(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114388
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】眼鏡レンズの製造方法、セミフィニッシュトレンズ、眼鏡レンズ及び眼鏡
(51)【国際特許分類】
G02C 7/02 20060101AFI20240816BHJP
G02B 5/32 20060101ALI20240816BHJP
G02B 27/02 20060101ALI20240816BHJP
B81C 99/00 20100101ALI20240816BHJP
【FI】
G02C7/02
G02B5/32
G02B27/02 Z
B81C99/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020132
(22)【出願日】2023-02-13
(71)【出願人】
【識別番号】509333807
【氏名又は名称】ホヤ レンズ タイランド リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HOYA Lens Thailand Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【弁理士】
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】向山 浩行
【テーマコード(参考)】
2H199
2H249
3C081
【Fターム(参考)】
2H199CA12
2H199CA29
2H199CA32
2H199CA42
2H199CA56
2H199CA68
2H249CA06
2H249CA07
2H249CA22
2H249CA28
3C081AA17
3C081BA28
3C081CA19
3C081CA20
3C081EA07
3C081EA11
(57)【要約】
【課題】課題(1)-(3)(場合によってはそのいずれか)を解決する技術を提供する。
【解決手段】装用者の処方を満たす眼鏡レンズ1であってMEMS(微小電気機械システム)ミラーで反射したレーザ光を眼鏡レンズ1内のホログラム層21に照射して眼鏡レンズ1の装用者に仮想像を視認させる眼鏡レンズ1の製造方法において、ホログラム層21を含む板状のホログラム部2の一つの面H1を、第1レンズブランクの二つの面のうち一つの面B2と隣接したセミフィニッシュトレンズにおける、第1レンズブランクのもう一つの面B1を処方に応じて加工して眼鏡レンズの物体側の面S1とし、処方を満たす眼鏡レンズ1を得る製造工程を有する、眼鏡レンズ1の製造方法及びその関連技術を提供する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
装用者の処方を満たす眼鏡レンズであってMEMS(微小電気機械システム)ミラーで反射したレーザ光を眼鏡レンズ内のホログラム層に照射して眼鏡レンズの装用者に仮想像を視認させる眼鏡レンズの製造方法において、
前記ホログラム層を含む板状のホログラム部の一つの面H1を、第1レンズブランクの二つの面のうち一つの面B2と隣接したセミフィニッシュトレンズにおける、前記第1レンズブランクのもう一つの面B1を前記処方に応じて加工して眼鏡レンズの物体側の面S1とし、前記処方を満たす眼鏡レンズを得る製造工程を有する、眼鏡レンズの製造方法。
【請求項2】
眼鏡レンズの眼球側の面S2は、前記ホログラム部のもう一つの面H2である、請求項1に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項3】
前記ホログラム部は前記ホログラム層に沿った形状である、請求項1に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項4】
前記ホログラム部は、層状のベース部と接合する前記ホログラム層により構成される、請求項1に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項5】
眼鏡レンズの物体側の面S1から前記ホログラム層までのレンズ厚さ方向の距離d1よりも、眼鏡レンズの眼球側の面S2から前記ホログラム層までのレンズ厚さ方向の距離d2を小さくする、請求項1に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項6】
前記d2/前記d1の値は0.2以下である、請求項5に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項7】
前記ホログラム部は、水平方向に湾曲するシリンドリカル形状であり、
前記ホログラム部の面H2は、第2レンズブランクの二つの面のうち一つの面B´1と隣接し、
前記第2レンズブランクのもう一つの面B´2は凹状且つ球面形状であり、
前記製造工程において、前記第1レンズブランクの面B1は凸状又は平坦形状とする、請求項1に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項8】
装用者の処方を満たす眼鏡レンズであってMEMS(微小電気機械システム)ミラーで反射したレーザ光を眼鏡レンズ内のホログラム層に照射して眼鏡レンズの装用者に仮想像を視認させる眼鏡レンズを製造するためのセミフィニッシュトレンズにおいて、
第1レンズブランクと、
前記ホログラム層を含む板状のホログラム部と、
を備え、
前記第1レンズブランクの二つの面のうち一つの面B2は、前記ホログラム部の一つの面H1と隣接し、
セミフィニッシュトレンズの二つの面のうち一つの面F1は、前記第1レンズブランクのもう一つの面B1であり、
セミフィニッシュトレンズのもう一つの面F2は、前記ホログラム部のもう一つの面H2である、セミフィニッシュトレンズ。
【請求項9】
装用者の処方を満たす眼鏡レンズであってMEMS(微小電気機械システム)ミラーで反射したレーザ光を眼鏡レンズ内のホログラム層に照射して眼鏡レンズの装用者に仮想像を視認させる眼鏡レンズを製造するためのセミフィニッシュトレンズにおいて、
第1レンズブランクと、
第2レンズブランクと、
前記ホログラム層を含む板状のホログラム部と、
を備え、
前記ホログラム部は、水平方向に湾曲するシリンドリカル形状であり、
前記第1レンズブランクの二つの面のうち一つの面B2は、前記ホログラム部の一つの面H1と隣接し、
前記ホログラム部の面H2は、前記第2レンズブランクの二つの面のうち一つの面B´1と隣接し、
前記第2レンズブランクのもう一つの面B´2は凹状且つ球面形状であり、
セミフィニッシュトレンズの二つの面のうち一つの面F1は、前記第1レンズブランクのもう一つの面B1であり、
セミフィニッシュトレンズのもう一つの面F2は、前記第2レンズブランクの面B´2である、セミフィニッシュトレンズ。
【請求項10】
前記ホログラム部は前記ホログラム層に沿った形状である、請求項8又は9に記載のセミフィニッシュトレンズ。
【請求項11】
前記ホログラム部は、層状のベース部と接合する前記ホログラム層により構成される、請求項8又は9に記載のセミフィニッシュトレンズ。
【請求項12】
セミフィニッシュトレンズの面F1から前記ホログラム層までのレンズ厚さ方向の距離t1よりも、セミフィニッシュトレンズの面F2から前記ホログラム層までのレンズ厚さ方向の距離t2を小さくする、請求項8又は9に記載のセミフィニッシュトレンズ。
【請求項13】
前記t2/前記t1の値は0.2以下である、請求項12に記載のセミフィニッシュトレンズ。
【請求項14】
装用者の処方を満たす眼鏡レンズであってMEMS(微小電気機械システム)ミラーで反射したレーザ光を眼鏡レンズ内のホログラム層に照射して眼鏡レンズの装用者に仮想像を視認させる眼鏡レンズにおいて、
