両方に形成された凹部の組み合わせからなる。
【0034】
本実施形態では
図5に示すように、前記液体流路は、第2方向Yに延びる単一の送液流路45と、第1方向Xに延びる単一のバッファー流路46と、第2方向Yに延びる複数の吐出流路47とからなり、原料液の移動方向の上流側から下流側に向かってこの順で配置されている。送液流路45は原料液供給ノズル7と接続される。複数の吐出流路47は第1方向Xに間欠配置されている。吐出流路47における原料液の移動方向の下流側端は吐出口48である。バッファー流路46は、複数の吐出流路47を第1方向Xに跨いでおり、すなわち複数の吐出流路47それぞれと部分的に重なる。紡糸ヘッド4において、送液流路45及びバッファー流路46は、それぞれ、ヘッド本体40に形成され、吐出流路47は、ヘッド本体40及び突出部41を第2方向Yに跨いでいる。
送液流路45は、第1重ね合わせ面42aに形成された凹部450と第2重ね合わせ面43aに形成された凹部451とが重ね合わされることで形成され、凹部450と凹部451との組み合わせからなる。バッファー流路46は、第2重ね合わせ面43aに形成された凹部460からなる。吐出流路47は、第1重ね合わせ面42aに形成された凹部470からなる。第1重ね合わせ面42aに形成された凹部470の数は、紡糸ヘッド4が有する吐出流路47の数と同じである。
混練装置2から供給された原料液は、送液流路45(凹部450,451の組み合わせ)を介してバッファー流路46(凹部460)に供給され、バッファー流路46で複数の吐出流路47(凹部470)に分配され、各吐出流路47の下流側端である吐出口48から紡糸ヘッド4の外部(紡糸空間S)に吐出される。
【0035】
紡糸ヘッド4の主たる特徴の1つとして、第1分割体42と第2分割体43とを重ね合わせた重合面に液体流路が形成されている点が挙げられる。本明細書ではこのような構成の紡糸ヘッドを「ダイ型紡糸ヘッド」と呼ぶ。
【0036】
電界紡糸装置で使用される紡糸ヘッドとしては、ダイ型紡糸ヘッドの他に、例えば
図6に示す紡糸ヘッド50Aの如き、「ノズル型紡糸ヘッド」がある。特許文献3に記載の紡糸装置が備える紡糸ヘッドはノズル型紡糸ヘッドである。ノズル型紡糸ヘッド50Aは文字どおりノズル51を備えた紡糸ヘッドであり、複数のノズル51と、ノズル51とは別体のヘッド本体とを有する。前記ヘッド本体は第1分割体52と第2分割体53とからなり、両分割体52,53は第2方向Yに分割可能に構成されている。複数のノズル51は、内部に原料液が移動する液体流路を有するとともに、先端に原料液を吐出する吐出口を有し、第2分割体53に着脱可能に取り付けられている。
ノズル型紡糸ヘッド50Aは、両分割体52,53を重ね合わせた重合面に液体流路が形成されていない点で、ダイ型紡糸ヘッド4と相違する。すなわち、ノズル型紡糸ヘッド50Aが内部に有する液体流路は、第2方向Yに延びていて前記重合面に対して直交しており、該重合面に沿って形成されていない。第1分割体52の第2分割体53との重ね合わせ面52aに形成されているバッファー流路54は、第2方向Yに延びる液体流路の一部であり、吐出口を含めた液体流路の全部ではない。
【0037】
電界紡糸法によってナノファイバのような極細繊維を安定的に量産するためには、紡糸ヘッドの吐出口から吐出された原料液中の樹脂の帯電量が多いことが好ましいところ、本発明者らの知見によれば、特に原料液の単位時間当たりの吐出量が多い場合には、ダイ型紡糸ヘッドの方がノズル型紡糸ヘッドに比べて該帯電量が多い傾向がある。したがって、原料液の単位時間当たりの吐出量を高めて繊維の生産性の向上を図る場合には、ダイ型紡糸ヘッドの方がノズル型紡糸ヘッドよりも有利である。
