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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114514
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】耐電圧試験装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/58 20200101AFI20240816BHJP
   G01R 31/12 20200101ALI20240816BHJP
【FI】
G01R31/58
G01R31/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020326
(22)【出願日】2023-02-13
(71)【出願人】
【識別番号】000108797
【氏名又は名称】エスペック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100137143
【弁理士】
【氏名又は名称】玉串 幸久
(72)【発明者】
【氏名】徳永 裕太
【テーマコード(参考)】
2G014
2G015
【Fターム(参考)】
2G014AA15
2G014AB38
2G015AA01
2G015BA03
(57)【要約】
【課題】供試体に高電圧を印加させる導電体に施された絶縁体の劣化を検知する。
【解決手段】耐電圧試験装置10は、電源部14と供試体Sとを電気的に接続し、電源部14による供試体Sへの電圧印加を可能にする配線導電体27aと、絶縁体からなり、導電体27aを覆うように配置された配線絶縁部27bと、配線絶縁部27bを覆うように配置された配線シールド27cと、配線シールド27cでの電流を監視する電流監視部51と、を備えている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源部と供試体とを電気的に接続し、前記電源部による前記供試体への電圧印加を可能にする導電体と、
絶縁体からなり、前記導電体を覆うように配置された絶縁部と、
前記絶縁部の少なくとも一部を覆うように配置されたシールドと、
前記シールドでの電流を監視する電流監視部と、
を備えている、耐電圧試験装置。
【請求項2】
前記電流監視部は、前記シールドに流れる電流値を計測可能な電流計で構成され、
前記シールドでの電流値が、前記絶縁部の絶縁劣化に伴う電流値であるかどうかを判断するための基準値が記憶されている記憶部を備えている、請求項1に記載の耐電圧試験装置。
【請求項3】
前記供試体を保持する保持部と、
絶縁体からなり、前記保持部と前記供試体との間に配置された第二絶縁部と、を備え、
前記電流監視部は、前記保持部での電流を監視可能である、請求項1に記載の耐電圧試験装置。
【請求項4】
前記絶縁部は、複数の絶縁部分を含み、
前記シールドは、前記複数の絶縁部分に対応するように複数のシールド部分を含み、
前記電流監視部は、前記複数のシールド部分ごとに電流監視が可能に構成されている、請求項1に記載の耐電圧試験装置。
【請求項5】
前記供試体を収容可能な試験室を有するチャンバーを備え、
前記導電体は、前記チャンバーに設けられたケーブル孔に挿通される挿通部を含み、
前記絶縁部は、前記ケーブル孔を塞ぐように配置されるととともに前記挿通部を挿通させる構成であるケーブル孔部を含み、
前記シールドは、前記ケーブル孔部を覆うように配置されたケーブル孔シールドを含み、
前記電流監視部は、前記ケーブル孔シールドでの電流を監視するように構成されている、請求項1に記載の耐電圧試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐電圧試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、下記特許文献1に開示されているように、電気製品、電気部品、半導体部品等において、使用電圧に対して十分な絶縁耐力があるかどうか、すなわち絶縁破壊をしないかどうかを確認する、あるいは、絶縁抵抗を測定するための耐電圧試験装置が知られている。耐電圧試験装置は、高電圧(例えば1kV以上の高電圧)を発生する電源部と、電源部と供試体を互いに接続する配線と、を有し、供試体に高電圧を印加できるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭48-084275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
