(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114492
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】パッチアンテナ
(51)【国際特許分類】
H01Q 13/08 20060101AFI20240816BHJP
H01Q 21/06 20060101ALI20240816BHJP
C08L 25/04 20060101ALI20240816BHJP
C08L 53/02 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
H01Q13/08
H01Q21/06
C08L25/04
C08L53/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020294
(22)【出願日】2023-02-13
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】500199479
【氏名又は名称】PSジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(74)【代理人】
【識別番号】100141601
【弁理士】
【氏名又は名称】貴志 浩充
(72)【発明者】
【氏名】野寺 明夫
【テーマコード(参考)】
4J002
5J021
5J045
【Fターム(参考)】
4J002BC031
4J002BC071
4J002BC091
4J002BP012
4J002GQ00
5J021AA05
5J021AA09
5J021AB06
5J045AB02
5J045AB07
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明の目的は、耐熱性、耐衝撃性、基板との接着性、誘電率又は誘電正接に優れたパッチアンテナを提供することである。
【解決手段】パッチアンテナ1は、パッチ基板2と前記パッチ基板と離間して設けられたグラウンド基板4と前記パッチ基板及び前記グランド基板に挟持された誘電体層3とを有し、前記誘電体層は、スチレン系樹脂70~95質量%とスチレン系熱可塑性エラストマー5~30質量%を含有するスチレン系樹脂組成物から構成されることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パッチ基板と、
前記パッチ基板と離間して設けられたグラウンド基板と、
前記パッチ基板及び前記グランド基板に挟持された誘電体層と、を有し、
前記誘電体層は、スチレン系樹脂(A)70~95質量%とスチレン系熱可塑性エラストマー(B)5~30質量%とを含有するスチレン系樹脂組成物から構成されることを特徴とする、パッチアンテナ。
【請求項2】
前記スチレン系樹脂(A)は、スチレン系単量体単位と、不飽和カルボン酸系単量体単位及び/又は不飽和カルボン酸エステル系単量体単位とを含むスチレン系共重合樹脂であり、 前記スチレン系共重合樹脂中の前記スチレン系単量体単位、前記不飽和カルボン酸系単量体単位、及び前記不飽和カルボン酸エステル系単量体単位の合計含有量を100質量%としたとき、前記スチレン系単量体単位の含有量は69~98質量%、前記不飽和カルボン酸系単量体単位の含有量は0質量%超16質量%以下である、請求項1記載のパッチアンテナ。
【請求項3】
前記スチレン系熱可塑性エラストマー(B)は、スチレン系単量体単位からなるスチレンブロックと、共役ジエン単量体単位からなる共役ジエンブロックと、スチレン系単量体単位からなるスチレンブロックとからなる、スチレン-共役ジエン-スチレンブロック共重合体を水素添加した水添共重合体である、請求項1又は2記載のパッチアンテナ。
【請求項4】
前記水添共重合体が、スチレン―ブチレン―ブタジエン―スチレンブロック共重合体である、請求項3のパッチアンテナ。
【請求項5】
前記パッチ基板が給電点を介して同軸線路と電気的に接続されている、請求項1又は2に記載のパッチアンテナ。
【請求項6】
前記パッチ基板は、(略)六角形状である、請求項1又は2に記載のパッチアンテナ。
【請求項7】
前記パッチ基板が複数配列された、マイクロアレイ方式である、請求項1又は2に記載のパッチアンテナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パッチアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
通信容量の大容量化や通信速度の高速化等を図るために、信号周波数の高周波化が進められており、パッチアンテナが使用されている。パッチアンテナ支持体部材には、高周波信号の質又は強度等の特性を確保するために、誘電損失又は導体損失等に基づく伝送損失を低減することが求められている。一方、スチレン系樹脂は、成形性及び寸法安定性に加え、絶縁性又は誘電特性などの電気特性に優れており、中でも難燃性を付与したスチレン系樹脂組成物は、家電機器、及びOA機器を始め多岐にわたり使用されている現状がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、高周波用パッチアンテナ支持体として、特定のアルカリ金属酸化物を配合したガラスのパッチアンテナ支持体が開示されている。
また、特許文献2では、誘電体基板の代表例であるPTFEを誘電体層に使用する技術を開示している。さらに特許文献3には特定スチレン系樹脂を誘電体層とするパッチアンテナが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開2018/051793号公報
【特許文献2】特表2008-537964号公報
【特許文献3】国際公開2021/167096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1において開示されるパッチアンテナ支持体は、ガラスとしては優れるものの、比誘電率及び誘電正接はポリスチレン系樹脂より高く、伝送損失が大きくなる問題点がある。そして、特許文献1の誘電体自体がガラス製のため、破損しやすく、パッチアンテナの形状も自由度が少なくなるなどの課題もある。また、特許文献2において誘電体層として使用しているPTFE等のテフロン系樹脂は、誘電体損失がガラスに比べて低いものの、パッチ基板又はグラウンド基板(以下、基板と称する。)との接着性が悪く、これらの基板がテフロン系樹脂から剥離するという新たな問題が生じる。
【0006】
また、特許文献3の技術では基板との接着性や耐衝撃性などに優れるパッチアンテナではあるものの、耐熱性及び耐衝撃性の特性を有するパッチアンテナを作ることができず、100℃以上の温度雰囲気化で変形してしまったり、フィルムなどの薄物成形品にすると割れてしまうなどの強度に問題がある。
【0007】
そこで、本開示の目的は、耐熱性、耐衝撃性、基板と誘電体層との接着性及び誘電率又は誘電正接に優れたパッチアンテナを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の組成を有するスチレン系樹脂組成物を誘電体層として使用することにより、スチレン系樹脂の優れた誘電特性を保持したまま、100℃を超える高温条件下でも変形が無い又は少なく、フィルム等の薄物成形体に成形することにより曲げても割れの発生が無い又は少なく、且つ基板と誘電体層との接着性に優れたパッチアンテナを提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0009】
[1]本開示は、パッチ基板と前記パッチ基板と離間して設けられたグラウンド基板と、前記パッチ基板及び前記グランド基板に挟持された誘電体層と、を有し、前記誘電体層は、スチレン系樹脂(A)70~95質量%とスチレン系熱可塑性エラストマー(B)5~30質量%とを含有するスチレン系樹脂組成物から構成されることを特徴とする、パッチアンテナである。
[2]前記スチレン系樹脂(A)は、スチレン系単量体単位と、不飽和カルボン酸系単量体単位及び/又は不飽和カルボン酸エステル系単量体単位とを含むスチレン系共重合樹脂であり、 前記スチレン系共重合樹脂中の前記スチレン系単量体単位、前記不飽和カルボン酸系単量体単位、及び前記不飽和カルボン酸エステル系単量体単位の合計含有量を100質量%としたとき、前記スチレン系単量体単位の含有量は69~98質量%、前記不飽和カルボン酸系単量体単位の含有量は0質量%超16質量%以下であることが好ましい。
[3]前記スチレン系熱可塑性エラストマー(B)は、スチレン系単量体単位からなるスチレンブロックと、共役ジエン単量体単位からなる共役ジエンブロックと、スチレン系単量体単位からなるスチレンブロックとからなる、スチレン-共役ジエン-スチレンブロック共重合体を水素添加した水添共重合体であることが好ましい。
[4]前記水添共重合体が、スチレン―ブチレン―ブタジエン―スチレンブロック共重合体である、[3]に記載のパッチアンテナ。
[5]前記パッチ基板が給電点を介して同軸線路と電気的に接続されている、[1]~[4]のいずれかに記載のパッチアンテナ。
[6]前記パッチ基板は、(略)六角形状である、[1]~[5]のいずれかに記載のパッチアンテナ。
