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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114389
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】スクリーン印刷版用処理液
(51)【国際特許分類】
   B41N 3/00 20060101AFI20240816BHJP
【FI】
B41N3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020133
(22)【出願日】2023-02-13
(71)【出願人】
【識別番号】000250502
【氏名又は名称】理想科学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】大橋 奈実
(72)【発明者】
【氏名】魚住 俊介
【テーマコード(参考)】
2H114
【Fターム(参考)】
2H114AB00
2H114BA06
2H114DA51
2H114DA77
2H114EA02
2H114GA11
2H114GA26
2H114GA34
(57)【要約】
【課題】スクリーン印刷版用処理液であって、これを使用して処理されたスクリーン印刷版を用いることで良好な画像の形成が可能であり、かつ、長期間放置後にスクリーン印刷版の処理に使用しても、スクリーン印刷版の耐刷性を良好なものとすることができるスクリーン印刷版用処理液を提供する。
【解決手段】側鎖に1,2-エタンジオール構造を有するポリビニルアルコール系樹脂、及び水を含み、前記側鎖に1,2-エタンジオール構造を有するポリビニルアルコール系樹脂は、処理液全量に対して15~40質量%である、スクリーン印刷版用処理液。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
側鎖に1,2-エタンジオール構造を有するポリビニルアルコール系樹脂、及び水を含み、前記側鎖に1,2-エタンジオール構造を有するポリビニルアルコール系樹脂は、処理液全量に対して15~40質量%である、スクリーン印刷版用処理液。
【請求項2】
前記側鎖に1,2-エタンジオール構造を有するポリビニルアルコール系樹脂が、下記式(1)で表される構造単位を含む、請求項1に記載のスクリーン印刷版用処理液。
【化1】
(式(1)において、R~Rは、全て水素原子を表し、Xは、単結合又は2価の連結基を表す。)
【請求項3】
前記側鎖に1,2-エタンジオール構造を有するポリビニルアルコール系樹脂のけん化度が、90~100mol%である、請求項1又は2に記載のスクリーン印刷版用処理液。
【請求項4】
前記側鎖に1,2-エタンジオール構造を有するポリビニルアルコール系樹脂の重合度が、1000以上である、請求項1又は2に記載のスクリーン印刷版用処理液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、スクリーン印刷版用処理液に関する。
【背景技術】
【0002】
スクリーン印刷等の孔版印刷に用いられるスクリーン印刷版は、例えば、熱可塑性樹脂フィルムと多孔性支持体とを含む感熱孔版マスターの熱可塑性樹脂フィルム等を、サーマルヘッドなどにより選択的に加熱して溶融穿孔させることにより、画像に対応する穿孔部を形成する、感熱製版と呼ばれている方法で、得ることができる。感熱孔版マスターとしては、例えば、多孔性支持体としてスクリーン紗を用いた感熱スクリーンマスター等を用いることができる。
【0003】
感熱スクリーンマスターに用いられる熱可塑性樹脂フィルムには、サーマルヘッドでの穿孔を可能にするため、通常、例えば厚さ1~5μm程度の非常に薄いフィルムが用いられている。フィルムが薄いことにより、多枚数印刷時にフィルムに微小孔(ピンホール)が発生し、印刷物の意図しない場所に微小点が印刷されてしまうことがある。
