(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114515
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】木質部材の接合構造
(51)【国際特許分類】
E04B 1/61 20060101AFI20240816BHJP
【FI】
E04B1/61 503G
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020329
(22)【出願日】2023-02-13
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】増田 陽輔
(72)【発明者】
【氏名】貞広 修
(72)【発明者】
【氏名】木村 誠
【テーマコード(参考)】
2E125
【Fターム(参考)】
2E125AA13
2E125AA53
2E125AC24
2E125AG23
2E125BB05
2E125BE02
2E125BF01
(57)【要約】
【課題】金物を極力用いずに木質部材間の応力伝達を可能にする木質部材の接合構造を提供する。
【解決手段】互いに交差して配置される二つの木質部材12、14同士を接合した構造10であって、一方の前記木質部材12において、他方の前記木質部材14の厚さと同等の幅に形成された切り欠き溝16と、他方の前記木質部材14において、一方の前記木質部材12の厚さと同等の幅に形成された切り欠き溝18とを嵌合して相欠き接合するようにする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに交差して配置される二つの木質部材同士を接合した構造であって、
一方の前記木質部材において、他方の前記木質部材の厚さと同等の幅に形成された切り欠き溝と、他方の前記木質部材において、一方の前記木質部材の厚さと同等の幅に形成された切り欠き溝とを嵌合して相欠き接合したことを特徴とする木質部材の接合構造。
【請求項2】
一方の前記木質部材をパネル状の梁パネルとして使用するとともに、他方の前記木質部材をパネル状の壁パネルとして使用し、前記梁パネルの下端面から上方に向けて形成された切り欠き溝と、前記壁パネルの上端面から下方に向けて形成された切り欠き溝とを嵌合して相欠き接合したことを特徴とする請求項1に記載の木質部材の接合構造。
【請求項3】
相欠き接合した部分において、一方の前記木質部材の表面と、他方の前記木質部材の表面とを連結する連結部材を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の木質部材の接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、木質の梁と壁などを接合するのに好適な木質部材の接合構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、木造建築においては、耐久性の観点から軒を深く確保する必要がある。この場合、屋根を支持する梁部材は、外壁を貫通させて架け渡す計画が合理的といえる(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
一方、木質部材として、直交集成板(CLT:Cross Laminated Timber)を使用したCLTパネルが知られている(例えば、特許文献2を参照)。CLTは、ひき板または小角材(これらをその繊維方向を互いにほぼ平行にして長さ方向に接合接着して調整したものを含む。)をその繊維方向を互いにほぼ平行にして幅方向に並べ、または接着したものを、主としてその繊維方向を互いにほぼ直角にして積層接着し3層以上の構造を持たせた木質板材であり、耐震・耐火性能が高いという特長がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-42575号公報
【特許文献2】特開2021-195743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
