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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114508
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】ステンレス鋼材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 8/14 20060101AFI20240816BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20240816BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20240816BHJP
   C21D 1/76 20060101ALI20240816BHJP
   C23C 8/18 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
C23C8/14
C22C38/00 302Z
C22C38/60
C21D1/76 G
C23C8/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020315
(22)【出願日】2023-02-13
(71)【出願人】
【識別番号】503378420
【氏名又は名称】日鉄ステンレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】田井 善一
(72)【発明者】
【氏名】若村 麻衣
(57)【要約】
【課題】Cr含有量を低減させても、耐食性及び黒色の意匠性が良好なステンレス鋼材を提供する。
【解決手段】素材と、素材上に形成された酸化皮膜とを有するステンレス鋼材である。素材は、質量基準で、C:0.100%以下、Si:1.00%以下、Mn:0.05~0.70%、Ni:1.00%以下、P:0.100%以下、S:0.100%以下、Cr:8.00%以上16.00%未満、N:0.100%以下、Ti:0.08~0.50%、Cu:1.00%以下及びMo:2.00%以下を含み、残部がFe及び不純物からなる組成を有する。酸化皮膜は、厚みが50nm以上のCr23内層を有し、全体厚みが300~1000nm、異常酸化面積率が1.0%以下、L***表色系における明度指数L*が50.0以下、クロマネチックス指数a*及びb*が±5.00以内である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
素材と、前記素材上に形成された酸化皮膜とを有するステンレス鋼材であって、
前記素材は、質量基準で、C:0.100%以下、Si:1.00%以下、Mn:0.05~0.70%、Ni:1.00%以下、P:0.100%以下、S:0.100%以下、Cr:8.00%以上16.00%未満、N:0.100%以下、Ti:0.08~0.50%、Cu:1.00%以下及びMo:2.00%以下を含み、残部がFe及び不純物からなる組成を有し、
前記酸化皮膜は、厚みが50nm以上のCr23内層を有し、全体厚みが300~1000nm、異常酸化面積率が1.0%以下、L***表色系における明度指数L*が50.0以下、クロマネチックス指数a*及びb*が±5.00以内であるステンレス鋼材。
【請求項2】
前記素材は、質量基準で、Nb:0.50%以下、Al:1.00%以下、Zr:1.00%以下、Co:1.00%以下、V:1.00%以下、W:1.00%以下、REM:0.100%以下、Ca:0.100%以下、Sn:0.100%以下及びB:0.0100%以下から選択される少なくとも1種を更に含む、請求項1に記載のステンレス鋼材。
【請求項3】
前記酸化皮膜は、Mn-Cr酸化物層を最表層に有し、前記Mn-Cr酸化物層の厚みが290nm以上である、請求項1又は2に記載のステンレス鋼材。
【請求項4】
質量基準で、C:0.100%以下、Si:1.00%以下、Mn:0.05~0.70%、Ni:1.00%以下、P:0.100%以下、S:0.100%以下、Cr:8.00%以上16.00%未満、N:0.100%以下、Ti:0.08~0.50%、Cu:1.00%以下及びMo:2.00%以下を含み、残部がFe及び不純物からなる組成を有し、ビッカース硬さが200HV以上、酸化皮膜のFe濃度が0.6質量%未満である冷延材に対し、O2濃度が2~25体積%、水蒸気濃度が5体積%以下であり、且つ以下の式(1):
2濃度+2×水蒸気濃度 ・・・(1)
で表される値が10~30である雰囲気下、800~1050℃の温度で10分以上の熱処理を行うステンレス鋼材の製造方法。
【請求項5】