特許文献1には、製版後のスクリーン印刷版に樹脂溶液を塗布し、未製版部分のみに樹脂溶液を残した後乾燥して樹脂膜を形成することで、フィルムを補強する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7-89043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の実施形態は、スクリーン印刷版用処理液であって、これを使用して処理されたスクリーン印刷版を用いることで良好な画像の形成が可能であり、かつ、長期間放置後にスクリーン印刷版の処理に使用しても、スクリーン印刷版の耐刷性を良好なものとすることができるスクリーン印刷版用処理液を提供することを一目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態は、側鎖に1,2-エタンジオール構造を有するポリビニルアルコール系樹脂、及び水を含み、前記側鎖に1,2-エタンジオール構造を有するポリビニルアルコール系樹脂は、処理液全量に対して15~40質量%である、スクリーン印刷版用処理液に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の実施形態により、スクリーン印刷版用処理液であって、これを用いて処理されたスクリーン印刷版を用いることで良好な画像の形成が可能であり、かつ、長期間放置後にスクリーン印刷版の処理に使用しても、スクリーン印刷版の耐刷性を良好なものとすることができる、スクリーン印刷版用処理液を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態を詳しく説明するが、本発明がこれらの実施形態に限定されることはなく、様々な修正や変更を加えてもよいことはいうまでもない。
【0009】
実施形態のスクリーン印刷版用処理液(以下、「処理液」という場合もある。)は、側鎖に1,2-エタンジオール構造を有するポリビニルアルコール系樹脂(以下、「ポリビニルアルコール系樹脂A」という場合もある。)、及び水を含み、前記側鎖に1,2-エタンジオール構造を有するポリビニルアルコール系樹脂は、処理液全量に対して15~40質量%である、スクリーン印刷版用処理液である。
【0010】
実施形態のスクリーン印刷版用処理液を用いて処理されたスクリーン印刷版を用いることで良好な画像の形成が可能であり、また、実施形態のスクリーン印刷版用処理液は、長期間放置後にスクリーン印刷版の処理に使用しても、スクリーン印刷版の耐刷性を良好なものとすることができる。
【0011】
感熱製版して得られたスクリーン印刷版の補強のために、例えば、特許文献1に記載される樹脂を含む液等の補強剤を製版後のスクリーン印刷版を塗布する方法がある。しかし、例えば、樹脂を含む処理液を長期間放置してから用いると、良好な耐刷性が得られない場合がある。この原因の1つとして、以下のようなことが推測される。例えば、ポリビニルアルコール系樹脂を含む処理液を長期間放置すると、高分子鎖間でヒドロキシ基同士に水素結合が働き、高分子鎖同士が絡み合う場合があり、これにより、処理液が増粘し、その流動性が低下する場合がある。流動性が低下すると、その処理液をスクリーン印刷版に塗布する際に、処理液が印刷版上で十分に広がらず、スクリーン紗の繊維間の隙間まで充填されない場合がある。そして、処理液が細部まで充填されていない状態でスキージングすると、スクリーン紗とフィルムの接着点に負荷が集中しやすくなり、ピンホールが発生しやすくなる。
【0012】
一方、理論に拘束されるものではないが、一実施形態のスクリーン印刷版用処理液は、以下のように作用し得ると推測される。一実施形態のスクリーン印刷版用処理液は、側鎖に1,2-エタンジオール構造を有するポリビニルアルコール系樹脂(ポリビニルアルコール系樹脂A)を含む。側鎖に1,2-エタンジオール構造を有することにより、ポリビニルアルコール系樹脂Aの側鎖に立体的な障害を持たせやすく、高分子鎖同士の接触を妨げ、水素結合が働くのを抑えやすい。水素結合の働きを抑制することで、高分子鎖同士の絡み合いが起こりにくくなるため、放置後でも処理液の流動性が低下しにくい。このため、放置後の処理液をスクリーン印刷版に塗布する際に、紗の繊維間の隙間まで処理液が充填されやすい。処理液が細部まで十分に充填されると、スキージングしても紗とフィルムの接着点に負荷が集中しにくくなり、ピンホールの発生を抑えることができる。このようにして、処理液を長期間放置後に使用しても、スクリーン印刷版の耐刷性を良好なものとすることができると推測される。処理液を長期間放置後に使用しても、スクリーン印刷版の耐刷性を良好なものとしやすい観点から、ポリビニルアルコール系樹脂Aは、スクリーン印刷版用処理液全量に対して15質量%以上であることが好ましい。
【0013】
また、ポリビニルアルコール系樹脂Aが、スクリーン版用処理液全量に対して40質量%以下であると、これを用いて処理されたスクリーン印刷版を用いた場合、良好な画像を形成しやすい。理論に拘束されるものではないが、この理由は、以下のように推測される。ポリビニルアルコール系樹脂Aが、スクリーン版用処理液全量に対して40質量%以下であると、処理液の粘度が過度に高くなりにくく、スクリーン印刷版に処理液を塗布した後、処理液をウエス等でふき取る際、処理液を取り除きやすい。このため、穿孔部に処理液が残りにくく、印刷時にインクが穿孔部を通過しやすくなる。その結果、良好な画像を得やすい。