第1レンズと、
前記ホログラム層を含む板状のホログラム部と、
を備え、
前記第1レンズの二つの面のうち一つの面L2は、前記ホログラム部の一つの面H1と隣接し、
眼鏡レンズの物体側の面S1は、前記第1レンズのもう一つの面L1であり、
眼鏡レンズの眼球側の面S2は、前記ホログラム部のもう一つの面H2である、眼鏡レンズ。
【請求項15】
装用者の処方を満たす眼鏡レンズであってMEMS(微小電気機械システム)ミラーで反射したレーザ光を眼鏡レンズ内のホログラム層に照射して眼鏡レンズの装用者に仮想像を視認させる眼鏡レンズにおいて、
第1レンズと、
第2レンズと、
前記ホログラム層を含む板状のホログラム部と、
を備え、
前記ホログラム部は、水平方向に湾曲するシリンドリカル形状であり、
前記第1レンズの二つの面のうち一つの面L2は、前記ホログラム部の一つの面H1と隣接し、
前記ホログラム部の面H2は、前記第2レンズの二つの面のうち一つの主L´1と隣接し、
前記第2レンズのもう一つの面L´2は凹状且つ球面形状であり、
前記第1レンズの面L1は凸状又は平坦形状であり、
眼鏡レンズの物体側の面S1は、前記第1レンズの面L1であり、
眼鏡レンズの眼球側の面S2は、前記第2レンズの面L´2である、眼鏡レンズ。
【請求項16】
前記ホログラム部は前記ホログラム層に沿った形状である、請求項14又は15に記載の眼鏡レンズ。
【請求項17】
前記ホログラム部は、層状のベース部と接合する前記ホログラム層により構成される、請求項14又は15に記載の眼鏡レンズ。
【請求項18】
眼鏡レンズの物体側の面S1から前記ホログラム層までのレンズ厚さ方向の距離d1よりも、眼鏡レンズの眼球側の面S2から前記ホログラム層までのレンズ厚さ方向の距離d2が小さい、請求項14又は15に記載の眼鏡レンズ。
【請求項19】
前記d2/前記d1の値は0.2以下である、請求項18に記載の眼鏡レンズ。
【請求項20】
請求項14又は15に記載の眼鏡レンズと、
眼鏡フレームと、
を備える、眼鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡レンズの製造方法、セミフィニッシュトレンズ、眼鏡レンズ及び眼鏡に関する。本発明は、特に、装用者の処方を満たす眼鏡レンズであってMEMS(微小電気機械システム)ミラーで反射したレーザ光を眼鏡レンズ内のホログラム層に照射して眼鏡レンズの装用者に仮想像を視認させる眼鏡レンズの製造方法、セミフィニッシュトレンズ、眼鏡レンズ及び眼鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、眼鏡型画像表示装置が記載されている。該装置は、眼鏡のレンズ面に画像を表示することにより、眼鏡を装着したユーザ(本明細書で言うところの「装用者」)に画像を視認させる表示装置である。
【0003】
該装置は、画像出力部を備えている。画像出力部は光出力部を有する。光出力部は、例えば、光源およびディスプレイを含んだMEMS(Micro Electro Mechanical Systems=微小電気機械システム)スキャンディスプレイにより構成され、光源から出射された照射光をディスプレイにおいて反射させて、画像情報を含む画像光として出力する構成であることが記載されている。
【0004】
そして、該装置では、レンズは、レンズ基板と、レンズ基板の表面に設けられた光学系素子としての反射ホログラムとを有する。その際、反射ホログラムの二つの面のうち一つの面は、眼鏡レンズにおいて、装用者から離れた側の面である物体側の面(特許文献1の
図3における上側の面)を構成する。つまり、眼鏡レンズの物体側の面は反射ホログラムの一つの面であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のレンズ基板を用意する者にとって、上記眼鏡レンズを受注してから上記眼鏡レンズの処方(球面度数S、乱視度数C、乱視軸Ax、累進屈折力レンズの場合は加入度数ADD、場合によってはプリズム度数Δ)を満たすレンズをレンズブランクから製造することも可能ではある。その一方、そのような受注後製造という方式ではレンズの製造に多くの時間を要する。特に、仮想像をもたらす眼鏡レンズの需要は近年高まっていることもあり、眼鏡レンズの購入者の手に眼鏡レンズひいては眼鏡が届くまでの時間が極めて長くなる(課題(1))。
【0007】
上記課題(1)を解決する手法として、特許文献1で言うところの反射ホログラムとレンズ基板とが予め接合されたセミフィニッシュトレンズを用意することが挙げられる。
【0008】
一般的なセミフィニッシュトレンズは、レンズブランクにおける二つの面のうち一つの面を所定の形状に予め加工しつつ、もう一つの面を加工(切削及び研磨等)して最終的に処方を実現する眼鏡レンズを得るためのものである。
【0009】
本明細書で記載する「面」は、眼鏡レンズを装用者が装用した時の視線方向(光軸方向、眼鏡レンズの厚さ方向、後掲のz方向)に対向する二つの面を意味し、特記無い限り側面(コバ面)は意味しない。この規定は、後掲のセミフィニッシュトレンズにしてもレンズブランクにしてもホログラム部にしても、そして最終的に得られる眼鏡レンズ及び眼鏡にしても同様とする。
【0010】
一般的なセミフィニッシュトレンズでは、眼鏡レンズになったときに物体側に配置される面に所定の形状を予め備えさせ、眼鏡レンズになったときに眼球側に配置される面を加工する。なぜなら、一般的にメニスカス形状で作られる眼鏡レンズの眼球側の面は凹形状であり、切削や研磨などの加工を施すには凸形状よりも有利だからである。
【0011】
上記課題(1)を解決する手法として、特許文献1で言うところの反射ホログラムとレンズ基板とが予め接合されたセミフィニッシュトレンズを用意する際、特許文献1の
図3に記載のように、反射ホログラムを物体側に配置し、レンズ基板を眼球側に配置すると、以下の点を検討する必要があることを、本発明者は知見した。
【0012】
特許文献1のMEMSスキャンディスプレイは、MEMSミラーに対してレーザ光を反射させ、更に該レーザ光を眼鏡レンズ上のホログラム層にて反射させ、装用者の瞳孔内に入射させ、画像情報を含む画像光として出力するという機能を奏する。この機構のことを単に「MEMS」とも言う。
【0013】
特許文献1の反射ホログラムよりも装用者に近い側にはレンズ基板が存在する。その結果、上記レーザ光においては、反射ホログラムとレンズ基板との界面、及び、レンズ基板と外界との界面という複数箇所で屈折力が変化する。その一方、該複数箇所の形状が装用者に応じて変わらなければ、反射ホログラムの形態の変更(例:反射ホログラムの二つの面の形状の変更、MEMSミラーの調整及び/又はレーザ光の調整)により、該屈折力の変化の影響を無くすないし著しく低減可能である。該複数箇所の形状が装用者に応じて変わらないことを単に「面の固定(Fix)」とも言う。
【0014】
しかし、上記の通り、一般的なセミフィニッシュトレンズでは、眼鏡レンズになったときに物体側に配置される面に所定の形状を予め備えさせ、眼鏡レンズになったときに眼球側に配置される面を加工する。つまり、上記複数箇所の内の一箇所であって、セミフィニッシュトレンズの眼球側の面においては、屈折力変化は装用者の処方により異なる。つまり、従来の一般的な発想では、セミフィニッシュトレンズの眼球側の面は固定されない。このまま何も手当をしないと、装用者は明瞭な仮想像を視認できない可能性がある(課題(2))。
【0015】
課題(2)の概要を示すのが
図1である。
