(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114480
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】水素発生材料及び水素発生材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 3/06 20060101AFI20240816BHJP
【FI】
C01B3/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020276
(22)【出願日】2023-02-13
(71)【出願人】
【識別番号】000004743
【氏名又は名称】日本軽金属株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】太田 裕二
(72)【発明者】
【氏名】大久保 学
(72)【発明者】
【氏名】今西 雅弘
(57)【要約】
【課題】原材料の比率が一定に保たれる水素発生材料を提供する。
【解決手段】水素化ホウ素ナトリウムの粉末と、酸の粉末とを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素化ホウ素ナトリウムの粉末と、酸の粉末とを含む、水素発生材料。
【請求項2】
水素化ホウ素ナトリウムの粉末と、酸の粉末とを含む圧粉体を有する、水素発生材料。
【請求項3】
前記酸は、ホウ酸である、請求項1又は2に記載の水素発生材料。
【請求項4】
前記水素化ホウ素ナトリウムに対する前記ホウ酸の質量比が、0.7以上である、請求項3に記載の水素発生材料。
【請求項5】
水素化ホウ素ナトリウムの粉末と、酸の粉末とを混合して混合粉末を作製する混合工程と、
前記混合粉末を成形して圧粉体を作製する成形工程と、
を有する、水素発生材料の製造方法。
【請求項6】
前記酸は、ホウ酸である、請求項5に記載の水素発生材料の製造方法。
【請求項7】
前記混合粉末に含まれる、水素化ホウ素ナトリウムに対するホウ酸の質量比が、0.7以上である、請求項6に記載の水素発生材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素発生材料及び水素発生材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素化ホウ素ナトリウム(Sodium Borohydride:SBH)は、加水分解により容易に水素を発生させることができるため、水素貯蔵材料としての利用が検討されている。例えば、特許文献1には、SBHに水を投入したのち、クエン酸水溶液等の酸性の水溶液を投入して水素を発生させる方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の方法では、前記酸性の水溶液は、保管や輸送の過程で、溶媒である水が蒸発することで、前記水溶液の溶質の析出が発生する可能性がある。この場合、前記酸性の水溶液に含まれる酸の量が減るため、水素の発生が不十分なものとなる可能性がある。
【0005】
本発明は、上記課題を鑑み、原材料の比率が一定に保たれる水素発生材料及び水素発生材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本発明の一態様に係る水素発生材料は、水素化ホウ素ナトリウムの粉末と、酸の粉末とを含む。
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明の一態様に係る水素発生材料の製造方法は、水素化ホウ素ナトリウムの粉末と、酸の粉末とを混合して混合粉末を作製する混合工程と、前記混合粉末を成形して圧粉体を作製する成形工程と、を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、原材料の比率が一定に保たれる水素発生材料及び水素発生材料の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る水素発生装置の一例を示す模式的な図である。
【
図2】
図2は、第2実施形態に係る圧粉体の一例を示す側面図である。
