(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114523
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】磁気メモリ
(51)【国際特許分類】
H10B 61/00 20230101AFI20240816BHJP
H10N 50/20 20230101ALI20240816BHJP
【FI】
H10B61/00
H10N50/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020341
(22)【出願日】2023-02-13
(71)【出願人】
【識別番号】318010018
【氏名又は名称】キオクシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118843
【弁理士】
【氏名又は名称】赤岡 明
(72)【発明者】
【氏名】下村 尚治
(72)【発明者】
【氏名】近藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】カンサ ミカエル アルノー
(72)【発明者】
【氏名】大寺 泰章
(72)【発明者】
【氏名】門 昌輝
(72)【発明者】
【氏名】上田 善寛
(72)【発明者】
【氏名】中西 務
(72)【発明者】
【氏名】梅津 信之
(72)【発明者】
【氏名】橋本 進
(72)【発明者】
【氏名】中村 志保
【テーマコード(参考)】
4M119
5F092
【Fターム(参考)】
4M119BB01
4M119CC05
4M119CC10
4M119DD17
4M119DD24
4M119DD26
4M119DD33
4M119DD52
4M119EE11
4M119EE22
5F092AB06
5F092AC12
5F092AD26
5F092BB23
5F092BB43
5F092BC04
(57)【要約】
【課題】磁気抵抗素子が磁性部材から大きな磁界を受け、隣接セル間干渉を抑制できる磁気メモリの提供。
【解決手段】磁気メモリは、第1方向に第1および第2端部を有し筒形状の第1磁性部材を備える。磁気抵抗素子は、磁化可変層と、磁化固定層と、磁化可変層と磁化固定層との間の非磁性層とを含む。磁気抵抗素子は、第1方向から見た平面視において第1磁性部材の第1端部側の外縁の一部に重複する。第1方向から見た平面視において、磁化可変層の磁化方向は、磁化固定層の磁化方向に対して0度より大きく、かつ、180度よりも小さな角度で交差する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1方向に沿って延び第1端部および第2端部を有し、筒形状の複数の第1磁性部材と、
磁化方向が可変な磁化可変層と、磁化方向が固定された磁化固定層と、前記磁化可変層と前記磁化固定層との間に設けられた非磁性層とを含む磁気抵抗素子であって、前記第1方向から見た平面視において前記第1磁性部材の前記第1端部側の外縁の一部に重複するように配置された磁気抵抗素子とを備え、
前記第1方向から見た平面視において、前記磁化可変層の磁化方向は、前記磁化固定層の磁化方向に対して0度より大きく、かつ、180度よりも小さな角度で交差する、磁気メモリ。
【請求項2】
前記第1磁性部材の前記第2端部側に設けられかつ前記第1磁性部材から離間して配置され、前記第1方向に交差する第2方向に沿って延び前記第1方向および前記第2方向に交差する第3方向に隣り合って配置された第1配線および第2配線であって、前記第1方向から見た平面視において、前記第1配線と前記第2配線との間に少なくとも1つの前記第1磁性部材が位置する第1配線および第2配線と、
前記第1および第2配線の周囲に設けられた第2磁性部材と、をさらに備える、請求項1に記載の磁気メモリ。
【請求項3】
前記第1方向から見た平面視において、前記磁化固定層の磁化方向は、前記第1磁性部材の前記外縁のうち前記磁気抵抗素子が重複する第1外縁部分の法線方向、あるいは、前記第1外縁部分における前記第1磁性部材の径方向である、請求項1または請求項2に記載の磁気メモリ。
【請求項4】
前記第1方向から見た平面視において、前記磁化可変層の磁化方向は、前記第1磁性部材の前記第1端部の磁界方向に応じて、前記第1外縁部分の接線方向から傾斜する、請求項3に記載の磁気メモリ。
【請求項5】
前記第1磁性部材の前記第1端部の径をrMMLとすると、前記第1方向から見た平面視において、前記磁気抵抗素子の重心は、前記第1外縁部分から該第1外縁部分の法線方向、あるいは、前記第1磁性部材の径方向に、±rMML/5の範囲内に配置される、請求項1または請求項2に記載の磁気メモリ。
【請求項6】
前記第1方向から見た平面視において、前記磁気抵抗素子の長手方向は、前記磁化固定層の磁化方向とは異なる、請求項1または請求項2に記載の磁気メモリ。
【請求項7】
前記第1方向から見た平面視において、前記磁気抵抗素子の長手方向は、前記第1外縁部分の接線方向である、請求項3に記載の磁気メモリ。
【請求項8】
前記第1磁性部材の前記第1端部は、前記第1磁性部材の延伸方向に対して該第1磁性部材の内側へ向かって傾斜している、請求項1または請求項2に記載の磁気メモリ。
【請求項9】
前記第1磁性部材の前記第1端部の厚みは、該第1磁性部材の前記第2端部の厚みよりも厚い、請求項8に記載の磁気メモリ。
【請求項10】
第1方向に沿って延び第1端部および第2端部を有し、筒状の複数の第1磁性部材と、
磁化方向が可変な磁化可変層と、磁化方向が固定された磁化固定層と、前記磁化可変層と前記磁化固定層との間に設けられた非磁性層とを含む磁気抵抗素子であって、前記第1方向から見た平面視において前記第1磁性部材の前記第1端部側の外縁の一部に重複するように配置された磁気抵抗素子とを備え、
前記第1方向から見た平面視において、前記磁気抵抗素子の長手方向は、前記磁化固定層の磁化方向とは異なる、磁気メモリ。
【請求項11】
前記第1磁性部材の前記第2端部側に設けられかつ前記第1磁性部材から離間して配置され、前記第1方向に交差する第2方向に沿って延び前記第1方向および前記第2方向に交差する第3方向に隣り合って配置された第1配線および第2配線であって、前記第1方向から見た平面視において、前記第1配線と前記第2配線との間に少なくとも1つの前記第1磁性部材が位置する前記第1配線および前記第2配線と、
前記第1および配線の周囲に設けられた第2磁性部材と、をさらに備える、請求項10に記載の磁気メモリ。
【請求項12】
前記第1方向から見た平面視において、前記磁気抵抗素子の長手方向は、前記第1磁性部材の前記外縁のうち前記磁気抵抗素子が重複する第1外縁部分の接線方向である、請求項10または請求項11に記載の磁気メモリ。
