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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114421
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】育苗床構造及び植付方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 24/23 20180101AFI20240816BHJP
   A01G 24/46 20180101ALI20240816BHJP
   A01G 22/22 20180101ALI20240816BHJP
【FI】
A01G24/23
A01G24/46
A01G22/22 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020177
(22)【出願日】2023-02-13
(71)【出願人】
【識別番号】501329644
【氏名又は名称】株式会社丸誠
(74)【代理人】
【識別番号】100080160
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 憲一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149205
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 泰央
(72)【発明者】
【氏名】川北 正樹
【テーマコード(参考)】
2B022
【Fターム(参考)】
2B022AA01
2B022BA12
2B022BA14
2B022BB03
(57)【要約】
【課題】カビ等の繁殖を抑制し発芽不良や育成不良を防止できる育苗床構造を提供する。
【解決手段】播種された積層培地がトレイ内に収容された育苗床の構造であって、前記播種された積層培地は、上面を播種対象面とする不発酵バーク粉砕物層と、同不発酵バーク粉砕物層上に播種された種子と、同種子を覆う覆土層と、が積重してなることとした。また、前記トレイは底部が略平坦に形成された平トレイであって、同平トレイ内の略全体に前記播種された積層培地が構築されていることや、前記トレイは前記積層培地を区画収容する複数のセルが形成されたセルトレイであって、前記セルのそれぞれに前記播種された積層培地が構築されていること等にも特徴を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
播種された積層培地がトレイ内に収容された育苗床の構造であって、
前記播種された積層培地は、
上面を播種対象面とする不発酵バーク粉砕物層と、
同不発酵バーク粉砕物層上に播種された種子と、
同種子を覆う覆土層と、が積重してなることを特徴とする育苗床構造。
【請求項2】
前記不発酵バーク粉砕物は、スギ又はヒノキ由来の樹皮の粉砕物であることを特徴とする請求項1に記載の育苗床構造。
【請求項3】
前記種子はイネの種子であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の育苗床構造。
【請求項4】
前記トレイは底部が略平坦に形成された平トレイであって、
同平トレイ内の略全体に前記播種された積層培地が構築されていることを特徴とする請求項1~3いずれか1項に記載の育苗床構造。
【請求項5】
前記不発酵バーク粉砕物層は、前記トレイの内形状に合わせて予め一体化された板状の成形体であることを特徴とする請求項4に記載の育苗床構造。
【請求項6】
前記トレイは前記積層培地を区画収容する複数のセルが形成されたセルトレイであって、
前記セルのそれぞれに前記播種された積層培地が構築されていることを特徴とする請求項1~3いずれか1項に記載の育苗床構造。
【請求項7】
請求項4又は請求項5に記載の育苗床構造を構成する不発酵バーク粉砕物層を構築するための板状の成形体であって、
収容するトレイの内形状と略同形状の外形状を有する不発酵バーク粉砕物と結着剤との混合物成形体の乾固物であることを特徴とする板状成形体。
【請求項8】
底部が略平坦に形成された平トレイ内の略全体に不発酵のバーク粉砕物を層状に敷設して、この敷設された層状の不発酵バーク粉砕物の上面に播種し、更に播種された種子を土で覆うことで前記平トレイ内に積層培地が収容された育苗床を構築する工程と、
