(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114409
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】連続鋳造システム及び湯面推定方法
(51)【国際特許分類】
B22D 11/16 20060101AFI20240816BHJP
G01F 23/292 20060101ALI20240816BHJP
G01F 23/80 20220101ALI20240816BHJP
【FI】
B22D11/16 104H
G01F23/292 Z
G01F23/80
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020161
(22)【出願日】2023-02-13
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】日鉄エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100171099
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】前川 浩規
(72)【発明者】
【氏名】松岡 幸弘
【テーマコード(参考)】
2F014
4E004
【Fターム(参考)】
2F014AC06
2F014FA04
2F014GA01
4E004MB17
4E004PA05
(57)【要約】
【課題】湯面とモールドの内面との境界位置を高い信頼性で推定するのに有効な連続鋳造システムを提供する。
【解決手段】連続鋳造システム1は、連続鋳造のモールド5に収容された溶鋼の湯面と、モールド5の内面とを撮影するカメラ21と、カメラ21により時系列で撮影された複数の画像を含む動画データに基づくインプットデータと、カメラ21の視野内における湯面とモールド5の内面との境界位置との関係を表すように機械学習により生成された推定モデルと、新たなインプットデータとに基づいて、境界位置を推定する推定部123と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続鋳造のモールドに収容された溶鋼の湯面と、モールドの内面とを撮影するカメラと、
前記カメラにより時系列で撮影された複数の画像を含む動画データに基づくインプットデータと、前記カメラの視野内における前記湯面と前記モールドの内面との境界位置との関係を表すように機械学習により生成された推定モデルと、新たなインプットデータとに基づいて、前記境界位置を推定する推定部と、
を備える連続鋳造システム。
【請求項2】
前記動画データに基づいて、前記カメラの視野における複数のエリアごとに時系列での変位ベクトルを表す変位マップを生成する変位マップ生成部を更に備え、
前記推定モデルは、前記変位マップを含む前記インプットデータと前記境界位置との関係を表すように生成され、
前記推定部は、前記推定モデルと、新たに生成された前記変位マップを含む前記新たなインプットデータと、に基づいて前記境界位置を推定する、
請求項1記載の連続鋳造システム。
【請求項3】
前記動画データに基づいて、複数のエリアごとの輝度を表す輝度マップを生成する輝度マップ生成部を更に備え、
前記推定モデルは、前記輝度マップを更に含む前記インプットデータと前記境界位置との関係を表すように生成され、
前記推定部は、前記推定モデルと、新たに生成された前記輝度マップを更に含む前記新たなインプットデータとに基づいて前記境界位置を推定する、
請求項2記載の連続鋳造システム。
【請求項4】
前記輝度マップ生成部は、複数の色ごとに前記輝度マップを生成し、
前記推定モデルは、複数の色の輝度マップを更に含む前記インプットデータと前記境界位置との関係を表すように生成され、
前記推定部は、前記推定モデルと、新たに生成された前記複数の色の輝度マップを更に含む前記新たなインプットデータとに基づいて前記境界位置を推定する、
請求項3記載の連続鋳造システム。
【請求項5】
前記推定モデルに基づくことなく、前記動画データに基づき認識された前記境界位置を示す正解データを取得する正解データ取得部と、
前記インプットデータと、前記正解データとを対応付けた学習用レコードをデータベースに蓄積する蓄積部と、
前記データベースに蓄積された複数の学習レコードに基づく機械学習により、前記推定モデルを生成するモデル生成部と、
を更に備える、
請求項1~4のいずれか一項記載の連続鋳造システム。
【請求項6】
前記モデル生成部は、ディープラーニングにより前記推定モデルを生成する、
請求項5記載の連続鋳造システム。
【請求項7】
推定された前記境界位置に基づいて、前記湯面を目標高さに近付けるように、前記モールドへの前記溶鋼の流入量を制御する制御部を更に備える、
請求項1~4のいずれか一項記載の連続鋳造システム。
【請求項8】
前記制御部は、前記モールドへの前記溶鋼の流入量に基づいて前記湯面の高さを算出し、前記推定部により推定された前記境界位置に対応する前記湯面の高さと、前記溶鋼の流入量に基づく前記湯面の高さの算出結果との差が所定レベルを超えている場合に、前記境界位置の推定結果に基づく前記溶鋼の流入量の制御を行わない、請求項7記載の連続鋳造システム。
【請求項9】
連続鋳造のモールドに収容された溶鋼の湯面と、モールドの内面とを撮影するカメラにより、時系列で撮影された複数の画像を含む動画データを取得することと、
前記動画データに基づくインプットデータを生成することと、
前記カメラの視野内における前記湯面と前記モールドの内面との境界位置の前記動画データに基づく認識結果を示す正解データを取得することと、
前記インプットデータと、前記正解データとを対応付けた学習用レコードをデータベースに蓄積させることと、
前記データベースに蓄積された複数の前記学習用レコードに基づいて、前記インプットデータと前記境界位置との関係を表す推定用モデルを生成することと、
新たに取得した前記動画データに基づいて新たなインプットデータを生成することと、
前記推定用モデルと、前記新たなインプットデータとに基づいて前記境界位置を推定することと、
