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特開2024-114554溶湯及び鋳型材粒子の充填装置及び鋳造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114554
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】溶湯及び鋳型材粒子の充填装置及び鋳造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 27/09 20060101AFI20240816BHJP
   B22D 18/04 20060101ALI20240816BHJP
   B22C 9/08 20060101ALI20240816BHJP
【FI】
B22D27/09 A
B22D18/04 Z
B22C9/08 B
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2023031423
(22)【出願日】2023-02-10
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-08-07
(71)【出願人】
【識別番号】309010896
【氏名又は名称】有限会社ファンドリーテック・コンサルティング
(72)【発明者】
【氏名】五家 政人
(72)【発明者】
【氏名】森田 茂隆
(72)【発明者】
【氏名】矢野 健太郎
【テーマコード(参考)】
4E093
【Fターム(参考)】
4E093PA10
(57)【要約】
【課題】全キャビティー部分の一部である所望のキャビティー部分とほぼ等しい溶湯を注湯後、湯口上部から圧縮ガスを送気して鋳型材粒子を送り込み、溶湯を所望のキャビティー部分に充填し、鋳型材粒子をその他のキャビティー部分の少なくとも一部に充填可能な装置及び鋳造方法を提供する。
【解決手段】圧縮ガスと鋳型材粒子を湯口部に送り込む加圧マウスと、圧縮ガスを導入する自動弁及び圧縮ガスの吹込み量を調整する流量調整弁と、加圧マウス内の圧力を測定する圧力計と、圧力計からの信号によって圧縮ガスの流量を調整する流量制御ユニットと、湯口部付近を削って鋳型材粒子を充填可能な粒状物にする鋳型削り機と、加圧マウスを鋳型上面に気密に押圧する上下昇降装置とを設けた溶湯及び砂粒の充填装置とし、この装置を用いて所望のキャビティー部分のみに溶湯を充填し、その他のキャビティー部分に鋳型材粒子を充填する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳型の全キャビティーのうちの一部である所望のキャビティー部分に溶湯を充填し、その他のキャビティー部分に前記鋳型の鋳型材粒子を充填する装置であって、前記鋳型の湯口上部と気密に連通して圧縮ガスと前記鋳型材粒子を湯口に送り込む加圧マウスと、該加圧マウスに接続する配管に所定圧力の前記圧縮ガスを送気する自動弁と、前記圧縮ガスの吹込み量を調整する流量調整弁と、前記加圧マウス内の圧力を測定するための圧力計と、該圧力計からの信号によって前記流量調整弁を制御することで前記加圧マウス内の圧力を所定の圧力に保つための流量制御ユニットと、前記湯口上部付近の鋳型を削ることによって鋳型材粒子を充填可能な粒状物にする旋削刃具を先端に具備した回転と上下昇降が可能な鋳型削り機と、前記加圧マウスを前記鋳型の湯口上部に気密に押圧する上下昇降装置とを備えたことを特徴とする溶湯及び鋳型材粒子の充填装置。
【請求項2】
請求項1記載の充填装置において、前記旋削刃具の中心部付近に前記圧縮ガスが通る通気管を設けたことを特徴とする溶湯及び鋳型材粒子の充填装置。
【請求項3】
