(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114535
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】クリーム絞り袋及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B65D 30/28 20060101AFI20240816BHJP
B65D 30/02 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
B65D30/28 E
B65D30/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023020371
(22)【出願日】2023-02-13
(71)【出願人】
【識別番号】520026814
【氏名又は名称】株式会社せき製袋
(74)【代理人】
【識別番号】100110711
【弁理士】
【氏名又は名称】市東 篤
(72)【発明者】
【氏名】加藤 大博
【テーマコード(参考)】
3E064
【Fターム(参考)】
3E064AD06
3E064BA09
3E064BA11
3E064BA21
3E064BB03
3E064FA05
3E064GA02
(57)【要約】
【課題】使い易さを損なわずにコーティング加工の劣化を抑えることができるクリーム絞り袋及びその製造方法を提供する。
【解決手段】芯布地12の片側面13に所要厚さT1の樹脂膜13aをコーティングすると共に,反対側面14に片側面13より厚い厚さT2の樹脂膜14aをコーティングした加工シート10から扇形加工シート15を切り出し,切り出した扇形加工シート15を反対側面14が内側となるように両半径部分16,17を接着剤21により結合して円錐形状に成形する。好ましくは,芯地材12を天然繊維製の織物又は編物とし,扇形加工シート15の反対側面14の樹脂膜14aを片側面13の樹脂膜13aに対して2倍以下の厚さT2(≦T1×2)とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯地材の片側面を所要厚さの樹脂膜でコーティングすると共に反対側面を前記片側面より厚い樹脂膜でコーティングした加工シートから扇形に切り出された扇形加工シート,及び前記扇形加工シートを前記反対側面が内側となるように両半径部分を結合して円錐形状に成形する接着剤を備えてなるクリーム絞り袋。
【請求項2】
請求項1のクリーム絞り袋において,前記芯地材を天然繊維製とし,前記扇形加工シートの反対側面の樹脂膜を片側面の樹脂膜に対して2倍以下の厚さとしてなるクリーム絞り袋。
【請求項3】
請求項1のクリーム絞り袋において,前記扇形加工シートの片面側の頂端部分に,前記加工シートから前記扇形加工シートより小径で相似形に切り出された小径扇形加工シートを重ね合わせて一体化してなるクリーム絞り袋。
【請求項4】
請求項1のクリーム絞り袋において,前記扇形加工シートの片面側の円弧部分に,円弧全体にわたり縁取りを設けてなるクリーム絞り袋。
【請求項5】
請求項1のクリーム絞り袋において,前記加工シートの片側面及び反対側面の何れか又は両面の樹脂膜に所望色の顔料を混入してなるクリーム絞り袋。
【請求項6】
芯地材の片側面に所要厚さの樹脂膜をコーティングすると共に反対側面に前記片側面より厚い樹脂膜をコーティングした加工シートから扇形加工シートを切り出し,切り出した扇形加工シートを前記反対側面が内側となるように両半径部分を接着剤により結合して円錐形状に成形してなるクリーム絞り袋の製造方法。
【請求項7】
請求項6の製造方法において,前記扇形加工シートの片側面の樹脂膜の厚さに対する反対側面の樹脂膜の厚さの比率を,前記扇形加工シートの周縁に反り返りを発生させない厚さとしてなるクリーム絞り袋の製造方法。
【請求項8】
請求項6の製造方法において,前記扇形加工シートの片側面及び反対側面の樹脂膜の材料を,前記扇形加工シートの周縁に反り返りを発生させないように選択してなるクリーム絞り袋の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はクリーム絞り袋及びその製造方法に関し,とくに繰り返し使用することができるクリーム絞り袋及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から,洋菓子等に生クリームやアイシングを絞り出してデコレーション(飾り)をする場合や,羊腸に豚ひき肉,牛ひき肉,玉ねぎ等の肉だねを詰めてソーセージをつくる場合に,