【0014】
処理液は、1,2-エタンジオール構造を有するポリビニルアルコール系樹脂(ポリビニルアルコール系樹脂A)を含むことができる。
【0015】
ポリビニルアルコール系樹脂Aは、例えば、側鎖に、1,2-エタンジオール構造として、下記式(A)で表される1価の基を含むことが好ましい。
【0016】
-CR(OH)CR(OH)R (A)
【0017】
式(A)において、R~Rは、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表す。置換基としては、例えば、有機基、ハロゲン原子等が挙げられる。有機基としては、置換又は非置換のアルキル基が好ましい。アルキル基の炭素数は、例えば、1~4であってよい。有機基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基等が挙げられる。
【0018】
~Rは、それぞれ独立に水素原子又は有機基が好ましく、それぞれ独立に水素原子又はアルキル基がより好ましく、それぞれ独立に、水素原子又は非置換のアルキル基がさらに好ましい。樹脂の水への溶解性の観点から、R~Rは、すべて水素原子であることが好ましい。
【0019】
式Aで表される1価の基は、ポリビニルアルコール系樹脂の主鎖の炭素原子に、直接結合していてもよく、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基等の2価の連結基を介して結合してもよい。
【0020】
ポリビニルアルコール系樹脂Aは、例えば、下記式(1)で表される構造単位を含むことが好ましい。
【0021】
【化1】
【0022】
式(1)において、R~Rは、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、Xは、単結合又は2価の連結基を表し、*は、他の構造単位との結合部位を表す。
【0023】
式(1)において、R~Rは、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表す。置換基としては、例えば、有機基、ハロゲン原子等が挙げられる。有機基としては、置換又は非置換のアルキル基が好ましい。アルキル基の炭素数は、例えば、1~4であってよい。有機基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基等が挙げられる。
【0024】
~Rは、それぞれ独立に水素原子又は有機基が好ましく、それぞれ独立に水素原子又はアルキル基がより好ましく、それぞれ独立に、水素原子又は非置換のアルキル基がさらに好ましい。樹脂の水への溶解性の観点から、R~Rは、すべて水素原子であることが好ましい。
【0025】
式(1)において、Xは、単結合又は2価の連結基を表す。2価の連結基としては、例えば、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基等が挙げられる。Xは、単結合がより好ましい。
【0026】
ポリビニルアルコール系樹脂Aは、例えば、式(1)で表される構造単位と、ビニルエステル系モノマーに由来する構造単位とを含むことが好ましい。ビニルエステル系モノマーとしては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル等が挙げられる。
【0027】
ポリビニルアルコール系樹脂Aは、例えば、式(1)で表される構造単位と、下記式(2)で表される構造単位とを含むことが好ましい。下記式(2)において、*は、他の構造単位との結合部位を表す。
【0028】
*-CHCH(OH)-* (2)
【0029】
ポリビニルアルコール系樹脂Aは、例えば、ビニルエステル系モノマーと、下記式(3)で表されるモノマーとを少なくとも用いて形成された樹脂であってもよい。
【0030】
【化2】
【0031】
式(3)において、R~Rは、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、R~Rは、それぞれ独立に水素原子又は-C(=O)Rを表し、Rは、アルキル基を表し、Xは、単結合又は2価の連結基を表す。
【0032】
