IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社リナイスの特許一覧 ▶ 公立大学法人福井県立大学の特許一覧

<>
  • 特開-魚類軟骨由来のコラーゲン含有組成物 図1
  • 特開-魚類軟骨由来のコラーゲン含有組成物 図2
  • 特開-魚類軟骨由来のコラーゲン含有組成物 図3
  • 特開-魚類軟骨由来のコラーゲン含有組成物 図4
  • 特開-魚類軟骨由来のコラーゲン含有組成物 図5
  • 特開-魚類軟骨由来のコラーゲン含有組成物 図6
  • 特開-魚類軟骨由来のコラーゲン含有組成物 図7
  • 特開-魚類軟骨由来のコラーゲン含有組成物 図8
  • 特開-魚類軟骨由来のコラーゲン含有組成物 図9
  • 特開-魚類軟骨由来のコラーゲン含有組成物 図10
  • 特開-魚類軟骨由来のコラーゲン含有組成物 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011446
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】魚類軟骨由来のコラーゲン含有組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/17 20160101AFI20240118BHJP
   A61K 38/39 20060101ALI20240118BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20240118BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240118BHJP
   A61K 35/60 20060101ALI20240118BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
A23L33/17
A61K38/39
A61P19/02
A61P43/00 107
A61K35/60
A61K9/20
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022113413
(22)【出願日】2022-07-14
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-10-06
(71)【出願人】
【識別番号】511075988
【氏名又は名称】株式会社リナイス
(71)【出願人】
【識別番号】507157045
【氏名又は名称】公立大学法人福井県立大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】中野 英春
(72)【発明者】
【氏名】鳴海 正樹
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】水田 尚志
【テーマコード(参考)】
4B018
4C076
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B018LB10
4B018LE01
4B018MD05
4B018MD10
4B018MD20
4B018MD28
4B018MD74
4B018ME14
4B018MF02
4B018MF12
4B018MF14
4C076AA36
4C076BB01
4C076CC40
4C076CC50
4C076DD29
4C076DD41
4C076DD67
4C076FF01
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA44
4C084CA45
4C084DA40
4C084MA35
4C084MA52
4C084NA14
4C084ZA96
4C084ZB22
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB29
4C087BB46
4C087CA16
4C087MA35
4C087MA52
4C087NA14
4C087ZA96
(57)【要約】
【課題】魚類軟骨由来のコラーゲン含有組成物を有効に利用する技術を提供する。
【解決手段】魚類軟骨由来のコラーゲン含有組成物を有効成分として含有する軟骨保護用の組成物又は膝関節保護用の組成物であって、前記コラーゲン含有組成物はII型コラーゲン及びXI型コラーゲンを含有するものである、該組成物である。前記コラーゲン含有組成物は、軟骨細胞のヒアルロン酸産生能を促進する機能を有するものであることが好ましい。また、前記コラーゲン含有組成物は、サケ鼻軟骨由来のものであることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚類軟骨由来のコラーゲン含有組成物を有効成分として含有する軟骨保護用の組成物であって、前記コラーゲン含有組成物はII型コラーゲン及びXI型コラーゲンを含有するものである、該組成物。
【請求項2】
魚類軟骨由来のコラーゲン含有組成物を有効成分として含有する膝関節保護用の組成物であって、前記コラーゲン含有組成物はII型コラーゲン及びXI型コラーゲンを含有するものである、該組成物。
【請求項3】
前記コラーゲン含有組成物は、軟骨細胞のヒアルロン酸産生能を促進する機能性を備えるものである、請求項1又は2記載の組成物。
【請求項4】
前記コラーゲン含有組成物は、前記II型コラーゲンと前記XI型コラーゲンの含有量の質量比が10:1~1:10であり、固形分あたりのコラーゲン含有量が30質量%以上であるよう調製されてなるものである、請求項1又は2記載の組成物。
【請求項5】
前記コラーゲン含有組成物は、サケ鼻軟骨由来のものである、請求項1又は2記載の組成物。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚類軟骨由来のコラーゲン含有組成物を有効に利用する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
コラーゲンは、哺乳類、鳥類、魚類等の動物一般に広く分布し、その細胞外マトリックスの主要構成成分として機能しているタンパク質である。ヒトでは総タンパク質量のうちおよそ25~30%を占めているといわれており、その分子構造としては、分子量10万程度のペプチド鎖が3本集まって水素結合により3重らせん構造を形成している。また、その3重らせん構造単位のものが、コラーゲン分子の端部を占めるテロペプチド領域で架橋して、繊維状構造や網目状構造等のさらなる高次構造を形成している。コラーゲンの種類は、ヒトで現在28種類ほど確認されており、また、機能によって分類されている。例えば、骨、真皮、腱などの主要タンパク質であるI型コラーゲンは、α1鎖2本とα2鎖1本とが3重らせん構造を形成しており、線維状の構造が引っぱり強度にすぐれ、体や臓器の形態を維持させている構造タンパク質として機能している。また、II型コラーゲンは、α1鎖3本が3重らせん構造を形成しており、軟骨等に局在してI型と同様な構造タンパク質としての機能を有している。一方、III型、V型コラーゲンは皮膚等においてI型と共存し、XI型コラーゲンは軟骨等においてII型と共存し、それぞれの組織に適合したコラーゲン線維の形成に補助的に関与していると考えられている(非特許文献1、2参照)。また、XI型コラーゲンの主たる分子種構成としては、α1鎖、α2鎖、α3鎖の3種類で3重らせん構造を形成していると考えられている(非特許文献3)。
【0003】
コラーゲン素材の利用については、動物組織のコラーゲンの最も多くを占めるI型コラーゲンが化粧品や健康食品、医薬品等の原料として広く利用されている。また、近年には、軟骨に局在するII型コラーゲン素材の利用も高まりつつあり、例えば、非特許文献3には、リウマチ性関節炎の患者の血中にはII型コラーゲンに対する抗体価が上昇しており、非変性II型コラーゲンの経口投与による免疫寛容により、リウマチ性関節炎の予防・治療効果が期待できるという報告がある(非特許文献4)。
【0004】
一般に、コラーゲンを動物組織から可溶化して抽出する方法としては、加熱変性処理、酸・アルカリによる可溶化処理、酵素処理による可溶化などの方法があるが、加熱変性処理では3重鎖がほどけてランダム状に変性してしまう。また、酸可溶化やアルカリ可溶化では、通常の非変性条件では、ごく少量しか溶出しないので生産性が悪い。一方、消化酵素であるペプシン等により、架橋構造の部分のみを部分的に分解して、3重らせん構造単位のものを効率的に抽出することができるものと考えられている。
【0005】
II型コラーゲン素材の調製方法に関連して、例えば、特許文献1には、ウシ肩甲軟骨を原料にして、高圧水流を用いた所定の前処理により原料の不純物を除去して、その後の脱灰とペプシン可溶化の処理により、リウマチ患者の血清と抗原抗体反応性を有するII型コラーゲンを調製したことが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】服部俊治著、「動物由来線維分子コラーゲンの性質と応用」、繊維と工業、vоl.65、Nо.12(2009)pp453-461.