図1は、セミフィニッシュトレンズの眼球側の面を装用者の処方に応じて加工する場合において、眼鏡レンズが仮想像表示システムの一部として機能することを示す平面視断面概略図であり、左下の図は眼鏡レンズを眼鏡に嵌め入れたときのレーザ光の反射の様子を示す図である。
なお、
図1では、説明の便宜上、特許文献1に記載の内容とは異なり、ホログラム部を物体側及び眼球側から各レンズで挟み込む構造を例示している。また、
図1はあくまで参考例であって公知の例ではない。なお、参考例の場合の符号には、本発明の一実施例の各構成の符号に0(ゼロ)を足している。
説明の便宜上、本明細書では、眼鏡レンズ又はセミフィニッシュトレンズを構成する各部の二つの面については符号を付し、それ以外の構成に関しては符号を省略する。符号の説明は本明細書の末尾に記載する。
【0016】
上記手当としては、上記面F20が固定されている場合と同様に、該複数箇所の屈折力の変化を加味して反射ホログラム(本明細書で言うホログラム部)の形態を変更することが挙げられる。その一方、反射ホログラムの形態を変更するということは、反射ホログラムを一から作り直すことはもとより、作り直した反射ホログラムを再度レンズ基板と組み合わせて装用者が明瞭な仮想像を視認できるか否かを再度確認する必要が生じることを意味する。そして、セミフィニッシュトレンズの眼球側の面F20の形状は装用者により異なる。つまり、該面F20における屈折力変化は装用者の処方により異なる。その結果、装用者ごとに、上記再度確認を実施する必要が生じる。これにより、眼鏡レンズの購入者の手に眼鏡レンズひいては眼鏡が届くまでの時間が極めて長くなる。
【0017】
仮に、特許文献1で言うところの反射ホログラムが物体側に配置され且つレンズ基板が眼球側に配置されたセミフィニッシュトレンズを用意する場合、眼球側のレンズ基板を加工しても反射ホログラムが損傷しないという利点はある。その一方、そのセミフィニッシュトレンズを採用する場合、上記課題(2)に示すように、上記複数箇所での屈折力の変化を考慮しなければならない。つまり、セミフィニッシュトレンズを使用する場合、セミフィニッシュトレンズに対する加工の際の反射ホログラムの損傷回避と、上記課題(2)の解決とを両立する必要がある(課題(3))。
【0018】
本発明における眼鏡レンズの製造方法に係る一実施例は、上記課題(1)-(3)を解決することを課題とする。
【0019】
本発明におけるセミフィニッシュトレンズに係る一実施例は、上記課題(1)を解決することを課題とする。好適には該一実施例は上記課題(1)-(3)を解決することを課題とする。
【0020】
本発明における眼鏡レンズ又は眼鏡に係る一実施例は、上記課題(2)を解決することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明における眼鏡レンズの製造方法に係る一実施例に関し、本発明者は以下の内容を知見した。即ち、特許文献1に記載の構成とは逆に、レンズブランクを物体側に配置し、ホログラム部を眼球側に配置することを知見した。そして、レンズブランクの物体側の面を加工し、処方を実現することを知見した。
【0022】
更に詳しく言うと、本発明における眼鏡レンズの製造方法に係る一実施例では、ホログラム部の二つの面の形状ありきで考える。ホログラム部の一方の面の形状に対して隣接(例:面として接合)するように、レンズブランクの眼球側の面を予め加工する。レンズブランクの物体側の面は自由な形状に加工可能であり、受注した眼鏡レンズの処方を満たすように該物体側の面を加工することを知見した。つまり、セミフィニッシュトレンズの眼球側の面は固定することを知見した。前段落及び本段落に記載の知見を知見(1)と称する。
【0023】
上記知見(1)の概要を示すのが
図2である。
図2は、セミフィニッシュトレンズの眼球側の面を装用者の処方に応じて加工する場合において、眼鏡レンズが仮想像表示システムの一部として機能することを示す平面視断面概略図であり、左下の図は眼鏡レンズを眼鏡に嵌め入れたときのレーザ光の反射の様子を示す図である。
なお、
図2は、後掲の実施形態1に対応する例である。
図2では、ホログラム層においてレンズ中心(光学中心、幾何中心及び/又は芯取り中心)の部分に対して露光された場合を例示している。
【0024】
以上の知見(1)に基づき、本発明における眼鏡レンズの製造方法に係る以下の態様を想到した。
【0025】
本発明の第1の態様は、
装用者の処方を満たす眼鏡レンズであってMEMS(微小電気機械システム)ミラーで反射したレーザ光を眼鏡レンズ内のホログラム層に照射して眼鏡レンズの装用者に仮想像を視認させる眼鏡レンズの製造方法において、
前記ホログラム層を含む板状のホログラム部の一つの面H1を、第1レンズブランクの二つの面のうち一つの面B2と隣接したセミフィニッシュトレンズにおける、前記第1レンズブランクのもう一つの面B1を前記処方に応じて加工して眼鏡レンズの物体側の面S1とし、前記処方を満たす眼鏡レンズを得る製造工程を有する、眼鏡レンズの製造方法である。
【0026】
本発明の第2の態様は、
眼鏡レンズの眼球側の面S2は、前記ホログラム部のもう一つの面H2である、第1の態様に記載の眼鏡レンズの製造方法である。
【0027】
本発明の第3の態様は、
前記ホログラム部は前記ホログラム層に沿った形状である、第1の態様に記載の眼鏡レンズの製造方法である。
【0028】
本発明の第4の態様は、
前記ホログラム部は、層状のベース部と接合する前記ホログラム層により構成される、第1の態様に記載の眼鏡レンズの製造方法である。
【0029】
本発明の第5の態様は、
眼鏡レンズの物体側の面S1から前記ホログラム層までのレンズ厚さ方向の距離d1よりも、眼鏡レンズの眼球側の面S2から前記ホログラム層までのレンズ厚さ方向の距離d2を小さくする、第1の態様に記載の眼鏡レンズの製造方法である。
【0030】
本発明の第6の態様は、
前記d2/前記d1の値は0.2以下である、第5の態様に記載の眼鏡レンズの製造方法である。
【0031】
本発明の第7の態様は、
前記ホログラム部は、水平方向に湾曲するシリンドリカル形状であり、
前記ホログラム部の面H2は、第2レンズブランクの二つの面のうち一つの面B´1と隣接し、
前記第2レンズブランクのもう一つの面B´2は凹状且つ球面形状であり、
前記製造工程において、前記第1レンズブランクの面B1は凸状又は平坦形状とする、第1の態様に記載の眼鏡レンズの製造方法である。
【0032】
本発明におけるセミフィニッシュトレンズに係る一実施例に関し、上記課題(1)を解決すべく、第1レンズブランクと、ホログラム層を含む板状のホログラム部と、を備え、第1レンズブランクの二つの面のうち一つの面B2は、ホログラム部の一つの面H1と隣接させたセミフィニッシュトレンズを用意することを知見した(知見(2))。つまり、ホログラム部を予め備えたセミフィニッシュトレンズを用意することを知見した。それに加え、上記知見(1)を得た。
【0033】
以上の知見(1)(2)に基づき、本発明におけるセミフィニッシュトレンズに係る以下の態様を想到した。
【0034】
本発明の第8の態様は、
装用者の処方を満たす眼鏡レンズであってMEMS(微小電気機械システム)ミラーで反射したレーザ光を眼鏡レンズ内のホログラム層に照射して眼鏡レンズの装用者に仮想像を視認させる眼鏡レンズを製造するためのセミフィニッシュトレンズにおいて、
第1レンズブランクと、
前記ホログラム層を含む板状のホログラム部と、
を備え、
前記第1レンズブランクの二つの面のうち一つの面B2は、前記ホログラム部の一つの面H1と隣接し、
セミフィニッシュトレンズの二つの面のうち一つの面F1は、前記第1レンズブランクのもう一つの面B1であり、
セミフィニッシュトレンズのもう一つの面F2は、前記ホログラム部のもう一つの面H2である、セミフィニッシュトレンズである。
