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特開2024-114604軟磁性部材用Fe-Co合金、これを用いた軟磁性部材
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  • 特開-軟磁性部材用Fe-Co合金、これを用いた軟磁性部材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024114604
(43)【公開日】2024-08-23
(54)【発明の名称】軟磁性部材用Fe-Co合金、これを用いた軟磁性部材
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240816BHJP
   C22C 38/12 20060101ALI20240816BHJP
   C22C 38/52 20060101ALI20240816BHJP
   C21D 9/00 20060101ALI20240816BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20240816BHJP
   C21D 6/00 20060101ALN20240816BHJP
   C21D 8/12 20060101ALN20240816BHJP
【FI】
C22C38/00 303S
C22C38/12
C22C38/52
C21D9/00 S
H01F1/147
C21D6/00 C
C21D8/12 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023209239
(22)【出願日】2023-12-12
(31)【優先権主張番号】P 2023018879
(32)【優先日】2023-02-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】弁理士法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 誉将
【テーマコード(参考)】
4K042
5E041
【Fターム(参考)】
4K042AA25
4K042BA12
4K042CA04
4K042CA05
4K042CA06
4K042CA08
4K042CA10
4K042CA12
4K042CA13
4K042CA14
4K042DA03
4K042DA06
4K042DC02
4K042DC03
4K042DC04
4K042DE02
5E041AA05
5E041AA19
5E041CA02
5E041CA04
5E041NN01
5E041NN06
(57)【要約】
【課題】FeへのCoの添加量を調整するとともにその他元素の添加により、冷間加工性を損なうことなく製造性に優れ、軟磁性部材としての磁気特性を満たす、特に、損失を低く抑え得るようにSi及びAlを含む軟磁性部材用Fe-Co合金、これを用いた軟磁性部材の提供。
【解決手段】軟磁性部材用Fe-Co合金は、質量%で、10.00%<Co≦20.00%、0.10%≦Si<2.0%、0.10%≦Al<2.0%、Ta又はYをMとして0.01%<M<0.10%を含有し、残部をFe及び不可避的不純物からなる合金組成を有する。軟磁性部材は、平均結晶粒径を50μm以上とするFe-Co合金からなり、1.5T及び1kHzでのコアロスを200W/kg以下に磁気調整処理されている。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、10.00%<Co≦20.00%、0.10%≦Si<2.0%、0.10%≦Al<2.0%、Ta又はYをMとして0.01%<M<0.10%を含有し、残部をFe及び不可避的不純物からなる合金組成を有することを特徴とする軟磁性部材用Fe-Co合金。
【請求項2】
前記合金組成は、V又はCrの少なくともいずれか一方を含み、V≦2.0%、Cr≦2.0%、かつ、V+Cr≦2.0%であることを特徴とする請求項1記載の軟磁性部材用Fe-Co合金。
【請求項3】
前記不可避的不純物について、C:0.020%以下、Mn:0.10%未満、P:0.010%以下、S:0.005%以下、Cu:0.05%以下、Ni:0.10%以下、Mo:0.10%以下、Ti:0.010%以下、O:0.005%以下、N:0.005%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の軟磁性部材用Fe-Co合金。