式(3)において、R~R6は、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表す。置換基としては、例えば、有機基、ハロゲン原子等が挙げられる。有機基としては、置換又は非置換のアルキル基が好ましい。アルキル基の炭素数は、例えば、1~4であってよい。有機基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基等が挙げられる。R~Rは、それぞれ独立に水素原子又は有機基が好ましく、それぞれ独立に水素原子又はアルキル基がより好ましく、それぞれ独立に、水素原子又は非置換のアルキル基がさらに好ましい。樹脂の水への溶解性の観点から、R~Rは、すべて水素原子であることが好ましい。
【0033】
式(3)において、R~Rは、それぞれ独立に水素原子又は-C(=O)R等を表す。Rは、アルキル基が好ましく、炭素数1~4のアルキル基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル等が挙げられる。R~Rは、それぞれ独立に水素原子が好ましい。
【0034】
式(3)において、Xは、単結合又は2価の連結基を表す。2価の連結基としては、例えば、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基等が挙げられる。Xは、単結合がより好ましい。
【0035】
式(3)で表されるモノマーとしては、例えば、3-ブテン-1,2-ジオール等のブテンジオール、3,4-ジアセトキシ-1-ブテン等が挙げられる。
【0036】
ビニルエステル系モノマーとしては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル等が挙げられる。
【0037】
処理液を長期間放置後に使用した場合のスクリーン印刷版の耐刷性のさらなる向上の観点から、ポリビニルアルコール系樹脂Aのけん化度は、高いことが好ましい。この観点から、ポリビニルアルコール系樹脂Aのけん化度は、80mol%以上が好ましく、90mol%以上がより好ましい。処理液を乾燥して被膜にする場合、ポリビニルアルコール系樹脂のけん化度が高いものほど、ヒドロキシ基が増えるため、高分子鎖間での水素結合が働きやすくなり、高分子鎖が集まりやすくなり、被膜が高結晶化する傾向がある。けん化度が80mol%以上、より好ましくは90mol%以上であると、処理液を長期間放置後に使用した場合でもスクリーン印刷版の耐刷性をさらに向上させやすい。
ポリビニルアルコール系樹脂Aのけん化度は、例えば、100mol%以下であってよい。ポリビニルアルコール系樹脂Aのけん化度は、例えば、80~100mol%が好ましく、90~100mol%がより好ましい。
【0038】
本明細書において、ポリビニルアルコール系樹脂Aのけん化度は、JIS K6726に準拠した方法により測定した値である。
【0039】
スクリーン印刷版の耐刷性のさらなる向上の観点から、ポリビニルアルコール系樹脂の重合度は、200以上が好ましく、400以上がより好ましく、1000以上がさらに好ましい。
ポリビニルアルコール系樹脂Aの重合度が高いほど、被膜にした際、単位体積に占める分子鎖の末端数が少なくなる傾向がある。その結果、被膜の断裂の起点が減り、印刷時のスキージングに対する耐久性を上げることができる。ポリビニルアルコール系樹脂Aの重合度は、例えば、10000以下であることが好ましく、5000以下であることがより好ましく、2500以下であることがさらに好ましい。ポリビニルアルコール系樹脂の重合度は、例えば、200~10000が好ましく、400~5000がより好ましく、1000~2500がさらに好ましい。
【0040】
ポリビニルアルコール系樹脂Aの製造方法は特に限定されない。ポリビニルアルコール系樹脂Aは、例えば、上記したビニルエステル系モノマーと、上記した式(3)で表されるモノマーと、必要に応じてその他のモノマーとを共重合し、得られた共重合体をけん化して得ることができる。
【0041】
ポリビニルアルコール系樹脂Aとしては、例えば、市販品を用いてもよい。ポリビニルアルコール系樹脂Aの市販品としては、例えば、三菱ケミカル株式会社製「ニチゴーGポリマーOKS1009」、「ニチゴーGポリマーBVE8049Q」、「ニチゴーGポリマーOKS8096」、「ニチゴーGポリマーOKS8089」等が挙げられる(いずれも商品名)。
【0042】
ポリビニルアルコール系樹脂Aは、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてよい。
【0043】