【非特許文献2】服部俊治著、「コラーゲン-分子集合とその応用-」、高分子、47巻、6月号(1998)pp394-397.
【非特許文献3】吉岡秀克著、「XI型コラーゲンα1鎖遺伝子:α1鎖の一次構造,その遺伝子発現及び調節機構」、Connective Tissue、29(1997)pp39-47.
【非特許文献4】David E.Trenthamら著、「Effects of oral administration of type II collagen on rheumatoid arthritis.」、Science 261(1993)pp1727-1730.
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001-112419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来、軟骨由来のコラーゲンのうちメジャーに存在しているII型コラーゲンについては非変性に抽出する各種の調製方法が開発されてきたものの、軟骨コラーゲンのうちマイナーにしか存在していないXI型コラーゲンについては、実験や研究用に少量を調製して利用することがあるだけで、II型コラーゲンほどには有効に利用されていないのが現状であった。
【0009】
本発明の目的は、XI型コラーゲンについて、産業上、有効に活用し得る素材として工業的に生産できるようにし、これを利用する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究した結果、魚類軟骨を抽出原料にして酸性プロテアーゼ処理によりコラーゲンを可溶化して液部に溶出させたうえ、その液部を十分に塩析処理することで、II型コラーゲンとともにXI型コラーゲンが効率よく回収できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、魚類軟骨由来のコラーゲン含有組成物を有効成分として含有する軟骨保護用の組成物であって、前記コラーゲン含有組成物はII型コラーゲン及びXI型コラーゲンを含有するものである、該組成物を提供するものである。
【0012】
また、本発明は、魚類軟骨由来のコラーゲン含有組成物を有効成分として含有する膝関節保護用の組成物であって、前記コラーゲン含有組成物はII型コラーゲン及びXI型コラーゲンを含有するものである、該組成物を提供するものである。
【0013】
上記組成物にあっては、前記コラーゲン含有組成物は、軟骨細胞のヒアルロン酸産生能を促進する機能性を備えるものであることが好ましい。
【0014】
上記組成物にあっては、前記コラーゲン含有組成物は、前記II型コラーゲンと前記XI型コラーゲンの含有量の質量比が10:1~1:10であり、固形分あたりのコラーゲン含有量が30質量%以上であるよう調製されてなるものであることが好ましい。
【0015】
上記組成物にあっては、前記コラーゲン含有組成物は、サケ鼻軟骨由来のものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、魚類軟骨を抽出原料に利用して、食品、サプリメント、医薬品、医療用素材などに配合する素材として有用な、高機能なコラーゲン素材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に用いるコラーゲン含有組成物を調製する方法の一実施形態を示す工程図である。
図2】本発明に用いるコラーゲン含有組成物を調製する方法の他の実施形態を示す工程図である。
図3】本発明に用いるコラーゲン含有組成物を調製する方法の別の実施形態を示す工程図である。
図4】製造例1において行った製造フロー図である。
図5】試験例1においてリゾパソペプシンを用いた酵素処理により鮭鼻軟骨原料からコラーゲンを溶出させたときの可溶化率を調べた結果を示す図表であり、図5(a)は検体番号1~3の各試料について軟骨重量、コラーゲン含量、可溶化分量、可溶化率、可溶率の平均、及びその標準偏差の値をまとめた図表であり、図5(b)は可溶化率の経時変化を表す図表であり、図5(c)はそのグラフのもとになる数値をまとめた図表である。
図6】試験例2において製造例1で得られた塩析沈殿物の一部をSDS-PAGEゲル電気泳動にかけたときのゲルの写真を示す図表である。
図7】試験例3において製造例1で得られた塩析沈殿物の一部をイオンクロマトグラフィー分析にかけたときの結果を示す図表であり、図7(a)はイオンクロマトグラフィーによる分画フラクションごとにSDS-PAGEゲル電気泳動分析にかけたときのゲルの写真を示す図表であり、図7(b)はそのSDS-PAGEゲル電気泳動のゲルのフラクション番号37及びフラクション番号41の部分の拡大写真を示す図表であり、図7(c)はイオンクロマトグラフの分析チャートを示す図表である。
図8】試験例4において製造例1で得られた塩析沈殿物、11%硫安沈殿物、及び20%硫安沈殿物を解析した結果を示す図表であり、図8(a)は20%硫安沈殿物及び塩析沈殿物の一部をSDS-PAGEゲル電気泳動にかけたときのゲルの写真を示す図表であり、図8(b)は塩析沈殿物、11%硫安沈殿物、及び20%硫安沈殿物のヒドロキシプロリン含量をジメチルベンズアルデヒド比色法により測定しコラーゲン含量への換算係数を乗じてコラーゲン含量を求めた結果を示す図表である。
図9】試験例5においてウサギ軟骨細胞からのヒアルロン酸産生量を調べた結果を示す図表である。
図10】試験例6において50歳以上の被験者であってスコア10以下の被験者を除外したVASスコアの階層解析結果を示す図表である。
図11】試験例6において50歳以上の被験者であって動作時になんら違和感を生じなかった被験者を除外した10回繰り返し動作のアンケートの階層解析結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に用いるコラーゲン含有組成物は、魚類軟骨をコラーゲンの基原として調製し得る。魚類の種類やその軟骨組織の部位等に特に制限はなく、例えばサケの鼻軟骨(氷頭)、サメの軟骨、エイの軟骨、イカの軟骨等が挙げられる。特にサケの鼻軟骨(氷頭)は、コラーゲン含量が高いうえ、水産加工の分野で通常廃棄される部位として安価に入手可能であるのでより好ましい。例えば、サケのイクラ加工やフィレ加工では水揚げされたサケから頭部は大量に廃棄処分されるので、これを入手し、その頭部から鼻軟骨を摘出して用いることができる。
【0019】
