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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114436
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】バイオセンサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 25/20 20060101AFI20240816BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
G01N25/20 Z
G01N37/00 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020211
(22)【出願日】2023-02-13
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100120396
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】▲徳▼弘 香弥
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 峻平
(72)【発明者】
【氏名】小野 崇人
(72)【発明者】
【氏名】猪股 直生
【テーマコード(参考)】
2G040
【Fターム(参考)】
2G040AB14
2G040AB16
2G040BA24
2G040CA02
2G040CA13
2G040CA22
2G040CB03
2G040CB04
2G040DA02
2G040GA01
2G040HA06
(57)【要約】
【課題】 簡易な構成で、かつ電極表面で酵素反応が起きないと共に、光等の外部刺激によるノイズも生じ難い高感度・高精度な測定が可能なバイオセンサを提供すること。
【解決手段】 酵素Gを備えたバイオセンサ1であって、絶縁性の支持層2と、支持層の一方の面に設けられた検出用感熱部3Aと、検出用感熱部に接続された一対の検出用対向電極4Aと、検出用感熱部に対向して支持層の他方の面に固定された酵素Gとを備えている。また、支持層の一方の面に設けられた補償用感熱部3Bと、補償用感熱部に接続された一対の補償用対向電極4Bとを備え、補償用感熱部が、酵素が固定されていない領域5Bに対向した位置に配されていることが好ましい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵素を備えたバイオセンサであって、
絶縁性の支持層と、
前記支持層の一方の面に設けられた検出用感熱部と、
前記検出用感熱部に接続された一対の検出用対向電極と、
前記検出用感熱部に対向して前記支持層の他方の面に固定された前記酵素とを備えていることを特徴とするバイオセンサ。
【請求項2】
請求項1に記載のバイオセンサにおいて、
前記支持層の一方の面に設けられた補償用感熱部と、
前記補償用感熱部に接続された一対の補償用対向電極とを備え、
前記補償用感熱部が、前記酵素が固定されていない領域に対向した位置に配されていることを特徴とするバイオセンサ。
【請求項3】
請求項2に記載のバイオセンサにおいて、
前記支持層の他方の面に設けられていると共に、前記補償用感熱部が対向した前記酵素が固定されていない領域,前記検出用感熱部が対向した前記酵素が固定された領域の順に試験液を流す流路を備えていることを特徴とするバイオセンサ。
【請求項4】
請求項3に記載のバイオセンサにおいて、
前記酵素が固定されていない領域から前記酵素が固定された領域までの前記流路を内蔵した流路構成部材を備え、
前記流路構成部材が、前記流路の全体を覆っていると共に、前記試験液を前記酵素が固定されていない領域に供給する供給路と、前記酵素が固定された領域上の前記試験液を外部に排出する排出路とを備えていることを特徴とするバイオセンサ。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のバイオセンサにおいて、
前記支持層の一方の面に設けられた支持基板を備え、
前記支持基板が、前記支持層まで達した孔部を有し、
前記酵素が、前記検出用感熱部に対向した前記孔部内に固定されていることを特徴とするバイオセンサ。
【請求項6】