[7]前記パッチ基板が複数配列された、マイクロアレイ方式である、[1]~[6]のいずれかに記載のパッチアンテナ。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐熱性、耐衝撃性、基板と誘電体層との接着性及び誘電率又は誘電正接に優れたパッチアンテナを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本実施形態のパッチアンテナの一例を示す概略図である。
図1(a)は、マイクロストリップ線路を備えたパッチアンテナの概略図であり、
図1(b)は、給電点を備えたパッチアンテナの概略図である。
【
図2】
図2は、本実施形態のマイクロアレイ方式のパッチアンテナの一例を示す概略図である。
【
図3】
図3は、マイクロストリップ線路法による誘電体評価の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」と言う。)について詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
(パッチアンテナ)
本開示に係るパッチアンテナの構成を、
図1を参照して以下説明する。
図1(a)及び(b)に示すパッチアンテナ1はいずれも、グラウンド基板4と、絶縁性を有する誘電体層3と、パッチ基板2との順に積層された積層体である。また、
図1(a)及び(b)に示すx-y-zは、説明の便宜上設けた、パッチ基板2の重心を中心とする直交座標軸である。パッチ基板2から外方の方向を+z軸方向とし、パッチ基板2からグラウンド基板4への方向を-z軸方向とする。
【0013】
図1(a)は、本実施形態のパッチアンテナの一例として、マイクロストリップ線路4を用いたパッチアンテナ1の一例を示している。
図1(a)に示すパッチアンテナ1は、誘電体層3と、誘電体層3の第1の主表面(+z軸方向側の誘電体層2の表面)に形成された方形型のパッチ基板2と、誘電体層3の第2の主表面(-z軸方向側の誘電体層2の表面)に形成されたグランド基板4とを備えている。また、パッチ基板2は、当該パッチ基板2と同一平面上に配置されたマイクロストリップ線路5と電気的に接続されている(
図1(a)ではパッチ基板2とマイクロストリップ線路5とが直結されている。)。また、必要により、マイクロストリップ線路5の長軸方向と平行な(1対の)切込部を、パッチ基板2とマイクロストリップ線路4との接合部に設けて、マイクロストリップ線路の先端部分の位置を調整してインピーダンスを調整してもよい。パッチ基板2の幅をW、長さをLとした場合、Lが波長(λ)/2の整数倍に一致する周波数において共振する開放型共振器として駆動する。また、
図1(a)に示すパッチアンテナ1は、誘電体層3の上に形成されたパッチ基板2が放射素子の役割を果たし、マイクロストリップ線路5が送受信機(図示せず)と電気的に接続するための給電線路の役割を果たす平面アンテナである。例えば、低誘電率の誘電体層3を使用し,且つW及びhを波長に対して比較的大きな値とすると、放射量が増加するパッチアンテナ1が得られる。
【0014】
図1(b)は、本実施形態のパッチアンテナの一例として、パッチ基板2の背面から給電されるパッチアンテナ1を示している。
図1(b)に示すパッチアンテナ1は、誘電体層3と、誘電体層3の第1の主表面(+z軸方向側の誘電体層2の表面)に形成された方形のパッチ基板2と、誘電体層3の第2の主表面(-z軸方向側の誘電体層2の表面)に形成されたグランド基板4とを備えている。誘電体層3には、当該誘電体層3を貫通するスルーホール7が形成されている。スルーホール7は、パッチ基板2の背面(-z軸方向側のパッチ基板2の表面)から、誘電体層3及びグラウンド基板4を貫通して略円柱状に延在する貫通口である。そして、パッチ基板2の表面(+z軸方向側のパッチ基板2の表面)に対して、スルーホール7の位置を投影した箇所が、給電点6に対応する。パッチアンテナ1の構成では、同軸線路(例えば、SMAコネクタ等、図面の直線状の点線部)が、スルーホール7に挿入され、且つパッチ基板2と電気的に接続されている。
【0015】
なお、
図1(b)では、給電点6の位置を、パッチ基板2の重心から距離d離した箇所に設けており、給電点6をパッチ基板2上の適切な位置に設けることにより、インピーダンス整合を得ることができる。
【0016】
図1(a)及び(b)に示すパッチアンテナ1では、パッチ基板2の形状の一例として、方形状を示しているが、パッチ基板2の形状は特に制限されることはなく、円状、楕円状、又は多角形状であってもよい。例えば、パッチ基板2の1対の対角のコーナーを切り欠いた六角形の場合は、円偏波を放射することができる。
【0017】
また、
図1(a)及び(b)に示すパッチアンテナ1のように、x軸方向の適当な位置において給電した場合、電流定在波は、x軸方向において、パッチ基板2の両端部で振幅が0、パッチ基板2の中心部で振幅が最大となる。そのため、電流定在波と電圧定在波との関係から、電圧定在波は、x軸方向において、パッチ基板2の両端部で振幅が最大、中心部で振幅が0となる。これにより、パッチ基板2の外周部に生じるフリンジング電界に起因した磁流がアンテナの主要な放射源となり、+z軸方向に対する放射強度が最大となる。
【0018】
このような+z軸方向に指向性をより高める観点から、パッチアンテナ1は、マイクロアレイ方式であってもよい。例えば、
図2に示すパッチアンテナ1は、
図1で示したパッチアンテナ1と同様に、グラウンド基板4と、絶縁性を有する誘電体層3と、複数のパッチ基板2との順に積層された積層体である。そして、
図2に示すパッチアンテナ1は、適当な間隔で配置された複数のパッチ基板2と、複数のパッチ基板2を励振するための給電回路から成るアンテナである。これにより、+z軸方向に指向性をさらに高めることができる。
【0019】
本実施形態におけるパッチアンテナ1の好ましい形態において、パッチ基板2の平均幅であるW(mm)は、パッチ基板2の平均長さであるL(mm)に対して、約0.75~2.5倍の範囲であることが好ましい。
【0020】
本実施形態におけるパッチアンテナ1の好ましい形態において、パッチアンテナ1の平均厚みであるh(mm)は、動作周波数における自由空間波長λ(mm)の約0.0025~0.0055倍であることが好ましい。
【0021】
以下、本発明のパッチアンテナ1の各構成要素である、誘電体層3、パッチ基板2、グラウンド基板4について説明する。
「誘電体層」
本実施形態において、誘電体層3は、10GHzにおける誘電正接(tanδ)が0.02以下という特性を有することが好ましい。誘電体層3の10GHzにおける比誘電率は、3以下であることが好ましい。また、誘電体層3の10GHzにおける誘電正接を0.02以下とすることによって、5GHzを超えるような高周波領域での誘電損失を低減することができる。
【0022】
誘電体層3の10GHzにおける比誘電率を3以下とすることによっても、高周波領域での誘電損失を低減することができる。誘電体層3の10GHzにおける誘電正接は、0.02以下がより好ましく、0.01以下がさらに好ましい。誘電体層3の比誘電率は3以下がより好ましく、2.5以下がさらに好ましい。
【0023】
<スチレン系樹脂組成物>
本発明における誘電体層3は、スチレン系樹脂組成物を含有する。より詳細には、誘電体層3は、スチレン系樹脂組成物から形成されている。以下、スチレン系樹脂組成物について詳説する。
【0024】
<<スチレン系樹脂組成物の物性>>
本実施形態のスチレン系樹脂組成物の誘電率は3以下であることが好ましく、より好ましくは2.5以下であり、さらに好ましくは2.3以下である。また、誘電正接は0.02以下、より好ましくは0.01以下であり、さらに好ましくは0.005以下である。誘電率が3より大きく、誘電正接が0.02より大きいと0.3GHz以上の高周波では誘電損失が大きくなり、製品に不具合を生じる。
なお本開示で、誘電率・誘電正接は、JIS C2138に準拠して10GHzで測定される値である。
【0025】
本実施形態のスチレン系樹脂組成物の耐熱性は、100~120℃雰囲気下30分で最大5%以下の変形に収まることが望ましく、より好ましくは最大3%以下の変形に収まることが望ましい。なお本開示で、耐熱性は、後述の[実施例]の項に記載の方法で評価することができる。
【0026】
本実施形態のスチレン系樹脂組成物の耐衝撃性は、ノッチ付きシャルピー衝撃強度で判断することができ、1.5以上であることが好ましく、2.0以上であることがより好ましい。なお本開示で、ノッチ付きシャルピー衝撃強度は、ISO 179に準拠して測定される値である。
【0027】
本実施形態におけるスチレン系樹脂組成物は、スチレン系樹脂(A)70~95質量%とスチレン系熱可塑性エラストマー(B)5~30質量%とを含有することを特徴とする。
【0028】
本実施形態において、スチレン系樹脂(A)70~95質量%及びスチレン系熱可塑性エラストマー(B)5~30質量%を含有するスチレン系樹脂組成物を用いると、パッチアンテナ支持体の低誘電率・低誘電正接の性能の低下が少ないことが確認された。
なお、本明細書における低誘電(率)とは、3以下をいい、低誘電正接とは、0.02以下をいう。
【0029】
スチレン系樹脂組成物100質量%に対してスチレン系熱可塑性エラストマー(B)を5~30質量%添加することにより、100℃雰囲気下でも熱変形し難いあるいは熱変形することなく、パッチ基板及びグランド基板に使用される銅などの導体が剥がれることがない。これはスチレン系樹脂(A)の耐熱性低下が少ないこと、熱線膨張が抑制されること、導体との接着性が向上するためである。さらに薄肉化しても材料強度を保つことができ、熱によるクラックや衝撃による破壊を防止することができる。