【
図3】
図3は、第2実施形態に係る水素発生装置の一例を示す模式的な図である。
【
図5】
図5は、第2実施形態に係る水素発生材料の製造方法における成形工程を説明する模式的な断面図である。
【
図6】
図6は、実施例7及び実施例8に係る水素発生率の推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示に係る実施形態について図面を参照しながら説明するが、本開示はこれに限定されない。以下で説明する実施形態の構成要素は、適宜組み合わせることができる。また、一部の構成要素を用いない場合もある。また、以下で説明する実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。また、数値については四捨五入の範囲が含まれる。
【0011】
(第1実施形態)
第1実施形態に係る水素発生材料は、水素化ホウ素ナトリウムの粉末と、酸の粉末とを混合した混合粉末である。ここで、粉末であるとは、最大寸法が1mm以下の粒子の集合体を指す。より具体的には、目開き1000μmの篩にかけることで得られる篩下の原料であればよい。
【0012】
第1実施形態に係る水素発生材料は、水を添加することで、下記式(1)の反応により水素を発生させることができる。第1実施形態に係る水素発生材料を用いた水素発生方法の詳細は、後述する。
NaBH4+2H2O→4H2+NaBO2・・・(1)
【0013】
酸は、常温かつ常圧で固体の酸であり、例えば、クエン酸、ホウ酸等が挙げられる。ここで、常温とは、5℃以上35℃以下であることを指し、常圧とは、86kPa以上106kPa以下であることを指す。
【0014】
酸は、ホウ酸であることが好ましい。この場合、水素発生材料は、水を加えることで、下記式(2)の反応により副生成物としてホウ砂が生成する。ホウ砂は、下記の式(3)及び式(4)によって水素化ホウ素ナトリウムとして再利用できる。これにより、水素発生反応の副生成物を再利用することができる。
2NaBH4+2H3BO3+H2O→Na2B4O7+8H2・・・(2)
Na2B4O7・10H2O+2NaOH→4NaBO2+11H2O・・・(3)
NaBO2+4/3Al+2H2→NaBH4+2/3Al2O3・・・(4)
【0015】
酸がホウ酸である場合、水素化ホウ素ナトリウムに対するホウ酸の質量比は、0.7以上であることが好ましく、1.6以上であることがより好ましい。これにより、水素発生反応後のpHの増大が抑制されるので、水素発生率を向上できる。
【0016】
以上説明したように、第1実施形態に係る水素発生材料は、水素化ホウ素ナトリウムの粉末と、酸の粉末とを含む。これにより、水素発生材料は、固体の状態で保存、輸送等が可能なため、外気に触れても蒸発等により水素発生材料の成分が失われることがないので、原材料の比率を一定に保つことができる。
【0017】
望ましい態様として、酸は、ホウ酸である。これにより、水素発生反応の副生成物を再利用することができる。
【0018】
さらに望ましい態様として、水素化ホウ素ナトリウムに対するホウ酸の質量比が、0.7以上である。これにより、水素発生反応後のpHの増大が抑制されるので、水素発生率を向上できる。
【0019】
(水素発生装置)
図1は、第1実施形態に係る水素発生装置の一例を示す模式的な図である。
図1に示すように、第1実施形態に係る水素発生装置2は、第1実施形態に係る水素発生材料1を用いた水素発生装置であって、水素発生材料1と、容器21と、ヒータ22と、ポンプ23と、タンク24とを備える。
【0020】
容器21は、気密性の容器である。容器21は、耐圧性の容器であることが好ましい。この場合、水素発生材料1から発生した水素の圧力により容器21が破損することを抑制できる。なお、
図1の例では、容器21は、温度計TIと、圧力計PIとを備えるが、単なる一例である。
【0021】
容器21には、水素発生材料1が格納される。水素発生材料1は、第1実施形態に係る水素発生材料1である。
図1の例では、水素発生材料1は、粉末であって、容器21の底面に堆積している。水素発生材料1は、容器21内で均等に堆積していることが好ましい。この場合、水を添加した際の容器21内の水位上昇に伴って、より多くの水素発生材料1が水と接触できるので、水素発生率を向上できる。