構築した育苗床で前記種子に由来する植物の育苗を行う工程と、
前記育苗に供された積層培地から所定株ずつ苗を分取して付着した積層培地ごと圃場へ移植する工程と、
を有することを特徴とする植付方法。
【請求項9】
培地を区画収容するセルが底部に形成されたセルトレイの前記セルのそれぞれに不発酵のバーク粉砕物を層状に敷設して、この敷設された層状の不発酵バーク粉砕物の上面に播種し、更に播種された種子を土で覆うことで前記セル内に積層培地が収容された育苗床を構築する工程と、
構築した育苗床で前記種子に由来する植物の育苗を行う工程と、
前記育苗により伸長した苗の根により塊状に保持された積層培地を前記セルから抜去して、前記塊状の積層培地と共に苗を圃場へ移植する工程と、
を有することを特徴とする植付方法。
【請求項10】
育苗床の構築における播種面構成材としての不発酵バーク粉砕物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、育苗床構造及び植付方法に関する。
【背景技術】
【0002】
作物は、圃場に直接種を播いたり、予め育てた苗を圃場に移植することで植付が行われる。
【0003】
しかし、発芽した直後の生育は緩やかであるため、前者の如く直播きをすると圃場を長期にわたって使用することになり、土地の使用効率の観点において不利であり、また、除草を要する期間も長期化する。
【0004】
そこで後者の如く、栽培初期は圃場ではない別の場所に設置した育苗床にて種から苗になるまで集約的に育苗し、ある程度生育した段階で圃場に苗を移植する方法(以下、移植栽培法ともいう。)が広く行われている。
【0005】
このような移植栽培法によれば、育苗が行われている間は圃場で他の作物を栽培することができ、土地の使用効率の観点において有利であるほか、小面積で集約的に苗作りが行えるため病虫害の発生を効率的に防ぎ、生育の揃った苗作りが可能であり、更には雑草の管理も比較的容易である。
【0006】
この移植栽培法では、上述の如き苗の集約的栽培を実現するにあたり、所定の大きさのトレイ(多くの場合、両手で持てる程度の大きさのトレイ)内に育苗用の培地(培土等)を収容した育苗床が使用される。
【0007】
具体的には、底面が概ね平坦な平トレイ(育苗箱)や、培地を区画収容する複数の凹部(セル)を底面に整列して形成したセルトレイ(プラグトレイ)を使用し、種を播いた育苗床を適切な栽培環境下に配し、ある程度苗が大きく育った時点で所定の数の苗を分取したり、セルから抜去して圃場への移植が行われる(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008-131953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上述した移植栽培法では、種子や培地にカビが発生し易く発芽不良や生育不良になりやすいという問題があり、種子を消毒したり、播種時に農薬処理を行うなどしてこれを予防している。
【0010】
しかしながら、近年の健康志向や環境配慮の観点から、これら薬剤の使用をできるだけ避けたいとする要望もある。
【0011】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、カビ等の繁殖を抑制し発芽不良や育成不良を防止できる育苗床構造を提供する。
【0012】
また本発明では、カビ等の繁殖を抑制し発芽不良や育成不良を防止しつつ育苗でき、また、圃場への移植後においても移植部周辺の土壌の改良を図ることができ、引き続き苗をカビから守ることが可能な植付方法についても提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記従来の課題を解決するために、本発明に係る育苗床構造では、(1)播種された積層培地がトレイ内に収容された育苗床の構造において、前記播種された積層培地は、上面を播種対象面とする不発酵バーク粉砕物層と、同不発酵バーク粉砕物層上に播種された種子と、同種子を覆う覆土層と、が積重してなることとした。
【0014】
また、本発明に係る育苗床構造では、以下の点にも特徴を有する。
(2)前記不発酵バーク粉砕物は、スギ又はヒノキ由来の樹皮の粉砕物であること。
(3)前記種子はイネの種子であること。