前記冷延材は、質量基準で、Nb:0.50%以下、Al:1.00%以下、Zr:1.00%以下、Co:1.00%以下、V:1.00%以下、W:1.00%以下、REM:0.100%以下、Ca:0.100%以下、Sn:0.100%以下及びB:0.0100%以下から選択される少なくとも1種を更に含む、請求項4に記載のステンレス鋼材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステンレス鋼材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼材は、耐食性に優れた素材であり、光沢のある銀白色の地肌を活かし、内装建材、外装建材、排気系部品などの各種部品に用いられている。また、ステンレス鋼材の意匠性を高める目的で、化学発色法、塗装法、酸化処理法などの方法を用いて、黒色を代表とする色調が付与されることも多い。
【0003】
例えば、特許文献1及び2に記載されているような酸化処理法によってステンレス鋼(素材)表面に酸化皮膜を形成する手法は、ステンレス鋼の汎用的な製造工程である連続焼鈍設備を用いた連続的な処理が可能であり、化学発色法など他の処理に比べて高い生産性を有する。また、この酸化処理法によって形成した酸化皮膜は保護性のあるCr酸化物が主となる層が形成されるため耐食性が良好である。
しかしながら、特許文献1及び2に記載されているような酸化処理法によって形成された酸化皮膜には、部分的な点状の異常酸化部が不可避的に生成する。この異常酸化部は、腐食起点となって耐食性を低下させるとともに、黒色の意匠性を損なう恐れもある。
【0004】
また、特許文献3~6においても、ステンレス鋼素材の組成及び酸化処理時の条件などを制御することにより、耐食性が良好な黒色の酸化皮膜を形成する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-178392号公報
【特許文献2】特開2018-135591号公報
【特許文献3】特開2022-103735号公報
【特許文献4】特開2022-103732号公報
【特許文献5】特開2022-103733号公報
【特許文献6】特開2022-103734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献3~6に記載のステンレス鋼材はいずれも、Cr含有量が16質量%以上と高いため、低廉化を妨げる原因の1つとなっている。そのため、Cr含有量が少ない組成系で耐食性及び黒色の意匠性が良好なステンレス鋼材の開発が求められている。
黒色の意匠性を与えるCr酸化物を主体とする酸化皮膜は、一般に数百nmと厚いため、高温下で酸化処理を行わなければ所望の特性を有する酸化皮膜を形成できない。実際、低温下で酸化処理を行うと、酸化皮膜の形成に比べてステンレス鋼素材中の元素の拡散速度が遅くなってしまう。その結果、ステンレス鋼素材の表層がCr欠乏状態となり、Cr酸化物を主体とする酸化皮膜中にFe酸化物が局所的に形成されてしまう。
【0007】
しかしながら、Cr含有量が少ない組成系では、高温下で、Cr酸化物を主体とする酸化皮膜を均一に形成することが難しく、酸化皮膜中にFe酸化物が局所的に形成され易い。このFe酸化物の色調は褐色であり、酸化皮膜中にFe酸化物が局所的に存在すると、黒色の意匠性が確保できない。また、酸化皮膜中のFe酸化物は耐食性に乏しく、Fe酸化物が腐食起点となって耐食性を低下させる。
【0008】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、Cr含有量を低減させても、耐食性及び黒色の意匠性が良好なステンレス鋼材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、Cr含有量が8.00%以上16.00%未満である所定の組成系の冷延材に対し、特定の条件で熱処理を行うことにより、耐食性及び黒色の意匠性が良好なステンレス鋼材が得られることを見出した。また、本発明者らは、得られたステンレス鋼材について分析を行った結果、Cr含有量が8.00%以上16.00%未満である所定の組成系の素材(素地)の表面に、所定の特徴を有する酸化皮膜が形成されていることを見出した。本発明は、このような背景の下、完成するに至ったものである。
【0010】
すなわち、本発明は、素材と、前記素材上に形成された酸化皮膜とを有するステンレス鋼材であって、
前記素材は、質量基準で、C:0.100%以下、Si:1.00%以下、Mn:0.05~0.70%、Ni:1.00%以下、P:0.100%以下、S:0.100%以下、Cr:8.00%以上16.00%未満、N:0.100%以下、Ti:0.08~0.50%、Cu:1.00%以下及びMo:2.00%以下を含み、残部がFe及び不純物からなる組成を有し、
