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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114505
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】回転機器
(51)【国際特許分類】
   B62M 6/45 20100101AFI20240816BHJP
   B62J 45/413 20200101ALI20240816BHJP
   F16H 1/06 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
B62M6/45
B62J45/413
F16H1/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020312
(22)【出願日】2023-02-13
(71)【出願人】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】林原 真史
【テーマコード(参考)】
3J009
【Fターム(参考)】
3J009DA19
3J009DA20
3J009EA11
3J009EA21
3J009ED01
3J009ED17
3J009FA09
(57)【要約】
【課題】始動時における回転機器のトルクを改善すること。
【解決手段】出力軸(16,23)と、ワンウェイクラッチ31と、ワンウェイクラッチ31を介して出力軸(16,23)に直接または間接的に連結したモータ40と、制御装置50と、を備え、モータ40は、第1方向R1および第2方向R2に回転可能であり、ワンウェイクラッチ31は、モータ40の第1方向R1の回転を伝達し、制御装置50は、第1信号Saを出力し、第1信号Saの出力後に、第2信号Sbを出力し、第1信号Saを入力されたモータ40は、第2方向R2に回転し、第2信号Sbを入力されたモータ40は、第1方向R1に回転する、回転機器100。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
出力軸と、
ワンウェイクラッチと、
前記ワンウェイクラッチを介して前記出力軸に直接または間接的に連結したモータと、
制御装置と、
を備え、
前記モータは、第1方向および前記第1方向に対して逆方向である第2方向に回転可能であり、
前記ワンウェイクラッチは、前記モータの第1方向の回転を伝達し、
前記制御装置は、第1信号を出力し、当該第1信号の出力後に、第2信号を出力し、
前記第1信号を入力された前記モータは、前記第2方向に回転し、
前記第2信号を入力された前記モータは、前記第1方向に回転する、回転機器。
【請求項2】
前記出力軸としてのシャフトと、
ギアと、を備え、
前記ギアを介して前記出力軸に前記モータは連結している、請求項1に記載の回転機器。
【請求項3】
前記第1信号を入力された前記モータが前記第2方向に回転する際の回転角は、360°より小さい、請求項1または2に記載の回転機器。
【請求項4】
センサを備え、
前記センサは、前記モータの回転角を検出する、請求項1から3のいずれかに記載の回転機器。
【請求項5】
前記センサが検出できる前記モータの回転角の範囲内に、前記モータのトルクが極大値を示す回転角が存在する、請求項4に記載の回転機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータの回転力が、ギアおよびワンウェイクラッチを介してシャフトに伝達される回転機器が知られている。そのような回転機器の例としては、電動アシスト自転車のモータドライブユニット等が挙げられる。例えば、特許文献1には、車速に対応するモータ回転速度となる電圧以上にモータ電圧を保ちつつ、踏力に対応してモータによる駆動力を制御するコントローラを備える電動アシスト自転車が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-062681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の回転機器では、高負荷のかかる始動時において最大のトルクが得られることが望ましい場合がある。しかしながら、モータのトルクはロータの回転角とセンサにより検出されたロータの回転角との差の大きさによって変動するため、始動時のロータの位置によっては、適切なトルクが得られない場合がある。