(4)前記トレイは底部が略平坦に形成された平トレイであって、同平トレイ内の略全体に前記播種された積層培地が構築されていること。
(5)前記不発酵バーク粉砕物層は、前記トレイの内形状に合わせて予め一体化された板状の成形体であること。
(6)前記トレイは前記積層培地を区画収容する複数のセルが形成されたセルトレイであって、前記セルのそれぞれに前記播種された積層培地が構築されていること。
【0015】
また、本発明に係る板状成形体では、(7)上記(4)又は(5)に記載の育苗床構造を構成する不発酵バーク粉砕物層を構築するための板状の成形体であって、収容するトレイの内形状と略同形状の外形状を有する不発酵バーク粉砕物と結着剤との混合物成形体の乾固物であることとした。
【0016】
また、本発明に係る植付方法では、(8)底部が略平坦に形成された平トレイ内の略全体に不発酵のバーク粉砕物を層状に敷設して、この敷設された層状の不発酵バーク粉砕物の上面に播種し、更に播種された種子を土で覆うことで前記平トレイ内に積層培地が収容された育苗床を構築する工程と、構築した育苗床で前記種子に由来する植物の育苗を行う工程と、前記育苗に供された積層培地から所定株ずつ苗を分取して付着した積層培地ごと圃場へ移植する工程と、を有することとした。
【0017】
また本発明に係る植付方法では、(9)培地を区画収容するセルが底部に形成されたセルトレイの前記セルのそれぞれに不発酵のバーク粉砕物を層状に敷設して、この敷設された層状の不発酵バーク粉砕物の上面に播種し、更に播種された種子を土で覆うことで前記セル内に積層培地が収容された育苗床を構築する工程と、構築した育苗床で前記種子に由来する植物の育苗を行う工程と、前記育苗により伸長した苗の根により塊状に保持された積層培地を前記セルから抜去して、前記塊状の積層培地と共に苗を圃場へ移植する工程と、を有することとした。
【0018】
また本発明では、(10)育苗床の構築における播種面構成材として不発酵バーク粉砕物を使用することとした。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る育苗床構造によれば、播種された積層培地がトレイ内に収容された育苗床の構造において、前記播種された積層培地は、上面を播種対象面とする不発酵バーク粉砕物層と、同不発酵バーク粉砕物層上に播種された種子と、同種子を覆う覆土層と、が積重してなることとしたため、カビ等の繁殖を抑制し発芽不良や育成不良を防止できる育苗床構造を提供することができる。
【0020】
また、前記不発酵バーク粉砕物は、スギ又はヒノキ由来の樹皮の粉砕物であることとすれば、カビの発生をより堅実に抑制可能な育苗床構造とすることができる。
【0021】
また、前記種子はイネの種子であることとすれば、稲作の現場において堅実な苗の育成を行うことができる。
【0022】
また、前記トレイは底部が略平坦に形成された平トレイであって、同平トレイ内の略全体に前記播種された積層培地が構築されていることとすれば、高密度に育苗を行うことができ、使用するトレイの数が少なく、移植時のトレイ運搬に係る作業性を向上させることができる。
【0023】
また、前記不発酵バーク粉砕物層は、前記トレイの内形状に合わせて予め一体化された板状の成形体であることとすれば、育苗床の構築を更に容易にすることができ、またトレイ毎の不発酵バーク粉砕物量のばらつきを抑制し均等な育苗を行うことができる。
【0024】
また、前記トレイは前記積層培地を区画収容する複数のセルが形成されたセルトレイであって、前記セルのそれぞれに前記播種された積層培地が構築されていることとすれば、比較的品質の良い苗を得ることができ、移植時に根を切ることがなく、また移植後の苗の良好な生育を期待できる。
【0025】
また、上記(4)又は(5)に記載の育苗床構造を構成する不発酵バーク粉砕物層を構築するための板状の成形体であって、収容するトレイの内形状と略同形状の外形状を有する不発酵バーク粉砕物と結着剤との混合物成形体の乾固物であることとすれば、育苗床の構築を更に容易にすることができ、またトレイ毎の不発酵バーク粉砕物量のばらつきを抑制し均等な育苗を行うことができる。
【0026】
