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特開2024-114473メタン発酵処理システム、およびメタン発酵処理装置の運転方法
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  • 特開-メタン発酵処理システム、およびメタン発酵処理装置の運転方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114473
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】メタン発酵処理システム、およびメタン発酵処理装置の運転方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 11/04 20060101AFI20240816BHJP
【FI】
C02F11/04 A ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020267
(22)【出願日】2023-02-13
(71)【出願人】
【識別番号】000192590
【氏名又は名称】株式会社神鋼環境ソリューション
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 朋弘
【テーマコード(参考)】
4D059
【Fターム(参考)】
4D059AA01
4D059AA02
4D059AA03
4D059AA07
4D059AA08
4D059AA30
4D059BA12
4D059BC10
4D059BF02
4D059BJ03
4D059BJ20
4D059BK11
4D059BK12
4D059BK22
4D059BK30
4D059CA07
4D059DA43
4D059EA01
4D059EA02
4D059EA06
4D059EA08
4D059EB01
4D059EB06
4D059EB08
4D059EB20
(57)【要約】
【課題】どのようなメタン発酵設備であっても、メタン発酵設備におけるし渣の絡みつきを検出し解消することができる技術を提供すること。
【解決手段】消化槽1に設置された攪拌機5を所定の回転速度で動作させたときの動力投入密度および固形物濃度の取得値の関係が、所定の相関関係から外れている場合、所定時間攪拌機5を逆回転させる処理を含む、し渣絡み解消処理を、動力投入密度および固形物濃度の取得値の関係が所定の相関関係となるまで繰り返し実行する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
攪拌機が設置され、有機性廃棄物をメタン発酵処理してバイオガスを生成するメタン発酵槽と、
前記攪拌機の動力投入密度を取得する動力投入密度取得手段と、
前記メタン発酵槽内の固形物濃度を取得する固形物濃度取得手段と、
制御手段と、
を有し、
前記制御手段は、
所定の回転速度で動作させたときの前記攪拌機の前記動力投入密度および前記固形物濃度の取得値の関係が所定の相関関係から外れている場合、所定時間前記攪拌機を逆回転させる処理を含む、し渣絡み解消処理を、前記取得値の関係が前記所定の相関関係となるまで繰り返し実行するメタン発酵処理システム。
【請求項2】
請求項1に記載のメタン発酵処理システムであって、
前記所定の相関関係であり、予め取得した、前記攪拌機を前記所定の回転速度で動作させたときの前記攪拌機の動力投入密度と前記メタン発酵槽内のメタン発酵液の固形物濃度との関係を示す相関曲線、を記憶する記憶手段、
をさらに有し、
前記制御手段は、
前記取得値の関係が前記相関曲線上から外れている場合、前記し渣絡み解消処理を、前記取得値の関係が前記相関曲線上となるまで繰り返し実行し、
前記し渣絡み解消処理の後、前記所定の回転速度で動作させた前記攪拌機の前記動力投入密度が適正範囲の範囲内であるか否かを判定するメタン発酵処理システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載のメタン発酵処理システムであって、
前記メタン発酵槽へ送る有機性廃棄物を固液分離する固液分離装置と、
前記メタン発酵槽へ投入する前記有機性廃棄物の固形物濃度を測定する投入濃度測定手段と、
をさらに有し、
前記制御手段は、
前記し渣絡み解消処理の後、前記所定の回転速度で動作させた前記攪拌機の前記動力投入密度が適正範囲の範囲外である場合は異常と判定し、
前記異常と判定した場合であって、かつ、前記投入濃度測定手段が測定した前記固形物濃度が所定の濃度範囲でない場合、前記異常は前記固形物濃度の異常であると判定し、前記固液分離装置の運転を調整するメタン発酵処理システム。
【請求項4】
請求項1または2に記載のメタン発酵処理システムであって、
前記メタン発酵槽において発生するバイオガスの量を検出するバイオガス発生量検出手段をさらに有し、
前記制御手段は、
前記し渣絡み解消処理の後、前記所定の回転速度で動作させた前記攪拌機の前記動力投入密度が適正範囲の範囲外である場合は異常と判定し、
前記メタン発酵槽へ投入する前記有機性廃棄物に対して、検出した前記バイオガスの量が所定の倍率範囲でない場合、前記異常は前記バイオガスの量の異常であると判定し、前記メタン発酵槽への前記有機性廃棄物の投入量を調整するメタン発酵処理システム。
【請求項5】
請求項1または2に記載のメタン発酵処理システムであって、
前記メタン発酵槽内のメタン発酵液の温度を測定する温度測定手段をさらに有し、
前記制御手段は、
前記し渣絡み解消処理の後、前記所定の回転速度で動作させた前記攪拌機の前記動力投入密度が適正範囲の範囲外である場合は異常と判定し、
前記メタン発酵槽内の温度が均一でない場合、前記異常は前記メタン発酵槽内の温度の異常であると判定し、前記攪拌機の回転速度を上昇させるメタン発酵処理システム。
【請求項6】
攪拌機が設置されたメタン発酵槽で有機性廃棄物をメタン発酵処理してバイオガスを生成するメタン発酵処理装置の運転方法であって、
前記攪拌機の動力投入密度を取得し、
前記メタン発酵槽内の固形物濃度を取得し、
所定の回転速度で動作させたときの前記攪拌機の前記動力投入密度および前記固形物濃度の取得値の関係が、所定の相関関係から外れている場合、所定時間前記攪拌機を逆回転させる処理を含む、し渣絡み解消処理を、前記取得値の関係が前記所定の相関関係となるまで繰り返し実行するメタン発酵処理装置の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタン発酵処理システム、およびメタン発酵処理装置の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