図3に示すような絞り袋40が使用される。図示例の絞り袋40は,例えば円錐形の袋であり,その底辺を開放して投入口41aとし,先端(頂端)を所定大きさカットして口金孔41bとしたものである。
図3(A)に示すように,絞り袋40の内側から口金孔41bに絞り用口金50を装着したのち,投入口41aから絞り袋40内に生クリームや肉だね等(以下,これらをまとめてクリームCということがある)を詰め込む。
【0003】
次いで
図3(B)に示すように,クリームCを詰め込んだ絞り袋40の外面に作業員が握り圧力Fを加えることで口金50の先端からクリームCを絞り出す。例えば,握り圧力Fを適当に調整しながら口金50を動かすことにより,洋菓子上に生クリームで所望の文字や模様を描いてデコレーションを仕上げることができる。また,羊腸を伸ばしながら口金50の先端から肉だねを羊腸の内部に所要長さだけ押し出し,口金50を外して羊腸の端を縛る作業を繰り返すことにより,紐状に連なった所要長さのソーセージを作ることができる。
【0004】
従来の絞り袋40は,合成樹脂製又は天然繊維製のものが広く使用されている。例えば特許文献1は,円錐状の側面形状であって,その円錐状側面の半分が色付き半透明の合成樹脂材料で形成され,残りの半分が透明の合成樹脂材料で形成された絞り袋を開示している。また特許文献2は,ポリエチレン,ポリビニール,ナイロン等の合成樹脂製フィルムにより構成され,上部に粘調性食品の充填供給口を開口させ,V字状に尖らせて封止した下端部の下方に,その下端部から放射状に袋の両側面を部分的に線状溶着させた絞り袋を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実用新案登録第3213615号公報
【特許文献2】実開昭60-033047号公報
【特許文献3】実公昭56-040317号公報
【特許文献4】実開昭39-013493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び2が開示する合成樹脂製の絞り袋40は,比較的薄いので柔らかく,内側に詰め込んだクリームCを比較的小さな圧力Fで簡単に絞り出すことができる。ただし,合成樹脂製の絞り袋40は基本的に使い捨てのものであり,1回使用しただけで廃棄せざるをえない。このため,洋菓子やソーセージ等を製造する食品工場等において合成樹脂製の絞り袋40を使用する場合は,絞り袋40の廃棄物が大量に発生する問題点がある。最近は環境汚染防止の観点から合成樹脂(プラスチック)廃棄物を削減することが求められており,使い捨ての合成樹脂製の絞り袋40の大量使用についても見直しが求められている。
【0007】
これに対して天然繊維製(例えば綿布繊維製)の絞り袋40は,使用した後に洗剤等で洗浄すると共に定期的な煮沸殺菌を施したのち乾燥させることで繰り返し使用することができる。また天然繊維製の絞り袋40は,使用を継続するうちに作業員の握りに馴染むようになり,合成樹脂製のものよりも使い易くなる。このため最近は,環境汚染防止の観点からも,食品工場等において天然繊維製の絞り袋40を使用することが増えている。
【0008】
しかし,天然繊維製の絞り袋40は,繊維くずの発生を防ぐと共に防水加工のため,表面にコーティング加工を施すことが通常である。コーティング加工を施した天然繊維製の絞り袋40は比較的厚くなり,使い始め当初は内側に詰め込んだクリームCを絞り出すために比較的大きな圧力Fを加える必要がある。洗浄・殺菌を繰り返すうちに徐々に使い易くなるが,できるだけ使い始め当初から使い易いことが望ましい。
【0009】
また,コーティング加工を施した絞り袋40は洗浄・殺菌(煮沸処理)を繰り返しながら再利用するので,コーティング加工が徐々に劣化するおそれもある。コーティング加工の劣化は,内側に詰め込んだクリームC中に繊維くずが混入したり,クリームCが外側に染み出す原因となる。本発明者の経験によれば,コーティング加工を施した絞り袋40は付着したクレームCを落とすために絞り袋40を裏返して洗浄するため,とくに絞り袋40の内側のコーティング加工の劣化が進みやすい。コーティング加工を施した絞り袋40の劣化を抑えるためには,内側のコーティング加工を強化することが有効である。