また、本発明に係る植付方法によれば、底部が略平坦に形成された平トレイ内の略全体に不発酵のバーク粉砕物を層状に敷設して、この敷設された層状の不発酵バーク粉砕物の上面に播種し、更に播種された種子を土で覆うことで前記平トレイ内に積層培地が収容された育苗床を構築する工程と、構築した育苗床で前記種子に由来する植物の育苗を行う工程と、前記育苗に供された積層培地から所定株ずつ苗を分取して付着した積層培地ごと圃場へ移植する工程と、を有することとしたため、カビ等の繁殖を抑制し発芽不良や育成不良を防止しつつ育苗でき、また、圃場への移植後においても移植部周辺の土壌の改良を図ることができ、引き続き苗をカビから守ることができる。
【0027】
また、本発明に係る更なる植付方法によれば、培地を区画収容するセルが底部に形成されたセルトレイの前記セルのそれぞれに不発酵のバーク粉砕物を層状に敷設して、この敷設された層状の不発酵バーク粉砕物の上面に播種し、更に播種された種子を土で覆うことで前記セル内に積層培地が収容された育苗床を構築する工程と、構築した育苗床で前記種子に由来する植物の育苗を行う工程と、前記育苗により伸長した苗の根により塊状に保持された積層培地を前記セルから抜去して、前記塊状の積層培地と共に苗を圃場へ移植する工程と、を有することとしたため、カビ等の繁殖を抑制し発芽不良や育成不良を防止しつつ育苗でき、また、圃場への移植後においても移植部周辺の土壌の改良を図ることができ、引き続き苗をカビから守ることができる。
【0028】
また本発明では、育苗床の構築における播種面構成材として不発酵バーク粉砕物を使用することとしたため、カビ等の繁殖を抑制し発芽不良や育成不良を防止しつつ育苗を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、播種済の積層培地をトレイ内に収容してなる育苗床の構造に関するものであり、特に、カビ等の繁殖を抑制し発芽不良や育成不良を防止できる育苗床構造を提供するものである。
【0030】
ここで積層培地は、上下に隣接する培地構成材を異ならせながら層状に重ねて構築した培地である。なお、隣り合っていなければ、同じ培地構成材の層が複数存在していても良い。
【0031】
積層培地を構成する培地構成材は、植物栽培に使用可能なものであれば特に限定されるものではなく、土や石に由来するものや、植物や藻を乾燥させたもの、ポリマー等によって寒天の如くゲル状に構成されるものの他、不織布やフェルトなど人工物も含む概念である。
【0032】
播種に使用される種、すなわち育苗される植物は、移植栽培法により栽培可能な植物であれば特に限定されるものではない。本実施形態に係る育苗床構造が適用された育苗床にて育苗可能な植物は、例えばイネやムギなどに代表される穀類、いも類や根菜類、鱗茎類、豆類、うり類、なす科果菜類、あぶらな科野菜、葉菜類、茎野菜類、食用花類の如き野菜類を挙げることができる。
【0033】
そして、本実施形態に係る育苗床構造の特徴としては、播種された(播種済の)積層培地は、上面を播種対象面とする不発酵バーク粉砕物層と、同不発酵バーク粉砕物層上に播種された種子と、同種子を覆う覆土層と、が積重してなる点が挙げられる。
【0034】
換言すると、本実施形態に係る育苗床構造は、不発酵バーク粉砕物と覆土との2つの培地構成材による層を備えており、相対的に下層となる不発酵バーク粉砕物層の上部に種が播かれ、その上層として土で覆われた構造を有する。
【0035】
特に、本実施形態に係る育苗床構造では、培地構成材として不発酵バーク粉砕物を採用し、しかも、層状とした不発酵バーク粉砕物の上部を播種対象面としている点で特徴的である。
【0036】
不発酵バーク粉砕物とは、発酵処理に供されていない樹皮の粉砕物であり、樹皮の由来となる植物は特に限定されるものではないが、例えば針葉樹、より具体的にはスギやヒノキとすることができる。
【0037】
「バーク」と称される園芸材料は、ホームセンターなどで広く販売されており、植物育成分野において比較的古くから親しまれた材料である。
【0038】
しかし、この園芸材料として広く知られた「バーク」は、所謂「バーク堆肥」のことであり、樹皮を発酵させて作られた堆肥を意味するものであって、不発酵の樹皮は含まないのが一般的である。
【0039】
一方、不発酵の樹皮であるバークチップは、ウッドチップと同様に樹木の根元に配するなどガーデニングの分野で使用されているものの、作物の育苗、しかもそのごく初期段階である発芽の段階にて生バークを使用するということは、本発明者が知る限り未だ行われていない。
【0040】