本発明は、始動時における回転機器のトルクの改善を課題の一例とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の回転機器は、出力軸と、ワンウェイクラッチと、前記ワンウェイクラッチを介して前記出力軸に直接または間接的に連結したモータと、制御装置と、を備え、前記モータは、第1方向および前記第1方向に対して逆方向である第2方向に回転可能であり、前記ワンウェイクラッチは、前記モータの第1方向の回転を伝達し、前記制御装置は、第1信号を出力し、当該第1信号の出力後に、第2信号を出力し、前記第1信号を入力された前記モータは、前記第2方向に回転し、前記第2信号を入力された前記モータは、前記第1方向に回転する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】本発明の一例である実施の形態にかかる回転機器の模式図である。
図2】本発明の一例である実施の形態にかかる回転機器のモータ駆動制御装置およびモータの構成を示す図である。
図3】本発明の一例である実施の形態にかかる回転機器のモータ駆動制御装置による制御の流れの一例を示すフローチャートである。
図4】センサにより検出されるロータの回転角が一定となる範囲内における、ロータの回転角(電気角)と、モータのトルク(最大トルクに対する割合)との関係の例を示すプロットである。
図5】本発明の一変形例にかかる回転機器の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の実施の形態の説明において、説明の便宜上、図1における軸Xに沿った矢印a方向(モータ40から第1ギア11へ向かう方向)を一方側とする。軸Xに沿った矢印b方向(第1ギア11からモータ40へ向かう方向)を他方側とする。ここで、矢印ab方向を軸方向と称する。
【0008】
以下、本発明の一例である実施の形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本実施の形態にかかる回転機器100の模式図である。図1に示すように、回転機器100は、他の部材としてのギア(第1ギア11、第2ギア12、第3ギア13、第4ギア14、第5ギア15)と、出力軸の一部を構成する出力ギア16と、を含む減速ギアセット10と、第1シャフト21と、第2シャフト22と、出力軸の他の一部を構成する第3シャフト23と、第1ワンウェイクラッチ31と、第2ワンウェイクラッチ32と、第3ワンウェイクラッチ33と、モータ40と、制御装置としてのモータ駆動制御装置50と、ハウジング60と、を備える。
【0009】
図1において、第1ギア11、第2ギア12、第3ギア13、第4ギア14、第5ギア15、出力ギア16、第1ワンウェイクラッチ31、第2ワンウェイクラッチ32、および第3ワンウェイクラッチ33は、便宜上、それぞれ模式的な断面図として示されているが、これは、必ずしも全ての断面が同一平面にあることを意味するものではない。また、図1において、モータ40のシャフトSに固定された第1ギア11、第2ギア12、第3ギア13、第4ギア14、第5ギア15、および出力ギア16の歯は省略されている。
【0010】
モータ40は、軸Xの周りに、第1方向R1、および第1方向R1に対して逆方向である第2方向R2に回転可能となっている。本実施の形態において、モータ40の出力軸(シャフトS)を軸方向における一方側(矢印a方向)から軸方向における他方側(矢印b方向)へ見た場合に、時計回りとなる回転方向を第1方向R1とし、反時計回りとなる回転方向を第2方向R2とする。
【0011】
第1ギア11は、モータ40の出力軸(シャフトS)に直結した、全体として略円筒状のギアである。第1ギア11の近傍には、円柱状または略円柱状の第1シャフト21が、モータ40の軸Xと平行に延びている。第1シャフト21は、図示しない軸受等を介してハウジング60に対して回転可能に支持されている。
【0012】