【0030】
このようなスチレン系樹脂組成物を誘電体層3に用いることによって、パッチアンテナ1の10GHzにおける伝送損失を低減できる。より具体的には、伝送損失を1dB/cm以下まで低減することができる。従って、高周波信号、特に5GHzを超える高周波信号、さらには10GHz以上の高周波信号の質や強度等の特性が維持されるため、そのような高周波信号を扱う高周波デバイスに好適な誘電体層3及びパッチアンテナ1を提供することができる。すなわち、そのような高周波信号を扱う高周波デバイスの特性や品質を向上させることができる。パッチアンテナ1の10GHzにおける伝送損失は、0.5dB/cm以下がより好ましい。
【0031】
<<スチレン系樹脂組成物の組成>>
本実施形態におけるスチレン系樹脂組成物は、スチレン系樹脂(A)と、スチレン系熱可塑性エラストマー(B)を含有する。以下、各成分について説明する。
-スチレン系樹脂(A):(A)成分-
本実施形態のスチレン系樹脂組成物において、スチレン系樹脂(A)の含有量は、組成物全体(100質量%)に対して、70~95質量%であり、好ましくは75~93質量%、より好ましくは80~90質量%である。当該含有量を70~95質量%とすることにより、100~120℃の高温度下で長時間使用しても製品が変形したり、導体が剥がれたりすることなく使用できる。
【0032】
本実施形態で用いることができるスチレン系樹脂(A)は、スチレン系単量体と、必要に応じてこれと共重合可能な他のビニル単量体及びゴム状重合体(例えば、後述のゴム状重合体(a))より選ばれる1種以上とを重合して得られる樹脂である。スチレン系樹脂(A)としては、具体的には限定されないが、例えば、ポリスチレン、マトリクス中にゴム状重合体(a)の粒子が分散されたゴム変性スチレン系樹脂、又はスチレン系共重合樹脂が挙げられる。そのため、本発明に係るスチレン系樹脂(A)は、スチレン系単量体を必須成分として含有し、必要により、他のビニル単量体単位及び/又はゴム状重合体単量体単位(a)を有する。当該スチレン系樹脂(A)は、特に耐熱性と基板との接着性の観点より、スチレン系共重合樹脂が好ましく、さらにはスチレン系単量体と不飽和カルボン酸系単量体とのスチレン系共重合樹脂がより好ましい。それは、スチレン系熱可塑性エラストマー(B)との相溶性が低下し、表層近傍にスチレン系熱可塑性エラストマー(B)がより多く析出することにより基板との接着性が向上するとともに耐熱性の低下が少なく変形を抑制できるためである。さらには、比較的に低誘電特性を示すスチレン系熱可塑性エラストマー(B)が多く表層に析出することにより、誘電体層全体として高周波による伝送損失低減にもつながる。
【0033】
-ポリスチレン-
本実施形態において、ポリスチレンとはスチレン系単量体の単独重合体であり、一般的に入手できるものを適宜選択して用いることができる。ポリスチレンを構成するスチレン系単量体としては、スチレンの他に、α-メチルスチレン、α-メチル-p-メチルスチレン、ο-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルスチレン、イソブチルスチレン、及びt-ブチルスチレン又はブロモスチレン及びインデン等のスチレン誘導体が挙げられる。特に工業的観点からスチレンが好ましい。これらのスチレン系単量体は、1種又は2種以上使用することができる。ポリスチレンは、上記のスチレン系単量体単位以外の単量体単位を、本発明の効果を損なわない範囲で更に含有することを排除しないが、典型的にはスチレン系単量体単位からなる。
【0034】
-ゴム変性スチレン系樹脂-
本実施形態において、ゴム変性スチレン系樹脂とは、マトリクスとしてのスチレン系樹脂中にゴム状重合体(a)の粒子(以下、ゴム状重合体粒子(a))が分散したものであり、ゴム状重合体(a)の存在下でスチレン系単量体を重合させることにより製造することができる。
【0035】
本実施形態のゴム変性スチレン系樹脂を構成するスチレン系単量体は、上記のポリスチレンで使用可能なスチレン系単量体と同一である。特に、スチレンが好ましい。これらのスチレン系単量体は、1種若しくは2種以上使用することができる。
【0036】
本実施形態のゴム変性スチレン系樹脂に含まれるゴム状重合体粒子(a)は、例えば、内側に上記のスチレン系単量体より得られるスチレン系単量体単位を含有する樹脂を内包してもよく(サラミ型構造又はコアシェル型構造)、及び/又は外側にスチレン系単量体単位を含有する樹脂がグラフトされたものであってよい。
【0037】
前記ゴム状重合体(a)としては、共役ジエン構造を有することが好ましく、例えば、ポリブタジエン(ポリスチレン又はアクリル系樹脂を内包する形態も含む)、ポリイソプレン、天然ゴム、ポリクロロプレン、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体等を使用できるが、ポリブタジエン又はスチレン-ブタジエン共重合体が好ましい。ポリブタジエンには、シス含有率の高いハイシスポリブタジエン及びシス含有率の低いローシスポリブタジエンの双方を用いることができる。また、スチレン-ブタジエン共重合体の構造としては、ランダム構造及びブロック構造の双方を用いることができる。これらのゴム状重合体(a)は1種若しくは2種以上使用することができる。また、ブタジエン系ゴムを水素添加した飽和ゴムを使用することもできる。本実施形態のゴム状重合体(a)は粒子状であること(=ゴム状重合体粒子(a))が好ましい。
【0038】
このようなゴム変性スチレン系樹脂の例としては、HIPS(高衝撃ポリスチレン)、ABS樹脂(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体)、AAS樹脂(アクリロニトリル-アクリルゴム-スチレン共重合体)、AES樹脂(アクリロニトリル-エチレンプロピレンゴム-スチレン共重合体)等が挙げられる。
【0039】
ゴム変性スチレン系樹脂がHIPS系樹脂である場合、これらのゴム状重合体(a)の中で特に好ましいのは、シス1,4結合が90モル%以上で構成されるハイシスポリブタジエンである。該ハイシスポリブタジエンにおいては、ビニル1,2結合が6モル%以下で構成されることが好ましく、3モル%以下で構成されることが特に好ましい。
【0040】
なお、該ハイシスポリブタジエンの構成単位に関する異性体としてシス1,4、トランス1,4、又はビニル1,2構造を有する化合物の含有率は、赤外分光光度計を用いて測定し、モレロ法によりデータ処理することにより算出できる。
【0041】
また、該ハイシスポリブタジエンは、公知の製造法、例えば有機アルミニウム化合物とコバルト又はニッケル化合物を含んだ触媒を用いて、1,3ブタジエンを重合して容易に得ることができる。
【0042】
ゴム変性スチレン系樹脂中に含まれるゴム状重合体(a)の含有量(いわゆる共役ジエン構造の含有量)は、当該ゴム変性スチレン系樹脂100質量%に対して、3~20質量%が好ましく、更に好ましくは5~15質量%である。ゴム状重合体(a)の含有量が3質量%より少ないとスチレン系樹脂の耐衝撃性が低下する虞がある。また、ゴム状重合体(a)の含有量が20質量%を超えると難燃性が低下する虞がある。
なお本開示で、ゴム変性スチレン系樹脂中に含まれるゴム状重合体(a)の含有量は、熱分解ガスクロマトグラフィを用いて算出される値である。
【0043】
ゴム変性スチレン系樹脂中に含まれるゴム状重合体粒子(a)の平均粒子径は、耐衝撃性や難燃性の観点から、0.5~4.0μmであることが好ましく、更に好ましくは0.8~3.5μmである。
なお本開示で、ゴム変性スチレン系樹脂中に含まれるゴム状重合体粒子(a)の平均粒子径は、以下の方法により測定することができる。
【0044】
四酸化オスミウムで染色したゴム変性スチレン系樹脂から厚さ75nmの超薄切片を作製し、電子顕微鏡を用いて倍率10000倍の写真を撮影する。写真中、黒く染色された粒子がゴム状重合体粒子(a)である。写真から、下記数式(N1):
【数1】
【0045】
(上記数式(N1)中、niは、粒子径Driのゴム状重合体粒子(a)の個数であり、粒子径Driは、写真中の粒子の面積から円相当径として算出した粒子径である。)
により面積平均粒子径を算出し、ゴム状重合体粒子(a)の平均粒子径とする。本測定は、写真を200dpiの解像度でスキャナーに取り込み、画像解析装置IP-1000(旭化成社製)の粒子解析ソフトを用いて測定する。
【0046】
上記ゴム変性スチレン系樹脂の還元粘度(これは、ゴム変性スチレン系樹脂の分子量の指標となる)は、0.50~0.85dL/gの範囲にあることが好ましく、更に好ましくは0.55~0.80dL/gの範囲である。0.50dL/gより小さいと衝撃強度が低下する虞があり、0.85dL/gを超えると流動性の低下により成形性が低下する虞がある。
なお本開示で、ゴム変性スチレン系樹脂の還元粘度は、トルエン溶液中で30℃、濃度0.5g/dLの条件で測定される値である。
【0047】
ゴム変性スチレン系樹脂の製造方法は、特に制限されるものではないが、ゴム状重合体(a)の存在下、スチレン系単量体(及び溶媒)を重合する塊状重合(若しくは溶液重合)、又は反応途中で懸濁重合に移行する塊状-懸濁重合、又はゴム状重合体(a)ラテックスの存在下、スチレン系単量体を重合する乳化グラフト重合にて製造することができる。塊状重合においては、ゴム状重合体(a)とスチレン系単量体、並びに必要に応じて有機溶媒、有機過酸化物、及び/又は連鎖移動剤を添加した混合溶液を、完全混合型反応器又は槽型反応器と複数の槽型反応器とを直列に連結し構成される重合装置に連続的に供給することにより製造することができる。