請求項5に記載のバイオセンサにおいて、
前記支持層が、SiN又はSiOで形成され、
前記支持基板が、Siで形成されていることを特徴とするバイオセンサ。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のバイオセンサにおいて、
前記検出用感熱部がサーミスタ材料で形成された薄膜サーミスタであることを特徴とするバイオセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グルコース等を高精度に検出可能なバイオセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基板上に温度変化を検知するトランスデューサ、電極、酵素で構成された薄膜構造のバイオセンサが知られている。このようなバイオセンサでは、バイオセンサ中に測定液(試験液)を流したときに、酵素反応が生じ、この酵素反応の熱の温度変化を検知するトランスデューサが感知することで、基質成分の濃度を算出している。
【0003】
例えば、特許文献1には、液体試料中の特定の基質成分を、基質成分に対応する酵素との触媒作用の反応熱により検出するバイオセンサチップについて記載されている。具体的には、基板から熱分離した薄膜に、液体試料が通る流路が形成されており、流路内の反応部もしくはその近傍に反応熱を検出する第1の温度センサが形成され、酵素固定用の電極が、反応部に形成した第1の温度センサとは電気的に独立に形成されており、電極から延在して流路外の基板上に酵素の電着固定のための酵素固定用電極パッドが形成され、流路内の電極に所定の酵素が固定されている、酵素固定バイオセンサチップが記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、流路中の反応部に表面酵素固定用のビーズを留置できるようにする留置用ピラーを有し、反応部内でビーズを配列させるための配列用ピラーを有するピラー配置バイオセンサが記載されている。
さらに、特許文献3には、感熱部と、感熱部に接続され互いに対向して形成された一対の対向電極と、少なくとも感熱部に固定された酵素を備え、感熱部が薄膜状で、酵素が少なくとも感熱部の表面に固定されているバイオセンサが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-203747号公報
【特許文献2】特開2019-27968号公報
【特許文献3】特開2021-117172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の技術は血液、尿などの液体試料中の基質の量を簡便に計測することができるものの、以下の課題が残されている。
すなわち、特許文献1および特許文献2に記載の技術では、バイオセンサの作製手順が多く、反応部を加熱できるようにヒータを形成してあるなど、複雑な構成となっているため、高コストで大量生産には不向きな作製方法である。
また、特許文献3では、サーミスタ(感熱部)による温度計測のため一定の電圧をバイオセンサに印加し続ける必要があり、酵素反応により発生した過酸化水素が電極表面で分解することで、電子が発生してしまう。この結果、電流が流れることで、酵素反応の熱だけを正確に測定することが困難であるという不都合があった。
さらに、電極は外場の影響を受けやすく、電極に光が照射された場合、温度変化に伴う応答に光の刺激によるノイズが加わるため、サーミスタの抵抗値変化が正確な温度変化を反映しておらず、電極面を酵素反応の反応場とすることは不向きであった。また、酵素を塗布する際、酵素液の粘性次第でサーミスタから液が漏出するなどして酵素を均一に塗布できないことがあるという不都合もあった。
【0007】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、簡易な構成で、かつ電極表面で酵素反応が起きないと共に、光等の外部刺激によるノイズも生じ難い高感度・高精度な測定が可能なバイオセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、第1の発明に係るバイオセンサは、酵素を備えたバイオセンサであって、絶縁性の支持層と、前記支持層の一方の面に設けられた検出用感熱部と、前記検出用感熱部に接続された一対の検出用対向電極と、前記検出用感熱部に対向して前記支持層の他方の面に固定された前記酵素とを備えていることを特徴とする。