耐電圧試験装置においては、供試体に接続された配線等の導電体に高電圧が印加されるため、導電体の被覆(絶縁体)が劣化する恐れがある。配線等の導電体の被覆(絶縁体)に絶縁劣化が生じると、耐圧試験の計測値に影響を及ぼすため、絶縁体の劣化を検知できることが望まれる。
【0005】
そこで、本発明は、前記従来技術を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、供試体に高電圧を印加させる導電体に施された絶縁体の劣化を検知できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の目的を達成するため、本発明は、電源部と供試体とを電気的に接続し、前記電源部による前記供試体への電圧印加を可能にする導電体と、絶縁体からなり、前記導電体を覆うように配置された絶縁部と、前記絶縁部の少なくとも一部を覆うように配置されたシールドと、前記シールドでの電流を監視する電流監視部と、を備えている、耐電圧試験装置。
【0007】
本発明に係る耐電圧試験装置では、電流監視部により、導電体を覆う絶縁部の絶縁劣化に伴って生ずるシールドでの電流を監視することができる。これにより、絶縁部の絶縁劣化の有無を判断することができる。なお、電流監視部による電流の監視としては、電流値を計測する装置による電流の計測、電流の有無を検知する装置による電流の検知、所定値以上の電流を検知する装置による所定値以上の電流の検知等が該当する。
【0008】
前記電流監視部は、前記シールドに流れる電流値を計測可能な電流計で構成されてもよい。この場合、前記耐電圧試験装置は、前記シールドでの電流値が、前記絶縁部の絶縁劣化に伴う電流値であるかどうかを判断するための基準値が記憶されている記憶部を備えていてもよい。
【0009】
この態様では、電流計によって計測された電流値を、記憶部に記憶された基準値と比較することによって、絶縁部の絶縁劣化を把握できる。なお、基準値は、絶縁部が絶縁破壊していない状態で検出される電流(例えば、外来ノイズによって生ずる電流)の値よりも十分に大きい値に設定されているのが好ましい。この場合、絶縁部の絶縁破壊とは無関係に電流が生じている場合において、誤って絶縁破壊が生じたと判断してしまうことを回避できる。
【0010】
前記耐電圧試験装置は、前記供試体を保持する保持部と、絶縁体からなり、前記保持部と前記供試体との間に配置された第二絶縁部と、を備えてもよい。この場合、前記電流監視部は、前記保持部での電流を監視可能であってもよい。
【0011】
この態様では、電流監視部によって保持部での電流を監視することにより、第二絶縁部の絶縁劣化の有無を判断することができる。したがって、第二絶縁体の絶縁劣化に伴って供試体の保持部に電流が流れてしまう状態を検知できる。また、保持部での電流を監視することにより、供試体と保持部とが誤って短絡した状態になっていることも検知できる。
【0012】
前記絶縁部は、複数の絶縁部分を含み、前記シールドは、前記複数の絶縁部分に対応するように複数のシールド部分を含んでもよい。この場合、前記電流監視部は、前記複数のシールド部分ごとに電流監視が可能に構成されていてもよい。
【0013】
この態様では、複数の絶縁部分がある場合に、どの絶縁部分において絶縁破壊が生じたかを把握できる。なお、この場合、電流監視部は、複数のシールド部分に電気的に接続された1つの電流検知器を有するとともに、この電流検知器に各シールド部分を選択的に接続するように切り替え手段が設けられてもよい。あるいは、電流監視部は、各シールド部分に対応するように設けられた複数の電流検知器を有してもよい。
【0014】
前記耐電圧試験装置は、前記供試体を収容可能な試験室を有するチャンバーを備えてもよい。この場合、前記導電体は、前記チャンバーに設けられたケーブル孔に挿通される挿通部を含み、前記絶縁部は、前記ケーブル孔を塞ぐように配置されるととともに前記挿通部を挿通させる構成であるケーブル孔部を含み、前記シールドは、前記ケーブル孔部を覆うように配置されたケーブル孔シールドを含んでもよい。この場合、前記電流監視部は、前記ケーブル孔シールドでの電流を監視するように構成されていてもよい。
【0015】
この態様では、絶縁部のケーブル孔部によってチャンバーのケーブル孔を塞ぐことができる一方で、電流監視部によってケーブル孔部の絶縁劣化を判断できるため、導電体をチャンバーのケーブル孔に挿通させる構成において、ケーブル孔部の絶縁劣化時にケーブル孔内で導電体が放電してしまうことを抑止できる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明によれば、供試体に高電圧を印加させる導電体に施された絶縁体の劣化を検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施形態に係る耐電圧試験装置を側方から見た状態で示す断面図である。