【0022】
ヒータ22は、例えば電熱器であり、容器21内を加温する。
図1の例では、ヒータ22は、容器21の外部に設けられるが、これに限られず、容器21の壁内や容器21の内部に設けられるものであってもよい。
【0023】
ポンプ23は、容器21内に水を供給するポンプである。タンク24は、ポンプ23に水を供給するタンクである。すなわち、ポンプ23及びタンク24は、容器21内に水を供給する給水手段の一例である。なお、給水手段は、ポンプ23及びタンク24とすることに限られず、例えば、水素発生材料1の外部から水を輸送するパイプ等であってもよい。
【0024】
以上説明したように、第1実施形態に係る水素発生装置2は、水素化ホウ素ナトリウムの粉末と、酸の粉末とを含む水素発生材料1と、水素発生材料1を格納する容器21と、容器21内に水を供給する給水手段とを備える。これにより、原材料の比率を一定に保ちつつ、水素を発生させることができる。
【0025】
(水素発生方法)
第1実施形態に係る水素発生方法は、第1実施形態に係る水素発生材料に、水Wを添加する方法を有する。具体的には、第1実施形態に係る水素発生方法は、
図1の水素発生装置2の容器21に第1実施形態に係る水素発生材料1を投入し、ポンプ23等の給水手段により水Wの供給を受けて、水素発生材料1に水Wを滴下する方法である。水Wを添加すると、水素発生材料1の粉体(粉末の集合体)の表面1aが水Wと接触し、先述した反応式(1)の反応により水素が発生する。これにより、第1実施形態に係る水素発生材料を用いた水素発生方法では、水素化ホウ素ナトリウムに酸を加える工程が不要であるため、より単純な工程で水素を発生させることができる。なお、水Wの添加は、水素発生材料1に水Wを滴下することに限られず、例えば水を噴霧することよって行われてもよい。
【0026】
ここで、水Wの添加は、常温以上水の沸点以下の添加温度で行われる。
図1の例では、容器21内をヒータ22で加温することで、添加温度の調整がされる。水素発生材料1がホウ酸を含む場合、添加温度は、40℃以上水の沸点以下であることが好ましい。この範囲とすることで、ホウ酸の水Wへの溶解度を向上できるので、水素発生反応を促進でき、水素発生率を向上できる。また、添加温度は、60℃以上水の沸点以下であることがより好ましい。この範囲とすることで、副生成物であるホウ砂の溶解度を向上できる。これにより、副生成物であるホウ砂が水素発生材料の表面に析出し、水との接触を妨げることを抑制できるので、水素発生反応を促進でき、水素発生率をより向上できる。
【0027】
以上説明したように、第1実施形態に係る水素発生方法は、第1実施形態に係る水素発生装置2の容器21内で、水素化ホウ素ナトリウムの粉末と、酸の粉末とを含む水素発生材料1に水を添加する方法である。これにより、原材料の比率を一定に保ちつつ、水素を発生させることができる。
【0028】
(第2実施形態)
第2実施形態に係る水素発生材料は、水素化ホウ素ナトリウムの粉末と、酸の粉末とを含む圧粉体を有する点で第1実施形態の水素発生材料と異なる。第2実施形態では、水素発生材料は、複数の圧粉体である。圧粉体は、複数の粉末粒子を含み、複数の粉末粒子によって圧粉体全体の外形が保たれた形成体である。これより、圧粉体は、輸送等によって外形が崩れて粉末に戻ることがない状態となる。また、圧粉体では、複数の粉末粒子間には、粒界がある。これより、圧粉体1個の嵩密度は、圧粉体の真密度の100%未満となる。ここで、圧粉体の真密度は、該成形体を構成する材料の真密度の、質量比で重み付けをした加重平均として算出される。
【0029】
圧粉体の嵩密度は、圧粉体が投入される容器内の温度の水の密度より大きいことが好ましい。例えば、圧粉体が投入される容器内の温度が61℃以上63℃以下になるように加温される場合、圧粉体の嵩密度は、0.98g/cm3より大きいことが好ましい。これにより、水を添加して水位が上昇しても、圧粉体が水面に浮かずに水面下に入るため、水との接触性をより向上でき、水素発生率をより向上できる。一方で、圧粉体の密度が水より小さい場合、水位が上昇した際に、圧粉体が水面に浮いてしまい、圧粉体の表面の一部が水面から露出し、水との接触性が低下する可能性がある。