排水処理で生じる汚泥やバイオマス等の有機性廃棄物の処分において、減容化・エネルギー化を目的としてメタン発酵(嫌気性発酵)が広く行われている。メタン発酵は、嫌気性条件下で有機物を一定期間貯蔵することにより、嫌気性微生物の作用で有機性廃棄物が分解されメタンガスや二酸化炭素といったバイオガスを生成する技術であり、国内の廃棄物設備や排水処理設備で広く採用されている。一般的に、メタン発酵を行う主なメタン発酵設備として、有機性廃棄物を貯蔵してメタン発酵を行うメタン発酵槽、メタン発酵槽内のメタン発酵液を混合・攪拌する攪拌機、および、メタン発酵液の加温を行う加温装置等が挙げられる。
【0003】
従来、このようなメタン発酵設備の運転状態を把握、管理する方法として特許文献1に記載の方法がある。特許文献1は攪拌機の電流値や振動値を指標として攪拌機へのし渣の絡みつきを検知し、逆回転を行うことでし渣の絡みつき(以下し渣絡みと称す場合がある)を解消する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-139714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、し渣の絡みつきを示す攪拌機の電流値や振動値は、メタン発酵設備や採用するメタン発酵液の固形物濃度によって変化するものであり、これらの値によって、一概にし渣絡みが発生しているとはいえず、上記従来のような方法では問題を解消することが難しい虞がある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、どのようなメタン発酵設備であっても、メタン発酵設備におけるし渣の絡みつきを検出し解消することができるメタン発酵処理システム、およびメタン発酵処理装置の運転方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願で開示するメタン発酵処理システムは、
攪拌機が設置され、有機性廃棄物をメタン発酵処理してバイオガスを生成するメタン発酵槽と、
前記攪拌機の動力投入密度を取得する動力投入密度取得手段と、
前記メタン発酵槽内の固形物濃度を取得する固形物濃度取得手段と、
制御手段と、
を有し、
前記制御手段は、
所定の回転速度で動作させたときの前記攪拌機の前記動力投入密度および前記固形物濃度の取得値の関係が所定の相関関係から外れている場合、所定時間前記攪拌機を逆回転させる処理を含む、し渣絡み解消処理を、前記取得値の関係が前記所定の相関関係となるまで繰り返し実行する。
【0008】
上記構成によれば、取得した、動力投入密度および固形物濃度の関係が所定の相関関係から外れている場合には、攪拌機を逆回転させるし渣絡み解消処理を繰り返してし渣絡みを解消することができる。一般的に、メタン発酵設備や、メタン発酵設備において設定された固形物濃度に応じて、攪拌機の動力投入密度および固形物濃度の相関関係は決まってくるので、この相関関係に基づいてし渣絡みを検出することによって、どのようなメタン発酵設備であっても、メタン発酵設備におけるし渣の絡みつきを検出し解消することが可能となる。
【0009】
また、本願で開示するメタン発酵処理システムにおいて、
前記所定の相関関係であり、予め取得した、前記攪拌機を前記所定の回転速度で動作させたときの前記攪拌機の動力投入密度と前記メタン発酵槽内のメタン発酵液の固形物濃度との関係を示す相関曲線、を記憶する記憶手段、
をさらに有し、
前記制御手段は、
前記取得値の関係が前記相関曲線上から外れている場合、前記し渣絡み解消処理を、前記取得値の関係が前記相関曲線上となるまで繰り返し実行し、
前記し渣絡み解消処理の後、前記所定の回転速度で動作させた前記攪拌機の前記動力投入密度が適正範囲の範囲内であるか否かを判定してもよい。
【0010】
この構成によると、取得した動力投入密度および固形物濃度の関係が、相関曲線上にない場合にはし渣絡みが発生していることを検出して解消し、さらに相関曲線上にあったとしても適正範囲の範囲内であるか否かを判定することができる。これにより、し渣絡みに対応できるだけでなく、メタン発酵設備における運転状態が正常であるか否かを判定することが可能となる。
【0011】
また、本願で開示するメタン発酵処理システムにおいて、
前記メタン発酵槽へ送る有機性廃棄物を固液分離する固液分離装置と、
前記メタン発酵槽へ投入する前記有機性廃棄物の固形物濃度を測定する投入濃度測定手段と、
をさらに有し、
前記制御手段は、
前記し渣絡み解消処理の後、前記所定の回転速度で動作させた前記攪拌機の前記動力投入密度が適正範囲の範囲外である場合は異常と判定し、
前記異常と判定した場合であって、かつ、前記投入濃度測定手段が測定した前記固形物濃度が所定の濃度範囲でない場合、前記異常は前記固形物濃度の異常であると判定し、前記固液分離装置の運転を調整してもよい。
【0012】
この構成によると、し渣絡みが解消して攪拌機の動力投入密度および固形物濃度の取得値の関係が所定の相関関係に戻った場合であっても、動力投入密度が適正範囲の範囲外であるか否かを判定することで、し渣絡みの他の異常を検出できる。さらに、メタン発酵槽へ投入する有機性廃棄物の固形物濃度が所定の濃度範囲でない場合には、し渣絡みの他の異常が固形物濃度の異常であると判定でき、固液分離装置の運転を調整することで異常に対応することが可能となる。
【0013】
また、本願で開示するメタン発酵処理システムにおいて、
前記メタン発酵槽において発生するバイオガスの量を検出するバイオガス発生量検出手段をさらに有し、
前記制御手段は、
前記し渣絡み解消処理の後、前記所定の回転速度で動作させた前記攪拌機の前記動力投入密度が適正範囲の範囲外である場合は異常と判定し、
前記メタン発酵槽へ投入する前記有機性廃棄物に対して、検出した前記バイオガスの量が所定の倍率範囲でない場合、前記異常は前記バイオガスの量の異常であると判定し、前記メタン発酵槽への前記有機性廃棄物の投入量を調整してもよい。
【0014】
この構成によると、し渣絡みが解消して攪拌機の動力投入密度および固形物濃度の取得値の関係が所定の相関関係に戻った場合であっても、動力投入密度が適正範囲の範囲外であるか否かを判定することで、し渣絡みの他の異常を検出できる。さらに、投入する有機性廃棄物に対するバイオガスの量が所定の倍率範囲でない場合には、メタン生成細菌の活性に異常が生じていると判定でき、有機性廃棄物の投入量を調整して異常に対応することが可能となる。
