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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114574
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20240816BHJP
   B60T 7/12 20060101ALI20240816BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20240816BHJP
【FI】
B62D6/00
B60T7/12 A
B62D113:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023108020
(22)【出願日】2023-06-30
(31)【優先権主張番号】P 2023019022
(32)【優先日】2023-02-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼江洲 克斗
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 賢太郎
(72)【発明者】
【氏名】中野 啓太
(72)【発明者】
【氏名】浦野 達也
(72)【発明者】
【氏名】金子 絢
【テーマコード(参考)】
3D232
3D246
【Fターム(参考)】
3D232CC20
3D232CC34
3D232DA04
3D232DA25
3D232DA76
3D232DA83
3D232DA94
3D232DB05
3D232DB20
3D232EB04
3D232EC23
3D232GG01
3D246BA08
3D246DA02
3D246EA18
3D246GA01
3D246GB21
3D246GC11
3D246HA13A
3D246HA34A
3D246HA94A
3D246HB07A
3D246JA12
3D246JB11
3D246LA13Z
3D246LA15Z
3D246MA06
(57)【要約】
【課題】車両の制御装置に関して、坂路に停止している車両が移動することを抑制する。
【解決手段】制御装置10が適用される車両90は、電動駐車制動装置として、左輪に制動力を発生させる第1EPB装置61Lと、右輪に制動力を発生させる第2EPB装置61Rと、を備えている。車両90は、操舵輪の舵角を調整する転舵機構50を自動で制御できるように構成されている。制御装置10は、車両90が坂路に停止している状態において、第1EPB装置61Lおよび第2EPB装置61Rのうちいずれか一方の装置が発生させる制動力が不足している場合に、制動力の不足に伴い坂路を下るように車両90が移動すると仮定した際の車両90の旋回方向に基づいて、車両90の旋回を抑制する方向に転舵機構50を制御するための転舵指令値を生成する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車輪に制動力を発生させる電動駐車制動装置として、前記車輪のうち左輪に制動力を発生させる第1アクチュエータを有する第1EPB装置と、前記車輪のうち右輪に制動力を発生させる第2アクチュエータを有する第2EPB装置と、を備える車両であり、前記車輪のうち操舵輪の舵角を調整する転舵機構を自動で制御できるように構成されている前記車両に適用される車両の制御装置であって、
前記第1EPB装置および前記第2EPB装置の作動状態を取得する状態取得部と、
前記車両が停止している道路が坂路であるか否かを取得する坂路情報取得部と、
前記転舵機構を制御するための転舵指令値を生成する転舵指令生成部と、を備え、
前記転舵指令生成部は、前記車両が前記坂路に停止している状態において、前記第1EPB装置および前記第2EPB装置のうちいずれか一方の装置が発生させる制動力が不足している場合に、制動力の不足に伴い前記坂路を下るように前記車両が移動すると仮定した際の前記車両の旋回方向に基づいて、前記車両の旋回を抑制する方向に前記転舵機構を制御するための指令値として前記転舵指令値を生成する
車両の制御装置。
【請求項2】
前記車両が停止している道路の路側に路側物が存在するか否かを示す情報を取得する路側情報取得部を備え、
前記坂路情報取得部は、前記坂路の傾斜度合いを取得することができ、前記傾斜度合いに基づいて前記坂路に停止している前記車両が前記坂路をずり下がりやすいか否かを判定する機能を有し、
前記指令値は、第1指令値であり、
前記転舵指令生成部は、
前記車両が前記坂路に停止している状態において、前記第1EPB装置および前記第2EPB装置のうちいずれか一方の装置が発生させる制動力が不足している場合に、
前記坂路に駐車されている前記車両が前記坂路をずり下がりにくい際には、前記第1指令値を前記転舵指令値として生成する一方で、
前記坂路に駐車されている前記車両が前記坂路をずり下がりやすい際であり、且つ、前記旋回方向に移動する前記車両の進行方向に前記路側物が存在する際には、前記路側物に向けて前記車両を移動させうるように前記転舵機構を制御するための第2指令値を前記転舵指令値として生成する
請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記転舵指令生成部は、前記第2指令値を生成する際には、前記車両と前記路側物との位置関係に基づいて前記操舵輪の舵角を調整するように前記第2指令値を生成する
請求項2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
車両の車輪に制動力を発生させる電動駐車制動装置として、前記車輪のうち左輪に制動力を発生させる第1アクチュエータを有する第1EPB装置と、前記車輪のうち右輪に制動力を発生させる第2アクチュエータを有する第2EPB装置と、を備える車両であり、前記車輪のうち操舵輪の舵角を調整する転舵機構と、該転舵機構を操作する操作部材であり前記車両の運転者による操作が可能であるように構成されている操舵部材と、を備えている前記車両に適用される車両の制御装置であって、
前記第1EPB装置および前記第2EPB装置の作動状態を取得する状態取得部と、
前記車両が停止している道路が坂路であるか否かを取得する坂路情報取得部と、
前記運転者による前記操舵部材の操作を誘導するための誘導指示値を生成する誘導指示生成部と、
前記誘導指示値に基づいて前記操舵部材の操作方向を含む誘導情報を前記運転者に報知する報知処理を実行する報知制御部と、を備え、
前記誘導指示生成部は、前記車両が前記坂路に停止している状態において、前記第1EPB装置および前記第2EPB装置のうちいずれか一方の装置が発生させる制動力が不足している場合に、制動力の不足に伴い前記坂路を下るように前記車両が移動すると仮定した際の前記車両の旋回方向に基づいて、前記車両の旋回を抑制する方向に前記転舵機構が操作されるように前記操舵部材の操作方向を誘導するための誘導値として前記誘導指示値を生成する
車両の制御装置。
【請求項5】
前記車両が停止している道路の路側に路側物が存在するか否かを示す情報を取得する路側情報取得部を備え、
前記坂路情報取得部は、前記坂路の傾斜度合いを取得することができ、前記傾斜度合いに基づいて前記坂路に停止している前記車両が前記坂路をずり下がりやすいか否かを判定する機能を有し、
前記誘導値は、第1誘導値であり、
前記誘導指示生成部は、
前記車両が前記坂路に停止している状態において、前記第1EPB装置および前記第2EPB装置のうちいずれか一方の装置が発生させる制動力が不足している場合に、
前記坂路に駐車されている前記車両が前記坂路をずり下がりにくい際には、前記第1誘導値を前記誘導指示値として生成する一方で、
前記坂路に駐車されている前記車両が前記坂路をずり下がりやすい際であり、且つ、前記旋回方向に移動する前記車両の進行方向に前記路側物が存在する際には、前記路側物に向けて前記車両が移動するように前記転舵機構が操作されるように前記操舵部材の操作方向を誘導するための第2誘導値を前記誘導指示値として生成する
請求項4に記載の車両の制御装置。
【請求項6】
前記誘導指示生成部は、前記第2誘導値を生成する際には、前記車両と前記路側物との位置関係に基づいて前記操舵輪の舵角が調整されるように前記操舵部材の操作を誘導するための前記第2誘導値を生成するものであり、
前記報知制御部は、前記第2誘導値に基づいて前記報知処理を行う際には、前記車両と前記路側物との位置関係に基づいて前記操舵輪の舵角が調整されるように前記操舵部材の操作を誘導する前記誘導情報を前記運転者に報知する
請求項5に記載の車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、駐車状態にある車両の位置する路面が傾斜している場合に、車両の操舵機構を制御して車両を自動操舵させる制御装置が開示されている。この制御装置では、車両を路側方向に移動させうる舵角に操舵機構が制御される。このため、駐車状態にある車両が前後方向に移動しにくくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-322855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
駐車状態にある車両では、車両を静止させるために駐車制動装置によって車輪に制動力を付与することが行われる。ここで、坂路に駐車されている車両において、たとえば駐車制動装置の失陥等によって制動力が不足すると、車両が坂路の傾斜に沿ってずり下がるおそれがある。さらにこのとき左右の制動力に差が生じていると、制動力差によって、車両が旋回しながらずり下がる方向の力が車両に働くことがある。
【0005】
車両を路側方向に移動させうる舵角に操舵機構を制御する特許文献1のような制御装置では、車両が旋回しながらずり下がる可能性がある場合に操舵輪の向きと旋回方向とが一致することがある。操舵輪の向きと旋回方向とが一致していると、操舵輪が回転しやすい。操舵輪が回転しやすくなることで、坂路に停止している車両の移動を抑制できない場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための車両の制御装置は、車両の車輪に制動力を発生させる電動駐車制動装置として、前記車輪のうち左輪に制動力を発生させる第1アクチュエータを有する第1EPB装置と、前記車輪のうち右輪に制動力を発生させる第2アクチュエータを有する第2EPB装置と、を備える車両であり、前記車輪のうち操舵輪の舵角を調整する転舵機構を自動で制御できるように構成されている前記車両に適用される車両の制御装置であって、前記第1EPB装置および前記第2EPB装置の作動状態を取得する状態取得部と、前記車両が停止している道路が坂路であるか否かを取得する坂路情報取得部と、前記転舵機構を制御するための転舵指令値を生成する転舵指令生成部と、を備え、前記転舵指令生成部は、前記車両が坂路に停止している状態において、前記第1EPB装置および前記第2EPB装置のうちいずれか一方の装置が発生させる制動力が不足している場合に、制動力の不足に伴い前記坂路を下るように前記車両が移動すると仮定した際の前記車両の旋回方向に基づいて、前記車両の旋回を抑制する方向に前記転舵機構を制御するための指令値として前記転舵指令値を生成することをその要旨とする。
【0007】