梁部材、外壁としてCLTからなる梁パネル、壁パネルを使用し、梁パネルの端部仕口を壁パネルに対して既製のせん断金物で接合する場合、外壁からの跳ね出し構造を剛接合にするために、別途、金物補強等が必要となる。また、外壁面を貫通する形で金物補強を行うことで、結露に対する懸念が生じることとなる。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、金物を極力用いずに木質部材同士の間の応力伝達を可能にする木質部材の接合構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る木質部材の接合構造は、互いに交差して配置される二つの木質部材同士を接合した構造であって、一方の前記木質部材において、他方の前記木質部材の厚さと同等の幅に形成された切り欠き溝と、他方の前記木質部材において、一方の前記木質部材の厚さと同等の幅に形成された切り欠き溝とを嵌合して相欠き接合したことを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る他の木質部材の接合構造は、上述した発明において、一方の前記木質部材をパネル状の梁パネルとして使用するとともに、他方の前記木質部材をパネル状の壁パネルとして使用し、前記梁パネルの下端面から上方に向けて形成された切り欠き溝と、前記壁パネルの上端面から下方に向けて形成された切り欠き溝とを嵌合して相欠き接合したことを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る他の木質部材の接合構造は、上述した発明において、相欠き接合した部分において、一方の前記木質部材の表面と、他方の前記木質部材の表面とを連結する連結部材を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る木質部材の接合構造によれば、互いに交差して配置される二つの木質部材同士を接合した構造であって、一方の前記木質部材において、他方の前記木質部材の厚さと同等の幅に形成された切り欠き溝と、他方の前記木質部材において、一方の前記木質部材の厚さと同等の幅に形成された切り欠き溝とを嵌合して相欠き接合したので、金物を用いずに木質部材同士の間の応力伝達を可能にすることができるという効果を奏する。
【0011】
また、本発明に係る他の木質部材の接合構造によれば、一方の前記木質部材をパネル状の梁パネルとして使用するとともに、他方の前記木質部材をパネル状の壁パネルとして使用し、前記梁パネルの下端面から上方に向けて形成された切り欠き溝と、前記壁パネルの上端面から下方に向けて形成された切り欠き溝とを嵌合して相欠き接合したので、金物を用いずに梁パネルと壁パネルとの間の応力伝達を可能にすることができるという効果を奏する。
【0012】
また、本発明に係る他の木質部材の接合構造によれば、相欠き接合した部分において、一方の前記木質部材の表面と、他方の前記木質部材の表面とを連結する連結部材を備えるので、施工時の安全性を高めることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明に係る木質部材の接合構造の実施の形態を示す概略斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明に係る木質部材の接合構造の実施の形態を示す要部の分解斜視図である。
【
図3】
図3は、
図1の各線に沿った断面図であり、(1)はA-A線に沿った断面図、(2)はB-B線に沿った断面図、(1)はC-C線に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明に係る木質部材の接合構造の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0015】
図1~
図3に示すように、本発明の実施の形態に係る木質部材の接合構造10は、互いに交差して配置される梁パネル12、壁パネル14(二つの木質部材同士)を接合した構造である。梁パネル12の側面12Aの法線方向と、壁パネル14の側面14Aの法線方向は、上から見て互いに直交した位置関係にある。
【0016】
梁パネル12は、矩形のパネル状の木質部材(一方の木質部材)である。梁パネル12には、壁パネル14の厚さB1と同等の幅に形成された切り欠き溝16が設けられている。この切り欠き溝16は、梁パネル12の下端面12Bから上方に向けて切り欠いた矩形状の溝である。本実施の形態では、梁パネル12としてスギ等の樹種からなる梁せい2.0m程度、厚み200mm程度のCLTパネルを想定しているが、本発明はこれに限るものではない。例えば、梁パネル12を構造用LVL(単板積層材:Laminated Veneer Lumber)や、構造用集成材などで構成してもよい。
【0017】
壁パネル14は、矩形のパネル状の木質部材(他方の木質部材)である。壁パネル14には、梁パネル12の厚さB2と同等の幅に形成された切り欠き溝18が設けられている。この切り欠き溝18は、壁パネル14の上端面14Bから下方に向けて切り欠いた矩形状の溝である。本実施の形態では、壁パネル14としてスギ等の樹種からなる厚み200mm程度のCLTパネルを想定しているが、本発明はこれに限るものではない。例えば、壁パネル14を構造用LVLや、構造用集成材などで構成してもよい。