を含む湯面推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、連続鋳造システム及び湯面推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、光学式湯面計で鋳型内面と溶融金属面とが接触する部位を撮影し、撮影画面における、鋳型内面と溶融金属面との接触点の位置を検出する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、湯面とモールドの内面との境界位置を高い信頼性で推定するのに有効な連続鋳造システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一側面に係る連続鋳造システムは、連続鋳造のモールドに収容された溶鋼の湯面と、モールドの内面とを撮影するカメラと、カメラにより時系列で撮影された複数の画像を含む動画データに基づくインプットデータと、カメラの視野内における湯面とモールドの内面との境界位置との関係を表すように機械学習により生成された推定モデルと、新たなインプットデータとに基づいて、境界位置を推定する推定部と、を備える。
【0006】
画像内において、湯面とモールドの内面との輝度差が大きい場合、一つの閾値との比較によって、画像内を湯面に対応する領域とモールドの内面に対応する領域とに二分し、境界位置を容易に認識することができる。しかしながら、連続鋳造においては、上記輝度差が小さいために、上述した手法では境界位置を正確に認識できない場合がある。例えば、連続鋳造は、モールドに注入された溶鋼に、パウダー状の離型剤を供給する方式で行われる場合がある。以下、この方式による連続鋳造を「パウダー鋳造」という。パウダー鋳造では、湯面に浮かぶ離型剤によって、湯面とモールドの内面との輝度差が小さくなる。これに対し、本装置によれば、動画データに基づくインプットデータと境界位置との関係を表すように機械学習により生成された推定モデルと、新たなインプットデータとに基づいて、境界位置を推定する動画データとに基づいて境界位置が推定される。動画データに基けば、例えば画像内の各部の動きの情報等、一枚の画像からは得られない情報が得られる。従って、本装置によれば、輝度差が小さい場合においても境界位置を高い信頼性で推定することができる。
【0007】
動画データに基づいて、カメラの視野における複数のエリアごとに時系列での変位ベクトルを表す変位マップを生成する変位マップ生成部を更に備え、推定モデルは、変位マップを含むインプットデータと境界位置との関係を表すように生成され、推定部は、推定モデルと、新たに生成された変位マップを含む新たなインプットデータと、に基づいて境界位置を推定してもよい。時系列での変位の傾向の分布を変位マップとしてデータ化し、インプットデータに含めることにより、境界位置を容易に高い信頼性で推定することができる。
【0008】
動画データに基づいて、複数のエリアごとの輝度を表す輝度マップを生成する輝度マップ生成部を更に備え、推定モデルは、輝度マップを更に含むインプットデータと境界位置との関係を表すように生成され、推定部は、推定モデルと、新たに生成された輝度マップを更に含む新たなインプットデータとに基づいて境界位置を推定してもよい。湯面にパウダーが浮かぶ場合においても、湯面とモールドの内面とにある程度の輝度差は生じ得る。このため、輝度マップを更にインプットデータに含めることにより、境界位置をより高い信頼性で推定することができる。
【0009】
輝度マップ生成部は、複数の色ごとに輝度マップを生成し、推定モデルは、複数の色の輝度マップを更に含むインプットデータと境界位置との関係を表すように生成され、推定部は、推定モデルと、新たに生成された複数の色の輝度マップを更に含む新たなインプットデータとに基づいて境界位置を推定してもよい。湯面とモールドの内面との輝度差が小さい場合においても、湯面の色彩とモールドの色彩との間には比較的大きな差が生じ得る。このため、複数の色の輝度マップを更にインプットデータに含めることにより、境界位置をより高い信頼性で推定することができる。
【0010】
推定モデルに基づくことなく、動画データに基づき認識された境界位置を示す正解データを取得する正解データ取得部と、インプットデータと、正解データとを対応付けた学習用レコードをデータベースに蓄積する蓄積部と、データベースに蓄積された複数の学習レコードに基づく機械学習により、推定モデルを生成するモデル生成部と、を更に備えてもよい。学習用レコードの蓄積から、蓄積された学習データに基づく推定モデルの生成までの一連のプロセスを装置が行うので、利便性を向上させることができる。
【0011】
モデル生成部は、ディープラーニングにより推定モデルを生成してもよい。動画データに基づくインプットデータと、境界位置との間の定式化し難い関係を、ディープラーニングにより高い信頼性でモデル化することができる。
【0012】
推定された境界位置に基づいて、湯面を目標高さに近付けるように、モールドへの溶鋼の流入量を制御する制御部を更に備えてもよい。境界位置の推定結果を湯面の高さの自動調節に有効活用することができる。
【0013】
制御部は、モールドへの溶鋼の流入量に基づいて湯面の高さを算出し、推定部により推定された境界位置に対応する湯面の高さと、溶鋼の流入量に基づく湯面の高さの算出結果との差が所定レベルを超えている場合に、境界位置の推定結果に基づく溶鋼の流入量の制御を行わなくてもよい。境界位置の推定結果に基づく制御の信頼性を向上させることができる。
【0014】
本開示の他の側面に係る湯面推定方法は、連続鋳造のモールドに収容された溶鋼の湯面と、モールドの内面とを撮影するカメラにより、時系列で撮影された複数の画像を含む動画データを取得することと、動画データに基づくインプットデータを生成することと、カメラの視野内における湯面とモールドの内面との境界位置の動画データに基づく認識結果を示す正解データを取得することと、インプットデータと、正解データとを対応付けた学習用レコードをデータベースに蓄積させることと、データベースに蓄積された複数の学習用レコードに基づいて、インプットデータと境界位置との関係を表す推定用モデルを生成することと、新たに取得した動画データに基づいて新たなインプットデータを生成することと、推定用モデルと、新たなインプットデータとに基づいて境界位置を推定することと、を含む。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、湯面とモールドの内面との境界位置を高い信頼性で推定するのに有効な連続鋳造システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】連続鋳造システムの構成を模式的に例示する図である。
