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特開2024-114498マグネシウムイオン二次電池用電解液およびマグネシウムイオン二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114498
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】マグネシウムイオン二次電池用電解液およびマグネシウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/054 20100101AFI20240816BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20240816BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20240816BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20240816BHJP
【FI】
H01M10/054
H01M10/0569
H01M10/0568
H01M10/0567
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020301
(22)【出願日】2023-02-13
(71)【出願人】
【識別番号】518110774
【氏名又は名称】株式会社ABRI
(71)【出願人】
【識別番号】000005382
【氏名又は名称】古河電池株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】張 永
(72)【発明者】
【氏名】竹口 直希
【テーマコード(参考)】
5H029
【Fターム(参考)】
5H029AJ02
5H029AK01
5H029AK02
5H029AK03
5H029AK05
5H029AL11
5H029AM04
5H029AM07
5H029HJ02
(57)【要約】
【課題】マグネシウムが可逆的な溶解析出反応を示し、かつ電気化学的に活性なマグネシウムイオン二次電池用電解液およびマグネシウムイオン二次電池を提供すること。
【解決手段】本発明に係るマグネシウムイオン二次電池用電解液は、マグネシウムイオン二次電池に用いるマグネシウムイオン二次電池用電解液であって、グライムからなる溶媒と、溶媒に溶解されてなるマグネシウム塩と、ホウ素水素化物を含む添加剤と、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウムイオン二次電池に用いるマグネシウムイオン二次電池用電解液であって、
溶媒としてのグライムと、
マグネシウム塩と、
ホウ素水素化物を含む添加剤と、
を含むことを特徴とするマグネシウムイオン二次電池用電解液。
【請求項2】
前記添加剤は、LiBH4、NaBH4、KBH4、Mg(BH42、Ca(BH42、Be(BH42、Al(BH43からなる群より選ばれる少なくとも一種である、
ことを特徴とする請求項1に記載のマグネシウムイオン二次電池用電解液。
【請求項3】
マグネシウムに前記グライムが配位した活性4配位構造を有するマグネシウム錯体、
を含むことを特徴とする請求項1に記載のマグネシウムイオン二次電池用電解液。
【請求項4】
前記グライムは、CH3O(CH2CH2O)nCH3(nは整数)で表されるアルコキシド誘導体である、
ことを特徴とする請求項1に記載のマグネシウムイオン二次電池用電解液。
【請求項5】
前記グライムは、1,2-ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテルおよびホルムアルデヒドジエチルアセタールからなる群より選ばれた少なくとも一種である、
ことを特徴とする請求項4に記載のマグネシウムイオン二次電池用電解液。
【請求項6】
前記マグネシウム塩は、マグネシウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、過塩素酸マグネシウム、テトラフルオロホウ酸マグネシウム、ヘキサフルオロリン酸マグネシウム、ヘキサフルオロヒ酸マグネシウム、パーフルオロアルキルスルホン酸マグネシウムおよびパーフルオロアルキルスルホニルイミド酸マグネシウムからなる群より選ばれた少なくとも一種である、
ことを特徴とする請求項1に記載のマグネシウムイオン二次電池用電解液。
【請求項7】
前記マグネシウム塩は、マグネシウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを含み、前記添加剤はLiBH4を含み、前記マグネシウム塩と前記添加剤のモル比が4:2~4:3である、
ことを特徴とする請求項1に記載のマグネシウムイオン二次電池用電解液。
【請求項8】
正極と、
負極と、
セパレータと、
請求項1乃至7のいずれか1項に記載のマグネシウムイオン二次電池用電解液と、