【請求項13】
前記第1方向から見た平面視において、前記磁化固定層の磁化方向は、前記第1外縁部分の法線方向、あるいは、前記第1外縁部分における前記第1磁性部材の径方向である、請求項12に記載の磁気メモリ。
【請求項14】
前記第1方向から見た平面視において、前記磁化可変層の磁化方向は、前記第1外縁部分の接線方向から、該第1磁性部材の前記第1端部の磁界方向に応じて傾斜する、請求項12に記載の磁気メモリ。
【請求項15】
前記第1磁性部材の前記第1端部の径をrMMLとすると、前記第1方向から見た平面視において、前記磁気抵抗素子の重心は、前記第1外縁部分から該第1外縁部分の法線方向、あるいは、前記第1磁性部材の径方向に、±rMML/5の範囲内に配置される、請求項10または請求項11に記載の磁気メモリ。
【請求項16】
前記第1磁性部材の前記第1端部は、前記第1磁性部材の延伸方向に対して該第1磁性部材の内側へ向かって傾斜している、請求項10または請求項11に記載の磁気メモリ。
【請求項17】
前記第1磁性部材の前記第1端部の厚みは、該第1磁性部材の前記第2端部の厚みよりも厚い、請求項16に記載の磁気メモリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、磁気メモリに関する。
【背景技術】
【0002】
磁性部材に電流を流すことにより磁性部材の磁壁を移動(シフト)させる磁気メモリが知られている。磁性部材からデータを読み出す際には、磁性部材の端部に設けられた磁気抵抗素子が磁性部材の磁化方向を検知して抵抗状態を変化させ、磁気抵抗素子の抵抗値を検出することによってデータが読み出される。従って、磁気抵抗素子が受ける磁性部材からの磁界は大きい方が好ましい。しかし、磁性部材の磁場を大きくすると、近傍に位置する磁性部材からの磁界の影響によって読出しエラーが生じるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-009806号公報
【特許文献2】特開2019-003989号公報
【特許文献3】特開2022-045204号公報
【特許文献4】特開2022-138916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
磁気抵抗素子が磁性部材から効率よく磁界を受けることができる磁気メモリを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本実施形態による磁気メモリは、第1方向に沿って延び第1端部および第2端部を有し、筒形状の複数の第1磁性部材を備える。磁気抵抗素子は、磁化方向が可変な磁化可変層と、磁化方向が固定された磁化固定層と、磁化可変層と磁化固定層との間に設けられた非磁性層とを含む。磁気抵抗素子は、第1方向から見た平面視において第1磁性部材の第1端部側の外縁の一部に重複するように配置されている。第1方向から見た平面視において、磁化可変層の磁化方向は、磁化固定層の磁化方向に対して0度より大きく、かつ、180度よりも小さな角度で交差する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図4】ヨーク、フィールドラインおよび磁性部材の構成例を示す断面図。
【
図5】ヨーク、フィールドラインおよび磁性部材の他の構成例を示す断面図。
【
図6】第1実施形態に係るMTJ素子の構成例を示す断面図。
【
図7】第1実施形態に係るMTJ素子および磁性部材の配置例を示す図。
【
図8】第1実施形態に係るMTJ素子および磁性部材の配置例を示す斜視図。
【
図9】磁性部材の第1端部からの漏洩磁界を示すグラフ。
【
図10】漏洩磁界とMTJ素子の抵抗値との関係を示すグラフ。
【
図11】比較例のMTJ素子および磁性部材の配置例を示す図。
【
図12】
図11の比較例における漏洩磁界とMTJ素子の抵抗値との関係を示すグラフ。
【
図13】第1実施形態によるMTJ素子側から見たメモリセルアレイの構成例を示す斜視図。
【
図14】MTJ素子側から見たメモリセルアレイの構成例を示す平面図。
【
図15】第2実施形態による磁気メモリの磁性部材MLの構成例を示す斜視図。
【
図16】第2実施形態による磁気メモリの磁性部材MLの構成例を示す断面図。
【
図17】漏洩磁界の成分と磁性部材の中心軸からの距離を示すグラフ。
【
図18】比較例による磁気メモリの磁性部材の構成を示す斜視図。
【
図19】
図18に示す比較例の磁性部材の第1端部から生じる漏洩磁界の磁力線を示す図。
【
図20】
図16に示す第2実施形態による磁性部材の第1端部から生じる漏洩磁界の磁力線を示す概念図。
【
図21】第3実施形態による磁気メモリの磁性部材の構成例を示す断面図。
【
図22】漏洩磁界のx-y面内の成分と磁性部材の中心軸からの距離を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照して本発明に係る実施形態を説明する。本実施形態は、本発明を限定するものではない。図面は模式的または概念的なものである。明細書と図面において、同一の要素には同一の符号を付す。
【0008】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態による磁気メモリの平面図である。
図2は、
図1に示す切断線A-Aで切断した断面図である。この実施形態の磁気メモリは、m、nを自然数とするとき、m行n列に配置されたメモリ部10
ij(i=1~m、j=1~n)を備えている。なお、
図1では、3行5列に配列されたメモリ部10
11~10
35を示している。
【0009】
第i行のメモリ部10i1~10inは、x方向に延びているビット線BLiに沿って配置され、一端がビット線BLiに電気的に接続される。本明細書では、「AとBが電気的に接続される」とは、AとBが直接接続されてもよいし、導電体を介して間接的に接続されてもよいことを意味する。第i行において、奇数列のメモリ部10i1,10i3,・・・と、偶数列のメモリ部10i2,10i4,・・・は、紙面上で上下方向(y方向)にずれて配置される。例えば、偶数列のメモリ部10i2は、メモリ部10i1とメモリ部10i3との間でかつ紙面上で下側にずれて配置される。このような配置を用いたことにより、複数のメモリ部を稠密に配置することができ、集積化を行うことができる。
【0010】
