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  • 特開-締結装置及び締結方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114414
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】締結装置及び締結方法
(51)【国際特許分類】
   B25B 21/00 20060101AFI20240816BHJP
   B23P 19/06 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
B25B21/00 520C
B25B21/00 530Z
B23P19/06 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020168
(22)【出願日】2023-02-13
(71)【出願人】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】高塚 琢
(72)【発明者】
【氏名】前田 龍也
(72)【発明者】
【氏名】古川 浩司
(57)【要約】
【課題】コストを抑えつつ、係合開始点を高精度に検出して正確に締結できる締結装置及び締結方法を提供する。
【解決手段】被締結部材1にボルト3を締結させる順方向及び被締結部材1からボルト3を離脱させる逆方向へ回転可能な回転装置10と、回転装置10の駆動を制御する制御装置50と、を備え、回転装置10は、ボルト3を保持する軸部12と、軸部12にかかるトルク値を検出するトルク検出部16と、を有し、制御装置50は、ボルト3の雄ねじ4を被締結部材1の雌ねじ2に押圧させながら回転装置10によってボルト3を逆方向に回転させた際に、トルク検出部16によって検出されるトルク値が低下する回転角度を、被締結部材1の雌ねじ2とボルト3の雄ねじ4との係合開始点と判定する情報処理部51を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被締結部材のねじ部に締結部材のねじ部を螺合させ、前記被締結部材に前記締結部材を締結させる締結装置であって、
前記被締結部材に前記締結部材を締結させる順方向及び前記被締結部材から前記締結部材を離脱させる逆方向へ回転可能な回転装置と、前記回転装置の駆動を制御する制御装置と、を備え、
前記回転装置は、前記締結部材を保持する軸部と、前記軸部にかかるトルク値を検出するトルク検出部と、を有し、
前記制御装置は、前記締結部材の前記ねじ部を前記被締結部材の前記ねじ部に押圧させながら前記回転装置によって前記締結部材を逆方向に回転させた際に、前記トルク検出部によって検出されるトルク値が低下する回転角度を、前記被締結部材のねじ部と前記締結部材のねじ部との係合開始点と判定する判定部を有する、
締結装置。
【請求項2】
前記判定部は、前記回転装置によって前記締結部材を逆方向へ複数回転させ、各回転ごとにトルク値が低下する回転角度を、前記被締結部材のねじ部と前記締結部材のねじ部との係合開始点と判定する、
請求項1に記載の締結装置。
【請求項3】
前記判定部は、前記係合開始点から締付に要する回転数だけ前記軸部を順方向へ回転させた着座予定位置を設定するとともに、前記締結部材を順方向に回転させている状態で、前記着座予定位置よりも前にトルク値が予め設定された規定値を上回った際に、異常があると判定する、
請求項1または請求項2に記載の締結装置。
【請求項4】
被締結部材のねじ部に締結部材のねじ部を螺合させ、前記被締結部材に前記締結部材を締結させる締結方法であって、
前記締結部材の前記ねじ部を前記被締結部材の前記ねじ部に押圧させながら前記締結部材を締結させる順方向に対して逆方向に回転させた際に、前記締結部材のトルク値が低下する回転角度を、前記被締結部材のねじ部と前記締結部材のねじ部との係合開始点と判定する、
締結方法。
【請求項5】
前記締結部材の逆方向への回転を複数回転させ、各回転ごとにトルク値が低下する回転角度を、前記被締結部材のねじ部と前記締結部材のねじ部との係合開始点と判定する、
請求項4に記載の締結方法。
【請求項6】
前記係合開始点から締付に要する回転数だけ前記締結部材を順方向へ回転させた着座予定位置を設定するとともに、前記締結部材を順方向に回転させている状態で、前記着座予定位置よりも前にトルク値が予め設定された規定値を上回った際に、異常があると判定する、