【請求項4】
質量%で、10.00%<Co≦20.00%、0.10%≦Si<2.0%、0.10%≦Al<2.0%、Ta又はYをMとして0.01%<M<0.10%を含有し、残部をFe及び不可避的不純物からなる合金組成を有し、平均結晶粒径を50μm以上とするFe-Co合金からなり、1.5T及び1kHzでのコアロスを200W/kg以下に磁気調整処理されていることを特徴とする軟磁性部材。
【請求項5】
前記合金組成は、V又はCrの少なくともいずれか一方を含み、V≦2.0%、Cr≦2.0%、かつ、V+Cr≦2.0%であることを特徴とする請求項4記載の軟磁性部材。
【請求項6】
前記不可避的不純物について、C:0.020%以下、Mn:0.10%未満、P:0.010%以下、S:0.005%以下、Cu:0.05%以下、Ni:0.10%以下、Mo:0.10%以下、Ti:0.010%以下、O:0.005%以下、N:0.005%以下であることを特徴とする請求項4又は5に記載の軟磁性部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Si及びAlを含む軟磁性部材用Fe-Co合金、これを用いた軟磁性部材に関する。
【背景技術】
【0002】
FeとSiの合金からなる電磁鋼板では、透磁率(μ)を高く、損失(Pcm)を低く、且つ、飽和磁束密度(Bs)を高くした磁気特性を得られることから、モータコア材に広く用いられている。一方、近年のモータにおける高出力化、小型化などへの要求から、より高い飽和磁束密度を得られる、FeにCoを添加した軟磁性合金が開発されている。例えば、飽和磁束密度(Bs)と透磁率(μ)とのバランスに優れたFe-49Co-2V材、通称「パーメンジュール」が知られている。一方で、Coは、Siなどと比較して非常に高価な元素であることから、Co量を抑制した軟磁性合金も提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、変圧器のコアなどの磁性部品を形成するためのSi及びAlを含むFe-Co系軟磁性合金が開示されている。Co含有量を35%未満とした場合には、Co量に対応させてSi及びAlを与えるとしている。かかる合金を冷間圧延及び焼鈍処理(熱処理)を複数回与えてシート又はストリップを得るが、Coの添加量の上限は、この焼鈍処理の間に、規則-不規則の変態を急速且つ急激に生じることのないように決定されるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2018-529021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記したように、Coは、非常に高価な元素であり、これを多く含む前記したような電磁鋼板はコスト面に課題を有している。更に、多量のCoを含むことによって、脆化相(規則相)が生成し、加工や焼鈍条件を適正に管理して冷間加工性を確保しないと、所定製品への成形加工ができないといった製造性の課題も有している。
【0006】
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、FeへのCoの添加量を調整するとともにその他元素の添加により、冷間加工性を損なうことなく製造性に優れ、軟磁性部材としての磁気特性を満たす、特に、損失を低く抑え得るようにSi及びAlを含む軟磁性部材用Fe-Co合金、これを用いた軟磁性部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による軟磁性部材用Fe-Co合金は、質量%で、10.00%<Co≦20.00%、0.10%≦Si<2.0%、0.10%≦Al<2.0%、Ta又はYをMとして0.01%<M<0.10%を含有し、残部をFe及び不可避的不純物からなる合金組成を有することを特徴とする。
【0008】
かかる特徴によれば、軟磁性部材として必要とされる磁気特性を満たすとともに、冷間加工性に優れて高い製造性を確保できるのである。
【0009】