を備えることを特徴とするマグネシウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウムイオン二次電池用電解液およびマグネシウムイオン二次電池に関するものである。本発明は、より詳細には、例えば、マグネシウム(Mg)イオン電池などの電解質層に用いて好適な電解液およびこの電解液を用いたマグネシウムイオン電池などの各種のマグネシウムイオン二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マグネシウムイオン二次電池は、マグネシウムがリチウムに比べて資源的に豊富ではるかに安価であり、酸化還元反応によって取り出すことができる単位体積当たりの電気量が大きく、電池に用いた場合の安全性も高いことから、リチウムイオン二次電池に代わる次世代の二次電池として注目されている。
【0003】
従来、マグネシウムイオン二次電池用の電解液は、アルコールやエーテル系の溶媒を用いたものが用いられている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-106467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1のマグネシウムイオン二次電池は、過電圧が大きいという問題を抱えていた。
【0006】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、電池性能の高いマグネシウムイオン二次電池用電解液およびマグネシウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した。その結果、マグネシウム金属やマグネシウム合金に対して使用可能な電解液として、溶媒としてのグライムにマグネシウム塩を溶解させ、さらに、ホウ素水素化物が添加された電解液が有効であることを見出した。そして、実際にマグネシウム金属に対して、マグネシウムの可逆な析出溶解反応を示すことを確認し、本発明に至った。
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、第一の観点として、本発明に係るマグネシウムイオン二次電池用電解液は、マグネシウムイオン二次電池に用いるマグネシウムイオン二次電池用電解液であって、溶媒としてのグライムと、マグネシウム塩と、ホウ素水素化物を含む添加剤と、を含むことを特徴とする。
【0009】
また、第一の観点に加えて、第二の観点として、本発明に係るマグネシウムイオン二次電池用電解液は、上記の発明において、LiBH4、NaBH4、KBH4、Mg(BH42、Ca(BH42、Be(BH42、Al(BH43からなる群より選ばれる少なくとも一種を添加剤として含む、ことを特徴とする。
【0010】
また、第一または第二の観点に加えて、第三の観点として、本発明に係るマグネシウムイオン二次電池用電解液は、上記の発明において、マグネシウムに前記グライムが配位した活性4配位構造を有するマグネシウム錯体、を含むことを特徴とする。
【0011】
また、第一乃至第三の観点に加えて、第四の観点として、本発明に係るマグネシウムイオン二次電池用電解液は、上記の発明において、前記グライムは、CH3O(CH2CH2O)nCH3(nは整数)で表されるアルコキシド誘導体である、ことを特徴とする。
【0012】
また、第一乃至第四の観点に加えて、第五の観点として、本発明に係るマグネシウムイオン二次電池用電解液は、上記の発明において、前記グライムは、1,2-ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテルおよびホルムアルデヒドジエチルアセタールからなる群より選ばれた少なくとも一種である、ことを特徴とする。
【0013】
また、第一乃至第五の観点に加えて、第六の観点として、本発明に係るマグネシウムイオン二次電池用電解液は、上記の発明において、マグネシウム塩は、マグネシウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、過塩素酸マグネシウム、テトラフルオロホウ酸マグネシウム、ヘキサフルオロリン酸マグネシウム、ヘキサフルオロヒ酸マグネシウム、パーフルオロアルキルスルホン酸マグネシウムおよびパーフルオロアルキルスルホニルイミド酸マグネシウムからなる群より選ばれた少なくとも一種である、ことを特徴とする。
【0014】
また、第一乃至第六の観点に加えて、第七の観点として、本発明に係るマグネシウムイオン二次電池用電解液は、上記の発明において、前記マグネシウム塩は、マグネシウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを含み、前記添加剤はLiBH4を含み、前記マグネシウム塩と前記添加剤のモル比が4:2~4:3である、ことを特徴とする。
【0015】
また、第一乃至第七の観点に加えて、第八の観点として、本発明に係るマグネシウムイオン二次電池は、正極と、負極と、セパレータと、上記の発明に係るマグネシウムイオン二次電池用電解液と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、電池性能の高いマグネシウムイオン二次電池用電解液およびマグネシウムイオン二次電池を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明の実施の形態1に係るマグネシウムイオン二次電池用正極を備えるマグネシウムイオン二次電池の構成を説明するための断面図である。
図2図2は、本発明の実施の形態2に係るマグネシウムイオン二次電池用正極を備えるマグネシウムイオン二次電池の構成を説明するための分解斜視図である。
図3図3は、比較例1の電解液(Mg(TFSI)2-G2)のCV測定結果を示す図である。