【0035】
本発明の第9の態様は、
装用者の処方を満たす眼鏡レンズであってMEMS(微小電気機械システム)ミラーで反射したレーザ光を眼鏡レンズ内のホログラム層に照射して眼鏡レンズの装用者に仮想像を視認させる眼鏡レンズを製造するためのセミフィニッシュトレンズにおいて、
第1レンズブランクと、
第2レンズブランクと、
前記ホログラム層を含む板状のホログラム部と、
を備え、
前記ホログラム部は、水平方向に湾曲するシリンドリカル形状であり、
前記第1レンズブランクの二つの面のうち一つの面B2は、前記ホログラム部の一つの面H1と隣接し、
前記ホログラム部の面H2は、前記第2レンズブランクの二つの面のうち一つの面B´1と隣接し、
前記第2レンズブランクのもう一つの面B´2は凹状且つ球面形状であり、
セミフィニッシュトレンズの二つの面のうち一つの面F1は、前記第1レンズブランクのもう一つの面B1であり、
セミフィニッシュトレンズのもう一つの面F2は、前記第2レンズブランクの面B´2である、セミフィニッシュトレンズである。
【0036】
本発明の第10の態様は、
前記ホログラム部は前記ホログラム層に沿った形状である、第8又は第9の態様に記載のセミフィニッシュトレンズである。
【0037】
本発明の第11の態様は、
前記ホログラム部は、層状のベース部と接合する前記ホログラム層により構成される、第8又は第9の態様に記載のセミフィニッシュトレンズである。
【0038】
本発明の第12の態様は、
セミフィニッシュトレンズの面F1から前記ホログラム層までのレンズ厚さ方向の距離t1よりも、セミフィニッシュトレンズの面F2から前記ホログラム層までのレンズ厚さ方向の距離t2を小さくする、第8又は第9の態様に記載のセミフィニッシュトレンズである。
【0039】
本発明の第13の態様は、
前記t2/前記t1の値は0.2以下である、第12の態様に記載のセミフィニッシュトレンズである。
【0040】
本発明における眼鏡レンズ又は眼鏡に係る一実施例に関し、本発明者は以下の内容を知見した。即ち、第1レンズブランクが処方に応じて(具体的には第1レンズブランク単体で処方を満たすように)加工された第1レンズが物体側に配置され、ホログラム層を含む板状のホログラム部が眼球側に配置される一方、ホログラム部から見て眼球側にはレンズが配置されない(本明細書では「レンズフリー」とも言う。)、又は、第2レンズが配置されたとしても、“ホログラム部は水平方向に湾曲するシリンドリカル形状であり且つ第2レンズの眼球側の面は凹状且つ球面形状”というシンプルな形状(詳しくは実施形態で詳述。本明細書では「シンプル固定レンズ」とも言う。)である場合、MEMSのように網膜上に結像させないタイプの仮想像だからこそ、明瞭な仮想像が得られることを本発明者は知見した。
【0041】
言い方を変えると、網膜上に結像させるタイプの仮想像を装用者に視認させる場合、レンズフリー又はシンプル固定レンズを採用すると、レンズブランクの眼球側を装用者に応じて加工しないことになる。そうなると、処方を満たしつつ仮想像を装用者に視認させることができない。その一方、本発明における眼鏡レンズ又は眼鏡では、MEMSのように網膜上に結像させないタイプの仮想像を装用者に視認させるため、前文に記載の内容は気にせずともよい。本発明における眼鏡レンズ又は眼鏡に係る以下の態様が活きるのは、MEMSのように網膜上に結像させないタイプの仮想像だからである。前段落及び本段落に記載の知見を知見(3)と称する。
【0042】
以上の知見(3)に基づき、本発明における眼鏡レンズ又は眼鏡に係る以下の態様を想到した。
【0043】
本発明の第14の態様は、
装用者の処方を満たす眼鏡レンズであってMEMS(微小電気機械システム)ミラーで反射したレーザ光を眼鏡レンズ内のホログラム層に照射して眼鏡レンズの装用者に仮想像を視認させる眼鏡レンズにおいて、
第1レンズと、
前記ホログラム層を含む板状のホログラム部と、
を備え、
前記第1レンズの二つの面のうち一つの面L2は、前記ホログラム部の一つの面H1と隣接し、
眼鏡レンズの物体側の面S1は、前記第1レンズのもう一つの面L1であり、
眼鏡レンズの眼球側の面S2は、前記ホログラム部のもう一つの面H2である、眼鏡レンズである。
【0044】
本発明の第15の態様は、
装用者の処方を満たす眼鏡レンズであってMEMS(微小電気機械システム)ミラーで反射したレーザ光を眼鏡レンズ内のホログラム層に照射して眼鏡レンズの装用者に仮想像を視認させる眼鏡レンズにおいて、
第1レンズと、
第2レンズと、
前記ホログラム層を含む板状のホログラム部と、
を備え、
前記ホログラム部は、水平方向に湾曲するシリンドリカル形状であり、
前記第1レンズの二つの面のうち一つの面L2は、前記ホログラム部の一つの面H1と隣接し、
前記ホログラム部の面H2は、前記第2レンズの二つの面のうち一つの主L´1と隣接し、
前記第2レンズのもう一つの面L´2は凹状且つ球面形状であり、
前記第1レンズの面L1は凸状又は平坦形状であり、
眼鏡レンズの物体側の面S1は、前記第1レンズの面L1であり、
眼鏡レンズの眼球側の面S2は、前記第2レンズの面L´2である、眼鏡レンズである。
【0045】
本発明の第16の態様は、
前記ホログラム部は前記ホログラム層に沿った形状である、第14又は第15の態様に記載の眼鏡レンズである。
【0046】
本発明の第17の態様は、
前記ホログラム部は、層状のベース部と接合する前記ホログラム層により構成される、第14又は第15の態様に記載の眼鏡レンズである。
【0047】
本発明の第18の態様は、
眼鏡レンズの物体側の面S1から前記ホログラム層までのレンズ厚さ方向の距離d1よりも、眼鏡レンズの眼球側の面S2から前記ホログラム層までのレンズ厚さ方向の距離d2が小さい、第14又は第15の態様に記載の眼鏡レンズである。
【0048】
本発明の第19の態様は、
前記d2/前記d1の値は0.2以下である、第18の態様に記載の眼鏡レンズである。
【0049】
本発明の第20の態様は、
第14又は第15の態様に記載の眼鏡レンズと、
眼鏡フレームと、
を備える、眼鏡である。
【0050】
他の好適な態様は以下の通りである。以下の態様は、これまでに述べた各態様と組み合わせ可能である。
【0051】
板状のホログラム部の厚さには限定は無い。例えばホログラム部の厚さの上限は2.0mm、1.5mm、1.0mmが挙げられる。ホログラム部の厚さの下限は0.005mm、0.01mm、0.05mm、0.10mmが挙げられる。
【0052】
ホログラム層の厚さには限定は無い。例えばホログラム層の厚さの上限は20μm、15μm、10μmが挙げられる。ホログラム層の厚さの下限は0.1μm、0.5μm、1μmが挙げられる。
【0053】
ベース部の厚さには限定は無い。例えばベース部の厚さの上限は2.0mm、1.5mm、1.0mmが挙げられる。ベース部の厚さの下限は0.01mm、0.05mm、0.10mmが挙げられる。
【0054】
本明細書で言う「隣接」は、ホログラム部との物理的な接触状態(例:面として接合、以降はこの場合を例示)を含むし、非接触だが近接している(例えばレンズの幾何中心での離間距離が最大でも8mm、或いは5mm、或いは3mmである)状態を含む。この非接触での近接の一例としては、他の膜が、例えばホログラム部と第1レンズとの間に介在している場合が挙げられる。
【発明の効果】
【0055】
本発明における眼鏡レンズの製造方法に係る一実施例は、上記課題(1)-(3)を解決できる。
【0056】
本発明におけるセミフィニッシュトレンズに係る一実施例は、上記課題(1)を解決できる。好適には該一実施例は上記課題(1)-(3)を解決できる。
【0057】