樹皮は元々樹木の外表面にて害虫や病害に対する防衛手段としての役割を担う部位であり、発酵処理が施されていない不発酵バーク(生バーク)は、他の植物の育成に不利に働く生理活性物質が多く、よって培地構成材としては適さないとの考えによるものと思われる。
【0041】
しかし本願発明者は、長年に亘る鋭意研究の末、この不発酵バークの粉砕物を敢えて育苗床に使用して、育苗段階での健全な苗の育成をより堅実なものとする本発明を完成させたのである。
【0042】
不発酵バーク粉砕物の粉砕のサイズは、植物の育苗に最適なサイズを選択すべきであって特に限定されるものではないが、概ね1mm~8mm程度で針状や薄片状、またはこれらが混合された状態とすることができる。
【0043】
不発酵バーク粉砕物の水分含量は特に限定されるものではないが、20~40w/w%であるのが望ましい。
【0044】
不発酵バーク粉砕物層の厚みは特に限定されるものではなく20mm以上が望ましいが、概ね15mm~25mmの範囲とすることができる。
【0045】
不発酵バーク粉砕物層には結着剤が含まれるようにしても良い。すなわち、不発酵バーク粉砕物を相互に結着させて不発酵バーク粉砕物層に保形性が付与されるようにすることで、苗の移植時に積層培地が崩壊してしまい、根に付随して移植される不発酵バーク粉砕物の量が減ってしまうことを防止できる。
【0046】
結着剤としては、食品として使用可能なものであれば良く、例えば食品用の増粘性を有する高分子を使用することができる。具体的には、デンプンやカルボキシメチルセルロースなどの多糖類やトレハロースの如き糖類が挙げられる。
【0047】
また不発酵バーク粉砕物層は、トレイの内形状やセルの内形状に合わせて予め一体化された板状やプラグ状の成形体を採用することもできる。このような板状成形体やプラグ状成形体は、例えば不発酵バーク粉砕物に結着剤含有液を散布し、必要に応じて所定の型枠に収容するなどして成形し、更に乾固させることでトレイの内形状やセルの内形状と略同形状の外形状とすることで得ることができる。不発酵バーク粉砕物層としてこのような板状成形体やプラグ状成形体を使用すれば、育苗床の構築を更に容易にすることができ、またトレイ毎の不発酵バーク粉砕物量のばらつきを抑制し均等な育苗を行うことができる。
【0048】
なお、不発酵バーク粉砕物に関し不発酵とは、上述したバーク堆肥の製造過程にて施されるような積極的な発酵処理が行われていないことを意味する。ただし、不発酵バーク粉砕物の製造を行う際に集積場等で山状に堆積させておくと、付着微生物により僅かながら自然分解(腐朽の過程)が進む場合があるが、これは積極的な発酵とはいえず、不発酵バーク粉砕物の製造原料として使用可能である。
【0049】
覆土層の培地構成材である土は、育苗対象である植物に適した土を選択すべきであって特に限定されるものではなく、例えば赤土や黒土、焼き土などを好適に使用することができる。
【0050】
覆土層の厚みは植物の発芽や生育に適した厚みとする必要があり、育苗対象である植物に適した厚みとすべきであるが、例えば3mm~5mmとすることができる。
【0051】
なお、トレイ内に収容される培地は、発芽や育苗を極端に抑制するものでなければ上述の積層培地に加えて培地構成材による更なる層が付加されていても良い。例えば、積層培地の更に下層として水はけのための軽石や小石の層を設けたりしても良い。
【0052】
育苗床を構成するトレイは、所謂育苗箱やセルトレイ(プラグトレイ、マルチキャビティコンテナ)など、育苗のために使用されるトレイを好適に使用することができる。
【0053】
例えば本実施形態に係る育苗床構造は、トレイは育苗箱のように底部が略平坦に形成された平トレイであって、同平トレイ内の略全体に前述の播種された積層培地が構築されることで構成されていても良い。
【0054】
また例えば、本実施形態に係る育苗床構造は、トレイは積層培地を区画収容する複数のセルが形成されたセルトレイであって、これらセルのそれぞれに先述の播種された積層培地が構築されることで構成されていても良い。
【0055】
また本願では、植付方法についても提供する。本実施形態に係る植付方法は、使用するトレイが先述の平トレイかセルトレイかの違いにより2つに大別され、また、それぞれ育苗床構築工程と、育苗工程と、移植工程とを備える。
【0056】