請求項1あるいは2いずれかに記載の充填装置を用いて、鋳型の全キャビティーのうちの一部である溶湯を充填させたい所望のキャビティー部分の体積とほぼ等しい体積の溶湯を注湯後、速やかに前記溶湯及び鋳型材粒子の充填装置の加圧マウスを鋳型の湯口上部に気密に載置し、鋳型削り機で湯口上部付近の鋳型を削ることによって充填可能な粒状物にした鋳型材粒子を、前記加圧マウスに送気される圧縮ガスによって湯口から鋳型内に送り込み、溶湯を所望のキャビティー部分に充填し、鋳型材粒子を所望のキャビティー部分に充填された溶湯の最後尾に接するところから逐次その他のキャビティー部分の少なくとも一部に充填することを特徴とする鋳造方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は通気性鋳型の鋳型上部から重力注湯する鋳造法において、高い注入歩留りと高い生産性を両立させる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に砂鋳型を用いた鋳造においては、鋳型キャビティーは湯口、湯道、押湯及び製品部から構成されている。材質他の諸条件によっては、押湯は必要ない場合もあるが、その他の湯口、湯道、製品部は不可欠な構成要素である。ここでは最も一般的な4つのキャビティー部分から構成される場合について説明する。注湯はこれらの4つのキャビティー部分を充填して完了する。そして凝固完了後、これら4つの部分のうち必要な製品部のみを分離して取り出し、仕上げを行って最終の鋳物製品を得る。
【0003】
以上のように従来のいずれの鋳造法においても、本来目的とする製品部を得るために、最終的には不必要な湯口、湯道及び押湯にも溶湯を充填するという注湯過程をとっている。これは極めて不合理なことである。これに対して何らかの方法によって、製品部のみ又は製品部と押湯などの必要な所望のキャビティー部分のみに溶湯を充填して凝固させることができれば、製品部重量/総注入重量で表示される注入歩留りが大幅に向上することはもとより、解枠、製品分離などの後工程も大幅に簡略化することが可能となる。それを実施する装置及び鋳造方法として、いくつかの特許文献が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特願2013-124423号公報
【特許文献2】特許第6268571号公報
【特許文献3】特許第4888796号公報
【特許文献4】特許第6198125号公報
【特許文献5】特許第6583603号公報
【特許文献6】特願2014-71432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はそのうちの装置及び鋳造方法の改良に関するものである。特許文献1には、本発明者らによる、注湯した鋳型に充填される耐熱性の粒状物を収容する粒状物ホッパーと、前記鋳型の湯口と気密に接続し、前記粒状物およびガスを前記湯口に送り込むマウスと、前記粒状物ホッパーから前記粒状物を所定量計量して前記マウスに送る粒状物切出しユニットと、前記粒状物ホッパーと前記マウスとを接続する配管に所定圧力のエアーを導入する自動弁と、該エアーの吹込み量を調整する流量調整弁とを備える溶湯充填装置が開示されている。
【0006】
この装置は、耐熱性の粒状物を充填することによって溶湯を所望のキャビティー部分に充填し、かつその他のキャビティー部分に耐熱性の粒状物を充填して所望のキャビティー部分に充填された溶湯が戻らないようにする装置である。ここで耐熱性の粒状物としては、砂鋳型と同一または同種の耐火性の粒状物が使用されており、これを供給するために粒状物ホッパーと、マウスと、粒状物切出しユニットと、自動弁と流量調整弁から構成されている。このうち粒状物ホッパーと粒状物切出しユニットが用いられているため、次のような問題が生じている。
【0007】
(1)粒状物の特性によっては、溶湯の充填及び粒状物の充填に変動が生じる。そのため粒状物の特性の安定した新砂などの乾き砂を使用する必要があり、その結果、供給する粒状物のコストがかさむことになっていた。(2)新砂などの乾き砂は水分を含む鋳型砂と特性が異なるために、解枠後の戻り砂の特性が変化し易いという問題があった。(3)粒状物ホッパーの容積はある程度限られているために、その補給が頻繁になり鋳造タクトを阻害することになっていた。(4)粒状物の切出し及び計量などの工程が必要で、その関連装置の保守工数が多大になりがちであった。