【0048】
-スチレン系共重合樹脂-
本実施形態において、スチレン系共重合樹脂とは、スチレン系単量体単位を必須に含有し、且つ不飽和カルボン酸系単量体単位及び/又は不飽和カルボン酸エステル系単量体単位を任意に含む樹脂である。スチレン系共重合樹脂は、スチレン系単量体単位、不飽和カルボン酸系単量体単位、及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位の合計含有量を100質量%としたとき、スチレン系単量体単位の含有量は69~98質量%であることが好ましく、より好ましくは74~96質量%であり、さらに好ましくは77~92質量%の範囲である。当該含有量を69質量%以上とすることにより、樹脂の流動性を向上させることができる。一方、当該含有量を98質量%以下とすることにより、任意成分である、後述の不飽和カルボン酸系単量体単位及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位を所望量存在させにくくなり、これらの単量体単位による後述の効果を得にくくなる。
【0049】
スチレン系共重合樹脂において、不飽和カルボン酸系単量体単位は耐熱性を向上させる役割を果たす。スチレン系共重合樹脂中のスチレン系単量体単位、不飽和カルボン酸系単量体単位、及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位の合計含有量を100質量%としたとき、不飽和カルボン酸系単量体単位の含有量は16質量%以下であることが好ましく、より好ましくは14質量%以下であり、さらに好ましくは13質量%以下である。当該含有量が16質量%を超えると、誘電率や誘電正接の値が高くなり、高周波用途では誘電損失が大きくなる。
【0050】
一般に、スチレン-メタクリル酸-メタクリル酸メチル共重合樹脂を含むスチレン-メタクリル酸系樹脂は、工業的規模ではほとんどの場合、ラジカル重合で生産されているが、本実施形態において、脱揮工程のゲル化反応を抑制するために、種々のアルコールを重合系中に添加して重合を行なうことができる。
【0051】
不飽和カルボン酸エステル系単量体は、不飽和カルボン酸系単量体との分子間相互作用によって不飽和カルボン酸系単量体の脱水反応を抑制するために、及び、樹脂の機械的強度を向上させるために用いることができる。更には、不飽和カルボン酸エステル系単量体は、耐候性、表面硬度等の樹脂特性の向上にも寄与する。
【0052】
本実施形態において、スチレン系単量体単位、不飽和カルボン酸系単量体単位、及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位の合計含有量を100質量%としたとき、不飽和カルボン酸エステル系単量体単位の含有量は0~15質量%であることが好ましく、より好ましくは1~12質量%、さらに好ましくは2~10質量%である。当該含有量を15質量%以下とすることにより、樹脂の流動性を向上させ、且つ吸水性を抑制することができる。また、不飽和カルボン酸エステル系単量体単位の含有量を0質量%とすることにより、耐熱性の向上やコスト削減をすることができるが、上記の観点から不飽和カルボン酸エステル系単量体単位の含有量を0質量%超とすることもできる。
【0053】
なお、不飽和カルボン酸系単量体と不飽和カルボン酸エステル系単量体単位とが隣り合わせで結合した場合、高温、高真空の脱揮装置を用いると、条件によっては脱アルコール反応が起こり、六員環酸無水物が形成される場合がある。本実施形態の共重合樹脂は、この六員環酸無水物を含んでいてもよいが、流動性を低下させることから、生成される六員環酸無水物はより少ない方が好ましい。
【0054】
本実施形態において、スチレン系共重合樹脂中の、スチレン系単量体単位(例えば、スチレン単量体単位)、不飽和カルボン酸系単量体単位(例えば、(メタ)アクリル酸単量体単位、好ましくはメタクリル酸単量体単位)及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位(例えば、(メタ)アクリル酸メチル単量体単位、好ましくはメタクリル酸メチル単量体単位)の含有量は、それぞれ、プロトン核磁気共鳴(1H-NMR)測定機で測定したスペクトルの積分比から求めることができる。
【0055】
本実施形態において、スチレン系共重合樹脂は、スチレン系単量体単位、任意成分である、不飽和カルボン酸系単量体単位及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位以外の単量体単位を、本発明の効果を損なわない範囲で更に含有することを排除しない。しかし、本発明におけるスチレン系共重合樹脂は、典型的には、スチレン系単量体単位、不飽和カルボン酸系単量体単位、及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位を構成成分とすることが好ましい。
本実施形態のスチレン系共重合樹脂を構成するスチレン系単量体としては、上記のポリスチレンで使用可能なスチレン系単量体と同一である。
【0056】
本実施形態のスチレン系共重合樹脂を構成する不飽和カルボン酸系単量体としては、特に限定されないが例えば、メタクリル酸、アクリル酸、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等が挙げられる。不飽和カルボン酸系単量体としては、耐熱性の向上効果が大きく、常温にて液状でハンドリング性に優れることからメタクリル酸が好ましい。これらの不飽和カルボン酸系単量体は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0057】
本実施形態のスチレン系共重合樹脂を構成する不飽和カルボン酸エステル系単量体としては、特に限定されないが例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等が挙げられる。(メタ)アクリル酸エステル系単量体としては、耐熱性低下に対する影響が小さいことから(メタ)アクリル酸メチルが好ましい。これらの不飽和カルボン酸エステル系単量体は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0058】
本実施形態において、スチレン系共重合樹脂の重量平均分子量(Mw)は100,000~350,000であることが好ましく、より好ましくは120,000~300,000、さらに好ましくは140,000~240,000である。重量平均分子量(Mw)が100,000~350,000である場合、機械的強度と流動性とのバランスにより優れる樹脂が得られ、またゲル物の混入も少ない。なお、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用い、標準ポリスレン換算で得られる値である。
【0059】
本実施形態において、共重合樹脂の重合方法は、特に制限はないが例えば、ラジカル重合法として、塊状重合法又は溶液重合法を好適に採用できる。重合方法は、主に、重合原料(単量体成分)を重合させる重合工程と、重合生成物から未反応モノマー、重合溶媒等の揮発分を除去する脱揮工程とを備える。
【0060】
<<スチレン系熱可塑性エラストマー(B):(B)成分>>
本実施形態におけるスチレン系樹脂組成物は、基板との接着性と衝撃強度向上のためスチレン系熱可塑性エラストマー(B)を添加する。スチレン系熱可塑性エラストマー(B)の含有量は、スチレン系樹脂組成物全体(100質量%)に対して、好ましくは5~30質量%であり、より好ましくは7~25質量%、さらに好ましくは10~20質量%である。当該含有量が30質量%より多いと基板との接着性が低下するとともに100~120℃雰囲気下での変形が大きくなる。一方、5質量%より少ないと、基板との密着性が得られない。本実施形態において、スチレン系熱可塑性エラストマー(B)は、耐熱性と基板との接着性の観点より、スチレン系単量体単位からなるスチレンブロックと、共役ジエン単量体単位からなる共役ジエンブロックと、スチレン系単量体単位からなるスチレンブロックとからなる、スチレン-共役ジエン-スチレンブロック共重合体を水素添加した水添共重合体が好ましく、特に、スチレン―ブチレン―ブタジエン―スチレンブロック共重合体がより好ましい。水添共重合体を使用するとスチレン系樹脂との相溶性が低下し、表層により多く存在するようになり導体との接着性が向上するとともに耐熱性の低下がほとんどない。また、スチレン系熱可塑性エラストマー(B)は低誘電性に優れるので表層に多く存在することにより、スチレン系樹脂(A)及びスチレン系熱可塑性エラストマー(B)を含有する誘電体層全体として、伝送損失を少なくすることができる。
【0061】
本実施形態におけるスチレン系熱可塑性エラストマー(B)とは、ハードセグメントとソフトセグメントとからなるブロック共重合体であって、ハードセグメントがポリスチレンであるものである。該エラストマーにおけるソフトセグメントの種類は特に限定されず、エチレン、プロピレン、ブチレン、イソプレン等が挙げられる。
【0062】