第j列に配置されたメモリ部101j、・・・10mjのそれぞれに対して、2つのフィールドラインFLj,FLj+1が設けられている。フィールドラインFLj+1(j=1,・・・,n-1)は、第j列のメモリ部10ijと第j+1列のメモリ部10ij+1との間の領域の上方に配置される。またフィールドラインFLj+1は、第j列のメモリ部10ijのそれぞれの一部に重なるとともに第j+1列のメモリ部10ij+1のそれぞれの一部に重なるように配置しても良い。
【0011】
フィールドラインFL
jは、磁性部材ML
ij-1、ML
ijの第2端部11b(
図3)側に設けられかつ磁性部材ML
ij-1、ML
ijから離間して配置されている。フィールドラインFL
jは、z方向に対して交差するy方向に沿って延び、z方向およびy方向に交差するx方向に配列されている。z方向から見た平面視において、フィールドラインFL
jとFL
j+1との間には、1つの磁性部材ML
ijが位置する。
【0012】
例えば、第2列に配置されたメモリ部10i2に対してフィールドラインFL2とフィールドラインFL3が設けられている。フィールドラインFL2は、第1列のメモリ部10i1と第2列のメモリ部10i2との間の領域の上方に配置される。またフィールドラインFL2は、第1列のメモリ部10i1のそれぞれの一部に重なるとともに第2列のメモリ部10i2のそれぞれの一部に重なるように配置してもよい。各フィールドラインFLjは、y方向に沿って延び、各ビット線BLiと交差する。各フィールドラインFLjは、制御回路100に電気的に接続されて制御される。制御回路100は、フィールドラインFLjに選択的に電流を流すことができ、またすべてのフィールドラインFLjに電流を流すこともできる。また、各ビット線BLiおよびプレート電極PLは、制御回路101に接続されて制御される。
【0013】
図2に示すように、メモリ部10
ijの上方にヨーク25aが配置されている。ヨーク25aは、全てのフィールドラインFL
1~FL
n+1のそれぞれの上方に配置される。また、ヨーク25aに電気的に接続したプレート電極PLがヨーク25aの上面に接するとともに上面を覆うように配置される。ヨーク25bは、隣り合う2つのフィールドラインFL
j間に設けられ、ヨーク25aとヨーク25dとの間を接続している。ヨーク25cは、各フィールドラインFL
jの下に設けられており、隣り合う2つの磁性部材ML
ij間に設けられている。ヨーク25dは、各磁性部材ML
ij上に設けられており、対応する磁性部材ML
ijに電気的に接続されている。
【0014】
また、プレート電極PLは制御回路101に接続され、制御される。ヨーク25a、25b、25cおよび25dの材料としては、例えば導電性の軟磁性体(例えば、パーマロイ)あるいは導電性の軟磁性体を含む材料を用いることができる。また、ヨーク25a、25b、25cおよび25dの材料として、絶縁体マトリクス中に磁性粒子が密に分散したグラニュラー構造を有する材料を用いてもよい。ヨーク25aはプレート電極PLを兼ねても良い。
【0015】
各メモリ部10
ijは、
図2に示すように、導電性の磁性体からなる磁気メモリ線(磁性部材)ML
ijと、非磁性導電層12
ijと、磁気抵抗素子14
ijと、非磁性導電層16
ijと、縦型薄膜トランジスタ18
ijと、非磁性導電層19
ijと、を備えている。
【0016】
各磁性部材ML
ijは、
図2において上下方向(z方向)に沿って延びた垂直磁性材料から構成され、筒形状を有している。磁性部材ML
ijは、例えば、略円筒形を有する。
【0017】
図3は、磁性部材の構成例を示す断面図である。各磁性部材ML
ijは、
図3に示すように筒内に非磁性絶縁体50が設けられていてもよい。すなわち、各磁性部材ML
ijは、非磁性絶縁体50を取り囲むように設けられていてもよい。磁性部材ML
ijにおいては、
図3に示すように、領域11c1、縊れ部11d1、領域11c2、縊れ部11d2がz方向に沿って配置されている。領域11c1のz方向に平行な平面で切断した断面におけるx方向における領域11c1の端部11c1aと端部11c1bとの間の長さ(直径)をd1とする。縊れ部11d1のz方向に平行な平面で切断した断面におけるx方向における縊れ部11d1の端部11d1aと端部11d1bとの間の長さ(直径)をd2とする。領域11c2のz方向に平行な平面で切断した断面におけるx方向における領域11c2の端部11c2aと端部11c2bとの間の長さ(直径)をd3とする。縊れ部11d2のz方向に平行な平面で切断した断面におけるx方向における縊れ部11d2の端部11d2aと端部11d2bとの間の長さ(直径)をd4とする。この場合に、以下の条件
d1>d2
d1>d4
d3>d2
d3>d4
を満たしている。
【0018】
また、磁性部材MLijは、第1端部11aが非磁性導電層12ijを介して磁気抵抗素子14ijに電気的に接続される。なお、非磁性導電層12ijは、省略してもよい。この場合、磁性部材MLijの第1端部11aは磁気抵抗素子14ijに直接接続される。
【0019】
また、各磁性部材MLijは、第2端部11bがヨーク25dに電気的に接続される。ヨーク25dとヨーク25cは、磁気的に接続される。ここで、「AがBに磁気的に接続される」とは、AとBが磁気回路を構成することを意味し、磁性体同士が直接接触していない場合も含む。ヨーク25cは、ヨーク25aに対向して設けられ、ヨーク25aとヨーク25cとの間にフィールドラインFL1,・・・,FLn+1が配置される。ヨーク25dは、各磁性部材MLijの筒内の中央部に配置され、ヨーク25cと同じ階層に位置し、ヨーク25cと磁気的に接続される。ヨーク25bは、ヨーク25aとヨーク25dとの間に配置され、ヨーク25aおよびヨーク25dと電気的に接続されるとともに、磁気的に接続される。したがって、プレート電極PLは、各メモリ部10ijに対して共通に電気的に接続される。
【0020】
図4に示すように、ヨーク25a、25b、25cおよび25dは、フィールドラインFL
1,・・・,FL
n+1のそれぞれの周囲に設けられており、磁気回路25を構成する。第1部分に含まれるヨーク25bは、
図4に示すように、フィールドラインFL
j+1の一方の側面に対向して設けられ、該側面側にある磁性部材ML
ijに電気的に接続されている。ヨーク25bは、フィールドラインFL
j+1の反対側の側面に対向して設けられ、該側面側にある磁性部材ML
ij+1に電気的に接続されている。
【0021】
この磁気回路25には、磁気ギャップが設けられる。例えば、
図4は、ヨーク、フィールドラインおよび磁性部材の構成例を示す断面図である。ヨーク25bは、一端がヨーク25aに接続され、他端がヨーク25dに接続される。ヨーク25dは、対応する磁性部材ML
ijの上端部の内表面に電気的に接続される。各磁性部材ML