第1シャフト21には、モータ40に近い順(軸方向において、他方側(矢印b方向)から一方側(矢印a方向)へ向かう順)に、第2ギア12および第3ギア13が同軸に配置されている。なお、第2ギア12および第3ギア13の配置順は任意であり、モータ40に近い順に、第3ギア13および第2ギア12が配置されていてもよい。第2ギア12は、全体として略円環状のギアであり、第1ワンウェイクラッチ31を介して第1シャフト21に固定されている。第2ギア12は、第1ギア11と噛合している。第2ギア12の内周面(第1シャフト21に近い側の周面)は、第1ワンウェイクラッチ31の外周面(第1シャフト21から遠い側の周面)に固定されている。また、第1ワンウェイクラッチ31の内周面(第1シャフト21に近い側の周面)は、第1シャフト21の外周面に固定されている。
【0013】
第1ワンウェイクラッチ31は、モータ40の第1方向R1の回転を第1シャフト21に伝達し、モータ40の第2方向R2の回転を第1シャフト21に伝達しないように構成されている。モータ40が第1方向R1に回転する場合、第1ギア11も第1方向R1に回転する。すると、第1ギア11と噛合する第2ギア12は、第1方向R1とは反対方向、すなわち第2方向R2に回転する。第1ワンウェイクラッチ31は、第2ギア12の第2方向R2の回転を第1シャフト21に伝達することにより、モータ40の第1方向R1の回転を第1シャフト21に伝達する。また、第1ワンウェイクラッチ31は、第2ギア12の第1方向R1の回転を第1シャフト21に伝達しないため、モータ40の第2方向R2の回転を第1シャフト21に伝達しない。
【0014】
第3ギア13は、略円盤状のギアであり、第1シャフト21に直接固定されている。すなわち、第3ギア13の内周面(第1シャフト21に近い側の周面)は、第1シャフト21の外周面に、圧入または接着により固定されている。したがって、第3ギア13は、第1シャフト21と一体となって回転する。なお、第3ギア13と第1シャフト21は、一体の部材として形成されていてもよい。
【0015】
第1シャフト21の近傍には、円柱状または略円柱状の第2シャフト22が、モータ40の軸Xおよび第1シャフト21と平行に延びている。第2シャフト22は、図示しない軸受等を介してハウジング60に対して回転可能に支持されている。
【0016】
第2シャフト22には、モータ40に近い順(軸方向において、他方側(矢印b方向)から一方側(矢印a方向)へ向かう順)に、第5ギア15および第4ギア14が同軸に配置されている。なお、第4ギア14および第5ギア15の配置順は任意であり、モータ40に近い順に、第4ギア14および第5ギア15が配置されていてもよい。第4ギア14は、全体として略円環状のギアであり、第2ワンウェイクラッチ32を介して第2シャフト22に固定されている。第4ギア14は、第3ギア13と噛合している。第4ギア14の内周面(第2シャフト22に近い側の周面)は、第2ワンウェイクラッチ32の外周面(第2シャフト22から遠い側の周面)に固定されている。また、第2ワンウェイクラッチ32の内周面(第2シャフト22に近い側の周面)は、第2シャフト22の外周面に固定されている。
【0017】
第2ワンウェイクラッチ32は、モータ40の第1方向R1の回転を第2シャフト22に伝達し、モータ40の第2方向R2の回転を第2シャフト22に伝達しないように構成されている。モータ40が第1方向R1に回転する場合、第3ギア13は第2方向R2に回転する。すると、第3ギア13と噛合する第4ギア14は、第2方向R2とは反対方向、すなわち第1方向R1に回転する。第2ワンウェイクラッチ32は、第4ギア14の第1方向R1の回転を第2シャフト22に伝達することにより、モータ40の第1方向R1の回転を第2シャフト22に伝達する。また、第2ワンウェイクラッチ32は、第4ギア14の第2方向R2の回転を第2シャフト22に伝達しないため、モータ40の第2方向R2の回転を第2シャフト22に伝達しない。
【0018】
第5ギア15は、略円盤状のギアであり、第2シャフト22に直接固定されている。すなわち、第5ギア15の内周面(第2シャフト22に近い側の周面)は、第2シャフト22の外周面に、圧入または接着により固定されている。したがって、第5ギア15は、第2シャフト22と一体となって回転する。なお、第5ギア15と第2シャフト22は、一体の部材として形成されていてもよい。
【0019】