【
図2】制御システムの機能的な構成を例示するブロック図である。
【
図5】制御システムのハードウェア構成を例示するブロック図である。
【
図6】推定モデルの生成手順を例示するフローチャートである。
【
図7】湯面高さの制御手順を例示するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0018】
〔連続鋳造システム〕
図1は、連続鋳造システムの構成を模式的に例示する図である。
図1に示す連続鋳造システム1は、連続鋳造(Continuous Caster)により鋼片を製造するシステムである。一例として、連続鋳造システム1は、モールドに収容された溶鋼に、パウダー状の離型剤を供給して鋳造を行うパウダー鋳造により鋼片を製造する。
【0019】
連続鋳造システム1は、取鍋2と、ノズル3と、タンディッシュ4と、モールド5と、振動装置11と、電磁攪拌装置12と、カメラ21と、制御システム100とを備える。取鍋2は、高炉にて生成された溶鋼を収容する。取鍋2は、注湯孔6と、ゲート7とを下部に有する。注湯孔6は、溶鋼を下方に排出する。ゲート7は注湯孔6を開閉する。
【0020】
ノズル3は、注湯孔6の下に設けられ、注湯孔6から出た溶鋼を下方に案内する。タンディッシュ4は、ノズル3により上方から案内された溶鋼を収容する。タンディッシュ4は、ノズル8と、ゲート9とを有する。ノズル8は、タンディッシュ4の下に設けられ、タンディッシュ4が収容する溶鋼を下方に案内する。ゲート9は、ノズル8における溶鋼の流路を開閉する。
【0021】
モールド5は、ノズル8により上方から案内された溶鋼を収容し、成型しながら下方に送り出す。ノズル8の下端は、モールド5が収容する溶鋼に浸漬され得る。溶鋼は、モールド5を通りながら徐々に凝固する。モールド5を通過して下方に送り出された溶鋼は、複数の搬送ロールによって搬送され、ガス切断機などによって鋼片に切り分けられる。
【0022】
振動装置11は、湯面において溶解した離型剤をモールド5の内面と溶鋼との間に流入させるように、モールド5を上下方向に振動させる。例えば振動装置11は、電動式又は液圧式(例えば油圧式)等のモータの動力によって、モールド5を上下方向に振動させる。
【0023】
電磁攪拌装置12は、溶鋼内に介在する不純物が、溶鋼において凝固した部分に固定されることを防ぐように、モールド5内の溶鋼を攪拌する。例えば電磁攪拌装置12は、溶鋼を流動させるための磁場を、電力の供給に応じてモールド5内に発生させる。
【0024】
カメラ21は、モールド5に収容された溶鋼の湯面と、モールド5の内面とを撮影する。例えばカメラ21は、カラー画像を撮像可能な可視光カメラであり、タンディッシュ4とモールド5との間を経て湯面とモールド5の内面とを斜め上方から撮影する。例えばカメラ21は、CCD(ChargeCoupled Device)又はCMOS(Complementary Metal OxideSemiconductor)イメージセンサ等の撮像素子を有し、入射光に応じ撮像素子が発生させる電気信号に基づいて、湯面とモールド5の内面との画像データを生成する。画像データは、例えばマトリクス状に並ぶ複数の画素のそれぞれの画素値を含む。画素値は輝度を表す。画像データは、複数の画素のそれぞれについて、複数の色ごとの画素値を含んでいてもよい。複数の色は、例えばRGB(Red、Green及びBlue)である。
【0025】
制御システム100は、カメラ21が撮影した画像(例えば上記画像データ)に基づいて、画像内における湯面とモールド5の内面との境界位置を認識し、境界位置の認識結果に基づいて、湯面の高さを目標高さに近付けるようにゲート9を制御する。画像内において、湯面とモールド5の内面との輝度差(湯面の輝度とモールド5の内面の輝度との差)が大きい場合、一つの閾値との比較によって、画像内を湯面に対応する領域とモールド5の内面に対応する領域とに二分し、境界位置を容易に認識することができる。
【0026】
しかしながら、連続鋳造においては、上記輝度差が小さいために、上述した手法では境界位置を正確に認識できない場合がある。例えば、上述したパウダー鋳造においては、湯面に浮かぶ離型剤によって、上記輝度差が小さくなる傾向がある。現状において、パウダー鋳造は連続鋳造における主流となっているため、上記輝度差が小さいために境界位置を正確に認識できない場合は少なくない。
【0027】
そこで、制御システム100は、カメラ21により時系列で撮影された複数の画像を含む動画データに基づくインプットデータと、境界位置との関係を表すように機械学習により生成された推定モデルと、新たなインプットデータとに基づいて、境界位置を推定することと、境界位置の推定結果に基づいて湯面の液面高さを目標高さに近付けることと、を実行するように構成されている。動画データに基けば、例えば画像内の各部の動きの情報等、一枚の画像からは得られない情報が得られる。従って、動画データに基づくインプットデータと境界位置との関係を表すように機械学習により生成された推定モデルと、新たなインプットデータとに基づいて、境界位置を推定する制御システム100によれば、境界位置を高い信頼性で推定することができる。これにより、湯面の高さを高い信頼性で目標高さの近傍に維持し、上記鋼片の品質を向上させることができる。
【0028】
図2は、制御システム100の機能的な構成を例示するブロック図である。
図2に示すように、制御システム100は、機能上の構成要素(以下、「機能ブロック」という。)として、録画部111と、動画データ記憶部112と、変位マップ生成部113と、輝度マップ生成部114と、インプットデータ生成部115と、正解データ取得部116と、蓄積部117と、データベース118とを有する。
【0029】