【0009】
このバイオセンサでは、検出用感熱部に対向して支持層の他方の面に固定された酵素を備えているので、検出用感熱部と酵素とが互いに反対側に配されていることで、検出用対向電極表面で酵素反応が起きず、発生した過酸化水素が分解させずに電子が発生しない。したがって、酵素反応で生じた熱だけを検出用感熱部で感知することができる。また、検出用感熱部及び検出用対向電極の反対面が酵素の反応場となるため、検出用対向電極が光等の外部刺激に晒される頻度を減らすことができ、抵抗値測定におけるノイズが抑制される。
【0010】
第2の発明に係るバイオセンサは、第1の発明において、前記支持層の一方の面に設けられた補償用感熱部と、前記補償用感熱部に接続された一対の補償用対向電極とを備え、前記補償用感熱部が、前記酵素が固定されていない領域に対向した位置に配されていることを特徴とする。
すなわち、このバイオセンサでは、補償用感熱部が、酵素が固定されていない領域に対向した位置に配されているので、検出用感熱部で検知した酵素反応による熱に対して、補償用感熱部で検知した熱をリファレンスとすることができ、より高精度に酵素反応を検出することが可能になる。
【0011】
第3の発明に係るバイオセンサは、第2の発明において、前記支持層の他方の面に設けられていると共に、前記補償用感熱部が対向し前記酵素が固定されていない領域,前記酵素が固定された領域の順に試験液を流す流路を備えていることを特徴とする。
すなわち、このバイオセンサでは、支持層の他方の面に設けられていると共に、補償用感熱部が対向し酵素が固定されていない領域,酵素が固定された領域の順に試験液を流す流路を備えているので、試験液が酵素の固定されていない領域に流れた際に補償用感熱部がリファレンスとして熱を検出した後、同一の試験液が酵素の固定された領域に流れた際に検出用感熱部で酵素反応の熱を検出することができる。
【0012】
第4の発明に係るバイオセンサは、第3の発明において、前記酵素が固定されていない領域から前記酵素が固定された領域までの前記流路を内蔵した流路構成部材を備え、前記流路構成部材が、前記流路全体を覆っていると共に、前記試験液を前記酵素が固定されていない領域に供給する供給路と、前記酵素が固定された領域上の前記試験液を外部に排出する排出路とを備えていることを特徴とする。
すなわち、このバイオセンサでは、流路構成部材が、流路全体を覆っていると共に、試験液を酵素が固定されていない領域に供給する供給路と、酵素が固定された領域上の試験液を外部に排出する排出路とを備えているので、供給路から供給された試験液を酵素が固定されていない領域から酵素が固定された領域の順に流路を介して流した後、排出路から外部に排出させることができる。これにより、試験液をスムーズに流すことができ、試験液が流路内で滞留又は逆流してしまうことを抑制できる。また、流路構成部材が、流路全体を覆っているので、酵素や試験液に外部から光や熱等が加わることを抑制可能になる。
【0013】
第5の発明に係るバイオセンサは、第1から第4の発明のいずれかにおいて、前記支持層の一方の面に設けられた支持基板を備え、前記支持基板が、前記支持層まで達した孔部を有し、前記酵素が、前記孔部内に固定されていることを特徴とする。
すなわち、このバイオセンサでは、酵素が、検出用感熱部に対向した孔部内に固定されているので、酵素液を孔部内に流し込んで酵素を設置する際に、酵素の漏出を抑制することができる。また、支持層を支持基板で補強することで、構造を維持可能な強度を得ることができる。
【0014】
第6の発明に係るバイオセンサは、第5の発明において、前記支持層が、SiN又はSiOで形成され、前記支持基板が、Siで形成されていることを特徴とする。
すなわち、このバイオセンサでは、支持層が、SiN又はSiOで形成され、支持基板が、Siで形成されているので、半導体プロセスを用いたダイヤフラム構造を取ることができ、熱容量が低減されて検出用感熱部がより熱を検知し易くなる。
【0015】
第7の発明に係るバイオセンサは、第1から第6のいずれかの発明において、前記検出用感熱部がサーミスタ材料で形成された薄膜サーミスタであることを特徴とする。