第2シャフト22の近傍には、円柱状または略円柱状の第3シャフト23が、モータ40の軸X、第1シャフト21および第2シャフト22と平行に延びている。第3シャフト23は、一方側の端部23aおよび他方側の端部23bを有する。第3シャフト23は、図示しない軸受等を介してハウジング60に対して回転可能に支持されている。軸方向において、第3シャフト23は、ハウジング60を貫通している。第3シャフト23の一方側の端部23aは、ハウジング60の一方側(矢印a方向)から突出している。第3シャフト23の他方側の端部23bは、ハウジング60の他方側(矢印b方向)から突出している。回転機器100が電動アシスト自転車のモータドライブユニットである場合、第3シャフト23は、クランクシャフトである。
【0020】
軸方向において、第3シャフト23の他方側の端部23b近傍には、出力軸の一部を構成する出力ギア16が配置されている。出力ギア16は、略円環状の歯車部16aと、歯車部16aと同軸に設けられた、歯車部16aから軸方向における他方側(矢印b方向)へ突出する略円筒状の突出部16bとを有する。なお、必要に応じ、突出部16bは、歯車状に形成された領域や、雄ねじ状に形成された領域を有していてもよい。出力ギア16の歯車部16aはハウジング60の内部に収容されており、出力ギア16の突出部16bは、第3シャフト23の他方側の端部23bと共に、ハウジング60を貫通して軸方向における他方側(矢印b方向)へ突出している。
【0021】
出力ギア16の歯車部16aは、第3ワンウェイクラッチ33を介して第3シャフト23に固定されている。出力ギア16は、第5ギア15と噛合している。出力ギア16の歯車部16aの内周面(第3シャフト23に近い側の周面)は、第3ワンウェイクラッチ33の外周面(第3シャフト23から遠い側の周面)に固定されている。また、第3ワンウェイクラッチ33の内周面(第3シャフト23に近い側の周面)は、第3シャフト23の外周面に固定されている。
【0022】
第3ワンウェイクラッチ33は、第3シャフト23の、出力ギア16に対する相対的な回転のうち、一方向の回転を伝達し、多方向の回転を伝達しないように構成されている。例えば回転機器100が電動アシスト自転車のモータドライブユニットである場合、ペダルを逆に踏むことでクランクシャフト(第3シャフト23)を逆回転させると、第3シャフト23が出力ギア16に対して相対的に第1方向R1に回転することとなるが、このとき、第3シャフト23の回転は出力ギア16に伝達されない。反対に、電動アシスト自転車を前進させるためにペダルを踏んでクランクシャフト(第3シャフト23)を正回転させ、第3シャフト23が出力ギア16に対して相対的に第2方向R2に回転すると、第3シャフト23の回転は出力ギア16に伝達される。出力ギア16の突出部16bには、図示しないチェーンリングが、図示しないハブ等を介して固定されており、チェーンリングに架けられたローラーチェーン等を介して後輪に駆動力が伝達される。その際、モータ40の第1方向R1の回転力が、出力ギア16の第2方向R2の回転を補助することで、ペダルを踏むのに必要な力が軽減される。
【0023】
以上記載した通り、モータ40は、第1ギア11、第2ギア12、第1ワンウェイクラッチ31、第1シャフト21、第3ギア13、第4ギア14、第2ワンウェイクラッチ32、第2シャフト22、第5ギア15、出力ギア16の順に連結し、さらにモータ40は、第3ワンウェイクラッチ33を介して第3シャフト23に連結している。したがって、モータ40は、第1ワンウェイクラッチ31を介して、出力軸の一部を構成する出力ギア16および出力軸の他の一部を構成する第3シャフト23に、直接または間接的に連結している。
【0024】
図2は、回転機器100のモータ駆動制御装置50およびモータ40の構成を示す図である。モータ駆動制御装置50は、例えば、制御回路51および駆動回路52を有する。なお、図2に示されるモータ駆動制御装置50の構成要素は、全体の一部であり、モータ駆動制御装置50は、図2に示されたものに加えて、他の構成要素を有していてもよい。
【0025】
モータ40は、例えば、3相(U相、V相、およびW相)に対応するコイルLu,Lv,Lwを有するブラシレスDCモータである。モータ40は、図示しないロータの回転角(モータの回転角)を検出するためのセンサ(センサ41u,41v,41w)を備える。センサ41u,41v,41wは、それぞれコイルLu,Lv,Lwに対応する位置に配置されている。センサ41u,41v,41wが検出できるモータ40の回転角の範囲内に、モータ40のトルクが最大値または極大値を示す回転角が存在する。