ijの外表面に非磁性の絶縁層28が配置され、この絶縁層28を介してヨーク25dはヨーク25cと磁気的に接続される。すなわち、各磁性部材ML
ijのx方向の厚さと絶縁層28のx方向の厚さとの和が磁気ギャップGとなる。
【0022】
また、フィールドラインFL
j~FL
j+3は、磁性部材ML
ij~ML
ij+2のそれぞれの第2端部11b側に設けられかつ磁性部材ML
ij~ML
ij+2から離間して配置されている。フィールドラインFL
j~FL
j+3は、y方向に沿って延び、x方向に隣り合って配置されている。z方向から見た平面視において、フィールドラインFL
j~FL
j+3間には、1つずつ磁性部材ML
ij~ML
ij+2が位置する。
図4では図示しないが、ヨーク25a上には、プレート電極PLが設けられている。尚、ヨーク25a~25dは、導電性磁性材料を用いることによってプレート電極としての機能も兼ね備えてもよい。
【0023】
z方向から見た平面視において、フィールドラインFLj~FLj+3のうち、互いに隣り合う2つのフィールドラインFL間には、1つの磁性部材MLが位置する。互いに隣り合う2つのフィールドラインFLは、ヨーク25a、25bを共有している。ヨーク25aは、1行のフィールドラインFLj~FLj+3に共有されている。
【0024】
本実施形態において、
図1の制御回路100は、磁性部材ML
ij~ML
ij+2へのデータ書込み時に、一例として、書き込み対象の磁性部材MLに最も近い左右2つのフィールドラインFLの一方のみに電流を流すことができる。換言すると、制御回路100は、1つのフィールドラインFLに電流を流すことによって、z方向から見た平面視において、該フィールドラインFLの両側に位置する2つの磁性部材MLの第2端部11bにデータを書き込むことができる。この書き込みにより、磁性部材MLの第2端部11bには、書き込まれたデータに対応する磁化方向を有する磁区が形成される。
【0025】
図5は、ヨーク、フィールドラインおよび磁性部材の他の構成例を示す断面図である。
図5に示す構成でも磁気回路25の磁気ギャップを得ることができる。
図5に示す場合は、
図4において、各磁性部材ML
ijと、ヨーク25dとの間に、非磁性導電層29が設けられていることを示す。この非磁性導電層29は、各磁性部材ML
ijの内表面にz方向に沿って配置される。この場合、磁気ギャップGは、非磁性導電層29のx方向の厚さ、各磁性部材ML
ijのx方向の厚さ、および絶縁層28のx方向の厚さの和となる。なお、
図4および
図5において、絶縁層28の代わりに非磁性導電層を用いてもよい。また、各磁性部材ML
ijは、磁性層(例えば、CoFeB)と絶縁層(例えばMgO)との積層構造を備えていてもよい。この場合、ヨーク25dとの接続部分において絶縁層を取り除き、ヨーク25dと磁性層とを接触させて電気的に接続させることが好ましい。なお、MgO層は極薄い層なのでこの層にリーク電流が流れる可能性もある。よって、MgO層は必ずしも除去しなくてもよい。
【0026】
また、本実施形態では、
図4に示すように、各磁性部材ML
ijは、ヨーク25b、25dと電気的に接続されたが、代わりにヨーク25cと電気的に接続されてもよい。この場合、ヨーク25cはヨーク25aと他の場所で電気的に接続されることが好ましい。各磁性部材ML
ijと、ヨーク25dおよびヨーク25cの少なくとも一方との間に非磁性層を設けてもよい。さらにまた、各磁性部材ML
ijと、ヨーク25dおよびヨーク25cの両方とが電気的に接続されてもよい。この場合、各磁性部材ML
ijと、ヨーク25dおよびヨーク25cの少なくとも一方との間に非磁性導電層を設けてもよい。
【0027】
再び
図2に戻り、本実施形態の磁気メモリについて説明する。磁気抵抗素子14
ijは、磁性部材ML
ijに書き込まれた情報を読み出すものであって、例えばMTJ(Magnetic Tunnel Junction)素子が用いられる。以下、磁気抵抗素子14
ijは、一例としてMTJ素子であるとして説明する。MTJ素子14
ijは、磁化方向が可変のフリー層(磁化可変層)14aと、磁化方向が固定された固定層(磁化固定層)14cと、フリー層14aと固定層14cとの間に配置された非磁性絶縁層14bと、を備えている。MTJ素子14
ijにおいては、フリー層14aは、対応する非磁性導電層12
ijを介して磁性部材ML
ijの第1端部11aに電気的に接続される。固定層14cは、対応する非磁性導電層16
ijを介して対応する縦型薄膜トランジスタ18
ijに電気的に接続される。ここで、「磁化方向が可変である」とは、後述する読み出し動作において、対応する磁性部材ML
ijからの漏れ磁場によって磁化方向が変化可能であることを意味する。「磁化方向が固定である」とは、対応する磁性部材ML
ijからの漏れ磁場によって磁化方向が変化しないことを意味する。尚、フリー層14aと固定層14cとは配置が逆であってもよい。この場合、フリー層14aが縦型薄膜トランジスタ18
ijに電気的に接続され、固定層14cが磁性部材ML
ijの第1端部11aに電気的に接続される。MTJ素子14
ijの構成については後述する。
【0028】
縦型薄膜トランジスタ18
ijは、チャネル層18aと、ゲート電極部SG
jとを備える。チャネル層18aの一端は、非磁性導電層16
ijを介してMTJ素子14
ijの固定層14cに電気的に接続され、他端が非磁性導電層19
ijを介してビット線BL
iに電気的に接続される。チャネル層18aは、z方向に延びている。ゲート電極部SG
jは、チャネル層18aを囲む、或いは挟むように配置されている。すなわち、ゲート電極部SG
jはチャネル層の少なくとも一部を覆っている。チャネル層18aは例えば結晶シリコンから構成される。ゲート電極部SG
j(j=1~n)は、y方向に沿って延び、
図1の制御回路100に接続されて制御される。
【0029】
縦型薄膜トランジスタ18ijをオンにすることにより、プレート電極PLとビット線BLとの間に磁性部材MLijを介して電流を流す。これにより、磁性部材MLijの第2端部11bに書き込みデータとして形成された磁区を、磁性部材MLij内でz方向にシフトさせて、磁性部材MLij内へのデータの書き込みが行われる。また、読み出し時には、縦型薄膜トランジスタ18ijをオンにすることにより、プレート電極PLとビット線BLとの間に磁性部材MLijを介して電流を流す。これにより、書き込まれたデータに対応する磁区をz方向に第1端部11aまでシフトさせて、MTJ素子14ijのフリー層14aの磁化を書き込みデータに対応した方向とし、読み出しが行われる。