上記した発明において、前記合金組成は、V又はCrの少なくともいずれか一方を含み、V≦2.0%、Cr≦2.0%、かつ、V+Cr≦2.0%であることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、軟磁性部材として必要とされる磁気特性を確実に満たすとともに、冷間加工性に優れて高い製造性を確保できるのである。
【0010】
上記した発明において、前記不可避的不純物について、C:0.020%以下、Mn:0.10%未満、P:0.010%以下、S:0.005%以下、Cu:0.05%以下、Ni:0.10%以下、Mo:0.10%以下、Ti:0.010%以下、O:0.005%以下、N:0.005%以下であることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、製造安定性を確保し、軟磁性部材として必要とされる磁気特性を満たすとともに、冷間加工性に優れて高い製造性を確保できるのである。
【0011】
また、本発明による軟磁性部材は、質量%で、10.00%<Co≦20.00%、0.10%≦Si<2.0%、0.10%≦Al<2.0%、Ta又はYをMとして0.01%<M<0.10%を含有し、残部をFe及び不可避的不純物からなる合金組成を有し、平均結晶粒径を50μm以上とするFe-Co合金からなり、1.5T及び1kHzでのコアロスを200W/kg以下に磁気調整処理されていることを特徴とする。
【0012】
かかる特徴によれば、軟磁性部材として必要とされる磁気特性を満たすとともに、冷間加工性に優れて高い製造性で得ることができるのである。
【0013】
上記した発明において、前記合金組成は、V又はCrの少なくともいずれか一方を含み、V≦2.0%、Cr≦2.0%、かつ、V+Cr≦2.0%であることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、軟磁性部材として必要とされる磁気特性を確実に満たすとともに、冷間加工性に優れて高い製造性で得ることができるのである。
【0014】
上記した発明において、前記不可避的不純物について、C:0.020%以下、Mn:0.10%未満、P:0.010%以下、S:0.005%以下、Cu:0.05%以下、Ni:0.10%以下、Mo:0.10%以下、Ti:0.010%以下、O:0.005%以下、N:0.005%以下であることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、製造安定性を確保し、軟磁性部材として必要とされる磁気特性を確実に満たすとともに、冷間加工性に優れて高い製造性で得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明による軟磁性部材の製造方法の例を示すフロー図である。
図2】製造試験に用いた合金の成分組成の一覧表である。
図3】製造試験で得られた合金素材及び軟磁性部材の特性の一覧表である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明による1つの実施例としての軟磁性部材、その中間体である軟磁性部材用Fe-Co合金及び軟磁性部材用プリフォーム材について図1を用いて説明する。
【0017】
図1に示すように、軟磁性部材は、例えば次のような製造方法で製造される。
【0018】
まず、所定の成分組成を有する軟磁性部材用合金を溶解し、鋳造する(S1)。
【0019】
ここで、軟磁性部材用合金は、Fe-Co合金であり、その合金組成としては、質量%で、10.00%<Co≦20.00%、0.10%≦Si<2.0%、0.10%≦Al<2.0%、Ta又はYをMとして0.01%<M<0.10%を含有する。
【0020】
このように、FeへのCoの添加量を調整するとともにその他元素の添加をした合金組成とすることで、冷間加工性を損なうことなく最終的に得られる軟磁性部材において、必要とされる軟磁気特性を高いレベルで得られる。また、Ta又はYを添加したことにより、Coとの拡散型化合物であるCoTa又はCoYを分散して形成させ、周囲のCo濃度を低下させる。これにより、自由エネルギを低下させて導入可能な転移の量を増加させて変形に伴う脆化を抑制する。その結果、冷間加工時において高い靭性を与え得て、冷間加工性に優れることで高い製造性を確保できる。なお、拡散型化合物とは、固溶状態から拡散によって形成される化合物のことを言う。
【0021】