【0010】
そこで本発明の目的は,使い易さを損なわずにコーティング加工の劣化を抑えることができるクリーム絞り袋及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
図1の実施例を参照するに,本発明によるクリーム絞り袋20は,芯布地12の片側面13を所要厚さT1の樹脂膜13aでコーティングすると共に反対側面14を片側面13より厚い(厚さT1より大きい厚さT2の)樹脂膜14aでコーティングした加工シート10から扇形に切り出された扇形加工シート15(
図1(A)及びその断面図である
図1(C)参照),及び扇形加工シート15を反対側面14が内側となるように両半径部分16,17を結合して円錐形状に成形する接着剤21(
図1(D)参照)を備えてなるものである。
【0012】
芯地材12は,例えば天然繊維製又は合成樹脂製とすることができる。好ましい実施例では,芯地材12を天然繊維製の織物又は編物とし,扇形加工シート15の反対側面14の樹脂膜14aを,片側面13の樹脂膜13aより厚いが樹脂膜13aに対して2倍以下の厚さT2(≦T1×2)とする。或いは,芯地材12を合成樹脂製とし,扇形加工シート15の反対側面14の樹脂膜14aを片側面13の樹脂膜13aに対して2倍以上の厚さT2(≧T1×2)としてもよい。
【0013】
望ましい実施例では,
図1(A)に示すように扇形加工シート15の片面側の頂端部分に,加工シート10から扇形加工シート15より小径で相似形に切り出された小径扇形加工シート18(
図1(B)参照)を重ね合わせて一体化する。更に望ましい実施例では,
図1(D)に示すように円錐形状に成形した円弧部分(クリームCの投入口となる部分)20aの片面側に,円弧全体にわたり縁取り19を設ける。
【0014】
また
図1及び
図2の実施例を参照するに,本発明によるクリーム絞り袋20の製造方法は,芯布地12の片側面13に所要厚さT1の樹脂膜13aをコーティングすると共に(
図2(A)参照),反対側面14に片側面13より厚い(厚さT1より大きい厚さT2の)樹脂膜14aをコーティングして加工シート10(
図2(B)参照)とし,その加工シート10から扇形加工シート15を切り出し(
図2(C)参照),切り出した扇形加工シート15を反対側面14が内側となるように両半径部分16,17を接着剤21により結合して円錐形状に成形(
図1(D)参照)してなるものである。
【0015】
好ましい実施例では,扇形加工シート15の片側面13の樹脂膜13aに対する反対側面14の樹脂膜14aの厚さT2を,扇形加工シート15の周縁に反り返りを発生させない厚さとする。望ましい実施例では,扇形加工シート15の片側面13及び反対側面14の樹脂膜13a,14aの材料を,扇形加工シート15の周縁に反り返りを発生させないように選択する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によるクリーム絞り袋及びその製造方法は,芯布地12の片側面13に所要厚さT1の樹脂膜13aをコーティングすると共に,反対側面14に片側面13より厚い厚さT2の樹脂膜14aをコーティングした加工シート10から扇形加工シート15を切り出し,切り出した扇形加工シート15を反対側面14が内側となるように両半径部分16,17を接着剤21により結合して円錐形状に成形するので,次の有利な効果を奏する。
【0017】
(イ)従来のように芯布地12の片側面(外側面)13及び反対側面(内側面)14にほぼ均等の厚さの樹脂膜をコーティングするのではなく,反対側面(内側面)14の樹脂膜14aを片側面(外側面)13の樹脂膜13aより厚くすることにより,洗浄・殺菌を繰り返した場合でも内側のクリームCが外側に染み出すおそれ等がなく,コーティング加工が劣化しにくいクリーム絞り袋20とすることができる。
(ロ)作業員が圧力Fを加える芯布地12の片側面(外側面)13の樹脂膜13aは,繊維くずの発生等が防止できる範囲内で最小の厚さT1に抑えることができ,使い始めたのち比較的早期に作業員の握りに馴染むようなクリーム絞り袋20とすることができる。