上記構成によれば、電動駐車制動装置が発生させる制動力が不足している場合に、左右の制動力差に伴って車両が坂路を下ることによる旋回方向に抗するように、操舵輪に舵角をつけることができる。このように操舵輪に舵角をつけることで、車両を旋回方向に移動させる力が働いたとしても操舵輪の回転が抑制されるため、旋回方向への車両の移動を抑制できる。これによって、車両が坂路を下るように移動することを抑制できる。
【0008】
上記課題を解決するための車両の制御装置は、車両の車輪に制動力を発生させる電動駐車制動装置として、前記車輪のうち左輪に制動力を発生させる第1アクチュエータを有する第1EPB装置と、前記車輪のうち右輪に制動力を発生させる第2アクチュエータを有する第2EPB装置と、を備える車両であり、前記車輪のうち操舵輪の舵角を調整する転舵機構と、該転舵機構を操作する操作部材であり前記車両の運転者による操作が可能であるように構成されている操舵部材と、を備えている前記車両に適用される車両の制御装置であって、前記第1EPB装置および前記第2EPB装置の作動状態を取得する状態取得部と、前記車両が停止している道路が坂路であるか否かを取得する坂路情報取得部と、前記運転者による前記操舵部材の操作を誘導するための誘導指示値を生成する誘導指示生成部と、前記誘導指示値に基づいて前記操舵部材の操作方向を含む誘導情報を前記運転者に報知する報知処理を実行する報知制御部と、を備え、前記誘導指示生成部は、前記車両が前記坂路に停止している状態において、前記第1EPB装置および前記第2EPB装置のうちいずれか一方の装置が発生させる制動力が不足している場合に、制動力の不足に伴い前記坂路を下るように前記車両が移動すると仮定した際の前記車両の旋回方向に基づいて、前記車両の旋回を抑制する方向に前記転舵機構が操作されるように前記操舵部材の操作方向を誘導するための誘導値として前記誘導指示値を生成することをその要旨とする。
【0009】
誘導指示値に基づいて報知される誘導情報に従って運転者が操舵部材を操作すると、操舵輪が誘導指示値に対応する方向に転舵される。上記構成によれば、電動駐車制動装置が発生させる制動力が不足している場合に、左右の制動力差に伴って車両が坂路を下ることによるずり下がり旋回方向に抗するように、操舵輪に舵角をつけるように誘導することができる。このように操舵輪に舵角をつけることで、車両を旋回方向に移動させる力が働いたとしても操舵輪の回転が抑制されるため、旋回方向への車両の移動を抑制できる。これによって、車両が坂路を下るように移動することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、第1実施形態の車両の制御装置と、同制御装置の制御対象である車両と、を示すブロック図である。
図2図2は、図1の車両を示す模式図である。
図3図3は、図1の車両が坂路に停止している状態を示す模式図である。
図4図4は、図3の車両を上方から見た模式図である。
図5図5は、図1の制御装置が実行する処理の流れを示すフローチャートである。
図6図6は、第2実施形態の車両の制御装置が実行する処理の流れを示すフローチャートである。
図7図7は、第3実施形態の車両の制御装置と、同制御装置の制御対象である車両と、を示すブロック図である。
図8図8は、図7の制御装置が実行する処理の流れを示すフローチャートである。
図9図9は、第4実施形態の車両の制御装置が実行する処理の流れを示すフローチャートである。
図10図10は、変更例の車両の制御装置と、同制御装置の制御対象である車両と、を示すブロック図である。
図11図11は、他の変更例の車両の制御装置を示すブロック図である。
図12図12は、別の変更例の車両の制御装置を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
第1実施形態の車両の制御装置である制御装置10について、図1図5を参照して説明する。
【0012】
図1は、制御装置10と、制御装置10の制御対象である車両90と、を示す。
制御装置10は、処理回路によって構成されている。制御装置10は、複数の処理回路によって構成されていてもよい。たとえば、処理回路は、実行装置および記憶装置をそれぞれ備えている。記憶装置は、実行装置によって実行される各種の制御プログラムを記憶している。各処理回路は、実行装置が制御プログラムを実行することによって、各種の機能部として機能する。
【0013】
車両90は、転舵機構50を備えている。転舵機構50は、車両90が備える操舵輪の舵角を調整することができる。車両90は、操舵輪の舵角を調整する転舵機構50を自動で制御できるように構成されている。たとえば、転舵機構50は、制御装置10が出力する転舵指令値に基づいてアクチュエータを作動させることによって、操舵輪の舵角を調整することができる。
【0014】
車両90は、駆動装置70を備えている。駆動装置70は、車両90に駆動力を発生させる装置である。駆動装置70は、駆動源を備えている。駆動装置70の一例は、電気モータによって構成されている駆動源によって駆動力を発生させる装置である。駆動装置70の駆動源は、電気モータによって構成されている装置に限らず、内燃機関を採用してもよい。また、電気モータおよび内燃機関が駆動源として採用されていてもよい。その他、駆動源としては、車両90の各車輪におけるホイールに電気モータを取り付けたインホイールモータでもよい。たとえば駆動装置70は、自動変速装置を備えていてもよい。駆動装置70は、自動変速装置に限らず、手動変速装置を備えていてもよい。
【0015】
車両90は、制動装置80を備えている。制動装置80は、車両90に制動力を発生させる装置である。制動装置80の一例は、摩擦制動装置である。制動装置80は、回生制動装置でもよい。
【0016】
車両90は、電動駐車制動装置60を備えている。電動駐車制動装置60は、電動のアクチュエータを作動させることで車輪に制動力を発生させる装置である。車両90は、電動駐車制動装置60として、第1EPB装置61Lと第2EPB装置61Rとを備えている。第1EPB装置61Lおよび第2EPB装置61Rは、それぞれがアクチュエータを備えている。
【0017】
車両90は、監視装置91を備えていてもよい。たとえば、監視装置91は、車両90が走行する道路の形状を取得することができる。監視装置91は、車線を認識することもできる。監視装置91は、道路に表示されている区画線を認識することもできる。監視装置91は、車両90の周囲に位置する構造物等の大きさを取得することができる。監視装置91は、車両90の周囲に位置する構造物等に対する車両90との相対距離を取得することもできる。監視装置91の一例は、カメラである。監視装置91の一例は、LiDARおよびミリ波レーダ等の検出装置である。監視装置91は、上記装置のうち一つの装置によって構成されていてもよいし、二つ以上の装置を組み合わせて構成されていてもよい。
【0018】
車両90は、各種センサを備えている。図1には、各種センサの一例として、前後加速度センサSE1を示している。前後加速度センサSE1は、車両90の前後加速度Gxを検出する。
【0019】
車両90は、スタートスイッチ92を備えている。スタートスイッチ92は、車両90の運転者によって操作が可能な部材である。スタートスイッチ92は、車両90の駆動装置70を始動させるためのスイッチである。スタートスイッチ92がオンにされると、車両90の駆動装置70が始動するように構成されている。スタートスイッチ92がオフにされると、車両90の駆動装置70が停止するように構成されている。スタートスイッチ92は、イグニッションスイッチ、パワースイッチ、起動スイッチ等と呼称されることもある。なお、車両90は、スタートスイッチ92がオフにされている間でも、制御装置10および転舵機構50等の各部に電力を供給することができる。
【0020】
車両90は、EPBスイッチ93を備えている。EPBスイッチ93は、車両90の運転者によって操作が可能な部材である。車両90ではEPBスイッチ93がオフからオンにされることで、制動力を発生させるべく電動駐車制動装置60が作動するように構成されている。
【0021】
車両90は、変速操作部材94を備えていてもよい。変速操作部材94は、車両90の運転者によって操作が可能な部材である。
たとえば、駆動装置70が自動変速装置を備えている場合には、変速操作部材94の操作位置に応じて、駆動装置70を特定の機能を発揮する状態に切り換えることができる。特定の機能を発揮する状態は、たとえば、Dレンジ、Rレンジ、NレンジおよびPレンジ等のシフトレンジが挙げられる。Dレンジは、前進用のシフトレンジである。Rレンジは、後進用のシフトレンジである。Nレンジは、駆動源から駆動輪へのトルク伝達を遮断するためのシフトレンジである。Pレンジは、駐車用のシフトレンジである。
【0022】
たとえば、駆動装置70が手動変速装置を備えている場合には、変速操作部材94の操作位置に応じて、駆動装置70が備える変速装置のギヤ比を切り換えることができる。手動変速装置では、ニュートラル以外の位置においては、変速装置を構成するギヤが機械的に咬み合わせられる。手動変速装置では、ニュートラル位置においては、変速装置を構成するギヤの咬み合わせが解消される。
【0023】
車両90は、車載ネットワークを備えていてもよい。車載ネットワークには、たとえば、車両90が備える各処理回路、車両90が備える各種センサ、および車両90が備える各装置等が接続されている。車載ネットワークに接続されている各構成要素は、互いに通信することができる。
【0024】
<車両>
図2を用いて車両90についてさらに説明する。
車両90の一例は、四輪の車両である。図2には、車両90が備えている車輪として左前輪FL、右前輪FR、左後輪RL、右後輪RRを図示している。左前輪FLおよび左後輪RLが左輪に対応する。右前輪FRおよび右後輪RRが右輪に対応する。
【0025】
図2には車両90の一例として、前輪駆動の車両を示す。すなわち、左前輪FLおよび右前輪FRが駆動輪である。車両90の駆動方式は、前輪駆動に限らない。車両90は、後輪駆動でもよいし、四輪駆動でもよい。
【0026】
車両90は、前輪シャフト72を備えている。車両90は、駆動力を駆動装置70から前輪シャフト72に伝達するデファレンシャルギヤ71を備えている。駆動力は、デファレンシャルギヤ71および前輪シャフト72を介して、左前輪FLおよび右前輪FRに伝達される。
【0027】
駆動装置70は、パーキングロック機構73を備えていてもよい。自動変速装置を備えている車両90においてPレンジでは、駆動装置70が備えるパーキングロック機構73が作動するように構成できる。たとえば、パーキングロック機構73は、駆動装置70を構成するギヤにロック部材を機械的に咬み合わせることで駆動輪の回転を規制する機構である。このため、パーキングロック機構73が作動状態にある場合には、駆動輪の回転が規制される。
【0028】
車両90は、転舵機構50によって左前輪FLおよび右前輪FRの転舵を可能にした構成を備えている。すなわち、左前輪FLおよび右前輪FRが操舵輪である。車両90は、左後輪RLおよび右後輪RRが操舵輪でもよい。車両90は、左前輪FL、右前輪FR、左後輪RLおよび右後輪RRが操舵輪でもよい。
【0029】
転舵機構50の一例について説明する。転舵機構50は、たとえば、転舵アクチュエータ51と伝達機構52とを備えている。転舵アクチュエータ51は、たとえば電気モータを備えている。伝達機構52は、転舵アクチュエータ51が備える電気モータの回転運動を前輪シャフト72に伝達することができる。伝達機構52は、回転運動を前輪シャフト72の軸方向に沿った直線運動に変換して前輪シャフト72に伝達する。前輪シャフト72の第1端は、タイロッドを介して操舵輪である左前輪FLに連結している。前輪シャフト72の第2端は、タイロッドを介して操舵輪である右前輪FRに連結している。前輪シャフト72が直線運動することによって、前輪シャフト72の移動方向に応じた方向に操舵輪が転舵する。