すなわち、このバイオセンサでは、検出用感熱部がサーミスタ材料で形成された薄膜サーミスタであるので、上記ダイヤフラム構造と共に薄膜サーミスタを採用することで、全体の薄型化を図ることができ、熱容量をさらに低減することができる。これにより、微小な発熱でも十分な温度変化を生じさせて測定することが可能になる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係るバイオセンサによれば、検出用感熱部に対向して支持層の他方の面に固定された酵素を備えているので、検出用感熱部と酵素とが互いに反対側に配されていることで、簡易な構成で、かつ電極表面で酵素反応が起きずに酵素反応で生じた熱だけを検出用感熱部で感知することができると共に、光等の外部刺激による抵抗値測定におけるノイズを抑制することができる。
したがって、本発明のバイオセンサでは、グルコース等の微少量の生体物質について高精度な測定が可能になり、血糖自己測定器,中性脂肪測定器,尿検査機器等に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係るバイオセンサの一実施形態を示す概略的な断面図である。
図2】本実施形態のバイオセンサを示す平面図である。
図3】本実施形態のバイオセンサを示す底面図である。
図4】本実施形態のバイオセンサにおいて、検出用対向電極及び補償用対向電極を示す拡大平面図である。
図5】本発明に係るバイオセンサの比較例を示す概略的な断面図である。
図6】本発明に係るバイオセンサの実施例(a)及び比較例(b)において、レーザ光応答測定の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係るバイオセンサにおける一実施形態を、図1から図4を参照しながら説明する。なお、以下の説明に用いる図面の一部では、各部を認識可能又は認識容易な大きさとするために必要に応じて縮尺を適宜変更している。
【0019】
本実施形態のバイオセンサ1は、測定対象となる特定の基質成分に対して選択的に反応する酵素を備えたバイオセンサであって、図1から図4に示すように、絶縁性の支持層2と、支持層2の一方の面に設けられた検出用感熱部3Aと、支持層2の一方の面で検出用感熱部3Aに接続され互いに対向して形成された一対の検出用対向電極4Aと、検出用感熱部3Aに対向して支持層2の他方の面に固定された酵素Gとを備えている。
【0020】
また、本実施形態のバイオセンサ1は、支持層2の一方の面に設けられた補償用感熱部3Bと、支持層2の一方の面で補償用感熱部3Bに接続され互いに対向して形成された一対の補償用対向電極4Bとを備えている。
上記補償用感熱部3Bは、酵素Gが固定されていない領域5Bに対向した位置に配されている。
【0021】
さらに、本実施形態のバイオセンサ1は、上記支持層2の他方の面に設けられていると共に、補償用感熱部3Bが対向し酵素Gが固定されていない領域5B,酵素Gが固定された領域5Aの順に試験液を流す流路6を備えている。
すなわち、本実施形態のバイオセンサ1は、酵素Gが固定されていない領域5Bから酵素Gが固定された領域5Aまでの流路6を内蔵した流路構成部材7を備えている。
【0022】
上記流路構成部材7は、流路6全体を覆っていると共に、試験液を酵素Gが固定されていない領域5Bに供給する供給路8Aと、酵素Gが固定された領域5A上の試験液を外部に排出する排出路8Bとを備えている。
流路構成部材7は、例えばPDMS(ジメチルポリシロキサン)で形成されている。
なお、図1及び図3において、矢印Lは、試験液の流れる方向である。
また、試験液の流量は10μL/min~200μL/minが望ましく、50μL/min~100μL/minが更に望ましい。試験液の流量が200μL/minを超えると、試験液が流路6外に漏れるおそれがあるためである。
【0023】
また、本実施形態のバイオセンサ1は、支持層2の一方の面に設けられた支持基板9を備えている。
上記支持基板9は、支持層2まで達した一対の孔部9a,9bを有し、酵素Gが、一対の孔部9a,9bのうち検出用感熱部3Aに対向した孔部9a内に固定されている。
すなわち、孔部9a内は、酵素Gが固定された領域5Aとなり、孔部9b内は、酵素Gが固定されていない領域5Bとなる。
【0024】
上記支持層2及び支持基板9は、化学的に安定で、熱伝導性の高いものであればどのようなものでもよい。一例としては、支持層2は、SiN又はSiOで形成される。支持基板9は、Siで形成される。