(ハ)片側面13及び反対側面14の何れか又は両方の樹脂膜13a,14abに所望色の顔料Pを混入することが可能であり,従来のような白色系のみのクリーム絞り袋20に代えて黒色系,赤色系,青色系等の様々な色彩のクリーム絞り袋20とすることができ,例えば食品工場等において内側に詰め込むクリームCの種類別に,或いは作業担当者別に,更には作業時間別に色彩の異なるクリーム絞り袋20を使い分けることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
以下,添付図面を参照して本発明を実施するための形態及び実施例を説明する。
【
図1】本発明によるクリーム絞り袋の一実施例の説明図である。
【
図2】本発明によるクリーム絞り袋の製造方法の一実施例の説明図である。
【
図3】クリーム絞り袋の使い方を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は,本発明による天然繊維製のクリーム絞り袋20の一実施例を示す。
図1(A)は天然繊維である綿繊維製織物(コットン)を芯布地12とした加工シート10から扇形に切り出した扇形加工シート15を示し(
図2(C)も参照),
図1(D)は切り出した扇形加工シート15の両半径部分16,17を接着剤21により結合して円錐形状に成形した絞り袋20を示す。
図1(C)は加工シート10(又は扇形加工シート15)の断面図を表し,加工シート10が芯布地12の両面13,14にそれぞれウレタン樹脂膜13a,14aをコーティングしたものであり,芯布地12の片側面13の樹脂膜13aを繊維くずの発生等が防止できる所要厚さT1とし,芯布地12の反対側面14の樹脂膜14aを片側面13より大きい厚さT2とすることを示している。
【0020】
以下,
図1を参照して本発明を説明するが,本発明で利用可能なクリーム絞り袋20の芯布地12は綿繊維製織物に限定されるわけではなく,任意の天然繊維製の織物又は編物を芯布地12とすることができる。また,天然繊維製だけでなく,例えばポリエステル,ナイロン等の合成繊維製の芯布地12に本発明を適用して樹脂膜のコーティングを施すことにより絞り袋20を製造することも可能である。更に,クリーム絞り袋20の両面13,14の樹脂膜13a,14aもウレタン樹脂製に限定されず,従来から絞り袋20のコーティング膜として利用されてきた様々な樹脂を用いることができる。
【0021】
図2は,ウェットコーティング技術を用いて加工シート10を製造する樹脂コーティング装置30の一例を示す。ウェットコーティング技術はコーティング対象の芯布地12の表面に所定膜厚の樹脂Rをコーティングする技術であり,図示例のコーティング装置20は布地を挿入する一対のコーティング用ローラ31,32と,そのコーティング用ローラ31,32の後方に配置された冷却用ローラ33とを有する。
【0022】
図2においてコーティング対象の芯布地12は,コーティング用ローラ31,32を通過する際に片面側に高温の溶けた状態の樹脂Rが塗布されると共に所定厚さの膜状に展開され,後方の冷却用ローラ33において樹脂Rが定着して布地にコーティングされる。コーティングされる樹脂膜の厚さT1は,コーティング用ロー ラ31,32における芯布地12の送り速度と樹脂Rの流量とより調整することができる。或いは,コーティング用ロー ラ31,32において樹脂膜に外力(ブレード等の種類や押し込み具合)を加えて過剰液を除去することにより,コーティングされる樹脂膜の厚さT1を調整するようなコーティング装置30とすることも可能である。樹脂膜の厚さT1は,コーティング装置30に通す回数(コーティング回数)によっても調整することができる。
【0023】
図2(A)は,漂白等の必要な前処理を施した芯布地12を樹脂コーティング装置30に送り込み,芯布地12の片側面13に所要厚さT1の樹脂膜13aをコーティングする処理を示す。樹脂膜13aの厚さT1は,例えば片側面からの繊維くずの発生等が防止できる最小値に設定することができ,好ましくは10~50μm,更に好ましくは10~30μm程度に設定する。樹脂膜13aの厚さT1を小さく抑えることにより,コーティングされた加工シート10の仕上げを柔らかくすることができる。
【0024】
また
図2(B)は,片側面13が樹脂膜13aでコーティングされた芯布地12を樹脂コーティング装置30に送り込み,芯布地12の反対側面14を所要厚さT2の樹脂膜14aでコーティングする処理を示す。樹脂膜14aの厚さT2は,