図1には、本発明に用いるコラーゲン含有組成物を調製する方法の一実施形態が示される。この実施形態にあっては、魚類軟骨を抽出原料として、軟骨由来のコラーゲンであるII型コラーゲン及びXI型コラーゲンを含むコラーゲン含有組成物が得られる。すなわち、このコラーゲン含有組成物の調製方法においては、アルカリ性溶媒で原料の洗浄処理を行う工程と(図1中では「S1」で示される。以下「アルカリ洗浄工程」ともいう。)、アルカリ洗浄後の洗浄処理物に対して希薄酸性溶媒中で酸性プロテアーゼによる酵素処理を行う工程と(図1中では「S2」で示される。以下「酵素処理工程」ともいう。)、酵素処理後の酵素処理物を固液分離してコラーゲンを含む液部を回収する工程と(図1中では「S3」で示される。以下「コラーゲン含有液部回収工程」ともいう。)、固液分離により回収したコラーゲンを含む液部のpHを中和調整する工程と(図1中では「S4」で示される。以下「コラーゲン含有液部中和工程」ともいう。)、コラーゲンを含む液部のpHを中和調整した後の中和処理物を塩析する工程(図1中では「S5」で示される。以下「塩析処理工程」ともいう。)を経るようにしている。
【0020】
上記調製方法においては、特に限定されないが、抽出原料として、例えば魚類軟骨を破砕し、粒径を揃えたものを用いることが好ましい。軟骨原料の粒径の均一化は、所定孔径のプレート(例えば孔径1.8~10mm程度)を使用したミートチョッパーや、あるいはホモジナイザー、マスコローダー等を使用して細分化処理することなどにより行うことができる。粒径を揃えることにより、アルカリ洗浄やコラーゲンの溶出をより効率よく行うことができる。軟骨原料の粒径としては、典型的に例えば0.1mm~10mmの範囲であってよく、0.5mm~5mmの範囲であってよく、1mm~3mmの範囲であってもよい。
【0021】
上記調製方法においては、アルカリ洗浄工程において、抽出原料である魚類軟骨に対してアルカリ性溶媒で洗浄処理を行って、その抽出原料からプロテオグリカン、ヒアルロン酸等の糖質系細胞外マトリックス物質を除去するようにしている。使用するアルカリ性溶媒は、特に限定されないが、0.01M~1Mの濃度範囲のNaOH水溶液であってよく、0.05M~0.5Mの濃度範囲のNaOH水溶液であってよく、0.1M~0.4Mの濃度範囲のNaOH水溶液であってもよい。
【0022】
上記アルカリ洗浄処理は、魚類軟骨原料をアルカリ性溶媒中で所定時間攪拌した後に固液分離することにより行うことが好ましい。これによれば、魚類軟骨原料から糖質系細胞外マトリックス物質等の夾雑物をより効果的に除去することができる。このようなアルカリ洗浄のための攪拌の際の温度条件としては、特に制限はないが、低温で温度管理することが好ましい。例えば、0℃~12℃の範囲であってよく、2℃~10℃の範囲であってよく、4℃~8℃の範囲であってもよい。また、アルカリ洗浄のための攪拌の際の攪拌時間としては、特に制限はないが、例えば30分間~48時間の範囲であってよく、1時間~36時間の範囲であってよく、3時間~24時間の範囲であってもよい。なお、固液分離には、例えば、60~100メッシュ程度のザルや濾布、遠心分離を使用すればよい。
【0023】
ある態様においては、上記アルカリ洗浄工程におけるアルカリ性溶媒による魚類軟骨原料のアルカリ洗浄処理は、所定時間攪拌後のアルカリ性溶媒を固液分離して除いた後、あらたなアルカリ溶媒を加えて洗浄を繰り返すようにして、複数回(例えば2~4回)行ってもよい。これによれば、魚類軟骨原料から糖質系細胞外マトリックス物質等の夾雑物を更により効果的に除去することができる。また、アルカリ洗浄後には、水を加えて所定時間攪拌後に固液分離することにより、水洗浄処理を行ってもよい。この水洗浄処理についても、複数回(例えば2~4回)繰り返してもよい。また、その洗浄液のpHが中性付近になるまで水洗浄処理を繰り返すことが好ましい。これによれば、用いたアルカリが後の処理に影響を及ぼすことを防ぐことができる。
【0024】
上記調製方法においては、酵素処理工程において、アルカリ洗浄工程後の洗浄処理物に対して希薄酸性溶媒中で酸性プロテアーゼによる酵素処理を行ってコラーゲンを可溶化させるようにしている。使用する酸性プロテアーゼとしては、特に限定されないが、例えばペプシン等が挙げられる、また、特に真菌由来の非動物性ペプシンであれば、狂牛病や口蹄疫などの疾病のイメージのある動物由来の素材を使用する必要がないので好ましい。真菌由来の非動物性ペプシンとしては、例えば、カビの一種であるRhizopus niveusが産生する酸性プロテアーゼであるリゾパスペプシン等が挙げられる。また、使用する希薄酸性溶媒は、特に限定されないが、例えば10mM~500mMの濃度範囲の酢酸水溶液であってよく、250mM~500mMの濃度範囲の酢酸水溶液であってよく、400mM~500mMの濃度範囲の酢酸水溶液であってもよい。また、例えば10mM~500mMの濃度範囲のクエン酸水溶液であってよく、250mM~500mMの濃度範囲のクエン酸水溶液であってよく、400mM~500mMの濃度範囲のクエン酸水溶液であってもよい。たたし、酸性プロテアーゼの好適条件のためにはpHを酸性側に調製する必要がある。
【0025】
上記酵素処理において、pH条件は、使用する酵素の種類によっても好適条件は異なり一概ではないが、例えばpH1~6の範囲であってよく、pH2~5の範囲であってよく、pH2.5~3.5の範囲であってもよい。酵素処理の際の温度条件としては、使用する酵素の種類によっても好適条件は異なり一概ではないが、コラーゲンが変性しない範囲内とすることが好ましく、例えば0℃~12℃の範囲であってよく、2℃~10℃の範囲であってよく、4℃~8℃の範囲であってもよい。酵素処理の際の処理時間としては、特に制限はないが、例えば30分間~48時間の範囲であってよく、1時間~36時間の範囲であってよく、3時間~24時間の範囲であってもよい。なお、酸性プロテアーゼとして上記リゾパスペプシンを用いる場合、その酵素の添加量としては、投入した魚類軟骨原料の固形分(乾燥重量)に対して1/100~1/5量、場合によっては1/50~1/10量、更に場合によっては1/25~1/15量のリゾパスペプシン製剤を添加することなどが典型的であり、稀薄酸性溶媒中に含有せしめるリゾパスペプシン製剤の濃度としては0.001~1質量%、場合によっては0.005~0.1質量%、更に場合によっては0.01~0.05質量%になるようにすることなどが典型的である。
【0026】
