(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114450
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】ワークの加工方法
(51)【国際特許分類】
B22F 10/38 20210101AFI20240816BHJP
B22F 10/66 20210101ALI20240816BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240816BHJP
B33Y 50/02 20150101ALI20240816BHJP
B22F 10/25 20210101ALI20240816BHJP
B22F 12/82 20210101ALI20240816BHJP
【FI】
B22F10/38
B22F10/66
B33Y10/00
B33Y50/02
B22F10/25
B22F12/82
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020235
(22)【出願日】2023-02-13
(71)【出願人】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121142
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 恭一
(72)【発明者】
【氏名】後藤 和秀
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】山本 誠栄
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018FA06
4K018KA70
(57)【要約】
【課題】簡易且つ短時間で低コストとなる工程により、表面に積層造形部を有する金属製のワークの表面の硬さを目的硬さとする。
【解決手段】積層造形部22において所定の目的硬さの領域Eが表面に残る深さLを取り代として、母材20の表面に、目的形状21よりも深さLだけ厚みが大きくなるように積層造形部22を形成し、積層造形された積層造形部22から深さLの取り代を除去して目的形状21まで加工することで、当該加工後に残る目的形状21の積層造形部22の表面を目的硬さとする。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の母材の表面に積層造形部を形成し、形成した前記積層造形部の表面の少なくとも一部を、所定の目的硬さの領域が表れる所定の深さまで加工することで、当該加工後に残る前記積層造形部の表面を前記目的硬さとすることを特徴とするワークの加工方法。
【請求項2】
前記所定の深さまでの厚みを取り代として、前記母材の表面に、所定の目的形状よりも前記取り代だけ厚みが大きくなるように前記積層造形部を形成し、形成した前記積層造形部から前記取り代を除去する加工を行うことで、当該加工後に残る前記目的形状の前記積層造形部の表面を前記目的硬さとすることを特徴とする請求項1に記載のワークの加工方法。
【請求項3】
前記所定の深さは、前記積層造形部の硬さ分布から決定することを特徴とする請求項1又は2に記載のワークの加工方法。
【請求項4】
前記硬さ分布は、前記積層造形部と同じ条件で予め作製した試験片を測定して取得することを特徴とする請求項3に記載のワークの加工方法。
【請求項5】
前記所定の深さは、前記試験片の所定の基準面からの深さと、当該深さにおける前記基準面に沿った所定範囲での平均硬さとに基づいて決定することを特徴とする請求項4に記載のワークの加工方法。
【請求項6】
前記母材の表面に前記積層造形部を形成する前に、前記積層造形部の表面の加工後に残る前記目的硬さの領域以上の厚みで前記母材の表面を予め除去することを特徴とする請求項1又は2に記載のワークの加工方法。
【請求項7】
前記積層造形部において、前記目的硬さの領域よりも深い位置では、積層される層ごとの硬さが大小交互に変化する硬さ変化層となっており、前記母材の表面を除去する厚みは、前記硬さ変化層の一部又は全部が含まれない厚みとすることを特徴とする請求項6に記載のワークの加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、金属製の母材の表面に積層造形部を形成し、形成した積層造形部を所定の目的形状に加工するワークの加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属表面の機能性付加を目的とした積層造形が良く知られている。積層造形は、レーザや電子ビームなどのエネルギーにより金属粉末と母材を溶融し固めることで、金属製のワークに付加加工を施して積層造形部を形成する技術である。母材と異なる種類の金属粉末を使用すれば母材表面だけ異種金属でコーティングできるという従来にない加工が可能となる。この場合、母材よりも硬さのある金属粉末を使用すれば、ワーク表面を硬化させ機能性を持たせることができる。