処理液を長期間放置後に使用した場合でもスクリーン印刷版の耐刷性を良好なものとしやすい観点から、ポリビニルアルコール系樹脂Aは、処理液全量に対して、15質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましい。一方、良好な画像の形成しやすさの観点から、ポリビニルアルコール系樹脂Aは、処理液全量に対して、40質量%以下であることが好ましく、35質量%以下であることがより好ましい。ポリビニルアルコール系樹脂Aは、例えば、処理液全量に対して、15~40質量%であることが好ましく、25~35質量%であることがより好ましく、30~35質量%であることがさらに好ましい。
【0044】
処理液は、水を含むことが好ましい。
水としては、特に制限されないが、イオン成分をできる限り含まないものが好ましい。特に、処理液の貯蔵安定性の観点から、カルシウム等の多価金属イオンの含有量が少ないことが好ましい。水としては、例えば、イオン交換水、蒸留水、超純水等を用いるとよい。
水は、処理液全量に対して、50質量%以上であることが好ましく、55質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることがさらに好ましい。一方、水は、処理液全量に対して、85質量%以下であることが好ましく、75質量%以下であることがより好ましく、70質量%以下であることがさらに好ましい。水は、例えば、処理液全量に対して、50~85質量%であることが好ましく、55~75質量%であることがより好ましく、60~70質量%であることがさらに好ましい。
【0045】
ポリビニルアルコール系樹脂A及び水の合計量は、処理液全量に対して、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、97質量%以上であることがさらに好ましい。ポリビニルアルコール系樹脂A及び水の合計量は、例えば、処理液全量に対して、100質量%であってもよい。
【0046】
処理液には、水溶性有機溶剤を配合してもよい。水溶性有機溶剤としては、室温で液体であり、水に溶解可能な有機化合物を使用することができ、1気圧20℃において同容量の水と均一に混合する水溶性有機溶剤を用いることが好ましい。例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、2-メチル-2-プロパノール等の低級アルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等のグリコール類;グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、ポリグリセリン等のグリセリン類;モノアセチン、ジアセチン等のアセチン類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル等のグリコールエーテル類;トリエタノールアミン、1-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、β-チオジグリコール、スルホラン等を用いることができる。水溶性有機溶剤の沸点は、100℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましい。
これらの水溶性有機溶剤は、単独で使用してもよく、水と単一の相を形成する限り2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0047】
処理液は、必要に応じて、界面活性剤、顔料、凍結防止剤、帯電防止剤等の添加剤等をさらに含んでよい。
【0048】
処理液の製造方法は特に限定されない。例えば、各材料を一度に、又は分割して混合して製造することができる。
【0049】
処理液は、感熱製版により得られたスクリーン印刷版用として好ましく用いることができる。
スクリーン印刷版としては、特に限定されず、例えば、感熱スクリーンマスターを、感熱製版により製版して得られたものであってよい。
【0050】
感熱スクリーンマスターは、好ましくは、スクリーン紗と熱可塑性樹脂フィルムとを含む。
感熱スクリーンマスターは、好ましくは、スクリーン紗と熱可塑性樹脂フィルムが、接着剤を用いて貼り合わされたものであってよい。感熱スクリーンマスターは、例えば、スクリーン紗と、接着剤を用いて形成された接着剤層と、熱可塑性樹脂フィルムとをこの順で備えることが好ましい。
【0051】
スクリーン紗としては、サーマルヘッドの加熱によって実質的に穿孔されず、印刷においてインクを通過させることができるものであればよく、例えば、ポリエステル、ナイロン、レーヨン、ステンレス、絹、綿等の繊維から作られた紗を用いることができる。
【0052】
スクリーン紗の厚さは、通常40~270μmであり、好ましくは50~150μmである。