ある態様においては、上記酵素処理工程におけるpHは、酸性プロテアーゼを添加する前に、魚類軟骨原料に希薄酸性溶媒を添加して所定時間処理することにより予め酸性側に調整してもよい。これによれば、酸性プロテアーゼによる処理の際、pHがアルカリ側にシフトして、コラーゲン可溶化の効率が悪くなるのを防ぐことができる。これに限定されないが、例えば、軟骨原料に対して1~50倍量、場合によっては3~20倍量、更に場合によっては5~10倍量の希薄酸性溶媒を添加し、所定時間攪拌処理することにより、そのpHを酸性側に調整することができる。このような酸性側へのpH調整の際の温度条件としては、特に制限はないが、低温で温度管理することが好ましい。例えば、0℃~12℃の範囲であってよく、2℃~10℃の範囲であってよく、4℃~8℃の範囲であってもよい。また、酸性側へのpH調整の際の攪拌時間としては、特に制限はないが、例えば30分間~48時間の範囲であってよく、1時間~36時間の範囲であってよく、3時間~24時間の範囲であってもよい。
【0027】
上記調製方法においては、コラーゲン含有液部回収工程において、酵素処理工程後の酵素処理物を固液分離して、魚類軟骨原料から溶出させたコラーゲンを含む液部を回収するようにしている。固液分離には、例えば、遠心分離機を使用すればよい。そして、上記コラーゲン含有液部中和工程において、回収した液部のpHを中性付近に中和調整するようにしている。この中和調整により、つづく塩析処理によって、軟骨由来のコラーゲンとしてメジャーに存在するII型コラーゲンだけでなく、マイナー型であるXI型コラーゲンを有効に回収やすくなる。中和調整は、これに限定されないが、回収したコラーゲン含有液部に対して、例えば0.1M~1MのHCL水溶液や0.1M~1MのNaOH水溶液を用いて、適宜、これらの酸・アルカリを、pH測定を行いながら添加することになどにより行うことができる。pHは例えば、pH7.5~8.5の範囲に調整することが好ましく、特に好ましくはpH8付近である。
【0028】
上記調製方法においては、塩析処理工程において、コラーゲン含有液部中和工程後の中和処理物を塩析して、その塩析沈殿物としてII型コラーゲン及びXI型コラーゲンを回収するようにしている。塩析は、通常の方法で行えばよく、具体的には、固形状ないし塩析に適した形状の塩化ナトリウム等の塩を添加し、その後所定時間攪拌後、固液分離することにより行うことができる。塩の終濃度としては、例えば2M~5Mの範囲であってよく、2.5M~4.5Mの範囲であってよく、3M~4Mの範囲であってもよい。特に好ましくは4M以上であり、特には4.4M付近である。このような塩析の際の温度条件としては、特に制限はないが、低温で温度管理することが好ましい。例えば、0℃~12℃の範囲であってよく、2℃~10℃の範囲であってよく、4℃~8℃の範囲であってもよい。また、塩析の際の攪拌時間としては、特に制限はないが、例えば30分間~48時間の範囲であってよく、1時間~36時間の範囲であってよく、3時間~24時間の範囲であってもよい。塩析沈殿物の回収は、上記と同じく固液分離によればよく、例えば、遠心分離機を使用すればよい。
【0029】
以上のようにして得られた塩析沈殿物は、限外濾過、透析等により塩を除去することができる。また、これを真空凍結乾燥して乾燥物に調製してもよい。塩析沈殿物からの塩の除去には、中空糸モジュール、セラミックフィルター、平膜型フィルター等を用いた限外濾過による方法や、透析チューブに充填して水中に浸漬して脱塩する方法等が挙げられる。
【0030】
以上のようにして得られたII型コラーゲン及びXI型コラーゲンを含有するコラーゲン含有組成物は、そのコラーゲン含有量が固形分あたり30質量%以上であってよく、40質量%以上であってよく、50質量%以上であってよく、60質量%以上であってよく、65質量%以上であってよく、70質量%以上であってよく、75質量%以上であってよく、80質量%以上であってよく、85質量%以上であってよく、90質量%以上であってよく、95質量%以上であってよい。また、II型コラーゲンとXI型コラーゲンの含有量の質量比としては、10:1~1:10の範囲であってよく、8:2~2:8の範囲であってよく、7:3~3:7の範囲であってもよい。なお、コラーゲン含量は、コラーゲンの酸加水分解処理後、ヒドロキシプロリン量をアミノ酸組成分析やジメチルベンズアルデヒド比色法等により分析し、所定のコラーゲン量への換算係数を乗じることなどにより求めることができる。例えば、サケコラーゲンの場合、アミノ酸1000残基中のヒドロキシプロリン(Hyp)は54.3残基で、含有率は7.92%であり、Hyp量からコラーゲン量への換算係数は12.63である。
【0031】
図2には、本発明に用いるコラーゲン含有組成物を調製する方法の他の実施形態が示される。この実施形態にあっては、上記に説明したII型コラーゲン及びXI型コラーゲンを含有する塩析処理物を0.5M酢酸に溶解する工程と(図2中では「S6」で示す。)、所定の終濃度の硫安で硫安処理する工程と(図2中では「S7」で示す。)を経るようにしている。これにより、その硫安沈殿物としてII型コラーゲンが富化されたII型コラーゲン含有組成物が得られる。溶解処理(S6)における酸溶媒としては、図中では0.5M酢酸が例示されるが、例えば0.4~0.6M酢酸又は0.4~0.6Mクエン酸などにより、溶液pHとしてはpH2.6~2.8の範囲になるよう、濃度を適切に設定すればよい。また、硫安処理は、通常の方法で行えばよく、具体的には、固形状ないし塩析に適した形状の硫酸アンモニウムを添加し、その後所定時間攪拌後、固液分離することにより行うことができる。硫安処理(S7)における硫安の終濃度としては、図中では11w/v%が例示されるが、例えば10w/v%~13w/v%の範囲であってよく、10.5w/v%~12.5w/v%の範囲であってもよい。特に好ましくは11w/v%付近である。このような硫安処理の際の温度条件としては、特に制限はないが、例えば0℃~12℃の範囲であってよく、2℃~10℃の範囲であってよく、4~8℃の範囲であってもよい。また、硫安処理の際の攪拌時間としては、特に制限はないが、例えば30分間~48時間の範囲であってよく、1時間~36時間の範囲であってよく、3時間~24時間の範囲であってもよい。硫安沈殿物の回収は、上記と同じく固液分離によればよく、例えば、遠心分離機を使用すればよい。
【0032】
以上のようにして得られた硫安沈殿物は、限外濾過による透析等により塩を除去することができる。また、これを真空凍結乾燥して乾燥物に調製してもよい。硫安沈殿物からの塩の除去には、中空糸モジュール、セラミックフィルター、平膜型フィルター等を用いた限外濾過による物理的な脱塩や、透析チューブに充填して水中に浸漬して脱塩する方法等が挙げられる。
【0033】
以上のようにして得られたII型コラーゲンを富化してなるコラーゲン含有組成物は、そのコラーゲン含有量が固形分あたり30質量%以上であってよく、40質量%以上であってよく、50質量%以上であってよく、60質量%以上であってよく、65質量%以上であってよく、70質量%以上であってよく、75質量%以上であってよく、80質量%以上であってよく、85質量%以上であってよく、90質量%以上であってよく、95質量%以上であってよい。