図4図4は、比較例1の電解液(Mg(TFSI)2-G2)のサイクル特性測定結果を示す図である。
図5図5は、実施例1の電解液(Mg(TFSI)2-LiBH4-G2)のCV測定結果を示す図である。
図6図6は、実施例1~3の電解液(Mg(TFSI)2-LiBH4-G2、G3、G4)のCV測定結果を示す図である。
図7図7は、実施例1、4、5の電解液における、Mg(TFSI)2とLiBH4との混合比の影響について説明するための図である。
図8図8は、Mg(TFSI)2-LiBH4-G2電解液中のMg2+の結合状態を説明するための図である。
図9図9は、実施例1および比較例1、2の電解液(Mg(TFSI)2-LiBH4-G2電解液、Mg(TFSI)2-LiBH4-Ethyl isopropyl sulfone電解液、Mg(TFSI)2-G2電解液)のCV測定結果を示す図である。
図10図10は、実施例6の電解液(Mg(ClO42-LiBH4-G2)のCV測定結果を示す図である。
図11図11は、比較例3~7の電解液(Mg(ClO42-LiBH4-Ethyl isopropyl sulfone、またはMg(ClO42-G2)のCV測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の記載に限定されるものではない。また、本実施の形態には種々の変更又は改良を加えることが可能であり、そのような変更又は改良を加えた形態も本発明に含まれ得る。
【0019】
詳しくは後述するが、図1は、ラミネート型マグネシウムイオン二次電池の断面図であり、図2は、コイン型マグネシウムイオン二次電池の構成を説明するための分解斜視図である。
なお、図1図2では実施の形態の一例としてラミネート型マグネシウムイオン二次電池やコイン型マグネシウムイオン二次電池の場合の構成例を示しているが、本発明におけるマグネシウムイオン二次電池の形状は特に制限されず、扁平型、円筒型、角型、もしくは、コイン型などであってもよい。また、マグネシウムイオン二次電池の外装体も特に限定されず、ラミネートフィルム、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレスなど公知のものを使用することができる。
【0020】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係るマグネシウムイオン二次電池用正極を備えるマグネシウムイオン二次電池の構成を説明するための断面図である。図1に示すマグネシウムイオン二次電池1は、正極と、負極と、セパレータとを組として、複数組を積層してなる積層型のマグネシウムイオン二次電池である。
【0021】
マグネシウムイオン二次電池1は、ラミネートフィルムからなる袋状の外装体2を備える。外装体2内には、積層構造の電極群3が収納されている。ラミネートフィルムは、例えば複数枚(例えば2枚)のプラスチックフィルムを重ね、隣り合うプラスチックフィルムの間にアルミニウム箔等の金属箔を挟んで積層した構造を有する。2枚のプラスチックフィルムのうち、一方のプラスチックフィルムは熱融着性樹脂フィルムが用いられる。外装体2は、2枚のラミネートフィルムを熱融着性樹脂フィルムが互いに対向するように重ね、これらのラミネートフィルム間に電極群3と、電解液とを収納し、電極群3周辺の2枚のラミネートフィルム部分を互いに熱融着して封止することにより、電極群3および電解液を気密に収納する。
【0022】
電極群3は、正極4と、負極5と、セパレータ6と、正極リード7と、正極タブ8と、負極リード9と、負極タブ10とを有する。セパレータ6は、正極4と負極5との間に介在する。電極群3は、負極5が最外層に位置するとともに、負極5と外装体2の内面との間にセパレータ6が位置するように複数積層した構造を有する。
【0023】
(正極)
正極4は、正極集電体41と、当該正極集電体41の一面または両面に形成される正極合材層42とから構成される。
【0024】
正極集電体41は、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス、チタン、その他合金等を用いて構成される。なかでも、電子伝導性や電池作動電位の観点からアルミニウムを用いることが好ましい。
【0025】
正極合材層42は、正極活物質と、結着剤とを含む。
正極活物質としては、MgCo24、MgFeSiO4、S、MnO2、Mo68、V25などが挙げられる。また、正極活物質は、電子伝導性向上のために、例えば黒鉛、カーボンブラックなどの導電性カーボン粉やカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、グラフェンなどうちの一種、またはそれらの混合物を含んでもよい。
【0026】
結着剤は、正極集電体や正極活物質を結びつける。結着剤は、特に限定されるものではなく、公知または市販のものを使用することができる。結着剤として、例えば、ポリエチレン(PolyEthylene:PE)、ポリプロピレン(PolyPropylene:PP)ターポリマー、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム(Styrene-Butadiene Rubber:SBR)、ブチルゴム、ポリテトラフルオロエチレン(PolyTetraFluoroEthylene:PTFE)、ポリ(メタ)アクリレート(PolyMethylMethAcrylate:PMMA)、ポリフッ化ビニリデン(PolyVinylideneDiFluoride:PVDF)、ポリエチレンオキサイド(PolyeEthyleneOxide:PEO)、ポリプロピレンオキサイド(PolypropyleneOxide:PO)、ポリエピクロロヒドリン(Epichlorohydrin)、ポリフォスファゼン(Polyphosphazene)、ポリアクリロニトリル(Polyacrylonitrile)などのうちの一種、またはそれらの混合物等が挙げられる。