図2】前記耐電圧試験装置を前方から見た図である。
図3】前記耐電圧試験装置に設けられた電気回路を示す図である。
図4】チャンバーの背面壁に設けられる第1ケーブル孔部を説明するための図である。
図5】電源部が直流電圧を発生させる場合の電気回路を示す図である。
図6】チャンバー内配線がシールドケーブルで構成される場合の電気回路を示す図である。
図7】電流監視部が、1つの電流検知器を有する構成である場合の電気回路を示す図である。
図8】絶縁劣化を判定するための基準値が記憶されている記憶部を備える場合の電気回路を示す図である。
図9】供試体を保持するラックが設けられる場合のチャンバーを概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0019】
本実施形態に係る耐電圧試験装置は、電気部品等の供試体に高電圧を印加して、供試体が絶縁破壊しないかどうかを確認するための試験装置である。すなわち、供試体には絶縁部が含まれており、この絶縁部の耐電圧性を評価するために耐電圧試験装置が用いられる。
【0020】
図1及び図2に示すように、耐電圧試験装置10は、供試体Sが配置される試験室TRを有するチャンバー12と、試験室TR内に配置された供試体Sに印加する電圧を発生させる電源部14と、を備えている。チャンバー12は、前面が開口した試験室TRを形成する槽本体12aと、試験室TRの前面開口を開閉する扉体12bと、槽本体12aに隣接する機械室16と、を有する。
【0021】
チャンバー12は、試験室TRを有するものであれば、どのようなタイプのチャンバー12でもよいが、本実施形態では、試験室TR内を例えば100℃以上の温度環境やマイナスの温度環境に設定可能なチャンバーによって構成されている。試験室TR内の温度を設定するには、機械室16の前面に設けられた操作部16aで試験温度を設定することができる。
【0022】
電源部14は、例えば10kV以上の直流電圧及び交流電圧の少なくとも一方を発生させるように構成されている。なお、本実施形態では、電源部14は交流電圧を発生させるものであるとして説明を続ける。
【0023】
図3にも示すように、電源部14の一方の接続端には、第1導電材21が接続され、この第1導電材21の他端は、供試体Sの一方の端子を接続可能となっている。電源部14の他方の接続端には、第2導電材22が接続される。この第2導電材22の他端は、供試体Sの他方の端子を接続可能となっている。これにより、電源部14の発生する電圧を供試体Sの両端子間に印加する電気回路23が形成される。なお、図3の例では、電源部14の他方の接続端に接続された第2導電材22が接地された構成となっているが、第1導電材21及び第2導電材22の一方の導電材が接地された構成であればよい。
【0024】
供試体Sは、一方の端子と他方の端子との間を絶縁する絶縁部を含んでいるため、供試体Sの絶縁部が正常に機能している場合には、電源部14を起動した場合でも、電気回路23に電流は流れない。一方で、供試体Sが絶縁破壊すると電気回路23に電流が流れることになる。第2導電材22には、供試体Sの絶縁破壊に伴う電流の有無を把握するための電流計24が設けられている。なお、電流計24は、接地された第2導電材22ではなく第1導電材21に設けられていてもよい。
【0025】
第1導電材21は、試験室TRの外側から内側に亘って設けられている。すなわち、第1導電材21には、試験室TRの外側に配置されるとともに電源部14の一方の接続端に接続される外部配線(第1外部配線27)と、試験室TRの内側に配置されるとともに供試体Sを接続可能なチャンバー内配線(第1チャンバー内配線28)と、後述の第1ケーブル孔25内に設けられるとともに第1外部配線27及び第1チャンバー内配線28を相互に接続する挿通部(第1挿通部29)と、が含まれる。
【0026】
第2導電材22は、試験室TRの外側から内側に亘って設けられている。すなわち、第2導電材22には、試験室TRの外側に配置されるとともに電源部14の他方の接続端に接続される外部配線(第2外部配線37)と、試験室TRの内側に配置されるとともに供試体Sを接続可能なチャンバー内配線(第2チャンバー内配線38)と、後述のケーブル孔26内に設けられるとともに第2外部配線37及び第2チャンバー内配線38を相互に接続する挿通部(第2挿通部39)と、が含まれる。