一方で、従来、ワークの表面を所望の硬さにするためには一般的には熱処理炉によって熱処理を行っており、熱処理温度やワークの冷却速度で目的の硬さを得ている。例えば、非特許文献1に開示されているように、熱処理によって硬さを調整する場合は、熱処理の温度や保持時間、冷却速度等を変化させる手法が知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】「若い技術者のための機械・金属材料」第3版(2017年1月25日発行、丸善出版)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、非特許文献1の記載のような従来の熱処理方法は、専用の熱処理炉が必要となるなど装置が大掛かりである。また、全体を加熱することでワークが変形してしまうため、後工程で所望の形状とするための除去加工が必要であり、長時間の加工時間を要する問題点があった。また、加工間での熱処理作業であり、別装置で行う作業工程であるため、工程が煩雑となる。
【0005】
そこで、本開示は、簡易且つ短時間で低コストとなる工程により、ワークの積層造形部の表面を目的硬さとすることができるワークの加工方法を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本開示は、金属製の母材の表面に積層造形部を形成し、形成した前記積層造形部の表面の少なくとも一部を、所定の目的硬さの領域が表れる所定の深さまで加工することで、当該加工後に残る前記積層造形部の表面を前記目的硬さとすることを特徴とする。
本開示の別の態様は、上記構成において、前記所定の深さまでの厚みを取り代として、前記母材の表面に、所定の目的形状よりも前記取り代だけ厚みが大きくなるように前記積層造形部を形成し、形成した前記積層造形部から前記取り代を除去する加工を行うことで、当該加工後に残る前記目的形状の前記積層造形部の表面を前記目的硬さとすることを特徴とする。
本開示の別の態様は、上記構成において、前記所定の深さは、前記積層造形部の硬さ分布から決定することを特徴とする。
本開示の別の態様は、上記構成において、前記硬さ分布は、前記積層造形部と同じ条件で予め作製した試験片を測定して取得することを特徴とする。
本開示の別の態様は、上記構成において、前記所定の深さは、前記試験片の所定の基準面からの深さと、当該深さにおける前記基準面に沿った所定範囲での平均硬さとに基づいて決定することを特徴とする。
本開示の別の態様は、上記構成において、前記母材の表面に前記積層造形部を形成する前に、前記積層造形部の表面の加工後に残る前記目的硬さの領域以上の厚みで前記母材の表面を予め除去することを特徴とする。
本開示の別の態様は、上記構成において、前記積層造形部において、前記目的硬さの領域よりも深い位置では、積層される層ごとの硬さが大小交互に変化する硬さ変化層となっており、前記母材の表面を除去する厚みは、前記硬さ変化層の一部又は全部が含まれない厚みとすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、簡易且つ短時間で低コストとなる工程により、ワークの積層造形部の表面を目的硬さとすることができる。
また、例えば複合加工機のように、ワンチャッキングで積層造形加工と積層造形部の表面加工とが行える機械を使用でき、さらなる生産性の向上が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】試験片と硬さ分布の測定方法とを示す説明図である。
【
図3】試験片の上面からの深さと平均硬さとの関係を示すグラフである。
【
図4】積層造形前に母材の表面を除去加工したワークの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、金属製の母材2の表面の所定の領域に、目的硬さとなる積層造形部3が目的形状に形成されてなるワーク1を示す。このワーク1が本開示の加工方法で加工される。
まず、ワーク1の加工前の準備として、仕上げ加工前の積層造形部における最適な取り代を求めるため、予め積層造形部の硬さ分布を測定する。以下、その工程を説明する。
最初に、
図2に示す厚みTの試験片11を母材10に対し積層造形により作製する。母材10は、ワーク1の母材2と同じ材料であり、試験片11は、積層造形部3と同じ材料である。但し、母材10と母材2とは同じ材料である必要はなく、例えば母材10をS45Cとし、母材2をSKD61とする等、異なる材料であってもよい。各材料はコストや入手性等に応じて適宜選択して差し支えない。