本実施形態では、SiNの支持層2を採用している。すなわち、SiNの支持層2を下面に形成したSiの支持基板9において、反応性イオンエッチング法により孔部9a,9bが形成されており、ダイヤフラム構造となっている。
なお、ダイヤフラム構造のSiNの支持層2の厚みは約50nm~30μmが好ましい。すなわち、支持層2の厚みが約50nm未満だと、試験液(測定液)を流したときに検出用感熱部3Aのサーミスタが破損し易くなる。約30μmを超えると熱容量の低減の効果が得られ難く、酵素反応の熱を検知し難くなる。
【0025】
上記検出用感熱部3A及び補償用感熱部3Bは、サーミスタ材料で形成された薄膜サーミスタである。
また、一対の検出用対向電極4A及び一対の補償用対向電極4Bは、望ましくは、図4に示すように、対応する検出用感熱部3A又は補償用感熱部3Bの上で複数の櫛部4aを有して互いに対向配置された櫛形電極である。
なお、一対の検出用対向電極4A及び一対の補償用対向電極4Bは、対応する検出用感熱部3A又は補償用感熱部3Bの上にCrで形成されたCr電極部4bと、Cr電極部4bの上にAuで形成されたAu電極部4cとで構成されている。Cr電極部4bは検出用感熱部3A,補償用感熱部3Bと、検出用対向電極4A,補償用対向電極4Bとの接合を高めることができれば、Crに限らず任意の金属を用いることができる。
また、Au電極部4cは、導電性が高ければ、Auに限らず、任意の金属を用いることができる。
【0026】
上記検出用感熱部3A及び補償用感熱部3Bは、例えばAlを含有したAl含有窒化物のサーミスタ材料で形成されている。
上記Al含有酸化窒化物は、M-Al-N-O(但し、MはTi,Fe,Co,Mn,Cu,Ni,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,W,Zn,V及びCrの少なくとも1種を示す。)を含んでおり、その結晶構造が、六方晶系のウルツ鉱型の単相であるものが採用可能である。
【0027】
本実施形態では、検出用感熱部3A及び補償用感熱部3Bが、例えばTi-Al-Nのサーミスタ材料で矩形状に形成されたものであって、一般式:TiAl(0.70≦y/(x+y)≦0.95、0.4≦z≦0.5、x+y+z=1)で示される金属窒化物からなり、その結晶構造が、六方晶系のウルツ鉱型の単相である。この検出用感熱部3A及び補償用感熱部3Bは、膜厚方向にc軸配向度が高い膜である。
【0028】
この検出用感熱部3A及び補償用感熱部3Bは、例えば窒素含有雰囲気中の反応性スパッタ法にて成膜される。その時のスパッタ条件は、例えば、組成比Al/(Al+Ti)比=0.85のTi-Al合金スパッタリングターゲットを用い、到達真空度:4×10-5Pa、スパッタガス圧:0.2Pa、ターゲット投入電力(出力):200Wで、Arガス+窒素ガスの混合ガス雰囲気下において窒素ガス分圧:30%とする。
【0029】
また、一対の検出用対向電極4A及び一対の補償用対向電極4Bは、櫛部4aに接続され支持層2の底面(一方の面)にパターン形成された一対の接続用配線4dと、一対の接続用配線4dに接続され支持層2の底面にパターン形成された一対のパッド部4eとをそれぞれ有している。
上記パッド部4eは、外部のリード線等を接続するために、延在している接続用配線4dの主部よりも幅広な矩形状に形成された端子部である。
【0030】
本実施形態のバイオセンサ1を、上記基質成分としてグルコースを検出するグルコースセンサとして用いる場合、上記酵素Gとして、例えばグルコースオキシダーゼ(GOD)が採用可能である。
このグルコースオキシダーゼ(酵素G)は、リン酸緩衝溶液(pH=7)にグルコースオキシダーゼを溶解させ、12UμL-1の溶液を調製し、この溶液を、検出側の孔部9a内に滴下することで、検出側の孔部9aの底部に酵素Gが固定された領域5Aを形成する。
【0031】
酵素Gのグルコースオキシダーゼは、以下のような酵素反応を示す。
(グルコースオキシダーゼ)
グルコース+O→ グルコノラクトン+H
この感応過程で生じた熱による検出用感熱部3Aの抵抗値変化を検出することで、グルコース濃度を測定することができる。