【0008】
そこで本発明は、上記問題を解決し、溶湯を所望のキャビティー部分に充填し、その他のキャビティー部分の少なくとも一部に粒状物を充填して、所望のキャビティー部分に充填された溶湯が戻らないようにする溶湯及び粒状物を充填する新規な充填装置及び鋳造方法を提供することを目的とする。
【問題を解決するための手段】
【0009】
(手段1)
鋳型の全キャビティーのうちの一部である所望のキャビティー部分に溶湯を充填し、その他のキャビティー部分に前記鋳型の鋳型材粒子を充填する装置であって、前記鋳型の湯口上部と気密に連通して圧縮ガスと前記鋳型材粒子を湯口に送り込む加圧マウスと、該加圧マウスに接続する配管に所定圧力の前記圧縮ガスを送気する自動弁と、前記圧縮ガスの吹込み量を調整する流量調整弁と、前記加圧マウス内の圧力を測定するための圧力計と、該圧力計からの信号によって前記流量調整弁を制御することで前記加圧マウス内の圧力を所定の圧力に保つための流量制御ユニットと、前記湯口上部付近の前記鋳型を削ることによって鋳型材粒子を充填可能な粒状物にする旋削刃具を先端に具備した回転と上下昇降が可能な鋳型削り機と、前記加圧マウスを前記鋳型の湯口上部に気密に押圧する上下昇降装置とを備えたことを特徴とする溶湯及び鋳型材粒子の充填装置である。
【0010】
本手段では、(1)先ず鋳型の湯口と気密に連通して圧縮ガスと鋳型材粒子を湯口に送り込む加圧マウスを設ける。圧縮ガス及び鋳型材粒子を鋳型キャビティー内に安定して確実に送り込むためには加圧マウスは鋳型の湯口上部と気密に連通することが不可欠である。なお、本願における鋳型材粒子とは、通常の造型に用いる珪砂などの自然砂及びセラミック砂などの人工砂等を意味する。
【0011】
次に、(2)加圧マウスに接続する配管に所定圧力の圧縮ガスを導入するための自動弁及び圧縮ガスの吹込み量を調整する流量調整弁を設ける。鋳型材粒子を鋳型キャビティーに送り込む媒体となる圧縮ガスを遅滞なく安定的に所定の圧力、流量で加圧マウスに送り込むことも本装置の重要な要素の一つである。そのために自動弁と流量調整弁を設ける。
【0012】
次に、(3)加圧マウス内の圧力を測定する圧力計を設ける。これは、前記自動弁及び流量調整弁で供給される圧縮ガスは、加圧マウスを通って鋳型材粒子とともに鋳型内に送り込まれるが、鋳型の通気性によって逐次鋳型外に放出されるため、鋳型削り機によって削られた鋳型材粒子を鋳型内に送り込む作用をする圧縮ガスの有効圧力は変化するので、これを逐次測定するために設けるものである。
【0013】
次に、(4)上記のように加圧マウス内の有効圧力は逐次変化するので、これに対応するために圧力計からの信号によって前記流量調整弁を制御する流量制御ユニットを設ける。これによってマウス内の有効圧力を所定の圧力に保つように流量調整弁から所要の圧縮ガスの流量が供給されて、鋳型削り機で削られて充填可能な粒状物にした鋳型材粒子を安定してキャビティー内に送り込むことができるとともに、注湯されて一時停滞している溶湯を安定して所望のキャビティー部分に充填することができる。流量制御ユニットには例えば電空レギュレータなどの信号変換器などを用いる。しかし、特にこれに限定されるものではない。
【0014】
次に、(5)湯口から吹き込む鋳型材粒子を鋳型の湯口上部付近の鋳型を削ることによって鋳型材粒子を充填可能な粒状物にする旋削刃具を先端に具備した回転と上下昇降が可能な鋳型削り機を設ける。従来技術では鋳型キャビティーに充填する粒状物(砂粒など)は粒状物ホッパーから切出しと計量が可能な切出しユニットによって供給されていたが、本手段では、粒状物として鋳型の湯口上部付近の鋳型を削ることによって得られる鋳型材粒子を用いることにした。
【0015】
鋳型削り機として、電動、圧縮空気駆動、油圧駆動などによって回転と上下昇降が可能な装置を用いるが、複数の駆動方式を組合せて回転と上下昇降が可能なものでもよい。そして鋳型削り機の回転部の先端に湯口上部付近の鋳型を削る旋削刃具を設けた。この旋削刃具は削る部分の湯口付近の形状に応じて安定した削りが可能な耐摩耗性の適宜の形状及び材質のものを用いる。