前記スチレン系熱可塑性エラストマー(B)中のスチレン系単量体単位の含有量は、スチレン系熱可塑性エラストマー(B)の総量(100質量%)に対して、10~70質量%であり、20~60質量%がより好ましく、さらに30~50質量%が好ましい。スチレン単量体単位が10質量%より少ないとスチレン系樹脂(A)との相溶性が低くなり、基板との接着性が低下する。一方、スチレン単量体単位が70質量%より多いと基板との密着性が低下するとともに衝撃強度の向上が少ない。
【0063】
スチレン系熱可塑性エラストマーのMFR(190℃、2.16kg)は、0.3~10g/10minが好ましく、さらに0.5~5g/10minがより好ましい。MFRが0.3より小さいと基板との接着性が低下し、10より大きいと衝撃強度が低下する。
【0064】
本実施形態におけるスチレン系熱可塑性エラストマーの具体例としては、例えば、以下が挙げられる:
スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、及びその水素添加物(水添スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS))、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、及びその水素添加物(水添スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン―ブチレン―ブタジエン―スチレンブロック共重合体(SBBS)、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS))、並びに、スチレン-イソプレンブロック共重合体(SI)、及びその水素添加物(水添スチレン-イソプレンブロック共重合体、スチレン-エチレン-プロピレンブロック共重合体(SEP))。
【0065】
<任意添加成分>
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、上記スチレン系樹脂(A)、スチレン系熱可塑性エラストマー(B)他に、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて従来公知の添加剤又は加工助剤等の任意の添加成分を添加することができる。前記添加剤又は加工助剤等としては、酸化防止剤、耐候剤、滑剤、帯電防止剤、充填剤等が挙げられる。
上記酸化防止剤としては、フェノール系化合物、リン系化合物、チオエーテル系化合物等が挙げられる。
【0066】
上記フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6-ジ第3ブチル-p-クレゾール、2,6-ジフェニル-4-オクタデシロキシフェノール、ジステアリル(3,5-ジ第3ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ホスホネート、1,6-ヘキサメチレンビス〔(3,5-ジ第3ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸アミド〕、4,4’-チオビス(6-第3ブチル-m-クレゾール)、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-第3ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-第3ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(6-第3ブチル-m-クレゾール)、2,2’-エチリデンビス(4,6―ジ第3ブチルフェノール)、2,2’-エチリデンビス(4-第2ブチル-6-第3ブチルフェノール)、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-第3ブチルフェニル)ブタン、1,3,5-トリス(2,6-ジメチル-3-ヒドロキシ-4-第3ブチルベンジル)イソシアヌレート、1,3,5-トリス(3,5-ジ第3ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,3,5-トリス(3,5-ジ第3ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-2,4,6-トリメチルベンゼン、2-第3ブチル-4-メチル-6-(2-アクリロイルオキシ-3-第3ブチル-5-メチルベンジル)フェノール、ステアリル〔3-(3,5-ジ第3ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、テトラキス〔3-(3,5-ジ第3ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸メチル〕メタン、チオジエチレングリコールビス〔(3,5-ジ第3ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6-ヘキサメチレンビス〔(3,5-ジ第3ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、ビス〔3,3-ビス(4-ヒドロキシ-3-第3ブチルフェニル)ブチリックアシッド〕グリコールエステル、ビス〔2-第3ブチル-4-メチル-6-(2-ヒドロキシ-3-第3ブチル-5-メチルベンジル)フェニル〕テレフタレート、1,3,5-トリス〔(3,5-ジ第3ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシエチル〕イソシアヌレート、3,9-ビス〔1,1-ジメチル-2-{(3-第3ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ}エチル〕-2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン、トリエチレングリコールビス〔(3-第3ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート〕等が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0067】
上記リン系酸化防止剤としては、例えば、トリス(2,4-ジ第3ブチルフェニル)ホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス〔2-第3ブチル-4-(3-第3ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニルチオ)-5-メチルフェニル〕ホスファイト、トリデシルホスファイト、オクチルジフェニルホスファイト、ジ(デシル)モノフェニルホスファイト、ジ(トリデシル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジ(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジ第3ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ第3ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4,6-トリ第3ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、テトラ(トリデシル)イソプロピリデンジフェノールジホスファイト、テトラ(トリデシル)-4,4’-n-ブチリデンビス(2-第3ブチル-5-メチルフェノール)ジホスファイト、ヘキサ(トリデシル)-1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-第3ブチルフェニル)ブタントリホスファイト、テトラキス(2,4-ジ第3ブチルフェニル)ビフェニレンジホスホナイト、9,10-ジハイドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナンスレン-10-オキサイド、2,2’-メチレンビス(4,6-第3ブチルフェニル)-2-エチルヘキシルホスファイト、2,2’-メチレンビス(4,6-第3ブチルフェニル)-オクタデシルホスファイト、2,2’-エチリデンビス(4,6-ジ第3ブチルフェニル)フルオロホスファイト、トリス(2-〔(2,4,8,10-テトラキス第3ブチルジベンゾ〔d,f〕〔1,3,2〕ジオキサホスフェピン-6-イル)オキシ〕エチル)アミン、2-エチル-2-ブチルプロピレングリコールと2,4,6-トリ第3ブチルフェノールのホスファイト等が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0068】
チオエーテル系酸化防止剤としては、例えば、チオジプロピオン酸ジラウリル、チオジプロピオン酸ジミリスチル、チオジプロピオン酸ジステアリル等のジアルキルチオジプロピオネート類、及びペンタエリスリトールテトラ(β-アルキルメルカプトプロピオン酸エステル類が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。
上記耐候剤としては、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン光安定剤等を用いることができる。
【0069】