【0027】
(負極)
負極5は、マグネシウム金属またはマグネシウム合金からなるマグネシウム層51を有する。より好ましくは、負極5は、負極集電体52と、当該負極集電体52の一面または両面に設けられるマグネシウム層51とから構成される。なお、図1では、マグネシウム層51が、負極集電体52の両面に設けられる例を示している。すなわち、負極5は、マグネシウムを活物質として用いるマグネシウムイオン二次電池用負極である。
【0028】
負極集電体52としては特に限定されないが、金属を用いることが好ましい。具体的には、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス、チタン、その他合金等が挙げられる。なかでも、電子伝導性や電池作動電位の観点から銅が好ましい。
【0029】
(セパレータ)
セパレータ6は、正極4と負極5との間に設けられ、電解液の成分が通過可能な多孔質性を有する。セパレータ6は、例えばポリマーや繊維からなる多孔性シートのセパレータや不織布セパレータ等を用いて構成される。また、セパレータ6は、耐熱絶縁層としてのセラミック層が多孔質基体に積層されたものであってもよい。電解液に固体電解質が用いられる場合、セパレータ6は存在しないこともある。
【0030】
正極リード7は、正極合材層42の例えば図1の下側にそれぞれ延出する。各正極リード7は、一例として、正極集電体41の正極合材層42が未塗布の部分である。各正極リード7は、外装体2内において正極合材層42側とは反対側の端部で束ねられ、互いに接合されている。
【0031】
正極タブ8は、一端が正極リード7に接合され、他端が外装体2の封止部を経て外部に延出する。
【0032】
負極リード9は、負極集電体52の例えば図1の上側にそれぞれ延出する。正極リード7と接触しなければ、正極リード7と同じ方向に延出してもよい。各負極リード9は、一例として、マグネシウム層51の負極集電体52が未塗布の部分である。各負極リード9は、外装体2内において負極集電体52側とは反対側の端部で束ねられ、互いに接合されている。
【0033】
負極タブ10は、一端が負極リード9に接合され、他端が外装体2の封止部を経て外部に延出する。
【0034】
(電解液)
電解液は、グライムからなる溶媒にマグネシウム塩が溶解し、かつホウ素水素化物を添加剤として含有するマグネシウムイオン含有非水電解液である。
【0035】
グライムは、例えば、CH3O(CH2CH2O)nCH3で表されるアルコキシド誘導体である。ここで、nは特に限定されず、必要に応じて選ばれる整数である。また、nは、好適には6以下であるが、これに限定されるものではない。例えば、1,2-ジメトキシエタン(Dimethoxyethane)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(Diethylene glycol dimethyl ether:DMDG)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(Triethylene glycol dimethyl ether:DMTG)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(Tetraethylene glycol dimethyl ether:DMTeG)およびホルムアルデヒドジエチルアセタール(Formaldehyde diethyl acetal)からなる群より選ばれた少なくとも一種である。
なお、以下、DMDGをG2、DMTGをG3、DMTeGをG4という。
【0036】
マグネシウム塩は、例えば、マグネシウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(Mg(TFSI)2)、塩化マグネシウム(MgCl2)、臭化マグネシウム(MgBr2)、ヨウ化マグネシウム(MgI2)、過塩素酸マグネシウム(Mg(ClO42)、テトラフルオロホウ酸マグネシウム(Mg(BF42)、ヘキサフルオロリン酸マグネシウム(Mg(PF62)、ヘキサフルオロヒ酸マグネシウム(Mg(AsF62)、パーフルオロアルキルスルホン酸マグネシウムおよびパーフルオロアルキルスルホニルイミド酸マグネシウムからなる群より選ばれた少なくとも一種である。これらのマグネシウム塩の中でも、Mg(TFSI)2が特に好適なものである。
【0037】
電解液には、さらに添加剤を含有する。この添加剤は、ホウ素水素化物である。ホウ素水素化物は、例えば、LiBH4、NaBH4、KBH4、Mg(BH42、Ca(BH42、Be(BH42、Al(BH43からなる群より選ばれる少なくとも一種である。製造に係る費用や扱いやすさの面から、最も好ましいのはLiBH4である。