前記酸化皮膜は、厚みが50nm以上のCr23内層を有し、全体厚みが300~1000nm、異常酸化面積率が1.0%以下、L***表色系における明度指数L*が50.0以下、クロマネチックス指数a*及びb*が±5.00以内であるステンレス鋼材である。
【0011】
また、本発明は、質量基準で、C:0.100%以下、Si:1.00%以下、Mn:0.05~0.70%、Ni:1.00%以下、P:0.100%以下、S:0.100%以下、Cr:8.00%以上16.00%未満、N:0.100%以下、Ti:0.08~0.50%、Cu:1.00%以下及びMo:2.00%以下を含み、残部がFe及び不純物からなる組成を有し、ビッカース硬さが200HV以上、酸化皮膜のFe濃度が0.6質量%未満である冷延材に対し、O2濃度が2~25体積%、水蒸気濃度が5体積%以下であり、且つ以下の式(1):
2濃度+2×水蒸気濃度 ・・・(1)
で表される値が10~30である雰囲気下、800~1050℃の温度で10分以上の熱処理を行うステンレス鋼材の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、Cr含有量を低減させても、耐食性及び黒色の意匠性が良好なステンレス鋼材及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施形態に対し変更、改良などが適宜加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
なお、本明細書において成分に関する「%」表示は、特に断らない限り「質量%」を意味する。
【0014】
<ステンレス鋼材>
本発明の実施形態に係るステンレス鋼材は、素材と、素材上に形成された酸化皮膜とを有する。
ここで、本明細書において「ステンレス鋼材」とは、ステンレス鋼から形成された材料のことを意味し、その材形は特に限定されない。材形の例としては、板状(帯状を含む)、棒状、管状などが挙げられる。また、断面形状がT形、I形などの各種形鋼であってもよい。
【0015】
素材は、C:0.100%以下、Si:1.00%以下、Mn:0.05~0.70%、Ni:1.00%以下、P:0.100%以下、S:0.100%以下、Cr:8.00%以上16.00%未満、N:0.100%以下、Ti:0.08~0.50%、Cu:1.00%以下及びMo:2.00%以下を含み、残部がFe及び不純物からなる組成を有する。
ここで、本明細書において「不純物」とは、ステンレス鋼材を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップなどの原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。例えば、不純物には、不可避的不純物も含まれる。不純物としては、例えばOが挙げられる。
なお、各元素の含有量に関して、「xx%以下」を含むとは、xx%以下であるが、0%超(特に、不純物レベル超)の量を含むことを意味する。
【0016】
素材は、必要に応じて、Nb:0.50%以下、Al:1.00%以下、Zr:1.00%以下、Co:1.00%以下、V:1.00%以下、W:1.00%以下、REM:0.100%以下、Ca:0.100%以下、Sn:0.100%以下及びB:0.0100%以下から選択される少なくとも1種を更に含むことができる。
以下、各成分について詳細に説明する。
【0017】
(C:0.100%以下)
Cは、ステンレス鋼材の耐粒界腐食性(鋭敏化抑制作用)や加工性などの特性に影響を与える元素である。ただし、Cの含有量が多すぎると、ステンレス鋼材の加工性及び耐粒界腐食性が低下してしまう。そのため、Cの含有量の上限値は、0.100%、好ましくは0.080%、より好ましくは0.060%である。一方、Cの含有量の下限値は、特に限定されないが、Cの含有量を過剰に少なくすることは精練コストの上昇につながる。そのため、Cの含有量の下限値は、好ましくは0.0001%、より好ましくは0.0003%である。
【0018】
(Si:1.00%以下)
Siは、ステンレス鋼材の耐酸化性を向上させる元素である。ただし、Siの含有量が多すぎると、加工性及び溶接部靭性が低下する。そのため、Siの含有量の上限値は、1.00%、好ましくは0.90%、より好ましくは0.80%である。一方、Siの含有量の下限値は、特に限定されないが、Siによる効果を得る観点から、好ましくは0.005%、より好ましくは0.01%、更に好ましくは0.015%である。
【0019】
(Mn:0.05~0.70%)