【0030】
操舵輪の舵角は、たとえば、中立位置からの角度として定められている。中立位置とは、操舵輪が車両90の前方を向いている状態である。操舵輪が中立位置にある場合の舵角を「0」とする。一例として操舵輪の舵角が「0」よりも小さい場合には操舵輪が左を向いた状態を示す。この例では操舵輪の舵角が「0」よりも大きい場合には操舵輪が右を向いた状態を示す。舵角の絶対値が大きいほど、中立位置に対する操舵輪の角度が大きいことを示す。
【0031】
図2には、制動装置80として、摩擦制動装置の一例である液圧制動装置を示す。制動装置80は、左前輪FL、右前輪FR、左後輪RLおよび右後輪RRの各車輪に対応する制動機構82を備えている。各制動機構82は、ホイールシリンダ83をそれぞれ備えている。制動装置80は、ホイールシリンダ83にブレーキ液を供給する制動アクチュエータ81を備えている。制動機構82では、ホイールシリンダ83内の液圧であるWC圧が増大されると、車輪FL,FR,RL,RRと一体回転する回転体84に対して摩擦部材85が押し付けられる。これによって、車輪FL,FR,RL,RRに対して摩擦制動力が付与される。
【0032】
摩擦制動装置の他の例は、電気モータの駆動力を機械的に伝達して回転体84に摩擦部材85を押し付ける電動制動装置である。また、制動機構82としてディスクブレーキを例示しているが、制動機構82は、ドラムブレーキでもよい。
【0033】
電動駐車制動装置60の一例を説明する。
第1EPB装置61Lは、左後輪RLに対応して取り付けられている。第1EPB装置61Lは、左後輪RLに対応する制動機構82と一部の構成を共用している。第1EPB装置61Lは、第1アクチュエータ62Lを備えている。第1アクチュエータ62Lは、たとえば電気モータを備えている。第1EPB装置61Lは、電気モータの回転運動を直線運動に変換することができる。第1EPB装置61Lは、第1アクチュエータ62Lの作動に応じて働く直線運動によって摩擦部材85を回転体84に近づけるように構成されている。このようにして摩擦部材85を回転体84に押し付けることで、左後輪RLに制動力を発生させることができる。
【0034】
第2EPB装置61Rは、右後輪RRに対応して取り付けられている。第2EPB装置61Rは、右後輪RRに対応する制動機構82と一部の構成を共用している。第2EPB装置61Rは、第2アクチュエータ62Rを備えている。第2アクチュエータ62Rは、たとえば電気モータを備えている。第2EPB装置61Rは、電気モータの回転運動を直線運動に変換することができる。第2EPB装置61Rは、第2アクチュエータ62Rの作動に応じて働く直線運動によって摩擦部材85を回転体84に近づけるように構成されている。このようにして摩擦部材85を回転体84に押し付けることで、右後輪RRに制動力を発生させることができる。
【0035】
<車両の制御装置>
図1には、制御装置10を構成する処理回路として、転舵制御装置20、第1EPB制御装置31、第2EPB制御装置32、駆動制御装置41、制動制御装置42および支援制御装置43を示している。
【0036】
第1EPB制御装置31は、第1EPB装置61Lを制御する機能を備えている。図1には、第1EPB制御装置31が備える機能部として、第1制御部M41、第1状態取得部M51および坂路情報取得部M6を例示している。
【0037】
第1制御部M41は、第1アクチュエータ62Lを作動させることができる。
第1状態取得部M51は、第1EPB装置61Lの作動状態を取得することができる。第1状態取得部M51は、たとえば、第1EPB装置61Lが失陥しているか否かを判定することができる。失陥とは、第1EPB装置61Lを作動させても第1EPB装置61Lが規定の制動力を発生させることができていない状態であることを意味する。失陥は、第1EPB装置61Lを作動させることができない状態も含む。第1状態取得部M51は、たとえば、第1EPB装置61Lを作動させている際に第1アクチュエータ62Lに流れる電流値を検出することによって、第1アクチュエータ62Lが失陥しているか作動しているかを判定できる。また、第1状態取得部M51は、第1EPB装置61Lを作動させている際に摩擦部材85を回転体84に押し付ける方向に作用する荷重を検出することによって、第1アクチュエータ62Lが失陥しているか作動しているかを判定することもできる。
【0038】
第2EPB制御装置32は、第2EPB装置61Rを制御する機能を備えている。図1には、第2EPB制御装置32が備える機能部として、第2制御部M42および第2状態取得部M52を例示している。
【0039】
第2制御部M42は、対象を第2EPB装置61Rとする点で異なるが第1制御部M41と共通の機能を備えている。すなわち、第2制御部M42は、第2アクチュエータ62Rを作動させることができる。
【0040】
第2状態取得部M52は、対象を第2EPB装置61Rとする点で異なるが第1状態取得部M51と共通の機能を備えている。すなわち、第2状態取得部M52は、第2EPB装置61Rの作動状態を取得することができる。
【0041】
第1状態取得部M51は、第2EPB装置61Rが失陥しているか否かを判定することもできる。
一例として、第1状態取得部M51は、第2EPB制御装置32の状態に基づいて第2EPB装置61Rの失陥を検出できる。たとえば、第1状態取得部M51は、第2制御部M42が機能していない場合に、第2EPB装置61Rが失陥していると判定してもよい。たとえば、第1状態取得部M51は、第2制御部M42および第2状態取得部M52が機能していない場合に、第2EPB装置61Rが失陥していると判定してもよい。
【0042】
第2状態取得部M52は、第1EPB装置61Lが失陥しているか否かを判定することもできる。
一例として、第2状態取得部M52は、第1EPB制御装置31の状態に基づいて第1EPB装置61Lの失陥を検出できる。たとえば、第2状態取得部M52は、第1制御部M41が機能していない場合に、第1EPB装置61Lが失陥していると判定してもよい。たとえば、第2状態取得部M52は、第1制御部M41および第1状態取得部M51が機能していない場合に、第1EPB装置61Lが失陥していると判定してもよい。たとえば、第2状態取得部M52は、第1制御部M41、第1状態取得部M51および坂路情報取得部M6が機能していない場合に、第1EPB装置61Lが失陥していると判定してもよい。
【0043】
このように、第1状態取得部M51は、第1EPB装置61Lが失陥しているか否か、および、第2EPB装置61Rが失陥しているか否かを判定することもできる。また、第2状態取得部M52は、第1EPB装置61Lが失陥しているか否か、および、第2EPB装置61Rが失陥しているか否かを判定することもできる。具体的に説明すると、仮に第1EPB制御装置31が機能していない場合には、第2状態取得部M52によって、第1EPB装置61Lが失陥していると判定できる。さらに第2状態取得部M52は、第2EPB装置61Rが失陥しているか否かを判定することができる。仮に第2EPB制御装置32が機能していない場合には、第1状態取得部M51によって、第2EPB装置61Rが失陥していると判定できる。さらに第1状態取得部M51は、第1EPB装置61Lが失陥しているか否かを判定することができる。
【0044】
以下では、第1EPB装置61Lおよび第2EPB装置61Rのうちいずれか一方にのみ失陥が発生している状態を「片側失陥」の状態という。すなわち、片側失陥の具体的な状態は、第1EPB装置61Lが失陥しており、且つ第2EPB装置61Rが失陥していない状態である。または、片側失陥の具体的な状態は、第2EPB装置61Rが失陥しており、且つ第1EPB装置61Lが失陥していない状態である。電動駐車制動装置60が片側失陥の状態では、次のことがいえる。片側失陥の状態では、第1EPB装置61Lおよび第2EPB装置61Rのうちいずれか一方の装置が発生させる制動力が不足する。
【0045】
坂路情報取得部M6は、坂路情報として、車両90が位置する道路の傾斜度合いを取得することができる。傾斜度合いの一例は、水平面に対する傾斜面の傾斜角度で表すことのできる傾斜角度θである。傾斜角度θは、前後加速度Gxに基づいて算出することができる。坂路情報取得部M6は、傾斜角度θの算出を行ってもよい、他の機能部によって算出された値を受信することで傾斜角度θを取得することもできる。傾斜度合いの他の例は、坂路の水平長さに対する垂直長さの比で表すことのできる勾配値が挙げられる。
【0046】
傾斜角度θは、たとえば、車両90の前方が坂路の上を向いている場合に正の値として算出される。傾斜角度θは、車両90の前方が坂路の下を向いている場合に負の値として算出される。傾斜角度θの絶対値が大きいほど、水平面に対する道路の傾斜角度が大きいことを示す。
【0047】
坂路情報取得部M6は、たとえば、傾斜角度θの絶対値が坂路判定値θth1よりも大きい場合に、車両90が位置する道路が坂路であると判定できる。一方で傾斜角度θの絶対値が坂路判定値θth1以下である場合には、車両90が位置する道路が坂路でないと判定できる。坂路判定値θth1は、特に制限されないが、たとえば1°以上5°以下の値を設定することができる。坂路判定値θth1の下限値としては、たとえば3°程度の値が好ましい。
【0048】
坂路情報取得部M6は、たとえば、傾斜角度θの正負に基づいて、坂路が登坂路であるか降坂路であるかを判定できる。「道路が坂路であるか否か」および「坂路が登坂路であるか降坂路であるか」は、坂路情報に含まれる。
【0049】
坂路情報取得部M6は、たとえば、傾斜角度θの絶対値がしきい値θth2よりも大きい場合に、車両90がずり下がりやすいと判定することもできる。しきい値θth2は、坂路判定値θth1よりも大きい値である。しきい値θth2は、予め実験等によって算出された値が設定されている。たとえば、しきい値θth2は、電動駐車制動装置60が片側失陥の状態で作動している場合に坂路に停止している車両90のずり下がりが発生しない範囲における傾斜角度θの最大値である。
【0050】
駆動制御装置41は、駆動装置70を制御する機能を備えている。駆動制御装置41は、たとえば、駆動装置70の状態としてシフトレンジ、ギヤ比等を取得することができる。駆動制御装置41は、パーキングロック機構73に異常が発生しているか否かを検出することもできる。
【0051】
制動制御装置42は、制動装置80を制御する機能を備えている。
支援制御装置43は、車両90の走行を支援する機能を備えている。図1には、支援制御装置43が備える機能部として、路側情報取得部M7を例示している。
【0052】
路側情報取得部M7は、監視装置91が検出する車両90の周囲の情報に基づいて、路側の情報を取得することができる。本書では、車両90が位置する道路のうち、車線よりも外側にある領域であり当該車線に隣接する領域を路側とする。車線を区画する区画線がある場合には、区画線よりも外側にある領域が路側である。車線を区画する区画線がない場合には、路端から規定の範囲にある領域が路側に相当する。
【0053】
路側情報取得部M7は、構造物としての路側物が路側に存在するか否かを路側情報として取得することができる。たとえば、路側物としては、縁石、ガードレール、フェンスおよび壁等が挙げられる。
【0054】