また、ノズル型紡糸ヘッドが備えるノズル(中空管状部材)の製造では、金属等のノズル形成材料の所定位置に、液体流路となる微細な孔を高精度で設けることが要求されるところ、斯かる穿設加工は難易度が高く、孔の直進度や角度等の点で設計どおりのノズルを製造できない可能性があり、特に小さい孔を設ける場合は穿設加工の難易度が一層高くなるためその可能性が高まる。これに対し、ダイ型紡糸ヘッドはノズルを備えておらず、ダイ型紡糸ヘッドを構成する分割体の重ね合わせ面に凹部を形成することで液体流路を形成できるため、ノズル型紡糸ヘッドに比べて製造難易度が低く、製造コストが低い。特に後述する紡糸ヘッド4C(
図13参照)のような、第1分割体と第2分割体との間に介在配置される平板状の第3分割体を有するダイ型紡糸ヘッドは、該第3分割体に貫通溝を形成することで液体流路を形成することができるため、微細な液体流路を高精度で安価に形成することができる。
したがって、ダイ型紡糸ヘッドを採用した本発明の電界紡糸装置は、
図6に示す紡糸ヘッド50Aの如きノズル型紡糸ヘッドを採用したものに比べて、極細繊維の量産化に適していると言える。
【0038】
紡糸ヘッド4の主たる特徴の他の1つとして、所定の一方向(第1方向X)に間欠配置され該一方向に直交する方向(第2方向Y)に突出する複数の突出部41を有し、各突出部41の先端に吐出口48が位置し、且つ突出部41の先端は、紡糸ヘッド4において前記二方向に直交する方向(第3方向Z)の長さが最も短い点が挙げられる。電界紡糸装置1は、斯かる吐出口48の配置部位の外観形状に関わる特徴により、吐出口48から吐出された原料液中の樹脂のクーロン力による延伸・細径化を促進させることができ、極細繊維の量産化に適している。
前述したように、電界紡糸法において繊維の生産性の向上等を目的として、紡糸ヘッドにおいて吐出口の配置密度を増加させると、それに伴って吐出口の配置位置における導体の配置密度が増加する結果、電界紡糸の実施中における吐出口及びその近傍の電場密度(電場強度)が低下して、吐出口から吐出される原料液中の樹脂の帯電量の低下を招き、繊維の延伸・細径化が困難になるおそれがある。本発明者は、電場密度(樹脂の帯電量)の低下を招かずに吐出口の配置密度を増加させる方法について鋭意検討した結果、紡糸ヘッドに周辺部(ヘッド本体)よりも外方に突出した突出部を複数設け、各該突出部の先端に吐出口を設ける方法が有効であるとの知見を得た。本発明の電界紡糸装置は斯かる知見に基づきなされたものである。
【0039】
図7には、従来の電界紡糸装置における紡糸ヘッドを構成する分割体の具体例が示されている。
図7(a)に示す分割体42Z1は、ヘッド本体40のみから構成され、ヘッド本体40の先端40Sに複数の吐出口(図示せず)が第1方向Xに間欠配置されている。分割体42Z1は、突出部を有していない点で、突出部41を有する第1分割体42と異なる。
図7(b)に示す分割体42Z2は、ヘッド本体40と、ヘッド本体40の端部に連接された単一の突出部41Zとを有する。突出部41Zは、ヘッド本体40の第1方向Xの全長にわたって同方向に延在している。分割体42Z2では、突出部41Zの先端に複数の吐出口(図示せず)が第1方向Xに間欠配置されている。分割体42Z2は、突出部41Zを有するものの、突出部41Zは単一であって複数ではなく、第3方向Zから観察した場合の平面視において、突出部41Z(吐出口が設けられた端部)が直線形状である点で、第1分割体42と異なる。第1分割体42は、複数の突出部41を有し、第3方向Zから観察した場合の平面視において
図3に示すように、吐出口48が設けられた端部が凹凸形状である。なお、両分割体42Z1,42Z2ともに、使用時には、当該分割体と同様の構成の他の分割体と重ね合わされて紡糸ヘッドとされる。