【0027】
第1外部配線27及び第2外部配線37は何れも、シールドケーブルで構成されている。すなわち、第1外部配線27及び第2外部配線37はそれぞれ、電源部14の接続端に電気的に接続される配線導電体27a,37aと、配線導電体27a,37aを覆うように配置された絶縁体からなる絶縁部である配線絶縁部27b,37bと、配線絶縁部27b,37bを覆うように配置されたシールドである配線シールド27c,37cと、を含む。配線シールド27c,37cは、銅、アルミニウム等の金属の編組ストランド、スパイラル状の銅テープ、または導電性ポリマー層等で構成されている。なお、配線シールド27c,37cには、シースが被されていてもよい。
【0028】
チャンバー12がファラデーゲージを構成しているため、第1チャンバー内配線28及び第2チャンバー内配線38は何れも、シールドケーブルではなく、シールドを有しない非シールドケーブルで構成されている。このため、第1チャンバー内配線28及び第2チャンバー内配線38については、配線導電体28a,38aと配線絶縁部(図示省略)を有する一方で、配線シールドが省略されている。なお、第1チャンバー内配線28及び第2チャンバー内配線38は、シールドケーブルで構成されてもよい。すなわち、チャンバー内配線は、外部配線と同様に、配線導電体と配線絶縁部と配線シールドとを含んでもよい。
【0029】
第1挿通部29は、例えば導電性の棒状の部材で構成されている。図4に示すように、第1挿通部29の外端部にはコネクタ29aが設けられており、このコネクタ29aには、第1外部配線27の先端に設けられた図略のコネクタを接続できるように構成されている。また、第1挿通部29の内端部にもコネクタ29bが設けられており、このコネクタ29bには、第1チャンバー内配線28の先端に設けられた図略のコネクタを接続できるように構成されている。
【0030】
第2挿通部39も第1挿通部29と同様に構成されている。したがって、第2挿通部39には、第2外部配線37及び第2チャンバー内配線38をコネクタ接続可能となっている。
【0031】
図1に示すように、第1導電材21の第1挿通部29を挿通させる第1ケーブル孔25は、槽本体12aの背面壁12cに設けられ、第2導電材22の第2挿通部39を挿通させるための第2ケーブル孔26は、槽本体12aの側面壁12dに設けられている。第1ケーブル孔25には、絶縁体からなる絶縁部であるケーブル孔部(第1ケーブル孔部32)が設けられ、第2ケーブル孔26にも、絶縁体からなる絶縁部であるケーブル孔部(第2ケーブル孔部34)が設けられている。
【0032】
第1ケーブル孔部32及び第2ケーブル孔部34は、テフロン(登録商標)、エンジニアリングプラスチック、シリコン系材料等の耐熱性のある絶縁性の素材で構成されている。このため、第1挿通部29及びコネクタからの気中放電を含む放電を回避できるとともに、第2挿通部39及びコネクタからの内面への気中放電を含む放電を回避できる。
【0033】
第1ケーブル孔部32は、第1ケーブル孔25の形状に対応した断面を有しており、図1及び図2の例では、円柱状に形成されている。第1ケーブル孔部32の軸方向の長さは、背面壁12cの厚みよりも長くなっている。このため、第1ケーブル孔部32は、背面壁12cの内面よりも内側に突出するとともに、背面壁12cの外面よりも外側に突出するように配置されている。なお、第1ケーブル孔部32は、背面壁12cから突出する大きさに限られるものではなく、例えば、背面壁12cの内面及び外面に面一の状態になる大きさに形成されていてもよい。
【0034】
図4に示すように、第1ケーブル孔部32の周囲には、アルミテープ等からなるケーブル孔シールド(第1ケーブル孔シールド42)が巻き付けられ、この第1ケーブル孔シールド42の外側には、絶縁性を有し且つ耐熱性のある被覆(第1被覆43)が施されている。第1ケーブル孔25の内周面には、背面壁12cの厚み方向の一部が内側に出っ張るように凹凸が形成されていることがあるが、第1ケーブル孔部32の周囲が第1ケーブル孔シールド42で覆われることにより、第1導電材21に高電圧が印加されるときに生ずる電界が、凹凸の影響を受けてしまうことを防止できる。第1ケーブル孔シールド42は、結束バンド42aによって第1ケーブル孔部32の周面に固定され、また第1被覆43は、耐熱バンド43aによって第1ケーブル孔シールド42の外面に固定されている。
【0035】