請求項4または請求項5に記載の締結方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、締結装置及び締結方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、雄ねじと雌ねじとを互いに押圧させながら、ねじを緩める方向に軸部を逆回転させ、雄ねじと雌ねじとのねじ山の衝突をセンサにより検知し、係合開始点を検出する装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-170574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記の装置は、ねじの回転方向とは異なる方向の動きを検出する加速度センサなどのセンサを備える必要があり、コストが嵩んでしまう。
【0005】
また、雄ねじと雌ねじとのねじ山の衝突を検知して係合開始点を検出するため、ねじの回転速度によってねじ山同士の衝突位置にずれが生じる。このため、係合開始点の検出精度が低下するという問題がある。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、コストを抑えつつ、係合開始点を高精度に検出して正確に締結できる締結装置及び締結方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的は、下記構成により達成される。
(1) 被締結部材のねじ部に締結部材のねじ部を螺合させ、前記被締結部材に前記締結部材を締結させる締結装置であって、
前記被締結部材に前記締結部材を締結させる順方向及び前記被締結部材から前記締結部材を離脱させる逆方向へ回転可能な回転装置と、前記回転装置の駆動を制御する制御装置と、を備え、
前記回転装置は、前記締結部材を保持する軸部と、前記軸部にかかるトルク値を検出するトルク検出部と、を有し、
前記制御装置は、前記締結部材の前記ねじ部を前記被締結部材の前記ねじ部に押圧させながら前記回転装置によって前記締結部材を逆方向に回転させた際に、前記トルク検出部によって検出されるトルク値が低下する回転角度を、前記被締結部材のねじ部と前記締結部材のねじ部との係合開始点と判定する判定部を有する、締結装置。
【0008】
(2) 被締結部材のねじ部に締結部材のねじ部を螺合させ、前記被締結部材に前記締結部材を締結させる締結方法であって、
前記締結部材の前記ねじ部を前記被締結部材の前記ねじ部に押圧させながら前記締結部材を締結させる順方向に対して逆方向に回転させた際に、前記締結部材のトルク値が低下する回転角度を、前記被締結部材のねじ部と前記締結部材のねじ部との係合開始点と判定する、締結方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、コストを抑えつつ、係合開始点を高精度に検出して正確に締結できる締結装置及び締結方法を提供できる。
【0010】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という。)を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本実施形態に係る締結装置の概略構成図である。
図2図2は、本実施形態に係る締結装置の機能ブロック図である。
図3図3は、締結装置によるボルトの締結作業を説明するフローチャートである。
図4A図4Aは、被締結部材及びボルトの断面図である。
図4B図4Bは、被締結部材及びボルトの断面図である。
図5図5は、軸部を逆方向に回転した際の軸部にかかるトルク値の変動を示すグラフである。
図6図6は、被締結部材にボルトが締結された着座状態を示す断面図である。
図7図7は、係合開始位置の検出について説明する模式図である。
図8図8は、締結不良を説明する被締結部材及びボルトの断面図である。
図9図9は、係合開始位置の判定の他の例を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に関する具体的な実施形態について、各図を参照しながら以下に説明する。
【0013】
図1は、本実施形態に係る締結装置の概略構成図である。図2は、本実施形態に係る締結装置の機能ブロック図である。
【0014】