【0030】
ヨーク25a、25b、25c、25dは、
図2に示すように、フィールドラインFL
1~FL
n+1それぞれの一部分を囲むように、配置されている。例えば、ヨーク25aは、各フィールドラインの上面に対向して配置されこの上面を覆う。ヨーク(リターンヨークともいう)25cは各フィールドラインFL
1~FL
n+1の下面に対向して配置されている。ヨーク25bは、ヨーク25aとヨーク25dとの間に接続され各フィールドラインの側部に配置される。ヨーク25aは各フィールドラインFL
1~FL
n+1の上面から離れて配置され、ヨーク25bは各フィールドラインの側面から離れて配置され、ヨーク25cは各フィールドラインFL
1~FL
n+1の下面から離れて配置される。
【0031】
(書き込み動作)
次に、本実施形態の磁気メモリの書き込み動作について説明する。
【0032】
例えば、メモリセル10
ijへの書き込みは、制御回路100を用いて、2つのフィールドラインFL
jとフィールドラインFL
j+1に互いに逆方向の書き込み電流を流す。例えば、メモリセル10
11に書き込みを行う場合は、まず、フィールドラインFL
1と、フィールドラインFL
2に互いに逆向きの書き込み電流を流す。このとき、フィールドラインFL
1に
図2において、手前から奥行き方向に書き込み電流を流し、フィールドラインFL
2に
図2において、奥から手前方向に書き込み電流を流す。フィールドラインFL
1の周りには時計方向の電流磁場が発生し、フィールドラインFL
2の周りには反時計方向の電流磁場が発生する。これらの電流磁場により、それぞれのフィールドラインを取り囲んでいるヨーク25にも磁場が誘導される。この書き込み電流により、隣り合うフィールドライン、例えばフィールドラインFL
1とフィールドラインFL
2との間の下方に位置するメモリセル10
11の磁性部材ML
11の上部(第2端部11b)にはそれぞれ書き込み電流に対応した情報(磁化方向)が書き込まれる。このときの書き込まれる情報(磁化方向)は、x-y平面に沿った方向でかつ磁性部材ML
11の内周から外周に向かう方向の磁化方向となる。
【0033】
これに対して、フィールドラインFL1とフィールドラインFL2に流す書き込み電流の向きを上述の説明とは逆方向にすると、メモリセル1011の磁性部材ML11に書き込まれる情報(磁化方向)は、x-y平面に沿った方向でかつ磁性部材ML11の外周から内周に向かう方向の磁化方向となる。
【0034】
このような書き込み動作を行うことにより、磁性部材ML11の上部(第2端部11b)に情報が書き込まれる。続いて、ビット線BLと、プレート電極PLの間に磁性部材ML11の磁壁を移動させるシフト電流を制御回路101によって流し、書き込まれた情報を下方に移動させて記憶領域に格納する(シフト動作)。なお、シフト電流の極性は、磁性部材ML11の材料等に応じて決まる。
【0035】
(読み出し動作)
次に読み出し動作について説明する。メモリセル1011から情報を読み出す場合、読み出したい情報がメモリセル1011の磁性部材ML11の最下部、すなわちMTJ素子1411に近い領域11c(第1端部11a)に位置しているときは、磁性部材ML11の最下部に記憶された情報に対応してMTJ素子1411のフリー層14aの磁化方向も変化する。これにより、制御回路101は、ビット線BLとプレート電極PLとの間に読み出し電流を流して、MTJ素子1411からの情報を読み出すことができる。この読み出し情報は、MTJ素子1411の抵抗状態に対応する。MTJ素子1411の抵抗状態が高い場合及び低い場合については後述する。
【0036】
読み出したい情報がメモリセル1011の磁性部材ML11の最下部に存在しない場合は、制御回路101を用いてビット線BLとプレート電極PLとの間にシフト電流を流し、読み出したい情報を磁性部材ML11の最下部に位置するように移動させる(シフト動作)。その後、上述した読み出し動作を行うことにより情報を読み出すことができる。
【0037】
(MTJ素子の構成)
図6は、第1実施形態に係るMTJ素子の構成例を示す断面図である。尚、
図6では、
図2に対して、z方向において上下逆に表示している。
【0038】
MTJ素子14ij(以下、MTJ素子14ともいう)のフリー層14aは、強磁性材料で構成されている。フリー層14aは、x-y面に略平行な方向に磁化容易軸方向を有する。フリー層14aの磁化容易軸方向は、MTJ素子14の長手方向になる。強磁性体41は、例えば、コバルト鉄ボロン(CoFeB)又はホウ化鉄(FeB)を含み、体心立方系の結晶構造を有し得る。フリー層14aは、磁化方向が可変な磁化可変層の一例である。
【0039】
非磁性絶縁層14bは、非磁性絶縁膜であり、例えば酸化マグネシウム(MgO)を含む。非磁性絶縁層14bは、フリー層14aと固定層14cとの間に設けられて、トンネルバリア膜として機能する。即ち、非磁性絶縁層14bは、フリー層14aと固定層14cとの間で磁気トンネル接合を構成する。
【0040】
固定層14cは、強磁性層43、非磁性層44、強磁性層45および反強磁性層46の積層膜で構成されている。固定層14cは、磁化方向が固定された磁化固定層の一例である。
【0041】
強磁性層43は、強磁性材料で構成されている。フリー層14aの磁化容易軸方向が-y方向の場合、強磁性層43の磁化方向は、例えば、+x方向となる。強磁性層43は、例えば、コバルト鉄ボロン(CoFeB)又はホウ化鉄(FeB)を含む。強磁性層43の磁化方向は、固定されており、+x方向を向いている。なお、「磁化方向が固定されている」とは、フリー層14aの磁化方向を回転させ得る大きさの磁界によって、磁化方向が変化しないことを意味する。
【0042】
非磁性層44は、非磁性導電材料であり、例えば、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、バナジウム(V)、及びクロム(Cr)から選択される少なくとも1つの元素を含む。非磁性層44の膜厚は、固定層14c内において、強磁性層43と強磁性層45との間で反強磁性交換結合が働くように調整される。即ち、強磁性層43および45は、互いに反平行な磁化方向を有するように結合される。
【0043】
強磁性層45の磁化容易軸方向は、強磁性層43のそれとは逆方向であり、例えば、-x方向となる。強磁性層45は、例えば、コバルト鉄(CoFe)、コバルト白金(CoPt)、コバルトニッケル(CoNi)、及びコバルトパラジウム(CoPd)から選択される少なくとも1つの合金を含む。強磁性層45の磁化方向は、固定されており、-x方向を向いている。
【0044】