電解液のマグネシウム塩と添加剤の濃度比率を変えることで,金属表面におけるMgの析出溶解を効果的に調節することができる。
なお、本発明は他の添加剤を含むことを妨げない。
【0038】
マグネシウム塩と添加剤のモル比は、4:2~4:3であるのが望ましく、なかでも、マグネシウム塩としてマグネシウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを含み、添加剤としてLiBH4を含むのが望ましい。
【0039】
グライムとしては、電解液が上記添加剤を含む場合、好適には無水G2、G3、G4のいずれかが用いられる。
【0040】
ここで、電解液は、マグネシウムにグライムが配位した活性4配位構造を有するマグネシウム錯体を含むことが好ましい。ここで、活性4配位構造とは、4配位錯体の中でも特に活性なものを指す。具体的には、マグネシウムにエチルイソプロピルスルホン(Ethyl isopropyl sulfone)が配位している4配位錯体は活性4配位構造ではなく、マグネシウムにグライムが配位している4配位錯体程度に活性なものが活性4配位構造である。このマグネシウム錯体は、例えば、LiBH4を添加することによってMg(TFSI)2とLiBH4との間により活性な錯体が形成される。
【0041】
以上説明した実施の形態1では、電解液として、グライムからなる溶媒にマグネシウム塩が溶解し、かつホウ素水素化物を添加剤として含むマグネシウムイオン含有非水電解液を用いる。本実施の形態1によれば、この電解液を電解質層として用いることにより、取扱いが容易であり、かつ電気化学的に可逆なマグネシウムの析出溶解反応を示すマグネシウムイオン二次電池用電解液およびマグネシウムイオン二次電池を得ることができる。
【0042】
また、実施の形態1によれば、電解液に添加剤を添加することによって、電解液のイオン伝導度の向上を図ることができる。
【0043】
(実施の形態2)
図2は、本発明の実施の形態2に係る非水電解液二次電池用正極を備える非水電解液二次電池の構成を説明するための分解斜視図である。非水電解液二次電池1Aは、ケース110と、板ばね111と、正極集電体112と、正極合材層113と、セパレータ114と、負極115と、ガスケット116と、キャップ117とを備える。正極集電体112および正極合材層113によって正極118が構成される。
【0044】
非水電解液二次電池1Aは、カシメ等によってケース110とキャップ117とが固着され、内部には非水電解液が充填される。非水電解液二次電池1Aでは、ケース110、ガスケット116およびキャップ117によって液密に封止される。また、正極集電体112、正極合材層113、セパレータ114および負極115は、板ばね111によってキャップ117側に付勢される。これにより、各部材が互いに密着した状態が維持される。
【0045】
正極集電体112は、実施の形態1の正極集電体41と同様の材料を用いて構成される。
正極合材層113は、実施の形態1の正極合材層42と同様の構成を有する。
【0046】
セパレータ114は、正極と負極115との間に設けられ、多孔質性の円板状をなす。セパレータ114は、実施の形態1のセパレータ6と同様の構成を有する。
【0047】
非水電解液は、実施の形態1と同様の非水電解液を用いることができる。すなわち、グライムからなる溶媒にマグネシウム塩が溶解し、かつホウ素水素化物を添加剤として含むマグネシウムイオン含有非水電解液を用いる。
【0048】
負極115は、実施の形態1の負極5と同様の構成を有する。
【0049】
本実施の形態2によれば、前述の電解液を電解質層として用いることにより、取扱いが容易であり、かつ電気化学的に可逆なマグネシウムの析出溶解反応を示すマグネシウムイオン二次電池用電解液およびマグネシウムイオン二次電池を得ることができる。
【実施例0050】
以下に、実施例を例示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0051】
(実施例1)
実施例1は、以下のようにしてマグネシウム(Mg)電解液(Mg(TFSI)2-LiBH4-G2)を調製した。
試薬の計量および混合操作は、グローブボックス内(Ar/露点-90~-80℃)で行った。脱水G2(キシダ化学株式会社製)10mLを、スターラを用いて撹拌しながら、そこにマグネシウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(Mg(TFSI)2:キシダ化学株式会社製)を2.388g加えた。60℃でMg(TFSI)2を溶解させた後、LiBH4を0.0653g加え、60℃で溶解させた。
調製された電解液は、Mg(TFSI)2:LiBH4=4:3(mol比)、Mg濃度が0.4mol/Lであった。
【0052】
(実施例2)
実施例2は、以下のようにしてMg電解液(Mg(TFSI)2-LiBH4-G3)を調製した。
試薬の計量および混合操作は、グローブボックス内(Ar/露点-90~-80℃)で行った。脱水G3(キシダ化学株式会社製)10mLを、スターラを用いて撹拌しながら、そこにマグネシウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(Mg(TFSI)2:キシダ化学株式会社製)を2.388g加えた。60℃でMg(TFSI)2を溶解させた後、LiBH4を0.0653g加え、60℃で溶解させた。