【0026】
本実施の形態において、センサ41u,41v,41wはホールICであり、ロータの回転角に応じた信号を出力する。センサ41u,41v,41wは、例えば、互いに等角度間隔(例えば、隣り合うものと120度の間隔)を空けてモータ40のロータの周囲に配置されている。センサ41u,41v,41wは、それぞれ、ロータの磁極を検出し、ロータの回転に応じて電圧が変化する信号を回転角検出信号Hu,Hv,Hwとして出力する。回転角検出信号Hu,Hv,Hwは、モータ駆動制御装置50の制御回路51に入力される。
【0027】
ここで、センサ41u,41v,41wは、例えば、モータ40のトルクが最大値または極大値を示す回転角(例えば、30°)を検出したときに、回転角検出信号Hu,Hv,Hwの少なくとも一つが切り替わる位置に配置されている。ただし、センサ41u,41v,41wの配置はこれに限られない。
【0028】
制御回路51は、例えば、CPU等のプロセッサと、RAM,ROM等の各種記憶装置と、カウンタ(タイマ)、A/D変換回路、D/A変換回路、クロック発生回路、および入出力I/F回路等の周辺回路とが、バスや専用線を介して互いに接続された構成を有するプログラム処理装置(例えばマイクロコントローラ)である。
【0029】
制御回路51は、例えば、外部から入力される、モータ40の動作の目標状態を指示する駆動指令信号Scに基づいて、モータ40を駆動させるための駆動制御信号Sdを生成し、モータ40の駆動を制御する。例えば回転機器100が電動アシスト自転車のモータドライブユニットである場合、駆動指令信号Scは、トルクセンサがペダルにかかる踏力を検知した結果として出力される信号であってもよい。制御回路51は、例えば、センサ41u,41v,41wからの回転角検出信号Hu,Hv,Hwに基づいて、モータ40のロータの回転角や回転速度等の情報を得ることでモータ40の回転状態を監視するとともに、モータ40が所定の動作状態となるように駆動制御信号Sdを生成して、駆動回路52に与える。駆動制御信号Sdは、例えば、PWM(Pulse Width Modulation)信号である。
【0030】
駆動回路52は、駆動制御信号Sdに基づきコイルLu,Lv,Lwを励磁することにより、モータ40を駆動する。駆動回路52は、例えば、各相のコイルLu,Lv,Lwを駆動するインバータ回路、駆動制御信号Sdに応じてインバータ回路を駆動するプリドライブ回路、および各相のコイルLu,Lv,Lwに流れる電流を検出する電流検出回路等を有していてもよい。
【0031】
モータ駆動制御装置50は、制御回路51の一部または全部と、駆動回路52の一部または全部とが一つの集積回路装置(IC)としてパッケージ化された構成であってもよいし、制御回路51と駆動回路52がそれぞれ個別の集積回路装置としてそれぞれパッケージ化された構成であってもよい。
【0032】
次に、モータ駆動制御装置50による、本実施の形態にかかる回転機器100の制御の流れについて説明する。図3は、モータ駆動制御装置50による制御の流れの一例を示すフローチャートである。
【0033】
まず、制御回路51は、駆動指令信号Scの入力を待機する(ステップS1)。制御回路51に駆動指令信号Scが入力されると、制御回路51は、センサ41u,41v,41wからの回転角検出信号Hu,Hv,Hwを検知する(ステップS2)。なお、駆動指令信号Scは、複数の信号として制御回路51に入力されてもよい。次に、制御回路51は、モータ40を第2方向R2に回転させる(逆回転させる)よう、駆動制御信号Sdを駆動回路52に与える。駆動回路52は、モータ40が第2方向R2に回転する(逆回転する)ような通電パターン(第1信号Sa)をモータ40に出力する(ステップS3)。
【0034】
第1信号Saは、モータ40のU相、V相、およびW相のうち、通電する相が切り替わらないような通電パターンである。すなわち、第1信号Saを入力されている間、励磁されたコイルLu,Lv,Lwによって形成される磁界は一定である。したがって、モータ40のロータは、第2方向R2に僅かに回転(逆回転)した後、ステータとしてのコイルLu,Lv,Lwとロータとの間の磁力によって停止する。前述したように、第1ワンウェイクラッチ31は、モータ40の第2方向R2の回転を第1シャフト21に伝達しないように構成されている。したがって、第1信号Saに起因するモータ40の逆回転(第2方向R2の回転)は、連結し合う第1シャフト21以降の部材(すなわち、第1シャフト21、第3ギア13、第4ギア14、第2ワンウェイクラッチ32、第2シャフト22、第5ギア15、出力ギア16、第3ワンウェイクラッチ33、および第3シャフト23)に伝達されない。