スクリーン紗のメッシュ数(1インチあたりの繊維の本数)は、通常40~500であり、好ましくは50~350メッシュである。縦方向と横方向のメッシュ数は、上記メッシュ数の範囲内である限り、同一であってもよく、また異なっていてもよい。
【0053】
熱可塑性樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレン系樹脂フィルム、ポリプロピレン系樹脂フィルム、ポリエステル系樹脂フィルム、ポリアミド系樹脂フィルム、ポリ塩化ビニル系樹脂フィルム、ポリ塩化ビニリデン系樹脂フィルム等を使用することができる。これらのうち、ポリエステル系樹脂フィルムを好ましく使用することができる。ポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、エチレンテレフタレート/エチレンイソフタレート共重合体、ブチレンテレフタレート/エチレンテレフタレート共重合体、ブチレンテレフタレート/ヘキサメチレンテレフタレート共重合体、ヘキサメチレンテレフタレート/1,4-シクロヘキサンジメチレンテレフタレート共重合体、エチレンテレフタレート/エチレン-2,6-ナフタレート共重合体等が挙げられる。熱可塑性樹脂フィルムは、必要に応じて、顔料、粘度調整剤、分散剤、染色剤、潤滑剤、架橋剤、可塑剤などの各種添加剤を含んでもよい。
【0054】
熱可塑性樹脂フィルムの厚さは、感熱デジタルスクリーン製版が可能な厚さであればよいが、通常0.5~10μmであり、好ましくは1~5μmである。
【0055】
熱可塑性樹脂フィルムは、感熱デジタルスクリーン製版によって容易に溶融穿孔されるのに適した収縮性を備えることが好ましく、適宜一軸又は二軸延伸されたものであってもよい。
【0056】
感熱スクリーンマスターとしては、例えば市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、理想科学工業株式会社製「RISOデジタルスクリーンマスターQS120P-113-50」等が挙げられる。
感熱スクリーンマスターは、例えば、スクリーン紗と熱可塑性樹脂フィルムとを、接着剤を用いて接着することを含む方法により製造することができる。
【0057】
接着剤としては、印刷時に必要な耐刷性を満たすように両者を貼り合わせることができるものであれば特に制限されず、例えば、水性タイプ、溶剤タイプ、無溶剤タイプ、ホットメルトタイプ、赤外線、可視光線、紫外線、電子線等の光硬化性タイプ等のものが挙げられる。
【0058】
溶剤タイプの接着剤の具体例としては、酢酸ビニル系、ポリエステル系、(メタ)アクリル系等の樹脂を以下に示す有機溶剤に溶解したもの等があげられる。有機溶剤の具体例としては、脂肪族炭化水素系、芳香族炭化水素系、アルコール系、ケトン系、エステル系、エーテル系、アルデヒド系、カルボン酸系、アミン系、低分子複素環化合物系、オキサイド系等が挙げられ、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール、ブチルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、酢酸プロピル、エチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、メチルアミン、エチレンジアミン、ジメチルホルムアミド、ピリジン、エチレンオキサイド等が挙げられる。また、光硬化タイプの接着剤の具体例としては、モノマー、オリゴマー、光重合開始剤を主体とするものが挙げられ、より具体的にはポリエステル系(メタ)アクリレート、ウレタン系(メタ)アクリレート、エポキシ系(メタ)アクリレート、ポリオール系(メタ)アクリレート系光硬化接着剤等が挙げられる。これらの接着剤は、必要に応じて、帯電防止剤、滑剤、粘着付与剤、充填剤、レベリング剤等の添加剤を含有してもよい。
【0059】
スクリーン紗と熱可塑性樹脂フィルムとを、接着剤を用いて接着する方法は特に限定されない。例えば、ロールコータ等を用いて接着剤を付与し、スクリーン紗と熱可塑性樹脂フィルムとを貼り合わせてもよい。
接着剤を付与する方法はとくに限定されない。接着剤は、例えば、ロールコータ等を用いてスクリーン紗に付与してもよく、また、例えば、溶剤で希釈した接着剤にスクリーン紗を浸漬することでスクリーン紗に付与してもよい。
【0060】
接着剤の付与量は通常0.05~10.0g/mの範囲である。接着強度の観点から、付与量は0.05g/m以上が好ましい。インク通過性や良好な穿孔の観点から、付与量は10.0g/m以下が好ましい。