録画部111は、カメラ21により時系列で撮影された複数の画像を取得する。例えば録画部111は、所定周期による撮影の繰り返しをカメラ21に実行させ、所定長さの期間に亘る上記繰り返しにより得られた複数の画像を取得する。録画部111は、取得した複数の画像を時系列で動画データ記憶部112に記憶させる。これにより、複数の画像を時系列で含む動画データが、少なくとも一時的に動画データ記憶部112に保持される。
【0030】
動画データは、複数の画像を時系列で順次表示することで、画像内に含まれる要素の変位を視認させ得るデータである。動画データにより、画像内に含まれる要素の変位が視認されるのは、先の画像に含まれる要素が、先の画像における位置とは異なる位置で後の画像にも含まれるためである。以下、このように、先の画像及び後の画像の両方に、互いに異なる位置で含まれる共通要素を、「共通の変位要素」という。上記所定周期が長過ぎるために、先の画像と後の画像とに共通の変位要素が含まれないような場合、所定周期による撮影の繰り返しにより得られた複数の画像は動画データに該当しない。動画データに該当する複数の画像を取得するための所定周期は、例えば0.1秒以下であり、0.06秒以下であってもよく、0.03秒以下であってもよい。
【0031】
変位マップ生成部113は、動画データに基づいて、変位マップを生成する。変位マップは、時系列での変位ベクトルを、カメラ21の視野における複数のエリアごとに表すデータである。例えば変位マップ生成部113は、動画データが含む1の画像を基準画像として、時系列で基準画像の一つ前の画像又は時系列で基準画像の一つ後の画像を比較画像として、基準画像と比較画像との比較に基づいて変位マップを生成する。例えば変位マップ生成部113は、以下の処理を複数のエリアのそれぞれに対して行うことで、変位マップを生成する。
処理1)基準画像において、エリア内に共通の変位要素を定める。
処理2)基準画像内における共通の変位要素の位置と、比較画像内における共通の変位要素の位置との差に基づいて、エリアの変位ベクトルを算出する。
【0032】
変位マップ生成部113は、動画データが含む複数の画像を基準画像として変位マップを生成してもよい。例えば変位マップ生成部113は、複数の基準画像のそれぞれに対して上述の処理を行うことで、複数のエリアのそれぞれに対して複数の変位ベクトルを算出し、算出した複数の変位ベクトルを平均して、複数のエリアのそれぞれの変位ベクトルを算出してもよい。
【0033】
図3は、変位マップを模式的に例示する図である。
図3に示す変位マップ200は、変位ベクトル211を、複数のエリア210ごとに表す。複数のエリア210のそれぞれは、カメラ21の視野をマトリクス状に区画して得られる1エリアである。複数のエリア210のそれぞれは、マトリクス状に並ぶ複数の画素を有する。
【0034】
時系列での変位ベクトル211は、共通の変位要素が、画像内でいかなる方向にいかなる量で変位したかを表す。
図3において、破線は溶鋼の湯面と、モールド5の内面との境界を表している。溶鋼の湯面に対応するエリア210Aと、モールド5の内面に対応するエリア210Bとでは、変位ベクトル211の方向及び量の少なくともいずれかに差が生じ易い。例えば、図示において、モールド5の内面に対応するエリア210Bの変位ベクトル211には、振動装置11による振動の方向応じて上下方向に沿う傾向が表れている。これに対し、溶鋼の湯面に対応するエリア210Aの変位ベクトル211には、電磁攪拌装置12による流動方向に沿う傾向が表れている。このように、エリア210Aにおける変位ベクトル211と、エリア210Bにおける変位ベクトル211との傾向の相違により、変位マップには、溶鋼の湯面とモールド5の内面との境界が表れやすい。
【0035】
図2に戻り、輝度マップ生成部114は、動画データに基づいて、輝度マップを生成する。輝度マップは、複数のエリアごとの輝度を表す。例えば輝度マップ生成部114は、上述した複数のエリア210のそれぞれの輝度値を含む。輝度マップ生成部114は、複数のエリア210のそれぞれの輝度値を、複数の画素の輝度値に基づき算出してもよい。例えば輝度マップ生成部114は、複数のエリア210のそれぞれの輝度値として、複数の画素の輝度値の平均値を算出してもよい。
【0036】
輝度マップ生成部114は、複数のエリア210のそれぞれの輝度値を、動画データの複数の画像における輝度値に基づき算出してもよい。例えば輝度マップ生成部114は、複数のエリア210のそれぞれの輝度値として、複数の画像における輝度値の平均値を算出してもよい。
【0037】
輝度マップ生成部114は、上述の複数の色ごとに輝度マップを生成してもよい。例えば輝度マップ生成部114は、複数のエリア210のそれぞれに対して、R(Red)の輝度値を算出してRの輝度マップを生成する。例えば輝度マップ生成部114は、複数のエリア210のそれぞれが含むR用の画素の輝度値に基づいてRの輝度値を算出する。同様に、輝度マップ生成部114は、複数のエリア210のそれぞれに対して、G(Green)の輝度値を算出してGの輝度マップを生成し、複数のエリア210のそれぞれに対して、B(Blue)の輝度値を算出してBの輝度マップを生成する。
【0038】
インプットデータ生成部115は、動画データに基づくインプットデータを生成する。例えばインプットデータ生成部115は、少なくとも、変位マップ生成部113により生成された変位マップを含むインプットデータを生成する。一例として、インプットデータ生成部115は、変位マップ生成部113により生成された変位マップと、輝度マップ生成部114により生成された輝度マップとを含むインプットデータを生成する。輝度マップ生成部114が、複数の色ごとに輝度マップを生成する場合、インプットデータ生成部115は、変位マップ生成部113により生成された変位マップと、輝度マップ生成部114により複数の色ごとに生成された輝度マップとを含むインプットデータを生成する。
【0039】