【0030】
図2は、第2実施形態に係る圧粉体の一例を示す側面図である。圧粉体10の形状は、頂点のない形状、例えば、円板状や球状であることが好ましい。この場合、輸送中に圧粉体10同士が接触することによる破損を抑制できるので、より保存性が向上する。また、圧粉体10の形状は、曲面を含むことが好ましい。
図2の例では、圧粉体10の形状は、凸レンズ状、より詳しくは、球欠の平面同士を貼り合わせた形状である。換言すれば、圧粉体10の形状は、中心が厚く、半径方向の端部が薄い円板である。この場合、圧粉体10の曲面は、平面である場合よりも表面積が大きくなるので、水との接触面積を大きくすることができる。また、水素発生材料として、複数の圧粉体10を容器内に投入した場合、圧粉体10の曲面の周りで、他の圧粉体又は圧粉体10を格納する容器との間に、水が浸入可能な間隙ができやすくなる。これにより、水素発生率を向上できる。以下の説明では、圧粉体10の2つの球欠の側面(球冠)の表面のうち、上方向を向いているものを上面11、下方向を向いているものを下面12として説明することがある。
【0031】
以上説明したように、第2実施形態に係る水素発生材料は、水素化ホウ素ナトリウムの粉末と、酸の粉末とを含む圧粉体10を有する。これにより、粉末である場合より粉末粒子間の隙間が小さくなるため、空気中の水分の吸着が抑制され、輸送、保管の過程で吸湿しにくくなり、保存性を向上できる。
【0032】
また、第2実施形態に係る水素発生材料は、圧粉体を有するため、水の添加の初期段階において、水素発生材料が混合粉末である場合と比べ、水に対する濡れ性が向上し、水が水素発生材料に浸透しやすくなり、水素化ホウ素ナトリウムの粉末粒子及び酸の粉末粒子が水と接触しやすくなるので、水素発生率を向上できる。
【0033】
また、第2実施形態に係る水素発生材料は、圧粉体を有するため、水素発生材料が混合粉末である場合と比べ、水との接触面積を大きくすることができ、水素発生率を向上できる。第2実施形態に係る水素発生材料と水との接触面積についての詳細な説明は、後述する。
【0034】
また、第2実施形態に係る水素発生材料は、圧粉体を有するため、添加した水によって水素発生材料に含まれる一部の成分が分離することを抑制できる。一方で、水素発生材料が混合粉末である場合、混合粉末の一部の成分が比重、表面張力等により、水面に浮くことがある。したがって、水素発生材料が混合粉末である場合と比べ、水との接触性を向上できる。
【0035】
(水素発生装置)
図3は、第2実施形態に係る水素発生装置の一例を示す模式的な図である。第2実施形態に係る水素発生装置2Aは、水素発生材料が、第2実施形態に係る水素発生材料1A、すなわち複数の圧粉体である点で第1実施形態と異なる。以下、第2実施形態に係る水素発生材料を用いた水素発生装置2Aについて説明するが、第1実施形態と同様の構成については、符号を付して説明を省略する。
【0036】
図4は、
図3の領域Aを示す拡大断面図である。第2実施形態では、容器21内には、第2実施形態に係る水素発生材料1Aが格納される。水素発生材料1Aは、複数の圧粉体であり、容器21内で堆積している。複数の圧粉体は、容器21内で均等に堆積していることが好ましい。この場合、水を添加した際の容器21内の水位上昇に伴って、より多くの圧粉体が水と接触できるので、水素発生率を向上できる。
図4の例では、水素発生材料1Aは、圧粉体10A、10Bを含む。圧粉体10Aは、水素発生材料1Aの上側にある圧粉体である。圧粉体10Bは、上側に他の圧粉体10Aがあり、下側に容器21の底面がある圧粉体である。圧粉体10A、10Bは、それぞれ上面11A、11Bと、下面12A、12Bを有する。圧粉体10Aの上面11Aは、水素発生材料1Aを上から見た場合に露出している。すなわち、圧粉体10Aの上面11Aは、水素発生材料1Aの上側の表面に相当する。圧粉体10Aの下面12Aと、圧粉体10Bの上面11Bとは、対向している。圧粉体10Bの下面12Bは、容器21の底面と対向している。以上説明したように、水素発生材料1Aは、複数の圧粉体10であることで、圧粉体同士又は圧粉体と容器21との間に間隙G1、G2が生じうる。なお、