なお、本実施形態のバイオセンサ1は、検出する基質成分はグルコースに限らず、コレステロールや、クレアチニン等であってもよい。その場合、酵素Gには、コレステロールオキシターゼ、クレアチニナーゼ、クレアチナーゼ、 サルコシンオキシダーゼ等の酵素を用いることができる。
【0032】
次に、本実施形態のバイオセンサ1の製造方法について、グルコースセンサの場合を例に、詳しく以下に説明する。
まず、厚さ300μmのSi/SiN基板(SiNの支持層2を形成したSiの支持基板9)のSiNの支持層2上に、上記Ti-Al-Nのサーミスタ材料をスパッタリング法により厚さ300nm成膜し、エッチングにより0.60mm×0.63mmの四角形にパターニングして、薄膜サーミスタの検出用感熱部3A及び補償用感熱部3Bとする。
【0033】
次に、スパッタリング法によりCr(厚さ20nm)/Au(厚さ200nm)を成膜し、フォトレジストを塗布して露光した後、ウェットエッチングにより検出用対向電極4A及び補償用対向電極4Bのパターニングをする。さらに、反応性イオンエッチング法により検出用感熱部3A及び補償用感熱部3Bに対向するSiの支持基板9の部分を孔加工して一対の孔部9a,9bを形成し、ダイヤフラム構造を作製する。
【0034】
次に、超純水にグルコースオキシダーゼを溶解させ、30UμL-1の溶液を調製し、さらにこれを感光性酵素固定剤と混合したもの(酵素液)を、検出用感熱部3Aに対向した孔部9a内にマイクロピペットを用いて0.5μL滴下する。滴下した酵素液を完全に乾燥させた後、孔部9a内に紫外線照射によって酵素Gの膜状に固定する。
さらに、支持基板9上にPDMSで作製した流路構成部材7を設置する。この流路構成部材7の流路6は、リファレンス部分である酵素Gが固定されていない領域5Bの孔部9bと酵素Gが固定された領域5Aの孔部9aとを、試験液が一直線上に通過するように構成されている。
【0035】
このように本実施形態のバイオセンサ1では、検出用感熱部3Aに対向して支持層2の他方の面に固定された酵素Gを備えているので、検出用感熱部3Aと酵素Gとが互いに反対側に配されていることで、検出用対向電極4A表面で酵素反応が起きず、発生した過酸化水素が分解されずに電子が発生しない。したがって、酵素反応で生じた熱だけを検出用感熱部3Aで感知することができる。また、検出用感熱部3A及び検出用対向電極4Aの反対面が酵素Gの反応場となるため、検出用対向電極4Aが光等の外部刺激に晒される頻度を減らすことができ、抵抗値測定におけるノイズが抑制される。
【0036】
また、補償用感熱部3Bが、酵素Gが固定されていない領域5Bに対向した位置に配されているので、検出用感熱部3Aで検知した酵素反応による熱に対して、補償用感熱部3Bで検知した熱をリファレンスとすることができ、より高精度に酵素反応を検出することが可能になる。
また、支持層2の他方の面に設けられていると共に、補償用感熱部3Bが対向し酵素Gが固定されていない領域5B、酵素Gが固定された領域5Aの順に試験液を流す流路6を備えているので、試験液が酵素Gの固定されていない領域5Bに流れた際に補償用感熱部3Bがリファレンスとして熱を検出した後、同一の試験液が酵素Gの固定された領域5Aに流れた際に検出用感熱部3Aで酵素反応の熱を検出することができる。
【0037】
また、流路構成部材7が、流路6全体を覆っていると共に、試験液を酵素Gが固定されていない領域5Bに供給する供給路8Aと、酵素Gが固定された領域5A上の試験液を外部に排出する排出路8Bとを備えているので、供給路8Aから供給された試験液を酵素Gが固定されていない領域5Bから酵素が固定された領域5Aの順に流路6を介して流した後、排出路8Bから外部に排出させることができる。これにより、試験液をスムーズに流すことができ、試験液が流路6内で滞留又は逆流してしまうことを抑制できる。また、流路構成部材7が、流路6全体を覆っているので、酵素Gや試験液に外部から光や熱等が加わることを抑制可能になる。
【0038】
また、酵素Gが、検出用感熱部3Aに対向した孔部9a内に固定されているので、酵素液を孔部9a,9b内に流し込んで酵素Gを設置する際に、酵素Gの漏出を抑制することができる。また、支持層2を支持基板9で補強することで、構造を維持可能な強度を得ることができる。
特に、支持層2が、SiN又はSiOで形成され、支持基板9が、Siで形成されているので、半導体プロセスを用いたダイヤフラム構造を取ることができ、熱容量が低減されて検出用感熱部がより熱を検知し易くなる。