本発明における眼鏡レンズ又は眼鏡に係る一実施例は、上記課題(2)を解決できる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【
図1】
図1は、セミフィニッシュトレンズの眼球側の面を装用者の処方に応じて加工する場合において、眼鏡レンズが仮想像表示システムの一部として機能することを示す平面視断面概略図であり、左下の図は眼鏡レンズを眼鏡に嵌め入れたときのレーザ光の反射の様子を示す図である。
【
図2】
図2は、本発明の一態様に関する図であり、セミフィニッシュトレンズの物体側の面を装用者の処方に応じて加工する場合において、眼鏡レンズが仮想像表示システムの一部として機能することを示す平面視断面概略図であり、左下の図は眼鏡レンズを眼鏡に嵌め入れたときのレーザ光の反射の様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0059】
以下、本発明の一態様について述べる。「~」は所定の数値以上且つ所定の数値以下を指す。
【0060】
実施形態1では、上記レンズフリータイプの態様について説明する。
実施形態2では、上記シンプル固定レンズタイプの態様について説明する。
それらの説明の前に、実施形態1、2に共通する内容について先に説明する。
【0061】
[共通の内容]
本発明の一態様は、仮想現実及び/又は拡張現実を装用者に体験させられるシステムであってユーザの頭部に取付可能なシステムに係る眼鏡レンズ、眼鏡、及びレンズ要素に関する。
【0062】
本発明の一態様に係るシステムは、MEMSに係る映像光を装用者の瞳孔内に入射させるための映像光出射部と、以下の眼鏡レンズとを有するものである。映像光出射部は、映像光を出射させ且つ該映像光を装用者の瞳孔内に入射させるのに必要な構成を備えたもののことを指し、MEMSの構成の少なくとも一部である。映像光の光束が装用者の瞳孔内に入射することにより装用者は仮想像を認識する。仮想像には限定は無く、動画でも静止画でも構わない。
【0063】
このシステムは、ヘッドマウントディスプレイであってもよいし、スマートグラスであってもよい。以降、このシステムがスマートグラスである場合を例示する。本発明の一態様は、このスマートグラスにおける眼鏡レンズでもある。
【0064】
本明細書における「眼鏡レンズ」は、MEMS(微小電気機械システム)ミラーで反射したレーザ光を眼鏡レンズ内のホログラム層に照射して眼鏡レンズの装用者に仮想像を視認させる。それに加え、本明細書における眼鏡レンズは、装用者の処方を満たす状態である。
【0065】
なお、本発明の一態様では、第1レンズ及び第2レンズは、単にレンズブランクから製造されるプラスチック又はガラスであってもよい。つまり、本発明の一態様では、第1レンズ及び第2レンズは、非可変焦点レンズである。
【0066】
MEMSを用いた仮想像を眼鏡レンズに反射させる原理については公知の技術(例えば特許文献1に記載の内容)を適宜採用すればよい。例えば特許文献1で言うところのMEMSに関する記載(光源、MEMSミラーの具体的な構成、システムの駆動制御部等)については公知のものを採用しても構わないため、本明細書での詳細な説明は省略する。
【0067】
また、本明細書における「ホログラム部」は、ホログラム層を含む板状の物質であれば限定は無い。一例としては、ホログラム部はホログラム層に沿った形状であってもよい。また、ホログラム部は、層状のベース部と接合する前記ホログラム層により構成されてもよい。
【0068】
図2では、ホログラム層においてレンズ中心(光学中心、幾何中心及び/又は芯取り中心)の部分に対して露光された場合を例示している。露光された部分により、MEMSミラーからの反射光が更に反射され、装用者の眼に該反射光が入射し、装用者は仮想像を認識できる。その一方、本発明はこの態様に限定されない。ホログラム層全体が露光されていても構わない。いずれの場合であっても、本発明の一態様に係る眼鏡レンズはシースルー機能を有し、例えばホログラム部は、実物体を注視するに際し実用上充分に透明である。
【0069】
ホログラム部において「板状の形状」には限定は無く、平板状であってもよいし曲板状であってもよい。曲板にしても両面H1、H2が球面状であってもよいし非球面状であってもよいし、両面H1、H2が異なる形状であってもよいし互いに倣った形状(例:同一形状)であってもよい。実施形態2ではホログラム部の形状を、水平方向に湾曲させたシリンドリカル形状(例えば平板を水平方向にのみ湾曲させた形状)に限定している。
【0070】
板状のホログラム部の厚さには限定は無い。例えばホログラム部の厚さの上限は2.0mm、1.5mm、1.0mmが挙げられる。ホログラム部の厚さの下限は0.005mm、0.01mm、0.05mm、0.10mmが挙げられる。
【0071】
ホログラム層の厚さには限定は無い。例えばホログラム層の厚さの上限は20μm、15μm、10μmが挙げられる。ホログラム層の厚さの下限は0.1μm、0.5μm、1μmが挙げられる。
【0072】
ベース部の厚さには限定は無い。例えばベース部の厚さの上限は2.0mm、1.5mm、1.0mmが挙げられる。ベース部の厚さの下限は0.01mm、0.05mm、0.10mmが挙げられる。
【0073】
以降は上段落に記載のホログラム部を例示するが、本発明はこの態様に限定されない。例えば、平板状のフィルムであるホログラム層が、実施形態2のように平板を水平にのみ湾曲させたベース部内に埋め込まれた態様のホログラム部であっても構わないし、ベース部とホログラム層との間に別部材が挟み込まれても構わない。また、ベース部は導光部材であっても構わないし、単にホログラム部を支持ないし補強するフィルムであっても構わない。この「導光部材」としては、眼鏡レンズを介して仮想像を装用者に投影する技術に用いられる導光部材を援用可能であるため、本明細書での詳細な説明は省略する。
【0074】
ベース部の素材は、第1レンズ(ひいては第1レンズブランク)と同じでもよいし異なってもよい。ベース部の素材には限定は無い。同様に、ベース部の素材は、後掲の実施形態2に係る第2レンズ(ひいては第2レンズブランク)と同じでもよいし異なってもよい。また、第1レンズ(ひいては第1レンズブランク)の素材は、後掲の実施形態2に係る第2レンズ(ひいては第2レンズブランク)と同じでもよいし異なってもよい。各部の素材の一例としては、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリカーボネート(PC)等が挙げられる。
【0075】
板状のホログラム部は、元々は、第1レンズブランクとは別体の構成である。ホログラム部の物体側の面H1と第1レンズブランクの眼球側の面B2とが隣接している。具体的には両者は面として接合している。このように両者を接合することは、セミフィニッシュトレンズの製造方法としての一つの特徴でもある。
【0076】
本明細書における「接合」の態様には限定は無く、接着剤での接合も含むし、熱融着での接合も含む。また、実施形態2に関する内容であるが、板状のホログラム部は、元々は、第2レンズブランクとも別体の構成である。
【0077】
本発明の一態様に係る眼鏡レンズはシースルー機能を有し、物体側の面S1と眼球側の面S2とを有する。物体側の面S1と眼球側の面とは互いに対向しており、物体側の面S1から見て光軸方向に対向して存在する面の部分が眼球側の面S2である。
【0078】
本明細書でいうy方向は、子午線に沿った方向であり、垂直方向である。装用状態でのレンズ上方を+y方向とし、レンズ下方を-y方向とする。x方向は、子午線に直交する方向であり、水平方向である。装用者と対向してみたときにレンズ右方を+x方向とし、レンズ左方を-x方向とする。x方向、y方向に直交する方向であってレンズ厚さ方向(光軸方向)をz方向とし、物体側を+z方向、眼球側を-z方向とする。