図4に示す圧粉体の数は、単なる一例であって、これに限られない。また、
図4に示す圧粉体の配置は、単なる一例であって、規則的に配置されていることを要しない。すなわち、複数の圧粉体は、圧粉体同士の間又は圧粉体と容器21との間に間隙がありさえすればよく、容器21内で無作為に配置されていてもよい。
【0037】
水素発生材料1Aには、圧粉体同士の間又は圧粉体と容器21との間に間隙G1、G2がある。間隙G1は、圧粉体10Aと圧粉体10Bとの間にある間隙である。すなわち、圧粉体10Aの下面12A及び圧粉体10Bの上面11Bは、間隙G1に露出している。間隙G2は、圧粉体10Bと容器21との間にある間隙である。すなわち、圧粉体10Bの下面12Bは、間隙G2に露出している。これにより、間隙G1、G2は、密閉されていないので、圧粉体10Aの上面11Aに水Wが滴下されても、水Wが間隙G1、G2に浸入できる。したがって、水素発生材料が混合粉末である場合と比べ、水との接触面積を大きくすることができ、水素発生率を向上できる。
【0038】
以上説明したように、第2実施形態に係る水素発生装置2Aは、水素化ホウ素ナトリウムの粉末と、酸の粉末とを含む複数の圧粉体10を有する水素発生材料1Aと、水素発生材料1Aを格納する容器21と、容器21内に水を供給する給水手段とを備える。容器21内の水素発生材料1Aには、圧粉体10同士の間又は圧粉体10と容器21との間に間隙G1、G2がある。これにより、水に対する濡れ性が向上し、水が水素発生材料に浸透しやすくなることで、水素化ホウ素ナトリウムの粉末粒子及び酸の粉末粒子が水と接触しやすくなり、また、水が間隙G1、G2に浸入するので、水素発生材料と水との接触面積を大きくすることができ、水素発生率を向上できる。
【0039】
(水素発生方法)
第2実施形態に係る水素発生方法は、第2実施形態に係る水素発生装置2Aの容器21内で、第2実施形態に係る水素発生材料1Aに水を添加する方法を有する。具体的には、容器21に第2実施形態に係る水素発生材料1Aとして複数の圧粉体10を投入し、ヒータ22で加温した後、ポンプ23等の給水手段により水Wの供給を受けて、容器21内の水素発生材料1Aに水Wを滴下することで水素を発生させることができる。
図3の例では、水Wを滴下すると、水が容器21の底面にある間隙G2に浸入して溜まり、間隙G2に露出する圧粉体10Bの下面12Bが、水面下に入って水に浸かる。このとき、圧粉体の表面の濡れ性が、粉末の場合より高いので、水との接触性を向上できる。さらに水Wを添加すると、水位の上昇や、圧粉体10Bの溶解によって、水が間隙G1にも溜まるようになることで、間隙G1に露出する圧粉体の上面11B、11Aも、水面下に入って浸かるようになる。さらに水Wを添加すると、水位の上昇や、圧粉体10Aの溶解によって、水の水面が圧粉体の上面11Aに達して、水面下に入って水に浸かる。これにより、水との接触面積を大きくすることができる。これにより、水素発生率を向上できる。
【0040】
以上説明したように、第2実施形態に係る水素発生方法は、第2実施形態に係る水素発生装置2Aの容器21内で、水素化ホウ素ナトリウムの粉末と、酸の粉末とを含む複数の圧粉体10を有する水素発生材料1Aに水を添加する方法であって、水素発生材料1Aには、圧粉体10同士の間又は圧粉体10と容器21との間に間隙G1、G2がある。これにより、水に対する濡れ性が向上し、水が水素発生材料に浸透しやすくなることで、水素化ホウ素ナトリウムの粉末粒子及び酸の粉末粒子が水と接触しやすくなり、また、水が間隙G1、G2に浸入するので、水素発生材料と水との接触面積を大きくすることができ、水素発生率を向上できる。
【0041】
以下、第2実施形態に係る水素発生材料の製造方法について説明する。第2実施形態に係る水素発生材料の製造方法は、混合工程と、成形工程とを有する。
【0042】
混合工程は、水素化ホウ素ナトリウムの粉末と、酸の粉末とを混合して混合粉末を作製する工程である。
【0043】