【0035】
ここで、第1信号Saを入力されたモータ40が第2方向に回転して停止するまでの回転角は、360°より小さい。第1信号Saを入力されたモータ40が第2方向に回転して停止するまでの回転角は、180°以下であってもよく、120°以下であってもよく、60°以下であってもよい。モータ40の逆回転が停止する位置は、ステータのスロット数やロータの磁極数等によって異なる。本実施の形態において、モータ40は、逆回転が停止する位置において、トルクが最大値または極大値を示すか、トルクが最大値または極大値に近い値を示すように構成されている。
【0036】
続いて、制御回路51は、センサ41u,41v,41wからの回転角検出信号Hu,Hv,Hwを参照し、ロータが所定の回転角(本実施の形態においては、モータ40のトルクが最大値または極大値を示す回転角か、最大値または極大値に近い値を示す回転角)となったか否かを判定する(ステップS4)。ロータが所定の回転角となったことは、例えば、回転角検出信号Hu,Hv,Hwの少なくとも一つが切り替わったことで判定することができる。ロータが所定の回転角となっていない場合、ロータが所定の回転角となったこと(ロータ位置が移動したこと)が確認できるまで、ステップS3およびS4を繰り返す。
【0037】
ロータが所定の回転角となったことを確認後、制御回路51は、モータ40を第1方向R1に回転させる(正回転させる)よう、駆動制御信号Sdを駆動回路52に与える。駆動回路52は、モータ40が第1方向R1に回転する(正回転する)ような通電パターン(第2信号Sb)をモータ40に出力する(ステップS5)。
【0038】
制御回路51は、センサ41u,41v,41wからの回転角検出信号Hu,Hv,Hwを参照し、モータ40が第1方向R1の回転を開始したか否かを判定する(ステップS6)。モータ40が第1方向R1の回転を開始していない場合、モータ40が第1方向R1の回転を開始したことが確認できるまで、ステップS5およびS6を繰り返す。
【0039】
モータ40が第1方向R1の回転を開始したことを確認した後、モータ駆動制御装置50は、駆動指令信号Scおよびセンサ41u,41v,41wからの回転角検出信号Hu,Hv,Hwに応じて第2信号Sbの出力を続け、モータ40の第1方向R1への回転を継続させる(ステップS7)。
【0040】
本実施の形態にかかる回転機器100のモータ40は、3つのホールIC(センサ41u,41v,41w)を備えている。このように3つのホールICを備えたモータにおいて、ロータの回転角の検出における分解能は、典型的には60°である。これは、ホールICの出力信号の切り替わりが60°毎に発生し、当該切り替わりを検知することでロータの回転を検知するためである。したがって、ホールICの出力信号の切り替わりのタイミングにおいて、ロータの回転角(電気角)とセンサ41u,41v,41wにより検出されたロータの回転角が一致するように各ホールICを配置すると、センサ41u,41v,41wにより検出されたロータの回転角と、実際のモータ40におけるロータの回転角との間には、0°~60°の誤差が生じる。以下、このような各ホールICの配置を配置Bと称する。
【0041】
図4は、センサ41u,41v,41wにより検出されるロータの回転角が一定となる範囲内(回転角検出信号Hu,Hv,Hwが一定である範囲内)における、実際のモータ40のロータの回転角と、モータのトルク(最大トルクに対する割合)との関係の例を示すプロットである。図4から分かるように、配置Bの場合、ロータの回転により、モータのトルクが、例えば約50%~100%の間で大きく変動する。このようなモータのトルクの変動はトルクリップルの原因となる。トルクリップルを低減させるための手段としては、3つのホールICを、配置Bから30°ずらして配置することが知られている。以下、このような各ホールICの配置を配置Aと称する。配置Aの場合、センサ41u,41v,41wにより検出されたロータの回転角と、実際のモータ40におけるロータの回転角との間の誤差は、-30°~30°の範囲内となる。図4から分かるように、配置Aの場合、トルクの変動は例えば約87%~100%の範囲内に収まり、配置Bの場合と比較して大幅に抑制される。