【0034】
図3には、本発明に用いるコラーゲン含有組成物を調製する方法の別の実施形態が示される。この実施形態にあっては、上記に説明したII型コラーゲン及びXI型コラーゲンを含有する塩析処理物を0.5M酢酸に溶解する工程と(図3中では「S6」で示す。)、所定の第1の終濃度の硫安で硫安処理する工程と(図3中では「S7」で示す。)、その硫安処理後の上清を回収する工程と(図3中では「S8」で示す。)、所定の第2の終濃度の硫安で硫安処理する工程と(図3中では「S9」で示す。)を経るようにしている。これにより、その硫安沈殿物としてXI型コラーゲンが富化されたXI型コラーゲン含有組成物が得られる。上述したように、溶解処理(S6)における酸溶媒としては、図中では0.5M酢酸が例示されるが、例えば0.4~0.6M酢酸又は0.4~0.6Mクエン酸などにより、溶液pHとしてはpH2.6~2.8の範囲になるよう、濃度を適切に設定すればよい。また、硫安処理は、通常の方法で行えばよく、具体的には、固形状ないし塩析に適した形状の硫酸アンモニウムを添加し、その後所定時間攪拌後、固液分離することにより行うことができる。硫安処理(S7)における硫安の上記第1の終濃度としては、例えば10w/v%~13w/v%の範囲であってよく、10.5w/v%~12.5w/v%の範囲であってもよい。特に好ましくは11w/v%付近である。また、硫安処理の硫安の上記第2の終濃度としては、例えば18w/v%~22w/v%の範囲であってよく、19w/v%~21w/v%の範囲であってもよい。特に好ましくは20w/v%付近である。このような硫安処理の際の温度条件としては、特に制限はないが、例えば0℃~20℃の範囲であってよく、2℃~15℃の範囲であってよく、4℃~10℃の範囲であってもよい。また、硫安処理の際の攪拌時間としては、特に制限はないが、例えば30分間~48時間の範囲であってよく、1時間~36時間の範囲であってよく、3時間~24時間の範囲であってもよい。なお、硫安処理後の上清や沈殿物の回収は、上記と同じく固液分離によればよく、例えば、遠心分離機を使用すればよい。
【0035】
以上のようにして得られた硫安沈殿物は、限外濾過による透析等により塩を除去することができる。また、これを真空凍結乾燥して乾燥物に調製してもよい。硫安沈殿物からの塩の除去には、中空糸モジュール、セラミックフィルター、平膜型フィルター等を用いた限外濾過による物理的な脱塩や、透析チューブに充填して水中に浸漬して脱塩する方法等が挙げられる。
【0036】
以上のようにして得られたXI型コラーゲンを富化してなるコラーゲン含有組成物は、そのコラーゲン含有量が固形分あたり30質量%以上であってよく、40質量%以上であってよく、50質量%以上であってよく、60質量%以上であってよく、65質量%以上であってよく、70質量%以上であってよく、75質量%以上であってよく、80質量%以上であってよく、85質量%以上であってよく、90質量%以上であってよく、95質量%以上であってよい。
【0037】
以上に説明した調製方法により得られる、上記II型コラーゲン及びXI型コラーゲンを含有する塩析沈殿物、上記II型コラーゲンを含有する11%硫安沈殿物、上記XI型コラーゲンを含有する20%硫安沈殿物は、通常当業者に周知の減圧乾燥機、噴霧乾燥機等の手段により乾燥してもよく、その乾燥物を更に解砕、粉砕等して乾燥ともに粉末化してもよい。乾燥物の形態であれば、上記した凍結乾燥後の乾燥物と同様に、水分が除かれているので、腐敗等が防がれて、保存安定性に優れている。乾燥に際しては、製剤的にテキストリン等の賦形剤や結晶セルロース、シリカ等を添加してもよい。
【0038】
粉末化のためには、通常当業者に周知の粉砕機、ミル、マスコローダー等の手段を利用することができる。粉末化後の粒度としては、全体のおよそ90質量%以上が30メッシュパス(目開き:500μm)となる程度に粉末化することが好ましく、全体のおよそ90質量%以上が60メッシュパス(目開き:250μm)となる程度に粉末化することがより好ましい。あるいは、全体のおよそ90質量%以上が0.3mm経以上0.75mm径以下のスクリーンをパスするように粉末化することが好ましい。
【0039】
以上に説明した調製方法により得られる、上記II型コラーゲン及びXI型コラーゲンを含有する塩析沈殿物、上記II型コラーゲンを含有する11%硫安沈殿物、上記XI型コラーゲンを含有する20%硫安沈殿物は、適宜、所望の配合でお互いの組成物どうしを混合して、本発明に用いるコラーゲン含有組成物と成してもよい。
【0040】
後述する実施例で示されるように、本発明により提供される魚類軟骨由来のコラーゲン含有組成物によれば、軟骨細胞のヒアルロン酸産生能を促進する作用効果に優れている。また、膝関節保護の作用効果に優れている。よって、これを有効成分として含有する機能性組成物と成すことができる。機能性組成物として、例えば、軟骨保護用の組成物を提供することができる。また、例えば、膝関節保護用の組成物を提供することができる。また、ある態様において、本発明によって提供される機能性は、関節軟骨細胞再生促進剤としての機能性であってよく、軟骨細胞増殖促進剤としての機能性であってよく、軟骨細胞ターンオーバー促進剤としての機能性であってよい。また、対象は健常者であってもよく、特には50歳以上の健常者のための組成物と成してもよい。また、ペット動物等の動物を対象にした組成物と成してもよい。
【0041】
本発明により提供される、魚類軟骨由来のコラーゲン含有組成物を有効成分として含有してなる機能性組成物においては、その目的を損なわない限り、上記II型コラーゲン及び/又はXI型コラーゲンに加え、他の成分を含有することについて、特に制限はない。他の成分としては、例えば、ビタミンC、イミダゾールペプチド、コラーゲンペプチド、鮭卵巣外皮ペプチド、β-ヒドロキシ-β-メチル酪酸(HMB)などが挙げられる。
【0042】
本発明により提供される、魚類軟骨由来のコラーゲン含有組成物を有効成分として含有してなる機能性組成物の利用形態は、特に制限されないが、経口的に摂取されるようにして用いられることが好ましい。経口用組成物である場合、その利用形態の例としては、上記II型コラーゲン及び/又はXI型コラーゲンをそのまま用いてもよく、必要に応じて、錠剤状(錠剤、タブレット、チュアブル錠、口腔内崩壊剤)、液状(液剤)、シロップ状(シロップ剤)、粉末状(顆粒、細粒)、カプセル状(カプセル剤)、ソフトカプセル状(ソフトカプセル剤)、固形状、半液体状、クリーム状、ペースト状等の形態と成してもよい。
【0043】