第2ケーブル孔26に設けられた第2ケーブル孔部34は、第1ケーブル孔25に設けられた第1ケーブル孔部32と同じ構成であり、この第2ケーブル孔部34にも、アルミテープ等からなるケーブル孔シールドである第2ケーブル孔シールド45が巻き付けられ、この第2ケーブル孔シールドの外側には、絶縁性を有し且つ耐熱性のある被覆である第2被覆(図示省略)が施されている。なお、図3では、第1被覆43、第2被覆を便宜上、省略している。
【0036】
上述したように、電源部14の一方の接続端に接続される第1導電材21は、第1外部配線27の配線導電体27aと、第1挿通部29と、第1チャンバー内配線28の配線導電体28aと、を導電体として含んでいる。この導電体は、第1外部配線27においては絶縁部分である配線絶縁部27bによって覆われ、また、第1挿通部29においては絶縁部分である第1ケーブル孔部32によって覆われ、また、第1チャンバー内配線28においては絶縁部分である配線絶縁部(図示省略)によって覆われている。すなわち、絶縁部は、複数の絶縁部分を含んでいる。また、第1外部配線27の配線絶縁部27bは、第1外部配線27におけるシールド部分である配線シールド27cによって覆われ、第1ケーブル孔部32は、当該第1ケーブル孔部32のシールド部分である第1ケーブル孔シールド42によって覆われている。すなわち、シールドは、複数のシールド部分を含んでいる。なお、第1チャンバー内配線28がシールドケーブルで構成される場合には、第1チャンバー内配線28においても、配線絶縁部を覆う配線シールドが設けられる。
【0037】
なお、第1導電材21及び第2導電材22は、外部配線、チャンバー内配線及び導電部材が互いに接続された構成に限られるものではなく、試験室TRの外側から内側に亘って連続した配線で構成されてもよい。すなわち、第1導電材21及び第2導電材22は、試験室TRの外側から内側に亘って連続するように配線されたシールドケーブルによって構成されてもよい。この場合、第1導電材21及び第2導電材22は、その全体に亘って、配線導電体、配線絶縁部及び配線シールドを有することとなる。
【0038】
耐電圧試験装置10は、複数の供試体Sを同時に試験可能に構成されている。このため、第1導電材21は、電源部14に接続される一方で、途中部分で複数の個別配線に分岐している。第1挿通部29及び第1チャンバー内配線28は、この個別配線に含まれる。また、第2導電材22は、電源部14に接続される一方で、途中部分で複数の個別配線に分岐している。第2挿通部39及び第2チャンバー内配線38は、この個別配線に含まれる。なお、耐電圧試験装置10は、1つの供試体Sのみを試験するものであってもよく、この場合には、第1導電材21は、途中で分岐することなく電源部14と1つの供試体Sとを接続する構成となり、また、第2導電材22は、途中で分岐することなく電源部14と1つの供試体Sとを接続する構成となる。
【0039】
図1図3に示すように、試験室TR内には、供試体Sを保持するための保持部である棚板48が設けられており、この棚板48は、少なくとも一部分が金属導体で構成されるが、この金属導体部分はチャンバー12に対して絶縁されている。供試体Sは、この棚板48の上に配置された絶縁部材49(図2)の上に載置される。すなわち、絶縁部材49は、絶縁体からなり、保持部と供試体Sとの間に配置された第二絶縁部の一例である。なお、供試体Sは、絶縁材からなる箱の中に貯溜された絶縁性の液中に浸されてもよい。
【0040】
棚板48の上には、第1チャンバー内配線28を所定位置に保持するための槽内配線治具50が設けられている。槽内配線治具50は、絶縁材で構成されている。槽内配線治具50は、第1チャンバー内配線28の一部を埋め込むことにより、第1チャンバー内配線28を位置決めできるように構成されている。
【0041】
図3に示すように、耐電圧試験装置10は、配線シールド27c,37c、第1ケーブル孔シールド42、第2ケーブル孔シールド45、棚板48での電流を監視する電流監視部51を備えている。電流監視部51は、配線シールド27c,37c等に電流が流れていないかを検知するために設けられるものであり、配線シールド27c,37c等を第1導電材21又は第2導電材22(電気回路23)に電気的に接続する配線に配置されている。この配線において所定値以上の電流が検知されると、高電圧の配線導電体27a,37a等から配線シールド27c,37c等に電流が流れていることになるため、配線絶縁部27b,37b等の絶縁劣化が生じている可能性がある。したがって、電流監視部51を設けることによって、配線絶縁部27b,37b等の絶縁部の絶縁劣化を検知できるようにしている。
【0042】