【0015】
また、本願で開示するメタン発酵処理システムにおいて、
前記メタン発酵槽内のメタン発酵液の温度を測定する温度測定手段をさらに有し、
前記制御手段は、
前記し渣絡み解消処理の後、前記所定の回転速度で動作させた前記攪拌機の前記動力投入密度が適正範囲の範囲外である場合は異常と判定し、
前記メタン発酵槽内の温度が均一でない場合、前記異常は前記メタン発酵槽内の温度の異常であると判定し、前記攪拌機の回転速度を上昇させてもよい。
【0016】
この構成によると、し渣絡みが解消して攪拌機の動力投入密度および固形物濃度の取得値の関係が所定の相関関係に戻った場合であっても、動力投入密度が適正範囲の範囲外であるか否かを判定することで、し渣絡みの他の異常を検出できる。さらに、メタン発酵液の温度が均一でない場合には、メタン発酵槽内の温度の異常であると判定でき、攪拌機の回転速度を上昇させて異常に対応することが可能となる。
【0017】
また、本願で開示する運転方法は、
攪拌機が設置されたメタン発酵槽で有機性廃棄物をメタン発酵処理してバイオガスを生成するメタン発酵処理装置の運転方法であって、
前記攪拌機の動力投入密度を取得し、
前記メタン発酵槽内の固形物濃度を取得し、
所定の回転速度で動作させたときの前記攪拌機の前記動力投入密度および前記固形物濃度の取得値の関係が、所定の相関関係から外れている場合、所定時間前記攪拌機を逆回転させる処理を含む、し渣絡み解消処理を、前記取得値の関係が前記所定の相関関係となるまで繰り返し実行する。
【0018】
上記構成によれば、取得した、動力投入密度および固形物濃度の関係が所定の相関関係から外れている場合には、攪拌機を逆回転させるし渣絡み解消処理を繰り返してし渣絡みを解消することができる。一般的に、メタン発酵設備や、メタン発酵設備において設定された固形物濃度に応じて、攪拌機の動力投入密度および固形物濃度の相関関係は決まってくるので、この相関関係に基づいてし渣絡みを検出することによってどのようなメタン発酵設備であっても、メタン発酵設備におけるし渣の絡みつきを検出し解消することが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、どのようなメタン発酵設備であっても、メタン発酵設備におけるし渣の絡みつきを検出し解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明のメタン発酵処理システムを示す説明図である。
図2】本発明のメタン発酵処理システムのコントローラの機能を示すブロック図である。
図3】本発明の攪拌機の動力投入密度と消化槽内のメタン発酵液の固形物濃度との関係を示す相関曲線を示す図である。
図4】本発明の異常検出処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。
【0022】
本発明の処理方法における処理対象の有機性廃棄物は、下水汚泥、し尿汚泥、農業集落排水汚泥、浄化槽汚泥、生ごみなどの食品廃棄物(食品系バイオマス)、古紙・廃紙などのリグノセルロース系廃棄物、農業残渣、および家畜糞尿などである。これらの有機性廃棄物は、それぞれ単独で処理されてもよいし、混合処理されてもよい。以下では、処理対象として下水汚泥を例にとって、その処理について説明する。
【0023】
図1は、本発明のメタン発酵処理システム100を示す図である。図1に示すように、メタン発酵処理システム100は、有機性廃棄物をメタン発酵処理してバイオガスを生成するメタン発酵槽としての消化槽1を備えている。
【0024】
(消化槽1)
消化槽1は、下水汚泥(有機性廃棄物)を嫌気性発酵処理するタンクである。消化槽1に供給される原料汚泥の固形物濃度(TS:Total Solids)は、例えば、3~10%が好ましい。消化槽1は、中温発酵処理においては30~45℃で滞留時間15~30日程度、高温発酵処理においては50~60℃で滞留時間7~20日程度で運転される。なお、消化槽1は、鋼板製のタンクであってもよく、コンクリート製のタンクであってもよい。消化槽1には、その内部の上部、中部、下部の温度(汚泥の温度)をそれぞれ測定するための温度計11、12、13が取り付けられている。温度計11、12、13の取り付け位置は、消化槽1に収容されている消化汚泥(メタン発酵液)に浸漬されていれば特に限定されず適宜設定してよいが、消化汚泥(メタン発酵液)の液面(貯留高さ)から500mm底面側に下がった高さからプラスマイナス300mm、消化汚泥(メタン発酵液)の液面(貯留高さ)の半分の高さからプラスマイナス300mm、消化槽1の底面から1000mm液面側へ上がった高さからプラスマイナス500mmの位置に取り付けるのが好ましい。また、消化槽1で発生したバイオガスを排出するバイオガス管17にはバイオガス流量計18が取り付けられている。なお、本実施形態では、二酸化炭素等の副生成物も含めたバイオガス量を指標としているがこれに限定されず、メタンガスそのものの濃度を測定してメタンガスの発生量を決定してもよい。
【0025】
(攪拌機5)
消化槽1には、消化槽1に投入された下水汚泥を攪拌するために、攪拌機5が取付けられている。図1には、水平方向に回転する複数段の羽根5a(インペラ)で汚泥を攪拌する攪拌機5が示されている。攪拌機5の駆動源は例えば電動機5bである。攪拌機5は、一般的に、平面視において消化槽1の槽中心部に配置される。通常運転時の攪拌機5による消化槽1内の汚泥の流れを矢印Dで示すように、通常運転時、羽根5aの回転により、消化槽1の槽中心部に下降流が発生する。矢印Dの汚泥の流れを発生させる羽根5aの回転方向(正回転)をFの符号を付して図1に例示している。この下降流は消化槽1の底部で広がり反転して上昇流となる。なお、攪拌機5(羽根5a)は逆回転されてもよい。攪拌機5が逆回転されると、消化槽1内の汚泥の流れは通常運転時とは反対の流れとなる。すなわち、羽根5aを矢印Fとは反対方向に回転(逆回転)させると、消化槽1の槽中心部で上昇流が発生し、この上昇流は、消化槽1の上部で広がり反転して下降流となる。なお、本実施形態のようなインペラ式の攪拌機5に代えて、スクリュー式やドラフトチューブの攪拌機など他の形式の攪拌機が用いられてもよい。なお、本発明における攪拌機の動力投入密度とは、攪拌機を回転させるときに要する動力を消化槽内の消化汚泥の体積で除した値である。
【0026】
下水汚泥の嫌気性発酵により消化槽1の中で消化ガスが発生する。消化ガスは、メタンが約50~60容量%、二酸化炭素が約40~50容量%のガス(バイオガス)である。発生した消化ガスは、消化槽1の中から取り出され、消化槽1の加温のための燃料として利用されたり、発電設備(不図示)の燃料として利用されたりする。すなわち、下水汚泥を嫌気性発酵処理することで、下水汚泥が有するエネルギーを消化ガス(ガスエネルギー)として回収することができる。