調製された電解液は、Mg(TFSI)2:LiBH4=4:3(mol比)、Mg濃度が0.4mol/Lであった。
【0053】
(実施例3)
実施例3は、以下のようにしてMg電解液(Mg(TFSI)2-LiBH4-G4)を調製した。
試薬の計量および混合操作は、グローブボックス内(Ar/露点-90~-80℃)で行った。脱水G4(キシダ化学株式会社製)10mLを、スターラを用いて撹拌しながら、そこにマグネシウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(Mg(TFSI)2:キシダ化学株式会社製)を2.388g加えた。60℃でMg(TFSI)2を溶解させた後、LiBH4を0.0653g加え、60℃で溶解させた。
調製された電解液は、Mg(TFSI)2:LiBH4=4:3(mol比)、Mg濃度が0.4mol/Lであった。
【0054】
(実施例4)
実施例4は、以下のようにしてMg電解液(Mg(TFSI)2-LiBH4-G2)を調製した。
試薬の計量および混合操作は、グローブボックス内(Ar/露点-90~-80℃)で行った。脱水G2(キシダ化学株式会社製)10mLを、スターラを用いて撹拌しながら、そこにマグネシウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(Mg(TFSI)2:キシダ化学株式会社製)を2.388g加えた。60℃でMg(TFSI)2を溶解させた後、LiBH4を0.0432g加え、60℃で溶解させた。
調製された電解液は、Mg(TFSI)2:LiBH4=4:2(mol比)、Mg濃度が0.4mol/Lであった。
【0055】
(実施例5)
実施例5は、以下のようにしてMg電解液(Mg(TFSI)2-LiBH4-G2)を調製した。
試薬の計量および混合操作は、グローブボックス内(Ar/露点-90~-80℃)で行った。脱水G2(キシダ化学株式会社製)10mLを、スターラを用いて撹拌しながら、そこにマグネシウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(Mg(TFSI)2:キシダ化学株式会社製)を2.388g加えた。60℃でMg(TFSI)2を溶解させた後、LiBH4を0.0864g加え、60℃で溶解させた。
調製された電解液は、Mg(TFSI)2:LiBH4=4:4(mol比)、Mg濃度が0.4mol/Lであった。
【0056】
(実施例6)
実施例6は、以下のようにしてMg電解液(Mg(ClO42-LiBH4-G2)を調製した。
試薬の計量および混合操作は、グローブボックス内(Ar/露点-90~-80℃)で行った。脱水G2(キシダ化学株式会社製)10mLを、スターラを用いて撹拌しながら、そこに過塩素酸マグネシウム(Mg(ClO42)を0.8928g加えた。60℃でMg(ClO42を溶解させた後、LiBH4を0.065g加え、60℃で溶解させた。 調製された電解液は、Mg(ClO42:LiBH4=4:3(mol比)、Mg濃度0.4mol/Lであった。
【0057】
(比較例1)
比較例1は、以下のようにして添加剤を含まないMg電解液(Mg(TFSI)2-G2)を調製した。
試薬の計量および混合操作は、グローブボックス内(Ar/露点-90~-80℃)で行った。脱水G2(キシダ化学株式会社製)10mLを、スターラを用いて撹拌しながら、マグネシウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(Mg(TFSI)2:キシダ化学株式会社製)を2.388g加えた。60℃でMg(TFSI)2を溶解させた。
【0058】
(比較例2)
比較例2は、以下のようにしてMg電解液(Mg(TFSI)2-LiBH4-Ethyl isopropyl sulfone)を調製した。
試薬の計量および混合操作は、グローブボックス内(Ar/露点-90~-80℃)で行った。10mLのエチルイソプロピルスルホン(Ethyl isopropyl sulfone)を、スターラを用いて撹拌しながら、そこにマグネシウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(Mg(TFSI)2:キシダ化学株式会社製)を2.388g加えた。60℃でMg(TFSI)2を溶解させた後、LiBH4を0.0653g加え、60℃で溶解させた。
調製された電解液は、Mg(TFSI)2:LiBH4=4:3(mol比)、Mg濃度が0.4mol/Lであった。
【0059】
(比較例3)
比較例3は、以下のようにしてMg電解液(Mg(ClO42-LiBH4-Ethyl isopropyl sulfone)を調製した。
試薬の計量および混合操作は、グローブボックス内(Ar/露点-90~-80℃)で行った。10mLのエチルイソプロピルスルホンを、スターラを用いて撹拌しながら、そこに過塩素酸マグネシウム(Mg(ClO42)を0.8928g加えた。60℃でMg(ClO42を溶解させた後、LiBH4を0.022g加え、60℃で溶解させた。
調製された電解液は、Mg(ClO42:LiBH4=4:1(mol比)、Mg濃度が0.4mol/Lであった。
【0060】
(比較例4)
比較例4は、以下のようにしてMg電解液(Mg(ClO42-LiBH4-Ethyl isopropyl sulfone)を調製した。