反強磁性層46は、例えば、イリジウムマンガン(IrMn)等の合金を含む。反強磁性層46は、強磁性層45に積層される。例えば、反強磁性層46を強磁性層45に接触させて約10kOeの磁場を印加した状態で、約300度の温度でアニールし、その後、室温に冷却する。これにより、反強磁性層46と強磁性層45の界面において、交換磁気異方性を誘起し、強磁性層45に対して印加磁場の方向に一方向磁気異方性を発生させることにより、磁化方向の固着を行う。
【0045】
(MTJ素子の配置)
図7は、第1実施形態に係るMTJ素子および磁性部材の配置例を示す図である。
図7は、
図2においてz方向から見た場合の平面図である。
図7では、磁性部材ML
ij(以下、磁性部材MLともいう)の第1端部11a側が表示されている。
【0046】
z方向から見た平面視において、磁性部材MLは、略円筒形を有し、その径方向に漏洩磁界のxy面内成分が径方向に発生する。
【0047】
z方向から見た平面視において、MTJ素子14は、磁性部材MLの第1端部11a側の外縁の一部に重複するように配置されている。以下、MTJ素子14と重複する磁性部材MLの第1端部11aの外縁部分を、重複部分ともいう。また、z方向から見た平面視において、MTJ素子14は、長手方向と幅方向を有し、例えば、略楕円形、略長方形等の形状を有する。本実施形態において、MTJ素子14の長手方向は、磁性部材MLの外縁の重複部分における接線方向にほぼ一致している。
【0048】
固定層14cの磁化方向D14cは、磁性部材MLの径方向(+x方向)を向いている。従って、z方向から見た平面視において、MTJ素子14の長手方向は、固定層14cの磁化方向とは異なる。固定層14cの磁化方向D14cは、z方向から見た平面視において、重複部分の法線方向、あるいは、重複部分における磁性部材MLの径方向(+x方向)である。
【0049】
フリー層14aの磁化方向D14a_0~D14a_2は、z方向から見た平面視において、磁性部材MLの重複部分における接線方向から、磁性部材MLの第1端部11aにおける漏洩磁界に依存して傾斜する。例えば、フリー層14aが磁性部材MLからの磁場の影響を受けていないときの磁化方向をD14a_0とする。フリー層14aが磁性部材MLから受ける漏洩磁界が磁性部材MLの径方向の外向き(+x方向)に向いている場合、フリー層14aの磁化方向は、D14a_1となる。フリー層14aが磁性部材MLから受ける漏洩磁界が磁性部材MLの径方向の内向き(-x方向)に向いている場合、フリー層14aの磁化方向は、D14a_2となる。フリー層14aの磁化方向D14a_1,D14a_2の傾斜角は、フリー層14aが受ける磁性部材MLからの漏洩磁界の大きさに依存する。
【0050】
このように、z方向から見た平面視において、フリー層14aの磁化方向は、固定層14cの磁化方向(+x方向)に対して0度より大きく、かつ、180度よりも小さな角度で交差する。即ち、フリー層14aの磁化方向と固定層14cの磁化方向は、平行(0度)または反平行(180度)のいずれかではなく、0度および180度以外の傾斜角で交差する。
【0051】
図8は、第1実施形態に係るMTJ素子および磁性部材の配置例を示す斜視図である。尚、
図8では、
図2に対して、z方向において上下を逆に表示している。従って、
図8では、磁性部材ML(磁性部材MLij)の第1端部11a側が表示されている。MTJ素子14は、磁性部材MLの第1端部11aからZmtjだけ-z方向に離間して配置されている。
図8では図示しないが、MTJ素子14と磁性部材MLとの間には、
図2の非磁性導電層12が設けられている。
【0052】
磁性部材MLの第1端部11aの半径をr
MMLとする。この場合、z方向から見た平面視において、MTJ素子14の重心の位置は、重複部分の第1端部11aを中心として、磁性部材MLの法線方向、あるいは、磁性部材MLの径方向(x方向)に、±r
MML/5の範囲内に配置される。磁性部材MLの第1端部11aからの漏洩磁界H11aは、
図8に示すように、-z方向に対して斜め方向(例えば、45度の傾斜方向)に発生している。MTJ素子14がより多くの漏洩磁界H11aを受けるためには、MTJ素子14の重心は、重複部分の第1端部11aを中心としてx方向に±r
MML/5の範囲内に配置されることが好ましい。
【0053】
図9は、磁性部材の第1端部からの漏洩磁界のシミュレーション結果を示すグラフである。グラフの横軸は、磁性部材MLの中心軸からの距離rを示す。縦軸は、漏洩磁界のx-y面内の成分Hrおよびz方向の成分Hzの大きさを示す。成分Hrは、重複部分から磁性部材MLの法線方向、あるいは、磁性部材MLの径方向の成分と言ってもよい。成分Hzは、磁性部材MLの延伸方向の成分と言ってもよい。また、成分Hrと成分Hzとは互いに直交しており、(Hr
2+Hz
2)
1/2が漏洩磁界の全体の大きさとなる。尚、このシミュレーションでは、磁性部材MLの第1端部11aからMTJ素子14までの距離Zmtjは、約30nmとしている。また、磁性部材MLは、半径30nmの円筒形であるとしている。磁性部材MLの膜厚は、1nmとしている。磁性部材MLは飽和磁化(Ms)1000emu/ccの垂直磁化膜であるとしてシミュレーションを行った。
【0054】
ラインL_Hrは、成分Hrの大きさを示すラインである。ラインL_Hzは、成分Hzの大きさを示すラインである。
【0055】
ラインL_Hzで示すように、成分Hzは、磁性部材MLの中心軸に近いほど大きく、その中心軸から離れるに従って小さくなっていく。
【0056】
一方、ラインL_Hrで示すように、成分Hrは、磁性部材MLの第1端部11aに近いほど大きく、第1端部11aから離れるに従って小さくなっていく。即ち、成分Hrは、第1端部11aで最大となっており、ピークを有する。
【0057】
ここで、漏洩磁界のxy面内成分Hrは、第1端部11aの近傍が最も大きい。MTJ素子14は、磁界のx-y面内成分を検出する。従って、z方向から見た平面視において、MTJ素子14は、成分Hrのピークに合わせて、磁性部材MLの第1端部11aに重複する位置(上記重複部分)において大きな漏洩磁界を受けることができる。MTJ素子14は、磁界のx-y面内成分を検出するので、成分Hrが大きいほど、MTJ素子14は、信号を確実に検出することができる。
【0058】
例えば、成分Hrがそのピークの90%以上になるように、MTJ素子14のx方向(磁性部材MLの径方向)の位置を設定する場合、MTJ素子14の重心の位置は、z方向から見た平面視において、重複部分の第1端部11aを中心として、磁性部材MLの法線方向、あるいは、磁性部材MLの径方向(x方向)に、±rMML/5の範囲内に配置されることが好ましい。これにより、MTJ素子14は、磁性部材MLから大きな漏洩磁界を効率的に検出することができる。