本発明者は、紡糸ヘッド4、分割体42Z1を用いた紡糸ヘッド(分割体42Z1及びそれと同様の構成の分割体どうしを重ね合わせてなる紡糸ヘッド)、分割体42Z2を用いた紡糸ヘッド(分割体42Z2及びそれと同様の構成の分割体どうしを重ね合わせてなる紡糸ヘッド)の3種類の紡糸ヘッドについて、電界紡糸の実施中における吐出口及びその近傍の電場強度(単位:kV/cm)を測定したところ、該電場強度が大きい順に、紡糸ヘッド4、分割体42Z2を用いた紡糸ヘッド、分割体42Z1を用いた紡糸ヘッドであった。紡糸ヘッド4が他の紡糸ヘッドに比べて吐出口及びその近傍の電場強度が大きい理由は、吐出口48が設けられた部位が、周辺部(ヘッド本体40)から外方に突出した突出部41の先端であるためと推察される。導体である紡糸ヘッドに存在する電荷は、電荷反発により、突出部41の如き先鋭な部分に集中する傾向があり、そのため、該先鋭な部分は他の導体の他の部分に比べて電場密度が高く、電場強度が大きくなりやすい。
このことから、紡糸ヘッド4に代表される本発明に係る紡糸ヘッド、すなわち「吐出口が設けられた端部が、ヘッド本体から突出する突出部からなり、且つ該突出部が平面視で凹凸形状をなしている紡糸ヘッド」は、分割体42Z2を用いた紡糸ヘッド(吐出口が設けられた端部が、ヘッド本体から突出する突出部からなり、且つ該突出部が平面視で直線形状をなしている紡糸ヘッド)、及び分割体42Z1を用いた紡糸ヘッド(吐出口が設けられた端部がヘッド本体からなり、且つ該端部が平面視で直線形状をなしている紡糸ヘッド)に比べて、吐出口から吐出される原料液中の樹脂の帯電量が大きく、極細繊維の量産化に適したものであることがわかる。
【0040】
前述した突出部41による作用効果(原料液中の樹脂の帯電量向上効果)を一層確実に奏させるようにする観点から、突出部41の先端の第3方向Zの長さT(
図2及び
図4参照)は、紡糸ヘッド4の他の部位の同方向の長さよりも短いことを前提として、好ましくは3mm以下、より好ましくは1mm以下である。突出部41の長さTの下限は特に制限されないが、突出部41の強度確保等の観点から、好ましくは0.05mm以上、より好ましくは0.1mm以上である。
【0041】
前述した突出部41による作用効果(原料液中の樹脂の帯電量向上効果)を一層確実に奏させるようにする観点から、
図3に示すように、突出部41の第1方向Xの長さWは、突出部41の基端(根本)から先端に向かうに従って漸次短くなることが好ましい。
【0042】
前述した突出部41による作用効果(原料液中の樹脂の帯電量向上効果)を一層確実に奏させるようにする観点から、
図4に示す如き、紡糸ヘッド4の第1方向Xに直交し且つ第3方向Zに沿う方向での断面視(すなわち紡糸ヘッド4を第1方向Xから観察した場合の平面視)において、紡糸ヘッド4における突出部41の近傍(具体的には、突出部41の基端から10mm以内の領域)の輪郭線と第2方向Yとのなす角度βが、突出部41の輪郭線と第2方向Yとのなす角度のうちの最小値α以上であることが好ましく、最小値αよりも大きいことがより好ましい。これにより、電界紡糸の実施中において突出部41の先端の電場強度が一層向上し、吐出口48から吐出される原料液中の樹脂の帯電量が増加し得る。本実施形態では、前記「紡糸ヘッド4における突出部41の近傍」は
図4に示すように、ヘッド本体40の第2の部分40Bである。
【0043】
図8には、前述した、紡糸ヘッドの第1方向に直交する方向での断面視における輪郭線と第2方向とのなす角度α、βについて、本発明で採用可能な実施形態が示されている。
なお、後述する本発明の他の実施形態については、前記実施形態と異なる構成を説明し、前記実施形態と同様の構成は同一の符号を付して説明を省略する場合がある。後述する他の実施形態において特に説明しない構成は、前記実施形態についての説明が適宜適用される。
【0044】