試薬の計量および混合操作は、グローブボックス内(Ar/露点-90~-80℃)で行った。10mLのエチルイソプロピルスルホンを、スターラを用いて撹拌しながら、そこに過塩素酸マグネシウム(Mg(ClO42)を0.8929g加えた。60℃でMg(ClO42を溶解させた後、LiBH4を0.044g加え、60℃で溶解させた。
調製された電解液は、Mg(ClO42:LiBH4=4:2(mol比)、Mg濃度が0.4mol/Lであった。
【0061】
(比較例5)
比較例5は、以下のようにしてMg電解液(Mg(ClO42-LiBH4-Ethyl isopropyl sulfone)を調製した。
試薬の計量および混合操作は、グローブボックス内(Ar/露点-90~-80℃)で行った。10mLのエチルイソプロピルスルホンを、スターラを用いて撹拌しながら、そこに過塩素酸マグネシウム(Mg(ClO42)を0.8928g加えた。60℃でMg(ClO42を溶解させた後、LiBH4を0.065g加え、60℃で溶解させた。
調製された電解液は、Mg(ClO42:LiBH4=4:3(mol比)、Mg濃度が0.4mol/Lであった。
【0062】
(比較例6)
比較例6は、以下のようにしてMg電解液(Mg(ClO42-LiBH4-Ethyl isopropyl sulfone)を調製した。
試薬の計量および混合操作は、グローブボックス内(Ar/露点-90~-80℃)で行った。10mLのエチルイソプロピルスルホンを、スターラを用いて撹拌しながら、そこに過塩素酸マグネシウム(Mg(ClO42)を0.8928g加えた。60℃でMg(ClO42を溶解させた後、LiBH4を0.087g加え、60℃で溶解させた。
調製された電解液は、Mg(ClO42:LiBH4=4:4(mol比)、Mg濃度が0.4mol/Lであった。
【0063】
比較例7は、以下のようにしてMg電解液(Mg(ClO42-G2)を調製した。
試薬の計量および混合操作は、グローブボックス内(Ar/露点-90~-80℃)で行った。脱水G2(キシダ化学株式会社製)10mLを、スターラを用いて撹拌しながら、そこに過塩素酸マグネシウム(Mg(ClO42)を0.8928g加えて、60℃で溶解させた。
調製された電解液濃度は0.4mol/Lであった。
【0064】
[電解液のサイクリックボルタンメトリー(CV)測定]
上述のようにして調製した電解液の電気化学特性を調べるために、電解液のサイクリックボルタンメトリー(CV)測定を行った。測定には三極式セル(電解液量1mL)を用いた。この三極式セルは、作用極に白金(Pt)電極(直径1.6mm:BAS社製)を用い、対極および参照極にマグネシウム(Mg)ワイヤ(直径1.6mm:ニラコ社製)を用いた。測定は、グローブボックス内(Ar/露点-90~-80℃)にて、室温(25℃)で行った。
1サイクル目の測定は、開回路状態(OCV)から始め、参照極の電位に対する作用極の電位を、まず還元側へ-1.0V程度まで低下させ、次に酸化側へ4.0V程度まで上昇させ、最後にOCVに戻すように、OCV→-1.0V程度→+4.0V程度→OCVの順で変化させた。この際、電位の掃引速度は、5mV/sとした。
【0065】
[電解液のサイクル特性評価]
電極にマグネシウム金属、セパレータには、ガラスフィルター(Advantech GA-200)、電解液にはそれぞれの水準の電解液を用いて、コインセル外装体を用いて対称セルにて定電流試験を行った。測定条件は、10mA/cmで充電を1時間、放電を1時間行い、500サイクル、測定温度は室温(25℃)とした。
【0066】
図3および図4は、比較例1のMg電解液(Mg(TFSI)2-G2)のCV測定結果およびサイクル特性測定結果を示す図である。図3の横軸は、参照極の電位に対する作用極の電位を示し、縦軸は、反応電流の電流値を示す。また、図3の矢印Y1が示す向きは、マグネシウムの溶解を示し、矢印Y2が示す向きは、マグネシウムの析出を示す。これらの図に示すように、Mg電解液(Mg(TFSI)2-G2)は、マグネシウムの析出溶解の過電圧が高く、析出溶解が可逆的ではないことが分かる。図4より、サイクル特性評価では、1サイクル目から動作不能となることが示された。これは、電極表面の被膜によって、マグネシウムの溶解ができないためと考えられる。
【0067】
図5は、実施例1の電解液(Mg(TFSI)2-LiBH4-G2)のCV測定結果を示す図である。図5から、マグネシウムが可逆的に溶解および析出できる電解液を、Mg(TFSI)2、LiBH4、G2の組成で調製できていることが分かる。図3図5とを比較すると、LiBH4を加えることによってマグネシウムの析出溶解が始まる電位が明らかに変化し、過電圧が非常に小さくなっている。これは、酸化および還元に関係するマグネシウム錯体の構造が変化していることを示唆している。さらに、LiBH4を加えると、電解液の酸化時および還元時に流れる電流がともに大きくなっている。これは、LiBH4を加えることで、電解質のイオンとしての解離状態が変化していることを示唆している。
【0068】
図3図5より、Mg(TFSI)2をマグネシウム塩として使用し、溶媒にグライムを使用した場合、ホウ素水素化物を含む添加剤を含むマグネシウムイオン二次電池用電解液は、電池性能を向上させることがわかる。
【0069】