上記紫外線吸収剤としては、例えば、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-オクトキシベンゾフェノン、5,5’-メチレンビス(2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン)等の2-ヒドロキシベンゾフェノン類;2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ第3ブチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾ-ル、2-(2’-ヒドロキシ-3’-第3ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾ-ル、2-(2’-ヒドロキシ-5’-第3オクチルフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジクミルフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2,2’-メチレンビス(4-第3オクチル-6-(ベンゾトリアゾリル)フェノール)、2-(2’-ヒドロキシ-3’-第3ブチル-5’-カルボキシフェニル)ベンゾトリアゾール等の2-(2’-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール類;フェニルサリシレート、レゾルシノールモノベンゾエート、2,4-ジ第3ブチルフェニル-3,5-ジ第3ブチル-4-ヒドロキシベンゾエート、2,4-ジ第3アミルフェニル-3,5-ジ第3ブチル-4-ヒドロキシベンゾエート、ヘキサデシル-3,5-ジ第3ブチル-4-ヒドロキシベンゾエート等のベンゾエート類;2-エチル-2’-エトキシオキザニリド、2-エトキシ-4’-ドデシルオキザニリド等の置換オキザニリド類;エチル-α-シアノ-β、β-ジフェニルアクリレート、メチル-2-シアノ-3-メチル-3-(p-メトキシフェニル)アクリレート等のシアノアクリレート類;2-(2-ヒドロキシ-4-オクトキシフェニル)-4,6-ビス(2,4-ジ第3ブチルフェニル)-s-トリアジン、2-(2-ヒドロキシ-4-メトキシフェニル)-4,6-ジフェニル-s-トリアジン、2-(2-ヒドロキシ-4-プロポキシ-5-メチルフェニル)-4,6-ビス(2,4-ジ第3ブチルフェニル)-s-トリアジン等のトリアリールトリアジン類が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0070】
上記ヒンダードアミン系光安定剤としては、例えば、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルステアレート、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルステアレート、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルベンゾエート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(1-オクトキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、テトラキス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)・ジ(トリデシル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)・ジ(トリデシル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、ビス(1,2,2,4,4-ペンタメチル-4-ピペリジル)-2-ブチル-2-(3,5-ジ第3ブチル-4-ヒドロキシベンジル)マロネート、1-(2-ヒドロキシエチル)-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジノ-ル/コハク酸ジエチル重縮合物、1,6-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルアミノ)ヘキサン/2,4-ジクロロ-6-モルホリノ-s-トリアジン重縮合物、1,6-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルアミノ)ヘキサン/2,4-ジクロロ-6-第3オクチルアミノ-s-トリアジン重縮合物、1,5,8,12-テトラキス〔2,4-ビス(N-ブチル-N-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)アミノ)-s-トリアジン-6-イル〕-1,5,8,12-テトラアザドデカン、1,5,8,12-テトラキス〔2,4-ビス(N-ブチル-N-(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)アミノ)-s-トリアジン-6-イル〕-1,5,8-12-テトラアザドデカン、1,6,11-トリス〔2,4-ビス(N-ブチル-N-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)アミノ)-s-トリアジン-6-イル〕アミノウンデカン、1,6,11-トリス〔2,4-ビス(N-ブチル-N-(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)アミノ)-s-トリアジン-6-イル〕アミノウンデカン等のヒンダードアミン化合物が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。
上記滑剤としては、脂肪酸アミド、脂肪酸エステル、脂肪酸、脂肪酸金属塩系等を用いることができる。
【0071】
上記脂肪族アミド系滑剤としては、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘニン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスラウリル酸アミド等が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0072】
上記脂肪族エステル系滑剤としては、ラウリン酸メチル、ミリスチン酸メチル、パルミチン酸メチル、ステアリン酸メチル、オレイン酸メチル、エルカ酸メチル、ベヘニン酸メチル、ラウリル酸ブチル、ステアリン酸ブチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸オクチル、ヤシ脂肪酸オクチルエステル、ステアリン酸オクチル、牛脂脂肪酸オクチルエステル、ラウリル酸ラウリル、ステアリン酸ステアリル、ベヘニン酸ベヘニル、ミリスチン酸セチル、炭素数28~30の直鎖状で分岐がない飽和モノカルボン酸(以下モンタン酸と略記する)とエチレングリコールのエステル、モンタン酸とグリセリンのエステル、モンタン酸とブチレングリコールのエステル、モンタン酸とトリメチロールエタンのエステル、モンタン酸とトリメチロールプロパンのエステル、モンタン酸とペンタエリスリトールのエステル、グリセリンモノステアレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレート、ソルビタンセスクイオレート、ソルビタントリオレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレート等が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0073】
上記脂肪酸系滑剤のうち飽和脂肪酸としては、具体的には、ラウリン酸(ドデカン酸)、イソデカン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸(テトラデカン酸)、ペンタデシル酸、パルミチン酸(ヘキサデカン酸)、マルガリン酸(ヘプタデカン酸)、ステアリン酸(オクタデカン酸)、イソステアリン酸、ツベルクロステアリン酸(ノナデカン酸)、2-ヒドロキシステアリン酸、アラキジン酸(イコサン酸)、ベヘン酸(ドコサン酸)、リグノセリン酸(テトラドコサン酸)、セロチン酸(ヘキサドコサン酸)、モンタン酸(オクタドコサン酸)、メリシン酸等が挙げられ、特に、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、12-ヒドロキシステアリン酸及びモンタン酸等が挙げられる。
【0074】
上記脂肪酸系滑剤のうち不飽和脂肪酸としては、具体的には、ミリストレイン酸(テトラデセン酸)、パルミトレイン酸(ヘキサデセン酸)、オレイン酸(cis-9-オクタデセン酸)、エライジン酸(trans-9-オクタデセン酸)、リシノール酸(オクタデカジエン酸)、バクセン酸(cis-11-オクタデセン酸)、リノール酸(オクタデカジエン酸)、リノレン酸(9,11,13-オクタデカトリエン酸)、エレステアリン酸(9,11,13-オクタデカトリエン酸)、ガドレイン酸(イコサン酸)、エルカ酸(ドコサン酸)、ネルボン酸(テトラドコサン酸)等が挙げられる。
これらは1種単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。
上記脂肪酸金属塩系滑剤としては、上記脂肪酸系滑剤の脂肪酸のリチウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、及びアルミニウム塩等が挙げられる。