図8(a)に示す突出部410は、基端側(ヘッド本体40側)が、第3方向Zの長さが一定である第1の部分411からなり、先端側が、先端に向かう(第1の部分411から離れる)に従って第3方向Zの長さが漸次短くなる第2の部分412からなる。第1の部分411の輪郭線と第2方向Yとのなす角度α1はゼロであり、第2の部分412の輪郭線と第2方向Yとのなす角度α2よりも小さいので、突出部410では、前記の「突出部41の輪郭線と第2方向Yとのなす角度のうちの最小値α」はゼロである。したがって、前述した突出部41による作用効果を一層確実に奏させるようにする観点から、ヘッド本体40における突出部410の近傍の輪郭線と第2方向Yとのなす角度βはゼロ以上であることが好ましい。
【0045】
図8(b)に示す紡糸ヘッド4Aでは、突出部41の近傍(ヘッド本体40)の輪郭線と第2方向Yとのなす角度βが90度であり、突出部41の輪郭線と第2方向Yとのなす角度のうちの最小値αよりも大きい。
図8(c)に示す紡糸ヘッド4Bでは、突出部41の近傍(ヘッド本体40)の輪郭線と第2方向Yとのなす角度βと、突出部41の輪郭線と第2方向Yとのなす角度のうちの最小値αとが同じである。
紡糸ヘッド4A,4Bの何れによっても、本発明の所定の効果が奏される。
【0046】
紡糸ヘッド4においては前述したように、原料液の移動に使用される液体流路は、
図5に示すように、複数の吐出口48と1対1で対応する複数の吐出流路47(凹部470)と、複数の吐出流路47を第1方向Xに跨ぐように配置され、第3方向Zにおいて各吐出流路47の一部と重なるバッファー流路46(凹部460)とを含む。そして本実施形態では、第1分割体42の第1重ね合わせ面42aに、複数の吐出流路47に対応する複数の凹部470が形成され、第2分割体43の第2重ね合わせ面43aに、バッファー流路46に対応する凹部460が形成されている。
紡糸ヘッド4における液体流路は、バッファー流路46と吐出流路47とが第3方向Zにおいて重なる点で特徴付けられる。すなわち紡糸ヘッド4においては、複数の吐出流路47は、それぞれ、その延在方向である第2方向Yの一端のみにおいてバッファー流路46と接続されているのではなく、バッファー流路46との重なり部を有している。前記重なり部は、第3方向Zにある程度の拡がりを持った領域であり、該重なり部を第3方向Zから観察した場合の面積は、典型的には、吐出流路47の流路断面積よりも大きい。紡糸ヘッド4内の液体流路がこのように形成されていることで、異物の混入等による液体流路の閉塞が効果的に防止され得る。したがって紡糸ヘッド4を備える電界紡糸装置1によれば、前述した突出部41による作用効果と相俟って、ナノファイバのような極細繊維を一層安定的に量産することが可能である。
【0047】
前述した紡糸ヘッド4の液体流路の閉塞防止効果について、
図9及び
図10を参照しながら説明する。
図9に示す紡糸ヘッド4Zは、液体流路として、複数の吐出口48と1対1で対応する複数の吐出流路47と、複数の吐出流路47を第1方向Xに跨ぐように配置され、第3方向Zにおいて各吐出流路47の一部と重なるバッファー流路46とを含む(
図9(a)及び(b)参照)。すなわち紡糸ヘッド4Zは、バッファー流路46と吐出流路47との重なり部49を有する。重なり部49を第3方向Zから観察した場合の面積は、吐出流路47の流路断面積よりもはるかに大きい。バッファー流路46には、図示しない送液流路が接続し、該送液流路は図示しない原料液供給ノズルと接続されている。吐出流路47は、第2分割体43の第2重ね合わせ面43aに形成された凹部470からなり(
図9(d)参照)、バッファー流路46は、第1分割体42の第1重ね合わせ面42aに形成された凹部460からなる(
図9(c)参照)。なお、簡便のために、