図1及び図2に示すように、本実施形態に係る締結装置100は、回転装置10と、制御装置50とを備えている。この締結装置100は、被締結部材に締結部材を締結させる装置である。
【0015】
以下の説明では、被締結部材1に形成された雌ねじ(ねじ部)2に、締結部材であるボルト3の雄ねじ(ねじ部)4を螺合させて締結させる場合を例示する。なお、締結装置100は、被締結部材1に設けられたスタッドボルトからなる雄ねじに雌ねじを有するナットを締結させることも可能である。
【0016】
回転装置10は、筒状の装置本体11と、この装置本体11の先端から突出した軸部12とを有している。軸部12は、その先端にボルト3の頭部3aを把持可能とされている。装置本体11の内部には、モータ13が設けられており、このモータ13の回転力が減速機14を介して軸部12に伝達される。軸部12は、モータ13によってボルト3の雄ねじ4を被締結部材1の雌ねじ2にねじ込む締結方向の回転方向である順方向及び被締結部材1の雌ねじ2に対してボルト3の雄ねじ4を緩める離脱方向である逆方向に回転可能とされている。
【0017】
回転装置10は、回転検出部15及びトルク検出部16を備えている。回転検出部15は、モータ13に設けられており、この回転検出部15によって軸部12の回転位置が検出可能とされている。トルク検出部16は、減速機14に設けられており、このトルク検出部16によって軸部12にかかるトルク値が検出可能とされている。
【0018】
回転装置10の装置本体11は、作業者等によって操作される起動スイッチ17を備えており、この起動スイッチ17を操作することにより、ボルト3の締結及び締結解除の操作が行われる。装置本体11の後端には、接続コネクタ18が設けられており、この接続コネクタ18に、制御装置50から延びるケーブル19が接続される。そして、このケーブル19を通して、制御装置50から回転装置10への給電及び制御装置50との間での制御信号や検出信号等の各種の信号の送受信が行われる。
【0019】
制御装置50は、回転装置10の駆動を制御する。この制御装置50は、情報処理部(判定部)51と、設定値記憶部52と、モータ制御部53と、入出力制御部54と、トルク信号処理部55と、を備えている。
【0020】
情報処理部51は、設定値記憶部52と、モータ制御部53と、入出力制御部54との間で信号の送受信を行う。また、情報処理部51には、トルク信号処理部55からトルク値の信号が送信される。トルク信号処理部55は、回転装置10のトルク検出部16からの検出信号に基づいて軸部12にかかるトルク値を算出して情報処理部51へ送信する。情報処理部51は、設定値記憶部52に記憶された締付回転数、締付トルク値の規定値及びトルク信号処理部55からのトルク値等に基づいて、モータ制御部53、入出力制御部54へ制御信号を送信する。
【0021】
モータ制御部53は、情報処理部51からの制御信号に基づいて、回転装置10のモータ13へ駆動信号を出力し、モータ13を駆動させる。入出力制御部54は、情報処理部51からの制御信号に基づいて、回転装置10の入出力を制御する。
【0022】
次に、上記の制御装置50を備えた締結装置100の回転装置10によって被締結部材1へボルト3を締結する場合について説明する。
図3は、締結装置によるボルトの締結作業を説明するフローチャートである。図4A及び図4Bは、被締結部材及びボルトの断面図である。図5は、軸部を逆方向に回転した際の軸部にかかるトルク値の変動を示すグラフである。図6は、被締結部材にボルトが締結された着座状態を示す断面図である。
【0023】
回転装置10の軸部12に頭部3aを把持させたボルト3を、被締結部材1の雌ねじ2に宛がい、雌ねじ2に雄ねじ4を押圧させる。この状態において、回転装置10の起動スイッチ17を操作する。すると、制御装置50は、回転装置10のモータ13を駆動させ、軸部12を逆方向に回転させる(ステップS1)。
【0024】
制御装置50の情報処理部51が、トルク検出部16の検出信号からトルク信号処理部55で算出されて送信されるトルク値に基づいて、軸部12にかかるトルク値が低下したか否かを判定する(ステップS2,S3)。
【0025】