図1(C)に示すように片側面13の樹脂膜13aの厚さT1より大きくなる(T2>T1となる)ように調整する。樹脂膜14aの厚さT2は,例えば樹脂膜13aの厚さT1の約2倍程度に設定することができ,好ましくは20~100μm,更に好ましくは20~60μm程度に設定する。樹脂膜14aの厚さT2を大きくすることにより,コーティングされた加工シート10の洗浄や殺菌処理に対する耐性を高めることができる。
【0025】
図2(C)は,片側面13及び反対面側14にそれぞれ樹脂膜13a,14aがコーティングされた加工シート10から,
図1(A)に示すような扇形加工シート15を切り出す処理を示す。切り出した扇形加工シート15を反対側面14が内側となるように両半径部分16,17を接合させて円錐形状にまるめ,接合させた両半径部分16,17を接着剤21で結合することにより,
図1(D)のような円錐形状に成形されたクリーム絞り袋20を製造することができる。
【0026】
図1(D)に示す接着剤21は,クリーム絞り袋20の高温での洗浄・殺菌(煮沸処理)を繰り返しても接合部分が剥離しないように,十分な強度と耐薬品性・耐熱性等を有するものとすることが望ましい。例えば,扇形加工シート15の両半径部分16,17の樹脂膜13a,14aを高い強度で密着(接着)させるポリウレタン系接着剤(商品名ニッポラン等)とイソシアネート系硬化剤(商品名タケネート等)とを組み合わせた接着剤21を使用することができる。従来から絞り袋20に利用されている他の接着剤21を用いることも可能であるが,樹脂膜13a,14aとの相性によって接着剤21との密着性が低下する場合もあるので,樹脂膜13a,14aと組み合わせにより密着性の低下が生じないような接着剤21を選択するか,或いは接着剤21の密着性の低下が発生しないような樹脂膜13a,14aを選択することが望ましい。
【0027】
図1(D)のクリーム絞り袋20は,作業員が圧力Fを加える片側面(以下,外側面ということがある)13の樹脂膜13aの厚さT1が薄くなっているので,内側に充填したクリームCに作業員の圧力Fが伝わりやすく,作業員の握りに応じてクリームCを絞り出しやすい(馴染みやすい)ものとなっている。他方,クリームCを充填する反対側面(以下,内側面ということがある)14の樹脂膜14aを厚くしているので,内側のクリームCが外側に染み出すおそれがなく,しかも内外を逆転させて洗浄・殺菌を繰り返した場合でもコーティング加工が劣化しにくいものとすることができる。クリーム絞り袋20の外側面13の樹脂膜13aの厚さT1と内側面14の樹脂膜14aの厚さT2との比率(T2/T1)は,厚さT2が厚さT1より大きくなる範囲で適宜調整可能である。
【0028】
もっとも,
図1(A)の扇形加工シート15は両表面13,14にコーティングされた樹脂膜13a,14aの収縮により表面と平行な方向の引張り力(張力)が生じており,両表面13,14に塗布される樹脂量が同じであれば張力も均等であるが,樹脂膜の厚い内側面14の張力が外側面13よりも大きくなり,両表面の張力の差が大きくなると扇形加工シート15の周縁部分に反り返り(内側へのカール)が生じうる。反り返りの生じた扇形加工シート15は円錐形状に成形しにくく,接着剤21も付着させにくくなるので,
図1(D)のような円錐形状のクリーム絞り袋20を製造する効率が低下してしまう。また,後述するように扇形加工シート15と小径で相似形の小径加工シート18とを重ね合わせる場合は,扇形加工シート15の反り返りが重ね合わせの障害となりうる。このため,扇形加工シート15の外側面13の樹脂膜13aの厚さT1に対する内側面14の樹脂膜14aの厚さT2の比率(T2/T1)は,扇形加工シート15の周縁部分に反り返りを生じさせない範囲で調整することが望ましい。
【0029】
また,本発明者の予備的実験によれば,扇形加工シート15の外側面13と内側面14との厚さT1,T2の比率(T2/T1)は,扇形加工シート15の芯地材12の種類に応じて反り返りを生じさせないように調整することが望ましい。すなわち,例えば芯地材12を合成樹脂製とした場合は,外側面13の樹脂膜13aの厚さT1に対する内側面14の樹脂膜14aの厚さT2の比率を2倍以上(T2/T1≧2)としても,扇形加工シート15の周縁部分の反り返りは生じにくい。これに対して芯地材12を天然繊維製とした場合は,外側面13の樹脂膜13aの厚さT1に対する内側面14の樹脂膜14aの厚さT2の比率を2倍以下(T2/T1≦2)としても,扇形加工シート15の周縁部分に反り返りを生じることがある。
【0030】