図5は、第2実施形態に係る水素発生材料の製造方法における成形工程を説明する模式的な断面図である。成形工程は、混合粉末10Pを加圧成形して圧粉体10を作製する工程である。加圧成形は、混合粉末10Pに含まれる水素化ホウ素ナトリウム及び酸の融点以下の温度で行われ、例えば常温で行われる。混合粉末10Pの加圧成形は、例えば、打錠機を用いて行われる。
図5の例では、打錠機の下杵P1の椀状の型に混合粉末10Pを敷き詰めて、上から椀状の型を有する上杵P2を押し付けて、下杵P1と上杵P2との間で混合粉末10Pを圧縮して成形することで凸レンズ状の圧粉体10が形成される。
【0044】
以上の工程により、第2実施形態に係る水素発生材料を製造できる。
【0045】
以上説明したように、第2実施形態に係る水素発生材料の製造方法は、水素化ホウ素ナトリウムの粉末と、酸の粉末とを混合して混合粉末10Pを作製する混合工程と、前記混合粉末を成形して圧粉体10を作製する成形工程と、を有する。これにより、原材料の比率が一定に保たれた水素発生材料を提供できる。
【0046】
実施形態1と同様に、酸は、ホウ酸である。これにより、水素発生反応の副生成物を再利用することができる。
【0047】
混合粉末10Pに含まれる、水素化ホウ素ナトリウムに対するホウ酸の質量比が、0.7以上である。これにより、水素発生率を向上できる。
【0048】
(実施例)
以下、本実施形態の効果を説明する実施例により本実施形態をさらに詳しく説明するが、本実施形態はこれらに限定されるものではない。
【0049】
表1は、比較例1及び実施例1から8の製造条件、実験条件及び結果を示す表である。試験では、表1に示す製造条件により、比較例1及び実施例1から8に係る水素発生材料を合成した。ここで、表1においてSBHとは、水素化ホウ素ナトリウムを指し、「ホウ酸質量/SBH質量」とは、水素化ホウ素ナトリウムに対するホウ酸の質量比を指す。
【0050】
【0051】
(比較例1)
比較例1に係る水素発生材料は、水素化ホウ素ナトリウムの粉末からなる複数の圧粉体である。比較例1では、成形工程として打錠機(Taishi社製 SPM)により平均粒径が308μmの水素化ホウ素ナトリウム粉末を室温で圧縮して凸レンズ状の圧粉体を成形することで、凸レンズ状の外形が保たれた圧粉体を作製した。比較例1に係る複数の圧粉体は、平均して、直径が8mm、最大厚みが1.7mm、体積が43.4mm3、質量が0.045gであった。これにより、比較例1に係る複数の圧粉体の平均嵩密度が1.04g/cm3、真密度に対する嵩密度が97%と算出された。ここで、圧粉体の体積は、圧粉体の形状が球欠を2つ重ね合わせた形状であると仮定して算出した。
【0052】
比較例1に係る水素発生試験は、
図3に示す水素発生装置2Aを用いて行った。水素発生装置2Aに係る容器21は、耐圧性を有する容器であって、容積が50mLである。実施例8に係る水素発生試験では、容器21内の温度が91℃(水素化ホウ素ナトリウムの加水分解反応の反応速度が最も大きくなる温度)となるように加温して、容器21に比較例1に係る水素発生材料として圧粉体を合計で1.0g投入した後に、容器21内を気密にし、表1に示すように、添加速度を5mL/minとし、添加時間を60秒として、添加速度を5mL/minとし、添加時間を60秒として、水素発生材料に水Wを添加して、水素発生試験を行った。
【0053】
水素発生試験では、水素発生材料に水Wを添加し、水素を発生させた。水Wの添加は、ポンプ23を用いて水素発生材料に水Wを滴下することで行った。水Wの添加は、単位時間当たりの添加する水Wの体積が一定になるように行った。水Wの添加は、水の添加開始から所定の時間だけ行い、以降は水Wを添加しなかった。表1及び以下の説明において、添加速度とは、単位時間当たり添加する水Wの体積を指し、添加時間とは、水Wの添加開始から水Wの添加を終了するまでの時間を指す。また、以下、水Wの添加を開始することを単に添加開始、水Wの添加を終了する時間を添加終了として説明することがある。
【0054】