これらは1種単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。
上記帯電防止剤としては、カチオン系、アニオン系、ノニオン系、両性系、グリセリン脂肪酸モノエステル等の脂肪酸部分エステル類等を用いることができる。
【0075】
具体的には、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、ベンザルコニウム塩、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-N-(3-ドデシルオキシ-2-ヒドロキシプロピル)メチルアンモニウムメソスルフェート、(3-ラウリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムメチルスルフェート、ステアロアミドプロピルジメチル-2-ヒドロキシエチルアンモニウム硝酸塩、ステアロアミドプロピルジメチル-2-ヒドロキシエチルアンモニウムリン酸塩、カチオン性ポリマー、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、アルキル硝酸エステル塩、リン酸アルキルエステル塩、アルキルホスフェートアミン塩、ステアリン酸モノグリセリド、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ジグリセリン脂肪酸エステル、アルキルジエタノールアミン、アルキルジエタノールアミン脂肪酸モノエステル、アルキルジエタノールアミド、ポリオキシエチレンドデシルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミド、ポリエーテルブロックコポリマー、セチルベタイン、ヒドロキシエチルイミダゾリン硫酸エステル等が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。
上記充填剤としては、タルク、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、炭素繊維、マイカ、ワラストナイト、ウィスカ等を用いることができる。
【0076】
本実施形態において、スチレン系樹脂組成物は、上記の添加剤又は加工助剤等だけでなく、その他の添加剤を任意の添加成分として含有してもよい。当該その他の添加剤としては、ブロッキング防止剤、着色剤、ブルーミング防止剤、表面処理剤、抗菌剤、目ヤニ防止剤(特開2009-120717号公報に記載のシリコーンオイル、高級脂肪族カルボン酸のモノアミド化合物、及び高級脂肪族カルボン酸と1価~3価のアルコール化合物とを反応させてなるモノエステル化合物等の目ヤニ防止剤)等が挙げられる。
添加剤及び加工助剤等の任意の添加成分の合計含有量は、スチレン系樹脂組成物中、0.05~5質量%としてよい。
【0077】
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、実質的に(A)成分、(B)成分及び任意の添加成分のみからなっていてもよい。また、(A)成分、カテ―コール誘導体、及び(B)成分のみからなっていてもよい。
【0078】
「実質的に(A)成分、(B)成分及び任意添加成分のみからなる」とは、スチレン系樹脂組成物の95~100質量%(好ましくは98~100質量%)が(A)成分、(B)成分であるか、又は(A)成分(B)成分及び任意の添加成分であることを意味する。
【0079】
なお、本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で(A)成分(B)成分及び任意の添加成分の他に不可避不純物を含んでいてもよい。
【0080】
本実施形態の誘電体層3は、上記の溶融混練成形機により、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、ブロー成形法、プレス成形法、真空成形法、及び発泡成形法等により、成形体を製造することができる。
【0081】
本実施形態の誘電体層3は、0.3~300GHzの周波数を有する電磁波で通信を行う装置の構成要素に使用される。特に送受信装置、携帯電話、タブレット、ラップトップ、ナビゲーションデバイス、監視カメラ、写真撮影用カメラ、センサ、ダイビングコンピュータ、オーディオユニット、リモコン、スピーカ、ヘッドホン、ラジオ、テレビ、照明機器、家電製品、キッチン用品、ドアオープナー又はゲートオープナー、車両中央ロック用操作装置、キーレス自動車用キー、温度測定装置又は温度表示装置、測定装置及び制御装置などの製品に使用される。
【0082】
「パッチ基板及びグラウンド基板」
本実施形態において、パッチ基板2及びグラウンド基板4は、導体で形成された層であることが好ましい。例えば、パッチ基板2及びグラウンド基板4の厚さは、例えば0.1~50μm程度である。パッチ基板2及びグラウンド基板4を形成する導体は、特に限定されることはなく、例えば、銅、金、銀、アルミニウム、チタン、クロム、モリブデン、タングステン、白金、若しくはニッケル等の金属、又はこれらの金属を少なくとも1種以上を含有する合金あるいは金属化合物が好ましい。また、パッチ基板2及びグラウンド基板4の構造は、一層構造に限らず、例えば、チタン層と銅層との積層構造のような複数の層が積層した構造であってもよい。パッチ基板2及びグラウンド基板4の形成方法は、特に限定されるものではなく、例えば、公知の接着剤による接着、導体ペーストを用いた印刷法、ディップ法、メッキ法、蒸着法、スパッタ、ホットプレス法等の各種公知の形成方法を適用することができる。
【0083】
「マイクロストリップ線路」
本実施形態において、マイクロストリップ線路5は、導体で形成された層であることが好ましい。当該マイクロストリップ線路5を形成する材料としては、上記のパッチ基板2及びグラウンド基板4と同様の材料を適用することができる。また、誘電体層5の比誘電率が高いほど、パッチ基板2又は給電線路(例えば、マイクロストリップ線路5)から生じる電磁界は、誘電体層5内部に強く拘束される傾向を示す。そのため、パッチ基板2にとっては、低誘電率の誘電体層が好ましい。一方、給電線路にとっては、高誘電率の誘電体層が好ましい。
【実施例0084】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明の実施形態を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
「1.測定及び評価方法」
各実施例及び比較例で得られた樹脂組成物の物性の測定及び評価は、次の方法に基づいて行った。
【0085】
(1)ゴム変性スチレン系樹脂中に含まれるゴム状重合体(a)の含有量の測定
ブタジエンセグメントの結合様式を踏まえた上で、熱分解ガスクロマトグラフィを測定し、ブタジエンセグメント量からゴム状重合体(a)の含有量を算出した。単位は重量%である。
【0086】
(2)スチレン系共重合樹脂のスチレン単量体単位、メタクリル酸単量体単位、及びメタクリル酸メチル単量体単位の含有量の算出法
プロトン核磁気共鳴(1H-NMR)測定機で測定したスペクトルの積分比から、樹脂組成を定量した。
・試料調製:樹脂ペレット30mgをd6-DMSO 0.75mLに60℃で4~6時間加熱溶解した。
・測定機器:日本電子(株)製 JNM ECA-500
・測定条件:測定温度25℃、観測核1H、積算回数64回、繰り返し時間11秒。
(スペクトルの帰属)
ジメチルスルホキシド重溶媒中で測定されたスペクトルの帰属について、0.5~1.5ppmのピークは、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、及び六員環酸無水物のα-メチル基の水素、1.6~2.1ppmのピークはポリマー主鎖のメチレン基の水素、3.5ppmのピークはメタクリル酸メチルのカルボン酸エステル(-COOCH3)の水素、12.4ppmのピークはメタクリル酸のカルボン酸の水素である。また、6.5~7.5ppmのピークはスチレンの芳香族環の水素である。なお、本実施例及び比較例の樹脂では六員環酸無水物の含有量が少ないため、本測定方法では通常定量化は難しい。
【0087】
(3)誘電率・誘電正接
誘電体層及びスチレン系樹脂組成物の誘電率・誘電特性は、JIS C2138に準拠して10GHzでPNA-Lネットワークアナライザ N5230A(アジレント・テクノロジー(株)製)にて測定した(200℃、荷重49N)。また、80℃のオーブンに500時間暴露した誘電正接について測定した。
【0088】
(4)シャルピー衝撃強さ(kJ/m2)
実施例の難燃性スチレン系樹脂組成物及び比較例の樹脂組成物より得た試験片のシャルピー衝撃強さを、ISO 179に準拠して、ノッチありで測定した。
【0089】
(5)耐熱性
後述の方法で作製したフレキシブル両面金属積層板を温度100℃、及び120℃雰囲気下に30分暴露したのち、フレキシブル両面金属積層板の変形の有無を確認するとともにノギスで寸法を測定し、最大の加熱収縮率を測定した。
【0090】
(6)90°銅箔引き剥がし強さの評価
後述の実施例又は比較例の方法で作製した樹脂シート130mm×130mmに対して、当該樹脂シートと同じ大きさの厚さ35μmの銅箔を、200℃熱プレスにより銅箔を接着した後、塩化第二鉄溶液により銅箔をエッチングし、JIS K 6854-1を準拠した銅箔の引きはがし強さを測定した。
測定条件は以下の通りである。
試験速度:50mm/min