なお、かかるFe-Co合金においては、γ相の析出開始温度を950℃以上とするように成分調整されることが好ましい。当該温度を高くすることで、後述する磁気調整処理(磁気焼鈍、熱処理:S5)を行っても、反強磁性相であるγ相の残存を抑制し、軟磁性部材としての優れた磁気特性を得ることが容易となる。
【0022】
また、上記した合金組成としては、V又はCrの少なくともいずれか一方をさらに含み、V≦2.0%、Cr≦2.0%、かつ、V+Cr≦2.0%としてもよい。これにより、軟磁性部材の電気抵抗を向上させて渦電流損を低減させ得る。
【0023】
また、かかる合金組成において、質量%で、C:0.020%以下、Mn:0.10%未満、P:0.010%以下、S:0.005%以下、Cu:0.05%以下、Ni:0.10%以下、Mo:0.10%以下、Ti:0.010%以下、O:0.005%以下、N:0.005%以下、を含み得る。これらは、可能な限り低減させることが望ましい不純物であり、上記した軟磁性部材としての磁気特性等の性質に影響を与えない範囲での含有が許容されるが、これを規定した製造工程によって、品質を安定させ、製造安定性を高めることになるのである。
【0024】
鋳造された軟磁性部材用合金は、次に、熱間加工される(S2)。ここでは分塊、熱間鍛造及び/又は熱間圧延によって例えばビレットなどの後述する合金素材の形状とする。熱間加工において、少なくとも最後に歪みを与える工程での加熱温度はγ相の析出開始温度よりも低い温度であることが好ましく、例えば、900℃以下とすることが好ましい。これにより、熱間加工中の結晶粒の成長を抑制しておいて、後述する焼鈍(S3)後に得られる軟磁性部材用合金素材において、平均結晶粒径を200μm以下とし得る。このように熱間加工において結晶粒径を比較的小さく維持しておくことで、後述する冷間加工(S4)における割れも防止し得る。なお、熱間加工における最後に歪みを与える工程以外での加熱温度も、γ相の析出開始温度よりも低い温度であると結晶粒径を小さく維持する観点で好ましいが、鍛造設備への負荷を考慮してこれよりも高い温度としてもよい。
【0025】
続いて、加工歪みを取り除くよう焼鈍を行い(S3)、平均結晶粒径を200μm以下に調整して、軟磁性部材用の合金素材を得る。ここでは、過剰な粒成長を防止するよう、例えば、700~900℃の範囲内の温度で加熱保持すると好ましい。熱間加工(S2)での加工歪みにもよるが、再結晶を生じ得て、これによっても結晶粒を小さくして粒成長による粗大化を抑制し得る。ここで得られる合金素材は、例えば、厚さ1.0~10.0mmの板材とし得る。
【0026】
焼鈍を行って用意された合金素材に冷間加工を施し(S4)、加工歪みを与えて冷間加工による冷間加工組織を備える軟磁性部材用プリフォーム材を得る。ここでは、後述する磁気調整処理(磁気焼鈍、熱処理:S5)において、再結晶化させて結晶粒を微細化するための加工歪みを前もって付与する。冷間加工としては、冷間圧延や冷間引抜きなどの公知の加工方法を用い得る。また、冷間加工を1パスで行うことができない場合、複数パスで加工することができる。この場合、冷間加工をし易くするように、中間焼鈍を間に行ってもよい。中間焼鈍では、冷間加工の阻害となる加工歪みを除去する一方で、過剰な粒成長を防止するよう、600~900℃の範囲内の温度で行う。これにより冷間加工された冷間加工組織を有する軟磁性部材用プリフォーム材を得ることができる。軟磁性部材用プリフォーム材は、例えば、厚さ0.01~0.9mmの板状体とし得る。
【0027】
得られた軟磁性部材用プリフォーム材を加熱して磁気調整処理を行う(磁気焼鈍:S5)。この磁気調整処理は結晶粒を整粗粒化させてコアロスを低減するための磁気焼鈍であり、γ相の析出開始温度に近い高温で行うことが好ましい。例えば、真空又はアンモニア分解ガス等の非酸化性雰囲気下において、850~950℃の範囲内の温度で保持する。これによって、合金組織を整粗粒化させて、平均結晶粒径を40μm以上とする組織を得て、優れたコアロスを有する軟磁性部材を得ることができる。なお、磁気焼鈍(S5)での冷却速度は急冷とし、Ta炭化物又はY炭化物の生成を極力抑制することが好ましい。
【0028】
以上のようにして、軟磁性部材用合金の熱間加工(S2)後の焼鈍(S3)によって軟磁性部材用合金素材を得て、さらにその冷間加工(S4)によって軟磁性部材用プリフォーム材を得て、磁気調整処理(S5)後に加工歪みの開放による再結晶組織を有する軟磁性部材を得ることができる。特に、Coの含有量を調整することなどで冷間加工性を損なわず、軟磁性部材として必要とされる軟磁気特性を高いレベルで得られるのである。