Mnは、酸化皮膜(熱処理後の黒色化皮膜)の色調を担保するのに有効な元素である。特に、MnはCrとの複合酸化物を形成することで、黒色の色調を与える。ただし、Mnの含有量が多すぎると、腐食起点となるMnSを生成し易くなるとともに、フェライト相を不安定化させる。そのため、Mnの含有量の上限値は、0.70%、好ましくは0.60%、より好ましくは0.50%である。一方、Mnの含有量が少なすぎると、上記の効果が十分に得られないことがある。そのため、Mnの含有量の下限値は0.05%、好ましくは0.055%、より好ましくは0.06%である。
【0020】
(Ni:1.00%以下)
Niは、ステンレス鋼材の耐食性及び溶接部靭性を向上させるのに有効な元素である。ただし、Niの含有量が多すぎると、フェライト相が不安定化するとともに、製造コストも上昇する。そのため、Niの含有量の上限値は、1.00%、好ましくは0.90%、より好ましくは0.80%である。一方、Niの含有量の下限値は、特に限定されないが、上記の効果を得る観点から、好ましくは0.005%、より好ましくは0.01%である。
【0021】
(P:0.100%以下)
Pは、ステンレス鋼材の溶接性や加工性などの特性に影響を与える元素である。Pの含有量が多すぎると、上記の特性が低下する恐れがある。そのため、Pの含有量の上限値は、0.100%、好ましくは0.080%、より好ましくは0.060%である。一方、Pの含有量の下限値は、特に限定されないが、Pの含有量を過剰に少なくすることは精練コストの上昇につながる。そのため、Pの含有量の下限値は、好ましくは0.001%、より好ましくは0.005%である。
【0022】
(S:0.100%以下)
Sは、腐食起点となるMnSを生成し、ステンレス鋼材の溶接部靭性などの特性に影響を与える元素である。Sの含有量が多すぎると、上記の特性が低下する恐れがある。そのため、Sの含有量の上限値は、0.100%、好ましくは0.080%、より好ましくは0.060%である。一方、Sの含有量の下限値は、特に限定されないが、Sの含有量を過剰に少なくすることは精練コストの上昇につながる。そのため、Sの含有量の下限値は、好ましくは0.0001%、より好ましくは0.0002%である。
【0023】
(Cr:8.00%以上16.00%未満)
Crは、ステンレス鋼材の耐食性及び耐酸化性を向上させるのに有効な元素である。また、Crは、酸化皮膜(熱処理後の黒色化皮膜)の色調を担保するのに有効な元素でもある。ただし、Crの含有量が多すぎると、低廉化が妨げられる。そのため、Crの含有量は、16.00%未満、好ましくは15.80%以下、より好ましくは15.50%以下である。一方、Crの含有量が少なすぎると、上記の効果が十分に得られない。そのため、Crの含有量の下限値は、8.00%、好ましくは8.25%、より好ましくは8.50%である。
【0024】
(N:0.100%以下)
Nは、ステンレス鋼材の耐粒界腐食性(鋭敏化抑制作用)や加工性などの特性に影響を与える元素である。ただし、Nの含有量が多すぎると、ステンレス鋼材の耐粒界腐食性や加工性が低下する。また、Nの含有量が多くなると、TiNが析出し易くなって鋼中の固溶Ti量が減少し、熱処理後に黒色化皮膜の形成が阻害される。また、形成された窒化物は、腐食の起点になり易く、耐食性を低下させる。そのため、Nの含有量の上限値は、0.100%、好ましくは0.095%、より好ましくは0.090%である。一方、Nの含有量の下限値は、特に限定されないが、Nの含有量を過剰に少なくすることは精練コストの上昇につながる。そのため、Nの含有量の下限値は、好ましくは0.001%、より好ましくは0.003%である。
【0025】
(Ti:0.08~0.50%)
Tiは、ステンレス鋼材の耐粒界腐食性(鋭敏化抑制作用)に影響を与える元素である。また、Tiは、酸化皮膜(熱処理後の黒色化皮膜)の色調を担保するのに有効な元素でもある。特に、TiはCrとの複合酸化物を形成することで、黒色の色調を与えるとともに、表面にTi酸化物(TiO2)を形成することで酸化皮膜の剥離を抑制することもできる。ただし、Tiの含有量が多すぎると、ステンレス鋼材の加工性及び表面品質が低下する。そのため、Tiの含有量の上限値は、0.50%、好ましくは0.45%、より好ましくは0.40%である。また、Tiの含有量が少なすぎると、上記の効果が十分に得られない。そのため、Tiの含有量の下限値は、0.08%、好ましくは0.085%、より好ましくは0.09%である。
【0026】
(Cu:1.00%以下)
Cuは、ステンレス鋼材の耐食性を向上させるのに有効な元素である。ただし、Cuの含有量が多すぎると、フェライト相が不安定化するとともに、製造コストも上昇する。そのため、Cuの含有量の上限値は、1.00%、好ましくは0.90%、より好ましくは0.80%である。一方、Cuの含有量の下限値は、特に限定されないが、好ましくは0.005%、より好ましくは0.01%である。
【0027】
(Mo:2.00%以下)