【0042】
しかしながら、配置Aの場合であっても、ロータの回転角によってモータのトルクが例えば最大約13%低下する。したがって、例えばモータが電動アシスト自転車のモータドライブユニットに用いられている場合、ロータの回転角によっては、高負荷のかかる始動時(例えば、漕ぎ出し時)に所定のトルクを出力するために回路に過剰な電流が流れ、過電流保護機能の働きによりトルクが不足する事態や、過剰な電流により制御応答性が低下し、急激なトルク変動が生じる事態が発生することによる、電動アシスト自転車の乗り心地の低下が懸念される。
【0043】
一方で、本実施の形態にかかる回転機器100においては、モータ40は、始動時、正回転である第1方向R1の回転を開始する前に、一旦、逆回転である第2方向R2の回転を行う。これにより、ロータの回転角を、モータ40のトルクが最大値もしくは極大値(またはそれらに近い値)を示す回転角まで移動させることができる。その際、第1ワンウェイクラッチ31の働きにより、モータ40を逆回転させる際の負荷は最小限に抑えられ、また、モータ40の逆回転が第3シャフト23(クランクシャフト)に影響することもない。したがって、本実施の形態にかかる回転機器100によれば、高負荷始動時におけるトルクを、他へ与える影響を最小限としつつ改善することができる。
【0044】
本実施の形態にかかる回転機器100においては、第1信号Saを入力されたモータ40が第2方向R2に回転する際の回転角が、360°より小さい。したがって、逆回転に要する時間を低減でき、例えば回転機器100が電動アシスト自転車のモータドライブユニットの一部である場合においても、漕ぎ出し時のタイムラグに起因する違和感を運転者に抱かせないことができる。なお、第1信号Saを入力されたモータ40が第2方向に回転して停止するまでの回転角は、モータ40の構成(例えば、ステータのスロット数やロータの磁極数等)によって、180°以下とすることもでき、120°以下とすることもでき、60°以下とすることもできる。第1信号Saを入力されたモータ40が第2方向に回転して停止するまでの回転角が小さいほど、逆回転に要する時間を少なくすることができる。
【0045】
以上、本発明の回転機器について、好ましい実施の形態を挙げて説明したが、本発明の回転機器は上記実施の形態の構成に限定されるものではない。例えば、上記実施の形態において、回転機器100は、第1ギア11、第2ギア12、第3ギア13、第4ギア14、第5ギア15、および出力ギア16の6つのギアを備えているが、本発明の回転機器において、ギアの数は制限されず、1つであってもよく、2つであってもよく、3つであってもよく、4つであってもよく、5つであってもよく、7つ以上であってもよい。
【0046】
上記実施の形態において、回転機器100は、第1シャフト21、第2シャフト22、および第3シャフト23の3つのシャフトを備えているが、本発明の回転機器において、シャフトの数は制限されず、1つであってもよく、2つであってもよく、4つ以上であってもよい。
【0047】
上記実施の形態において、回転機器100は、第1ワンウェイクラッチ31、第2ワンウェイクラッチ32、および第3ワンウェイクラッチ33の3つのワンウェイクラッチを備えているが、本発明の回転機器において、ワンウェイクラッチの数は制限されず、1つであってもよく、2つであってもよく、4つ以上であってもよい。また、本発明の回転機器において、ワンウェイクラッチは、ギアの内周面に固定されていなくてもよい。
【0048】
上記実施の形態において、モータ40の回転方向が第1方向R1である場合を正回転、モータ40の回転方向が第2方向R2である場合を逆回転としたが、用途に応じて、モータ40の回転方向が第1方向R1である場合を逆回転、モータ40の回転方向が第2方向R2である場合を正回転としてもよい。
【0049】
図1において、モータ駆動制御装置50はハウジング60の内部に収容されているが、本発明の回転機器において、モータ駆動制御装置は一部または全部がハウジングの外部に配置されていてもよい。また、本発明の回転機器は、ハウジングを備えていなくてもよい。