摂取量に関し、適用するヒト又は動物の健康状態や疾患の状態、目的等に応じて適宜設定すればよく、特に制限はない。例えば、1日あたりの摂取量としては、例えば、コラーゲン量換算で、5mg以上100mg以下であってよく、5mg以上40mg以下であってよく、5mg以上20mg以下であってよく、10mg以上20mg以下であってよく、10mg以上15mg以下であってよい。摂取期間としては、12週間以上にわたって摂取されるように用いられることが好ましい。摂取期間としては、例えば、2週間、4週間、6週間、8週間、10週間、12週間などであってよく、これらの期間にわたって連続的又は断続的に摂取されるように用いられてもよい。
【0044】
本発明により提供される魚類軟骨由来のコラーゲン含有組成物は、例えば、健康食品、機能性表示食品等の食品やサプリメント、医薬品、医療用素材等に向けた利用が可能であり、特にその原料素材として好適に利用され得る。また、上述したようにヒトだけでなくペット動物等の動物に向けた利用も可能である。
【実施例0045】
以下、製造例及び試験例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの製造例及び試験例は本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0046】
[製造例1]
水産加工工場から排出されるサケの頭部を入手し、その頭部から鼻軟骨を摘出して、200gの生軟骨を採取した(サケ8匹相当)。採取した生軟骨は2.8mm孔径のプレートを取り付けたミートチョッパーを使用し細分化処理を行い抽出用出発原料とした。
上記に調製した抽出原料からコラーゲンを抽出した。
【0047】
図4には、本製造例において行った製造フロー図を示す。具体的には、以下のようにして調製した。
【0048】
・抽出原料200gに対して0.1MNaOH水溶液を2400mL添加し、4℃下で24時間攪拌した後、遠心分離装置により10,000g×20分間の処理を行って固液分離し、その固部を回収した。
・水2400mLを添加し、4℃下で攪拌した後、遠心分離装置により10,000g×20分間の処理を行って固液分離し、その固部を回収し、更に同様の操作をもう一度繰り返した。2回目の上清のpHを測定したところpH11.92であった。更に同様の水洗を繰り返し、最終水洗時のpHは9.47であった。
・10mMクエン酸水溶液を2000mL添加し、4℃下で24時間攪拌し、上清のpHを測定したところpH3.0であった。
・リゾパスペプシン(商品名「ニューラーゼF3G」、天野エンザイム株式会社社製)を添加し、4℃下で48時間攪拌した。その処理後のpHを測定したところpH3.0であった。
・遠心分離装置により10,000g×20分間の処理を行って固液分離し、その液部を回収した。
・リン酸水素二ナトリウムを終濃度20mMとなる量で添加し、4℃下で1時間攪拌した。
・6MHCl水溶液または6MNaOH水溶液の滴下による微調整によりpH8.0に調整した。
・粉体NaClを終濃度4.4Mとなる量で添加し、4℃下で24時間攪拌した。
・遠心分離装置により10,000g×20分間の処理を行って固液分離し、その固部を塩析沈殿物として回収した。
・0.5M酢酸水溶液1200mLを添加し、塩析沈殿物を溶解させた。
・粉体硫酸アンモニウムを終濃度11W/V%となる量で添加し、4℃下で24時間攪拌した。
・遠心分離装置により10,000g×20分間の処理を行って固液分離し、その固部を11%硫安沈殿物として回収した。また、その液部を上清として回収した。
・上記上清に粉体硫酸アンモニウムを終濃度20W/V%となる量で添加し、4℃下で24時間攪拌した。
・遠心分離装置により10,000g×20分間の処理を行って固液分離し、その固部を20%硫安沈殿物として回収した。
・透析による脱塩した。具体的には、分画分子量12,000~16,000の透析チューブ(エーディア株式会社のセルロースチューブ 36/32)に充填して水中に浸漬して脱塩した。
・真空凍結乾燥機により乾燥した。
【0049】
<試験例1>
製造例1の製造フローにおいて、リゾパスペプシンによる酵素処理によるコラーゲンの可溶化率について検討した。
【0050】
まず、抽出原料に用いたサケ鼻軟骨に含まれるコラーゲン量を測定した。具体的には、30mgの凍結乾燥軟骨に6M-HCl(0.04%メルカプトエタノール含有)を5mL添加して分解処理し、凍結処理後に封管後、110℃で24時間、加水分解処理した後に試料をナス型フラスコに移し、エバポレーターでHClを除去した。ナス型フラスコ底部に残った試料に5mLの超純水を加え分析用試料とし、アミノ酸自動分析装置でコラーゲンに特有のヒドロキシプロリン(Hyp)を定量した。
【0051】
また、製造例1の酵素処理した後の上清について、これを経時的に採取してコラーゲン量を測定した。具体的には、採取した酵素処理上清の1mLを試験管に分注し、12M-HClを1mL加えて密封し、130℃のホットブロックバスで3時間加熱しながら加水分解した。試料をナス型フラスコに移し、エバポレーターで塩酸を除去した。ナス型フラスコ底部に残った試料に5mLの超純水を加え分析用試料とした後、常法に従い、ジメチルベンズアルデヒドを用いた比色定量法(J. F. Woesnner Jr, Archives of Biochemistry and Biophysics, 93, 440-447, 1961)により、コラーゲンに特有のヒドロキシプロリン(Hyp)の含有量を測定した。
【0052】
ヒドロキシプロリン(Hyp)の含有量(g)は、係数12.63を乗じることにより、コラーゲン含量(g)に換算した。
【0053】
その結果、図5(a)に示されるように、3回測定したところ、いずれの算定値も90%以上の高い可溶化率で安定していた。また。図5(b)(c)に示されるように、可溶化率を経時的にみたところ、酵素処理開始から24時間後には、90%以上の可溶化率に達していた。
【0054】
<試験例2>
図6には、製造例1で得られた塩析沈殿物の一部をSDS-PAGEゲル電気泳動にかけたときのゲルの写真を示す。
【0055】
図6に示されるように、サケ皮膚由来のコラーゲンサンプルの電気泳動像にくらべて、サケ軟骨由来の塩析沈殿物中には、軟骨由来のコラーゲンであるII型コラーゲンのα1(3重らせん鎖)に特徴的な分子量116kDa付近のバンドがみられた。加えて、分子量130kDa~160kDa付近にはα1、α2、α3の3重らせん構造を持つXI型ラーゲンに特徴的なα1、α2の2種と考えられるバンドがみられた。
【0056】
<試験例3>
図7には、製造例1で得られた塩析沈殿物の一部をイオンクロマトグラフィー分析にかけたときの結果を示す。
【0057】