平トレイを使用する植付方法に関し、育苗床構築工程は、底部が略平坦に形成された平トレイ内の略全体に不発酵のバーク粉砕物を層状に敷設して、この敷設された層状の不発酵バーク粉砕物の上面に播種し、更に播種された種子を土で覆うことで前記平トレイ内に積層培地が収容された育苗床を構築する工程である。この育苗床構築工程を経ることで、本実施形態に係る育苗床構造が構築される。
【0057】
平トレイを使用する植付方法における育苗工程では、構築した育苗床で前述の種子に由来する植物の育苗が行われる。育苗は、その植物の特性や植付タイミング等に応じて適宜適切な手法により行う。特にこの育苗工程は、必要に応じて苗の根の伸長によって培地が一体的に保持される程度に至るまで行うこともできる。
【0058】
次に、平トレイを使用する植付方法における移植工程では、育苗に供された積層培地から所定株ずつ苗を分取して付着した積層培地ごと圃場へ移植する。特にこのとき、移植と同時に生バークである不発酵バーク粉砕物を圃場へすき込む点が特徴的であり、これにより土壌が肥沃となり、土壌改良が行われる。
【0059】
また特に平トレイで育苗した場合、苗の分取に伴い根の一部が切断され損傷を受けることとなるが、不発酵バーク粉砕物の高い抗菌性により病害を効果的に防止することができる。これはおそらく、発芽、育苗が不発酵バーク粉砕物と共に行われることで馴化され、移植後においても発育抑制などのデメリットは比較的少なく、むしろ病害予防機能が発揮され土壌改良が成されているものと考えられる。なおこのような効果は、特に苗の根の伸長によって培地が一体的に保持される程度に至るまで育苗した場合に顕著である。
【0060】
一方、セルトレイを使用する植付方法に関し、育苗床構築工程は、培地を区画収容するセルが底部に形成されたセルトレイの前記セルのそれぞれに不発酵のバーク粉砕物を層状に敷設して、この敷設された層状の不発酵バーク粉砕物の上面に播種し、更に播種された種子を土で覆うことで前記セル内に積層培地が収容された育苗床を構築する工程である。この育苗床構築工程を経ることで、本実施形態に係る育苗床構造が構築される。
【0061】
セルトレイを使用する植付方法における育苗工程は、先述の平トレイの場合と同様、構築した育苗床で種子に由来する植物の育苗を行う工程であり、苗の根の伸長によって培地が一体的に保持される程度(セル内形状と略同形状に保持された状況でも良いが、このような状況まで至らずとも、例えば根に積層培地が塊状に絡みついた状況)に至るまで行うのが望ましい。
【0062】
セルトレイを使用する植付方法における移植工程では、前記育苗により伸長した苗の根により塊状に保持された積層培地を前記セルから抜去して、前記塊状の積層培地と共に苗を圃場へ移植する。先述の平トレイと同様、移植と同時に生バークである不発酵バーク粉砕物を圃場へすき込む点が特徴的であり、これにより土壌が肥沃となり、土壌改良が行われる。
【0063】
セルトレイの場合、根はセル内表面に沿って伸延しているため、移植の際に根が切断されることは殆どなく、その後も苗の良好な生育が期待できる。また、不発酵バーク粉砕物層が根に囲繞された状態のまま圃場に移植されるため腐朽や散逸が抑制され、不発酵バーク粉砕物による効果を比較的長きに亘り享受することができる。
【0064】
このように、本実施形態に係る植付方法によれば、カビ等の繁殖を抑制し発芽不良や育成不良を防止しつつ育苗でき、また、圃場への移植後においても移植部周辺の土壌の改良を図ることができ、引き続き苗をカビから守ることができる。
【0065】
また本実施形態に係る育苗床構造や植付方法の如く、不発酵バーク粉砕物層の上部に播種すること、換言すれば、播種面構成材として不発酵バーク粉砕物を使用することで、上述の如く苗や移植後の良好な育成を期待することができる。
【0066】
また、イネの育苗には、主に天然の赤土を乾燥した物か焼成した焼き土を使用していたが、長年の採取により質の良い赤土の調達が困難になりつつある。この点、本実施形態に係る不発酵バーク粉砕物は、植林により再生可能な樹皮を主原料とするものであり、再生できない天然の土の代替として有用である。
【0067】