【0018】
梁パネル12の切り欠き溝16と、壁パネル14の切り欠き溝18とは嵌合して相欠き接合している。梁パネル12の切り欠き溝16の上端面16Aは、壁パネル14の切り欠き溝18の下端面18Aに当接する。梁パネル12の切り欠き溝16の側端面16Bは、壁パネル14の側面14Aに当接する。壁パネル14の切り欠き溝18の側端面18Bは、梁パネル12の側面12Aに当接する。梁パネル12を屋根梁として用いた場合、屋根荷重を切り欠き溝16、18の上端面16A、下端面18Aの木口面を介して伝達するため、めり込み等による変形の懸念が少なくなる。
【0019】
相欠き接合した部分には、
図1および
図3に示すように、梁パネル12の側面12A(表面)と、壁パネル14の側面14A(表面)とを連結する金物20(連結部材)が上下方向に間隔をあけて複数設けられる。金物20は、各表面12A、14Aに当接配置されるプレート20Aを有するL字形断面の鋼材からなり、プレート20Aは、複数の木質構造用のビス20Bで梁パネル12、壁パネル14にそれぞれ接合される。なお、本実施の形態では、金物20は、
図3に示すように、相欠き接合した部分の周囲に形成される4つの凹隅部のうち2つの凹隅部に設けている。本発明はこれに限るものではなく、金物20は全ての凹隅部に設けてもよいし、省略してもよい。
【0020】
本実施の形態によれば、金物を極力用いずに木質部材間の応力伝達を可能にすることができる。梁パネル12に作用する地震時の水平力を、相欠き接合した部分で接する壁パネル14に、金物20などの簡易な金物を介して最短経路で伝えられるため信頼性が高い。また、梁の捻れに対する端部固定度を高められるので、梁パネル12の鉛直曲げ性能が向上し、ロングスパン化に対応することができる。
【0021】
本実施の形態は、CLTパネル工法により施工される建物の屋根梁として梁パネルを適用する場合の端部仕口の構造に好適である。すなわち、壁パネル頂部と梁パネルとが交差する端部において、壁パネル頂部と梁パネル下部にCLT厚さ相当の切り欠き溝を上下互い違いに設けて嵌め合わせることで、金物を用いずに応力伝達を行うことが可能である。このとき、壁パネルと梁パネルを上記の金物20などで緊結してもよい。このようにすることで施工時の安全性を高めることができる。
【0022】
以上説明したように、本発明に係る木質部材の接合構造によれば、互いに交差して配置される二つの木質部材同士を接合した構造であって、一方の前記木質部材において、他方の前記木質部材の厚さと同等の幅に形成された切り欠き溝と、他方の前記木質部材において、一方の前記木質部材の厚さと同等の幅に形成された切り欠き溝とを嵌合して相欠き接合したので、金物を用いずに木質部材同士の間の応力伝達を可能にすることができる。
【0023】
また、本発明に係る他の木質部材の接合構造によれば、一方の前記木質部材をパネル状の梁パネルとして使用するとともに、他方の前記木質部材をパネル状の壁パネルとして使用し、前記梁パネルの下端面から上方に向けて形成された切り欠き溝と、前記壁パネルの上端面から下方に向けて形成された切り欠き溝とを嵌合して相欠き接合したので、金物を用いずに梁パネルと壁パネルとの間の応力伝達を可能にすることができる。
【0024】
また、本発明に係る他の木質部材の接合構造によれば、相欠き接合した部分において、一方の前記木質部材の表面と、他方の前記木質部材の表面とを連結する連結部材を備えるので、施工時の安全性を高めることができる。
【0025】
なお、2015年9月の国連サミットにおいて採択された17の国際目標として「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」がある。本実施の形態に係る木質部材の接合構造は、このSDGsの17の目標のうち、例えば「13.気候変動に具体的な対策を」の目標などの達成に貢献し得る。
【産業上の利用可能性】
【0026】
以上のように、本発明に係る木質部材の接合構造は、CLTを使用した木質梁と木質壁などの木質部材の接合に有用であり、特に、金物を極力用いずに木質部材間の応力伝達を可能にするのに適している。
【符号の説明】
【0027】
10 木質部材の接合構造
12 梁パネル(一方の木質部材)
12A,14A 側面
12B 下端面
14 壁パネル(他方の木質部材)
14B 上端面
16,18 切り欠き溝
16A 上端面
18A 下端面
16B,18B 側端面
20 金物(連結部材)
20A プレート
20B ビス
B1,B2 厚さ