【0016】
次に、(6)加圧マウスを鋳型の湯口上部に気密に押圧する上下昇降装置を設ける。先の加圧マウスのところで説明したように、加圧マウスと湯口上部付近の鋳型との間の気密性は安定して圧縮ガスと鋳型材粒子をキャビティー内に送り込むために重要である。そのために加圧マウスを鋳型の湯口上部に気密に押圧する上下昇降ユニットを設ける。昇降ユニットとしては、電動又は油圧、空圧などで駆動される装置を用い、加圧マウスを鋳型の湯口部付近の上面に気密に押圧する機能を有するものであればよい。
【0017】
これらの構成要素を用いた充填装置によって、通気性鋳型の所望のキャビティー部分に溶湯を充填し、その他のキャビティー部分に鋳型材粒子を充填する鋳造方法を従来技術よりも安定してかつ低コストで実施することができる。
【0018】
(手段2)
手段1記載の充填装置において、前記旋削刃具の中心部付近に前記圧縮ガスが通る通気管を設けたことを特徴とする溶湯及び鋳型材粒子の充填装置である。
【0019】
手段1では、送気される圧縮ガスは旋削刃具によって削られて充填可能な粒状物になった鋳型材粒子を湯口からキャビティー内に送り込みながら、併せて溶湯の充填が行われるので、キャビティーの形状、複雑さなどで溶湯の充填が不安定になる可能性がある。
【0020】
そこで、旋削刃具の中心部付近に前記圧縮ガスが通る通気管を設けるようにした。これによって圧縮ガスが鋳型の旋削工程に先行してこの通気管を通って溶湯を安定して充填できるようになる。また、鋳型の旋削工程が始まって圧縮ガスが鋳型材粒子を送り込み始めても、圧縮ガスは通気管を通って安定して溶湯を充填し、かつ鋳型材粒子をキャビティー内に送り込むことができる。
【0021】
(手段3)
手段1あるいは2いずれかに記載の充填装置を用いて、鋳型の全キャビティーのうちの一部である溶湯を充填させたい所望のキャビティー部分の体積とほぼ等しい体積の溶湯を注湯後、速やかに前記溶湯及び鋳型材粒子の充填装置の加圧マウスを鋳型の湯口上部に気密に載置し、鋳型削り機で湯口上部付近の鋳型を削ることによって充填可能な粒状物にした鋳型材粒子を、前記加圧マウスに送気される圧縮ガスによって湯口から鋳型内に送り込み、溶湯を所望のキャビティー部分に充填し、鋳型材粒子を所望のキャビティー部分に充填された溶湯の最後尾に接するところから逐次その他のキャビティー部分の少なくとも一部に充填することを特徴とする鋳造方法である。
【0022】
手段1あるいは2いずれかに記載の溶湯及び鋳型材粒子の充填装置を用いて、所望のキャビティー部分に溶湯を充填し、その他のキャビティー部分に鋳型材粒子を充填する鋳造方法について説明する。一般的な注湯法では、鋳型の全キャビティーとほぼ等しい溶湯を重力によって注湯するので製品部、押湯、湯道、湯口に溶湯が充填される。この結果、注入歩留りが低い、そのためエネルギーコストが高い。また、製品部、押湯、湯道、湯口が一体で出てくるので製品部を取り出す工数が多大であるなどの問題がある。
【0023】
本手段では、これらの問題を解決するために、まず鋳型の全キャビティーのうちの一部である溶湯を充填させたい所望のキャビティー部分の体積とほぼ等しい体積の溶湯を注湯する。この結果、当然溶湯は所望のキャビティー部分を満たすことはできず、一時的に全キャビティーにわたって分散して滞留する。ここでは、一例として所望のキャビティー部分を製品部と押湯とする。
【0024】
そこで注入後、速やかに前記溶湯及び鋳型材粒子の充填装置の加圧マウスを通して湯口上部から圧縮ガスを送気して、湯口付近の鋳型を削ることによって充填可能な粒状物にした鋳型材粒子をキャビティー内に送り込む。これによって、溶湯は所望のキャビティー部分である製品部及び押湯に充填される。そして、上記鋳型材粒子は所望のキャビティー部分に充填された溶湯の最後部に接するところから逐次その他のキャビティー部分の少なくとも一部に充填される。この結果、所望のキャビティー部分に充填された溶湯は、その他のキャビティー部分に充填された鋳型材粒子とキャビティーの壁面との間の摩擦力によって逆流が防止される。鋳型材粒子はその他のキャビティー部分の全てを満たす必要はなく、鋳型材粒子とキャビティーの壁面との摩擦力が充填された溶湯の逆流を止め得る適宜の長さの部分でよい。