Moは、ステンレス鋼材の耐食性及び耐酸化性を向上させるのに有効な元素である。ただし、Moの含有量が多すぎると、ステンレス鋼材の加工性の低下及び製造コストの上昇を招く。そのため、Moの含有量の上限値は、2.00%、好ましくは1.95%、より好ましくは1.90%である。一方、Moの含有量の下限値は、特に限定されないが、好ましくは0.001%、より好ましくは0.005%である。
【0028】
(Nb:0.50%以下)
Nbはステンレス鋼材の耐粒界腐食性(鋭敏化抑制作用)などの特性に影響を与える元素である。ただし、Nbの含有量が多すぎると、ステンレス鋼材の加工性及び靭性が低下する。そのため、Nbの含有量の上限値は、0.50%、好ましくは0.45%、より好ましくは0.40%である。一方、Nbの含有量の下限値は、特に限定されないが、好ましくは0.005%、より好ましくは0.01%である。
【0029】
(Al:1.00%以下、Zr:1.00%以下、Co:1.00%以下、V:1.00%以下、W:1.00%以下)
Al、Zr、Co、V及びWは、ステンレス鋼材の耐酸化性を向上させるのに有効な元素である。ただし、Al、Zr、Co、V及びWの含有量が多すぎると、ステンレス鋼材の加工性及び靭性が低下するとともに、製造コストの上昇につながる。そのため、Al、Zr、Co、V及びWの含有量の上限値はいずれも、1.00%、好ましくは0.95%、より好ましくは0.90%である。一方、Al、Zr、Co、V及びWの含有量の下限値はいずれも、特に限定されないが、好ましくは0.0001%、より好ましくは0.0005%である。
【0030】
(REM:0.100%以下、Ca:0.100%以下)
REM及びCaは、ステンレス鋼材の耐酸化性を向上させるのに有効な元素である。ただし、REM及びCaの含有量が多すぎると、ステンレス鋼材の製造コストの上昇につながる。そのため、REM及びCaの含有量の上限値はいずれも、0.100%、好ましくは0.090%、より好ましくは0.080%である。一方、REM及びCaの含有量の下限値はいずれも、特に限定されないが、好ましくは0.0001%、より好ましくは0.0003%である。
なお、REMは、Sc、Y及びランタノイドの合計17元素の総称であり、希土類金属を意味する。具体的には、La、Ce、Ndなどが挙げられ、これらのうち1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて含有させることができる。含有される希土類元素が2種以上である場合、上記REMの含有量は、これら希土類元素の総含有量を意味する。
【0031】
(Sn:0.100%以下)
Snは、ステンレス鋼材の耐食性を向上させるのに有効な元素である。ただし、Snの含有量が多すぎると、Snが偏析し、製造性が低下する。そのため、Snの含有量の上限値は、0.100%、好ましくは0.090%、より好ましくは0.080%である。一方、Snの含有量の下限値は、特に限定されないが、好ましくは0.001%、より好ましくは0.002%である。
【0032】
(B:0.0100%以下)
Bは、ステンレス鋼材の二次加工性を向上させるのに有効な元素である。ただし、Bの含有量が多すぎると、ステンレス鋼材の疲労強度が低下する。そのため、Bの含有量の上限値は、0.0100%、好ましくは0.0090%、より好ましくは0.0080%である。一方、Bの含有量の下限値は、特に限定されないが、好ましくは0.0001%、より好ましくは0.0003%である。
【0033】
なお、素材の金属組織はフェライト系である。ここで、本明細書において「フェライト系」とは、常温で金属組織が主にフェライト相であるものを意味する。
【0034】
次に、素材上に形成された酸化皮膜について説明する。
酸化皮膜は、ステンレス鋼材に耐食性及び黒色の色調を付与する機能を有する。
酸化皮膜は、Cr23内層を有する。また、酸化皮膜は、Mn-Cr酸化物層を最表層に有することができる。
【0035】
Cr23内層は、酸化皮膜の素材側の層であり、酸化皮膜のバリア性(素材の保護能)を担保する機能を有する。この機能を確保する観点から、Cr23内層の厚みの下限値は、50nm、好ましくは60nm、より好ましくは70nmである。一方、Cr23内層の厚みの上限値は、特に限定されないが、好ましくは900nm、より好ましくは800nmである。
【0036】
Mn-Cr酸化物層は、酸化皮膜の表層側の層である。Mn-Cr酸化物層はMn及びCrの複合酸化物(Mn-Crスピネル酸化物)から構成される層であり、酸化皮膜に黒色の色調を付与する機能を有する。
Mn-Cr酸化物層の厚みは、特に限定されないが、好ましくは290nm以上、より好ましくは300nm以上である。このような範囲にMn-Cr酸化物層の厚みを制御することにより、酸化皮膜に黒色の色調を安定して付与することができる。Mn-Cr酸化物層の厚みの上限値は、好ましくは950nm、より好ましくは900nmである。