路側情報取得部M7は、路側物の大きさ、路側物の位置、および車両90と路側物との距離等を路側情報として取得することもできる。路側物の大きさは、たとえば、車線が延びている方向に対して平行な方向における路側物の寸法、路面からの路側物の高さ等がある。
【0055】
転舵制御装置20は、転舵機構50を制御する機能を備えている。図1には、転舵制御装置20が備える機能部として、転舵制御部M1、転舵指令生成部M2および旋回方向推定部M3を例示している。
【0056】
転舵制御部M1は、転舵機構50を制御することができる。転舵制御部M1は、たとえば、転舵指令値に基づいて転舵機構50を作動させることで、転舵指令値に従って操舵輪の舵角を調整することができる。
【0057】
転舵指令生成部M2は、転舵指令値を生成することができる。たとえば、転舵指令生成部M2は、車両90が駐車状態である場合に実行される駐車操舵処理によって転舵指令値を生成することができる。駐車操舵処理の詳細は後述する。
【0058】
旋回方向推定部M3は、坂路に停止している車両90の電動駐車制動装置60が片側失陥の状態である場合に、仮に車両90が坂を下るように移動する場合における車両90の旋回方向を推定することができる。車両90の旋回方向は、たとえば、坂路情報および電動駐車制動装置60の状態に基づいて推定できる。以下では、電動駐車制動装置60が片側失陥の状態である場合に制動力の不足に伴い坂路を下るように車両90が移動すると仮定した際の車両90の旋回方向のことを、「ずり下がり旋回方向」ということもある。
【0059】
<坂路に停止している車両>
図3および図4を用いて、旋回方向推定部M3が推定する旋回方向について説明する。
図3および図4には、傾斜角度θの登坂路である道路A0に停止している車両90を例示している。すなわち、車両90は、車体99の前部99Fが坂路の上を向いて停止している。車両90は、車体99の後部99Rが坂路の下を向いて停止している。図3は、車両90を右側方から見た模式図である。図4は、図3に示す車両90を上方から見た模式図である。当該車両90は、駐車状態にある。駐車状態とは、たとえば、EPBスイッチ93がオンにされており、且つスタートスイッチ92がオフにされている状態である。
【0060】
図3および図4には、車両90の重心99Gを表示している。
図3および図4には、道路A0に停止している車両90に対して斜面を下る方向に作用する力として分力Fdを示す実線の矢印を表示している。分力Fdは、道路A0の斜面に平行な力であり、傾斜角度θ、車両90の重量および重力加速度に基づいて算出できる。なお、図3および図4における分力Fdを表す矢印は斜面に平行な力を模式的に示したものにすぎず、矢印の長さは力の大きさとは関係がない。
【0061】
図3および図4に示す車両90は、操舵輪である左前輪FLおよび右前輪FRが図4に実線で示すように中立位置にあるとする。さらに、電動駐車制動装置60は、第2EPB装置61Rが失陥している片側失陥の状態とする。このため、左後輪RLに対しては第1EPB装置61Lの作動によって制動力FpLが付与されている一方で、右後輪RRに対しては制動力が付与されていない。
【0062】
分力Fdが作用している車両90では、左後輪RLに発生する制動力と右後輪RRに発生する制動力との差によって、車両90を左後方に旋回させる力が作用する。図4には、左後方へのずり下がり旋回方向を示す破線の矢印として方向D1を表示している。
【0063】
一方で、上記道路A0とは異なり車両90が停止している坂路が降坂路である場合には、第2EPB装置61Rが失陥している片側失陥の状態では、車両90を左前方に旋回させる力が作用することになる。この場合では、ずり下がり旋回方向は、左前方である。
【0064】
続いて、第2EPB装置61Rが失陥している上述した例とは異なり第1EPB装置61Lが失陥している片側失陥の場合の例を説明する。まず、車両90が停止している坂路が登坂路である場合には、車両90を右後方に旋回させる力が作用することになる。この場合では、ずり下がり旋回方向は、右後方である。次に、車両90が停止している坂路が降坂路である場合には、車両90を右前方に旋回させる力が作用することになる。この場合では、ずり下がり旋回方向は、右前方である。
【0065】
<駐車操舵処理>
図5を用いて、駐車操舵処理について説明する。図5は、制御装置10が実行する処理の流れを示す。本処理ルーチンは、開始条件が成立している場合に所定の周期毎に繰り返し実行される。
【0066】
開始条件の一例を説明する。
制御装置10は、たとえば、車両90が駐車状態である場合に開始条件が成立していると判定する。より詳しくいえば、制御装置10は、EPBスイッチ93がオンにされており、且つスタートスイッチ92がオフにされている場合に開始条件が成立していると判定する。
【0067】
制御装置10は、パーキングロック機構73が作動している場合には、車両90が駐車状態であったとしても開始条件が成立していないと判定することもできる。換言すれば、制御装置10は、車両90が駐車状態にあり、且つ、パーキングロック機構73が作動していない場合に開始条件が成立していると判定してもよい。
【0068】
パーキングロック機構73が作動していない場合の一例は、変速操作部材94によって選択されるシフトレンジがPレンジ以外の場合である。その他、パーキングロック機構73が作動していない場合としては、パーキングロック機構73に異常が生じている場合が挙げられる。すなわち、車両90が駐車状態にあり、且つ、Pレンジが選択されているとしても、パーキングロック機構73に異常が生じている場合には、開始条件が成立していると判定してもよい。
【0069】
なお、駆動装置70の備える変速装置が手動変速装置である場合には、制御装置10は、車両90が駐車状態にあり、且つ、変速操作部材94がニュートラルを選択する位置である場合に開始条件が成立していると判定してもよい。
【0070】
本処理ルーチンが開始されると、まずステップS101において、制御装置10は、EPB失陥状態を取得する。たとえば、制御装置10は、電動駐車制動装置60が片側失陥の状態であるか否かを示す情報を取得する。これに替えて、制御装置10は、第1EPB装置61Lが失陥しているか否かを示す情報、および、第2EPB装置61Rが失陥しているか否かを示す情報を取得してもよい。その後、制御装置10は、処理をステップS102に移行する。
【0071】
ステップS102では制御装置10は、坂路情報を取得する。たとえば、制御装置10は、車両90が停止している道路が登坂路であるか、降坂路であるか、または坂路ではないかを示す情報を取得する。これに替えて、制御装置10は、傾斜角度θを取得してもよい。その後、制御装置10は、処理をステップS111に移行する。
【0072】
ステップS111では、EPB失陥状態に基づいて、電動駐車制動装置60が片側失陥の状態であるか否かを判定する。第1EPB装置61Lおよび第2EPB装置61Rの両方の装置が失陥状態ではない場合、または、両方の装置が失陥状態である場合には(S111:NO)、制御装置10は、本処理ルーチンを一旦終了する。
【0073】
一方で、第1EPB装置61Lおよび第2EPB装置61Rのうちいずれか一方の装置が失陥状態である場合には(S111:YES)、制御装置10は、処理をステップS112に移行する。
【0074】
ステップS112では、制御装置10は、車両90が位置する道路が坂路であるか否かを判定する。道路が坂路ではない場合には(S112:NO)、制御装置10は、本処理ルーチンを一旦終了する。
【0075】
一方で、道路が坂路である場合には(S112:YES)、制御装置10は、処理をステップS113に移行する。
ステップS113では、制御装置10は、転舵指令生成部M2に第1指令値δ1を生成させる。
【0076】
転舵指令生成部M2が第1指令値δ1を算出する流れの一例を説明する。
第1指令値δ1は、ずり下がり旋回方向に対応する操舵輪の向きとは逆方向に転舵機構50を制御するための転舵指令値として生成される。
【0077】
転舵指令生成部M2は、旋回方向推定部M3によって推定される旋回方向に基づいて第1指令値δ1を生成する。「ずり下がり旋回方向に対応する操舵輪の向き」とは、操舵輪の転舵によって当該旋回方向に車両90を旋回させようとする場合における操舵輪の向きである。つまり、「ずり下がり旋回方向に対応する操舵輪の向きとは逆方向」は、車両90の旋回を抑制する方向を意味する。操舵輪の向きは、操舵輪の中立位置を基準として操舵輪が左方向に転舵されているか右方向に転舵されているかを示す。したがって、具体的にいえば、左前輪FLおよび右前輪FRが操舵輪である車両90において、ずり下がり旋回方向が左後方である場合およびずり下がり旋回方向が左前方である場合には、ずり下がり旋回方向に対応する操舵輪の向きは、左方向である。左前輪FLおよび右前輪FRが操舵輪である車両90において、ずり下がり旋回方向が右後方である場合およびずり下がり旋回方向が右前方である場合には、ずり下がり旋回方向に対応する操舵輪の向きは、右方向である。
【0078】
以上のことから、第1指令値δ1の具体例は以下のようになる。ずり下がり旋回方向に対応する操舵輪の向きが左方向である場合には、転舵指令生成部M2は、操舵輪を右方向に転舵させる転舵指令値として第1指令値δ1を生成する。一方で、ずり下がり旋回方向に対応する操舵輪の向きが右方向である場合には、転舵指令生成部M2は、操舵輪を左方向に転舵させる転舵指令値として第1指令値δ1を生成する。
【0079】
第1指令値δ1に従って転舵される操舵輪の舵角の大きさは、特に制限されない。一例として、転舵指令生成部M2は、操舵輪の舵角が最大となるように第1指令値δ1を生成することができる。
【0080】
ステップS113の処理において、転舵指令生成部M2に第1指令値δ1を生成させると、制御装置10は、本処理ルーチンを終了する。
第1指令値δ1が生成されると、転舵制御部M1が第1指令値δ1に基づいて転舵機構50を制御することで、操舵輪の舵角が第1指令値δ1に対応する舵角に調整される。すなわち、ステップS113の処理において第1指令値δ1が生成される結果として、ずり下がり旋回方向に対応する操舵輪の向きとは逆方向に転舵機構50が制御される。言い換えれば、ずり下がり旋回方向に移動すると推定される車両90について、第1指令値δ1が生成される結果として、当該旋回を抑制する方向に転舵機構50が制御される。
【0081】
<第1実施形態の作用および効果>
図3および図4を用いて、本実施形態の作用および効果について説明する。
制御装置10では、車両90が坂路に停止している状態において、片側失陥の状態である場合に、ずり下がり旋回方向に対応する操舵輪の向きとは逆方向に転舵機構50を制御するための第1指令値δ1が生成される(S113)。第1指令値δ1に基づいて転舵機構50が制御されると、たとえば、図4に示す例のようにずり下がり旋回方向が方向D1で示される左後方である場合には、操舵輪は、図4に二点鎖線で示すように、右方向に転舵される。
【0082】
このように制御装置10によれば、電動駐車制動装置60が発生させる制動力が不足している場合に、左右の制動力差に伴って車両90が坂路を下ることによるずり下がり旋回方向に抗するように、操舵輪に舵角をつけることができる。操舵輪に舵角をつけることで、車両90をずり下がり旋回方向に移動させる力が働いたとしても操舵輪の回転が抑制されるため、ずり下がり旋回方向への車両90の移動を抑制できる。これによって、車両90が坂路を下ることを抑制できる。
【0083】