正解データ取得部116は、正解データを取得する。正解データは、上記推定モデルに基づくことなく、動画データに基づき認識された境界位置を示す。例えば正解データ取得部116は、動画データに基づきユーザが認識した境界位置を示すデータを、ユーザインタフェース196(後述)への入力に基づき取得してもよい。蓄積部117は、インプットデータ生成部115が生成したインプットデータと、正解データ取得部116が取得した正解データとを対応付けた学習用レコードをデータベース118に蓄積する。例えば蓄積部117は、同一の動画データに基づくインプットデータと正解データとを対応付けて学習用レコードを生成し、データベース118に蓄積する。
【0040】
制御システム100は、機能ブロックとして、モデル生成部121と、モデル記憶部122と、推定部123と、制御部124とを更に有する。モデル生成部121は、データベース118に蓄積された複数の学習レコードに基づく機械学習により、上記推定モデルを生成し、生成済みの推定モデルをモデル記憶部122に記憶させる。
【0041】
インプットデータ生成部115が生成するインプットデータが変位マップを含む場合、モデル生成部121は、変位マップを含むインプットデータと境界位置との関係を表すように推定モデルを生成する。
【0042】
インプットデータ生成部115が生成するインプットデータが輝度マップを更に含む場合、モデル生成部121は、輝度マップを更に含むインプットデータと境界位置との関係を表すように推定モデルを生成する。
【0043】
インプットデータ生成部115が生成するインプットデータが、複数の色の輝度マップを更に含む場合、モデル生成部121は、複数の色の輝度マップを更に含むインプットデータと境界位置との関係を表すように推定モデルを生成する。
【0044】
例えばモデル生成部121は、インプットデータと、境界位置との関係を、多段階の入出力関係により表す推定モデルを生成する。入出力関係は、入力を場合分けし、場合分け結果に応じた出力を生成する場合分け処理、又は確率的場合分け処理等によって表されてもよい。一例として、モデル生成部121は、ディープラーニングにより推定モデルを生成してもよい。
図4は、ディープラーニングにより生成される推定モデルを模式的に例示する図である。
図4に示す推定モデル。300は、ニューラルネットワークであり、入力層311と、一層以上の中間層313と、出力層312とを有する。入力層311は、入力ベクトルを次の中間層313に出力する。中間層313は、一つ前の層からの入力を活性化関数により変換して次の層に出力する。出力層312は、入力層311から最も遠い中間層313からの入力を活性化関数により変換し、変換結果を出力ベクトルとして出力する。推定モデル。300においては、各中間層313における活性化関数と、出力層312における活性化関数とが、上述した多段階の入出力関係の一例である。入力を活性化関数により変換する処理によれば、入力に応じて変換結果が変わることとなる。すなわち、入力の場合に応じて変換結果が変わることとなるので、活性化関数による変換は上述した場合分け処理又は確率的場合分け処理の一例である。
【0045】
図2に戻り、推定部123は、モデル記憶部122が記憶する推定モデルと、新たなインプットデータとに基づいて、境界位置を推定する。新たなインプットデータは、モデル生成部121が生成済みの推定モデルをモデル記憶部122に記憶させた後に、インプットデータ生成部115が新たに生成するインプットデータである。例えば新たなインプットデータは、モデル生成部121が生成済みの推定モデルをモデル記憶部122に記憶させた後に、変位マップ生成部113が新たに生成する変位マップと、輝度マップ生成部114が新たに生成する輝度マップとに基づいてインプットデータ生成部115が新たに生成するインプットデータである。例えば推定部123は、新たなインプットデータをモデル記憶部122が記憶する推定モデルに入力し、新たなインプットデータの入力に応じた推定モデルの出力に基づいて、境界位置を推定する。
【0046】
インプットデータ生成部115が生成する新たなインプットデータが、変位マップ生成部113により新たに生成された変位マップを含む場合、推定部123は、推定モデルと、新たに生成された変位マップを含む新たなインプットデータと、に基づいて境界位置を推定する。
【0047】
インプットデータ生成部115が生成する新たなインプットデータが、輝度マップ生成部114により新たに生成された輝度マップを更に含む場合、推定部123は、推定モデルと、新たに生成された輝度マップを更に含む新たなインプットデータとに基づいて境界位置を推定する。
【0048】
インプットデータ生成部115が生成するインプットデータが、輝度マップ生成部114により新たに生成された複数の色の輝度マップを更に含む場合、推定部123は、推定モデルと、新たに生成された複数の色の輝度マップを含む新たなインプットデータとに基づいて境界位置を推定する。
【0049】
制御部124は、推定部123により推定された境界位置に基づいて、湯面を目標高さに近付けるように、モールド5への溶鋼の流入量を制御する。これにより、境界位置の推定結果を湯面の高さの自動調節に有効活用することができる。
【0050】
例えば制御部124は、湯面を目標高さに近付けるように、ゲート9の開度を制御する。ゲート9の開度により、モールド5への溶鋼の流入量が変化するので、ゲート9の開度を制御することは、モールド5への溶鋼の流入量を制御することの一例である。制御部124は、画像内において、目標高さに対応する目標位置に境界位置を近付けるようにゲート9を制御してもよい。
【0051】
制御部124は、境界位置と湯面の液面高さとの対応関係と、境界位置の認識結果とに基づいて、湯面の液面高さを算出し、算出した湯面の液面高さを目標高さに近付けるようにゲート9を制御してもよい。境界位置と湯面の液面高さとの対応関係は、実機試験又はシミュレーション等により予め準備される。
【0052】
制御部124は、境界位置の認識結果に基づく湯面の液面高さの算出結果(以下、「第1算出結果」という。)とは別に、モールド5への溶鋼の流入量に基づいて湯面の液面高さを更に算出してもよい。例えば制御部124は、モールド5に溶鋼が入っていない初期状態からの溶鋼の累積流入量と、初期状態からの溶鋼の累積流出量との差を、モールド5内の断面積で除算して湯面の液面高さを算出してもよい。以下、溶鋼の流入量に基づく湯面の液面高さの算出結果を「第2算出結果」という。制御部124は、第1算出結果と第2算出結果との乖離が所定レベル(例えば所定の閾値)を超えている場合に、第1算出結果に基づく溶鋼の流入量の制御を行わなくてもよい。第1算出結果に基づく溶鋼の流入量の制御を行わないことは、一つ前の第1算出結果に基づく溶鋼の流入量の制御を継続することを含む。