【0059】
図10は、漏洩磁界とMTJ素子の抵抗値との関係を示すグラフである。このグラフの横軸は、MTJ素子14が受ける漏洩磁界Hの大きさを示す。縦軸は、MTJ素子14の抵抗値Rmtjを示す。
【0060】
漏洩磁界Hは、磁性部材MLの径方向の外向き(+x方向)を正とし、その逆方向を負とする。この場合、MTJ素子14は、漏洩磁界Hが負値の場合に高抵抗Rmtj_Hとなり、正値の場合に低抵抗Rmtj_Lとなる。漏洩磁界Hが0に近い場合、抵抗値Rmtjは、高抵抗Rmtj_Hと低抵抗Rmtj_Lとの間の抵抗値となる。抵抗値Rmtjは、漏洩磁界Hに依存して変化する。
【0061】
本実施形態では、MTJ素子14のフリー層14aの磁化方向と固定層14cの磁化方向は、平行(0度)または反平行(180度)のいずれかではなく、0度および180度以外の傾斜角で交差する。漏洩磁界Hが0に近い場合であっても、漏洩磁界Hに依存してフリー層14aの磁化方向と固定層14cの磁化方向との交差角が変化する。よって、漏洩磁界Hが0に近い場合であっても、抵抗値Rmtjは、漏洩磁界Hに依存して変化する。これにより、磁性部材MLからの漏洩磁界Hが比較的小さくても(微弱な信号であっても)、MTJ素子14は、漏洩磁界Hを検出することができる。よって、本実施形態によるMTJ素子14は、漏洩磁界Hの検出ウィンドウを広くとることができ、かつ、高感度で漏洩磁界Hを検出することができる。
【0062】
図11は、比較例のMTJ素子および磁性部材の配置例を示す図である。比較例では、z方向から見た平面視において、MTJ素子14の長手方向は、磁性部材MLの外縁の重複部分において法線方向である。また、固定層14cの磁化方向D14cは、磁性部材MLの径方向(x方向)である。さらに、フリー層14aの磁化方向D14aは、z方向から見た平面視において、磁性部材MLの重複部分における法線方向であり、固定層14cの磁化方向D14cと平行または反平行となっている。この場合、フリー層14aの磁化方向D14aは、磁性部材MLからの漏洩磁界Hによって、平行または反平行に切り替わる。
【0063】
図12は、
図11の比較例における漏洩磁界とMTJ素子の抵抗値との関係を示すグラフである。このグラフの横軸は、MTJ素子14が受ける漏洩磁界Hの大きさを示す。縦軸は、MTJ素子14の抵抗値Rmtjを示す。
【0064】
この場合、MTJ素子14の抵抗値Rmtjは、ヒステリシスを有する。よって、漏洩磁界Hが正の所定値を超えないと、MTJ素子14の抵抗値Rmtjは、高抵抗Rmtj_Hから低抵抗Rmtj_Lに切り替わらない。漏洩磁界Hが負の所定値を下回らないと、MTJ素子14の抵抗値Rmtjは、低抵抗Rmtj_Lから高抵抗Rmtj_Hに切り替わらない。即ち、抵抗値Rmtjは、漏洩磁界Hが絶対値として所定値(例えば、Hc)を超えないと、高抵抗Rmtj_Hと低抵抗Rmtj_Lとの間で切り替わらない。漏洩磁界Hが所定値Hcよりも小さく、0に近い場合、抵抗値Rmtjは、既存の抵抗状態(高抵抗Rmtj_Hまたは低抵抗Rmtj_L)を維持する。よって、磁性部材MLからの漏洩磁界Hが比較的小さいと、MTJ素子14は、漏洩磁界Hを検出することができない。
【0065】
これに対し、上述の通り、本実施形態によれば、漏洩磁界Hの絶対値が所定値Hc以下であっても、抵抗値Rmtjは、漏洩磁界Hに依存して変化する。これにより、磁性部材MLからの漏洩磁界Hが比較的小さくても(微弱な信号であっても)、MTJ素子14は、漏洩磁界Hを検出することができる。
【0066】
図13は、第1実施形態によるMTJ素子側から見たメモリセルアレイの構成例を示す斜視図である。
図14は、MTJ素子側から見たメモリセルアレイの構成例を示す平面図である。
図13に示すように、磁性部材MLの第1端部11a上には、非磁性導電層12が設けられ、非磁性導電層12上に、MTJ素子14が設けられている。
【0067】
図14に示すように、MTJ素子14の長手方向は、磁性部材MLの外縁の重複部分における接線方向にほぼ一致している。MTJ素子14は、各磁性部材MLの第1端部11aの同一方向に偏在している。或る磁性部材MLの漏洩磁界は、直上にあるMTJ素子14だけでなく、隣り合う磁性部材ML上にあるMTJ素子14にも影響する。隣り合う磁性部材MLからの漏洩磁界による影響を、以下、隣接セル間干渉ともいう。
図14に示すように、MTJ素子14を各磁性部材MLの第1端部11aの同一方向に偏在させることによって、隣接セル間干渉を、複数のMTJ素子14において略均一にすることができる。
【0068】
(第2実施形態)
図15は、第2実施形態による磁気メモリの磁性部材MLの構成例を示す斜視図である。
図16は、第2実施形態による磁気メモリの磁性部材MLの構成例を示す断面図である。第2実施形態によれば、磁性部材MLの第1端部11aが、磁性部材MLの延伸方向(z方向)に対して磁性部材MLの内側へ向かって傾斜している。よって、磁性部材MLの第1端部11aの開口は、第1端部11aの端面に近づくに従って小さくなっている。また、磁性部材MLの第1端部11aの開口は、第2端部11bの開口よりも小さい。
【0069】
例えば、
図16に示すように、第1端部11aは、磁性部材MLの端面から50nmの位置から傾斜している。第1端部11aの傾斜は、磁性部材MLの延伸方向(z方向)に対して磁性部材MLの内側へ向かって約10度の角度で傾斜している。第1端部11aよりも第2端部11b側の磁性部材MLの直径は約60nmとし、第1端部11aの端面の開口径は約42nmとしている。
【0070】
図17は、漏洩磁界のx-y面内の成分Hrと磁性部材の中心軸からの距離rのシミュレーション結果を示すグラフである。このグラフの横軸は、磁性部材MLの中心軸からの距離rを示す。縦軸は、漏洩磁界のx-y面内の成分Hrの大きさを示す。尚、このシミュレーションでは、磁性部材MLの第1端部11aからMTJ素子14までの距離Zmtjは、約30nmとしている。磁性部材MLの膜厚は、1nmとしている。縦軸は、正規化されている。
【0071】
ラインL_Hr0は、比較例として
図18に示すように、第1端部11aが傾斜していない磁性部材MLの漏洩磁界の成分Hrを示すラインである。ラインL_Hr1は、
図15に示すように、第2実施形態による第1端部11aが傾斜している磁性部材MLの漏洩磁界の成分Hrを示すラインである。
【0072】