【0037】
酸化皮膜の全体厚みは、色調に影響を与える。所望の黒色の色調を付与する観点から、全体厚みの下限値は、300nm、好ましくは310nm、より好ましくは320nmである。一方、全体厚みが大きくなると、ステンレス鋼材の加工時に酸化皮膜の割れや剥離が生じ易くなる。そのため、全体厚みの上限値は、1000nm、好ましくは950nm、より好ましくは900nmである。
【0038】
ここで、本明細書において、酸化皮膜の全体厚みは、グロー放電発光分光分析法(GD-OES)を用いて得られた深さ方向の成分濃度プロファイルにおいて表面からO(酸素)が最大値の1/4となる位置までの深さとした。また、Cr23内層の厚みは、酸化皮膜中で、Cr濃度/(Fe濃度+Cr濃度+Mn濃度+Ti濃度)×100が70%以上の範囲となる部分とした。各元素の濃度は、グロー放電発光分光分析法(GD-OES)によって求めることができる。
なお、Mn-Cr酸化物層の厚みは、酸化皮膜の全体厚みからCr23内層の厚みを引くことにより算出することができる。
【0039】
酸化皮膜は、異常酸化面積率が1.0%以下、好ましくは0.8%以下、より好ましくは0.5%以下である。この範囲の異常酸化面積率であれば、腐食起点となって耐食性を低下させるとともに、黒色の意匠性を損なう異常酸化部(Fe酸化物)の生成が少ないということができる。
ここで、本明細書において、酸化皮膜の異常酸化面積率は、酸化皮膜の表面をデジタルマイクロスコープで観察し、黒色の酸化皮膜と異常酸化部とを二値化処理して分離し、観察面全体に占める異常酸化部の面積率を算出することによって求めることができる。
【0040】
酸化皮膜は、L***表色系における明度指数L*が50.0以下、クロマネチックス指数a*及びb*が±5.00以内である。明度指数L*、クロマネチックス指数a*及びb*が上記範囲内であれば、所望の黒色の色調が得られているということができる。
ここで、本明細書において「明度指数L*」及び「クロマネチックス指数a*及びb*」は、JIS Z8722:2009に準拠して測定することができる。
【0041】
本発明の実施形態に係るステンレス鋼材は、Cr含有量が少ないにも関わらず、上記のような特徴を有する酸化皮膜を有するため、耐食性及び黒色の意匠性が良好である。したがって、本発明の実施形態に係るステンレス鋼材は、これらの特性が要求される各種用途で用いることができる。具体的には、本発明の実施形態に係るステンレス鋼材は、マフラーなどの排気系部品、外装・内装建材パネルなどに用いるのに適している。
【0042】
<ステンレス鋼材の製造方法>
本発明の実施形態に係るステンレス鋼材の製造方法は、上記の特徴を有するステンレス鋼材を製造可能な方法であれば特に限定されない。
本発明の実施形態に係るステンレス鋼材は、上記の組成を有する所定の冷延材を素材として用い、この冷延材を所定の条件で熱処理することによって製造することができる。
【0043】
冷延材としては、冷間圧延したままの状態の冷延材だけでなく、冷間圧延後に焼鈍を行った冷延焼鈍材、冷延焼鈍材に研磨処理を施した冷延焼鈍研磨材を用いることができる。冷延材は、所定の組成を有するステンレス鋼を溶製し、熱間圧延、焼鈍及び酸洗を行った後、冷間圧延すること(又は、必要に応じて冷間圧延後に焼鈍及び研磨処理を行うこと)によって製造することができる。
【0044】
冷延材は、ビッカース硬さが200HV以上、好ましくは210HV以上、より好ましくは220HV以上である。このような範囲のビッカース硬さを有する冷延材であれば、歪が付与されているため、素材中のCrの拡散速度が速くなり、素材の表層がCr欠乏状態になり難くなる。その結果、酸化皮膜中に異常酸化部(Fe酸化物)が形成され難くなる。なお、冷延材のビッカース硬さの上限値は、特に限定されないが、一般的に500HVである。
冷延材のビッカース硬さは、JIS Z2244:2009に準拠して求めることができる。
【0045】
冷延材は、酸化皮膜のFe濃度が0.6質量%未満、好ましくは0.5質量%未満である。このような範囲のFe濃度の酸化皮膜を有する冷延材であれば、冷延材を熱処理する際に酸化皮膜中に異常酸化部(Fe酸化物)が形成され難くなる。なお、冷延材の酸化皮膜のFe濃度の下限は、低いほど異常酸化部が形成され難くなるため、特に限定されない。
冷延材の酸化皮膜のFe濃度は、グロー放電発光分光分析法(GD-OES)を用いて測定することができる。具体的には、GD-OESで得られた深さ方向の成分濃度プロファイルにおいて表面からO(酸素)が最大値となる位置のFe濃度/(Fe濃度+Cr濃度+Mn濃度+Ti濃度)×100を酸化皮膜のFe濃度とする。
【0046】
冷延材の熱処理は、O2濃度が2~25体積%、水蒸気濃度が5体積%以下であり、且つ以下の式(1)で表される値が10~30である雰囲気下、800~1050℃の温度で10分以上行われる。