【0050】
上記実施の形態において、モータ40は、3つのホールIC(センサ41u,41v,41w)を備えているが、ホールICの数は3つに制限されない。また、各ホールICは、互いに等角度間隔を空けて配置されていなくてもよい。本発明の回転機器はホールICでないセンサを備えていてもよい。本発明の回転機器は、センサを備えていなくてもよい。
【0051】
本発明の回転機器がセンサとして複数のホールICを備える場合、各ホールICは、ホールICの出力信号の切り替わりのタイミングにおいて、ロータの回転角がセンサにより検出されたロータの回転角と一致するように配置されていてもよく、ロータの回転角が30°(または-30°)となるタイミングと一致するように配置されていてもよく、ロータの回転角がその他の角度となるタイミングと一致するように配置されていてもよい。ステップS4における、ロータが所定の回転角となったことの判定の方法は、センサの有無や配置に応じ、任意の方法に変更してもよい。
【0052】
上記実施の形態において、回転機器100は、電動アシスト自転車のモータドライブユニットに用いられることを想定して記載されているが、本発明の回転機器は、その他の用途に用いられるものであってもよい。
【0053】
図5に、上記実施の形態の変形例としての回転機器200を示す。以下、便宜上、回転機器200の各構成要素について、回転機器100の対応する各構成要素と同一の名称および符号を用いて説明する。構成要素の名称における「第1」や「第3」等の記載は、回転機器100の構成要素との対応関係を明確にするためのものであり、必ずしも回転機器200の構成要素が特定の個数存在することを示すものではない。
【0054】
回転機器200は、出力軸の一部を構成する出力ギア16と、出力軸の他の一部を構成する第3シャフト23と、第1ワンウェイクラッチ31と、第3ワンウェイクラッチ33と、モータ40と、制御装置としてのモータ駆動制御装置50と、ハウジング60と、を備える。モータ40は、円筒状のシャフトSを備える。第3シャフト23は、モータ40のシャフトSの内側に配置されている。シャフトSと第3シャフト23とは、延び方向の周りに互いに相対的に回転可能となっている。ハウジング60の外部において、出力ギア16には、チェーンリング70が固定されている。なお、上記実施の形態と重複する説明は省略する。
【0055】
変形例における回転機器200では、第1ワンウェイクラッチ31または第3ワンウェイクラッチ33を介して、出力軸を構成する第3シャフト23にモータ40が連結している。具体的には、ハウジング60の内部において、出力ギア16は、第1ワンウェイクラッチ31を介して、モータ40のシャフトSに固定されている。出力ギア16の内周面(モータ40のシャフトSに近い側の周面)は、第1ワンウェイクラッチ31の外周面(モータ40のシャフトSから遠い側の周面)に固定されている。また、第1ワンウェイクラッチ31の内周面(モータ40のシャフトSに近い側の周面)は、モータ40のシャフトSの外周面に固定されている。
【0056】
ハウジング60の内部において、出力ギア16は、第3ワンウェイクラッチ33を介して第3シャフト23に固定されている。出力ギア16の内周面(第3シャフト23に近い側の周面)は、第3ワンウェイクラッチ33の外周面(第3シャフト23から遠い側の周面)に固定されている。また、第3ワンウェイクラッチ33の内周面(第3シャフト23に近い側の周面)は、第3シャフト23の外周面に固定されている。以上のように、本発明の回転機器は、ワンウェイクラッチを介して、出力軸にモータが直接連結している構成であっても構わない。
【0057】
その他、当業者は、従来公知の知見に従い、本発明の回転機器を適宜改変し、また各種構成の形状、寸法および組み合わせを変更することができる。かかる変更によってもなお本発明の構成を具備する限り、勿論、本発明の範疇に含まれるものである。
【符号の説明】
【0058】
12…ギア(第2ギア)、16…出力ギア(出力軸)、23…シャフト(第3シャフト(出力軸))、31…ワンウェイクラッチ(第1ワンウェイクラッチ)、40…モータ、41u,41v,41w…センサ、50…制御装置(モータ駆動制御装置)、100…回転機器、R1…第1方向、R2…第2方向、Sa…第1信号、Sb…第2信号。
図1
図2
図3
図4
図5