【0053】
図5は、制御システム100のハードウェア構成を例示するブロック図である。
図5に示すように、制御システム100は、回路190を有する。回路190は、プロセッサ191と、メモリ192と、ストレージ193と、グラフィック回路194と、制御回路195と、ユーザインタフェース196とを有する。
【0054】
ストレージ193は、フラッシュメモリ、又はハードディスク等の1以上の不揮発性メモリデバイスにより構成されている。ストレージ193は、推定モデルと、新たなインプットデータとに基づいて、境界位置を推定することと、境界位置の推定結果に基づいて湯面の液面高さを目標高さに近付けることと、を制御システム100に実行させるためのプログラムを記憶している。例えばストレージ193は、上述した各機能ブロックを制御システム100に構成させるためのプログラムを記憶している。
【0055】
メモリ192は、例えばランダムアクセスメモリ等の1以上の揮発性メモリデバイスにより構成されている。メモリ192は、ストレージ193からロードされたプログラムを一時的に記憶する。プロセッサ191は、CPU(Central Processing Unit)又はGPU(Graphics Processing Unit)等の1以上の演算デバイスにより構成されている。プロセッサ191は、メモリ192にロードされたプログラムを実行することで、上述した各機能ブロックを制御システム100に構成させる。プロセッサ191による演算結果は一時的にメモリ192に格納される。
【0056】
グラフィック回路194は、プロセッサ191からの要求に応じて、カメラ21を制御する。制御回路195は、プロセッサ191からの要求に応じてゲート9を動作させる。ユーザインタフェース196は、表示デバイスと、入力デバイスとを含む。表示デバイスは、ユーザに対する情報を表示する。表示デバイスの例としては、液晶ディスプレイ又は有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイ等が挙げられる。入力デバイスは、ユーザによる入力を取得する。入力デバイスの例としては、キーボード又はマウス等が挙げられる。入力デバイスは、例えばタッチパネルとして表示デバイスと一体化されていてもよい。以上に示したハードウェア構成はあくまで一例であり、適宜変更可能である。例えば回路190は、互いに通信可能な複数の回路に分かれていてもよい。
【0057】
〔制御手順〕
続いて、制御システム100によるゲート9の制御手順を例示する。この制御手順は、湯面推定方法の一例として、制御システム100による湯面推定手順を含む。湯面推定手順は、動画データを取得することと、動画データに基づくインプットデータを生成することと、境界位置の動画データに基づく認識結果を示す正解データを取得することと、インプットデータと、正解データとを対応付けた学習用レコードをデータベース118に蓄積させることと、データベース118に蓄積された複数の学習用レコードに基づいて、インプットデータと境界位置との関係を表す推定用モデルを生成することと、新たに取得した前記動画データに基づいて新たなインプットデータを生成することと、推定用モデルと、新たなインプットデータとに基づいて境界位置を推定することと、を含む。以下、推定モデルの生成手順と、湯面高さの制御手順とに分けて、制御手順を例示する。
【0058】
(推定モデルの生成手順)
図6に示すように、制御システム100は、まずステップS01,S02,S03,S04を実行する。ステップS01では、録画部111が、カメラ21により時系列で撮影された複数の画像を含む動画データを動画データ記憶部112に記憶させる。ステップS02では、動画データ記憶部112が記憶する動画データに基づいて、変位マップ生成部113が上記変位マップを生成する。ステップS03では、動画データ記憶部112が記憶する動画データに基づいて、輝度マップ生成部114が上記輝度マップを生成する。ステップS04では、変位マップ生成部113が生成した変位マップと、輝度マップ生成部114が生成した輝度マップとを含むインプットデータをインプットデータ生成部115が生成する。
【0059】
次に、制御システム100はステップS05,S06,S07を実行する。ステップS05では、正解データ取得部116が、上記正解データを取得する。ステップS06では、インプットデータ生成部115が生成したインプットデータと、正解データ取得部116が取得した正解データとを対応付けた学習用レコードを蓄積部117が生成し、データベース118に蓄積する。ステップS07では、データベース118に蓄積された学習レコードの数が、予め定められた閾値を超えたか否かをモデル生成部121が確認する。
【0060】
ステップS07において、学習用レコードの数が閾値を超えていないと判定した場合、制御システム100は処理をステップS01に戻す。以後、学習用レコードの数が閾値を超えるまで、動画データの取得と、インプットデータの生成と、正解データの取得と、学習用レコードの蓄積とが繰り返される。
【0061】
ステップS07において、学習用レコードの数が閾値を超えていると判定した場合、制御システム100はステップS08を実行する。ステップS08では、モデル生成部121が、データベース118に蓄積された学習用レコードに基づく機械学習により、上記推定モデルを生成し、モデル記憶部122に記憶させる。以上で推定モデルの生成手順が完了する。
【0062】
なお、ステップS03はステップS02の前に実行されてもよい。ステップS02の実行期間と、ステップS03の実行期間とが部分的に重複していてもよい。また、ステップS05がステップS04の後に行われるのはあくまで一例であり、ステップS01の後、ステップS06の前のいずれのタイミングでステップS05を実行してもよい。
【0063】
(湯面高さの制御手順)
図7に示す手順は、上述した推定モデルの生成手順の後に実行される。