図9に示す紡糸ヘッド4Zは突出部の記載を省略しているが、液体流路に関しては、紡糸ヘッド4が有する液体流路と基本構成が同じであり、紡糸ヘッド4と同様の液体流路の閉塞防止効果を奏し得る。
図10には、従来の紡糸ヘッドの一例である紡糸ヘッド50Bが示されている。紡糸ヘッド50Bは、原料液の移動に使用される液体流路として、バッファー流路55と、バッファー流路55に接続された複数の吐出流路56とを含む。複数の吐出流路56は、第1方向Xに間欠配置され、第2方向Yに延在し、その延在方向の一端がバッファー流路55に接続され、他端が原料液を吐出する吐出口となっている。バッファー流路55には、図示しない送液流路が接続されており、紡糸ヘッド50Bの内部に供給された原料液は、該送液流路、バッファー流路55、吐出流路56の順で移動する。このような構成の紡糸ヘッド50Bにおいて、例えば、吐出流路56を塞ぎ得るサイズの異物Qが前記送液流路を介してバッファー流路55に混入した場合、吐出流路56はその延在方向の一端のみにてバッファー流路55と接続されているため、
図10(a)及び
図10(c)に示すように、吐出流路56の該一端すなわちバッファー流路55との接続端を異物Qが塞いでしまい、該吐出流路56の他端から原料液が吐出されない事態が生じるおそれがある。
これに対し、紡糸ヘッド4Zは、
図9に示すように、バッファー流路46(凹部460)と吐出流路47(凹部470)との重なり部49を有しており、複数の吐出流路47は、それぞれ、その延在方向の一端のみにてバッファー流路46と接続されているのではなく、吐出流路47の流路断面積よりも大きな面積を有する重なり部49にてバッファー流路46と接続されている。そのため、バッファー流路46に異物Qが混入しても、異物Qが重なり部49の全域を閉塞し得る巨大サイズのものでない限り、吐出流路47が異物Qで閉塞されることはない。したがって紡糸ヘッド4Zは、紡糸ヘッド50Bに比べて液体流路が閉塞し難い。
紡糸ヘッド4では、バッファー流路46を形成する凹部460が第2分割体43に形成され、吐出流路47を形成する凹部470が第1分割体42に形成され(
図5参照)、紡糸ヘッド4Zとは両流路46,47を形成する凹部の位置が異なるが、紡糸ヘッド4によっても紡糸ヘッド4Zと同様の効果が奏される。すなわち、両分割体42,43の一方に吐出流路47に対応する凹部470が形成され、他方にバッファー流路46に対応する凹部460が形成されていれば、前述した紡糸ヘッド4の液体流路の閉塞防止効果が奏され得る。
【0048】
本実施形態では、前述したとおり
図1に示すように、紡糸ヘッド4における原料液の移動方向Mの上流側から下流側に向けて気体流A1,A2を噴射する気体噴射部として、第1気体噴射部8、第2気体噴射部9を備える。第1気体噴射部8から噴射される第1気体流A1は、吐出口48から吐出された原料液を延伸するための延伸エアーである。第2気体噴射部9から噴射される第2気体流A2は、吐出口48から吐出された原料液からの溶媒の蒸発を促進させてクーロン力による繊維の延伸・細径化を促進させるための保温エアーであり加熱されている。
第1気体噴射部8は、吐出口48から吐出された原料液に第1気体流A1の噴射による外力を付与して延伸・細径化を促進させる観点から、第1気体流A1の噴射方向が原料液の吐出方向と一致するように、第1気体流A1を噴射する。ここで言う、「第1気体噴射部8は、第1気体流A1の噴射方向が原料液の吐出方向と一致するように、第1気体流A1を噴射する」とは、
図12(b)に示すように、第1気体流A1が噴射方向の異なる複数の気体流を含む場合は、その複数の気体流の噴射方向の合成ベクトルが原料液の吐出方向Lと一致するように、第1気体流A1を噴射することを意味する。