制御装置10によれば、坂路に駐車されている車両90の電動駐車制動装置60が片側失陥の状態であるとしても、車両90をその場に静止させやすくなる。駐車されている車両90が坂路を下るように移動することを抑制できるため、車両90の周囲における安全を確保することができる。
【0084】
(第2実施形態)
第2実施形態の車両の制御装置について説明する。
第2実施形態は、図6に示す処理ルーチンを図5に示す処理ルーチンに替えて実行する点で、第1実施形態と異なる。第2実施形態の車両の制御装置および車両について、第1実施形態と共通する構成については、同一の符号を付すとともに説明を適宜省略する。
【0085】
図6を用いて、第2実施形態の車両の制御装置が実行する駐車操舵処理について説明する。図6は、制御装置10が実行する処理の流れを示す。本処理ルーチンは、開始条件が成立している場合に所定の周期毎に繰り返し実行される。
【0086】
本処理ルーチンが開始されると、まずステップS101において、制御装置10は、EPB失陥状態を取得する。その後、制御装置10は、処理をステップS102に移行する。
【0087】
ステップS102では制御装置10は、坂路情報を取得する。その後、制御装置10は、処理をステップS201に移行する。
ステップS201では制御装置10は、路側情報を取得する。たとえば、制御装置10は、車両90が停止している道路の路側に路側物が存在するか否かを示す情報を取得する。制御装置10は、路側物の大きさ、路側物の位置、および車両90と路側物との距離等を取得してもよい。その後、制御装置10は、処理をステップS111に移行する。
【0088】
ステップS111では、EPB失陥状態に基づいて、電動駐車制動装置60が片側失陥の状態であるか否かを判定する。第1EPB装置61Lおよび第2EPB装置61Rの両方の装置が失陥状態ではない場合、または、両方の装置が失陥状態である場合には(S111:NO)、制御装置10は、本処理ルーチンを一旦終了する。
【0089】
一方で、第1EPB装置61Lおよび第2EPB装置61Rのうちいずれか一方の装置が失陥状態である場合には(S111:YES)、制御装置10は、処理をステップS112に移行する。
【0090】
ステップS112では、制御装置10は、車両90が位置する道路が坂路であるか否かを判定する。道路が坂路ではない場合には(S112:NO)、制御装置10は、本処理ルーチンを一旦終了する。
【0091】
一方で、道路が坂路である場合には(S112:YES)、制御装置10は、処理をステップS211に移行する。
ステップS211では制御装置10は、坂路に停止している車両90がずり下がりやすいか否かを判定する。たとえば、制御装置10は、坂路の傾斜度合いに基づいて、車両90がずり下がりやすいか否かを判定することができる。具体的には、制御装置10は、傾斜角度θの絶対値がしきい値θth2よりも大きい場合に車両90がずり下がりやすいと判定することができる。一方で、制御装置10は、傾斜角度θの絶対値がしきい値θth2以下である場合に車両90がずり下がりにくいと判定することができる。
【0092】
車両90がずり下がりやすい場合には(S211:YES)、制御装置10は、処理をステップS212に移行する。
ステップS212では、制御装置10は、車両90がずり下がり旋回方向に移動すると仮定した場合における車両90の進行方向に路側物があるか否かを判定する。ここで、図4を用いて、路側物があるか否かを判定する一例を説明する。
【0093】
図4に示す道路A0では、車線A1を区画する区画線が表示されている。図4には、車両90の右側に表示されている第1区画線B1と、車両90の左側に表示されている第2区画線B2と、を示す。道路A0において第2区画線B2を挟んで車線A1に隣接する部分には、路側A2が存在している。路側A2には、路側物である縁石C1がある。
【0094】
縁石C1は、路側A2において第2区画線B2に対して車線A1から所定の距離だけ離れた位置に配置されている。縁石C1は、路端に位置している。縁石C1は、車線A1の延びている方向に沿って連続している。
【0095】
図4に示す車両90は、道路A0において路側A2に寄って停止した状態にある。第2EPB装置61Rが失陥している片側失陥である車両90のずり下がり旋回方向は、第1実施形態において説明したように方向D1で示す左後方である。そして、図4に示すように、車両90の左後方には、縁石C1が存在している。すなわち、図4に示す例では、車両90がずり下がり旋回方向に移動すると仮定した場合における車両90の進行方向に路側物がある。
【0096】
一方で、上記道路A0とは異なり車両90が停止している坂路が降坂路である場合には、第2EPB装置61Rが失陥している片側失陥の状態では、ずり下がり旋回方向は、左前方である。この場合にも車両90の進行方向に路側物がある。
【0097】
続いて、第2EPB装置61Rが失陥している上述した例とは異なり第1EPB装置61Lが失陥している片側失陥の場合の例を説明する。まず、車両90が停止している坂路が登坂路である場合には、ずり下がり旋回方向は、右後方である。この場合には車両90の進行方向に路側物がない。次に、車両90が停止している坂路が降坂路である場合には、ずり下がり旋回方向は、右前方である。この場合にも車両90の進行方向には路側物がない。
【0098】
このようにして、車両90の位置、ずり下がり旋回方向および路側物の位置等に基づいて、車両の進行方向に路側物が存在するか否かを判定することができる。
上記の例では、車両90の左側に路側物としての縁石C1が存在する例を示して説明した。これに対して、車両90が道路の右側に存在する路側に寄って停止している場合に車両90の右側に路側物が存在する場合でも、上記の例と共通する考え方によって車両の進行方向に路側物が存在するか否かを判定することができる。
【0099】
なお、ステップS212の処理においては、坂路をずり下がる車両90を路側物に接触させたとしても車両90を止めることができないことが予測される場合には、路側物が実際には存在していても路側物がないと判定することもできる。詳述すると、路側に存在する路側物に車両90の車輪を接触させることで車両90が停止することが予測される場合には、路側物があると判定できる。一方で路側に存在する路側物に車両90の車輪を接触させても車両90が停止しないことが予測される場合には、路側物がないと判定できる。具体例を挙げると、車輪が路側物を乗り越えて車両90が進行する場合には路側物との接触によって車両90を止めることができない。
【0100】
図6に戻り、路側物がある場合には(S212:YES)、制御装置10は、処理をステップS213に移行する。
ステップS213では、制御装置10は、転舵指令生成部M2に第2指令値δ2を生成させる。
【0101】
転舵指令生成部M2が第2指令値δ2を算出する流れの一例を説明する。
第2指令値δ2は、路側物に向けて車両90を移動させうるように転舵機構50を制御するための転舵指令値として生成される。
【0102】
第2指令値δ2の具体例は以下のようになる。ずり下がり旋回方向が左後方であり、且つ、車両90の左後方に路側物が存在する場合には、転舵指令生成部M2は、車両90を左方向に旋回させる転舵指令値として第2指令値δ2を生成する。すなわち、左前輪FLおよび右前輪FRが操舵輪である車両90においては、操舵輪を左方向に転舵させる転舵指令値として第2指令値δ2を生成する。ずり下がり旋回方向が左前方であり、且つ、車両90の左前方に路側物が存在する場合には、転舵指令生成部M2は、車両90を左方向に旋回させる転舵指令値として第2指令値δ2を生成する。すなわち、左前輪FLおよび右前輪FRが操舵輪である車両90においては、操舵輪を左方向に転舵させる転舵指令値として第2指令値δ2を生成する。ずり下がり旋回方向が右後方であり、且つ、車両90の右後方に路側物が存在する場合には、転舵指令生成部M2は、車両90を右方向に旋回させる転舵指令値として第2指令値δ2を生成する。すなわち、左前輪FLおよび右前輪FRが操舵輪である車両90においては、操舵輪を右方向に転舵させる転舵指令値として第2指令値δ2を生成する。ずり下がり旋回方向が右前方であり、且つ、車両90の右前方に路側物が存在する場合には、転舵指令生成部M2は、車両90を右方向に旋回させる転舵指令値として第2指令値δ2を生成する。すなわち、左前輪FLおよび右前輪FRが操舵輪である車両90においては、操舵輪を右方向に転舵させる転舵指令値として第2指令値δ2を生成する。
【0103】
第2指令値δ2に従って転舵される操舵輪の舵角の大きさは、特に制限されない。一例として、転舵指令生成部M2は、操舵輪の舵角が最大となるように第2指令値δ2を生成することができる。
【0104】
転舵指令生成部M2は、第2指令値δ2を生成する際には、車両90と路側物との位置関係に基づいて操舵輪の舵角を調整することもできる。たとえば、車輪が縁石C1に接触するときに、接触に伴う衝撃を小さくすべく、車輪が縁石C1に接触する際の車輪の角度を調整するために操舵輪の舵角を調整してもよい。すなわち、路側物と車両90とが接触する角度を調整するように車両90の旋回半径を調整してもよい。
【0105】
ステップS213の処理において、転舵指令生成部M2に第2指令値δ2を生成させると、制御装置10は、本処理ルーチンを終了する。
第2指令値δ2が生成されると、転舵制御部M1が第2指令値δ2に基づいて転舵機構50を制御することで、操舵輪の舵角が第2指令値δ2に対応する舵角に調整される。すなわち、ステップS213の処理において第2指令値δ2が生成される結果として、路側物に向けて車両90を移動させうるように転舵機構50が制御される。
【0106】
図6に示すように制御装置10は、車両90がずり下がりにくい場合には(S211:NO)、処理をステップS113に移行する。また、制御装置10は、路側物がない場合には(S212:NO)、処理をステップS113に移行する。
【0107】
ステップS113では、制御装置10は、転舵指令生成部M2に第1指令値δ1を生成させる。その後、制御装置10は、本処理ルーチンを終了する。
第1指令値δ1が生成されると、転舵制御部M1が第1指令値δ1に基づいて転舵機構50を制御することで、操舵輪の舵角が第1指令値δ1に対応する舵角に調整される。すなわち、ステップS113の処理において第1指令値δ1が生成される結果として、ずり下がり旋回方向に対応する操舵輪の向きとは逆方向に転舵機構50が制御される。言い換えれば、ずり下がり旋回方向に移動すると推定される車両90について、当該旋回を抑制する方向に転舵機構50が制御される。
【0108】
<第2実施形態の作用および効果>
本実施形態の作用および効果について説明する。
坂路に停止中の車両90では、電動駐車制動装置60の片側失陥によって制動力が不足した場合に、坂路の傾斜度合いが大きいほど車両90がずり下がりやすい。
【0109】
第2実施形態の車両の制御装置によれば、車両90がずり下がりやすい場合には、仮に車両90が動いたとしても車両90が路側物に向けて動くように転舵機構50を制御する第2指令値δ2を生成することができる(S213)。これによって、車両90が動いた場合には路側物に車両90を接触させることによって車両90の動きを止めやすくなる。このように、第2実施形態の車両の制御装置によれば、車両90を止めるために有効な路側物がある場合に、路側物を利用して車両90のずり下がりを抑制することができる。
【0110】