また、電流監視部51は、配線絶縁部27b,37b等の絶縁劣化によって配線シールド27c,37c等に流れる電流を検知するものであって、供試体Sの絶縁部が絶縁破壊したときに配線導電体27a,37aに流れる電流を検知するものではない。このため、耐電圧試験装置10では、供試体Sの絶縁部が絶縁破壊したことによって生ずる電流とは別個に電流を検知するため、配線絶縁部27b,37b等の絶縁劣化を容易に検出できる。
【0043】
電流監視部51には、第1導電材21の配線シールド27cでの電流を検出するための第1電流検知器51aと、第2導電材22の配線シールド37cでの電流を検出するための第2電流検知器51bと、第1ケーブル孔シールド42での電流を検出するための第1ケーブル孔電流検知器51cと、第2ケーブル孔シールド45での電流を検出するための第2ケーブル孔電流検知器51dと、棚板48での電流を検出するための保持部電流検知器51eと、が含まれる。
【0044】
第1電流検知器51aは、第1導電材21の第1外部配線27における配線シールド27cと第2導電材22の配線導電体37aとを電気的に接続する配線に配置される。第2電流検知器51bは、第2導電材22の第2外部配線37における配線シールド37cと第2導電材22の配線導電体37aとを電気的に接続する配線に配置される。第1ケーブル孔電流検知器51cは、第1ケーブル孔シールド42と第2導電材22の配線導電体37aとを電気的に接続する配線に配置される。第2ケーブル孔電流検知器51dは、第2ケーブル孔シールド45と第2導電材22の配線導電体37aとを電気的に接続する配線に配置される。保持部電流検知器51eは、棚板48と第2導電材22の配線導電体37aとを電気的に接続する配線に配置される。すなわち、第1導電材21のシールド部分27c、42、第2導電材22のシールド部分37c、45は、接地された第2導電材22の配線導電体37aと電気的に接続される。なお、図3のように第2導電材22が接地されている場合、第2導電材22のシールド部分37c、45での電流を検知する第2電流検知器51b、第2ケーブル孔電流検知器51dは省略可能である。
【0045】
本実施形態に係る耐電圧試験装置10を用いて、供試体Sの耐電圧試験を行うには以下の順序で試験準備及び試験を行うことができる。
【0046】
まず、供試体Sを試験室TR内の所定位置に配置するとともに、供試体Sを電源部14と電気的に接続する。すなわち、第1導電材21の第1外部配線27を電源部14の一方の接続端に接続するとともに、第1導電材21の第1チャンバー内配線28を供試体Sの一方の端子に接続する。また、第2導電材22の第2外部配線37を電源部14の他方の接続端に接続するとともに、第2導電材22の第2チャンバー内配線38を供試体Sの他方の端子に接続する。
【0047】
続いて、チャンバー12を起動して、試験室TRを所定の温度環境に調整する。試験室TRが所定の温度環境に調整されると、電源部14を起動し、供試体Sに所定電圧を印加する。このとき、試験目的に応じて、所定時間だけ電圧を印加したり、供試体Sが絶縁破壊するまで電圧を印加したりする。電圧の印加中には、電流監視部51により、所定値以上の電流が検知されないかを確認する。そして、試験終了の条件が満たされると、試験を終える。電圧の印加中に、電流監視部51において所定値以上の電流が検知されると、電圧の印加を停止する。すなわち、電流監視部51において所定値以上の電流が検知された場合には、該当する絶縁部分が絶縁劣化していることとなるため、該当する絶縁部分を交換し、再度電圧の印加を開始する。
【0048】
以上説明したように、本実施形態では、電流監視部51により、導電体27a,29,37a,39を覆う絶縁部分27b,32,37b,34の絶縁劣化に伴って生ずるシールド部分27c,42,37c,45での電流を監視できるため、絶縁部分27b,32,37b,34の絶縁劣化の有無を判断することができる。このため、絶縁部分27b,32,37b,34が絶縁劣化した状態で電流計24での計測を行ってしまうことを防止できるため、絶縁耐圧試験を確実に行うことができる。なお、電流監視部51による電流の監視としては、電流値を計測する装置による電流の計測、電流の有無を検知する装置による電流の検知、所定値以上の電流を検知する装置による所定値以上の電流の検知等が該当する。
【0049】
また本実施形態では、保持部電流検知器51eにより、供試体Sの保持部である棚板48での電流を監視することができる。これにより、第二絶縁部である絶縁部材49の絶縁劣化の有無を判断することができる。したがって、供試体Sを保持する棚板48に電流が流れてしまう状態を検知できる。また、棚板48での電流を監視することにより、供試体S又はチャンバー内配線28,38が誤って棚板48と短絡した状態、あるいはチャンバー内配線28,38に設けられた供試体Sの接続部から棚板48に放電する状態になっていることも検知できる。