気体流A1,A2を噴射可能に構成された電界紡糸装置1によれば、前述した紡糸ヘッド4による作用効果と相俟って、ナノファイバのような極細繊維を一層安定的に量産することが可能であり、特に原料液として樹脂溶融液を用いた電界紡糸法に有用である。
【0049】
第1気体噴射部8は、前述したとおり
図1に示すように、第1気体流A1が流れる第1気体流路81を有するところ、
図11及び
図12に示すように、第1気体流路81における第1気体流A1の移動方向の下流側端部には、第1気体流路81の流路断面積が最小のオリフィス部82が位置する。
前記の「第1気体流路81の下流側端部」とは、第1気体流路81の下流側端及びその近傍を指す。ここで言う「第1気体流路81の下流側端の近傍」とは、具体的には、第1気体流路81の下流側端から該第1気体流路81の内方に好ましくは15mm、より好ましくは3mmにわたる領域を指す。オリフィス部82は、第1気体流路81の下流側端部という、第1気体流A1の移動方向に一定の長さを有する領域のどこかに配置されていることが好ましい。
本明細書において「流路断面積」とは、当該流路(液体流路、気体流路)を移動する流体(液体、気体)の移動方向に直交する方向の断面積を指す。
本実施形態では、オリフィス部82は、紡糸ヘッド4の外面を覆うヘッドカバー5を厚み方向に貫通する貫通孔からなる。
【0050】
第1気体流A1の延伸エアーとしての役割が確実に果たされるようにするため、オリフィス部82は吐出口48の近傍に配置されることが好ましい。オリフィス部82と吐出口48との第2方向Yにおける離間距離が短い(好ましくは20mm以下)であることを条件として、オリフィス部82は、吐出口48よりも原料液の移動方向の上流側(第2方向Yの内方側)に配置されていてもよく、吐出口48と原料液の移動方向(第2方向Y)において同位置に配置されていてもよく、吐出口48よりも原料液の移動方向の下流側(第2方向Yの外方側)に配置されていてもよい。
【0051】
本発明の電界紡糸装置では、複数の吐出口48それぞれに対し、オリフィス部82が1個配置されていてもよく、2個以上配置されていてもよい。
図11に示す形態は、複数の吐出口48それぞれに対しオリフィス部82が1個配置された形態である。平面視四角形形状の1個のオリフィス部82が、吐出口48が設けられた紡糸ヘッド4の突出部41の先端の全周囲を囲むように配置されており、これにより、該1個のオリフィス部82と連通する第1気体流路81を移動してきた第1気体流A1は、該1個のオリフィス部82を通過して外部に噴出する際に、吐出口48の近傍の全周囲を通過する。
図12に示す形態は、複数の吐出口48それぞれに対しオリフィス部82が2個配置された形態である。平面視四角形形状の2個のオリフィス部82が、吐出口48が設けられた紡糸ヘッド4の突出部41を挟んで第3方向Zの両側に配置されている。前述したとおり、1個のオリフィス部82からの第1気体流A1の噴射方向と他の1個のオリフィス部82からの第1気体流A1の噴射方向との合成ベクトルを、これら2個のオリフィス部82に挟まれた吐出口48からの原料液の吐出方向Lに一致させることが好ましい。なお、
図12に示す形態は、第3分割体44を備えているが、第3分割体44を備えていない場合も同様である。
【0052】
図13には、本発明に係る紡糸ヘッドの他の実施形態である紡糸ヘッド4Cが示されている。紡糸ヘッド4Cについては、紡糸ヘッド4と異なる構成を説明し、紡糸ヘッド4と同様の構成は同一の符号を付して説明を省略する。紡糸ヘッド4Cにおいて特に説明しない構成は、紡糸ヘッド4についての説明が適宜適用される。
【0053】