芯地材12の種類によって扇形加工シート15に生じる反り返りの相違が生じる原理の詳細は不明であるが,合成樹脂製の芯地材12は樹脂Rが浸透しにくく,比較的少量の樹脂Rの塗布により両表面13,14に厚さの異なる樹脂膜がコーティングできるのに対し,天然繊維製の芯地材12は樹脂Rが浸透しやすく,両表面13,14に厚さの異なる樹脂膜をコーティングするために比較的多量の樹脂Rを塗布する必要がある。芯地材12の種類によって塗布する樹脂量に差があることが,扇形加工シート15に生じる反り返りの相違に関係していると考えられる。
【0031】
従って,天然繊維製の芯地材12を用いる場合は,扇形加工シート15の周縁部分の反り返りを抑えるために,扇形加工シート15の外側面13の樹脂膜13aの厚さT1に対する内側面14の樹脂膜14aの厚さT2の比率を2倍以下(T2/T1≦2)とすることが有効である。例えば,芯布地12を綿繊維製織物(コットン)製とした場合は,外側面13の樹脂膜13aの厚さT1に対する内側面14の樹脂膜14aの厚さT2の比率(T2/T1)を1.2~1.8倍程度とし,好ましくは1.4~1.6倍程度,更に好ましくは1.5倍程度とする。
【0032】
これに対して合成樹脂製の芯地材12を用いる場合は,外側面13の樹脂膜13aの厚さT1に対する内側面14の樹脂膜14aの厚さT2の比率を2倍以上(T2/T1≧2)とすることにより,周縁部分の反り返りを抑えつつ,作業員の握りに一層馴染みやすく且つ一層劣化しにくい扇形加工シート15とすることができる。例えば,芯布地12をポリエステル製とした場合は,外側面13の樹脂膜13aの厚さT1に対する内側面14の樹脂膜14aの厚さT2の比率(T2/T1)を2~4倍程度とし,好ましくは2.5~3.5倍程度,更に好ましくは3倍程度とする。
【0033】
更に,扇形加工シート15の周縁部分の反り返りを抑えるためには,外側面13の樹脂膜13aと内側面14の樹脂膜14aとの厚さT1,T2の比率(T2/T1)の調整に加えて,又は調整とは独立して,外側面13と内側面14とに塗布する樹脂Rの種類を切り替えることも有効である。すなわち,扇形加工シート15の周縁部分の反り返りの原因は上述したように外側面13及び内側面14の樹脂膜13a,14aの引張り力(張力)の差が大きくなることにあるので,塗布する樹脂Rを切り替えて樹脂膜13a,14aの張力の差を小さくすることにより,樹脂膜13a,14aの厚さT1,T2の比率(T2/T1)を大きく変えることなく周縁部分の反り返りを抑えることが期待できる。
【0034】
例えば,扇形加工シート15の外側面13及び内側面14の樹脂膜13a,14aを,それぞれ通常のウレタン樹脂(高密度ウレタン)100%とするのではなく,ソフトウレタン樹脂(低密度ウレタン)を適宜混合した混合ウレタン(例えば高密度ウレタン60%+低密度ウレタン40%)とする。ソフトウレタンを配合して樹脂膜13a,14aの張力をそれぞれ小さくする(柔らかくする)ことにより,扇形加工シート15の周縁部分の反り返りを軽減することができる。ただし,ソフトウレタンの混合割合を高め過ぎると樹脂膜13a,14aと芯地材12との接着力が弱くなるおそれがあるため,芯地材12との接着力が弱くならなにように通常のウレタンとソフトウレタンとの混合割合を調整することが望ましい。樹脂膜13a,14aの張力を小さくするため,ウレタン樹脂(高密度ウレタン)にアクリルを適宜混合することも有効である。
【0035】
また,扇形加工シート15の外側面13の樹脂膜13aは高密度ウレタン100%とし.内側面14の樹脂膜14aのみにソフトウレタン樹脂(低密度ウレタン)を適宜混合して混合ウレタン(例えば高密度ウレタン60%+低密度ウレタン40%)とすることにより,扇形加工シート15の反り返りを抑えることも可能である。すなわち,内側面14の樹脂膜14aを外側面13の樹脂膜13aよりも厚くするが,樹脂膜14aを混合ウレタン製として張力を小さく(柔らかく)して扇形加工シート15の反り返りを防止することにより,
図1(D)のように扇形加工シート15を円錐形状のクリーム絞り袋20に成形する作業の容易化を図ることができる。
【0036】