以下、本実施形態に係る育苗床構造や植付方法について、実際の構築過程や栽培過程の結果と共に、更に詳説する。なお以下の説明では、不発酵バーク粉砕物の由来となる植物はスギであり、栽培対象となる植物としてイネを選択した場合について説明するが、前述の如く植物(作物)の種類は適宜選択可能であることは言うまでも無い。本発明の本質は、発酵処理に供していない生の樹皮(生バーク)の害虫や病害に対する防護機能を育苗や土壌改良に適用したこと自体にあり、不発酵バーク粉砕物の由来となる植物種や栽培対象となる植物種は問わない点に留意すべきである。ただし、出願人は本願を権利化するにあたり、不発酵バーク粉砕物の由来となる植物種や栽培対象となる植物種等を限定することも妨げない。
【0068】
〔1.不発酵バーク粉砕物の調製〕
まず、不発酵バーク粉砕物の調製を行った。伐採されたスギを製材する際に副生する樹皮(バーク)を、発酵工程に供することなく株式会社丸誠製の粉砕機に供してスギの不発酵バーク粉砕物を得た。得られた不発酵バーク粉砕物は針状や薄片状の混合物であり、その粒径は、8mmメッシュの篩を通過できる程度に粉砕された。
【0069】
〔2.育苗床の作成〕
九州南部における稲作の作業スケジュールに準じ、平トレイとセルトレイとを使用して、2種の育苗床を作成した。作成にあたり、まず、所定濃度のカルボキシメチルセルロース水溶液を調製し、不発酵バーク粉砕物に散布しながら混合することで、結着剤であるカルボキシメチルセルロースが添加された不発酵バーク粉砕物を調製した。このように調製した結着剤含有の不発酵バーク粉砕物は、各トレイに収容された状態で水分が蒸発すると、糊が固化するように収容形状が保たれる程度の結着力が発揮される。従って、結着剤含有の不発酵バーク粉砕物のトレイ内への敷設作業は、まだ水分が完全に蒸発しておらず形を変えることができる状態のうちに行われる。
【0070】
平トレイ育苗床については、縦28cm(縦内寸)×横58cm(横内寸)×深さ3.4cm(深さ内寸)の平トレイ内に、略一定の厚さ(例えば、2.7cm~3.3cm)の層状に略全体にわたりトレイの内形状に合わせて不発酵バーク粉砕物を予め一体的に成形した板状成形体を敷設した。この板状成形体は、不発酵バーク粉砕物に結着剤含有液を散布し、所定の型枠に収容して成型し、更に乾固させることでトレイの内形状と略同形状の外形状としたものであり、1枚のトレイあたりの不発酵バーク粉砕物の使用量、すなわち、板状成形体に使用した不発酵バーク粉砕物の量は概ね4.5L~5Lであった。
【0071】
次に、形成した不発酵バーク粉砕物層の上部を播種面として1枚のトレイあたり150g~200gの籾を均等に播き、更にその上を厚さ5mm~8mm程度に焼き土で覆って覆土層を形成することで平トレイ内の略全体に積層培地を構築し、本実施形態に係る育苗床構造を備えた平トレイ育苗床A1を作成した。
【0072】
また、セルトレイ育苗床については、縦30cm(縦外寸)×横60cm(横外寸)でセルが縦10穴×横20穴(計200穴)形成されたセルトレイを使用した。
【0073】
各セルには、略一定の厚さ(例えば、2.7cm~3.3cm)の層状に結着剤が添加された不発酵バーク粉砕物を敷設した。
【0074】
次に、各セル内に形成した不発酵バーク粉砕物層の上部を播種面として、各セルあたり2~3粒の籾を播き、更にその上を各セルごと厚さ5mm~8mm程度に焼き土で覆って覆土層を形成することでセルトレイの各セルのそれぞれに積層培地を構築し、本実施形態に係る育苗床構造を備えたセルトレイ育苗床A2を作成した。
【0075】
また次に述べる比較観察のため、2種類の比較用平トレイ育苗床X1と比較用セルトレイ育苗床X2を作成した。比較用平トレイ育苗床X1は平トレイ育苗床A1と略同様の構成を備えているが、不発酵バーク粉砕物層に代えて培地構成材を赤土とする赤土層とし、この赤土層の上部を播種面としている点で相違している。また、比較用セルトレイ育苗床X2はセルトレイ育苗床A2と同様の構成を備えているが、同様に不発酵バーク粉砕物層に代えて赤土層の上部を播種面としている点で相違する。
【0076】
〔3.育苗状態の比較観察〕
5月10日に育苗床を作成し、一般的なイネの育苗作業と同様の手法により育苗を行った。その後、8日経過後の5月18日に発芽状況について観察した。その結果、平トレイ育苗床A1及びセルトレイ育苗床A2では、培地表面でのカビの発生は観察されなかったが、比較用平トレイ育苗床X1及び比較用セルトレイ育苗床X2では一部カビの発生が観察された。
【0077】