紡糸ヘッド4Cは、第1分割体42と第2分割体43との間に介在配置される平板状の第3分割体44を有する。より具体的には、第3分割体44は、第1分割体42の第1重ね合わせ面42aと第2分割体43の第2重ね合わせ面43aとの間に介在配置され、第3方向Zから観察した場合に、両面42a,43aと略同形状同寸法である。これら3つの分割体42,43,44は第3方向Zに分割可能であり、ボルト及びナット等の締結具その他の公知の一体化手段によって互いに接離自在に構成されている。
第3分割体44は、第2方向Yの一端(第1方向Xに沿う一側縁)に複数の突出部41Cを有する。複数の突出部41Cは第1方向Xに間欠配置されている。紡糸ヘッド4Cが有する突出部41は、第1分割体42が有する突出部41Aと、第2分割体43が有する突出部41Bと、第3分割体44が有する突出部41Cとからなる。
【0054】
図13に示す形態では、第1分割体42及び第2分割体43は、それぞれ、第3分割体44との対向面に、吐出流路47に対応する凹部を有しておらず、すなわち、原料液の移動に使用される液体流路における複数の吐出口48(
図2参照)と1対1で対応する複数の吐出流路47に対応する凹部を有していない。これに対し、第3分割体44は、該第3分割体44を厚み方向(第3方向Z)に貫通して第2方向Yに延びる複数の貫通溝471を有し、複数の貫通溝471が複数の吐出流路47を形成する。すなわち、3つの分割体42,43,44を重ね合わせて形成された紡糸ヘッド4Cにおいては、第3分割体44の貫通溝471が、第3方向Zの両側から第1分割体42の第1重ね合わせ面42aと第2分割体43の第2重ね合わせ面43aとに挟まれることで吐出流路47が形成され、吐出流路47の第2方向Yの一端(突出部41C側の端)が吐出口48となる。
【0055】
図13に示す形態では、第3分割体44は、吐出流路47形成用の貫通溝471に加えて、送液流路45形成用の貫通孔452を有している。また、第1分割体42の重ね合わせ面42aには液体流路を形成する凹部は形成されておらず、紡糸ヘッド4Cが有する送液流路45は、第2分割体43の凹部451と第3分割体44の貫通孔452とからなり、紡糸ヘッド4Cが有するバッファー流路46は、第2分割体43の凹部460からなり、紡糸ヘッド4Cが有する複数の吐出流路47は、第3分割体44の複数の貫通溝471からなる。また、バッファー流路46(凹部460)は、複数の吐出流路47(貫通溝471)を第1方向Xに跨ぐように配置され、第3方向Zにおいて各吐出流路47の一部と重なるため、紡糸ヘッド4,4Cと同様に、液体流路の閉塞防止効果を奏する。
【0056】
紡糸ヘッド4Cを備えた電界紡糸装置によれば、電界紡糸装置1と同様の効果が奏される。特に紡糸ヘッド4Cは、液体流路における吐出口側の一部である吐出流路47が、平板状の第3分割体44が有する貫通溝471から形成されるため、製造コストの点で有利である。すなわち第3分割体44の製造には、平板状部材に貫通溝471を形成する作業が含まれるところ、斯かる作業は、ノズルの製造で要求されるドリルによる穿設加工に比べて難易度が低く、そのため、第3分割体44の製造は比較的安価に行うことが可能である。また、貫通溝471の形成手段として公知の金属エッチングを採用することが可能であり、それにより、貫通溝471の幅(吐出流路47の流路断面積)を数μm単位で制御することが可能となる。このような微細な液体流路の形成は、ノズルでは困難なことである。
【0057】
本発明には、前述した本発明の電界紡糸装置を用いた不織布の製造方法が包含される。本発明の製造方法は、本発明の電界紡糸装置を用いて繊維を製造する工程(電界紡糸工程)と、該繊維を集積して不織布を製造する工程(繊維集積工程)とを有する。
【0058】