2濃度+2×水蒸気濃度 ・・・(1)
このような条件で熱処理を行うことにより、異常酸化部(Fe酸化物)の形成を抑制しつつ、黒色の酸化皮膜を形成することができる。
2濃度が25体積%を超えると、酸化皮膜中のMn及びFeの酸化物の量が増大し易くなり、異常酸化部の形成を十分に抑制することができない。一方、O2濃度が2体積%未満であると、所定の厚みの酸化皮膜を形成し難くなる。O2濃度は、所望の特性及び厚みを有する酸化皮膜を安定して形成する観点から、好ましくは3~23体積%、より好ましくは5~20体積%である。
水蒸気濃度が5体積%を超えると、水蒸気酸化によって異常酸化部が形成され易くなる。水蒸気濃度は、異常酸化部の形成を安定して抑制する観点から、好ましくは4体積%以下、より好ましくは3体積%以下である。
式(1)で表される値が10~30の範囲外であると、酸化速度が適切に制御できなくなり、所望の特性及び厚みを有する酸化皮膜が形成し難くなる。式(1)で表される値は、酸化速度を安定して制御する観点から、好ましくは12~28、より好ましくは13~25である。
【0047】
熱処理の温度が800℃未満及び時間が10分未満であると、酸化皮膜が十分に成長せず、所望の厚みの酸化皮膜を形成することができない。また、熱処理の温度が1050℃を超えると、異常酸化部が形成され易くなる。
熱処理の温度は、所望の特性及び厚みを有する酸化皮膜を安定して形成する観点から、好ましくは850~1030℃、より好ましくは900~1000℃である。
また、熱処理の時間は、所望の特性及び厚みを有する酸化皮膜を安定して形成する観点から、好ましくは50分~3000分、より好ましくは80分~2000分である。
【実施例0048】
以下に、実施例を挙げて本発明の内容を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定して解釈されるものではない。
【0049】
表1に示す組成(残部はFe及び不純物である)を有するステンレス鋼を溶製し、熱間圧延して厚み3.0mmの熱延板を得た後、熱延板を1050℃で焼鈍して酸洗することによって熱延焼鈍板を得た。次に、熱延焼鈍板を冷間圧延して厚み1.0mmの冷延板を得た。また、一部の冷延板については、1050℃で焼鈍して酸洗して冷延焼鈍板とした。さらに、一部の冷延焼鈍板については研磨処理を施して冷延焼鈍研磨板とした。研磨処理としては、グラインダーによる乾式研磨処理を施した冷延焼鈍研磨板A、水冷しながらSi研磨紙で湿式研磨処理を施した冷延焼鈍研磨板Bを準備した。
上記で得られた冷延板、冷延焼鈍板、冷延焼鈍研磨板A又はBについて、ビッカース硬さ及び酸化皮膜のFe濃度を次のようにして測定した。
【0050】
(ビッカース硬さ)
冷延板、冷延焼鈍板、冷延焼鈍研磨板A又はBから10mm角の測定用試験片を切り出した後、ビッカース硬さ試験機を用い、JIS Z2244:2009に準拠して表面のビッカース硬さを求めた。このとき荷重は、0.01kgとした。ビッカース硬さは、任意の5箇所で求め、その平均値を結果とした。
【0051】
(酸化皮膜のFe濃度)
冷延板、冷延焼鈍板、冷延焼鈍研磨板A又はBから50mm角の測定用試験片を切り出し、表面をアセトンで脱脂させた。次に、JIS K0144:2018に準拠するグロー放電発光分光分析法(GD-OES)を用いて酸化皮膜の分析を行った。
GD-OESでは、得られた深さ方向の成分濃度プロファイルにおいて表面からO(酸素)が最大値となる位置のFe濃度/(Fe濃度+Cr濃度+Mn濃度+Ti濃度)×100を酸化皮膜のFe濃度とした。
【0052】
次に、上記で作製した冷延板、冷延焼鈍板、冷延焼鈍研磨板A又はBに対し、表2に示す条件で熱処理を行ってステンレス鋼板を得た。熱処理において、雰囲気炉内でO2ガス、N2ガス及び水蒸気の導入比を調整することで所定のO2濃度及び水蒸気濃度に制御した。得られたステンレス鋼板から300mm(圧延方向)×100mm(幅方向)の試験片を切り出した。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
上記の試験片について、以下の評価を行った。
【0056】
(酸化皮膜の全体厚み、Cr23内層の厚み及びMn-Cr酸化物層の厚み)
試験片から50mm角の測定用試験片を切り出し、表面をアセトンで脱脂させた。次に、JIS K0144:2018に準拠するグロー放電発光分光分析法(GD-OES)による分析を行った。
GD-OESでは、得られた深さ方向の成分濃度プロファイルにおいて表面からO(酸素)が最大値の1/4となる位置までの深さを酸化皮膜の全体厚みとした。また、酸化皮膜中で、Cr濃度/(Fe濃度+Cr濃度+Mn濃度+Ti濃度)×100が70%以上の範囲となる部分をCr23内層の厚みとした。また、酸化皮膜の全体厚みからCr23内層の厚みを引いた値をMn-Cr酸化物層の厚みとした。各元素の濃度は、GD-OESによって得られた深さ方向の成分濃度プロファイルから算出した。