【0079】
本明細書の「眼鏡レンズ」は少なくとも第1レンズとホログラム部とを備える。第1レンズはホログラム部に対して物体側(+z方向)にて隣接する。第1レンズには二つの面L1、L2があり、第1レンズの物体側の面L1が、眼鏡レンズの物体側の面S1となる。第1レンズの眼球側(-z方向)の面L2がホログラム部の物体側の面H1と隣接する。
【0080】
第1レンズは、セミフィニッシュトレンズにおける第1レンズブランクを処方に応じて加工することにより得られる。第1レンズブランクも、第1レンズと同様に二つの面B1、B2がある。第1レンズブランクの物体側の面B1が処方に応じて加工されて、第1レンズの物体側の面L1となり、ひいては眼鏡レンズの物体側の面S1となる。第1レンズブランクの眼球側の面B2は、ホログラム部の物体側の面H1と隣接したままである。
【0081】
以降、本段落に記載の要領で、第1レンズ、その基になった第1レンズブランク、そしてホログラム部の各々の二つの面について表現する。実施形態2の場合だと、それらに、シンプル固定レンズである第2レンズ、及びその基になる第2レンズブランクが加わる。
【0082】
なお、第1レンズは符号Lで表し、第1レンズブランクは符号Bで表し、セミフィニッシュトレンズは符号Fで表し、眼鏡レンズは符号Sで表し。そして、物体側であることは符号1で表し、眼球側であることは符号2で表す。例えば、第1レンズの物体側の面は符号L1で表す。なお、実施形態2の第2レンズ、第2レンズブランクでは各符号に´を付す。
【0083】
第1レンズも、実施形態2の第2レンズも、プラスチック製又はガラス製の非可変焦点レンズである。第1レンズ及び実施形態2の第2レンズは、ハードコート層や反射防止層、防汚層等を包含してもよい。
【0084】
第1レンズを構成するレンズの数には限定は無い。実施形態2の第2レンズを構成するレンズの数には限定は無い。その一方、レンズの数を増加させると眼鏡レンズの厚さの増大につながるため、好適には、第1レンズを構成するレンズは一枚のレンズ(物体側の面L1が凸面)であり、実施形態2の第2レンズを構成するレンズは一枚のレンズ(眼球側の面L´2が凹面)である。
【0085】
本明細書で言う「隣接」は、ホログラム部との物理的な接触状態(例:面として接合、以降はこの場合を例示)を含むし、非接触だが近接している(例えばレンズの幾何中心での離間距離が最大でも8mm、或いは5mm、或いは3mmである)状態を含む。この非接触での近接の一例としては、他の膜が、例えばホログラム部と第1レンズとの間に介在している場合が挙げられる。
【0086】
本発明の一態様に係る眼鏡レンズはシースルー機能を有する。そのため、第1レンズ及びホログラム部を通過する光束が結像して現実像を得る際には第1レンズ及びホログラム部により装用者の処方値を実現する。装用者の処方値の実現は、第1レンズ及びホログラム部の各々の素材の屈折率及び表面形状により達成される。
【0087】
なお、本発明における眼鏡レンズの製造方法に係る一実施例では、ホログラム部の二つの面H1、H2の形状(更に言うとホログラム部という物体)ありきで考える。
【0088】
そのため、実施形態1(ホログラム部の眼球側がレンズフリー)では、ホログラム部が既に存在することを前提としつつ、ホログラム部の物体側にて接合する第1レンズブランクの物体側の面B1を加工し、処方を満たすようにする。
【0089】
実施形態2(ホログラム部の形状は特定され且つ眼球側の面L´2は凹状且つ球面形状の第2レンズ)では、ホログラム部及び第2レンズが既に確固として存在することを前提としつつ、ホログラム部の物体側にて接合する第1レンズブランクの物体側の面B1を加工し、処方を満たすようにする。
【0090】
ちなみに、装用者の処方値は、眼鏡レンズのレンズ袋に記載されている。これは、本発明の一態様に係る眼鏡レンズのように導光部材を備える場合でも例外ではない。なぜなら、本発明の一態様に係る眼鏡レンズでは、外界の確認においては屈折異常が矯正されるため、処方値の記載が必要になる。その結果、本発明の一態様に係る眼鏡レンズであってもレンズ袋が付属する。
【0091】
レンズ袋があれば、装用者の処方値に基づいた眼鏡レンズの物としての特定が可能である。そして、眼鏡レンズはレンズ袋とセットになっていることが通常である。そのため、レンズ袋が付属した眼鏡レンズにも本発明の技術的思想が反映されているし、レンズ袋と眼鏡レンズとのセットについても同様である。
【0092】
装用者の処方値は、例えば正面視(無限遠)のときの球面度数(S度数)、乱視度数(C度数)、乱視軸(Ax)、プリズム度数(Δ)が挙げられる。累進屈折力レンズの場合は、それらに加えて加入度(ADD)が挙げられる。本明細書における「加入度」は、正面視(無限遠)のときの球面度数から近方視の際の視力の矯正に必要な度数までの差(本明細書では正の値)である。
【0093】
上記の例だと、眼鏡レンズとしては、物体側の面S1は凸面であり、眼球側の面S2は凹面である。つまり、上記の例だと、眼鏡レンズとしてはメニスカスレンズである。
【0094】
[実施形態1(レンズフリー)]
実施形態1では、上記レンズフリータイプ(
図2)の態様について説明する。
【0095】
<セミフィニッシュトレンズ>
実施形態1でのセミフィニッシュトレンズの構成の一具体例は以下の通りである。なお、本発明は、以下のセミフィニッシュトレンズを製造する方法としても技術的な意義がある。
「装用者の処方を満たす眼鏡レンズであってMEMS(微小電気機械システム)ミラーで反射したレーザ光を眼鏡レンズ内のホログラム層に照射して眼鏡レンズの装用者に仮想像を視認させる眼鏡レンズを製造するためのセミフィニッシュトレンズにおいて、
第1レンズブランクと、
前記ホログラム層を含む板状のホログラム部と、
を備え、
前記第1レンズブランクの二つの面のうち一つの面B2は、前記ホログラム部の一つの面H1と隣接し、
セミフィニッシュトレンズの二つの面のうち一つの面F1は、前記第1レンズブランクのもう一つの面B1であり、
セミフィニッシュトレンズのもう一つの面F2は、前記ホログラム部のもう一つの面H2である、セミフィニッシュトレンズ。」
【0096】
実施形態1では、前記第1レンズブランクの面B2は、前記ホログラム部の面H1と接合する。そして、セミフィニッシュトレンズの面F1は、前記第1レンズブランクの面B1であり、セミフィニッシュトレンズの面F2は、前記ホログラム部の面H2である。
【0097】
実施形態1を採用することにより、受注後製造という方式とは異なり、レンズの製造に要する時間を顕著に短縮できる。その結果、眼鏡レンズの購入者の手に眼鏡レンズひいては眼鏡が届くまでの時間を顕著に短縮でき、上記課題(1)を解決できる。この点は、後掲の実施形態2でも同様である。
【0098】
しかも、実施形態1では、ホログラム部の二つの面H1、H2の形状ありきで考える。ホログラム部の一方の面H2に接合するように、第1レンズブランクの眼球側の面B2を予め加工する。第1レンズブランクの物体側の面B1は自由な形状に加工可能であり、受注した眼鏡レンズの処方を満たすように該物体側の面B1を加工する。これは、セミフィニッシュトレンズの物体側の面F1を、眼鏡レンズが処方を満たすように自由に加工することを意味する。その一方、セミフィニッシュトレンズの眼球側の面F2は固定する。その結果、上記課題(2)を解決できる。セミフィニッシュトレンズの眼球側の面F2は固定という点は、後掲の実施形態2でも同様である。
【0099】