本発明のクリーム絞り袋20は,クリームCを充填する内側面(反対側面)14の樹脂膜14aを外側面(片側面)13の樹脂膜13aより厚くしているので,内外を逆転させて洗浄・殺菌を繰り返した場合でもコーティング加工が劣化しにくく,内側のクリームCが外側に染み出すおそれ等のないクリーム絞り袋20とすることができる。しかも,作業員が圧力Fを加える外側面(片側面)13の樹脂膜13aは繊維くずの発生等が防止できる範囲内で最小の厚さT1に抑えることができので,使い始めたのち比較的早期に作業員の握りに馴染みやすいクリーム絞り袋20とすることができる。
【0037】
こうして本発明の目的である「使い易さを損なわずにコーティング加工の劣化を抑えることができるクリーム絞り袋及びその製造方法」の提供が達成できる。
【実施例0038】
図2(C)の実施例では,片側面13及び反対面側14にそれぞれ樹脂膜13a,14aがコーティングされた加工シート10から扇形加工シート15を切り出すと共に,扇形加工シート15より小径で相似形の小径加工シート18(
図1(B)参照)を切り出している。
図1(A)及び(B)に示すように扇形加工シート15の片側面(外側面)13の頂端部分に,扇形加工シート15の頂端及び両半径部分16,17と小径加工シート18の頂端及び両半径部分とを重ね合わせ,接着剤21で結合することにより一体化する。そのうえで
図1(D)に示すように,小径加工シート18と一体化された扇形加工シート15を反対側面14が内側となるように円錐形状にまるめ,両半径部分16,17を接着剤21で結合することにより絞り袋20を製造する。
【0039】
図3を参照して上述したように,絞り袋20の先端(頂端)は所定大きさでカットして口金孔とし,その口金孔に内側から絞り用口金50を装着するが,洗浄・殺菌を繰り返すたびに口金50の装着・取り外しも繰り返すことになって絞り袋20の先端(頂端)に大きな負荷がかかるので,とくに絞り袋20の先端部分のコーティング加工の劣化が進みやすいことが経験されている。扇形加工シート15の頂端部分に小径加工シート18を重ね合わせて一体化することにより,口金50の装着・取り外しを繰り返した場合でもコーティング加工が劣化しにくいクリーム絞り袋20とすることができる。
【0040】
好ましい実施例では,
図1(D)に示すように,円錐形状に成形した扇形加工シート15の片側面(外側面)13の円弧部分に,円弧全体にわたり所要幅の縁取り19を設ける。扇形加工シート15の円弧部分はクリーム絞り袋20の投入口20aとなる部分であり,円弧全体にわたって縁を所要幅で折り返して縫い合わせた縁取り19を設けることにより投入口20aを補強することができる。縁取り19を設けた投入口20aは,
図3(A)のようにクリームCの投入時などに開放した状態を安定的に維持することができ,絞り袋20の使い易さを高めることができる。
【0041】
更に好ましくは,扇形加工シート15の円弧部分の縁を1回折り返すだけでなく,2回折り込んで縫い合わせた三つ折りの縁取り19を設ける。三つ折りの縁取り19は,三層重なった構造であるため作成に手間がかかるが,洗浄・殺菌を繰り返した場合でもクリーム絞り袋20の投入口20aをしっかりと補強することができ,ほつれずらく繊維くずも発生しにくいので,クリーム絞り袋20の使用期間(寿命)を伸ばすことができるという利点がある。縁取り19の所要幅は絞り袋20の全体の大きさに応じて適宜選択できるが,例えば絞り袋20の端部に
図1(D)に示すような引っ掛け紐19aをループ状に縫い付けるのに十分な0.3~1.0cm程度の幅とすることができる。
上述した従来の合成樹脂製の使い捨ての絞り袋40は様々な色のものが提供されてきたのに対し,洗浄・殺菌を繰り返しながら再利用する従来の天然繊維製の絞り袋は表面の汚れ等が目立つように全体的に白色とすることが多かった。環境汚染防止等の観点から,合成樹脂製の絞り袋40を天然繊維製の絞り袋に置換する必要性が高まっているが,従来から合成樹脂製の絞り袋40を様々な色別に使い分けていた食品工場等では,単一の白色の天然繊維製の絞り袋に置換することが難しい場合が起こりうる。
例えば食品工場等において,内側に詰め込むクリームCの種類別に色彩の異なるクリーム絞り袋20を使い分けることがあり,単一の白色の天然繊維製の絞り袋ではこのような使い分けに対応することができない。また,作業担当者別に又は作業時間別に色彩の異なるクリーム絞り袋20を使い分けることもあり,従来の白色系の天然繊維製の絞り袋のみではこのような使い分けにも対応することが難しい。絞り袋の一部分にマーカー等を付して使い分けることも不可能ではないが,洗浄・殺菌を繰り返すうちにマーカーが消失してしまう可能性がある。