【0050】
また本実施形態では、電流監視部51に含まれる複数の電流検知器51a~51dにより、複数のシールド部分27c,42,37c,45ごとに電流監視が可能となっている。このため、どの絶縁部分27b,32,37b,34において絶縁劣化が生じたかを把握できる。
【0051】
また本実施形態では、ケーブル孔部32,34によってチャンバー12のケーブル孔25,26を塞ぐことができる一方で、ケーブル孔電流検知器51c,51dによってケーブル孔部32,34の絶縁劣化を判断できる。このため、導電体である第1挿通部29及び第2挿通部39をチャンバー12のケーブル孔25,26に挿通させる構成において、ケーブル孔部32,34の絶縁劣化時にケーブル孔25,26内で第1挿通部29及び第2挿通部39が放電してしまうことを抑止できる。
【0052】
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明は、前記実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変更、改良等が可能である。例えば、図5に示すように、電源部14が直流電圧を発生させる構成であってもよい。この場合には、第2導電材22は、シールドケーブルでなくてもよい。この場合、第2導電材22の個別配線を挿通させる第2ケーブル孔26には、絶縁体からなる第2ケーブル孔部34及び第2ケーブル孔シールド45に代えて、第2ケーブル孔26を塞ぐための栓部材53が設けられる。栓部材53には第2導電材22の個別配線を挿通させる貫通孔が形成されている。この場合には、第2電流検知器51b及び第2ケーブル孔電流検知器51dが省略されることとなる。なお、栓部材53は、チャンバー12を介して接地される。
【0053】
電源部14が直流電圧を発生させる構成である場合、背面壁12cのケーブル孔25に印加側導電体となる第1導電材21が挿通され、側面壁12dのケーブル孔26に非印加側導電体となる第2導電材22が挿通されることとなる。なお、背面壁12cのケーブル孔25と側面壁12dのケーブル孔26とは、この逆の使い方をしてもよい。逆の使い方をしてもよい点は、電源部14が交流電圧を発生させる場合も同様である。
【0054】
また、電源部14が直流電圧を発生させる構成である場合には、電源部14が中間接地される構成であっても、電源部14における負極の接続端が接地される構成であってもよい。
【0055】
前記実施形態では、供試体Sがチャンバー12の試験室TR内に配置されて、所定の温度環境等の中で耐電圧試験が行われるように構成されているが、これに限られるものではなく、チャンバー12を省略してもよい。つまり、所定の温度環境等に調整することなく、耐電圧試験を行うものであってもよい。
【0056】
前記実施形態では、第1チャンバー内配線28及び第2チャンバー内配線38が非シールドケーブルで構成されているが、これに代えて、シールドケーブルで構成されてもよい。すなわち、第1チャンバー内配線28及び第2チャンバー内配線38は配線シールド28c,38cを備えた構成であってもよい。この場合には、図6に示すように、第1チャンバー内配線28及び第2チャンバー内配線38における配線シールド28c,38cでの電流を検出するための電流検知器51f,51gが設けられてもよい。すなわち、第1導電材21及び第2導電材22において、外部配線27,37を覆うシールド部分27c,37cでの電流を検知する電流検知器51a,51bに加え、チャンバー内配線28,38を覆うシールド部分28c,38cでの電流を検知する電流検知器51f,51gが設けられてもよい。なお、図6では、第2導電材22が接地されているため、第2チャンバー内配線38における配線シールド38cでの電流を検出するための電流検知器51gは省略されてもよい。第1導電材21が接地される場合には、第1チャンバー内配線28における配線シールド28cでの電流を検出するための電流検知器51fが省略されてもよい。
【0057】
前記実施形態では、電流監視部51が、複数のシールド部分27c,37c,42,45にそれぞれ対応して配置される電流検知器51a~51dを含んでいるが、これに限られない。例えば図7に示すように、電流監視部51が、1つの電流検知器51hを有するとともに、複数のシールド部分27c,37c,42,45のどのシールド部分での電流を検知するかを切り替える切替手段55を有していてもよい。電流検知器51hが電気的に接続されるシールド部分27c,37c,42,45を切替手段55によって選択することにより、選択されたシールド部分27c,37c,42,45での電流を検知できる。したがって、切替手段55を切り替えることにより、何れのシールド部分27c,37c,42,45に対しても、電流の有無の監視をすることができる。