【0029】
[製造試験]
次に、軟磁性部材を実際に製造した試験結果について、図2及び図3を用いて説明する。
【0030】
図2に示すように、まず、実施例1~25、比較例1~8それぞれに示す成分組成の合金を真空誘導炉にて溶解し、鋼塊に鋳造した。得られた鋼塊を分塊し、1100℃に加熱して熱間鍛造し、次いで900℃に加熱して熱間圧延し、厚さ2.5~4.0mmの板状のコイルを製造した。さらに、スケール除去を行い、窒素雰囲気において750℃の温度で6時間保持する焼鈍を行った。合金素材の残りには、さらに冷間圧延、中間焼鈍、冷間圧延の順で冷間加工を施し、厚さ0.2mmの板状の軟磁性部材用プリフォーム材を得た。その後、不活性ガス雰囲気において850~950℃の温度で数分間(例えば4分間)保持する磁気調整処理(磁気焼鈍)を行い、軟磁性部材を得た。
【0031】
図3に示すように、最終的に得られた試験材(軟磁性部材)から切り出した試験片について、Ta炭化物量又はY炭化物量、磁束密度(B30000)、コアロス(Pcv)、及び、延性脆性遷移温度(DBTT)を測定した。コアロス(Pcv)については、併せてヒステリシス損(Ph)及び渦電流損(Pe)を測定した。
【0032】
Ta炭化物量及びY炭化物量については、非水有機溶媒系電解液を用いた定電位電解抽出法によって得られる抽出残渣の重量から求めた。なお、塩酸水などを用いた酸分解抽出などによって抽出残渣を得る方法であっても同様にTa炭化物量及びY炭化物量を得られる。
【0033】
磁束密度(B30000)については、0.2mm厚さの板状の試験片を5枚重ねて厚さ1mmとした上で、外径28mm、内径20mmの円環状の積層コアを切り出して製作し、350ターンの一次捲線と300ターンの二次捲線を設けた。公知の直流BHトレーサーを用いて、磁界の強さH=30000A/mのときの磁束密度を測定し記録した。磁束密度の目標値は2.10T以上とした。
【0034】
コアロスについては、上記と同様の積層コアを製作し、100ターンの一次捲線と100ターンの二次捲線を設けた。公知のコアロス測定装置を用い、一次捲線を1.5T、1kHzの正弦波による交流磁界で励磁したときの積層コアのコアロスPcvを二次捲線に発生する信号に基づいて測定し、記録した。この条件でのコアロスの目標値は、200W/kg未満とした。また、併せて、ヒステリシス損Ph、渦電流損Peも測定した。
【0035】
延性脆性遷移温度(DBTT)については、焼鈍(S3)まで行った試験材について衝撃試験を行い、脆性破面率の温度依存データを取得し、脆性破面率が50%となる温度をDBTTとした。DBTTの目標値は後述するように50℃未満とした。
【0036】
図2図3を併せて参照すると、比較例1はFe-18Co-0.5Si-0.5Al合金であり、本製造試験の基準となる成分組成である。磁束密度、コアロスは目標値を満たし、DBTTが50℃であった。DBTTについては、比較例1よりも靭性の高いものを目標とするため、この結果を基準として、目標値を50℃未満と定めた。
【0037】
実施例1~5、比較例2では、Taを含有させつつその量を変えて各試験の結果を得た。実施例1~5では全て目標値を満たした。つまり、Taの添加によって、比較例1よりも靭性を高くすることができた。一方で、比較例2では、Taの含有量が0.15質量%と他の実施例よりも多く、ヒステリシス損が大きくなり、これに伴いコアロスが大きくなった。これは、磁壁のピニングサイトとなるTa炭化物量が増加したためにヒステリシス損が大きくなったためと考えられる。これらに基づき、以降の実施例及び比較例ではTaの含有量を0.02質量%とした。
【0038】
実施例6~11、比較例3では、さらにVを含有させつつその量を変えて各試験の結果を得た。これらにおいては、Vの含有量の増加に伴って渦電流損が小さくなり、コアロスも小さくなった。これはVの含有量の増加によって電気抵抗を向上させた結果と考えられる。しかし、Vの含有量の最も多い比較例3では磁束密度が目標値を下回った。
【0039】