ところで、路側方向に車両を移動させたからといって、ずり下がる車両を停止させられるとは限らない。たとえば、路端の先が崖のように途切れている場合がある。たとえば、路端の先に駐車場、田畑等のような開けた用地が広がっている場合がある。また、たとえば、歩行者等が通行する領域が設けられている場合がある。
【0111】
この点、第2実施形態の車両の制御装置によれば、路側物を利用して車両90の移動を止めることができる。このため、単に路側方向へ車両90を移動させるように構成する場合とは異なり、路側に移動させた後に路側物と車両90との接触によって車両90を静止させやすい。これによって、路側物に向けて移動させた車両90の周囲に安全を確保しやすい。
【0112】
第2実施形態の車両の制御装置では、操舵輪の舵角を調整するように第2指令値δ2を生成することができる。このため、ずり下がる車両90の旋回半径を調整することによって、車両90が路側物に接触するまでの走行経路を変更することができる。このような舵角の調整を行うことによって、車輪が路側物に乗り上げることを抑制できる場合がある。
【0113】
第2実施形態の車両の制御装置によれば、車両90がずり下がりにくい場合には、第1実施形態と同様に第1指令値δ1が生成される(S113)。これによって、車両90がずり下がりにくい場合には、車両90をその場で静止させるように操舵輪を転舵することができる。
【0114】
(第3実施形態)
第3実施形態の車両の制御装置としての制御装置310について説明する。
図7は、制御装置310と、制御装置310の制御対象である車両390と、を示す。なお、第3実施形態において第1実施形態と共通の構成には、同一の符号を付している。第1実施形態と共通の構成については、説明を適宜省略する。
【0115】
<車両>
車両390は、転舵機構350を備えている。転舵機構350は、車両390が備える操舵輪の舵角を調整することができる点で、第1実施形態における車両90の転舵機構50と共通している。転舵機構350は、転舵機構50のように操舵輪の舵角を自動で調整できるように構成されていてもよいし、操舵輪の舵角を自動で調整できるように構成されていなくてもよい。
【0116】
車両390は、操舵部材95を備えている。操舵部材95は、車両390の運転者によって操作可能な部材である。車両390では、操舵部材95によって転舵機構350を操作できるように構成されている。操舵部材95を操作することによって、操舵輪の舵角を調整することができる。操舵部材95が左方向に操作されると操舵輪が左方向に転舵される。操舵部材95が右方向に操作されると操舵輪が右方向に転舵される。操舵部材95の一例は、ステアリングホイールである。
【0117】
車両390は、各種センサの一例として、操舵角センサSE2を備えていてもよい。操舵角センサSE2は、操舵部材95の操作量を検出することができる。その他、車両390は、操舵輪の舵角を検出するセンサを備えていてもよい。
【0118】
操舵部材95の操作量は、たとえば、基準位置からの角度として算出できる。操舵部材95が基準位置にある状態は、車両390が直進する状態、すなわち操舵輪が中立位置にある状態に対応する。操舵部材95が基準位置にある場合の操舵部材95の操作量を「0」とする。一例として操舵部材95の操作量が「0」よりも小さい場合には操舵部材95が左方向に操作されている状態を示す。この例では操舵部材95の操作量が「0」よりも大きい場合には操舵部材95が右方向に操作されている状態を示す。操舵部材95の操作量の絶対値が大きいほど、操舵部材95が基準位置から大きく操作されていることを示す。
【0119】
車両390は、報知装置96を備えていてもよい。報知装置96は、車両390の運転者に情報を報知することができるように構成されている。
報知装置96の一例を説明する。
【0120】
報知装置96は、たとえば、表示装置である。表示装置は、たとえば、文章、記号、画像、目盛り等を表示することができる。表示装置の具体例としては、ディスプレイ、表示灯等が挙げられる。報知装置96は、たとえば、音響装置である。音響装置は、たとえば、音声、ビープ音等を出力することができる。音響装置の具体例としては、スピーカ、電子ブザー等が挙げられる。報知装置96は、上記装置を複数組み合わせて用いてもよい。
【0121】
<制御装置>
制御装置310は、機能部として報知制御部M8と誘導指示生成部M9とを備えている点で、第1実施形態の制御装置10と異なる。
【0122】
図7には、報知制御部M8および誘導指示生成部M9を備えている処理回路である操舵誘導装置44を例示している。図7に示す例では、操舵誘導装置44が旋回方向推定部M3を備えている。
【0123】
誘導指示生成部M9は、運転者による操舵部材の操作を誘導するための誘導指示値を生成することができる。たとえば、誘導指示生成部M9は、車両390が駐車状態である場合に実行される操舵誘導処理によって誘導指示値を生成することができる。誘導指示生成部M9は、転舵指令生成部M2が転舵指令値を生成する際の処理の流れと共通の処理の流れによって、誘導指示値を生成することができる。たとえば、誘導指示値が示す操舵輪の方向は、当該誘導指示値が生成される状況において転舵指令値を生成した場合の転舵指令値が示す操舵輪の方向と同様である。
【0124】
報知制御部M8は、報知装置96を制御することができる。報知制御部M8は、たとえば、誘導指示値に基づいて報知装置96を作動させることで、誘導指示値に従った誘導情報を運転者に報知することができる。具体的には、報知制御部M8は、誘導指示値に基づいて操舵部材95の操作方向を含む誘導情報を運転者に報知する報知処理を実行する。
【0125】
<操舵誘導処理>
図8を用いて、操舵誘導処理について説明する。本実施形態の操舵誘導処理は、第1実施形態において図5を用いて説明した駐車操舵処理と一部の処理の流れが共通である。図8は、制御装置310が実行する処理の流れを、図5に示す処理の流れと異なる部分を中心に表示している。具体的にいえば、ステップS113に替えてステップS313の処理を実行する点で異なる。本処理ルーチンは、開始条件が成立している場合に所定の周期毎に繰り返し実行される。開始条件は、第1実施形態における駐車操舵処理と同様である。
【0126】
ステップS112よりも前の処理の流れは、図5に示す処理の流れと共通であるため説明を省略する。
ステップS112では、制御装置310は、車両390が位置する道路が坂路であるか否かを判定する。道路が坂路ではない場合には(S112:NO)、制御装置310は、本処理ルーチンを一旦終了する。
【0127】
道路が坂路である場合には(S112:YES)、制御装置310は、処理をステップS313に移行する。
ステップS313では、制御装置310は、誘導指示生成部M9に第1誘導値δi1を生成させる。ステップS313の処理において、誘導指示生成部M9に第1誘導値δi1を生成させると、制御装置310は、本処理ルーチンを終了する。
【0128】
ステップS313において誘導指示生成部M9が第1誘導値δi1を算出する流れの一例を説明する。第1誘導値δi1は、転舵指令生成部M2が算出する第1指令値δ1に対応する値である。たとえば、第1誘導値δi1は、転舵指令生成部M2が第1指令値δ1を算出する流れと共通の流れによって算出される。第1誘導値δi1は、ずり下がり旋回方向に対応する操舵輪の向きとは逆方向に転舵機構350が操作されるように操舵部材95の操作方向を誘導するための誘導指示値として生成される。言い換えれば、第1誘導値δi1は、ずり下がり旋回方向に基づいて、当該旋回方向に移動すると推定される車両390の旋回を抑制する方向に転舵機構350が操作されるように操舵部材95の操作方向を誘導するための誘導指示値として生成される。なお、誘導指示値は、操舵輪の方向に加えて操舵輪の舵角の大きさに応じた値を含んでいてもよい。誘導指示値に含まれている操舵輪の舵角の大きさに応じた値は、操舵輪の舵角を示す値でもよいし、操舵部材95の操作量を示す値でもよい。
【0129】
第1誘導値δi1の具体例は以下のようになる。ずり下がり旋回方向に対応する操舵輪の向きが左方向である場合には、誘導指示生成部M9は、操舵輪を右方向に転舵させる誘導指示値として第1誘導値δi1を生成する。一方で、ずり下がり旋回方向に対応する操舵輪の向きが右方向である場合には、誘導指示生成部M9は、操舵輪を左方向に転舵させる誘導指示値として第1誘導値δi1を生成する。
【0130】
<報知処理>
第1誘導値δi1が生成されると、報知制御部M8が第1誘導値δi1に基づいて報知処理を実行する。すなわち、ステップS313の処理において第1誘導値δi1が生成される結果として、ずり下がり旋回方向に対応する操舵輪の向きとは逆方向に転舵機構350が操作されるように操舵部材95の操作方向を誘導するための報知が行われる。
【0131】
報知制御部M8は、たとえば第1誘導値δi1が操舵輪を右方向に転舵させる誘導指示値である場合には、操舵部材95を右方向に操作するように誘導する誘導情報を報知させる。たとえば第1誘導値δi1が操舵輪を左方向に転舵させる誘導指示値である場合には、操舵部材95を左方向に操作するように誘導する誘導情報を報知させる。
【0132】
報知制御部M8は、誘導情報を報知させる際に、以下の情報をさらに報知させてもよい。報知制御部M8は、車両390がずり下がるおそれがあることを報知させてもよい。報知制御部M8は、電動駐車制動装置60が失陥していることを報知させてもよい。
【0133】
報知制御部M8は、たとえば、以下の場合に報知を終了してもよい。報知制御部M8は、車両390が駐車状態ではなくなった場合に報知を終了できる。報知制御部M8は、誘導情報に従って操舵部材95が操作された場合に報知を終了できる。報知制御部M8は、報知を開始してから規定の時間が経過した場合に報知を終了できる。
【0134】
報知制御部M8によって制御される報知装置96を介して報知される誘導情報の一例は、誘導指示値に基づく操舵部材95の操作方向である。報知装置96を介して誘導情報が報知される態様は、特に制限されないが、操舵部材95の操作方向が運転者に伝わりやすいものが好ましい。誘導情報としては、誘導指示値に基づく操舵部材95の操作量が報知装置96を介して報知されてもよい。
【0135】
以下に報知の態様を例示するが、報知の態様は、これらに限られるものではない。たとえば、報知装置96に操舵部材95の操作方向を示す文章が表示される。たとえば、報知装置96に操舵部材95の操作方向を示す矢印等の記号が表示される。たとえば、報知装置96から操舵部材95の操作方向を示す音声案内が出力される。
【0136】
<第3実施形態の作用および効果>
本実施形態の作用および効果について説明する。
誘導指示値に基づいて報知される誘導情報に従って運転者が操舵部材95を操作すると、操舵輪が誘導指示値に対応する方向に転舵される。これによって、第1実施形態と同様に、車両390が坂路を下ることを抑制できる。すなわち、制御装置310によれば、電動駐車制動装置60が発生させる制動力が不足している場合に、左右の制動力差に伴って車両390が坂路を下ることによるずり下がり旋回方向に抗するように、操舵輪に舵角をつけるように誘導することができる。操舵輪に舵角をつけることで、車両390をずり下がり旋回方向に移動させる力が働いたとしても操舵輪の回転が抑制されるため、ずり下がり旋回方向への車両390の移動を抑制できる。
【0137】
(第4実施形態)
第4実施形態の車両の制御装置について説明する。
第4実施形態は、図8を用いて説明した処理ルーチンに替えて図9を用いて説明する処理ルーチンを実行する点で、第3実施形態と異なる。図9を用いて説明する処理ルーチンは、第2実施形態における図6を用いて説明した処理ルーチンと一部の処理の流れが共通である。第4実施形態の車両の制御装置および車両について、第2実施形態および第3実施形態と共通する構成については、同一の符号を付すとともに説明を適宜省略する。