図4Aに示すように、被締結部材1の雌ねじ2にボルト3の雄ねじ4が押圧された状態において、軸部12が逆方向に回転されると、経過時間とともに軸部12にかかるトルク値が増大する(図5におけるTa~Tb参照)。その後、図4Bに示すように、被締結部材1の雌ねじ2のねじ山の端部からボルト3の雄ねじ4のねじ山の端部が外れることにより、軸部12にかかる負荷がなくなりトルク値がほぼゼロに低下する(図5におけるT2参照)。この被締結部材1の雌ねじ2のねじ山の端部からボルト3の雄ねじ4のねじ山の端部が外れた時点は、被締結部材1の雌ねじ2及びボルト3の雄ねじ4のねじ山の端部同士が回転方向で一致した時点であり、これらの雌ねじ2及び雄ねじ4のねじ山の係合開始点である。
【0026】
情報処理部51は、トルク検出部16の検出信号からトルク信号処理部55で算出されて送信されるトルク値に基づいて、軸部12が無負荷となってトルク値がほぼゼロに低下する点を判定する(ステップS2,S3)。そして、情報処理部51は、回転装置10の回転検出部15からの検出信号に基づいて、トルク値が低下する点における軸部12の回転方向の位置を割り出し、この位置を係合開始位置とする。
【0027】
情報処理部51は、設定値記憶部52に記憶された締付回転数を引き出し、トルク値が低下する点から求めた係合開始位置から締付回転数だけ軸部12を順方向へ回転させた回転位置を締結予定位置(着座予定位置)に設定する。そして、情報処理部51は、係合開始位置から締付回転数だけ軸部12を順方向へ回転させてボルト3を締結予定位置まで回転させるべく、モータ制御部53へ制御信号を送信する。これにより、モータ制御部53から回転装置10のモータ13へ駆動信号が送信され、軸部12が締付回転数で順方向へ回転されてボルト3が締結予定位置に達し、トルク値が設定値記憶部52に記憶されている規定値となるまでボルト3が被締結部材1に締め付けられる(ステップS4)。
【0028】
情報処理部51は、トルク検出部16の検出信号からトルク信号処理部55で算出されて送信されるトルク値に基づいて、順方向へ回転する軸部12のトルク値が規定値に達したと判定した場合、モータ制御部53へ信号を送信し、モータ13による軸部12の回転を停止させる。これにより、図6に示すように、ボルト3の頭部3aが被締結部材1に当接した着座状態となり、被締結部材1に対するボルト3の締結が完了する。
【0029】
なお、情報処理部51は、ステップS4において、上記のように締結予定位置(角度範囲)に達したときのトルク値を計測して締結完了とする角度優先法の代わりに、設定トルク値に達したときに締結完了予定位置(角度範囲)に入っている場合に締結完了とするトルク優先法を用いてもよい。
【0030】
以上、説明したように、本実施形態に係る締結装置100によれば、制御装置50の情報処理部51が、ボルト3の雄ねじ4を被締結部材1の雌ねじ2に押圧させながら回転装置10によってボルト3を逆方向に回転させた際に、トルク検出部16によって検出されるトルク値が低下する回転角度を、被締結部材1の雌ねじ2とボルト3の雄ねじ4との係合開始点と判定する。
【0031】
このように、回転装置10の軸部12にかかるトルク値をそのまま検出することにより係合開始点を求めることができるので、雌ねじ2と雄ねじ4とが外れてねじ山同士が当接する際の衝撃を検出する加速度センサのような回転とは異なる方向の動きを検出するセンサを不要にでき、コストを抑えることができる。
【0032】
ここで、図7に示すように、ねじ山の衝突を検出して係合開始点を求める場合では、回転速度によって接触する位置が変動する。例えば、回転速度が遅い場合の検出点P1に対して回転速度が速い場合の検出点P2は、逆方向への回転方向の前方側にずれてしまう。このため、係合開始点にばらつきが生じる。また、これらの検出点P1,P2は、実際にねじ山の端部が外れる点よりも逆方向への回転方向の前方側にずれてしまい、精度が低下する。
【0033】
これに対して、本実施形態によれば、ねじ山の衝突を検出して係合開始点を求める場合と比べ、トルク値が低下した瞬間の位置P3を検出して係合開始位置と判定するので、回転速度による影響を抑制し、位置検出精度を高めることができる。
【0034】
ところで、ボルト3を被締結部材1に締結する際に、図8に示すように、例えば、ねじ山の潰れなどの部品の不具合等の要因によって締結不良を生じることがある。このような締結不良の発生時において、従来では、ボルト3の頭部3aが被締結部材1に当接して着座状態となる前に順方向に回転する軸部12のトルク値が規定値に達して締結完了と判定してしまうおそれがある。したがって、ボルト3が確実に着座して締結されていることを保証するために、目視で被締結部材1とボルト3の頭部3aとの間に隙間が無いかを確認したり、ボルト3と共締めされた端子等を揺すってボルト3に緩みが無いかを検査する首振り検査等の確認作業を実施している。