次に、育苗床作成から15日経過後の5月25日に苗の生育状況について観察した。その結果、平トレイ育苗床A1及びセルトレイ育苗床A2では、良好な苗の生育が見られた。一方、比較用平トレイ育苗床X1及び比較用セルトレイ育苗床X2も生育状況は概ね良好であったが、カビの発生が見られた部分では生育不良が観察された。
【0078】
育苗床作成から30日経過した移植前日である6月10日に、根の状況について観察した。その結果、平トレイ育苗床A1及び比較用平トレイ育苗床X1はいずれも、育苗によって伸長した苗の根により積層培地がシート状に保持された状態となっていた。ただし比較用平トレイ育苗床X1の生育不良部分については根の張りがやや少なく、培地の状態がやや不安定であった。
【0079】
また、セルトレイ育苗床A2及び比較用セルトレイ育苗床X2はいずれも、育苗により伸長した苗の根により積層培地が塊状に保持され、積層培地がセルから抜去可能な状態となっていた。ただし比較用セルトレイ育苗床X2の生育不良部分については根の張りがやや少なく、培地の状態がやや不安定であった。
【0080】
〔4.移植〕
育苗床作成から31日経過後の6月11日に田植機を使用し、圃場へ移植した。なお、以下の説明において、平トレイ育苗床A1から圃場へ移植した苗を平トレイ苗B1と称し、セルトレイ育苗床A2から移植した苗をセルトレイ苗B2、比較用平トレイ育苗床X1から移植した苗を比較用平トレイ苗Y1、比較用セルトレイ育苗床X2から移植した苗を比較用セルトレイ苗Y2と称する。
【0081】
〔5.移植後の生育状態の比較観察〕
移植から19日経過後の6月30日に、移植後の生育状態について観察を行った。まず、平トレイ苗B1とセルトレイ苗B2について個々の苗の葉の茂りや分げつの数を観察したところ、いずれも良好な生育ではあるものの、セルトレイ苗B2の方が平トレイ苗B1に比して葉が良く茂り、また分げつも多い傾向があった。
【0082】
また比較用平トレイ苗Y1と比較用セルトレイ苗Y2においても同様であり、いずれも生育は良好であるが、比較用セルトレイ苗Y2の方が比較用平トレイ苗Y1に比して葉が良く茂り、また分げつも多い傾向があった。
【0083】
また、平トレイ苗B1と比較用平トレイ苗Y1とを比較すると、平トレイ苗B1は比較用平トレイ苗Y1に比して葉が良く茂り、生育が良好であった。
【0084】
また、セルトレイ苗B2と比較用セルトレイ苗Y2との比較においても同様であり、セルトレイ苗B2は比較用セルトレイ苗Y2に比して葉が良く茂り、生育が良好であった。
【0085】
次に、平トレイ苗B1と比較用平トレイ苗Y1、及びセルトレイ苗B2と比較用セルトレイ苗Y2に関し、根の状態について比較観察を行った。
【0086】
平トレイ苗B1と比較用平トレイ苗Y1について比較を行ったところ、平トレイ苗B1は比較用平トレイ苗Y1に比して、移植時に切断された根の近傍において根の新生がより多く見られた。これは、移植と共に不発酵バーク粉砕物が土中に存在することとなった結果、移植後の土中において土壌が改良され、不発酵バーク粉砕物が切断された根の過剰な腐朽を抑制すると共に、不発酵バーク粉砕物のない場所から栄養分を吸収すべく可及的速やかに多くの根を伸延させたためであると考えられた。
【0087】
また、セルトレイ苗B2と比較用セルトレイ苗Y2について比較を行ったところ、セルトレイ苗B2は比較用セルトレイ苗Y2に比して、根が株元から外側へより広く伸びて倒伏しにくい状態であることが観察された。これは、移植と共に不発酵バーク粉砕物が土中に存在することとなった結果、移植後の土中において土壌が改良され、不発酵バーク粉砕物を含む積層培地から遠ざかるようにイネが根を伸延させたためであると考えられた。
【0088】
上述してきたように、本実施形態に係る育苗床構造によれば、播種された積層培地がトレイ内に収容された育苗床の構造において、前記播種された積層培地は、上面を播種対象面とする不発酵バーク粉砕物層と、同不発酵バーク粉砕物層上に播種された種子と、同種子を覆う覆土層と、が積重してなることとしたため、カビ等の繁殖を抑制し発芽不良や育成不良を防止できる育苗床構造を提供することができる。
【0089】
最後に、上述した各実施の形態の説明は本発明の一例であり、本発明は上述の実施の形態に限定されることはない。このため、上述した各実施の形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることは勿論である。