水素発生試験では、温度計TIで、添加開始時の容器21内の温度を添加開始時温度として測定した。また、圧力計PIで、添加開始から容器21内の気圧を測定し、水素発生率を算出した。具体的には、添加開始時の容器21内の気圧をp0、添加開始からt秒後の容器21内の気圧をpt、水素発生材料1に含まれる水素化ホウ素ナトリウムが全て式(1)に示す反応により水素を放出したと仮定した場合の容器21内の気圧をpMとして、(pt-p0)/(pM-p0)を添加開始からt秒後の水素発生率(t秒後水素発生率)として算出した。
【0055】
(実施例1~6)
実施例1から6に係る水素発生材料は、水素化ホウ素ナトリウムの粉末とホウ酸の粉末とを表1に示す質量で混合した粉末である。すなわち、実施例1から6に係る水素発生材料は、第1実施形態に係る水素発生材料の一例である。実施例1から6に係る水素発生材料は、平均粒径が308μmの水酸化ホウ素ナトリウムの粉末と、ホウ酸粉末(富士フイルム和光純薬、特級)を、表1に示す質量で混合して作製した。実施例1から6に係る水素発生材料は、表1に示す条件として、水素発生試験を行い、水素発生率を測定した。
【0056】
実施例1から6に係る水素発生試験は、
図1に示す水素発生装置2を用いて行った。水素発生装置2に係る容器21は、耐圧性を有する容器であって、容積が50mLである。実施例1から6に係る水素発生試験では、ヒータ22を用いて容器21内の温度が61℃以上63℃以下となるように加温して、容器21に水素発生材料を投入した後に、容器21内を気密にしてから、水Wを添加して、水素発生試験を行った。
【0057】
(実施例7)
実施例7に係る水素発生材料は、水素化ホウ素ナトリウムの粉末とホウ酸の粉末とを表1に示す質量で混合した粉末である。すなわち、実施例7に係る水素発生材料は、第1実施形態に係る水素発生材料の一例である。実施例7に係る水素発生材料は、平均粒径が308μmの水酸化ホウ素ナトリウムの粉末と、ホウ酸粉末(富士フイルム和光純薬、特級)を、表1に示す質量で混合して作製した。実施例7では、表1に示すように、添加速度を2mL/minとし、添加時間を150秒とし、実施例1と同様の水素発生装置2で、水素発生試験を行った。
【0058】
(実施例8)
実施例8に係る水素発生材料は、水素化ホウ素ナトリウムの粉末とホウ酸の粉末と混合した粉末からなる複数の圧粉体である。すなわち、実施例8に係る水素発生材料は、第2実施形態に係る水素発生材料の一例である。実施例8では、混合工程として平均粒径が308μmの水素化ホウ素ナトリウム粉末とホウ酸粉末(富士フイルム和光純薬、特級)とを表1に示す質量で混合し、成形工程として打錠機(Taishi社製 SPM)により混合粉末を室温で圧縮して凸レンズ状の圧粉体を成形することで、凸レンズ状の外形が保たれた圧粉体を作製した。実施例8に係る複数の圧粉体は、平均して、直径が8mm、最大厚みが1.7mm、体積が43.4mm3、質量が0.0578gであった。これにより、実施例8に係る複数の圧粉体の平均嵩密度が1.33g/cm3、真密度に対する嵩密度が99%と算出された。ここで、圧粉体の体積は、圧粉体の形状が球欠を2つ重ね合わせた形状であると仮定して算出した。
【0059】
実施例8に係る水素発生試験は、
図3に示す水素発生装置2Aを用いて行った。実施例8に係る水素発生試験では、容器21内の温度が61℃以上63℃以下となるように加温して、容器21に実施例8に係る水素発生材料として圧粉体10を合計で2.7g投入した後に、容器21内を気密にし、表1に示すように、実施例7と同様の添加速度及び添加時間で、水素発生材料に水Wを添加して、水素発生試験を行った。
【0060】
(評価)
水素発生試験の結果、表1に示すように、水素化ホウ素ナトリウムとホウ酸とを混合した実施例1から実施例6では、水素化ホウ素ナトリウムのみとした比較例1と比べて300秒後水素発生率が大きくなった。これにより、水素化ホウ素ナトリウムとホウ酸とを混合することで、水素発生率を向上できる。
【0061】
水素発生試験の結果、表1に示すように、水素化ホウ素ナトリウムに対するホウ酸の質量比を0.7以上とした実施例2から6では、300秒後水素発生率が90%以上となり、水素化ホウ素ナトリウムに対するホウ酸の質量比を0.70未満とした比較例1及び実施例1と比べてより大きくなった。これにより、水素化ホウ素ナトリウムに対するホウ酸の質量比を0.7以上とすることで、水素発生率をより向上できる。
【0062】