【0061】
感熱スクリーンマスターの熱可塑性樹脂フィルムの外面(すなわち、スクリーン紗が配置されている側と反対側の面)には、穿孔時のスティック防止のために、離型剤を付与して離型層を設けることができる。離型剤の付与方法は特に限定されないが、ロールコータ、グラビアコータ、リバースコータ、バーコータ等を用いて付与するのが好ましい。離型剤には、シリコーンオイル、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、界面活性剤等を用いることができる。また、離型剤には、帯電防止剤、耐熱剤、酸化防止剤、有機粒子、無機粒子、顔料など各種添加剤を混合することができる。さらに、離型剤の塗布液には、水への分散性を向上させる目的で、各種添加剤、例えば分散助剤、界面活性剤、防腐剤、消泡剤を添加してもよい。離型層の厚みは、穿孔時の走行性及びサーマルヘッド(TPH)の耐汚染性の点から、0.005μm~0.4μmが好ましく、より好ましくは0.01μm~0.4μmである。
【0062】
感熱スクリーンマスターを感熱製版する方法は、とくに限定されない。感熱スクリーンマスターを、サーマルヘッドを用いた感熱製版装置等で製版して、スクリーン印刷版として使用することができる。
【0063】
実施形態のスクリーン印刷版の処理方法は、上記の処理液で、スクリーン印刷版を処理することを含む、スクリーン印刷版の処理方法である。
処理液、及び、スクリーン印刷版については、それぞれ上述の通りである。
このスクリーン印刷版の処理方法により処理されたスクリーン印刷版を用いることで良好な画像の形成が可能であり、また、処理液を長期間放置後に使用しても、スクリーン印刷版の耐刷性を良好なものとすることができる。
【0064】
スクリーン印刷版を処理液で処理する方法はとくに限定されない。
【0065】
処理液は、スクリーン印刷版の、スクリーン紗側の表面に付与することが好ましい。
【0066】
処理液を付与する方法は、とくに限定されないが、処理液は、例えば、スポイトやディスペンサー等を用いてスクリーン印刷版の表面に滴下し、スキージー等で、処理液を付与したい部分に広げることが好ましい。
【0067】
処理液の付与量は、処理液全量として、10g/m以上が好ましく、20g/m以上がより好ましい。処理液の付与量は、処理液全量として100g/m以下が好ましい。処理液の付与量は、例えば、10~100g/mが好ましく、20~100g/mがより好ましい。
【0068】
処理液中の溶剤を除去し、処理液から形成された層の強度を確保する観点から、スクリーン印刷版に処理液を付与した後、スクリーン印刷版上の処理液を乾燥させることが好ましい。乾燥方法はとくに限定されず、熱風による乾燥、自然乾燥等、適宜選択することができる。処理液から形成された層を増強する観点から、熱風による乾燥をすることが好ましい。
【0069】
スクリーン印刷版の処理方法は、その他の工程又は操作をさらに含んでよい。
【0070】
実施形態のスクリーン印刷版用処理液を用いて処理されたスクリーン印刷版を用いて孔版印刷を行うことができる。印刷に使用するインクとしては、例えば、スクリーン印刷等の孔版印刷に使用することができるインクを使用することができる。かかるインクは、例えば、油性インク、ソルベントインク、油中水(W/O)型エマルションインク、プラスチゾルインクの何れであってもよい。
【実施例0071】
以下、本発明を実施例及び比較例に基づき詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0072】
<処理液の製造>
表1及び2に、各実施例及び比較例の処理液の組成を示す。表に記載の材料を混合し、各実施例及び比較例の処理液を得た。
【0073】
表1及び2に記載の材料の詳細を下記に示す。
【0074】
樹脂1:「ニチゴーGポリマーOKS1009」(商品名)、三菱ケミカル株式会社製、ブテンジオールビニルアルコール共重合体(式(1)においてR~Rが水素原子である構造単位を有する)、けん化度99mol%、重合度1200
樹脂2:「ニチゴーGポリマーBVE8049Q」(商品名)、三菱ケミカル株式会社製、ブテンジオールビニルアルコール共重合体(式(1)においてR~Rが水素原子である構造単位を有する)、けん化度99mol%、重合度450
樹脂3:「ニチゴーGポリマーOKS8096」(商品名)、三菱ケミカル株式会社製、ブテンジオールビニルアルコール共重合体(式(1)においてR~Rが水素原子である構造単位を有する)、けん化度93mol%、重合度450