次に、作製した試験片11の断面の硬さ分布を、測定ピッチtでマイクロビッカースなどの硬さ測定手段を用い、試験片11の上面に沿った左右方向及び上下方向でそれぞれ等間隔となる複数の測定点P,P・・で測定する。測定は、本例では試験片11の最上面近傍から測定したが、表面の凹凸の除去が必須となる範囲を除外して測定してもよいし、予め試験片11の積層造形部の上面の一部を切削加工などで除去したものを使用して測定してもよい。
【0010】
次に、
図2に点線で示すように、試験片11の上面に沿って延びる平均硬さ算出範囲12を規定して、同一深さの各測定点Pの平均硬さH
Aを算出する。この平均硬さH
Aは深さが異なる各平均硬さ算出範囲12でそれぞれ算出する。
次に、
図3に示すように、試験片11の上面からの深さと、各平均硬さ算出範囲12の平均硬さH
Aとの関係を示すグラフを作成する。今回は上面を基準面として説明しているが、位置ごとの平均硬さを求めることができればよい。よって、上面を除去加工した切削面を基準面としたり、明らかに除去することがわかる外周部を除く範囲を設定して当該範囲を基準面としたりしてもよい。
次に、そのグラフから、目的硬さHが得られる試験片11の上面からの深さを決定する。本例では、上面からの深さがLとなる位置で目的硬さHが得られることを示しているが、測定点の情報から上面からの深さと硬さとの関数の近似曲線を求める方法と組み合わせてもよいし、目的硬さに近似する複数の測定点の情報を使用するなど、平均硬さの情報と上面からの深さの情報とを使用するものであれば形態を問わない。
【0011】
図2に示すように、試験片11の厚みをT、目的硬さHが得られる平均硬さ算出範囲12を含む領域Eの厚みをt’として、試験片11の上面から深さLの位置に目的硬さHの領域Eが存在すると設定すると、±t’/2の範囲で領域Eが厚みt’で存在する。ここで、領域Eを含む上側部分を除去した後の試験片11の厚みをXとすると、厚みXは、以下の式(1)で示される。
(T-L)-t’/2≦X<(T-L)+t’/2 ・・(1)
なお、t’は、測定ピッチtと同一であってもよいし、予め設定した値を使ってもよく、軽微な変更は容認される。
【0012】
次に、ワークを目的形状に加工する工程を説明する。
ワーク表面に積層造形を行うための前加工として、
図4に示すように、金属製の母材20の積層造形範囲において、目的形状21に対して積層造形前除去量(以下単に「除去量」という。)Yの厚みだけ除去加工する。
この除去量Yは、積層造形部の表面を目的硬さHにするため、予め積層造形部の硬さ分布を測定する工程で求めた関係から、以下の式(2)の範囲内となるように形状を決定する。
(T-L)-t’/2≦Y<(T-L)+t’/2 ・・(2)
この範囲であれば、深さL分を除去した後の表面に目的硬さHの領域Eの一部が残ることになる。
【0013】
除去量Yは、先に説明した厚みXと原則同じであるが、ここでt’に幅を持たせて決定しているのは、ワークにコーナー部があると積層する際に高さが増減するためで、積層造形を行う母材の表面が平坦であれば、除去量YはT-Lとなる。
但し、硬さ分布より層数の変更など硬さに影響がないことがわかっている場合、除去量は、層数を加味した値Y’に変更するなど、予め積層造形部の硬さ分布を測定する工程で求めた情報から変化させてもよい。積層造形では、所定の深さ以上となると、層ごとの硬さの変化が繰り返される場合がある。例えば
図3では、上面からの深さ約1.2mmの層で平均硬さH
Aが大きくなった後、深くなるにつれて平均硬さH
Aが小さくなり、上面からの深さ約1.8mmの層で再び平均硬さH
Aが大きくなる山が表れて、以後大小の変化が繰り返されている。このような硬さ変化層Rがある場合、少なくとも硬さ変化層Rの厚み分は除去量Yを小さくしても問題はない。
よって、例えば積層造形を、硬さ変化層Rが表れる1番目の山と2番目の山との境となる深さL1までとして、硬さ変化層Rが含まれないように除去量Y’(
図5Bに示す)を決定すれば、母材20の表面での除去量が小さくなり、加工時間及び加工コストの一層の削減に繋がる。この除去量Y’は、本例のように硬さ変化層Rの全部でなく一部が含まれないように決定してもよい。
【0014】
次に、
図5Aに示すように、母材20において表面を除去した範囲に、試験片11の作製時と同一の積層造形条件(例えばレーザの送り速度や出力するエネルギー量)で、深さLと除去量Y’とが含まれる厚みTで積層造形を行い、積層造形部22を形成する。
すると、
図5AのA部拡大図である
図5Bに示すように、積層造形部22は、除去量Y’分の厚みを除いて試験片11と同一条件で積層造形された状態となる。この状態で目的硬さHの領域Eは、深さLと除去量Y’との間に位置して領域E内に目的形状21が含まれることになる。