【0025】
送気される圧縮ガスの流量は、加圧マウス内の圧力(有効圧力)を指標としてキャビティー内の圧力が所望のキャビティー部分への溶湯の流入口から当該部分の最上部までの高さHによって決まる溶湯静圧γH(γは溶湯の比重量)以上の適宜の圧力となるように、加圧マウスに設けられた圧力計の信号を用いて流量制御ユニットによって流量調整弁を制御する。これによってキャビティー内の圧力は安定した値となり、溶湯を所望のキャビティー部分に、鋳型材粒子をその他のキャビティー部分に安定して充填することができる。
【0026】
この結果、全体の凝固を待って鋳型を解枠すると、製品部、押湯などの所望のキャビティー部分のみの鋳造品が得られる。したがって注入歩留りが飛躍的に向上する。一般的には、例えば自動車などの高強度部品に最も多く使われている球状黒鉛鋳鉄の場合、各キャビティー部分の比率は平均的に製品部50%、押湯30%、湯道10%、湯口10%である。押湯がない場合は、大よそ製品部80%、湯道10%、湯口10%であり、同程度の湯道と湯口の比率である。したがって、例えば本手段において製品部と押湯のみを所望のキャビティー部分として注湯すれば、湯道と湯口はなくなり、約20%の溶湯節減が可能となる。
【0027】
次の効果としては、従来の一般鋳造では、製品部、押湯、湯道、湯口などの全キャビティーが強固につながっており、その搬送と製品の分離に多大のエネルギーと工数を要していた。本手段では、溶湯が充填されるキャビティー部分は、例えば製品部と押湯などのみとなるので、解枠後の鋳造品の搬送や製品部の取出しなどのエネルギー及び作業工数が大幅に削減される。
【発明の効果】
【0028】
上記のように本発明によれば、(1)従来の粒状物ホッパー及び切出しユニットを有する粒状物及び溶湯充填装置に比べ、装置が簡素化され、粒状物ホッパーの粒状物補充が不要になり、コストのかかる粒状物を使用する必要がなくなり、保守工数も削減された。(2)この装置を用いた鋳造法によって、所望のキャビティー部分のみに溶湯が充填でき、最大約20%もの溶湯削減が安定して可能となった。これは極めて高い溶湯節減効果で、その結果、溶解に必要なエネルギーの大幅削減もたらす。そして、昨今世界的問題となっているCOなどの温暖化ガスの発生量を大幅に低減する効果をもたらすものである。
【0029】
次に、(3)解枠後の鋳造品の搬送や製品部の取出しなどのエネルギー及び作業工数が大幅に削減される。これは、鋳造工場の設備の大幅な簡略化をもたらし、工場全体の物流システムも向上し大きなコストダウンに貢献する。また、新しい鋳造ラインを建設する際も、極めてシンプルな設計が可能になり建設費の大幅な削減になる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本願発明の溶湯及び鋳型材粒子を充填する装置の実施例1を示す図である。
図2】本願発明の溶湯及び鋳型材粒子を充填する装置の実施例2を示す図である。
図3】本願発明の溶湯及び鋳型材粒子を充填する装置の実施例3を示す図である。
図4】従来技術の注湯完了状態を示した図である。
図5】本願発明の実施例4において、溶湯及び鋳型材粒子を充填する装置を用いて、溶湯を所望のキャビティー部分に充填し、鋳型材粒子をその他のキャビティー部分に充填する鋳造方法で、先ず所望のキャビティー部分とほぼ等しい体積の溶湯を注湯した状態を示す図である。
図6】本願発明の実施例4の次のステップとして、所望のキャビティー部分とほぼ等しい体積の溶湯を注湯後、溶湯及び鋳型材粒子を充填するための装置を鋳型上部に載置して加圧マウスを通して圧縮ガスと鋳型材粒子を鋳型内に送り込み、溶湯を所望のキャビティー部分に充填し、鋳型材粒子をその他のキャビティー部分に充填している状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例0031】