試験片幅:10(mm)
測定数 :n=5
測定環境:23℃±2、50%RH±5%RH
測定装置:万能材料試験機 59R5582型(インストロン社製)
最小銅箔接着性は、90°銅箔引き剥がし強さの実験結果の平均値である。
【0091】
(7)伝送損失(dB/mm)
伝送損失の測定には、インピーダンスZ=50Ωのマイクロストリップ線路法を用いた。マイクロストリップ線路法は、サンプルの作製が容易であり、面実装部品の実装に適した構造を有するため、伝送損失の測定に広く採用されている。
【0092】
図3は、マイクロストリップ線路法により作製したサンプルを示す斜視図である。当該サンプルは、
図1に示すように、スチレン系樹脂組成物からなる誘電体層3と、誘電体層3の一方の面に設けられた、厚さt、幅Wの銅メッキ層をマイクロストリップ線路5とし、他方の面に誘電体層3と一様に接着して設けられた銅メッキ層をグランド基板4とする積層体であり、後述のフレキシブル両面金属積層板である。
【0093】
具体的には、マイクロストリップ線路5の両端及びグランド基板4を測定機器に接続した後、マイクロストリップ線路5への入射波に対する透過量を測定した(温度23℃、湿度50%RHの条件下)。また、10GHzにおける透過量の状態調整を行った。
本測定に用いた測定機器を下記に示す。
測定機器: E8363B(Agllent Technologies社製)
測定周波数: 10M-40GHz
【0094】
「2.原材料」
実施例で用いた各材料は下記の通りである。
[GPPS]
蒸留により精製した、スチレン85重量%、エチルベンゼン15重量%の混合液100重量部に対し、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン0.05重量部を添加した重合液を5.4リットルの完全混合型反応器に0.70リットル/hrで連続的に仕込み、101℃に調整した。重合体溶液を引き続き、攪拌器を備え3ゾーンで温度コントロール可能な3.0リットルの層流型反応器に連続的に仕込んだ。層流型反応器の温度を113℃/121℃/128℃に調整した。得られた重合溶液を2段ベント付き脱揮押出機連続的に供給し、押出機温度225℃、1段ベント及び2段ベントの真空度を15torrで、未反応単量体及び溶媒を除去し、押出機にて造粒した。
【0095】
[HIPS]
蒸留により精製した、スチレン82.3質量部に、ムーニー粘度が40であり、かつ5%スチレン溶液粘度である135センチポイズのハイシスポリブタジエンゴムを5質量部溶解した溶液に、エチルベンゼン13質量部、1,1’-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン0.03質量部、ジ-t-ブチルパーオキサイド0.01質量部、nドデシルメルカプタン0.05質量部及び酸化防止剤としてオクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート0.1質量部を加えた原料液を、内容積6リットルの攪拌機付き槽型第1反応器に連続的に2リットル/Hr.にて供給し、第1反応器出口の固形分濃度35%とするよう、温度を調節し、相転換を完了させ粒子を形成させた。この時の第1反応器の攪拌数を90回転/毎分とした。更に、内容積6リットルの攪拌器付き槽型第2反応器、及び同型、同容量の第3反応器にて重合を継続させた。その際、第2及び第3反応器出口の固形分濃度を各々55~60%、68~73%になるように槽内温度を調整した。次いで、230℃の真空脱揮装置に送り未反応スチレン単量体及び溶媒を除去し、押出機にて造粒した。
【0096】
[スチレン系共重合樹脂(a-1)の調製]
蒸留により精製した、スチレン(ST)71.3質量部、メタクリル酸(MAA)7.3質量部、メタクリル酸メチル(MMA)6.4質量部、エチルベンゼン15.0質量部、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン0.025質量部から成る重合原料組成液を、1.1リットル/時の速度で、容量が4リットルの完全混合型反応器に、次いで、容量が2リットルの層流型反応器から成る重合装置に、さらに、未反応モノマー、重合溶媒等の揮発分を除去する単軸押出機を連結した脱揮装置に、連続的に順次供給し、スチレン系共重合樹脂(a-1)を調製した。
【0097】
重合工程における重合反応条件は、完全混合反応器は重合温度122℃、層流型反応器は重合温度120~142℃とした。脱揮された未反応ガスは、-5℃の冷媒を通した凝縮器で凝縮し、未反応液として回収した。
【0098】
最終重合液中のポリマー分は、重合液を215℃、2.5kPaの減圧下で30分間乾燥後、押出機にて造粒し、スチレン系共重合樹脂(a-1)を得た。得られたスチレン系共重合樹脂(a-1)の組成比を表1に示す。
【0099】
[スチレン系共重合樹脂(a-2)~(a-7)の調製]
表1に示す樹脂の性状になるように組成や重合温度条件等を調整し、スチレン系共重合樹脂(a-1)と同様の方法でスチレン系共重合樹脂(a-2)~(a-7)を得た。得られたスチレン系共重合樹脂(a-2)~(a-7)の組成比を表1に示す。なお、スチレン系共重合樹脂(a-7)では、単量体として、無水マレイン酸(MAH)を用いた。
【表1】
【0100】
[(B)成分]
(B-1)スチレン-ブチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合樹脂(旭化成株式会社製「タフテックP1500」、スチレン含有量30質量%、MFR4)
(B-2)スチレン-ブチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合樹脂(旭化成株式会社製「タフテックP5051」、スチレン含有量45質量%、MFR3)
(B-3)スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合樹脂(旭化成株式会社製「タフテックH1041」、スチレン含有量30質量%、MFR0.8)
(B-4)スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合樹脂(旭化成株式会社製「タフプレン125」、スチレン含有量40質量%、MFR4.5)
[添加剤]
(フェノール系酸化防止剤)
・3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸ステアリル[BASF社製、Irganox1076]
(リン系酸化防止剤)
・トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト[BASF社製、Irgafos168]
【0101】
[実施例1~14]
表1に示す組成比で、各成分と、(A)成分及び(B)成分の合計100質量部に対して、Irganox1076とIrgafos168とを0.2質量部ずつ添加後、予備混合した。得られた予備混合物を一括混合し、二軸押出機(東芝機械社製、TEM-26SS)を用い、180℃~230℃の範囲で溶融押出を行い、混練物として低誘電率・低誘電正接を示すスチレン系樹脂組成物のペレットを得た。この際、スクリュー回転数は150rpm、吐出量は10kg/hrであった。
【0102】
このようにして得られたペレットを、ISO規格試験片タイプA金型を備え付けた日本製鋼所社製の射出成形機を用い、シリンダー温度220℃、金型温度50℃、射出圧力(ゲージ圧40-60MPa)、射出速度(パネル設定値)50%、射出時間/冷却時間=5sec/20secで成形して試験片を作製した。得られた試験片を用いて、シャルピー衝撃強さの測定と成形品の表面外観を評価した。結果を表2に示す。
【0103】
さらに伝送損失を評価するために、上記ペレットを厚さ0.3mmのシートをプレス成形して作成し、厚み12μmの電解銅箔(福田金属箔粉社製CF-T4X-SVR-12)を、銅箔/シート/銅箔の順序で積層し、温度200℃、圧力1.3MPaの条件で5分間プレスして、フレキシブル両面金属積層板を得た。
【0104】
[比較例1~13]
比較例1~13は、表3に示すように組成を変更したこと以外は実施例と同様にして、樹脂組成物のペレットを得た。各物性の測定及び評価の結果を表3に示す。
【0105】
【0106】
【0107】
表2に示すように、実施例1~14のパッチアンテナは、衝撃強度、耐熱性、基板と誘電体層の密着性、及び誘電率や誘電正接に優れることがわかる。100℃、または120℃使用環境下を想定したオーブンの暴露後でも変形することなく使用することができる。
【0108】
一方、比較例1~13のパッチアンテナについては、表3に示すように、(A)成分のみ、または(B)成分が多すぎると100℃、または120℃使用環境下では基板が変形したり、銅箔が剥離するなど不具合を生じることが確認された。
本発明のパッチアンテナは、0.3~300GHzの周波数を有する電磁波で通信を行う装置の構成要素として有効である。そのため、本発明は、送受信装置、携帯電話、タブレット、ラップトップ、ナビゲーションデバイス、監視カメラ、写真撮影用カメラ、センサ、ダイビングコンピュータ、オーディオユニット、リモコン、スピーカ、ヘッドホン、ラジオ、テレビ、照明機器、家電製品、キッチン用品、ドアオープナー又はゲートオープナー、車両中央ロック用操作装置、キーレス自動車用キー、温度測定装置又は温度表示装置、測定装置及び制御装置の構成要素等に好適に使用することができる。