【0027】
(汚泥投入装置2)
汚泥投入装置2は、消化槽1に汚泥を投入するためのものである。汚泥投入装置2は、固液分離装置21と、前処理槽22と、汚泥供給ポンプ23と、汚泥供給ポンプ23および消化槽1を接続する供給管24と、を有している。供給管24には供給汚泥濃度計25および汚泥流量計26が取り付けられている。
【0028】
固液分離装置21は、例えば、前段から投入された汚泥から液分の一部を分離する工程を行うものである。固液分離装置21は、前処理槽22のある下流に、固液分離処理された汚泥を送る。固液分離装置21は、例えば、ベルト型、遠心型、スクリュー型などの機械濃縮装置などが挙げられるが、汚泥の固形物濃度を調整できるものであればこれらに限定されない。
【0029】
固液分離装置21で固液分離処理された汚泥は、前処理槽22に送られる。前処理槽22では、固液分離処理された汚泥を貯留する機能があれば特に限定されないが、前処理槽22内の固液分離処理された汚泥の沈降を防ぐために攪拌装置を設けても良い。また、後段側の消化処理を促進し易くするために可溶化処理を行ってもよい。可溶化の方法としては、消化により発生するメタンを有効利用する観点からすると加熱することが好ましいが、例えば、超音波、高電圧パルス印加、高圧気体導入、オゾン供給、粉砕、酸添加、アルカリ添加、または酵素添加等の種々の手段を挙げることができる。
【0030】
前処理槽22から排出された下水汚泥(有機性廃棄物)は、汚泥供給ポンプ23の作動により、供給管24を通って消化槽1へ投入される。供給汚泥濃度計25は、供給管24を通過する下水汚泥の固形物濃度を測定する。供給汚泥濃度計25は、図1に示されるように、汚泥供給ポンプ23と消化槽1との間の供給管24に設置されていてもよく、前処理槽22内部に設置されていてもよい(不図示)。また、消化槽1に投入した汚泥の量を検出する汚泥流量計26に換えて、消化槽1に液位計(不図示)を設置してもよい。
【0031】
供給汚泥濃度計25として、超音波式濃度計、マイクロ波式濃度計、近赤外光式濃度計などが用いられる。本実施形態では、一例としてインラインタイプが用いられており、供給する汚泥の全量が供給汚泥濃度計25を通過する。また、供給汚泥濃度計25による測定以外での、例えば、手動(汚泥を採取して秤量し、乾燥前後の質量差から固形物濃度を計算するなど)で下水汚泥(有機性廃棄物)の固形物濃度を測定するようにしてもよい。汚泥流量計26としては、超音波式、電磁式等いずれが用いられてもよい。
【0032】
(加温装置3)
加温装置3 は、消化槽1に投入された消化汚泥(メタン発酵液)を加温するための装置である。加温装置3は、加温器として熱交換器3aと、循環ポンプ31と、返送配管32と、返送配管32に設置された循環汚泥濃度計33と、を有する。熱交換器3aは、消化汚泥を加温する間接式熱交換器である。熱交換器3aには、ボイラー(不図示)などの温水源から温水が供給される。循環ポンプ31の駆動により消化槽1から引き抜かれた消化汚泥(メタン発酵液)は、熱交換器3aにて温水との間接接触により加温された後、熱交換器3aと消化槽1の上下部とを接続する返送配管32を介して、消化槽1の上部から消化槽1内に戻される。このように、返送配管32には消化槽1内の汚泥が通過するため、返送配管32に設置される循環汚泥濃度計33は、消化槽1内の汚泥の固形物濃度を測定する固形物濃度測定手段として機能する。なお、消化槽1内の汚泥の固形物濃度を測定する構成はこれに限定されない。例えば、手動(汚泥を採取して秤量し、乾燥前後の質量差から固形物濃度を計算するなど)で消化槽1内の汚泥の固形物濃度を測定するようにしてもよい。
【0033】
(引抜装置8)
引抜装置8は、消化槽1の底部から消化槽1内の汚泥をその槽外へ引き抜くためのものである。引抜装置8は、引抜ポンプ81と、引抜ポンプ81に接続された引抜管82とで構成されている。なお、例えばテレスコープ弁を用いるなどして、消化槽1の底部から自然流下で汚泥を引き抜いてもよい。
【0034】
(コントローラ6)
制御手段としてのコントローラ6は、汚泥供給ポンプ23、攪拌機5、循環ポンプ31、引抜ポンプ81、および、固液分離装置21の運転を自動制御するためのものである。コントローラ6は、これらとそれぞれデータ通信可能に接続されており、制御信号を送信することにより、消化槽1への汚泥の投入操作、攪拌機5の動作、消化槽1内の消化汚泥を加温するための循環操作、消化槽1から槽外への汚泥の引抜操作などを全て自動制御する。また、コントローラ6には、供給汚泥濃度計25、汚泥流量計26、バイオガス流量計18、および温度計11~13とデータ通信可能に接続されており、これらから出力される出力信号が取り込まれる。また、図示を省略しているが、消化槽1の底部に溜まった堆積物の高さを測定するセンサ(例えば、超音波変位計)が消化槽1に取り付けられており、このセンサの出力信号もコントローラ6に取り込まれる。
【0035】
図2を参照して、より具体的なコントローラ6の機能について説明する。図2は、コントローラ6の機能を示すブロック図である。図2に示すように、コントローラ6は、記憶部61と、動力投入密度判定部62と、固形物濃度判定部63と、攪拌機制御部64と、異常判定部65と、固液分離装置制御部66と、投入量調整部67と、温度判定部68と、を有している。
【0036】
記憶部61は、後述の各種判定を行うための判断基準が格納されている。具体的には、図3を参照して後述するが、記憶部61は、予め取得した、攪拌機5を所定の回転速度で動作させたときの攪拌機5の動力投入密度と、消化槽1内の消化汚泥(メタン発酵液)の固形物濃度と、の関係を示す相関曲線を記憶している。記憶部61において、この相関曲線には、攪拌機5の動力投入密度および消化槽1内の消化汚泥の適正範囲が設定されており、各種の判定に用いられる。
【0037】
動力投入密度判定部62は、攪拌機5から動力投入密度を取得し、取得した動力投入密度が、相関曲線に設定されている適正範囲内であるか否かを判定する機能を有している。攪拌機制御部64は、攪拌機5の電動機5bの駆動を制御し、羽根5aの回転速度の維持・変更や、回転方向の変更等を行う。固形物濃度判定部63は、循環汚泥濃度計33から固形物濃度を取得し、取得した固形物濃度が、相関曲線に設定されている適正範囲内であるか否かを判定する機能を有している。
【0038】