最後に、
図1と同じ目的形状21まで、切削加工などの手段により、表面から取り代となる深さL分だけ除去加工を施す。すると、
図6に示すように、母材2の表面に、目的硬さHとなる領域Eが全体に表れる積層造形部3が形成されたワーク1が得られる。
【0015】
このように、上記形態のワーク1の加工方法は、金属製の母材20の表面に積層造形部22を形成し、形成した積層造形部22の表面を、所定の目的硬さHの領域Eが表れる所定の深さLまで加工することで、当該加工後に残る積層造形部3の表面を目的硬さHとする。
この構成によれば、簡易且つ短時間で低コストとなる工程により、ワーク1の積層造形部3の表面を目的硬さHとすることができる。また、例えば複合加工機のように、ワンチャッキングで積層造形加工と積層造形部22の表面加工とが行える機械を使用でき、さらなる生産性の向上が期待できる。
【0016】
特に、所定の深さLまでの厚みを取り代として、母材20の表面に、所定の目的形状21よりも深さLだけ厚みが大きくなるように積層造形部22を形成し、形成した積層造形部22から深さLの厚みを除去する加工を行うことで、当該加工後に残る目的形状21の積層造形部3の表面を目的硬さHとしている。
よって、目的形状21に合わせて表面が目的硬さHとなる積層造形部3が簡単に得られる。
所定の深さLは、積層造形部22の硬さ分布から決定するので、表面が目的硬さHとなる取り代を容易に決定可能となる。
硬さ分布は、積層造形部22と同じ条件で予め作製した試験片11を測定して取得するので、正確な硬さ分布が取得され、当該硬さ分布に基づいた取り代の決定が可能となる。
所定の深さLは、試験片11の上面(所定の基準面の一例)からの深さと、当該深さにおける平均硬さ算出範囲12(基準面に沿った所定範囲の一例)での平均硬さHAとに基づいて決定するので、目的硬さHが表面に残る深さLが正確に決定可能となる。
【0017】
母材20の表面に積層造形部22を形成する前に、積層造形部22の表面の加工後に残る目的硬さHの領域E以上の厚みとなる除去量Y(又はY’)で母材20の表面を予め除去するので、加工後の積層造形部3の表面に目的硬さHの領域Eを確実に残すことができる。
積層造形部22において、目的硬さHの領域Eよりも深い位置では、積層される層ごとの硬さが大小交互に変化する硬さ変化層Rとなっており、母材20の表面を除去する厚みである除去量Y’は、硬さ変化層Rの全部が含まれない厚みとなっているので、母材20の除去量が小さくなって母材加工や積層造形に要する時間及びコストの削減に繋がる。
【0018】
以下、本開示の変更例を説明する。
積層造形加工の方式は問わず、熱加工であれば良く、レーザ、電子ビームや溶接の方式を使用してもよい。母材と積層造形部との材料は、同じであってもよいし、異なるものであってもよい。
上記形態では、予め作製した試験片を測定して取り代となる深さを取得しているが、積層造形部の材料や厚みごとに予め記憶させておいた値を使用したり、作業者がその都度入力したりして取り代を決定してもよい。
積層造形前の母材加工における除去量は、加工後に残る目的硬さの領域以上の厚みであれば、適宜変更できる。但し、母材の厚みが除去量よりも小さくなる場合は、母材加工は不要となる。
目的硬さは、平均硬さでなくてもよい。
目的硬さの領域は、積層造形部の全部でなく一部に表れるものであってもよい。すなわち、積層造形部の一部のみが目的硬さとなるものであってもよい。この一部は複数箇所あってもよい。この場合、各一部ごとに取り代を変更することで目的硬さを異ならせることもできる。
積層造形部は、母材の表面へ連続して形成されるものに限らず、断続的に形成されるものであってもよい。この場合も各積層造形部ごとに取り代を変えることで目的硬さを異ならせることができる。
【0019】
上記形態では、所定の深さまでの厚みを取り代として、母材の表面に、目的形状よりも取り代だけ厚みが大きくなるように積層造形部を形成して取り代を除去することで、目的形状のワークを加工する方法で説明しているが、本開示はこれに限らず、目的形状に関係なく、単純に積層造形部の表面の一部又は全部を、所定の目的硬さの領域が表れる所定の深さまで加工することで、加工後に残る積層造形部の表面を目的硬さとするワークの加工方法も含む。
【符号の説明】
【0020】
1・・ワーク、2,10,20・・母材、3,22・・積層造形部、11・・試験片、12・・平均硬さ算出範囲、21・・目的形状、H・・目的硬さ、HA・・平均硬さ、P・・測定点、T・・試験片の厚み、t・・測定ピッチ、E・・目的硬さの領域、t’・・目的硬さの領域の厚み、L・・目的硬さが存在する深さ、X・・領域を含む上側部分を除去した後の試験片の厚み、Y,Y’・・積層造形前除去量。