図7に示すように、制御システム100は、まずステップS11,S12,S13,S14を実行する。ステップS11では、推定モデルの生成後に、カメラ21により時系列で撮影された複数の画像を含む動画データを、録画部111が動画データ記憶部112に記憶させる。以下、ステップS11において録画部111が動画データ記憶部112に記憶させた動画データを「新たな動画データ」という。
【0064】
ステップS12では、新たな動画データに基づいて、変位マップ生成部113が変位マップを新たに生成する。ステップS13では、新たな動画データに基づいて、輝度マップ生成部114が輝度マップを新たに生成する。ステップS14では、変位マップ生成部113により新たに生成された変位マップと、輝度マップ生成部114により新たに生成された輝度マップとを含む新たなインプットデータをインプットデータ生成部115が生成する。
【0065】
次に、制御システム100はステップS15,S16を実行する。ステップS15では、推定部123が、推定モデルと、新たなインプットデータとに基づいて境界位置を推定する。ステップS16では、境界位置の推定結果に基づいて、湯面高さが目標高さを超えているか否かを制御部124が確認する。ステップS16において、湯面高さが目標高さを超えていないと判定した場合、制御システム100はステップS17を実行する。ステップS17では、境界位置の推定結果に基づいて、湯面高さが目標高さ未満であるか否かを制御部124が確認する。ステップS17において、湯面t中差が目標高さ未満ではないと判定した場合、制御システム100は処理をステップS11に戻す。
【0066】
ステップS16において、湯面高さが目標高さを超えていると判定した場合、制御システム100はステップS21を実行する。ステップS21では、制御部124が、モールド5への溶鋼の流入量を縮小させるように、ゲート9の開度を縮小させる。例えば制御部124は、予め定められた縮小量にてゲート9の開度を縮小させる。制御部124は、湯面高さと目標高さとの偏差に比例演算、比例・積分演算、又は比例・積分・微分演算等を行って縮小量を算出し、算出した縮小量にてゲート9の開度を縮小させてもよい。
【0067】
ステップS17において、湯面高さが目標高さ未満であると判定した場合、制御システム100はステップS22を実行する。ステップS22では、制御部124が、モールド5への溶鋼の流入量を増大させるように、ゲート9の開度を増大させる。例えば制御部124は、予め定められた増大量にてゲート9の開度を増大させる。制御部124は、目標高さと湯面高さとの偏差に比例演算、比例・積分演算、又は比例・積分・微分演算等を行って増大量を算出し、算出した増大量にてゲート9の開度を増大させてもよい。
【0068】
〔まとめ〕
以上に例示した実施形態は、以下の構成を含む。
(1) 連続鋳造のモールド5に収容された溶鋼の湯面と、モールド5の内面とを撮影するカメラ21と、カメラ21により時系列で撮影された複数の画像を含む動画データに基づくインプットデータと、カメラ21の視野内における湯面とモールド5の内面との境界位置との関係を表すように機械学習により生成された推定モデルと、新たなインプットデータとに基づいて、境界位置を推定する推定部123と、を備える連続鋳造システム1。
本装置によれば、動画データに基づくインプットデータと境界位置との関係を表すように機械学習により生成された推定モデルと、新たなインプットデータとに基づいて、境界位置を推定する動画データとに基づいて境界位置が推定される。動画データに基けば、例えば画像内の各部の動きの情報等、一枚の画像からは得られない情報が得られる。従って、本装置によれば、輝度差が小さい場合においても境界位置を高い信頼性で推定することができる。
【0069】
(2) 動画データに基づいて、カメラ21の視野における複数のエリアごとに時系列での変位ベクトルを表す変位マップを生成する変位マップ生成部113を更に備え、推定モデルは、変位マップを含むインプットデータと境界位置との関係を表すように生成され、推定部123は、推定モデルと、新たに生成された変位マップを含む新たなインプットデータと、に基づいて境界位置を推定する、(1)記載の連続鋳造システム1。
時系列での変位の傾向の分布を変位マップとしてデータ化し、インプットデータに含めることにより、境界位置を容易に高い信頼性で推定することができる。
【0070】
(3) 動画データに基づいて、複数のエリアごとの輝度を表す輝度マップを生成する輝度マップ生成部114を更に備え、推定モデルは、輝度マップを更に含むインプットデータと境界位置との関係を表すように生成され、推定部123は、推定モデルと、新たに生成された輝度マップを更に含む新たなインプットデータとに基づいて境界位置を推定する、(2)記載の連続鋳造システム1。
湯面にパウダーが浮かぶ場合においても、湯面とモールド5の内面とにある程度の輝度差は生じ得る。このため、輝度マップを更にインプットデータに含めることにより、境界位置をより高い信頼性で推定することができる。
【0071】
(4) 輝度マップ生成部114は、複数の色ごとに輝度マップを生成し、推定モデルは、複数の色の輝度マップを更に含むインプットデータと境界位置との関係を表すように生成され、推定部123は、推定モデルと、新たに生成された複数の色の輝度マップを更に含む新たなインプットデータとに基づいて境界位置を推定する、(3)記載の連続鋳造システム1。
湯面とモールド5の内面との輝度差が小さい場合においても、湯面の色彩とモールド5の色彩との間には比較的大きな差が生じ得る。このため、複数の色の輝度マップを更にインプットデータに含めることにより、境界位置をより高い信頼性で推定することができる。
【0072】
(5) 推定モデルに基づくことなく、動画データに基づき認識された境界位置を示す正解データを取得する正解データ取得部116と、インプットデータと、正解データとを対応付けた学習用レコードをデータベース118に蓄積する蓄積部117と、データベース118に蓄積された複数の学習レコードに基づく機械学習により、推定モデルを生成するモデル生成部121と、を更に備える、(1)~(4)のいずれか記載の連続鋳造システム1。
学習用レコードの蓄積から、蓄積された学習データに基づく推定モデルの生成までの一連のプロセスを装置が行うので、利便性を向上させることができる。