さらに、検出用感熱部3Aがサーミスタ材料で形成された薄膜サーミスタであるので、上記ダイヤフラム構造と共に薄膜サーミスタを採用することで、全体の薄型化を図ることができ、熱容量をさらに低減することができる。これにより、微小な発熱でも十分な温度変化を生じさせて測定することが可能になる。
【実施例0039】
上記実施形態で作製した本発明のバイオセンサの実施例を用いて、実際に試験液を流路6に流し込んで測定した結果について説明する。
試験液として100mMのグルコース溶液を50μL/minの流量で、マイクロチューブポンプを用いて流路6内に送液し、検出用感熱部3Aと補償用感熱部3Bとの抵抗値を同時に測定した。
【0040】
なお、本実施例のバイオセンサをコネクタに接続し、データロガーを用いて抵抗値を連続的に記録した。さらに、23℃の超純水に浸した際の抵抗値を基準とした。
また、比較例として、図5に示すように、流路6側に検出用感熱部24A及び補償用感熱部24Bを形成し、検出用感熱部24A及び検出用対向電極4A上に酵素Gが固定された領域25Aを形成したバイオセンサ100も作製し、同様に測定した。
【0041】
この抵抗値変化の結果、本発明の実施例では、抵抗値はグルコース溶液が酵素膜に接触してから急激に低下し、接触から一定時間後に初期抵抗値を基準とした時の、酵素Gとは反対側に配された検出用感熱部3Aと補償用感熱部3Bとの抵抗値差分を調べると、約15%変動していた。
すなわち、この抵抗値差分は、グルコース溶液とグルコースオキシダーゼとの酵素反応による発熱を示している。
【0042】
なお、比較例の抵抗値は、接触から一定時間後に初期抵抗値を基準とした時の、流路6内に露出していると共に酵素Gが固定されている検出用感熱部3Aと、流路6内に露出している補償用感熱部3Bとの抵抗値差分を調べると約30%変動していた。
このように検出用感熱部3Aの表面に酵素Gを固定した比較例と比較して、本発明の実施例では、抵抗値変化率が減少していた。これは、比較例において検出用対向電極4Aの表面で起こる過酸化水素の電気分解で生じた電子の影響が、本発明の実施例では取り除かれたことを示している。
【0043】
さらに、補償用感熱部3Bのサイズを1.225mm×1.375mmとしたときの本発明の実施例を用いて、補償用感熱部3Bに対するレーザ光応答測定を行った。
なお、このレーザ光応答測定は、半導体レーザ(波長:663nm)を照射し、周波数0.1Hzの時の抵抗値変化を測定した。ファンクションジェネレーター上では0.55Vの矩形波を入力した。レーザ光パワー強度は46.5mAの時に272μWとした。
【0044】
このレーザ光応答測定では、レーザ光を酵素Gが固定されていない領域5Bに照射することで、補償用感熱部3Bにおける抵抗値変化を測定している。
すなわち、補償用感熱部3Bに対向しているダイヤフラム構造の孔部9b(酵素Gが固定されていない領域5B)に周波数0.1Hzのレーザ光を照射し、レーザ光のON,OFFを繰り返したときの抵抗値変化を測定した。その測定結果を図6の(a)に示す。
【0045】
なお、上記比較例の補償用感熱部3Bに対しても同様にレーザ光応答測定を行った。この比較例では、レーザ光を補償用対向電極4Bに直接照射している。なお、この測定では、上記比較例において流路構成部材7を除いた状態でレーザ光を照射している。また、この比較例では、補償用感熱部3Bのサイズを0.915mm×0.845mmとした。その測定結果を図6(b)に示す。
これらの測定の結果、比較例では、レーザ光照射のON,OFF時に抵抗値のノイズが生じているのに対し、本発明の実施例では、レーザ光照射のON,OFF時の抵抗値のノイズが抑制されている。すなわち、本発明の実施例では、補償用対向電極4Bの表面にレーザ光照射の刺激が生じないことで、ノイズが抑制されている。
【0046】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0047】
1,100…バイオセンサ、2…支持層、3A…検出用感熱部、3B…補償用感熱部、4A…検出用対向電極、4B…補償用対向電極、5A…酵素が固定された領域、5B…酵素が固定されていない領域、6…流路、7…流路構成部材、8A…供給路、8B…排出路、9…支持基板、9a,9b…孔部、G…酵素
図1
図2
図3
図4
図5
図6