【0057】
(異常酸化面積率)
試験片の表面の任意の5箇所について、デジタルマイクロスコープで5mm角の範囲を倍率200倍で観察した。そして、それぞれの箇所において、異常酸化部と黒色の酸化皮膜とを二値化処理で白黒に分離し、観察面全体に占める異常酸化部の面積率を画像解析によって求めた。異常酸化面積率は5箇所の平均値とした。
【0058】
(色調)
試験片の任意の5箇所について、測定径3mmφの分光測色計を用いてJIS Z8722:2009に準拠した色調測定を行い、平均値をJIS Z8781-4:2013に準拠するCIELAB(L***表色系)である明度指数L*、クロマネチックス指数a*、b*で示した。
【0059】
上記の色調の測定条件は、以下の通りとした。
装置:コニカミノルタ 分光測色計 CM-700d
光源:パルスキセノンランプ
受光素子:デュアル36素子シリコンフォトダイオードアレイ
ターゲットマスク:φ3mm
測定:10°視野
補助イルミナント:D65 昼光、色温度6504K
正反射処理モード:SCI
【0060】
(耐食性:CCT試験)
試験片から幅50mm×長さ100mmの測定用試験片を切り出した。次に、この測定用試験片を用いて複合サイクル(CCT)試験によって耐食性を評価した。CCT試験は、次のようにして行った。
まず、測定用試験片の3つの側面(幅方向の側面1つを除く)を樹脂(信越化学工業株式会社製の一液縮合型RTVゴムKE44)で被覆した。次に、70mm×150mmのベークライト板の上に20mmφ×10mmのポリエチレン製チューブ2個を接着し、その上に測定用試験片の樹脂で被覆されていない側面と反対側の面を配置して接着した。次に、このようにして得られたサンプルを、測定用試験片の表面が水平面に対して75°、且つ測定用試験片の樹脂で被覆されていない側面が下部となるようにしてCCT装置に配置し、5%塩水噴霧(35℃、2時間)、乾燥(60℃、25%RH、4時間)、湿潤(50℃、95%RH、2時間)を1サイクルとして3サイクル行った。その後、サンプルを水洗及び乾燥し、測定用試験片の表面における発銹面積率を評価した(JIS Z2371:2015に準拠)。この評価において、レイティングナンバ(R.N.)が9.5以上(発銹面積率が0.05%以下に相当)であったものを○(耐食性が良好)、R.N.が9.5未満であったものを×(耐食性が劣る)と表す。
上記の結果を表3に示す。
【0061】
【表3】
【0062】
表3に示されるように、実施例1~5のステンレス鋼板は、素材が所定の組成を満たし、酸化皮膜のCr23内層の厚み、全体厚み、異常酸化面積率、明度指数L*及びクロマネチックス指数a*及びb*が所定の範囲にあるため、耐食性及び黒色の意匠性が良好であった。
【0063】
これに対して比較例1のステンレス鋼板は、熱処理時の雰囲気が適切でない(O2濃度及び式(1)の値が高すぎた)ため、異常酸化面積率が高くなり、耐食性が低下した。
比較例2のステンレス鋼板も、熱処理時の雰囲気が適切でない(水蒸気濃度及び式(1)の値が高すぎた)ため、異常酸化面積率が高くなり、耐食性が低下した。
比較例3のステンレス鋼板も、熱処理時の雰囲気が適切でない(O2濃度及び式(1)の値が低すぎた)ため、Mn-Cr酸化物層の厚みが小さくなり、黒色の意匠性及び耐食性が低下した。
比較例4のステンレス鋼板は、熱処理時の温度が低すぎたため、異常酸化面積率が高くなり、Mn-Cr酸化物層の厚みも十分でなかった結果、黒色の意匠性及び耐食性が低下した。
比較例5のステンレス鋼板は、熱処理時の温度が高すぎたため、Cr23内層の厚みが小さくなり、異常酸化面積率が高くなった結果、耐食性が低下した。
【0064】
比較例6のステンレス鋼板は、熱処理に用いた素材の硬さが低すぎたため、異常酸化面積率が高くなり、耐食性が低下した。
比較例7のステンレス鋼板は、熱処理に用いた素材の酸化皮膜のFe濃度が高すぎたため、異常酸化面積率が高くなり、耐食性が低下した。
比較例8のステンレス鋼板は、熱処理に用いた素材のMn含有量が高すぎたため、異常酸化面積率が高くなり、耐食性が低下した。
比較例9のステンレス鋼板は、熱処理に用いた素材のMn含有量が低すぎたため、Mn-Cr酸化物層の厚みが小さくなり、黒色の意匠性及び耐食性が低下した。
比較例10のステンレス鋼板は、素材のCr含有量が低すぎたため、異常酸化面積率が高くなり、耐食性が低下した。
【0065】
以上の結果からわかるように、本発明によれば、Cr含有量を低減させても、耐食性及び黒色の意匠性が良好なステンレス鋼材及びその製造方法を提供することができる。