異常判定部65は、動力投入密度判定部62や固形物濃度判定部63の判定結果に基づき、消化槽1内の消化汚泥の状態に異常があるか否かを判定する機能を有する。固液分離装置制御部66は、供給汚泥濃度計25が測定した固形物濃度が所定の濃度範囲でない場合、固液分離装置21の運転を調整する機能を有する。投入量調整部67は、汚泥流量計26が計測した消化槽1へ投入する下水汚泥(有機性廃棄物)の投入量に対する、バイオガス流量計18が検出したバイオガスの量、が所定の倍率範囲でない場合、消化槽1への下水汚泥の投入量を調整する機能を有する。温度判定部68は、温度計11~13から取得した信号に基づき、消化槽1内の温度が均一でない場合には、攪拌機制御部64に撹拌機5の電動機5bの駆動を制御させて、攪拌機5の回転速度を上昇させる機能を有している。
【0039】
尚、本実施形態において、コントローラ6は、所謂コンピュータを含み、CPU(Central Processing Unit)と、CPUが実行するプログラム及びこれらプログラムに使用されるデータを書き替え可能に記憶するEEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory)と、プログラム実行時にデータを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)とを含んでいる。コントローラ6が有する上記の各機能部は、これらハードウェアとEEPROM内のプログラムとが協働して構築されている。換言すれば、当該プログラムは、メタン発酵処理システム100が備えるコンピュータに各種プログラムが有する処理を実行させ、メタン発酵処理システム100が備えるメタン発酵設備(メタン発酵処理装置)の運転を制御する。このように、メタン発酵処理システム100の処理や動作をプログラムやメタン発酵処理装置の運転方法として置き換えることができる。なお、コントローラ6が含むコンピュータは一台に限定されず、複数のコンピュータに機能を分散させて設けるものであってもよい。すなわち、コントローラは複数であってもよい。なお、コントローラ6を用いずに、またはコントローラ6をそもそも設けずに、コントローラ6が行う制御(例えば運転条件の変更)を作業員が手動で行ってもよい。また、温度、供給汚泥の濃度、循環汚泥の濃度、汚泥の流量、ガスの流量等の計測は、作業員等によって手動で行われてもよい。すなわち、作業員が、計測器の数値に基づいて、撹拌機、各種ポンプ、及び、固液分離装置等の制御を行ってもよい。
【0040】
(所定の相関関係について)
所定の相関関係は、攪拌機の動力投入密度と、消化槽内の消化汚泥の固形物濃度との間の正の相関を示す。消化槽内の消化汚泥に含まれる固形物濃度が高くなると、それに合わせて攪拌に必要な動力も大きくなることから、攪拌機の動力投入密度と消化槽内の消化汚泥の固形物濃度の間には正の相関が存在している。本実施形態では、図3に示すように、予め取得した、動力投入密度と、固形物濃度とを、プロットして引いた近似曲線(相関曲線)を、所定の相関関係として用いるがこれに限定されない。例えば、予め定めた攪拌機5の動力投入密度に対応する消化槽1内の消化汚泥(メタン発酵液)の固形物濃度の数値範囲を定めておき、測定された消化槽1内の消化汚泥(メタン発酵液)の固形物濃度が、測定された攪拌機5の動力投入密度に対応する数値範囲に入っていない場合は相関関係から外れていると判断してもよい。また、予め定めた消化槽1内の消化汚泥(メタン発酵液)の固形物濃度に対応する攪拌機5の動力投入密度の数値範囲を定めておき、測定された攪拌機5の動力投入密度が、測定された消化槽1内の消化汚泥(メタン発酵液)の固形物濃度に対応する数値範囲に入っていない場合は相関関係から外れていると判断してもよい。
【0041】
図3を参照して、記憶部61が記憶する相関曲線について具体的に説明する。この相関曲線は、予めメタン発酵処理システム100や同じタイプの消化槽1を含むメタン発酵設備を動作させて得た、攪拌機5の動力投入密度と、消化槽1内の消化汚泥(メタン発酵液)の固形物濃度と、の関係を示すデータである。この相関曲線は、回転速度を維持するように攪拌機5を動作させて得たデータである。したがって、この相関曲線には、消化槽1内の消化汚泥の固形物濃度が変化した場合、攪拌機5の回転速度を維持するのに必要な動力投入密度がどのように変化するかが示される。すなわち、図3に示すように、相関曲線Cは、消化汚泥の固形物濃度が高くなれば回転速度を維持するのに必要な攪拌機5の動力投入密度も高くなり、消化汚泥の固形物濃度が低くなれば回転速度を維持するのに必要な攪拌機5の動力投入密度も小さくなる。例えば、回転速度は、10~20rpmの範囲のいずれかで維持されることが好ましい。
【0042】
記憶部61において、相関曲線には適正範囲が設定される。適正範囲は、汚泥の消化効率やバイオガスの発生量から、維持したい固形物濃度範囲Sが決定されて適正範囲Sが定められ、対応する動力投入密度の適正範囲Pが決定される。例えば、固形物濃度の適正範囲Sの上限は、6.0%が好ましく、固形物濃度の適正範囲Sの下限は、1.0%が好ましい。また、適正範囲Sは、攪拌機の選定やメタン発酵処理システムの設計時に設定した固形物濃度の設計濃度に対し、プラスマイナス1.0ポイントとしてもよい、具体的には設計濃度が3.0%の時は、適正範囲Sは2.0~4.0%となる。固形物濃度が相関曲線に設定された適正範囲Sの範囲内となるように、例えば、コントローラ6(固液分離装置制御部66)によって、固液分離装置21から送り出される汚泥の固形物濃度が調整される。消化槽1内で下水汚泥が発酵処理されると、消化汚泥の固形物濃度は、メタン発酵菌の分解作用により、原料汚泥の固形物濃度の約半分となる。供給汚泥濃度計25が検出する下水汚泥の固形物濃度の値は、例えば、3~10%が好ましい。また、例えば、動力投入密度の適正範囲Pの上限は、10.0W/m3が好ましく、5.0W/m3がより好ましい。動力投入密度の適正範囲Pの下限は、0.2W/m3が好ましく、0.5W/m3がより好ましい。
【0043】
相関曲線を出力した条件と同じ条件でメタン発酵処理システム100を稼働させた場合、し渣絡みやその他の異常がない場合には、動力投入密度および固形物濃度の値はいずれも、相関曲線上にあり、さらに相関曲線に設定された適正範囲内に含まれることになる。すなわち、動力投入密度は適正範囲Pの範囲内となっており、固形物濃度は適正範囲Sの範囲内となっている。ここで、「相関曲線上」とは、動力投入密度と固形物濃度との関係が、相関曲線上のいずれかの点に完全に一致することに限定されない。例えば、相関曲線の動力投入密度に対してプラスマイナス20%の範囲内であればよく、また相関曲線の固形物濃度に対してプラスマイナス10%の範囲内であればよい。また、相関曲線は、施設ごとに変更可能に構成されていてもよく、その場合、記憶部61には、施設ごとの相関曲線が記憶されることが好ましく、施設に合わせて相関曲線を変更することが好ましい。