【0138】
<操舵誘導処理>
図9を用いて、操舵誘導処理について説明する。本実施形態の操舵誘導処理は、第2実施形態において図6を用いて説明した駐車操舵処理と一部の処理の流れが共通である。図9は、制御装置310が実行する処理の流れを、図6に示す処理の流れと異なる部分を中心に表示している。具体的にいえば、ステップS113に替えてステップS313の処理を実行する点、および、ステップS213に替えてステップS413の処理を実行する点が異なる。本処理ルーチンは、開始条件が成立している場合に所定の周期毎に繰り返し実行される。開始条件は、第1実施形態における駐車操舵処理と同様である。
【0139】
ステップS211よりも前の処理の流れは、図6に示す処理の流れと共通であるため説明を省略する。
ステップS211では制御装置310は、坂路に停止している車両90がずり下がりやすいか否かを判定する。車両390がずり下がりやすい場合には(S211:YES)、制御装置310は、処理をステップS212に移行する。
【0140】
ステップS212では、制御装置310は、車両390がずり下がり旋回方向に移動すると仮定した場合における車両390の進行方向に路側物があるか否かを判定する。路側物がある場合には(S212:YES)、制御装置310は、処理をステップS413に移行する。
【0141】
ステップS413では、制御装置310は、誘導指示生成部M9に第2誘導値δi2を生成させる。
誘導指示生成部M9が第2誘導値δi2を算出する流れの一例を説明する。第2誘導値δi2は、転舵指令生成部M2が算出する第2指令値δ2に対応する値である。たとえば、第2誘導値δi2は、転舵指令生成部M2が第2指令値δ2を算出する流れと共通の流れによって算出される。第2誘導値δi2は、路側物に向けて車両390が移動するように転舵機構350が操作されるように操舵部材95の操作方向を誘導するための誘導指示値として生成される。
【0142】
第2誘導値δi2の具体例は以下のようになる。ずり下がり旋回方向が左後方であり、且つ、車両390の左後方に路側物が存在する場合には、誘導指示生成部M9は、車両390を左方向に旋回させる誘導指示値として第2誘導値δi2を生成する。すなわち、左前輪FLおよび右前輪FRが操舵輪である車両90においては、操舵輪を左方向に転舵させる誘導指示値として第2誘導値δi2を生成する。ずり下がり旋回方向が左前方であり、且つ、車両390の左前方に路側物が存在する場合には、誘導指示生成部M9は、車両390を左方向に旋回させる誘導指示値として第2誘導値δi2を生成する。すなわち、左前輪FLおよび右前輪FRが操舵輪である車両90においては、操舵輪を左方向に転舵させる誘導指示値として第2誘導値δi2を生成する。ずり下がり旋回方向が右後方であり、且つ、車両390の右後方に路側物が存在する場合には、誘導指示生成部M9は、車両390を右方向に旋回させる誘導指示値として第2誘導値δi2を生成する。すなわち、左前輪FLおよび右前輪FRが操舵輪である車両390においては、操舵輪を右方向に転舵させる誘導指示値として第2誘導値δi2を生成する。ずり下がり旋回方向が右前方であり、且つ、車両390の右前方に路側物が存在する場合には、誘導指示生成部M9は、車両390を右方向に旋回させる誘導指示値として第2誘導値δi2を生成する。すなわち、左前輪FLおよび右前輪FRが操舵輪である車両390においては、操舵輪を右方向に転舵させる誘導指示値として第2誘導値δi2を生成する。
【0143】
第2誘導値δi2が示す操舵輪の舵角の大きさは、特に制限されない。一例として、誘導指示生成部M9は、誘導する操舵輪の舵角が最大となるように第2誘導値δi2を生成することができる。
【0144】
誘導指示生成部M9は、第2誘導値δi2を生成する際には、車両390と路側物との位置関係に基づいて誘導する操舵輪の舵角を調整することもできる。たとえば、車輪が縁石C1に接触するときに、接触に伴う衝撃を小さくすべく、車輪が縁石C1に接触する際の車輪の角度を調整するために操舵輪の舵角を調整してもよい。すなわち、路側物と車両390とが接触する角度を調整するように車両390の旋回半径を調整してもよい。
【0145】
ステップS413の処理において、誘導指示生成部M9に第2誘導値δi2を生成させると、制御装置310は、本処理ルーチンを終了する。
図9に示すように制御装置310は、車両390がずり下がりにくい場合には(S211:NO)、処理をステップS313に移行する。また、制御装置310は、路側物がない場合には(S212:NO)、処理をステップS313に移行する。ステップS313では、制御装置310は、誘導指示生成部M9に第1誘導値δi1を生成させる。その後、制御装置310は、本処理ルーチンを終了する。
【0146】
<報知処理>
第1誘導値δi1が生成されると、報知制御部M8が第1誘導値δi1に基づいて報知処理を実行する。すなわち、ステップS313の処理において第1誘導値δi1が生成される結果として、ずり下がり旋回方向に対応する操舵輪の向きとは逆方向に転舵機構350が操作されるように操舵部材95の操作方向を誘導するための報知が行われる。
【0147】
一方で、第2誘導値δi2が生成されると、報知制御部M8が第2誘導値δi2に基づいて報知処理を実行する。すなわち、ステップS413の処理において第2誘導値δi2が生成される結果として、路側物に向けて車両390が移動するように転舵機構350が操作されるように操舵部材95の操作方向を誘導するための報知が行われる。
【0148】
報知制御部M8は、たとえば第2誘導値δi2が操舵輪を右方向に転舵させる誘導指示値である場合には、操舵部材95を右方向に操作するように誘導する誘導情報を報知させる。たとえば第2誘導値δi2が操舵輪を左方向に転舵させる誘導指示値である場合には、報知制御部M8は、操舵部材95を左方向に操作するように誘導する誘導情報を報知させる。
【0149】
第2誘導値δi2が操舵部材95の操作量を含んでいる場合には、報知制御部M8は、第2誘導値δi2が示す操作量に追従するように操舵部材95の操作を誘導する誘導情報を報知させてもよい。すなわち、報知制御部M8は、路側物と車両390との位置関係に基づいて操舵輪の舵角が調整されるように誘導情報を報知させてもよい。
【0150】
第2誘導値δi2が示す操作量に追従するように操舵部材95の操作を誘導する誘導情報を報知する態様を以下に例示する。当該報知の態様は、これらに限られるものではない。
【0151】
たとえば、報知を開始してから操舵部材95の実際の操作量が第2誘導値δi2の示す操作量に至るまでの期間において、報知を継続する。この場合には、第2誘導値δi2が示す操作量に追従するように操舵部材95の操作が行われた時点において報知を終了してもよい。この時点で報知を終了することで、操舵輪の舵角が目標の舵角に調整されたことを運転者に伝えることができる。あるいは、第2誘導値δi2が示す操作量に追従するように操舵部材95の操作が行われた時点以降では、操舵部材95の操作を保持するように報知を行ってもよい。なお、第2誘導値δi2が示す操作量に操舵部材95の操作が追従したか否かは、たとえば、操舵角センサSE2の検出信号から算出可能な操作量に基づいて判定することができる。第2誘導値δi2が示す操作量に操舵部材95の操作が追従したか否かは、転舵機構350等から取得できる操舵輪の舵角に基づいて判定することもできる。
【0152】
たとえば、操舵部材95の操作方向に加えて、第2誘導値δi2が示す操作量を報知する。具体的には、たとえば、操舵部材95の操作量を示す文章、画像等を表示することができる。たとえば、第2誘導値δi2が示す操作量を表す目盛りを表示してもよい。目盛りの一例を説明する。目盛りは、二つ以上のセグメントを一組として構成されている。各セグメントは、点灯および消灯を個別に切り替えることができる。目盛りにおけるセグメントの点灯数が操舵部材95の操作量の大きさに対応する。たとえば、右方向を示すセグメントの全てが点灯している場合には、操舵部材95を右方向に限度まで操作させるように操舵部材95の操作を誘導する誘導情報が報知されていることを意味する。たとえば、右方向を示すセグメントの半数が点灯している場合には、操舵部材95を右方向に限度に対する半分まで操作させるように操舵部材95の操作を誘導する誘導情報が報知されていることを意味する。第2誘導値δi2が示す操作量を報知する目盛りの他の例としては、目盛り上を移動可能に構成されている針が指し示す位置を当該操作量として報知するようにした構成を採用してもよい。
【0153】
<第4実施形態の作用および効果>
本実施形態の作用および効果について説明する。
第2誘導値δi2に基づいて報知される誘導情報に従って運転者が操舵部材95を操作すると、操舵輪が第2誘導値δi2に対応する方向に転舵される。これによって、第2実施形態と同様に、路側物を利用して車両390の移動を止めることができる。このため、単に路側方向へ車両390を移動させるように構成する場合とは異なり、路側に移動させた後に路側物と車両390との接触によって車両390を静止させやすい。これによって、路側物に向けて移動させた車両390の周囲に安全を確保しやすい。
【0154】
第4実施形態の車両の制御装置では、操舵輪の舵角を調整するように誘導する第2誘導値δi2を生成することができる。このため、ずり下がる車両390の旋回半径を調整することによって、車両390が路側物に接触するまでの走行経路を変更することができる。このように舵角の調整を誘導することによって、車輪が路側物に乗り上げることを抑制できる場合がある。
【0155】
第4実施形態の車両の制御装置によれば、車両390がずり下がりにくい場合には、第3実施形態と同様に第1誘導値δi1が生成される(S313)。これによって、車両390がずり下がりにくい場合には、車両390をその場で静止させるように操舵輪を転舵することを誘導できる。
【0156】
(変更例)
上記第1実施形態~第4実施形態は、以下のように変更して実施することができる。第1実施形態~第4実施形態および以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0157】
・上記第2実施形態では、路側物に向けて車両90を移動させる場合に、縁石に車輪を接触させるようにする例を示した。車輪との接触によって車両90を止めることができる縁石のような路側物が路側に存在することが好ましいが、路側に縁石が設置されていない場合もある。したがって、路側物に向けて車両90を移動させうる第2指令値δ2としては、路側物に車輪を接触させるようにすることに限らず、たとえば路側物に車体を接触させるような第2指令値δ2を生成してもよい。たとえば、縁石を検出できない場合に、ガードレールにバンパーを接触させるようなことが考えられる。
【0158】
・第1指令値δ1または第2指令値δ2に従って転舵された操舵輪を中立位置に戻す解除処理を行ってもよい。当該解除処理は、たとえば、車両90の駐車状態が解消された場合に開始することができる。
【0159】
・上記第1実施形態および第2実施形態では、後輪RL,RRに対応する電動駐車制動装置60を備える車両90を例示した。車両としては、前輪FL,FRに対応する電動駐車制動装置を備えていてもよい。
【0160】