更に、セミフィニッシュトレンズを使用する場合、セミフィニッシュトレンズに対する加工の際の反射ホログラムの損傷回避と、上記課題(2)の解決とを両立する必要がある(課題(3))ところ、実施形態1では、セミフィニッシュトレンズの眼球側の面F2は固定し、その物体側の面F1を加工すれば済むため、課題(3)を解決できる。この点は、後掲の実施形態2でも同様である。
【0100】
課題(3)を解決できることをセミフィニッシュトレンズという物の構成として表現した規定は以下の通りである。具体的には、ホログラム層が、セミフィニッシュトレンズにおける眼球側の面F2寄りに配置されたことを規定している。
【0101】
セミフィニッシュトレンズの面F1から前記ホログラム層までのレンズ厚さ方向の距離t1よりも、セミフィニッシュトレンズの面F2から前記ホログラム層までのレンズ厚さ方向の距離t2を小さくするのが好ましい。課題(2)で述べたように、一般的なセミフィニッシュトレンズでは眼球側の面を処方に応じて加工する。本段落に記載の構成は、そのような一般的なセミフィニッシュトレンズの取り扱いの逆の内容、即ち物体側の面F1を処方に応じて加工する。そのため、ホログラム層が、セミフィニッシュトレンズにおける眼球側の面F2寄りに配置される。本段落では、その内容を規定している。
【0102】
ホログラム層が、セミフィニッシュトレンズにおける眼球側の面F2寄りに配置されることを定量的に規定したのが以下の表現である。
・前記t2/前記t1の値は0.2以下(或いは0.15以下、0.13以下)である。
【0103】
<眼鏡レンズの製造方法>
実施形態1での眼鏡レンズの製造方法の構成の一具体例は以下の通りである。
「装用者の処方を満たす眼鏡レンズであってMEMS(微小電気機械システム)ミラーで反射したレーザ光を眼鏡レンズ内のホログラム層に照射して眼鏡レンズの装用者に仮想像を視認させる眼鏡レンズの製造方法において、
前記ホログラム層を含む板状のホログラム部の一つの面H1を、第1レンズブランクの二つの面のうち一つの面B2と隣接したセミフィニッシュトレンズにおける、前記第1レンズブランクのもう一つの面B1を前記処方に応じて加工して眼鏡レンズの物体側の面S1とし、前記処方を満たす眼鏡レンズを得る製造工程を有する、眼鏡レンズの製造方法。」
【0104】
実施形態1では、第1レンズブランクの面B1を処方に応じて加工して眼鏡レンズの物体側の面S1とする。繰り返しになるが、本発明の一実施例では、板状のホログラム部ありきで考える。実施形態1の場合、ホログラム部の面H2が眼鏡レンズの眼球側の面S2となる。そのため、ホログラム部の形態を予め加味し、満たすべき処方に応じ、第1レンズブランクの面B1を加工し、処方を満たす眼鏡レンズを製造すればよい。このことを「処方に応じて加工」と称する。具体的な眼鏡レンズの製造工程の作業内容については、公知の技術を採用すれば済むため、本明細書では詳細な説明は省略する。
【0105】
課題(3)を解決できることを眼鏡レンズの製造方法の工程内容として表現した規定は以下の通りである。以下の内容は<セミフィニッシュトレンズ>で説明した内容と同主旨であるため、詳細な説明は省略する。以下の規定は、後掲の<眼鏡レンズ及び眼鏡>でも適用可能である。
【0106】
・眼鏡レンズの物体側の面S1から前記ホログラム層までのレンズ厚さ方向の距離d1よりも、眼鏡レンズの眼球側の面S2から前記ホログラム層までのレンズ厚さ方向の距離d2を小さくする。
・前記d2/前記d1の値は0.2以下である。
【0107】
<眼鏡レンズ及び眼鏡>
実施形態1での眼鏡レンズの構成の一具体例は以下の通りである。
「装用者の処方を満たす眼鏡レンズであってMEMS(微小電気機械システム)ミラーで反射したレーザ光を眼鏡レンズ内のホログラム層に照射して眼鏡レンズの装用者に仮想像を視認させる眼鏡レンズにおいて、
第1レンズと、
前記ホログラム層を含む板状のホログラム部と、
を備え、
前記第1レンズの二つの面のうち一つの面L2は、前記ホログラム部の一つの面H1と隣接し、
眼鏡レンズの物体側の面S1は、前記第1レンズのもう一つの面L1であり、
眼鏡レンズの眼球側の面S2は、前記ホログラム部のもう一つの面H2である、眼鏡レンズ。」
実施形態1での眼鏡の構成の一具体例は以下の通りである。
「上記眼鏡レンズと、
眼鏡フレームと、
を備える、眼鏡。」
【0108】
実施形態1での眼鏡レンズ及び眼鏡は、セミフィニッシュトレンズの眼球側の面F2が固定された結果物である。実施形態1では、特許文献1の記載で言うところの反射ホログラムとレンズ基板との界面、及び、レンズ基板と外界との界面という複数箇所の内の一箇所であって眼鏡レンズの眼球側の面S2での屈折力は、装用者の処方によっては変化しない。なぜなら、レンズフリータイプである実施形態1では、眼鏡レンズの眼球側の面S2は、ありきで考えているホログラム部の面H2により構成されるためである。
【0109】
その結果、実施形態1での眼鏡レンズ及び眼鏡ならば、装用者は明瞭な仮想像を視認でき、課題(2)は解決される。
【0110】
第1レンズの物体側の面L1(つまり眼鏡レンズの物体側の面S1)は、球面であってもよいし、乱視を矯正すべくトーリック面であってもよい。眼鏡レンズ自体は単焦点レンズであってもよい。その一方、眼鏡レンズの物体側の面S1は、度数が累進的に変化する累進面であってもよい。なお、累進屈折力レンズに用いたれる各種隠しマーク(測定基準点F、フィッティングポイント又はアイポイントFP、測定基準点N)は、レンズ製造業者が発行するリマークチャート(Remark chart)又はセントレーションチャート(Centration chart)を参照することにより、位置の特定が可能となる。
【0111】
[実施形態2(シンプル固定レンズ)]
実施形態2では、上記シンプル固定レンズの態様について説明する。以下に記載の無い内容は、実施形態1で記載した内容を援用可能である。実施形態1における、ホログラム層が、セミフィニッシュトレンズにおける眼球側の面F2寄り(又は眼鏡レンズの眼球側の面S2寄り)に配置されたことに関する規定も援用可能である。但し、実施形態2では、この規定は、第2レンズブランクの面B´2からホログラム層までの距離、又は第2レンズの面L´2からホログラム層までの距離を採用する。
【0112】
<セミフィニッシュトレンズ>
実施形態2でのセミフィニッシュトレンズの構成の一具体例は以下の通りである。なお、本発明は、以下のセミフィニッシュトレンズを製造する方法としても技術的な意義がある。
「装用者の処方を満たす眼鏡レンズであってMEMS(微小電気機械システム)ミラーで反射したレーザ光を眼鏡レンズ内のホログラム層に照射して眼鏡レンズの装用者に仮想像を視認させる眼鏡レンズを製造するためのセミフィニッシュトレンズにおいて、
第1レンズブランクと、
第2レンズブランクと、
前記ホログラム層を含む板状のホログラム部と、
を備え、
前記ホログラム部は、水平方向に湾曲するシリンドリカル形状であり、
前記第1レンズブランクの二つの面のうち一つの面B2は、前記ホログラム部の一つの面H1と隣接し、
前記ホログラム部の面H2は、前記第2レンズブランクの二つの面のうち一つの面B´1と隣接し、
前記第2レンズブランクのもう一つの面B´2は凹状且つ球面形状であり、
セミフィニッシュトレンズの二つの面のうち一つの面F1は、前記第1レンズブランクのもう一つの面B1であり、
セミフィニッシュトレンズのもう一つの面F2は、前記第2レンズブランクの面B´2である、セミフィニッシュトレンズ。」
【0113】
実施形態2では、前記第1レンズブランクの面B2は、前記ホログラム部の面H1と接合する。そして、セミフィニッシュトレンズの面F1は、前記第1レンズブランクの面B1であり、セミフィニッシュトレンズの面F2は、第2レンズブランクの面B´2である。