【0044】
例えば、し渣絡みが生じている場合、攪拌機5に追加の負荷がかかるため、動力投入密度は適正範囲Pの範囲外となり、さらに動力投入密度および固形物濃度の値の関係は相関曲線上から外れる。このような場合には、コントローラ6は、し渣絡みが生じていると判定し、攪拌機5の逆回転運転を行う処理を含む、し渣絡みを解消する制御(し渣絡み解消処理)を実行する。
【0045】
また、例えば、動力投入密度および固形物濃度の値のいずれもが適正範囲外である場合、すなわち、動力投入密度が適正範囲Pの範囲外であり、固形物濃度が適正範囲Sの範囲外である場合、動力投入密度および固形物濃度の値の関係が相関曲線上にあったとしても、コントローラ6は、メタン発酵処理設備に他の異常が発生していると判断する。
【0046】
このように、メタン発酵処理システム100は、相関曲線と、相関曲線に設定された動力投入密度の適正範囲Pおよび固形物濃度の適正範囲Sと、に基づいて、複数の異常の原因を検出することができる。し渣絡みとは別の、上記他の異常の具体例とその対応については、図4のフローチャートを参照して説明する。
【0047】
次に、図4を参照して、メタン発酵処理システム100においてコントローラ6により実行される異常検出処理のフローチャートについて説明する。まず、コントローラ6は、攪拌機5への動力投入密度が適正範囲Pの範囲内であるか否かを判定する(S1)。具体的に、コントローラ6は、攪拌機5から現在の動力投入密度を取得し、その値が記憶している相関曲線に設定された適正範囲Pの範囲内であるかを判定する。動力投入密度が適正範囲Pの範囲内である場合(S1:YES)、コントローラ6は、ステップS1を例えば所定時間ごとに繰り返す。
【0048】
一方、動力投入密度が適正範囲Pの範囲内でない場合(S1:NO)、コントローラ6は、消化槽1内の消化汚泥の固形物濃度を測定する(S2)。具体的に、コントローラ6は、循環汚泥濃度計33が測定した現在の消化槽1内の消化汚泥の固形物濃度を取得する(S3)。そして、コントローラ6は、取得した動力投入密度と固形物濃度との関係が、相関曲線上にあるか否かを判定する(S3)。相関曲線上に無いと判定した場合(S3:NO)、コントローラ6は、攪拌機5にし渣絡みが発生していると判断し、し渣絡み解消処理を実行する(S4)。このように、コントローラ6は、動力投入密度が適正範囲の範囲外である場合に固形物濃度を測定し、相関曲線から外れている場合はし渣絡み解消処理を行う。し渣絡み解消処理は、し渣絡みを解消するための攪拌機5の逆回転を含む処理である。
【0049】
例えば、コントローラ6は、し渣絡み解消処理において、まず、正回転状態を停止し、その後一定時間待機し、その後正回転の半分の回転数で攪拌機5を逆回転させた後、一定時間停止状態とし、再度正回転を開始する。そして、コントローラ6は、処理をステップS3へ移行し、再度動力投入密度と固形物濃度との関係が、相関曲線上にあるか否かが判定され、未だ相関曲線上に無い場合にはステップS4のし渣絡み解消処理が繰り返されることになる。このように、動力投入密度および固形物濃度の関係が相関曲線上から外れている場合、所定時間攪拌機5を逆回転させる処理を含む、し渣絡み解消処理が、上記の関係が相関曲線上となるまで繰り返し実行される。この繰り返しは、1回のし渣絡み解消処理の処理も含む。すなわち、最初にし渣絡み解消処理を実行しただけで、上記の関係が相関曲線上となった場合をも含む。なお、図示しないが、ステップS3への移行時に再度動力投入密度を再度取得する。また、この処理の移行時に、固形物濃度については測定してもよいし、測定しなくてもよい。例えば、前回の測定時から特定の時間が経過している場合には測定するように構成されていてもよい。すなわち、前回測定した固形物濃度を流用してもよい。そして、ステップS3において、コントローラ6は、再度動力投入密度と、固形物濃度と関係が相関曲線上にあるか否かを判定する。このように、し渣絡み解消処理後には、再度、動力投入密度と固形物濃度との関係が相関曲線上であるか否かが判定される。なお、攪拌機5の逆回転の回転数は特に限定されず適宜設定されるが、3~10rpmとするのが好ましく、より好ましくは5~8rpmである。また、攪拌機5を所定の回転速度で運転したときの回転数の1/2~1/3rpmとしてもよく、より好ましくは1/2rpmである。また、し渣絡み解消処理には、攪拌機5を逆回転する処理が含まれていればよく、上記のような処理に限定されない。例えば、し渣絡み解消処理は、所定時間攪拌機5を逆回転させる処理を複数回含んでいてもよい。また、本実施形態では、し渣絡み解消処理について、動力投入密度が適正範囲内でないこと(ステップS1においてNO)を条件として実行しているがこれに限定されない。
【0050】
ステップS3において、動力投入密度と固形物濃度との関係が相関曲線上にあると判定した場合(S3:YES)、コントローラ6は、し渣絡みがない(し渣絡みが解消した)と判定し、他の異常がないかを判定するために、動力投入密度と固形物濃度との値がいずれも適正範囲内であるか否かを判定する(S5)。すなわち、動力投入密度は適正範囲Pの範囲内となっており、固形物濃度は適正範囲Sの範囲内となっているかどうかが判定されることになる。したがって、動力投入密度が適正範囲Pの範囲内であるかが再度判定されることになる。なお、動力投入密度と固形物濃度とは相関曲線上にあるため、いずれもが適正範囲内であるか、いずれもが適正範囲内でないか、が判定されることになる。いずれも適正範囲内である場合(S5:YES)、コントローラ6は、し渣絡みの他の異常は無いとして、処理をステップS1へ移行する。
【0051】