【0058】
前記実施形態では、各電流検知器51a~51gが、電流の有無の検知、電流値の計測、あるいは、所定値以上の電流の検知を行うように構成されている。各電流検知器51a~51gが、電流値を計測可能な電流計で構成される場合には、図8に示すように、耐電圧試験装置10は、計測された電流値が絶縁部の絶縁劣化に伴う電流値であるかどうかを判断するための基準値が記憶されている記憶部57を備えていてもよい。基準値は、絶縁部が絶縁破壊していない状態で検出される電流(例えば、外来ノイズによって生ずる電流)の値よりも十分に大きい値に設定される。また、基準値は、絶縁破壊には至っていない劣化状態で検出される値にすることが望ましい。この場合、絶縁耐圧試験の結果に影響を及ぼす前に、シールド部分を交換するなどの対応が可能になる。また、記憶部57は、試験初期の電流値を記憶するとともに、初期の電流値から所定の変化度合い(例えば50%増加、2倍等)で変化した値を基準値として記憶してもよい。
【0059】
記憶部57に記憶された基準値を表示する表示部58が設けられていれば、試験者はこの表示部58に表示された基準値と計測された電流値とを比較することによって、絶縁劣化を判断することができる。
【0060】
記憶部57は、基準値に代えて、あるいは基準値とともに、定期的(例えば一定期間毎、試験毎等)に各電流検知器51a~51gの電流値を記憶してもよい。この場合において、表示部58が、記憶部57に記憶された電流値を表示できるように構成されていれば、絶縁劣化の度合いを作業者又は保守者が判断することを支援できる。したがって、確実に試験が行われることを支援できる。
【0061】
また、計測された電流値が基準値を超えている場合に何らかの出力を行う出力部(図示省略)が設けられていてもよい。出力部による出力としては、警報音を発出、警告灯の点灯、電源部14の停止制御、絶縁耐圧試験の結果(供試体の電流値)とともに絶縁劣化を示す識別子を送信または保存することなどを例示できる。なお、出力部は、電流値が基準値を超えている場合に出力を行うのではなく、試験が正常に行われたことを示す情報を出力してもよい。この場合、出力部は、試験が正常に行われていることを示す表示をする表示器を有してもよく、あるいは、絶縁耐圧試験の結果(供試体の電流値)とともに正常を示す識別子を送信または保存するように構成されてもよい。
【0062】
前記実施形態では、供試体Sを保持する保持部として棚板48が試験室TR内に設けられる例を示したが、図9に示すように、供試体Sを保持する保持部として、試験室TRに出し入れするためのラック60が設けられてもよい。このラック60は、複数の供試体Sを載置できるように複数段の載置部60aを有する構成であって、絶縁部材61を介してチャンバー12に対して絶縁された状態で試験室TR内に挿入できる。ラック60は少なくとも一部が金属導体で構成されている。この場合、供試体Sとラック60との間に絶縁部材49が設けられ、保持部電流検知器51eは、ラック60の金属導体部分と第2導電材22の配線導電体37a(図3参照)とを電気的に接続する配線に配置されて、ラック60の金属導体部分での電流を検知するように構成される。
【符号の説明】
【0063】
10 :耐電圧試験装置
12 :チャンバー
14 :電源部
24 :電流計
27a :配線導電体(導電体)
27b :配線絶縁部(絶縁部)
27c :配線シールド(シールド)
28a :配線導電体(導電体)
28c :配線シールド(シールド)
29 :第1挿通部(導電体)
32 :第1ケーブル孔部(絶縁部)
34 :第2ケーブル孔部(絶縁部)
37a :配線導電体(導電体)
37b :配線絶縁部(絶縁部)
37c :配線シールド(シールド)
38a :配線導電体(導電体)
38c :配線シールド(シールド)
39 :第2挿通部(導電体)
42 :第1ケーブル孔シールド(シールド)
45 :第2ケーブル孔シールド(シールド)
48 :棚板(保持部)
49 :絶縁部材(第二絶縁部)
51 :電流監視部
57 :記憶部
60 :ラック(保持部)
S :供試体
TR :試験室
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9