実施例12~17、比較例4では、Vの代わりにCrを含有させつつその量を変えて各試験の結果を得た。これらにおいては、Crの含有量の増加に伴って渦電流損が小さくなり、コアロスも小さくなった。これはCrの含有量の増加によって電気抵抗を向上させた結果と考えられる。しかし、Crの含有量の最も多い比較例4では、磁束密度が目標値を下回った。
【0040】
実施例18~20、比較例5では、V及びCrの両者を含有させつつその量を変えて各試験の結果を得た。これらにおいては、VとCrの含有量の合計が増加すると、渦電流損は小さく、一方で、ステリシス損が増加し、その結果コアロス全体としては大きく変化しなかった。しかし、V及びCrの含有量の合計の増加に伴って磁束密度が低下し、比較例5では目標値を下回った。
【0041】
実施例21、22、比較例6では、実施例1に対してSiの含有量を増加させた。Siの含有量の増加に伴って渦電流損及びヒステリシス損の両者が減少する傾向にあり、コアロスも減少する傾向にあった。しかし、磁束密度も低下する傾向にあり、比較例6では目標値を下回った。また、比較例6ではDBTTが目標値を上回って高くなった。つまり、靭性を低下させてしまった。
【0042】
実施例23、24、比較例7では、実施例1に対してAlの含有量を増加させた。Alの含有量の増加に伴って渦電流損及びヒステリシス損の両者が減少する傾向にあり、コアロスも減少する傾向にあった。しかし、磁束密度も低下する傾向にあり、比較例7では目標値を下回った。また、比較例7ではDBTTが目標値を上回って高くなった。つまり、靭性を低下させてしまった。
【0043】
実施例25、比較例8では、Yを含有させつつその量を変えて各試験の結果を得た。実施例25では目標値を満たした。つまり、Yの添加によって、比較例1よりも靭性を高くすることができた。一方で、比較例8では、Yの含有量が0.15質量%と実施例25よりも多く、ヒステリシス損が大きくなり、これに伴いコアロスが大きくなった。これは、磁壁のピニングサイトとなるY炭化物量が増加したためにヒステリシス損が大きくなったためと考えられる。
【0044】
以上のように、実施例1~25によれば、高い靭性により冷間加工性を損なうことなく製造性に優れ、コアロスを低く抑えて高い磁束密度を得るなど軟磁性部材として必要とされる磁気特性を得ることができた。
【0045】
ところで、上記した実施例を含む軟磁性部材を与え得るFe-Co合金の組成範囲は以下のように定められる。まず、必須添加元素について説明する。
【0046】
Coは、軟磁性部材として必要とされる磁気特性を確保する上で、特に、高い飽和磁束密度Bsを得る上で必須となる元素である。一方で、Coを過剰に含有させると、Fe-Co系規則相を生成して脆化させてしまう。また、非常に高価な原料であるためにコストの増大を招く。これらを考慮して、Coは、質量%で、10.00%超~20.00%の範囲内、好ましくは15.00~20.00%の範囲内、より好ましくは16.00~20.00%の範囲内である。
【0047】
Siは、電気抵抗を高め、軟磁性材料において重要な低い結晶磁気異方性定数及び低い磁歪定数を確保し、高周波領域でのコアロスを大幅に低減させ得る。一方で、Siを過剰に含有させると、飽和磁束密度Bsの低下や脆化を招く。これらを考慮して、Siは、質量%で、0.10%~2.0%未満の範囲内、好ましくは0.5~1.5%の範囲内である。
【0048】
Alは、電気抵抗を高め、軟磁性材料において重要な低い結晶磁気異方性定数を確保し、高周波領域でのコアロスを低下させ得る。一方で、Alを過剰に含有させると、飽和磁束密度Bsの低下や脆化を招く。これらを考慮して、Alは、質量%で、0.10%~2.0%未満の範囲内、好ましくは0.5~1.5%の範囲内である。
【0049】
Taは、拡散型化合物であるCoTaを分散して生成し、周囲のCoの濃度低下によって導入可能な歪みの量を増加させ、冷間加工時の靭性を高くできて製造性を高め得る。一方で、Taを過剰に含有させると、Taの炭化物を析出させて磁壁のピニングサイトとなってコアロスの増大を招く。これらを考慮して、Taは、質量%で0.01%超~0.10%未満の範囲内、好ましくは0.01%超~0.04%の範囲内である。YもCoYを生成してTaと同様の効果を有するため、Taに代えて含有させることができる。Yは、質量%で0.01%超~0.10%未満の範囲内、好ましくは0.01%超~0.04%の範囲内である。
【0050】
次に、任意添加元素について説明する。
【0051】