【0035】
これに対して、本実施形態によれば、ねじ山同士の係合開始位置を精度良く検出できるので、着座予定位置も高精度に予測できる。したがって、ねじ山の異常等によって着座予定位置よりも前にトルク値が規定値を上回る状況(疑似トルク値の上昇)を、異常として精度よく判定でき、締結不良を未然に抑制できる。
すなわち、本実施形態の締結装置100は、従来よりも高い精度で締結開始位置を設定することができるので、角度優先法を用いる場合には、締結予定位置に到達する前で発生した疑似トルク値の上昇を不具合として検出できる精度が向上し、着座予定位置直前の異常も検出できる。また、トルク優先法を用いる場合には、設定トルク値に到達した時点の角度が締結予定範囲より前であることを検出できる角度範囲の精度が向上し、角度優先法と同様、着座予定位置直前の異常を検出できる。つまり、本実施形態の締結装置100は、いずれの方法にも適用することが可能であり、また、いずれの方法においても締結開始位置を精度よく設定でき、疑似トルク値の異常な上昇に対する検出精度も向上することができる。
【0036】
次に、係合開始点の判定の他の例について説明する。なお、上記の例と同一処理部分は説明を省略する。
図9は、係合開始位置の判定の他の例を説明するフローチャートである。
図9に示すように、情報処理部51は、軸部12が無負荷となってトルク値がほぼゼロに低下する時点の判定を複数回繰り返し実行し、各回転における同一角度でトルク値が低下する時点を雌ねじ2と雄ねじ4との係合開始点とする(ステップS2,S3a)。このトルク値の低下時点を係合開始点とする判定は、3回以上繰り返してもよい。これにより、係合開始点の位置精度をより高めることができる。
【0037】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0038】
例えば、上記実施形態では、被締結部材1に形成された雌ねじ2にボルト3の雄ねじ4を螺合させて締結させる場合を例示したが、本発明は、被締結部材に設けられたスタッドボルトからなる雄ねじに雌ねじを有するナットを締結させる場合にも適用可能である。
【0039】
ここで、上述した本発明の実施形態に係る締結装置及び締結方法の特徴をそれぞれ以下[1]~[6]に簡潔に纏めて列記する。
[1] 被締結部材(1)のねじ部(雌ねじ2)に締結部材(ボルト3)のねじ部(雄ねじ4)を螺合させ、前記被締結部材(1)に前記締結部材(ボルト3)を締結させる締結装置(100)であって、
前記被締結部材(1)に前記締結部材(ボルト3)を締結させる順方向及び前記被締結部材(1)から前記締結部材(3)を離脱させる逆方向へ回転可能な回転装置(10)と、前記回転装置(10)の駆動を制御する制御装置(50)と、を備え、
前記回転装置(10)は、前記締結部材(ボルト3)を保持する軸部(12)と、前記軸部(12)にかかるトルク値を検出するトルク検出部(16)と、を有し、
前記制御装置(50)は、前記締結部材(ボルト3)の前記ねじ部(雄ねじ4)を前記被締結部材(1)の前記ねじ部(雌ねじ2)に押圧させながら前記回転装置(10)によって前記締結部材(ボルト3)を逆方向に回転させた際に、前記トルク検出部(16)によって検出されるトルク値が低下する回転角度を、前記被締結部材(1)のねじ部(雌ねじ2)と前記締結部材(ボルト3)のねじ部(雄ねじ4)との係合開始点と判定する判定部(情報処理部51)を有する、
締結装置。
【0040】
上記[1]の構成の締結装置によれば、制御装置の判定部が、締結部材のねじ部を被締結部材のねじ部に押圧させながら回転装置によって締結部材を逆方向に回転させた際に、トルク検出部によって検出されたトルク値が低下する回転角度を、被締結部材のねじ部と締結部材のねじ部との係合開始点と判定する。
このように、回転装置の軸部にかかるトルク値をそのまま検出することにより係合開始点を求めることができるので、ねじ山が外れてねじ山同士が当接する際の衝撃を検出する加速度センサのような回転とは異なる方向の動きを検出するセンサを不要にでき、コストを抑えることができる。
また、ねじ山の衝突を検出して係合開始点を求める場合と比べ、トルク値が低下した瞬間を検出して係合開始点と判定するので、回転速度による影響を抑制し、位置検出精度を高めることができる。
【0041】