ラインL_Hr0、L_Hr1は、距離rが大きくなると、最大値(ピーク)を有し、その後、減衰している。また、距離rの増大に伴い、ラインL_Hr1は、ラインL_Hr0よりも早く減衰している。即ち、距離rの増大に伴い第2実施形態の磁性部材MLは、比較例のそれよりも、漏洩磁界の成分Hrが早く減衰する。
【0073】
例えば、隣り合う複数の磁性部材ML間の距離rが90nmであるとする。この場合、rが90nm以上のときの漏洩磁界を比較すると、ラインL_Hr1は、ラインL_Hr0よりも小さい。即ち、隣接セル間干渉は、ラインL_Hr0で示す比較例よりもラインL_Hr1で示す第2実施形態の方が小さくなる。
【0074】
図18は、比較例による磁性部材の構成を示す斜視図である。
図19は、
図18に示す磁性部材MLの第1端部11aから生じる漏洩磁界の磁力線を示す図である。
図20は、
図15に示す第2実施形態による磁性部材MLの第1端部11aから生じる漏洩磁界の磁力線を示す概念図である。
【0075】
図19および
図20を比較すると、矢印Aで示すように、第2実施形態の磁性部材MLの磁力線は、比較例のそれよりも上方(-z方向)へ向かっている。磁性部材MLの磁力線が比較例のそれよりも上方へ向いているため、漏洩磁界の成分Hrは、比較例のそれよりも距離rの増大によって早く減衰する。これにより、隣り合う磁性部材MLに与える漏洩磁界の影響は、比較例よりも第2実施形態において小さくなる。その結果、第2実施形態では、隣接セル間干渉を低く抑制することができる。
【0076】
(第3実施形態)
図21は、第3実施形態による磁気メモリの磁性部材MLの構成例を示す断面図である。第3実施形態は、磁性部材MLの第1端部11aが、磁性部材MLの延伸方向(-z方向)に対して磁性部材MLの内側へ向かって傾斜している点で第2実施形態と同様である。しかし、第3実施形態によれば、磁性部材MLの第1端部11aの膜厚が、磁性部材MLの第2端部11b側の他の部分よりも厚くなっている。また、磁性部材MLの厚みは、磁性部材MLの内側へ向かって傾斜している傾斜部分において第1端部11aの端面に近づくに従って厚くなっている。例えば、磁性部材MLの膜厚は、第1端部11a以外の部分において1nmであり、第1端部11aの端面に近づくに従って厚くなり、第1端部11aの端面において2nmとなっている。第3実施形態のその他の構成は、第2実施形態の対応する構成と同様でよい。
【0077】
図22は、漏洩磁界のx-y面内の成分Hrと磁性部材の中心軸からの距離rのシミュレーション結果を示すグラフである。このグラフの横軸は、磁性部材MLの中心軸からの距離rを示す。縦軸は、漏洩磁界のx-y面内の成分Hrの大きさを示す。尚、このシミュレーションでは、磁性部材MLの第1端部11aからMTJ素子14までの距離Zmtjは、約30nmとしている。また、縦軸は、正規化されておらず、各ラインL_Hr0~L_Hr2の磁界の大きさを表している。磁性部材MLは飽和磁化(Ms)1000emu/ccの垂直磁化膜であるとしてシミュレーションを行った。
【0078】
ラインL_Hr0は、比較例として、第1端部11aが傾斜していない磁性部材MLの漏洩磁界の成分Hrを示す(
図18)。ラインL_Hr1は、第2実施形態による第1端部11aが傾斜している磁性部材MLの漏洩磁界の成分Hrを示す(
図15)。即ち、ラインL_Hr0、L_Hr1は、それぞれ
図17に示すラインL_Hr0、L_Hr1に対応している。ラインL_Hr2は、第3実施形態による第1端部11aが傾斜しかつ厚くなっている磁性部材MLの漏洩磁界の成分Hrを示す(
図21)。
【0079】
ラインL_Hr0~L_Hr2は、いずれも距離rが大きくなると、最大値(ピーク)を有し、その後、減衰している。しかし、距離rの増大に伴い、ラインL_Hr1、L_Hr2は、ラインL_Hr0よりも早く減衰している。
【0080】
ラインL_Hr1は、ラインL_Hr0よりも最大値(ピーク)が小さい。即ち、ラインL_Hr1に対応する漏洩磁界の成分Hrは、ラインL_Hr0に対応する漏洩磁界の成分Hrよりも小さい。一方、ラインL_Hr2は、ラインL_Hr0、L_Hr1よりも最大値(ピーク)が大きい。即ち、ラインL_Hr2に対応する漏洩磁界の成分Hrは、ラインL_Hr0、L_Hr1に対応する漏洩磁界の成分Hrよりも大きくなっているが、距離rの増大に伴い早く減衰する。
【0081】
このように、第3実施形態では、磁性部材MLの第1端部11aの膜厚を厚くすることによって、漏洩磁界の成分Hrを増大させることができる。なおかつ、磁性部材MLの第1端部11aを傾斜させることによって、磁性部材MLの中心軸からの距離rに従って漏洩磁界の成分Hrを早く減衰させることができる。即ち、第3実施形態によれば、第1端部11aを傾斜させてかつその膜厚を厚くすると、磁性部材MLの漏洩磁界の成分Hrは、大きなピークを有し、かつ、距離rが大きくなるにしたがって早く減衰する。これにより、第3実施形態による磁性部材MLは、MTJ素子14に大きな漏洩磁界を印加することができるとともに、隣接セル間干渉を低く抑えることができる。
【0082】
第3実施形態による磁性部材MLは、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用いて形成することができる。例えば、磁性部材MLの成膜工程において、第1端部11a側からプロセスガスを流す場合、プラズマを第1端部11a近傍に照射することによって、成膜反応が第1端部11aにおいてエンハンスされる。これにより、磁性部材MLの第1端部11aを他の部分よりも厚く形成することができる。
【0083】
また、磁性部材MLの成膜工程において、第2端部11b側からプロセスガスを流す場合、磁性部材MLの第1端部11a側の開口を狭くすることによって、第1端部11aの近傍において、プロセスガスの濃度が高くなる。これにより、磁性部材MLの第1端部11aを他の部分よりも厚く形成することができる。このように、第3実施形態による磁性部材MLは形成され得る。
【0084】
以上のように、第3実施形態によれば、第1端部11aを傾斜させてかつその膜厚を厚くすることにより、磁性部材MLは、MTJ素子14に大きな漏洩磁界を印加することができるとともに、隣接セル間干渉を低く抑えることができる。その結果、隣接セル間干渉の抑制は、データの読出しエラーの抑制につながる。
【0085】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0086】
10 メモリ部
25 磁気回路
25a~25d ヨーク
FL フィールドライン
PL プレート電極
ML 磁性部材
11a 第1端部
11b 第2端部
14 MTJ素子
14a フリー層
14b 非磁性絶縁層
14c 固定層