図1を用いて本発明の溶湯及び鋳型材粒子の充填装置1の実施の一形態を説明する。本図では溶湯及び鋳型材粒子の充填装置1とその下部に鋳型2の湯口3付近のみを図示している。本装置は所望のキャビティー部分に溶湯を充填し、その他のキャビティー部分に鋳型材粒子を充填する装置であって、その構成要素と機能について説明する。
【0032】
(1)先ず、鋳型2の湯口3と気密に連通して圧縮ガス6及び鋳型2の湯口上部4付近の鋳型材粒子5を湯口3から鋳型2内に送り込む加圧マウス7を設けている。加圧マウス7は、湯口3と気密に連通して圧縮ガス6と鋳型材粒子5を湯口3から鋳型2内に送り込む接続室となるものである。
【0033】
(2)次に、加圧マウス7に接続する配管8を通して加圧マウス7へ所定圧力の圧縮ガス6を導入するための自動弁9及び圧縮ガス6の吹込み量を調整する流量調整弁10を設けている。
【0034】
(3)次に、加圧マウス7内の圧力(有効圧力)を測定するための圧力計11を設けている。これは、加圧マウス7に送り込まれた圧縮ガス6は湯口3から鋳型材粒子5とともに鋳型2内に送り込まれるが、鋳型2の通気性によって圧縮ガス6の一部は鋳型外に放出されるので加圧マウス7内の圧力は変動し、安定的に圧縮ガス6と鋳型材粒子5をキャビティー内に送り込むことができない。そこで加圧マウス7内の圧力を測定するようにしているものである。
【0035】
(4)次に、上記のように加圧マウス7内の圧力は逐次変化するので、これに対応するために、圧力計11からの信号によって流量調整弁10を制御することで加圧マウス7内の圧力を所定の圧力値に保つための流量制御ユニット12を設けている。これによって、圧縮ガス6及び鋳型材粒子5を安定的に湯口3から鋳型2内に送り込むことができる。
【0036】
(5)次に、湯口3から吹き込む鋳型材粒子5を鋳型2の湯口上部4付近の鋳型2を削ることによって鋳型材粒子を充填可能な粒状物にする旋削刃具13を先端に具備した圧縮空気によって回転と上下昇降が可能な空圧駆動式の鋳型削り機14を設けている。旋削刃具13は削る部分の湯口上部4付近の形状に応じて安定した鋳型材粒子の削りが可能な形状のものを用いる。旋削刃具13の材質は、本例では耐摩耗性の鋼材の2枚刃であるが多数刃でもよいし、または耐摩耗性があるセラミックスなどでもよい。
【0037】
鋳型削り機14は収納容器15内に収められており、加圧マウス6と一体となっている。本例では、圧縮ガス6によって回転と上下昇降が可能な空圧シリンダーを用いており、鋳型削り機駆動用圧縮空気17が供給されて作動するようになっている。
【0038】
(6)次に、加圧マウス7を鋳型2の湯口上部4に気密に押圧する上下昇降装置16を設ける。上下昇降装置16は加圧マウス7を湯口上部4に適宜の圧力で気密に押圧する機能を有しており、電動、油圧又は空圧などで駆動される装置を用いる。以上が、本願の提案する溶湯及び鋳型材粒子の充填装置の一形態である。
【0039】
本例では、鋳型削り機14に圧縮空気駆動式で回転と上下の駆動が可能な機構を用いたが、これに限定されず、空圧、油圧、電動などの単独又は組み合せによって回転と上下昇降を行わせて、湯口上部4付近の鋳型2を削って充填可能な粒状物になった鋳型材粒子5を作り出す機能を有するものであればよい。
【0040】
以上によって、圧縮空気によって注湯された溶湯を所望のキャビティー部分に充填するとともに、湯口上部付近の鋳型材粒子を旋削刃具によって削ることによって充填可能な粒状物にして、湯口から鋳型内に送り込むことができる。
【実施例0041】
図2は実施例1の図1の鋳型削り機14と同じ機能を、回転に電動モーター27を用い、上下駆動に空圧シリンダー28を用いた例である。このように、鋳型削り機14の駆動は空圧、油圧、電動などの単独又は組み合せによって回転と上下昇降を行わせることでも実施例1と同様な機能を実施させることができる。