V及びCrは、電気抵抗を高めて渦電流損を低下させる。一方で、過剰に添加すると磁束密度を低下させてしまう。これらを考慮して、質量%で、Vは2.0%以下、Crは2.0%以下、且つ、V+Cr(V及びCrの含有量の合計)は2.0%以下の範囲内で添加してもよい。
【0052】
次に、不純物であるが製造安定性を確保する上で含有を許容される元素について説明する。
【0053】
Cは、磁気特性に悪影響を与えるため、可能な限り低減することが望ましい。しかし、製造上、不可避的に混入したCを完全に除去することは困難である。そこで、軟磁性部材としての磁気特性に影響を与えない範囲を考慮して、その許容される含有量は、質量%で、0.020%以下である。
【0054】
Mnは、Sと結合することで硫化物を形成し、磁気特性を悪化させるため、可能な限り低減することが望ましい。しかし、製造上、不可避的に混入したMnを完全に除去することは困難である。そこで、軟磁性部材としての磁気特性に影響を与えない範囲を考慮して、その許容される含有量は、質量%で、0.10%未満である。
【0055】
Pは、その存在状態によらず磁気特性に悪影響を与えるため、可能な限り低減することが望ましい。しかし、製造上、不可避的に混入しPを完全に除去することは困難である。そこで、軟磁性部材としての磁気特性に影響を与えない範囲を考慮して、その許容される含有量は、質量%で、0.010%以下である。
【0056】
Sは、Mnと結合することで硫化物を形成し、磁気特性を悪化させるため、可能な限り低減することが望ましい。しかし、製造上、不可避的に混入したSを完全に除去することは困難である。そこで、軟磁性部材としての磁気特性に影響を与えない範囲を考慮して、その許容される含有量は、質量%で、0.005%以下である。
【0057】
Cuは、その存在状態によらず磁気特性に悪影響を与えるため、可能な限り低減することが望ましい。しかし、製造上、不可避的に混入したCuを完全に除去することは困難である。そこで、軟磁性部材としての磁気特性に影響を与えない範囲を考慮して、その許容される含有量は、質量%で、0.05%以下である。
【0058】
Niは、磁性を有する元素であるが、上記した実施例の軟磁性部材においては磁気特性を劣化させるため、可能な限り低減することが望ましい。しかし、製造上、不可避的に混入したNiを除去することは困難である。そこで、軟磁性部材としての磁気特性に影響を与えない範囲を考慮して、その許容される含有量は、質量%で、0.10%以下である。
【0059】
Moは、その存在状態によらず磁気特性に悪影響を与えるため、可能な限り低減することが望ましい。しかし、製造上、不可避的に混入したMoを完全に除去することは困難である。そこで、軟磁性部材としての磁気特性に影響を与えない範囲を考慮して、その許容される含有量は、質量%で、0.10%以下である。
【0060】
Tiは、CやNと結合することで炭化物や窒化物を形成し、磁気特性を悪化させるため、可能な限り低減することが望ましい。しかし、製造上、不可避的に混入したTiを完全に除去することは困難である。そこで、軟磁性部材としての磁気特性に影響を与えない範囲を考慮して、その許容される含有量は、質量%で、0.010%以下である。
【0061】
Oは、種々の元素と高温でも安定な酸化物系介在物を形成し、磁気特性を悪化させるため、可能な限り低減することが望ましい。しかし、製造上、不可避的に混入したOを完全に除去することは困難である。そこで、軟磁性部材としての磁気特性に影響を与えない範囲を考慮して、その許容される含有量は、質量%で、0.005%以下である。
【0062】
Nは、AlやTiと結合することで窒化物を形成し、磁気特性を悪化させるため、可能な限り低減することが望ましい。しかし、製造上、不可避的に混入したNを完全に除去することは困難である。そこで、軟磁性部材としての磁気特性に影響を与えない範囲を考慮して、その許容される含有量は、質量%で、0.005%以下である。
【0063】
以上、本発明の代表的な実施例を説明したが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の主旨又は添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、種々の代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。
図1
図2
図3