一方、動力投入密度と固形物濃度との値がいずれも適正範囲内でない場合(S5:NO)、コントローラ6は、し渣の絡みつきの他に異常があると判定する(S6)。そして、コントローラ6は、投入汚泥濃度が管理値内であるか否かを判定する(S7)。すなわち、コントローラ6は、供給汚泥濃度計25からの信号を受信し、消化槽1へ投入している下水汚泥の固形物濃度が管理値内であるか否かを判定する。上述したように、消化槽1へ投入する下水汚泥の固形物濃度は、消化槽1へ投入する下水汚泥を固液分離する固液分離装置21の選定時に設定した固液分離後の下水汚泥の想定固形物濃度のプラスマイナス1ポイント以内に収まっていればよい。例えば、想定固形物濃度が4.0%の場合は、管理値の範囲は3.0~5.0%となる。投入汚泥濃度が管理値内でない場合(S7:NO)、コントローラ6は、ステップS6で判定した異常に、固形物濃度の異常が含まれていると判定する(S8)。そして、コントローラ6は、固液分離装置21が送出する下水汚泥の含水率を調整するように固液分離装置21の運転を制御する(S9)。固液分離装置21の運転の内容は特に限定されないが、投入汚泥濃度が管理値よりも大きい場合は、下水汚泥に固液分離操作前に添加する高分子凝集剤や無機凝集剤の添加量を低減させる、ベルト型の固液分離装置の場合はベルトの走行速度を大きくする、遠心型の固液分離装置の場合はスクリーンや内筒、外筒の回転数を小さくする、スクリュー型の固液分離装置の場合はスクリュー軸の回転数を大きくする、等の操作を行う。投入汚泥濃度が管理値よりも小さい場合は、高分子凝集剤や無機凝集剤の添加量を増大させる、ベルト型の固液分離装置の場合はベルトの走行速度を小さくする、遠心型の固液分離装置の場合はスクリーンや内筒、外筒の回転数を大きくする、スクリュー型の固液分離装置の場合はスクリュー軸の回転数を小さくする、等の操作を行う。
【0052】
投入汚泥濃度が管理値内である場合(S7:YES)、コントローラ6は、バイオガス発生原単位が管理値以上(管理値範囲)であるか否かを判定する(S10)。すなわち、コントローラ6は、バイオガス流量計18からの信号を受信し、発生しているバイオガスの発生量を取得する。また、コントローラ6は、汚泥流量計26からの信号を受信し、投入している下水汚泥の量を取得する。そして、コントローラ6は、これらに基づき、バイオガス発生倍率を算出する。バイオガス発生倍率は、消化槽1(メタン発酵槽)に投入される下水汚泥(有機性廃棄物)の量で発生するバイオガスの量を除した値であり、単位は無単位、またはNm3/m3、Nm3-1/m3-1等で表現される。バイオガス発生倍率の管理値の下限は5倍が好ましく、10倍がより好ましく、更に好ましくは15倍である。バイオガス発生原単位の管理値の下限は、400Nm3/t-VSが好ましく、500Nm3/t-VSがより好ましい。なお、VSは、Volatile Solidsの略で強熱減量と呼ばれ、被処理物を105~110℃で蒸発乾固したときに残る蒸発残留物をさらに600℃で灰化したときに揮散する物質の量である。バイオガス発生倍率が管理値以上でない場合(S10:NO)、コントローラ6は、バイオガスの量の異常が、ステップS6で判定した異常に含まれていると判定する(S11)。例えば、バイオガスの量の異常は、メタン生成細菌の活性が低下したり、死滅が進んだりしているといった異常が要因となる。そして、コントローラ6は、汚泥供給ポンプ23を制御して、消化槽1への汚泥の投入を一時的に停止したり、低下したりして、投入負荷を調整する制御を行う(S12)。なお、バイオガスが多く発生する分には問題がないためこれを異常であると検出しないことが好ましいがこれに限定されない。また、バイオガス発生倍率に替えて、例えば消化槽1に投入される固形物量(Total Solid:TS)でバイオガスの量を除した値としても良いし、バイオガス中のメタンガスの量を下水汚泥(有機性廃棄物)の量や下水汚泥(有機性廃棄物)中の固形物量で除した値としても良い。
【0053】
バイオガス発生倍率が管理値以上(管理値範囲)である場合(S10:YES)、コントローラ6は、温度計11~13から信号を受信し、消化槽1内の温度が均一であるか否かを判定する(S13)。消化槽1内の温度が均一でない場合(S13:NO)、コントローラ6は、メタン発酵槽内のメタン発酵液の温度の異常が、ステップS6で判定した異常に含まれていると判定する(S14)。そして、コントローラ6は、攪拌機5の回転数を所定時間増加させる制御を行う(S15)。消化槽1内の温度が均一である場合(S13:YES)、コントローラ6は、ステップS5へ処理を移行する。消化槽1内の温度が均一か否かの判断は、温度計11~13それぞれで取得された温度に差異が生じていれば均一でないと判断して良いが、温度計11~13それぞれで取得された温度のうち、最も高い値を示した温度と最も低い値を示した温度との差の絶対値が1ポイント以上であれば均一でないと判断し、その絶対値が1ポイント未満であれば均一とみなすと判断しても良い。また、温度計11~13それぞれで取得された温度のうち、最も高い値を示した温度と最も低い値を示した温度との差の絶対値が1ポイント以上となってから直ちに均一でないと判断しても良いが、所定期間、例えば3日以上その絶対値が1ポイント以上を維持した場合になってから均一でないと判断しても良い。
さらに、攪拌機5の回転数を所定時間増加させる場合において、予め設定された時間、例えば1時間以上回転数を増加させて運転した後、所定の回転数に戻す制御を行っても良いが、温度計11~13で温度を取得しながら、最も高い値を示した温度と最も低い値を示した温度との差の絶対値が1ポイント未満となったら直ちに、または一定期間、例えば1日以上1ポイント未満が継続したら均一になったと判断しても良い。また、攪拌機5の回転数をどの程度増加させるかは特に限定されず適宜設定すればよいが、好ましくは所定の回転数の1.2~3倍、さらに好ましくは1.5~2倍である。
【0054】
なお、ステップS7、ステップS10、ステップS13の判定の優先順位はこれに限定されずいずれから行われるものであってもよい。
【0055】
(効果)
本実施形態のメタン発酵処理システム100は、攪拌機5が設置され、有機性廃棄物をメタン発酵処理してバイオガスを生成す消化槽1(メタン発酵槽)と、コントローラ6とを有している。コントローラ6は、攪拌機5の動力投入密度を取得する。コントローラ6は、循環汚泥濃度計33からの信号に基づき消化槽1内の固形物濃度を取得する。コントローラ6は、所定の回転速度で動作させたときの攪拌機5の動力投入密度および固形物濃度の取得値の関係が所定の相関関係から外れている場合、所定時間攪拌機5を逆回転させる処理を含む、し渣絡み解消処理を、動力投入密度および固形物濃度の取得値の関係所定の相関関係となるまで繰り返し実行する。
【0056】
上記メタン発酵処理システム100によると、次のような効果が得られる。
【0057】