具体的には、製造例1で得られた塩析沈殿物の一部を、2M尿素を含む20mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.8)に溶解させ、陽イオン交換クロマトグラフィーに供した。カラムには、カルボキシメチル基をリガンドとして有する充填剤を詰めたイオン交換カラム(昭和電工株式会社、CM-825)を用い、流速1.0ml/minで、40分間にわたる0~0.4MまでのNaClグラジエント(濃度勾配)によって吸着タンパク質を溶出させた。カラムからの溶出液について波長230nmにおける吸光度を連続的に測定することにより溶出タンパク質を検出し、1画分1mLとしてフラクションコレクターを用いて溶出液を回収した。カラムの温度は18℃に保持した。得られたピーク画分についてSDS-PAGEゲル電気泳動にかけた。
【0058】
図7(a)に示されるように、図7(c)のイオンクロマトグラフィーによる分画フラクションごとの230nm波長の吸光度による出現ピークのうち、フラクション番号31~フラクション番号42にかけてタンパク質染色剤であるクマジーブリリアントブルーR-250に染まる成分が出現し、いずれも分子量116~160kDa付近にバンドがみられた。また、図7(b)に示されるように、そのイオンクロマトグラフィーによるフラクション番号37には、II型コラーゲンに相当するα1の3重鎖によると考えられるバンドが出現し、一方でフラクション番号41にはXI型コラーゲンに相当するα1~α3の3重鎖によると考えられるバンドが出現した。
【0059】
<試験例4>
図8には、製造例1で得られた塩析沈殿物、11%硫安沈殿物、及び20%硫安沈殿物を、解析した結果を示す。
【0060】
図8(a)のSDS-PAGEゲル電気泳動の結果に示されるように、製造例1で得られた20%硫安沈殿物中には、試験例3のイオンクロマトグラフィー分析で分画されたフラクション番号41に出現したXI型コラーゲンが含まれており、製造例1で得られた塩析沈殿物中には、試験例3のイオンクロマトグラフィー分析で分画されたフラクション番号37に出現したII型コラーゲン及びフラクション番号41に出現したXI型コラーゲンが含まれていた。
【0061】
図8(b)のコラーゲン量の測定の結果に示されるように、製造例1で得られた塩析沈殿物のコラーゲン含有量は67.8質量%であり、11%硫安沈殿物のコラーゲン含有量は82.8質量%であり、20%硫安沈殿物のコラーゲン含有量は95.2質量%であった。
【0062】
また、別途、製造例1で得られた塩析沈殿物をSDS-PAGEゲル電気泳動にかけて、タンパク質染色してその電気泳動像を解析し、XI型コラーゲンの分子量が大きいほうからα1鎖及びα2鎖として帰属させるとともに残りのα3鎖がともに1:1:1の質量部で含まれ、そのα3鎖がII型コラーゲンのα1鎖と重なっているとの仮定のもとに、およそ95%純度を有するXI型コラーゲンのα1鎖及びα2鎖に相当するバンドの染色強度を指標にして、そのバンドの染色強度をコラーゲン量に換算するための換算係数を求めたうえ、これを他のバンドについても量論的にあてはめておよその定量測定を行ったところ、製造例1で得られた塩析沈殿物中に含まれるコラーゲンのうち、II型が60質量%であり、XI型が40質量%を占めると推定された。
【0063】
<試験例5>
II型コラーゲンとともにXI型コラーゲンを含有してなるコラーゲン含有組成物について、その有用性を評価した。
【0064】
具体的には、ウサギ軟骨細胞を用いてヒアルロン酸産生試験を以下のとおり実施した。
【0065】
〔1.被験物質〕
・I型コラーゲン(ウシ表皮由来)(MP Biomedicals, Inc)
・II型コラーゲン(サケ鼻軟骨由来)(株式会社リナイス)
・II型/XI型コラーゲン[II型:80質量%、XI型:20質量%](サケ鼻軟骨由来)(株式会社リナイス)
【0066】
〔2.細胞・培地〕
・ウサギ軟骨細胞、日本白色種ウサギ・メス関節軟骨(「軟骨細胞培養キット」、コスモ・バイオ株式会社)
・軟骨細胞培養用培地(「軟骨細胞培養キット」、コスモ・バイオ株式会社)
・軟骨細胞分化用培地(「軟骨細胞培養キット」、コスモ・バイオ株式会社)
【0067】
〔3.培養〕
培養状態で入手した細胞は、軟骨細胞培養キットに付属している培養用培地を使用して、COインキュベーター(5%CO、37℃)内で培養し、翌日、細胞を剥離し凍結保存した。
別途、被験物質としてI型コラーゲン、II型コラーゲン、II型/XI型コラーゲンは、それぞれ10mg/mLとなるように軟骨細胞分化用培地にて調製し、フィルター滅菌した。なお、各被験物質は培地への添加の直前に調製した。
凍結融解した細胞を培養用培地で起眠し、T-75フラスコ内で培養した。細胞を剥離後、被験物質を添加した分化用培地を用いて2×10cells/mLの細胞濃度の試料を調製し、これを1.5mLマイクロチューブに播種し、COインキュベーターで5%CO、且つ、37℃の条件下に培養した。培地交換は2~3日間ごとに行った。培養は2週間半(17日間)行い、培養上清の回収日の3日前に最終の培地交換(500μL/チューブ)を行った。
【0068】
〔4.ヒアルロン酸の測定〕
培養上清中のヒアルロン酸の測定は、ヒアルロン酸測定キット(R&D社、Cat. No. DY3614)を使用して、キットに添付のプロトコールに従って行なった。
【0069】
〔5.統計解析〕
有意差検定はStudent T-testを行い、P<0.05(帰無仮説が5%未満)のものを有意差ありと判断した。
【0070】
〔6.結果〕
表1及び図9に結果をまとめて示す。
【0071】
【表1】
【0072】
その結果、II型コラーゲンとともにXI型コラーゲンを含有してなるコラーゲン含有組成物には、ウサギ軟骨細胞からのヒアルロン酸産生を促進する作用効果があることが明らかとなった。まら、そのヒアルロン酸産生促進の作用効果は、I型コラーゲンやII型コラーゲンを用いた場合に比べて、より顕著であった。
【0073】
<試験例6>
II型コラーゲンとともにXI型コラーゲンを含有してなるコラーゲン含有組成物について、その有用性を評価した。
【0074】
具体的には、健常人を対象にしたヒト試験を以下のとおり実施した。
【0075】
〔1.被験食品〕
・プラセボ食品:ブドウ糖と微粒二酸化ケイ素、ステアリン酸カルシウムを基材として、1粒300mgの錠剤に加工したもの
・試験食品:プラセボとした錠剤中にII型/XI型コラーゲン[II型:80質量%、XI型:20質量%](サケ鼻軟骨由来)(株式会社リナイス)を10mg配合したもの
【0076】
〔2.被験者〕
ボランティアを募り、所定基準を満たす50名についてランダムに各試験群に割り付けた。表2には、試験群ごとに被験者のベースライン特性を示す。
【0077】
【表2】