【0073】
(6) モデル生成部121は、ディープラーニングにより推定モデルを生成する、(5)記載の連続鋳造システム1。
動画データに基づくインプットデータと、境界位置との間の定式化し難い関係を、ディープラーニングにより高い信頼性でモデル化することができる。
【0074】
(7) 推定された境界位置に基づいて、湯面を目標高さに近付けるように、モールド5への溶鋼の流入量を制御する制御部124を更に備える、(1)~(6)のいずれか記載の連続鋳造システム1。
境界位置の推定結果を湯面の高さの自動調節に有効活用することができる。
【0075】
(8) 制御部124は、モールド5への溶鋼の流入量に基づいて湯面の高さを算出し、推定部123により推定された境界位置に対応する湯面の高さと、溶鋼の流入量に基づく湯面の高さの算出結果との差が所定レベルを超えている場合に、境界位置の推定結果に基づく溶鋼の流入量の制御を行わない、(7)記載の連続鋳造システム。境界位置の推定結果に基づく制御の信頼性を向上させることができる。
【0076】
(8) 連続鋳造のモールド5に収容された溶鋼の湯面と、モールド5の内面とを撮影するカメラ21により、時系列で撮影された複数の画像を含む動画データを取得することと、動画データに基づくインプットデータを生成することと、カメラ21の視野内における湯面とモールド5の内面との境界位置の動画データに基づく認識結果を示す正解データを取得することと、インプットデータと、正解データとを対応付けた学習用レコードをデータベース118に蓄積させることと、データベース118に蓄積された複数の学習用レコードに基づいて、インプットデータと境界位置との関係を表す推定用モデルを生成することと、新たに取得した動画データに基づいて新たなインプットデータを生成することと、推定用モデルと、新たなインプットデータとに基づいて境界位置を推定することと、を含む湯面推定方法。
【符号の説明】
【0077】
5…モールド、21…カメラ、113…変位マップ生成部、114…輝度マップ生成部、116…正解データ取得部、117…蓄積部、118…データベース、121…モデル生成部、123…推定部、124…制御部。
【手続補正書】
【提出日】2023-06-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続鋳造のモールドに収容された溶鋼の湯面と、モールドの内面とを撮影するカメラと、
前記カメラにより時系列で撮影された複数の画像を含む動画データに基づいて、前記カメラの視野における複数のエリアごとに時系列での変位ベクトルを表す変位マップを生成する変位マップ生成部と、
前記変位マップを含むインプットデータと、前記カメラの視野内における前記湯面と前記モールドの内面との境界位置と、の関係を表すように機械学習により生成された推定モデルと、新たに撮影された前記動画データに基づいて新たに生成された前記変位マップを含む新たなインプットデータとに基づいて、前記境界位置を推定する推定部と、
を備える連続鋳造システム。
【請求項2】
前記動画データに基づいて、複数のエリアごとの輝度を表す輝度マップを生成する輝度マップ生成部を更に備え、
前記推定モデルは、前記輝度マップを更に含む前記インプットデータと前記境界位置との関係を表すように生成され、
前記推定部は、前記推定モデルと、新たに撮影された前記動画データに基づいて新たに生成された前記輝度マップを更に含む前記新たなインプットデータとに基づいて前記境界位置を推定する、
請求項1記載の連続鋳造システム。
【請求項3】
前記輝度マップ生成部は、複数の色ごとに前記輝度マップを生成し、
前記推定モデルは、複数の色の輝度マップを更に含む前記インプットデータと前記境界位置との関係を表すように生成され、
前記推定部は、前記推定モデルと、新たに撮影された前記動画データに基づいて新たに生成された前記複数の色の輝度マップを更に含む前記新たなインプットデータとに基づいて前記境界位置を推定する、
請求項2記載の連続鋳造システム。
【請求項4】
前記推定モデルに基づくことなく、前記動画データに基づき認識された前記境界位置を示す正解データを取得する正解データ取得部と、
前記インプットデータと、前記正解データとを対応付けた学習用レコードをデータベースに蓄積する蓄積部と、
前記データベースに蓄積された複数の学習レコードに基づく機械学習により、前記推定モデルを生成するモデル生成部と、
を更に備える、
請求項1~3のいずれか一項記載の連続鋳造システム。
【請求項5】
前記モデル生成部は、ディープラーニングにより前記推定モデルを生成する、
請求項4記載の連続鋳造システム。
【請求項6】
推定された前記境界位置に基づいて、前記湯面を目標高さに近付けるように、前記モールドへの前記溶鋼の流入量を制御する制御部を更に備える、
請求項1~3のいずれか一項記載の連続鋳造システム。
【請求項7】
前記制御部は、前記モールドへの前記溶鋼の流入量に基づいて前記湯面の高さを算出し、前記推定部により推定された前記境界位置に対応する前記湯面の高さと、前記溶鋼の流入量に基づく前記湯面の高さの算出結果との差が所定レベルを超えている場合に、前記境界位置の推定結果に基づく前記溶鋼の流入量の制御を行わない、請求項6記載の連続鋳造システム。
【請求項8】
連続鋳造のモールドに収容された溶鋼の湯面と、モールドの内面とを撮影するカメラにより、時系列で撮影された複数の画像を含む動画データを取得することと、
前記動画データに基づいて、前記カメラの視野における複数のエリアごとに時系列での変位ベクトルを表す変位マップを生成することと、
前記カメラの視野内における前記湯面と前記モールドの内面との境界位置の前記動画データに基づく認識結果を示す正解データを取得することと、
前記変位マップを含むインプットデータと、前記正解データとを対応付けた学習用レコードをデータベースに蓄積することと、
前記データベースに蓄積した複数の前記学習用レコードに基づいて、前記インプットデータと前記境界位置との関係を表す推定用モデルを生成することと、
新たに取得した前記動画データに基づいて新たに前記変位マップを生成することと、
前記推定用モデルと、新たに生成した前記変位マップを含むインプットデータとに基づいて前記境界位置を推定することと、
を含む湯面推定方法。