水素発生試験の結果、表1に示すように、水素発生材料を圧粉体とした実施例8では、水素発生材料を粉末とした実施例7と比べ、300秒後水素発生率及び1000秒後水素発生率が大きくなった。これにより、水素発生材料を圧粉体とすることで、水素発生率をより向上できる。
【0063】
図6は、実施例7及び実施例8に係る水素発生率の推移を示す図である。
図6に示すように、添加開始から約35秒後までの第1段階では、実施例8に係る水素発生材料は、実施例7と比べ大きい速度で水素を放出している。これは、実施例8では、水素発生材料を圧粉体にしたことにより、粉末の状態である実施例7と比べて濡れ性が向上しているため、反応が速く進行したものと考えられる。このとき、実施例8では、水が間隙G2に溜まり、間隙G2に露出する圧粉体10Bの下面12Bが、水面下に入って水に浸かることで加水分解反応が起きているものと考えられる。
【0064】
また、
図6に示すように、実施例8に係る水素発生材料は、添加開始約35秒後から添加終了(添加開始から150秒後)までの第2段階では、水素発生速度が、平均水素発生速度より大きい時間H1、H2がある。ここで、水素発生速度とは、単位時間当たりの水素発生率の変化量を指し、水素発生量を時間微分した値である。平均水素発生速度とは、添加開始から添加終了までの水素発生率の変位を、添加時間で除した値であり、添加時間中の平均的な水素発生速度であるといえる。時間H1における水素発生速度の増大は、容器21内の水位上昇や、容器21の底面にある圧粉体10Bの溶解により、
図4に示す間隙G1にも水Wが溜まるようになり、
図4に示す間隙G1に露出する、圧粉体10Aの下面12A及び圧粉体10Bの上面11Bも、水面下に入って水に浸かり、水との接触面積が増大して加水分解反応が起きる面積が増大するためと考えられる。時間H2における水素発生速度の増大は、容器21内のさらなる水位上昇や、圧粉体10Bの上にある圧粉体10Aの溶解により、水面が圧粉体10Aの上面11Aに達することで、圧粉体10Aの上面11Aも、水面下に入って水に浸かるようになり、水との接触面積がさらに増大して加水分解反応が起きる面積がさらに増大するためと考えられる。以上説明したように、実施例8では、水素発生速度が、平均水素発生速度より大きい時間H1、H2が少なくとも2回あるので、2回目の該時間H2の終了時点(添加開始から100秒時点)での水素発生率Y
1を、実施例7の添加終了時の水素発生率Y
2より大きくできる。
【0065】
以上、実施例で説明したように、第2実施形態に係る水素発生装置2Aは、水素化ホウ素ナトリウムの粉末と、酸の粉末とを含む複数の圧粉体10を有する水素発生材料1Aと、水素発生材料1Aを格納する容器21と、容器21内に水を供給する給水手段とを備える。容器21内の水素発生材料1Aには、圧粉体10同士又は圧粉体10と容器21との間に間隙G1、G2がある。これにより、水に対する濡れ性が向上し、水が水素発生材料に浸透しやすくなることで、水素化ホウ素ナトリウムの粉末粒子及び酸の粉末粒子が水と接触しやすくなり、また、水が間隙G1、G2に浸入するので、水素発生材料と水との接触面積を大きくすることができ、水素発生率を向上できる。
【0066】
水Wの添加を開始する時点から水Wの添加を終了する時点までを添加時間とし、添加時間中の水素発生率の変位を添加時間で除した値を平均水素発生速度とした場合、水素発生材料1Aは、添加時間の間に水素発生速度が平均水素発生速度より大きい時間H1、H2が少なくとも2回ある。これにより、短い時間で多くの水素が得られる。
【0067】
以上、本開示の有用な実施例を示し、かつ、説明を施した。本開示は、上述した種々の実施例や変形例に限られず、この開示の要旨や添付する特許請求の範囲に記載された内容を逸脱しない範囲で種々変形可能である。
【符号の説明】
【0068】
1、1A 水素発生材料
1a 表面
10、10A、10B 圧粉体
11、11A、11B 上面
12、12A、12B 下面
10P 混合粉末
2、2A 水素発生装置
21 容器
22 ヒータ
23 ポンプ
24 タンク
G1、G2 間隙
H1、H2 時間
P1 下杵
P2 上杵
PI 圧力計
TI 温度計
W 水