取得した、動力投入密度および固形物濃度の関係が所定の相関関係から外れている場合には、攪拌機5を逆回転させるし渣絡み解消処理を繰り返してし渣絡みを解消することができる。一般的に、メタン発酵設備や、メタン発酵設備において設定された固形物濃度に応じて、攪拌機の動力投入密度および固形物濃度の相関関係は決まってくるので、この相関関係に基づいてし渣絡みを検出することによって、どのようなメタン発酵設備であっても、メタン発酵設備におけるし渣の絡みつきを検出し解消することが可能となる。
【0058】
また、上記メタン発酵処理システム100において、所定の相関関係であり、予め取得した、攪拌機5を所定の回転速度で動作させたときの攪拌機5の動力投入密度とメタン発酵槽内の消化槽1の固形物濃度との関係を示す相関曲線、が記憶されている。コントローラ6は、動力投入密度および固形物濃度の取得値の関係が相関曲線上から外れている場合、し渣絡み解消処理を、これらの取得値の関係が相関曲線上となるまで繰り返し実行し、し渣絡み解消処理の後、所定の回転速度で動作させた攪拌機5の動力投入密度が適正範囲の範囲内であるか否かを判定してもよい。この構成によると、取得した動力投入密度および固形物濃度の関係が、相関曲線上にない場合にはし渣絡みが発生していることを検出して解消し、さらに相関曲線上にあったとしても適正範囲の範囲内であるか否かを判定することができる。これにより、し渣絡みに対応できるだけでなく、メタン発酵設備における運転状態が正常であるか否かを判定することが可能となる。
【0059】
また、上記メタン発酵処理システム100は、消化槽1へ送る有機性廃棄物を固液分離する固液分離装置21と、消化槽1へ投入する下水汚泥(有機性廃棄物)の固形物濃度を測定する供給汚泥濃度計25(投入濃度測定手段)と、をさらに有している。コントローラ6は、し渣絡み解消処理の後、所定の回転速度で動作させた攪拌機5の動力投入密度が適正範囲の範囲外である場合は異常と判定する。コントローラ6は、異常と判定した場合であって、かつ、供給汚泥濃度計25が測定した固形物濃度が所定の濃度範囲でない場合、異常は固形物濃度の異常であると判定し、固液分離装置21の運転を調整してもよい。この構成によると、し渣絡みが解消して攪拌機5の動力投入密度および固形物濃度の取得値の関係が所定の相関関係に戻った場合であっても、動力投入密度が適正範囲の範囲外であるか否かを判定することで、し渣絡みの他の異常を検出できる。さらに、消化槽1へ投入する下水汚泥の固形物濃度が所定の濃度範囲でない場合には、し渣絡みの他の異常が固形物濃度の異常であると判定でき、固液分離装置21の運転を調整することで異常に対応することが可能となる。
【0060】
また、上記メタン発酵処理システムは、消化槽1において発生するバイオガスの量を検出するバイオガス流量計18(バイオガス発生量検出手段)をさらに有している。コントローラ6は、し渣絡み解消処理の後、所定の回転速度で動作させた攪拌機5の動力投入密度が適正範囲の範囲外である場合は異常と判定する。コントローラ6は、メタン発酵槽へ投入する下水汚泥に対して、検出したバイオガスの量が所定の倍率範囲でない場合、異常はバイオガスの量の異常であると判定し、消化槽1への下水汚泥の投入量を調整してもよい。この構成によると、し渣絡みが解消して攪拌機5の動力投入密度および固形物濃度の取得値の関係が所定の相関関係に戻った場合であっても、動力投入密度が適正範囲の範囲外であるか否かを判定することで、し渣絡みの他の異常を検出できる。さらに、投入する下水汚泥に対するバイオガスの量が所定の倍率範囲でない場合には、メタン生成細菌の活性に異常が生じていると判定でき、下水汚泥の投入量を調整して異常に対応することが可能となる。
【0061】
また、上記メタン発酵処理システムは、消化槽1内の消化汚泥の温度を測定する温度計11~13(温度測定手段)をさらに有している。コントローラ6は、し渣絡み解消処理の後、所定の回転速度で動作させた攪拌機5の動力投入密度が適正範囲の範囲外である場合は異常と判定する。コントローラ6は、消化槽1内の温度が均一でない場合、異常は消化槽1内の温度の異常であると判定し、攪拌機5の回転速度を上昇させてもよい。この構成によると、し渣絡みが解消して攪拌機5の動力投入密度および固形物濃度の取得値の関係が所定の相関関係に戻った場合であっても、動力投入密度が適正範囲の範囲外であるか否かを判定することで、し渣絡みの他の異常を検出できる。さらに、消化汚泥の温度が均一でない場合には、消化槽1内の温度の異常であると判定でき、攪拌機5の回転速度を上昇させて異常に対応することが可能となる。
【0062】
本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。上記の実施形態の各構成を適宜組み合わせたり、上記の実施形態に種々の変更を加えたりすることが可能である。例えば、上記の実施形態は、次のように変更可能である。
【0063】
例えば、図4において、ステップS7、S10、S13の判定処理は、それぞれ必須ではなく、これらのいずれか1以上を備えていればよいし、いずれも備えてなくてもよい。また、本実施形態では、コントローラ6は、ステップS7の判定の後、固定物濃度の異常であると判定した場合(S8)、例えば、設備の管理者等に対して異常の内容を示す通知を行ってもよい。同様に、コントローラ6は、ステップS11、ステップS14において異常であると判定した場合にも、その異常の内容を示す通知を行ってもよい。また、図4のフローチャートにおいて、いずれかのステップを除外してもよい。例えば、コントローラ6は、ステップS3で動力投入密度と固形物濃度との取得値の関係が、相関曲線上にある場合には、処理をステップS1へ移行するものであってもよい。すなわち、コントローラ6は、ステップS5以降の処理を行わなくてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明のメタン発酵処理装置の運転方法、およびメタン発酵処理装置は、下水汚泥、し尿汚泥、農業集落排水汚泥、浄化槽汚泥、生ごみなどの食品廃棄物(食品系バイオマス)、建築廃材、古紙・廃止などの紙などのリグノセルロース系廃棄物、農業残渣、および家畜糞尿などの様々な有機性廃棄物を分解処理し、その分解処理物を原料としてメタンを生成する用途に利用可能である。
【符号の説明】
【0065】
1:消化槽(メタン発酵槽)
2:汚泥投入装置
3:加温装置
3a:熱交換器
4:返送配管
5:攪拌機
5a:羽根
5b:電動機
6:コントローラ
8:引抜装置
11・12・13:温度計
17:バイオガス管
18:バイオガス流量計
21:固液分離装置
22:前処理槽
23:汚泥供給ポンプ
24:供給管
25:供給汚泥濃度計
26:汚泥流量計
31:循環ポンプ
32:返送配管
33:循環汚泥濃度計
81:引抜ポンプ
82:引抜管
図1
図2
図3
図4