・上記第1実施形態および第2実施形態では、EPBスイッチ93がオンにされており、且つスタートスイッチ92がオフにされている状態である場合に、車両90が駐車状態であると判定する例を示した。これに加えて、車両90が停止している道路において、車両90が路側に寄って停止していることを駐車状態であると判定する条件に加えてもよい。
【0161】
・上記第1実施形態および第2実施形態では、道路が坂路であるか否かを道路の傾斜度合いに基づいて判定する例を示した。これに替えて、たとえば、前後加速度センサSE1によって検出される前後加速度Gxの値に基づいて道路が坂路であるか否かを判定することもできる。
【0162】
・上記第1実施形態および第2実施形態では、車両90の前後加速度Gxに基づいて道路の傾斜度合いを算出する例を示した。道路の傾斜度合いを算出する方法は、これに限らない。たとえば、角速度に基づいて道路の傾斜度合いを算出することもできる。この場合には、車両90は、角速度センサを備えているとよい。
【0163】
・上記第2実施形態では、ステップS211の処理として、傾斜角度θに基づいて車両90がずり下がりやすいか否かを判定する例を示した。これに替えて、坂路に停止している車両90に作用する分力Fdの大きさに基づいて車両90がずり下がりやすいか否かを判定することもできる。
【0164】
・上記第1実施形態および第2実施形態では、第1EPB装置61Lおよび第2EPB装置61Rのうちいずれか一方の装置が発生させる制動力が不足する例として、片側失陥の状態を例示した。上記のように制動力が不足する例としては、たとえば、左後輪RLおよび右後輪RRのうちいずれか一方の車輪の接地面積が他方の車輪の接地面積よりも小さい場合が挙げられる。
【0165】
・上記第1実施形態および第2実施形態では、パーキングロック機構73が作動している場合には駐車操舵処理を実行しないように構成している例を示した。たとえば、車両90がずり下がりやすい場合には、パーキングロック機構73が作動していても駐車操舵処理を実行するようにしてもよい。
【0166】
・第1実施形態は、第3実施形態と組み合わせることもできる。また、第2実施形態は、第4実施形態と組み合わせることもできる。たとえば、第1および第2実施形態における駐車操舵処理において、操舵輪の舵角を自動で調整する際に、操舵輪を向ける方向を報知してもよい。この場合に、報知制御部M8は、誘導指示値に基づいて誘導情報を報知してもよいし、転舵指令値が示す操舵輪の方向に基づいて誘導情報を報知してもよい。
【0167】
・第3実施形態および第4実施形態の制御装置310は、第1実施形態における車両90のような転舵機構を自動で制御できるように構成されている車両に適用してもよい。転舵機構を自動で制御できるように構成されている車両であっても、操舵輪の舵角を自動で調整することなく、操舵輪を向ける方向を報知してもよい。
【0168】
・上記第3および第4実施形態では、車両390が備えている報知装置96を介して報知を行う構成を例示した。報知を行うための装置は、車両が予め備えている装置に限らない。一例を説明する。
【0169】
図10は、制御装置310と、車両490と、を示す。車両490は、通信装置97を備えている点が車両390と異なる。通信装置97は、情報端末1000と通信ができるように構成されている。通信装置97と情報端末1000とは、無線で接続されてもよいし、有線で接続されてもよい。情報端末1000は、報知を行うための装置に対応する。
【0170】
情報端末1000の一例は、運転者が車両490に持ち込む携帯端末である。携帯端末としては、たとえば、スマートフォン、タブレット端末、ウェアラブル端末等が挙げられる。情報端末1000の他の例は、ナビゲーション装置である。
【0171】
情報端末1000は、通信装置97との通信を行う装置を備えている。情報端末1000は、誘導情報を報知する装置を備えている。誘導情報を報知する装置としては、たとえば、ディスプレイ、スピーカ等が挙げられる。情報端末1000は、情報端末1000を制御する処理回路を備えている。
【0172】
図10では、制御装置310が備えている機能部のうち報知制御部M8以外の機能部の図示を省略している。
図10に例示する構成では、報知制御部M8は、報知装置96を制御する機能に替えて通信装置97を制御する機能を備えている。報知制御部M8は、通信装置97を介して情報端末1000から報知を行わせることができる。たとえば、報知制御部M8によって報知処理が実行される結果として、情報端末1000が備えているディスプレイに、誘導情報を表示するように構成することができる。たとえば、報知制御部M8によって報知処理が実行される結果として、情報端末1000が備えているスピーカから誘導情報が出力されるように構成してもよい。
【0173】
・制御装置10、310を構成する各処理回路は、以下[a]~[c]のいずれかの構成であればよい。[a]コンピュータプログラムに従って各種処理を実行する一つ以上のプロセッサを備える回路。プロセッサは、処理装置を備える。処理装置の例は、CPU、DSPおよびGPU等である。プロセッサは、メモリを備える。メモリの例は、RAM、ROMおよびフラッシュメモリ等である。メモリは、処理を処理装置に実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。メモリすなわちコンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。たとえば、CPUが実行装置に対応する。たとえば、メモリが記憶装置に対応する。[b]各種処理を実行する一つ以上のハードウェア回路を備える回路。ハードウェア回路の例は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)およびFPGA(Field Programmable Gate Array)等である。[c]各種処理の一部をコンピュータプログラムに従って実行するプロセッサと、各種処理のうち残りの処理を実行するハードウェア回路と、を備える回路。
【0174】
・上記第1実施形態および第2実施形態では、制御装置10を構成する処理回路として、第1EPB制御装置31および第2EPB制御装置32の二つの処理回路を備えている例を示した。電動駐車制動装置60を制御する処理回路の構成としては、これに限らない。図11を用いて一例を説明する。
【0175】
図11は、制御装置110を示す。制御装置110は、制御装置10と同様に、駆動制御装置41、制動制御装置42および支援制御装置43を備えている。
制御装置110は、第1EPB装置61Lおよび第2EPB装置61Rを制御する一つの処理回路として、EPB制御装置130を備えている。EPB制御装置130は、第1EPB装置61Lを制御する機能部である第1制御部M41を備えている。EPB制御装置130は、第2EPB装置61Rを制御する機能部である第2制御部M42を備えている。EPB制御装置130は、第1EPB装置61Lおよび第2EPB装置61Rの両方の作動状態を取得する機能部として、状態取得部M50を備えている。EPB制御装置130は、坂路情報を取得する機能部として坂路情報取得部M6を備えている。EPB制御装置130は、路側情報を取得する機能部として路側情報取得部M7を備えている。
【0176】
さらに、EPB制御装置130は、機能部として、転舵指令生成部M2および旋回方向推定部M3を備えている。
制御装置110は、転舵制御装置120を備えている。転舵制御装置120は、機能部として転舵制御部M1を備えている。
【0177】
すなわち車両の制御装置は、次のように構成していてもよい。車両の制御装置は、図11に示す制御装置110のように、一つの処理回路によって第1EPB装置61Lおよび第2EPB装置61Rを制御するように構成されていてもよい。車両の制御装置は、図11に示す制御装置110のように、第1EPB装置61Lおよび第2EPB装置61Rの作動状態を、一つの処理回路によって取得するように構成してもよい。
【0178】
図11に示す制御装置110では、EPB制御装置130は、転舵指令生成部M2および旋回方向推定部M3を備えている。EPB制御装置130は、転舵指令生成部M2および旋回方向推定部M3の両方を備えていてもよいし、転舵指令生成部M2および旋回方向推定部M3のうちいずれか一方を備えていてもよい。このように、転舵制御装置20が実現する機能の一部は、電動駐車制動装置60を制御する処理回路によって実現されてもよい。
【0179】
・第1EPB装置61Lおよび第2EPB装置61Rを制御する処理回路の構成としては、図1および図11に示した構成に限らない。図12を用いて一例を説明する。
図12は、車両の制御装置を構成する処理回路の他の構成を示す。車両の制御装置は、第1EPB制御装置231および第2EPB制御装置232の二つの処理回路を備えている。
【0180】
第1EPB制御装置231は、機能部として、第1制御部M41、状態取得部M50、坂路情報取得部M6、路側情報取得部M7、転舵指令生成部M2および旋回方向推定部M3を備えている。第2EPB制御装置232は、機能部として、第2制御部M42を備えている。
【0181】
すなわち車両の制御装置は、第1制御部M41を備える処理回路、および、第2制御部M42を備える処理回路の二つの処理回路を備えている構成において、次のように構成していてもよい。第1制御部M41を備える処理回路、および、第2制御部M42を備える処理回路のうちいずれか一方の処理回路が、第1EPB装置61Lおよび第2EPB装置61Rの両方の作動状態を取得する状態取得部M50を備えていてもよい。この場合に、いずれか一方の処理回路は、転舵指令生成部M2および旋回方向推定部M3の両方を備えていてもよいし、転舵指令生成部M2および旋回方向推定部M3のうちいずれか一方を備えていてもよい。あるいは、他方の処理回路が、転舵指令生成部M2および旋回方向推定部M3の両方を備えていてもよいし、転舵指令生成部M2および旋回方向推定部M3のうちいずれか一方を備えていてもよい。
【0182】
・制御装置310は、次のように構成してもよい。操舵誘導装置44が実現する機能の一部は、電動駐車制動装置60を制御する処理回路によって実現されてもよい。たとえば、EPB制御装置が誘導指示生成部M9を備えていてもよい。たとえば、図11を用いて説明した構成における転舵指令生成部M2を誘導指示生成部M9に置き換えるとともに、転舵制御装置120および転舵制御部M1を操舵誘導装置44および報知制御部M8に置き換えた構成を採用してもよい。たとえば、図12を用いて説明した構成における転舵指令生成部M2を誘導指示生成部M9に置き換えた構成を採用してもよい。
【0183】
・車両の制御装置を構成する特定の処理回路が実現する機能の一部は、特定の処理回路と接続されている他の処理回路によって実現されてもよい。
【符号の説明】
【0184】
10…制御装置
50…転舵機構
60…電動駐車制動装置
61L…第1EPB装置
61R…第2EPB装置
62L…第1アクチュエータ
62R…第2アクチュエータ
90…車両
M1…転舵制御部
M2…転舵指令生成部
M3…旋回方向推定部
M41…第1制御部
M42…第2制御部
M51…第1状態取得部
M52…第2状態取得部
M6…坂路情報取得部
M7…路側情報取得部
θ…傾斜角度
A0…道路
A1…車線
A2…路側
C1…路側物としての縁石
310…制御装置
390…車両
95…操舵部材
96…報知装置
M8…報知制御部
M9…誘導指示生成部
図1
図2
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図10
図11
図12