樹脂4:「ニチゴーGポリマーOKS8089」(商品名)、三菱ケミカル株式会社製、ブテンジオールビニルアルコール共重合体(式(1)においてR~Rが水素原子である構造単位を有する)、けん化度86mol%、重合度450
樹脂5:「デンカポバールK-05」(商品名)、デンカ株式会社製、ポリビニルアルコール、けん化度98mol%、重合度500
樹脂6:「デンカポバールB-05」(商品名)、デンカ株式会社製、ポリビニルアルコール、けん化度88mol%、重合度600
【0075】
<評価>
(水への溶解性)
150mlのガラス瓶に、表中に記載される量の水を入れ、23℃でスターラーを使って攪拌しながら、表中に記載される量の樹脂を投入した。90℃まで加温し、1時間攪拌した。1時間後、攪拌を止め、樹脂の溶け具合を観察し、下記の評価基準に基づいて、樹脂の水への溶解性を評価した。結果を表1及び2に示す。
【0076】
評価基準(溶解性)
A:溶け残りなし
B:若干溶け残りあり
C:溶け残りあり
【0077】
(画像性)
感熱スクリーンマスター(理想科学工業株式会社製「RISOデジタルスクリーンマスターQS120P-113-50」)を寸法550mm×600mmのアルミ枠に張力11N/cmで枠張りして、細線(0.1mm×10.0mm)を製版した。得られたスクリーン印刷版のスクリーン紗側に、スキージーで、各実施例及び比較例の処理液を50g/mの付与量で300mm×200mmの付与面積となるように塗工し、ウエスで製版部を拭いた後、塗膜にドライヤーで熱風を1分間当てて乾燥した。
【0078】
その後、このスクリーン印刷版をスクリーン自動印刷機(ニューロング精密工業株式会社製「LS-34GX」)にセットし、印刷台には印刷媒体として綿布(綿100質量%、エビハラ製)をセットした。版上にインク(「CAVメイバン(E)-710ブラック」株式会社セイコーアドバンス製)を投入し、スキージー圧0.30MPa、スキージー背圧0.10MPa、スキージー角度70°、スキージー速度250mm/sec、クリアランス3mm、スキージー押し込み量0mm、スクレーパー押し込み量0mmの印刷条件で印刷し、細線1本のうち印刷ができている(画像が出ている)割合を目視で観察し、下記の評価基準に基づいて評価した。結果を表1及び2に示す。
【0079】
評価基準(画像性)
A:100%
B:90%以上~100%未満
C:90%未満
【0080】
(放置後耐刷性)
100mlのガラス瓶に各実施例及び比較例の処理液50mlを入れて、23℃で8週間放置した。
感熱スクリーンマスター(理想科学工業株式会社製「RISOデジタルスクリーンマスターQS120P-113-50」)を寸法550mm×600mmのアルミ枠に張力11N/cmで枠張りして、製版せずにスクリーン印刷版として用いた。スクリーン印刷版のスクリーン紗側に、スキージーで、各実施例及び比較例の処理液を50g/mの付与量で300mm×200mmの付与面積となるように付与し、ウエスで製版部を拭いた後、塗膜にドライヤーで熱風を1分間当てて乾燥した。
その後、このスクリーン印刷版をスクリーン自動印刷機(ニューロング精密工業株式会社製「LS-34GX」)にセットし、印刷台には印刷媒体として綿布(綿100質量%、エビハラ製)をセットした。版上にインク(「CAVメイバン(E)-710ブラック」株式会社セイコーアドバンス製)を投入し、スキージー圧0.30MPa、スキージー背圧0.10MPa、スキージー角度70°、スキージー速度250mm/sec、クリアランス3mm、スキージー押し込み量0mm、スクレーパー押し込み量0mmの印刷条件で1000回印刷し、1000回目に得られた印刷物に発生した黒点(ピンホール)の数をカウントし、これをピンホールの数とした。カウントしたピンホールの数を、下記の評価基準に基づいて評価した。結果を表1及び2に示す。
【0081】
評価基準(放置後耐刷性)
S:ピンホール0個
A:ピンホール1個
B:ピンホール2~5個
C:ピンホール6~9個
D:ピンホール10個以上
【0082】
【表1】
【0083】
【表2】
【0084】
表に示すように、実施例1~6では、画像性、及び放置後耐刷性の評価のいずれにおいても優れた結果を示した。
これに対して、側鎖に1,2-エタンジオール構造を有するポリビニルアルコール系樹脂を含まない処理液が用いられた比較例1及び2、並びに、側鎖に1,2-エタンジオール構造を有するポリビニルアルコール系樹脂の量が過少である処理液が用いられた比較例3、及び側鎖に1,2-エタンジオール構造を有するポリビニルアルコール系樹脂の量が過剰な処理液が用いられた比較例4は、いずれも、放置後耐刷性又は画像性に劣っていた。