前記電界紡糸工程は、公知の電界紡糸法に従って実施することができる。例えば電界紡糸装置1を用いた前記電界紡糸工程では、紡糸ヘッド4と電極6との間の紡糸空間Sに電界を生じさせ、且つ第1気体流A1及び第2気体流A2を噴射させた状態下に、紡糸ヘッド4の吐出口48から原料液を吐出させる。吐出口48から吐出された原料液は、帯電した原料液中の樹脂のクーロン力と、第1気体流A1による機械延伸力とによって、延伸されながら微細化し、これとともに樹脂の冷却固化が進行することで、最終的に細径の繊維となる。紡糸ヘッド4に代えて、紡糸ヘッド4A~4Cの何れかを用いることができる。原料液としては前述したとおり、樹脂含有溶液を用いてもよく、樹脂溶融液を用いてもよく、適宜選択し得る。
【0059】
前記電界紡糸工程では、ナノファイバと呼ばれる極細繊維を製造することが可能である。ナノファイバは、その繊維径を円相当直径で表した場合、繊維径が30μm以下である。ナノファイバは、その繊維径が好ましくは0.1μm以上であり、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下、更に好ましくは3μm以下のものである。
繊維の繊維径は、例えば走査型電子顕微鏡観察による二次元画像から、紡糸された繊維の塊、繊維どうしの交差部分、ポリマー液滴といった欠陥を除いた繊維を任意に500本選び出し、繊維の長手方向に直交する線を引いたときの長さを繊維径として直接読み取ることで測定することができる。本明細書において「繊維径」は、こうして測定した繊維径の分布から求めたメジアン径を指す。
【0060】
前記繊維集積工程は、電界紡糸法において繊維の集積方法として採用されている方法を特に制限無く用いることができる。例えば電界紡糸装置1を用いた場合には、紡糸ヘッド4の吐出口48と対向する位置に、金属等の導電性材料から構成された捕集電極が配置された捕集手段を用いて、前記繊維集積工程を実施することができる。この場合、吐出口48と前記捕集手段とに挟まれた空間が紡糸空間Sとなり、前記電界紡糸工程で製造された繊維は、該捕集手段上にランダムに堆積する。本発明の製造方法の製造目的物である不織布は、斯かる繊維のシート状の堆積体である。前記捕集電極は、接地されているか、又は高電圧発生装置に接続されて電圧が印加されていることが好ましい。この場合、前記捕集電極には、紡糸ヘッド4に印加されている電圧と異なる電圧が印加されていることも好ましい。
【0061】
本発明の製造方法によって製造された不織布は、種々の用途に適用できる。例えば、医療目的又は美容目的、装飾目的等の非医療目的でヒトの肌、歯、歯茎、毛髪に付着されるシートとして好適に用いられる。あるいは、非ヒト哺乳類の皮膚、歯、歯茎に付着されるシートとして好適に用いられる。あるいは、高集塵性で且つ低圧損の高性能フィルタ、高電流密度での使用が可能な電池用セパレータ、高空孔構造を有する細胞培養用基材等として好適に用いられる。
【0062】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に何ら制限されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、
図13に示す形態では、第1分割体42及び第2分割体43は、それぞれ、第3分割体44との対向面に、吐出流路47に対応する凹部を有していないが、これに代えて、両分割体42,43の少なくとも一方は、第3分割体44との対向面に、複数の吐出流路47に対応する複数の凹部を有していてもよい。その場合、両分割体42,43の両方又は一方が有する前記複数の凹部と、第3分割体44が有する複数の貫通溝471とが、複数の吐出流路47を形成する。
前述した一の実施形態のみが有する部分は、すべて適宜相互に利用できる。
【符号の説明】
【0063】
1 電界紡糸装置
4,4A,4B,4C 紡糸ヘッド
41,410 突出部
42 第1分割体
43 第2分割体
45 送液流路(液体流路)
47 吐出流路(液体流路)
48 吐出口(液体流路)
6 電極
X 第1方向
Y 第2方向
Z 第3方向