【実施例0042】
図3は実施例1の図1において、旋削刃具13の中心部付近に圧縮ガス6が通る通気管29を設けた例である。これによって旋削刃具13による鋳型上部4付近の鋳型材粒子5の旋削が始まる前及び旋削中も圧縮ガスがこの通気管29を通って注湯された溶湯を所望のキャビティー部分に安定して充填することができ、かつ旋削によって充填可能になった粒状物となった鋳型材粒子5も安定して湯口13から鋳型内に充填できるようになった。
【実施例0043】
本例では、実施例1の溶湯及び砂粒の充填装置1を用いて所望のキャビティー部分に溶湯を充填し、その他のキャビティー部分に砂粒を充填する鋳造方法を説明する。
【0044】
先ず図4は、従来技術の注湯完了状態を示したものである。鋳型2のキャビティーは、製品部18、押湯19、湯道20、湯口3から構成されている。通常の注湯では、溶湯21を湯口上部4まで注湯して全てのキャビティー部分を充填して完了する。
【0045】
したがって、鋳造後の解枠では、一体となった製品部18、押湯19、湯道20、湯口3を分断して最終的に必要な製品部18のみを取出し、その他の押湯19、湯道20、湯口3はリターン材として再溶解されるという工程となる。そのため、鋳造歩留り=製品部/全注湯量はこの数十年約50%と低い値に低迷している。また、製品部18の分離のための、いわゆる堰折り作業は工場内でも最も劣悪な環境での作業で、鋳造工場で最も改善が必要な課題ともなっている。
【0046】
次に図5及び図6において、実施例1の溶湯及び砂粒の充填装置1を用いて、所望のキャビティー部分のみに溶湯を充填し、その他の部分に鋳型材粒子を充填する鋳造方法について説明する。
【0047】
図5は、全キャビティー22の一部である所望のキャビティー部分23の体積とほぼ等しい体積の溶湯21を注湯取鍋25によって注湯した状態を示す。本例では、一例として、所望のキャビティー部分23を製品部18と押湯19とし、その他のキャビティー部分24を湯道24と湯口3とした。注湯された溶湯21は当然全キャビティー22を満たすことはできないので、図のようにキャビティー22全体にわたって広がり一時的に滞留する。
【0048】
そこで、図6において先ず、注湯後速やかに実施例1の溶湯及び鋳型材粒子の充填装置1の上下昇降装置16を作動させて加圧マウス7を鋳型2の湯口上部4に気密に載置する。次に、鋳型削り機14を作動させて、その先端の旋削刃具13を回転させながら下降させて湯口上部4付近の鋳型材粒子5を削る。それとタイミングを合わせて、圧縮ガス6を加圧マウス7内に送気する。これによって、鋳型材粒子5は旋削によって充填可能な粒状物になり、圧縮ガス6によって湯口3を通ってキャビティー内に送り込まれる。送気する圧縮ガスとしては圧縮空気が最も簡便であるが、溶湯25の酸化を防止する効果のある不活性ガスなどを用いることもできる。
【0049】
キャビティー内に送り込まれた鋳型材粒子5と圧縮ガス6は、先に注湯されて全キャビティー22にわたって一時的に滞留していた溶湯21を所望のキャビティー部分23である製品部18と押湯19に充填する。そして鋳型材粒子5は所望のキャビティー部分23に充填された溶湯の最後部26から順次その他のキャビティー部分24である湯道20、湯口3に充填される。
【0050】
この充填された鋳型材粒子5と湯道20、湯口3の鋳型との摩擦力によって所望のキャビティー部分23に充填された溶湯21は逆流することなく所望のキャビティー部分23に留まって凝固する。なお、鋳型材粒子5は必ずしもその他のキャビティー部分24を全て満たす必要はなく、湯道20などの鋳型部分と鋳型材粒子5との間の摩擦力で溶湯21の逆流を止め得る程度の範囲に充填されればよい。すなわち、鋳型材粒子5は所望のキャビティー部分23に充填された溶湯21の最後部26に接するところから逐次その他のキャビティー部分24の少なくとも一部に充填すればよい。
【0051】