[2] 前記判定部(情報処理部51)は、前記回転装置(10)によって前記締結部材(ボルト3)を逆方向へ複数回転させ、各回転ごとにトルク値が低下する回転角度を、前記被締結部材(1)のねじ部(雌ねじ2)と前記締結部材(ボルト3)のねじ部(雄ねじ4)との係合開始点と判定する、
上記[1]に記載の締結装置。
【0042】
上記[2]の構成の締結装置によれば、判定部が、回転装置による締結部材の逆方向への回転を複数回転させ、各回転ごとに低下する回転角度を、被締結部材のねじ部と締結部材のねじ部との係合開始点と判定する。これにより、係合開始点の位置精度をより高めることができる。
【0043】
[3] 前記判定部(情報処理部51)は、前記係合開始点から締付に要する回転数だけ軸部(12)を順方向へ回転させた着座予定位置を設定するとともに、前記締結部材(ボルト3)を順方向に回転させている状態で、前記着座予定位置よりも前にトルク値が予め設定された規定値を上回った際に、異常があると判定する、
上記[1]または[2]に記載の締結装置。
【0044】
上記[3]の構成の締結装置によれば、ねじ山同士の係合開始点を精度良く検知できるので、着座予定位置も高精度に予測して設定できる。したがって、ねじ山の異常等によって着座予定位置よりも前にトルク値が規定値を上回る状況を、異常として精度よく判定でき、締結不良を未然に抑制できる。
【0045】
[4] 被締結部材(1)のねじ部(雌ねじ2)に締結部材(ボルト3)のねじ部(雄ねじ4)を螺合させ、前記被締結部材(1)に前記締結部材(ボルト3)を締結させる締結方法であって、
前記締結部材(ボルト3)の前記ねじ部(雄ねじ4)を前記被締結部材(1)の前記ねじ部(雌ねじ2)に押圧させながら前記締結部材(ボルト3)を締結させる順方向に対して逆方向に回転させた際に、前記締結部材(ボルト3)のトルク値が低下する回転角度を、前記被締結部材(1)のねじ部(雌ねじ2)と前記締結部材(ボルト3)のねじ部(雄ねじ4)との係合開始点と判定する、
締結方法。
【0046】
上記[4]の構成の締結方法によれば、締結部材のねじ部を被締結部材のねじ部に押圧させながら締結部材を逆方向に回転させた際に、トルク値が低下する回転角度を、被締結部材のねじ部と締結部材のねじ部との係合開始点と判定する。
このように、トルク値をそのまま検出して係合開始点を求めることができるので、ねじ山が外れてねじ山同士が当接する際の衝撃を検出する加速度センサのような回転とは異なる方向の動きを検出するセンサを不要にでき、コストを抑えることができる。
また、ねじ山同士の衝突を検出して係合開始点を求める場合と比べ、トルク値が低下した瞬間を検出して係合開始点と判定するので、回転速度による影響を抑制し、位置検出精度を高めることができる。
【0047】
[5] 前記締結部材(ボルト3)の逆方向への回転を複数回転させ、各回転ごとにトルク値が低下する回転角度を、前記被締結部材(1)のねじ部(雌ねじ2)と前記締結部材(ボルト3)のねじ部(雄ねじ4)との係合開始点と判定する、
上記[4]に記載の締結方法。
【0048】
上記[5]の構成の締結方法によれば、判定部が、回転装置による締結部材の逆方向への回転を複数回転させ、各回転ごとに低下する回転角度を、被締結部材のねじ部と締結部材のねじ部との係合開始点と判定する。これにより、係合開始点の位置精度をより高めることができる。
【0049】
[6] 前記係合開始点から締付に要する回転数だけ前記締結部材(ボルト3)を順方向へ回転させた着座予定位置を設定するとともに、前記締結部材(ボルト3)を順方向に回転させている状態で、前記着座予定位置よりも前にトルク値が予め設定された規定値を上回った際に、異常があると判定する、
上記[4]または[5]に記載の締結方法。
【0050】
上記[6]の構成の締結方法によれば、ねじ山同士の係合開始点を精度良く検出できるので、着座予定位置も高精度に予測して設定できる。したがって、ねじ山の異常等によって着座予定位置よりも前にトルク値が規定値を上回る状況を、異常として精度よく判定でき、締結不良を未然に抑制できる。
【符号の説明】
【0051】
1 被締結部材
2 雌ねじ(ねじ部)
3 ボルト(締結部材)
4 雄ねじ(ねじ部)
10 回転装置
12 軸部
16 トルク検出部
50 制御装置
51 情報処理部(判定部)
100 締結装置
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9