図6は、実施例1~3の電解液(Mg(TFSI)2-LiBH4-G2、G3、G4)のCV測定結果を示す図である。実施例1~3において、電解液の溶媒に使用したグライムは三種類(G2、G3、G4)であり、溶媒違いによるマグネシウムの析出溶解性能を評価した。CV測定により、実施例1~3が、LiBH4添加なしの結果(比較例1:図3参照)と比較して、いずれの電解液も非常に大きなマグネシウム析出溶解電流と、非常に小さい過電圧を示すことを確認した。特に、溶媒にG2を使用した場合、優れたマグネシウム析出溶解性能を示した。
【0070】
次に、実施例1、4、5および実施例6の電解液における、Mg(TFSI)2とLiBH4との混合比(4:3、4:2、4:4、4:1)の影響について調査するため、サイクル特性評価を実施し、各サイクルの過電圧を測定し、図7のグラフを得た。図7は、実施例1、4、5の電解液における、Mg(TFSI)2とLiBH4との混合比の影響について説明するための図である。なお、図7では、実施例1が最も電圧の幅が小さく、実施例5が最も電圧の幅が大きくなっている。混合比が4:4、4:3および4:2の電解液は、500サイクルにわたって、安定したサイクル特性を示した(図7参照)。また、図7に示すサイクル特性結果から、Mg(TFSI)2とLiBH4との比率が4:3の場合、過電圧が最も小さく、優れた特性を示した。
比率が4:3の場合、Mg(TFSI)2とLiBH4との結合状態が最も良好になったと推定される。
【0071】
以上の結果、溶媒にG2を使用し、Mg(TFSI)2とLiBH4との比率が4:3のMg(TFSI)2-LiBH4-G2電解液が、最も優れたマグネシウム析出溶解性能を示すことから、この電解液についてより詳細な調査を実施した。なお、以降のMg(TFSI)2-LiBH4-G2電解液は、Mg(TFSI)2とLiBH4との比率が4:3の電解液である。
【0072】
図8は、Mg(TFSI)2-LiBH4-G2電解液中のMg2+の結合状態を説明するための図である。例えば、Mg(TFSI)2とLiBH4との比率が4:3の場合に、Mg2+近傍に、図8の右に示すような、直接還元性の高いBH4 -が存在するクラスターを形成されることによって、マグネシウム金属表面の不働態化が抑制され、安定した析出溶解反応が可能となると考えられる。
【0073】
図9は、実施例1および比較例1、2の電解液(Mg(TFSI)2-LiBH4-G2電解液、Mg(TFSI)2-LiBH4-Ethyl isopropyl sulfone電解液、Mg(TFSI)2-G2電解液)のCV測定結果を示す図である。電解液の溶媒に使用したグライム(G2)とエチルイソプロピルスルホンとを比較した際に、グライムの方が、過電圧が小さく、Mg析出溶解電流値が高いという結果が得られた。また、LiBH4を添加した電解液は、小さい過電圧、および高い電流値を示した。
【0074】
以上の結果から、Mg(TFSI)2/グライム電解液にLiBH4を添加することによって、安定したマグネシウム析出溶解性能を発現することを見出した。特に、溶媒にG2を使用し、Mg(TFSI)2とLiBH4の比が4:3である場合に最も優れた性能を示した。また、Raman測定により、LiBH4を添加することによってMg(TFSI)2とLiBH4との間に活性な錯体が形成され、マグネシウム表面の析出溶解において、有利に作用することが分かった。
【0075】
図10は、実施例6の電解液(Mg(ClO42-LiBH4-G2)のCV測定結果を示す図である。実施例6において、電解液は(Mg(ClO42:LiBH4=4:3)であり、マグネシウムの析出溶解性能を評価した。CV測定により、実施例6(4:3)に係る電解液は、Mg析出溶解電流が発生し、析出溶解できることを確認した。
【0076】
図11は、比較例3~7の電解液(Mg(ClO42-LiBH4-Ethyl isopropyl sulfone、またはMg(ClO42-G2)のCV測定結果を示す図である。比較例3~6において、電解液は四種類(Mg(ClO42:LiBH4=4:4~4:1)であり、比較例7も合わせて五種類である。溶媒違いによるマグネシウムの析出溶解性能を評価した。CV測定により、比較例3~7(4:1~4:4、または溶媒がG2)のいずれも、Mgの析出溶解電流が生じず、析出溶解できないことが示された。
実施例6と比較例7を比較すると、マグネシウム塩がMg(ClO42であっても、溶媒にグライムを使用し、ホウ素水素化物を含む添加剤を含むマグネシウムイオン二次電池用電解液は、電池性能を向上させることがわかる。
【0077】
以上、本発明の実施の形態および実施例について具体的に説明したが、本発明は、上述の実施の形態および実施例に限定されるものではなく、各種の変形が可能である。
【0078】
例えば、上述の実施の形態および実施例において挙げた数値、構造、構成、形状、材料などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれらと異なる数値、構造、構成、形状、材料などを用いてもよい。
【符号の説明】
【0079】
1、1A マグネシウムイオン二次電池
2 外装体
3 電極群
4、118 正極
5、115 負極
6、114 セパレータ
7 正極リード
8 正極タブ
9 負極リード
10 負極タブ
41、112 正極集電体
42、113 正極合材層
51 マグネシウム層
52 負極集電体
110 ケース
111 板ばね
116 ガスケット
117 キャップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11