【0114】
実施形態2では、実施形態1とは異なり、ホログラム部の面H2の眼球側に、第1レンズブランクとは別の第2レンズブランクが隣接(例:面として接合)している。但し、実施形態2では、ホログラム部の形状を、水平方向のみに湾曲するシリンドリカル形状と規定している。そのうえで、第2レンズブランクの眼球側の面B´2を凹状且つ球面形状というシンプルな形状に規定している。その理由は以下の通りである。
【0115】
処方を満たすためには眼鏡レンズがマイナスレンズである場合を想定する。そして、ホログラム部の形状が、水平方向のみに湾曲するシリンドリカル形状である場合を想定する。仮に、この場合に対し、これまでに述べた実施形態1を適用すると、湾曲方向である水平方向(x方向)では第1レンズの面L1(眼鏡レンズの物体側の面S1)は凸状となる。その一方、垂直方向(y方向)だとホログラム部は平坦である。実施形態1では、レンズとしては第1レンズしか存在しない。つまり、第1レンズブランクのみでマイナスレンズを実現しなければならない。そうなると、垂直方向では第1レンズを凹状としなければならない。その結果、水平方向では凸状であるにもかかわらず垂直方向では凹状である歪な形状を、眼鏡レンズの物体側の面S1として形成しなければならなくなる。
【0116】
そこで、実施形態2では、ホログラム部の眼球側に第2レンズブランクを配置したセミフィニッシュトレンズを採用する。第2レンズブランクがあれば、第1レンズブランクのみでマイナスレンズを実現せずとも済む。そして、第2レンズブランクの面B´2が凹状且つ球面形状であれば、第1レンズブランクにおいて無理に垂直方向で凹状に加工せずに済む。
【0117】
セミフィニッシュトレンズを用意している時点で、上記課題(1)は実施形態2の態様により解決可能である。
【0118】
上記課題(2)についてであるが、実施形態2では、ホログラム部の形状が、水平方向のみに湾曲するシリンドリカル形状である場合を前提としている。それに加え、第2レンズブランクの面B´2が凹状且つ球面形状であることを前提としている。そして、第1レンズブランクの面B1を加工して眼鏡レンズの処方を満たすことは、実施形態1と同様である。つまり、実施形態2でも、セミフィニッシュトレンズの眼球側の面は固定されている。その結果、上記課題(2)は実施形態2の態様により解決可能である。
【0119】
更に、セミフィニッシュトレンズを使用する場合、セミフィニッシュトレンズに対する加工の際の反射ホログラムの損傷回避と、上記課題(2)の解決とを両立する必要がある(課題(3))ところ、実施形態2では、セミフィニッシュトレンズの眼球側の面F2は固定し、その物体側の面F1を加工すれば済むため、課題(3)を解決できる。
【0120】
「セミフィニッシュトレンズの眼球側の面F2は固定されている」「ひいては該セミフィニッシュトレンズから得られる眼鏡レンズでも該固定が反映された構成を備える」という技術思想において、実施形態1、2は共通する。
【0121】
<眼鏡レンズの製造方法>
実施形態2での眼鏡レンズの製造方法の構成の一具体例は以下の通りである。
「装用者の処方を満たす眼鏡レンズであってMEMS(微小電気機械システム)ミラーで反射したレーザ光を眼鏡レンズ内のホログラム層に照射して眼鏡レンズの装用者に仮想像を視認させる眼鏡レンズの製造方法において、
前記ホログラム層を含む板状のホログラム部の一つの面H1を、第1レンズブランクの二つの面のうち一つの面B2と隣接したセミフィニッシュトレンズにおける、前記第1レンズブランクのもう一つの面B1を前記処方に応じて加工して眼鏡レンズの物体側の面S1とし、前記処方を満たす眼鏡レンズを得る製造工程を有し、
前記ホログラム部は、水平方向に湾曲するシリンドリカル形状であり、
前記ホログラム部の面H2は、第2レンズブランクの二つの面のうち一つの面B´1と隣接し、
前記第2レンズブランクのもう一つの面B´2は凹状且つ球面形状であり、
前記製造工程において、前記第1レンズブランクの面B1は凸状又は平坦形状とする、眼鏡レンズの製造方法。」
【0122】
実施形態2では、第1レンズブランクの面B1を処方に応じて加工して眼鏡レンズの物体側の面S1とする。繰り返しになるが、本発明の一実施例では、板状のホログラム部ありきで考える。それに加え、実施形態2では、第2レンズブランクありきで考える。そのため、実施形態2の場合、第2レンズブランクの面B´2が眼鏡レンズの眼球側の面S2となる。そのため、ホログラム部の形態を予め加味し、満たすべき処方に応じ、第1レンズブランクの面B1を加工し、処方を満たす眼鏡レンズを製造すればよい。
【0123】
<眼鏡レンズ及び眼鏡>
実施形態2での眼鏡レンズの構成の一具体例は以下の通りである。
「装用者の処方を満たす眼鏡レンズであってMEMS(微小電気機械システム)ミラーで反射したレーザ光を眼鏡レンズ内のホログラム層に照射して眼鏡レンズの装用者に仮想像を視認させる眼鏡レンズにおいて、
第1レンズと、
第2レンズと、
前記ホログラム層を含む板状のホログラム部と、
を備え、
前記ホログラム部は、水平方向に湾曲するシリンドリカル形状であり、
前記第1レンズの二つの面のうち一つの面L2は、前記ホログラム部の一つの面H1と隣接し、
前記ホログラム部の面H2は、前記第2レンズの二つの面のうち一つの主L´1と隣接し、
前記第2レンズのもう一つの面L´2は凹状且つ球面形状であり、
前記第1レンズの面L1は凸状又は平坦形状であり、
眼鏡レンズの物体側の面S1は、前記第1レンズの面L1であり、
眼鏡レンズの眼球側の面S2は、前記第2レンズの面L´2である、眼鏡レンズ。」
実施形態2での眼鏡の構成の一具体例は以下の通りである。
「上記眼鏡レンズと、
眼鏡フレームと、
を備える、眼鏡。」
【0124】
実施形態2での眼鏡レンズ及び眼鏡は、セミフィニッシュトレンズの眼球側の面F2が固定された結果物である。実施形態2では、特許文献1の記載で言うところの反射ホログラムとレンズ基板との界面、及び、レンズ基板と外界との界面という複数箇所の内の一箇所であって眼鏡レンズの眼球側の面S2での屈折力は、装用者の処方によっては変化しない。なぜなら、シンプル固定レンズタイプである実施形態2では、眼鏡レンズの眼球側の面S2は、ありきで考えている第2レンズブランクの面B´2により構成されるためである。
【0125】
その結果、実施形態2での眼鏡レンズ及び眼鏡ならば、装用者は明瞭な仮想像を視認でき、課題(2)は解決される。
【0126】
以上に本発明の実施形態を説明したが、上述した開示内容は、本発明の例示的な実施形態を示すものである。すなわち、本発明の技術的範囲は、上述の例示的な実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。また、以下の変形例に対し、上述した開示内容を任意に選択して組み合わせることも可能である。
【0127】
本発明は、上記眼鏡レンズと、映像光を出射する映像光出射部即ちMEMSと、を備えた仮想像表示システム、及び該システムがもたらす機能をコンピュータに発揮させるためのプログラムにも技術的思想が反映されている。
【符号の説明】
【0128】
1…眼鏡レンズ
S1…眼鏡レンズの物体側の面
S2…眼鏡レンズの眼球側の面
2…ホログラム部
21…ホログラム層
21A…露光部
21B…非露光部
22…ベース部
H1…ホログラム部の物体側の面
H2…ホログラム部の眼球側の面
3…第1レンズ
L1…第1レンズの物体側の面
L2…第1レンズの眼球側の面
40…(参考例における)第2レンズ
M…MEMS
E…眼
V…(映像光出射部からの)仮想像の光束
R…(外界からの)現実像の光束
O…瞳孔中心兼レンズ中心
I…仮想像のイメージ