なお上記工程において、送気される圧縮ガス6の流量は、加圧マウス内の有効圧力を指標としてキャビティー内の圧力が所望のキャビティー部分23への溶湯の流入口から当該部分の最上部までの高さHによって決まる溶湯静圧γH(γは溶湯の比重量)の絶対値以上の適宜な圧力(有効圧力)となるように、加圧マウス7に設けられた圧力計11の信号を用いて流量制御ユニット12によって流量調整弁10を制御する。これによってキャビティー内の圧力は安定した値となり、溶湯21を所望のキャビティー部分23に、鋳型材粒子5をその他のキャビティー部分24に安定して充填することができる。
【0052】
以上によって、図4の従来技術のように全キャビティー22を満たした鋳造品ではなく、溶湯21は所望のキャビティー部分23の製品部18と押湯19のみに充填され、その他のキャビティー部分24には溶湯21は存在せず鋳型材粒子5のみが充填されて鋳造が完了する。すなわち、製品部18、押湯19のみの鋳造品が得られる。
【0053】
本実施例では、所望のキャビティー部分を製品部と押湯部としたが、これに限定することなく、製品部と押湯と湯道の一部など所望のキャビティー部分を任意に決めて本願の鋳造法を実施することができる。また、押湯が不要な方案では製品部のみを所望のキャビティー部分としてもよい。また、本例では上下鋳型からなる平込め鋳造の例を示したが、縦込め鋳造においても全く同様に本願鋳造法を実施することができる。
【0054】
以上より、本鋳造法の効果は、(1)凝固完了後に解枠すると、所望のキャビティー部分23のみが得られるので鋳造歩留り=製品部/(製品部十押湯)となって鋳造歩留りは大幅に向上し、大きな溶湯削減が得られる。
【0055】
通常の鋳型キャビティーでは、湯道20と湯口3の合計は全キャビティーの約20%を占めているので、本例の結果では約20%の溶湯削減が得られる。これによって、溶解量は20%削減され、その効果として、高騰している電気料金の削減、及び昨今世界的に問題になっているCOの削減に大いに貢献するものである。
【0056】
また、(2)解枠後の劣悪な堰折り作業も製品部18と押湯18を分離するだけでよく、作業環境の大幅な改善となり、少人化も可能になる。さらに、湯道20、湯口3は存在しないので後工程の流れの簡素化の効果も大きい。これによって工場全体の物流の改善も可能である。
【0057】
さらに付加的な効果を述べれば、(3)溶湯削減によって溶解能力に余裕ができるので、溶解能力不足によって通常発生している湯待ちによるラインの停止もなくなり稼働率が向上する。(4)1取鍋の約20%の体積分だけ余分の鋳型に注湯できるのでライン効率が向上する。(5)鋳型内の注湯量が減少するので、鋳型砂の焼け(高温化)が少なくなることにより、戻り砂の冷却が容易になる、また、ベントナイトや石炭粉などの添加剤の消耗が減少するなどの効果も得られる。(6)鋳造後に出てくる鋳造品は、従来の全キャビティーの鋳造品と異なり、製品部と押湯のみなので、砂落としのショットブラスト工程が短縮され、またこの工程で発生するダコン不良も低減される。
【0058】
これらの付加的な効果は直接的には数値化し難いが、これらを総合すれば、少なくとも10%以上の原価低減の効果が得られるものと思われる。したがって、この鋳造方法を実施すれば全体として溶湯削減などと総合して30%程度の生産性の向上、原価低減が可能と予想される。これによって、従来の鋳物づくりは大きく変革できる可能性がある。
【符号の説明】
【0059】
1 溶湯及び鋳型材粒子の充填装置 2 鋳型 3 湯口 4 湯口上部
5 鋳型材粒子 6 圧縮ガス 7 加圧マウス 8 配管 9 自動弁
10 流量調整弁 11 圧力計 12 流量制御ユニット 13 旋削刃具
14 鋳型削り機 15 収納容器 16 上下昇降装置 17 鋳型削り機駆動用圧縮空気 18 製品部 19 押湯 20 湯道 21 溶湯
22 全キャビティー 23 所望のキャビティー部分 24 その他のキャビティー部分 25 注湯取鍋 26 充填された溶湯の最後部 27 (鋳削り機)電動モーター 28 (鋳型削り機)空圧シリンダー 29 通気管
図1
図2
図3
図4
図5
図6