【0078】
〔3.試験スケジュール〕
被験者には、被験食品を、決まった摂取タイミングを設定せずに、1日1粒を水またはぬるま湯で摂取してもらった。摂取期間は16週間とした。
【0079】
〔4.評価項目〕
膝関節の違和感について、被験食品の摂取前後で評価を行った。具体的には、主要評価項目として5項目(日常時、歩行時、階段の上り下り時、しゃがみこんで立ち上がる時、長時間の起立時)の膝関節の痛みについては、VAS法(Visual Analogue Scale;視覚アナログ尺度)によるアンケートを実施した。また、副次評価項目として、膝関節の軟骨ターンオーバーの指標として知られる3種のバイオマーカー(血清CPII;II型コラーゲン合成のマーカー、尿中CTX-II;II型コラーゲン分解のマーカー、血清C1,2C;I型&II型コラーゲン分解のマーカー)を測定した。バイオマーカーの分析は、株式会社LSIメディエンスに委託した。また、しゃがみこんで立ち上がる動作、スクワットの動作、階段上り降りの動作を、各々10回の連続動作を要請したとき、被験者に動作可能な回数につき申告してもらった。
【0080】
〔5.統計解析〕
群内比較の解析はWilcoxonの符号付き順位検定が選択された。群間比較の解析はMann-WhitneyのU検定が選択された。有意水準は両側5%とした。
【0081】
〔6.結果〕
表3に結果をまとめて示す。
【0082】
【表3】
【0083】
その結果、以下のことが明らかとなった。
【0084】
(1)<VASスコア>
主要評価項目のVASアンケートの評価は、摂取16週後において複数の設問でスコアの減少が確認され、群内比較での有意差も示された。群間比較においては、歩行時のVASアンケートの変化量において有意差(P<0.039)が示された。その他の評価項目においては、安静時のVASアンケートの結果を代表例として、試験群で摂取16週後にスコアの減少も認められたが、プラセボ群でもスコア減少を示したため、群間比較での有意差は示されなかった。
図10には、50歳以上の被験者であってスコア10以下の被験者を除外したときの階層解析結果を示す。これによれば、歩行時及び階段の上り下り時のVASスコアについて、摂取16週後に群間で有意差(P=0.013)が認められた。なお、スコア10以下の被験者は、50歳未満の被験者では数多く存在していたが、50歳以上の被験者では、数名程度であった。
【0085】
(2)<関節軟骨バイオマーカー>
副次評価項目の関節軟骨バイオマーカーの検査結果において、II型コラーゲンの合成バイオマーカーである血清CPIIは、摂取前と摂取後とで大きな変化は確認されなかった。また、II型コラーゲンの分解バイオマーカーである尿中CTX-IIは、試験群で値が大きく低下して群内での顕著な有意差(P<0.003)が示されたものの、プラセボ群でも減少傾向が示され、両群における群間の有意差は認められなかった。I型&II型コラーゲン分解のマーカーである血清C1,2Cも、摂取前後で試験群に変化がみられず、両群における群間の有意差は認められなかった。CTX-II/CPII比については、CTX-IIの結果と同様、試験群で値が大きく減少を示して、群内での有意差(P=0.037)が示された。また、両群における群間の有意差も認められた。
【0086】
(3)<10回繰り返し動作のアンケート>
副次評価項目の10回繰り返し動作のアンケート結果では、いずれの評価項目でも両群で大きな変化が認められず、両群における群間の有意差は認められなかった。
図11には、50歳以上の被験者であって動作時になんら違和感を生じなかった被験者を除外したときの階層解析結果を示す。これによれば、プラセボ群のスクワット回数は減少を示したのに対し、試験群のスクワット回数はわずかに増加し、摂取16週後に群間での有意差(P=0.040)が示された。
【0087】
以上の結果によれば、II型コラーゲンとともにXI型コラーゲンを含有してなるコラーゲン含有組成物は、膝関節の保護に有効であると考えられた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【手続補正書】
【提出日】2022-11-30
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚類軟骨由来のコラーゲン含有組成物を有効成分として含有する軟骨保護用の組成物であって、前記コラーゲン含有組成物はII型コラーゲン及びXI型コラーゲンを含有するものであり、前記II型コラーゲンと前記XI型コラーゲンの含有量の質量比が10:1~1:10であり、固形分あたりのコラーゲン含有量が50質量%以上であるよう前記魚類軟骨から抽出されてなるものである、該組成物。
【請求項2】
魚類軟骨由来のコラーゲン含有組成物を有効成分として含有する膝関節保護用の組成物であって、前記コラーゲン含有組成物はII型コラーゲン及びXI型コラーゲンを含有するものであり、前記II型コラーゲンと前記XI型コラーゲンの含有量の質量比が10:1~1:10であり、固形分あたりのコラーゲン含有量が50質量%以上であるよう前記魚類軟骨から抽出されてなるものである、該組成物。
【請求項3】
前記コラーゲン含有組成物は、軟骨細胞のヒアルロン酸産生能を促進する機能性を備えるものである、請求項1又は2記載の組成物。
【請求項4】
前記コラーゲン含有組成物は、サケ鼻軟骨由来のものである、請求項1又は2記載の組成物。
【手続補正書】
【提出日】2023-04-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚類軟骨由来のコラーゲン含有組成物を有効成分として含有する軟骨保護用の組成物であって、前記コラーゲン含有組成物は、II型コラーゲン及びXI型コラーゲンを含有するものであり、前記II型コラーゲンと前記XI型コラーゲンの含有量の質量比が10:1~1:10であり、固形分あたりのコラーゲン含有量が50質量%以上であるよう前記魚類軟骨から抽出されてなるものである、該軟骨保護用の組成物。
【請求項2】
魚類軟骨由来のコラーゲン含有組成物を有効成分として含有する膝関節保護用の組成物であって、前記コラーゲン含有組成物は、II型コラーゲン及びXI型コラーゲンを含有するものであり、前記II型コラーゲンと前記XI型コラーゲンの含有量の質量比が10:1~1:10であり、固形分あたりのコラーゲン含有量が50質量%以上であるよう前記魚類軟骨から抽出されてなるものである、該膝関節保護用の組成物。
【請求項3】
前記コラーゲン含有組成物は、軟骨細胞のヒアルロン酸産生能を促進する機能性を備えるものである、請求項1又は2記載の組成物。
【請求項4】
前記コラーゲン含有組成物は、サケ鼻軟骨由来のものである、請求項1又は2記載の組成物。